癌の治療のためのTRAIL変異体
本発明は、哺乳動物における種々の癌を治療するための変異型TRAILタンパク質の使用に関する。本発明は、癌と診断された哺乳動物を治療するための、死受容体5に対して優れた選択性を有する変異型TRAILタンパク質を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物における種々の癌を治療するための変異型TRAILタンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインは、主として白血球から分泌される増殖因子のファミリーであり、広範な細胞機能(特に免疫応答及び細胞増殖)を制御することができる強力な調節因子として作用するメッセンジャータンパク質である1。これらの役割には、免疫応答の調節2、炎症3、創傷治癒4、胚形成及び発生、並びにアポトーシス5が含まれる。
【0003】
特に興味深いのは、腫瘍壊死因子リガンド(TNF)ファミリーに属するリガンドである。これらのタンパク質は細胞増殖からアポトーシスに及ぶ広範な生物活性に関与している。TNFファミリーのメンバーの一例はTRAIL(腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド)である。
【0004】
TRAILは、細胞上の数種の異なる受容体と相互作用することができる。そのうちの2つ、すなわちDR4(TRAIL-R1)及びDR5(TRAIL-R2)は、細胞内でアポトーシスを誘導することができるのに対し、他のDcR1(TRAIL-R3)及びDcR2(TRAIL-R4)はそれぞれ死ドメインを含まないか又は切断型死ドメインを含み、アポトーシスを誘導することができない。
【0005】
TRAILは、その可溶性形態で、in vitro及びin vivoにて腫瘍細胞においてアポトーシスを選択的に誘導する。他のアポトーシス誘導TNFファミリーメンバーとは異なり、TRAILは、正常な健康組織に対して不活性であるように思われるため、潜在的癌治療薬として高い関心を集めている6。そのため、TRAILは腫瘍細胞に対する安全で強力な治療薬となる可能性がある。複数のin vitro研究により、異なる起源の多くの腫瘍細胞系は、TRAILが誘導するアポトーシスに対して感受性が高いことが分かっている。
【0006】
最近の重要な刊行物により、DcR1(TRAIL-R3)は、遺伝毒性薬であるドキソルビシンの使用により、乳房腫瘍細胞においてp53によりアップレギュレートされることが示された7。これは、野生型TRAIL(wtTRAIL)がデコイ受容体(アポトーシスを起こさない)とも結合するために、抗腫瘍療法においてその効果が弱まる可能性があることを意味している。そのため、選択性/特異性が改変されたTRAILの変異体は、理論上は、癌治療における最大限に改善された用途を有する可能性がある。
【0007】
この点において、新規分子の選択性は、種々の受容体の活性化の特定の役割、それゆえ複数の受容体と結合するリガンドの機能的効果、及びシグナル活性化に関係する関連疾患の病因への付随影響を理解するのに最も重要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様において、癌と診断された哺乳動物を治療するための、死受容体5に対して優れた選択性を有する変異型TRAILタンパク質を提供する。
【0009】
TRAIL(TNFSF10、TL2;APO2L;CD253;Apo-2Lとしても知られる)は、TNFリガンドファミリーのメンバーであり8 9、末端切断型細胞内ドメインを欠く又は有するデコイ受容体などの2以上の受容体と結合するサイトカインの例である。TRAILは、TNF受容体ファミリーの5つの関連する受容体とも;死受容体4(DR4、TRAIL-R1)、死受容体5(DR5、TRAIL-R2、KILLLER、TRICK-2)とも、デコイ受容体1、(DcR1、TRAIL-R3、TRIDD)、デコイ受容体2(DcR2、TRAIL-R4、TRUNDD)とも、可溶性分泌受容体であるオステオプロテジェリン(OPG)とも結合するため、無差別(promiscuous)のリガンドである。DR4(TRAIL-R1)及びDR5(TRAIL-R2)だけが機能的死ドメイン(DD)を含み、DcR1、DcR2又はOPGは機能的死ドメイン(DD)を含まないことから、これらの受容体とTRAILが結合するだけで、細胞外因性又は死受容体媒介のアポトーシス経路の活性化を介して、アポトーシスが誘導される。また、TRAILは、そのような受容体を通じてだけでなくDcR2を通じて、生存促進NF-κB経路も誘導することができるように思われる。ある特定の細胞において優勢な経路(アポトーシス又は生存)を決定する因子については、ほとんど解明されていない。
【0010】
死受容体DR4及びDR5の両方の異なる架橋要件を考えると、DR5(TRAIL-R2)シグナル伝達の選択的誘導因子の提供は、非常に重要である可能性がある。例えば、架橋に応じて、シグナル伝達経路は増殖経路又はアポトーシス経路を誘導しうる。さらに、TRAILとデコイ受容体との結合は、TRAILがアポトーシスを誘導する効率に対して抑制的作用を有する可能性があることが報告されている。そのため、本発明者は、DR5受容体選択的TRAIL変異体の使用によって、デコイ受容体が媒介するアンタゴニスト作用から回避することにより良好な腫瘍特異的療法が可能となり、wtTRAILと比較して副作用がおそらく少なく効力が高くなると考えている。
【0011】
さらに、受容体DR5及び/又はDR4は、DNA損傷性の化学療法剤、例えばボルテゾミブ、5-フルオロウラシル若しくはアスピリン、又は放射線による処置の後にアップレギュレートされると考えられる。そのような細胞では、TRAILが誘導するアポトーシスに対する応答は、有意に上昇している。文献では、このシグナル伝達経路が主にDR5によって媒介されていると示唆されている。デコイ受容体はまた上記のような処置によって誘導されることもあり、このことは、DR5の選択的ターゲティングがより有効な腫瘍細胞の死滅を達成しうることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】DR5選択的変異体D269H/E195Rは、A2780細胞において、rhTRAIL単独及びシスプラチンとの併用と比較して、細胞傷害性の増強を示す。
【図1−2】図1−1の続き。
【図2−1】DR5選択的変異体D269H/E195Rは、A2780細胞においてシスプラチンとの併用で、全くDR5依存的にアポトーシス増強を示す。
