説明

異方性フィルムおよび異方性フィルムの製造方法

【課題】異方性に優れ、かつ加工性や取り扱い性にも優れた異方性フィルムの提供。
【解決手段】ライン状のナノ構造体が、樹脂フィルム内に配置されていることを特徴とする異方性フィルム。基材上にナノ金属構造体を形成する工程と、前記金属ナノ構造体が埋め込まれている樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜を前記基材から剥離する工程とを有し、前記基材上にナノ金属構造体を形成する工程が、少なくとも、基材上に設けられた鋳型の表面に、無電解めっきにより形成される金属層を含む被覆膜を形成する工程と、前記被覆膜の一部または全部を残したまま、前記鋳型の一部または全部を除去する工程、または前記被覆膜の一部を除去する工程と、を有することを特徴とする異方性フィルムの製造方法。および、該異方性フィルムの製造方法により製造された異方性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム内にナノ構造体を有する異方性フィルム、および少なくとも金属層を含むナノ構造体を有する異方性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な構造体を作製する技術は、多様な分野への応用が期待されている。なかでも、ナノメートルサイズの構造を有する構造体(ナノ材料)は、それぞれ対応するバルク材料とは異なる物理的・化学的特性を示すため、基礎研究および応用研究の両研究面から大きな注目を集めている。例えば、シリンダ状等の中空の三次元構造を有するナノ材料は、包接化学、電気化学、材料、生医学、センサ、触媒、分離技術等を含む様々な分野で役立つことが期待されている。また、ライン状の微細パターンを作製する技術は、集積回路の作製と高集積化に直結するため、半導体分野等において極めて活発に研究開発が行われている。
従来の、微細な構造体の製造方法としては、鋳型法と呼ばれる手法や、リソグラフィー法を用いる方法などが知られている。例えば非特許文献1には、鋳型微粒子を溶液に分散させて、該鋳型微粒子の表面を薄膜で被覆した後、鋳型微粒子を除去することによって、球状カプセル型の中空三次元構造を有するナノ材料を製造する方法が提案されている。
また、本出願人等は、ナノパターンが形成された鋳型表面を、金属酸化物膜や、金属酸化物と有機化合物との複合膜で被覆し、最終的に該鋳型を除去することによりナノ構造体を製造する方法を提案している(特許文献1〜2参照。)。
【0003】
金属の微細構造体を作成する方法としては、(1)金属層上にリソグラフィー法によって微細パターンを形成し、該微細パターンをマスクとして金属層をエッチングする方法、(2)リソグラフィー法によって形成された微細パターンに金属めっきを施す方法等が知られている。
【0004】
しかし、これまでの方法では、少なくとも一部がナノメートルレベルの寸法の構造体(ナノ構造体)、たとえばナノメートル〜数十ナノメートル程度の厚さの金属層で構成される構造体を作成することは難しい。たとえば上記(1)の方法では、ナノサイズの微細パターンの形成自体が非常に困難であることはもちろん、形成できたとしても、該微細パターンのエッチング耐性が低く、金属基材との間のエッチング選択比が問題になり、微細構造体を得ることは難しい。また、上記(2)の方法では、上記(1)の場合と同様、微細パターンの形成自体が非常に困難であり、また、そのような微細パターンに対してめっきを施すことも難しい。特に、アスペクト比(幅に対する高さの比)の大きい構造体、たとえばライン状、柱状等の構造体を形成することは極めて困難である。
【0005】
一方で、電子デバイスや磁気デバイス等の小型化および高機能化のためには、限られた微細な空間の中で、電気シグナル等の伝達等をより厳密に制御し得ることが重要である。電気や熱等を特定の方向にのみ伝達し得る樹脂フィルム等の異方性素材は、このような伝達制御に非常に有用であると期待されることから、多種多様な異方性素材の開発が盛んに行われている。このような異方性素材として、例えば、数10〜数100ミクロンの微細な金属線を用いて編まれた金属繊維布や、導電性高分子を適当に配向させた樹脂フィルム等がある(非特許文献2〜4参照。)。
【非特許文献1】アドバンスド・マテリアルズ,13(1),11−22頁(2001年)
【特許文献1】特開2005−205584号公報
【特許文献2】特開2006−297575号公報
【非特許文献2】ランティス(Lanticse) 他7名、カーボン(Carbon),44(14),p3078−3086(2006年)
【非特許文献3】リー(Liu) 他4名、ジャーナル・オブ・マテリアルズ・サイエンス(Journal of Materials Science),42(6),p2121−2125(2007年)
【非特許文献4】後藤泰史、「異方導電フィルム」、日立評論、89(05)、p52−57(2007年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属繊維布は、電気や熱が直接金属繊維を介して伝導されるため、異方性に優れているものの、金属繊維がミクロン単位の太さのため、剛性が強く加工性に劣るという問題がある。一方、導電性高分子を配向させた樹脂フィルムは、非常に加工性や取り扱い性に優れているものの、樹脂フィルムのある特定方向に対しては、他の方向に対してよりも電気や熱の伝導性が高い、というフィルムであり、ある特定方向にのみ伝達し得るものではない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、異方性に優れ、かつ加工性や取り扱い性にも優れた異方性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第一の態様は、ライン状のナノ構造体が、樹脂フィルム内に配置されていることを特徴とする異方性フィルムである。
本発明の第二の態様は、基材上にナノ金属構造体を形成する工程と、前記金属ナノ構造体が埋め込まれている樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜を前記基材から剥離する工程とを有し、前記基材上にナノ金属構造体を形成する工程が、少なくとも、基材上に設けられた鋳型の表面に、無電解めっきにより形成される金属層を含む被覆膜を形成する工程と、前記被覆膜の一部または全部を残したまま、前記鋳型の一部または全部を除去する工程とを有することを特徴とする異方性フィルムの製造方法である。
本発明の第三の態様は、基材上にナノ金属構造体を形成する工程と、前記金属ナノ構造体が埋め込まれている樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜を前記基材から剥離する工程とを有し、前記基材上にナノ金属構造体を形成する工程が、少なくとも、基材上に設けられた鋳型の表面に、無電解めっきにより形成される金属層を含む被覆膜を形成する工程と、前記被覆膜の一部を除去する工程とを有することを特徴とする異方性フィルムの製造方法である。
本発明の第四の態様は、前記第二の態様または第三の態様の異方性フィルムの製造方法により製造される異方性フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、異方性に優れ、かつ加工性や取り扱い性にも優れた異方性フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
≪異方性フィルム≫
本発明の第一の態様の異方性フィルムは、ライン状のナノ構造体が、樹脂フィルム内に配置されていることを特徴とする。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「異方性フィルム」とは、フィルムの電気伝導性や熱伝導性等の物理的性質が、フィルムの方向によって異なるフィルムを意味する。
【0010】
本発明において、「ライン状のナノ構造体」とは、断面形状の少なくとも一部がナノメートル単位の寸法であるライン状の構造体である。ここで、ライン状とは、連続的で切れ目のないひものような形状を意味し、直線状であってもよく、曲線状であってもよく、折れ曲がり構造を有しているものであってもよい。また、ナノ構造体全体としてライン状であれば、断面形状は特に限定されるものではない。該断面形状として、例えば、矩形状、U字状、円形状、楕円形状等がある。後記の本発明の第二の態様である異方性フィルムの製造方法に適しているため、該断面形状としては、矩形状またはU字状であることが好ましい。
断面形状が矩形状またはU字状である場合には、断面のうち、最も短い一辺の長さがナノメートル単位の寸法であればよく、断面形状が円形状である場合には断面のうち直径が、断面形状が楕円形状である場合には断面のうち短径が、それぞれナノメートル単位の寸法であればよい。
断面形状が矩形状である場合には、断面の幅が10〜100nmであることが好ましく、50〜70nmであることがより好ましい。一方、断面の幅がナノメートル単位の寸法である場合には、断面の高さは、必ずしもナノメートル単位の寸法である必要はないが、10〜1000nmであることが好ましく、50〜600nmであることがより好ましい。
断面形状がU字状である場合には、断面のU字の内周と外周の幅が10〜100nmであることが好ましく、50〜70nmであることがより好ましい。
【0011】
樹脂フィルム内に配置されているライン状のナノ構造体は、1個であってもよく、複数個であってもよい。複数個の場合には、各ナノ構造体の配置は、異方性を維持し得るものであれば、特に限定されるものではなく、全てのナノ構造体が並列に配置されていてもよく、放射状に配置されていてもよく、ランダムに配置されていてもよい。
また、熱や電気を伝導する場合の始点または終点とし得るため、ライン状のナノ構造体の両端は樹脂フィルム側面に露呈していることが好ましい。ライン状のナノ構造体は、両端部以外は樹脂フィルム内に完全に埋め込まれていてもよく、樹脂フィルム表面に一部が露出しているものであってもよい。
【0012】
ライン状のナノ構造体は、フィルムに電気伝導度異方性、熱伝導度異方性等の物理的性質の異方性を付与し得る構造体であれば、特に限定されるものではなく、1種類の材料からなる構造体であってもよく、複数種類の材料からなる構造体であってもよい。例えば、金属のみからなる構造体であってもよく、金属とその他の材料からなる構造体であってもよく、金属以外の材料からなる構造体であってもよい。金属以外の材料として、例えば、金属酸化物、有機化合物、無機化合物等が挙げられる。金属以外の材料からなる構造体の場合には、例えば、導電性高分子等の電気伝導性や熱伝導性に優れた材料を有する構造体等であることが好ましい。
【0013】
このような異方性フィルムは、後記の本発明の第二または第三の態様の異方性フィルムの製造方法を用いることにより、製造することができる。なお、本発明の第二または第三の態様の異方性フィルムの製造方法においては、被覆膜形成工程において、金属層を必須としているが、本発明の第一の態様の異方性フィルムを製造する際には、形成される被覆膜は、金属層からなる膜であってもよく、金属層と金属層以外の層からなる膜であってもよく、金属層以外の層からなる膜であってもよい。なお、金属層以外の層としては、後記の本発明の第二または第三の態様の異方性フィルムの製造方法において「他の層」として記載されているものが挙げられる。金属層以外の層からなる被覆膜を形成する場合には、層を形成する材料として、導電性高分子等の電気伝導性や熱伝導性に優れた材料を用いることが好ましい。
【0014】
金属や導電性高分子等を材料とし、電気伝導性や熱伝導性に優れたナノ構造体(以下、伝導性ナノ構造体ということもある。)を樹脂フィルム内に配置した場合には、熱や電気は、樹脂フィルム中において、該伝導性ナノ構造体のみを媒体として伝導する。このため、ライン状の伝導性ナノ構造体が樹脂フィルム内に配置されている異方性フィルムは、伝導性ナノ構造体の配置に応じて、樹脂フィルム中のある特定の方向にのみ熱や電気を伝導し得るという優れた異方性を有する。例えば、複数のライン状の伝導性ナノ構造体を、樹脂フィルム内に並列に配置することにより、熱や電気は、該樹脂フィルムの該ナノ構造体と平行な方角に対しては伝導するが、該ナノ構造体と垂直な方角には全く伝導しないという電気伝導度異方性または熱伝導度異方性を有する異方性フィルムとすることができる。その他、複数のライン状の伝導性ナノ構造体を、樹脂フィルム内に放射状やランダムに配置した場合であっても、熱や電気は、伝導性ナノ構造体の一端から他端へ、すなわち樹脂フィルム中のある特定の方向にのみ熱や電気を伝導し得る異方性フィルムとすることができる。
【0015】
また、樹脂フィルム中にライン状のナノ構造体を適当に配置することにより、様々な光学特性や磁気特性を有する異方性フィルムとすることができる。
例えば、ライン状のナノ構造体を適当な等間隔で並列に配置した場合には、偏光フィルム等の偏光素子として応用し得る。異方性フィルムに入射した光は、2のナノ構造体の間の樹脂部分を透過するため、該ナノ構造体がスリットの役割を果たし得るためと推察される。
表面が金属材料からなるナノ構造体を樹脂フィルム中に並列等の規則的に配置した場合には、発光デバイスやバイオセンサ等の光学素子として応用し得る。ナノ構造体が樹脂フィルム中の微細領域に規則的に配置されることにより、表面プラズモン共鳴効果が得られるためと推察される。
断面がU字状であり、表面が金属材料からなるライン状のナノ構造体を樹脂フィルム中に並列等の規則的に配置することにより、負の屈折率を示すメタマテリアルである異方性フィルムとすることができる。
さらに、異方性フィルム中に配置するナノ構造体を、ニッケル等の磁気特性を有する材料からなるナノ構造体とすることにより、磁気特性を有する異方性フィルムを得ることができる。
その他、異方性フィルム中に配置するナノ構造体を、非金属材料からなるナノ構造体とした場合であっても、偏光素子として応用し得る。ナノ構造体により、樹脂フィルム中に適度な凹凸が得られるためと推察される。
【0016】
≪異方性フィルムの製造方法≫
本発明の第二の態様の異方性フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法(1)ということがある。)は、基材上にナノ金属構造体を形成する工程と、前記金属ナノ構造体が埋め込まれている樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜を前記基材から剥離する工程とを有し、前記基材上にナノ金属構造体を形成する工程が、少なくとも、基材上に設けられた鋳型の表面に、無電解めっきにより形成される金属層を含む被覆膜を形成する工程と、前記被覆膜の一部または全部を残したまま、前記鋳型の一部または全部を除去する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
以下、各工程とそこで用いられる材料について、より詳細に説明する。
<基材、鋳型>
本発明の製造方法(1)では、まず、鋳型が設けられた基材を用意する。
基材は、その上に鋳型が形成できるものであれば、その種類は特に限定されず、たとえばシリコン、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属、ガラス、酸化チタン、シリカ、マイカなどの無機物からなる基材、アクリル板、ポリスチレン、セルロース、セルロースアセテート、フェノール樹脂などの有機化合物からなる基材などが代表的である。また、基材は、その表面に、有機系または無機系の反射防止膜が設けられていてもよい。
特に、無電解めっきを行った際に、基材表面に金属層が形成されにくく、鋳型表面により選択的に金属層が形成される(めっき選択性に優れる)ことから、シリコン基板シリコン基板、グラファイト、テフロン(登録商標)、アクリル板、ポリスチレン、フェノール樹脂等が基材として好適である。
