説明

疾患検出のための血小板バイオマーカー

驚くべきことに本発明者らは、血小板が、血管新生制御因子を隔絶し、およびそれらの分解を防止することを発見した。従って血小板中の血管新生制御因子のレベルを分析することにより、血管新生活性を、例え早期であっても検出することが現在可能である。血管新生活性の変化をモニタリングすることにより、癌または他の血管新生性疾患もしくは障害の存在を予測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年4月26日に出願された米国特許仮出願第60/565,286号、2004年8月2日に出願された米国特許仮出願第60/598,387号、2004年9月13日に出願された米国特許仮出願第60/609,692号、2004年12月3日に出願された米国特許仮出願第60/633,027号、および2004年12月6日に出願された米国特許仮出願第60/633,613号の、米国特許法119条(e)項の下での恩典を請求するものであり、これらの出願は全体が本明細書に参照として組入れられている。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血管新生は、組織へと新たに発生する血管の成長に関連する組織血管化のプロセスであり、および脈管新生(neo-vascularization)とも称される。血管は、それにより酸素および栄養素が生存組織へ供給され、かつ老廃物が生存組織から除去される手段である。適切であるならば、血管新生は、重要な生物学的プロセスである。例えば血管新生は、再生、発生および創傷修復に必須である。逆に不適切な血管新生は、負の結果に働く。例えば固形腫瘍が脈管化された後のみ、血管新生の結果として、腫瘍に十分な酸素および栄養素が供給され、腫瘍が迅速に成長し転移することを可能にする。
【0003】
血管新生-依存性疾患は、脈管成長を必要とするかまたは誘導する疾患である。このような疾患は、医学的処置が求められる全疾患のかなりの部分を占め、これは、免疫および非-免疫性の炎症、慢性関節リウマチおよび乾癬のような炎症障害、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、再狭窄、アテローム斑および骨粗鬆症における毛細血管増殖のような不適切または都合の悪い血管侵襲に関連した障害、ならびに固形腫瘍、固形腫瘍転移、血管線維腫、水晶体後線維増殖症、血管腫、カポジ肉腫などの腫瘍性腸を支援するために脈管新生が必要な癌に関連した障害を含む。
【0004】
Folkmanによる最近の検証において、40および50代の全女性の1/3よりも多くが、乳房に発生部位内腫瘍(in-situ tumor)を有すると推定された。このような腫瘍は、体内で休眠状態(dormant)にあり、あったとしても乳癌と診断されることは稀である。男性の前立腺癌に関して、同様の現象が存在すると考えられる。このようなデータを鑑み、癌は二つの異なる相を有すると定義することができる:(1)正常細胞を癌性細胞へ悪性転換する変異の獲得、および発生部位内腫瘍の形成;ならびに、(2)血管新生性表現型へのスイッチ、それにより発生部位内腫瘍に新たな血管が供給され、迅速な腫瘍成長および転移を支持する(Nature, Vol.427, Feb. 26, 2004, p.787(非特許文献1))。血管新生がスイッチする前に、すなわち発生部位内腫瘍の形成時に、腫瘍を検出する方法が必要である。
【0005】
血管新生は、毛細血管の成長速度に影響を及ぼす様々な正および負の作用因子の分子の間のバランスにより駆動される。今日までに、様々な血管新生および抗-血管新生因子がクローニングされ、および公知である(Leung et al., Science. 246:1306-9, 1989(非特許文献2);Ueno et al., Biochem Biophys Acta. 1382:17-22, 1998(非特許文献3);Miyazono et al., Prog Growth Factor Res. 3:207-17, 1991(非特許文献4))。血管内皮増殖因子(VEGF)およびトロンボスポンジン-1(TSP-1)は、最もよく研究された二つである。VEGFは、TSP-1に対抗する血管新生因子であり、これは抗-血管新生分子として機能する(Tuszynski et al., Bioessays. 18:71-6, 1996(非特許文献5);Dameron, et al, Science. 265:1582-4, 1994(非特許文献6))。正常な血管成長は、このような反対因子のバランスのとれたおよび調和された発現により生じる。正常な血管成長から制御されない血管成長へのスイッチは、血管新生刺激因子のアップレギュレーションまたは血管新生阻害因子のダウンレギュレーションにより生じ、このことは血管新生プロセスは、これらの対向する因子のぐらつきにより密に調節されることを示唆している(Bouck et al., Adv Cancer Res. 69:135-74, 1996(非特許文献7))。例えば腫瘍組織において、血管新生性表現型へのスイッチは、新生物形成性表現型への進行前の個別の工程として生じ、後生的(epigenetic)または遺伝的変化に連結している(Hanahan et al., Cell. 86:353-64, 1996(非特許文献8))。この理論を裏付けるものとして、VEGFのmRNA発現は、活性化されたras癌遺伝子を発現している侵攻性腫瘍細胞株においてアップレギュレーションされる(Rak et al., Neoplasia. 1:23-30, 1999(非特許文献9))。反対に、VEGFの転写は、変異体ras対立遺伝子の破壊後、これらの同じ腫瘍細胞株においてダウンレギュレーションされ、その結果VEGF発現を排除し、これらの細胞が、インビボにおいて腫瘍形成することを不可能にする(Stiegler et al, J Cell Physiol. 179:233-6, 1999(非特許文献10))。血管新生性表現型へのスイッチは、腫瘍抑制遺伝子p53の失活にも関連している(Holmgren et al., Oncogene. 17:819-24, 1998(非特許文献11))。反対に、欠失されたp16である細胞株は、野生型サイクリン依存性キナーゼ(cdk)インヒビターp16の回復時に、抗-血管新生性表現型に戻る(Harada et al., Cancer Research. 59:3783-3789, 1999(非特許文献12))。
【0006】
癌の大半は、MRI、例えばPSAのようなバイオマーカー、マンモグラフィー、触診、および組織生検などの技術を用い検出される。そのような方法を用いると、ほとんどの癌は、かなり発達したかまたは転移した後にのみ、発見される。従って早期治癒の機会が失われることが多い。これは一部、従来の診断法の低い精度、ならびに患者にとって経済的負担となり得るNMRS、断層撮影機などのような高価な装置の必要性のためである。さらに、組織生検のような正確なアッセイを受けるためには、患者は入院しなければならない。従って従来の診断法は、癌の早期診断には最適ではなく、前述の技術は癌の早期検出のための迅速または簡便な手法に適していない。
【0007】
血管新生プロセスは、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インターロイキン-8(IL-8)、胎盤-様増殖因子(PLGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)などのようなマイトジェンにより活性化された内皮細胞(EC)により分泌されたプロテアーゼによる基底膜の分解により始まると考えられる。これらの細胞は移動および増殖し、間質空隙への固形内皮細胞発芽の形成につながり、その後血管ループが形成され、毛細血管が密な接着部の形成および新規基底膜の付着を伴い、発生する。血管新生は、トロンボスポンジンのような血管新生抑制タンパク質のダウンレギュレーションにも関与することがある。
【0008】
血管新生増殖因子の治療的意味合いは、最初にFolkmanとその同僚らにより、30年も前に説明された(Folkman, N. Engl. J. Med., 285:1182-1186 (1971)(非特許文献13))。異常な血管新生は、体が血管新生の制御を少なくとも一部失う時に生じ、これは過剰なまたは不充分な血管成長を生じる。例えば潰瘍、脳卒中、および心臓発作などの状態は、自然治癒に通常必要な血管新生が存在しないことに起因することがある。対照的に、過剰な血管増殖は、腫瘍成長、腫瘍播種、未熟児または糖尿病性網膜症、乾癬および関節リウマチを生じ得る。
【0009】
血管新生制御因子は、半減期が非常に短く、例えば血漿中の天然のVEGFの半減期は、約3分間である。従ってそのような制御因子を検出するための、現在の血管新生増殖因子レベルを測定する方法は、血管新生活性の信頼できる指標を提供していない。
【0010】
癌ならびに血管新生性疾患および障害他の早期検出法も高度に望まれている。
【0011】
【非特許文献1】Nature, Vol.427, Feb. 26, 2004, p.787
【非特許文献2】Leung et al., Science. 246:1306-9, 1989
【非特許文献3】Ueno et al., Biochem Biophys Acta. 1382:17-22, 1998
【非特許文献4】Miyazono et al., Prog Growth Factor Res. 3:207-17, 1991
【非特許文献5】Tuszynski et al., Bioessays. 18:71-6, 1996
【非特許文献6】Dameron, et al, Science. 265:1582-4, 1994
【非特許文献7】Bouck et al., Adv Cancer Res. 69:135-74, 1996
【非特許文献8】Hanahan et al., Cell. 86:353-64, 1996
【非特許文献9】Rak et al., Neoplasia. 1:23-30, 1999
【非特許文献10】Stiegler et al, J Cell Physiol. 179:233-6, 1999
【非特許文献11】Holmgren et al., Oncogene. 17:819-24, 1998
【非特許文献12】Harada et al., Cancer Research. 59:3783-3789, 1999
【非特許文献13】Folkman, N. Engl. J. Med., 285:1182-1186 (1971)
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本発明者らは、驚くべきことに、血小板が、血管新生制御因子を隔絶し、それらの分解を防止することを発見した。従って血小板中の血管新生制御因子のレベルを分析することにより、血管新生活性を測定することが現在可能である。血管新生活性の変化をモニタリングすることにより、癌または他の血管新生性疾患もしくは障害の存在を予測することができる。
【0013】
従って本発明は、個体における癌の新規検出法を提供する。癌は早期に検出されることが好ましい。好ましい態様において、第一の時点で血小板が、個体(患者)から単離される。血小板は、少なくとも1種の血管新生制御因子のレベルについて分析される。血管新生制御因子は、正または負の血管新生制御因子であってよい。第二の遅れた時点で、血小板がその患者から単離され、かつ血管新生制御因子のレベルについて分析される。次に第一の試料の血小板由来の1種または複数の血管新生制御因子のレベルを、第二の試料の血小板由来のそれらの血管新生制御因子のレベルと比較する。第二の試料中の血小板中の少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの、第一の試料中のその正の血管新生制御因子のレベルと比較した場合の増加は、癌または他の血管新生性疾患もしくは障害の指標である。または、第二の試料中の血小板中の少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルの、第一の試料中のその負の血管新生制御因子のレベルと比較した場合の減少は、癌または他の血管新生性疾患もしくは障害の指標である。好ましい態様において、血小板は血液試料から単離される。好ましくは1種よりも多い血管新生制御因子が測定される。
【0014】
正の血管新生制御因子は、VEGF-A(VPC)、VEGF-C、bFGF、HGF、アンギオポイエチン-1、PDGF、EGF、IGF-1、IGF BP-3、BDNF、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、ビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ヘパラナーゼ、およびスフィンゴシン-1 PO4を含むが、これらに限定されない。
【0015】
負の血管新生制御因子は、PF-4、トロンボスポンジン-1および2、HGFのNK1、NK2、NK3断片、TGF-β-1、プラスミノーゲン(アンギオスタチン)、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1、α-2アンチプラスミンおよびそれらの断片、α-2マクログロブリン、メタロプロテイナーゼ(TIMP)の組織インヒビター、β-トロンボグロブリン、エンドスタチン、タムスタチン、BDNF(脳由来の神経栄養因子)および可溶性VEGFR2を含むが、これらに限定されない。
【0016】
正または負の血管新生制御因子を分析する方法は、例えばタンパク質アレイ、ELISA、ウェスタンブロット、表面増強レーザー脱離イオン化分光法、または質量分析を含む。
【0017】
一つの態様において、個体は癌の遺伝的素因を有する。この素因は、腫瘍抑制遺伝子の変異であり得る。腫瘍抑制遺伝子は、例えばBRCA1、BRCA2、p53、p10、LKB1、MSH2およびWT1を含む。
【0018】
別の態様において、個体は以前に癌の処置を受けている。または、患者は健常な無病の個体であると考えられる。
【0019】
好ましい態様において、第二の時点での血液の単離は、第一の単離後少なくとも1ヶ月で行う。しかし第二の時点は、第一の単離後、2ヶ月、6ヶ月、10ヶ月、または1年以降であり得る。
【0020】
本発明の方法を用いて検出および処置される癌は、胃腸癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、頭部および頸部癌、肺癌、非小細胞肺癌、神経系の癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、生殖-泌尿器癌、膀胱癌、血管芽細胞腫、神経芽細胞腫、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、および骨髄腫を含むが、これらに限定されない。
【0021】
本発明の一つの態様において、血管新生性疾患または障害、例えば癌に罹患した患者を処置する方法が説明されている。このような方法において、第一の血小板試料が、個体から第一の時点で単離され、および少なくとも1種の正または負の血管新生制御因子のレベルについて分析される。遅れた時点で単離された第二の血小板試料がこの個体から得られ、少なくとも1種の正または負の血管新生制御因子のレベルについて分析される。次に第一の血小板試料からの血管新生制御因子のレベルを、第二の血小板試料由来の血管新生制御因子のレベルと比較する。第二の試料中の血管新生制御因子のレベルの、第一の試料中のレベルと比較した場合の変化は、血管新生性疾患または障害の存在の指標である。診断後、療法が投与される。血管新生療法が好ましい。本発明の方法は、療法の進行をモニタリングするために使用することができる。この方法を使用する場合、正確な疾患または障害を診断することは必要ではない。その療法が、療法が作用していることを示す様式で、血小板プロファイルを変更することが必要な全てである。特定の療法が有効ではないことがわかった場合、この療法は、より有効な処置を提供するように変更することができる。
【0022】
好ましくは、抗癌療法は、血管新生インヒビターの投与に関連している。または、患者は、腫瘍が検出に十分な程に大きい場合は、化学療法、放射線、または外科的切除により処置されてもよい。別の態様において、患者は、前記抗癌療法の組合せが投与される。
【0023】
血小板は、抗-血管新生療法を送達するために利用することができる。本発明者らは驚くべきことに、血小板は、様々な血管新生因子を隔絶しおよびその分解を防止することを発見した。加えて本発明者らは、血小板は、例えば腫瘍のような生理的に適した場所でそれらの負荷(load)を選択的に放出することを発見した。従って一旦診断されると、血小板は抗癌化合物が負荷され、それが必要な患者へ送達される。そのような方法において、この化合物は、療法の必要な部位、すなわち腫瘍へ選択的に送達される。
【0024】
公知の血管新生インヒビターは、以下を含むが、これらに限定されるものではなく:直接的血管新生インヒビター、アンギオスタチン、ベバシズマブ(アバスチン)、アレステン、カンスタチン、カプロスタチン(Caplostatin)、コンブレタスタチン、エンドスタチン、NM-3、トロンボスポンジン、タムスタチン、2-メトキシエストラジオール、およびビタキシン;ならびに、間接的血管新生インヒビター:ZD1839(イレッサ)、ZD6474、OSI774(タルセバ)、CI1033、PKI1666、IMC225(エルビタックス)、PTK787、SU6668、SU11248、ハーセプチン、およびIFN-α、CELEBREX(登録商標)(セレコキシブ)、THALOMID(登録商標)(サリドマイド);およびIFN-αも、血管新生インヒビターとして認められる(Kerbel et al, Nature Reviews, Vol. 2, October 2002, pp. 727)。
【0025】
本発明は、「メトロノーム」化学療法を使用する、血管新生性疾患/障害の処置も包含している。メトロノーム化学療法は、低用量の化学療法薬の投与に関連している。Folkman、APIS 112:2004を参照されたい。
【0026】
診断後、本発明の方法は、使用される処置の評価を可能にする。処置後、これらの方法は、再発の早期検出において有用である。
【0027】
本発明の方法は、例えば網膜症、糖尿病性網膜症、または黄斑変性を含む、血管新生性疾患または障害の早期検出にも使用することができる。加えて本発明の方法は、発熱(pyresis)、疼痛、変形性関節炎、関節リウマチ、片頭痛、神経変性性疾患(例えば多発性硬化症)、アルツハイマー病、骨粗鬆症、喘息、紅斑および乾癬を含む、慢性炎症障害の早期検出および処置に使用することができる。
【0028】
別の本発明の態様において、特定の血管新生性疾患または障害、例えば癌に対応する血小板プロファイルが作製される。この血小板プロファイルは、標準またはレジスタとも称される。このような態様において、個体由来の血小板試料が単離され、特定の血管新生因子の存在または非存在について分析される。診断は、このプロファイルを標準と比較することにより行われる。例えば脂肪肉腫の診断について、血管新生因子プロファイル標準が、脂肪肉腫と診断された患者を分析することにより作製される。この標準を比較のために使用し、個体由来の血小板試料を分析することができる。個体(試験)試料がこの標準と相関する場合に、陽性診断が行われる。同様にこの種の診断は、いくつかの癌、血管新生性疾患および障害、炎症疾患もしくは障害、または血管異常に利用することができる。
【0029】
さらに本発明は、抗血管新生療法の有効性、または試験化合物の宿主における血小板血管新生制御因子のレベルの調整における有効性をモニタリングする方法を提供する。この態様において、第一の時点での個体(宿主または宿主動物)由来の血小板が得られ、正および負の血管新生制御因子の存在または非存在についてスクリーニングされる。血小板プロファイル(またはレジスタ)が作製される。次に抗血管新生療法(または試験化合物)が、個体(または宿主)へ投与される。第二の遅れた時点で、同じ個体(または宿主)から血小板が得られ、正および負の血管新生制御因子の存在または非存在についてスクリーニングされる。第二の血小板プロファイル(またはレジスタ)が得られる。この抗血管新生療法(または試験化合物)の有効性は、第一および第二の血小板プロファイルを比較することにより決定される。第一の試料と比較した第二の試料中の正の血管新生制御因子レベルの減少は、効果的抗血管新生療法の指標である。同様に第一の試料と比較した第二の試料中の負の血管新生制御因子レベルの増加は、効果的抗血管新生療法の指標である。この態様は、様々な療法の有効性分析の比較的容易かつ迅速な方法、または試験化合物有効性のスクリーニングを可能にする。特定の療法が有効ではないことがわかった場合、この療法はより効果的処置を提供するように変更される。
【0030】
宿主動物は、哺乳動物、例えばマウスおよびラットを含む。
【0031】
この態様において、個体(または宿主)由来の血小板の第二の試料は、抗血管新生療法の投与開始後いずれかの時点で得ることができる。例えば第二の血小板試料は、療法の開始後約1週間〜約1ヶ月で得ることができる。または第二の試料は、療法の開始後、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、または最大1年で得ることができる。
【0032】
二つよりも多い時点での分析も、本発明のこの態様、および他の態様に包含される。例えば血小板は、抗血管新生療法時にいくつかの時点で分析されてもよい。この方式において、抗血管新生療法の有効性は、経時的に分析することができ、かつ処置プロトコールの変更を分析することができる。
【0033】
血管新生制御因子(正および負の両方)は当業者に公知であるが、「血管新生制御因子」としてまだ定義されていないタンパク質または同定されていない公知のタンパク質であってもよい。従って本発明の方法は、公知または未知のタンパク質を、血管新生制御因子として同定することができる。血管新生制御因子は、以下の詳細な説明において、全体を通じバイオマーカーと称され、説明される。本発明の血管新生制御因子は、タンパク質、タンパク質断片、例えば切断されたタンパク質、および融合されたタンパク質、例えばbcr-ab1を含む。
【0034】
詳細な説明
本発明は、癌ならびに血管新生性疾患および障害の早期検出、診断、および処置の方法に関する。特に血小板は、休止している血小板の単離に関する標準臨床検査手法(Fujimura H, Thrombos Haemost 2002, 87(4):728-34)を用い、第一の時点で患者から単離される。これらの血小板は、少なくとも1種の正または少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析される。第二の遅れた時点で、血小板は個体から単離され、少なくとも1種の正または1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析される。次に第一の試料の血小板由来の血管新生制御因子のレベルが、第二の試料の血小板由来の血管新生制御因子のレベルと比較される。第一の試料中の血管新生制御因子のレベルと比較された、第二の試料由来の血小板中の血管新生制御因子のレベルの変化は、血管新生性疾患または障害、例えば癌の存在の指標である。
【0035】
特に、第一の試料の正および/または負の血管新生制御因子のレベルと比較した、第二の試料由来の血小板の少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの増加、または少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルの減少は、血管新生性疾患または障害、例えば癌の存在の指標である。
【0036】
本発明の正の血管新生制御因子は、VEGF-A(VPC)、VEGF-C、bFGF、HGF、アンギオポイエチン-1、PDGF、EGF、IGF-1、IGF BP-3、BDNF、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、ビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ヘパラナーゼ、およびスフィンゴシン-1 PO4を含むが、これらに限定されない。
【0037】
本発明により分析される負の血管新生制御因子は、PF-4、トロンボスポンジン-1および2、HGFのNK1、NK2、NK3断片、TGF-β-1、プラスミノーゲン(アンギオスタチン)、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1、α-2アンチプラスミンおよびそれらの断片、α-2 マクログロブリン、メタロプロテイナーゼ組織インヒビター(TIMP)、β-トロンボグロブリン、エンドスタチン、タムスタチン、および可溶性VEGFR2を含むが、これらに限定されない。
【0038】
公知の血管新生制御因子に加え、本発明は、血管新生制御因子として従来分類されてこなかったが、血小板中に認められる、タンパク質、タンパク質断片および融合タンパク質も包含している。本発明の方法は、そのようなタンパク質を発見することを提供する。
【0039】
本発明の方法により検出されるべき癌は、典型的には早期に検出される。例えば、腫瘍サイズはミリメーター範囲である。このような腫瘍は、例えば、MRI、触診、マンモグラフィーなどの、腫瘍検出の従来の手段を用い検出されることは稀である。検出される癌の例は、胃腸癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、頭部および頸部の癌、肺癌、非小細胞肺癌、神経系の癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、生殖-泌尿器癌、および膀胱癌を含むが、これらに限定されない。
