説明

病的血栓形成に必須であるカルシウムセンサSTIM1及び血小板SOCチャネルOrai1(CRACM1)

本発明は、間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、特にOrai1の阻害剤(別称、CRACM1)、並びに場合により薬学的に活性な担体、賦形剤又は希釈剤を含む薬学的組成物に関する。さらに、本発明は、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害を予防及び/又は治療するための間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、特にOrai1の阻害剤(別称、CRACM1)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性(STIM1-regulated plasma membrane calcium channel activity)の阻害剤、特にOrai1の阻害剤(別称、CRACM1)、及び場合により薬学的に活性な担体、賦形剤又は希釈剤を含む薬学的組成物に関する。さらに、本発明は、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害を予防及び/又は治療するための間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、特にOrai1(別称CRACM1)の阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、多くの文書が引用されている。製造者のマニュアルを含むこれらの文書の記載内容は、それにより全体として参照により組み込まれている。
【0003】
血管損傷部位では、内皮下細胞外マトリックス(ECM)が血流にさらされると、急激な血小板活性化及び血小板血栓形成、続いて血液凝固活性が誘導され、そして損傷部位を閉塞するフィブリン含有血栓が形成される。このプロセスは、外傷後の失血を防ぐために必要であるが、動脈硬化性プラーク破裂部位で起こると、血管閉塞及び心筋梗塞又は虚血性脳卒中の発症に至ることもあり、これらは、先進工業国における死亡率及び重度障害の主な原因に入っている。(非特許文献1;非特許文献2)。従って、血小板活性化の阻害は、このような急性虚血性イベントを予防又は治療する重要な戦略となっている(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。血小板活性化は、内皮下コラーゲン、活性化血小板から放出されるトロンボキサンA2(TxA2)及びADP、並びに凝固カスケードによって生成されるトロンビンによって誘発される(非特許文献6)。これらのアゴニストトリガーはシグナル伝達経路が異なるが、すべてホスホリパーゼ(PL)Csを活性化し、ジアシルグリセロール(DAG)及びイノシトール1,4,5−三リン酸(IP3)の産生に至る。IP3は、ERからのCa2+の放出を誘発し、これはストア作動性Ca2+流入(store-operated Ca2+ entry)(SOCE)として知られている機構によって細胞外Ca2+の流入を誘発すると考えられる(非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9)。さらに、DAG及びその代謝物のいくつかは、ストア非感受性Ca2+流入(non-store operated Ca2+ entry)(非SOCE)を誘発することが示されている(非特許文献10)。
【0004】
間質相互作用分子1(STIM1)は、ER Ca2+枯渇の検出並びにジャーカットT細胞(非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14;)及びマスト細胞(非特許文献15)におけるストア作動性Ca2+(SOC)チャネルの活性化に必要な小胞体タンパク質である。ヒトT細胞及びマスト細胞では、4回膜貫通領域タンパク質Orai1(別称、CRACM1)が、SOCEの必須成分として同定されているが(非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20)、しかし、STIM1のC末端領域は、一過性受容体電位チャネルTRPC1、2及び4のような他のSOCチャネル候補とも相互作用する(非特許文献21)。血小板では、STIM1が高レベルで発現され(非特許文献22)、そしてTRPC1と相互作用することによってSOCEに寄与することがある(非特許文献23)。最近では、STIM1の活性化EFハンド突然変異体(activating EF-hand mutant)を発現するマウスは、血小板中の[Ca2+iレベルの上昇、巨大血小板性血小板減少症及び出血障害を有することが報告されており、血小板機能におけるSTIM1依存性SOCEの役割を示している(非特許文献24)。しかしながら、血小板活性化、止血及び血栓症にとってのSOCEの重要性は知られておらず、プロセスの根底にある機構は明らかになっていない。
【0005】
Orai1は、ヒト血小板中で発現されることがごく最近わかった(非特許文献25)。著者らは、STIM1:Orai1は、血小板及び巨核球におけるアゴニスト惹起性Ca2+流入の主要経路として、すなわち血小板活性化の鍵シグナルとして作用すると推測しているが、これまで、血小板が介在する虚血性イベントの活性化にOrai1が関与していると考えられる適応症又は証拠はない。また、著者らは、この受容体での治療介入に対応するOrai1の機能低下についての潜在的に望ましくない又はなんらかのさらなる医学的に望ましい効果に関する情報については記載していない。さらにまた、血小板活性化に関するOrai1の鍵となる役割におけるTolhurst等の推測に基づき、さらに当業者は、Orai1アンタゴニストが少なくとも不可避的に重篤な止血異常を生じるため、Orai1が医学的介入に適していない標的であると予測している。Tolhurst等は、STIM1活性の上昇に伴うトランスジェニックマウスの胎児性死亡率の増加を記載している文献を引用して、Orai1活性の調節はほとんど致命的な結果にさえなると推測している(非特許文献26)。
【0006】
血栓形成がヒトにおいていくつかの最も頻繁に生じる疾患に至るという事実にもかかわらず、そして10年間にわたって血栓症の分野で実施された広範な基礎及び臨床研究にもかかわらず、登録されている、患者にとって現在入手可能な薬剤は、さまざまな理由で満足いくものではない。現在診療所で用いられるすべての抗凝固剤に共通の1つの問題は、重篤な出血のリスク増加につながっていることである。これらには、ヘパリン、クマリン、直接トロンビン阻害剤、例えばヒルジンと同様にアスピリン、P2Y12阻害剤、例えばクロピドグレル及びGPIIb/IIIa阻害剤、例えばアブシキシマブ(ReoPro)が含まれる。一方、多くの抗凝固剤/抗血小板剤は、血小板減少症の誘発といったようなさらなる望ましくない効果を有する。これは、ヘパリン(ヘパリン誘発性血小板減少症、HIT)(非特許文献27)又はGPIIb/IIIa遮断剤(アブシキシマブ、ReoPro)(非特許文献28)について最も良く記載されている。アスピリン又はP2Y12阻害剤クロピドグレルのような他の優れた阻害剤については、多くの患者が低又は非応答者として記載されている(非特許文献29)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ruggeri Z.M., 2002 Nat.Med. 8:1227-1234
【非特許文献2】Nieswandt, B. et al., 2003 Blood 102:449-461
【非特許文献3】Bhatt, D.L. et al.. 2003, Nat. Rev. Drug Discov. 2:15-28
【非特許文献4】Bhatt, D.L. et al. 2003, Nat. Rev. Drug Discov. 2:15-28
【非特許文献5】Kleinschnitz, C. et al., 2007, Circulation 115:2323-2330
【非特許文献6】Sachs, U.J. and Nieswandt, B. 2007, Circ. Res. 100: 979-991
【非特許文献7】Berridge, M.J. et al., 2003, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 4:517-529
【非特許文献8】Rosado, J.A. et al., 2005, J. Cell Physiol 205:262-269
【非特許文献9】Feske, S., 2007, Nat. Rev. Immunol. 7:690-702
【非特許文献10】Bird, G.S. et al., 2004, Mol. Med. 4: 291-301
【非特許文献11】Roos, J. et al., 2005, J. Cell Biol. 169:435-445
【非特許文献12】Liou, J. et al., 2005, Curr. Biol. 15:1235-1241
【非特許文献13】Zhang, S.L. et al., 2005, Nature 437:902-905
【非特許文献14】Peinelt, C. et al., 2006, Nat. Cell Biol. 8:771-773
【非特許文献15】Baba, Y. et al., 2007, Nat. Immunol
【非特許文献16】Feske, S. et al., 2006, Nature 441:179-185
【非特許文献17】Vig, M. et al., 2006, Science 312:1220-1223
【非特許文献18】Vig, M. et al., 2008 Nat.Immunol. 9:89-96
【非特許文献19】Prakriya. M. et al., 2006 Nature 443:230-233
【非特許文献20】Yeromin, A.V. et al., 2006 Nature 443:226-229
【非特許文献21】Huang, G.N. et al., 2006, Nat. Cell Biol. 8:1003-1010
【非特許文献22】Grosse, J. et al., 2007, J. Clin. Invest 117:3540-3550
【非特許文献23】Lopez, J. et al., 2006, J. Biol. Chem. 281:28254-28264
【非特許文献24】Grosse, J. et al., 2007, J. Clin. Invest 117:3540-3550
【非特許文献25】Tolhurst et al., Platelets, June 2008, Volume 19, Issue 4, pages 308-313
【非特許文献26】Grosse, J. et al., J. Clin. Invest., Volume 117, Number 11, pages 3540-3550
【非特許文献27】Hassan, Y. et al., 2007, J. Clin. Pharm. Ther. 32:535-544
【非特許文献28】Hochtl, T., 2007, J. Thromb. Thrombolysis. 24:59-64
【非特許文献29】Papthanasiou et al., 2007, Hellenic J. Cardiol. 48:352-363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の根底にある技術的問題は、土台を構成する血栓形成に基づく疾患を良好に標的設定するための又は記載された疾患の治療及び/又は予防にとってより満足のいく薬剤の開発が可能となりうる代替の及び/又は改善された手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この技術的問題に対する解決法は、特許請求の範囲を特徴とする実施態様を提供することによって達成される。
【0010】
従って、本発明は、間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、特にOrai1の阻害剤、及び場合により薬学的に活性な担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含む薬学的組成物に関する。
【0011】
本明細書に使用される「薬学的組成物」の用語は、記載された阻害剤の少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、例えば少なくとも3つ、さらなる実施態様においては、少なくとも4つ、例えば少なくとも5つを含む。また、本発明は、間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤及びSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、特に阻害剤又はOrai1の混合物に関する。
【0012】
組成物は、固体、液体又はガス状形態であってもよく、そして、とりわけ、散剤、錠剤、液剤又はエアゾール剤の形態であってもよい。
【0013】
前記薬学的組成物は、薬学的に許容しうる担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含むことが好ましい。適切な薬学的担体、賦形剤及び/又は希釈剤の例は、当分野でよく知られており、そしてリン酸緩衝生理食塩水、水、乳剤、例えば油/水型乳剤、さまざまなタイプの湿潤剤、無菌液などが含まれる。このような担体を含む組成物は、よく知られた慣用の方法によって処方することができる。これらの薬学的組成物は、適切な用量で対象に投与することができる。適切な組成物の投与は、種々のやり方、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、皮内、鼻腔内又は、気管支内投与によって実施してもよい。前記投与は、例えば、脳若しくは冠状動脈のような血流部位への又は個々の組織への直接的な注射及び/又は送達によって実施することが特に好ましい。本発明の組成物は、例えば、外部又は内部標的部位、例えば脳若若しくは心臓への微粒子銃送達(biolistic delivery)によって標的部位に直接投与してもよい。投与レジメンは、主治医及び臨床的要因によって決定される。医学分野ではよく知られているように、任意の1人の患者に対する投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与すべき特定化合物、性別、投与回数及び経路、健康状態並びに並行して投与される他の薬物を含む多くの要因に左右される。タンパク様の薬学的活性物質は、用量当たり1ng〜10mg/kg体重の量で存在してもよいが、しかしながら、上記の要因を特に考慮して、この典型的な範囲より多い又は少ない用量も想定される。また、レジメンが持続注入である場合、1分当たり体重1kgにつき0.01μg〜10mg単位の範囲でなければならない。持続注入レジメンは、1ng及び10mg/kg体重の用量範囲の負荷用量で完了してもよい。
【0014】
経過は、定期評価によってモニターすることができる。本発明の組成物は、局所的に又は全身的に投与してもよい。非経口投与用の製剤としては、滅菌水性又は非水性液剤、懸濁剤及び乳剤が含まれる。非水性の溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体としては、水、アルコール性/水性溶液、乳濁液又は懸濁液が含まれ、生理食塩水及び緩衝化媒体が含まれる。非経口ビヒクル(vehicles)としては、塩化ナトリウム溶液、ブドウ糖リンゲル液(Ringer's dextrose)、ブドウ糖及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液又は不揮発性油が含まれる。静脈内ビヒクルとしては、液体及び栄養補充薬(fluid and nutrient replenishers)、電解質補充薬(electrolyte replenishers)(例えば、ブドウ糖リンゲル液に基づくもの)などが含まれる。また、保存剤及び他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなどが存在してもよい。前記薬学的組成物が、血栓形成を弱める又は血栓サイズを縮小するための当分野で知られているさらなる薬剤を含むことは特に好ましい。本発明の薬学的製剤は上記の阻害剤に基づくため、それらの記載されたさらなる薬剤は、補助剤としてのみ、すなわち、例えば、さらなる薬剤によって生じる副作用を低減するために、単独の薬物として使用するときは、推奨された用量と比較して低減された用量で使用することが好ましい。慣用の賦形剤としては、結合剤、増量剤、滑沢剤及び湿潤剤が含まれる。