基材の大きさ、形状等は特に限定はない。基材は必ずしも平滑な表面を有する必要はなく、様々な材質や形状の基材を適宜選択することができる。例えば、曲面を有する基材、表面が凹凸形状の平板、薄片状などの様々な形状のものまで多様に用いることができる。
【0018】
鋳型としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではない。例えば、リソグラフィー法によって作製された鋳型や、コンタクトプリンティングで作製された鋳型、インプリンティングで作製された鋳型、機械的微細加工により作製された鋳型、LIGA(リソグラフィー、電気鍍金および鋳型成型(LIthographie Galvanoformung und Abformung)による鋳型、ビーム描画による鋳型等を採用できる。これらの中でも、リソグラフィー法によって作製された鋳型が好ましい。
また、鋳型としては、上記のような鋳型の表面に物理的処理および/または化学的処理をしてなる鋳型を採用してもよい。物理的処理および/または化学的処理としては、研磨、表面に薄膜を形成等の付着操作、プラズマ処理、溶媒処理、表面の化学的分解、熱処理、引き伸ばし処理等が挙げられる。
【0019】
鋳型の形状や大きさは、得ようとする構造体の形状や大きさに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
鋳型の形状の具体例としては、たとえば矩形、円柱、ホール、ラインおよびそれらのネットワーク構造や分岐構造、多角形およびそれらの複合/繰り返し構造、集積回路などに見られるような回路状構造、格子形状を採用することができる。
たとえばライン形状の構造体を得ようとする場合、鋳型として、断面矩形状のラインパターンを形成することが好ましい。この場合、後述するように、該鋳型表面に被覆膜を形成することにより、断面がU字形状のライン状(U字の内周の高さと幅が鋳型の高さと幅であり、U字の外周と内周の幅が被覆膜の厚さであるライン)の構造体が形成される。一方、該鋳型表面に被覆膜を形成し、その被覆膜の上端部を除去した後、鋳型を除去すると、基材上に、被覆膜の側壁部分のみが残る。その結果、該基材上に、断面が矩形状のライン状(幅が被覆膜の厚さであり、高さが、残った側壁部分の高さであるライン)の構造体が形成される。
また、たとえばシリンダ(筒)状の構造体を得ようとする場合、鋳型として、ホールパターンまたは柱状のパターンを形成することが好ましい。この場合、後述するように、該鋳型表面に被覆膜を形成し、その被覆膜の上端部を除去した後、鋳型を除去すると、基材上に、被覆膜の側壁部分のみが残る。その結果、ホールの内径と同じ外径のシリンダ形状の構造体が得られる。
【0020】
鋳型を形成するための材料(鋳型形成用材料)としては、特に限定されず、パターン形成方法に適した材料を適宜選択すればよい。以下、本発明において好ましく用いられる鋳型形成用材料について説明する。
【0021】
[鋳型形成用材料]
本発明において、鋳型を形成するための材料(鋳型形成用材料)としては、分子量が500以上の有機化合物を含有する鋳型形成用材料が好ましく用いられる。該有機化合物の分子量が500以上であると、強度、形状等に優れた鋳型を形成できる。また、ナノレベルのサイズの鋳型を形成しやすい。また、かかる鋳型形成用材料を用いて形成された鋳型が、水素ガス等によるエッチングによって除去しやすいという利点も有する。
前記有機化合物としては、一般的に膜形成用材料の基材成分として用いられているものが利用できる。ここで、「基材成分」とは、膜形成能を有する有機化合物である。
前記有機化合物は、分子量が500以上2000以下の低分子量の有機化合物(以下、低分子化合物という。)と、分子量が2000より大きい高分子量の高分子化合物とに大別される。前記低分子化合物としては、通常、非重合体が用いられる。高分子化合物としては、通常、樹脂(重合体、共重合体)が用いられ、その場合は、「分子量」として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の質量平均分子量を用いるものとする。以下、単に「樹脂」という場合は、分子量が2000以上のものを示すものとする。
【0022】
前記有機化合物としては、特に、鋳型表面に金属層を形成しやすいことから、親水性基を有するものが好ましい。
前記親水性基として、好ましくは水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基からなる群から選択される1種以上が用いられる。これらの内、水酸基(特にはアルコール性水酸基またはフェノール性水酸基)、カルボキシ基、エステル基がより好ましい。中でもカルボキシ基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基からなる群から選択される1種以上が好ましい。
前記有機化合物が高分子化合物の場合、親水性基を、0.2当量以上有することが好ましく、0.5〜0.8当量有することがより好ましい。これは、高分子化合物が親水性基を有する構成単位とそれ以外の構成単位からなるものである場合には、前者の構成単位が20モル%以上、より好ましくは50〜80モル%であることを意味する。
前記有機化合物が低分子化合物の場合、親水性基を、該低分子化合物の1分子当たり1〜20当量有することが好ましく、より好ましくは2〜10当量の範囲である。ここでの、例えば「1分子当たり1〜20当量の親水性基を有する」とは、1分子中に親水性基が1〜20個存在することを意味する。
【0023】
鋳型の形成方法としては、上述したように、リソグラフィー法が好ましく用いられる。
リソグラフィー法においては、感放射線性を有する材料であるレジスト組成物が用いられる。レジスト組成物としては、特に限定されず、これまで提案されている任意のレジスト組成物を適宜選択して用いればよい。レジスト組成物には、露光によりアルカリ溶解性が増大するポジ型と、露光によりアルカリ溶解性が低下するネガ型とがある。本発明においては、特にポジ型のレジスト組成物が好ましい。
【0024】
レジスト組成物としては、感度、解像性等に優れることから、酸の作用によりアルカリ溶解性が変化する基材成分(A)(以下、(A)成分という)と、露光により酸を発生する酸発生剤成分(B)(以下、(B)成分という)とを含有する化学増幅型レジスト組成物が好ましい。
化学増幅型レジスト組成物としては、特に制限はなく、これまで提案されている多数の化学増幅型レジスト組成物のなかから適宜選択して用いることができる。該化学増幅型レジスト組成物としては、酸の作用によりアルカリ溶解性が変化する基材成分(A’)(以下、(A’)成分という。)および放射線の照射により酸を発生する酸発生剤成分(B’)(以下、(B’)成分という。)を含有するものが一般的である。
【0025】
化学増幅型レジスト組成物がネガ型レジスト組成物である場合、(A’)成分としては、酸の作用によりアルカリ溶解性が減少する基材成分が用いられるもともに、当該ネガ型レジスト組成物にさらに架橋剤が配合される。
かかるネガ型レジスト組成物においては、露光により(B’)成分から酸が発生すると、当該酸の作用により(A’)成分と架橋剤との間で架橋が起こり、(A’)成分がアルカリ可溶性からアルカリ不溶性へと変化する。そのため、当該ネガ型レジスト組成物を基材上に塗布して得られる有機膜(レジスト膜)に対して選択的に露光すると、露光部はアルカリ不溶性へ転じる一方で、未露光部はアルカリ可溶性のまま変化しないため、アルカリ現像により未露光部のみが除去され、レジストパターン(鋳型)が形成される。
ネガ型レジスト組成物の(A’)成分としては、通常、アルカリ可溶性樹脂が用いられ、該アルカリ可溶性樹脂としては、α−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸、またはα−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸の低級アルキルエステルから選ばれる少なくとも一つから誘導される単位を有する樹脂が、膨潤の少ない良好なレジストパターンが形成でき、好ましい。なお、α−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸は、カルボキシ基が結合するα位の炭素原子に水素原子が結合しているアクリル酸と、このα位の炭素原子にヒドロキシアルキル基(好ましくは炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基)が結合しているα−ヒドロキシアルキルアクリル酸の一方または両方を示す。
架橋剤としては、例えば、通常は、メチロール基またはアルコキシメチル基を有するグリコールウリルなどのアミノ系架橋剤を用いると、膨潤の少ない良好なレジストパターンが形成でき、好ましい。架橋剤の配合量は、アルカリ可溶性樹脂100質量部に対し、1〜50質量部であることが好ましい。
【0026】
化学増幅型レジスト組成物がポジ型レジスト組成物である場合、(A’)成分としては、酸解離性溶解抑制基を有し、酸の作用によりアルカリ溶解性が増大する基材成分が用いられる。
かかるポジ型レジスト組成物は、露光前はアルカリ不溶性であり、露光により(B’)成分から酸が発生すると、当該酸の作用により酸解離性溶解抑制基が解離し、(A’)成分がアルカリ可溶性へと変化する。そのため、レジストパターンの形成において、当該ポジ型レジスト組成物を基材上に塗布して得られるレジスト膜に対して選択的に露光すると、露光部はアルカリ可溶性へ転じる一方で、未露光部はアルカリ不溶性のまま変化しないため、アルカリ現像により露光部のみが除去され、レジストパターンが形成される。
酸解離性溶解抑制基は、露光前の(A’)成分全体をアルカリ不溶とするアルカリ溶解抑制性を有すると同時に、露光後に(B’)成分から発生した酸の作用により解離し、(A’)成分全体をアルカリ可溶性へ変化させる基である。酸解離性溶解抑制基としては、特に限定されず、化学増幅型のポジ型レジスト組成物において用いられている任意のものであってよい。
【0027】
ポジ型レジスト組成物の(A’)成分としては、下記(A’−1)成分および/または(A’−2)成分がより好ましい。親水性基は酸解離性溶解抑制基を兼ねていてもよい。
・(A’−1)成分:酸解離性溶解抑制基を有する樹脂。
・(A’−2)成分:酸解離性溶解抑制基を有する低分子化合物。
以下、(A’−1)成分および(A’−2)成分の好ましい態様をより具体的に説明する。
【0028】
[(A’−1)成分]
(A’−1)成分としては、酸解離性溶解抑制基を有する構成単位を有する樹脂が挙げられ、特に、酸解離性溶解抑制基を有する構成単位と親水性基を有する構成単位とを有する樹脂が好ましい。
当該樹脂中の、前記酸解離性溶解抑制基を有する構成単位の割合は、当該樹脂を構成する全構成単位の合計量に対し、20〜80モル%であることが好ましく、20〜70モル%がより好ましく、30〜60モル%がさらに好ましい。
当該樹脂中の、前記親水性基を有する構成単位の割合は、当該樹脂を構成する全構成単位の合計量に対し、20〜80モル%であることが好ましく、20〜70モル%がより好ましく、20〜60モル%がさらに好ましい。
好ましくは、前記親水性基を有する構成単位が、カルボキシ基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基を有する構成単位であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、アルコール性水酸基を有する(α−低級アルキル)アクリル酸エステル、ヒドロキシスチレンから誘導される単位である。
【0029】
(A’−1)成分として、より具体的には、酸解離性溶解抑制基を有するノボラック樹脂、ヒドロキシスチレン系樹脂、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂、ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位と(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位とを含有する共重合樹脂等が好適に用いられる。
なお、本明細書において、「ヒドロキシスチレン系樹脂」は、ヒドロキシスチレンまたはそのエステルから誘導される構成単位を含み、かつ(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位を含まない樹脂である。また、「(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂」は、(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位を含み、かつヒドロキシスチレンまたはそのエステルから誘導される構成単位を含まない樹脂である。
「ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位」とは、ヒドロキシスチレンまたはα―低級アルキルヒドロキシスチレンのエチレン性2重結合が開裂して形成される構成単位であり、以下ヒドロキシスチレン単位ということがある。「α−低級アルキルヒドロキシスチレン」は、フェニル基が結合する炭素原子に低級アルキル基が結合していることを示す。
「(α−低級アルキル)アクリル酸」とは、アクリル酸(CH=CH−COOH)およびα−低級アルキルアクリル酸の一方あるいは両方を示す。
α−低級アルキルアクリル酸は、アクリル酸におけるカルボニル基が結合している炭素原子に結合した水素原子が、低級アルキル基で置換されたものを示す。
「(α−低級アルキル)アクリル酸エステル」は「(α−低級アルキル)アクリル酸」のエステル誘導体であり、アクリル酸エステルおよびα−低級アルキルアクリル酸エステルの一方あるいは両方を示す。
「(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位」とは、(α−低級アルキル)アクリル酸エステルのエチレン性2重結合が開裂して形成される構成単位であり、以下(α−低級アルキル)アクリレート構成単位ということがある。「(α−低級アルキル)アクリレート」は、アクリレートおよびα−低級アルキルアクリレートの一方あるいは両方を示す。
「α−低級アルキルヒドロキシスチレンから誘導される構成単位」および「α−低級アルキルアクリル酸エステルから誘導される構成単位」において、α位に結合している低級アルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基であり、直鎖または分岐鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。工業的にはメチル基が好ましい。
【0030】
(A’−1)成分として好適な樹脂としては、特に限定するものではないが、たとえば、下記(A’−11)成分、(A’−12)成分等が挙げられる。
【0031】
「(A’−11)成分」
(A’−11)成分は、フェノール性水酸基を有する構成単位および酸解離性溶解抑制基を有する構成単位を有する樹脂であり、該樹脂は、必要に応じてアルカリ不溶性の構成単位を有していてもよい。
フェノール性水酸基を有する構成単位としては、たとえば下記構成単位(a’1)が挙げられる。
酸解離性溶解抑制基を有する構成単位としては、たとえば下記構成単位(a’2)、構成単位(a’3)等が挙げられる。
アルカリ不溶性の構成単位としては、たとえば下記構成(a’4)等が挙げられる。
【0032】
・・構成単位(a’1)
構成単位(a’1)は、ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位であり、好ましくは下記一般式(I’)で表される構成単位である。
【0033】
【化1】