【0040】
具体的には、健常かつ無病と考えられる個体、または癌の素因がある、癌を有するもしくは癌の処置歴がある個体の血液から単離された血小板内に含まれる正および負の血管新生制御因子は、本発明の方法により同定されかつ測定される。
【0041】
血小板の単離法は当業者に公知であり、本明細書に参照として組入れられる「Current Protocols in Immunology」(F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J. G. Seidman, K. StruhlおよびV. B. Chanda(編集), John Wiley & Sons, 2004)に記載されている。例えば全血は、ドナーからクエン酸ナトリウムまたは他の抗凝固剤を含有する容器(vacutainer)へ収集される。その後全血は、低g-力で遠心され、第一段階の多血小板血漿が他の成分から分離される。この手法の第二段階において、多血小板血漿は、新鮮なチューブへ分離され、血小板濃縮物が、血小板の高速での遠心分離により得られる。その後この血小板濃縮物は、標準溶解緩衝液中に再懸濁され、会合したタンパク質が単離される。
【0042】
血小板を含む細胞からのタンパク質の単離は当業者に公知であり、本明細書に参照として組入れられる「Current Protocols in Immunology」(F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J. G. Seidman, K. Struhl and V. B. Chanda(編集)、John Wiley & Sons, 2004)に記載されている。一例において、同じく本明細書に参照として組入れられる国際公開公報第02/077176号に説明されているように、この手法は一般に非常に少量の独自の緩衝液を使用する、一つの可溶化工程におけるタンパク質抽出が関連している。この手法の結果は、無傷のタンパク質であり、実質的に相互汚染がない。この単離されたタンパク質は、活性を維持し、いくつかのアッセイによる分析が可能である。
【0043】
タンパク質単離工程のための緩衝液は、1種または複数の緩衝液成分、塩、界面活性剤、プロテアーゼインヒビター、およびホスファターゼインヒビターを含有することができる。特に免疫組織化学的に分析されるタンパク質の抽出のための一つの効果的緩衝液は、緩衝液Tris-HCl、NaCl、界面活性剤Nonidet(g)P-40、EDTA、およびリン酸ナトリウム、プロテアーゼインヒビターであるアプロチニンおよびロイペプチン、ならびにホスファターゼインヒビターであるデオキシコレートナトリウム、オルトバナジン酸ナトリウム、および4-2アミノエチルベンゼンスルホニルフルオリド(AEBSF)を含有する。使用される別の塩は、LiClである一方グリセロールは、分画緩衝液に添加することができる適当な乳化剤である。追加の任意のプロテアーゼインヒビターは、ダイズトリプシンインヒビターおよびペプスタチンを含む。他の適当なホスファターゼインヒビターは、フェニルメチルスルホニルフルオリド、モリブデン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、およびβグリセロールリン酸塩を含む。
【0044】
2-Dゲル分析に関して、1%SDS溶液による単純な溶解が有効であるが、SELDI(登録商標)プロセスを使用する最終的分析は、標準PBS塩基中のTriton-X-100、界面活性剤(Sigma, セントルイス, MO)、MEGA109(ICN, アウロラ, OH)、およびオクチルB-グルコピラノシド(ESA, ケムスフォルド, MA)を必要とする。2-Dゲル分析前に使用される別の緩衝液は、7M尿素、2Mチオ尿素、CHAPS、MEGA 10、オクチルB-グルコピラノシド、Tris、DTT、トリブチルホスフィン、およびPharmalytesである。
【0045】
一旦タンパク質が可溶化されれば、多くの様々な免疫学的または生化学的分析を使用し、単離されたタンパク質を特徴付けることができる。ELISAおよびウェスタンブロットによる分析法は当業者に公知であり、さらに本明細書に参照として組入れられる「Current Protocols in Molecular Biology」(F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J. G. Seidman, K. StruhlおよびV. B. Chanda(編集)、John Wiley & Sons, 2004)に記載されている。質量分析を実行する方法は当業者に公知であり、さらに「Methods of Enzymology」、vol.193:「質量分析」(J. A. McCloskey編集、1990, Academic Press, ニューヨーク)に記載されている。
【0046】
実行することができるアッセイの一つの型は、可溶性イムノアッセイであり、ここでは関心対象のタンパク質に特異的な抗体が使用される。抗体は、化学発光、蛍光、または放射性マーカーなど、様々なマーカーで標識することができる。最良の結果に関して、微粒子酵素イムノアッセイ(MEIA)のような、高感度アッセイが使用される。血清中の免疫検出された分子を概算するために較正曲線を適用することにより、1細胞当たりの分子数を概算することができる。従って現在説明されている方法は、定量的イムノアッセイを提供し、これはインビボにおいて関心対象のタンパク質分子の実際の数を測定することができる。
【0047】
抽出されたタンパク質の分析に使用することができる第二の型のアッセイは、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)である。第一の時点から抽出されたタンパク質および第二の時点から抽出されたタンパク質の両方を流し、ブロットを比較することにより、差次的タンパク質発現が認められる。特に染色されたゲルをコンピュータで走査し、画像比較ソフトウェアを使用することにより、一つの細胞型に存在しかつ他方に存在しない(またはその逆)タンパク質の位置を決定することができる。さらにこれらの変更されたタンパク質は、それらが存在するゲルから分離され、質量分析MS-MSシークエンシングを用い、その配列がデータベースに存在する場合は、タンパク質を同定するために使用することができる。この方法において、第一および第二の時点の間のタンパク質の差異は、より完全に理解され得る。
【0048】
好ましい態様において、この分析は、表面増強レーザー脱離イオン化分光技術、またはSELDI(Ciphergen Biosystems Inc., Palo Alto, CA)を用いて実行することができる。
【0049】
このプロセスは、2-Dゲル分析により個別に焦点化されないタンパク質、特に非常に塩基性であり、非常に小さいか(<7000ダルトン)または細胞中で低もしくは中レベルで発現されるそのようなタンパク質を分離することができる。SELDIは同じく、ゲル分析よりもより迅速にタンパク質を分離する。SELDIは、粗試料からフェムトモルレベルで無傷のタンパク質を吸着および検出することができる「タンパク質チップ」を利用する。関心対象のタンパク質は、アルミニウム支持体上の8〜24の予め決定された領域にフォーマットされたタンパク質チップの規定された小さい表面積に直接適用される。これらの表面は、疎水性、カチオン性、もしくはアニオン性などの標準のクロマトグラフィー支持体、または精製されたタンパク質リガンド、受容体、抗体、もしくはDNAオリゴヌクレオチドなどの生化学的バイト分子で構成された、規定された化学「バイト」マトリックスで被覆される(Strauss, Science, 282:1406,1998を参照されたい)。血小板収集された試料の場合、可溶化されたタンパク質は、SELDIチップの表面に塗布される。タンパク質の表面への結合は、バイト表面の性質、および使用される洗浄条件によって左右される。その後結合したタンパク質の混合物が、感度のよい分子量検出器から作製されたレーザー脱離イオン化およびそれに続く飛行時間型(TOF)質量分析により特徴付けられる。これらのデータは、試料に関するタンパク質フィンガープリントを作製し、SELDIは、1000〜300,000ダルトンの実践的解像および検出作業範囲を有し、これは利用されるエネルギー吸収分子および使用されるバイト表面/洗浄条件により左右される。
【0050】
抗血管新生活性を有する抗癌療法の有効量の患者への投与は、本発明に含まれる。抗癌療法は、例えば血管新生インヒビターを投与することを含み得る。血管新生阻害因子は、当業者に公知の従来の方法、または本発明の方法、例えば血小板(患者もしくは適合したドナー)の血管新生阻害因子による負荷、およびそれらの負荷された血小板の必要な個体への投与などにより投与することができる。血管新生を阻害することにより、疾患に介入し、症状を改善し、および場合によっては疾患を治癒することができる。または抗癌療法は、化学療法または放射線療法を患者へ投与することに関連し得る。最後に抗癌療法は、腫瘍の外科的切除が関連し得る。処置は、前述の療法の組合せを含み得る。
【0051】
本発明は、血管新生性疾患または障害の早期検出、診断、および治療的処置に有用な方法にも関連している。
【0052】
血管新生性疾患または障害と称される、血管新生が重要であると考えられる様々な疾患または障害が存在する。本明細書において使用される用語「血管新生性疾患または障害または状態」は、異常なまたは望ましくない、例えば刺激されたまたは抑制された血管の形成により特徴付けられるか、またはこれにより引き起こされる。異常なまたは望ましくない血管新生は、特定疾患を直接引き起こすか、または存在する病態を増悪する。血管新生性疾患の例は、眼の障害、例えば糖尿病性網膜症、黄斑変性、血管新生緑内障、未熟児網膜症、角膜移植拒絶反応、水晶体後線維増殖症、ルベオーシス、介入に起因した網膜新生血管、眼の腫瘍およびトラコーマ、ならびに他の眼の異常な脈管新生状態を含み、ここで新生血管は、盲目に繋がることがある。
【0053】
本発明に包含される他の血管新生性疾患または障害は、新生物形成性疾患、例えば腫瘍で、膀胱、脳、乳房、頸部、結腸、直腸、腎臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、胃、および子宮を含むもの、腫瘍転移、良性腫瘍、例えば血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマ、および発熱性肉芽腫、心臓肥大などの肥大、免疫および非-免疫性炎症、慢性関節リウマチおよび乾癬などの炎症障害、再狭窄などの血管の不適切または不都合な侵襲が関連した障害、アテローム斑および骨粗鬆症における毛細血管増殖、ならびに癌に関連した障害、例えば固形腫瘍、固形腫瘍転移、血管線維腫、水晶体後線維増殖症、血管腫、カポジ肉腫などの、腫瘍成長を支援する脈管新生を必要とする癌を含むが、これらに限定されない。同じくリンパ球性悪性疾患、例えば慢性および急性リンパ球性白血病、およびリンパ腫を包含している。本発明の好ましい態様において、この方法は、癌の哺乳動物において血管新生を阻害することを指示している。
【0054】
本発明において試験される患者は、その多くの態様において、望ましくはヒト患者であるが、本発明の原則は、本発明が用語「患者」に含まれることが意図される全ての哺乳動物に関して有効であることを示すことが理解されるであろう。この状況において哺乳動物は、任意の哺乳動物種を含むことが理解される。
【0055】
別の態様において、本発明の方法を使用し、それが必要な患者における血管新生を刺激することができる。血小板は、1998年6月2日に公開された米国特許第5,759,542号に開示されたように、様々な疾患の処置における薬物送達適用に関して示唆されている。この特許は、血小板の外膜に結合されたウロキナーゼ-型プラスミノーゲン活性化因子のA-鎖を含む融合薬物から形成された複合体の調製を開示している。従って本発明に従い、血小板は単離され、かつ血管新生性刺激因子と会合され(「負荷され」)得る。こうして「負荷された」血小板は、血管化の必要な部位へ送達され得る。
【0056】
本発明の方法は、それが必要な患者における血管化を増加するために使用することができる。従って本発明の方法は、増大された血液循環から恩恵を受ける疾患または状態を処置するため、移植のための血管化部位を提供するため、創傷治癒を増強するため、組織形成、すなわち損傷または手術後の瘢痕を減少するため、特定部位での免疫応答の指定された抑制から恩恵を受ける状態のためなどに有用である。
【0057】
例えば、壊疽、糖尿病、循環不良、動脈硬化症、アテローム動脈硬化症、冠動脈疾患、大動脈瘤、下肢の動脈疾患、脳血管疾患など、増加血流から恩恵を受ける任意の状態が包含される。この様式において、本発明の方法は、血管新生刺激因子による血小板の前-負荷、およびそれらの患者への輸注、その結果の血管化の促進により、末梢血管疾患を処置するのに使用され得る。同様にこの方法は、特に心臓への血管が閉塞された場合、罹患したまたは低酸素の心臓を処置するのに有用である。動脈硬化症を伴う他の臓器は、これらの方法から恩恵を受ける。同様に、機能がより高度の血管化により増強された臓器は、血管新生刺激因子で前-負荷された血小板の投与により改善され得る。これは、機能の改善が必要な腎臓または他の臓器を含む。同じ様式で、動脈硬化の他の標的は、虚血性腸疾患、脳-血管疾患、血管が原因のインポテンスなどを含む。加えて心臓における新たな血管の形成は、冠動脈閉塞の結果から心筋層を保護する上で極めて重要である。虚血性心筋層を有する患者への負荷された血小板の投与は、側枝発生を増強し、壊死組織治癒を促進し、ならびに梗塞拡張および心肥大を予防する。
【0058】
血小板は、腫瘍に関連して新たに形成された血管中を循環するので、これらは局在化された様式で抗-有糸分裂薬を送達し、おそらく腫瘍の新生脈管中を循環する血小板は、抗血管新生薬を付着し、その結果腫瘍への血液供給をブロックすることができるであろう。選択された薬物、例えばエンドスタチンが負荷された血小板は、VEGFまたはbFGFのようなプロ-血管新生因子を移動させる。本発明に従い、抗血管新生因子が負荷された血小板が調製され、および治療的適用のために患者へ輸注される。この薬物-負荷血小板は特に、選択された薬物が、血小板-媒介血栓形成または血管損傷の部位に標的化されているような、血液で運搬される薬物送達に関して企図されている。そのような負荷された血小板は、少なくとも1種のアゴニスト、特にトロンビンに対し正常な反応を有する。腫瘍は、組織因子またはトロンビンのような血小板刺激因子の生理的アップレギュレーションを示すため、血管新生インヒビターが「前-負荷された」血小板は、腫瘍部位へ直接送達されるであろう。
【0059】
同じく本発明の方法に、血管新生制御因子を血小板から放出することが公知の物質(以後「放出物質」と称す)、ならびに別の態様において血管新生制御因子の放出を抑制することが公知の物質(以後「抑制物質」と称す)で「前-負荷された」これらの血小板の特定の時点および/または特定の組織での制御された放出が包含される。
【0060】
一つの態様において、放出物質は、プロテアーゼ-活性化受容体(PAR)のアゴニストである。好ましい態様において、PARアゴニストは、PAR4アゴニストである。別の態様において、放出物質は、PAR1アンタゴニストである。PAR1ならびにPAR4アゴニストおよびアンタゴニストは当業者に公知であり、かつ本発明に包含されており、例えば全体が本明細書に参照として組入れられるMa et al., PNAS, January 4, 2005, vol. 102(1))を参照されたい。
【0061】
PAR1およびPAR4は、対向する調節様式で作動し、血管新生制御因子の血小板からの放出に影響するため、アゴニストおよびアンタゴニストが、血管新生の抑制または活性化のいずれかが必要な患者へ投与されるであろう。この方法において、制御因子の必要な部位への送達は、PARアゴニストおよびアンタゴニストの個体への制御された送達により適応される。
【0062】
血管新生インヒビターは、アンギオスタチン、ベバシズマブ(アバスチン)、アレステン、カンスタチン、カプロスタチン(商標)、コンブレタスタチン、エンドスタチン、NM-3、トロンボスポンジン、タムスタチン、2-メトキシエストラジオール、ビタキシン、ZD 1839(イレッサ)、ZD6474、OSI774(タルセバ)、CI1033、PKI1666、IMC225(エルビタックス)、PTK787、SU6668、SU11248、ハーセプチン、およびIFN-α、CELEBREX(登録商標)(セレコキシブ)、THALOMID(登録商標)(サリドマイド)、ロシグリタゾン、ボルテゾミブ(ベルケード)、ビスホスホネート系ゾレドロン酸(ゾメタ)、およびIFN-αを含むが、これらに限定されない。
【0063】
別の本発明の態様において、血管新生性疾患または障害に関する血小板レジスタまたはプロファイルを作製する方法が説明される。この血小板プロファイルは、標準とも称される。この態様において、血小板は、公知の血管新生性疾患または障害を伴う第一群(血管新生群)および血管新生性疾患または障害を伴わない第二の群(対照群)である、個体の二群から単離される。血小板は、血小板会合バイオマーカーのレベルに関して分析される。バイオマーカーの平均値は、各群に関して算出され、評価され、これら二群間の差異を決定する。その後血小板レジスタまたはプロファイルは、特定の血管新生性疾患または障害について作製され、ここでレジスタは、対照群と比較して血管新生群において差次的に発現されているバイオマーカーを列記する。
【0064】
本発明は、血管新生に関連した状態、特に癌の検出および差別化を可能にする。本発明は、血管新生状態、特に癌状態に関連している臨床状態に関する、血液血小板中にバイオマーカーとして認められる生体分子の使用に関連している。本明細書において使用されるように、血管新生状態は、疾患対非-疾患状態の間、例えば癌対正常(すなわち非-癌)の間、特に血管新生性癌対良性または非-血管新生性癌の間の識別を含むが、これらに限定されない。
【0065】
実際驚くべきことに、多くの本発明のバイオマーカーは、良性対悪性の腫瘍、および血管新生性対非-血管新生性腫瘍などを識別するために使用することができる。血漿中のこれらのタンパク質の対応する増加を伴わない、血小板による血管新生制御因子の選択的取込みは、腫瘍が臨床的に検出される以前の、癌の診断、特に早期診断を補助するのに有用な測定値を提供する。さらに、血小板中の複数のバイオマーカーの多重化された測定値、すなわち血小板プロファイリングは、患者における血管新生活性の変化の非常に感度の良い指標を提供し、ならびに疾患特異的同定を提供することが見出された。このような血小板特性を使用し、現在利用可能な診断法では検出不能である顕微鏡サイズのヒト癌を検出することができる。休眠の非-血管新生性腫瘍のような血管新生タンパク質の小さい供給源でさえ、腫瘍それ自身が臨床的に検出される以前に、検出できるようにタンパク質プロファイルを変更することができる。ある態様において、血小板血管新生プロファイルは、広範な腫瘍の種類および腫瘍サイズを検出することができるため、単独のバイオマーカーよりもより包括的である。血小板血管新生プロファイルの相対変化は、早期の発生部位内癌から始まる、すなわち腫瘍が臨床的に検出される前の時点から始まる、その発達を通じた腫瘍の追跡を可能にし、これは(例えば血管新生インヒビターなどの無毒の薬物による処置後の)迅速な予後判定、早期処置、および疾患の進行または退縮の正確なモニタリングをもたらす。
【0066】
血小板は、多くの公知の血管新生調節タンパク質、例えばVEGF-A、VEGF-C、bFGF、HGF、アンギオポイエチン-1、PDGF、EGF、IGF-1、IGF BP-3、ビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ヘパラナーゼ、およびスフィンゴシン-1 PO4などの正の制御因子、ならびに/またはトロンボスポンジン、HGFのNK1/NK2/NK3断片、TGF-β-1、プラスミノーゲン(アンギオスタチン)、高分子量キニノーゲン(ドメイン5)、フィブロネクチン(Fibronection)(45kD断片)、EGF(断片)、α-2アンチプラスミン(断片)、β-トロンボグロブリン、エンドスタチンおよびBDNF(脳由来神経栄養因子)などの負の制御因子を取込み、かつ供給源(例えば腫瘍)が存在する限りは、これらを隔絶し続ける。本発明を血管新生制御因子の隔絶に関するいずれか特定の生物学的機構または役割に限定せず、血小板は、活性化された内皮細胞の部位へのこれらのタンパク質の効果的輸送体として作用すると考えられ、かつ血小板中のバイオマーカーのプロファイルは、腫瘍の存在の開始および成長を反映している。
【0067】
一つの局面において、本発明は、対象の血管新生状態を定量する方法を提供し、この方法は:(a)対象由来の生物学的試料中の少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーを測定する工程;および(b)この測定値を、血管新生状態と相関する工程;を含む。
【0068】
一つの態様において、少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーは、バイオマーカーをSELDIプローブの吸着材上に捕獲し、ならびに捕獲されたバイオマーカーを、レーザー脱離-イオン化質量分析により検出することにより測定される。ある態様において、吸着材は、カチオン交換吸着材、アニオン交換吸着材、金属キレートまたは疎水性吸着材である。別の態様において、吸着材は、生体特異的吸着材である。別の態様において、少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーは、イムノアッセイにより測定される。
【0069】
別の態様において、この相関はソフトウェア分類アルゴリズムにより実行される。ある態様において、血管新生状態は、癌対正常(非-癌)である。別の態様において、血管新生状態良性腫瘍対悪性腫瘍である。さらに別の態様において、血管新生状態は、血管新生性腫瘍対非-血管新生性腫瘍、すなわち休眠腫瘍である。さらに別の態様において、血管新生状態は、特定の型の癌であり、これは乳癌、肝臓癌、肺癌、血管芽細胞腫、膀胱癌、前立腺癌、胃癌、脳の癌、神経芽細胞腫、結腸癌、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、および骨髄腫を含む。
【0070】
さらに別の態様において、この方法はさらに:(c)血管新生状態を基に対象の処置を管理する工程を含む。この測定値が癌と相関する場合、対象処置の管理は、例えば化学療法薬、血管新生療法、放射線療法および/または手術を対象へ投与することを含む。
【0071】
さらなる態様において、この方法はさらに:(d)療法の有効性を評価するため、対象管理後、少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーを測定する工程を含む。
【0072】
さらに別の局面において、本発明は、以下を含むキットを提供する:(a)それに結合された少なくとも1種の捕獲剤を含む固相支持体であり、ここで捕獲剤は少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーに結合する、固相支持体;ならびに、(b)少なくとも1種のバイオマーカーを検出するための固相支持体の使用説明書。別の好ましい態様において、少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーは、以下のバイオマーカーからなる群より選択される:VEGF、PDGF、bFGF、PF4、CTAPIII、エンドスタチン、タムスタチン、メタロプロテアーゼの組織インヒビター、アポリポタンパク質A1、IL8、TGF、NGAL、MIP、メタロプロテアーゼ、BDNF、NGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、およびトロンボスポンジン、ならびにそれらの組合せ。
【0073】
一つの態様において、キットは、以下のバイオマーカーから選択されたバイオマーカーを検出するための、固相支持体の使用に関する説明書を提供する:VEGF、PDGF、bFGF、PF4、CTAPIII、エンドスタチン、タムスタチン、メタロプロテアーゼの組織インヒビター、アポリポタンパク質A1、ILS、TGF、NGAL、MIP、メタロプロテアーゼ、BDNF、NGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、およびトロンボスポンジン、ならびにそれらの組合せ。
【0074】
別の態様において、捕獲剤を含む固相支持体はSELDIプローブである。ある態様において、吸着材は、カチオン交換吸着材、アニオン交換吸着材、金属キレートまたは疎水性吸着材である。一部の好ましい態様において、捕獲剤はカチオン交換吸着材である。別の態様において、キットはさらに、(c)アニオン交換クロマトグラフィー吸収材、例えば4級アミン吸収材(例えば、BioSepra Q Ceramic HyperD(登録商標)F吸収材ビーズ)を含む。別の態様において、キットはさらに、(c)表1および表2の少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーを含む、容器を含む。
【0075】
さらなる局面において、本発明は、以下を含むキットを提供する:(a)それに結合された少なくとも1種の捕獲剤を含む固相支持体であり、ここで捕獲剤は少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーに結合する、固相支持体;ならびに、(b)少なくとも1種のバイオマーカーを含む容器。
