説明

異方性色素膜用組成物、異方性色素膜及び偏光素子

【課題】高い二色比を有する異方性色素膜を得る。
【解決手段】電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有する異方性色素膜用組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光素子や液晶素子(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)の表示素子に具備される偏光板等に有用な、高い二色比を有する異方性色素膜と、その異方性色素膜を得ることが可能な異方性色素膜用組成物、並びにその異方性色素膜を用いた偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDでは、表示における旋光性や複屈折性を制御するために、直線偏光板や円偏光板が用いられている。OLEDにおいても、外光の反射防止のために、円偏光板が使用されている。従来、これらの偏光板(偏光素子)には、ヨウ素が二色性物質として広く使用されてきた。しかしながら、ヨウ素は昇華性が大きいために、偏光素子に使用した場合、その耐熱性と耐光性が十分ではなく、また偏光特性が経時劣化するという欠点があった。
【0003】
そのため、例えば特許文献1や非特許文献1,2に記載されるように、有機系の色素を二色性物質(二色性色素)として使用した偏光素子が検討されている。
【0004】
これら文献に記載された二色性色素は、水やアルコールなどの溶媒中でリオトロピック液晶相を形成し、配向基板や流動場、電場、磁場などの外場により容易に配向させることが可能である。例えば、Brilliant Yellow(CI−364)を用いると正の二色性色素膜、Methylene Blue(CI−922)やAmaranth(CI−184)を用いると負の二色性色素膜を得られることが知られている。しかし、得られる二色性色素膜の二色性が低いという欠点があった。文献にも記載されているような液晶特有のシュリーレン欠陥や乾燥時に生じる乾燥歪による欠陥のため二色性が低下するという課題もあるが、仮に液晶が完全に配向したとしても更に大きな課題が残されていた。
【0005】
理想的には、正の二色性色素膜であれば液晶の配向軸と色素の吸収軸は完全に一致していること、一方、負の二色性色素膜であれば液晶の配向軸と色素の吸収軸は完全に垂直であることが望ましい。液晶の配向軸は溶媒中の会合体長軸の平均的な方向に一致するが、会合体長軸と色素の吸収軸を一致させる、もしくは、完全に垂直にするのは以下の理由で困難であった。
【0006】
非特許文献3に記載されているように、溶媒中の色素が会合する主たる要因は、芳香環同士の相互作用によるものである。
【0007】
非特許文献4,5に記載されているように、こうした芳香環同士は、π電子の静電斥力のため環が垂直に積み上がることはなく、ずれて積み重なる方が安定である。水溶液中であれば、溶媒である水と疎水的な芳香環との接触面積を減らすために垂直に積み上がった方がエネルギー的に安定となる可能性はあるが、溶媒を乾燥除去した異方性膜においてはこうした効果は期待できない。
【0008】
そのため、会合体の長軸と色素分子面とは、垂直になるのでも平行になるのでもなく、その中間的な状態を取り易い。会合体の長軸と色素分子面の法線とのなす角をαとすると、45°<α≦90°であれば正の二色性色素膜、0°≦α<45°であれば負の二色性色素膜となるが、αの値が0°又は90°になるのは困難で、0°から90°の間の値をとるのが通常であった。これにより、これまでの二色性色素膜の配向軸に平行な偏光を入射しても、垂直な偏光を入射しても有限の吸収を持つため、理想的な二色性色素膜にはならなかった。
【0009】
この課題に対して、非特許文献6に記載されているように、ヨウ素を配合することで芳香環の会合のずれを是正する試みがなされたが、その効果が不十分であるとともに、従来からのヨウ素型偏光板と同じ欠点を持つという課題があった。
【0010】
【特許文献1】米国特許第2400877号明細書
【非特許文献1】"The Fixing of Molecular Orientation", J. F. Dreyer, Physical and Colloid Chemistry, 1948年, Vol.52, p.808
【非特許文献2】"Light Polarization from Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals", J. F. Dreyer, Journal de Physique, 1969年, Vol.4, p.114
【非特許文献3】"Chromonic Liquid Crystal Phases", J. Lydon, Current Opinion in Colloid & Interface Science, 1998年, Vol.3, p.458-466
【非特許文献4】"The Nature of π-π Interactions", C. A. Hunter, et al., Journal of the American Chemical Society, 1990年, Vol.112, p.5525
【非特許文献5】"Aromatic Interactions", C. A. Hunter, et al., Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 2, 2001年, p.651