[式中、Rは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子またはハロゲン化アルキル基を示す。]
【0034】
Rのアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などの低級の直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。Rのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。Rのハロゲン化アルキル基としては、前記炭素数1〜5のアルキル基の水素原子の一部または全部が前記ハロゲン原子で置換された基が挙げられる。
Rとしては、水素原子または低級アルキル基であることが好ましく、工業上の入手の容易さから、水素原子またはメチル基であることが最も好ましい。
Rの説明は以下同様である。
−OHのベンゼン環への結合位置は、特に限定されるものではないが、式中に記載の4の位置(パラ位)が好ましい。
【0035】
構成単位(a’1)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A’−11)成分中、構成単位(a’1)の割合は、(A’−11)成分を構成する全構成単位の合計量に対し、40〜80モル%であることが好ましく、50〜75モル%であることがより好ましい。40モル%以上とすることにより、アルカリ現像液に対する溶解性を向上させることができ、パターン形状の改善効果も得られる。80モル%以下とすることにより、他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0036】
・・構成単位(a’2)
構成単位(a’2)は、下記一般式(II’)で表される。
【0037】
【化2】

[式中、Rは上記と同じであり、Xは酸解離性溶解抑制基を示す。]
【0038】
Xとしては、たとえば、第3級炭素原子を有するアルキル基であって、当該第3級アルキル基の第3級炭素原子がエステル基[−C(O)O−]に結合している酸離性溶解抑制基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基のような環状アセタール基などが挙げられる。
Xとしては、化学増幅型のポジ型レジスト組成物において用いられている酸解離性溶解抑制基の中から上記以外のものも任意に使用することができる。
【0039】
構成単位(a’2)として、例えば下記一般式(III’)で表されるもの等が好ましいものとして挙げられる。
【0040】
【化3】

【0041】
式中、Rは上記と同じであり、R11、R12、R13は、それぞれ独立にアルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。)である。または、R11、R12、R13のうち、R11が低級アルキル基であり、R12とR13が結合して、単環または多環の脂肪族環式基を形成していてもよい。該脂肪族環式基の炭素数は好ましくは5〜12である。
【0042】
ここで、本明細書および特許請求の範囲において、「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものとする。「脂肪族環式基」は、芳香族性を有する単環式基または多環式基であることを示す。
脂肪族環式基において、置換基を除いた基本の環の構造としては、炭素および水素からなる基(脂肪族炭化水素基)であってもよく、該脂肪族炭化水素基の環骨格上の炭素原子がヘテロ原子で置換された脂肪族複素環式基であってもよい。
脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれでもよいが、通常は飽和であることが好ましい。脂肪族炭化水素基の具体例としては、モノシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基;ビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などを例示できる。具体的には、シクロペンタン、シクロヘキサン等のモノシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基や、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。これらの基は、その水素原子の一部または全部が置換基(例えば低級アルキル基、フッ素原子またはフッ素化アルキル基)で置換されていてもよい。
【0043】
11、R12、R13が脂肪族環式基を有さない場合には、例えばR11、R12、R13がいずれもメチル基であるものが好ましい。
11、R12、R13のいずれかが脂肪族環式基を有する場合において、脂肪族環式基が単環の脂肪族環式基である場合は、構成単位(a’2)として、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基を有するもの等が好ましい。
脂肪族環式基が多環の脂環式基である場合、構成単位(a’2)として好ましいものとしては、例えば下記一般式(IV’)で表されるものを挙げることができる。
【0044】
【化4】

[式中、Rは上記と同じであり、R14はアルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。)である。]
【0045】
また、多環の脂肪族環式基を含む酸解離性溶解抑制基を有するものとして、下記一般式(V’)で表されるものも好ましい。
【0046】
【化5】

[式中、Rは上記と同じであり、R15、R16は、それぞれ独立にアルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。)である。]
【0047】
構成単位(a’2)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A’−11)成分中、構成単位(a’2)の割合は、5〜50モル%が好ましく、10〜40モル%がより好ましく、10〜35モル%がさらに好ましい。
【0048】
・・構成単位(a’3)
構成単位(a’3)は、下記一般式(VI’)で表されるものである。
【0049】
【化6】

[式中、Rは上記と同じであり、X’は酸解離性溶解抑制基を示す。]
【0050】
X’としては、たとえば、tert−ブチルオキシカルボニル基、tert−ペンチルオキシカルボニル基のような第3級アルキルオキシカルボニル基;tert−ブチルオキシカルボニルメチル基、tert−ブチルオキシカルボニルエチル基のような第3級アルキルオキシカルボニルアルキル基;tert−ブチル基、tert−ペンチル基などの第3級アルキル基;テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基などの環状アセタール基;エトキシエチル基、メトキシプロピル基などのアルコキシアルキル基などが挙げられる。これら中でも、tert―ブチルオキシカルボニル基、tert―ブチルオキシカルボニルメチル基、tert−ブチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基が好ましい。
X’としては、化学増幅型のポジ型レジスト組成物において用いられている酸解離性溶解抑制基の中から上記以外のものも任意に使用することができる。
一般式(VI’)において、ベンゼン環に結合している基(−OX’)の結合位置は特に限定するものではないが式中に示した4の位置(パラ位)が好ましい。
【0051】
構成単位(a’3)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A’−11)成分中、構成単位(a’3)の割合は、5〜50モル%が好ましく、10〜40モル%がより好ましく、10〜35モル%がさらに好ましい。
【0052】
・・構成単位(a’4)
構成単位(a’4)は、下記一般式(VII’)で表されるものである。
【0053】
【化7】

[式中、Rは上記と同じであり、R4’は低級アルキル基を示し、n’は0または1〜3の整数を示す。]
【0054】
なお、R4’の低級アルキル基は、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、炭素数は好ましくは1〜5とされる。
n’は0または1〜3の整数を示すが、0であることが好ましい。
【0055】
構成単位(a’4)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A’−11)成分中、構成単位(a’4)の割合は、1〜40モル%が好ましく、5〜25モル%がより好ましい。1モル%以上とすることにより、形状の改善(特に膜減りの改善)の効果が高くなり、40モル%以下とすることにより、他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0056】
(A’−11)成分においては、前記構成単位(a’1)と、構成単位(a’2)および構成単位(a’3)からなる群より選ばれる少なくとも一つとを必須とし、任意に(a’4)を含んでもよい。また、これらの各構成単位を全て有する共重合体を用いてもよいし、これらの構成単位のいずれか1つ以上を有する重合体または共重合体との混合物としてもよい。またはこれらを組み合わせてもよい。
また、(A’−11)成分は、前記構成単位(a’1)、(a’2)、(a’3)、(a’4)以外のものを任意に含むことができるが、これらの構成単位の割合が80モル%以上、好ましくは90モル%以上(100モル%が最も好ましい)であることが好ましい。
【0057】
(A’−11)成分としては、特に、「前記構成単位(a’1)および(a’3)を有する共重合体のいずれか1種、または該共重合体の2種以上の混合物」、または、「構成単位(a’1)、(a’2)および(a’4)を有する共重合体のいずれか1種、または該共重合体の2種以上の混合物」を、それぞれ用いるかまたは混合した態様が、簡便に効果が得られるため最も好ましい。また、耐熱性向上の点でも好ましい。
特には、第三級アルキルオキシカルボニル基で保護したポリヒドロキシスチレンと、1−アルコキシアルキル基で保護したポリヒドロキシスチレンとの混合物であることが好ましい。かかる混合を行う場合、各重合体の混合比(質量比)(第三級アルキルオキシカルボニル基で保護したポリヒドロキシスチレン/1−アルコキシアルキル基で保護したポリヒドロキシスチレン)は、例えば1/9〜9/1、好ましくは2/8〜8/2とされ、さらに好ましくは2/8〜5/5である。
【0058】
「(A’−12)成分」
(A’−12)成分は、酸解離性溶解抑制基を有する(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂であり、たとえば酸解離性溶解抑制基を含む(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位(a’5)を有する樹脂が挙げられる。
(A’−12)成分においては、酸解離性溶解抑制基が、(B’)成分から発生した酸により解離すると、カルボキシ基が生成し、アルカリ溶解性が増大する。また、この生成したカルボキシ基の存在により、レジストパターン上に金属層を形成しやすくなる。
【0059】
・・構成単位(a’5)
酸解離性溶解抑制基としては、例えばArFエキシマレーザーのレジスト組成物用の樹脂において、多数提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。一般的には、(α−低級アルキル)アクリル酸のカルボキシ基と環状または鎖状の第3級アルキルエステルを形成する基、または環状または鎖状のアルコキシアルキル基などが広く知られている。
ここで、「第3級アルキルエステルを形成する基」とは、アクリル酸のカルボキシ基の水素原子と置換することによりエステルを形成する基である。すなわちアクリル酸エステルのカルボニルオキシ基[−C(O)−O−]の末端の酸素原子に、鎖状または環状の第3級アルキル基の第3級炭素原子が結合している構造を示す。この第3級アルキルエステルにおいては、酸が作用すると、酸素原子と第3級炭素原子との間で結合が切断される。
なお、第3級アルキル基とは、第3級炭素原子を有するアルキル基である。
鎖状の第3級アルキルエステルを形成する基としては、例えばtert−ブチル基、tert−ペンチル基等が挙げられる。
環状の第3級アルキルエステルを形成する基としては、後述する「脂環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示するものと同様のものが挙げられる。
【0060】
「環状または鎖状のアルコキシアルキル基」は、カルボキシ基の水素原子と置換してエステルを形成する。すなわち、アクリル酸エステルのカルボニルオキシ基[−C(O)−O―]の末端の酸素原子に前記アルコキシアルキル基が結合している構造を形成する。かかる構造においては、酸の作用により、酸素原子とアルコキシアルキル基との間で結合が切断される。
このような環状または鎖状のアルコキシアルキル基としては、1−メトキシメチル基、1−エトキシエチル基、1−イソプロポキシエチル、1−シクロヘキシルオキシエチル基、2−アダマントキシメチル基、1−メチルアダマントキシメチル基、4−オキソ−2−アダマントキシメチル基、1−アダマントキシエチル基、2−アダマントキシエチル基等が挙げられる。
【0061】
構成単位(a’5)としては、環状、特に、脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基を含む構成単位が好ましい。
ここで、「脂肪族」および「脂肪族環式基」は、上記で定義した通りである。
脂肪族環式基としては、単環または多環のいずれでもよく、例えばArFレジスト等において、多数提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。耐エッチング性の点からは多環の脂環式基が好ましい。また、脂環式基は炭化水素基であることが好ましく、特に飽和の炭化水素基(脂環式基)であることが好ましい。
単環の脂環式基としては、例えば、シクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が挙げられる。多環の脂環式基としては、例えばビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどから1個の水素原子を除いた基などを例示できる。
具体的には、単環の脂環式基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。多環の脂環式基としては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基などが挙げられる。
これらの中でもアダマンタンから1個の水素原子を除いたアダマンチル基、ノルボルナンから1個の水素原子を除いたノルボルニル基、トリシクロデカンからの1個の水素原子を除いたトリシクロデカニル基、テトラシクロドデカンから1個の水素原子を除いたテトラシクロドデカニル基が工業上好ましい。
【0062】
より具体的には、構成単位(a’5)は、下記一般式(I”)〜(III”)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される単位であって、そのエステル部に上記した環状のアルコキシアルキル基を有する単位、具体的には2−アダマントキシメチル基、1−メチルアダマントキシメチル基、4−オキソ−2−アダマントキシメチル基、1−アダマントキシエチル基、2−アダマントキシエチル基等の置換基を有していても良い脂肪族多環式アルキルオキシ低級アルキル(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0063】
【化8】

