説明

疎水性多孔質膜用親水化剤、これを用いた疎水性多孔質膜の親水化方法及び検査方法

【課題】疎水性多孔質膜を親水化処理するために適した親水化剤及びこの親水化剤を使用した親水化方法を提供すること。
【解決手段】界面活性剤を含み、該界面活性剤が、ロス−マイルス法(JIS K 3362)に従って、25℃における0.1質量%前記界面活性剤水溶液を用いて測定した起泡直後の泡高さが40mm以下である起泡性を有することを特徴とする、疎水性多孔質膜用親水化剤、この親水化剤を用いた疎水性多孔質膜の親水化方法、ならびにこの親水化剤を用いた膜モジュールの検査・親水化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低起泡性界面活性剤を含む、疎水性多孔質膜用親水化剤に関する。特に本発明は、精密ろ過膜、限外ろ過膜等の疎水性多孔質膜の親水化処理における上記疎水性多孔質膜の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
精密ろ過膜及び限外ろ過膜などの多孔質膜は、工業廃水等の汚濁物質処理、医薬品用水等の無菌化などの目的で、幅広い分野において使用されてきている。使用される膜としては、大別して疎水性多孔質膜と親水性多孔質膜が挙げられるが、固−液分離の分野では、耐薬品性、耐汚染性、耐候性及び耐酸化劣化性等の面から、疎水性多孔質膜が好ましく使用されている。しかし、疎水性多孔質膜は、膜の疎水性ゆえ、そのままでは水又は水溶液が疎水性多孔質膜の細孔を通過することができないか、通過できるとしてもかなりの圧力をかける必要がある。従って、疎水性多孔質膜をあらかじめ親水化処理して水や水溶液を通過しやすくすることが行われている。この親水化処理は、疎水性多孔質膜を製造後、膜を最初に使用する場合の他、疎水性多孔質膜の点検、清掃、長期運転停止の際に疎水性多孔質膜の一部又は全部が空気に触れて乾燥した場合にも必要となる。特に、フッ素樹脂のように疎水性が高いポリマーからなる疎水性多孔質膜は、一旦乾燥させると著しく透液性能が低下するので、疎水性多孔質膜の適切な親水化が必要となる。
このような疎水性多孔質膜の親水化方法としては、例えば、膜自体に親水基を導入する方法(特許文献1)や、膜を脱気水(特許文献2)、アルコール(特許文献3)、グリセリン(特許文献4)及び無機塩(特許文献5)で処理する方法が知られている。
しかし、膜自体に親水基を導入する方法(特許文献1)では、未反応で膜に残存する親水基を構成するモノマーを除去するため、膜を多量の水などの洗浄液で十分洗浄する必要があった。膜を脱気水で処理する方法(特許文献2)では、実質的には脱気水を加圧して膜に通すことが必要であり、処理方法が煩雑であった。さらに、親水化した膜は常に湿潤状態にしておく必要があるため、親水化した膜を含むモジュールは湿潤液等を満たした状態で運搬、輸送、販売等しなければならず、取り扱いが不便であった。また、膜をアルコール等で処理する方法(特許文献3〜5)においても、処理に使用したアルコール等が疎水性多孔質膜中に残存するため、膜の使用に際しては多量の洗浄液で十分洗浄する必要があった。
また、他の疎水性多孔質膜の親水化処理方法として、特定の方法を利用して膜を界面活性剤で処理する方法も開示されている(特許文献6)。
しかし、特許文献6は、界面活性剤で膜を処理する場合は、界面活性剤が残存するため処理された水の中にこれが徐々に溶出するという欠点を有するとしたうえで、膜を界面活性剤で処理するために、特許文献6の特定の方法を使用して界面活性剤の使用量を少なくしてこの溶出の欠点を抑えている。つまり、特許文献6は、単に界面活性剤の使用量を減らして界面活性剤の溶出量を少なくするだけで、界面活性剤の溶出という根本的な問題を解決するものではない。
【0003】
【特許文献1】特開平6−296686号公報
【特許文献2】特開平5−208121号公報
【特許文献3】特開昭58−96633号公報
【特許文献4】特開2002−95939号公報
【特許文献5】特開平6−277470号公報
【特許文献6】特開平1−119310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第一の目的は、疎水性多孔質膜を親水化処理するために適した親水化剤及びこの親水化剤を使用した親水化方法を提供することにある。
本発明の第二の目的は、疎水性多孔質膜を親水化処理するための親水化剤であって、疎水性多孔質膜を処理した後に残存する親水化剤の量を極力低減し、かつ、残存した親水化剤が容易に除去できる親水化剤及びこの親水化剤を使用した親水化方法を提供することにある。
本発明の第三の目的は、疎水性多孔質膜を含む膜モジュールのリーク、欠品、目詰まり等の検査において膜モジュールを浸漬する親水化剤であって、当該検査において親水化剤中に発生する気泡を好適に抑制することができる、膜モジュールの検査方法を提供することにある。
本発明の第四の目的は、曝気装置を備えた処理されるべき溶液(被処理液)を含む膜分離槽中に配置された疎水性多孔質膜を含む膜モジュールを、被処理液に浸漬したまま親水化処理するための好適な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、消泡性と低い表面張力を有する特定の低起泡性界面活性剤を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.界面活性剤を含み、該界面活性剤が、ロス−マイルス法(JIS K 3362)に従って、25℃における0.1質量%前記界面活性剤水溶液を用いて測定した起泡直後の泡高さが40mm以下である起泡性を有することを特徴とする、疎水性多孔質膜用親水化剤に関する。
2.前記界面活性剤が、ロス−マイルス法(JIS K 3362)に従って、25℃における0.1質量%該界面活性剤水溶液を用いて測定した起泡から5分経過後の泡高さが20mm以下である起泡性を有する、上記1に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤に関する。