【図2−2】図2−1の続き。
【図2−3】図2−1の続き。
【図3】腫瘍担持マウスにおける125I-TRAILの生体分布を示す図である。
【図4】15分時点での腫瘍におけるカスパーゼ-3活性の評価を示す図である。
【図5】360分時点での腫瘍におけるカスパーゼ-3活性の評価を示す図である。
【図6−1】rhTRAIL及びD269H/E195R単剤療法並びにシスプラチンとの併用療法のin vivo効力を示す図である。
【図6−2】図6−1の続き。
【図6−3】図6−1の続き。
【図7】Colo205及びML-1細胞におけるTRAIL受容体の細胞表面発現を示す図である。
【図8】TRAIL及びDR5選択的変異体の生物活性を示す図である。
【図9】DR5ノックダウンは、A2780細胞においてシスプラチンと併用したTRAILのアポトーシスを低減する。
【図10】DR5選択的変異体は、wtTRAILよりDR5感受性腫瘍細胞死滅において効率的である。
【図11】A2780細胞の表面上の4つのTRAIL受容体の発現を示す図である。
【図12】DR5選択的変異体は、DcR1及びDcR2の両方に対して低い結合を示す。
【図13】DR5選択的変異体は、wtTRAILより、A2780腫瘍細胞死滅において効率的である。
【図14】デコイ受容体によるwtTRAIL及びDR5変異体が誘導するアポトーシスの阻害を示す図である。
【図15】DR5変異体は、非形質転換細胞に対して毒性ではない。
【図16】D269HE195Rは、細胞死誘導TRAIL受容体及びアポトーシスをwtTRAILよりはるかに速く活性化する。
【図17】アスピリン及び5-フルオロウラシルでの処理後のColo205細胞系における受容体発現を示す図である。
【図18】アスピリンと併用したD269HE195Rは、wtTRAILと比較して、相乗作用の増強をもたらす。
【図19】接種のための2x106個及び5x106個のColo205細胞の比較を示す。
【図20】Colo205腫瘍に対する単剤療法としてのアスピリンを示す。
【図21】Colo205腫瘍に対するTRAILのin vivo作用を示す。
【図22−1】アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかを含む併用療法を用いて、又は用いないで、Colo205細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図22−2】図22−1の続き。
【図23】Colo205腫瘍に対する、wtTRAILの単剤療法及びアスピリンとの併用の影響を示す図である。
【図24】Colo205腫瘍に対する、D269HE195R TRAILの単剤療法及びアスピリンとの併用の影響を示す図である。
【図25】アポトーシスアッセイは、アスピリンと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示し、変異体は、TRAILと比較して高いアポトーシスを示す。
【図26】DR5変異体は、TRAILと比較して高いカスパーゼ活性化を示し、これはアスピリンにより増強することができる。
【図27】アスピリン及び5-フルオロウラシルで処理後のSW948細胞系における受容体発現を示す図である。
【図28】アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、SW948細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図29】アポトーシスアッセイは、アスピリンと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示し、5-フルオロウラシルとの併用はTRAIL処理細胞のみを増強した。
【図30】TRAIL処理細胞は、5-フルオロウラシルと併用すると、カスパーゼ活性の増強を示した。
【図31】アスピリン及び5-フルオロウラシルで処理後のLOVO細胞系における受容体発現を示す図である。
【図32−1】アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、Lovo細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図32−2】図32−1の続き。
【図33】アポトーシスアッセイは、アスピリン及び5-フルオロウラシルと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示した。
【図34】アスピリン及び5-フルオロウラシルでプレインキュベートしたDR5変異体処理細胞において、より早期かつより高いカスパーゼ活性が見られる。
【図35】5-フルオロウラシルとの併用療法を用いた及び用いないHCT15、HT29及びRKO細胞の生存率に対する、TRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図36】wtTRAIL(グレー)及びDR5(黒色)の細胞外部分の三量体−三量体複合体の正面(左側)及び側面(右側)図である。
【図37】固定化受容体へのwtTRAIL及びD269HE195Rの結合のSPR解析を示す図である。
【図38】結腸癌細胞系Colo205におけるwtTRAIL及びD269HE195Rのアポトーシス活性の用量応答曲線を示す図である。
【図39】子宮頸癌細胞系におけるボルテゾミブによる処理後のp53の誘導を示す図である。
【図40−1】ボルテゾミブ及び放射線療法後のCaski細胞系における受容体発現を示す図である。
【図40−2】図40−1の続き。
【図41】ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、Caski細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図42】アポトーシスアッセイは、ボルテゾミブと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示した。
【図43】TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブに対するカスパーゼ活性の増強を示し、DR5変異体の方が早期のカスパーゼ活性化を示す。
【図44−1】ボルテゾミブ及び放射線療法を用いた処理後のSIHA細胞系における受容体発現を示す図である。
【図44−2】図44−1の続き。