【非特許文献6】"Tetra(tert-butyl)phthalocyanine Cooper-Iodine Complex Film with Large Dichroism Induced by Shear", H. Tanaka, et al., Journal of the Chemical Society, Chemical Communications, 1994年, p.1851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明は、高い二色比を有する異方性色素膜と、その異方性色素膜を得ることが可能な異方性色素膜用組成物、並びにその異方性色素膜を用いた偏光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意検討の結果、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有する組成物を用いることにより、或いはこれらの化合物を異方性色素膜に含有させることにより、高い二色比の異方性色素膜が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明の第1の要旨は、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有することを特徴とする、異方性色素膜用組成物に存する(請求項1)。
【0014】
ここで、前記の電子リッチである(Electron-Rich)化合物が色素であることが好ましい(請求項2)。
【0015】
この場合、該色素がアゾ系色素であることが好ましい(請求項3)。
【0016】
また、前記の電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物が、芳香族系化合物又はアザ複素環式化合物であることが好ましい(請求項4)。
【0017】
また、前記の電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物が、アントラキノン誘導体又はアントラキノン誘導体を部分構造として含むアゾ色素であることも好ましい(請求項5)。
【0018】
また、更に溶剤を含有することが好ましい(請求項6)。
【0019】
また、本発明の第2の要旨は、上述の第1の要旨に係る異方性色素膜用組成物を用いて形成されたことを特徴とする、異方性色素膜に存する(請求項7)。
【0020】
また、本発明の第3の要旨は、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有することを特徴とする、異方性色素膜に存する(請求項8)。
【0021】
また、本発明の第4の要旨は、970cm-1近辺にあるSO3伸縮振動に対する下記の(i)及び(ii)の方向からの偏光吸収の比から求めたチルト角が10°以下であることを特徴とする、異方性色素膜に存する(請求項9)。
(i)可視光を最も吸収する方向
(ii)可視光を最も透過する方向
【0022】
また、本発明の第5の要旨は、800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する下記の(i)及び(ii)の方向からの偏光吸収の比YY/YZの値が1.8以上であることを特徴とする、異方性色素膜に存する(請求項10)。
(i)可視光を最も吸収する方向
(ii)可視光を最も透過する方向
【0023】
また、本発明の第6の要旨は、上述の第2〜5の要旨に係る異方性色素膜を用いたことを特徴とする、偏光素子に存する(請求項11)。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有する組成物を用いることにより、或いはこれらの化合物を異方性色素膜に含有させることにより、高い二色比の異方性色素膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0026】
なお、本明細書において「異方性色素膜」とは、色素膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する色素膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜などがある。すなわち、本発明は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜に用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。
【0027】
[I.電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物]
まず、本発明の異方性色素膜用組成物及び異方性色素膜に用いられる、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物について説明する。なお、以下の記載では、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を「本発明の異方性色素膜用材料」或いは「本発明の材料」という場合がある。
【0028】
なお、本発明における「電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物」には、電子不足である(Electron-Deficient)盤状部分構造を有する色素も含まれる。なお、以下の記載では、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を「本発明の異方性色素膜用色素」或いは「本発明の色素」という場合がある。
【0029】
〔I−1.電子不足である盤状化合物(本発明の異方性色素膜用材料)〕
本明細書において「電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物」とは、例えば参考文献1("An Electron-Deficient Discotic Liquid-Crystalline Material", K. Pieterse, et al., Chemistry of Materials, 2001年, Vol.13, p.2675)に記載されているような、比較的大きな電子親和力を有し、好ましくはベンゼンよりも大きい−20×10-40Cm2以上の四重極子モーメントQzz、更に好ましくは正の四重極子モーメントQzzを持つ盤状部分構造を有する化合物のことを言う。ここでzは、盤状化合物の分子面に垂直な座標軸を表わす。
【0030】
四重極子モーメント(Quadrupole Moment)は、分子重心からの相対位置r=(x,y,z)の電荷密度ρから、以下の体積積分で表わされるテンソル量である。
【0031】
【数1】

