説明

癌の新規診断方法

【課題】 正常組織での発現レベルが極めて低く、癌特異的に発現レベルが高い遺伝子を見出し、これを用いた癌の新規診断方法を提供する。
【解決手段】 DKK4(Homo sapiens dickkopf homolog 4 (Xenopus laevis))、NOHMA(Homo sapiens HORMA domain containing protein)、CYP2W1(Homo sapiens cytochrome P450, family 2, subfamily W, polypeptide 1 )およびAPIN(Homo sapiens APin protein)をコードする遺伝子は癌特異的に発現レベルが高いことを見出した。これらの発現レベルを正常レベルと比較することにより、客観的な癌の診断が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の新規診断方法に関するものであり、特に胃癌および大腸癌における特定遺伝子の発現レベルを正常レベルと比較して癌の診断を行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、癌の診断には主として病理形態学的診断が用いられてきた。病理形態学的診断による病変の質的診断、広がりの程度、脈管内侵襲および断端浸潤の有無の判定は、後治療の選択・決定に不可欠である。しかし、良性と悪性の中間的な形態を示す病変はまれではなく、また、形態の変化では悪性度や予後の類推に限界がある。このような病理形態学的診断の弱点を補うために、分子生物学的解析が用いられており、様々な癌の分子マーカーが開発されている。
【0003】
胃癌や大腸癌などの消化管癌のマーカーとして既に実用化されているものに癌胎児性抗原(carcino embryonic antigen、以下「CEA」と略記する。)がある。CEAは血中から検出できる分子として消化管癌をはじめとする腺癌の診断に広く使用されているが、胃癌、大腸癌においては早期の癌を検出するのに不適切であり、さらに喫煙、肝硬変等でも血中から検出され、偽陽性も多いことが問題点として指摘されている(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0004】
CEA以外に臨床現場で利用されているマーカーとしてはCA19−9を挙げることができる。しかしながら、CA19−9もCEAと同様に胃癌、大腸癌においては早期癌の検出率は低い。また、いずれのマーカーも消化管癌に特異性の高いものではない。
【0005】
一方、本発明者らが胃癌および大腸癌において高発現していることを見出した遺伝子は、Homo sapiens dickkopf homolog 4 (Xenopus laevis)をコードする遺伝子(以下「DKK4」と略記する。)、Homo sapiens HORMA domain containing proteinをコードする遺伝子(以下「NOHMA」と略記する。)、Homo sapiens cytochrome P450, family 2, subfamily W, polypeptide 1 をコードする遺伝子(以下「CYP2W1」と略記する。)およびHomo sapiens APin proteinをコードする遺伝子(以下「APIN」と略記する。)の4種類である。
【0006】
DKK4(GenBank Ac No. NM_014420)はWntシグナルを負に制御する遺伝子として1999年にクローニングされた。293T細胞に発現させると、細胞外に分泌されることが明らかとなっている。その他、癌との関連については全く分かっていない(非特許文献3参照)。
【0007】
NOHMA(GenBank Ac No. NM_032132)はHORMAドメインを有するタンパク質であり、1998年に同定された。HORMAドメインはHop1PCR、Rev7p、MAD2に共通する。HORMAドメインを有する分子はクロマチンと直接結合し、DNA修復や細胞周期を制御する分子であることが想定されている。NOHMAについてはHORMAドメインを有する分子であること以外、何も分かっていない(非特許文献4参照)。
【0008】
CYP2W1(GenBank Ac No. NM_017781)は、2002年に15000種類のヒトおよびマウスのcDNA全長が新規に同定された中の1つである。塩基配列から、シトクロムP450遺伝子群の1つと想定されているが、詳細については全くわかっていない(非特許文献5参照)。シトクロムP450は薬物代謝酵素として、多くのファミリーが知られている。
【0009】
APIN(GenBank Ac No. NM_017855)は、calcifying epithelial odontogenic tumorにおけるアミロイド沈着の構成分子として同定された。癌細胞における意義については全く不明である(非特許文献6参照)。
【非特許文献1】Horie Y, Miura K, Matsui K, Yukimasa A, Ohi S, Hamamoto T, Kawasaki H. Marked elevation of plasma carcinoembryonic antigen and stomach carcinoma. Cancer.;77(10):1991-7 (1996).
【非特許文献2】Molnar IG, Vandevoorde JP, Gitnick GL. CEA levels in fluids bathing gastrointestinal tumors. Gastroenterology.;70(4):513-5 (1976).
【非特許文献3】Krupnik VE, Sharp JD, Jiang C, Robison K, Chickering TW, Amaravadi L, Brown DE, Guyot D, Mays G, Leiby K, Chang B, Duong T, Goodearl AD, Gearing DP, Sokol SY, McCarthy SA. Functional and structural diversity of the human Dickkopf gene family. Gene 238(2), 301-13 (1999).
【非特許文献4】Aravind L, Koonin EV. The HORMA domain: a common structural denominator in mitotic checkpoints, chromosome synapsis and DNA repair. Trends Biochem Sci 23(8), 284-6 (1998).
