説明

疲労の判定法

測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値を指標として疲労を判定することを特徴とする疲労の判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な疲労の判定方法に関する。さらに詳しくは、測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値を指標として疲労を判定する方法に関する。
【背景技術】
疲労の定義や概念は様々であるが、一般的に疲労とは、身体的あるいは精神的な負荷を連続して与えたときにみられる一時的な身体的及び精神的な作業能力の質的あるいは量的な低下を示すものと考えられている。また、一般に疲労には、慢性疲労症候群、筋肉疲労、精神疲労、免疫学的疲労、内分泌学的異常に伴う疲労、温熱疲労などが含まれるものと考えられている。
上記疲労のうち、慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)(以下、CFSと略す)とは、原因不明の慢性的な疲労感のために健全な社会生活が送れなくなるという病態をひとつの症候群として捉え、その病因・病態を明らかにするために作られた疾病概念である。これまで健康に生活していた人が風邪などに罹患したことがきっかけとなり、ある日突然発症してくることが多く、原因不明の激しい全身倦怠感とともに微熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛、脱力感、思考力・集中力の障害、抑うつ症状、睡眠障害などの症状が長期にわたって認められる(例えば、倉恒弘彦,医学のあゆみ,2003年2月1日,第204巻,第5号,p.381−386参照)。
1999年、日本国の厚生省(現:厚生労働省)の疲労調査研究班が15〜65歳の男女4,000名を対象に疲労の疫学調査を行ったところ、35.8%の人々が半年以上続く慢性的な疲労を認めており、その半数以上の人が疲労のために以前に比べ作業能力が低下していることを明らかとしている。また、日常生活や社会生活に重大な支障をきたすCFSの診断基準を満たす人が、日本国民の約0.3%認められることも判明している(例えば、蓑輪眞澄,「地域社会における疲労の実態とリスクファクター」,厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回復手法に関する研究」平成11年度研究業績報告書,2000年,p19−38参照)。
したがって、慢性的な疲労は現代社会における経済的損失という観点からも大きな社会問題となっており、その原因解明やそれに対する適切な診断法、治療法の確立が求められている。その病因に関しては、ウイルス感染症をはじめとして、種々の免疫異常、エネルギー代謝異常、精神心理学的原因など多くの面からの検討がなされているにも関らず、いまだ明らかにされていない(例えば、木谷照夫,「CFSの概念」,臨床化学,1993年,第29巻,第6号,p663−668参照)。
また、近年、疲労回復を効果とした医薬品、医薬部外品、健康食品などが開発され、販売されている。しかしながら、確立された疲労の判定法が存在しないために、その効果の実証があいまいなものになっているというのが現状である。これらの点からも、疲労の種類を分別でき、それらの疲労を定量化できる判定方法の開発が求められている。
従来、疲労の判定方法としては、本人の主観に基づく問診表などを使用する判定方法が主流であった。しかしながら、本人の主観に大きく影響されるため、正しく疲労を判定することができない場合がしばしばあった。本人の主観に影響されない客観的な疲労判定方法が求められている。
客観的な疲労判定方法として、単純な作業を繰り返し行い、それに対する作業能力の低下を調べる方法などが開発されている(例えば、梶本修身,医学のあゆみ,2003年2月1日,第204巻,第5号,p.377−380参照)。しかしながら、作業能力の個人差や疲労以外の要因の影響を受けるなど、この疲労判定方法単独で疲労を総合的に判定することは難しい。生理学的あるいは生化学的な面からも疲労を客観的に評価する必要があると考えられる。
疲労による生理機能の変化としては、心拍数、呼吸量の回復遅延、腱反射の刺激閾値の上昇、体位変化時の血圧調整機能の低下、皮膚2点間距離の拡大、明滅識別力の低下などが挙げられている。また、血液性状では、乳酸、ピルビン酸の上昇、pHの低下が示され、唾液ではpHの低下、尿ではタンパク質及びドナジオ反応陽性物質の排泄促進の増加などが報告されている。これらの変化を測定する疲労判定方法には、血液中の乳酸濃度を測定する方法などがある(例えば、特開平05−003798号公報参照)が、筋肉疲労に限定したものであり、この方法単独で個体レベルでの疲労を総合的に判定することは困難である。
また、従来、細胞や組織レベルでの生理活性を評価するために、アデニンヌクレオチドを指標とし、これらを定量分析することが行われてきた。これらの指標を疲労と関連づけて報告したものがあるが、これらは筋組織のアデニンヌクレオチドを定量分析し、部分的な筋肉疲労を判定するものであり、個体レベルでの疲労を判定するための指標として用いたものではない(例えば、K.Sahlin,Plasma hypoxanthine and ammonia in humans during prolonged exercise,Eur J Appl Physiol,1999年,第80巻,p417−422参照)。
