説明

異種のSCP杭を併用した改良地盤

【課題】 鉄鋼スラグを用いた低置換改良地盤を提供すること。
【解決手段】 天然砂等の非硬化性材料製杭1と、鉄鋼スラグ杭3とを並列して併用した鉄鋼スラグを用いた地盤改良構造であって、改良地盤6の上層部7が、天然砂等の非硬化性材料製杭1と鉄鋼スラグ杭3による改良地盤6とされ、下層部8が、天然砂等の非硬化性材料製杭1の改良地盤6とされている異種のSCP杭を併用した改良地盤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンドコンパクションパイル工法(以下、SCP工法ともいう)による改良地盤に関し、特に、SCP工法で鉄鋼スラグを用いた鉄鋼スラグ杭と、SCP工法の砂杭との異種のSCP杭を併用した改良地盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤改良工法として、(1)図7に示すような砂杭1を軟弱な粘土地盤2に打設するサンドコンパクションパイル工法(以下、SCP工法ともいう)が知られている。
【0003】
前記のSCP工法は、砂を用いて、締め固めた強固な大径の砂杭を改良すべき地盤中に強制的に打設して、緩い砂地盤の場合、締め固めによる液状化防止、軟弱な粘土地盤では強制的な置き換え排除によって強度増強あるいは圧密沈下防止を目的とした地盤改良工法である。
【0004】
特に粘土地盤を対象としたSCP工法には、高置換改良(改良率≧60〜70%程度)と、低置換改良(改良率≦30%)があり、中でも低置換SCP工法は、高置換SCP工法に比較して、杭本数が少なく経済的であることから近年港湾工事を中心として多用されつつある。
【0005】
一方、SCP工法に用いられる砂杭は、従来良質な天然砂が用いられてきたが、近年港湾工事を中心として多数箇所に利用され、砂によるSCP杭においては、天然資源の保護の観点より鉄鋼スラグ等のリサイクル材料の有効活用が推進されている。
【0006】
例えば、粘土地盤に高置換SCP工法を適用した場合には、(1)SCP杭による強制的な部分置換によるSCP杭と粘土地盤とからなる複合地盤としての改良効果を期待するもので、SCP杭に要求される性能は強度上の点であり、砂杭に代えて鉄鋼スラグ杭を使用することも可能である。
【0007】
他方、粘土地盤に低置換SCP工法を適用した場合には、前記の(1)SCP杭による強制的な部分置換によるSCP杭と粘土地盤とからなる複合地盤としての改良効果の他に、(2)SCP杭のドレーン効果による軟弱粘土地盤の圧密による強度増加の効果を図る点がある。このような低置換SCP工法の砂杭に、砂杭と同じ長さの鉄鋼スラグ杭を築造した場合には、鉄鋼スラグ、例えば製鋼スラグの潜在水硬性に伴う硬化と著しい透水性低下により、前記(2)の作用効果が阻害されるため、低置換改良のSCP工法へ鉄鋼スラグ杭の適用性が困難などの利用上の制約があるという問題がある。また、鉄鋼スラグ杭を用いた低置換改良では、製鋼スラグの硬化に伴う製鋼スラグ杭への応力集中が生じると共に透水性の低下によりドレーン材として機能できなくなるため、軟弱粘土地盤の改良効果は期待できないことも知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
また、粘土地盤において、低置換SCP工法における砂杭に代えて、図6に示すように、製鋼スラグ杭3のみの低置換改良とにした場合には、製鋼スラグ杭3の著しい硬化と、透水性の低下により軟弱な粘土地盤2の圧密促進機能の低下を引き起こすため、製鋼スラグ杭3単体のみを用いた低置換改良工法は困難である。また、このようにした場合、(2)製鋼スラグ杭3への水平力の集中による地盤改良部の転倒破壊モードへの移行に伴う耐力低下と水平変位の増大を伴うという問題も生じる(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】(財)沿岸開発技術センター発行、港湾工事用製鋼スラグ利用手引書P19〜P20、2000.3