【非特許文献5】Strausberg RL, Feingold EA, Grouse LH, Derge JG, Klausner RD, Collins FS, Wagner L, Shenmen CM, Schuler GD, Altschul SF, Zeeberg B, Buetow KH, Schaefer CF, Bhat NK, Hopkins RF, Jordan H, Moore T, Max SI, Wang J, Hsieh F, Diatchenko L, Marusina K, Farmer AA, Rubin GM, Hong L, Stapleton M, Soares MB, Bonaldo MF, Casavant TL, Scheetz TE, Brownstein MJ, Usdin TB, Toshiyuki S, Carninci P, Prange C, Raha SS, Loquellano NA, Peters GJ, Abramson RD, Mullahy SJ, Bosak SA, McEwan PJ, McKernan KJ, Malek JA, Gunaratne PH, Richards S, Worley KC, Hale S, Garcia AM, Gay LJ, Hulyk SW, Villalon DK, Muzny DM, Sodergren EJ, Lu X, Gibbs RA, Fahey J, Helton E, Ketteman M, Madan A, Rodrigues S, Sanchez A, Whiting M, Madan A, Young AC, Shevchenko Y, Bouffard GG, Blakesley RW, Touchman JW, Green ED, Dickson MC, Rodriguez AC, Grimwood J, Schmutz J, Myers RM, Butterfield YS, Krzywinski MI, Skalska U, Smailus DE, Schnerch A, Schein JE, Jones SJ, Marra MA; Mammalian Gene Collection Program Team. Generation and initial analysis of more than 15,000 full-length human and mouse cDNA sequences. Proc Natl Acad Sci U S A 99(26), 16899-903 (2002).
【非特許文献6】Solomon A, Murphy CL, Weaver K, Weiss DT, Hrncic R, Eulitz M, Donnell RL, Sletten K, Westermark G, Westermark P. Calcifying epithelial odontogenic (Pindborg) tumor-associated amyloid consists of a novel human protein. J Lab Clin Med. 142(5), 348-55 (2003).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、実用化されている腫瘍マーカーは胃癌および大腸癌に特異性が高いものではなく、擬陽性も多いという問題がある。また、早期癌の検出には不適切であることも指摘されている。それゆえ、胃癌および大腸癌の早期検出が可能な特異性の高い腫瘍マーカーの開発が強く望まれている。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、正常組織での発現レベルが極めて低く、胃癌、大腸癌などの消化管癌に特異性が高い腫瘍マーカーを見出し、これを用いた癌の新規診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、手術により得られた胃癌組織において発現している遺伝子をSAGE(Serial analysis of gene expression)法を用いて網羅的に解析し、正常組織における発現レベルと比較することにより、胃癌において特異的に発現レベルが高い遺伝子を同定した。さらに、本発明者らは、これらの遺伝子が大腸癌においても特異的に高レベルで発現していることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る方法は、被検体由来の試料を用いて癌を診断する方法であって、被検体由来の試料において、配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドの少なくとも1つのレベルを測定するポリヌクレオチド測定工程、および上記ポリヌクレオチドのレベルを正常レベルと比較する比較工程
を包含することを特徴としている。上記ポリヌクレオチドは癌組織において高レベルで発現していることが本発明者らにより明らかにされている。それゆえ、被検体由来の試料において上記ポリヌクレオチドのレベルと正常レベルを比較することにより、簡易かつ客観的に当該被検体が癌を有しているか否かを診断することができる。
【0014】
上記ポリヌクレオチド測定工程において、配列番号9ないし16のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを少なくとも1つ使用することが好ましい。これらのポリヌクレオチドは発明者らが実際に上記ポリヌクレオチドレベルを測定するために用いたポリヌクレオチドであり、本発明の方法に使用できることが確認されている。
【0015】
また、本発明に係る方法は、被検体由来の試料を用いて癌を診断する方法であって、被検体由来の試料において、配列番号2、4、6または8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つのレベルを測定するポリペプチド測定工程、および上記ポリペプチドのレベルを正常レベルと比較する比較工程を包含することを特徴としている。遺伝子の発現レベルを当該遺伝子がコードするポリペプチドレベルとして測定し、これを正常レベルと比較すれば、簡易かつ客観的に当該被検体が癌を有しているか否かを診断することができる。
【0016】