【0015】
「間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤」の用語は、STIM1の生物学的機能を少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、そしてさらにより好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも98%又はさらに少なくとも99%低下させる阻害剤のことである。生物学的機能とは、特にSTIM1の知られているあらゆる生物学的機能又は本発明により解明された機能を含むそのあらゆる組み合わせを意味する。前記生物学的機能の例は、STIM1が、一過性受容体電位チャネル(TRPC)のような本明細書において上記されたSOCチャネル候補を含む、形質膜型Ca2+チャネルの開口を調節するその下流の結合パートナーへ結合する能力、チャネルのOraiファミリーのメンバー、特にOrai1を含むストア作動性Ca2+(SOC)チャネルの活性化、特に中程度(例えば1000秒-1)又は高い剪断条件(例えば1700秒-1)下でコラーゲン繊維に粘着する能力、有効に脱顆粒する能力、血栓形成の形成、例えば三次元的血栓形成、特に病的閉塞性の血栓形成(多血小板血栓)への寄与、正常な止血への寄与及び血小板活性化への寄与である。すべてのこれらの機能は、共通の一般知識又は本明細書の教示のいずれかに基づいて、場合によりその中に引用された文書の教示と併せて当業者によって試験することができる。
【0016】
「STIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤」の用語は、STIM1と直接相互作用しないが、下流結合パートナー、すなわちSTIM1に感受性である形質膜型Ca2+チャネルの開口に直接若しくは間接的に影響を与えるSTIM1の下流結合パートナーと相互作用する阻害剤のことである。これらには、STIM1の細胞内運動に関与するSTIM1関連タンパク質の阻害剤又はSOCチャネル活性化の阻害剤が含まれる。特に、STIM1調節性形質膜型カルシウムチャネルは、Orai1、Orai2、Orai3、一過性受容体電位チャネル(TRPチャネル)及びTRPC−チャネル、特にTRPC1チャネルからなる群より選ばれる。STIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の最も好ましい阻害剤は、Orai1の阻害剤である。STIM1の阻害剤について上で引用された阻害値は、必要な変更を加えてSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤に適用される。Orai1の生物学的機能の例は、STIM1若しくはSTIM2(Oh-Hora, M. et al., 2008 Nat.Immunol.; Zhang, S.L. et al., 2005 Nature 437:902-905; Putney JW Jr,, 2007, Cell Calcium 42(2): 103-110)又は他の調節因子へのOrai1の結合、ストア作動性Ca2+(SOC)チャネルとして作用するその機能、SOCEにおけるその介在、及び場合によりそれと併せて、プロセスが主にGPIb−GPVI−ITAM依存性機構によって作用する条件下での動脈損傷部位における多血小板血栓の安定化、さらに場合によりSOCEにおける介在と併せて、インテグリン活性化及び脱顆粒の障害にとってのその必要性、血小板の恒常性におけるその役割、三次元的血栓形成のような血栓形成の形成、特に病的閉塞性の血栓形成(多血小板血栓)への寄与、並びに血小板活性化への寄与である。すべてのこれらの機能は、共通の一般知識又は本明細書の教示のいずれかに基づいて、場合によりその中に引用された文書の教示と併せて当業者によって試験することができる。
【0017】
間質相互作用分子1(STIM1)は、細胞内Ca2+ストア枯渇を免疫細胞の形質膜型SOCチャネルの活性化につなげる待望のカルシウムセンサとして同定されている。当分野ではSOCEが実質的にすべての非興奮性細胞におけるCa2+流入の主要経路であると考えられているが、これは、T細胞(Roos, J. et al., 2005, J. Cell Biol. 169:435-445; Zhang, S.L. et al., 2005, Nature 437:902-905)及びマスト細胞(Baba, Y. et al., 2007, Nat. Immunol)についてしか直接示されていない。さて驚くべきことに、本発明によれば、STIM1は、有効な血小板活性化及び血栓形成に必要であることがわかった。本発明においては、STIM1欠損マウスを作り出し、そしてその血小板を分析した。すべての主要アゴニストに対するCa2+の反応は欠損しており、in vitro流動下での血栓形成並びにin vivoでの動脈血栓症及び虚血性脳梗塞からの保護に障害があるということが見出された。流動下で大きな血栓を安定化するSTIM1-/-血小板の能力は、in vitro及びin vivoの両方で損なわれており、高い剪断条件下での血栓形成におけるSTIM1依存性SOCEの重要な機能を示している。この欠損にもかかわらず、STIM1-/-血小板はin vitroで凝集し、そしてin vivoで止血に寄与することができ、STIM1依存性SOCEは急性虚血性イベントの予防又は治療の魅力的な標的となっている。
【0018】
STIM1は血小板において高度に発現されるが(Grosse, J. et al., 2007, J. Clin. Invest 117:3540-3550)、これらの細胞には非SOCE経路が存在すると言われてきたため、血小板機能にとってのSOCEの重要性は完全に知られているわけではない(Hassock, S.R. et al., 2002, Blood 100:2801-2811)。本発明者らは、STIM1-/-血小板におけるすべての主要アゴニストに対して大きく欠損したCa2+反応が、それらの細胞におけるCa2+流入の主な経路としてSOCEを、そしてこのプロセスの必須メディエーターとしてSTIM1を明確に特定していることを見出した。STIM1-/-血小板で検出された残りのCa2+流入は、他の分子がSOC流入を調節することもありうるが、僅かでしかないことを示唆している。1つの候補分子は、STIM2であり、それは、最初にSTIM1の阻害剤であることが報告されたが(Soboloff, J. et al., 2006, Curr. Biol. 16:1465-1470)、しかし、後になって同グループによってCRACチャネルを活性化することが示された(Parvez, S. et al., 2007, FASEB J)。代わりとして、残りのCa2+流入には、DAGとしてストア依存性機構が介在することもあり、そしてその代謝物のいくつかは、非SOCEを誘発することが示されている(Bird, G.S. et al., 2004, Mol. Med. 4: 291-301)。TrpCファミリーのメンバーは、SOCE及び非SOCEの両方に介在する候補として示唆されている(Rosado, J.A. et al., 2005, J. Cell Physiol 205:262-269; Lopez, J. et al., 2006, J. Biol. Chem. 281:28254-28264; Hassock, S.R. et al., 2002, Blood 100:2801-2811)。
【0019】
重度に損なわれたSOCEに加えて、アゴニスト誘導性血小板活性化に応じた細胞内ストアからのCa2+放出がすでに低下していることが観察され、SERCA阻害剤タプシガルギンで受動的にストアを空にさせることで示されるように、それはERの低い充填状態の結果であることがわかった。ERの充填状態の調節におけるSTIM1の役割は知られてないが、STIM1-/-血小板において欠損したSOCチャネルは、その提案された主な役割の1つ、すなわち、細胞内ストアのカルシウム含量を維持することができないと説明することができる。代わりに、STIM1は、ERにおいてIP3受容体又はSERCAポンプと相互作用するはずであり、それによってそれらの機能に直接影響を与え、そして小胞体からのカルシウム放出を低下させる。
【0020】
添付の例によって示されるように、STIM欠損は、試験したすべてのアゴニストに対する反応において血小板のCa2+流入を低下させるが、Gq/PLCβに誘発されたインテグリンαIIbβ3活性化又は非流動下での顆粒成分(granule content)の放出は損なわれなかった(図2)。これは、アゴニストが長期間、一定濃度で細胞に作用することができるときは、SOCEがこれらのプロセスに必須でないことを示している。対照的に、GPVI/PLCγ2に誘発された細胞活性化は、これらの実験条件下では、きわめて高いアゴニスト濃度でも損なわれた(図2c)。これは、GPVI及びGPCRが血小板中の種々のホスホリパーゼCアイソフォームを活性化するという事実に関連している可能性がある。GPVIライゲーションは、受容体関連の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)下流のチロシンリン酸化カスケードを誘発し、ホスホリパーゼ(PL)Cγ2(29)の活性化に至るが、一方、トロンビン、ADP及びTxA2のような可溶性アゴニストは、ヘテロ三量体のGタンパク質(Gq)に結合する受容体を刺激し、そしてPLCβ(30)の活性化を導く。Ca2+測定によれば、ストア放出及びその後のSOC流入は、GPVI/PLCγ2刺激と比較するとGq/PLCβ刺激の際に、かなりより速く生じることを示しており(図2a)、その後のイベントに影響を与えるに違いないこれらの2つの経路間では、IP3産生の異なる動態が示唆されている。
【0021】
非流動下でSTIM1-/-血小板に見られるかなり軽度の活性化欠損は、中程度の及び高い剪断条件下では安定な三次元血栓の重度に欠損した形成に変換される(図3)。このことは、STIM1依存性SOCEが、急速な希釈のためにアゴニスト効力が制限される条件下で特に重要であり、そして適切な細胞反応を生じるには種々の刺激を統合しなければならないことを示唆している。
【0022】
本発明によれば、Orai1は、ヒト及びマウス血小板において強力に発現されることが示される。Orai1-/-マウスの分析は、血小板SOCEのチャネル並びにin vitro及びin vivoでの血栓形成における必須の役割を示している。しかしながら、現在、診療所で使用されているそれらの抗凝固剤を含む抗凝固剤は、重篤な出血のリスク増加に関連する欠点を有する。従って、当業者にとっては、血小板SOCE及び血栓形成におけるOrai1の機能から、Orai1阻害剤を用いるときは重篤な止血異常が予想される。しかしながら、本発明者らは、Orai1の生物学的機能の欠如は出血発生の増加を伴うことなく脳又は冠状動脈のような血流中の望ましくない血栓形成を予防することができることを示している。従って、本発明は、現在の脳卒中及び心筋梗塞治療における主要な障害を克服する。
【0023】
本発明によれば、Orai1は、血小板における主要なSOCチャネルであり、それがないと、STIM1の欠如と同様に、SOCEにおける重度の欠損に至ることが示されている。この発見は、TRPCファミリー、このプロセスにおいて最も注目すべきTRPC1のチャネルの重要な役割を示唆した以前の報告からは予期されなかった(Rosado, J.A.
et al., 2002 J.Biol.Chem. 277:42157-42163; Sage, S.O. et al., 2002 Blood 100:4245-4246; Lopez, J.J. et al., 2006 J.Biol.Chem. 281:28254-28264)。データは、TRPC1が血小板におけるSOCEに寄与する可能性を排除していない。STIM1は、Orai1とだけでなく、TRPC1を含むTRPCファミリーのメンバーとも相互作用し(Huang, G.N. et al., 2006 Nat.Cell Biol. 8:1003-1010)、そしてヘテロマルチマーの形成によって直接及び間接的にそれらを活性化することを示し、TRPC1が、STIM1によって調節されるチャネル複合体(channel complex)の一部となりうることを示している(Yuan, J.P. et al., 2007 Nat.Cell Biol. 9:636-645)。しかしながら、TRPC1がどのように血小板のSOCEに関与しうるかという正確な機構にかかわりなく、この寄与は必須でなく、これは血小板SOCE並びにin vitro及びin vivo細胞活性化において検出可能な欠損がないことを示したTRPC1-/-マウスの最近の分析によって明らかである。
【0024】
Orai1の欠如により、筋小胞体/小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA)の阻害剤タプシガルギン(TG)及びすべての主要な生理学的アゴニストに対する反応におけるSOCEがきわめて低下するが、これに対して、STIM1欠損では、Ca2+ストアの充填状態に効果がなかった。類似の観察がOrai1-/-及びStim1-/-マスト細胞において以前に行われている(Baba, Y. et al., 2008 Nat.Immunol. 9:81-88; Vig, M. et al., 2008 Nat.Immunol. 9:89-96)。これは、機能性SOCEが適当なストア補充の必要条件でないことを示しており、そしてSTIM1がこのプロセスにおいてまだ未確認の直接的な役割を果たしていることを示している。アゴニスト誘発性Ca2+ストア放出におけるOrai1-/-とStim1-/-血小板との差はかなり小さいが、やはり生理学的に重要である。このことは、FeCl3誘発性血栓形成を腸間膜血管で評価した際に、ほぼ明らかになった(図7)。Orai1-/-キメラは、このモデルで安定な血栓を形成することができたが、同じ実験条件下のStim1-/-キメラでは閉塞性の血栓形成が見られなかった。これは、血小板のストア放出によって生じた[Ca2+iにおける比較的小さな増加が、ある種の条件下でSOCEと独立した血栓形成を推進するのに十分でありうることを示している。血小板はきわめて急速に血管損傷に反応しなければならないため、最初の粘着及び活性化は、ストアからのCa2+及びATP依存性P2X1チャネルのようなきわめて速いCa2+チャネルによって主に調節されると考えるのがもっともであり、これは、きわめて高い剪断速度での適当な血小板漸増及び活性化に重要であることがわかっている(Hechler, B. et al., 2003 J.Exp.Med. 198:661-667)。しかしながら、SOCEは、GPIb−GPVI−ITAM軸(axis)が主に介在する高い剪断条件下でコラーゲン/vWF基質における血栓安定化にきわめて重要であると考えられる(Ruggeri Z.M., 2002 Nat.Med. 8:1227-1234; Nieswandt, B. et al., 2003 Blood 102:449-461)。また、これは、Orai1-/-キメラのtMCAO誘発性神経損傷からの実質的に完全な保護によって確認され、それはStim1-/-キメラで見られる保護に匹敵する。このモデルでは広範な脳梗塞の発症は、機能性GPIbに高度に、そしてGPVIにもいくらか少ない程度で依存性であることが知られており(Kleinschnitz, C. et al., 2007 Circulation 115:2323-2330)、STIM1/Orai1依存性SOCEが一過性虚血後の大脳内血栓形成中にこれらの受容体の主に下流に実際に生じうることを示している。重要なことに、この著しい保護は、現在の脳卒中治療においてなお大きな障害である頭蓋内出血の発生の増加と関連がなかった(Bhatt, D.L. et al., 2003 Nat.Rev.Drug Discov. 2:15-28)。これと一致して、本発明者らは、Orai1-/-キメラの尾出血時間(tail bleeding times)において僅かな増加しか観察しておらず、Orai1及びSTIM1は、一次止血よりも動脈血栓形成に対して相対的により大きな重要性がありうることを示唆している。
