説明

痙攣または発作を処置または予防するための組成物および方法

【課題】 痙攣および/または発作を処置または予防する。
【解決手段】 実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムを含む組成物、およびそのための処置を必要としている対象に該組成物を投与することを含む方法を提供する。また、実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムを他の抗痙攣薬と共に投与することを含む組成物および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2001年5月18日に出願された米国仮出願番号第60/292,026号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、痙攣または発作を処置または予防するための組成物および方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
トフィソパム(tofisopam)は、1−(3,4−ジメトキシ−フェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンであり、式
【化1】


で表すことができる。
【0004】
トフィソパム(ラセミ混合物)は、不安緩解剤として、グランダキシン(Grandaxin)(商標)およびセリール(Seriel)(商標)の名前で市販されてきた。トフィソパムはベンゾジアゼピンであるが、環構造中の窒素原子が1,4ではなく2,3に位置する点で、古典的なジアゼパム様ベンゾジアゼピン類とは構造的に異なる。トフィソパムと古典的な1,4−ベンゾジアゼピン類との間の構造的類似性にも関わらず、ベンゾジアゼピン環中の窒素の位置の違いが、古典的なベンゾジアゼピン類とは非常に異なる医薬活性をトフィソパムに与えている。
【0005】
トフィソパムの合成は米国特許番号第3,736,315号に記載されている。トフィソパムには炭素C−5にキラル中心があり、故に2つのエナンチオマーがある。さらに、トフィソパムの各エナンチオマーは、窒素含有ベンゾジアゼピン環に想定され得る2つの配置に基づき、2つの安定な立体配座で存在することができる。
【0006】
トフィソパムの分子構造および立体配座の特性は、NMR、CDおよびX線結晶学的方法で測定されてきた(Visy, J. and Simongi, M., Chirality 1:271-275 (1989))。2,3ジアゼピン環は、2種類の舟形配座で存在する。多いほうの配座異性体である(+)Rおよび(−)Sでは、不斉中心C−5に結合したエチル基が準エクアトリアル配向を有し、一方少ないほうの配座異性体である(−)Rおよび(+)Sでは、エチル基は準アキシアルに位置する。従って、ラセミ体のトフィソパムは、4種の分子種で存在できる。すなわち、それぞれが2種のキラル立体配座で存在する2種のエナンチオマーである。旋光度のしるしは、ジアゼピン環の反転に際して逆になる。結晶形態では、トフィソパムは、(S)絶対配置の左旋性トフィソパムという主な方の立体配座としてのみ存在する(Toth, G. et al., J. Heterocyclic Chem. 20:709-713 (1983); Fogassy, E. et al., In: Bio-Organic Heterocycles, Van der Plas, H.C., Oetvoes, L., Simongi, M., eds. Budapest Amsterdam: Akademia; Kiado-Elsevier, 229:233 (1984))。
【0007】
不斉薬物分子の絶対配置は、薬物の効力に絶大な影響を与え得る。Fogassy らは、1980年の学会の Petocz らによる要旨が、トフィソパムの各立体異性体についての異なる生物学的活性を示したマウスの薬理試験を記載しており、それにはラセミ体のトフィソパムの活性はその各エナンチオマーの活性の合計に相応しないという観察が含まれていると述べた(Fogassy, E. et al. 前出)。しかし、Fogassy らは、Petocz らによって得られた特異な結果の生物学的アッセイについて記述していない。さらに、先行分野の検索によって、Petocz らによるそのような要旨は見つからなかった。従って、現時点では、Petocz らが存在するか、またはS−トフィソパムおよびその予想外の特性に関連するという指摘はない。
【0008】
さらに、ヒト血清アルブミンへのトフィソパムのエナンチオマーの結合は、立体選択的であり、立体配座の相互転換に影響されると報告されてきた(Simonyi, M., and Fitos, I., Biochem Pharmacology 32:1917-1920 (1983))。
【0009】
ハンガリー特許番号第178516号は、トフィソパムのエナンチオマーを分離する試みと、分離産物をマウスに投与することに関する観察を記載している。しかし、マウスに投与された分離産物の純度について報告していない。さらに、分離産物の絶対配置について報告しておらず、マウスでの試験は、いずれも分離産物の抗痙攣薬活性を測定していない。
【0010】
トフィソパムがマウスで抗痙攣薬活性を示すという2つの報告があった。1981年に、C. Ito は、マウスにおいてトリプタミンで誘発された痙攣をトフィソパムが抑制できると断言した(Ito, C., Tokyo Med. College 39:369-384 (1981); 本明細書で、以後「Ito」とする)。しかし、Ito の痙攣のデータは、この結論を支持しない。Ito に記載の試験に従うトフィソパムの投与には、マウスの痙攣の発生を減ずる効果がないように思われる(表6、Ito 前出)。さらに、Ito は実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムの抗痙攣薬活性を試験しなかった。
【0011】
1986年に、Pellow らは、化合物Ro5−4864によって誘発される痙攣を有するマウスの数が、100mg/kgのトフィソパムの投与によって減少すると報告した(Pellow, S. and File, S., Drug Dev. Res. 7:61-73 (1986))。しかし、Pellow らは、処置したマウスのすべてが、依然としてミオクローヌス痙攣を経験するとも報告した。対照的に、Pellow らは、25−50mg/kgのトフィソパムは、3mg/kgのピクロトキシンまたは30mg/kgのペンチレンテトラゾールと組合せて投与される場合に、Tuck No. 1 マウスでプロ痙攣薬活性を有すると報告した。Pellow らはまた、10−50mg/kgのトフィソパム用量は、6mg/kgのピクロトキシンを与えられていた Tuck No. 1 マウスで、痙攣の回数や重篤度に影響を与えないと報告した。同様に、60mg/kgのペンチレンテトラゾールを与えられた Tuck No. 1 マウスで、10−25mg/kgのトフィソパム用量には、抗痙攣薬としての効果はないと報告した。Pellow らは、実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムの抗痙攣薬活性を試験しなかった。