[式(I”)中、Rは上記と同じであり、Rは低級アルキル基である。]
【0064】
【化9】

[式(II”)中、Rは上記と同じであり、RおよびRはそれぞれ独立に低級アルキル基である。]
【0065】
【化10】

[式(III”)中、Rは上記と同じであり、Rは第3級アルキル基である。]
【0066】
式(I”)〜(III”)中、Rの水素原子または低級アルキル基としては、上述したRの説明と同様である。
の低級アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖または分岐状のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基であることが、工業的に入手が容易であることから好ましい。
およびRの低級アルキル基は、それぞれ独立に、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。中でも、RおよびRが共にメチル基である場合が工業的に好ましい。具体的には、2−(1−アダマンチル)−2−プロピルアクリレートから誘導される構成単位を挙げることができる。
【0067】
は鎖状の第3級アルキル基または環状の第3級アルキル基である。鎖状の第3級アルキル基としては、例えばtert−ブチル基やtert−ペンチル基が挙げられ、tert−ブチル基が工業的に好ましい。
環状の第3級アルキル基としては、前述の「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示したものと同じであり、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基、2−(1−アダマンチル)−2−プロピル基、1−エチルシクロヘキシル基、1−エチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−メチルシクロペンチル基等を挙げることができる。
また、基−COORは、式中に示したテトラシクロドデカニル基の3または4の位置に結合していてよいが、結合位置は特定できない。また、アクリレート構成単位のカルボキシ基残基も同様に式中に示した8または9の位置に結合していてよい。
【0068】
構成単位(a’5)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A’−12)成分中、構成単位(a’5)の割合は、(A’−12)成分を構成する全構成単位の合計に対して、20〜60モル%であることが好ましく、30〜50モル%がより好ましく、35〜45モル%が最も好ましい。下限値以上とすることによってパターンを得ることができ、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0069】
(A’−12)成分は、前記構成単位(a’5)に加えてさらに、ラクトン環を有するアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a’6)を有することが好ましい。構成単位(a’6)は、レジスト膜の基材への密着性を高めたり、現像液との親水性を高めたりするうえで有効なものである。また、パターン上に形成される被覆膜が、当該パターンとの密着性の高いものとなる。
構成単位(a’6)において、α位の炭素原子に結合しているのは、低級アルキル基または水素原子である。α位の炭素原子に結合している低級アルキル基は、構成単位(a’5)の説明と同様であって、好ましくはメチル基である。
構成単位(a’6)としては、アクリル酸エステルのエステル側鎖部にラクトン環からなる単環式基またはラクトン環を有する多環の環式基が結合した構成単位が挙げられる。なお、このときラクトン環とは、−O−C(O)−構造を含むひとつの環を示し、これをひとつの目の環として数える。したがって、ここではラクトン環のみの場合は単環式基、さらに他の環構造を有する場合は、その構造に関わらず多環式基と称する。
構成単位(a’6)としては、例えば、γ−ブチロラクトンから水素原子1つを除いた単環式基や、ラクトン環含有ビシクロアルカンから水素原子を1つ除いた多環式基を有するもの等が挙げられる。
構成単位(a’6)として、より具体的には、例えば以下の一般式(IV”)〜(VII”)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0070】
【化11】

[式(IV”)中、Rは上記と同じであり、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または低級アルキル基である。]
【0071】
【化12】

[式(V”)中、Rは上記と同じであり、mは0または1である。]
【0072】
【化13】

[式(VI”)中、Rは上記と同じである。]
【0073】
【化14】

[式(VII”)中、Rは上記と同じである。]
【0074】
式(IV”)中において、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または低級アルキル基であり、好ましくは水素原子である。R、Rにおいて、低級アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜5の直鎖または分岐状アルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。工業的にはメチル基が好ましい。
【0075】
一般式(IV”)〜(VII”)で表される構成単位の中でも、(IV”)で表される構成単位が安価で工業的に好ましく、(IV”)で表される構成単位の中でもRがメチル基、RおよびRが水素原子であり、メタクリル酸エステルとγ−ブチロラクトンとのエステル結合の位置が、そのラクトン環上のα位であるα−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンであることが最も好ましい。
構成単位(a’6)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A’−12)成分中、構成単位(a’6)の割合は、(A’−12)成分を構成する全構成単位の合計に対して、20〜60モル%が好ましく、20〜50モル%がより好ましく、30〜45モル%が最も好ましい。下限値以上とすることによりリソグラフィー特性が向上し、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0076】
(A’−12)成分は、前記構成単位(a’5)に加えて、または前記構成単位(a’5)および(a’6)に加えてさらに、極性基含有多環式基を含むアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a’7)を有することが好ましい。
構成単位(a’7)により、(A’−12)成分全体の親水性が高まり、現像液との親和性が高まって、露光部でのアルカリ溶解性が向上し、解像性の向上に寄与する。また、パターンとの密着性が高い被覆膜を形成することができる。
構成単位(a’7)において、α位の炭素原子に結合しているのは、低級アルキル基または水素原子である。α位の炭素原子に結合している低級アルキル基は、構成単位(a’5)の説明と同様であって、好ましくはメチル基である。
極性基としては、水酸基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基等が挙げられ、特に水酸基が好ましい。
多環式基としては、前述の(a’5)単位である「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示した脂肪族環式基のうち、多環式のものから適宜選択して用いることができる。
構成単位(a’7)としては、下記一般式(VIII”)〜(IX”)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0077】
【化15】

[式(VIII”)中、Rは上記と同じであり、nは1〜3の整数である。]
【0078】
式(VIII”)中のRは上記式(I”)〜(III”)中のRと同様である。
これらの中でも、nが1であり、水酸基がアダマンチル基の3位に結合しているものが好ましい。
【0079】
【化16】

[式(IX”)中、Rは上記と同じであり、kは1〜3の整数である。]
【0080】
これらの中でも、kが1であるものが好ましい。また、シアノ基がノルボルニル基の5位または6位に結合していることが好ましい。
【0081】
構成単位(a’7)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(A’−12)成分中、構成単位(a’7)の割合は、(A’−12)成分を構成する全構成単位の合計に対して、10〜50モル%が好ましく、15〜40モル%がより好ましく、20〜35モル%がさらに好ましい。下限値以上とすることによりリソグラフィー特性が向上し、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0082】
(A’−12)成分においては、これらの構成単位(a’5)〜(a’7)の合計が、全構成単位の合計に対し、70〜100モル%であることが好ましく、80〜100モル%であることがより好ましい。
【0083】
(A’−12)成分は、前記構成単位(a’5)〜(a’7)以外の構成単位(a’8)を含んでいてもよい。
構成単位(a’8)としては、上述の構成単位(a’5)〜(a’7)に分類されない他の構成単位であれば特に限定するものではない。
例えば多環の脂肪族炭化水素基を含み、かつ(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位等が好ましい。該多環の脂肪族炭化水素基は、例えば、前述の「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示した脂肪族環式基のうち、多環式のものから適宜選択して用いることができる。特にトリシクロデカニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデカニル基、ノルボルニル基、イソボルニル基から選ばれる少なくとも1種以上であると、工業上入手し易い等の点で好ましい。構成単位(a’8)としては、酸非解離性基であることが最も好ましい。
構成単位(a’8)として、具体的には、下記(X”)〜(XII”)の構造のものを例示することができる。
【0084】
【化17】