【図45】ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、SIHA細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図46】DR5変異体は、ボルテゾミブとのインキュベーション後のSIHA細胞において、TRAILより高いアポトーシスを示す。
【図47】TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブに対するカスパーゼ活性の増強を示し、DR5変異体の方が、早期のカスパーゼ活性化を示す。
【図48】ボルテゾミブによる処理及び放射線療法実施後のHELA細胞系における受容体発現を示す図である。
【図49】ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、HELA細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図50】アポトーシスアッセイは、ボルテゾミブ及び10Gy放射線療法との併用で、TRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示している。
【図51】TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブ及び放射線療法に対するカスパーゼ活性の増強を示す。
【図52】ヒト結腸腺腫細胞は、TRAIL及びD269H/E195Rに対して感受性である。
【図53】17時間にわたるP-Akt阻害は、Colo205結腸癌をTRAIL-DR5(D269H/E195R)に対して選択的に増感する。
【図54】wtTRAIL又はTRAIL-DR5(D269H/E195R)で処理したHeLa異種移植片を示す図である。
【図55】経時的にwtTRAIL及びD269HE195Rにより誘発されるTRAIL受容体複合体形成の数学モデルを示す図である。
【図56】経時的なリガンド誘導性TRAIL受容体複合体形成の数学的シミュレーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、本発明のTRAIL変異体が、胃腸系及び婦人科系の癌の治療に特に有用であることを見い出した。
【0014】
婦人科癌としては、限定されるものではないが、卵巣、子宮頸、子宮及び膣の癌が含まれる。別の婦人科癌は当業者に公知であろう。
【0015】
本発明のTRAIL変異体はまた、ホルモン依存性癌、例えば限定されるものではないが、甲状腺、前立腺及び乳房の癌などの治療に有効である。他のホルモン依存性癌は当業者に公知である。このような癌の増殖は、特定のホルモンにより刺激されるため、TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物による治療とホルモン療法とを組み合わせることも可能である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物を使用して、卵巣癌を治療する。本発明者は、本発明のTRAIL変異体の使用によって、wtTRAILと比較した場合に、in vitro及びin vivoにおいて卵巣癌細胞のアポトーシス増大がもたらされることを見い出した。
【0017】
様々なタイプの卵巣癌が知られている。卵巣悪性腫瘍には、それぞれが固有の組織病理学的外観及び生物学的挙動を有するいくつかのタイプがある。世界保健機関(WHO)は、その細胞型、すなわち上皮、生殖細胞及び間質に基づいて卵巣腫瘍を分類しており、それでは上皮腫瘍が圧倒的に最も一般的なタイプである。本発明者は、原発性卵巣上皮腫瘍が本発明のTRAIL変異体による治療に特に好適であることを見出した。なぜなら、この腫瘍が高レベルのDR5受容体を発現するためである。さらに本発明者は、化学療法及びアスピリンによる治療がそれぞれこれらの細胞におけるDR5受容体の発現をアップレギュレートすることができることを示す。
【0018】
本発明者は、D269HE195R TRAIL変異体が卵巣癌細胞系A2780におけるアポトーシスを少なくとも2倍増大するこを見出した。本発明者はまた、D269HE195R TRAIL変異体及びD269H TRAIL変異体が結腸腺癌細胞系Colo205におけるアポトーシスを2.7〜4.2倍増大することを見出した。さらに、IP異種移植卵巣癌マウスモデルにおける研究によって、変異型TRAILタンパク質(D269HE195R)が、in vivoにおけるアポトーシス誘導についてwtTRAILよりも効果が高いことが明らかとなった。このモデル系では、癌細胞を発光により検出することができ、変異型TRAILタンパク質による処置によって、wtTRAIL(48.8%)と比較してより高い平均シグナル減少(68.3%)が生じたことがわかり、このことは、TRAIL変異体が卵巣腫瘍の体積の低減に非常に効率的であることを証明している。
【0019】
「アポトーシスの増大」及び「アポトーシス誘導の増強」という用語は、本発明のTRAIL変異体が、wtTRAILで処理したサンプル又は他の好適な対照と比較して、アポトーシスを受ける細胞数を増大することを意味し、当業者には明らかであろう。
【0020】
癌の進行は、ステージ決定プロセスによりモニターする。これは、癌がどの程度発達したか、それが拡大しているかどうかを示す。卵巣癌は通常、International Federation of Gynecology and Obstetrics(FIGO)により確立されたシステムに従って分類される。以下の例は卵巣癌に関するFIGOシステムを示すが、種々の癌ステージ分類は他の婦人科悪性腫瘍に関しても非常に類似している。スコアは1〜4であり、各ステージにおいて予後は段階的に悪化する。
【0021】
ステージI−片側又は両側の卵巣に限局した悪性細胞
IA−片側の卵巣に関係;嚢(capsule)は完全;卵巣表面に腫瘍はない;腹水又は腹腔洗浄液に悪性細胞はない
IB−両側の卵巣に関係;嚢(capsule)は完全;卵巣表面に腫瘍はない;洗浄液陰性
IC−腫瘍が次のいずれかを有する卵巣に限局している:嚢が破裂、卵巣表面上の腫瘍、洗浄液陽性
ステージII−骨盤への拡大又は生着
IIA−子宮又は卵管への拡大又は生着:洗浄液陰性
IIB−他の骨盤構造物への拡大又は生着;洗浄液陰性
IIC−骨盤への拡大又は生着と腹腔洗浄液陽性
ステージIII−骨盤の外側への顕微鏡的腹腔生着;又は小腸若しくは網への拡大を有する骨盤への限局
