説明

病理組織検査標本作成用の包埋トレイ

【課題】1種の包埋トレイで大小サイズの異なるカセット等の各種パラフィンブロック付着体に対応できる病理組織検査標本作成用の包埋トレイを提供する。
【解決手段】 方形の容器からなるパラフィン収容部2とその周縁に設けられたパラフィンブロック付着体の載置部3aとからなり、前記載置部3aが少なくとも2個設けられていることを特徴とする病理組織検査標本作成用の包埋トレイである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は病理組織検査標本作成用の包埋トレイに関し、更に詳しくは、1種の包埋トレイで大小サイズの異なるカセット等のパラフィンブロック付着体に対応できる病理組織検査標本作成用の包埋トレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の病理組織検査標本作成用の包埋トレイとしては、周縁の支持部と収容部とからなり、前記収容部において病理組織検体をパラフィン包埋や凍結包埋ブロックを作成するトレイにおいて、前記収容部の形状を左右非対称としたことを特徴とする病理組織検査標本作成用トレイが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、検体をパラフィン等の鋳込み材料で鋳込む包埋処理を実施するための包埋皿において、鋳込み材料が注入されるキャビティを有し、前記キャビティは、底壁と前記底壁の周縁に立設された複数の側壁とにより区画されており、前記キャビティは、底壁側のキャビティ下部と前記キャビティ下部の上に位置するキャビティ上部とを有しており、前記側壁のうち前記キャビティ下部を囲んでいる側壁下部の内側表面と前記底壁の内側表面とが成す角度αは、前記側壁のうち前記キャビティ上部を囲んでいる側壁上部の内側表面と前記底壁の内側表面とが成す角度βより小さいことを特徴とする、包埋皿が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】実開平3−10245号公報(第1図、第2図)
【特許文献2】特開2003−106963号公報(図2、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前者のトレイは、収容部の形状を左右非対称としたことにより、該トレイで得られた、検体を包埋するパラフィンブロックをミクロトームでスライスして得られる薄片の左右が明確に区別でき、作業効率と検査結果の信頼性を高めるものである。
【0005】
また、後者の包埋皿は、キャビティ下部の側壁の底壁とのなす角度を小さくすることによりパラフィンブロックの形状を概ね角柱形状として、パラフィンブロックをスライスするに先だって、角柱形状となるように該ブロックの不要なパラフィンを除去、整形する工程を省略して作業工数及び作業時間の削減を図ろうとするものである。
【0006】
ところで、一般に、パラフィンブロックはカセットの底部に検体を包埋するパラフィンを付着させて作成されるが、このパラフィンブロック付着体であるカセットのサイズは包埋する検体の種類やサイズにより種々のものが使用されている。更には、上記実開平3−10245号公報にも記載されているように、包埋リングやクリオスタット(商品名)もカセットと同様にパラフィンブロック付着体として使用されており、これらの包埋リングやクリオスタットにも種々のサイズのものがある。
【0007】
しかしながら、上記従来のトレイや包埋皿(以下、両者を含めて包埋トレイと記す)にあっては、収容部又はキャビティのサイズが一定であるため、例えば、パラフィンブロックを付着させ一体化するカセットのサイズが異なると、もはや該包埋トレイでは対応できなくなり、その結果、カセットのサイズに合わせて数多くのサイズの異なる包埋トレイを準備する必要があり、標本作成中においてもカセットのサイズに合わせて適切な包埋トレイを選択して使用する必要があるため、いきおい標本作成の作業が煩雑となり作業性が著しく低下するばかりでなく、金型代が嵩む等により包埋トレイのコストアップが避けられず、更に、多種の包埋トレイの製品管理や在庫管理も甚だ面倒とならざるを得ない。更にまた、輸送や保管にも広いスペースを必要とし、輸送や保管の効率が低い。
【0008】