上記ポリペプチド測定工程において、配列番号2、4、6または8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つに特異的に結合する抗体を使用することができる。
【0017】
なお、本発明の方法は胃癌または大腸癌の診断に用いることが好ましい。
【0018】
本発明に係る器具は、被検体由来の試料を用いて癌を診断するための器具であって、配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドの少なくとも1つと特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドが支持体上に固定化されていることを特徴としている。上記支持体上に固定化されているポリヌクレオチドは配列番号9ないし16のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの少なくとも1つであることが好ましい。また、本発明に係る器具は配列番号2、4、6および8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つに特異的に結合する抗体が支持体上に固定化されているものであってもよい。
【0019】
上記構成の器具を用いることにより、上記本発明の方法を簡便に実施することができる。
【0020】
本発明に係るキットは、被検体由来の試料を用いて癌を診断するためのキットであって、配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドを備えることを特徴としている。上記ポリヌクレオチドは配列番号9ないし16のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの少なくとも1つであることが好ましい。また、上記ポリヌクレオチドはRT−PCRまたはリアルタイムRT−PCRのプライマーとして用いられることが好ましい。
【0021】
本発明に係るキットは、配列番号2、4、6および8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つに特異的に結合する抗体を備えるものであってもよい。
【0022】
上記構成のキットを用いることにより、上記本発明の方法を簡便に実施することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る方法を使用することにより、癌を客観的な分子学的基準に基づき診断することができるという効果を奏する。例えば、病理形態学的診断が困難な癌について分子学的基準に基づく診断ができ、癌の機序解明に貢献できる。
【0024】
また、従来のマーカーによる診断では擬陽性が多いことが問題となっているが、本発明に係る方法は特異性が高いので、擬陽性が少ないという効果を奏する。さらに、従来のマーカーでは早期癌の検出が困難であったが、本発明に係る方法を用いれば、早期癌を感度よく検出することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
(1)癌を診断する方法
本発明者らは、手術により得られた早期胃癌1例を含む4例の胃癌組織において発現している遺伝子をSAGE(Serial analysis of gene expression)法を用いて網羅的に解析し、正常組織における発現レベルと比較することにより、胃癌特異的遺伝子候補を同定した。さらに、これらの候補遺伝子について、手術により得られた早期胃癌3例を含む9例の胃癌組織(上記4例とは異なるもの)および9例の大腸癌組織における発現レベルを詳細に解析し、正常組織における発現レベルが低く、胃癌および大腸癌において発現レベルが高い4種類の遺伝子を特定した。
【0027】
上記4遺伝子は、DKK4、NOHMA、CYP2W1およびAPINである。既に述べたように、これらの遺伝子はいずれもクローニングされており、cDNA(mRNA)の塩基配列がGenBankに登録されている(DKK4:NM_014420、NOHMA:NM_032132、CYP2W1:NM_017781、APIN:NM_017855)。しかしながら、上記4種類の遺伝子については、過去に癌特異的に発現レベルが高いとの報告はなく、上記4種類の遺伝子が正常組織において発現レベルが低く、かつ癌組織において発現レベルが高いという知見は本発明者らが初めて見出したものである。すなわち、上記4遺伝子は、癌特異的に発現レベルが高い遺伝子であり、当該遺伝子の転写産物および翻訳産物は腫瘍マーカーとして利用可能であることが明らかとなった。
【0028】
配列番号1にはDKK4のcDNAの塩基配列が示されており、配列番号2にはDKK4がコードするタンパク質のアミノ酸配列が示されている。配列番号3にはNOHMAのcDNAの塩基配列示されており、配列番号4にはNOHMAがコードするタンパク質のアミノ酸配列が示されている。配列番号5にはCYP2W1のcDNAの塩基配列が示されており、配列番号6にはCYP2W1がコードするタンパク質のアミノ酸配列が示されている。配列番号7にはAPINのcDNAの塩基配列が示されており、配列番号8にはAPINがコードするタンパク質のアミノ酸配列が示されている。
【0029】
本発明の方法は、被検体由来の試料を用いて、当該試料における上記DKK4、NOHMA、CYP2W1またはAPINの少なくとも1つの発現レベルを測定し、このレベルを正常レベルと比較することにより癌を診断する方法である。
【0030】
被検体は特に限定されるものではなく広く動物一般を含むが、ヒトであることが好ましい。被検体がヒトである場合、癌患者や癌を有する疑いのある患者のみでなく、健常人も被検体となり得る。
【0031】
非検体由来の試料としては、非検体から得られるものであれば特に限定されない。例えば、血液、尿、糞便、喀痰、腹水、腹腔洗浄液、生検組織、外科的に切除された検体などを挙げることができる。
【0032】
遺伝子の発現レベルは、その転写産物(mRNA)量、またはその翻訳産物(タンパク質)量を測定することにより決定することができる。
【0033】
正常レベルとは、正常健康個体(健常人)における同一遺伝子の発現レベルを意味する。正常レベルは、比較する非検体由来の試料と同一の正常細胞、組織、体液を試料として用いて測定されたものであることが好ましい。また、正常レベルは正常健康個体集団の平均レベルを用いることがより好ましい。
【0034】