【0076】
一つの態様において、キットは、以下のバイオマーカーから選択されたバイオマーカーを検出するための、固相支持体の使用に関する説明書を提供する:VEGF、PDGF、bFGF、PF4、CTAPIII、エンドスタチン、タムスタチン、メタロプロテアーゼの組織インヒビター、アポリポタンパク質A1、IL8、TGF、NGAL、MIP、メタロプロテアーゼ、BDNF、NGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、およびトロンボスポンジン。別の態様において、キットは、以下のバイオマーカーの各々を検出するための、固相支持体の使用に関する説明書:VEGF、PDGF、bFGF、PF4、CTAPIII、エンドスタチン、タムスタチン、メタロプロテアーゼの組織インヒビター、アポリポタンパク質A1、IL8、TGF、NGAL、MIP、メタロプロテアーゼ、BDNF、NGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、およびトロンボスポンジン、または、あるいは、加えてこれらの各バイオマーカーを検出に関する説明書を提供する。
【0077】
さらなる局面において、本発明は、ソフトウェア製品を提供し、このソフトウェア製品は:(a)試料に割当てられたデータにアクセスするコードであり、このデータが生物学的試料中の少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーの測定値を含む、コード;ならびに(b)試料の血管新生性疾患状態を、測定値の関数として分類する、分類アルゴリズムを実行するコード。
【0078】
一つの態様において、分類アルゴリズムは、VEGF、PDGF、bFGF、PF4、CTAPIII、エンドスタチン、タムスタチン、メタロプロテアーゼの組織インヒビター、アポリポタンパク質A1、IL8、TGF、NGAL、MIP、メタロプロテアーゼ、BDNF、NGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、およびトロンボスポンジンからなる群より選択されたバイオマーカーの測定値の関数として、試料の血管新生状態を分類する。別の態様において、分類アルゴリズムは、以下のバイオマーカーの各々の測定値の関数として、試料の血管新生状態を分類する:VEGF、PDGF、bFGF、PF4、CTAPIII、エンドスタチン、タムスタチン、メタロプロテアーゼの組織インヒビター、アポリポタンパク質A1、IL8、TGF、NGAL、MIP、メタロプロテアーゼ、BDNF、NGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、およびトロンボスポンジン。
【0079】
別の局面において、本発明は、表1および表2に記載された血小板会合バイオマーカーから選択された精製された生体分子、それに加えて表1および表2に記載されたバイオマーカーを検出する方法を提供する。
【0080】
異なる群のバイオマーカーの発現レベルの平均値または中央値が、統計学的に有意であると計算される場合、バイオマーカーは、一つの表現型状態(例えば有病)の対象から採取された試料において、別の表現型状態と比較して差次的に存在する有機生体分子である。統計学的有意性に関する一般的検定は、中でも、t-検定、ANOVA、クラスカス-ウォリス、ウィルコクソン、マン-ホイットニーおよびオッズ比である。バイオマーカーは、単独または組合せで、対象が一つの表現型状態または他の表現型状態に属する相対リスクの測定値を提供する。 従ってこれらは、疾患用マーカー(診断用)、薬物の治療有効性用マーカー(治療判定用(theranostics))および薬物毒性用マーカーとして有用である。
【0081】
血小板は、癌および血管新生(抗血管新生を含む)活性の差異により特徴付けられる他の状態に対するバイオマーカーの、驚くほど良好な供給源であることが見出された。特に血小板-由来のバイオマーカーは、非常に早期の疾患状態の変化を示し、および単に非-癌から癌を識別するのみでなく、悪性腫瘍から良性腫瘍も識別することができる。従って本発明は、癌、関節炎、および妊娠のようなできる限り多様な臨床状態の早期診断の手段を提供する。各臨床状態は、異なるバイオマーカーまたは複数のバイオマーカーのクラスターに変化を生じるため、異なる臨床状態を本発明を用いて識別することができる。従って所定の臨床状態に関するバイオマーカー発現パターンは、疾患または代謝状態のフィンガープリントまたはプロファイルであってもよい。従って本発明は、病態のバイオマーカー指標の発現レベル、または血管新生活性の変化に関連した代謝活性の変化を検出および決定する、キット、方法、および装置を提供する。
【0082】
加えて本発明は、血小板プロファイル標準、またはレジスタの作製を提供する。例えば癌であることが公知の個体から得た血小板試料を分析することにより、標準プロファイルまたはレジスタを作製することができる。このレジスタは、その後、試験試料と比較するための対照として使用してもよい。血小板プロファイルが有益である病態の例は、乳癌、肝臓癌、肺癌、血管芽細胞腫、膀胱癌、前立腺癌、胃癌、脳の癌、神経芽細胞腫、結腸癌、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、および骨髄腫を含むが、これらに限定されない。
【0083】
本発明の腫瘍成長の変動を検出する能力は、例えば、本明細書に提供された図および表に例示されている。図および表に示されたデータを得るために使用される方法は、実施例に詳細に説明されている。簡単に述べると、マウスに、予め決められた期間成長させた、休眠または血管新生性のいずれかの腫瘍を移植した。腫瘍が移植されなかった対照動物も調べられる。これらのマウスから血小板を採取し、ホモジネートし、実施例に説明されたように処理し、かつSELDI質量分析および当業者により実践される他の方法を用いて分析する。この方法を使用し、非常に早期の病態の変化を示すことができ、かつ単に非-癌から癌のみでなく、悪性腫瘍から良性腫瘍も識別することができる、血小板由来のバイオマーカーが同定される。例えばバイオマーカーPF4の発現は、腫瘍を有するマウスの血小板において増強される。驚くべきことに、PF4発現は、休眠(非-血管新生性)腫瘍を有するそのようなマウスにおいて最高である。図ならびに表1および2は、その二量体が約16.2の質量を有するバイオマーカーCTAP IIIに関する同様の結果を例示する。
【0084】
検出に適したバイオマーカーを作製するため、バイオマーカーの分子量のみが公知であることが必要であるが、観察されたピークの形状および強度ならびに他のパラメータも使用することができることに留意されたい。例えば、バイオマーカーに対する抗体が使用されるか、またはバイオマーカーの活性が公知の場合、酵素アッセイを使用し、バイオマーカーを検出および定量することができる。
【0085】
バイオマーカー
本発明は、血管新生性または抗血管新生活性により特徴付けられる状態、特に癌対正常(非-癌)または良性腫瘍対悪性疾患を有する対象の血小板中に差次的に存在するポリペプチドに基づくバイオマーカーを提供する。これらのバイオマーカーは、質量分析により決定されるような質量-対-電荷(change)比、飛行時間型質量分析におけるそれらのスペクトルピークの形状、および吸着材表面へのそれらの結合特性により特徴付けられる。これらの特徴は、特定の検出された生体分子が本発明のバイオマーカーであるかどうかを決定する方法を提供する。これらの特徴は、生体分子の固有の特徴を表し、生体分子が区別される方式に制限はない。一つの局面において、本発明はこれらのバイオマーカーの単離された形態を提供する。
【0086】
本発明の血小板会合バイオマーカーは、Ciphergen Biosystems, Inc.(フリーモント, CA)のProteinChipアレイ(「Ciphergen」)を利用するSELDI技術を用いて発見された。血小板試料が、3種の表現型状態の一つに収まるマウス対象から採取された:正常、良性腫瘍、悪性腫瘍。血小板が、尿素緩衝液により抽出され、その後分析のために直接、アニオン交換、カチオン交換、もしくはIMAC銅SELDIバイオチップのいずれかに適用されるか、またはアニオン交換ビーズ上で分画され、次に分析のためにカチオン交換SELDIバイオチップに適用される。試料中のポリペプチドのスペクトルは、Ciphergen PBSII質量分析計での飛行時間型質量分析により作製された。従って、含まれたスペクトルは、Ciphergen Biosystems, Inc.から入手されるBiomarker Wizard and Biomarker Patternソフトウェアにより、Ciphergen Express(商標)Data Managerソフトウェアにより解析された。各群の質量スペクトルには、散布図プロット解析が施される。マン-ホイットニー検定解析が使用され、3種の異なる群が比較され、二群間に有意差を有する(p<0.0001)タンパク質が選択される。これらの方法は、実施例の項により詳細に説明されている。
【0087】
本発明のバイオマーカーは、質量分析により決定されるそれらの質量-対-電荷比により特徴付けられてもよい。各バイオマーカーの質量-対-電荷比("M"値)は、標識された"マーカー"であってもよい。従って例えばM8206は、測定された質量-対-電荷比8206を有する。質量-対-電荷比は、Ciphergen Biosystems, Inc.のPBS II質量分析計で作製された質量スペクトルから決定される。この装置は、質量精度約±1000m/dmを有し、ここでmは質量であり、およびdmは0.5ピーク高での質量スペクトルピーク幅である。バイオマーカーの質量-対-電荷比は、Biomarker Wizard(商標)ソフトウェア(Ciphergen Biosystems, Inc.)を使用し決定される。Biomarker Wizardは、PBSIIにより決定された、分析された全スペクトルからの同じピークの質量-対-電荷比をクラスター化し、クラスター内の最大および最小質量-対-電荷-比を得、かつこれを2で除算することにより、質量-対-電荷比をバイオマーカーに割当てる。従って提供された質量はこれらの特異性を反映している。
【0088】
本発明のバイオマーカーはさらに、飛行時間型質量分析におけるそれらのスペクトルピークの形状を特徴とすることができる。バイオマーカーを表しているピークを示す質量スペクトルが、図に示されている。
【0089】
本発明のバイオマーカーはさらに、クロマトグラフィー表面へのそれらの結合特性を特徴とすることができる。例えば画分III(pH5洗浄)中に認められたマーカーは、pH6で結合するが、pH5での洗浄で溶離する。ほとんどのバイオマーカーは、50mM酢酸ナトリウム(pH5)で洗浄後に、カチオン交換吸着材(例えばCiphergen(登録商標)WCX ProteinChip(登録商標)アレイ)に結合し、および多くはIMACバイオチップに結合する。
【0090】
本発明のある種のバイオマーカーの同一性が決定されている。この決定を行う方法は、実施例の項に説明されている。その同一性が決定されているバイオマーカーに関して、そのバイオマーカーの存在は、分光学的および免疫学的検出を含むが、これらに限定されない当技術分野において公知の他の方法により決定することができる。
【0091】
本発明を使用し検出可能なバイオマーカーは、質量-対-電荷比、結合特性およびスペクトル形状により特徴付けることができるため、前もってそれらに特異的な同一性に関する知識がなくとも、これらは質量分析により検出することができる。しかし望ましいならば、その同一性が決定されていないバイオマーカーは、例えばそのポリペプチドのアミノ酸配列の決定により同定することができる。例えば、タンパク質バイオマーカーは、トリプシンまたはV8プロテアーゼなど多くの酵素によるペプチド-マッピングにより同定することができ、かつ消化断片の分子量を使用し、マッピングに使用したプロテアーゼにより作製された消化断片の分子量と一致する配列に関するデータベースを検索することができる。またはタンパク質バイオマーカーは、タンデム質量分析(MS)技術を用い配列決定することができる。この方法において、タンパク質は、例えばゲル電気泳動により単離される。バイオマーカーを含むバンドは切出され、そのタンパク質はプロテアーゼ消化に供される。個々のタンパク質断片はタンデムMSの第一の質量分析計により分離される。次にこの断片は衝突冷却に供される。これは、ペプチドを断片化し、ポリペプチドラダーを作製する。このポリペプチドラダーは次いでタンデムMSの第二の質量分析計により分析される。ポリペプチドラダーの一員の質量差は配列のアミノ酸を同定する。全体のタンパク質がこの様式で配列決定されるか、または配列断片がデータベースマイニングに供され、同一性候補が見出される。
【0092】
血小板会合バイオマーカーの修飾型の使用
複数の異なる形態で試料中に存在することの多いタンパク質は、検出上異なる質量により特徴付けられることが見出された。これらの型は、翻訳前または翻訳後修飾のいずれか、または両方から生じ得る。翻訳前修飾型は、アレル変種、スプライシング変種およびRNA編集型を含む。翻訳後修飾型は、タンパク質分解性切断(例えば、親タンパク質の断片化)、グリコシル化、リン酸化、脂質付加、酸化、メチル化、シスチニル化(cystinylation)、スルホン化およびアセチル化から生じる型を含む。特定のタンパク質およびその全ての修飾型を含む、タンパク質の収集は、本明細書において「タンパク質クラスター」と称する。特定のタンパク質それ自身は除外した、特定のタンパク質の修飾型の全ての収集は、本明細書において「修飾型タンパク質クラスター」と称される。本発明の任意のバイオマーカーの修飾型も、それら自身バイオマーカーとして使用することができる。特定の場合において、修飾型は、本明細書に説明された特定型よりも、診断においてより良い識別力を示すことがある。
【0093】
バイオマーカーの修飾型は、バイオマーカー由来の修飾型を検出および識別することができる任意の方法により、最初に検出することができる。最初の検出の好ましい方法は、例えば生体分子特異的な捕獲剤による、バイオマーカーおよびその修飾型の最初の捕獲、その後の捕獲されたタンパク質の質量分析による検出が関連している。より詳細には、これらのタンパク質は、生体分子特異的な捕獲剤、例えばバイオマーカーおよびその修飾型を認識する抗体、アプタマーまたはアフィボディ(Affibody)を用いて捕獲される。この方法は同様に、タンパク質に結合し、またはそうでなければ抗体により認識され、かつそれら自身バイオマーカーであり得るような、タンパク質相互作用の捕獲も生じるであろう。好ましくは、生体分子特異的な捕獲剤は固相に結合される。その後捕獲されたタンパク質は、SELDI質量分析によるか、またはそれらのタンパク質の捕獲剤からの溶離および溶離されたタンパク質の従来のMALDIもしくはSELDIによる検出により検出することができる。質量分析の使用は、質量を基に標識を必要とせずにタンパク質の修飾型を識別および定量することができるため、特に魅力的である。
【0094】
好ましくは、生体分子特異的な捕獲剤は、ビーズ、プレート、メンブレン、またはチップなどの固相に結合される。抗体のような生体分子を固相へ結合する方法は当技術分野において周知である。これらは、例えば、二官能性連結剤を使用するか、またはその固相は接触時に分子に結合するであろうエポキシドまたはイミダゾールのような反応基により誘導体化することができる。様々な標的タンパク質に対する生体分子特異的な捕獲剤は同じ場所で混合され得るか、またはこれらは異なる物理的またはアドレス可能な位置で固相に付着され得る。例えば、誘導体化されたビーズを伴う複数のカラムに負荷することができ、各カラムは単独のタンパク質クラスターを捕獲することができる。または、単独カラムに様々なタンパク質クラスターに対する捕獲剤で誘導体化された異なるビーズを充填し、これにより全ての分析物を一つの場所で捕獲することができる。従ってLuminex(オースチン, TX)のxMAP技術のような、抗体誘導体化ビーズに基づく技術を使用し、タンパク質クラスターを検出することができる。しかし生体分子特異的な捕獲剤は、それらを識別するために、クラスターの一員に対し特異的に指定されなければならない。
【0095】
さらに別の態様において、バイオチップ表面は、同じ位置または物理的に異なるアドレス可能な位置のいずれかで、タンパク質クラスターに対し指定された捕獲剤で誘導体化することができる。異なるアドレス可能な位置に異なるクラスターを捕獲する一つの利点は、分析が単純になることである。
【0096】
タンパク質の修飾型および関心対象の臨床パラメータとの相関関係の同定後、この修飾型は、本発明の任意の方法においてバイオマーカーとして使用することができる。この時点で、修飾型の検出は、親和性捕獲、それに続く質量分析、またはその修飾型に特に指定された従来のイムノアッセイを含む、任意の特定の検出法により実現することができる。イムノアッセイは、分析物を捕獲するために、抗体などの生体分子特異的な捕獲剤を必要とする。さらにアッセイが、タンパク質およびタンパク質修飾型を特異的に識別するようにデザインされなければならない場合がある。これは例えば、一つの抗体が1種よりも多い形態を捕獲し、かつ第二の異なるように標識された抗体が様々な形態に特異的に結合し、かつ異なる検出を提供するようなサンドイッチアッセイを使用することにより、実行することができる。抗体は、動物のその生体分子による免疫処置により作製することができる。本発明は、例えば、ELISAまたは蛍光に基づくイムノアッセイを含むサンドイッチイムノアッセイに加え、他の酵素イムノアッセイを含む従来のイムノアッセイを企図している。
【0097】
血小板会合バイオマーカーの検出
本発明のバイオマーカーは任意の適当な方法により検出することができる。この目的に使用することができる検出パラダイムは、光学的方法、電気化学的(ボルタンメトリーおよび電流測定技術)、原子間力顕微鏡、および電波法、例えば多極子共鳴スペクトルを含む。光学的方法の例は、共焦点および非共焦点の両方の顕微鏡に加え、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射光、透過光、および複屈折または屈折率(例えば、表面プラスモン共鳴、楕円偏光法、共鳴ミラー法、回折格子カプラー導波管(grating coupler waveguide)法または干渉分析)で検出される。
【0098】
請求された発明を使用する検出の前に、バイオマーカーは、検出と干渉し得る血液の他の成分からそれらを単離するために、分画されてもよい。分画は、クロマトグラフィー、アフィニティ精製、1Dおよび2Dマッピング、ならびに当業者に公知の他の精製法などの技術を使用する他の血液成分からの血小板単離、血小板成分の細胞下画分、および/または所望のバイオマーカーの血小板中に認められる他の生体分子からの分画を含む。一つの態様において、試料はバイオチップにより分析される。バイオチップは一般に固形基板を有し、捕獲剤(吸着材またはアフィニティ試薬とも称される)が付着された一般に平坦な表面を有する。頻繁に、バイオチップの表面は複数のアドレス可能な位置を含み、その各々はそこに結合された捕獲剤を有する。
【0099】
タンパク質バイオチップは、ポリペプチドの捕獲に適合されたバイオチップである。多くのタンパク質バイオチップが、当技術分野において説明されている。これらは、例えばCiphergen Biosystems, Inc.(フリーモント, CA)、Packard BioScience Company(メリデン, CT)、Zyomyx(ハイワード, CA)、Phylos(レキシントン, MA)およびBiacore(ウプスラ, スウェーデン)により製造されたタンパク質バイオチップを含む。このようなタンパク質バイオチップの例は、以下の特許または公開された特許出願に開示されている:米国特許第6,225,047号;PCT国際公開公報第99/51773号;米国特許第6,329,209号;PCT国際公開公報第00/56934号;および、米国特許第5,242,828号。
【0100】
質量分析による検出
本発明のバイオマーカーは、質量分析、気相イオンを検出するために質量分析計を使用する方法により検出することができる。質量分析計の例は、飛行時間型、磁場型、四重極フィルター型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン共鳴型、静電磁場型分析装置、およびこれらのハイブリッド型を含む。
【0101】
さらに好ましい方法において、質量分析計は、レーザー脱離/イオン化質量分析計である。レーザー脱離/イオン化質量分析において、質量分析計のプローブ境界を連結し、ならびにイオン化および質量分析計への導入のためのイオン化エネルギーに分析物を提示するように適合された装置である質量分析プローブの表面上に、分析物は配置される。レーザー脱離質量分析計は、分析物を表面から脱離し、それらを気化およびイオン化し、ならびに質量分析計のイオン光学(ion optics)に対しそれらを利用可能にするために、典型的には紫外線レーザー由来のレーザーエネルギーを使用するが、赤外線レーザー由来でもよい。
【0102】
SELDI
本発明で使用するのに好ましい質量分析法は、例えば米国特許第5,719,060号および第6,225,047号(両方ともHutchensおよびYip)において開示された「表面増強レーザー脱離イオン化スペクトル分析」または「SELDI」である。これは、分析物(ここでは1種または複数のバイオマーカー)が、SELDI質量分析プローブの表面上に捕獲されるような、脱離/イオン化気相イオン分光法(例えば質量分析)の方法を意味する。SELDIのいくつかの型が存在する。
【0103】
SELDIの一つの型は、「アフィニティ捕獲質量分析」と称される。これは、「表面-増強アフィニティ捕獲」または「SEAC」とも称される。この型は、プローブ表面上に物質と分析物の間の非-共有的アフィニティ相互作用(吸着)を介して分析物を捕獲する物質を有するような、プローブの使用に関連している。この物質は、「吸着材」、「捕獲剤」、「アフィニティ試薬」、または「結合部分」と様々に称される。このようなプローブは、「アフィニティ捕獲プローブ」と称され、「吸着表面」を有する。捕獲剤は、分析物への結合が可能である任意の物質であり得る。捕獲剤は、選択的表面の基板に直接付着されるか、またはこの基板は、例えば共有結合または配位共給結合を形成する反応を介して、捕獲剤へ結合することが可能である反応部分を保持する反応性表面を有する。エポキシドおよびカルボジイミダゾールが、抗体または細胞受容体のようなポリペプチド捕獲剤に共有結合するための有用な反応部分である。ニトリロ酢酸およびイミノ二酢酸は、ヒスチジン含有ペプチドと非-共有的に相互作用する金属イオンに結合するためにキレート剤として機能する有用な反応部分である。吸着材は一般に、クロマトグラフィー吸着材および生体分子特異的な吸着材として分類される。
【0104】
「クロマトグラフィー吸着材」は、典型的にはクロマトグラフィーにおいて使用される吸着材物質を意味する。クロマトグラフィー吸着材は、例えば、イオン交換物質、金属キレート剤(例えばニトリロ酢酸およびイミノ二酢酸)、不動化された金属キレート剤、疎水性相互作用性吸着材、親水性相互作用性吸着材、色素、単純な生体分子(例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、単純な糖および脂肪酸)および混合型吸着材(例えば、疎水性引力/静電気反発力吸着材)を含む。
【0105】
「生体分子特異的な吸着材」は、生体分子、例えば核酸分子(例えばアプタマー)、ポリペプチド、多糖、脂質、ステロイドまたはこれらの複合体(例えば糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えばDNA)-タンパク質複合体)を含む吸着材を意味する。特定の例において、生体分子特異的な吸着材は、多タンパク質複合体、生体膜またはウイルスなどの巨大分子構造であり得る。生体分子特異的な吸着材の例は、抗体、受容体タンパク質、および核酸である。生体分子特異的な吸着材は典型的に、標的分析物に対し、クロマトグラフィー吸着材よりもより高い特異性を有する。SELDIにおいて使用するための吸着材のさらなる例は、米国特許第6,225,047号に開示されている。「生体選択性吸着材」は、分析物へ少なくとも10-8Mの親和力で結合する吸着材を意味する。
【0106】
Ciphergen Biosystems, Inc.により作製されたタンパク質バイオチップは、アドレス可能な位置に、それらに付着されたクロマトグラフィー吸着材または生体分子特異的な吸着材を有する表面で構成される。Ciphergen ProteinChip(登録商標)アレイは、NP20(親水性);H4およびH50(疎水性);SAX-2、Q-10およびLSAX-30(アニオン交換);WCX-2、CM-10およびLWCX-30(カチオン交換);IMAC-3、IMAC-30および'MAC 40(金属キレート剤);ならびに、PS-10、PS-20(カルボイミダゾール、エポキシドと反応性表面)およびPG-20(Gタンパク質にカルボイミダゾールを介して結合)を含む。疎水性ProteinChipアレイは、イソプロピルまたはノニルフェノキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート官能性を有する。アニオン交換ProteinChipアレイは、4級アンモニウム官能性を有する。カチオン交換ProteinChipアレイは、カルボキシラート官能性を有する。不動化された金属キレート剤ProteinChipアレイは、銅、ニッケル、亜鉛およびガリウムなどの遷移金属イオンをキレートにより吸着するニトリロ酢酸官能性を有する。予備活性化されたProteinChipアレイは、共有結合のためにタンパク質上の基と反応することができる、カルボイミダゾールまたはエポキシド官能基を有する。
