説明

瘻孔治療用材料

【課題】本発明の課題は、瘻孔が閉鎖するまでの間、瘻孔を物理的に閉鎖するとともに、組織を再生させるための足場となり、瘻孔が閉鎖した後にはすみやかに生体内で分解、吸収されてしまう生体吸収性の瘻孔治療用材料を提供することである。
【解決手段】略円錐形状の生体吸収性高分子からなる多孔体と、生体吸収性のひも状材料を複合化することによって生体吸収性の治瘻孔療用材料を作製し、難治性瘻孔治療に利用可能であることを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織に生じた難治性の瘻孔を治療するために用いる生体吸収性多孔性からなる瘻孔治療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
瘻孔とは生体の内外間、あるいは管腔臓器に生じる管状の欠損のことをいう。炎症が原因となって後天的に瘻孔が生じるもの、先天性耳瘻孔などのような先天性奇形によるもの、あるいは口蓋瘻孔のように外傷に起因するものもある。
【0003】
このうち、難治性瘻孔はその管理に難渋する疾患であり、感染により繰り返して炎症を起こしたり、周囲組織を破壊したりするなどの重篤な状態に陥ることもある。瘻孔を良好な治癒過程へ誘導する条件としては、瘻孔内に汚染物質をとどまらせないことが重要な条件となる。このような治療方法としては、瘻孔を物理的に閉鎖する材料を用いることが考えられる。
【0004】
例えば、コラーゲンやフィブリン接着剤などを瘻孔内部に注入する、シーリング剤がある。しかしながら、これらの材料は液体であり、瘻孔内部に注入したシーリング剤が流出しやすく、その結果として治癒率が低くなるという欠点がある。
【0005】
そこで、材料を瘻孔内に内挿することにより、瘻孔を物理的に閉鎖する方法が考えられる。このような材料としては、例えばブタ由来小腸粘膜下組織から構成された、生体吸収性の治療用のプラグが開発されている(特許文献1)。しかし、ブタ由来の生体組織から作製されており人畜共通感染の問題があることから、わが国では臨床に使用されていない。また、合成高分子を用いた治療用プラグも開発されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−534369号公報
【特許文献2】特表2008−534369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、瘻孔が閉鎖するまでの間、瘻孔を物理的に閉鎖するとともに、組織を再生させるための足場となり、瘻孔が閉鎖した後にはすみやかに生体内で分解、吸収されてしまう生体吸収性の瘻孔治療用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの問題を解決すべく、本願発明者らは鋭意研究を行い、略円錐形状の生体吸収性高分子多孔体と、生体吸収性のひも状材料からなる生体吸収性の治瘻孔療用材料を作製し、難治性瘻孔治療に利用可能であることを見いだした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の瘻孔治療用材料は生体吸収性高分子多孔体からなり、治療部位の形状に合わせられる柔軟性を有するものであり、瘻孔への細菌の侵入を防ぐことができ、汚染物質との接触を防ぐこともできる。また、多孔体構造を有することから、材料内部に周囲組織から細胞が侵入しやすく、治療用材料が組織にしっかりと固定されるという効果がある。さらに、多孔体は周囲組織から侵入した細胞の足場となり、瘻孔を閉鎖しやすくさせる効果があり、その結果として治癒期間が短くなるという大変優れた効果を有するものである。
【0010】
本発明に係る治療用材料は生体吸収性であることから、瘻孔が治癒した後には生体内で分解、吸収されるものであるから、生体内に異物が残らず、細菌の感染巣になるおそれもない。
【0011】
また、多孔体とひも状の材料と複合化することによって、治療用材料を瘻孔内部に挿入しやすくすることもでき、取り扱い性に優れた瘻孔治療用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る瘻孔治療用材料の外観を示す
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る瘻孔治療用材料は、生体吸収性多孔体からなるものである。また、生体吸収性瘻孔治療用材料を瘻孔に挿入するためには、開口部より材料を挿入して反対側より引っ張ることにより容易に挿入することが可能になる。そのためには、材料を引っ張るための補助となるひも状の材料が複合化されていることがのぞましい。
【0014】