【0025】
まとめると、ここに示された結果から、動脈血栓症及び虚血性脳梗塞の際にきわめて重要である血小板活性化の必須のメディエーターとしてSTIM1を確認した。従って、上記の所見により、間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤に基づく薬学的組成物の製造が可能となる。阻害剤は、血栓形成に関するさまざまな疾患及び以下に本明細書においてさらに詳細に議論される血栓性疾患の薬剤として有用である。最も重要なことに、STIM1に対する阻害剤は、止血においてなんらかの効果を有することが期待されていないため、想定された薬物は、非常に有効なだけでなく、安全な抗血栓薬である。さらに、Orai1は、動脈血栓症及び虚血性脳梗塞の際に血小板活性化にきわめて重要である待望の血小板SOCチャネルとして確認された。Orai1は形質膜で発現されるため、そしてその阻害は、現在の脳卒中及び心筋梗塞の治療における大きな障害、すなわち、重篤な出血のリスク増加を克服するため、それは、虚血性心臓及び脳血管疾患を予防及び/又は治療するためSTIM1と比較して薬理学的阻害のなおより好ましい標的となりうる。
【0026】
さらに、本発明は、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害を予防及び/又は治療するための間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、特にOrai1の阻害剤に関する。別法として、記載された阻害剤は、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害を予防及び/又は治療する薬物を開発するためのリード化合物として使用してもよい。また、それらのリード化合物は、新規の高度に有効なまだ安全な抗血栓薬の開発も可能である。それらの薬物の開発では、以下の展開が考えられる:(i)作用部位、活性スペクトル、器官特異性の改良、及び/又は(ii)効力の改善、及び/又は(iii)毒性の低下(治療指数の改善)、及び/又は(iv)副作用の減少、及び/又は(v)治療作用開始の改良、作用の持続、及び/又は(vi)薬物動態学的パラメータ(再吸収、分布、代謝及び排泄)の改良、及び/又は(vii)物理化学パラメータ(溶解度、吸湿性、着色剤、味覚、におい、安定性、状態)の改良、及び/又は(viii)一般的な特異性、器官/組織特異性の改善、及び/又は(ix)以下による適用形態及び経路の最適化(i)カルボキシル基のエステル化、又は(ii)カルボン酸によるヒドロキシル基のエステル化、又は(iii)ヒドロキシル基の、例えばリン酸エステル、ピロリン酸エステル又は硫酸エステル又はヘミコハク酸エステルへのエステル化、又は(iv)薬学的に許容しうる塩の形成、又は(v)薬学的に許容しうる錯体の形成、又は(vi)薬理学的活性ポリマーの合成、又は(vii)親水性部分の導入、又は(viii)芳香環(aromates)又は側鎖における置換基の導入/交換、置換基パターンの変更、又は(ix)等価性又は生物学的等価性部分の導入による改良、又は(x)同族化合物の合成、又は(xi)分枝側鎖の導入、又は(xii)環式類似体へのアルキル置換基の転換、又は(xiii)ケタール、アセタールへのヒドロキシル基の誘導体化、又は(xiv)アミド、フェニルカルバメートへのN−アセチル化、又は(xv)マンニヒ塩基、イミンの合成、又は(xvi)シッフ塩基、オキシム、アセタール、ケタール、エノールエステル、オキサゾリジン、チアゾリジン又はそれらの組み合わせへのケトン又はアルデヒドの変換。
【0027】
記載された種々の工程は、一般に当分野で知られている。それらは、定量的構造−活性相関(QSAR)分析(Kubinyi, “Hausch-Analysis and Related Approaches”, VCH Verlag, Weinheim, 1992)、コンビナトリアル生化学、古典的化学など(例えばHolzgrabe and Bechtold, Deutsche Apotheker Zeitung 140(8), 813-823, 2000参照)を含むか又はそれらに基づいている。
【0028】
さらに、本発明は、STIM1の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、特にOrai1の阻害剤の薬学的有効量を、その必要な対象に投与することを含む、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害の予防及び/又は治療方法に関する。
【0029】
本発明の薬学的組成物又は阻害剤の好ましい実施態様において、阻害剤は、抗体又はそのフラグメント若しくは誘導体、アプタマー、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイム、アンチセンス核酸分子、これらの阻害剤の修飾型又は小分子である。
【0030】
本発明による抗体は、例えば、ポリクローナル又はモノクローナルであることができる。「抗体」の用語は、結合特異性をなお保持しているその誘導体又はフラグメントも含む。抗体作成の技術は、当分野でよく知られており、例えばHarlow and Lane “Antibodies, A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988 及び Harlow and Lane “Using Antibodies: A Laboratory Manual” Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999に記載されている。
【0031】
また、抗体は、キメラ(ヒト定常領域、非ヒト可変領域)、単鎖及びヒト型(非ヒトCDRを除くヒト抗体)抗体、と同様に、とりわけ、Fabフラグメントのような抗体フラグメントといったような実施態様を含む。抗体フラグメント又は誘導体は、F(ab')2、Fv又はscFvフラグメントをさらに含む;例えば、Harlow及びLane (1988) 及び (1999)、前出参照。当分野では種々の方法が知られており、このような抗体及び/又はフラグメントの作成に使用してもよい。従って、(抗体)誘導体は、ペプチドミメティックによって作成することができる。さらに、単鎖抗体の製造に記載された技術(とりわけ、米国特許第4,946,778号参照)は、本発明のポリペプチド及び融合タンパク質に特異的な単鎖抗体を製造するために応用することができる。また、トランスジェニック動物又は植物(米国特許第6,080,560号参照)を本発明の標的に特異的なヒト型抗体の発現に使用してもよい。最も好ましくは、抗体は、ヒト又はヒト型抗体のようなモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体を作成するには、連続細胞株培養によって産生した抗体を供給するあらゆる技術を使用することができる。このような技術の例としては、ハイブリドーマ技術(Koehler and Milstein Nature 256 (1975), 495-497)、トリオーマ(trioma)技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor, Immunology Today 4 (1983), 72)及びヒトモノクローナル抗体を産生するEBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. (1985), 77-96)が含まれる。BIAcoreシステムで使用される表面プラズモン共鳴は、STIM1のエピトープ又は形質膜型カルシウムチャネル活性を調節するSTIM1の下流結合パートナーのエピトープ、特にOrai1に結合するファージ抗体の効率を高めるために使用することができる(Schier, Human Antibodies Hybridomas 7 (1996), 97-105; Malmborg, J. Immunol. Methods 183 (1995), 7-13)。また、本発明に関して、「抗体」の用語は、細胞中で発現されうる抗体構築物、例えば、とりわけ、ウイルス又はプラスミドベクターを介して形質転換及び/又は形質導入されうる抗体構築物を含むものとする。
【0032】
アプタマーは、特異的な標的分子を結合するオリゴ核酸又はペプチド分子である。アプタマーは、通常、巨大なランダム配列プールから選ぶことによって作られるが、リボスイッチには天然アプタマーも存在する。アプタマーは、高分子薬物として基礎研究及び臨床目的の両方に使用することができる。アプタマーは、リボザイムと結合してその標的分子の存在下で自己開裂することができる。これらの化合物分子は、さらなる研究(工業及び臨床的用途)を有する(Osborne et. al. (1997), Current Opinion in Chemical Biology, 1:5-9; Stull & Szoka (1995), Pharmaceutical Research, 12, 4:465-483)。
【0033】
より詳しくは、アプタマーは、DNA若しくはRNAアプタマー又はペプチドアプタマーとして分類することができる。前者は、通常、オリゴヌクレオチドの(通常、短い)鎖からなるのに対して、後者は、タンパク質骨格に両末端で結合した短い可変ペプチド領域からなるのが好ましい。
【0034】
一般に、核酸アプタマーは、in vitro選択ラウンドを繰り返すことで又は同じく、SELEX(試験管内進化法(systematic evolution of ligands by exponential enrichment))により小分子、タンパク質、核酸、そしてさらに細胞、組織及び生体のような種々の分子標的に結合するように設計された核酸種である。
【0035】
ペプチドアプタマーは、通常、細胞内の他のタンパク質相互作用を妨げるように設計されたペプチド又はタンパク質である。それらは、タンパク質骨格に両末端で結合した可変ペプチドループからなる。この二重構造的拘束は、ペプチドアプタマーの結合親和性を抗体に匹敵するレベル(ナノモル範囲)に大きく高める。可変ループ長は、典型的に10〜20個のアミノ酸を含み、そして骨格は、良好な可溶性を有するなんらかのタンパク質であってもよい。現在、細菌タンパク質チオレドキシン−Aは、最も使用される骨格タンパク質であり、可変ループは、還元性活性部位(reducing active site)内に挿入されており、これは野生型タンパク質の−Cys−Gly−Pro−Cys−ループであり、2つのシステイン側鎖は、ジスルフィド架橋を形成することができる。ペプチドアプタマー選択は、種々の系を用いて行うことができるが、現在最も使用されるのは、酵母ツーハイブリッド系(yeast two-hybrid system)である。
【0036】
アプタマーは、一般に使用される生体分子、特に抗体のものに匹敵する分子認識性を提供するため、生物工学的及び治療用途への有用性を提供する。アプタマーは、その判別認識に加えて、試験管中で完全に設計することができ、化学合成によって容易に製造され、望ましい貯蔵性を有し、そして治療用途においてほとんど又は全く免疫原性を誘発しないため、抗体よりも有利な点を提供する。
【0037】
非改良アプタマーは、アプタマーの本質的に低い分子量の結果、主にヌクレアーゼ分解及び腎臓による体からのクリアランスのため、数分から数時間の半減期で血流から急速に取り除かれる。非改良アプタマーの用途は、現在、血液凝固のような一過性状態の治療又は局所的送達は可能である眼のような治療器官に絞られている。この急速クリアランスは、in vivo画像診断のような用途に利点がありうる。いくつかの改良、例えば2'−フッ素置換されたピリミジン、ポリエチレングリコール(PEG)結合、アルブミンへの融合、アルブミン様タンパク質又は抗体のFc部分のような他の半減期延長タンパク質は、科学者にとって利用可能であり、それによってアプタマーの半減期を日又はさらに週の時間スケールに容易に延長することができる。
【0038】
本明細書に使用される「ペプチド」の用語は、多くとも30個までのアミノ酸からなる分子の一群を記載しているが、「タンパク質」は30個を超えるアミノ酸からなる。ペプチド及びタンパク質は、さらに二量体、三量体及びより高度なオリゴマーを形成し、すなわち、同じか又は同じでなくてもよい複数の分子のからなる。従って、対応する高次構造は、ホモ−又はヘテロ二量体、ホモ−又はヘテロ三量体などと称する。また、「ペプチド」及び「タンパク質」(ここにおいて、「タンパク質」は「ポリペプチド」と同じ意味で用いられる)の用語は、改良が、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などによって実施された自然に改良されたペプチド/タンパク質のことである。このような改良は、当分野でよく知られている。
【0039】
治療上の使用のため、アンチセンス分子又はリボザイムによるRNA不活化が実施可能である。両方の化合物種は、化学的に合成するか又はin vitro若しくはさらにin vivoで生物学的発現によってプロモーターと共に産生することができる。
【0040】
低分子干渉RNA(small interfering RNA)(siRNA)は、しばしば低分子干渉RNA(short interfering RNA)又はサイレンシングRNAとして知られており、生物学においてさまざまな役割を果たす、18〜30個、好ましくは20〜25個、最も好ましくは21〜23又は21個のヌクレオチド長の二重鎖RNA分子の種類である。最も注目すべきことには、siRNAは、RNA干渉(RNAi)経路に含まれており、ここでsiRNAは特異的遺伝子の発現を妨げる。また、RNAi経路におけるそれらの役割に加えて、siRNAは、RNAi関連の経路において、例えば、抗ウイルス性機構として又はゲノムのクロマチン構造の成形において作用する。
【0041】
天然siRNAは、明確な構造:いずれかの末端において2−nt−3'オーバーハング(overhang)を有するRNAの短い二本鎖(dsRNA)を有する。それぞれの鎖は、5'リン酸基及び3'ヒドロキシル(−OH)基を有する。この構造は、長いdsRNA又は低分子ヘアピン型RNAのいずれかをsiRNAに転換する酵素、ダイサー(dicer)によるプロセシングの結果である。SiRNAは、細胞中に外因的に(人工的に)導入して興味の遺伝子の特異的ノックダウンをもたらすこともできる。従って、本質的に配列が知られているあらゆる遺伝子は、適切に作成されたsiRNAを用いて配列相補性に基づいて標的設定することができる。
【0042】
二本鎖RNA分子又はその代謝的プロセシング産物は、標的特異的な核酸修飾、特にRNA干渉及び/又はDNAメチル化を仲介することができる。少なくとも1つのRNA鎖は、5'−及び/又は3'−オーバーハング(overhang)を有することが好ましい。好ましくは、二本鎖の一方の末端は、1−5ヌクレオチド、より好ましくは1−3ヌクレオチド、そして最も好ましくは2ヌクレオチド3'−オーバーハングを有する。もう一方の末端は、平滑末端(blunt-ended)でもよく、又は6ヌクレオチドまでの3'−オーバーハングを有する。一般に、siRNAとして作用するのに適したあらゆるRNA分子は、本発明において想定される。
【0043】
従来、最も有効なサイレンシングは、2−nt3'−オーバーハングを有するやり方で対になった21−ntセンス及び21−ntアンチセンス鎖からなるsiRNA二本鎖で得られた。2−nt3'オーバーハングの配列は、第1の塩基対に隣接する不対ヌクレオチドに制限された標的認識の特異性に幾分寄与する(Elbashir et al. 2001)。3'オーバーハング中の2'−デオキシヌクレオチドは、リボヌクレオチドと同じく有効であるが、多くの場合、合成するには安価であり、おそらくよりヌクレアーゼ抵抗性である。
【0044】