【0107】
このようなバイオチップはさらに、以下に開示されている:米国特許第6,579,719号(HutchensおよびYip、「Retentate Chromatography」2003年6月17日);PCT国際公開公報第00/66265号(Richら、「Probes for a Gas Phase Ion Spectrometer」、2000年11月9日);米国特許第6,555,813号(Beecherら、「Sample Holder with Hydrophobic Coating for Gas Phase Mass Spectrometer」、2003年4月29日);米国特許出願第US 2003/0032043 A1号(PohlおよびPapanu、「Latex Based Adsorbent Chip」、2002年7月16日);ならびに、PCT国際公開公報第03/040700号(Urnら、「Hydrophobic Surface Chip」、2003年5月15日);米国特許出願第US 2003/0218130 A1号(Boschettiら、「Biochips With Surfaces Coated With Polysaccharide-Based Hydrogels」、2003年4月14日)、および、米国特許出願第60/448,467号、「Photocrosslinked Hydrogel Surface Coatings」(Huangら、2003年2月21日出願)。
【0108】
一般に、吸着材表面を伴うプローブは、試料中に存在し得る1種または複数のバイオマーカーが吸着材と結合するのに十分な期間試料と接触される。インキュベーション期間後、未結合の物質を除去するために基板は洗浄される。任意の適当な洗浄液を使用することができ;好ましくは水性溶液が使用される。それに分子が結合し続ける程度は、洗浄のストリンジェンシーを調節することにより操作することができる。洗浄液の溶離特性は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピック度、界面活性剤強度、および温度により左右される。プローブがSEACおよびSENDの両特性を有する場合を除いて(本明細書に説明されたような)、次にエネルギー吸収分子が、結合したバイオマーカーを伴う基板に適用される。
【0109】
基板に結合したバイオマーカーは、飛行時間型質量分析計のような、気相イオン分光計において検出することができる。バイオマーカーは、レーザーのような、イオン化源によりイオン化され、発生したイオンは、イオン光学アッセンブリにより収集され、その後質量分析装置が、通過するイオンを分散および解析する。その後検出器は、検出されたイオンの情報を、質量-対-電荷比に翻訳する。バイオマーカーの検出は典型的に、シグナル強度の検出に関与するであろう。従って、バイオマーカーの量および質量の両方を決定することができる。
【0110】
SELDIの別の型は、表面-増強純脱離(Surface Enhanced Neat Desorption)(SEND)であり、これはプローブ表面に化学的に結合されているエネルギー吸収分子を含むプローブ("SENDプローブ")の使用に関連している。語句「エネルギー吸収分子」(EAM)は、レーザー脱離/イオン化供給源からエネルギーを吸収することが可能であり、その後これと接触している分析物分子の脱離およびイオン化に寄与する分子を意味する。EAM範疇は、MALDIにおいて使用される分子を含み、これは頻繁に「マトリックス」と称され、例としてシンナム酸誘導体、シナピン酸(SPA)、シアノ-ヒドロキシ-シンナム酸(CHCA)およびジヒドロキシ安息香酸、フェルラ酸、およびヒドロキシアセトフェノン誘導体がある。ある態様において、エネルギー吸収分子は、線状または架橋したポリマー、例えばポリメタクリレートに組込まれる。例えば、この組成物は、a-シアノ-4-メタクリロイルオキシシンナム酸およびアクリレートのコポリマーであり得る。別の態様において、この組成物は、a-シアノ-4-メタクリロイルオキシシンナム酸、アクリレートおよび3-(トリ-エトキシ)シリルプロピルメタクリレートのコポリマーである。別の態様において、この組成物は、a-シアノ-4-メタクリロイルオキシシンナム酸およびオクタデシルメタクリレート("C18 SEND")のコポリマーである。SENDはさらに、米国特許第6,124,137号およびPCT国際公開公報第03/64594号(Kitagawa、「Monomers And Polymers Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/ionization Of Analytes」、2003年8月7日)に開示されている。
【0111】
SEAC/SENDは、捕獲剤およびエネルギー吸収分子の両方が、試料を提示する表面に付着されているSELDIの変形である。従ってSEAC/SENDプローブは、外部マトリックスの適用を必要とせずに、親和性捕獲およびイオン化/脱離を介した分析物の捕獲が可能である。C18 SENDバイオチップは、捕獲剤として機能するC18部分、およびエネルギー吸収部分として機能するCHCA部分を含む、SEAC/SENDの型である。
【0112】
表面-増強感光性付着および放出(Surface Enhanced Photolabile Attachment and Release)(SEPAR)と称される別の型のSELDIは、分析物を共有結合し、その後光、例えばレーザー光への曝露後その部分の感光性結合の破壊により分析物を放出することができる、表面に付着した部分を有するプローブの使用に関連している(米国特許第5,719,060号参照)。SEPARおよび他のSELDIの型は、本発明に従い、バイオマーカーまたはバイオマーカープロファイルの検出に容易に適合される。
【0113】
他の質量分析法
別の質量分析法において、バイオマーカーは、バイオマーカーへ結合するクロマトグラフィー特性を有するクロマトグラフィー樹脂上に最初に捕獲される。この例において、これは様々な方法を含むことができる。例えば、CM Ceramic HyperD F樹脂などのカチオン交換樹脂上にバイオマーカーを捕獲し、樹脂を洗浄し、バイオマーカーを溶離し、MALDIにより検出することができる。またはこの方法は、アニオン交換樹脂上での試料の分画、その後のカチオン交換樹脂への適用により進行することができる。他の代替法おいて、アニオン交換樹脂上での分画およびMALDIによる直接検出を行うことができる。さらに別の方法において、バイオマーカーに結合する抗体を含むイムノクロマトグラフィー樹脂上にバイオマーカーを捕獲し、未結合の物質を除去するために樹脂を洗浄し、バイオマーカーを樹脂から溶離し、溶離したバイオマーカーをMALDIまたはSELDIにより検出することができる。
【0114】
データ解析
飛行時間型質量分析による分析物の分析は、飛行時間型スペクトルを作製する。最終的に分析される飛行時間型スペクトルは、典型的には試料に対するイオン化エネルギーの単独のパルスに由来したシグナルを示すのではなく、むしろ多くのパルスに由来したシグナルの合計を表す。これは、ノイズを低下し、かつ
動的範囲を増大する。この飛行時間型データはその後、データ処理に供される。CiphergenのProteinChip(登録商標)ソフトウェアにおいて、データ処理は、典型的にはTOF-to-M/Z変換し質量スペクトルを作製し、ベースラインを減算し、装置オフセット(instrument offset)を除き、高頻度ノイズフィルターにかけ、高頻度ノイズを低下することを含む。
【0115】
バイオマーカーの脱離および検出により作製されたデータは、プログラム可能なデジタルコンピュータを使用し解析することができる。このコンピュータプログラムは、データを解析し、検出されたバイオマーカーの数、ならびに任意でシグナル強度および検出された各バイオマーカーの決定された分子量を示す。データ解析は、バイオマーカーのシグナル強度を決定する工程、および予め決定された統計学的分布から逸脱するデータを除く工程を含むことができる。例えば、観察されたピークは、いくつかの参照に対する各ピークの高さを計算することにより、正規化することができる。この参照は、そのスケールではゼロに設定される装置およびエネルギー吸収分子のような化学物質により発生したバックグラウンドノイズであり得る。
【0116】
コンピュータは、得られたデータを表示のための様々なフォーマットに変換することができる。標準スペクトルを表示することができるが、一つの有用なフォーマットにおいては、ピーク高さおよび質量情報のみがスペクトルビュー(spectrum view)から保管され、よりクリーンな像を得、かつほぼ同一分子量を伴うバイオマーカーをより容易に見ることが可能である。別の有用なフォーマットにおいて、2種またはそれ以上スペクトルが比較され、都合の良いことに独自のバイオマーカーおよび試料間でアップ-またはダウン-レギュレーションされたバイオマーカーを強調する。これらのフォーマットを使用し、特定のバイオマーカーが試料中に存在するかどうかを容易に決定することができる。
【0117】
分析は一般に、分析物からのシグナルを表すスペクトルのピークの同定に関与する。ピーク選択は、視覚的に行うことができるが、ピークの検出を自動化するCiphergenのProteinChip(登録商標)ソフトウェアパッケージの一部のようなソフトウェアが利用可能である。一般にこのソフトウェアは、選択された閾値を上回るシグナル-ノイズ比を有するシグナルの同定、およびピークシグナルの重心でのピークの質量のラベリングにより機能する。一つの有用な適用において、多くのスペクトルが比較され、質量スペクトルのいくつかの選択された割合で存在する同一ピークを同定する。このソフトウェアの一つの型は、指定された質量範囲内の様々なスペクトルを表す全てのピークをクラスター化し、質量(M/Z)を質量(M/Z)クラスターの中間点近傍の全てのピークに割当てる。
【0118】
データ解析に使用されるソフトウェアは、そのシグナルが、本発明のバイオマーカーに対応するシグナルのピークを表すかどうかを決定するために、シグナルの分析にアルゴリズムを適用するコードを含むことができる。ソフトウェアは、観察されたバイオマーカーピークに関するデータを、分類樹またはANN解析に供し、試験下の特定の臨床パラメータの状態を示すバイオマーカーピークまたはバイオマーカーピークの組合せが存在するかどうかを決定することができる。このデータの解析は、試料の質量スペクトル分析から、直接または間接のいずれかで得られた様々なパラメータに対し「重要」であろう。これらのパラメータは、1つまたは複数のピークの存在または非存在、ピークまたはピーク群の形状、1つまたは複数のピークの高さ、1つまたは複数のピークの高さの対数、およびピーク高さデータの他の算術的操作を含むが、これらに限定されない。
【0119】
血小板会合バイオマーカーのSELDI検出に関する一般的プロトコール
前述のように、SELDI質量分析は、バイオマーカーの検出のために本発明により企図された好ましいプロトコールである。SELDIを使用するバイオマーカー検出の一般的プロトコールは、好ましくは、バイオマーカーを含有する試料の分画で始まり、これにより関心対象のバイオマーカーを試料の他の成分から少なくとも部分的に単離する。この方法が請求された本発明の感度を頻繁に改善するため、試料の早期分画は好ましい。予備分画の好ましい方法は、試料を、アニオン交換クロマトグラフィー物質、例えばQ HyperD(BioSepra, SA)に接触することに関連している。結合した物質には次に、pH9、pH7、pH5およびpH4の緩衝液を使用する段階的pH溶離に供され、バイオマーカーを含有する画分が収集される。
【0120】
試験される試料(好ましくは予備分画される)は次に、カチオン交換吸着材(好ましくはWCX ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems, Inc.))またはIMAC吸着材(好ましくはIMAC3 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems, Inc.))を含むアフィニティプローブと接触される。次にこのプローブは、バイオマーカーを保持する緩衝液で洗浄されると同時に、未結合の分子を洗浄除去する。バイオマーカーは、レーザー脱離/イオン化質量分析により検出される。
【0121】
または、バイオマーカーを認識する抗体が利用可能であり、PF4およびCTAP IIIによるように、生体分子特異的なプローブが構築される。このようなプローブは、予備活性化されたPSI 0またはPS20 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems, Inc.)のような、官能基化されたプローブの表面に抗体を接触することにより形成することができる。一旦プローブの表面に付着されれば、このプローブは、プローブ表面上に試料からバイオマーカーを捕獲するために使用され得る。その後バイオマーカーが、例えばレーザー脱離/イオン化質量分析により検出される。
【0122】
イムノアッセイによる検出
別の態様において、本発明のバイオマーカーは、イムノアッセイにより測定することができる。イムノアッセイは、バイオマーカーを捕獲するために、生体分子特異的な捕獲剤、例えば抗体が必要である。抗体は、当技術分野において周知の方法、例えば動物のバイオマーカーによる免疫処置により作製することができる。バイオマーカーは、それらの結合特性を基に、試料から単離することができる。またはポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列が公知であるならば、このポリペプチドは、当技術分野において周知の方法により、合成され、抗体を作製するために使用される。
【0123】
本発明は、例えば、ELISAまたは蛍光に基づくイムノアッセイを含むサンドイッチイムノアッセイ、さらには他の酵素イムノアッセイを含む、従来のイムノアッセイを企図している。SELDIに基づくイムノアッセイにおいて、バイオマーカーのための生体分子特異的な捕獲剤が、予備-活性化されたProteinChipアレイのような、MSプローブの表面に付着される。その後バイオマーカーは、この試薬によりバイオチップ上に特異的に捕獲され、捕獲されたバイオマーカーが質量分析により検出される。
【0124】
血管新生状態に対するバイオマーカー発現の変化の相関
本発明の使用は、医師が、増加した血管新生活性に関連した個体の代謝状態の変化を診断することを可能にする。これは、検出されようとする変化した代謝状態に関連した血管新生活性から生じる、血小板会合バイオマーカーの発現レベルの変化をモニタリングすることにより実現される。従って本発明の好ましいバイオマーカーは、血管新生または血管静止(angiostasis)に関連しているが、適当なバイオマーカーの正確な同定は、これらのバイオマーカーを使用し特許請求された本発明を実践する上での必要条件ではない。説明された様式での特許請求された本発明の実践は、癌、感染症、妊娠、組織損傷などの生理的変化に関連した血管新生活性の変化に反応して、個別にまたは群として変更された発現レベルを示す、単独の検出可能なマーカーまたは複数の検出可能なマーカーにより実行することができる。
【0125】
バイオマーカー発現は、様々な方式でモニタリングすることができる。例えば、単独の試料は、バイオマーカー発現レベルについて分析され、これは引き続き代表的対照集団の抽出から決定された対照閾値と比較される。または、一人の患者から経時的に採取された複数の試料を比較し、バイオマーカー発現レベルが増加または減少したかを決定することができる。この方法は、バイオマーカー発現に影響する疾患の処置後に患者の予後を評価する場合、特に有用である。さらに別のバイオマーカー評価は、当業者には容易に明らかであり、過度の実験を行うことなく分析を行うことができるであろう。
【0126】
単独マーカー
バイオマーカーが先に注記した判定基準に合致する、特に本発明の使用を通じて検出されようとしている疾患または代謝状態の変化と相関する限り、特許請求された本発明について個々のバイオマーカーの検出が企図されている。単独のバイオマーカーを、対象における血管新生状態を評価するため、例えば患者の血管新生活性に影響するある種の癌のような癌の存在または疾患経過の変更を診断するための、診断試験において使用することができる。語句「血管新生状態」は、中でも疾患対非-病態を、特に血管新生性癌対非-血管新生性休眠癌を識別することを含む。加えて、血管新生状態は、様々な種類の癌を含み得る。この状態を基に、追加の診断試験または治療的手法もしくはレジメンを含む、さらなる手法を示すことができる。
【0127】
表1Aおよび1Bおよび表2の各バイオマーカー、ならびに本発明の方法で同定された他のものは、血管新生状態の決定を補助する上で個別に有用である。本発明の一部の態様は、例えば、血小板調製物中の選択されたバイオマーカーの発現レベルの測定が関与している。バイオマーカーの発現レベルを、同じ個体において早期に検出された発現レベルと比較することにより、当業者は、疾患の経過、または疾患の処置に対する反応を決定することができる。または検出されたバイオマーカーの発現レベルは、適当な公知の表現型を示す個体の集団を調べることにより決定されたような、1種または複数の病態の閾値と比較することができる。本発明で個々に検出することによる診断または予後判定に適している公知のバイオマーカーの例は、VEGF、PDGF、bFGF、PF4、CTAPIII、エンドスタチン、タムスタチン、メタロプロテアーゼの組織インヒビター、アポリポタンパク質A1、IL8、TGF、NGAL、MIP、メタロプロテアーゼ、BDNF、NGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、およびトロンボスポンジンを含む。
【0128】
個々のバイオマーカーの血管新生活性の変更の指標としての使用は、典型的にバイオマーカーの検出、その後の決定されたバイオマーカー発現レベルの特定の疾患または代謝状態の変化に関連した閾値レベルとの相関に関与している。例えばSELDIバイオチップ上の捕獲、それに続く質量分析による検出、および測定値の診断量またはカットオフ値との第二の比較は、正の血管新生状態を負の血管新生状態から識別する。診断量は、対象が特定の血管新生状態を有すると分類されたものを上回るかまたは下回るような、バイオマーカーの測定された量を表している。例えばバイオマーカーが、腫瘍形成時に正常と比べアップレギュレーションされた場合は、診断カットオフ値を上回る測定量は、癌の診断を提供する。またはバイオマーカーが、侵攻性腫瘍の処置時にダウンレギュレーションされた場合は、診断カットオフ値を下回る測定量は、腫瘍退縮、または腫瘍の休眠状態への進行の診断を提供する。
【0129】
測定されたバイオマーカーレベルを使用し、特定の型の癌の診断を促進するか、または様々な癌型間で識別することもできる。例えばバイオマーカーまたはバイオマーカーの組合せが、他と比較してある種の癌において特定のレベルを上回りアップレギュレーションされる場合、診断カットオフ値を上回る測定されたバイオマーカー量は、特定型の癌が存在する指標を提供する。さらにバイオマーカーの組合せを使用し、以下に説明したような、追加の診断情報を提供することができる。本明細書に説明されたバイオマーカーおよび技術を使用し互いに同定されおよび識別される癌型の一部の例は、乳癌、肝臓癌、肺癌、血管芽細胞腫、神経芽細胞腫、膀胱癌、前立腺癌、胃癌、脳の癌、および結腸癌を含む。癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、および骨髄腫も、本明細書に説明されたバイオマーカーおよび方法を使用し、識別することができる。さらに異なる癌型は、バイオマーカーの異なるパターンを発現し、これにより互いに識別される。各癌型の特徴的パターンは、例えば学習アルゴリズムにより各癌型由来の試料を分析し、癌型ベースの試料を分類することができる分類アルゴリズムを作製することにより、以下に説明されたように、決定することができる。
【0130】
当技術分野において十分理解されるように、アッセイにおいて使用される特定の診断カットオフ値を調節することにより、診断医の好みに応じて診断アッセイの感度または特異性を増大することができる。特定の診断カットオフ値を、例えばここで実行したように、異なる血管新生状態の対象からの統計学的に有意な数の試料中のバイオマーカー量を測定し、特異性および感度に関して診断医の所望のレベルに適するカットオフ値を描くことにより、決定することができる。
【0131】
マーカーの組合せ
個々のバイオマーカーは、有用な診断バイオマーカーであると同時に、バイオマーカーの組合せは、単独のバイオマーカーのみよりも、特定の状態のより確かな値を提供できることが認められる。特に試料中の複数のバイオマーカーの検出は、試験の感度および/または特異性を増加することができる。本発明の状況において、少なくとも2種、好ましくは3、4、5、6、または7種、より好ましくは10、15、または20種の異なるバイオマーカー発現レベルが、疾患の診断または代謝状態の変化において決定される。組合せて使用することができるバイオマーカーの例は、PF4、VEGF、PDGF、bFGF、PDECGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、エンドスタチン、およびトロンボスポンジンを含む。本発明の好ましい態様は、bFGF、ならびにVEGF、PDGF、PDECGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、PF4、アンギオスタチン、エンドスタチン、およびトロンボスポンジンからなる群より選択される、少なくとも1種の他のバイオマーカーを含む複数のバイオマーカーを検出する。別の好ましい態様は、PF4、ならびにVEGF、PDGF、bFGF、PDECGF、CTGF、アンギオゲニン、アンギオポイエチン、アンギオスタチン、エンドスタチン、およびトロンボスポンジンから選択された少なくとも1種の他のバイオマーカーを含む複数のバイオマーカーを検出する。
【0132】
腫瘍状態の定量のための分類アルゴリズムの作製
前述のように、検出されたバイオマーカー発現レベルの分析は、手作業で、またはコンピュータソフトウェアを用い自動的に行うことができる。単独の試料分析が行なわれるか、または複数の試料分析が行われ、複数の試料の各々は、処置または評価の過程で、適当な時点で試験されている個体から採取される。決定は、疾患の処置時の進行または代謝状態の変化のモニタリング、および疾患または代謝状態の変化の診断の両方のために使用されるので、分析精度は特に重要である。特許請求された本発明の好ましい態様において、患者処置の管理は、評価されている患者の疾患または代謝状態を正確に反映するように発現レベルを分類することを基にしている。
【0133】
本発明での使用に適した多くの異なる分類戦略が、当技術分野において公知である。好ましい戦略は、疾患進行の明確な段階を伴う、バイオマーカーの明白な発現レベルを同定する。例えば腫瘍成長において、腫瘍は、発生期の形成から転移まで連続段階で進行する。従って適当な分類計画は、腫瘍成長および/または転移活性で特徴付けられた「侵攻性」;成長または活動的転移をしていない腫瘍を同定する、休眠;例えば化学療法後の収縮している腫瘍を同定する、退縮;および、腫瘍なし;を含むことができる。
【0134】
一部の態様において、次に「既知試料」などの試料を用い作製されたスペクトル(例えば質量スペクトルまたは飛行時間型スペクトル)から得たデータを用い、分類モデルを「トレーニング(train)することができる。「既知試料」は、予め分類された試料である。スペクトルから得、かつ分類モデルの形成に使用したデータは、「トレーニングデータセット」と称される。一旦トレーニングされると、分類モデルは、未知の試料を用いて作製されたスペクトルから得たデータにおいてパターンを認識する。その後分類モデルを使用し、未知の試料をクラスに分類する。これは、例えば特定の生物学的試料がある生物学的状態(例えば罹患対未罹患)に関連しているかどうかを予測する場合に有用であり得る。
【0135】
分類モデルの作製に使用されるトレーニングデータセットは、生データまたは予備処理されたデータを含んでもよい。一部の態様において、生データは、飛行時間型スペクトルまたは質量スペクトルから直接入手することができ、その後任意で先に説明されたように「予備処理」される。
【0136】
分類モデルは、データに存在する主観的パラメータを基にしたデータ本体のクラスへの差別化を試みる適当な統計分類(または学習)法を用いて作製することができる。分類法は、教師ありまたは教師なしのいずれかであってよい。教師ありまたは教師なしの分類プロセスの例は、Jainの論文「Statistical Pattern Recognition: A Review」、IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence、22巻1号、2000年1月に記載されており、その内容は本明細書に参照として組入れられている。
【0137】
教師あり分類において、既知のカテゴリの例を含むトレーニングデータが、既知のクラスの各々を定義する関係の1種または複数のセットを学習する、学習機構に提示される。次に新規データが、この学習機構に適用され、これは次に新規データを、学習した関係を用いて分類する。教師あり分類プロセスの例は、線形回帰法(例えば、重回帰分析(MLR)、偏最小二乗(PLS)回帰および主成分回帰分析(PCR))、二分決定ツリー(例えば、CART-分類および回帰ツリーのような帰納的分配法)、バックプロパゲーションネットワークのような人工ニューラルネットワーク、判別分析(例えば、ベイズ識別子またはフィッシャー分析)、ロジスティック識別子、およびサポートベクター識別子(サポートベクターマシン)である。