3.前記界面活性剤が、0.1質量%の前記界面活性剤水溶液を用いた場合、30mN/m以下の静的表面張力を有する、上記1又は2に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤に関する。
4.前記界面活性剤が、アセチレングリコール、該アセチレングリコールのエトキシル化物又はこれらの混合物である、上記1〜3のいずれか1つに記載の疎水性多孔質膜用親水化剤に関する。
5.疎水性多孔質膜と、上記1〜4のいずれか1つに記載の疎水性多孔質膜用親水化剤とを接触させることを含む、疎水性多孔質膜の親水化方法に関する。
6.更に、上記1〜4のいずれか1つに記載の疎水性多孔質膜用親水化剤と接触した前記疎水性多孔質膜を乾燥することを含む、上記5に記載の疎水性多孔質膜の親水化方法に関する。
7.本体と、該本体に設けられた入口及び出口と、前記本体内に設けられた疎水性多孔質膜とを有する膜モジュールの検査方法であって、以下の工程:
(1)前記膜モジュールを、上記1〜4のいずれか1つに記載の疎水性多孔質膜用親水化剤に浸漬する工程;
(2)検査用気体を前記入口から導入し、前記疎水性多孔質膜を通して前記出口から排出する工程;及び
(3)前記膜モジュールから排出される気泡を観察する工程、
を含む、膜モジュールの検査方法。
8.本体と、該本体に設けられた入口及び出口と、前記本体内に設けられた疎水性多孔質膜とを有する膜モジュールの検査・親水化方法であって、以下の工程:
(1)前記膜モジュールを、上記1〜4のいずれか1つに記載の疎水性多孔質膜用親水化剤に浸漬する工程;
(2)検査用気体を前記入口から導入し、前記疎水性多孔質膜を通して前記出口から排出する工程;
(3)前記膜モジュールから排出される気泡を観察する工程;及び
(4)前記膜モジュールを乾燥する工程、
を含む、前記膜モジュールの検査・親水化方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
フッ素系分離膜などの疎水性の強い膜を本発明の起泡性の低い界面活性剤液に所定時間浸漬・乾燥することにより、当該分離膜を長期間にわたって腐敗等することなく安定的に乾燥状態で保存することができ、当該分離膜の使用時には水によって自発的且つ完全に湿潤し得るという乾燥保存がしやすく、かつ、使用時に前処理が不要な優れた疎水性多孔質膜を提供することができる。
また、本発明の疎水性多孔質膜の親水化方法によれば、一旦乾燥して疎水性となった多孔質膜を、少ない薬剤使用量、労量、時間にて、容易かつ円滑に低コストにて透液性能を良好に回復させることができ、工業的に極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(1)疎水性多孔質膜用親水化剤
本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤は、低起泡性の界面活性剤、任意の溶媒、及び任意の添加剤を含む。
(1-1)界面活性剤
本発明の界面活性剤は、低起泡性を有する。起泡性は、ロス−マイルス法(JIS K 3362)に従って測定することができる。例えば、0.1質量%の界面活性剤水溶液を用い、25℃においてJIS K 3362記載の起泡力測定装置に準拠した装置を用いて起泡させた場合の起泡直後の泡高さ、及び起泡から5分経過後の泡高さをロス−マイルス法(JIS K 3362)に従って測定する。ここで、ロス−マイルス法は、内径50mmのガラス円筒に入れた50mlの界面活性剤水溶液上に90cmの高さから200mlの界面活性剤水溶液を30秒間滴下し、滴下直後及び一定時間後の泡の高さ(mm)を測定するものである。本発明の界面活性剤は、上記ロス−マイルス法による起泡直後の泡高さが40mm以下、好ましくは、30mm以下、より好ましくは、20mm以下であることが適当である。40mm以下であれば、界面活性剤による発泡を低く押さえることができるので好ましい。
【0008】
また、本発明の界面活性剤は、上記ロス−マイルス法(JIS K 3362)において、起泡から5分経過後の泡高さが、20mm以下、好ましくは、15mm以下、より好ましくは、0〜10mmであることが適当である。20mm以下であれば、界面活性剤による発泡を低く押さえることができるので好ましい。
本発明で用いる界面活性剤は、その0.1質量%水溶液の静的表面張力(室温)が、29mN/m以下であるのが好ましい。より好ましくは、28mN/m以下であり、さらに好ましくは、20〜28mN/mの範囲である。ここで、静的表面張力は、JIS ウィルヘルミ(プレート)法 自動表面張力計 CBVP−Z(協和界面科学社(製))によって測定することができる。静的表面張力が30mN/m以下であれば、比較的短時間で疎水性膜を親水化することができる傾向にあり好ましい。
また、本発明で用いる界面活性剤は、その0.1質量%水溶液の動的表面張力(室温)が50mN/m以下であるのが好ましい。より好ましくは10〜50mN/m、さらに好ましくは25〜40mN/mの範囲である。動的表面張力は、例えば、バブルプレッシャー型動的表面張力計クルスBP−2(KRUSS社製)を用いて、0.1質量%水溶液における1Hz及び10Hzの時の値から測定することができる。
【0009】
本発明において使用し得る界面活性剤としてはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤から選択できる。発泡・起泡の少ないという観点からは、ノニオン性界面活性剤が特に好ましい。
ノニオン性界面活性剤の具体例として、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコン系界面活性剤、その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0010】