【0032】
ベンゼンのように、分子がzに対して軸対称な場合は、一軸性四重極子という。その強さは、以下の式で表されるスカラー量Qとなり、上記テンソル量のzz成分Qzzと一致する。
【0033】
【数2】

【0034】
z方向に積み重なった盤状分子間の静電相互作用は、zz成分の値Qzzの影響を強く受ける。下記表1に代表的な盤状分子のQzzを示す。こうした四重極子モーメントの値は、例えば、下記参考文献2〜6等に記載されている量子力学的計算や、下記参考文献7等に記載されている方法により測定できる。
【0035】
【表1】

【0036】
参考文献2:"The Molecular Electric Quadrupole Moment and Solid-State Architecture", J. H. Williams, Acc. Chem. Res., 1993年, Vol.26, p.593.
参考文献3:"The electric structure of the azabenzenes an AB initio MO-SCF-LCAO study", J. Almlof et al., J. Electron Spectroscopy and Related Phenomena, 1973年, Vol.2, p.51.
参考文献4:"Multiple contributions to potentials of mean torque for solutes dissolved in liquid crystal solvents", J. W. Emsley et al., Liquid Crystals, 1991年, Vol.9, p.649.
参考文献5:"The Molecular Zeeman Effect", D. H. Sutter, W. H. Flygare, Topics in Current Chemistry, 1976年, Vol.63, p.89.
参考文献6:"Quadrupole Moment Calculations for Some Aromatic Hydrocarbons", A. Chablo et.al., Chemical Physics Letters, 1981年, Vol.78, p.424.
参考文献7:A. D. Buckingham, Advances in Chemical Physics, 1967年, Vol.12, p.107.
【0037】
上記表1に示されるように、ベンゼン等の電子リッチである(Electron-Rich)盤状化合物は、負の四重極子モーメントを持つのに対して、ヘキサフルオロベンゼンやアントラキノン等の電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物は、正の四重極子モーメントを持つことが知られている。
【0038】
更に、参考文献8("Computer Simulation Studies of Anisotropic Systems XXIX. Quadrupolar Gay-Berne Discs and Chemically Induced Liquid Crystal Phases", M. A. Bates, et al., Liquid Crystals, 1998年, Vol.24(2), p.229)に記載されているように、符号の異なる四重極子モーメントを持つ盤状化合物が近接すると、ずれ無く互いに平行に会合することが安定であることが知られている。
【0039】
比較的分子量の高い縮合多環化合物のように、電荷分布の複雑な化合物では、こうした化合物全体の四重極子モーメント相互作用で考えるのは必ずしも正確ではないが、参考文献9("Complementary Polytopic Interactions (CPI) as Revealed by Molecular Modelling using the XED Force Field", O. R. Lozman, et al., Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 2, 2001年, p.1446)に記載されているように、化合物の各部位の四重極子モーメント相互作用の総和で考えることができると考えられる。
【0040】
上述のように、本発明では、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を異方性色素膜用材料として用いることで、π電子の静電斥力を抑制し、ずれ無く垂直に積み重なった会合体を得ることが可能になる。これにより、会合体の長軸と色素分子面法線とのなす角度αを0°に近づけることができ、理想的な二色性色素膜を得ることができると考えられる。
【0041】
本発明の材料として使用できる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物の例としては、電子親和性の高い置換基を有する芳香族系化合物又はアザ複素環式化合物などが挙げられる。
【0042】
芳香族系化合物の例としては、ベンゼン類(パーフルオロベンゼン、ベンゾキノン、シアノベンゼン、ニトロベンゼン、フタルイミド、シアノキノメタン等)、ナフタレン類(パーフルオロナフタレン、ナフトキノン、シアノナフタレン、ニトロナフタレン、シアノナフトキノメタン等)、アントラセン類(アントラキノン等)、フルオレン類(ニトロフルオレノン等)、ペリレン類(ペリレンジイミド等)、等が挙げられる。
【0043】
アザ複素環式化合物の例としては、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、1,3,5−トリアジン、インドール、イソインドール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン等が挙げられる。
【0044】
電子親和性の高い置換基の例としては、オキソ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、スルホ基、カルボキシ基、スルホ基又はカルボキシ基のアルカリ金属(ナトリウム等)塩或いはアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0045】
電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物の例としては、上に例示した電子親和性の高い置換基を一つ又は二つ以上有する芳香族系化合物やアザ複素環式化合物から誘導される環構造を一又は二以上有する化合物が挙げられる。
【0046】
電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物は、一分子中に、電子親和性の高い置換基を一又は二以上有する芳香族系化合物やアザ複素環式化合物から誘導される環構造を部分構造として、好ましくは33モル%以上、さらには50モル%以上有する化合物であることが好ましい。
【0047】
ここで、本発明において、一分子中における該環構造(部分構造)のモル%は、一分子中における該環構造の数から算出する。
例えば、以下の化合物の場合、一分子中に環構造が1つであり、この1つの環構造が電子親和性の高い置換基を有するため、一分子中における該環構造のモル%は、100モル%である。
【0048】
【化1】

【0049】
また、以下の化合物の場合、一分子中に環構造が3つあり、2つの環(両端のキノリン環)がアザ複素環式化合物であることから、一分子中における該環構造のモル%は、67モル%(2/3)である。
【0050】
【化2】

【0051】
尚、異なる構造を有する化合物であって、一分子中における該環構造のモル%が等しい化合物については、さらに、上記四重極子モーメントの値によってその電子不足の度合いが決められる。
【0052】
なお、本発明の材料として用いられる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物は色素であってもよい。
【0053】
なお、本発明の材料は、湿式成膜法により異方性色素膜を製造する際に溶剤を用いることから、後述する溶剤に対して0.1%以上の溶解性を持つことが好ましい。
【0054】
本発明の材料として用いられる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物が色素である場合、その色素は、電子不足である(Electron-Deficient)盤状部分構造を有することを特徴とする。
【0055】
本明細書において「電子不足である(Electron-Deficient)盤状部分構造」とは、上述の〔I−1.本発明の異方性色素膜用材料〕の欄で説明した「電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物」と同様に、比較的大きな電子親和力を有し、負の四重極子モーメントを持つ部分構造を意味する。即ち、本発明の色素はこのような部分構造を一分子内に有する色素である。
【0056】
電子不足である(Electron-Deficient)盤状部分構造の例としては、上記に例示した芳香族系化合物又はアザ複素環式化合物に由来する部分構造や、同じく上記に例示した電子親和性の高い置換基等が挙げられる。
【0057】
本発明の材料として使用できる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物(電子不足である(Electron-Deficient)盤状部分構造を有する色素を含む)の好ましい具体例としては、下記式によって表わされる化合物が挙げられる。但し、本発明の材料として使用できる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物は、これらの例に限定されるものではない。
【0058】
尚、下記式によって表される電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物は、遊離酸型で例示する。電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物は、遊離酸型のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、有機アミンの塩などが挙げられる。有機アミンの例としては、炭素数1〜6の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン、カルボキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず、複数種混在していてもよい。
【0059】
【化3】