[式中、Rは上記と同じである。]
【0085】
【化18】

[式中、Rは上記と同じである。]
【0086】
【化19】

[式中、Rは上記と同じである。]
【0087】
構成単位(a’8)を有する場合、(A’−12)成分中、構成単位(a’8)の割合は、(A’−12)成分を構成する全構成単位の合計に対して、1〜25モル%が好ましく、5〜20モル%がより好ましい。
【0088】
(A’−12)成分は、少なくとも構成単位(a’5)、(a’6)および(a’7)を有する共重合体であることが好ましい。係る共重合体としては、たとえば、上記構成単位(a’5)、(a’6)および(a’7)からなる共重合体、上記構成単位(a’5)、(a’6)、(a’7)および(a’8)からなる共重合体等が例示できる。
【0089】
(A’−1)成分は、前記構成単位に係るモノマーを公知の方法で重合することにより得ることができる。例えば、各構成単位に係るモノマーを、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)のようなラジカル重合開始剤を用いた公知のラジカル重合等によって重合させることによって得ることができる。
(A’−1)成分は、質量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算質量平均分子量、以下同様。)30000以下であることが好ましく、20000以下であることが好ましく、12000以下であることがさらに好ましい。下限値は、2000超であればよく、パターン倒れの抑制、解像性向上等の点で、好ましくは4000以上、さらに好ましくは5000以上とされる。
【0090】
[(A’−2)成分]
(A’−2)成分としては、酸解離性溶解抑制基と親水性基とを有する低分子化合物が好ましい。具体的には、複数のフェノール骨格を有する化合物の水酸基の水素原子の一部を酸解離性溶解抑制基で置換したものが挙げられる。
酸解離性溶解抑制基としては、特に限定されず、たとえば上記XまたはX’の酸解離性溶解抑制基として挙げたものと同様のものが挙げられる。
(A’−2)成分は、例えば、非化学増幅型のg線やi線レジストにおける増感剤や耐熱性向上剤として知られている低分子量フェノール化合物の水酸基の水素原子の一部を上記酸解離性溶解抑制基で置換したものが好ましく、そのようなものから任意に用いることができる。
かかる低分子量フェノール化合物としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)メタン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)−2−(2’,3’,4’−トリヒドロキシフェニル)プロパン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、1−[1−(4−ヒドロキシフェニル)イソプロピル]−4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾールまたはキシレノールなどのフェノール類のホルマリン縮合物の2、3、4核体などが挙げられる。勿論これらに限定されるものではない。
【0091】
<(B’)成分>
(B’)成分としては、従来、化学増幅型レジストにおける酸発生剤として公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような酸発生剤としては、これまで、ヨードニウム塩やスルホニウム塩などのオニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤、ビスアルキルまたはビスアリールスルホニルジアゾメタン類、ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタン類などのジアゾメタン系酸発生剤、ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ジスルホン系酸発生剤など多種のものが知られている。
【0092】
オニウム塩系酸発生剤の具体例としては、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート、(p−tert−ブチルフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムノナフルオロブタンスルホネート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムノナフルオロブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネートが挙げられる。これらのなかでもフッ素化アルキルスルホン酸イオンをアニオンとするオニウム塩が好ましい。
【0093】
オキシムスルホネート化合物の例としては、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐フェニルアセトニトリル、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(トリフルオロメチルスルホニルオキシイミノ)‐フェニルアセトニトリル、α‐(トリフルオロメチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(エチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(プロピルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メチルフェニルアセトニトリル、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐ブロモフェニルアセトニトリルなどが挙げられる。これらの中で、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリルが好ましい。
【0094】
ジアゾメタン系酸発生剤の具体例としては、ビス(イソプロピルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p−トルエンスルホニル)ジアゾメタン、ビス(1,1−ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(2,4−ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン等が挙げられる。
【0095】
(B’)成分として、1種の酸発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(B’)成分の使用量は、(A’)成分100質量部に対し、1〜20質量部、好ましくは2〜10質量部とされる。上記範囲の下限値以上とすることにより充分はパターン形成が行われ、上記範囲の上限値以下であれば溶液の均一性が得られやすく、良好な保存安定性が得られる。
【0096】
<任意成分>
化学増幅型レジスト組成物には、パターンパターン形状、引き置き経時安定性などを向上させるために、さらに任意成分として、含窒素有機化合物(D’)(以下、(D’)成分という。)を配合させることができる。
この(D’)成分は、既に多種多様なものが提案されているので、公知のものから任意に用いれば良いが、アミン、特に第2級低級脂肪族アミンや第3級低級脂肪族アミンが好ましい。
ここで、低級脂肪族アミンとは炭素数5以下のアルキルまたはアルキルアルコールのアミンを言い、この第2級や第3級アミンの例としては、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリペンチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどが挙げられるが、特にトリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンのような第3級アルカノールアミンが好ましい。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(D’)成分は、(A’)成分100質量部に対して、通常0.01〜5.0質量部の範囲で用いられる。
【0097】
また、化学増幅型レジスト組成物には、前記(D’)成分との配合による感度劣化を防ぎ、またパターン形状、引き置き安定性等の向上の目的で、さらに任意の成分として、有機カルボン酸またはリンのオキソ酸若しくはその誘導体(E’)(以下、(E’)成分という。)を含有させることができる。なお、(D’)成分と(E’)成分は併用することもできるし、いずれか1種を用いることもできる。
有機カルボン酸としては、例えば、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、安息香酸、サリチル酸などが好適である。
リンのオキソ酸若しくはその誘導体としては、リン酸、リン酸ジ‐n‐ブチルエステル、リン酸ジフェニルエステルなどのリン酸またはそれらのエステルのような誘導体、ホスホン酸、ホスホン酸ジメチルエステル、ホスホン酸‐ジ‐n‐ブチルエステル、フェニルホスホン酸、ホスホン酸ジフェニルエステル、ホスホン酸ジベンジルエステルなどのホスホン酸およびそれらのエステルのような誘導体、ホスフィン酸、フェニルホスフィン酸などのホスフィン酸およびそれらのエステルのような誘導体が挙げられ、これらの中で特にホスホン酸が好ましい。
(E’)成分は、(A’)成分100質量部当り、通常0.01〜5.0質量部の割合で用いられる。
【0098】
化学増幅型レジスト組成物には、さらに所望により、混和性のある添加剤、例えば該レジスト組成物の塗布膜の性能を改良するための付加的樹脂、塗布性を向上させるための界面活性剤、溶解抑制剤、可塑剤、安定剤、着色剤、ハレーション防止剤などを適宜含有させることができる。
【0099】
化学増幅型レジスト組成物は、材料を有機溶剤(S’)(以下、(S’)成分という。)に溶解させて製造することができる。
(S’)成分としては、使用する各成分を溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよく、従来、レジスト組成物の溶剤として公知のものの中から任意のものを1種または2種以上適宜選択して用いることができる。
具体例としては、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジプロピレングリコール、またはジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類およびその誘導体や、ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類などを挙げることができる。これらの中でも、PGMEA、EL、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
(S’)成分の使用量は特に限定しないが、化学増幅型レジスト組成物が、基材上に塗布可能な濃度の液体となる量が用いられる。
【0100】
なお、本発明においては、上記化学増幅型レジスト組成物以外の感放射線性組成物を用いてもよい。該感放射線性組成物としては、例えば、ノボラック樹脂、ヒドロキシスチレン樹脂等のアルカリ可溶性樹脂と、ナフトキノンジアジド基含有化合物などの感光性成分とを含有するレジスト組成物が挙げられる。該レジスト組成物には、必要に応じて増感剤を含有させることもできる。
【0101】
[リソグラフィー法による鋳型の形成方法]
上記鋳型形成用材料を用いる場合、鋳型の形成には、微細パターンを高精度で形成できることから、リソグラフィー法が好ましく用いられる。
リソグラフィー法による鋳型の形成は、従来公知の手順で行うことができ、たとえば化学増幅型レジスト組成物を用いる場合は以下の様にして行うことができる。
まず、基材上に、レジスト組成物をスピンナーなどで塗布し、80〜150℃の温度条件下、プレベーク(ポストアプライベーク(PAB))を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施し、レジスト膜を形成する。該レジスト膜の膜厚は、一概に限定することはできないが、数十nm〜数μm程度の範囲で決定することができ、好ましくは100〜800nmの範囲である。
次に、該レジスト膜に対し、市販の露光装置などを用いて選択的露光を行った後、80〜150℃の温度条件下、PEB(露光後加熱)を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施す。次いでこれをアルカリ現像液、例えば0.1〜10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて現像処理する。このようにして、鋳型(レジストパターン)を得ることができる。
【0102】
露光光源は、特に限定されず、使用されるレジスト組成物に応じて適宜選択して用いればよい。具体的には、塗布された金属酸化物ナノ材料形成用組成物の光吸収度、金属酸化物ナノ材料形成用組成物の膜厚、描画する鋳型構造のサイズなどによって異なり、一概に限定することはできないが、一般には300nm以下の遠紫外線領域から数nmの極紫外線、X線領域の範囲で適宜選択することができる。例えば、KrF、ArF、電子線、EUV(Extreme Ultraviolet 極端紫外光:波長約13.5nm)、X線などが用いられる。たとえば上記化学増幅型レジスト組成物を用いる場合には、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー、EUV(極紫外線)、VUV(真空紫外線)、電子線、X線、軟X線等が好ましい。他方、上記化学増幅型以外の感放射線性組成物である場合には、電子線を用いると200nm以下の微細なパターンが形成でき好ましい。
【0103】
なお、鋳型をリソグラフィー法により形成する際の処理条件は、上記に制限されず、使用する鋳型形成用材料の組成に応じて適宜設定される。
また、鋳型の形成方法は、リソグラフィー法に限定されない。例えば、インプリント法(予め微細加工された基板を押し付けることで別の基板に構造転写ることで作成された微細構造を利用する方法)等も利用可能である。該インプリント法は、鋳型形成用材料が感放射線性を有する場合であっても有さない場合であっても適用可能である。
【0104】
<親水化処理>
本発明においては、次工程で無電解めっきにより鋳型表面に金属層を形成する前に、鋳型の表面に親水化処理を施すことが好ましい。親水化処理を施すことにより、鋳型表面の親水性が向上(活性化)し、該表面に、無電解めっきにより、高密度に、高い密着性で金属層を形成できる。また、後述する被覆膜形成工程において、鋳型表面に無電解めっきにおける触媒を導入しやすくなる。そのため、鋳型の形状が精度良く複写または転写された形状の被覆膜を形成できる。
親水化処理としては、従来公知の方法を利用でき、たとえば酸素プラズマ処理、オゾン酸化処理、酸アルカリ処理、化学修飾処理等が挙げられる。これらの中でも、処理時間が短く、簡便であることから、酸素プラズマ処理が好ましい。また、酸素プラズマ処理を行うことにより、鋳型表面の活性化のみならず、その処理条件を調節することにより、鋳型の高さ、ひいては形成される構造体の高さを調節できる。たとえば酸素プラズマ処理の処理時間が長いほど、鋳型の高さが低くなり、より微細な構造体が得られる。
例えば、酸素プラズマ処理を用いる場合、酸素プラズマ処理時の圧力は、1.33〜66.5Pa(10〜50mtorr)が好ましく、13.3〜26.6Pa(100〜200mtorr)がより好ましい。また、酸素プラズマ処理時のプラズマ出力は、5〜500Wが好ましく、5〜50Wがより好ましい。また、酸素プラズマ処理時の処理時間は、1〜30秒が好ましく、2〜5秒がより好ましい。また、酸素プラズマ処理の温度は、−30〜300℃が好ましく、0〜100℃がより好ましく、最も好ましくは室温(5〜40℃)である。酸素プラズマ処理に用いるプラズマ装置は、特に限定されず、例えば、サウスベイ社製(South Bay Technology,USA)のPE−2000プラズマエッキャー(Plasma etcher)などを用いることができる。
【0105】
<被覆膜形成工程>
本工程では、前記鋳型の表面に、無電解めっきにより形成される金属層を含む被覆膜を形成する。
[金属層]
無電解めっきは、所定の金属種のイオンを含むめっき液を鋳型表面に接触させ、該イオンを還元する(金属を析出させる)ことにより行われ、これにより、前記所定の金属種で構成される金属層が形成される。
目的とする金属種が、直接無電解めっきが困難な金属種(たとえば金などの貴金属)である場合、あらかじめ、該金属種よりもイオン化傾向の高い金属種(たとえばニッケル)を用いて無電解めっきにより金属層を形成し、その後、該金属層の金属種を目的とする金属種に置換することで、容易に目的とする金属種の金属層を形成できる。
無電解めっきの金属種としては、特に限定されず、一般的に無電解めっきの金属種として用いられているものが使用でき、たとえば金、銀、銅、ニッケル、コバルト、すず、白金族(パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム)等が挙げられる。これらの中でも、一般的にめっき技術が確立していることから、金、銀、銅、ニッケルおよびコバルトからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