上記ノニオン性界面活性剤の中でも特にアセチレングリコール系界面活性剤が、優れた濡れ性、浸透性、消泡性を有するので好ましい。加えてアセチレングリコール系界面活性剤は、比較的安定な物質であり長期にわたる膜保管時においても生物による腐敗を受けないなどの特徴を有する。アセチレングリコール系界面活性剤は、特に動的表面張力が低いなど浸透性が高いなどの特徴を有している。そのため、比較的膜厚の厚い中空糸膜の親水化処理に好適に用いることが可能で処理時間を短くするなどの効果を有する。
アセチレンアルコール系界面活性剤の具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、及び、それらのエトキシル化体等を挙げることができる。これらは必要に応じて1種以上を適宜選択して使用することができるが、中でも、上記エトキシル化体において、エチレンオキサイド付加モル総数が2〜30モルの範囲であるものが好ましい。より好ましくは、4〜12モルの範囲である。エチレンオキサイドの付加モル総数を30モル以下とすることによって、静的及び動的表面張力が低下し、親水化剤として好適に使用することができる。
アセチレングリコール系界面活性剤及びそのエトキシル化体は、市販品で入手も可能であり、例えば、エアープロダクツ社のサーフィノール104、82、465、485、TGや日信化学社製のオルフィンSTG、オルフィンE1010、オルフィンEXP4036、オルフィンPD−001等が挙げられる。
例えば、アセチレングリコール系界面活性剤の1種 オルフィンEXP4036(日信化学工業(株)製 )は、0.1wt%で静的表面張力30mN/m以下を示す。オルフィンPD−001・オルフィンSTG(共に日信化学工業(株)製)も同様に0.1wt%で静的表面張力30mN/m以下を示す。このようにアセチレングリコール系界面活性剤は、極めて低濃度で良好な親水性を発現させることが可能である。
【0011】
(1-2)溶媒
本発明の界面活性剤を溶解する溶媒としては、水、生理食塩水のような電解質を含む水溶液、エタノール、メタノールなどの炭素数1〜4、好ましくは、炭素数1〜2の低級アルコール類、ピリジン、クロロホルム、シクロヘキサン、エチルアセテートもしくは、トルエン、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。特に親水化処理を行う素材への影響や、溶媒の後処理、安全性、またはコストなどの面から水を用いることがより好ましい。特に、使用される水は、通常の水道水やイオン交換水を孔径0.01〜1μmの中空糸膜で濾過したものが好ましい。
【0012】
(1-3)添加剤
本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤には、更に任意の添加剤を加えることができる。使用し得る添加剤としては、上記以外の界面活性剤、グリセリン、などが挙げられる。
例えば、本発明で使用する界面活性剤の水への溶解性の向上を目的として、エチレンオキサイドあるいはプロピレンオキサイド或いはその混合物、またはそのブロック共重合体からなるポリマー(例:エパン750、第一工業製薬社製)を使用することができる。
これらは、本発明の親水化剤の特性を損なわない範囲で使用することができ、例えば、親水化剤全体に対して、5〜90質量%、より好ましくは、5〜50質量%の範囲で使用することができる。さらに、本発明の親水化剤の特性を損なわない範囲で、純水や水溶性有機溶剤を使用することができ、例えば、親水化剤全体に対して、25質量%以下、より好ましくは、10〜20質量%の範囲で使用することができる。
【0013】
(1-4)疎水性多孔質膜親水化剤の調製
本発明の疎水性多孔質膜親水化剤は、上記界面活性剤そのまま、あるいは、上記界面活性剤及び任意の添加剤を溶媒に溶解することによって調製される。界面活性剤の溶解方法としては、プロペラ式攪拌機などの公知の混合調製方法によって混合する方法が挙げられる。また、常温にて固体の成分については、必要により加温して混合することが可能である。
本発明の疎水性多孔質膜親水化剤は、上記の界面活性剤を疎水性多孔質膜親水化剤全体に対して、0.05〜5質量%、好ましくは、0.05〜1質量%の範囲で含有するのが好ましい。界面活性剤を0.05質量%以上とすることによって、親水化剤として優れた特性を付与できる傾向にある。また、界面活性剤を5質量%以下とすることによって、膜からの溶出量が減少し、CODを低減させることができる傾向にある。
【0014】
(2)膜モジュール
本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤は、膜モジュール中の疎水性多孔質膜を親水化するために使用される。膜モジュールは、平膜型、円筒型、プリーツ型、中空糸型など、種々のモジュールを使用することができる。
(2-1)膜モジュールの構造
膜モジュールは、本体、入口、出口及び多孔質膜を有する。具体的には、膜モジュール本体に入口と出口が設けられ、本体の内部に多孔質膜が設けられている。入口と出口は、本体の両端部に設けられていてもよく(直線状両端口型)、また、入口と出口のいずれか一方が、大きく開口していてもよい(直線状片側開口型)。多孔質膜は、本体を、入口を有する第1室と、出口を有する第2室とに分割するように本体内部に連結されている。連結は、多孔質膜の端部を本体内壁に接着あるいは封着するか、多孔質膜の端部を本体内壁に脱着可能に接続しているものを含む。従って、本発明の膜モジュールは、入口から導入された液体及び気体が、本体に入り、多孔質膜を常に通過して、出口から排出される構造を有している。
なお、本発明の膜モジュールの入口、出口及び本体は、ステンレス、鋼などの金属、フッ素樹脂、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニール樹脂等の樹脂から作られていてもよい。
【0015】
(2-2)疎水性多孔質膜
本発明の疎水性多孔質膜は、疎水性を有する多孔質膜であれば、いかなる多孔質膜も使用することができる。本発明の疎水性多孔質膜の形状としては、例えば、平膜、中空紫膜、チューブラー膜、スパイラル膜が挙げられる。また、本発明の疎水性多孔質膜は、精密ろ過膜(MF)、限外濾過膜(UF)、及びナノろ過膜(NF)等の分離膜であってもよい。