また、慢性疲労症候群の患者と健常者の筋肉に負荷をかけて、部分的な筋組織でのATPレベルの変化において差を見出した例もあるが(例えば、Roger Wong,Skeletal muscle mettabolism in the chronic fatigue syndrome.In vivo assessment by 31P nuclear magnetic resonance spectroscopy.Chest,1992年12月,第102巻,第6号,p1716−1722参照)、部分的な負荷により個体レベルの疲労状態を判定することは危険であり、慢性疲労症候群の指標の一つとしては有用であるかもしれないが、この方法単独で、個体レベルの疲労を総合的に判定するのは難しい。
また、筋肉のATP、ADP、AMPを測定する方法としては、採取してきた筋組織を測定対象とする方法があるが、通常の臨床検査として実用化するのは困難である。また、放射線標識したリン(31P)をNMRで測定する方法なども知られているが、放射線を使用するため、実用化するのは難しく、筋組織は測定試料として適していないと考えられる。従って、個体レベルでの疲労を総合的に判定するには、臨床的に利用可能な測定試料を用い、客観的な指標を用いた方法が求められている。
【発明の開示】
本発明の目的は、新規な疲労の判定方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値を指標として用いることにより、疲労を判定することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(7)に関する。
(1) 測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値を指標として疲労を判定することを特徴とする疲労の判定方法。
(2) アデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値と疲労を関連づけることを特徴とする(1)記載の方法。
(3) 疲労を判定するための被験者から得られた測定試料の分析方法であって、測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析し、定量分析して得られた値と疲労を関連づけることを特徴とする分析方法。
(4) 被験者から得られた測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値と、健常人から得られた測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値とを比較することによって疲労を判定する(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) アデニンヌクレオチドが、AMP、ADPおよびATPからなる群より選択される少なくとも1種である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) アデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値が、濃度、構成比率、濃度比、アデニレートエネルギーチャージからなる群より選択される少なくとも1種である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) 測定試料が血液である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) 疲労が慢性疲労症候群である(1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の測定試料は、例えば被験者の唾液、尿、血液(全血、血清、血漿、赤血球、単核球、白血球、リンパ球など)、汗、涙等の各種体液、臓器組織などの各種組織などが挙げられるが、特に限定されない。また、本発明の測定試料は、アデニンヌクレオチドの定量分析に影響を与えない限り、水、緩衝液などの水溶液で希釈されて用いてもよいし、遠心分離などで処理されてもよい。さらに、必要に応じて、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、反応促進剤などの添加剤を添加してもよい。
本発明のアデニンヌクレオチドを定量分析する方法は、例えばホタルルシフェラーゼとピルベートオルトホスフェートジキナーゼを用いる方法、ホタルルシフェラーゼとアデニレートキナーゼとピルベートキナーゼを用いる方法などの酵素を用いる方法、液体クロマトグラフィーを用いる方法、電気化学的な手法を用いる方法などが挙げられるが、特に限定されない。
本発明で定量分析するアデニンヌクレオチドは、例えばAMP、ADP、ATP、サイクリックAMPなどが挙げられるが、特に限定されない。なお、アデニンヌクレオチド以外のイノシン酸、イノシン、ヒポキサンチン等の各種ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基等を含む核酸関連物質を定量分析することも可能であるが、本発明では、アデニンヌクレオチドを定量分析することが好ましい。