癌を診断するとは、被検体が癌を有しているか否かの判定を行うことを意味する。
【0035】
また、診断の対象となる癌の種類は特に限定されるものではないが、消化管癌であることが好ましく、胃癌または大腸癌であることが特に好ましい。
【0036】
一実施形態において、本発明の方法は、被検体由来の試料を用いて癌を診断する方法であって、被検体由来の試料において、配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドの少なくとも1つのレベルを測定するポリヌクレオチド測定工程、および上記ポリヌクレオチドのレベルを正常レベルと比較する比較工程を包含するものであればよい。なお、ポリヌクレオチドにはDNAおよびRNAの両方が含まれる。
【0037】
本実施形態では、ポリヌクレオチド測定工程において、上記4遺伝子、すなわちDKK4、NOHMA、CYP2W1またはAPINの少なくとも1つのmRNAレベルを測定すればよい。
【0038】
mRNAレベルを測定する方法としては、特定のmRNAレベルを測定できる方法であれば特に限定されず、公知の方法から適宜選択して用いることができる。例えば、上記4遺伝子のいずれかのmRNAもしくはそのcDNAの塩基配列またはそれらの相補塩基配列の一部からなるポリヌクレオチドであって、上記4遺伝子のいずれかのmRNAまたはcDNAに部位特異的に結合(ハイブリダイズ)するポリヌクレオチドを含むプライマーやプローブを用いた方法が挙げられる。上記プライマーやプローブは、上記4遺伝子のいずれかのmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成するものであれば、mRNAを測定・検出するための様々な修飾がされたものであってよい。
【0039】
上記プライマーおよび/またはプローブとして使用するポリヌクレオチドとしては、例えば配列番号9〜16のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。これらのポリヌクレオチドは、本発明者らが実際にリアルタイムRT−PCRを実施した際に用いたプライマーであり、目的のmRNAを特異的に増幅させるものであることが実証されている。具体的には、配列番号9および配列番号10に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせたプライマーセットを用いることによりDKK4を増幅することができ、配列番号11および配列番号12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせたプライマーセットを用いることによりNOHMAを増幅することができ、配列番号13および配列番号14に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせたプライマーセットを用いることによりCYP2W1を増幅することができ、配列番号15および配列番号16に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせたプライマーセットを用いることによりAPINを増幅することができる。なお、目的のmRNA(cDNA)を特異的に増幅させるプライマーとして利用可能なポリヌクレオチドは当該mRNA(cDNA)を特異的に検出するためのプローブとして使用可能であることは当業者にとって周知である。
【0040】
上述のmRNAまたはcDNAに部位特異的に結合するポリヌクレオチドを含むプライマーやプローブを用いてmRNAを測定する公知の方法としては、例えば、RT−PCR法、リアルタイムRT−PCR法、コンペティティブPCR法、in Situ ハイブリダイゼーション法、in Situ PCR法、DNAアレイ法などを挙げることができる。
【0041】
例えば、上記RT−PCR法は、試料から調製したトータルRNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、このcDNAを鋳型に目的領域をPCRで増幅する方法である。さらに、リアルタイムRT−PCR法は、cDNAを鋳型に目的領域をPCR増幅する際に、リアルタイムモニタリング用試薬を用いて増幅産物の生成過程をリアルタイムでモニタリングし、解析する方法である。リアルタイムモニタリング試薬としては、例えば、SYBR(登録商標:Molecular Probes社)Greenや、TaqMan(登録商標:Applied Biosystems社)プローブ等が挙げられる。
【0042】
例えば、上記DNAアレイ法は、支持体上にDKK4、NOHMA、CYP2W1またはAPINの少なくとも1つのcDNAまたはその部分配列が固定化し、試料から調製したmRNAまたはcDNAとインキュベートする。この際、上記mRNAまたはcDNAを蛍光標識等することにより、支持体上に固定化したDNAと試料から調製したmRNAまたはcDNAとのハイブリダイゼーションを検出し、試料中のmRNAレベルを測定することができる。
【0043】
上記比較工程においては、ポリヌクレオチド測定工程において測定した試料中のmRNAレベルを正常レベルと比較すればよい。正常レベルは、上述のように、比較する非検体由来の試料と同一の正常細胞、組織、体液を試料として用いて、同一の方法で測定されたものであることが好ましい。正常レベルは正常健康個体由来の試料を同時に測定してもよく、背景データとして蓄積されているデータを用いてもよい。被検体由来の試料におけるmRNAレベルが正常レベルより高い場合に、被検体は癌を有していると判定することが可能である。正常レベルより高い場合とは、少なくとも2倍高いレベルであり、好ましくは5倍高いレベルである。
【0044】
他の実施形態において、本発明の方法は、被検体由来の試料を用いて癌を診断する方法であって、被検体由来の試料において、配列番号2、4、6または8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つのレベルを測定するポリペプチド測定工程、および上記ポリペプチドのレベルを正常レベルと比較する比較工程を包含するものであればよい。
【0045】
すなわち、本実施形態では、ポリペプチド測定工程において、DKK4、NOHMA、CYP2W1またはAPINの少なくとも1つがコードするタンパク質レベルを測定すればよい。
【0046】