本発明においては、導電性を持つ金属であることが望ましいからであることから、金属層を構成する金属が、金、銀および銅からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。すなわち、金属層として、金層、銀層および銅層のうちのいずれか1種または2種以上を有することが好ましい。
また、金属層を構成する金属としては、強磁性を有する構造体が得られることから、コバルトも好ましい。
金属種のイオンの還元は、公知の方法により行うことができる。具体例としては、還元反応の触媒となるもの(無電解めっきにおける触媒)を使用する方法、めっき金属よりもイオン化傾向の高い金属を置換する方法等が挙げられる。
【0106】
本発明においては、前記鋳型の表面に、無電解めっきにおける触媒を導入した後、前記無電解めっきを行うことが好ましい。該触媒は、無電解めっきの核として、該鋳型表面に接触した金属イオンの還元反応を促進させるため、鋳型表面に、高いめっき選択性で、効率よく金属層を形成できる。
無電解めっきにおける触媒としては、一般的に、金属の微粒子や薄膜等が用いられる。触媒となる金属の種類は、使用する金属種の種類によって異なっており、通常、使用する金属種と同じか、またはそれよりもイオン化しやすい金属が触媒として用いられる。
具体例としては、たとえば金属種が銀の場合は主に銀触媒が用いられ、金属種が銅の場合は主に銀触媒、銅触媒が用いられ、金属種がニッケル、コバルト、金等の場合は主にパラジウム触媒、すず触媒等が用いられる。触媒としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
鋳型の表面への触媒を導入は、公知の方法により行うことができる。たとえば、触媒となる金属の塩(たとえば硝酸銀、金属塩化物等)の水溶液と鋳型表面に接触させて該塩を鋳型表面に吸着させ、該塩を還元する。これにより、鋳型表面に金属微粒子を導入できる。
【0107】
被覆膜中に含まれる金属層は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。たとえば、金属層として、それぞれ異なる金属からなる金属層を2層以上積層してなる複合層(たとえば銀層と銅層とからなる銀・銅複合層)を有してもよく、また、2層以上の金属層が、他の層(たとえば後述する金属酸化物層、有機/金属酸化物複合体層等)を介して積層された構造であってもよい。
【0108】
金属層の厚さは、形成しようとする構造体の寸法に応じて適宜設定すればよい。
本発明においては、特に、被覆膜全体としての厚さが、150nm以下であることが好ましく、120nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、80nmが特に好ましい。
該厚さの下限値としては、特に限定されないが、構造体の強度、無電解めっきの被膜均一性等を考慮すると、1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましい。
なお、金属層の厚さは、無電解めっきの処理時間を調整することにより、所望の厚さとすることができる。例えば、無電解めっきの処理時間が長いほど、厚い金属層を形成でき、被覆膜の厚さを厚くすることができる。
【0109】
[他の層]
被覆膜は、前記金属層のみから構成されてもよく、前記金属層以外の他の層を含んでいてもよい。
前記金属層以外の層としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではないが、例えば、金属酸化物層、有機/金属酸化物複合体層、有機化合物層、および有機/無機複合体層からなる群から選択される1種以上が挙げられ、好ましくは、金属酸化物層、有機/金属酸化物複合体層である。被覆膜中に含まれる前記他の層は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
上記の中でも、ケイ素(金属ケイ素)、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の金属の酸化物を含む層が好ましい。特に薄膜がシリカからなる場合は、半導体素子、液晶素子の製造に利用される耐エッチング材料や絶縁膜などの各種薄膜に好適なことから好ましい。
【0110】
これら他の層は、たとえば表面ゾルゲル法、交互吸着法、スピンコート法、ディップコート法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)、CVD法(化学蒸着法)等の、公知の薄膜形成方法を用いて形成できる。
また、これら他の層を形成するための材料としては、特開2002−338211号公報に記載の、有機成分が分子的に分散した有機/金属酸化物複合薄膜の有機成分に対応する部分が除去された構造を有するアモルファス状金属酸化物の薄膜材料や、国際公開公報WO03/095193号公報に記載の表面に水酸基またはカルボキシ基を提示する高分子の薄膜層と、該水酸基またはカルボキシ基を利用して高分子の薄膜層と配位結合または共有結合している金属酸化物薄膜層または有機/金属酸化物複合薄膜層とから構成される薄膜材料等を好ましく用いることができる。また、特開平10−249985号公報、特開2005−205584号公報、特開2006−297575号公報等に記載の金属酸化物薄膜、有機化合物薄膜およびこれらの複合体も好ましく採用できる。
【0111】
前記薄膜に用いられる有機物としては、電荷を有するポリマーであるポリアニオンおよび/またはポリカチオンが好ましく、ポリアニオンは、ポリグルタミン酸、スルホン酸、硫酸、カルボン酸など負荷電を帯びることのできる官能基を有するものであり、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸などが好ましい例としてあげられる。これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸(PSS)およびポリマレイン酸が特に好ましい。一方、ポリカチオンは、4級アンモニウム基、アミノ基などの正荷電を帯びることのできる官能基を有するものであり、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジンなどが好ましい例としてあげられる。これらの中でも、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)およびポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)が特に好ましい。
さらに、上記ポリカチオン・ポリアニオンに限らず、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリピロール等の水酸基やカルボキシ基を有する高分子化合物、デンプン、グリコゲン、アルギン酸、カラギーナン、アガロース等の多糖類、ポリイミド、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、アクリルアミドなどのポリアミド、塩化ビニルなどのポリビニル化合物、ポリスチレンなどのスチレン系ポリマー、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセチレンやそれらポリマーの誘導体や共重合体も広く用いることができる。
また有機低分子も、鋳型表面を被覆できるものであれば広く用いることができ、長鎖アルキルを有する界面活性剤分子や、長鎖チオール、ハロゲン化物が好ましい例として挙げられる。さらに水素結合によって、ネットワーク構造を形成するような、アミノトリアジン、環状イミド(シアヌール酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、チミンなど)、グアニジニウム、カルボキシ基、リン酸基などの分子認識性を持つ複数の官能基を有する分子なども利用可能である。
さらにまた、導電性高分子、ポリ(アニリン−N−プロパンスルホン酸)(PAN)などの機能性高分子イオン、種々のデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)、蛋白質、オリゴペプチド、ペクチンなどの荷電を有する多糖類や荷電を持つ生体高分子を用いることもできる。
さらに有機薄膜の機械的強度を高めるため、架橋材による架橋処理、熱、電気、化学処理などによる薄膜強度向上操作も適宜利用可能である。
【0112】
前記他の層を表面ゾルゲル法により形成する場合、例えば、特開2002−338211号公報に記載の方法に従って、アルコキシ基を有する金属化合物(以下、「金属アルコキシド」ということがある)と反応する官能基が表出した鋳型の表面に、金属アルコキシド溶液に繰り返し浸漬することにより形成できる。金属酸化物薄膜は、金属アルコキシドの段階的な吸着によって溶液から金属酸化物の薄膜が形成される。この方法で作製された金属酸化物薄膜は、ナノメートルレベルの精度で厚みが制御されている。そして、金属酸化物超薄膜は、金属アルコキシドの重縮合に基づく薄膜形成であり、その鋳型被覆精度は分子レベルまで対応可能である。従って、ナノメートルレベルの形状を持つ鋳型構造は、正確に形状複写される。
また、金属アルコキシド以外にも、加水分解により水酸基を生成し得る金属化合物を用いて、同様の手法により金属酸化物膜を形成することができる。該金属化合物としては、イソシアネート基を有する金属化合物、ハロゲン原子を有する金属化合物、カルボニル基を有する金属化合物等が挙げられる。
【0113】
金属アルコキシドとしては、例えば、チタンブトキシド(Ti(O−nBu))、ジルコニウムプロポキシド(Zr(O−nPr))、アルミニウムブトキシド(Al(O−nBu))、ニオブブトキシド(Nb(O−nBu))、シリコンテトラメトキシド(Si(O−Me))、ホウ素エトキシド(B(O−Et))等の希土類金属以外の金属アルコキシド化合物;ランタニドイソプロポキシド(Ln(O−iPr))、イットリウムイソプロポキシド(Y(O−iPr))等の希土類金属の金属アルコキシド化合物;バリウムチタンアルコキシド(BaTi(OR60X3)等のダブルアルコキシド化合物(なお、ここでの「R60」は炭素数1〜5の低級アルキル基であり、Xは2〜4の整数である);メチルトリメトキシシラン(MeSi(O−Me))、ジエチルジエトキシシラン(EtSi(O−Et))等の、2個以上のアルコキシ基を有し、かつアルコキシ基以外の有機基を有する金属アルコキシド化合物;アセチルアセトン等の配位子を有し、2個以上のアルコキシ基を有する金属アルコキシド化合物等が挙げられる。
また、上記金属アルコキシド類に少量の水を添加し、部分的に加水分解および縮合させて得られるアルコキシドゾルまたはアルコキシドゲルの微粒子を用いることもできる。
さらには、チタンブトキシドテトラマー(CO[Ti(OCO])等の、複数個または複数種の金属元素を有する二核またはクラスター型のアルコキシド化合物や、酸素原子を介して一次元に架橋した金属アルコキシド化合物に基づく高分子等も、上記金属アルコキシド類に含まれる。
【0114】
イソシアネート基を有する金属化合物としては一般式「M(NCO)X0」で表される2個以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられる(Mは金属原子であり、ここでのXは2〜4の整数である)。具体的には、テトライソシアネートシラン(Si(NCO))、チタンテトライソシアネート(Ti(NCO))、ジルコニウムテトライソシアネート(Zr(NCO))、アルミニウムトリイソシアネート(Al(NCO))等が挙げられる。
ハロゲン原子を有する金属化合物としては、一般式「M(Xn”」(Mは金属原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子および ヨウ素原子から選ばれる一種であり、n”は2〜4の整数である)で表される2個以上(好ましくは2〜4)のハロゲン原子を有するハロゲン化金属化合物が挙げられる。ハロゲン原子を有する化合物は金属錯体であってもよい。具体的には、テトラクロロチタン(TiCl)、テトラクロロシラン(SiCl)等が挙げられる。また、金属錯体として、塩化コバルト(CoCl)等も挙げられる。
カルボニル基を有する金属化合物としては、チタニウムオキソアセチルアセテート(TiO(OCOCHCOCH)、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO))等の金属カルボニル化合物、およびこれらの多核クラスターが挙げられる。
【0115】
これらの中でも、特に高活性で、加熱処理を特に行わずとも簡便に、耐エッチング性の高い金属酸化物膜を形成することができることから、イソシアネート基および/またはハロゲン原子を2個以上(好ましくは2〜4個)有するケイ素化合物が好ましい。
該ケイ素化合物の1分子中のケイ素の数は1であっても2以上であってもよく、好ましくは1である。中でも、以下の一般式(w−1)で表される化合物が好ましい。
SiW・・・(w−1)
式(w−1)中、aは2〜4の整数であり、4であることが望ましい。
Wはイソシアネート基(NCO基)またはハロゲン原子であり、複数のWは相互に同じであっても異なっていてもよい。
Wのハロゲン原子については上記ハロゲン原子を有する金属化合物におけるハロゲン原子と同様であり、塩素原子であることが望ましい。これらの中でも、イソシアネート基が好ましい。
【0116】
<鋳型除去工程>
本工程においては、前記被覆膜の一部または全部を残したまま、鋳型の一部または全部を除去する。このとき、被覆膜の少なくとも一部はそのまま基材上に残り、この残った被覆膜が、構造体の一部または全部を構成する。
鋳型を除去する方法は、従来から知られている鋳型の除去方法を広く採用できる。特に、制御のし易さの観点から、プラズマ、オゾン酸化、溶出、焼成からなる群から選ばれる少なくとも一種の処理方法で行うことが好ましく、プラズマ処理がさらに好ましい。
【0117】
プラズマ処理を用いる場合の処理方法および処理条件は、除去しようとする鋳型の成分などに応じて適宜決定することができる。
例えば、プラズマ処理時の時間、圧力、出力および温度は、除去すべき成分の種類、大きさ、プラズマ源などに応じて適宜決定することができる。
プラズマ処理のプラズマ源としては、酸素ガス、水素ガス、窒素ガスなどの各種のガスを用いることができる。これらの中でも、酸素ガスを用いる酸素プラズマ処理、または水素ガスを用いる水素プラズマ処理が好ましく、特に、作成された金属構造体の酸化を防止できることから、水素プラズマ処理が好ましい。
例えば、酸素プラズマ処理を用いる場合、酸素プラズマ処理時の圧力は、1.33〜66.5Pa(10〜50 mtorr)、好ましくは13.3〜26.6Pa(100〜200 mtorr)であることが適当である。また、酸素プラズマ処理時のプラズマ出力は、5〜500W、好ましくは10〜50Wであることが適当である。また、酸素プラズマ処理時の処理時間は、5分〜数時間、好ましくは5〜60分であることが適当である。また、酸素プラズマ処理の温度は、低温であり、好ましくは−30〜300℃であり、さらに好ましくは0〜100℃であり、最も好ましくは室温(5〜40℃)である。酸素プラズマ処理に用いるプラズマ装置は、特に限定されず、例えば、サウスベイ社製(South Bay Technology,USA)のPE−2000プラズマエッキャー(Plasma etcher)などを用いることができる。
例えば、水素プラズマ処理を用いる場合、水素プラズマ処理時の圧力は、1.33〜66.5Pa(10〜500mtorr)、好ましくは13.3〜26.6Pa(100〜200 mtorr)であることが適当である。また、水素プラズマ処理時のプラズマ出力は、5〜500W、好ましくは10〜50Wであることが適当である。また、水素プラズマ処理時の処理時間は、5分〜数時間、好ましくは5〜60分であることが適当である。また、水素プラズマ処理の温度は、低温であり、好ましくは−30〜300℃であり、さらに好ましくは0〜100℃であり、最も好ましくは室温(5〜40℃)である。水素プラズマ処理に用いるプラズマ装置は、特に限定されず、例えば、サウスベイ社製(South Bay Technology,USA)のPE−2000プラズマエッキャー(Plasma etcher)などを用いることができる。
【0118】
オゾン酸化処理を用いる場合の条件は、除去しようとする鋳型の成分、使用する装置に応じて適宜決定することができる。例えば、オゾン酸化処理時の圧力は、大気圧〜13.3Pa(100mTorr)の範囲内、好ましくは133.3〜13333.3Pa(0.1〜100torr)の範囲内であることが適当である。オゾン酸化処理時間は数分から数時間、好ましくは5〜60分とすることができる。処理温度は、室温〜600℃であり、好ましくは室温〜400℃とすることができる。
【0119】
溶出処理を用いる場合の条件は、除去しようとする鋳型の成分等に応じて適宜公知の溶出方法を採用することができる。例えば、鋳型が上記分子量500以上の有機化合物を含有する鋳型形成用材料を用いて形成されたものである場合、該鋳型は、メタノール、エタノール、アセトン等の有機溶剤を用いることにより溶出させることができる。