本発明の疎水性多孔質膜は、例えばセルロース系・ポリオレフィン系・ポリビニールアルコール系・ポリスルフォン系・ポリアクリロニトリル系、フッ素系樹脂など分離膜の形状に成形可能なものであれば各種材料から形成することが使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、及びポリスルホン等が挙げられる。特に疎水性多孔質膜の表面特性として、疎水性の強い樹脂を用いることが好適であり、特に好ましくは、フッ素系樹脂である。フッ素系樹脂の中でも、膜への賦形性と耐薬品性などからフッ化ビニリデリン樹脂を用いることがより好ましい。ここでフッ化ビニリデリン樹脂としては、フッ化ビニリデリンのホモポリマーの他、フッ化ビニリデリンと、フッ化ビニリデリンと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。上記共重合可能な単量体としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化エチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどがある。
【0016】
本発明の疎水性多孔質膜は、複数の細孔を有する。細孔は、疎水性多孔質膜の表面及び裏面を貫通する連続孔であることが好ましい。細孔の孔径は、目的によって任意に選択できるが、例えば、0.01〜5μm、好ましくは、0.1〜1μmであることが適当である。また、本発明の疎水性多孔質膜は、疎水性多孔質膜の一方の表面の孔径が小さく、他方の表面の孔径が大きい、非対称構造であることが好ましい。非対称構造の場合、一方の表面の孔径が、他方の表面の孔径の1倍より大きく100倍以下、好ましくは、2倍〜10倍であることが適当である。
また、疎水性多孔質膜が中空糸膜である場合、中空糸の外径は、例えば、0.1〜10mm、好ましくは、0.5〜5mmであることが適当である。 本発明の疎水性多孔質膜は、純水に対する透液性能を示す純水透過係数が、10〜250m3/m2/時/MPa、好ましくは、20〜150m3/m2/hr/MPaであることが適当である。なお、純水透過係数は、以下の式より求めることができる。
純水透過係数=[純水透過量(m3)]/[多孔質膜の表面積(m2)]/[透過時間(時)]/[純水の圧力(MPa)]
【0017】
(3)疎水性多孔質膜の親水化方法
通常、疎水性多孔質膜は、初めてこの多孔質膜を使用する場合、膜交換をする場合、膜を薬品で洗浄する場合、膜を長期間使用しない場合等、膜表面が空気に触れて乾燥した状態となる場合がある。この場合、再び処理されるべき液体(被処理液)等に浸漬して被処理液をろ過しようとしても、透液性能が悪化し、本来の分離膜としての機能を発揮することができなくなる。従って、疎水性多孔質膜の細孔を一旦親水化した上で被処理液を通すことによって、向上した透液性能と、良好な膜の耐汚染性を両立することができる。なお、親水化剤は、疎水性多孔質膜に液体を通すことによって速やかに除去されることが、処理された液体を廃液として回収する非効率性を排除する点、早期に疎水性多孔質膜を使用できる点などから好ましい。
【0018】
ここで、疎水性多孔質膜の親水化は、疎水性多孔質膜と、上記疎水性多孔質膜用親水化剤とを接触させることを含む。以下、膜モジュール内の疎水性多孔質膜の親水化を例にとって説明する。
膜モジュールにおける本発明の疎水性多孔質膜を用いた親水化処理は、疎水性多孔質膜の出口を有する第2室に面する側から上記疎水性多孔質膜用親水化剤を注入することによって行われる。出口が2カ所以上ある場合は、(a)すべての出口から疎水性多孔質膜用親水化剤を注入してもよく、また、(b)少なくとも1つ以上の出口から疎水性多孔質膜用親水化剤を注入し、残りの出口から残余の疎水性多孔質膜用親水化剤を排出してもよい。
(a)すべての出口から疎水性多孔質膜用親水化剤を注入する場合、出口及び出口を有する第2室内に滞留している気体を疎水性多孔質膜用親水化剤によって入口を有する第1室に押し出す。これにより、疎水性多孔質膜は第2室側から第1室側に向かって序々に親水化される。
(b) 少なくとも1つ以上の出口から疎水性多孔質膜用親水化剤を注入し、残りの出口から残余の疎水性多孔質膜用親水化剤を排出する場合、出口及び出口を有する第2室内に滞留している気体を一方の出口から他方の出口へ、疎水性多孔質膜用親水化剤によって押し出すことができる。
【0019】
特に中空糸膜モジュールでは、構造が複雑で気泡の滞留が生じやすい。
処理水槽内に設置した膜モジュールの入口及び出口のすべてが、当該水槽の水面より上部にあって空気などの対流部を生じにくいような構造を有する場合には、出口から親水化剤をポンプなどで所定圧力・所定流量で押し込むことで膜モジュール内部の気泡が抜け、膜モジュール全体を親水化剤で満たすことが出来る。
しかし、処理水槽及内に設置している膜モジュールの集水部の少なくとも一箇所が膜モジュールの下部にある場合には、膜モジュールの当該下部にある集水部からポンプなどにより親水化液を押し込み、膜モジュールの上部に存在する集水部から配管内および膜モジュール内に残留している気体を押し出し、気泡を親水化剤で置き換えて膜モジュール全体を親水化剤で満たす手法を取ることが、好ましい。
【0020】
なお、上記(a)及び(b)のいずれによっても良好な親水化処理を施すことが可能であるが、親水化を実施する際の膜モジュール出口に設けられる配管を簡易的な構造にできるという観点から、(a)のすべての出口から疎水性多孔質膜用親水化剤を注入するのが好ましい。
このとき、本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤の通液量は、界面活性剤の濃度が0.3質量%である場合、例えば、膜面積1m2当り0.5〜5リットル、好ましくは、2〜3リットルの範囲が適当である。通液量が膜面積1m2当り0.5リットル以上であれば、膜の親水化の効果が十分に期待できる。また、膜面積1m2当り通液量が5リットル以下であれば、膜分離槽内に余計な負荷を与えることもない。