タンパク質の発現レベルを測定する方法としては、特定のタンパク質レベルを測定できる方法であれば特に限定されず、公知の方法から適宜選択して用いることができる。例えば、上記4遺伝子の少なくとも1つがコードするタンパク質に特異的に結合する抗体を使用する方法を挙げることができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。また、完全な抗体分子でもよく特異的に結合し得る抗体フラグメント(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント等)でもよい。
【0047】
抗体を用いてタンパク質レベルを測定する公知の方法としては、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISA法(固相酵素免疫検定法)、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、免疫組織化学法、抗体アレイ法などを挙げることができる。これらの中でも、より感度がよく、簡便という点から、ELISA法が好ましい。
【0048】
上記比較工程においては、ポリペプチド測定工程において測定した試料中のタンパク質レベルを正常レベルと比較すればよい。正常レベルは、上述のように、比較する非検体由来の試料と同一の正常細胞、組織、体液を試料として用いて、同一の方法で測定されたものであることが好ましい。正常レベルは正常健康個体由来の試料を同時に測定してもよく、背景データとして蓄積されているデータを用いてもよい。被検体由来の試料におけるタンパク質レベルが正常レベルより高い場合に、被検体は癌を有していると判定することが可能である。正常レベルより高い場合とは、少なくとも2倍高いレベルであり、好ましくは5倍高いレベルである。
【0049】
(2)癌を診断するための器具
本発明に係る器具は、被検体由来の試料を用いて癌を診断するための器具であって、配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドの少なくとも1つと特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドが支持体上に固定化されている器具であればよい。より具体的には、DKK4、NOHMA、CYP2W1またはAPINのいずれかのmRNAもしくはそのcDNAの塩基配列またはそれらの相補塩基配列の一部からなるポリヌクレオチドであって、上記4遺伝子のいずれかのmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドが支持体上に固定化されたDNAアレイ(DNAチップ)が挙げられる。
【0050】
上記支持体上に固定化されるポリヌクレオチドは上記4遺伝子のいずれかのmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズするものであれば特に限定されるものではない。例えば、配列番号9〜16のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。これらのポリヌクレオチドは、本発明者らが目的のmRNAを特異的に増幅させるプライマーとして使用したポリヌクレオチドであり、当該mRNAを特異的に検出するためのプローブとして使用可能であることは当業者にとって周知である。なお、上記4遺伝子のいずれかのmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドが支持体上に固定化されているものであれば、これら以外のポリヌクレオチドが同じ支持体上に固定化されているものであってもよい。
【0051】
支持体としては、ポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に限定されるものではなく、どのような形状や材質であってもよい。支持体の材料としては、一般的には、例えば、ガラス、シリコンウエハ等の無機系材料、紙等の天然高分子、ニトロセルロースやナイロン等の合成高分子、合成高分子や天然高分子を用いたゲル体等を挙げることができる。
【0052】
上記本発明に係る器具は、公知のDNAアレイ作製方法を用いて作製することができる。例えば、cDNA(全長配列または部分配列)からなるポリヌクレオチド溶液を調製し、スポッター等により支持体上にスポットして固定化すればcDNAアレイを作製することができる。固定化するポリヌクレオチドはcDNAの塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドでもよい。また、基板上でDNAを合成する、いわゆるアフィメトリクス型のDNAチップ技術を用いることも可能である。
【0053】
遺伝子の発現を検出するために設計された公知の手法は、上記本発明に係る器具に好適に応用することができる。例えば、試料は細胞や組織のトータルRNAやmRNAから調製したcDNAやcRNAを用いることができる。より具体的には、cDNAやcRNAを蛍光標識しておき、支持体上に固定化されたポリヌクレオチドとハイブリダイズさせ、そのハイブリダイゼーションの強度を蛍光を指標に測定することにより遺伝子の発現量を評価することができる。また、2種類の試料から調製したcDNAやcRNAをそれぞれ異なる色を発する蛍光物質で標識し、同一の支持体上のポリヌクレオチドにハイブリダイズさせれば、その色調と蛍光強度を測定することにより、遺伝子発現の差異を評価することができる。
【0054】
また、他の実施形態において、本発明に係る器具は、被検体由来の試料を用いて癌を診断するための器具であって、配列番号2、4、6および8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つに特異的に結合する抗体が支持体上に固定化されている器具であればよい。より具体的には、DKK4、NOHMA、CYP2W1またはAPINの少なくとも1つがコードするタンパク質に特異的に結合する抗体が支持体上に固定化された抗体アレイまたはELISA用プレートが挙げられる。なお、上記4遺伝子の少なくとも1つがコードするタンパク質に特異的に結合する抗体が支持体上に固定化されているものであれば、これら以外の抗体が同じ支持体上に固定化されているものであってもよい。
【0055】