【0060】
【化4】

【化5】

【0061】
【化6】

【化7】

【化8】

【0062】
【化9】

【化10】

【化11】

【0063】
下記構造式で表わされる化合物であって、A1、B1、B2、D1がそれぞれ以下の群から選ばれるもの。
【0064】
【化12】

【0065】
【化13】

【0066】
【化14】

【0067】
【化15】

【0068】
【化16】

【化17】

【0069】
上記例示の化合物のうち、光学異性等の立体異性を生じるものについては、何れの異性体もその例示に含まれるものとする。
【0070】
なお、上記化合物は、後述の溶剤に対して1重量%以上の溶解性を持つことが好ましく、また、1〜50重量%の何れかの濃度域でリオトロピック液晶相を形成する化合物であることが好ましい。
【0071】
また、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物の中でも、アントラキノン誘導体又はアントラキノン誘導体を部分構造として含むアゾ色素が、得られる膜の二色性の点からも好ましい。
【0072】
[II.異方性色素膜用組成物]
本発明の異方性色素膜用組成物は、異方性色素膜を形成するために用いられる組成物であって、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有する。更に、通常は溶媒と、必要に応じてその他の成分を含有する。
【0073】
(i)溶剤:
溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤、水と水混和性のある有機溶剤との混合溶剤などが挙げられる。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等が挙げられる。これらの溶剤は何れか一種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0074】
(ii)電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物:
電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物としては、上述した電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物が用いられる。電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物は何れか一種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0075】
本発明の組成物における電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物の割合は、組成物全体を100重量部とした場合に、通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは40重量部以下の範囲である。本発明の材料の割合がこの範囲の下限を下回ると、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物の使用による効果が得られないおそれがあり、この範囲の上限を上回ると、組成物の溶液としての粘度が高くなってしまい、扱いにくくなるおそれがあるので好ましくない。
【0076】
(iii)電子リッチである(Electron-Rich)化合物(色素):
本発明の組成物は、電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有するが、この電子リッチである(Electron-Rich)化合物は、通常は色素である(これを以下「電子リッチである(Electron-Rich)色素」という場合がある)。電子リッチである(Electron-Rich)色素とは、上述の参考文献1に記載の通り、比較的小さなイオン化ポテンシャルを有し、−20×10-40Cm2未満の四重極子モーメントQzzを持つ盤状部分構造を50モル%以上含む色素のことを言う。なお、四重極子モーメントQzzにつては上述した通りである。
【0077】
本発明の組成物に用いられる電子リッチである(Electron-Rich)色素の例としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、縮合多環系色素(ペリレン系、オキサジン系)等が挙げられる。中でも、アルキル基、アルコキシ基、スルホン基、アミノ基等で置換されたベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素からなるアゾ色素、ポルフィリン、フタロシアニンなどが好ましく、特にアゾ系色素が好ましい。
【0078】
本発明の組成物に用いられる電子リッチである(Electron-Rich)色素の好ましい具体例としては、下記式で表わされる色素が挙げられる(なお、これらの式は全て遊離酸型で示している)。但し、本発明の組成物に使用できる電子リッチである(Electron-Rich)色素は、これらの例に限定されるものではない。
【0079】
【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【0080】
上記例示の電子リッチである(Electron-Rich)色素のうち、光学異性等の立体異性を生じるものについては、何れの異性体もその例示に含まれるものとする。
【0081】
上記例示の電子リッチである(Electron-Rich)色素は何れか一種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0082】
なお、本発明の組成物に用いられる電子リッチである(Electron-Rich)色素は、上述の溶剤に対して通常0.1%以上、特に1%以上の溶解性を持つことが好ましく、また、0.1〜50%のいずれかの濃度域でリオトロピック液晶相を形成する化合物であることが好ましい。
【0083】
電子リッチである(Electron-Rich)色素の分子量は、色調及び製造面の観点から、塩型をとらない遊離の状態で、通常200以上、中でも350以上、また、通常5000以下、中でも3500以下の範囲であることが好ましい。
【0084】