疎水性多孔質膜用親水化剤の注入速度は、例えば、単位膜面積当り0.005〜3m3/m2・D、好ましくは、0.01〜0.3m3/m2・Dの範囲である。注入速度が3m3/m2・D以下であれば、膜面全体が均一に親水化でき、0.005m3/m2・D以上であれば、親水化処理を速やかに行うことができる。
【0021】
疎水性多孔質膜への疎水性多孔質膜用親水化剤の付着率は、例えば、0.01〜1.0質量%、好ましくは、0.05〜0.5質量%であることが適当である。ここで付着率とは、親水化処理する前の疎水性多孔質膜の質量(W0)(g)と、親水化処理を施し、さらに乾燥した後の疎水性多孔質膜の質量(W1)(g)とを測定し、以下の式;
付着率(%)=[(W0(g)−W1(g))/W0(g)]×100
によって求めることができる。付着率が0.01質量%以上であれば、良好な親水性発現し、1.0質量%以下であれば、余分な疎水性多孔質膜用親水化剤を膜モジュール内に内包することもないので好ましい。
親水化の際の本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤の温度は、例えば、10〜50℃、好ましくは20〜30℃であることが適当である。10℃以上であれば、親水化速度が低下することもなく、十分に親水化処理が行われて透液性能を向上させることができる。また、50℃以下であれば、熱収縮及び親水化剤の熱劣化によって透液性能が低下したりすることもない。また、疎水性多孔質膜用親水化剤の浸漬時間は、疎水性多孔質膜用親水化剤を注入した後すぐに親水化剤を回収してもよいが、少なくとも30秒以上、10〜120分、好ましくは、30〜90分間、疎水性多孔質膜用親水化剤を疎水性多孔質膜に静置して浸漬することが、親水化を完全ならしめ、透液性能を向上するためにも好ましい。
【0022】
膜モジュール内に滞留している本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤は、親水化処理後、膜モジュールを傾けるなどしてモジュール内に滞留した余分な親水化剤を排出することによって、適宜回収することもできる。また、処理すべき液体や水を、入口を有する第1室側から出口を有する第2室側へ通すことによって疎水性多孔質膜用親水化剤を押し出すこともできる。これにより膜の親水化効率がより向上し、且つ、回収のための労力を削減できるため好ましい。ここで使用する水は、純水や精製水など、出口を有する第2室側を汚染しない程度の清浄な水を使用することが好ましい。より好ましくは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のような殺菌性のある液体であってもよい。また、通常の水道水やイオン交換水を孔径0.01〜1μmの中空糸膜で濾過した水であってもよい。
【0023】
さらに、図1を参照しながら、本発明の疎水性多孔質膜の親水化方法をより詳細に説明する。
図1は、本発明の膜モジュールを含む膜分離装置の概略図である。ここでは、例えば有機物を含む処理されるべき液体(被処理液)の微生物及び分離膜処理のための膜分離装置を例にとる。被処理液(3)は、まず膜分離槽(1)中に導入され、膜分離槽(1)中で微生物処理される。ここで、有機物としては、タンパク質・アミノ酸・糖類・脂質あるいは、その他の生分解性を有する物質を含むことが通常であり、これらの有機物であれば、微生物及び本発明の膜モジュールで有意に除去することができる。微生物としては、活性汚泥などに含まれるもの或いは、有用物質を生産するためのバイオリアクター用のものを含めて用いることができる。また、微生物処理に際しては、散気管(4)から膜分離槽(1)内に空気を送り込む。微生物処理された液体は、膜モジュール(2)内の疎水性多孔質膜(図示せず)を通して処理され(処理済液)、配管(5)を通り、排出される。
【0024】
本発明の疎水性多孔質膜を親水化処理する場合、まず配管(5)側から疎水性多孔質膜用親水化剤を膜モジュール(2)内の疎水性多孔質膜(図示せず)に導入する。膜モジュール(2)に複数の出口がある場合、1つの出口から余剰の疎水性多孔質膜用親水化剤を膜分離槽(1)に排出してもよい。その後、所定時間疎水性多孔質膜用親水化剤を疎水性多孔質膜中に保持する。所定時間経過後、清澄な水を配管(5)側から膜モジュール(2)内の疎水性多孔質膜(図示せず)に導入して、水と疎水性多孔質膜用親水化剤とを置換する。置換の際、散気装置(4)から膜分離槽(1)内に空気を送り込んでもよい。これにより、親水化が行われ、かつ、親水化処理後の処理液の初流中に含まれる疎水性多孔質膜用親水化剤の濃度を適宜下げることができる。
【0025】
このように、処理済液側から起泡性の低い界面活性剤の水溶液である疎水性多孔質膜用親水化剤を注入する本発明の親水化方法により、疎水性多孔質膜の少なくとも一部が乾燥して膜の透液性能(膜フラックス)が低下した場合であっても、少ない親水化剤使用量、労量、時間、費用で膜フラックスを回復させることができる。また、起泡性の低い界面活性剤を使用するので、親水化処理の結果、膜分離槽(1)内に界面活性剤の一部が流入しても、その後散気管(4)から気体をバブリングしても、界面活性剤による発泡を最小限に抑えることができ、膜分離槽(1)から泡や被処理液(3)が漏れ出すということもない。さらに、親水化処理後、少量の水を流せば疎水性多孔質膜用親水化剤を置換することができるので、処理済液への疎水性多孔質膜用親水化剤の混入を抑制して、円滑に膜分離装置を立ち上げることが可能である。加えて、従来のエタノールなどを使用する親水化法では、膜分離槽(1)内にエタノールが流入し、膜分離槽(1)内の溶解性CODを上昇する原因となり、円滑に膜分離装置を立ち上げることが困難となっていたが、本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤では、膜分離槽(1)内の溶解性CODの上昇を抑えることができる。CODの測定は、公知の方法を使用することができるが、例えば、JIS K0102に準拠した吸光度を測定することによって測定することができる。例えば、多孔質膜に単位面積当たり0.01m3/m2・Dの注入速度となるように水を通した場合、5日以内、好ましくは4日以内にCODの値が親水化処理前の値となることが適当である。