本発明はかかる実情に鑑み、上記従来技術の欠点を解消するもので、1種の包埋トレイを準備するだけでサイズの異なる各種のカセット、包埋リング等のパラフィンブロック付着体に対処できる包埋トレイを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するためになされたもので、本発明の請求項1は、方形の容器からなるパラフィン収容部とその周縁に設けられたパラフィンブロック付着体の載置部とからなり、前記載置部が少なくとも2個設けられていることを特徴とする病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0010】
本発明の請求項2は、パラフィンブロック付着体の載置部Aがパラフィン収容部の周縁に沿って段状に設けられるとともに、2個の対向する2辺のいずれか1個又は2個の前記載置部Aの中に、少なくとも1個のパラフィンブロック付着体の載置部Bが該載置部Aよりも低い位置に段状に設けられていることを特徴とする請求項1記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【0011】
本発明の請求項3は、パラフィン収容部の形状が左右非対称であることを特徴とする請求項1又は2記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイを内容とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の病理検査標本作成用の包埋トレイは、カセット等のパラフィンブロック付着体の載置部が少なくとも2個設けられているので、1種の包埋トレイで各種のサイズの異なるパラフィンブロック付着体に対処することができる。
【0013】
従って、パラフィンブロック作成の際に、予めサイズの異なる多種の包埋トレイを準備し、カセット等のパラフィンブロック付着体のサイズに合わせて包埋トレイを選択して使用する必要がなく、従って、作業性は大巾に向上する。
【0014】
また、1種の包埋トレイでサイズの異なる多種のパラフィンブロック付着体に対処できるので、金型代が節約でき包埋トレイを安価に提供できるばかりでなく、製品管理や在庫管理が容易となり、また運搬や保管のスペースが小さくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の病理検査標本作成用の包埋トレイ(以下、単に包埋トレイと記す)は、方形の容器からなるパラフィン収容部とその周縁に設けられたパラフィンブロック付着体の載置部とからなり、前記載置部が少なくとも2個設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の包埋トレイは液状(溶融)パラフィンに耐える耐熱性素材から作られ、かかる素材としては、ステンレス等の金属、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール等の樹脂等が挙げられる。
【0017】
パラフィン収容部は、パラフィンブロックの脱型を容易にするため、通常、側壁が底部から開口部に向かって末広がりのテーパー状の容器からなる。
【0018】
パラフィン収容部の開口部周縁には、パラフィンブロック付着体の載置部が設けられる。該載置部は、パラフィンブロック収容部の開口部周縁でパラフィンブロック付着体を載置できるものであれば特に制限されないが、好ましくは、開口部周縁から外方向に延設された水平部により形成される。より好ましくは、該水平部と該水平部の外側に略垂直方向に延設された壁部とにより形成され、更に好ましくは、該壁部の外方向に更に略水平の縁部が形成された形状からなる。
【0019】
壁部はパラフィンブロック付着体が自由に滑動しないように固定し、また、縁部はサイズの大きいパラフィンブロック付着体を裏面から支承し安定的に固定するとともに、取り扱い性を容易にし且つ外観性を向上させる。
【0020】
パラフィンブロック付着体の載置部は、少なくとも2個設けられる。2個又はそれ以上の載置部は、上記の如く、パラフィンブロック収容部の開口部周縁に設けた載置部をAとすると、この載置部Aの中であって、2個の対向する2辺のうちのいずれか1個又は2個に、前記載置部Aよりも低い位置に、少なくとも1個の載置部Bが設けられる。
例えば、パラフィン収容部が矩形の容器からなる場合、対向する2辺としては、長辺側と短辺側との2個が存在するが、例えば、長辺側の2辺に1個の載置部B1を設けると、載置部Aと載置部B1の2個の載置部となり2種のパラフィンブロック付着体に対応でき、また、短辺側の2辺にも載置部B2を設けるとA、B1、B2の合計3個の載置部となり3種のパラフィンブロック付着体に対応でき、更にまた、長辺側に2個の載置部B1、B2、短辺側にも2個の載置部B3、B4を設けると、A、B1、B2、B3、B4の合計5個の載置部となり、5種のパラフィンブロック付着体に対応可能となる。