【0012】
多数の他の報告は、その一部は1986年以後に出版されたが、トフィソパムには抗痙攣薬特性はないと述べている(Mennini et al., Arch. Pharmacol. 32:112-115 (1982); Saano, V., Med. Bio. 64:201-206 (1986); Petocz, L., Acta Pharm. Hung. 63:79-82 (1993); Szego, J. et al., Acta Pharm. Hung. 63:91-98 (1993))。実質的に(R)エナンチオマーを含まないS−トフィソパムの抗痙攣薬活性を試験した研究はない。
【0013】
トフィソパムはベンゾジアゼピンの抗痙攣薬の作用を増強するが、フェニトイン、バルプロ酸ナトリウムまたはカルバマゼピンの作用は増強しないと報告されてきた(Saano, V., Med. Biol. 64:201-206 (1986))。例えば、トフィソパムの強化作用は、ジアゼパムと共に痙攣に対して(Briley, M. Br. J. Pharmacol. 82:300P (1984); Mennini, T., Naugn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol. 321:112-115 (1982))、そして震えに対して(Saano, V., Pharmacol. Biochem. Behav. 17:367-369 (1982);Saano, V., Med. Biol. 61:49-53 (1983))効果的であると報告された。これらの強化の研究では、ジアゼパムまたは他の抗痙攣薬の抗痙攣薬活性に与えるトフィソパムのどちらのエナンチオマーの効果も調べられなかった。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明の目的は、痙攣および発作を処置および予防するための新しい組成物および方法を提供することである。本発明は、治療的有効量の実質的にその(R)エナンチオマーを含まないS−トフィソパムと、医薬的に許容され得る担体とを含む組成物を提供する。実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムのプロドラッグまたはその医薬的に許容され得る塩を含む組成物もまた、企図されている。
【0015】
好ましくは、S−トフィソパムまたはその医薬的に許容され得る塩の量は、重量でトフィソパムの総重量の80%またはそれ以上である。より好ましくは、S−トフィソパムまたはその医薬的に許容され得る塩の量は、重量でトフィソパムの総重量の85%またはそれ以上である。より好ましくは、S−トフィソパムまたはその医薬的に許容され得る塩の量は、重量でトフィソパムの総重量の90%またはそれ以上である。より好ましくは、S−トフィソパムまたはその医薬的に許容され得る塩の量は、重量でトフィソパムの総重量の95%またはそれ以上である。最も好ましくは、S−トフィソパムまたはその医薬的に許容され得る塩の量は、重量でトフィソパムの総重量の99%またはそれ以上である。本発明のある態様では、S−トフィソパムの立体配座は、80%(−)および20%(+)である。
【0016】
本発明はまた、実質的に(R)エナンチオマーを含まないS−トフィソパムと、1種またはそれ以上の他の抗痙攣薬を含む組成物を提供する。ある実施態様によると、他の抗痙攣薬は、フェニトイン、メフェニトイン、エトトイン、フェノバルビタール、メフォバルビタール(mephobarbital)、プリミドン、カルバマゼピン、エトスクシミド、メトスクシミド、フェンスクシミド、バルプロ酸、トリメタジオン、パラメタジオン、フェナセミド、アセタゾールアミド、プロガビド、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩およびニトラゼパムから成る群から選択される。ある実施態様では、他の抗痙攣薬はベンゾジアゼピンである。ある好ましい実施態様では、他の抗痙攣薬は1,4−ベンゾジアゼピンである。さらに他の好ましい実施態様では、他の抗痙攣薬は、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩またはニトラゼパムである。
【0017】
ある実施態様では、医薬組成物は、放出制御される医薬組成物である。
【0018】
本発明は、痙攣または発作を処置する方法を提供する。その方法は、そのための処置を必要としている対象に、痙攣または発作を緩和するのに十分な治療的有効量の、実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムを投与することを含む。本発明の他の実施態様は、痙攣または発作が現れるリスクのある対象において、痙攣または発作を予防する方法に関連する。その方法は、該対象に痙攣または発作を予防するのに十分な治療的有効量の、実質的に(R)エナンチオマーを含まないS−トフィソパムを投与することを含む。本発明の方法によるS−トフィソパムのプロドラッグまたは医薬的に許容され得る塩の投与もまた、企図されている。
【0019】
本発明の他の実施態様では、処置を必要としている対象は、癲癇、後天性免疫不全症候群(エイズ)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病を含む他の神経変性疾患、精神分裂症、強迫性障害、耳鳴り、神経痛、三叉神経痛、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、チック(例えばジル・ド・ラ・チユーレット症候群)、外傷後癲癇、アルコールの使用、アルコールの離脱、バルビツール酸塩の中毒または離脱、脳の病気または傷害、脳腫瘍、窒息、薬物乱用、電気ショック、発熱(特に幼い子供の)、頭部傷害、心臓病、熱病、高血圧、髄膜炎、中毒、卒中、妊娠中毒症、腎臓の機能不全に関連する尿毒症、有毒な噛傷および刺傷、ベンゾジアゼピンの離脱、熱性痙攣、および無熱性の乳児痙攣から成る群から選択される障害または症状に起因する痙攣または発作を患っている。ある好ましい実施態様では、対象は癲癇に起因する痙攣または発作を患っている。
【0020】