【0026】
(4)膜モジュールの検査・親水化方法
(4-1) 膜モジュールの検査方法
通常、膜モジュールは、上述したように本体、入口、出口及び多孔質膜を有し、多孔質膜は、本体を、入口を有する第1室と、出口を有する第2室とに分割するように本体内部に連結されている。しかし、本体、入口、出口及び多孔質膜等の各部材自体や、多孔質膜と本体内部との連結部分に欠陥(例えば、穴、亀裂、不完全な連結、多孔質膜の目詰まりなど)が存在すると、良好な膜モジュールとして機能しなくなる。従って、これらの欠陥を検査することが必要となる。
製品検査の代表的な方法の一つとして「バブルポイント法」という方法があげられる。この方法は、もともと、孔径評価を目的に開発された方法であるが、その方法の簡便さから、現在、精密濾過膜や限外濾過膜の完全性試験で多く用いられ、JIS K3832「精密濾過膜エレメントおよびモジュールのバブルポイント試験方法」にその方法が規定されている。
本発明の膜モジュールの検査方法は、具体的には、
(1)膜モジュールを、本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤に浸漬する工程、
(2) 検査用気体を前記入口から導入し、前記疎水性多孔質膜を通して前記出口から排出する工程;及び
(3)膜モジュールから排出される気泡を観察する工程、
から構成される。
好ましくは、(2)工程は、
(i)出口の先を閉じた状態で、検査用気体を膜モジュールの入口から導入し、
(ii)検査用気体を徐々に加圧していき、
(iii)加圧された検査用気体によって水が疎水性多孔質膜の細孔から押し出され、
(iv)検査用気体が、疎水性多孔質膜を通して当該膜から排出される、
ことによって行われる。
もし、膜に損傷や大きな孔があいていたりすると、期待値よりもきわめて低い圧力において空気が透過し始め、膜に欠陥があることを検知することができる。
【0027】
ここで、膜モジュールを浸漬する疎水性多孔質膜用親水化剤は、上述した本発明の低起泡性の界面活性剤及び任意の溶媒等を含むものである。膜モジュールは浸漬後すぐに検査用気体を導入してもよいが、所定時間膜モジュールを浸漬したままとすることが親水化を完全ならしめるためにも好ましい。膜モジュールの浸漬時間は、例えば30秒〜30分、好ましくは5〜20分とすることが適当である。
検査用気体としては、空気、窒素、アルゴン等の不活性気体等を使用することができる。検査用気体は、JIS K3832「精密濾過膜エレメントおよびモジュールのバブルポイント試験方法」に従うと5kPa以上1MPa以下の範囲で目標とする圧力まで徐々にかけて検査を行う。特にポッティング部分の欠陥などの工程上の大きな部位を見つける場合などは比較的低圧で見出すことが出来るので、10〜100KPa程度の範囲で加圧してもよい。
膜モジュールに導入された検査用気体は、出口から排出されるが、出口の端部を閉じて、入口、出口、本体等の接続部分の欠陥検査を行ってもよい。膜モジュールに検査用気体を導入し、膜モジュール全体、入口、出口、本体から放出され得る気泡、各部材の接続部分から放出され得る気泡、疎水性多孔質膜及びこれと本体との接続部分から放出され得る気泡を、目視にて観察する。
また表面張力の低い液体を用いると、純水での測定圧力よりも低い値で同様な欠陥部位の検出が可能となるので膜モジュールへの圧力負荷履歴を残さない形での検査が可能となるなどの付帯的な効果も上げられる。
【0028】
このように、本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤中で欠陥検査を行うことにより、検査用気体の通気による疎水性多孔質膜の乾燥・疎水化、及び疎水化に伴う透液性能の低下を抑制することができる。検査用気体を通気させても、本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤と接触することよって疎水性多孔質膜は自発的に水に濡れるようになるからである。また、本発明のような低起泡性の界面活性剤を使用することにより、欠陥部分から生じた泡が水面に滞留し欠陥箇所を見つけることが困難になることもない。つまり低起泡性の界面活性剤を用いることで膜モジュール内部から検査用加圧気体を導入しても膜モジュールを浸漬した溶液が発泡することはなく、またわずかに発泡してもすぐに消泡するので連続的に検査を実施することが可能となる。
さらにグリセリン・ポリエチレングリコール・アルコールなどの親水化剤を用いた場合に生ずる溶剤保管等の問題も回避できる。
【0029】
(4-2)膜モジュールの検査・親水化方法
上記気泡を観察して欠陥検査を行った後、さらに以下の工程;
(4)前記膜モジュールを乾燥する工程、
を行って、膜モジュールの親水化処理を行ってもよい。親水化処理は、主に、上記(1)工程の膜モジュールを本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤に浸漬することによって行われるが、その後に上記(4)工程において乾燥することによって、疎水性多孔質膜の表面が親水化された、乾燥状態のまま製品として流通させることができ、使用時には更に親水化処理を行うことなく高い透液性能を持って被処理液を通過さることができ、かつ、廃液として回収される処理済液の初流をできる限り少なくした膜モジュール製品を提供することができる。また、本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤は、低起泡性を有するので、このように上記欠陥検査と親水化処理を同時に行うことができる。