多孔体を構成する材料は生体吸収性高分子であれば特に限定されないが、天然高分子としてはコラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸などが例示できる。合成高分子としては脂肪族ポリエステルがあげられる。ポリマーを構成する成分としてグリコリド、L−ラクタイド、ε−カプロラクトン、ジオキサノン、トリメチレンカーボネートなどがあり、これらのホモポリマーあるいは、これらの成分のうち少なくとも2種類からなる共重合体がある。このようなポリマーとしては、ポリグリコリド、ポリ−L−ラクタイド、L−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体、グリコリド−ε−カプロラクトン共重合体などが例示できる。
【0015】
このうち、分解性の制御や材料の均質性の面から、合成高分子である脂肪族ポリエステルを用いることが好ましい。早く分解することが必要であればポリグリコリド、あるいはグリコリドを構成成分とする共重合体、例えばグリコリド−ε−カプロラクトン共重合体を選択することができる。ゆっくりと分解することが必要であれば、ポリラクタイド、あるいはラクタイドを構成成分とする共重合体、例えばL−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体を選択することができる。
【0016】
多孔体は柔軟であることが必要であり、このような物性を満足する材料としては、ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体を用いることがより好ましい。L−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体であれば、L−ラクタイドとε−カプロラクトンの共重合比を変化させることによって、分解性や柔軟性を変えることが可能である。本発明の目的のためには、短期間で生体内において分解、吸収されることがのぞましく、このような材料としては共重合比が50:50(モル比)のL−ラクタイドとε−カプロラクトン共重合体であることがより好ましい。
【0017】
多孔体の形態は、編物、織物、不織布などの繊維形状やスポンジ構造など特に限定されるものではないが、スポンジ状であることが好ましい。材料がスポンジ状であると、柔軟性を付与しやすく、また周囲組織からの細胞侵入容易になる。そのために、周囲組織と材料が安定的に固定されるようになり、治療用材料が収縮したり、体外に突出したりすることがない。また、多孔構造を有することによって、周囲組織から入り込んだ細胞の足場となり、瘻孔の閉鎖に有利である。細胞が三次元的に増殖して組織の再生を早くすることができるためである。
【0018】
スポンジ状の多孔体は、原料となる高分子を溶媒に溶解させた溶液を凍結乾燥することによって作製することもできるし、溶液をホモジナイザーなどで泡立てた後に凍結乾燥することによって作製することもできる。
【0019】
スポンジ状の多孔体の孔径は、多孔体の形態を保てるものであれば特に限定されるものではないが、周囲組織からの細胞が侵入しやすい孔径としては1μm〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは細胞が多孔体の内部にまで入り込むことが可能であって、かつ、組織の再生のために三次元的に増殖することができる孔径30〜200μmである。
【0020】
多孔体の形状は、瘻孔内に挿入することができて、留置することができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、多孔体は細長い瘻孔に挿入することから、細長い円柱状などが考えられる。瘻孔に挿入しやすいように一端の直径が他端の直径より小さい、図1に示すような略円錐形状であることが好ましい。このような形状であれば、瘻孔開口部に細い部分の挿入し、多孔体を押し込むことによって瘻孔内部に太い部分が挿入され、瘻孔を閉鎖することが可能になる。
【0021】
本発明の治療用材料は多孔体と、多孔体を瘻孔の内部に引き込みやすくするため にひも状の材料が複合されていてもよい。本発明の多孔体部分は柔軟性を有しており、押し込んで瘻孔に挿入した場合には多孔体が変形してしまうことになる。このような特性があることから、多孔体のひも状の材料を開口部より材料を挿入し、反対側より引っ張ることにより容易に挿入することが可能になる。そのためには、材料を引っ張るための補助となるひも状の材料が複合化されていることがのぞましい。例えば、前述の略円錐形状を有する多孔体の、他端より直径が小さい方の一端にひも状の材料を複合化させることがのぞましい。このような形状であれば、まずひも状の材料を体表側の瘻孔開口部より挿入し、反対側にある体内側の開口部よりひも状の材料を引っ張ることによって、略円錐形状の多孔体を瘻孔内部に引き込むことが容易になる。
【0022】