IIIA−骨盤外への顕微鏡的腹腔転移
IIIB−2cm未満のサイズの骨盤外への肉眼的腹腔転移
IIIC−2cmを超える骨盤外への腹腔転移、又はリンパ節転移
ステージIV−遠隔転移
【0022】
転移腫瘍の治療は、初期の発現、治療に対する進行、又は婦人科系に由来する原発腫瘍での初期補助療法後の再発のいずれでも、本発明の一実施形態を構成する。転移腫瘍は、卵巣腫瘍である原発腫瘍に由来するものでありうる。
【0023】
本発明の別の実施形態では、TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物を使用して胃腸系の癌を治療する。これらの癌には、食道、胃、肝臓、胆管系、膵臓、腸及び直腸の癌が含まれる。本発明者は、驚くべきことに、本発明のDR5選択的TRAIL変異体の使用によって、wtTRAILで処理した細胞と比較して結腸癌細胞におけるアポトーシスが高くなることを見い出した。
【0024】
胃腸癌もまた単一の疾患ではなく、細胞型に応じて、例えば限定されるものではないが、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫及び神経内分泌腫瘍に分類されており、大腸の腺癌が最も一般的なタイプである。本発明者は、原発性結腸癌細胞、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)及び家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)が本発明のTRAIL変異体による治療に特に好適であることを見い出した。なぜなら、この腫瘍が高レベルのDR5受容体を発現するためである。本発明の別の実施形態は、家族性大腸癌のリスクのある人の集団における一次予防としてのTRAIL変異体の使用である。
【0025】
上述した婦人科悪性腫瘍と同様に、大腸癌(結腸癌)の進行は、ステージ決定プロセスによりモニターすることができる。大腸癌に関しては、TNM([原発性]腫瘍、[局所リンパ]節、[遠隔]転移)ステージ判定が通常使用されている。
【表1】
【0026】
転移腫瘍の治療は、初期の発現、治療に対する進行、又は胃腸系に由来する原発腫瘍での初期補助療法後の再発のいずれでも、本発明の一実施形態を構成する。好ましい実施形態において、転移腫瘍は、結腸腫瘍である原発腫瘍に由来するものでありうる。
【0027】
本明細書におけるColo205、LoVo、SW948、ML-1、HeLa、Caski、SiHa、A2780及びBJAB細胞系を用いて得られた結果と考察は、試験したD269H、D269HE195R及びD269HT214R TRAIL変異体の生物活性がDR5受容体に対して特異的なものであり、これらのTRAIL変異体が、結腸、卵巣及び子宮頸癌細胞系において高効率にアポトーシスを誘導することを示す。
【0028】
本発明に係るTRAIL変異体は、デコイ受容体であるDcR1(TRAIL-R3)及びDcR2(TRAIL-R4)に対してよりも、死受容体5(TRAIL-R2)に対して優れた選択性を示すことが好ましい。DcR1及びDcR2は、それぞれ死ドメインを含まないか、又は末端切断型死ドメインを含む。TRAILがこれらの受容体と結合してもアポトーシスは誘導されず、それどころか、その結合により、DR4及びDR5から利用可能なTRAILが封鎖されることによって、又はDcR2を介してNF-κB活性化が誘導されることによって、実際にはアポトーシスが阻止されることもある。従って、本発明のTRAIL変異体は、この経路を介して封鎖されないことが好ましい。
【0029】
本発明者は、DR5受容体への結合についてのD269HE195Rの結合速度定数(kon)の増大がwtTRAILのkonと比較した場合に5倍未満改善されたが、Colo205細胞におけるアポトーシス誘導の反応速度が驚くべきことに17倍増加を示したことを示した。総効果の50%に達するためには、wtTRAILは60.8±4.3分のインキュベーションが必要であったのに対し、D269HE195Rが同じ値に達するための時間はわずかに3.6±0.4分であった。本発明者は、wtTRAILによる処理の前のDcR1中和抗体との結腸腺癌細胞系Colo205のインキュベーションによって、アポトーシスが1.51±0.15倍増大するのに対し、D269HE195Rによる処理の前のDcR1中和抗体とのインキュベーションがアポトーシスの増大を示さなかったことを示した(図14D)。本発明者はまた、wtTRAILによる処理の前のDcR2中和抗体とのColo205細胞のインキュベーションによって、アポトーシスが適度に1.22±0.07倍増大するのに対し、D269HE195Rによる処理の前のDcR2中和抗体とのインキュベーションがアポトーシスの増大を示さなかったことを示した(図14D)。DcR1及びDcR2の両方に対する中和抗体の併用によって、TRAILについてはアポトーシスのさらなる及びほぼ相加的な増大(1.68±0.12倍)と適度なアポトーシス速度(1.5±0.1倍)が生じたが、D269HE195Rについてのアポトーシスのレベル及び速度には影響がなかった。デコイ受容体の中和はwtTRAILのアポトーシス誘導能を1.68倍増大したが、この増大のみがD269H/E195Rの3.3〜4.2倍高く、かつ17倍速いアポトーシス促進活性を完全に説明するものではなかった。wtTRAILの半減期はおよそ30分であると認識されているため、効率的に結合する変異体が、これらの組換えタンパク質の短い半減期に付随する問題を解決することが理解されるだろう。
【0030】
D269HE195Rの高くかつ速いアポトーシス促進活性を明らかにするため、細胞表面上のTRAIL及びD269HE195Rの受容体結合を、可能な全結合事象を説明する数学モデルを用いてシミュレートした。シミュレーションデータから、観察される効果が、DR5に対する親和性の増大と、DR4、DcR1及びDcR2に対する親和性の低減との組み合わせと考えることが合理的であろう。これはさらに、ヘテロ三量体複合体の形成をシミュレーションにより研究した場合にも示される。wtTRAILは、特にインキュベーションの最初の30分の間に、非常に多量のヘテロマー受容体複合体形成を誘導した。この受容体プールは、ホモマー複合体への再構成のために、動的に変化し、段階的に消失するように見える。一方、D269HE195Rは、インキュベーションの最初の5分の間にのみ、非常に低量の受容体ヘテロ三量体を生じた。wtTRAILについて報告38されているin vivo半減期が短いことから、D269H及びD269HE195Rの速い受容体結合反応速度及び速いアポトーシス誘導は、治療上顕著な利点をもたらす。