本発明はまた、痙攣または発作を処置または予防するための方法も提供し、その方法は、そのための処置を必要としている対象に、治療的有効量の実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパム、そのプロドラッグまたは塩と、1種またはそれ以上の他の抗痙攣薬を一緒にか、または逐次的に投与することを含む。他の抗痙攣薬は、フェニトイン、メフェニトイン、エトトイン、フェノバルビタール、メフォバルビタール、プリミドン、カルバマゼピン、エトスクシミド、メトスクシミド、フェンスクシミド、バルプロ酸、トリメタジオン、パラメタジオン、フェナセミド、アセタゾールアミド、プロガビド、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩およびニトラゼパムから成る群から選択できるが、これらに限定されるものではない。ある実施態様では、他の抗痙攣薬はベンゾジアゼピンである。ある好ましい実施態様では、他の抗痙攣薬は1,4−ベンゾジアゼピンである。さらに他の好ましい実施態様では、他の抗痙攣薬は、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩またはニトラゼパムである。
【0021】
図面の簡単な説明
図1は、オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、S−トフィソパムの用量依存的効果を図解する。
図2は、オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、トフィソパムの用量依存的効果を図解する。
図3は、オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、ラセミ体のトフィソパムの用量依存的抗痙攣薬効果を図解する。
図4は、オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、ジアゼパムの用量依存的抗痙攣薬効果を図解する。
図5は、オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、R−トフィソパムの用量依存的抗痙攣薬効果を図解する。
図6は、オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、S−トフィソパムの用量依存的抗痙攣薬効果を図解する。
【0022】
発明の詳細な説明
本発明による組成物は、実質的にその(R)エナンチオマーを含まないS−トフィソパムを含む。本明細書で使用する「実質的にその(R)エナンチオマーを含まない」の語は、トフィソパムの総重量で見て、少なくとも重量で80%またはそれ以上のS−トフィソパムと、重量で20%またはそれ以下のR−トフィソパムを含む組成物を意味する。好ましい実施態様では、組成物は、トフィソパムの総重量で見て少なくとも重量で85%またはそれ以上のS−トフィソパムと、重量で15%またはそれ以下のR−トフィソパムを含む。より好ましい実施態様では、組成物は、トフィソパムの総重量で見て少なくとも重量で90%またはそれ以上のS−トフィソパムと、重量で10%またはそれ以下のR−トフィソパムを含む。さらにより好ましい実施態様では、組成物は、トフィソパムの総重量で見て少なくとも重量で95%またはそれ以上のS−トフィソパムと、重量で5%またはそれ以下のR−トフィソパムを含む。最も好ましい実施態様では、組成物は、トフィソパムの総重量で見て少なくとも重量で99%またはそれ以上のS−トフィソパムと、重量で1%またはそれ以下のR−トフィソパムを含む。ある実施態様では、S−トフィソパムの立体配座は、80%(−)および20%(+)である。
【0023】
トフィソパムは、当分野で周知の方法に従って合成できる。例えば、合成法は米国特許番号第3,736,315号および第4,423,044号に記載されている。これらの開示を出典明示により本明細書の一部とする。トフィソパムの(S)エナンチオマーは、本明細書に記載の方法で得られる(実施例1または3)。
【0024】
本発明の組成物は実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムまたはプロドラッグまたはそれらの医薬的に許容され得る塩を有効成分として含み、医薬的に許容され得る担体および場合によっては他の治療成分も含有することもできる。
【0025】
ある実施態様では、本発明の組成物はS−トフィソパムと1種またはそれ以上の他の抗痙攣薬を含む。他の抗痙攣薬は、例えば、フェニトイン、メフェニトイン、エトトイン、フェノバルビタール、メフォバルビタール、プリミドン、カルバマゼピン、エトスクシミド、メトスクシミド、フェンスクシミド、バルプロ酸、トリメタジオン、パラメタジオン、フェナセミド、アセタゾールアミド、プロガビド、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩またはニトラゼパムであり得る。他の実施態様では、本発明の組成物は、S−トフィソパムおよびベンゾジアゼピンを含む。さらに他の実施態様では、本発明の組成物は、S−トフィソパムおよび1,4−ベンゾジアゼピンを含む。さらなる実施態様では、本発明の組成物は、S−トフィソパム並びに、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩およびニトラゼパムから成る群から選択される他の抗痙攣薬を含む。
【0026】
本発明によるプロドラッグは、S−トフィソパムの不活性な誘導体であって、それはインビボで代謝されて体内で活性物質になる。本発明による有用なプロドラッグは、痙攣または発作の処置または予防においてS−トフィソパムと実質的に同等かそれ以上の治療的価値のあるものである。例えば、本発明による有用なプロドラッグは、薬物が生体膜を通過することを改良し、薬物の吸収の改良を導く;薬物の作用期間を延長する、例えば、プロドラッグからの親薬物の放出が遅い、および/または薬物の第一関門代謝を減少させる;薬物の作用の標的を定める;薬物の水溶解性および安定性を改良する(例えば、静脈注射調製物、点眼薬等);局所的薬物送達を改良する(例えば、皮膚および眼の薬物送達);薬物の化学的および/または酵素学的安定性を改良する(例えば、ペプチド);または、薬物による副作用を低減する、ことが可能である。プロドラッグの作成法は、当分野で周知である(例えば、Balant, L. P., Eur. J. Drug Metab. Pharmacokinet. 15:143-153 (1990); および Bundgaard, H., Drugs of the Future 16:443-458 (1991); 出典明示により本明細書の一部とする)。
【0027】
「医薬的に許容され得る塩」の語は、無機酸および有機酸を含む医薬的に許容され得る非毒性の酸から調製される塩を表す。S−トフィソパムは塩基性であるので、塩は無機および有機酸を含む医薬的に許容され得る非毒性の酸から調製できる。そのような酸には、リンゴ酸、酢酸、ベンゼン−スルホン酸(ベシレート(besylate))、安息香酸、ショウノウスルホン酸、クエン酸、エタンスルフォン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、硝酸、パモ(pamoic)酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸などが含まれる。特に好ましいものは、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、リン酸および硫酸である。