電子リッチである(Electron-Rich)色素は遊離酸型のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。また、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。更に、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してから使用してもよい。
【0085】
前記の塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、有機アミンの塩などが挙げられる。有機アミンの例としては、炭素数1〜6の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン、カルボキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず、複数種混在していてもよい。
【0086】
本発明の組成物における電子リッチである(Electron-Rich)色素の割合は、組成物全体を100重量部とした場合に、通常50重量部以下、好ましくは40重量部以下の範囲である。色素の割合がこの範囲を上回ると、得られる組成物の溶液の粘度が高くなってしまい、扱いにくくなるおそれがあるので好ましくない。
【0087】
また、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物と電子リッチである(Electron-Rich)色素との重量分率は、通常10/90〜90/10の範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物又は電子リッチである(Electron-Rich)色素の使用による効果が得られないおそれがあるため好ましくない。
【0088】
(iv)その他の成分:
本発明の組成物は、上述した溶剤、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物、及び電子リッチである(Electron-Rich)色素の他に、その他の成分を含有していてもよい。
【0089】
例えば、後述の湿式成膜法等において、本発明の組成物を色素膜形成用溶液として基材に塗布する場合には、基材への濡れ性、塗布性を向上させるため、必要に応じて、界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の何れも使用可能である。本発明の組成物における界面活性剤の濃度は通常0.05重量%以上、0.5重量%以下が好ましい。
【0090】
また、色素の会合性を向上させたり、異方性色素膜の欠陥を低減する等の目的で、アミノ酸、ヒドロキシアミンなどを添加剤として使用してもよい。
【0091】
更に、上記以外の添加剤としては、参考文献10("Additives for Coating", Edited by J. Bieleman, Willey-VCH, 2000年)記載の公知の添加剤を用いることができる。
【0092】
なお、本発明の組成物の全成分における電子不足である(Electron-Deficient)部位と電子リッチである(Electron-Rich)部位との重量分率が、通常5/95以上、好ましくは35/65以上、また、通常95/5以下、好ましくは65/35以下の範囲内とするのが好ましい。この範囲を外れると、各成分の配合効果が現れにくいおそれがあり好ましくない。
【0093】
[III.異方性色素膜]
以下の記載では、本発明の異方性色素膜について、組成に関する特徴、製造方法に関する特徴、及び物性に関する特徴に分けて、それぞれ説明を行なう。本発明の異方性色素膜は、これらの全ての特徴を満たしていることが好ましいが、これらの特徴のうち何れか一つの特徴でも満たす異方性色素膜は、他の特徴を満たさない、或いは他の特徴が不明である場合でも、本発明の異方性色素膜に該当するものとする。
【0094】
〔III−1.異方性色素膜の組成〕
本発明の異方性色素膜は、その組成面に着目した場合、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有することを特徴とする。電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物については、前述の通りである。また、その比率も特に制限されるものではない。
【0095】
また、本発明の異方性色素膜は、更に他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、上述した本発明の組成物中に含まれる成分として例示したものが挙げられる。
【0096】
〔III−2.異方性色素膜の製造方法〕
本発明の異方性色素膜は、その製造方法に着目した場合、上述した本発明の異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を用いて形成されることを特徴とする。具体的には、本発明の異方性色素膜は、上述した本発明の組成物を用いて成膜することにより、作製することができる。成膜法としては、乾式成膜法及び湿式成膜法の何れを用いてもよいが、成膜に使用する本発明の組成物(水溶液)が液晶性を示す可能性がある場合には、湿式成膜法を使用することが好ましい。
【0097】
(i)乾式成膜法:
乾式成膜法としては、例えば、本発明の組成物と高分子重合体を用いて未延伸フィルムを作製し、得られた未延伸フィルムを延伸する、という方法が挙げられる。未延伸フィルムを作製する手法としては、例えば、(a)高分子重合体を成膜してフィルムとした後に、本発明の組成物を用いて染色する手法、(b)高分子重合体の溶液に本発明の組成物を加えて原液を染色した後に成膜する手法等が挙げられる。上述の染色、成膜、延伸は、以下に説明する一般的な方法で行なうことができる。
【0098】
上述の(a)の手法の場合、本発明の組成物と、必要に応じて塩化ナトリウム、ボウ硝等の無機塩、界面活性剤等の染色助剤を加えた染浴中に、高分子フィルムを浸漬して染色し、次いで必要に応じてホウ酸処理し、乾燥する。浸漬時の染浴の温度は、通常20℃以上、好ましくは30℃以上、また、通常80℃以下、好ましくは50℃以下の範囲である。また、浸漬時の染浴の時間は、通常1分以上、好ましくは3分以上、また、通常60分以下、好ましくは20分以下の範囲である。
【0099】