短鎖ヘアピン型RNA(shRNA)は、RNA干渉を介して遺伝子発現を封じるのに用いることができるタイトなヘアピンターンを作る一連のRNAである。shRNAは、細胞に導入されたベクターを用い、そしてU6プロモーターを利用してshRNAが常に発現されるのを確実にする。このベクターは、通常、娘細胞に通過させ、遺伝子サイレンシングを受け継がせることができる。shRNAヘアピン構造は、細胞機構によって切断されてsiRNAを生じ、次いで、それがRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合される。この複合体は、mRNAに結合し、そしてこれを切断するが、これは結合するsiRNAにマッチしたものである。
【0045】
本発明に使用されるsi/shRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイト及び慣用のDNA/RNA合成装置を用いて化学合成するのが好ましい。RNA合成試薬の供給者は、Proligo(Hamburg,ドイツ)、Dharmacon Research(Lafayett,CO,米国)、Pierce Chemical(Perbio Scienceの一部,Rockford,IL,米国)、Glen Research(Sterling,VA,米国)、ChemGenes(Ashland,MA,米国)、及びCruachem(Glasgow,英国)である。最も都合よいのは、siRNA又はshRNAを、品質及び価格の異なるRNA合成製品を販売する商業的なRNAオリゴ合成供給者から入手することである。一般に、本発明に適用できるRNAは、慣用的に合成され、そしてRNAiに適した品質で容易に得られる。
【0046】
RNAiを実施するさらなる分子としては、例えば、ミクロRNA(miRNA)が含まれる。前記RNA種は、内因性RNA分子として遺伝子発現を調節する一本鎖RNA分子である。相補的なmRNAに結合すると、転写産物は、RNA干渉と同様のプロセスを通して前記mRNA転写産物の分解を始める。従って、miRNAは、STIM1又はOrai1の発現を調節するために使用してもよい。
【0047】
リボザイム(リボヌクレイン酸酵素、別称、RNA酵素又は触媒RNAから)は、化学反応に触媒作用を及ぼすRNA分子である。多くの天然リボザイムは、それ自身の切断又は他のRNAの切断に触媒作用を及ぼすが、リボソームのアミノトランスフェラーゼ活性に触媒作用を及ぼすことも見出されている。
【0048】
十分に特徴づけられた低分子自己切断型RNAの例は、ハンマーヘッド型、ヘアピン型、デルタ肝炎ウイルス、in vitroで選ばれた鉛依存性(lead-dependent)リボザイムである。これらの小さな触媒の組織は、グループIイントロンのようなより大きなリボザイムのものと対照的である。
【0049】
触媒自己切断の原理は、この10年で確立されるようになった。ハンマーヘッド型リボザイムは、リボザイム活性を有するRNA分子の中で最も特徴づけられている。ハンマーヘッド型構造は、非相同RNA配列に組み込むことができ、そしてリボザイム活性をそれによってこれらの分子へ移すことができることがわかっているため、標的配列が潜在的に適合する切断部位を含むならば、ほとんどあらゆる標的配列に対して触媒アンチセンス配列を作ることができると考えられる。
【0050】
ハンマーヘッド型リボザイムを作成する基本原理は、以下の通りである:GUC(又はCUC)トリプレットを含むRNAの興味深い領域を選ぶ。それぞれ通常6〜8個のヌクレオチドを有する2本のオリゴヌクレオチド鎖を取り、そして触媒ハンマーヘッド型配列をそれらの間に挿入する。このタイプの分子を、多くの標的配列について合成する。それらは、in vitroで、そして場合によりin vivoでも触媒活性を示した。最良の結果は、通常、低分子リボザイム及び標的配列で得られる。
【0051】
また、本発明による有用な新しい展開は、小さな化合物を認識するアプタマーとハンマーヘッド型リボザイムとの組み合わせである。標的分子に結合するとアプタマーで誘発される立体配置的変化は、リボザイムの触媒機能を調節すると考えられる。
【0052】
「アンチセンス核酸分子」の用語は、当分野で知られており、そして標的核酸に相補的な核酸のことである。本発明によるアンチセンス分子は、標的核酸とさらに特異的にハイブリッド形成して相互作用することができる。イブリッドの形成によって、標的遺伝子の転写及び/又は標的mRNAの翻訳が縮小又は阻止される。アンチセンス技術に関する標準的な方法は、記載されている(例えば、Melani et al., Cancer Res. (1991) 51:2897-2901参照)。
【0053】
「これらの阻害剤の修飾型」の用語は、以下を達成するために改良された阻害剤の型のことである。i)活性、器官特異性のスペクトルの改良、及び/又はii)効力の改善、及び/又はiii)毒性の低下(治療指数の改善)、及び/又はiv)副作用の低下、及び/又はv)治療作用開始の改良、作用の持続、及び/又はvi)薬物動態学的パラメータ(再吸収、分布、代謝及び排泄)の改良、及び/又はvii)物理化学パラメータ(溶解度、吸湿性、着色剤、味覚、におい、安定性、状態)の改良、及び/又はviii)全般的な特異性、器官/組織特異性の改善、及び/又はix)以下による適用形態及び経路の最適化(a)カルボキシル基のエステル化、又は(b)カルボン酸によるヒドロキシル基のエステル化、又は(c)ヒドロキシル基の、例えばリン酸エステル、ピロリン酸エステル又は硫酸エステル又はヘミコハク酸エステルへのエステル化、又は(d)薬学的に許容しうる塩の形成、又は(e)薬学的に許容しうる錯体の形成、又は(f)薬理学的活性ポリマーの合成、又は(g)親水性部分の導入、又は(h)芳香環又は側鎖における置換基の導入/交換、置換基パターンの変更、又は(i)等価性又は生物学的等価性部分の導入による改良、又は(j)同族化合物の合成、又は(k)分枝側鎖の導入、又は(k)環式類似体へのアルキル置換基の転換、又は(l)ケタール、アセタールへのヒドロキシル基の誘導体化、又は(m)アミド、フェニルカルバメートへのN−アセチル化、又は(n)マンニヒ塩基、イミンの合成、又は(o)シッフ塩基、オキシム、アセタール、ケタール、エノールエステル、オキサゾリジン、チアゾリジンへのケトン又はアルデヒドの変換;又はそれらの組み合わせ。
【0054】
記載される種々の工程は、一般に当分野で知られている。それらは、定量的構造−活性相関(QSAR)分析(Kubinyi, “Hausch-Analysis and Related Approaches”, VCH Verlag, Weinheim, 1992)、コンビナトリアル生化学、古典的化学など(例えば、Holzgrabe and Bechtold, Deutsche Apotheker Zeitung 140(8), 813-823, 2000参照)を含むか又はそれらに基づいている。
【0055】
小分子は、例えば、有機分子であってもよい。有機分子は、炭素ベースを有する化学物質の種類であるか又はそれに属し、炭素原子は、炭素−炭素結合によって共に結合されている。有機という用語の本来の定義は、化学物質の供給源のことであり、有機化合物は植物又は動物又は微生物の供給源から得られたそれらの炭素含有化合物であるが、無機化合物は鉱物供給源から得られる。有機化合物は、天然又は合成であることができる。別法として、化合物は無機化合物であってもよい。無機化合物は、鉱物供給源から誘導され、そして炭素原子を含まないすべての化合物(二酸化炭素、一酸化炭素及び炭酸塩を除く)を含む。好ましくは、小分子は、約2000amu未満、又は約1000amu未満、例えば500amu、そしてさらに約250amu未満の分子量を有する。小分子のサイズ及び分子量は、当分野でよく知られた方法、例えば質量分析によって測定することができる。小分子は、例えば、STIM1又はOrai1の結晶構造に基づいて設計してもよく、その際、生物学的活性の役割を果たす部位は、おそらく、in vivo HTアッセイのようなin vivoアッセイで同定し、そして確認することができる。
【0056】
また、他の全ての阻害剤は、HTアッセイで同定し及び/又はその機能を確認してもよい。生化学的な、細胞の又は他のアッセイであることとは関係なく、一般に高処理アッセイをマイクロタイタープレートのウェルで実施してもよく、その際、各プレートは96、384又は、1536個のウェルを含んでもよい。周囲温度以外の温度でのインキュベーション及び試験化合物をアッセイ混合物と接触させることを含むプレートの取扱いは、ピペット操作デバイスを含む1つ又はそれ以上のコンピュータ制御のロボットシステムによって実施するのが好ましい。試験化合物の巨大ライブラリーをスクリーニングすることになっている及び/又はスクリーニングを短時間で実施することになっている場合、例えば、10、20、30、40、50又は100個の試験化合物の混合物を各ウェルに加えてもよい。ウェルが生物学的活性を示す場合、前記試験化合物の混合物をデコンボリューション処理して(de-convoluted)、前記活性に対する上昇を示す前記混合物中の1つ又はそれ以上の試験化合物を同定してもよい。
【0057】
潜在的阻害剤の結合測定は、例えば、あらゆる結合アッセイ、好ましくは生物物理学的結合アッセイで実施することができ、これは、阻害剤を用いて機能/活性アッセイを実施する前に、結合する試験分子を同定するために使用してもよい。適切な生物物理学的結合アッセイは、当分野で知られており、そして蛍光偏光(FP)アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ及び表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイが含まれる。
【0058】
阻害剤を同定するさらなる代替法では、阻害剤がタンパク様の性質である場合、阻害剤をコードしている前記ポリヌクレオチドでトランスフェクションされた細胞において機能の阻害について試験する。この実施態様は、細胞スクリーンに関する。細胞スクリーンでは、阻害活性を発揮する阻害剤は、標的分子と物理的に相互作用することによって、又は代わりに(又はさらに)前記標的分子と機能的に相互作用することによって、すなわち、細胞アッセイで使用される細胞中に存在する経路を妨げることによって同定してもよい。
【0059】
実施例1及び6並びに図1(E)及び5(E)に記載されたものと類似のアッセイは、それらのOrai1の阻害剤の中で、潜在的阻害剤のきわめて広い集合からでも最小限の努力でSTIM1の適切な阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤を同定するための方法である。このアッセイは、野生型/健康なヒト(又は動物)細胞又はそのフラグメント、特に血小板において、個々の試験化合物を加えて細胞内カルシウム濃度[Ca2+iをモニタリングすることを含む。低下した外部カルシウム濃度での又は外部カルシウムがない場合の血小板におけるSOC流入は、SERCA(筋小胞体/小胞体Ca2+ATPアーゼ)ポンプ阻害剤、例えばタプシガルギン(TG)によって誘発され、細胞内カルシウムストアを空にした後、細胞外Ca2+を添加する。細胞外カルシウムの添加により生じた細胞内Ca2+濃度の増加を測定する。試験化合物を添加しない野生型/健康なヒト(又は動物)細胞又はそのフラグメントとの比較では、細胞外Ca2+が添加された後の細胞内Ca2+濃度の増加は、本発明によるそれぞれの特異的なSTIM1阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤によってかなり引き下げられ、特に試験化合物が適切なSTIM1阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の適切な阻害剤である場合、増加がなかった。
【0060】
従って、本発明によれば、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害を治療及び/又は予防するためのリード化合物として及び/又は薬剤として適切な化合物を同定する方法であって、次の工程:
a)STIM1タンパク質を含有する細胞、特に血小板の細胞内カルシウムストアを空にし、そして細胞外カルシウムの添加による細胞内カルシウム濃度における増加を測定し;
b)前記細胞又は同じ細胞集団の細胞を試験化合物と接触させ;
c)STIM1タンパク質を含有する前記細胞の又は同じ細胞集団の前記細胞の細胞内カルシウムストアを空にし、そして試験化合物と接触させた後に前記細胞中に細胞外カルシウムの添加による細胞内カルシウム濃度における増加を測定し;
d)工程(c)で測定した細胞内カルシウム濃度における増加を工程(a)で測定した細胞内カルシウム濃度における増加と比較し、その際、工程(a)との比較で工程(c)の細胞内カルシウム濃度における増加がない又はより少ないということは、試験化合物が、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害の治療及び/又は予防するためのリード化合物として及び/又は薬剤として適切な化合物であることを示していることを含む前記方法が請求される。
【0061】
対照として、同じアッセイにおいて、第一工程で用いたのと同じ又は類似の適切な細胞又はフラグメント、特に血小板であるが、例えばSTIM1ノックアウト動物から遺伝的に生じたSTIM1欠損といったようなSTIM1欠損を特徴とするものを第二工程で使用することができる。この第二工程では、STIM1又はOrai1を含むSTIM1の下流結合パートナーを特異的に阻害する試験化合物のみを第一工程で決定し、そして別の経路で[Ca2+i濃度に影響を及ぼす試験化合物を排除するのをチェックすることができる。例えば、前記アッセイで、前記の添加された試験化合物と共に及びなしでSTIM1欠損細胞を使用し、そして細胞内カルシウム濃度が異ならない場合、それは、特異的なSTIM1阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の特異的阻害剤にとっての一種の証明となりうる。
【0062】
本発明を制限するわけではないが、本発明のSTIM1の潜在的阻害剤の例は、Chiu及び共同研究者によって記載されたSTIM1に特異的なsiRNA(2008 Mol.Biol.Cell
19(5) 2220-2230)及びLi及び共同研究者によって記載されたmAb(2008 Circ Res. 103(8): e97-104)であり、これらの文書の記載内容は、その全体として参照により本明細書に組み込まれている。
【0063】
本発明の薬学的組成物又は本発明の阻害剤の別の実施態様においてSTIM1の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤は、化学修飾又は細胞内分解によって不可逆的に阻害される。STIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の好ましい阻害剤としては、STIM1の細胞内運動に関与するSTIM1関連のタンパク質の阻害剤又はOrai1の阻害剤が含まれる。さらに、以下の阻害剤:Orai2の阻害剤、Orai3の阻害剤、一過性受容体電位チャネル(Trpチャネル)の阻害剤又はTRPCチャネルの阻害剤、特にTRPC1チャネルの阻害剤も適切である。
【0064】
さらに、本発明の薬学的組成物は、G−タンパク質共役受容体又はシグナル伝達経路のアンタゴニスト、例えばP2Y1阻害剤、P2Y12阻害剤、アスピリン、PAR受容体の阻害剤を同じ又は別々の容器中に含んでもよい。
【0065】
好ましくは、薬学的組成物中の本発明の阻害剤は、それに対して、例えば、WO2006/066878に記載された当分野で知られている他の凝固剤を混合してもよく、それは全体として本明細書に詳細に組み込まれている。
【0066】
本発明の阻害剤は、それに対して、G−タンパク質共役受容体若しくはシグナル伝達経路のアンタゴニストを混合するか又は別々の容器で合わせてもよい。
【0067】
さらなる好ましい実施態様において、本発明の薬学的組成物又は阻害剤、G−タンパク質共役受容体又はシグナル伝達経路のアンタゴニストは、アスピリン、P2Y1阻害剤、P2Y12阻害剤又はPAR受容体の阻害剤である。
【0068】