【0028】
本発明による組成物は、経口的、直腸的または経皮的使用(例えばパッチを用いる)のために調製することができる。あるいは、組成物を舌下または非経口投与(皮下、筋肉内、くも膜下および静脈内投与を含む)のために調製することができる。あらゆる所定の事例の中で最も適した経路は、処置されようとしている症状の性質および重篤度に依るであろう。本発明のある好ましい態様によると、投与経路は経口経路である。本発明の他の好ましい態様によると、投与経路は、直腸、筋肉内、鼻腔内または静脈内である。本発明のさらに他の好ましい態様によると、投与経路は腹腔内または皮下である。該組成物は単位投与形態で有り得、薬学の分野でよく知られているいかなる方法をも用いて調製できる。
【0029】
実際的な使用では、実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムまたはプロドラックまたはそれらの塩を、従来の医薬混合技法に従って、医薬的担体との混合物中の有効成分として組合せることができる。該担体は、例えば経口または非経口投与(静脈内注射または点滴を含む)のような投与に望まれる調製形態によって、広く様々な形態をとることができる。例えば、本発明による担体には、澱粉、糖、微結晶性セルロース、安定剤、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、増量剤および崩壊剤が含まれる。経口投与形態用の組成物は、経口液状調製物(例えば、懸濁液、エリキシル剤および溶液;またはエアロゾル)の場合、例えば、水、グリコール、油、アルコール、香料、保存料、着色料などの通常の医薬媒体のいずれもを含み得る。
【0030】
本発明の組成物はまた、製剤中の有効成分が、遅延または放出制御されるように製剤することができる。それには、所望の放出特性を与えるために様々な割合でヒドロプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、浸透システム、多層コーティング、微粒子、リポソームおよび/またはミクロスフェアを用いる。
【0031】
一般的に、放出制御調製物は、所望の期間にわたって一定の薬理的活性を維持するように、必要な速度で有効成分を放出する能力がある組成物である。そのような投与形態によって、あらかじめ決められた期間にわたって体に薬物を供給し、かくして他の非制御製剤よりも長い期間にわたって薬物レベルを治療的範囲に維持するようにできる。
【0032】
例えば、米国特許番号第5,674,533号は、強力な末梢性鎮咳薬であるモグイステイン(moguisteine)の投与のための、液状投与形態の放出制御組成物を開示している。米国特許番号第5,059,595号は、器質性精神障害の治療用の胃で消化されない錠剤の使用による、有効成分の放出制御を記載している。米国特許番号第5,591,767号は、強力な鎮静特性を有する非ステロイド系抗炎症剤である、ケトロラク(ketorolac)の投与制御用の、液体貯蔵器の経皮パッチを記載している。米国特許番号第5,120,548号は、膨張可能なポリマーを含む、放出制御の薬物送達デバイスを記載している。米国特許番号第5,073,543号は、ガングリオシド−リポソーム媒体に封入された栄養因子を含有する放出制御製剤を記載している。米国特許番号第5,639,476号は、疎水性アクリル性ポリマーの水性分散によるコーティングを有する、安定な固体の放出制御製剤を記載している。これらの特許を、出典明示により本明細書の一部とする。
【0033】
生物分解可能な微粒子を、本発明の放出制御製剤で使用できる。例えば、米国特許番号第5,354,566号は、有効成分を含有する放出制御粉末を開示している。米国特許番号第5,733,566号は、駆虫組成物を放出する、重合体の微粒子の使用を記載している。これらの特許を、出典明示により本明細書の一部とする。
【0034】
有効成分の放出制御は、様々な誘導因子で刺激され得る。例えば、pH、温度、酵素、水、または他の生理状態または化合物である。薬物放出の様々なメカニズムが存在する。例えば、ある実施態様では、患者への投与後に、放出制御製剤成分は膨張し、有効成分を放出するのに十分な大きさの多孔性の開口部を形成することができる。「放出制御製剤成分」の語は、本発明の文脈では、ポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、リポソームおよび/またはミクロスフェアのような、医薬組成物中の有効成分(例えば、S−トフィソパムまたはその塩)の放出制御を助長する製剤成分または製剤成分群として、本明細書中で定義される。他の実施態様では、放出制御製剤成分は、体内の水性環境、pH、温度または酵素への露出によって誘導されると、生物分解可能である。他の実施態様では、ゾル−ゲルが使用でき、この場合、有効成分は室温で固体のゾル−ゲルマトリックス中に組込まれている。このマトリックスは、ゾル−ゲルマトリックスのゲル形態を誘導するのに十分な高さの体温を有する患者、好ましくは哺乳類、に移植され、かくして患者の中へ有効成分を放出する。
【0035】
医薬的安定剤もまた、S−トフィソパムまたはプロドラッグまたはそれらの塩を含有する組成物を安定化するために用いられる;許容され得る安定剤には、L−システイン塩酸塩、グリシン塩酸塩、リンゴ酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、クエン酸、酒石酸およびL−システイン二塩酸塩が含まれる。
【0036】
本発明の投与形態には、当分野でよく知られている持続放出製剤を含む、錠剤、被膜錠剤、キャプレット(caplet)、カプセル(例えば、硬質ゼラチンカプセル)、トローチ、糖衣錠、分散液剤、懸濁液剤、溶液剤、パッチ、丸剤、被膜丸剤などが含まれる。例えば、Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms, 1985, Ansel, H.C., Lea and Febiger, Philadelphia, PA; Remington's Pharmaceutical Science, 1995, Mack Publ. Co., Easton, PA を参照されたい。例えば、経口投与に適する本発明の組成物は、それぞれあらかじめ決められた量の有効成分を含有する軟質ゼラチンカプセル、カシェ剤、錠剤、丸薬、またはエアロゾルスプレーのような個別の単位であり得る。あるいは、本発明の組成物は、粉末もしくは顆粒の形態であり得、または水性液体、非水性液体、水中油乳液もしくは油中水乳液中の、溶液もしくは懸濁液であり得る。そのような組成物は薬学のいかなる方法を用いても調製できるが、すべての方法には、有効成分を担体と合わせるようにする工程が含まれる。好ましい固体経口調製物は、錠剤である。より好ましい固体経口調製物は、被膜錠剤である。必要なら、錠剤を標準的な水性または非水性の技法で被膜できる。