アデニンヌクレオチドを定量分析することにより得られる値は、各アデニンヌクレオチドの濃度、総アデニンヌクレオチドの濃度、各アデニンヌクレオチドの濃度比、各アデニンヌクレオチドの構成比率、アデニレートエネルギーチャージ(Adenylate energy charge、以下AECと略す)などが挙げられるが、特に限定されない。
総アデニンヌクレオチドの濃度とは、例えば、ATP+ADP+AMPの濃度を言うが、サイクリックAMPなどの他のアデニンヌクレオチド誘導体の濃度を含んでもよい。
各アデニンヌクレオチドの濃度比とは、例えば、ATP/AMPや、ADP/AMP等のような各アデニンヌクレオチド濃度の比を言う。
各アデニンヌクレオチドの構成比率とは、例えば、総アデニンヌクレオチド濃度(ATP+ADP+AMPの濃度)に対する各アデニンヌクレオチド濃度(ATP、ADP、AMP)の比率のことを言う。
AECとは、下記式(1)に示す計算式により得られる値である。これは、AMPに付きうる2個のリン酸のうち実際についているリン酸の割合を示す値であり、エネルギー充足率を示す値である。AMP、ADPが全てATPになればAECは1となる。
AEC=(ATP+0.5×ADP)/(ATP+ADP+AMP) (1)
本発明では、測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値を指標として疲労を判定することができる。例えば、アデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値と疲労を関連づけることによって疲労を判定することができる。
具体的には、被験者から得られた測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値と、健常人から得られた測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値とを比較することによって疲労を判定することができる。この健常人のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値との比較は、健常人から測定試料を直接採取して比較を行ってもよいし、または、予め健常人のアデニンヌクレオチドの定量分析して得られた値より算出した標準値データもしくは該データに基づき調製した標準試料から得られた値との比較を行ってもよい。該データは、複数の健常人から得られたデータでもよいし、あるいは、被験者本人の健常時に予め取得しておいた被験者本人のデータでもよい。
さらに具体的には、疲労状態には各アデニンヌクレオチド濃度の存在比や存在量が、健常状態と比較して異常値を示すので、これらを指標として、疲労と関連づけることにより、被験者の疲労状態や疲労の度合いを判定することができる。具体的には、被験者の測定試料の各アデニンヌクレオチド濃度、総アデニンヌクレオチド濃度、各アデニンヌクレオチドの濃度比、各アデニンヌクレオチドの構成比率およびAECから選択される少なくとも一つを健常人と比較した際に、両者のデータに有意差がある場合には被験者は疲労状態であると判定することができる。ここで、有意水準Pとしては、好ましくはP<0.05(5%)、さらに好ましくはP<0.01(1%)である。疲労状態におけるデータの異常値が、エネルギー源であるATPが生体内で減少していることに起因する場合もあるし、あるいは逆に、ATPがエネルギー源として利用されずに生体内で蓄積・増加していることに起因する場合もあるので、被験者のデータが健常人のデータと比較して有意に高い場合と有意に低い場合のいずれの場合においても、本発明の判定に利用することができる。
各アデニンヌクレオチドの濃度を求めるだけでは、体液の濃さなどの影響を受け、疲労の程度の差が明確でなくなってしまう場合があるが、各アデニンヌクレオチド濃度、総アデニンヌクレオチド濃度、各アデニンヌクレオチドの濃度比、各アデニンヌクレオチドの構成比率やAECを求めて、組合わせて指標とすることにより、疲労の程度の差をより明確に示すことができ、疲労の判定の精度を高めることが可能になる。
さらに、アデニンヌクレオチドの定量分析に必要な試薬および/または機器と、健常人のアデニンヌクレオチドの定量分析して得られた値より算出した標準値データおよび/または該データに基づき調製した標準試料を含むキットを用いて、被験者の疲労を判定することもできる。これら試薬、機器と、標準値データ、標準試料は、各々独立したキットとして組合わせて用いてもよいし、同一のキットに含めたものを用いてもよい。
本発明で判定される疲労の種類としては、例えば慢性疲労症候群、精神疲労、免疫学的疲労、内分泌学的異常に伴う疲労、温熱疲労などが挙げられるが、特に限定されない。また、本発明では、健常人との各アデニンヌクレオチドの濃度、総アデニンヌクレオチドの濃度、各アデニンヌクレオチドの濃度比、各アデニンヌクレオチドの構成比率やAECの差の大きさから判断することにより、これらの疲労の度合いを判定することも可能である。
本発明の被験者としては、上記のような疲労に基づく疾病の可能性がある患者であってもよいし、あるいは、これら疾病に羅患していないが自己の健康状態を確認する必要のある被験者であってもよい。従って、本発明の判定法によって、疲労に基づく疾病の患者をスクリーニングし、必要に応じてその疾病の度合いを判定することもできるし、あるいは、疲労に基づく疾病に羅患はしていないが疲労はしている被験者をスクリーニングし、必要に応じてその疲労の度合いを判定することもできる。また、本発明の判定法により、被験者が疲労状態ではないと判定される場合には、被験者が健康であると推測することもできる。さらに、被験者が疲労を感じながらも、本発明の判定法により疲労状態ではないと判定される場合には、被験者が疲労以外の疾病に羅患していると推測することができる。