【非特許文献2】北詰直樹 他、着定型杭状深層混合処理地盤の破壊挙動P1〜P28、港湾技術研究所報告、1998.6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のように、製鋼スラグ杭3は、高置換SCP工法に使用できても、低置換SCP工法には使用できないという問題があった。
【0010】
本発明は、前記の地盤改良における低置換SCP工法において、前記の課題を有利に解決することができる異種のSCP杭を併用した改良地盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を有利に解決するために、本発明の異種のSCP杭を併用した改良地盤では、鉄鋼スラグを用いたSCP杭と天然砂などを用いたSCP杭の2種のSCP杭を併用した改良地盤において、鉄鋼スラグを用いたSCP杭の長さを天然砂などを用いたSCP杭の長さよりも短くしたことを特徴とする。これにより、改良地盤の上層部に鉄鋼スラグ杭と非硬化性材料製杭とを形成すると共に、改良地盤の下層部を圧密効果のある天然砂等の非硬化性材料製杭のみとしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると次のような効果がある。
(1)天然砂等の非硬化性材料製杭の部分がドレーン材の作用を発揮するため、地盤の圧密効果がある。
(2)改良地盤の上層部は、下層部よりも高置換改良となるため水平力による転倒破壊に対する抵抗力が向上する。
(3)地盤改良された上層部は、下層部よりも高置換改良となるために、圧密沈下層は下層の一部となり、沈下量が小さくなると共に、改良地盤全体の圧密沈下を期待する従来のSCP杭工法に比べて、沈下期間が短くなるため、施工期間を短くすることができる。
(4)鉄鋼スラグ杭のみによる低置換工法に比べて、最小安全率を与える円弧すべり線が拡大(大深度化)することにより、改良地盤により支持力の増大を図ることができる。
(5) 改良地盤全体を高置換改良地盤とする場合に比べて、施工が容易で経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1〜図3は、本発明の一実施形態を示すものであって、海底粘土地盤2にSCP工法による天然砂等の非硬化性材料4が打設されて、長尺の非硬化性材料製杭5が、地盤改良区域の前後方向および左右方向に間隔をおいて多数(所要数)形成され、また、前後方向または左右方向あるいは斜め方向に隣り合う前記非硬化性材料製杭5の間に、SCP工法による鉄鋼スラグを用いた短尺の鉄鋼スラグ杭3が形成されている。すなわち、多数の長尺の非硬化性材料製杭5による非硬化性材料製杭群とこれらの間に形成された多数の短尺の製鋼スラグ杭3による鉄鋼スラグ杭群とが、護岸構造物に沿うように混在に形成されている。
【0015】
図示のように、粘土地盤2に長尺の非硬化性材料製杭5と短尺の鉄鋼スラグ杭3とを並列して併用した改良地盤6とされ、鉄鋼スラグ杭3の打設寸法は、図示の形態では、天然砂等の非硬化性材料製杭5の打設寸法の1/2程度とされているが、設計により適宜設定することができる。
【0016】
前記のように施工された改良地盤6では、非硬化性材料製杭5と鉄鋼スラグ杭3とが混在する上層部7は、下層改良地盤に比べて高置換改良地盤となり、また、下層部8は、天然砂等の非硬化性材料製杭54のみの低置換改良地盤となる。
【0017】
前記のように、SCP工法による短い鉄鋼スラグ杭3とSCP工法による長い非硬化性材料製杭5を併用する本発明の改良地盤6では、次のような利点がある。
(1)ドレーン材としての機能は、鉄鋼スラグ杭3と並列して打設される天然砂などの非硬化性材料製杭5で発揮させることができるため、鉄鋼スラグSCP杭3の硬化による圧密硬化の低下は生じない。
(2)改良された上層部7では、下層部よりも高置換改良となるため、水平力による転倒破壊に対する抵抗力が向上する。