【0037】
一般に、有効成分またはプロドラッグを、液状の担体もしくはよく分割された固体の担体または両者と均一かつ完全に混合し、次いで必要なら産物を所望の外形に成形することによって、組成物を調製できる。例えば、錠剤は、場合によっては1種またはそれ以上の副成分と共に、圧縮または成型によって調製できる。圧縮錠剤は、粉末や顆粒のような自由に流動する形態の有効成分を、場合により1種またはそれ以上の結合剤、増量剤、安定剤、滑沢剤、不活性の希釈剤、および/または界面活性剤または崩壊剤と混合し、適する機械の中で圧縮することにより調整できる。成型錠剤は、不活性の液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を、適する機械の中で成型することによって作成できる。
【0038】
ある実施態様では、各錠剤は約10mgないし約100mgの有効成分またはプロドラッグを含有し、各カシェ剤またはカプセルは約10mgないし約300mgの有効成分またはプロドラッグを含有する。他の実施態様では、錠剤、カシェ剤またはカプセルは、4つの用量、すなわち、約10mg、約50mg、約100mgおよび約150mgの有効成分またはプロドラッグのうちの、1用量を含有する。
【0039】
組成物がS−トフィソパム、その塩またはプロドラッグ以外の抗痙攣薬を含む場合、他の抗痙攣薬は、医薬の分野で生理的に許されるように、S−トフィソパム、その塩またはプロドラッグよりも少ないか、多いかまたは等しい量であり得る。
【0040】
好ましい実施態様では、本発明の方法に従って処置される対象は、哺乳動物である。他の好ましい実施態様では、本発明の方法に従って処置される対象は、ヒトである。
【0041】
本発明における痙攣は、異常なニューロンの活動に起因し、体および/または手足のひきつりを引き起こす、不随意の筋収縮である。本発明における発作は、異常で、同時発生し、そして周期的な神経の発火に誘発される、一過性の行動の変化である。時期的に予想できない発作の発生は、一般に癲癇と関連している。2種の主なタイプの癲癇性発作は、部分発作と全般発作である。本明細書で使用される部分発作は、1つの大脳半球の部分に限られるニューロンに影響を与えるものとして特徴付けられる。部分発作は意識障害を伴うことも伴わないこともあり得る。本明細書で使用される全般発作は、両半球が関わり、通常は意識に障害が出るものを含む。全般発作には、欠神発作、ミオクローヌス発作、間代発作、強直発作、強直間代発作および脱力発作が含まれる(Dreifuss et al., Classification of Epileptic Seizures and Epilepsies and Drugs of Choice for Their Treatment, p. 1-9, In: Antiepileptic Drugs: Pharmacology and Therapeutics, Eds M.J. Eadie and F.J.E. Vajda; Wilder et al., Classification of Epileptic Seizures, p. 1-13, In: Seizure Disorders, A Pharmacological Approach to Treatment, Ravan Press, New York (1981))。
【0042】
偽癲癇または非癲癇性の発作は、例えば、不整脈、大動脈弁狭窄症および起立性低血圧症を含む心血管疾患;低血糖症および薬物中毒を含む毒性もしくは代謝の異常;または睡眠障害などの、定義できる医学的原因に起因し得る。非癲癇性の発作は、例えばヒステリー、精神分裂症などの精神医学症状によっても引き起こされ得る。
【0043】
痙攣または発作は、例えば、癲癇、後天性免疫不全症候群(エイズ)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病を含む他の神経変性疾患、精神分裂症、強迫性障害、耳鳴り、神経痛、三叉神経痛、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、チック(例えばジル・ド・ラ・チユーレット症候群)、外傷後癲癇、アルコールの使用、アルコールの離脱、バルビツール酸塩の中毒または離脱、脳の病気または傷害、脳腫瘍、窒息、薬物乱用、電気ショック、発熱(特に幼い子供の)、頭部傷害、心臓病、熱病、高血圧、髄膜炎、中毒、卒中、妊娠中毒症、腎臓の機能不全に関連する尿毒症、有毒な噛傷および刺傷、ベンゾジアゼピンの離脱、熱性痙攣、および無熱性の乳児痙攣のような障害または特定の症状から起こり得る。
【0044】
痙攣または発作を処置または予防するための有効成分(例えば、S−トフィソパムまたはその塩)またはS−トフィソパムのプロドッグ、および所望により他の抗癲癇剤の、予防的または治療的用量の大きさは、患者の苦痛の重篤度と投与経路によって変化する。用量および投与頻度も、個々の患者の年齢、体重および反応に従って変化する。一般に、本明細書に記載の症状のための推奨される日用量範囲は、1日当り約10mgないし約1200mgの範囲の内にあり、一般的には1日に1ないし4回与えられる用量に等分される。日用量範囲は1日当り50mgと600mgとの間であり得、通常1日1ないし4回の投与に等分される。あるいは、日用量範囲は1日当り100mgと400mgとの間であり得、通常1日1ないし4回の投与に等分される。これらの範囲外の用量を使用することが必要な場合もあり得、単独または他の抗痙攣薬と組合せて投与されるS−トフィソパム、その塩またはプロドラッグの量を調節する。処置する医者は、患者の反応に基づいて、処置を増やしたり、減らしたり、あるいは中断する方法を知っているであろう。「治療的有効量」などの上記の様々な語は、上記の投与量および投与頻度計画に包含される。
【0045】
痙攣または発作の処置または予防における使用のために、一般的に医者は、個々の患者に基づいて、処置の期間と実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムの投与頻度を指示するであろう。しかし、一般的に、実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパム、プロドラッグまたはそれらの塩による痙攣または発作の処置または予防を、単一の中断されない期間または分断された期間のどちらでも、必要な限り長い期間にわたって実行できる。例えば、治療は4ないし18週間の期間にわたって実行できる。
【0046】