支持体としては、抗体、すなわちタンパク質を固定化できるものであれば特に限定されるものではなく、どのような形状や材質であってもよい。支持体の材料としては、一般的には、例えば、ガラス、シリコンウエハ等の無機系材料、紙等の天然高分子、ニトロセルロース、ナイロン、ポリスチレン等の合成高分子、合成高分子や天然高分子を用いたゲル体等を挙げることができる。
【0056】
抗体を用いてタンパク質(ポリペプチド)を検出するために設計された公知の手法は、上記本発明に係る器具に好適に応用することができる。例えば、サイファージェン・バイオシステムズ社より、プロテインチップの1種類としてバイオロジカルチップが販売されている。これは基板(支持体)の表面にカルボニルジイミダゾールまたはエポキシの活性基を持つもので、ユーザーが自由に目的のタンパク質や抗体を固定化して使用するものである。上記本発明に係る器具の作製にこれを応用することが可能である。
【0057】
(3)キット
本発明に係るキットは、被検体由来の試料を用いて癌を診断するためのキットであって、配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドを備えるものであればよい。配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、DKK4、NOHMA、CYP2W1またはAPINの少なくとも1つのmRNAを測定するために使用するプライマー、プローブを挙げることができる。
【0058】
また、本発明に係るキットは、被検体由来の試料を用いて癌を診断するためのキットであって、配列番号2、4、6および8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つに特異的に結合する抗体を備えるものでもよい。
【0059】
一実施形態として、本キットはRT−PCR用キットまたはリアルタイムRT−PCR用キットを構成することができる。また、ユーザーの選択によりRT−PCRまたはリアルタイムRT−PCRの何れかを選択できるキットとすることもできる。キットにはDKK4を増幅するためのプライマーセット、NOHMAを増幅するためのプライマーセット、CYP2W1を増幅するためのプライマーセット、APINを増幅するためのプライマーセットの少なくともいずれかが備えられていることが好ましい。4種類のプライマーセットがすべて備えられていることが特に好ましい。
【0060】
上記プライマーセット以外のキットの構成品は特に限定されないが、例えば、組織または細胞からRNAを調製するための試薬、逆転写酵素、逆転写反応に用いる緩衝液、耐熱性DNAポリメラーゼ、PCR用試薬、リアルタイムPCR用試薬、PCR用チューブ、PCR用プレートなどを備えていることが好ましい。また、上記プライマーセットに加えて、上記以外のプライマーセットが含まれていてもよい。
【0061】
他の実施形態として、本キットはDNAアレイ用キットを構成することができる。当該キットには上記本発明に係る器具(DNAアレイ)が備えられていることが好ましい。DNAアレイ以外のキットの構成品は特に限定されないが、例えば、組織または細胞からRNAを調製するための試薬、逆転写酵素、逆転写反応に用いる緩衝液、cDNAを蛍光標識するための試薬、ハイブリダイゼーション用試薬などを備えていることが好ましい。
【0062】
さらに他の実施形態として、本キットはELISA用キットを構成することができる。キットには、DKK4コードするタンパク質に特異的に結合する抗体、NOHMAコードするタンパク質に特異的に結合する抗体、CYP2W1コードするタンパク質に特異的に結合する抗体、APINコードするタンパク質に特異的に結合する抗体の少なくとも1つが備えられていることが好ましい。4種類の抗体がすべて備えられていることが特に好ましい。また、上記抗体は、予めELISA用プレートに固定化(固相化)された状態でキットに含まれていることが好ましい。
【0063】
上記ELISA用プレート以外のキットの構成品は特に限定されないが、例えば、標識された二次抗体、発色用試薬、洗浄用緩衝液などを備えていることが好ましい。また、上記抗体に加えて、他のタンパク質に対する抗体が含まれていてもよい。
【0064】
なお本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、核酸の抽出、切断、連結、大腸菌の形質転換、遺伝子の塩基配列決定、等一般の遺伝子組換えに必要な方法は、特に記載のない限り、各操作に使用する市販の試薬、機器装置等に添付されている説明書や、実験書(例えば「Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 3rd Ed(Sambrookら(2001), Cold Spring Harbor Laboratory Press)」)に基本的に従った。
【0066】
(1)SAGE法による胃癌特異的遺伝子候補の同定
広島大学病院で外科的に切除された早期胃癌1例(W226T)、進行胃癌3例(W246T、S219T、P208T)について、SAGE法を用いて遺伝子発現を網羅的に解析した。
【0067】
すなわち、各癌組織から調製したmRNA(5μg)を材料として、ビオチンラベルされたオリゴdTプライマーを用いて逆転写反応を行い、first strandおよびsecond strandを合成した。次に、CATGを認識して切断する制限酵素NlaIIIで切断し、アビジンをコートしたマグネットビーズを用いて3’側のフラグメントを回収した。ライゲースによりリンカーを結合させた後、CATGから3’側に10〜12塩基を認識して切断する制限酵素BsmFIで切断し、アビジンをコートしたマグネットビーズを用いて5’側のフラグメントを回収した。得られたフラグメントをライゲースを用いて2分子結合させ、これを鋳型としてリンカーの塩基配列を有するプライマーを用いてPCRを行い増幅させた。
【0068】
増幅産物をゲルで精製した後、ライゲースによりフラグメントをいくつも直列に結合させた。電気泳動により500bp以上のフラグメントを回収し、pZeroに組み込んで大腸菌DH10Bにトランスフォームした。抗生物質ゼオシンを含むLB培地で大腸菌を培養し、生育したコロニーからプラスミドを抽出して、組み込まれたフラグメントの塩基配列を決定した。塩基配列情報をSAGE2000ソフトウェアを用いて遺伝子発現情報に変換した。
【0069】