【0031】
本発明者は、治療上完全に効率的かつ効果的であるためには、サイトカイン及び受容体結合混乱(promiscuity)を示す他のタンパク質の治療効力のために、標的受容体に対する結合速度定数及び親和性定数(Kd)の両方を増大させ、かつ標的外受容体(複数であってもよい)に対する親和性定数(Kd)を低減させる(標的外受容体への結合を低減する)ことが重要であることを証明した。
【0032】
例えば、これは、TRAIL(例えば、TNF-α、TNF-β、FASL、RANKL、APRIL、BAFF、Light、TL1A)の他に、複数の受容体に結合するTNFリガンドファミリーのアゴニスト又はアンタゴニスト作用を有する変異体の開発において特に重要であると考えられる。特定の受容体を活性化又は遮断する変異体は、その標的受容体への結合を改善することに加えて、その他の受容体への結合を低減することにより効率的に作製することができる。そのような変異体は、本発明者により示されるように、合理的設計により得ることができ、例えばD269HE195Rの場合にはコンピュータによる設計方法を用いることにより、又は例えば定方向進化法及び/若しくはハイスループットスクリーニング技法を用いることにより得ることができる。
【0033】
本発明の一態様において、特定の標的受容体の活性化(又は遮断)の反応速度を、その受容体結合特異性を変更して高めることによりタンパク質の治療効果を増強する方法を提供する。好ましくは、タンパク質の活性化(又は遮断)の反応速度は、該タンパク質と好ましい標的受容体との結合及び結合速度を増大させることにより高める。より好ましくは、標的受容体の活性化(又は遮断)の反応速度は、1又は複数の標的外受容体(off-target receptor)への該タンパク質の結合を低減することにより増大する。最も好ましくは、タンパク質と好ましい標的受容体との結合及び結合速度の増大を、該タンパク質と1又は複数の標的外受容体との結合の低減とを組み合わせる。好ましくは、改善された反応速度特性を有するタンパク質は、定方向進化又はハイスループットスクリーニングにより作製する。より好ましくは、反応速度特性を改善する方法は、定方向進化とハイスループットスクリーニングの組合せを含む。好ましくは、治療効果の増強方法は合理的設計手法を使用するものであり、いくつかの実施形態では、この手法はコンピュータによるタンパク質設計を含んでもよい。より好ましくは、合理的設計方法を定方向進化及び/又はハイスループットスクリーニング法と組み合わせてもよい。好ましくは、治療効果の増強を示すタンパク質はサイトカインである。より好ましくは、タンパク質は1を超える受容体に結合する無差別の(promiscuous)サイトカインである。より好ましくは、タンパク質はTNFリガンドファミリーのメンバーである。より好ましくは、TNFリガンドは無差別のTNFリガンドであり、例えば限定されるものではないが、TNF-α、TNF-β、FASL、TRAIL、RANKL、APRIL、BAFF、Light又はTL1Aが含まれる。最も好ましくは、タンパク質はTRAILである。
【0034】
本発明の変異型TRAIL分子は、細胞におけるアポトーシスの誘導において大変有用である。「アポトーシスを誘導する」とは、本発明に係る化合物が標的細胞において細胞死を引き起こすように作用するということを意味する。アポトーシスは、in vivoでも、ex vivoでも又はin vitroでも誘導され得る。アポトーシスは癌細胞で誘導されるが、健康な細胞では誘導されないことが好ましい。
【0035】
以前には、デコイ受容体は、TRAILが誘導するアポトーシスから非形質転換細胞を保護する役割を有するだろうと考えられていた。しかしながら、本発明者は、wtTRAIL、D269H及びD269HE195Rによるヒト皮膚線維芽細胞及びヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の処理がそれぞれ細胞生存率の低下をもたらさないことを発見した(図15参照)。好ましくは、本発明のTRAIL変異体は、健常な非形質転換細胞の生存率に影響のないものである。
【0036】
当業者には明らかなように、アポトーシスは複数の異なるアッセイによって測定することができる。例としては、DNAラダーリングアッセイ(例えば、EP0835305;Immunex参照);Hoechst33342によるクロマチン断片化及び凝縮の検出、アネキシンV及びプロピジウムヨージドでの染色により測定される膜透過性と組み合わせたホスファチジルセリン露出の染色及び検出が挙げられる。これらのアッセイに共通することは、活性を測定中のある濃度の化合物と持続的に接触させた際に死にかけている細胞で起こる生化学的又は形態学的変化を測定するということである。細胞死は、前記化合物への暴露に応答して死にかけている細胞の割合の増加として表すことができる(すなわち未処理の対照細胞集団における死にかけている細胞の割合を、前記薬物に暴露した細胞集団におけるその割合から差し引く)。有効濃度は、一般に、IC50値(細胞の50%がアポトーシスを受ける化合物の濃度である)の形で計算される。好ましくは、本発明に係る化合物は、1ng/ml〜1000ng/ml、より好ましくは1ng/ml〜100ng/ml、より好ましくは1ng/ml〜10ng/ml、またより好ましくは44ng/mlの濃度において細胞の50%にアポトーシスを誘導する。
【0037】
好ましくは、本発明において、有用な化合物は、1ng/ml〜1000ng/ml、より好ましくは1ng/ml〜100ng/ml、より好ましくは1ng/ml〜10ng/ml、より好ましくは4ng/mlのIC50値を有する。
【0038】
また、アポトーシスは、カスパーゼの活性化や当業者に公知の他のアッセイによっても測定することができる。
【0039】
「変異型」TRAILタンパク質とは、TRAILタンパク質が、wtTRAILタンパク質(TNFSF10、TL2;APO2L;CD253;Apo-2Lとしても知られる)、Entrez GeneID: 8743;アクセッション番号NM_003810.2;UniProtKB/Swiss-Prot: P50591;UniProtKB/TrEMBL: Q6IBA9と、少なくとも1つのアミノ酸位置で異なっていることを意味する。
【0040】