さらに、本発明は、治療において同時に、別々に又は逐次的に使用するための間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、特にOrai1の阻害剤、及びG−タンパク質共役受容体若しくはシグナル伝達経路のアンタゴニストの組み合わせ薬学的組成物に関する。この組み合わせ薬学的組成物は、薬学的に活性な担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含むことができ、そして場合により含む。
【0069】
好ましい実施態様において、この組み合わせ薬学的組成物の治療における使用は、静脈若しくは動脈の血栓形成に関連する障害の予防及び/又は治療における又は静脈若しくは動脈の血栓形成に関連する障害を治療若しくは予防する薬物を開発するためのリード化合物としての使用である。
【0070】
本発明の阻害剤の別の好ましい実施態様において、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害は、心筋梗塞、脳卒中、虚血性脳卒中、肺血栓塞栓症、末梢動脈疾患(PAD)、PAD関連の疾患、動脈血栓症又は静脈血栓症である。この他に、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害は、炎症、補体活性化、フィブリン溶解、血管新生及び/又はFXII誘発性キニン形成に関連する疾患、例えば遺伝性血管浮腫、肺の細菌感染、トリパノソーマ感染、降圧性ショック(hypotensitive shock)、膵炎、シャーガス病、血小板減少症又は関節性痛風であってもよい。
【0071】
本発明に使用される心筋梗塞は、「心臓発作」と称する、心臓への血液供給の中断を特徴とする一般に医学的な状態のことである。生じた虚血(酸素不足)により細胞の損傷、そして虚血の長さに応じて組織壊死さえ起こる。最も一般には、心筋梗塞は静脈又は動脈の遮断に至る不安定プラークの破裂による。
【0072】
「脳卒中」の用語は、当分野でよく知られており、しばしば脳血管障害(CVA)とも称する。脳卒中は、脳への血液供給低下によって医学的に定義される医学的状態であり、とりわけ、虚血のため、脳機能の喪失に至る。前記の血液供給の低下は、例えば、血栓症若しくは塞栓症によって、又は出血のために生じることがある。従って、一般に、脳卒中は2つの主なカテゴリー、すなわち、i)虚血性及びii)出血性脳卒中に分類されている。虚血は血液循環の中断のためであり、そして出血は血管の破裂のためであり、いずれの状況も最終的に脳の血液供給の低下に至る。脳卒中の一般的な形態は、脳卒中の約80%を占める虚血性脳卒中である。虚血性脳卒中では、脳部分への血液供給が低下し、その領域で脳組織の機能障害及び壊死に至る。主に4つの原因となる理由がある:血栓症(血餅の局所的形成による血管の閉塞)、塞栓症(体の他の場所からの血餅による同上)、全身の血流低下(例えばショックにおける、血液供給の一般的な低下)及び静脈血栓症。
【0073】
先進工業国における死亡及び障害の第三の主要原因として虚血性脳卒中が重要性であるにもかかわらず、急性脳卒中における治療選択肢は制限される(22)。慣用の血小板凝集阻害薬又は抗凝血薬による急性脳卒中患者における梗塞進行を弱める多くの試みは、過剰の脳内出血のため失敗している(Toyoda K. et al., 2005, Neurology 65(7), page 1000-1004)。本発明によれば、STIM1-/-キメラ及びOrai1-/-キメラは、頭蓋内出血のリスク増加を示すことなく一過性脳虚血後の神経損傷から保護されることが見出された(図4及び8)。
【0074】
従って、本発明の阻害剤の特に好ましい実施態様において、前記脳卒中は虚血性脳卒中である。
【0075】
本発明に使用される肺塞栓症は、肺動脈又はその分枝の1つの閉塞であり、通常、深部静脈血栓(静脈からの血餅)が、その形成部位から除去され、そして一方の肺の動脈血液供給に移動し、すなわち塞栓形成したときに生じる。このプロセスを、「血栓塞栓症」と称する。一般的な症状としては、困難呼吸、吸息における胸痛、及び動悸が含まれる。臨床徴候としては、低い血液酸素飽和(低酸素)、速い呼吸(頻呼吸)、及び速い心拍数(頻脈)が含まれる。非治療の肺塞栓症が重度の場合、崩壊、循環不安定及び突然死に至ることがある。
【0076】
末梢動脈疾患(PAD)は、骨盤及び脚の動脈で最も一般的であり、そして最も一般的なタイプは、末梢血管疾患(PVD)である。それは、心臓の外側で動脈(末梢動脈);主に脚及び足に供給する動脈中に蓄積された脂肪性沈着物(プラーク)から生じる。この蓄積は、動脈を狭くするか又は閉塞し、そして脚筋及び足に送達される血液及び酸素の量を低下させる。一般に、腸骨、大腿骨、膝窩及び脛側動脈が影響を受ける。多くの人々は、PADの症状があるわけではなく、症状がある人々は、しばしばそれを背中又は筋肉の問題といったような何か他のことに間違える。PADは、冠動脈疾患(CAD)及び頚動脈疾患と類似した状態である。CADは、心筋に血液を供給する冠動脈におけるアテローム性動脈硬化症のことである。頚動脈疾患は、脳に血液を供給する動脈におけるアテローム性動脈硬化症のことである。
【0077】
一般に、血栓症は、血管内側の血餅(血栓)の形成であり、循環系による血液の流動を妨げる。血管が損傷したとき、その修復における第一工程(止血)が失血を防ぐことであるため、体は血小板及びフィブリンを用いて血餅を形成する。その機構が凝固を生じ過ぎて、血餅が遊離すると、塞栓が形成される。本発明に用いられる血栓症の2つの明瞭な形態は、血栓形成が動脈内にある動脈血栓症及び血栓形成が静脈内にある静脈血栓症である。ほとんどの場合、動脈血栓症は、アテロームの破裂に続いて起こり、そのためアテローム血栓症と称する。静脈血栓症の下に分類することができるいくつかの疾患がある:
・深部静脈血栓症(DVT)は、深部静脈内の血餅形成である。最も一般には、大腿静脈のような脚静脈に影響を及ぼす。深部静脈内の血餅形成においては3つの要因:血流の速度、血液の濃さ及び血管壁の質が重要である。DVTの典型的徴候としては、患部の膨張、疼痛及び発赤が含まれる。
・門脈血栓症は、肝門脈に影響を及ぼす静脈血栓症の形態であり、これは門脈圧亢進症及び肝臓への血液供給の低下に至ることがある。それは、通常、膵炎、肝硬変、憩室炎又は胆管癌のような病理学的原因を有する。
・腎静脈血栓症は、血栓による腎静脈の閉塞である。これは、腎臓からの排液低下に至る傾向がある。
・頚静脈血栓症は、感染、静脈内薬物使用又は悪性腫瘍のために生じることがある状態である。頚静脈血栓症は、全身性敗血症、肺塞栓症及び乳頭浮腫を含む種々の合併症を伴うことがある。静脈部位での鋭い痛みを特徴としており、それが不規則に生じることがあるため、診断が困難である。
・肝静脈血栓症は、肝静脈又は下大静脈の閉塞である。この形態の血栓症は、腹痛、腹水及び肝腫を呈する。
・パジェットシュレッター疾患は、血栓による上肢静脈(例えば腋窩静脈又は鎖骨下静脈)の閉塞である。状態は、通常、激しい運動後に明らかになり、そして通常、若者、それ以外では健康な人々に現れる。女性よりも男性がより影響を受ける。
・大脳静脈洞血栓症(CVST)は、血栓により硬膜静脈洞の閉塞から生じる脳卒中のまれな形態である。症状には、頭痛、異常視力脳卒中のなんらかの症状、例えば顔面及び体の片側の四肢の衰弱並びに痙攣が含まれることがある。診断は、通常CT又はMRIスキャンで行われる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】STIM1欠損した血小板における欠損したSOCE。 (A)野生型及びSTIM1-/-同腹子、5週齢。(B)野生型(+/+)及びSTIM1-/-(−/−)マウスの体重。(C)血小板溶解物のウエスタンブロット分析。タンパク質(14)のN末端領域を認識することができる抗体(BD Transduction)を用いてSTIM1を評価した。対照としてb3−インテグリンに対する抗体を用いた。(D)野生型及びSTIM1-/-マウスにおける末梢血小板数。(E)フラ−2負荷血小板(Fura-2-loaded platelets)を5μM TGで10分間刺激し、続いて細胞外Ca2+を添加し、[Ca2+iをモニタリングした。典型的な測定値(左)及び1mMCa2+添加の前及び後の最大Δ[Ca2+i±SD(一群当たりn=4)(右)を示す。
【図2】STIM1-/-血小板における流動下での欠損アゴニスト誘導性Ca2+シグナル伝達及び凝集体形成。 フラ−2負荷野生型(黒色線)又はSTIM1-/-(灰色線)血小板を細胞外EGTA(1mM)又はCa2+(0.5mM)の存在下でトロンビン(0.1U/ml)、ADP(10μM)又はCRP(10μg/ml)で刺激し、そして[Ca2+iをモニターした。典型的な測定値(A)及び最大Δ[Ca2+i±SD(一群当たりn=4)(B)を示す。(C)CRP及びコラーゲンに対して応答したSTIM1-/-血小板の凝集障害(灰色線)、しかしADP及びトロンビンでは見られなかった。(D)トロンビン(0.1U/ml)、ADP(10μM)、CRP(10μg/ml)及びCVX(1μg/ml)に対する応答におけるaIIbb3インテグリン活性化及び脱顆粒依存性P−セレクチン暴露のフローサイトメトリー分析。結果は、一群当たり6匹のマウスの平均±SDである。 (E)全血中のSTIM1-/-血小板は、コラーゲンコートした(0.2mg/ml)表面上を1,700秒-1のずり速度で灌流させたとき、安定な血栓形成に失敗した。上:典型的な位相コントラスト画像。下:平均表面被覆率(左)及びmm2当たりの相対的な血小板沈着(右)±SD(n=4)。
【図3】血栓症及び止血のin vivo分析。 (A−C)腸間膜細動脈をFeCl3で処理し、そして蛍光標識血小板の粘着及び血栓形成をin vivoビデオ顕微鏡検査法によってモニターした。典型的な画像(A)、最初の血栓が出現するまでの時間、>20μm(B)、及び血管閉塞までの時間(C)を示す。それぞれの記号は、一個体を表す。(D、E)腹大動脈を機械的に損傷させそして30分間又は完全閉塞が生じるまで血流をモニターした(血流の停止>1分)。(D)損傷30分後の、野生型又はSTIM1-/-血小板を有するマウスの腹大動脈の典型的な断面図。(E)血管閉塞までの時間。それぞれの記号は、一個体を表す。(F)野生型及びSTIM1-/-キメラにおける尾出血時間。それぞれの記号は、一個体を表す。
【図4】STIM1-/-キメラは、脳虚血から保護された。 (A)左のパネル:tMCAOの24時間後にTCCで染色した対照及びSTIM1-/-キメラマウスの3つの対応する冠状断の典型的な画像。STIM1-/-キメラにおける梗塞は、基底核(白矢印)に制限された。右のパネル:対照(n=7)及びSTIM1-/-キメラ(n=7)における脳梗塞体積、***p<0.0001。(B、C)対照(n=7)及びSTIM1-/-キメラ動物(n=7)のtMACO後、日1に評価した神経学的Bedersonスコア及びグリップ試験、***p<0.0001。(D)冠状T2−wMR脳画像は、対照(左)におけるtMCAO後の日1での広い高信号(hyperintense)の虚血性病変を示す。梗塞は、STIM1-/-キメラ(中央、白矢印)ではより小さく、そしてT2−高信号は、梗塞成熟(infarct maturation)中の「曇り(fogging)」効果のため日7までに縮小した(右)。重要なことに、脳内出血を示す低信号(hypointense)領域は、STIM1-/-キメラでは見られず、STIM1欠損は、梗塞発達の進行期であっても出血性変化(hemorrhagic transformation)の危険性を高めないことを示している。(E)対照及びSTIM1-/-キメラの虚血性半球における対応する領域のヘマトキシリン−エオジン染色切片。梗塞は、STIM1-/-キメラでは基底核に制限されるが、対照では一貫して皮質に含まれる。倍率x100倍。
【図5】Orai1は、血小板SOCチャネルである。 (A)ヒト血小板のRT−PCR及びウエスタンブロット分析。Orai1、2及び3を材料及び方法下に記載したプライマー対で評価し、そしてProSci Inc.からの抗体を用いてウエスタンブロットを行なった。(B)野生型及びOrai1-/-同腹子、3週齢。(C)野生型(+/+)及びOrai1-/-(−/−)マウスの体重。(D)野生型(+/+)、最初の(original)Orai1-/-(−/−)及びOrai1-/-骨髄キメラ(−/−BMc)マウスからの血小板及び胸腺細胞mRNAのRT−PCR分析。Orai1、2及び3特異的フォワード及びリバースプライマーを使用し(21)、対照としてアクチンを用いた。(E)フラ−2負荷血小板を5μM TGで10分間刺激し、続いて1mM細胞外Ca2+を添加し、そして[Ca2+iをモニタリングした。典型的な測定値(左)及び1mMCa2+の添加の前及び後の最大Δ[Ca2+i±SD(一群当たりn=4)(右)を示す。白バーは、Stim1-/-血小板を表す。
【図6】Orai1-/-血小板における流動下での欠損アゴニスト誘導性Ca2+応答及び凝集体物形成。 フラ−2負荷野生型(黒色線)又はOrai1−/−(灰色線)血小板を、カルシウムを含まない媒地中又は細胞外Ca2+(1mM)の存在下でトロンビン(0.1U/ml)、ADP(10μM)又はCRP(10μg/ml)により刺激し、そして[Ca2+iをモニターした。典型的な測定値(A)及び最大Δ[Ca2+i±SD(一群当たりn=4)(B)を示す。(C)コラーゲンに対する応答におけるOrai1-/-血小板の凝集阻害(灰色線)、しかしADP及びトロンビンでは見られなかった。(D)トロンビン(0.1U/ml)、ADP(10μM)、CRP(10μg/ml)及びCVX(1μg/ml)に対する反応におけるGPIIb−IIIaインテグリン活性化(左パネル)及び脱顆粒依存性P−セレクチン暴露(右パネル)のフローサイトメトリー分析。結果は、一群当たり6匹のマウスの平均±SDである。 (E)コラーゲンコートした(0.2mg/ml)表面上に1.700秒-1のずり速度で灌流させたとき、全血中のOrai1-/-血小板は、安定な血栓形成に失敗した。上:典型的な位相コントラスト画像。下:平均表面被覆率(左)及びmm2当たりの積分蛍光強度により測定して、相対的血小板沈着(IFI)(右)±SD(n=4)。バーは、30μmを表す。
【図7】Orai1-/-血小板のin vivo血栓安定性の低下。 (A−B)麻酔下の野生型(+/+)及びOrai1-/-(−/−)マウスにおけるコラーゲン及びエピネフリン注射後の致死性の肺塞栓形成。(A)窒息を通して死亡するまでの時間。それぞれの記号は、一個体を表す。(B)一視野当たりの採取肺における閉塞動脈。(C−F)野生型(+/+)及びOrai1-/-(−/−)マウスの腹大動脈の機械的損傷を行ない、そして血流をドップラー流量計でモニターした。典型的な流量測定値(C)、不可逆性閉塞(濃い灰色)、不安定な閉塞(薄い灰色)及び閉塞なし(黒)のパーセント分布(D)、最終的な閉塞までの時間(それぞれの記号は、一個体を表す)(E)そして損傷30分後の大動脈の典型的な断面図(F)を示す。バーは、100μmを表す。(G−H)野生型(+/+)及びOrai1-/-(−/−)キメラからの腸間膜細動脈のFeCl3誘発性化学的損傷。(G)閉塞までの時間。それぞれの点は、一個体を表す。(H)損傷前及び24分後の典型的な蛍光画像。バーは、50μmを表す。
【図8】Orai1-/-キメラは、大出血を示すことなく脳虚血から保護された。 (A)左のパネル:tMCAOの24時間後にTTCで染色した対照及びOrai1-/-キメラマウスからの3つの対応する冠状断の典型的な画像。梗塞領域は矢印でマークされている。右のパネル:対照(n=7)及びOrai1-/-キメラ(n=7)の脳梗塞体積、***p<0.0001。(B、C)対照(n=7)及びOrai1-/-キメラ(n=7)について、tMACO後、日1で神経学的Bedersonスコア及びグリップ試験を評価した、**p<0.01。(D)冠状T2−wMR脳画像は、対照(左)におけるtMCAOの後、日1で広い高信号の虚血性病変を示している。梗塞は、Orai1-/-キメラ(中央、白矢印)では、より小さく、そしてT2−高信号は、梗塞成熟中日5までに縮小した(右)。重要なことに、脳内出血を示す低信号領域は、Orai1-/-キメラでは見られず、Orai1欠損では、梗塞発達の進行期でさえ出血性変化の危険性が高まらないことを示している。(E)対照及びOrai1-/-キメラの虚血性半球において対応する領域のヘマトキシリン−エオジン染色切片。梗塞は、Orai1-/-キメラでは基底核に制限されているが、対照では一貫して皮質に含まれる。倍率x100倍。バーは、300μm(左)及び37.5μm(右)を表す。(F)出血時間は、麻酔下のマウス尾先端を切断した後、Orai1-/-キメラにおいていくらか延長されただけである。それぞれの点は、一個体を表す。