【0138】
好ましい教師あり分類法は、帰納的分配法である。帰納的分配法は、帰納的分配ツリーを使用し、未知の試料由来のスペクトルを分類する。帰納的分配法に関するさらなる詳細は、Paulseらの米国特許出願第2002 0138208 A1号「Method for analyzing mass spectra」に開示されている。
【0139】
別の態様において、作製された分類モデルは、教師なし学習法を用いて形成することができる。教師なし分類は、トレーニングデータセットが得られるスペクトルを予め分類することなく、トレーニングデータセットにおける類似性を基に分類を学習することを試みる。教師なし学習法はクラスター分析を含む。クラスター分析は、データを「クラスター」、または理想的には互いに非常に類似し、かつ他のクラスターの一員とは非類似の一員を有する群に分けることを試みる。次に類似度は、データアイテム間の距離を測定する距離測定を用いて測定され、互いに近いデータアイテムを共にクラスター化する。クラスター化技術は、MacQueen K-平均アルゴリズムおよびKohonen自己組織化マップアルゴリズムを含む。
【0140】
生物学的情報の分類に使用されると主張される学習アルゴリズムは、例えばPCT国際公開公報第01/31580号(Barnhillら、「Methods and devices for identifying patterns in biological systems and methods of use thereof」)、米国特許出願第2002 0193950 A1号(Gavinら「Method for analyzing mass spectra」)、米国特許出願第2003 0004402 A1号(Hittら、「Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data」)、および米国特許出願第2003 0055615 A1号(ZhangおよびZhang、「Systems and methods for processing biological expression data」)に開示されている。
【0141】
これらの分類モデルは、適当なデジタルコンピュータを用い、形成および使用することができる。適当なデジタルコンピュータは、Unix、Windows(商標)、またはLinux基本オペレーションシステムのような、任意の標準または特定のオペレーションシステムを使用する、マイクロコンピュータ、小型コンピュータおよび大型コンピュータを含む。使用することができるデジタルコンピュータは、関心対象のスペクトルの作製に使用される質量分析計から物理的に離れていても、または質量分析計に接続されていてもよい。
【0142】
本発明の態様のトレーニングデータセットおよび分類モデルは、デジタルコンピュータにより実行または使用されるコンピュータコードにより具体化することができる。コンピュータコードは、光学ディスクまたは磁気ディスク、スティック、テープなどの、任意の適当なコンピュータで読み込み可能な媒体に保存することができ、C、C++、ビジュアルベーシックなどの適当なコンピュータプログラム言語で記すことができる。
【0143】
前述の学習アルゴリズムは、既に発見されたバイオマーカーの分類アルゴリズムの開発、または血管新生状態を決定するための新規のバイオマーカーの発見の両方に有用である。次に分類アルゴリズムは、単独でまたは組合せて使用されるバイオマーカーに関する診断値(例えばカットオフ点)を提供することにより、診断試験の基礎を形成する。
【0144】
患者医療の管理
病態の診断および予後評価の方法、キットおよび装置の提供において、本発明は、患者医療の管理のための道具を提供する実用性がある。特に本発明は、患者の血管新生活性の変化につながる様々な疾患の処置の診断および評価における用途を認める。このような状態は、例えば、癌、妊娠、感染症(例えば肝炎)、損傷、および関節炎状態を含む。ある本発明の血管新生状態の定量法の態様において、この方法は、状態を基に対象の処置を管理する工程をさらに含む。そのような管理は、病態決定後の医師および臨床家の行為を含む。例えば医師が侵攻性癌と診断した場合、化学療法または手術のようなある治療レジメンが続けられる。または、腫瘍が存在しないかまたは休眠腫瘍との診断には、その患者を悩ませている特定疾患を決定するために、さらなる試験が続く。
【0145】
本発明の特に有用な局面は、前述のような、命を脅かす可能性のある状態の早期検出を提供することである。早期診断は、その状態の早期処置を可能にし、予後の回復を増強する。例として、癌の早期検出は、より早期および衰弱のより少ない化学療法、または転移前にあらゆる腫瘍を除去する手術を可能にする。関節炎の早期検出は、衰弱している関節の損傷が生じる前に炎症を制御するための薬物介入をもたらし、疾患の症状を遅らせる。
【0146】
診断後、本発明を使用するバイオマーカーの検出は、使用される治療レジメンの有効性の評価を可能にする。例えば癌において、休眠腫瘍の処置後のCTAP IIIバイオマーカー発現の減少の検出は、侵攻性腫瘍へ表現型が変更する腫瘍に相関している。反対に、CTAP IIIの引き続きの増加の検出は、侵攻性から休眠または非存在への腫瘍表現型の変化に相関している。
【0147】
本発明の追加の態様は、アッセイ結果または診断またはこれら両方の、例えば技術者、医師または患者への連絡に関連している。ある態様において、コンピュータを使用し、アッセイ結果または診断または両方を、関心対象の関係者、例えば医師およびその患者へ連絡する。一部の態様において、国または国とは異なる管轄区域または結果もしくは診断が連絡されるべき管轄区域において、これらのアッセイが実行されるか、またはそのアッセイ結果が分析される。
【0148】
本発明の好ましい態様において、疾患または代謝状態のバイオマーカー指標の試験対象における存在または非存在を基にした診断は、診断が得られた後できる限り速やかに、対象へ連絡される。この診断は、対象の担当医を通じて対象へ連絡されてもよい。または診断は、試験対象へe-メールで送信されるか、または対象へ電話連絡されてもよい。コンピュータを使用し、診断を、e-メールまたは電話で連絡してもよい。ある態様において、電気通信業者は熟知しているコンピュータのハードウェアとソフトウェアの組合せを使用し、診断試験の結果を含むメッセージは、自動的に作製され、対象へ配信されてもよい。医療保健(healthcare)が方向付けた連絡システムの一例は、米国特許第6,283,761号に開示されているが;しかし本発明は、この特定の連絡システムを利用する方法に限定されるものではない。本発明の方法のある態様において、試料のアッセイ、疾患の診断、およびアッセイ結果または診断の連絡を含む、方法工程の全てまたは一部は、多様な(例えば、外国の)管轄区域で実行することができる。
【0149】
診断システム
本発明は、その発現が患者の血管新生活性の変化に反応して変更されるバイオマーカーを検出するための診断システムも企図している。本発明の診断システムは、好ましくは一工程で操作されるが、そのようなものに限定されない。例えば一部の態様は、複数の血小板会合バイオマーカーを結合している複数の吸着材表面を含む。好ましくは、これらの吸着材は、関心対象のバイオマーカーを特異的に吸着する生体特異的吸着材である。本発明の診断システムは、関心対象のバイオマーカーを検出する手段も有し、これはおそらく質量分析計である。
【0150】
例として好ましい本発明の態様は、その焼結フリット上に血漿ホモジネートを受け入れる。フリットは、液体の毛管流動を支援することが可能である吸収剤材料と流体連絡している。この吸収材料内には、試薬があり、これは、検出されるべきバイオマーカーを特異的に認識する流れにより移動可能な生体分子特異的な吸着材を含む。好ましくはこの流れにより移動可能な生体分子特異的な吸着材は、検出可能な標識、より好ましくは視認できる標識を含む。吸収材料のさらに下流には、検出されるべきバイオマーカーを認識する固定された生体分子特異的な吸着材がある。
【0151】
前述のような、簡単な装置を使用し、焼結フリットに導入された血漿ホモジネートは、細胞デブリを含まないように濾過される。残存する液体は、吸収材料へと進行し、これはその長手方向へ、最終的には長手方向に沿って液体を毛管現象で運ぶ(wick)。吸収材料の横断する際に、流れにより移動可能な生体分子特異的な吸着材は、可溶化され、バイオマーカーに結合し、複合体の形成が検出される。液体はさらに吸収材料に沿って進行するため、この複合体は、固定された生体分子特異的な吸着材と遭遇し結合する。複合体は、固定された生体分子特異的な吸着材に結合するため、固定された生体分子特異的な吸着材が、吸収材料に付着した地点で濃縮され始め、そこでこれを検出することができる。この装置は任意で、当初のホモジネートに存在する可能性のある干渉物質を除去するために、複合体の結合後、洗浄緩衝液で洗浄することができる。
【0152】
当業者は、先に説明された好ましい装置と実質的に同じ様式で実行する、いくつかの装置フォーマットの変形が存在することを容易に認めるであろう。例えば装置は、マイクロタイタープレートウェルの底に連結された生体分子特異的な試薬を使用する、本質的にELISA-型様式で実行することができる。このフォーマットにおいて、ホモジネートがウェルに添加される。その後過剰なホモジネートは除去され、ウェルは、洗浄緩衝液で洗浄される。最後に標識された移動可能な抗体が添加され、得られた複合体が検出される。
【0153】
当業者は、周知のような先に説明された装置のフォーマットを、多くの変形が本発明の範囲内に収まることと共に、容易に認めるであろう。例えば同様の装置は、米国特許第5,409,664号、第6,146,589号、第4,960,691号、第5,260,193号、第5,202,268号および第5,766,961号に開示されている。
【0154】
癌のスクリーニングアッセイおよび処置法における癌のバイオマーカーの使用
本発明の方法はさらに他の適用を有する。例えばバイオマーカーは、インビトロまたはインビボにおいてバイオマーカーの発現を調整する化合物のスクリーニングに使用することができ、この化合物は次に、患者における癌の処置もしくは予防に、または休眠腫瘍から侵攻性腫瘍への腫瘍の悪性転換の処置もしくは予防に有用であり得る。別の例において、バイオマーカーは、癌治療に対する反応のモニタリングに使用することができる。さらに別の例において、バイオマーカーは、対象が発癌のリスクがあるかどうかを決定する遺伝試験に使用され得る。
【0155】
従って例えば、本発明のキットは、タンパク質バイオチップ(例えばCiphergen H50 ProteinChipアレイ、例えばProteinChipアレイ)のような疎水性機能を有する固形基板、および基板を洗浄するための酢酸ナトリウム緩衝液、さらにはチップ上の本発明の血小板会合バイオマーカーを測定するため、およびこれらの測定値を例えば癌の診断に使用するためのプロトコールを示す説明書を備える。
【0156】
治療的試験に適した化合物は、表1Aおよび1Bおよび表2に列記された1種または複数のバイオマーカーと相互作用する化合物を同定することにより、スクリーニングすることができる。例として、スクリーニングは、表1Aおよび1Bおよび表2に列記されたバイオマーカーの組換え発現、バイオマーカーの精製、およびバイオマーカーの基板への固定を含む。次に試験化合物が、典型的には水性条件において基板と接触され、試験化合物とバイオマーカーの間の相互作用が、例えば、塩濃度の関数としての溶離速度の測定により測定される。あるタンパク質は、表1Aおよび1Bおよび表2の1種または複数のバイオマーカーを認識し切断することができ、この場合、これらのタンパク質は、例えばタンパク質のゲル電気泳動などによる、標準アッセイにおける1種または複数のバイオマーカーの消化のモニタリングにより検出される。
【0157】
関連した態様において、試験化合物の、表1Aおよび1Bおよび表2の1種または複数のバイオマーカーの活性を阻害する能力を測定することができる。当業者は、特定のバイオマーカーの活性の測定に使用される技術が、バイオマーカーの機能および特性に応じて変動することを認めるであろう。例えばバイオマーカーの酵素活性は、適当な基質が利用可能であり、かつ基質の濃度および反応生成物の出現が容易に測定可能であるという条件で、アッセイすることができる。可能性のある治療的試験化合物の、所定のバイオマーカーの活性を阻害または増強する能力は、試験化合物の存在および非存在下での触媒速度を測定することにより決定されてもよい。表の一つのバイオマーカーの非-酵素(例えば構造)機能または活性と干渉する試験化合物の能力も、測定することができる。例えば前記表の一つのバイオマーカーを含む多-タンパク質複合体の自己-集成は、試験化合物の存在または非存在下で分光法によりモニタリングすることができる。または、バイオマーカーが転写の非-酵素的増強体である場合は、バイオマーカーの転写を増強する能力と干渉する試験化合物を、試験化合物の存在および非存在下で、インビボまたはインビトロにおいて、バイオマーカー-依存型転写のレベルを測定することにより同定することができる。
【0158】
表のいずれかのバイオマーカーの活性を調整することが可能である試験化合物は、癌を罹患しているかまたは発癌のリスクのある患者へ投与することができる。例えば、特定のバイオマーカーの活性を増加する試験化合物の投与は、特定のバイオマーカーのインビボでの活性が、癌のタンパク質の蓄積を妨げる場合に、患者の癌のリスクを低下し得る。対照的に、特定のバイオマーカーの活性を減少する試験化合物の投与は、バイオマーカーの増加した活性が、少なくとも一部癌の発生が原因である場合、患者の癌のリスクを低下し得る。
【0159】
追加の局面において、本発明は、前記表の血小板会合バイオマーカーの修飾型の増加したレベルに関連する、癌などの障害の処置に有用な化合物を同定する方法を提供する。例えば一つの態様において、細胞抽出物または発現ライブラリーが、切断型を形成するための完全長バイオマーカーの切断を触媒する化合物についてスクリーニングされ得る。このようなスクリーニングアッセイの一つの態様において、バイオマーカーの切断は、バイオマーカーが切断されない場合は消光し続けるが、バイオマーカーが切断されると蛍光を発する蛍光団のバイオマーカーへの付着により検出することができる。または、あるアミノ酸の間のアミド結合を切断不可能にするよう修飾された完全長バイオマーカー型を使用し、インビボにおいてある部位でこの完全長バイオマーカーを切断する細胞プロテアーゼを選択的に結合または「捕獲」することができる。プロテアーゼおよびそれらの標的のスクリーニングならびに同定の方法は、例えばLopez-Ottinらの論文(Nature Reviews, 3:509-519 (2002))のような、科学文献においてよく証明されている。
【0160】
さらに別の態様において、本発明は、切断型バイオマーカーの増加したレベルに関連している、癌などの疾患の進行または可能性を処置または低下する方法を提供する。例えば前記表の完全長バイオマーカーを切断する1種または複数のタンパク質が同定された後、同定されたタンパク質の切断活性を阻害する化合物について、コンビナトリアルライブラリーがスクリーニングされる。そのような化合物の化学ライブラリーのスクリーニング法は、当技術分野において周知である。例えば、Lopez-Otinらの論文(2002)を参照されたい。または、阻害化合物が、血小板会合バイオマーカーの構造に基づき、理論的にデザインされる。
【0161】
臨床レベルで、試験化合物のスクリーニングは、対象が試験化合物に曝露された前後に、試験対象から試料を得ることを含む。前記表に列記された1種または複数の血小板会合バイオマーカーの試料中のレベルが、測定および分析され、試験化合物への曝露後にこのバイオマーカーレベルが変化するかどうかが決定される。試料は、本明細書に説明されたように、質量分析により分析されるか、または試料は当業者に公知の適当な手段により分析される。例えば前記表に列記された1種または複数のバイオマーカーのレベルは、バイオマーカーへ特異的に結合する放射性-または蛍光-標識された抗体を使用する、ウェスタンブロットにより直接測定することができる。
【0162】
実施例
循環血中血小板は、血管新生プロセスを修飾することができる様々な制御因子を含む。異常な表面に接着し、および局所的環境にそれらの内容物を放出する血小板の能力は、それらを局所的血管新生因子送達に関する高度に望ましいモダリティにしている。血管新生の生理的状況において、この増殖因子の厳密な局所的放出は、創傷治癒または再生に関する、高度に柔軟で、安全でかつ有効なシステムを表しているが;しかし癌、慢性炎症障害または血管異常のような病的状況において、これは、成長のための重要なパラクリン増幅ループを表している。
【0163】
血小板は、この制御された高度に等級化されおよび局所的に反応性である作用に関する多くの機構を有する:
i)血小板マイクロパーティクル(PMP)は、腫瘍の進行を通じ流出する:腫瘍血管は、主にその有窓(fenestration)、および高度に不規則な内皮細胞表面のために、血小板を活性化し;ならびに、VEGF、bFGFおよび他の増殖因子を含むPMPは、明らかな腫瘍外性血栓事象を伴わずに、全身循環へ放出されることは周知である。
ii)α-顆粒は、局所的刺激に反応して放出され得る増殖因子およびインヒビターを貯蔵する:血小板顆粒の内容物は、宿主の局所的環境に依存し、従って「腫瘍レジスタ」を反映している。
iii)1種よりも多いプロセスが、腫瘍の進行および播種に関与している:PMPは、増殖因子の低-レベルの連続送達を維持し、およびα-顆粒は、プロ-血管新生性シグナルの迅速で局在化された増幅を提供する。
【0164】
本発明者らは、血管新生性増殖因子およびインヒビターの血小板プロファイルを「血小板レジスタ」と称する。この血小板レジスタは、診断に加え、治療目的で使用することができる。
【0165】
本発明者らの実験の目的は以下である:
1.血小板により運搬される、血管新生または腫瘍-関連増殖因子またはインヒビターを確定すること、すなわち腫瘍プロファイル。
2.血小板中の貯蔵システムを確定すること、すなわち顆粒、密顆粒または膜粒子。
3.これらの化合物の輸送機構の調査(すなわち、顆粒放出のための刺激を規定する)。
4.PMPが血小板活性の主要機構である臨床状況、および血小板凝集および脱-顆粒が局所的因子放出に必要である状況を定義すること。
【0166】
試験相:
相1:腫瘍保有しないSCIDおよびC57 B1マウス由来の血小板試料を単離し、プロファイリングする。
相2:腫瘍保有しないSCIDマウス由来の血小板を、膜および細胞質画分に分離し、その因子含量を全血小板抽出物と比較し、特異的タンパク質に関する輸送システムを決定する。
相3:腫瘍-保有するSCIDマウスの血小板のタンパク質プロファイルを、純粋な腫瘍細胞抽出物のタンパク質プロファイルと比較し、輸送された増殖因子およびインヒビターの関係と相関する。
相4:休眠(非-血管新生性)腫瘍を保有するSCIDマウスおよび迅速増殖する(血管新生性)腫瘍を保有するSCIDマウス由来の血小板試料を、同じバックグラウンドの年齢が合致した腫瘍保有しないマウスと比較する。
相5:休眠(非-血管新生性)腫瘍を保有するSCIDマウスおよび迅速増殖する(血管新生性)腫瘍を保有するSCIDマウス由来の血漿を、同じバックグラウンドの年齢が合致した腫瘍保有しないマウスと比較する(血漿は、循環へ連続して、すなわち、血小板の凝集および脱顆粒化を伴わずに、放出された因子の代理として使用される)。
相6:休眠(非-血管新生性)腫瘍を保有するSCIDマウスおよび迅速増殖する(血管新生性)腫瘍を保有するSCIDマウス由来の血清を、同じバックグラウンドの年齢が合致した腫瘍保有しないマウスと比較する(血清は、活性化された血小板の凝集および脱-顆粒化を伴わずに、放出された因子の代理として使用される)。
【0167】
先の報告は、血小板は、タンパク質を含みかつ輸送すること、ならびにこのタンパク質は、血漿から濃度勾配を低下するように血小板に取り入れられることを示唆している。しかし本発明者らの結果は、マトリゲルペレットまたは顕微鏡的(0.5〜1mm3)腫瘍などの、VEGFの比較的小さい供給源が、VEGFの血漿レベルを上昇することなく、それらのVEGFを直接血小板へ導く(contribute)ことができることを示している。最も重要なことは、顕微鏡的な臨床的に検出不能な腫瘍の存在は、特異的血管新生制御因子を採取しおよび「休止している」タンパク質プロファイルを「腫瘍-反映する」プロファイルへ変化するように、ヒト脂肪肉腫を保有するSCIDマウスの血小板を誘導するのに十分であることである。
【0168】
本発明者らはさらに、i)腫瘍成長の存在下で血小板中で隔絶されたタンパク質は、アルブミンのような最も豊富な血漿タンパク質よりもむしろ、圧倒的に、VEGF、bFGF、PDGF、PF4、エンドスタチン、アンギオスタチンおよびタムスタチンなどの血管新生制御因子であること、およびii)血小板中の血管新生制御因子のレベルは、腫瘍または他の血管新生因子の供給源の存在により変動することを確認している。
【0169】
本発明者らは、腫瘍マーカーの血漿および血清レベルが無視できる場合は、発癌性悪性転換から生じる過剰な血管新生性増殖因子は、腫瘍発生の初期に血小板中に反映されると仮定した。本明細書に示された試験において、本発明者らは、血小板の、インビボおよびインビトロの両方において選択されたタンパク質を蓄積する能力を確認し、ならびに一つの血管新生制御因子の他のものとの選択的交換を示している。腫瘍進行に関連した、増殖因子、インヒビター、補-因子およびサイトカインなどの制御因子の多様性のために、本発明者らは、ハイスルー-プットSELDI-ToF MS(表面増強レーザー脱離イオン化スペクトル分析レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析)を使用し、精製された血小板および血漿のタンパク質プロファイルを分析した。この技術は、大量の臨床試料の同時の質量スペクトル分析を可能にし、ならびに全血小板プロテオームの比較に関して効率的で高度に再現性のある方法を提供する。
【0170】
脂肪肉腫のヒト腫瘍異種移植片を保有する年齢が合致した健常なSCIDマウス同腹仔の血小板プロファイルを、偽注射した腫瘍保有しない動物のものと比較する。血小板に含まれるタンパク質に関する多くの報告(10-12)と一致するように、本発明者らは、少なくとも21種の内皮増殖および移動の正の制御因子に加え、少なくとも15種の内皮増殖および移動の負の制御因子が、血小板中に同時に存在することを発見した。ヒト腫瘍異種移植片を保有するマウスからの対応する血漿試料の分析は、これらの調節タンパク質の有意差を明らかにしなかった。
【0171】
本試験の新規知見は、腫瘍の存在下で血小板プロファイルのカスタマイズであった。本発明者らは、血小板は、血管新生制御因子の選択的取込みにより腫瘍発生のプロセスにおいて早期に存在する腫瘍に反応して、亜-臨床的腫瘍成長を検出し、これらのタンパク質を隔絶しおよび分解から保護すると同時に、これらのタンパク質を循環しおよびおそらく腫瘍部位への輸送を促進する能力を有するというデータを示している。この血小板作用の局在化は、腫瘍血管新生を増強すると同時に、宿主の監視機構の制御の多くを逃れるように作用するか、または腫瘍が休眠の場合のように、血管新生阻害因子の必要なレベルを維持し、腫瘍成長を失速する。
【0172】
血小板は、血管新生制御因子の追跡の非常に洗練されたシステムを示し、それらのタンパク質プロファイルの臨床適用可能な分析は、現在可能なものよりもより早期に癌を診断する能力を提供する。
【0173】
方法
新たに単離された血小板によるインビトロエンドスタチン取込み
多血小板血漿(PRP)を、健常なヒト志願者の血液から、クエン酸処理した全血200gで20分間の遠心により、単離した。多血小板血漿を、新たなポリエチレンチューブに移し、漸増濃度のヒト組換えエンドスタチン(EntreMed Inc.、ロックビル、MD)と共に、穏やかな振盪機上で、室温で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、PRPを800gで遠心し、血小板をペレットとし、および上清(血小板が少ない血漿[PPP])を、後の工程でのELIZAによる分析のために保存した。その後血小板を、1U/ml PGE2を含有するTyrodes緩衝液中に穏やかに再懸濁し、再度ペレット化した。この方式で洗浄を2回繰返し、その後血小板の膜画分を、Triton Xを含む遠心分離により除去し、ペレットを標準SDS-PAGE分析のために溶解した。血小板は、50mM Tris HCl、100〜120mM NaCl、5mM EDTA、1%Igepalおよびプロテアーゼインヒビター錠(完全なTM混合物, Boehringer Manheim、インディアナポリス、IN)を使用し、溶解した。タンパク質濃度は、標準Bradford法(Bio-Rad Laboratories Inc.、ハーキュラス、CA)を用いて等量とし、エンドスタチンタンパク質標準または血小板タンパク質溶解液のいずれかの等量を、試料緩衝液(Invitrogen、カールスバッド、CA)と混合し、12%SDS-ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen、カールスバッド、CA)上に負荷した。PVDF膜(Millipore、ビレリカ、MA)への転写後、この混合物を、7%ミルクでブロックし、以下の抗体と共にインキュベーションした:抗-ヒトエンドスタチン(Kashi Javaherian, Childrens Hospital、ボストンのご厚意)、抗-ヒトVEGF(1:1000, Santa Cruz Biotechnology Inc.、サンタクルズ、CA)、または抗-ヒトbFGF(1:1000, Upstate USA Inc.、シャルロッテビル、VA)。その後陽性シグナルは、Super Signal West Pico Chemiluminescence Kit(Pierce Biotechnology inc.、ロックフォード、IL)およびオートラジオグラフィーを用いて検出した。