「選択性」とは、本発明の変異体が、相対語であるデコイ受容体DcR1(TRAIL-R3)及びDcR2(TRAIL-R4)に対する親和性よりも、好ましくはDR4に対しても、DR5に対して実質的に高い親和性を有することを意味する。「実質的により高い親和性」とは、DR5に対するTRAIL変異体の親和性が、DR4、DcR1及びDcR2に対する親和性と比べて、測定可能な程度に高いということである。好ましくは、親和性は、DR4、DcR1及びDcR2の1つ以上に対してよりも、DR5に対して少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、又は1000倍以上である。より好ましくは、親和性は、DR4、DcR1及びDcR2の少なくとも2つ、好ましくはそれら全てに対してよりも、DR5に対して少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、又は1000倍以上である。結合相手に対するタンパク質の結合親和性の測定方法は、当技術分野で周知であり、例えば、競合アッセイ、表面プラズモン共鳴などが挙げられる。
【0041】
また、DR5に対する本発明のTRAIL変異体の結合親和性は、DR5に対するwtTRAIL分子の結合親和性よりも絶対的に高いことが好ましい。さらに、DR4に対する本発明のTRAIL変異体の結合親和性は、DR4に対するwtTRAIL分子の結合親和性よりも低くなければならない。DcR1及びDcR2に対して証明されている結合親和性にも同じことが当てはまることが好ましい。
【0042】
好ましくは、本発明に係るTRAIL変異体は、DR5に対して、以前に記載された10ように表面プラズモン共鳴により測定した(この場合、wtTRAILの親和性の測定値は7.2nMであった)、Kd=1000nM未満、好ましくはKd=100nM未満、より好ましくはKd=10nM未満、より好ましくはKd=5nM未満、より好ましくはKd=1nM未満の結合親和性を示す。
【0043】
好ましくは、本発明に係るTRAIL変異体は、DR4に対して、以前に記載された10ように表面プラズモン共鳴により測定した(この場合、wtTRAILの親和性の測定値は2.5nMであった)、Kd=1nMより高い、好ましくはKd=5nMより高い、好ましくはKd=10nMより高い、好ましくはKd=100nMより高い、より好ましくはKd=1000nMより高い結合親和性を示す。
【0044】
好ましくは、本発明に係るTRAIL変異体は、DcR1に対して、以前に記載された10ように表面プラズモン共鳴により測定した(この場合、wtTRAILの親和性の測定値は約25nMであった)、Kd=10nMより高い、好ましくはKd=25nMより高い、好ましくはKd=50nMより高い、好ましくはKd=100nMより高い、より好ましくはKd=1000nMより高いの結合親和性を示す。
【0045】
好ましくは、本発明に係るTRAIL変異体は、DcR2に対して、以前に記載された10ように表面プラズモン共鳴により測定した(この場合、wtTRAILの親和性の測定値は約8nMであった)、Kd=10nMより高い、好ましくはKd=25nMより高い、好ましくはKd=50nMより高い、好ましくはKd=100nMより高い、より好ましくはKd=1000nMより高い結合親和性を示す。
【0046】
好ましくは、D269HE195RによるDR5受容体活性化は、wtTRAILよりも少なくとも2倍速く、好ましくはwtTRAILよりも少なくとも5倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも10倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも15倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも17倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも20倍速く起こる。
【0047】
好ましくは、D269HE195Rによるアポトーシスの誘導は、wtTRAILよりも少なくとも2倍速く、好ましくはwtTRAILよりも少なくとも5倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも10倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも15倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも17倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも20倍速く起こる。
【0048】
本発明のTRAIL変異体は変異D269Hを含むことが好ましい。本明細書中で示すTRAILタンパク質配列におけるアミノ酸位置及び特異的なTRAIL変異体に関する参照は全て、配列番号1に示されるアミノ酸配列を参照するものとする。この変異体は、DR4に対する結合親和性が非常に低減しており、かつDR5受容体に対する親和性が増大している。この変異体の結合特性のさらなる詳細は、同時係属中の国際特許出願WO05/056596号中に見出すことができる。
【0049】
この変異体はさらに、種々の癌細胞系における高いアポトーシス誘導能を有している。例えば、結腸癌細胞Colo205においてwtTRAILと比較して約4倍効率的にアポトーシスを誘導することが示されている。さらに、本発明者は、この変異体が卵巣癌細胞系におけるアポトーシスの誘導において3〜4倍効率的であることも発見した。また、本発明のD269H TRAIL変異体は変異E195R及び/又はT214Rをさらに含むことが好ましい。これらの変異体は、wtTRAILと比較した場合にDR5に対する優れた選択性と、DR4に対する結合の低減を示す。これらの変異体の結合特性は、WO05/056596号において既に論じられている。
【0050】