このようなひも状の材料としては、材料が生体内に残存することを考慮すれば、生体吸収性の材料であることがのぞましい。ひも状の材料はマルチフィラメント、あるいはモノフィラメントの糸を用いることができる。ここで、ひも状の材料は前述のごとく瘻孔に挿入するものであるから、ある程度の硬さを有していることがこのましい。あまり柔軟性が高い材料を用いると、瘻孔に挿入しても反対側にまで押し込むことが困難となり、多孔体を引き込むという目的を達せられないこととなる。このような性質を有する材料としては、生体吸収性のL−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体からなるモノフィラメント糸などが例示できる。
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
(多孔体の作製)
L−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体(モル比50:50)の4重量%ジオキサン溶液を調製した。
一端が直径0.65mm、反対側の端部が直径8mmの円形であり、長さが70mmである略円錐状の型枠を準備した。この型枠の中央にL−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体(モル比75:25)からなるモノフィラメント糸(繊維径0.45mm)を固定し、前記略円錐状の型枠に前記の4重量%L−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体(モル比50:50)溶液を流し込んだ。これを−80℃で凍結した後、−40℃〜40℃で12時間凍結乾燥することによって、中心部にL−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体(モル比75:25)のモノフィラメント糸を有し、周囲がL−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体(モル比50:50)多孔体からなる、略円錐形状の瘻孔治療用材料を得た。
(痔瘻モデル動物の作製)
雑種ブタの肛門管から皮膚へドレーンチューブを貫通させて留置した。4週後ドレーンチューブを抜去し、その後さらに2週間後、瘻孔が作製されたことを造影にて確認した。瘻孔内を十分洗浄した後に瘻孔治療用材料を挿入した。対象群としてドレーンチューブ抜去後、特に処置なく自然経過を観察した群を設定した。瘻孔治療用材料を挿入した2週間後、瘻孔部を周囲組織と一塊に切除し肉眼的、組織学的に観察した。
(評価)
瘻孔治療用材料挿入群の瘻孔は完全に閉鎖し、周囲組織と区別が付かない状態であった。組織学的には多少の炎症細胞が認められるが、正常組織と同等に治癒していた。対象群は、細い瘻孔が残存し、組織学的には肉芽と微小膿瘍が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、瘻孔の閉鎖まで瘻孔に存在し、瘻孔の閉鎖後はすみやかに分解、吸収される生体吸収性医療材料を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端の直径が他端の直径よりも小さい略円錐形状の多孔体と、ひも状材料からなる生体吸収性の瘻孔治療用材料。
【請求項2】
多孔体の孔径が30〜200μmである請求項1に記載の瘻孔治療用材料。
【請求項3】
ひも状材料の繊維径が0.3〜0.6mmであるモノフィラメント糸である請求項1または2に記載の瘻孔治療用材料。
【請求項4】
多孔体とひも状材料がいずれもL−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の瘻孔治療用材料。
【請求項5】
多孔体がモル比50:50であるL−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体からなり、ひも状材料がモル比75:25であるL−ラクタイド−ε−カプロラクトン共重合体からなる請求項4に記載の瘻孔治療用材料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−206095(P2011−206095A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74019(P2010−74019)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人日本外科学会 刊行物名 日本外科学会雑誌 第111巻 臨時増刊号(2) 2010年 第110回日本外科学会定期学術集会抄録集 第249頁 発行年月日 2010年3月5日
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】