【0174】
血小板によるインビボ125I-標識したVEGFの取込み
VEGFタンパク質のヨード化は、先に確立された方法に従い行った。簡単に述べると、リン酸ナトリウム緩衝液(SPB, 0.2M NaHPO4, pH7.2)10μlで予め平衡化したIodo Beads(登録商標)(Pierce Biotechnology Inc.、ロックフォード、IL)を、10μgの担体-非含有rmVEGF(R&D Systems Inc.、ミネアポリス、MN)および1mCuの125ヨウ素と共にインキュベーションした。この試料はさらに、リン酸ナトリウム緩衝液150μlで希釈し、PBS中に0.2%ゼラチンを含有する15mlの予め平衡としたNAD(商標)5カラム(Amersham Biosciences、ピスカタウェイ、NJ)を通した。その後250μlの15画分を収集した。各画分の放射活性をGamma 5000 Beckman Iodine 125(Beckman Instruments、フラートン、CA)上で定量し、最大量の125I-標識したVEGF(合計500μl)を含有する二つの画分を実験日に一緒にし、マトリゲルアッセイにおいて使用した。簡単に述べると、C57B1/6マウスの左側腹を、軽度の皮膚炎症反応を避けるために、マトリゲルペレット移植の前日に剃毛した。実験当日に、緩衝液中の125I-VEGFの500μlを、増殖因子非含有マトリゲル(B & D Biosciences、ベッドフォード、MA)500μlと混合し、この混合物100μlを、各マウスの左側腹へ皮下注射した。3日後、マウスを、麻酔薬(酸素1L中2%イソフルオラン)の吸入を用いて安楽死させ、胸腔を開かない、直接心臓穿刺により、全血1mlを、クエン酸のはいった注射筒に採取した(1%クエン酸ナトリウム最終濃度、1/10v/v)。
【0175】
血小板を、2回の遠心工程により単離した:最初に多血小板血漿(PRP)を単離するために200gで、引き続き800gで遠心し、血小板ペレットおよび血小板-少ない血漿画分(PPP)を得た。各血小板試料の放射活性を、γカウンターで定量した。この値を、組織質量の差に対して補正し、組織1g当たりの1分間のカウント数[cpm/g組織]として表した。
【0176】
腫瘍細胞および異種移植片モデル
免疫-不全マウスにおいて非-血管新生性の顕微鏡的休眠腫瘍、または血管新生性に迅速に成長する腫瘍のいずれかを形成する、ヒト脂肪肉腫(SW872)サブ-クローンの非-血管新生性および血管新生性腫瘍異種移植片を、インビボ実験システム7として使用した。乳癌、結腸癌、グリア芽細胞腫および骨肉腫を含む別のヒト腫瘍も、非-血管新生性および血管新生性腫瘍細胞集団にサブクローニングした。全てのヒト非-血管新生性腫瘍サブクローンは、インビボにおいて予測される時点で、すなわち脂肪肉腫に関して133日目中央値±2週間、乳癌に関して80日目に、血管新生性表現型へのスイッチを受けた。しかし脂肪肉腫においてのみが、100%の非-血管新生性腫瘍において、血管新生性へのスイッチを生じ、この腫瘍をここでは差異を明らかにするために使用した。脂肪肉腫(SW872)腫瘍細胞株サブ-クローンは、各々単独細胞に由来し:クローン4は、非-血管新生性であり、〜133日目の中央値の間は、休眠および顕微鏡的であり続け、その後血管新生性となりはじめ、迅速な腫瘍拡張を受けた。クローン9は、移植時点で血管新生性であり、迅速に拡張した。腫瘍細胞増殖速度は、インビボおよびインビトロにおいて、クローン4およびクローン9において同じであった。しかしインビボにおける腫瘍細胞アポトーシス速度は、非-血管新生性クローン4において高く、および血管新生性クローン9において低かった(公開のためにFolkman/Almog提出済み)。
【0177】
全ての細胞株は、5%熱失活したウシ胎仔血清(HyClone、ローガン、UT)、1%抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン)および0.29mg/ml L-グルタミンを含有するDMEMにおいて、加湿した5%CO2恒温槽において37℃で培養した。マウスへの注射のために、80〜90%の集密度の腫瘍細胞を、リン酸-緩衝生理食塩水(PBS)(Sigma、セントルイス、MO)で洗浄し、短時間トリプシン処理し、血清-非含有DMEM中に懸濁した。これらの細胞を、DMEMで2回洗浄し、それらの最終濃度を、5x106個生存細胞/200μlに調節した。
【0178】
Massachusetts General Hospital(MGH)(ボストン、MA)から得た6週齢の雄のSCIDマウスに、単独のクローンからの5x106個細胞(0.2ml中)を側腹へ皮下注射した。全ての実験は、Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認されたプロトコールを用い、Boston Children's Hospital指針に従い行った。
【0179】
血小板、血漿および腫瘍プロセッシングならびにタンパク質プロファイリング
血液を、麻酔をかけたマウスから、直接心臓穿刺により、クエン酸処理したポリエチレンチューブ(クエン酸ナトリウム最終濃度1%、1/10v/v)へ採取し、直ぐに200gで遠心した。次に上相PRPを、新たなチューブへ移し、血小板をさらに800gで遠心した。単離された血小板ペレット(P)および血小板が少ない血漿(PPP)上清を、個別にSELDI-TOF技術(Ciphergen(登録商標)、フリーモント、カリフォルニア)を用いて分析した。
【0180】
各マウス由来の血小板ペレットは、9M尿素(U9)、2%CHAPS(硫酸-3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン)、50mM TrisHCl(pH9)中で処理し;10,000gで4℃で1分間遠心し、血小板抽出物を、以下に説明するように分画した。各マウス由来のPPP 20μlを、U9緩衝液(9M尿素、2%CHAPS、50mM TrisHCl、pH9)40μlで変性し、純粋な血漿抽出物を、Expression Difference Mapping (EDM)血清分画プロトコール(Ciphergen(登録商標)、フリーモント、CA)に従い、改変したアニオン交換クロマトグラフィーにより分画した。この分画は、DPC(登録商標)Micromix 5振盪機を装着した、Beckman Biomek(登録商標)2000 Laboratory Work Station上で、96-ウェルフォーマットフィルタープレートにおいて行った。血小板および腫瘍抽出物のアリコート20μl、および変性血漿60μlを、50mM Tris-HCl(pH9)100μlで希釈し、50mM TrisHCl(pH9)で再水和したBioSepra Q Ceramic HyperD(登録商標)F吸収材ビーズを予め充填し、50mM TrisHCl(pH9)で予め平衡とした、フィルター底の96-ウェルマイクロプレートに移した。マルチスクリーン真空マニホールド(Millipore、ベッドフォード、MA)を用い、全ての液体は、濾過プレートから除去した。30分間4℃でのインキュベーションした後、フロー-スルーを、画分Iとして収集した。濾過プレートを、以下の緩衝液2x100μlと共にインキュベーションし、下記画分を得た:1M尿素、0.1%CHAPS、50mM NaCl、2.5%アセトニトリル、50mM Tris-HCl(pH7.5、画分II);1M尿素、0.1%CHAPS、50mM NaCl、2.5%アセトニトリル、50mM酢酸Na(pH5.0、画分III);1M尿素、0.1%CHAPS、50mM NaCl、2.5%アセトニトリル、50mM酢酸Na(pH4.0、画分IV);1M尿素、0.1%CHAPS、500mM NaCl、2.5%アセトニトリル、50mMクエン酸Na(pH3.0、画分V)、および33.3%イソプロパノール/16.7%アセトニトリル/8%ギ酸(有機相、画分VI)。
【0181】
試料画分を96-ウェルバイオプロセッサー上に装荷し、および50mM酢酸ナトリウム、0.1%オクチルグルコシド(Sigma、セントルイス、MO)(pH5.0)により平衡とすることにより、ProteinChip(登録商標)アレイ上でのExpression difference mapping(EDM)を、弱いカチオン交換クロマトグラフィータンパク質アレイ(WCX2 ProteinChip(商標)アレイ;Ciphergen(登録商標)、フェアモント、CA)を用いて行った。各アレイスポットで、アニオン交換クロマトグラフィー画分40μlを、同じ緩衝液100μlへのさらに希釈し、1時間インキュベーションした。アレイスポットは、50mM酢酸ナトリウム、0.1%オクチルグルコシド(pH5)100μlで、3分間洗浄した。水ですすいだ後、シナピン酸マトリックス溶液2x1μlを、各アレイスポットへ添加した。
【0182】
タンパク質プロファイリングのために、全ての画分は、ProteinChip(登録商標)アレイを予め平衡化するために使用したそれらの各緩衝液中に1:2.5希釈した。この工程に続けて、Protein Biology System II SELDI-ToF質量分析計(Ciphergen(登録商標)、フリーモント、CA)を使用して読みとった。この読取り機は、較正物質としてタンパク質標準(Ciphergen(登録商標)、フリーモント、CA)を用い、毎日外部較正した。スペクトルは、ProteinChip Software Biomarker Edition(登録商標)バージョン3.2.0(Ciphergen、フリーモント、CA)を用いて処理した。ベースラインを減算後、総イオン電流法により、スペクトルを正規化した。ピーク検出は、Biomarker Wizardソフトウェア(Ciphergen、フリーモント、CA)を用い、シグナル-ノイズ比3を使用し行った。
【0183】
候補タンパク質バイオマーカーは、IgGスピンカラム上でのアフィニティクロマトグラフィー、および逆相クロマトグラフィーによりさらに精製した。各工程の純度は、順相(NP)ProteinChip(登録商標)アレイを使用し、モニタリングした。主要画分は、5mM DTT(pH9)で還元し、50mMヨードアセトアミドにより暗所で2時間アルキル化した。最終分離は、16%Tricine SDS-PAGEゲル上で行った。このゲルは、Colloidal Blue Staining Kit(Invitrogen、カールスバッド、CA)で染色した。選択されたタンパク質バンドを切出し、50%メタノール/10%酢酸200μlで30分間洗浄し、アセトニトリル(ACN)100μlで15分間脱水し、50%ギ酸、25%ACN、15%イソプロパノールおよび10%水70μlで2時間室温で激しく振盪しながら抽出した。抽出物中の候補バイオマーカーを、順相ProteinChipアレイ2μlの分析により再度証明した。残存する抽出物を、50mM炭酸水素アンモニウム(pH8)中の10ng/μl修飾トリプシン(Roche Applied Science、インディアナポリス、IN)20μlで3時間、37℃で消化した。単独のMSおよびMS/MSスペクトルを、Ciphergen PCI-1000 ProteinChip Interfaceを装着したQSTAR質量分析計で得た。各プロテアーゼ消化物のアリコート1μlを、NP20 ProteinChipアレイ上で、CHCA存在下で分析した。単独のMSモードでスペクトルを、0.9〜3kDaで収集した。このスペクトルの検証後、特異的イオンを選択し、CID断片化のために衝突セルに導入した。CIDスペクトルデータは、データベース-探索ツールMascot(Matrix Sciences)に同定するために提出した。
【0184】
免疫蛍光顕微鏡
抗-VEGFマウスモノクローナル抗体は、Becton Dickinson Biosciencesから入手し、5μg/mlで使用した。ウサギ抗-β1チューブリン抗血清(Nicholas Cowanからの寄贈、Brigham and Women's Hospital、ボストン)を、希釈1:1000で使用した。最低の種間交差-反応性を伴うAlexa 488抗-ウサギおよびAlexa 568抗-マウス二次抗体を、Jackson Immuno Research Laboratories(ウェストグローブ、PA)から購入した。細胞を、100X対物レンズ(NA 1.4)および100-W水銀ランプを装着したZeiss Axivert 200顕微鏡で分析した。画像を、Orca II冷却した電荷結合素子(CCD)カメラ(Hamamatsu)で獲得した。電子シャッタおよび画像獲得は、Metamorphソフトウェアの制御下で行った。
【0185】
休止している血小板は、3.7%ホルムアルデヒドの添加により、懸濁液中で20分間固定した。血小板を、12-ウェルマイクロタイタープレートのウェル中に配置したポリリシン-被覆したカバースリップ上に付着し、250gで5分間遠心した。アゴニスト-誘導した活性化のために、血小板を、同じ様式でカバースリップ上に沈降し、トロンビン1U/mlを5分間添加した。活性化された血小板を、3.7%ホルムアルデヒド中で20分間固定した。試料を、0.5%Triton X-100含有するHanks溶液中で透過性とし、PBSで洗浄した。標本を、PBS+1%BSA中で一晩ブロックし、一次抗体と共に2〜3時間室温でインキュベーションし、洗浄し、適当な二次抗体で1時間処理し、再度1%PBSで十分に洗浄した。一次抗体は、PBS+1%BSA中で1mg/mlで、二次抗体は同じ緩衝液の1:500希釈したもので使用した。対照は、一次抗体を省いた以外は、同じように処理した。
【0186】
結果:
インビトロにおける血小板による血管新生調節タンパク質の能動的および選択的取込み
漸増濃度のヒト組換えエンドスタチンと共にインキュベーションした血小板は、用量-依存した形態でこのタンパク質を取込んだ(図1、上側ブロット)。半-定量的SDS-PAGE分析は、血小板へのエンドスタチン負荷が増加するにつれて、これは他の未変性の血小板タンパク質、例えばVEGFおよびbFGFの細胞質再-分布を引き起こすことを明らかにしている(図1、下側二つのブロット)。血小板表面は高レベルの非特異的タンパク質結合部位を発現するので、血小板膜画分は、タンパク質溶解前に、Triton-X100との遠心により除去した。血小板によるタンパク質取込みのプロセスが、隔絶のランダム現象または固有の機構であるかどうかを調べるために、本発明者らは次に、予め決定された逐次様式での指定されたタンパク質の添加により、血小板をチャレンジした。本発明者らは、エンドスタチンが前負荷された血小板は、このアッセイへ添加された場合に、限定されたVEGF取込みを示し、完全にではないが一部は、細胞質レベルのエンドスタチンの減少を生じることを発見した。対照的に、エンドスタチンは、前負荷されたVEGFのはるかに多い完全な再分布を生じることができた(図2)。
【0187】
インビボおける血小板による血管新生調節タンパク質の能動的および選択的取込み
タンパク質血小板負荷のプロセスが、インビトロでの人為的結果(artifact)ではないことを確認し、インビボ現象を正確にモデル化していることを明らかにするために、本発明者らは、125I-標識されたVEGF(50〜600ng標識されたVEGF/100μlマトリゲル)を含有するマトリゲルペレットを、マウスに皮下移植し、血小板中の125I-VEGFの取込みを追跡した(図12)。125I-VEGFは、用量依存的に血小板内に優先的に蓄積され、血漿中に標識されたサイトカインは出現しなかった(図29)。125I-VEGFは、マウス血小板の約4〜7日間の短い半減期にもかかわらず、最大3週間、血小板において検出されたが、血漿中においては検出されなかった(データは示さず)。
【0188】
顕微鏡的腫瘍の存在下でのインビボおける血小板による血管新生調節タンパク質の能動的および選択的取込み
移植されたマトリゲルペレットからのVEGFの血小板取込み同様に、マウスの皮下組織内の顕微鏡的腫瘍により分泌された血管新生調節タンパク質が、血小板により取込まれたかどうかを決定するために、ヒト脂肪肉腫(SW872)のサブクローンを先に説明しおよび先に報告したように用いた7。従って本発明者らは、Expression Difference Mappingシステム(Ciphergen(登録商標)、フリーモント、CA)を使用し、腫瘍移植後32日目に候補タンパク質バイオマーカーを特徴付けかつバリデーションした。本発明者らは、200μl血清非含有培地(ビヒクル)、または脂肪肉腫細胞株の非-血管新生性もしくは血管新生性クローンの5x106個細胞の細胞懸濁液のいずれかを注射した5匹のマウスの血小板および血漿プロテオームを比較した。この実験は、個別の分析の発現マップの比較のために2回繰返した(図30は、ゲル像フォーマットにおける血小板血管新生プロテオームの典型的分析を、ピーク強度の代表的統計解析と共に示す)。VEGF、bFGF、PDGF、エンドスタチン、アンギオスタチン、タムスタチンおよび他の血管新生制御因子は、非-血管新生性、休眠、顕微鏡-サイズの脂肪肉腫を保有するマウス由来の血小板において、有意に増加した(図30)。血小板関連したタンパク質は、選択的および定量可能な様式で取込まれ、明らかに増加した濃度の血小板溶解液中でのVEGF、bFGF、PDGF、および血小板第4因子を示したが、対応する血漿中では示さなかった。血小板は、腫瘍が存在する限りは、高濃度の隔絶された血管新生調節タンパク質血小板を維持した。32日目に血管新生性脂肪肉腫(〜1cm3)は、非-血管新生性休眠脂肪肉腫(<1mm3)よりも〜100倍大きいという事実にもかかわらず、非-血管新生性腫瘍を保有するマウスの血小板は、同様に増加したレベルの血管新生調節タンパク質を含んでいる。この時点で、いずれの腫瘍型の血漿も、これらのタンパク質を含まない。しかし約30日間に、血管新生性腫瘍の成長が約2cm3に進行すると、これらの血管新生調節タンパク質は、血漿画分にも出現し始める。対照的に、これらのタンパク質は、非-血管新生性顕微鏡的腫瘍を保有するマウスの血漿中には、決して出現しない。
【0189】
平均ピーク強度+/-SEを、ANOVAを用い、群間差について検定した。VEGF、bFGFおよびPDGFのピーク強度値の解析は、腫瘍を有さない動物対脂肪肉腫を保有する動物の間で、これらのタンパク質の血小板濃度の有意差を明らかにした。さらに、非-血管新生性脂肪肉腫を保有するマウス由来の血小板は、ヒト乳癌を保有するマウス由来の血小板中に蓄積された血管新生調節タンパク質よりも、高レベルの様々な血管新生調節タンパク質を含んだ。
【0190】
血小板中のVEGF分布
この試験の開始時に、血小板に会合した血管新生調節タンパク質は、血小板の膜上に均一に、または血小板本体の細胞質全体に分布されているかどうかは不明であった。これらの可能性の間を識別し、およびVEGF5の細胞下局在化を確立するために、本発明者らは、チューブリンおよびVEGFに対する抗体で染色された固定されおよび透過性とされた休止している血小板について、二重標識蛍光顕微鏡法を使用した。予想されたように、チューブリンは、休止している血小板の周縁の微小管バンド中で濃縮され、この構造は血小板外周を規定した。しかし抗-VEGF抗体は、血小板細胞質全体に分布された点状のベシクル-様構造をむらなく標識した(図7、A-C)。共焦点顕微鏡像の4μm切片の逐次積層は、血小板の細胞質内の点状パターンを明らかにし、免疫反応性物質の顆粒状の性質を裏付けた。
【0191】
トロンビンで活性化された血小板からの放出に関する本発明者らの分析は、VEGFは、血小板のエンドスタチンによる(図28)、またはADPのような軽度の活性化因子による(図4)負荷により血漿へは放出されないことを示唆している。トロンビンは、血小板に会合したVEGFの全てではなく一部を放出することができるが、ADPはできない(図4、上側パネル)。いずれの活性化因子(トロンビンまたはADP)も、bFGFを遊離することはできない。従って本発明者らは、アゴニスト誘導した血小板活性化時に、血小板会合した増殖因子は再分布されるが、血小板内に保持され続けると仮定した。この概念を試験するために、本発明者らは、活性化された血小板を、蛍光-標識したファロイジンおよびVEGFで二重染色した。予想された血小板-形状の変化が、膜状仮足および糸状仮足の形成により、明確に証明された。VEGFは、活性化され播種された血小板中に点状パターンとして観察可能であり続け、これはアゴニスト-誘導した活性化後であっても、血小板と会合し続けるという考えと一致した(図7、F)。血小板活性化時に、VEGFは、糸状仮足に沿いおよび膜状仮足の外周に沿って優先的に再-分布されるように見える。
【0192】
考察:
これらの結果は、循環血中血小板は、マウスにおけるヒト腫瘍により産生される血管新生調節タンパク質を取込むことを示している。これらの条件下で取込まれたタンパク質は、正常血小板内に含まれる約30種の血管新生調節タンパク質、すなわちbFGF、VEGF、エンドスタチン、アンギオスタチンなどと、本質的に同じである。本発明者らは、生理的条件下での相対タンパク質濃度の安定性を強調するために、このタンパク質の選択群を「血小板血管新生プロテーム」と称した。正常な条件下で、このプロテオームの一員は、ごくわずか変動するように見える。しかし腫瘍-保有するマウスにおいて、血管新生調節タンパク質の腫瘍-誘導した取込みは、血小板血管新生プロテオームを著しく変更し、および隔絶された腫瘍-由来の血管新生調節タンパク質(すなわち、VEGF、またはbFGFなど)の濃度を増加し、宿主内で腫瘍が生存し続ける限りは上昇し続ける。
【0193】
循環血中血小板は、小さい腫瘍塊、すなわち1mm3よりも小さい癌から放出された血管新生調節タンパク質を取込みおよび隔絶することができる。これは、20,000mgよりも重い宿主マウス中の腫瘍塊1mg未満と同等である。この微小サイズの腫瘍は、少なくとも現時点では、臨床的に検出することができない。実験的には、これは、生体発光を使用し、すなわち移植前にグリーン蛍光タンパク質の遺伝子が形質移入された、またはルシフェラーゼで感染された腫瘍細胞を使用し、同定することができる。これらの腫瘍は、クローニングされた非-血管新生性ヒト癌細胞の皮下移植または同所移植から生じ、立体拡大(stereoscopic magnification)下での手術時に露呈する。これらは、それらの予想可能な割合が、予想可能な時点で、血管新生性表現型にスイッチしおよびそれらの血管新生性対応物と非常に似た速度で成長し始めるまで、休眠し続け、数ヶ月間、または1年以上無害であり続ける。非-血管新生性腫瘍は、決して自然発生的には転移しないが、尾静脈に注射された場合にはそれらの中で腫瘍細胞は、顕微鏡的、良性の、休眠の、肺への転移を形成するであろう。対照的に、血管新生性のスイッチ後の、自然発生的転移は、一般的ではない(20)。これらの非-血管新生性休眠腫瘍中の腫瘍細胞は、高い割合のアポトーシスと釣り合う高い割合での増殖を受け、これは本発明者らのその血管新生性対応物と比較した非-血管新生性クローンにおける増加したエンドスタチンレベルの知見と一致する(図30)。ブロックされた血管新生に起因した腫瘍休眠については、先に説明されている(21、22)。
【0194】
非-血管新生性顕微鏡的腫瘍により分泌された血管新生調節タンパク質は、血小板において隔絶され、血漿中に出現せず、および腫瘍が存在する限りは、血小板血管新生プロテオーム中のタンパク質の基準レベルに追加され続ける。非-血管新生性腫瘍が血管新生性表現型にスイッチしおよびその腫瘍塊を拡張し始めた場合、腫瘍により分泌された血管新生調節タンパク質は、血漿中にも出現することができる。
【0195】
腫瘍-由来の血管新生調節タンパク質の血小板隔絶は、これらのタンパク質が、循環血中血小板によりインターナリゼーションされおよび解明され続けている機構により血小板内の異なるコンパートメントに再-分布されるプロセスに関与している。血小板貯蔵コンパートメントは、α-顆粒、密顆粒およびリソソームからなり、α-顆粒は、最大のコンパートメントを形成している。多くの血小板タンパク質が、巨核球において合成され、他のものは明らかに末梢で採取される。PF4およびトロンボモジュリンのような血小板-特異的タンパク質は、巨核球を含む多くの細胞により合成され、血小板において400倍の濃度に濃縮される。第V因子、トロンボスポンジンまたはP-セレクチンなどの他のものは、巨核球以外で合成され、血小板により取込まれる。最も注目される血小板の非選択的タンパク質はフィブリノゲンであり、これは肝細胞により合成され、血小板α-顆粒により取込まれる(14-16)。この血小板貯蔵コンパートメントの驚くべき柔軟性は、血小板は、腫瘍の増幅および維持に関与しないという考えに本発明者らを導いた。本発明者らは、高濃度のVEGF、bFGFまたはエンドスタチンが血小板に取込まれ、インターナリゼーションされおよび濃縮されることを認めた。漸増濃度のエンドスタチンに曝された新鮮な血小板は、bFGFおよびVEGFなどの内因性増殖因子をそれらの細胞質貯蔵庫から移動し(図1)、このことはこれらのタンパク質の流れによる(fluid)高度に適合可能な輸送を示唆している。
【0196】