上記4例の胃癌組織から得られた合計約1万クローンの解析から約14万タグが得られ、多数の癌関連遺伝子を新規に同定した。
【0070】
胃癌に特異的に発現している遺伝子を同定するため、NCBI(米国国立バイオテクノロジーインフォメーションセンター)のSAGEデータベースである「SAGEmap」で利用可能な12種類の全身正常組織(大脳白質、小脳、視床、腎臓、白血球、結腸、胃、心臓、肝臓、肺、脊髄、腹膜)のSAGEライブラリーと、上記4例の胃癌のSAGEライブラリーとをコンピュータ上で比較した。
【0071】
すなわち、上記12種類の全身正常組織のSAGEライブラリーをSAGEmapからダウンロードし、SAGE2000ソフトウェア上で、12種類の全身正常組織を合わせた遺伝子発現情報と、上記4例の各胃癌の遺伝子発現情報とを順次比較した。この作業により、胃癌のみで発現しており、かつ、胃癌で3回以上発現しているタグを選択した。その結果、W226Tから24種類、W246Tから15種類、S219Tから27種類、P208Tから13種類、合計54種類(25種類は重複)のタグが選択され、これらを胃癌特異的遺伝子の候補として同定した。
【0072】
(2)リアルタイムRT−PCR法による発現量の測定
上記54種類の候補遺伝子について、胃癌特異的遺伝子であるか否かをリアルタイムRT−PCR法を用いて詳細に検討した。
【0073】
試料として、広島大学病院で外科的に切除された早期胃癌3例を含む9例の原発性胃癌を用いた。正常組織としては、クロンテックより購入した14種類の正常組織Total RNA(肝臓(カタログ番号636531)、腎臓(カタログ番号636529)、心臓(カタログ番号636532)、結腸(カタログ番号636553)、大脳(カタログ番号636530)、骨髄(カタログ番号636548)、骨格筋(カタログ番号636534)、肺(カタログ番号636524)、小腸(カタログ番号636539)、脾臓(カタログ番号636525)、脊髄(カタログ番号636554)、胃(カタログ番号636578)、膵臓(カタログ番号636577)、白血球(カタログ番号636580))を用いた。
【0074】
上記9例の各胃癌組織から抽出したTotal RNAおよび上記購入した各正常組織のTotal RNAから定法にしたがってcDNAを合成した。また、胃癌特異的遺伝子の候補遺伝子54種類について、個々の遺伝子の特異的プライマーを設計した。上記cDNAを鋳型とし、上記特異的プライマーを用いてリアルタイムRT−PCR行った。リアルタイムRT−PCRは、アプライドバイオシステムズ社製のABI PRISM 7700 Sequence Detection System上で、SYBR Green PCR Core Reagents Kitを用いて行った。
【0075】
反応液の組成は、10×SYBR(R) Green PCR Buffer:5μL、25mM MgCl2 Solution:6μL、12.5mM dNTP Mix:4μL、5U/μL Ampli Taq GoldTM:0.25μL、1U/μL AmpErase(R):0.5μL、Forward primer:0.5μL、Reverse primer:0.5μL、Sample(各組織由来のcDNA):1μLおよび滅菌蒸留水:32.25μLとした。なお、primer、Sampleおよび滅菌蒸留水以外はすべて上記SYBR Green PCR Core Reagents Kitに付属のものである。反応条件は、50℃/2分、95℃/10分に引き続き、95℃/15秒および60℃/1分の反応を40サイクル行った。
【0076】
リアルタイムRT−PCRの結果、14種類の正常組織で最も発現の高かった組織の遺伝子発現量と、9例の胃癌組織で最も発現が高かった症例の遺伝子発現量の比率を、候補遺伝子54種類について計算し、比率が10以上である遺伝子を胃癌特異的遺伝子とした。これらの条件を満たす遺伝子のうち、癌特異性に関する文献がない遺伝子という条件を加え、DKK4、NOHMA、CYP2W1およびAPINの4遺伝子を選択した。
【0077】
ここで、上記リアルタイムRT−PCRに使用したプライマーは以下のとおりである。
(1)DKK4増幅用プライマーセット
Forward 5' CGCGATGAGAAGCCGTTC 3' (配列番号9)
Reverse 5' GCATCTCGCTGGCACCTC 3' (配列番号10)
(2)NOHMA増幅用プライマーセット
Forward 5' AAATCCTGAGGGACAAAGATGTAGA 3' (配列番号11)
Reverse 5' TTTTTCCTGTTCTTCCATTTTAGTTTC 3' (配列番号12)
(3)CYP2W1増幅用プライマーセット
Forward 5' AAATGGAAACACTGACCCGG 3' (配列番号13)
Reverse 5' GTGATTCGCCTGCCTCGGCC 3' (配列番号14)
(4)APIN増幅用プライマーセット
Forward 5' TGCAGGAGTTTTCATGCCC 3' (配列番号15)
Reverse 5' TTGGTCTACAGCAGAAGTGAAAACA 3' (配列番号16)
上記DKK4、NOHMA、CYP2W1およびAPINの4遺伝子について、大腸癌における発現量をリアルタイムRT−PCR法で測定した。試料として広島大学病院で外科的に切除された大腸癌9例を用いた以外は、上記胃癌における手順と同一の手順でリアルタイムRT−PCRを行った。
【0078】
リアルタイムRT−PCRにより測定した遺伝子発現量を図1〜図4に示した。図1はDKK4、図2はNOHMA、図3はCYP2W1、図4はAPINの正常組織、胃癌組織および大腸癌組織における発現量を示している。発現量は正常胃における発現量を1として相対的発現量を計算して表した。
【0079】
図1〜図4から明らかなように、DKK4、NOHMA、CYP2W1およびAPINの4遺伝子については、正常組織で最も発現が高かったものの発現量と比較して、胃癌組織で最も発現量が高かった症例の発現量は10倍以上であった。また、正常組織で最も発現が高かったものの発現量と比較して、大腸癌組織で最も発現量が高かった症例の発現量も10倍以上であり、大腸癌特異的な遺伝子であることも確認された。
【0080】