一方、上述の(b)の方法の場合、高分子重合体を水及び/又はアルコール、グリセリン、ジメチルホルムアミド等の親水性有機溶媒に溶解し、本発明の組成物を加えて原液染色を行ない、この染色原液を流延法、溶液塗布法、押出法等により成膜して、染色フィルムを作製する。溶媒に溶解させる高分子重合体の濃度としては、高分子重合体の種類によっても異なるが、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上程度で、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下程度である。また、溶媒に溶解する色素の濃度としては、高分子重合体に対して通常0.1重量%以上、好ましくは0.8重量%以上程度で、通常5重量%以下、好ましくは2.5重量%以下程度である。
【0100】
得られた未延伸フィルムは、適当な方法によって一軸方向に延伸する。延伸処理することによって色素分子が配向し、二色性が発現する。一軸に延伸する方法としては、湿式法にて引っ張り延伸を行なう方法、乾式法にて引っ張り延伸を行なう方法、乾式法にてロール間圧縮延伸を行なう方法等があり、何れの方法を用いて行なってもよい。延伸倍率は2倍以上、9倍以下にて行なわれるが、高分子重合体としてポリビニルアルコール及びその誘導体を用いた場合は、通常2.5倍以上、6倍以下の範囲が好ましい。
【0101】
延伸配向処理した後、該延伸フィルムの耐水性向上と偏光度向上の目的で、ホウ酸処理を実施する。ホウ酸処理により、異方性色素膜の光線透過率と偏光度が向上する。ホウ酸処理の条件としては、用いる親水性高分子重合体及び色素の種類によって異なるが、一般的にはホウ酸濃度としては、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上程度で、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下程度である。また、処理温度としては通常30℃以上、好ましくは50℃以上で、通常80℃以下の範囲にあることが望ましい。ホウ酸濃度が1重量%未満であるか、処理温度が30℃未満の場合は、処理効果が小さく、また、ホウ酸濃度が15重量%を超えるか、処理温度が80℃以上を超える場合は異方性色素膜がもろくなり好ましくない。
【0102】
乾式成膜法により得られる異方性色素膜の膜厚は、通常10μm以上、中でも30μm以上、また、通常200μm以下、中でも100μm以下の範囲が好ましい。
【0103】
(ii)湿式成膜法:
一方、湿式成膜法としては、公知の各種の方法を用いることが可能であるが、例えば、本発明の組成物を塗布液として調製後、ガラス板などの各種基材に塗布、乾燥し、色素を配向、積層して得る方法などが挙げられる。
【0104】
基材としては、ガラスやトリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等が挙げられる。基材の表面には、二色性色素の配向方向を制御するために、「液晶便覧」(丸善株式会社、平成12年10月30日発行)226頁〜239頁等に記載の公知の方法により、配向処理層を施しておいてもよい。
【0105】
湿式成膜法を用いる場合、本発明の組成物における色素の濃度は、通常0.1重量%以上、中でも1重量%以上、また、通常50重量%以下、中でも30重量%以下の範囲とすることが好ましい。色素濃度が低すぎると十分な二色性を得ることができず、高すぎると成膜が困難になるおそれがある。
【0106】
塗布法としては、原崎勇次著「コーティング工学」(株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行)253頁〜277頁や、市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」(株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行)118頁〜149頁に記載の公知の方法や、予め配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法などで塗布する方法などが挙げられる。塗布時の温度は通常0℃以上、80℃以下が好ましく、湿度は通常10%RH以上、80%RH以下が好ましい。
【0107】
塗膜の乾燥時の温度は好ましくは0℃以上、120℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。
【0108】
湿式成膜法で基材上に異方性色素膜を形成する場合、得られる異方性色素膜の乾燥後の膜厚は、通常50nm以上、中でも100nm以上、また、通常50μm以下、中でも20μm以下、更には1μm以下の範囲が好ましい。
【0109】
(iii)保護層:
上述の乾式成膜法又は湿式成膜法により得られた本発明の異方性色素膜は、必要に応じ、保護層を設けて使用する。この保護層は、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜により、本発明の異方性色素膜上にラミネーションして形成され、実用に供される。
【0110】
〔III−3.異方性色素膜の物性〕
本発明の異方性色素膜は、その物性に着目した場合、以下の(a),(b)のうち少なくとも一方を満たすことを特徴としている。
【0111】
(a)970cm-1付近にあるSO3伸縮振動に対する下記(i)及び(ii)の2方向からの偏光吸収の比(以下、これらを単に「2方向からの偏光吸収の比」という場合がある。)から求めたチルト角が10°以下である。
(b)800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する下記(i)及び(ii)の2方向からの偏光吸収の比YY/YZの値が1.8以上である。
(i)可視光を最も吸収する方向
(ii)可視光を最も透過する方向
【0112】
これら(a),(b)の物性は、それぞれ以下のように測定することが可能である。
【0113】
(a)970cm-1付近にあるSO3伸縮振動に対する2方向からの偏光吸収の比から求めたチルト角:
異方性色素膜の膜面に平行で、可視光を最も吸収する方向をX方向、可視光を最も透過する方向をY方向とする。
X方向に偏光した赤外光を膜面に垂直に入射して得られる赤外吸収スペクトルの970cm-1近辺のピーク強度をAxとし、Y方向に偏光した赤外光を膜面に垂直に入射して得られる赤外吸収スペクトルの970cm-1近辺のピーク強度をAyとした時に、チルト角は下記式で計算される。
【数3】