本発明の方法によると、ミオクローヌス痙攣(すなわち、間代性の活動)を含む痙攣または発作を処置または予防するために、S−トフィソパム、その塩またはプロドラッグを単独で、または1種またはそれ以上の他の抗痙攣薬と組合せて投与することができる。他の抗痙攣薬は、フェニトイン、メフェニトイン、エトトイン、フェノバルビタール、メフォバルビタール、プリミドン、カルバマゼピン、エトスクシミド、メトスクシミド、フェンスクシミド、バルプロ酸、トリメタジオン、パラメタジオン、フェナセミド、アセタゾールアミド、プロガビド、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩およびニトラゼパムから成る群から選択できるが、これらに限定されるものではない。他の抗痙攣薬を、S−トフィソパム、その塩またはプロドラッグを含む組成物のなかに含めることができる。あるいは、S−トフィソパム、その塩またはプロドラッグを含む組成物と同時にか、または該組成物で対象を処置している間のいつでも、他の抗痙攣薬を投与することができる。本発明のある態様によると、痙攣または発作を処置または予防するために、S−トフィソパムは少なくとも1種の他のベンゾジアゼピンと共に投与される。本発明の他の態様では、S−トフィソパムは少なくとも1種の他の1,4−ベンゾジアゼピンと共に投与される。本発明のさらに他の態様では、痙攣または発作を処置または予防するために、S−トフィソパムは、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩またはニトラゼパムと共に投与される。
【0047】
実質的にR−トフィソパムを含まないS−トフィソパムの有効用量を本発明の対象に与えるために、いかなる適する投与経路をも採用し得る。例えば、経口、直腸、非経口、経皮、皮下、舌下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、くも膜下などを、適するものとして採用できる。
【0048】
本明細書を通して、「含む」の語または「含む」もしくは「含んでいる」のような語尾変化は、言及されている要素または要素の群を含むことを意味し、他の要素または要素の群を排除することを意味しない。
【0049】
2001年5月8日に出願された米国仮出願番号第60/292,026号の全体を、出典明示により本明細書の一部とする。
【0050】
本発明を以下の実施例により説明する。しかし、これらの実施例は例示説明のみを目的とすることに留意すべきであり、いかなる意味でも本発明を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0051】
実施例1
S−トフィソパムの分離
トフィソパムのエナンチオマーを、キラルクロマトグラフィーにより分離した。例えば、トフィソパム(42.8mgをアセトニトリルに溶解)を、Chirobiotic V カラム(ASTEC, Whippany, NJ)にロードした。MTBE/ACN 90/10(v/v)、40ml/分での化合物の溶出を、310nm、2mmのパスでモニターした。R(+)エナンチオマーがカラムから溶出した最初の化合物であった。R(−)トフィソパム(「A」)、S(−/+)トフィソパム(「B」および「B'」)、残りのR(+)トフィソパム(「A」)は、共溶出し、次の分画に集めた。
【0052】
S(−)エナンチオマーを、次のプロトコールにより分画2から単離した。分画2を乾燥させ、1mlのアセトニトリルに再溶解し、Chirobiotic V カラムにロードした。ピークBおよびB'を取り出して、Chirobiotic V カラムにもう2回再使用した(MTBE/ACN 90/10(v/v)、40ml/分を、310nm、2mmのパスでモニター)。S(−)トフィソパムを含有するピークを、3回目の再使用から集め、乾燥させ、生物学的アッセイのために保存した。
【0053】
R−およびS−トフィソパムの最終調製物を、2つの異なるグループによりエナンチオマー的な純度についてアッセイした。1つのグループは、R−トフィソパムの最終調製物は98%純粋(すなわち、96%のエナンチオマー過剰率)であり、S−トフィソパムのそれは95%純粋(すなわち、90%のエナンチオマー過剰率)であると報告した。第2のグループは、分析クロマトグラフィーで測定して、R−トフィソパムは97.5%以上純粋(すなわち、>95%のエナンチオマー過剰率)であり、S−トフィソパムは87%純粋(すなわち、74%のエナンチオマー過剰率)であると報告した。第2のグループによって行われた開始物質並びにR−およびS−トフィソパム最終調製物の分析評価は、Chiral Tech OD GH060 カラム(Daicel)(ヘキサン/IPA 90/10、25℃、310nmで検出)を使用して行った。我々は、第2のグループが得たR−およびS−トフィソパムの純度の分析結果は正しかったと考えている。第2のグループは、下記実施例3に記載のように得られたR−およびS−トフィソパムのエナンチオマー的純度を試験したグループでもあった。
【0054】
実施例2
抗痙攣薬としてのトフィソパムとそのエナンチオマーの評価
ピクロトキシンを痙攣薬として使用し、確立された抗痙攣薬であるジアゼパムをコントロールとして使用した。ピクロトキシン誘発の発作に対する抗痙攣薬活性を、臨床上の抗癲癇の潜在能力の証拠、および試験化合物の抗痙攣薬特性をさらに評価する根拠とみなした(Swinyard, E.A. et al., General principles: experimental detection, quantification and evaluation of anticonvulsants. In: Antiepileptic Drugs, D.M. Woodbury et al., eds. Ravan Press, New York (1990) pp. 111-126 の)。
【0055】
体重約20−25gのオスのNSAマウスに、様々な用量(8−10匹の動物/用量)のジアゼパム、トフィソパム、実施例1のR−トフィソパムまたは実施例1のS−トフィソパムを、ピクロトキシン注射の15分前に腹腔注射(i.p.)した。ピクロトキシン(5mg/kg、Sigma Chem. Co., St. Louis, Missouri, USA)を塩水に溶解し、皮下投与して発作を誘発した。さらに、コントロールとして、7匹の動物にピクロトキシンを単独で投与した。全試験薬物を、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。S−およびR−トフィソパムの両者は、DMSOに溶解すると黄色を呈した。
【0056】
ピクロトキシン注射後、30分間の観察の間、マウスをプレキシガラスの檻に入れた。発作の出現を、30分間の観察期間中の、間代または強直活動(ミオクローヌス痙攣を含む)の単一の症状の発現と定義した。薬物の媒体であるDMSOは、使用濃度では発作にいかなる効果も有していなかった。動物を、観察期間の後すぐにCO吸入により安楽死させた。ED50(動物の半数がピクロトキシン誘発の発作に対して保護される、試験化合物の用量)値およびその95%信頼限界を、Litchfield および Wilcoxon の方法(J. Pharmacol. Exp. Ther. 96:99-113 (1949))により算出した。これらの実験の結果を、下記表1にまとめた。