この、欠陥検査後の乾燥温度は、例えば、20〜120℃、好ましくは30〜60℃の範囲内である。乾燥温度が20℃以上であれば十分に高い透液性能を付与することができ、また、120℃以下であれば、疎水性多孔質膜の熱収縮及び本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤の熱劣化による透液性能の低下も抑えることができる。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
本発明の疎水性多孔質膜用親水化剤として、アセチレングリコール系界面活性剤(オルフィンEXP4036(日信化学工業(株)製)0.3質量%を含む水溶液(静的表面張力25.8mN/m、0.1質量%水溶液の静的表面張力に換算すると27.1mN/m)を使用した。
[比較例1]
親水化剤として、40質量%グリセリン水溶液(EtOHを15質量%含む)を使用した。
[比較例2]
親水化剤として、高級アルコール系エーテル型非イオン性界面活性剤 エマルゲンLS−106 1.0質量%水溶液(花王(株)製 :表面張力29.5mN/m)を使用した。
[比較例3]
親水化剤として、エタノール(和光純薬1級試薬99.5%)の30%水溶液を使用した。
【0031】
[多孔質膜1]
純水透過係数が、100m3/m2/時/MPa、外径2.4mm、孔径0.4μmのフッ化ビニリデリン樹脂製の中空糸膜(三菱レイヨン(株)製)からなる膜を疎水性多孔質膜として準備した。
[多孔質膜2]
純水透過係数が、30m3/m2/時/MPa、外径0.54mm、孔径0.4μmのポリエチレン樹脂製の中空糸膜(三菱レイヨン(株)製)からなる膜を疎水性多孔質膜として準備した。
[膜モジュール]
上記多孔質膜1を複数本束ね、膜面積4.4m2を有する膜モジュールを作製した。
【0032】
(1)起泡性試験
実施例1の疎水性多孔質膜用親水化剤をロス−マイルス法により起泡性の試験を行った。試験は、JIS K 3362に沿って行った。実施例1の疎水性多孔質膜用親水化剤の水溶液に更に水を加えて0.1質量%水溶液とした。その後、25℃において、起泡直後及び起泡から5分後の泡高さを測定した。
また、比較例2の界面活性剤を、上記と同様にロス−マイルス法により起泡性の試験を行った。
結果を以下の表1に示す。
表1

【0033】
(2)欠陥検査
[検査1] 多孔質膜1を実施例1の疎水性多孔質膜用親水化剤に10分間浸漬し、その後膜モジュールの入口から加圧空気(50kPa)を導入し、出口及び入口を塞いで密封した。膜モジュールの欠陥部分から起泡が発生したが、生じた泡はすぐに消失したため、欠陥点を見つける上で障害とならず、欠品検査の継続が容易だった。
[検査2] 多孔質膜1の代わりに多孔質膜2を使用する以外は、検査1と同様に膜モジュールを検査した。膜モジュールの欠陥部分から起泡が発生したが、生じた泡はすぐに消失したため、欠陥点を見つける上で障害とならず、欠品検査の継続が容易だった。
[比較検査1]実施例1の疎水性多孔質膜用親水化剤に10分間浸漬するかわりに、比較例2の界面活性剤に30分間浸漬する以外は、検査1と同様に膜モジュールを検査した。膜モジュールの欠陥部分から発生した泡は、水面で発泡し、この泡は水面上に残存してなかなか消えなかった。従って、欠陥検査は困難であった。
【0034】
(3)親水性及びCOD試験
[試験1] 欠陥のない多孔質膜1を実施例1の疎水性多孔質膜用親水化剤に10分間浸漬し、親水化処理を施した。その後、多孔質膜1を50℃で4時間乾燥し、水中において純水透過係数を測定した。なお、純水透過係数は、下式;
純水透過係数=[純水透過量(m3)]/[多孔質膜の表面積(m2)]/[透過時間(時)]/[純水の圧力(MPa)]
から求めた。
また、疎水性多孔質膜からの疎水性多孔質膜用親水化剤の溶出量を測定するために、膜モジュールに通水圧力0.1MPaで通水し、通水開始30分後に膜濾過水中のCODMn値を求めた。本発明におけるCODMnの測定には、JIS法(JIS K0102)に準拠した吸光度式のCODMn測定セット(セントラル科学(株)製)を使用した。
【0035】
[試験2] 欠陥のない多孔質膜2を実施例1の疎水性多孔質膜用親水化剤に10分間浸漬し、親水化処理を施した。その後、多孔質膜1を試験1と同様に50℃で4時間乾燥し、水中において純水透過係数を測定した。
[比較試験1] 親水化処理を行っていない、欠陥のない多孔質膜1を50℃で4時間乾燥した。その後、水中において純水透過係数を測定した。
[比較試験2] 欠陥のない多孔質膜1を比較例1の40質量%グリセリン水溶液に10秒間浸漬し、親水化処理を施した。その後、多孔質膜1を試験1と同様に50℃で4時間乾燥し、水中において純水透過係数を測定した。また、膜モジュールへの通水圧力0.1MPa・通水開始30分後のCODMn値を測定した。
[比較試験3] 欠陥のない多孔質膜1を比較例2の界面活性剤水溶液に10分間浸漬し、親水化処理を施した。その後、多孔質膜1を試験1と同様に50℃で4時間乾燥し、水中において純水透過係数を測定した。
【0036】
これらの結果を以下の表2に示す。


表2

試験1及び比較試験2は、エタノール(30%水溶液)によって同様に親水化・水置換した場合と同程度の純水透過係数を示していた。しかし、比較試験2は、グリセリンの溶出量が多い結果となった。
【0037】
(4)膜分離装置における疎水性多孔質膜の親水化試験
[試験3]
0.7m3の膜分離槽(1)を持つ膜分離装置の膜分離槽(1)内に被処理液(3)として、凝集沈殿などの前処理後の一般生活排水を満たした。膜分離槽(1)内に微生物として、活性汚泥を加えた。
膜分離槽(1)内に膜モジュール(2)を浸漬・設置し、配管(5)から膜モジュール(2)に実施例1の疎水性多孔質膜用親水化剤を、膜面積1m2あたり2リットルの量で、単位膜面積あたり0.01m3/m2・Dの注入速度となるように注入した。注入終了後、60分間静置し親水化処理を行った。配管(5)から膜モジュール(2)に、中空糸膜(孔径:0.1μm)でろ過した水を、膜面積1m2あたり2リットルの量で、単位膜面積あたり0.01m3/m2・Dの注入速度となるように注入して実施例1の疎水性多孔質膜用親水化剤を膜分離槽(1)内に押し出した。親水化処理後、ただちに散気管(4)から空気を曝気するとともに配管(5)から処理済液を排出して膜分離装置の運転を開始した。その後1週間、疎水性多孔質膜の純水透過係数と処理済液のCODMn値の測定を行った。