【0114】
(b)800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する2方向からの偏光吸収の比YY/YZの値:
異方性色素膜の膜面に平行で、可視光を最も吸収する方向をX方向、可視光を最も透過する方向をY方向とする。
Y方向に偏光した赤外光をX方向に60°傾けて入射して得られる赤外吸収スペクトルにおいて、800〜900cm-1の領域に見られるC−H面外変角振動ピークをLorentzian法によってn個のピークにピーク分離した時に、各ピーク強度をYYi(i=1〜n)とする。
同様に、Y方向に偏光した赤外光をY方向に60°傾けて入射して得られる赤外吸収スペクトルにおいて、800〜900cm-1の領域に見られるC−H面外変角振動ピークをLorentzian法によってn個のピークにピーク分離した時に、各ピーク強度をYZi(i=1〜n)とする。
ここで、YYiとYZiのピーク位置及びピーク反値幅は同じになるようにする。
得られたYYi(i=1〜n)及びYZi(i=1〜n)から、YY/YZ比は次の式で計算される。
【数4】

【0115】
[IV.偏光素子]
本発明の偏光素子は、上述した本発明の異方性色素膜を用いたものである。具体的には、本発明の異方性色素膜は、LCDやOLED等の各種の表示素子の偏光フィルター等を形成する場合には、これらの表示素子を構成する電極基板などに直接、本発明の異方性色素膜を形成したり、本発明の異方性色素膜を形成した基材をこれら表示素子の構成部材として用いればよい。
【0116】
本発明の異方性色素膜は、光吸収の異方性を利用し、直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能する他、膜形成プロセスと基材や色素を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。
【0117】
本発明の偏光素子は、上述した本発明の異方性色素膜を用いたものであるが、本発明の異方性色素膜を基材上に形成して本発明の偏光素子とする場合、形成された異方性色素膜そのものを使用してもよく、また、上記の様な保護層のほか、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し、積層体として使用してもよい。
【0118】
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することが出来る。
位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば特許第2841377号公報、特許第3094113号公報などに記載の延伸処理を施したり、特許第3168850号公報などに記載された処理を施したりすることにより形成することができる。
【0119】
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開2002−169025号公報や特開2003−29030号公報に記載されるような方法で微細孔を形成すること、或いは、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0120】
反射フィルム又は半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を用いて形成することができる。
拡散フィルムとしての機能を有する層は、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
【0121】
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物などの液晶性化合物を塗布して配向させることにより形成することができる。
【実施例】
【0122】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の記載において、「部」は「重量部」を示す。
【0123】
また、以下の各実施例及び比較例において、異方性色素膜の二色比は、ヨウ素系偏光素子を入射光学系に配した分光光度計で異方性色素膜の透過率を測定した後、次式により計算した。
二色比(D)=Az/Ay
Az=−log(Tz)
Ay=−log(Ty)
Tz:異方性色素膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty:異方性色素膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率
【0124】
また、970cm-1付近にあるSO3伸縮振動に対する2方向からの偏光吸収の比から求めたチルト角、及び、800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する2方向からの偏光吸収の比YY/YZの値は、上記〔III−3.異方性色素膜の物性〕に記載の方法で求めた。ここで、異方性色素膜の赤外吸収スペクトルは、Thermo Electron社製NEXUS670により測定した。
【0125】
[実施例1]
水72部に、下記式(I−1)で表わされる色素のリチウム塩25部と、下記式(II−1)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物3部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。スピンコート法により表面にポリイミドの配向膜が形成されたガラス製基板(75mm×25mm、厚さ1.1mm、膜厚約80nmのポリイミド配向膜に、予め布でラビング処理を施したもの)に、上記の異方性色素膜用組成物を、ギャップ5μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0126】
【化22】

【0127】
【化23】

【0128】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0129】
[実施例2]
水69部に、上記式(I−1)で表わされる色素のリチウム塩30部と、下記式(II−2)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0130】
【化24】

【0131】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0132】
[実施例3]
水69部に、上記式(I−1)で表わされる色素のリチウム塩30部と、下記式(II−3)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0133】
【化25】

【0134】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0135】
[実施例4]
水69部に、上記式(I−1)で表わされる色素のリチウム塩30部と、下記式(II−4)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、ギャップ5μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0136】
【化26】

【0137】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0138】
[実施例5]
水66部に、上記式(I−1)で表わされる色素のリチウム塩33部と、下記式(II−5)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、実施例4と同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0139】
【化27】

【0140】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0141】
[実施例6]
水70.3部に、上記式(I−1)で表わされる色素のリチウム塩27部と、下記式(II−6)で表わされる、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物2.7部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、実施例4と同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0142】
【化28】

【0143】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0144】
[比較例1]
水63部に、上記式(I−1)で表わされる色素のリチウム塩37部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0145】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例1〜6の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0146】
[実施例7]
水82部に、下記式(I−2)で表わされる色素のナトリウム塩16部と、下記式(II−7)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物2部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、ギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0147】
【化29】

【0148】
【化30】

【0149】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0150】
[比較例2]
水85部に、上記式(I−2)で表わされる色素のナトリウム塩15部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0151】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例7の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0152】
[実施例8]
水75部に、下記式(I−3)で表わされる色素のリチウム塩24部と、下記式(II−8)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0153】
【化31】

【0154】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0155】
[比較例3]
水80部に、上記式(I−3)で表わされる色素のリチウム塩20部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0156】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例8の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0157】
[実施例9]
水79部に、下記式(I−4)で表わされる色素のリチウム塩20部と、下記式(II−9)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0158】
【化32】

【0159】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0160】
また、970cm-1付近にあるSO3伸縮振動に対する2方向からの偏光吸収の比から求めたチルト角は7.54度であり、800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する2方向からの偏光吸収の比YY/YZの値は1.85であった。
【0161】
[比較例4]
水80部に、上記式(I−4)で表わされる色素のリチウム塩20部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0162】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例9の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0163】
また、970cm-1付近にあるSO3伸縮振動に対する2方向からの偏光吸収の比から求めたチルト角は11.65度であり、800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する2方向からの偏光吸収の比YY/YZの値は1.77であった。
【0164】
[実施例10]
水84部に、下記式(I−5)で表わされる色素のリチウム塩15部と、下記式(II−10)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0165】
【化33】

【0166】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0167】
[比較例5]
水85部に、上記式(I−5)で表わされる色素のリチウム塩15部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0168】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表2に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例10の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0169】
[実施例11]
水81部に、下記式(I−6)で表わされる色素のリチウム塩18部と、下記式(II−11)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0170】
【化34】

【0171】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0172】
また、970cm-1付近にあるSO3伸縮振動に対する2方向からの偏光吸収の比から求めたチルト角は9.56度であり、800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する2方向からの偏光吸収の比YY/YZの値は1.92であった。
【0173】
[比較例6]
水84部に、上記式(I−6)で表わされる色素のリチウム塩16部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物(本発明の材料)を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0174】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例11の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0175】
[実施例12]
水81部に、下記式(I−7)で表わされる色素のリチウム塩18部と、下記式(II−12)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0176】
【化35】