【0120】
焼成処理を用いる場合の処理の条件としては、大気雰囲気中で100〜1000℃、好ましくは300〜500℃で、30秒〜数時間、好ましくは1〜60分間であることが好ましい。また、シリコンなどの酸化しやすい材料の基材を用いる場合、基材の酸化を防ぐために、窒素雰囲気中で焼成処理を行うことが好ましい。窒素中における焼成処理の諸条件は、大気雰囲気中と同じである。
【0121】
このとき、鋳型は、その全部を完全に除去してもよいし、一部を除去してもよい。一部を除去する場合、全体の1〜99%を除去するのが好ましく、5〜95%を除去するのがより好ましい。このように一部の鋳型を除去する場合、得られる構造体は、一部に鋳型を含んだ被覆膜−鋳型複合体として得られる。該構造体は、その状態のまま使用してもよいし、さらに加工することも可能である。
【0122】
また、鋳型を複数設けた場合、それらの鋳型を除去する工程は、同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。別々に行う場合、より内側もしくは下側に存在するものから、順次除去するのが好ましい。
さらに、複数の鋳型を設けた場合、すべての鋳型について除去する必要はなく、その全部を完全除去してもよいし一部のみを除去してもよい。一部を除去する場合、全体の1〜99%を除去するのが好ましく、5〜95%を除去するのがより好ましい。このように一部の鋳型を除去する場合、構造体として、一部に鋳型を含んだ被覆膜−鋳型複合体として得られるが、このような状態のナノ構造体をこのまま使用してもよい。
【0123】
被覆膜が、上記金属層以外に、他の層として、有機化合物を含有する層(たとえば前記有機/金属酸化物複合層)を含む場合、鋳型除去工程において、鋳型の除去と同時に、該有機化合物を含有する層中の有機化合物の一部または全部を除去することができる。
有機化合物の一部または全部が除去されると、該有機化合物に対応する部分が除去された構造体が形成される。すなわち除去された有機化合物の分子形状に応じた空隙を有する構造体が形成される。
具体的には、たとえばa)有機/金属酸化物複合層に含まれる有機化合物に対応する部分がそのまま空隙になっている構造体、b)有機/金属酸化物複合層に含まれる有機化合物に対応する部分を中心としてその近傍が空隙になっている構造体、c)有機/金属酸化物複合層に含まれる有機化合物に対応する部分あるいはその近傍が空隙になっており、さらにそれらの空隙の一部が互いにつながって網目状になっている構造体などが挙げられる。
このような空隙を有する構造体は、たとえば分子構造選択的な透過膜として利用することができる。
なお、必要に応じて、鋳型除去工程とは別に、有機/金属酸化物複合層中の有機化合物を除去する工程を設けることもできる。例えば、プラズマ、オゾン酸化、溶出、焼成等の処理を、鋳型除去工程とは異なる処理条件で行う工程を設けてもよい。
【0124】
<被覆膜の一部を除去する工程>
本発明においては、前記鋳型除去工程の前に、前記被覆膜の一部を除去する工程を行ってもよい。
この場合、該被覆膜の除去は、鋳型の一部が露出するように行うことが好ましい。これにより、鋳型の除去をエッチング等により容易に行うことができる。
【0125】
また、前記鋳型除去工程の後に、前記被覆膜の一部を除去する工程を行ってもよく、特に、前記鋳型除去工程において、前記鋳型の一部を除去した後、被覆膜の一部を除去することが好ましい。
本発明において、前記鋳型の一部を除去した後、被覆膜の一部を除去する場合、該被覆膜の除去は、鋳型の一部が露出するように行うことが好ましい。これにより、鋳型の除去をエッチング等により容易に行うことができる。
【0126】
被覆膜の一部を除去する方法としては、金属層を加工できる方法であればよく、被覆膜を構成する材料の種類を考慮して、また必要に応じて鋳型の種類等を考慮して、高知の方法を採用すればよい。該公知の方法としては、例えば、エッチング、化学処理、物理的剥離、研磨等が挙げられる。これらの中でも、処理工程が少なく簡便であることからエッチングが好ましく、特に、アルゴン、酸素等を用いるドライエッチングが好ましい。
除去する被覆膜の割合は、特に限定されず、好ましくは全体の1〜99%、より好ましくは全体の5〜95%である。
【0127】
被覆膜の一部を除去する工程においては、特に限定されないが、被覆膜の一部を含む1つの平面を除去するのが好ましい。この場合、前記1つの平面は、基材に平行であってもよいし、垂直であってもよいし、適当な角度の傾斜を持っていてもよい。もちろん、これ以外の除去であってもよいことはいうまでもない。
本工程においては、特に、被覆膜の上端部を除去することが好ましい。中でも、鋳型として、縦断面が矩形のもの、たとえば矩形ライン構造、ホール構造、円柱構造等を採用した場合、その表面に設けられた被覆膜のうち、天面(本明細書において上面ということもある。)を含む上端部を除去することが好ましい。
具体例を挙げると、たとえば鋳型としてホール構造のものを用いる場合、該鋳型表面に被覆膜を形成し、その被覆膜の上端部を除去した後、鋳型を除去すると、基材上に、被覆膜の側壁部分のみが残る。その結果、ホールの内径と同じ外径のシリンダ形状の構造体が得られる。
また、たとえば鋳型として矩形ライン構造のものを用いる場合、該鋳型表面に被覆膜を形成し、その被覆膜の上端部を除去した後、鋳型を除去すると、基材上に、被覆膜の側壁部分のみが残る。その結果、該基材上に、ライン形状(幅が被覆膜の厚さであり、高さが、残った側壁部分の高さであるライン)の構造体が形成される。
また、上端部の除去する際、どの程度除去するかを調節することにより、形成される構造体の高さを調節することができる。たとえば被覆膜の上端部の除去量が多いほど、形成される構造体の高さが低くなり、より微細な構造体が得られる。
このように、被覆膜の上端部を除去し、被覆膜の側壁部分を利用する場合、鋳型として、それほど微細なものを用いなくとも、ナノレベルの構造体を容易に得ることができる。
【0128】
本発明においては、被覆膜の一部の除去と、前記鋳型の一部または全部の除去とを連続的に行ってもよく、同時に行ってもよい。たとえば、断面矩形の鋳型として縦断面が矩形のものを用いる場合、1回のエッチング処理により、被覆膜の天面の除去と、それに引き続いての、被覆膜の側壁上端部およびその内側の鋳型の一部または全部の除去とを行うことができる。
【0129】
上記のようにして、基材上に、被覆膜の一部または全部からなるナノ構造体、または被覆膜の一部または全部と、鋳型の一部とからなるナノ構造体が形成される。
【0130】
<ナノ構造体を内部に有する樹脂フィルムの製造>
次に、上記のようにして前記基材上に形成されたナノ構造体を、内部に有する樹脂フィルムを製造する。該方法としては、簡便で、ナノ構造体を損なうおそれが小さい、等の点から、前記ナノ構造体が形成された基材上に樹脂溶液を塗布して樹脂膜を形成し、該樹脂膜を前記基材から剥離することにより、前記ナノ構造体を内部に有する樹脂フィルムを製造する方法が好ましく用いられる。
前記樹脂溶液に用いられる樹脂としては、特に限定されず、一般的に膜の形成に用いられている樹脂を使用できる。該樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリスチレン、COC樹脂(サイバックス社製樹脂)、PMMA(アクリル樹脂)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等がある。該樹脂としては、特に、安全性、操作簡便性等に優れることから、水溶性樹脂が好ましい。
水溶性樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の高分子電解質、アガロース等の多糖系高分子、およびそれらの混合物等が挙げられる。
また、ポリビニルアルコールやPMMA等の透明性の高い樹脂を用いることにより、フィルムに透明性を付与することができる。
その他、ポリスチレン、COC樹脂を用いることにより、フィルムの製造工程において、フィルムを基板から再現性よく剥離することができる。
【0131】
具体的には、たとえば以下のようにして行うことができる。
まず、基材上に形成されたナノ構造体上に、樹脂溶液を塗布し、樹脂膜を形成する。
塗布方法は、特に限定されず、たとえばレジスト膜等を形成するために従来用いられている公知の方法に従って行うことができ、例えばスピンナー等により、上記樹脂溶液をナノ構造体上に塗布する方法、樹脂溶液中に該ナノ構造体を有する基材を浸漬する方法等が挙げられる。
樹脂膜の厚さとしては、ナノ構造体の高さと同程度、またはナノ構造体の上端部を覆う程度の高さが好ましい。
次いで、樹脂膜を、ナノ構造体を内部に有する状態のまま、基材から剥離する。該剥離の方法は、ナノ構造体が保持される手法であれば特に限定されるものではない。たとえば、ピンセット等により剥離してもよく、液体窒素に浸漬させて基板からフィルムを剥離させてもよい。
【0132】
上記の方法以外にも、たとえば、予め作製した樹脂フィルムに、基板を押し付けることにより、基板上のナノ構造体を樹脂フィルム内に埋め込む方法等が挙げられる。
【0133】
以下、本発明の製造方法(1)の好ましい実施形態を図面に沿って説明するが、これ以外の実施形態を排除するものでないことは言うまでもない。
「第1の実施形態」
図1に、第1の実施形態のフロー図を示す。
本実施形態では、まず、基材1上に矩形ライン構造の鋳型11を形成する(1−1)。次に、鋳型11の表面に触媒(金属微粒子)15を導入する(1−2)。そして、鋳型11の表面に無電解めっきを施し、金属層からなる被覆膜21を形成する(1−3)。次に、被覆膜21の上端部を、基材に対して平行な面で除去し、鋳型11を露出させる(1−4)。このとき、被覆膜21の上端部とともに、鋳型11の一部を除去してもよい。最後に、鋳型11を除去する。そうすると、被覆膜21の側壁部21aのみが基材1上に残る(1−5)。
次に、側壁部21aが形成された基材1上に、樹脂膜31を形成する(1−6)。次に、樹脂膜31を、その内部に側壁部21aを含んだ状態で基材1から剥離する(1−7)。
この結果、断面が矩形状であるライン状のナノ構造体を内部に有する樹脂フィルムを得ることができる。
【0134】
一方、被覆膜21を形成した後(1−3)、被覆膜21の上端部を除去することなく、樹脂膜31を形成することにより、断面がU字状であるライン状のナノ構造体を内部に有する樹脂フィルムを得ることができる。また、樹脂膜31を形成する前に鋳型11の一部または全部を除去してもよい。
【0135】
本実施形態においては、鋳型11の表面に被覆膜21を設ける工程で、被覆膜21の膜厚を制御することにより、得られる構造体の寸法を制御できる。そして、鋳型11の形状を適宜定めることにより、極めて微細な構造も製造可能となり、例えば、数ナノメートルから数十ナノメートルの幅の被覆膜で構成されるナノ構造体を得ることができ、また、その幅の制御も容易である。
さらに、本実施形態では、基材上に、高アスペクト比の構造物を形成できる。本実施形態においては、たとえばアスペクト比(高さ/幅)が5/1以上、さらには10/1以上の高アスペクト比で構造体を形成できる。アスペクト比の上限としては、(高さ/幅)300/1以下が好ましく、100/1以下がより好ましく、10/1以下が特に好ましい。
【0136】
なお、被覆膜21を被覆させる鋳型11は、必ずしも微細なものでなくともよく、例えばセンチメートルオーダーの構造物であってもよい。被覆膜21の形成条件と鋳型11の除去条件を適宜設定することにより、上記と同様、ナノ構造体を作製できる。すなわち、ナノメートルオーダーの幅をもつ構造体を作製できる。
【0137】
なお、上記実施形態では、被覆膜の上端部を除去する工程と、鋳型を完全に除去する工程とを別々に行っているが、これらを同時に行ってもよい。
上記実施形態では、鋳型を完全に除去しているが、一部を除去し、一部を残してもよい。
上記実施形態では、被覆膜の一部を除去した後、鋳型の除去を行っているが、被覆膜を除去する前に鋳型の一部または全部の除去を行ってもよい。このような場合、鋳型の除去は、溶出、焼成等により行うことができる。通常、無電解めっきにより形成される金属層は、有孔膜であるため、たとえば前述した溶出処理を行い、有機溶剤により鋳型を溶解させることにより鋳型を除去できる。
【0138】
本発明の第三の態様の構造体の製造方法(以下、本発明の製造方法(2)ということがある。)は、基材上にナノ金属構造体を形成する工程と、前記金属ナノ構造体が埋め込まれている樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜を前記基材から剥離する工程とを有し、
前記基材上にナノ金属構造体を形成する工程が、少なくとも、基材上に設けられた鋳型の表面に、無電解めっきにより形成される金属層を含む被覆膜を形成する工程と、前記被覆膜の一部を除去する工程とを有することを特徴とする。
本発明の製造方法(2)は、前記本発明の製造方法(1)における「鋳型除去工程」を必須とせず、「被覆膜の一部を除去する工程」を必須とする点で前記本発明の製造方法(1)と相違する。
本発明の製造方法(2)において、前記被覆膜を形成する工程、および被覆膜の一部を除去する工程は、それぞれ、前記本発明の製造方法(1)における「被覆膜形成工程」、および「被覆膜の一部を除去する工程」と同様にして行うことができる。
【0139】
本発明の製造方法(2)においては、前記被覆膜の一部を除去する前および/または後に、鋳型の一部または全部を除去する工程を行うことが好ましい。
本工程は、前記本発明の製造方法(1)における「鋳型除去工程」と同様にして行うことができる。
本発明の製造方法(2)においては、「鋳型除去工程」は必須の工程ではないが、該工程を行うことにより、より微細な構造体を得ることができる。
【0140】
前記本発明の製造方法(1)または(2)によれば、金属層を含むナノ構造体を内部に有する樹脂フィルムを製造できる。たとえば、基材上に、幅が数ナノメートルから数百ナノメートル程度の膜から構成されるナノ構造体、たとえば高さが5〜500nmで、幅が2〜100nmのナノ構造体、さらには、高さが10〜300nmで、幅が1〜50nmのナノ構造体を簡便に製造できるため、これらのナノ構造体を内部に有する樹脂フィルムを簡便に製造できる。
【0141】
≪異方性フィルムの製造方法により製造された異方性フィルム≫
本発明の第四の態様である異方性フィルムは、前記本発明の製造方法(1)または(2)により製造された異方性フィルムである。該異方性フィルム中のナノ構造体は、金属層を必ず有している。このため、ナノ構造体の異なる2以上の部分において、該ナノ構造体の金属層をフィルム表面に露呈させることにより、1の金属層が露呈された部位から、該ナノ構造体を媒体として、他の金属層が露呈された部位まで、熱や電気を特異的に伝導させることができる。なお、金属層が他の非導電性の化合物からなる層の内側に形成されている場合には、ナノ構造体の表面を適当に除去することにより、金属層を露呈させてもよい。
異方性フィルム内に配置されるナノ構造体の形状は、特に限定されない。具体例としては、たとえばライン状、シリンダ状、およびその他の3次元構造、ならびにそれらのネットワーク構造や複合構造、繰り返し構造等を採用することができる。
【0142】
例えば、ナノ構造体がライン状である場合には、本発明の第四の態様である異方性フィルムは、前記の本発明の第一の態様の異方性フィルムと同様の電気伝導度異方性または熱伝導度異方性を有する。
断面がU字形状のライン状のナノ構造体を有する異方性フィルムは、前記本発明の製造方法(1)または(2)において、矩形ライン状の鋳型を用い、該鋳型を被覆する被覆膜を形成することにより、製造することができる。該ナノ構造体の断面のU字の内周の高さは、鋳型の高さを調節することにより調節することができ、10〜1000nmであることが好ましく、50〜600nmであることがより好ましい。また、断面のU字の内周の幅は、鋳型の幅を調節することにより調節することができ、10〜100nmであることが好ましく、30〜50nmであることがより好ましい。さらに、断面のU字の内周と外周との幅は、被覆膜の厚みを調節することにより調節することができ、10〜100nmであることが好ましく、50〜70nmであることがより好ましい。
一方、断面が矩形状のライン状のナノ構造体を有する異方性フィルムは、前記本発明の製造方法(1)または(2)において、矩形ライン状の鋳型を用い、該鋳型を被覆する被覆膜の上端部を除去することにより製造できる。該ナノ構造体の断面の矩形の高さは、鋳型の高さ、被覆膜の上端部の除去量等を調節することにより調節でき、10〜1000nmであることが好ましく、50〜600nmであることがより好ましい。また、断面の矩形の幅は、被覆膜の厚さを調節することにより調節でき、10〜100nmであることが好ましく、50〜70nmであることがより好ましい。
【0143】
一方、ナノ構造体がシリンダ状であり、樹脂フィルム内に林立しているナノ構造体の上部面と下部面の金属層を、樹脂フィルムの両表面にそれぞれ露呈させることにより、熱や電気を、ナノ構造体の上部面から下部面、または下部面から上部面に対してのみ伝導させることができる。このため、シリンダ状ナノ構造体が樹脂フィルム内に林立している異方性フィルムは、樹脂フィルム面に対して垂直方向にのみ導電性や熱伝導性を持ち、フィルム面に対して平行方向には導電性や熱伝導性を持たないという優れた異方性を有する。