本発明で疲労を判定する時期は、疲労が蓄積している過程、疲労が蓄積している時、疲労から回復している過程などが挙げられるが、特に限定されない。
本発明で疲労が判定される対象は、ヒトを代表として説明してきたが、本発明の判定法が適用される限り、ヒト以外の動物でもよい。
以下、実施例により本発明の特徴について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれによって何ら限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
第1図は、各アデニンヌクレオチド分別定量用試薬による検量線を示す図である。
第2図は、全血中各アデニンヌクレオチド濃度の比較を示す図である。
第3図は、血漿中各アデニンヌクレオチド濃度の比較を示す図である。
第4図は、血漿中各アデニンヌクレオチド構成比の比較を示す図である。
第5図は、赤血球中各アデニンヌクレオチド濃度の比較を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
健常人とCFS患者の体液または血液中アデニンヌクレオチドの定量分析:
健常人、及びCFS患者から体液または血液を採取し、アデニンヌクレオチドの定量分析を行い比較した。
アデニンヌクレオチド分別定量用試薬は下記の3種類(a.ATP測定用、b.ATP+AMP測定用、c.ATP+ADP+AMP測定用)を作製し使用した。
各発光試薬の組成は、以下の通りである。
a.ATP測定用:
2mM MES、40mM BES、5%シュークロース、1mM EDTA 2Na、0.2U/mLアデノシンリン酸デアミナーゼ、10.1mM酢酸マグネシウム、0.1mMジチオスレイトール、0.36GLU/mLルシフェラーゼ、0.4%牛血清アルブミン、4.2mMホスホエノールピルビン酸カリウム塩、0.6mMピロリン酸カリウム塩、1.6mMルシフェリン(pH8.0)。
b.ATP+AMP測定用:
2mM MES、40mM BES、5%シュークロース、1mM EDTA 2Na、0.2U/mLアデノシンリン酸デアミナーゼ、10.1mM酢酸マグネシウム、0.1mMジチオスレイトール、0.36GLU/mLルシフェラーゼ、0.4%牛血清アルブミン、4.2mMホスホエノールピルビン酸カリウム塩、0.6mMピロリン酸カリウム塩、1.6mMルシフェリン、2.68U/mLピルベートオルトホスフェートジキナーゼ(pH8.0)。
c.ATP+ADP+AMP測定用:
2mM MES、40mM BES、5%シュークロース、1mM EDTA 2Na、0.2U/mLアデノシンリン酸デアミナーゼ、10.1mM酢酸マグネシウム、0.1mMジチオスレイトール、0.36GLU/mLルシフェラーゼ、0.4%牛血清アルブミン、4.2mMホスホエノールピルビン酸カリウム塩、0.6mMピロリン酸カリウム塩、1.6mMルシフェリン、2.68U/mLピルベートオルトホスフェートジキナーゼ、200U/mLピルベートキナーゼ(pH8.0)。
各測定試薬の検量線は下記のようにして作製した。3種類(a.ATP測定用、b.ATP+AMP測定用、c.ATP+ADP+AMP測定用)のアデニンヌクレオチド分別定量試薬0.1mLに0.1mLの各濃度のアデニンヌクレオチドを添加し、そのときの発光量をルミテスターK−210(キッコーマン株式会社製)にて測定した。その結果を第1図に示す。
サンプル中のAMPの濃度は、下記式(2)により求めた。
AMP=(ATP+AMP)−ATP (2)
ADPの濃度は、下記式(3)により求めた。
ADP=(ATP+ADP+AMP)−(ATP+AMP) (3)
測定試料の調製及び測定方法は以下のとおりである。
1.全血
EDTA入り採血管で2mL程度末梢血を採取し、そのうち0.3mLを採取する。そこに等量の10%TCA添加し、ボルテックスにて十分攪拌したものを15,000rpmにて5分間遠心した後、上清を50mM Tris/HCl buffer(pH7.5)にて10,000倍希釈した(全血希釈液)。アデニンヌクレオチド量の測定は、3種類(a.ATP測定用、b.ATP+AMP測定用、c.ATP+ADP+AMP測定用)のアデニンヌクレオチド分別定量試薬0.1mLに0.1mL測定試料(全血希釈液)を添加し、そのときの発光量をルミテスターK−210にて測定した。ブランクとして50mM Tris/HCl buffer(pH7.5)、標準として50mM Tris/HCl buffer(pH7.5)にて希釈した1×10−7M ATPを用いた。
2.血漿
EDTA入り採血管で2mL程度末梢血を採取し、ゆっくり混合したものを、3,000rpmにて10分間遠心した。上層(血漿)0.5mLを採取し、そこに0.5mL 10%TCAを添加し、十分攪拌したものを15,000rpmにて5分間遠心した。その上清を50mM Tris/HCl buffer(pH7.5)にて100倍希釈した(血漿希釈液)。アデニンヌクレオチド量の測定は、全血と同様に行った。
3.赤血球