一方、正常組織で最も発現が高かったものの発現量と比較して、胃癌組織で最も発現量が高かった症例の発現量が10倍以上でなかったため、胃癌特異的遺伝子から除外した代表的な4遺伝子のリアルタイムRT−PCR結果を図5〜図8に示した。図5はIFRD1、図6はIL16、図7はKIF4A、図8はLMO6の正常組織および胃癌組織における発現量を示している。
【0081】
図5〜図8から明らかなように、これらの遺伝子についてはそれぞれ特定の正常組織において発現量が高く、胃癌特異的遺伝子から除外した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は癌の診断に用いるものであり、臨床検査薬産業、試薬産業、医療機器産業等において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】正常組織、胃癌および大腸癌におけるDKK4の発現レベルをリアルタイムRT−PCR法により測定した結果を示すグラフである。
【図2】正常組織、胃癌および大腸癌におけるNOHMAの発現レベルをリアルタイムRT−PCR法により測定した結果を示すグラフである。
【図3】正常組織、胃癌および大腸癌におけるCYP2W1の発現レベルをリアルタイムRT−PCR法により測定した結果を示すグラフである。
【図4】正常組織、胃癌および大腸癌におけるAPINの発現レベルをリアルタイムRT−PCR法により測定した結果を示すグラフである。
【図5】正常組織および胃癌におけるIFRD1の発現レベルをリアルタイムRT−PCR法により測定した結果を示すグラフである。
【図6】正常組織および胃癌におけるIL16の発現レベルをリアルタイムRT−PCR法により測定した結果を示すグラフである。
【図7】正常組織および胃癌におけるKIF4Aの発現レベルをリアルタイムRT−PCR法により測定した結果を示すグラフである。
【図8】正常組織および胃癌におけるLMO6の発現レベルをリアルタイムRT−PCR法により測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体由来の試料を用いて癌を診断する方法であって、
被検体由来の試料において、配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドの少なくとも1つのレベルを測定するポリヌクレオチド測定工程、および
上記ポリヌクレオチドのレベルを正常レベルと比較する比較工程
を包含することを特徴とする方法。
【請求項2】
上記ポリヌクレオチド測定工程において、配列番号9ないし16のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを少なくとも1つ使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被検体由来の試料を用いて癌を診断する方法であって、
被検体由来の試料において、配列番号2、4、6または8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つのレベルを測定するポリペプチド測定工程、および
上記ポリペプチドのレベルを正常レベルと比較する比較工程
を包含することを特徴とする方法。
【請求項4】
上記ポリペプチド測定工程において、配列番号2、4、6または8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つに特異的に結合する抗体を使用することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記癌が胃癌または大腸癌であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
被検体由来の試料を用いて癌を診断するための器具であって、
配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドの少なくとも1つと特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドが支持体上に固定化されていることを特徴とする器具。
【請求項7】
支持体上に固定化されているポリヌクレオチドが、配列番号9ないし16のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載の器具。
【請求項8】
被検体由来の試料を用いて癌を診断するための器具であって、
配列番号2、4、6および8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つに特異的に結合する抗体が支持体上に固定化されていることを特徴とする器具。
【請求項9】
被検体由来の試料を用いて癌を診断するためのキットであって、
配列番号1、3、5または7に示される塩基配列またはその部分配列を含むポリヌクレオチドを備えることを特徴とするキット。
【請求項10】
上記ポリヌクレオチドが、配列番号9ないし16のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの少なくとも1つであることを特徴とする請求項9に記載のキット。
【請求項11】
上記ポリヌクレオチドがRT−PCRまたはリアルタイムRT−PCRのプライマーとして用いられることを特徴とする請求項9または10に記載のキット。
【請求項12】
被検体由来の試料を用いて癌を診断するためのキットであって、
配列番号2、4、6および8に示されるアミノ酸配列またはその部分配列からなるポリペプチドの少なくとも1つに特異的に結合する抗体を備えることを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−166789(P2006−166789A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363681(P2004−363681)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年7月10日 第1回日本病理学会カンファレンス事務局発行の「第1回 日本病理学会カンファレンス抄録集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月25日 日本癌学会発行の「第63回 日本癌学会学術総会記事」に発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】