【0177】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0178】
また、970cm-1付近にあるSO3伸縮振動に対する2方向からの偏光吸収の比から求めたチルト角は9.72度であり、800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する2方向からの偏光吸収の比YY/YZの値は1.94であった。
【0179】
[比較例7]
水84部に、上記式(I−7)で表わされる色素のリチウム塩16部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物(本発明の材料)を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0180】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例12の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0181】
[実施例13]
水84部に、下記式(I−8)で表わされる色素のリチウム塩15部と、下記式(II−13)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0182】
【化36】

【0183】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0184】
[比較例8]
水86部に、上記式(I−8)で表わされる色素のリチウム塩14部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0185】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例13の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0186】
[実施例14]
水70部に、下記式(I−9)で表わされる色素のリチウム塩24部と、下記式(II−14)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物6部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0187】
【化37】

【0188】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0189】
[比較例9]
水65部に、上記式(I−9)で表わされる色素のリチウム塩35部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0190】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例14の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0191】
[実施例15]
水80部に、下記式(I−10)で表わされる色素のリチウム塩12部と、下記式(II−15)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物8部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0192】
【化38】

【0193】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0194】
[比較例10]
水65部に、上記式(I−10)で表わされる色素のリチウム塩35部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0195】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例15の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0196】
[実施例16]
水80部に、下記式(I−11)で表わされる色素のリチウム塩10.4部と、下記式(II−16)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物9.6部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0197】
【化39】

【0198】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0199】
[比較例11]
水80部に、上記式(I−11)で表わされる色素のリチウム塩20部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0200】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例16の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0201】
[実施例17]
水75部に、下記式(I−12)で表わされる色素のリチウム塩13部と、下記式(II−17)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物(本発明の材料)12部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0202】
【化40】

【0203】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0204】
[比較例12]
水65部に、上記式(I−12)で表わされる色素のリチウム塩35部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0205】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例17の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0206】
[実施例18]
水80部に、下記式(I−13)で表わされる色素のリチウム塩10部と、下記式(II−18)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物10部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0207】
【化41】

【0208】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0209】
[比較例13]
水80部に、上記式(I−13)で表わされる色素のリチウム塩20部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0210】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例18の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0211】
[実施例19]
水80部に、下記式(I−14)で表わされる色素のリチウム塩10.4部と、下記式(II−19)で表わされる電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物9.6部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物(本発明の組成物)を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜(本発明の異方性色素膜)を得た。
【0212】
【化42】

【0213】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本実施例の異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0214】
[比較例14]
水80部に、上記式(I−14)で表わされる色素のリチウム塩20部を加えただけで、電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物を加えず、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性色素膜用組成物を得た。この異方性色素膜用組成物を、実施例1と同様の基板に、同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより、異方性色素膜を得た。
【0215】
得られた異方性色素膜について、最大吸収波長(λmax)と二色比(D)を測定した。その結果を下記表3に示す。本比較例の異方性色素膜は、実施例19の異方性色素膜に比べて、低い二色比(光吸収異方性)しか得られなかった。
【0216】
【表2】

【0217】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0218】
本発明の異方性色素膜は、光吸収の異方性を利用することにより、直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として利用できる。また、色素膜の形成プロセスや、基材や色素を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性など各種の異方性膜としての機能化が可能となり、多種多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有する
ことを特徴とする、異方性色素膜用組成物。
【請求項2】
前記の電子リッチである(Electron-Rich)化合物が色素である
ことを特徴とする、請求項1記載の異方性色素膜用組成物。
【請求項3】
該色素がアゾ系色素である
ことを特徴とする、請求項2記載の異方性色素膜用組成物。
【請求項4】
前記の電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物が、芳香族系化合物又はアザ複素環式化合物である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の異方性色素膜用組成物。
【請求項5】
前記の電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物が、アントラキノン誘導体又はアントラキノン誘導体を部分構造として含むアゾ色素である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の異方性色素膜用組成物。
【請求項6】
更に溶剤を含有する
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の異方性色素膜用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の異方性色素膜用組成物を用いて形成された
ことを特徴とする、異方性色素膜。
【請求項8】
電子不足である(Electron-Deficient)盤状化合物及び電子リッチである(Electron-Rich)化合物を含有する
ことを特徴とする、異方性色素膜。
【請求項9】
970cm-1近辺にあるSO3伸縮振動に対する下記の(i)及び(ii)の方向からの偏光吸収の比から求めたチルト角が10°以下である
ことを特徴とする、異方性色素膜。
(i)可視光を最も吸収する方向
(ii)可視光を最も透過する方向
【請求項10】
800〜900cm-1にあるCH面外変角振動に対する下記の(i)及び(ii)の方向からの偏光吸収の比YY/YZの値が1.8以上である
ことを特徴とする、異方性色素膜。
(i)可視光を最も吸収する方向
(ii)可視光を最も透過する方向
【請求項11】
請求項7〜10の何れか一項に記載の異方性色素膜を用いた
ことを特徴とする、偏光素子。

【公開番号】特開2006−323377(P2006−323377A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116724(P2006−116724)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】