EDTA入り採血管で2mL程度末梢血を採取し、混合後、3,000rpmにて10分間遠心した。下層(赤血球)から0.1mL採取し、あらかじめ分注しておいた0.9mL 1%FBS含有PBS bufferに添加し10倍希釈した(赤血球10倍希釈液)。そこから0.5mLを採取し、0.5mL 10%TCAを添加し、十分攪拌したものを15,000rpmにて5分間遠心した後、50mM Tris/HCl buffer(pH7.5)にて1,000倍希釈を行った(赤血球希釈液)。アデニンヌクレオチド量の測定は、全血と同様に行った。また、赤血球希釈液について1%FBS含有PBSにて900倍したものを、血球測定板を用いて、血球数を測定した。
以下に結果及び考察を示す。なお、第2図〜第5図中で**は、有意水準P<0.01で有意差があることを示す。また、第2図〜第5図中で*は、有意水準P<0.05で有意差があることを示す。また、第2図〜第5図中のTotalとは総アデニンヌクレオチド濃度を示す。総アデニンヌクレオチド濃度とは、ATP+ADP+AMPの濃度のことを言う。
1.全血
第2図に各アデニンヌクレオチド濃度の結果を示す。CFS患者は健常人に比べて、99%の信頼性で有意にADP、ATP及び総アデニンヌクレオチド濃度が低かった。
2.血漿
第3図に各アデニンヌクレオチド濃度の結果を示す。CFS患者は健常人に比べて、99%の信頼性で有意にAMPの濃度が低かった。
第4図に各アデニンヌクレオチド構成比の結果を示す。CFS患者は健常人に比べて、99%の信頼性で有意にAMPの構成比が低かった。また、CFS患者は健常人に比べて、99%の信頼性で有意にATPの構成比が高かった。
3.赤血球
第5図に各アデニンヌクレオチド濃度の結果を示す。CFS患者は健常人に比べて、99%の信頼性で有意にATP及び総アデニンヌクレオチド濃度が低かった。
4.AEC
血漿においてAECを算出したところ、CFS患者は0.78±0.05、健常人は0.70±0.04であった。統計的に解析したところ、CFS患者は健常人に比べて99%の信頼性で有意にAECが高かった。
これらの結果から、アデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値を指標とすることにより、慢性疲労を判定することが可能であることが示された。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱すること無く様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年8月4日出願の日本特許出願(特願2003−285957)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明によると、測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値を指標として用いることにより、疲労を判定することが可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値を指標として疲労を判定することを特徴とする疲労の判定方法。
【請求項2】
アデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値と疲労を関連づけることを特徴とする請求の範囲1記載の方法。
【請求項3】
疲労を判定するための被験者から得られた測定試料の分析方法であって、測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析し、定量分析して得られた値と疲労を関連づけることを特徴とする分析方法。
【請求項4】
被験者から得られた測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値と、健常人から得られた測定試料中のアデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値とを比較することによって疲労を判定する請求の範囲1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アデニンヌクレオチドが、AMP、ADPおよびATPからなる群より選択される少なくとも1種である請求の範囲1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アデニンヌクレオチドを定量分析して得られた値が、濃度、構成比率、濃度比、アデニレートエネルギーチャージからなる群より選択される少なくとも1種である請求の範囲1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
測定試料が血液である請求の範囲1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
疲労が慢性疲労症候群である請求の範囲1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/012903
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512618(P2005−512618)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011509
【国際出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】