(3)上層部7は二種類の杭を混合した改良層で高強度であるので特に圧密改良の必要がなくなるため、圧密期間の短縮と沈下量を抑制することができる。
(4)鉄鋼スラグ杭のみによる低置換工法に比べて、最小安全率を与える円弧すべり線の拡大(大深度化)することにより、改良地盤により支持力の増大を図ることができる。
(5)改良地盤全体を高置換改良地盤とする場合に比べて施工が容易で経済的である。
【0018】
前記の鉄鋼スラグとは、高炉スラグ(高炉除冷スラグ、高炉水砕スラグ)、製鋼スラグを意味する。
前記の製鋼スラグとは、高炉で製造された硬くて脆い銑鉄から、不要な成分を除去し、靭性・加工性のある鋼にする製鋼過程で生じる石灰石を主体とした石状の副産物であり、転炉スラグ、溶銑予備処理スラグ、電気炉スラグ等を用いることができる。
【0019】
また、前記の非硬化性材料としては、天然砂以外に、銅水砕スラグ、フェロニッケルスラグ、石炭灰造粒物あるいはコンクリートがら等を使用することもできる。
【0020】
なお、図示の形態では、改良地盤上に、捨て石マウンド9が形成され、その捨て石マウンド9の上に順次直列にケーソン10が沈設・着底され、適宜ケーソン内に廃棄物等の充填材が充填されて、コンクリート床版11および上部工12が設けられ、ケーソン10背面に裏込め土13が充填されて、ケーソン護岸構造物14が形成されている。
【0021】
上記のように本発明では、下記のような作用効果を奏することができる。
(1)打設長さの長い砂等の非硬化性材料製杭の部分でドレーン材の作用を分担するため、地盤の圧密効果がある。
(2)改良地盤の上層部は、下層部よりも高置換改良となるため水平力による転倒破壊に対する抵抗力が向上する。
(3)地盤改良された上層部は、下層部よりも高置換改良となるために、圧密沈下層は下層部の一部となり、沈下量が小さくなると共に、改良地盤全体の圧密沈下を期待する従来のSCP杭工法に比べて、沈下期間が例えば半減するなど格段に短くなるため、施工期間を短くすることができる。
(4)鉄鋼スラグ杭のみによる低置換改良地盤6の円弧すべり線r(図5参照)に比べて、最小安全率を与える円弧すべり線Rが拡大(大深度化)することにより、鉄鋼スラグ杭のみの低置換改良地盤に比べて、より支持力の増大を図ることができる。
(5) 改良地盤全体を高置換改良地盤とする場合に比べて、施工が容易で経済的である。
【0022】
ここで、図4を参照して、非硬化性材料製杭5の配置形態と改良率について説明すると、(a)のように非硬化性材料製杭5中心を結ぶ形状が正方形配置とし、杭直径を2m(断面積As=3.14m)として、x=2.1mの間隔で非硬化性材料製杭5を打設すると改良率as=0.71となる。同様に(b)の正三角形とすると改良率as=0.82となり、同様に(c)のく形配置では、x1=4.2,x2=2.1とした場合では改良率0.36となる。前記の非硬化性材料製杭5の直径および配置形態並びに配置間隔を適宜設定することにより、改良率を30%前後〜80%前後に適宜設定することができる。
【0023】
図4(d)左に示すように、SCP工法による多数の非硬化性材料製杭5を間隔をおいて粘土地盤等の地盤2に先行施工した後、同じ杭築造装置により、同図右に示すように、非硬化性材料製杭5間にSCP工法による鉄鋼スラグ杭3を築造すると、同じ杭築造装置を使用して効率良く施工することができる。また、多数の鉄鋼スラグ杭3を先行築造した後、鉄鋼スラグ杭3間に非硬化性材料製杭5を築造するようにしてもよい。非硬化性材料製杭5の長さに対する製鋼スラグ杭3の長さは、設計により適宜設定される。
【0024】
SCP工法による地盤改良範囲および改良率等の使用の決定は、一般的に図7に示すように常時の荷重作用条件下での円弧すべりを仮定した安定解析により行われる。