【0079】
実施例により本発明を説明する。
【0080】
実施例1:STIM1欠損マウスの作成
in vivoでSTIM1の機能に対処するため、マウスにおいて、イントロンの遺伝子−トラップカセット(intronic gene-trap casette)を挿入することによってSTIM1遺伝子を分断した。STIM1−無発現変異(null-mutation)のマウス異型接合体(heterozygous)は正常であったが、STIM1(STIM1-/-)の欠如したマウスの大多数(約70%)は、出生の数時間以内に死亡した。顕著なチアノーゼが死亡前に見られ、心肺欠陥を示唆した。生存しているSTIM1-/-マウスは、著しい成長遅延を示し、3及び7週齢で野生型同腹子の体重の約50%に達した(図1a、b)。ウエスタンブロット分析により血小板(図1c)及び他の組織におけるSTIM1の欠如を確認した。血液血小板数(図1d)、平均血小板体積(MPV)、及び血小板表面受容体(表1)は正常であり、STIM1が巨核球形成又は血小板産生に必須でないことを示している。同様に、赤血球数、ヘマトクリット、又は活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、血漿凝固の評価方法においては差が見られなかった(表2)。STIM1が血小板SOCEにおいて役割を果たしているかどうかを測定するため、本発明者らは、SERCA(筋小胞体/小胞体Ca2+ATPアーゼ)ポンプ阻害剤タプシガルギン(TG)を用いて野生型及びSTIM1-/-血小板においてSOC流入を誘導させた。興味深いことに、TG誘導性Ca2+ストア放出は、野生型対照と比較してSTIM1-/-血小板において約60%低下した(図1e)。さらにまた、その後のTG依存性SOC流入は、STIM1-/-細胞においてほぼ完全になかった(図1e)。これは、STIM1が血小板のSOCEに必須であることを初めて実証するものであり、そしてSTIM1依存性プロセスが、これらの細胞のCa2+ストア含量の調節に寄与することを示唆している。
【0081】
実施例2:STIM1-/-血小板における欠損したSOC流入
STIM1-/-マウスにおける早期死亡率及び顕著な成長遅延のため、後の研究は、すべてSTIM1-/-又は野生型骨髄を移植した野生型マウスに致死的な放射線を照射して行なった。移植の4週後、血小板数は正常でありそして血小板におけるSTIM1欠損をウエスタンブロットによって確認した。アゴニスト誘導性血小板活性化に対する欠損したSOCEの有意性を測定するため、本発明者らは、ADP、トロンビン、コラーゲン受容体糖タンパク質(GP)VIを刺激するコラーゲン関連ペプチド(CRP)(図2a、b)、及びTxA2類似体U46619(図示せず)に対する応答における[Ca2+iの変化を評価した。STIM1-/-血小板では、すべてのアゴニストについて、対照と比較して細胞内ストアからのCa2+放出が低下しており、STIM1-/-細胞ではストア中のCa2+レベルが低下していることを示している。細胞外カルシウムの存在下では、STIM1-/-血小板においてCa2+流入が劇的に低下した。従って、STIM1依存性SOCEは、すべての主要アゴニストにとって血小板のCa2+シグナル伝達機構の重要な成分であり、そして非SOCEは、試験条件下では少なくとも僅かな寄与しかしていない。
【0082】
実施例3:血小板活性化及び血栓形成におけるSTIM1
この欠損についての機能的重要性を試験するため、本発明者らは、ex vivo凝集研究を行なった。STIM1-/-血小板は、G−タンパク質共役アゴニストADP、トロンビン(図2c)及びU46619(図示せず)に正常に凝集したが、しかし、コラーゲン及びCRP(図2c)及び強力なGPVIアゴニストコンバルキシン(CVX)に対する応答は、有意に低下した。活性化欠損は、JON/A-PE抗体(Bergmeier, W. et al., 2002, Cytometry 48:80-86)を用いた、インテグリンαIIbβ3活性化及び脱顆粒依存性P−セレクチン表面暴露のフローサイトメトリー分析によって確認した(図2d)。従って、STIM1依存性SOCEの喪失は、GPVI誘発性インテグリン活性化及び脱顆粒を損なうが、G−タンパク質共役アゴニストは、[Ca2+iシグナル伝達における欠損にもかかわらず、これらのアッセイにおいてSTIM1-/-血小板の正常な活性化を誘導することがなおできる。
【0083】
in vivoでのECMに対する血小板活性化又は血栓成長は血流中で起こり、ここでは、局所的に産生された可溶性メディエーターは急速に取り除かれる。これらの条件下で、血小板アクチベーターの低下した効力は、特に動脈及び細動脈で見られる速い流速で制限されることになりうる。従って、本発明者らは、全血灌流系中のコラーゲンコート表面上で血栓を形成するSTIM1-/-血小板の能力を分析した(Nieswandt, B. et al., 2001, EMBO J 20:2120-2130)。高いずり条件(1,700秒-1)下で、野生型血小板はコラーゲン繊維に粘着し、そして2分間以内に凝集体を形成し、灌流期間の終わりまでには大きな血栓に一貫して成長した(図2e)。はっきりと対照的に、STIM1-/-血小板は、低下した粘着を示し、そして血栓の三次元成長は、著しく損なわれた。結果として、血小板によって覆われた表面積及び全血栓体積は、それぞれ、約42%及び約81%ほど低下した。中程度のずり速度(1,000秒-1−データ示さず)でも類似の結果が得られた。これらの所見は、STIM1が介在するSOCEが、コラーゲン上の、そして高いずり条件下での成長血栓の表面上の有効な血小板活性化に必要であることを示している。
【0084】
実施例4:STIM1-/-マウスにおける不安定な動脈血栓
血小板凝集は、病的閉塞性の血栓形成の一因となりうるため、本発明者らは、虚血及び梗塞におけるSTIM1欠損の効果を、塩化第二鉄誘発性の腸間膜細動脈損傷後のin vivo蛍光顕微鏡検査法によって研究した。すべての野生型キメラでは、小さな凝集体の形成が、損傷の約5分後に観察され、進行に伴い30分以内に10匹のマウスのうちの8匹で完全に血管が閉塞した(平均閉塞時間:16.5±2.8分)(図3b、c)。対照的に、STIM1-/-キメラの約50%では凝集体形成がかなり遅れ、そして安定な血栓形成は、ほぼ完全に抑制された。この欠損は、血栓表面から個々の血小板が放出されるためであり、大きな血栓断片の塞栓形成のためではない。血流は、10匹の血管のうちの9匹の血管で観察期間を通じて維持されており、閉塞性血栓形成中のSTIM1の重要な役割を示している。これは、二次的な動脈血栓症モデルで確認され、ここでは、腹大動脈を機械的に損傷させ、そして血流を超音波流量プローブでモニターした。11匹の対照キメラのうち10匹が16分以内に不可逆性の閉塞を形成したが(平均閉塞時間:4.4±4.1分)、8匹のSTIM1-/-キメラのうち6匹では、30分の観察期間中に閉塞性血栓形成を生じなかった(図3d、e)。これらの結果は、損傷のタイプにかかわりなく、STIM1が細動脈及び大動脈中での多血小板血栓の増殖及び安定化に必要であることを示している。
【0085】
STIM1-/-血小板における欠損が止血を損なうかどうかを試験するため、本発明者らは、尾出血時間を測定した。30匹の対照マウスのうち28匹で10分以内(平均:6.6±2.4分)に出血が停止したが、STIM1-/-キメラでは、出血は非常に多様であり、31匹のマウスのうち5匹(20%)で>20分出血した(図3f)。これらの結果は、STIM1が正常な止血に必要であることを示している。
【0086】
実施例5:STIM1は、虚血性脳梗塞の必須のメディエーターである。
虚血性脳卒中は、先進工業国における主要な死因及び障害の第3位である
(Murray, C.J. and Lopez,A.D., 1997, Lancet 349:1269-1276)。微小血管の完全性が脳虚血の間に障害されることは十分に確立されている(Zhang, Z.G. et al., 2001, Brain Res. 912: 181-194)が、脳の血管内血栓形成に関与するシグナル伝達カスケードは、十分に解っていない。このプロセスにおけるSTIM1依存性SOCEの重要性を判定するため、本発明者らは、中大脳動脈(MCA)閉塞から下流微小血管の血栓形成に依存するモデルにおいて一過性脳虚血後のSTIM1-/-キメラでの神経損傷の発症を研究した(Choudhri, T.F. et al., 1998, J Clin Invest 102:1301-1310; del Zoppo, G.J. and Mabuchi,T., 2003, J. Cereb. Blood Flow Metab 23:879-894)。一過性脳虚血を惹起させるため、糸を頸動脈に通してMCAに進め、そして1時間そのままにして(一過性MCA閉塞−tMCAO)、局所的に大脳流量を>90%ほど低下させた。STIM1-/-キメラでは、TTC染色によって評価して、再灌流の24時間後の梗塞体積は、対照キメラにおける梗塞体積の<30%に低下した(17.0±4.4mm3対62.9±19.3mm3、p<0.0001)(図4a)。梗塞サイズの縮小は、全体の神経機能を評価するBedersonスコア(それぞれ、3.07±0.35対1.86±0.48;p<0.0001)と機能的に関連があり、そして運動機能及び協調を特異的に測定するグリップ試験(それぞれ、2.00±0.65対3.71±0.39;p<0.0001)は、対照と比較してSTIM1-/-キメラにおいて有意により良好であった(図4b、c)。生きているマウスの連続的磁気共鳴画像法(MRI)を用いて梗塞発達に対するSTIM1欠損の保護効果を確認した。STIM1-/-キメラのT2−wMRIにおける高信号の虚血性梗塞は、tMCAOの24時間後の対照キメラにおける梗塞サイズの<10%であった(p<0.0001、図4d)。重要なことに、梗塞体積は、日1と日7の間では増えず、STIM1欠損の持続した保護効果を示している。さらに、頭蓋内出血は、T2−強調グラデジエントエコー画像において検出されず、血液検出用の高感度MRIシーケンス(図4d)は、造血細胞におけるSTIM1欠損が脳内の出血性合併症の増加と関連していないことを示している。TTC染色及びMRI画像と一致して、組織学的分析では、対照キメラにおいて基底核及び新皮質の重度の虚血性梗塞を示したが、STIM1-/-キメラにおいては基底核の限定された梗塞しか示さなかった(図4e)。脳梗塞におけるCD3陽性T細胞及び単球/マクロファージ浸潤物の密度は低く、そして24時間でSTIM1-/-と対照キメラの間に違いはなかった。
【0087】
実施例6:血小板SOCE及び活性化におけるOrai1の機能
逆転写酵素(RT)−PCR分析を用いて本発明者らは、Orai1がmRNAレベルでヒト血小板中に存在するOraiファミリーの主なメンバーであることを見出したが;しかしながら、Orai2及びOrai3のきわめてかすかなバンドも観察された。ヒト血小板溶解物のウエスタンブロット分析により、Orai1の頑健な発現が実証され、チャネルがそれらの細胞においてCa2+恒常性に役割を果たしている可能性があることを示した(図5A)。
【0088】
血小板SOCE及び活性化においてOrai1の機能を直接試験するため、本発明者らは、最近、Vig及び共同研究者によって独立して報告されたように遺伝子トラップカセットをイントロン2に挿入することによるOrai1遺伝子の分断を通してOrai1−ヌル(Orai1-/-)マウスを作成した(2008 Nat.Immunol. 9:89-96)。Orai1−無発現変異のマウス異型接合体は、正常に発生したが、Orai1-/-マウスの約60%が未知の理由で出生後、まもなく死亡した。生存しているOrai1-/-動物は、著しくゆっくり発育し、2週齢でそれらの同腹子の体重の約60%しか到達せず(図5B、C)、そしてすべての動物は遅くとも出生の4週間後に死亡したため、なおきわめて高い死亡率を示した。RT−PCR分析によって、対照における野生型Orai1mRNAメッセージの存在が示されたが、Orai1-/-血小板にはなかった(図5D)。マウスのタンパク質を認識する抗体が入手不可能であったためOrai1のウエスタンブロット検出はできなかった。ヒト血小板と同様に、低レベルのOrai2又はOrai3転写産物は、野生型及びOrai1-/-血小板の両方で検出可能であったが、野生型胸腺細胞では3つのすべてのアイソフォームが強く検出可能であった(Takahashi, Y. et al., 2007 Biochem.Biophys.Res.Commun. 356:45-52)(図5D)。これらの結果は、Orai1がヒト血小板において高度に発現されることを示しており、そしてOrai1がマウス血小板中のOraiファミリーの優性メンバーでもあることを示唆している。従って、本発明者らはさらに詳細にOrai1-/-血小板を分析した。
【0089】
Orai1-/-マウスの早期死亡率及び成長遅延のため、すべてのさらなる研究は、Orai1-/-又は対照骨髄細胞を移植した野生型マウスに致死的に放射線照射して行なった。移植の4週後、両グループのマウスは、正常な血小板数(表3)を有し、そしてRT−PCRは、Orai1-/-キメラからの血小板においてOrai1 mRNAが実質的に完全に欠如していることを確認した(図5D)。さらにまた、主要な血液学的及び凝固パラメータである平均血小板体積(MPV)及び隆起表面糖タンパク質受容体(prominent surface glycoprotein receptors)の発現は、野生型とOrai1-/-キメラとの間で類似していた(データ示さず)(表3)。まとめると、これらの結果は、巨核球形成及び血小板形成がOrai1と独立して起こっていることを示している。
【0090】
SOCEにおけるOrai1の役割を試験するため、本発明者らは、Orai1-/-
び対照血小板における細胞内カルシウム測定を行なった。このために、フラ−2負荷細胞を、カルシウムを含まない緩衝液中の筋小胞体/小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA)阻害剤タプシガルギン(TG)で処理し、続いて細胞外カルシウムを添加し、そして[Ca2+iにおける変化をモニターした(図5E、左パネル)。TGによって惹起されるストア放出は、野生型とOrai1-/-血小板との間で同等であったが(それぞれ78.8±25.7nM及び62±13.4nM、p=0.17、n=6)、Stim1-/-血小板では低下した(42.3±7nM、p=0.005、n=6)(図1E及び実施例1参照)。しかしながら、Orai1がない場合、その後のSOCEは、ほとんど完全に遮断され(1438±466nM対155±44nM、p<0.0001(n=6);図5E 右パネル)、そしてこの欠損は、Stim1-/-血小板で見られたものと類似していた(図5E、右パネル)。これらの結果は、血小板における主要なSOCチャネルとしてOrai1を確立し、そしてその喪失がOrai2又はOrai3によって機能的に補償することができないことを示している。さらにまた、これらのデータは、Orai1が、STIM1と対照的に、血小板中の適切なストア含量調節に必要でないことを示している。
【0091】