血小板のタンパク質取込みの調節に関して、少なくとも二つの可能性が存在する。血小板の貯蔵コンパートメントは、収容能力が限定されており、新たなものの取込みを収容するためには、タンパク質が移動されなけれならないか、またはより可能性があるのは、取込みはその因子に関する特異的血小板調節された親和性により支配されることである。後者のモデルは、血小板の逐次負荷が、選択的取込みを生じること、および全てではないタンパク質が同等の効率で移動されることの知見とより一致するであろう。エンドスタチンのVEGFで前-負荷された血小板への取込みは完全で邪魔されない(図2の第一のレーン)一方で、前-負荷されたVEGFの再-分布を生じ(図2の第二のレーン)、この反対の実験は、前-負荷されたエンドスタチンの不完全な再-分布を生じた。
【0197】
重要な知見は、腫瘍-保有するマウスの血漿中には血管新生調節タンパク質が相対的に存在しないことであった。この最も一般的な臨床分析物は、血管新生性タンパク質において最小の差異を示すか、または差異を示さなかった。このことは、一般に考えられていることとは対照的に、血小板は、成長制御因子の循環への制御されない放出により脱顆粒を受けず、むしろ腫瘍または創傷部位で厳密な制御下でこれらの制御因子を放出することができることを示唆している。これは、本発明者らの、VEGFおよびbFGFのELISAを使用する活性化された血小板からの放出速度のインビトロ分析と一致しており、ここでは最低量のVEGFが、アゴニスト誘導した血小板活性化時に放出され、bFGFは全く放出されなかった(図28)。
【0198】
本発明者らは、そうであったとしても、著しい量のVEGFが、活性化された血小板に活性化後局在化され続けると予測した。固定されおよび透過性とされた休止している血小板についてチューブリンおよびVEGFに対する抗体;ならびに、活性化された血小板についてファロイジンおよびVEGFに対する抗体による、二重標識免疫蛍光顕微鏡法を使用し、本発明者らは、VEGFの細胞内位置を試験した。抗-VEGF抗体は、休止している血小板の細胞質全体に分布された点状のベシクル-様構造をむらなく標識し、このことはこの免疫反応性物質の顆粒の性質を示唆している。活性化された血小板の二重標識免疫蛍光法において、VEGFは、糸状仮足に沿いおよび膜状仮足の外周に沿って再-分布され(図7)、これはアゴニスト-誘導した活性化後であっても血小板に会合し続けるという考えに一致している。血小板-形状の変化は、膜状仮足および糸状仮足の形成により明確に証明され、蛍光ファロイジンにより視認された。この再分布のパターンは、これらのタンパク質の組織との直接交換のためにVEGFが血小板内の辺縁に位置する可能性を指摘し、ならびに腫瘍中の組織プロテアーゼの誘導を説明することができる。特異的プロテアーゼが、腫瘍-関連した血小板凝集体からの血管新生制御因子を遊離するように作用するかどうかはまだ明らかではない。
【0199】
本発明者らは、血管新生制御因子の血小板取込みのプロセスは、高度に特異的であり、腫瘍状態、すなわち休眠対臨床的拡大を反映し、ならびに臨床的に検出可能な腫瘍に先立ち生じることを示している。本発明者らは、全身循環中のこの新規コンパートメントは、血管新生性マーカーの血漿および血清分析よりも優れており、ならびに極初期の癌診断において安定した感度の良い信頼できる方法を提供することを提唱している。「血小板血管新生プロテオーム」は、腫瘍血管新生のスイッチの早期レジスタとして使用することができ、ほとんど同じ方法で脂質プロファイルを使用し、患者のアテローム動脈硬化症および心筋梗塞のリスクを同定することができる。この予測するバイオマーカーは、発癌のリスクについて患者をスクリーニングすることができる。本発明者らは、他のバイオマーカー(23)と併用し、臨床症状に数年先立ち癌の再発を診断し、BRCA癌遺伝子変異を持つ乳癌発症のリスクの高い女性のモニタリングを改善することができる。
【0200】
最近の比較的無-毒の血管新生インヒビターの開発は、腫瘍を「探索する」ことなく「バイオマーカーを処理する」、別の表現をすると、疾患を伴わない癌を有する患者を処置する機会をもたらしている(24)。いくつかの血管新生インヒビターが、現在米国および他の27ヶ国において承認されており、その他のものが臨床試験の後期相にある。血液または尿中のバイオマーカーが解剖学的位置が不明でも療法を示すような医学的実践と類似したものは、予想された感染症の処置または将来の心筋症を防ぐための脂質低下薬の使用を含む。
【0201】
本明細書において報告された結果は、再生、発生、修復のため、および多くの血管新生-依存性疾患の理解のための意味を有する新規血小板生物学を明らかにしている。
【0202】
腫瘍または外傷のいずれかによる血管の内皮細胞層の破壊の後、循環血中血小板は、その場での凝血促進性(pro-coagulant)反応を局在化、増幅および維持するように機能する。血管損傷部位での血小板接着および凝集は、損傷を受けた血管を単に一時的に塞ぐのみではなく、さらに引き続きの凝血促進性事象を損傷部位に局在化し、および凝固の全身活性化を防止する。興味深いことに本発明者らは、同じ局在化が、腫瘍部位での血管新生性刺激の局在化、増幅および維持に役立つことを発見した。
【0203】
血小板貯蔵コンパートメントは、α-顆粒、密顆粒およびリソソームからなり、α-顆粒は、最大のコンパートメントを形成している。貯蔵されたタンパク質は、巨核球において合成されるか(PF4およびトロンボモジュリンのような血小板特異的タンパク質)、巨核でを含む多くの細胞で合成されならびに血小板中で最大400倍の濃度へ濃縮されるか(第V因子、トロンボスポンジンまたはPセレクチンのような血小板選択的タンパク質)、または他の細胞により合成され、血小板により取込まれる(フィブリノゲン(14-16)のような血小板非選択的タンパク質)かのいずれかである。この最後のコンパートメントの驚くべき柔軟性は、血小板は、癌が臨床的に明らかになる前、腫瘍進行の初期に、腫瘍の増幅および維持に関与し得るという考えに本発明者らを導いた。
【0204】
本発明者らは最初に、この仮説を、エクスビボにおいて血小板に血管新生制御因子を「負荷」することにより試験し、高濃度のVEGF、bFGFまたはエンドスタチンは、血小板に取込まれ、インターナリゼーションされおよび濃縮されることを発見した。超生理的レベルのエンドスタチンに1時間曝露された新鮮な血小板の細胞質部分のみをSDS-PAGEによりアッセイすることにより、本発明者らは、血小板中のエンドスタチン濃度が増加するにつれ、bFGFおよびVEGFのような内因性増殖因子のレベルは減少したことを発見した(図1)。本発明者らは、膜部分を除去することにより、血小板表面への非特異的結合に起因する血小板溶解液中のエンドスタチンレベルの増加を排除するように毎回努力した。本発明者らは、これらのタンパク質の血小板取込みの調節に関して少なくとも二つの可能性が存在することを主張した。血小板の貯蔵コンパートメントは、収容能力が限定されており、一部のタンパク質は、新たなタンパク質の取込みのためには移動されるか、またはこの取込みはいくつかの特異的血小板調節された親和性により支配される。タンパク質を伴う血小板の逐次負荷が、タンパク質の濃度勾配により影響を受けるようには見えないこと、および全てではないタンパク質が同等の効率で移動されることのため、後者のより選択的機構は、より可能性のあるプロセスのように見える。例えばエンドスタチンのVEGFで前-負荷された血小板への取込みは、エンドスタチン負荷対照と比較して完全で邪魔されず、増強された(図2の第一のレーン)が、前-負荷されたVEGFの完全な移動も生じた(図2の第二のレーン)。反対の実験、すなわちエンドスタチンで前-負荷された血小板へのVEGFの取込みも、対照と比較して増加したが、前-負荷されたエンドスタチンのはるかに少ない完全な移動を生じた。
【0205】
次いで本発明者らは、インビボモデルにおける増殖因子の血小板による選択的取込みを確認し続けた。本発明者らは、125I標識したVEGF濃厚化した増殖因子非含有マトリゲルペレットを、未処置以外は健常な免疫適格性のマウスに移植し、腎臓、脾臓および肝臓などの高度に血管性の臓器における125Iの分布を比較し、これはその血中分布により、VEGFを構成的に発現することがわかった。図3に認められるように、ヨウ素化されたVEGFは、血小板中で、血漿中のその濃度の何倍にも濃縮された。このことは、血小板は血管新生制御因子の送達により、血管新生の局所的増強に実際に寄与することを示唆している。この送達は、無傷のフィードバック機構が迅速に作用し機能的血管新生を失活する外傷および組織修復のような生理的状況において、ならびに悪性転換後プロ-血管新生性刺激が存続する腫瘍形成において、おそらく異なるであろう。
【0206】
予想されたまたは公知の生物学的システムを使用せずに、血管新生の開始および維持に関連した多くの因子を分析するために、本発明者らは、タンパク質学的(proteinomic)方法に着手した。一過性の一定したゲノムとは対照的に、細胞特異的タンパク質発現は、細胞内および細胞外パラメータに依存し、ならびに著しく反応性および生存性であり続ける。巨核球における遺伝子の選択的スプライシングおよび血小板に固有のタンパク質の翻訳後修飾から生じた複合タンパク質生成物に加え、同じく組織の要求に反応してそれらの含量が変動するような血小板の場合、本発明者らは、SELDI-ToFのようなハイスループットプロテオーム分析を使用することを必要とした。この技術は、実験群内および群間で血小板プロテオームの正確かつ再現性のある分析を可能にするので、これは、2-次元電気泳動、それに続くマトリックス-支援レーザー脱離/イオン化質量分析(MALDI-MS)(17;18)の従来の組合せと、急激に置き換わりつつある。本発明者らは、ヒト脂肪肉腫SW-872の非-血管新生性(休眠)および血管新生性変種の確立されたモデル(18)を使用し、ここで血管新生性の駆動(drive)の増加は、休眠からの逃避に相関している。次に本発明者らは、200μl血清非含有培地(ビヒクル)、脂肪肉腫細胞の休眠または血管新生性クローンの5x106個の細胞懸濁液のいずれかを注射した5匹のマウスの、血小板および血漿のプロテオームを比較した。非血管新生性変種は、80〜100日間静止し続け、この時点で腫瘍の100%が、血管新生性対応物と同等の速度で増殖し始めた。32日目の血小板および血漿のタンパク質の比較は、この時点で、休眠腫瘍が平均0.8〜1mm3でありおよびそれらの血管新生性補充物(complement)が18〜30mm3であることをプロファイリングした。この分析からの二つの重要な知見が浮かび上がった。第一に、臨床モニタリングにおいて最も一般的にアッセイされる体液である血漿試料は、血管新生タンパク質プロファイルにおいて有意差を明らかにしなかった。興味深いことに、多くの血管新生制御因子が、腫瘍保有するマウスの血小板において差次的に発現されることがわかった。興味深いことに、図21のタンパク質発現マップの選択された例は、小さい休眠腫瘍を保有するマウスの血小板におけるこれらの因子の同程度のアップレギュレーションを明らかに証明している。これは、最初は直観に反することは明らかであるが、血小板は局所的血管新生を増強するように作用するという本発明者らの先に仮定した仮説を再考する場合、これは休眠腫瘍から分泌された比較的少量のタンパク質の血小板隔絶が、血漿セリンプロテアーゼによる分解から保護されおよび腫瘍成長部位への効率的送達を促進することを示唆している。偽注射した対照、非-血管新生性および血管新生性腫瘍の発現ピーク強度の統計解析は、血漿および血小板の増殖因子レベル間の有意差に加え、偽注射した動物および腫瘍保有する動物の血小板間の有意差を明らかにしている。休眠クローンにおけるVEGFおよびbFGFの増加は統計学的有意性に達しないが、この知見は、3種の個別の実験を通じて一貫しており、かつ腫瘍移植後19日目と早期に明確である(図23C)。
【0207】
血漿が、血小板により保持された制御因子の分泌の中間期(interphase)として作用しない場合は、代替の機構が仮定される必要がある。本発明者らは、免疫蛍光を使用し、腫瘍血管新生およびそれに続く血小板活性化前、途中、後のその細胞内分布の最も重要なイニシエーターの一つである、VEGFの例を採用した(図6)。休止している血小板において、VEGFの大半は、血小板の細胞内、細胞質部分に局在化し(図6、左下側パネル)、細胞膜に沿って整列されたVEGFのリング形態に移動し(図6、右下側パネル挿入図参照)、その後活性化された血小板の偽足に沿って移動する(図6、右下側パネル)。血小板エキソサイトーシスにより誘導された活性化パターンは、血小板の細胞内内容物の組織との直接交換を、一般に受入れられた血小板の細胞内内容物の循環への「放出」よりもより示唆している。
【0208】
さらに血小板会合血管新生制御因子は、それらの血漿または血小板の対応物よりも循環中ではるかに長く持続するので、それらは分解から「保護される」ように見える。例えば、報告された循環中VEGF半減期が分単位で算出されたにもかかわらず、移植したマトリゲルから血小板により採取された125I-標識したVEGFは、数日間循環中に存続した(データは示さず)。このことは、早期診断または治療的反応のマーカーの探索が、血清または血漿レベルで濃縮される本発明者らの臨床試験の多くにおいて、今日まで著しい利点を生じていない理由を説明することができる。例え予後判定のためにこれらの循環血中因子を使用したとしても、大きい腫瘍嵩を伴う、従って予後不良の患者のサブセットの同定には限界があるように見える。
【0209】
本発明者らは、自分たちの試験を基に、(1)血小板は、血管新生制御因子を直接取込み、ここで各タンパク質の血漿レベルの対応する増加を伴わないこと;(2)血小板は、これらの制御因子をセリンプロテアーゼの分解から保護するように作用し、循環中のそれらの半減期の延長を生じること;ならびに、(3)血小板は、増殖因子を、活性化された内皮細胞(腫瘍)へ、これらのタンパク質の血漿レベルの上昇を必要とせずに、送達することができることを提唱している。これは、創傷治癒のような生理的状況における増殖因子送達の非常に効率的機構を表し、および重症のストレスまたは外傷時にこれらのサイトカインの全身性の副作用が存在しないことの説明を提供している。同じ方法で、この機構は、宿主に「寄生し」および現在利用可能な臨床的道具による早期検出(19)を避ける能力を持つ腫瘍を提供することもできる。
【0210】
本発明者らのデータは、血小板は、癌発生の非常に早期および休眠時に必要な血管新生調節タンパク質を「検出する」ために利用可能であること、ならびにこれらは、血管新生制御因子の選択的「取込み」により、この必要要件に「反応する」ことができることを指摘している。おそらくこれが、血管新生制御因子が、血漿プロテアーゼによる分解から「保護され 」続け、および腫瘍部位へ増加した濃度で「送達され」得る機構であろう。
【0211】
結論:
血小板により送達される増殖因子の柔軟性および特異性は今日までに理解されており、その理由はおそらくこれらは作用因子(effector)よりも寄与因子(contributor)と見られているからであろう。本発明者らは、血小板への血管新生制御因子取込みのプロセスが、非常に特異的であり、腫瘍状態(すなわち、休眠対臨床拡大)を反映し、および臨床的検出可能な腫瘍に先立ち生じることを示している。全身循環において、その中で増殖因子が分解から保護されるこの新規コンパートメントの同定は、早期癌診断の安定して、感度の良い、信頼できる方法を提供している。さらに腫瘍血管新生の早期「レジスタ」としての血小板の同定は、これらが腫瘍成長の早期検出に利用されることを示唆している。
【0212】
興味深いことに、内皮細胞成長の制御因子および/または血管新生の促進因子は、血小板により追跡されるタンパク質の大部分を占め、限定された数の他のタンパク質が異なるように発現される。
【0213】
最初に発見されおよび配列決定されたケモカインであるPF4は、血小板特異的であり、巨核球においてのみ合成される。PF4は、古典的ケモカインのようには挙動しない。プロトタイプのCXCケモカインであるIL-8とは異なり、これは、(1)白血球遊走を誘導せず;(2)リソソーム顆粒の脱顆粒を引き起こさず;(3)LFA-1、次にIL-8接着により促進されたMAC-1を介して内皮細胞へはるかに強力な接着を引き起こし;ならびに、(4)TNF-αの存在下で第二の顆粒エキソサイトーシスの選択的誘導因子である(IL-8により示されない機能)(Brant et al, 2000)。PF-4に反応した内皮細胞への極めて強固な好中球接着は、乱れた血流の存在下であっても、細胞-細胞の接触を維持することができるシステムであり、ならびに強固な接着に続くエキソサイトーシスの誘導は、血管新生制御因子分子が洗浄除去されることを防ぐであろう。
【0214】
CXCRケモカインは一般に、トリペプチドELRが、第一のCXC-ドメインに先行する場合はプロ-血管新生性であるが、このモチーフが存在しない場合は抗血管新生性である(Strieter R, Polverini JBC 1995)。興味深いことに、完全長四量体(ELR-陰性)PF-4の投与は、腫瘍成長および転移を阻害し(Sharpe et al., J Nat Can Inst 1990、およびKolber et al., J Nat Can Instit, 1995)、ならびにその抗血管新生作用は、主にFGF-2およびVEGFのそれらの受容体への結合に干渉するその能力に起因している(Perollet et al., Blood, 91: 3289-3299,1998、およびGengrinovitch et al., JBC 270,15059-15065, 1995)。
【0215】
最も差次的に発現されるタンパク質の一つは、結合組織活性化ペプチド(CTAPIII、同じく低-アフィニティPF4としても公知)である。CTAPIII、好中球活性化ペプチド-2(NAP-2)およびβ-トロンボモジュリンは全て、血小板塩基性タンパク質のタンパク質分解性切断に由来し、これらは休眠および血管新生性の両脂肪肉腫腫瘍を保有するマウスにおいて、血小板中に高濃度で存在する。ヒト脂肪肉腫の休眠クローンさらには血管新生性クローンにおけるこの血小板会合したヘパラナーゼの増加されたレベルの同定は、癌による早期局所的浸潤に加え、腫瘍成長および転移による播種の維持における血小板ヘパラナーゼの重要な役割を主張している。
【0216】
CTAPIIIの標的である硫酸ヘパランは、細胞外マトリックスおよび血管基底層の重要な成分であり、これは転移細胞および炎症細胞の管外遊出の障壁として機能する。興味深いことに、CTAPIIIは、pH5〜7で最良に作用し(至適活性のピークは5.8)、これを比較的酸性の腫瘍環境に高度に適したヘパラナーゼとしている。
【0217】
血小板抽出物のSELDI-ToF質量分析を使用し、本発明者らは、血小板のこの新規特性は、現在利用可能な診断法では検出不可能である顕微鏡的腫瘍の検出を可能にすることを認めた。血小板血管新生プロファイルは、広範な範囲の腫瘍型および腫瘍サイズの検出ができるので、これは単独のバイオマーカーよりもより包括的である。血小板血管新生プロファイルの相対変化は、早期発生部位内癌から始まる、その発達を通じた腫瘍の追跡を可能にする。
【0218】
本明細書に引用された参考文献は、参照として組入れられている。
【0219】
(表1A)血管新生の刺激因子

【0220】
(表1B)血管新生の阻害因子

【0221】
(表2)追加のバイオマーカー

【0222】
参考文献一覧



本明細書に列記された文献は、本明細書に参照として組入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1】図1は、ヒト血小板のエンドスタチンインビトロ負荷である。多血小板血漿(PRP)を、漸増濃度のエンドスタチンと共に1時間インキュベーションし、引き続き血小板を単離し、洗浄および溶解し、純粋なタンパク質抽出物を得、後にSDS-PAGEを施す。抗-ヒトエンドスタチン、抗-ヒトVEGFおよび抗-ヒトbFGFを使用する標準ウェスタンブロットは、VEGFおよびbFGFの両方の細胞内含量の減少と、エンドスタチンの増加との負の相関関係を明らかにする。
【図2】図2は、SDS-PAGEによる、インビトロにおける血小板タンパク質の選択的交換を示している。VEGFを前-負荷した血小板へのエンドスタチンの取込みは、エンドスタチン前-負荷対照(図2の第一レーン)と比べ、単に完全で、妨げられずおよび増強されるのみではなく、前-負荷されたVEGF(図2の第二レーン)の完全な交換を生じる。比較すると、対抗実験において、すなわちエンドスタチンが前-負荷された血小板へのVEGFの負荷は、完全性の少ないエンドスタチンの交換を生じる。
【図3】図3は、肝臓、マトリゲル、脾臓、腎臓、血漿、および血小板画分中の、カウント/g組織(x105)を示している。ヨウ素化されたVEGFは、その血漿濃度の何倍も過剰に血小板において濃縮される。
【図4】図4は、対照、非-血管新生性試料および血管新生性試料由来の血小板および血漿における、PF4(図4A)、PDGF(図4B)、およびVEGF(図4C)のプロファイルを示す。これらの結果は、血小板試料中のPF4、PDGF、およびVEGFの濃縮を示している。
【図5】図5は、脂肪肉腫保有するマウス由来の血小板および血漿中の、bFGF(図5A)、VEGF(図5B)、PDGF(図5C)、およびES(図5D)のプロファイルを示す。
【図6】図6は、免疫蛍光を使用する、血小板活性化の前、途中、および後でのVEGFの細胞内分布を示す。休止しているの血小板において、VEGFの大半は血小板の細胞内細胞質部分に局在化し(図6B)、細胞膜に沿ってVEGFの環の形態に整列し(図6D挿入図)、その後活性化された血小板の偽足に沿って(図6D)移動する。活性化が誘導した血小板エキソサイトーシスのパターンは、通常採用される血小板細胞内内容物の循環への「放出」よりも、血小板の細胞内内容物の組織との直接交換をより示唆している。
【図7】図7は、休止しているおよび活性化された血小板のVEGF局在化を示す。固定されおよび透過性とされた休止している血小板の二重標識免疫蛍光顕微鏡法を用い、VEGFの細胞内局在を決定した。チューブリンは、休止している血小板において周縁の微小管バンドに濃縮され、この構造は、血小板外周を規定する(図7A)。抗-VEGF抗体は、血小板細胞質全体に分布された点状のベシクル-様構造をむらなく標識した(図7B)。蛍光-標識されたファロイジンおよびVEGFを使用する活性化された血小板の二重染色は、活性化時であっても血小板とVEGFの持続性の会合を明らかにしている(図7F)。活性化と一致する血小板-形状の変化は、膜状仮足および糸状仮足の形成により、明らかに示された。VEGFは、活性化され散在された血小板において点状の両パターンとして認められるが、より多くのVEGFは、細胞質内に残存するよりも、糸状仮足に沿っておよび膜状仮足の外周に沿って局在化されていた。
【図8】図8は、血小板におけるVEGFの細胞内分布を示している。図8A:血小板はファロイジンで染色される。図8B:血小板は、抗-VEGFで染色される。図8C:重なり。
【図9】図9は、血小板(右側)の、巨核球(左側)との相互作用を示す。VEGFの細胞内分布は、免疫蛍光により示されている。
【図10】図10は、血小板および巨核球におけるVEGF(図10A)、vWF(図10B)の細胞内分布および重なり(図10C)を示している。
【図11】図11は、血小板内の正および負の血管新生制御因子のダイアグラムを示す。
【図12】図12は、マウスにおけるマトリゲル(50ng 125I VEGF)の配置の図を示す。
【図13】図13は、脈管化されたヒト腫瘍、非-血管新生性休眠細胞、および血管新生性増殖細胞の概略図を示す。
【図14】図14は、ヌードマウスにおける非-血管新生性対血管新生性ヒト脂肪肉腫を示す。血管新生は、133日目のルシフェラーゼ発光により分析した。
【図15】図15は、SELDI-TOFを使用する、血小板および血漿タンパク質発現に関するプロトコールを示す。
【図16】図16は、腫瘍移植後30日目の、非-血管新生性および血管新生性ヒト脂肪肉腫を保有するSCIDマウス由来の血小板および血漿抽出物のタンパク質発現マップを示す。VEGFに印を付けている。
【図17】図17は、腫瘍移植後30日目の、非-血管新生性および血管新生性ヒト脂肪肉腫を保有するSCIDマウス由来の血小板および血漿の抽出物のタンパク質発現マップを示す。PF-4に印を付けている。
【図18】図18は、腫瘍移植後30日目の、非-血管新生性および血管新生性ヒト脂肪肉腫を保有するSCIDマウス由来の血小板および血漿の抽出物のタンパク質発現マップを示す。PDGFに印を付けている。
【図19】図19は、腫瘍-保有するマウスの血小板中のbFGFの隔絶の時間経過を示す。分子量1820ダルトンのみが含まれる。
【図20】図20は、対照動物(灰色線)および休眠腫瘍を移植した動物(黒色線)由来の血小板抽出物の質量分析発現マップを示す。x-軸の数値は、観察された粒子の質量電荷比(m/z)であり、曲線の高さは、観察されたピークの強度に対応している。使用された抽出物は、実施例に説明されたように、最初のアニオン交換画分の画分2から得た。この画分の試料は、WCX2 ProteinChipアレイ上で分析した。CTAPIIIおよびPF4は、腫瘍-保有するマウスにおいてアップレギュレーションされたことが同定された。図20bは、CTAPIIIおよびPF4(矢印)は、休眠および血管新生性の両方の腫瘍-保有するマウスの血小板においてアップレギュレーションされたが、血漿においてはされなかったことを示す。
【図21】図21aは、3群のマウスの血小板から得た抽出物において測定された、正規化されたCTAPIIIピーク強度のプロットを示す:各々、対照、休眠(非-血管新生性)および血管新生性ヒト脂肪肉腫腫瘍。図21Bは、3群のマウスの血漿から得た抽出物において測定された、正規化されたCTAPIIIピーク強度のプロットを示す:対照、休眠(非-血管新生性)および血管新生性ヒト脂肪肉腫腫瘍。 図21Cは、21Aおよび21Bと同じマウス群の血小板中の正規化されたPF4ピーク強度のプロットを示す。図21Dは、21A、21Bおよび21Cと同じマウス群の血漿中の正規化されたPF4ピーク強度のプロットを示す。