すなわち、円弧すべりを生じさせる起動力は、円弧の中心点O点まわりのモーメントとして、M=ΣF・Lで与えられる。ここで時計まわりのすべりを考える場合、Fは円弧の中心点を通る鉛直線の右側にある地盤・構造物の重量、Lは円弧の中心点を通る鉛直線から地盤・構造物の重心までの距離である。一方、この円弧すべりに対する抵抗力としてのモーメントMは、前記鉛直線の左側部分のO点まわりのモーメントM=ΣF・Lと、円弧すべり面の地盤の抵抗によるO点まわりのモーメントM=Στ・Rの和となる。ここで、τは地盤のせん断強度であり、Rは円弧の半径である。
円弧すべりに対する地盤破壊に対する安全の確保は、起動モーメントMに対する抵抗モーメントMの比で示される安全率Fsが所望の値であることを確認することにより行われる。
【0025】
上記地盤のせん断抵抗力は、SCP工法により改良された地盤については、SCP杭による改良率、SCP杭のせん断強度、原地盤のせん断強度、原地盤の圧密による強度上昇等を考慮した下記式(1)により表される複合地盤としてのせん断強度を用いる。
τ=(1−a)(c+c/p・(σ・z+μ・σ−P)・U)+
(γz・μ・σ)a・tanφ・cosθ (1)

ここで、前記(1)の式中、
τ :改良地盤のせん断抵抗
:置換率
:粘性土の粘着力
σ:載荷による増加応力
μ=1/[1+(n−1)a
μ=n/[1+(n−1)a
n:応力分担比
U: 圧密度
c/p :粘着率増加係数
γ :砂の水中単位体積重量
重量 [=(1−a)γ’+aγ’
μ,μ:応力集中(低減)係数
:先行圧密応力
z:土被り深さ
θ:すべり面が水平面となす角度
【0026】
上記(1)の式から、上式右辺の c/p・(σ・z+μ・σ−P)・Uの項が高置換工法では無視されるが、粘土の圧密強度上昇を期待する低置換工法では、この項により改良地盤のせん断抵抗が大きく左右される。すなわち、非硬化性材料杭1の低置換では、圧密度Uが高くなるに従って、圧密による増加粘着力(上式右辺のc/p・(σ・z+μ・σ−P)・Uの項)が高くなり、せん断抵抗が高くなる。
なお、(γz・μ・σ)a・tanφ・cosθの項は、砂杭のせん断強度を意味している。
【0027】
前記実施形態では、護岸構造物の下部地盤に適用した場合を説明したが、本発明を実施する場合、粘土地盤以外の軟弱地盤等に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の鉄鋼スラグを用いた地盤改良工法を適用した改良地盤およびその改良地盤上にケーソン護岸を築造した状態を示す縦断正面図である。
【図2】図1の上層部の横断平面図である。
【図3】図1の下層部の横断平面図である。
【図4】(a)(b)(c)は、それぞれ砂杭の配置形態を示す平面図、(d)は砂杭を形成した後、鉄鋼スラグ杭を形成する施工形態の一例を示す平面図である。
【図5】本発明を実施した改良地盤の場合に円弧すべり線が拡大することを説明するための説明図である。
【図6】鉄鋼スラグ杭のみの改良地盤およびその改良地盤上にケーソン護岸を築造した状態を示す縦断正面図である。
【図7】地盤の破壊とSCP工法による地盤支持力改良機構を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 砂杭などの非硬化性材料製杭
2 粘土地盤
3 鉄鋼スラグ杭
6 改良地盤
7 上部層
8 下部層
9 捨て石マウンド
10 ケーソン
11 コンクリート床版
12 上部工
13 裏込め土
14 ケーソン護岸構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグを用いたSCP杭と天然砂などを用いたSCP杭とからなるSCP改良地盤において、鉄鋼スラグを用いたSCP杭の長さが天然砂などを用いたSCP杭の長さより短いことを特徴とする異種のSCP杭を併用した改良地盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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