アゴニスト誘導性Ca2+応答におけるOrai1−無発現変異の影響を研究するため、本発明者らは、種々のアゴニストで血小板活性化した際の[Ca2+iにおける変化を測定した(図6A)。TG実験からの結果と一致して、ADP、トロンビン(図6C)及びGq/PLCβ共役受容体に対して作用する安定なTxA2類似体U46619(図示せず)に対して応答するストア放出は、野生型と比較してOrai1-/-血小板では変化がなかった。さらにまた、PLCγ2の活性化で最大になる(culminating)受容体関連の免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)下流のチロシンリン酸化カスケードを誘発する活性化コラーゲン受容体糖タンパク質VI(GPVI)の特異的なリガンドの、コラーゲン関連ペプチド(CRP)に対する応答では、きわめて軽度の低下しか見られなかった(69.6±15.9nM対50.5±14.4nM、p<0.05、n=6);図6A、B)。これらの結果は、また、ストア放出がこれらのすべてのアゴニストに対する応答において強力に低下させるStim1-/-血小板で得られたものとは異なり、ストア含量調節におけるSTIM1の直接的な役割をさらに示している。しかしながら、実験を細胞外カルシウムの存在下で行なったとき、野生型血小板では、顕著なCa2+流入を検出することができ、これは劇的に低下するが、Orai1-/-血小板では抑制されず(図6A、B)、それによりStim1-/-血小板で先に見られたものと類似の欠損であった。まとめると、これらの結果は、Orai1が血小板における有効なアゴニスト誘導性Ca2+流入に必須であるが、それらの細胞におけるストア含量調節には必要でないことを実証している。結果として、正常なストア放出のため、Orai1-/-血小板は、等しく欠損したSOCEにもかかわらず、すべての主なアゴニストに対する応答においてStim1-/-血小板よりも有意により高いサイトゾルCa2+濃度に到達する。
【0092】
欠損したSOCEの機能性結果を試験するため、本発明者らは、まずin vitro凝集研究を行なった。すべてのアゴニストは、対照及びOrai1-/-血小板において円板状から球状形態の比較可能な活性化依存性変化を誘導し、これは凝集測定においてアゴニスト添加後の光透過率の僅かな減少として見ることができる。しかしながら、Orai1-/-血小板は、G−タンパク質共役アゴニストADP、トロンビン(図6C)及びU46619(図示せず)に対する応答において正常に凝集し、コラーゲン、CRP(図6C)及び強力なGPVI特異的アゴニストコンバルキシン(CVX、図示せず)に対する応答では、低いアゴニスト濃度で低下したが、中程度又は高いアゴニスト濃度では欠陥が克服された。GPVI−ITAMが介在する活性化におけるこの選択的障害は、インテグリンαIIbβ3活性化及び脱顆粒依存性P−セレクチン表面暴露のフローサイトメトリー分析によって確認された。図6Dに示すように、Orai1-/-血小板は、高い濃度でもCRP又はCVX(p<0.0001)に対して著しく低下した応答を示しているが、ADP及びトロンビンに対する応答は、影響を受けなかった。予想通り、弱いアゴニストADPは、野生型及びOrai1-/-血小板におけるP−セレクチン表面発現の誘導に失敗した。これらの結果から、Orai1が介在するSOCEの喪失は、GPVI誘導性インテグリン活性化及び脱顆粒を特異的に損なうが、G−タンパク質共役アゴニストは、欠損した[Ca2+iシグナル伝達にもかかわらず、これらのアッセイにおいて不変の細胞活性化をなお誘導することができることを実証した。同様の観察を、Stim1-/-血小板でも行っている。
【0093】
生理学的条件下では、血流中で血小板粘着及び凝集が起こり、ここで高いずり力は、これらの血小板機能に強い影響を与えている。流動下での血栓形成においてOrai1が介在するSOCEの重要性を試験するため、本発明者らは、動脈の高いずり速度(1700秒-1)での全血灌流アッセイにおいてコラーゲンに対する血小板粘着を研究した。野生型血小板は、急速にコラーゲンに粘着し、そして安定な三次元血栓を一貫して形成し、これは全4分の実行時間の終わりに全表面積の43.6±6.1%を覆った(図6E)。はっきりと対照的に、Orai1-/-マウスの血小板は、三次元血栓をほとんど形成することができず、そして全体的な表面被覆率は、対照と比較して約60%ほど低下した(17.6±5.2、p<0.0001、n=5)(図6E)。三次元血栓形成における欠陥は、相対的な血栓体積を測定して、約95%ほど低下したことが見出したときにさらにより明白になった(33×109±5.8×109対2.1×109±1.8×109 積分蛍光強度(IFI)/mm2、p<0.0001、n=5)(図6E)。これらの結果は、Orai1が介在するSOCEがin vitroでの高いずり流動条件下で安定な三次元血栓の形成に必須であることを示している。
【0094】
in vivo血小板機能にとってのOrai1が介在するSOCEの有意性を評価するため、野生型及びOrai1-/-キメラにコラーゲン/エピネフリン(150μg/kg;60μg/kg)を静脈注射し、それによって致死性の肺血栓塞栓症を引き起こした(Nieswandt, B. et al., 2001 J.Exp.Med. 193:459-469)。1匹を除くすべての野生型キメラは、窒息のため注射20分後に死亡したが、7匹のうちの6匹のOrai1-/-キメラは負荷後に生存していた(図7A)。この保護は、低下した血小板活性化に基づいており、負荷30分後(又は野生型動物では死亡直前)の血小板数は、野生型キメラと比較してOrai1-/-ではかなり高く(Orai1-/-では5.24±0.8対野生型では2.16±0.9x105/μl、p<0.005、n=4)、突然変異体動物では閉塞された肺血管数は、約50%少なかった(組織切片当たり11±2対19±3、p<0.005、n=4)(図7B)。
【0095】
次に、本発明者らは、動脈血栓症のモデルにおいてin vivo動脈血栓形成を評価し、ここで腹大動脈を機械的に損傷させ、そして血流を超音波血管周囲のドップラーフローメーターによってモニターした。このモデルでは、血栓形成は、コラーゲンによって主に誘発されるため、ITAM/PLCγ2依存性の方法で生じる(Gruner, S. et al., 2005 Blood 105:1492-1499)。野生型の血管はすべて閉塞したが、Orai1-/-キメラでは10匹のうち6匹しか血流を停止しなかった。しかしながら、これらの6匹のうちの4匹の血管では、血栓が塞栓形成し、そして結果的に30分の観察期間の終わりに10匹のうちの8匹のOrai1-/-キメラでは正常な血流が見られた(図7C−F)。対照的に、野生型キメラのすべての血管は閉塞し(図7C、D)、そして10匹のうちの2匹の血管だけが塞栓形成し、そして開口したままであった(図7D−F)。次に、腸間膜細動脈のFeCl3誘発性損傷モデルでマウスを試験したが、ここで血栓形成はほとんどトロンビンによって推進され、そしてITAM/PLCγ2シグナル伝達にあまり依存していない(Renne, T. et al., 2005 J.Exp.Med. 202:271-281)。興味深いことに、15匹のうちの14匹のOrai1-/-キメラは、このモデルで閉塞性の血栓を形成することができ、そしてプロセスは野生型対照と比較して類似の動態を示した(11/12匹の血管が閉塞した)(図7G、H)。まとめると、これらの結果は、プロセスが主にGPIb−GPVI−ITAM−依存性機構によって推進される条件下では、Orai1が介在するSOCEは、動脈損傷部位で多血小板血栓の安定化に必要であることを実証している。
【0096】
本発明者らは、STIM1が、虚血性脳梗塞の病因における必須のメディエーターであることを示しており、血小板のSOCEは、この設定で血管内血栓の安定化にとって重要であることを指示している(前記参照)。この仮説を直接検証するため、本発明者らは、記載されているような(Kleinschnitz, C. et al., 2007 Circulation 115:2323-2330)フィラメントを用いてOrai1-/-キメラの中大脳動脈(MCAO)を閉塞した。1時間後、フィラメントを除去して再灌流を可能にし、動物をさらに24時間追跡調査した後、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)で染色した脳切片で梗塞の程度を定量的に評価した。Orai1-/-キメラでは、再灌流の24時間後に梗塞体積が対照キメラの梗塞体積の30%未満に縮小した(18.15±12.82mm3対64.54±26.80mm3、p<0.0001)(図8A)。全体の神経機能を評価するBedersonスコア(1.69±0.65対3.43±1.13、p<0.01)及び運動機能及び協調を詳しく測定するグリップ試験(4.5±0.76対2.14±1.21、p<0.01)は、対照と比較してOrai1-/-キメラでは神経学的欠損がより少ないことを示した(図8B、C)。生きているマウスにおける連続的磁気共鳴画像法(MRI)は、Orai1-/-キメラのT2−w MRIにおける虚血性梗塞が、一過性MCAOの24時間後に対照キメラと比較して著しく縮小していることを示し、従って、本発明者らのTTC染色された脳切片からの組織学的所見が確認された。この保護効果は、梗塞成長の遅れが日1及び日5の間で観察されなかったので、持続した。さらに、血液検出用の高感度MRIシーケンスを用いて出血性変化(hemorrhagic transformation)を評価した。この脳卒中モデルではGPIIb/IIIa遮断後に出血性合併症が増えたのとは対照的に(Kleinschnitz, C. et al., 2007 Circulation 115:2323-2330)、T2−強調グラジエントエコー画像は、Orai1-/-キメラにおいてtMCAO後の頭蓋内出血を指示する低信号を示さなかった(図8D)。これは、血小板機能の変化にもかかわらず出血性合併症のために神経保護が起こらなかったことを示している。ヘマトキシリン−エオジン染色されたパラフィン切片における梗塞の通常の組織学的評価は、TTC及びMRIの所見を確認した。Orai1-/-キメラでは、梗塞は、基底核に制限されたが対照動物では新皮質に規則的に含まれている(図8E)。脳虚血−再灌流モデルの所見によれば、本発明者らは、Orai1-/-キメラではそれらの尾の先端を切断した後の出血傾向が僅かしかないことを見出した(図8F)。
【0097】
実施例7:材料及び方法
マウス。動物実験は、Bezirksregierung of Unterfrankenによって承認された。STIM1-/-マウスの作成は、以下の通りに行った。STIM1遺伝子における挿入性分断を含むマウスES細胞株(RRS558)は、BayGenomicsから入手した。STIM1として捕捉された遺伝子の同一性は、RT−PCR及びサザンブロット分析によって確認した。このES細胞株からの雄キメラをC57Bl/6雌と交配させてSTIM1+/-マウスを作成し、これを相互交配させてSTIM1-/-マウスを得た。骨髄キメラの作成。5〜6週齢のC57Bl/6雌マウスに一回線量10Gyで致死的に放射線照射し、そして6週齢の野生型又はSTIM1-/-マウスからの骨髄細胞を放射線照射されたマウスに静脈注射した(4×106細胞/マウス)。移植の4週間後、血小板数を測定し、そしてSTIM1欠損をウエスタンブロットによって確認した。すべてのレシピエント動物には、移植後6週間、2g/lの硫酸ネオマイシンを含む酸性水を投与した。
【0098】
Vig等(18)によって記載された通りOrai1-/-マウスを作成した。簡潔には、ES細胞クローン(XL922)をBayGenomicsから購入し、そしてC57Bl/6胚盤胞に微量注射してOrai1キメラマウスを作成した。生殖細胞系に移した後、異型接合体及びノックアウト動物について、マウス尾DNAを用いてサザンブロット及びPCRによって遺伝子型を同定した。相同組換え型及び野生型対立遺伝子をエキソン1の上流領域にある外部プローブによって検出した。外部プローブは、PCRによって増幅した(ExtpFor:5'L−GCTAGGGGAATCTCAGAAAC−3'L;ExtpRev:5'L−CATCCGAGGTCACCTCTGGG−3'L)。PCRベースの遺伝子同定には、位置特異的な(geospecific)フォワード及びリバースプライマーを用いた(GeoF:5'L−TTATCGATGAGCGTGGTGGTTATG−3'L,GeoR):5'L−GCGCGTACATCGGGCAAATAATATC−3'L)。骨髄キメラの作成。5〜6週齢のC57Bl/6雌マウスに一回線量10Gyで致死的に放射線照射し、そして野生型又はOrai1-/-マウスからの骨髄細胞を、放射線照射されたマウスに静脈注射した(4×106細胞/マウス)。すべてのレシピエント動物に、移植後6週間、2g/L硫酸ネオマイシンを含む酸性水を投与した。
【0099】
RT−PCR分析。ヒト及びマウスの血小板mRNAを、Trizol試薬を用いて単離し、そして製造業者のプロトコール(Invitrogen)に従って逆転写酵素(RT)−PCRにより検出した。プライマーは、既に記載されているように使用した(21)。
【0100】
化学物質及び抗体。麻酔薬:メデトミジン(Pfizer,Karlsruhe,ドイツ)、ミダゾラム(Roche Pharma AG,Grenzach-Wyhlen,ドイツ)、フェンタニル(Janssen-Cilag GmbH,Neuss,ドイツ)及びアンタゴニスト:アティパメゾール(atipamezol)(Pfizer,Karlsruhe,ドイツ)、フルマゼニル及びナロキソン(いずれもDelta Select GmbHから,Dreieich,ドイツ)を地元当局の規制に従って使用した。ADP(Sigma,Deisenhofen,ドイツ)、U46619(Alexis Biochemicals,サンディエゴ,米国)、トロンビン(Roche Diagnostics,Mannheim,ドイツ)、コラーゲン(Kollagenreagent Horm,Nycomed,ミュンヘン,ドイツ)及びタプシガルギン(Molecular Probes)は購入した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)若しくはフィコエリトリン(PE)に結合したモノクローナル抗体、又はDyLight-488は、Emfret Analytics(Wurzburg,ドイツ)からであった。抗STIM1抗体は、BD Transduction and Abnovaからであった。抗Orai1抗体は、ProSci Incorporated(Poway,米国)からであった。
【0101】
細胞内カルシウム測定。血小板細胞内カルシウム測定は、記載されている通り行なった(Heemskerk, J.W. et al, 1991, Lett. 284:223-226)。簡潔には、血液から単離した血小板を洗浄し、カルシウムを含まないタイロード緩衝液に懸濁し、そしてPluronic F-127(0.2μg/ml)(Molecular Probes)の存在下、37℃で30分間フラ−2/AM(5μM)を負荷した。標識後、血小板を1回洗浄し、そして0.5mM Ca2+又は1mM EGTA(STIM1-/-)それぞれなし又は1mM Ca2+(Orai1-/-)を含むタイロード緩衝液に再懸濁した。撹拌した血小板をアゴニストで活性化し、そしてPerkinElmer LS 55蛍光計で蛍光を測定した。励起は、340及び380nmの間で交互に行い、そして発光は509nmで測定した。各測定値は、トリトンX−100及びEGTAを用いて較正した。
【0102】
血小板凝集測定。洗浄した血小板の懸濁液(血小板0.5×106/μlで200μl)の光透過率における変化を、70μg/mlのヒトフィブリノーゲンの存在下で測定した。透過率は、Fibrintimer 4チャネル血小板凝集計(APACT Laborgerate und Analysensysteme,ハンブルグ,ドイツ)において10分かけて記録し、そして任意単位(arbitary units)で表し、緩衝液は100%透過率を表す。
【0103】
フローサイトメトリー。ヘパリン添加全血を、5mMグルコース、0.35%ウシ血清アルブミン(BSA)及び1mMCaCl2を含有する改変タイロード−HEPES緩衝液(modified Tyrode-HEPES buffer)(134mM NaCl、0.34mM Na2HPO4、2.9mM KCl、12mM NaHCO3、20mM HEPES[N−2−ヒド
ロキシエチルピペラジン−N'−2−エタンスルホン酸],pH7.0)で1:20に希釈した。糖タンパク質発現及び血小板数のため、血液サンプルを室温で15分間、適切なフルオロフォア複合型モノクローナル抗体でインキュベートし、そしてFACScalibur機器(Becton Dickinson,ハイデルベルク,ドイツ)で分析した。活性化研究のため、血液サンプルは、改変タイロード−HEPES緩衝液で2回洗浄し、アゴニストで15分間インキュベートし、室温で15分間、フルオロフォア標識抗体で染色し、それから分析した。
【0104】