【0021】
パラフィン収容部の形状は、左右非対称とすることにより、ミクロトームでスライスされた薄片の左右が明確に区別されるので、作業性が高められ、また左右誤認により検体を誤認するといったトラブルが防止されるので、検査の信頼性が向上する。
【0022】
パラフィンブロック付着体は、検体を包埋したパラフィンブロックを付着させ、パラフィンブロックの基体となるもので、カセットの他、包埋リング、クリオスタット(商品名)等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例を示す図面に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されないことは云うまでもない。
【0024】
実施例1
本実施例の包埋トレイ1は、図1の斜視図、図2のA−A断面図に示すように、底部2aとそれを取り囲む側壁2bとから形成される方形の容器からなるパラフィン収容部2と、該収容部2の周縁、即ち、該収容部2の開口部周縁に延設された水平部3aからなる、パラフィンブロック付着体の載置部Aが設けられ、更に、該載置部Aの中の対向する長辺側の2辺に、該載置部Aよりも低い位置に、水平部4aからなる載置部Bが設けられている。これらの図において、5は把持部である。
【0025】
パラフィン収容部2を形成する側壁2bは、底部2aから開口部付近の載置部A、Bに向かって末広がりのテーパー状に設けられており、これによりパラフィンブロックの包埋トレイ1からの脱型が容易となる。
【0026】
また、パラフィン収容部2の4角のうちの1つの角には直角の部分を覆うように斜角部2cが設けられ、これによりミクロトームでスライスされた薄片の左右が明確に区別され、左右誤認により検体を誤認するといったトラブルが防止され、検査結果の信頼性が高められる。
【0027】
また、本実施例では、載置部Aは、水平部3aと、その外側に略垂直方向に延設された壁部3bと、更に、該壁部3bの上端より略水平方向に延設された縁部3cとから形成されている。
【0028】
同様に、載置部Bについても、水平部4aと、その外側に略垂直方向に延設された壁部4bとから形成されている。尚、パラフィンブロック付着体のサイズや形状によっては、該壁部4bの上端より略水平方向に延設された縁部4cにより形成される場合がある。
【0029】
図3〜図12は、本実施例の包埋トレイ1の載置部A又はBに各種のパラフィンブロック付着体を載置して検体を包埋したパラフィンブロックを作成する状態を示す上面図及び断面図である。
【0030】
図3及び図4は、図1、図2における包埋トレイ1の載置部Bに、短辺側の1つに氏名等を記載するテーパー状の記録部7を備えたカセット6aが載置されている。8は検体、9はパラフィンである。
【0031】
図5及び図6は、図3、図4におけるカセット6aに代えて、テーパー状の記録部を備えず、その分だけカセット本体の面積を大きくしてサイズの大きい検体を収容可能としたカセット6bを使用した他は同様である。
【0032】
図7及び図8は、図3、図4におけるカセット6aに代えて、側壁の高さを大きくしてサイズ(厚み)の大きい検体を収容可能とするとともに、従来のカセット用のアダプターに適用できるように、側壁の略上半分を厚くしてアダプター係止部10を突設したカセット6cを使用した他は同様である。
【0033】
図9及び図10は、図3、図4におけるカセット6aに代えて、包埋リング11aを使用した他は同様である。
【0034】
図11及び図12は、サイズの大きい包埋リング11bを図1、図2における包埋トレイ1の載置部Aに載置して、パラフィンブロックを作成する状態を示す上面図及び断面図である。
【0035】
実施例2
本実施例の包埋トレイ1は、図13に示すように、載置部Aの中に、長辺側には載置部B1とB2を、短辺側には載置部B3を設けた例で、この包埋トレイでは、サイズの異なる4種のパラフィンブロック付着体に対応することが可能である。
【0036】
実施例3
本実施例の包埋トレイは、図14に示すように、実施例1(図1、図2)に示した包埋トレイ1において、斜角部2cを省略した他は同様である。
【0037】
実施例4
本実施例の包埋トレイ1は、図15に示すように、実施例3(図14)に示した包埋トレイ1において、載置部Aの中の載置部Bを短辺側に設けた他は同様である。