本発明の1つの好ましい実施形態では、変異はD269HT214Rである。この変異体は、結腸癌細胞系Colo205において、wtTRAILと比較して、低濃度でアポトーシス速度を1.5倍増大させることが示されている(図8C参照)。さらに、卵巣癌細胞系A2780におけるアポトーシスの誘導効率の2倍改善を示す。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態では、変異はD269HE195Rである。本発明者は、この変異体が卵巣癌細胞系A2780においてアポトーシスを3〜4倍増大することを見い出した。さらに、IP異種移植卵巣癌マウスモデルにおける研究によって、驚くべきことに、この変異型TRAILタンパク質がin vivoでのアポトーシスの誘導にwtTRAILよりも効果があることが明らかとなった。このモデル系では、癌細胞を発光により検出することができ、変異型TRAILタンパク質による処置によって、wtTRAIL(48.8%)と比較してより高い平均シグナル減少(68.3%)が生じ、このことは、TRAIL変異体が卵巣腫瘍の体積の低減に非常に効率的であることを示している。さらに、この変異体は、結腸癌細胞系Colo205におけるアポトーシスのレベルを2.7〜4.2倍増大することができ、また結腸癌細胞系LoVo及びSW948、並びに子宮頸癌細胞系HeLa、Caski及びSiHaにおけるアポトーシスの誘導能を増強した。
【0052】
上記変異は、全長TRAIL配列に導入することができる。しかしながら、好ましくは、上記変異はTRAIL配列の可溶性形態、例えばアミノ酸114〜281を含む又はアミノ酸95〜281を含む形態に導入されるが、当業者ならば他の例も分かるであろう。よって、本発明に係る好ましいTRAIL変異体は、配列番号1に示される全長TRAIL配列の可溶性断片の変異体である。
【0053】
好ましい可溶性断片鋳型は、アミノ酸114〜281(本明細書ではTRAILと呼ぶ)を含み、本明細書に記載する全ての変異体はこの長さのものである。メチオニンが前に付いたTRAILのwtTRAIL配列(114〜281)は、配列番号3に示され、好ましいコード配列は配列番号4に示される。従って、本発明の変異体はこの配列から誘導することができる。
【0054】
しかしながら、当業者には理解されるように、これらの可溶性鋳型内の変異はこの可溶性形態の性質を保持する可能性が非常に高く、前記ポリペプチド配列内のこれらの境界のC末端及び/又はN末端に追加の残基が含まれる場合には生物活性を示す。例えば、前記ポリペプチド断片が正確にフォールディングされて生物活性を示す能力を損なうことなく、野生型TRAIL配列から、又は相同配列からの追加の1個、2個、3個、4個、5個、10個、20個若しくは30個以上のアミノ酸残基を、これらの境界のC末端及び/又はN末端の一方又は両方に含め得る。同様に、生物活性を損なうことなく、C末端又はN末端の一方又は両方において1又は数個のアミノ酸残基(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、10個以上)が欠失したこの鋳型の末端切断型変異体も可能である。
【0055】
本発明は、医薬として使用するためのDR5特異的TRAIL変異体を提供する。本発明はまた、疾患に罹患している又は罹患の危険性がある対象を治療するための方法であって、前記対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む方法も提供する。本発明はまた、対象を治療するための医薬の製造における本発明の医薬組成物の使用も提供する。特に好適な疾患には、癌疾患、例えば白血病、リンパ腫、黒色腫、前立腺癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、頭頸部癌、肝臓癌及び乳癌、肺、卵巣、子宮頸及び結腸の癌、並びに多発性骨髄腫が挙げられる。
【0056】
好ましい実施形態において、癌は、卵巣癌又は結腸癌である。別の実施形態において、癌は、子宮頸癌である。これらは世界で最も一般的な癌であり、癌関連死の主因である。卵巣癌及び結腸癌はいずれも、通常、明確な初期兆候がないために後期ステージにおいてのみ発見される。さらに、治療に対する初期の応答が進行ステージ患者において良好であるが、全体的な生存率は薬剤耐性の発生により低いことが多く観察されている。従って、これらの疾患の治療を改善することが最も重要である。
【0057】
癌と診断された哺乳動物に投与するTRAIL変異体は、治療有効量で、例えばアポトーシスを誘導するのに十分な量で存在する必要がある。所定の患者のための正確な有効量は、患者の大きさ及び健康、疾患の性質及び程度、並びに投与する組成物又は組成物の組み合わせに応じて異なる。有効量は、慣用の実験により決定することができ、臨床医の判断による。本発明の目的のため、有効用量は、一般的には約0.01mg/kg〜約5mg/kg、又は約0.01mg/kg〜約50mg/kg又は約0.05mg/kg〜約10mg/kg、好ましくは約10 mg/kgである。好適な用量を使用して、患者の血清濃度0.1〜1,000ng/ml、好ましくは1ng/ml〜およそ100ng/ml、より好ましくはおよそ10〜100ng/mlを達成する必要がある。TRAIL変異体は、塩及び/又はエステルの形態で投与してもよい。
【0058】
本発明の第1の態様のTRAIL変異体は、融合タンパク質の一部を構成し得る。例えば、分泌若しくはリーダー配列、プロ配列、精製に役立つ配列、又は例えば組換え生産中に、より高いタンパク質安定性を与える配列を含み得る1以上の追加アミノ酸配列を含むことが有利である場合が多い。あるいは又は加えて、成熟TRAIL変異体は、別の化合物(TRAIL変異体の半減期を増加させる化合物(例えば、ポリエチレングリコール)など)と融合させてもよい。
【0059】
これらの融合タンパク質は、TRAIL変異体をコードするポリヌクレオチドを異種タンパク質配列のコード配列にインフレームでクローニングすることにより得ることができる。
【0060】
本明細書において用いる「異種」という用語は、本発明に係るTRAIL変異体以外の任意のポリペプチドを示すように意図されている。N末端又はC末端のいずれかにおける融合タンパク質に含めることができる異種配列の例としては、膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、細胞外タンパク質のドメイン、シグナル配列、輸送配列、及びアフィニティークロマトグラフィーにより精製可能な配列が挙げられる。
【0061】