結果を以下の表3に示す。
【0038】
表3

親水化処理後の1週間に亘って、純水透過係数が急激に減少することはなく、親水化処理が十分に施されていることを確認した。また、散気管(4)からの空気の曝気により、被処理液(3)が発泡し、泡及び被処理液(3)が膜分離槽(1)から溢れることもなく、親水化処理直後から円滑に運転をおこなうことが可能であった。
処理済液のCODMn値は、親水化処理前と比較して15分後の初流において4mg/リットル程度の上昇がみられたが、運転開始から24時間経過後には親水化処理前と同レベルまでCODMn値は低下した。
【0039】
[比較試験4]
配管(5)から膜モジュール(2)に比較例1の40質量%グリセリン水溶液を使用した以外は、試験3と同様にして、疎水性多孔質膜の純水透過係数と処理済液のCODMn値の測定を行った。
結果を以下の表4に示す。
表4

処理済液のCODMn値は、親水化処理前と比較して1時間後の初流において2189mg/リットル程度の上昇がみられた。初流を含めて運転開始時の処理済液は廃液とせざるを得なかった。運転開始から24時間経過後においても親水化処理前よりも高濃度を示し、およそ5日後に投入以前のレベルまでCODMn値は低下した。
【0040】
[比較試験5]
配管(5)から膜モジュール(2)に比較例3のエタノール水溶液を使用した以外は、試験3と同様にして、疎水性多孔質膜の純水透過係数と処理済液のCODMn値の測定を行った。
結果を以下の表5に示す。
表5

親水化処理後の1週間において、純水透過係数が急激に減少することはなく、親水化処理が十分に施されていることを確認した。また、散気管(4)からの空気の曝気により、被処理液(3)がわずかに発泡したが、泡及び被処理液(3)が膜分離槽(1)から溢れることもなく、親水化処理直後から円滑に運転をおこなうことが可能であった。
処理済液のCODMn値は、親水化処理前と比較して0分後の初流において1830mg/リットル程度の上昇がみられたため、処理済液は廃液とせざるを得なかった。エタノールが生分解されるまで約1日を要し、親水化処理後すみやかに装置を立ち上げることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の膜の親水化処理方法を実施するのに好適な例の模式構成図である。
【符号の説明】
【0042】
1 膜分離槽
2 膜モジュール
3 被処理液
4 散気管
5 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を含み、該界面活性剤が、ロス−マイルス法(JIS K 3362)に従って、25℃における0.1質量%の前記界面活性剤水溶液を用いて測定した起泡直後の泡高さが40mm以下である起泡性を有することを特徴とする、疎水性多孔質膜用親水化剤。
【請求項2】
前記界面活性剤が、ロス−マイルス法(JIS K 3362)に従って、25℃における0.1質量%の前記界面活性剤水溶液を用いて測定した起泡から5分経過後の泡高さが20mm以下である起泡性を有する、請求項1に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤。
【請求項3】
前記界面活性剤が、0.1質量%の前記界面活性剤水溶液を用いた場合、30mN/m以下の静的表面張力を有する、請求項1又は2に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤。
【請求項4】
前記界面活性剤が、アセチレングリコール、該アセチレングリコールのエトキシル化物又はこれらの混合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤。
【請求項5】
疎水性多孔質膜と、請求項1〜4のいずれか1項に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤とを接触させることを含む、疎水性多孔質膜の親水化方法。
【請求項6】
更に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤と接触した前記疎水性多孔質膜を乾燥することを含む、請求項5に記載の疎水性多孔質膜の親水化方法。
【請求項7】
本体と、該本体に設けられた入口及び出口と、前記本体内に設けられた疎水性多孔質膜とを有する膜モジュールの検査方法であって、以下の工程:
(1)前記膜モジュールを、請求項1〜4のいずれか1項に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤に浸漬する工程;
(2)検査用気体を前記入口から導入し、前記疎水性多孔質膜を通して前記出口から排出する工程;及び
(3)前記膜モジュールから排出される気泡を観察する工程、
を含む、膜モジュールの検査方法。
【請求項8】
本体と、該本体に設けられた入口及び出口と、前記本体内に設けられた疎水性多孔質膜とを有する膜モジュールの検査・親水化方法であって、以下の工程:
(1)前記膜モジュールを、請求項1〜4のいずれか1項に記載の疎水性多孔質膜用親水化剤に浸漬する工程;
(2)検査用気体を前記入口から導入し、前記疎水性多孔質膜を通して前記出口から排出する工程;
(3)前記膜モジュールから排出される気泡を観察する工程;及び
(4)前記膜モジュールを乾燥する工程、
を含む、前記膜モジュールの検査・親水化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−136768(P2006−136768A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326725(P2004−326725)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】