【0057】
NSAマウスにおける、ピクロトキシン誘発の発作へのトフィソパムの効果を、図1に示す。ラセミ体のトフィソパムは、腹腔内経路で投与したとき、マウスにおけるピクロトキシン誘発の発作の用量依存的抑制(パーセント保護として表す)を示した。ED50(95%信頼限界)値は、37.8(28.2−50.8)mg/kgであった。
【0058】
R−トフィソパムは、ピクロトキシン誘発の痙攣を、20または50mg/kgのどちらでも抑制しなかった。一方、(S)エナンチオマーは、40mg/kgで60%保護を超える抗痙攣薬活性を示した(図2参照)。S−トフィソパムのED50(95%信頼限界)の評価は、35(28−43)mg/kgであった。
【0059】
【表1】

【0060】
これらのデータは、ラセミ体およびS−トフィソパムが、NSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作に対して、固有の抗痙攣薬活性を持っていることを示す。対照的に、トフィソパムの(R)エナンチオマーは、抗痙攣薬活性を示さなかった。
【0061】
実施例3
トフィソパムエナンチオマーの調製
トフィソパムのジアステレオマー塩を、以下の手順で調製した。(1)3.0gのラセミ体のトフィソパムを、最初に10mlのクロロホルムに溶解し、その後10mlの蒸留水を溶解したラセミ化合物に加えた(溶液A)。(2)別のコンテナ中で、1.5gのD−またはL−ジベンゾイル−酒石酸(DBTA)を20mlのクロロホルムに溶解した(トフィソパムに対するDBTAのモル比0.56)(溶液B)。溶解が完了するまで、混合物を撹拌し、45℃に加熱した。DB−(L)−TA(負の旋光性を特徴とする)をR−トフィソパムを精製するのに使用し、一方DB−(D)−TA(正の旋光性を特徴とする)をS−トフィソパムを精製するのに使用した。(3)溶液AおよびBを混合し、沈殿が完了するまで撹拌した。該混合物を、次いで5℃に冷却して収量を増やした。固体を濾過し、4mlの冷却クロロホルムで3回洗浄し、乾燥させた。
【0062】
トフィソパムのジアステレオマー塩を分離し、分離したトフィソパムを回収するために、乾燥させた物質を、(4)50mlの0.5MNaOHに懸濁し、次いで10mlのクロロホルムと共に2時間撹拌した。(5)水相を分け取って捨て、クロロホルムの層を蒸発させて乾かした。(6)50mlの5%酢酸で、ゴムのようなペーストが粒子状になるまで固体を粉砕した。(7)生じた固体を濾過し、乾燥させた。(8)濾過物のpHを、固体の水酸化ナトリウム球粒を用い、1時間撹拌することにより、低くとも10まで上げた。固体を次いで濾過し、乾燥させた。96%のエナンチオマー的な純度(すなわち、92%のエナンチオマー過剰率)のS−トフィソパムの産生には、上記手順の終わりに得た固体を再溶解し、工程1−8を繰返す、分離手法の4回の濃縮サイクルが必要であった。
【0063】
R−トフィソパムおよびS−トフィソパムの最終調製物は、分析クロマトグラフィーで測定して、それぞれ95.6%純粋(すなわち、91.2%のエナンチオマー過剰率)および96%純粋(すなわち、92%のエナンチオマー過剰率)であった。
【0064】
実施例4
抗痙攣薬としてのトフィソパムとそのエナンチオマーの評価
ラセミ体のトフィソパムおよびジアゼパムと並び、実施例3のトフィソパムエナンチオマーの調製物を、実施例2に記載のように、ピクロトキシン誘発の痙攣を用いて試験した。これらの実験の結果を、下記表2にまとめた。
【0065】
ラセミ体のトフィソパムは、ED50(95%信頼限界)値51.4(26.8−98.5)mg/kgのマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作の用量依存的抑制を示した(図3参照)。ジアゼパムも、ED50(95%信頼限界)値0.45(0.27−0.77)mg/kgの用量依存的抗痙攣薬活性を示した(図4参照)。
【0066】
マウスにおけるピクロトキシン誘発の発作に対するR−トフィソパムの効果を、図5に示す。R−トフィソパムは、32mg/kgおよび64mg/kgの用量で抗痙攣薬活性を示したが、90mg/kgでさらなる保護の増加は観察されなかった。さらに、128mg/kgのR−トフィソパムでは、マウスにおけるピクロトキシン誘発の発作に対する保護は観察されなかった。どの用量でもピクロトキシン誘発の発作からの少なくとも50%の保護が生じず、また用量反応曲線が逆U字形であるので、ED50値は算出できなかった(図5)。
【0067】
S−トフィソパムは、ED50(95%信頼限界)値15.1(7.6−30.1)mg/kgの用量依存的抗痙攣薬活性を示した(図6参照)。
【0068】
【表2】

【0069】
これらのデータは、ラセミ体およびS−トフィソパムが固有の抗痙攣薬活性を持っていることを示し、従って、実施例2に記載の研究からの結論を支持する。さらに、これらの結果は、高度に純粋なS−トフィソパムは、ラセミ化合物よりも顕著に高い抗痙攣薬活性を示すことを表している。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、S−トフィソパムの用量依存的効果を図解する。
【図2】オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、トフィソパムの用量依存的効果を図解する。
【図3】オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、ラセミ体のトフィソパムの用量依存的抗痙攣薬効果を図解する。
【図4】オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、ジアゼパムの用量依存的抗痙攣薬効果を図解する。
【図5】オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、R−トフィソパムの用量依存的抗痙攣薬効果を図解する。
【図6】オスのNSAマウスにおけるピクロトキシン誘発の発作への、S−トフィソパムの用量依存的抗痙攣薬効果を図解する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療的有効量の実質的にその(R)エナンチオマーを含まないS−トフィソパム(tofisopam)、そのプロドラッグまたは医薬的に許容され得る塩と、医薬的に許容され得る担体を含む組成物。
【請求項2】
S−トフィソパムもしくはプロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、重量でトフィソパムの総重量の85%またはそれ以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