流動条件下での粘着。長方形のカバーガラス(24×60mm)を37℃で1時間、0.2mg/mlの線維タイプIコラーゲン(Nycomed,ミュンヘン,ドイツ)でコーティングし、そして1%BSAでブロック(blocked)した。ヘパリン添加全血を0.2μg/mlでDylight-488結合型抗GPIX Ig誘導体により標識し、そして記載されているように灌流を行なった(Nieswandt, B. et al., 2001 EMBO J 20:2120-2130)。簡潔には、スリットの深さ50μmで、コラーゲンコートされたカバーガラスを備えた透明な流動チャンバーをHepes緩衝液ですすぎ、そして抗凝固処理血液を充填したシリンジに接続した。灌流は、室温で無脈動ポンプを用いて中程度(1000秒-1)又は高い(1700秒-1)ずり速度で行なった。
【0105】
灌流中、顕微鏡による位相コントラスト画像をリアルタイムで記録した。チャンバーを同じずりでHepes緩衝液pH7.45により10分灌流させてすすぎ、そして位相コントラスト及び蛍光写真を少なくとも5つの異なる顕微鏡視野(40x対物レンズ)で記録した。画像分析は、Metavueソフトウェア(Visitron,ミュンヘン,ドイツ)を用いてオフラインで行なった。血栓形成は、血栓により覆われた総面積の平均パーセンテージとして及びmm2当たりの平均積分蛍光強度として表した。
【0106】
出血時間。マウスに麻酔し、そして尾先端3mm部分をメスで除去した。創傷部位と接触することなく20秒間隔で濾紙により血液を穏やかに吸収することによって尾出血をモニターした。紙上に血液が見られなくなったとき、出血が止まったと判定した。実験は20分後に停止した。
【0107】
肺血栓塞栓症モデル。麻酔下のマウスに150μg/kg体重の線維状コラーゲン及び60μg/kg体重のエピネフリンの混合物を注射した。死亡するまで又は30分間マウスを観察し、そして肺を集めて4%パラホルムアルデヒド中に保存した。
【0108】
FeCl3損傷した腸間膜細動脈における血栓形成の生体顕微鏡検査。骨髄移植の4週間後、キメラに麻酔し、そして正中開腹手術により腸間膜を露出させた。100W HBO蛍光ランプ源、HBO蛍光ランプ源、及びCoolSNAP-EZカメラ(Visitron,ミュンヘン,ドイツ)を備えたZeiss Axiovert 200倒立顕微鏡(x10)で細動脈(直径35〜60μm)を視覚化した。デジタル画像を記録しそしてMetavueソフトウェアを用いてオフラインで分析した。FeCl3(20%)で飽和した3mm2濾紙を10秒間、局所適用して損傷を誘発した。細動脈における蛍光標識血小板(Dylight-488結合型抗GPIX Ig誘導体)の粘着及び凝集を30分間(STIM1-/-)/40分間(Orai1-/-)又は完全閉塞が生じる(血流が>1分停止する)までモニターした。
【0109】
大動脈閉塞モデル。縦切開術を用いて麻酔下のマウスの腹腔を開き、そして腹大動脈を露出させた。超音波流量プローブを血管のまわりに配置し、そして鉗子で1回強く圧迫することよって血栓症を誘発させた。完全閉塞が生じるか又は30分経過するまで血流をモニターした。
【0110】
マウスの脳卒中モデル(MCAOモデル)。実験は、機構により推進された脳卒中の基礎研究における調査のための公開された勧告(published recommendations for research
in mechanism-driven basic stroke studies)(Dirnagl, U., 2006, J. Cereb. Blood Flow Metab 26:1465-1478)に従って10〜12週齢STIM1-/-それぞれOrai1-/-又は対照キメラにおいて行なった。腔内フィラメント(intraluminal filament)(6021PK10; Doccol Company)技術を用いて吸入麻酔下で一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)を誘発させた(Kleinschnitz, C. et al., 2007, Circulation 115:2323-2330)。60分後、フィラメントを抜いて再灌流を可能にした。虚血性脳体積を測定するため、tMCAO誘発の24時間後に動物を犠牲にし、脳切片を、2%2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC;Sigma-Aldrich,ドイツ)で染色した。脳梗塞体積を算出し、そして記載されている通り浮腫について補正した(Kleinschnitz, C. et al., 2007, Circulation 115:2323-2330)。
【0111】
神経学的試験。神経機能は、tMACOの24時間後に2人の独立した治験責任医師の盲検により評価した。全体の神経学的状態は、Bederson等に従って評価した(Bederson, J.B. et al., 1986, Stroke 17:472-476)。運動機能は、グリップ試験を用いてグレード分けした(Moran, P.M. et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 92:5341-5345)。
【0112】
MRIによる脳卒中評価。MRIは、吸入麻酔下、1.5T単位(Vision; Siemens)で脳卒中後24時間及び7日(STIM1-/-)/5日(Orai1-/-)で行なった。特注のデュアルチャネル表面コイルをすべての測定に使用した(A063HACG; Rapid Biomedical)。MRプロトコールには、冠状T2−wシーケンス(スライス厚2mm)、及び冠状T2−wグラジエントエコーCISSシーケンス(Constructed Interference in Steady State;スライス厚1mm)が含まれる。データ処理のため、MR画像を外部ワークステーション(Leonardo;Siemens)に移した。梗塞形態及びICHの視覚分析を盲検方式で行なった。梗塞体積は、高解像度CISS画像における高信号領域の面積測定法によって算出した。
【0113】
組織学。パラフィン中に包埋されたホルマリン固定脳(Histolab Products AB)を4μm厚切片に切断し、そして固定した。パラフィンを除去した後、組織をヘマトキシリン−エオジン(Sigma-Aldrich)で染色した。
【0114】
統計学。一群当たり少なくとも3匹の実験結果を平均±SDとして示した。野生型とそれぞれSTIM1-/-、Orai1-/-グループとの差を両側スチューデントt検定によって評価した。マウスの脳卒中モデル:結果を平均±SDとして示した。梗塞体積及び機能性データは、D'Agostino 及び Pearsonオムニバス正規性検定によるガウス分布について試験し、それから、両側スチューデントt検定を用いて分析した。統計分析には、PrismGraph 4.0ソフトウェア(GraphPad Software, USA)を用いた。p値<0.05は、統計学的に有意であるとした。
【0115】
【表1】

【0116】
希釈した全血を室温で15分間、飽和濃度でフルオロフォア標識抗体により染色し、そしてFACScalibur(Becton Dickinson,ハイデルベルク)で分析した。血小板は、FSC/SSCの特徴によってゲート制御されている。結果は、一群当たり6〜12匹のマウスの平均蛍光強度±SDとして得た。平均血小板体積(MPV)をSysmex細胞カウンターで測定し、そして一群当たり6匹のマウスの平均±SDとして表した。
【0117】
【表2】

【0118】
対照及びSTIM1-/-キメラについてのnl当たりの赤血球数及び凝固パラメータ。略語はヘマトクリット(HCT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、プロトロンビン時間(Pt)、及びトロンビン凝固時間(TCT)である。得られた値は、各ゲノタイプについて5匹のマウスの平均値±SDである。
【0119】
【表3】

【0120】
対照及びOrai1-/-キメラについてのnl当たり血小板及び赤血球数並びに凝固パラメータ。略語は、平均血小板体積(MPV)、ヘマトクリット(HCT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、クイック試験(QT)、及び国際標準化比(INR)である。得られた値は、各ゲノタイプについて5匹のマウスの平均値±SDである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、並びに場合により薬学的に活性な担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含む薬学的組成物。
【請求項2】
阻害剤が、抗体又はそのフラグメント若しくは誘導体、アプタマー、siRNA、shRNA、RNAiに影響を及ぼすさらなる分子、リボザイム、アンチセンス核酸分子、これらの阻害剤の修飾型、又は小分子である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
STIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤がSTIM1の細胞内運動に関与するSTIM1関連タンパク質の阻害剤又はOrai1の阻害剤である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
同じ又は別々の容器にG−タンパク質共役受容体又はシグナル伝達経路のアンタゴニストをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
G−タンパク質共役受容体又はシグナル伝達経路のアンタゴニストがアスピリン又はP2Y1、P2Y12若しくはPAR受容体の阻害剤である、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
静脈若しくは動脈の血栓形成に関連する障害の予防及び/又は治療するための又は静脈若しくは動脈の血栓形成に関連する障害を予防及び/又は治療する薬物を開発するリード化合物としての間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤。
【請求項7】
阻害剤が、抗体又はそのフラグメント若しくは誘導体、アプタマー、siRNA、shRNA、RNAiに影響を与えるさらなる分子、リボザイム、アンチセンス核酸分子、これらの阻害剤の修飾型、又は小分子である、請求項6に記載の阻害剤。
【請求項8】
STIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤がSTIM1の細胞内運動に関与するSTIM1関連タンパク質の阻害剤又はOrai1の阻害剤である、請求項6又は7に記載の阻害剤。
【請求項9】
G−タンパク質共役受容体又はシグナル伝達経路のアンタゴニストに混合しているか又はそれと別々の容器で関連づけている、請求項6〜8のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項10】
G−タンパク質共役受容体又はシグナル伝達経路のアンタゴニストが、アスピリン又はP2Y1、P2Y12若しくはPAR受容体の阻害剤である、請求項9に記載の阻害剤。
【請求項11】
静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害が、心筋梗塞、脳卒中、虚血性脳卒中、肺血栓塞栓症、末梢動脈疾患(PAD)、動脈血栓症及び静脈血栓症からなる群より選ばれる、請求項6〜10のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項12】
静脈若しくは動脈の血栓形成に関連する障害予防及び/若しくは治療するための、又は静脈若しくは動脈の血栓形成に関連する障害を予防及び/若しくは治療する薬物を開発するためのリード化合物としての、間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤の使用。
【請求項13】
治療において同時に、別々に又は逐次的に使用するための、間質相互作用分子1(STIM1)の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤、及びG−タンパク質共役受容体若しくはシグナル伝達経路のアンタゴニスト、及び場合により薬学的に活性な担体、賦形剤及び/又は希釈剤の組み合わせ薬学的組成物。
【請求項14】
静脈若しくは動脈の血栓形成に関連する障害を予防及び/若しくは治療するための、又は静脈若しくは動脈の血栓形成に関連する障害を予防及び/若しくは治療する薬物を開発するリード化合物としての請求項13に記載の組み合わせ薬学的組成物。
【請求項15】
静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害を治療及び/又は予防するためのリード化合物として及び/又は薬剤として適した化合物を同定する方法であって、
a)STIM1タンパク質を含有する細胞の細胞内カルシウムストアを空にし、そして細胞外カルシウムの添加の際の細胞内カルシウム濃度における増加を測定する工程;
b)該細胞又は同一細胞集団の細胞を試験化合物と接触させる工程;
c)STIM1タンパク質を含有する該細胞の又は該同一細胞集団の細胞の細胞内カルシウムストアを空にし、そして試験化合物と接触させた後に該細胞に細胞外カルシウムを添加した際の細胞内カルシウム濃度における増加を測定する工程;
d)工程(c)で測定した細胞内カルシウム濃度における増加を工程(a)で測定した細胞内カルシウム濃度における増加と比較する工程を含み、
ここで、工程(a)と比較して工程(c)の細胞内カルシウム濃度における増加がないか又はより少ないことは、試験化合物が、静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害の治療及び/又は予防するためのリード化合物として及び/又は薬剤として適した化合物であることを指示している、上記方法。
【請求項16】
STIM1タンパク質を含む前記細胞が血小板である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
STIM1の阻害剤又はSTIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤の薬学的有効量を、その必要のある対象に投与することを含む静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害の予防及び/又は治療方法。
【請求項18】
阻害剤が、抗体又はそのフラグメント若しくは誘導体、アプタマー、siRNA、shRNA、RNAiに影響を与えるさらなる分子、リボザイム、アンチセンス核酸分子、これらの阻害剤の修飾型、又は小分子である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
STIM1調節性形質膜型カルシウムチャネル活性の阻害剤が、STIM1の細胞内運動に関与するSTIM1関連タンパク質の阻害剤又はOrai1の阻害剤である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
静脈又は動脈の血栓形成に関連する障害が、心筋梗塞、脳卒中、虚血性脳卒中、肺血栓塞栓症、末梢動脈疾患(PAD)、動脈血栓症及び静脈血栓症からな群より選ばれる、請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−515376(P2011−515376A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500239(P2011−500239)
【出願日】平成21年3月20日(2009.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053330
【国際公開番号】WO2009/115609
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(597070264)ツェー・エス・エル・ベーリング・ゲー・エム・ベー・ハー (32)
【出願人】(506261534)ユリウス−マクシミリアンズ−ウニヴェルジテート ウュルツブルグ (2)
【Fターム(参考)】