【0038】
実施例5
本実施例の包埋トレイ1は、図16に示すように、実施例3(図14)に示した包埋トレイにおいて、載置部Aの中に、長辺側に載置部B1、B2、短辺側に載置部B3、B4をそれぞれ設けた例で、この包埋トレイ1によれば、サイズの異なる5種のパラフィンブロック付着体に対応することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
叙上のとおり、本発明の病理組織検査標本作成用の包埋トレイは、1種の包埋トレイを準備するだけでカセット、包埋リング等の各種のパラフィンブロック付着体及びそれらのサイズの異なるものに対処できる。
【0040】
従って、標本を作成するに際し、予め多種多様の包埋トレイを準備しておき、カセット、包埋リング等の種類やサイズに応じて包埋トレイを選択使用するという煩雑さから開放され、作業効率が大巾に向上するとともに、製品管理や在庫管理が容易となり、また、輸送や保管のスペースも小さくなり、輸送や保管の効率も向上する。更にまた、金型代が節約できるので、安価な包埋トレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の包埋トレイの実施例を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1、図2の包埋トレイにカセット6aを載置した状態を示す上面図である。
【図4】図3の包埋トレイに検体とパラフィンを入れた状態のB−B断面図である。
【図5】図1、図2の包埋トレイにカセット6bを載置した状態を示す上面図である。
【図6】図5の包埋トレイに検体とパラフィンを入れた状態のC−C断面図である。
【図7】図1、図2の包埋トレイにカセット6cを載置した状態を示す上面図である。
【図8】図7の包埋トレイに検体とパラフィンを入れた状態のD−D断面図である。
【図9】図1、図2の包埋トレイに包埋リング11aを載置した状態を示す上面図である。
【図10】図9の包埋トレイに検体とパラフィンを入れた状態のE−E断面図である。
【図11】図1、図2の包埋トレイに包埋リング11bを載置した状態を示す上面図である。
【図12】図11の包埋トレイに検体とパラフィンを入れた状態のF−F断面図である。
【図13】本発明の包埋トレイの他の実施例を示す斜視図である。
【図14】本発明の包埋トレイの更に他の実施例を示す斜視図である。
【図15】本発明の包埋トレイの更に他の実施例を示す斜視図である。
【図16】本発明の包埋トレイの更に他の実施例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 包埋トレイ
2 パラフィン収容部
2a 底部
2b 側壁
2c 斜角部
3a パラフィンブロック付着体の載置部(水平部)
3b パラフィンブロック付着体の載置部(壁部)
3c パラフィンブロック付着体の載置部(縁部)
4a パラフィンブロック付着体の載置部(水平部)
4b パラフィンブロック付着体の載置部(壁部)
4c パラフィンブロック付着体の載置部(縁部)
5 把持部
6a、6b、6c カセット
7 記録部
8 検体
9 パラフィン
10 アダプター係止部
11a、11b 包埋リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方形の容器からなるパラフィン収容部とその周縁に設けられたパラフィンブロック付着体の載置部とからなり、前記載置部が少なくとも2個設けられていることを特徴とする病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項2】
パラフィンブロック付着体の載置部Aがパラフィン収容部の周縁に沿って段状に設けられるとともに、2個の対向する2辺のいずれか1個又は2個の前記載置部Aの中に、少なくとも1個のパラフィンブロック付着体の載置部Bが該載置部Aよりも低い位置に段状に設けられていることを特徴とする請求項1記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。
【請求項3】
パラフィン収容部の形状が左右非対称であることを特徴とする請求項1又は2記載の病理組織検査標本作成用の包埋トレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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