【図22】図22Aは、成長の19日目、32日目および120日目の腫瘍-保有するマウスの血小板における、正規化されたCTAPIIIピーク強度のプロットを示し、これは試験した時間経過にわたる血小板CTAPIIIレベルの増加を示し、他方図22Bは、同じ期間にわたる、減少したまたは変化しない血漿CTAPIIIレベルを示している。 図22Cは、成長の19日目、32日目および120日目の腫瘍-保有するマウスの血小板における、正規化されたPF4ピーク強度のプロットを示し、これは試験した時間経過にわたる血小板PF4レベルの増加を示し、他方図22Dは、同じ期間にわたる、減少したまたは変化しない血漿PF4レベルを示している。図22において、中央値±標準誤差を、ピーク強度の各群について示している。
【図23】図23aは、抗-塩基性線維芽細胞成長因子(抗-bFGF)抗体を使用する、血小板および血漿抽出物の抗体相互作用発見マップを示す。特にこの図は、bFGFおよびそれらの断片は、休眠(非-血管新生性)腫瘍-保有するマウスの血小板においてアップレギュレーションされることを示す。図23bは、血小板対血漿抽出物における変化する発現レベルの比較、加えて非-血管新生性および血管新生性腫瘍-保有するマウスにおけるbFGF発現の間の差異の比較を可能にする発現マップを示す。
【図24】図24は、抗-血小板由来成長因子(抗-PDGF)抗体を使用する、血小板抽出物の抗体相互作用発見マップを示す。この図は、PDGFおよびそれらの断片は、休眠腫瘍-保有するマウスにおいてアップレギュレーションされることを示している(移植後30日目)。
【図25】図25は、血小板抽出物のアニオン交換カラム上での分画後に観察されたバイオマーカーの発現マップ、その後のこれらの画分の一つ(画分1)のWCX2 ProteinChipアレイ上でのプロファイリングを示す。この図は、20400Daタンパク質を含むいくつかのマーカーが、腫瘍-保有するマウスから得た血小板抽出物(黒色)において、対照マウスの血小板抽出物(灰色)と比べ、アップレギュレーションされたことを示している。
【図26】図26は、血小板抽出物のアニオン交換カラム上での分画後に観察されたバイオマーカーの発現マップ、その後のこれらの画分の一つ(画分1)のWCX2 ProteinChipアレイ上でのプロファイリングを示す。この図は、いくつかのマーカーが、休眠腫瘍-保有するマウスから得た血小板抽出物(黒色)において、対照マウスの血小板抽出物(灰色)と比べ、アップレギュレーションされたことを確定している。
【図27】図27は、ADPまたはトロンビン活性化された血小板からの増殖因子放出である。漸増濃度のエンドスタチンに曝露されたPRPの血漿部分は、市販のELISAを用い、VEGFおよびbFGFについて分析した。エンドスタチンによる血小板の単純な負荷は、上清(血漿)へVEGFまたはbFGFを放出せず、ならびにトロンビンまたはADPのような古典的脱顆粒誘発剤によるこれらの因子の放出は、高度に選択的であった。一部(しかし全てではない)のVEGFが、トロンビンによる(しかしADPによるものではない)血小板活性化により、放出された。いずれの物質も、血小板からbFGFを遊離することは可能ではなかった。
【図28】図28は、血小板による選択的VEGFタンパク質取込みである。VEGFタンパク質は、放射性ヨウ素で標識し、およびマトリゲル100μl中の約50ngの125I-標識VEGFを、C57BLK/6マウスの左側腹へ皮下移植した。3日後、マウスを屠殺し、クエン酸血1mlを、終末放血(terminal bleed)により収集した。各組織試料の放射活性をガンマカウンター上で定量し、この値を組織質量の差に関して補正し、組織1g当たりの1分間のカウント数[cpm/g組織]として表した。実験を、1回の実験につき5匹のマウスで、2回個別に繰返し、図は、平均±標準誤差を表している。
【図29】図29A-Hは、腫瘍-保有するマウスの血小板タンパク質プロファイルの代表的分析である。健常マウス("対照")、非-血管新生性休眠腫瘍異種移植片を保有するマウス("非-血管新生性")、および血管新生性腫瘍異種移植片を保有するマウス("血管新生性")からのスペクトルを、ゲル像として示した。差次的発現パターンがいくつかのペプチドに関して検出された。例えば血小板溶解液の塩基性画分において、バンドが8200Daで同定され、その後免疫枯渇により、血小板因子-4(PF-4)であることが確認された。横軸:m/z値からコンピュータにより算出した相対MW。縦軸:免疫枯渇または免疫沈降により確認した、同定されたペプチド。バンド強度は、タンパク質の相対発現プロファイルに相関している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、個体において血管新生性疾患または障害を検出する方法:
a.第一の時点で該個体から血小板を単離する工程;
b.該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;
c.第二の時点で該個体から血小板を単離する工程であり、該第二の時点は、該第一の時点よりも後である工程;
d.該第二の時点由来の該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;および
e.第一の時点の該血管新生制御因子のレベルを、該第二の時点の該血管新生制御因子のレベルと比較する工程であり、ここで該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの増加、または該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルの減少が、血管新生性疾患または障害の指標である工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、個体において癌を検出する方法:
a.第一の時点で該個体から血小板を単離する工程;
b.該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;
c.第二の時点で該個体から血小板を単離する工程であり、該第二の時点は、該第一の時点よりも後である工程;
d.該第二の時点の該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;および
e.第一の時点の該血管新生制御因子のレベルを、該第二の時点の該血管新生制御因子のレベルと比較する工程であり、ここで該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの増加、または該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルの減少が、癌の指標である工程。
【請求項3】
以下の工程を含む、血管新生性疾患または障害に罹患した個体を処置する方法:
a.第一の時点で該個体から血小板を単離する工程;
b.該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;
c.第二の時点で該個体から血小板を単離する工程であり、該第二の時点は、該第一の時点よりも後である工程;
d.該第二の時点の該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;
e.第一の時点の該血管新生制御因子のレベルを、該第二の時点の該血管新生制御因子のレベルと比較する工程であり、ここで該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの増加、または該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の負の血管新生制御因子の減少が、血管新生性疾患または障害の指標である工程;および
f.血管新生性疾患または障害を有することが示された個体に療法を投与する工程。
【請求項4】
以下の工程をさらに含む、請求項3記載の方法:
(g)第三の時点で該個体から血小板を単離する工程であり、該第三の時点でが、該第二の時点よりも後、および療法開始後である、工程;
(h)該第三の時点の該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;および
(i)第二の時点の該血管新生制御因子のレベルを、該第三の時点の該血管新生制御因子のレベルと比較する工程であり、ここで該第二の時点のレベルと比較した、該第三の時点の血小板中の該少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの減少、または該第三の時点の血小板中の該少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルの増加が、有効な処置の指標である工程。
【請求項5】
血小板が、血液試料から単離される、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
正の血管新生制御因子が、VEGF-A(VPC)、VEGF-C、bFGF、HGF、アンギオポイエチン-1、PDGF、EGF、IGF-1、IGF BP-3、BDNF、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、ビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ヘパラナーゼおよびスフィンゴシン-1 PO4からなる群より選択される、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
負の血管新生制御因子が、PF-4、トロンボスポンジン-1および2、HGFのNK1、NK2、NK3断片、TGF-β-1、プラスミノーゲン(アンギオスタチン)、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1、α-2アンチプラスミンおよびそれらの断片、α-2マクログロブリン、組織メタロプロテイナーゼインヒビター(TIMP)、β-トロンボグロブリン、エンドスタチン(edostatin)、タムスタチン、および可溶性VEGFR2からなる群より選択される、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
血小板が、タンパク質アレイ、ELISA、ウェスタンブロット、表面増強レーザー脱離イオン化分光法(SELDI)、および質量分析からなる群より選択される方法を用い、少なくとも1種の血管新生制御因子の存在について分析される、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
個体が、癌に対する遺伝的素因を有する、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
癌に対する遺伝的素因が、腫瘍抑制遺伝子の変異である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
腫瘍抑制遺伝子が、BRCA1、BRCA2、p53、p10、LKB1、MSH2およびWT1からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
個体が、癌または血管新生性疾患もしくは障害について以前に処置されている、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
個体が、健常で無病の個体であると考えられる、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
第二の時点が、該第一の時点の少なくとも1ヶ月後である、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
第二の時点が、該第一の時点の少なくとも2ヶ月後である、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
第二の時点が、該第一の時点の少なくとも6ヶ月後である、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
第二の時点が、該第一の時点の少なくとも10ヶ月後である、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
第二の時点が、該第一の時点の少なくとも1年後である、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
癌が、胃腸癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、頭部および頸部の癌、肺癌、非小細胞肺癌、神経系の癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、生殖-泌尿器癌、および膀胱癌からなる群より選択される、請求項1、2、または3のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
療法が、血管新生インヒビター、化学療法、放射線療法、および外科的切除からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項21】
血管新生インヒビターが、アンギオスタチン、ベバシズマブ(アバスチン)、アレステン、カンスタチン(Canstatin)、カプロスタチン(Caplostatin)、コンブレタスタチン、エンドスタチン、NM-3、トロンボスポンジン、タムスタチン、2-メトキシエストラジオール、ビタキシン、ZD 1839(イレッサ)、ZD6474、OSI774(タルセバ)、CI1033、PKI1666、IMC225(エルビタックス)、PTK787、SU6668、SU11248、ハーセプチン、およびIFN-α、CELEBREX(登録商標)(セレコキシブ)、THALOMID(登録商標)(サリドマイド)、およびIFN-αからなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
血管新生性疾患または障害が、網膜症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、再狭窄、炎症疾患、関節炎、関節リウマチ、乾癬、クローン病、良性腫瘍、血管腫、神経線維腫、および肉芽腫からなる群より選択される、請求項2および3記載の方法。
【請求項23】
以下の工程を含む、個体における血管新生性疾患または障害を検出する方法:
a.個体から血小板を単離する工程;
b.該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;
c.個体由来の該血管新生制御因子のレベルを、標準由来の血管新生制御因子のレベルと比較する工程であり、ここで標準と比較した、個体由来の血小板中の該少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの増加、または個体由来の血小板中の該少なくとも1種の負の血管新生制御因子の減少が、血管新生性疾患または障害の存在の指標である工程。
【請求項24】
血管新生性疾患または障害を有することが示された個体に療法を投与する工程をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
血管新生性疾患または障害が、胃腸癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、頭部および頸部の癌、肺癌、非小細胞肺癌、神経系の癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、生殖-泌尿器癌、膀胱癌、網膜症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、再狭窄、炎症疾患、関節炎、関節リウマチ、乾癬、クローン病、良性腫瘍、血管腫、神経線維腫および肉芽腫からなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項26】
以下の工程を含む、個体における抗-血管新生療法の有効性の確度を決定する方法:
a.第一の時点で個体から血小板を単離する工程;
b.該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;
c.該個体へ抗血管新生療法を投与する工程;
d.第二の時点で該個体から血小板を単離する工程であり、該第二の時点は、該第一の時点よりも後、および療法開始後である工程;
e.該第二の時点の該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;および
f.第一の時点の該血管新生制御因子のレベルを、該第二の時点の該血管新生制御因子のレベルと比較する工程であり、ここで該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの減少、または該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の負の血管新生制御因子の増加が、有効な処置の指標である工程。
【請求項27】
以下の工程を含む、血小板の血管新生制御因子のレベルを調整する試験療法の有効性を決定する方法:
a.第一の時点で宿主から血小板を単離する工程;
b.該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;
c.該宿主へ試験療法を投与する工程;
d.第二の時点で該宿主から血小板を単離する工程であり、該第二の時点は、該第一の時点よりも後、および試験療法開始後である工程;
e.該第二の時点の該血小板を、少なくとも1種の正のまたは少なくとも1種の負の血管新生制御因子のレベルについて分析する工程;および
f.第一の時点の該血管新生制御因子のレベルを、該第二の時点の該血管新生制御因子のレベルと比較する工程であり、ここで該第二の時点の血小板中の該少なくとも1種の正の血管新生制御因子のレベルの減少、または該第二の時点の血小板中の少なくとも1種の負の血管新生制御因子の増加が、血小板の血管新生制御因子のレベルの調整における試験療法の有効性の指標である工程。
【請求項28】
どの血管新生制御因子が調整されたかを決定する工程をさらに含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
以下の工程を含む、血管新生性疾患または障害の血小板レジスタまたはプロファイルを作製する方法:
a.公知の血管新生性疾患または障害を伴う第一群(血管新生群)および血管新生性疾患または障害を伴わない第二群(対照群)の、二つの個体群から、血小板を単離する工程;
b.血管新生群および対照群由来の該血小板を、血小板会合バイオマーカーのレベルについて分析する工程;
c.各群の各血小板会合バイオマーカーの平均レベルを算出する工程;
d.各群のバイオマーカーを評価し、差異を決定する工程;および
e.特定の血管新生性疾患または障害に関する血小板レジスタを作製する工程であり、ここでこのレジスタは、対照群と比較して、血管新生群において異なるように発現されたバイオマーカーの一覧である工程。
【請求項30】
血管新生性疾患または障害が、胃腸癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、頭部および頸部の癌、肺癌、非小細胞肺癌、神経系の癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、生殖-泌尿器癌、膀胱癌、網膜症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、再狭窄、炎症疾患、関節炎、関節リウマチ、乾癬、クローン病、良性腫瘍、血管腫、神経線維腫および肉芽腫からなる群より選択される、請求項28記載の方法。
【請求項31】
以下の工程を含む、個体における血管新生性疾患または障害を検出する方法:
a.第一の時点で個体から血小板を単離する工程;
b.該血小板を、少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーのレベルについて分析する工程;
c.第二の時点で該個体から血小板を単離する工程であり、該第二の時点は、該第一の時点よりも後である工程;
d.該第二の時点の該血小板を、少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーのレベルについて分析する工程;および
e.第一の時点の血小板会合バイオマーカーのレベルを、該第二の時点の血小板会合バイオマーカーのレベルと比較する工程であり、ここで該第二の時点の血小板中の該血小板会合バイオマーカーのレベルの増加または減少が、血管新生性疾患または障害の指標である工程。
【請求項32】
血管新生性疾患または障害を有することが示された個体に療法を投与する工程をさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
血管新生性疾患または障害が、胃腸癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、頭部および頸部の癌、肺癌、非小細胞肺癌、神経系の癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、膵臓癌、生殖-泌尿器癌、膀胱癌、網膜症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、再狭窄、炎症疾患、関節炎、関節リウマチ、乾癬、クローン病、良性腫瘍、血管腫、神経線維腫および肉芽腫からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項34】
以下の工程を含む、療法で処置されている血管新生性疾患または障害を有する個体における療法の有効性をモニタリングする方法:
a.第一の時点で、血管新生性疾患または障害について処置されている個体から血小板を単離する工程;
b.該血小板を、少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーのレベルについて分析する工程;
c.第二の時点で該個体から血小板を単離する工程であり、該第二の時点は、該第一の時点よりも後である工程;
d.該第二の時点の該血小板を、少なくとも1種の血小板会合バイオマーカーのレベルについて分析する工程;および
e.第一の時点の血小板会合バイオマーカーのレベルを、該第二の時点の血小板会合バイオマーカーのレベルと比較する工程であり、ここで該第二の時点からの血小板中の該血小板会合バイオマーカーのレベルの増加または減少が、有効な療法の指標である工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図21C】
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【図21D】
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【図22A】
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【図22B】
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【図22C】
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【図22D】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27A】
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【図27B】
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【図28】
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【図29A】
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【図29B】
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【図29C】
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【図29D】
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【図29E】
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【図29F】
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【図29G】
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【図29H】
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【公表番号】特表2007−535324(P2007−535324A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510873(P2007−510873)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/014210
【国際公開番号】WO2005/103281
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Linux
2.UNIX
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】