S−トフィソパムもしくはプロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、重量でトフィソパムの総重量の90%またはそれ以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
S−トフィソパムもしくはプロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、重量でトフィソパムの総重量の95%またはそれ以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
S−トフィソパムもしくはプロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、重量でトフィソパムの総重量の99%またはそれ以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
S−トフィソパムの立体配座が、80%(−)および20%(+)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
他の抗痙攣薬をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
他の抗痙攣薬がベンゾジアゼピンである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
他の抗痙攣薬が1,4−ベンゾジアゼピンである、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
他の抗痙攣薬が、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩およびニトラゼパムからなる群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
該組成物が放出制御される医薬組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
痙攣または発作を処置する方法であって、そのための処置を必要としている対象に、治療的有効量の請求項1に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項13】
痙攣または発作が現れるリスクのある対象において、痙攣または発作を予防する方法であって、該対象に請求項1に記載の組成物の治療的有効量を投与することを含む、方法。
【請求項14】
対象がヒトである、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
S−トフィソパムもしくはプロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、重量でトフィソパムの総重量の90%またはそれ以上である、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項16】
S−トフィソパムもしくはプロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、重量でトフィソパムの総重量の95%またはそれ以上である、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項17】
S−トフィソパムもしくはプロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、重量でトフィソパムの総重量の99%またはそれ以上である、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項18】
請求項1に記載の組成物が、他の抗痙攣薬と一緒にか、または逐次的に投与される、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項19】
他の抗痙攣薬がベンゾジアゼピンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
他の抗痙攣薬が1,4−ベンゾジアゼピンである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
他の抗痙攣薬が、ジアゼパム、ロラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸塩およびニトラゼパムからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
組成物が、腹腔内に、皮下に、鼻腔内に、筋肉内に、くも膜下に、舌下に、直腸に、静脈内注入により、経皮的送達により、または錠剤、カプセルもしくは懸濁液として経口的に投与される、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項23】
投与されるS−トフィソパム、プロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、約10mgないし1200mgである、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項24】
投与されるS−トフィソパム、プロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、約50mgないし600mgである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
投与されるS−トフィソパム、プロドラッグ、またはそれらの医薬的に許容され得る塩の量が、約100mgないし400mgである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
該量を、1日当り1ないし4用量で投与する、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項27】
該量を、1日当り1ないし2用量で投与する、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−262096(P2007−262096A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185953(P2007−185953)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【分割の表示】特願2002−139802(P2002−139802)の分割
【原出願日】平成14年5月15日(2002.5.15)
【出願人】(500083684)ベラ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】VELA PHARMACEUTICALS INC.
【Fターム(参考)】