その他、シリンダ状ナノ構造体を、樹脂フィルム内に並列に林立させる等、規則正しく配置することにより、様々な光学特性や磁気特性を有する異方性フィルムとすることができる。
例えば、表面に金属層を有するシリンダ状ナノ構造体を、樹脂フィルム中に並列等の規則的に配置した場合には、発光デバイスやバイオセンサ等の光学素子として応用し得る。ナノ構造体が樹脂フィルム中の微細領域に規則的に配置されることにより、表面プラズモン共鳴効果が得られるためと推察される。
また、異方性フィルム中に配置するナノ構造体を、ニッケル等の磁気特性を有する材料からなるナノ構造体とすることにより、磁気特性を有する異方性フィルムを得ることができる。
さらに、金属層が表面にないシリンダ状ナノ構造体を、樹脂フィルム中に並列等の規則的に配置した場合であっても、偏光素子として応用し得る。ナノ構造体により、樹脂フィルム中に適度な凹凸が得られるためと推察される。
シリンダ状ナノ構造体を有する異方性フィルムは、前記本発明の製造方法(1)または(2)において、ホールまたは柱状の鋳型を用い、該鋳型を被覆する被覆膜の上端部(天面を含む)を除去することにより製造できる。該シリンダ状ナノ構造体の幅は、鋳型の高さ、被覆膜の上端部の除去量等を調節することにより調節でき、100〜1000nmであることが好ましく、200〜500nmであることがより好ましい。また、該シリンダ状ナノ構造体の厚さは、被覆膜の厚さを調節することにより調節でき、10〜100nmであることが好ましく、50〜 70nmであることがより好ましい。
【0144】
本発明の異方性フィルム、および本発明の異方性フィルムの製造方法により製造される異方性フィルムは、樹脂フィルム中に、導電性または熱伝導性等の物理的性質の異方性を付与し得るナノ構造体を有するフィルムである。例えば、熱や電気は、該ナノ構造体中のみを伝導するため、本発明の異方性フィルムは、熱や電気を、該ナノ構造体の配置に応じたある特定方向にのみ伝達し得るという優れた異方性を有している。また、該ナノ構造体は非常に微細な構造体であるため、樹脂フィルムの透明性を損なうおそれが小さく、また、樹脂フィルムに過度の剛性を付与せず、加工性や取り扱い性にも優れている。例えば、本発明の異方性フィルムは、樹脂フィルムの切断等に通常用いられる方法により、所望の大きさや形状に簡便に切断または変形することが可能である。
すなわち、本発明の異方性フィルム、および本発明の異方性フィルムの製造方法により製造される異方性フィルムは、非常に優れた異方性と加工性を有しているため、フレキシブルシースルー太陽電池用電極、フレキシブルシースルーディスプレイ用電極等の微小電極や、熱・電気などで膨潤収縮するアクチュエーターフィルム等に応用することができる。
【実施例】
【0145】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0146】
(実施例1:ライン状の金ナノ構造体が並列に配置されている異方性フィルムの製造)
まず、リソグラフィー法により幅約400nm、高さ約700nmの矩形ライン構造が形成された有機レジスト(東京応化工業社製、商品名:TDUR−P015 PM)を持つシリコンウェハ基板に、酸素プラズマ処理(パワー10W、圧力24Pa、処理時間3分)を施して鋳型のサイズを幅約200nm高さ約350nmに縮小するとともに、鋳型の表面を活性化させた。
次に、20mlの塩化スズ水溶液(0.022M)に2分間浸漬した後、脱イオン水で2回洗浄し、窒素ガス気流で乾燥した。ついで、該基板を20mlの塩化パラジウム水溶液(0.0015M)に5分間浸漬後、脱イオン水で2回洗浄し、窒素ガス気流で基板を乾燥した。この一連の操作を1回行った後、塩化ニッケル(0.126M)とクエン酸ナトリウム(0.034M)を含む混合水溶液1mlに、1mlのジメチルアミンボラン水溶液(0.1M)を加え、60℃に加熱し、先の操作で調整した基板を15秒間浸漬し、ニッケル無電解めっきを行った。
さらに、シアン化金酸カリウム(0.024M)を含む金置換めっき水溶液(日立化成、商品名:HSG−500、水:HGS−500=9:1)を60℃に加熱し、ニッケル無電解めっきされた基板を先の溶液に10分間浸漬し、金の置換めっきを行った。この金置換めっきされた基板に対して、RIE装置を用いて、アルゴンガスと4フッ化炭素ガスによるエッチング処理(ガス流量アルゴンガス:30sccm、4フッ化炭素ガス:5sccm、圧力10pa、パワー100W、処理時間5分)を行い、金薄膜の上面部分を除去した。続いてこの基板を硝酸水溶液(10%)に5分間浸漬して、ニッケルを除去した。次に酸素プラズマ処理(パワー10W、圧力24Pa、処理時間8分)を施して鋳型を除去した。以上の操作で金薄膜の側面部分からなるライン状の金ナノ構造体(金ナノライン構造体)を得た。
この金ナノライン構造体を有する基板に、0.1mlのポリビニルアルコール水溶液(10wt%)を滴下し乾燥した。乾燥後、基板を液体窒素に浸漬し、凍結してポリビニルアルコールフィルムを基板から剥離した。その結果、金ナノライン構造体がポリビニルアルコール中に並列に配置されているフィルムが得られた。
【0147】
図2は、得られた金ナノライン構造体包含フィルムを走査型電子顕微鏡にて観察した結果を示した図である。図中、左上図は部分拡大図である。断面の矩形の幅約30nm、高さ約350nmの金ナノライン構造体がポリビニルアルコールフィルム中にほぼ並列に配置されて埋め込まれていることが認められた。
【0148】
次に、得られた金ナノライン構造体包含フィルムの導電性を常法により測定した。具体的には、数mm四方程度の大きさに切り取った金ナノライン構造体包含フィルムの両端に金ペーストを塗布し、金線を接続した。該金線とポテンショスタットを接続した後、−3〜3Vの範囲を50mV/secのスピードでスイープすることにより、導電性を測定した。
図3は、金ナノライン構造体包含フィルムの、金ナノライン構造体と平行な方向と、垂直な方向の導電性を測定した結果を示した図である。この結果から、得られた金ナノライン構造体包含フィルムは、金ナノライン構造と並行な方向は導電性を示すが、ナノライン構造と垂直な方向には導電性を示さず、優れた電気伝導度異方性を有していること示された。
【0149】
(実施例2:ライン状の金ナノ構造体が並列に配置されている異方性フィルムの製造)
まず、リソグラフィー法により幅約5μm、高さ約500nmの矩形ライン構造が形成された有機レジスト(東京応化工業社製、商品名:TCIR−ZR9000 PB)を持つシリコンウェハ基板に、酸素プラズマ処理(パワー10W、圧力24Pa、処理時間3秒)を施して鋳型の表面を活性化させた。
次に、20mlの塩化スズ水溶液(0.022M)に2分間浸漬した後、脱イオン水で2回洗浄し、窒素ガス気流で乾燥した。ついで、該基板を20mlの塩化パラジウム水溶液(0.0015M)に5分間浸漬後、脱イオン水で2回洗浄し、窒素ガス気流で基板を乾燥した。この一連の操作を1回行った。次に、塩化ニッケル(0.126M)とクエン酸ナトリウム(0.034M)を含む混合水溶液1mlに、1mlのジメチルアミンボラン水溶液(0.1M)を加え、60℃に加熱し、先の操作で調整した基板を15秒間浸漬し、ニッケル無電解めっきを行った。
さらに、シアン化金酸カリウム(0.024M)を含む金置換めっき水溶液(日立化成、商品名:HSG−500、水:HGS−500=9:1)を60℃に加熱し、ニッケル無電解めっきされた基板を先の溶液に10分間浸漬し、金の置換めっきを行った。この金置換めっきされた基板に対して、RIE装置を用いて、アルゴンガスと4フッ化炭素ガスによるエッチング処理(ガス流量アルゴンガス:30sccm、4フッ化炭素ガス:5sccm、圧力10pa、パワー100W、処理時間5分)を行い、金薄膜の上面部分を除去した。続いてこの基板を硝酸水溶液(10%)に5分間浸漬して、ニッケルを除去した。次に酸素プラズマ処理(パワー10W、圧力24Pa、処理時間8分)を施して鋳型を除去した。以上の操作で金薄膜の側面部分からなるライン状の金ナノ構造体(金ナノライン構造体)を得た。
この金ナノライン構造体を有する基板を、インプリント装置(Scivax社製、商品名:X−200)を用いて樹脂フィルム(Scivax社製、商品名:COP)に、金型・基板成形温度;150℃、成形圧力;3MPa、成形保持時間;10秒、金型・基板離型温度;40℃の各条件でおしつけた。その結果、金ナノライン構造体が樹脂フィルム中に埋め込まれた金ナノライン構造体包含フィルムが得られた。
【0150】
図4は、得られた金ナノライン構造体包含フィルムを走査型電子顕微鏡にて観察した結果を示した図である。断面の矩形の幅約30nm、高さ約400nmの金ナノライン構造体が樹脂フィルム中に埋め込まれていることが認められた。
【0151】
(実施例3:ライン状の銀ナノ構造体が並列に配置されている異方性フィルムの製造)
まず、リソグラフィー法により幅約5μm、高さ約500nmの矩形ライン構造が形成された有機レジスト(東京応化工業社製、商品名:TCIR−ZR9000 PB)を持つシリコンウェハ基板に、酸素プラズマ処理(パワー10W、圧力24Pa、処理時間3秒)を施して鋳型の表面を活性化させた。
次に、10mlの硝酸銀水溶液(1M)に5分間浸漬した後、脱イオン水に1分間浸漬し、窒素ガス気流で乾燥した。ついで、該基板を10mlの水素化ホウ素ナトリウム水溶液(10mM)に1分間浸漬後、脱イオン水に1分間浸漬し、窒素ガス気流で基板を乾燥した。この一連の操作を3回行った。
次に、5mlの硝酸銀水溶液(0.15M)にアンモニア水(0.2M)を茶色沈殿が消失するまで(約5ml)加え、硝酸銀/アンモニア混合水溶液を作成した。この溶液1mlにグルコース溶液(水:メタノール=7:3、0.7g/l)を1ml混合し、先の操作で作成した基板を5分間浸漬し、銀無電解めっきを行った。この銀めっきされた基板を、アセトンに5分浸漬して鋳型を除去した後、RIE装置を用いて、アルゴンガスと4フッ化炭素ガスによるエッチング処理(ガス流量アルゴンガス:30sccm、4フッ化炭素ガス:5sccm、圧力10pa、パワー100W、処理時間20分)を行い、銀薄膜の上面部分を除去した。以上の操作で銀薄膜の側面部分からなるライン状の銀ナノ構造体(銀ナノライン構造体)を得た。
この銀ナノライン構造体を有する基板を、インプリント装置(Scivax社製、商品名:X−200)を用いて樹脂フィルム(Scivax社製、商品名:COP)に金型・基板成形温度;150℃、成形圧力;3MPa、成形保持時間;10秒、金型・基板離型温度;40℃の各条件でおしつけた。その結果、銀ナノライン構造体が樹脂フィルム中に埋め込まれた銀ナノライン構造体包含フィルムが得られた。
【0152】
図5は、得られた銀ナノライン構造体包含フィルムを走査型電子顕微鏡にて観察した結果を示した図である。断面の矩形の幅約50nm、高さ約400nmの銀ナノライン構造体が樹脂フィルム中に埋め込まれていることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す概略図である。
【図2】実施例1において得られた金ナノライン構造体包含フィルムの走査型電子顕微鏡像である。図中、左上図は部分拡大図である。
【図3】実施例1において得られた金ナノライン構造体包含フィルムの導電性を測定した結果を示した図である。図中実線が、金ナノライン構造体と平行な方向の測定結果であり、点線が、金ナノライン構造体と垂直な方向の測定結果である。
【図4】実施例2において得られた金ナノライン構造体包含フィルムの走査型電子顕微鏡像である。
【図5】実施例3において得られた銀ナノライン構造体包含フィルムの走査型電子顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0154】
1…基材、11…鋳型、21…被覆膜、31…樹脂膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライン状のナノ構造体が、樹脂フィルム内に配置されていることを特徴とする異方性フィルム。
【請求項2】
電気伝導度異方性または熱伝導度異方性を有する請求項1記載の異方性フィルム。
【請求項3】
基材上にナノ金属構造体を形成する工程と、前記金属ナノ構造体が埋め込まれている樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜を前記基材から剥離する工程とを有し、
前記基材上にナノ金属構造体を形成する工程が、少なくとも、基材上に設けられた鋳型の表面に、無電解めっきにより形成される金属層を含む被覆膜を形成する工程と、前記被覆膜の一部または全部を残したまま、前記鋳型の一部または全部を除去する工程とを有することを特徴とする異方性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ナノ金属構造体を形成する工程において、前記鋳型の一部または全部を除去する前に、前記被覆膜の一部を除去する工程を行う請求項3に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ナノ金属構造体を形成する工程において、前記鋳型の一部または全部を除去した後に、前記被覆膜の一部を除去する工程を行う請求項3に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ナノ金属構造体を形成する工程において、前記鋳型の一部を除去した後に、前記被覆膜の一部を除去する工程を行う請求項5に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ナノ金属構造体を形成する工程において、前記除去される被覆膜の一部が、前記被覆膜の上端部である請求項3〜6のいずれか一項に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項8】
基材上にナノ金属構造体を形成する工程と、前記金属ナノ構造体が埋め込まれている樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜を前記基材から剥離する工程とを有し、
前記基材上にナノ金属構造体を形成する工程が、少なくとも、基材上に設けられた鋳型の表面に、無電解めっきにより形成される金属層を含む被覆膜を形成する工程と、前記被覆膜の一部を除去する工程とを有することを特徴とする異方性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記除去される被覆膜の一部が、前記被覆膜の上端部である請求項8に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ナノ金属構造体を形成する工程において、前記被覆膜の一部を除去する前および/または後に、鋳型の一部または全部を除去する工程を行う請求項8または9に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記ナノ金属構造体を形成する工程において、前記鋳型の表面に、無電解めっきにおける触媒を導入した後、前記無電解めっきを行う請求項3〜10のいずれか一項に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記ナノ金属構造体を形成する工程において、前記金属層を形成する前に、前記鋳型の表面に親水化処理を施す請求項3〜11のいずれか一項に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記親水化処理が酸素プラズマ処理である請求項12に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記樹脂膜を形成する工程が、前記基材上に樹脂溶液を塗布して、前記金属ナノ構造体が埋め込まれている樹脂膜を形成する工程である請求項3〜13のいずれか一項に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記金属層を構成する金属が金または銀である請求項3〜14のいずれか一項に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記鋳型が、分子量500以上の有機化合物を含有する鋳型形成用材料からなるものである請求項3〜15のいずれか一項に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記鋳型形成用材料がレジスト組成物である請求項16に記載の異方性フィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項3〜17のいずれか一項に記載の異方性フィルムの製造方法により製造される異方性フィルム。
【請求項19】
電気伝導度異方性または熱伝導度異方性を有する請求項18記載の異方性フィルム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−57518(P2009−57518A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227934(P2007−227934)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】