これらの異種配列の多くは、それらと融合するタンパク質の特異的生物活性を実質的に損なうことなく追加の性質を与えるために融合タンパク質中に一般に含められることから、発現プラスミドとして市販されている11。このような追加の性質の例は、体液中でのより長く持続する半減期、細胞外局在性、あるいはいわゆる「ヒスチジンタグ」を形成するヒスチジンのストレッチ12により又はインフルエンザ血球凝集素タンパク質由来のエピトープである「HA」タグ13により可能になるより簡単な精製手順である。必要に応じて、異種配列は、タンパク質分解切断により、例えばタンパク質と異種配列との間にタンパク質分解切断部位を挿入し、精製した融合タンパク質を適当なプロテアーゼに暴露することにより、除去することができる。これらの特徴は、医薬組成物の調製における融合タンパク質の生産及び使用を容易にすることから、融合タンパク質には特に重要である。例えば、TRAIL変異体は、N末端又はC末端に融合されたヘキサヒスチジンペプチドによって精製し得る。ヘキサヒスチジンペプチドの融合はTRAILを非癌細胞に対する毒性をより高くすることが知られているため、TRAILと融合したヘキサヒスチジンペプチドはタンパク質分解切断により除去することができる。融合タンパク質が免疫グロブリン領域を含む場合、この融合は、直接的であってもよく、あるいは1〜3個のアミノ酸残基長以上(例えば、13個のアミノ酸残基長)であり得る短いリンカーペプチドを介してもよい。前記リンカーは、例えば、配列E-F-M(Glu-Phe-Met)のトリペプチドであってよく、又は本発明の物質の配列と免疫グロブリン配列との間に導入されるGlu-Phe-Gly-Ala-Gly-Leu-Val-Leu-Gly-Gly-Gln-Phe-Metを含む13-アミノ酸リンカー配列であってよい。得られた融合タンパク質は、体液中での滞留時間の延長(すなわち半減期の増加)、特異的活性の増加、発現レベルの増加、又は融合タンパク質の精製の簡便化など性質が改善されている。
【0062】
本発明のTRAIL変異体はまた、マーカータンパク質、例えば蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)及び類似のタンパク質など)と融合させてもよい。このようなタンパク質は診断目的に特に利点がある。
【0063】
一実施形態において、タンパク質はIg分子の定常領域に融合される。Ig分子の例としては、ヒトIgG1のCH2及びCH3ドメインのような重鎖領域が挙げられる。Ig分子の他のアイソフォームも本発明に係る融合タンパク質の作製に好適である(アイソフォームIgG2若しくはIgG4、又は例えばIgM若しくはIgAのような他のIgクラスなど)。融合タンパク質は、単量体又は多量体、ヘテロ−若しくはホモ多量体であってよい。
【0064】
さらに好ましい実施形態において、TRAIL変異体は、アミノ酸残基上で1以上の側鎖として存在する1個以上の官能基と結合する少なくとも1つの部分を含んでもよい。好ましくは、前記部分はポリエチレン(PEG)部分である。PEG付加は、公知の方法、例えば、WO99/55377号に記載されているものなどにより行うことができる。
【0065】
TRAIL変異体の生物学的合成を容易にするために、本発明の一態様は、本発明のTRAIL変異体をコードする核酸分子を提供する。野生型TRAILのコード配列は、アクセッション番号NM_003810に示されている。本発明に係るTRAIL変異体をコードする核酸分子は、変異点に適当なコード配列を補うことによってこの配列から誘導し得る。本発明に係る好ましい核酸分子の例は、配列番号2に示される配列の変異体(全長遺伝子);又はコード配列である配列番号2のヌクレオチド88〜933(846ヌクレオチド長)である。野生型TRAILの好ましいコード配列(アミノ酸114〜281)は、配列番号4に示され(メチオニンが前に付いたTRAIL変異体114〜281)、それゆえ、本発明の変異体は、好ましくはこの配列の変異体によりコードされる。
【0066】
変異を全長又はTRAILコード配列に導入するために、当業者ならば、完璧に、前記配列内の関連位置において必要なコドンを置換することができるであろう。本明細書において記述する全てのアミノ酸の番号は全長TRAILタンパク質配列に関する。異なる宿主生物間のコドンバイアスを明らかにするために、当業者ならばこの件に関して公開されているテキスト又は周知の一般知識を参照し得る。
【0067】
例えば、様々な異なる種におけるコドン使用頻度は、http://www.kazusa.or.jp/codon/に見い出すことができ、特に大腸菌(Escherichia coli)のコドン使用頻度情報については、http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=155864に見い出すことができる。
【0068】
核酸は、DNA若しくはRNA(又はそれらのハイブリッド)、あるいはそれらの類似体(修飾主鎖を含有するもの(例えばホスホロチオエート)又はペプチド核酸(PNA)など)であってよい。核酸は、一本鎖(例えばmRNA)でも二本鎖でもよく、本発明は、(例えばアンチセンス、プライマー結合又はプローブ結合を目的とする)二本鎖核酸の個々の鎖の両方を含む。核酸は線状でも環状でもよい。核酸は標識されていてもよい。核酸は固相支持体に結合されていてもよい。
【0069】
本発明に係る核酸は、当然、多くの方法によって(例えば全体又は一部の化学合成(例えばDNAのホスホルアミダイト合成)により、長い分子のヌクレアーゼ消化により、短い分子の連結により、ゲノム又はcDNAライブラリーから、ポリメラーゼの使用によるなど)調製することができる。
【0070】
よって、本発明はまた、本発明の核酸を含むベクター(例えばプラスミド)(例えば発現ベクター及びクローニングベクター)並びにこのようなベクターで形質転換した(原核生物又は真核生物の)宿主細胞も提供する。
【0071】
本発明はまた、本発明のTRAIL変異体を生産する方法であって、本発明の核酸で形質転換した宿主細胞を、前記変異体の発現を誘導する条件下で培養するステップを含む方法も提供する。
【0072】
本発明における使用に好適な発現系は、当業者に周知であり、多くはSambrook (1989) 14及びFernandez et al. (1998) 15に詳細に記載されている。一般的には、必要な宿主においてポリペプチドを生産するために核酸分子を維持、増殖又は発現させるのに好適ないかなる系又はベクターも使用し得る。適当なヌクレオチド配列は、様々な周知の慣用の技術(例えば、Sambrook14に記載されているものなど)のいずれかによって発現系に挿入し得る。一般的には、コード遺伝子は、プロモーター、リボソーム結合部位(細菌発現の場合)、場合によってはオペレーターなどの制御エレメントの制御下におくことができ、その結果所望のペプチドをコードするDNA配列は、形質転換を受けた宿主細胞においてRNAに転写される。
【0073】
好適な発現系の例としては、例えば、染色体系、エピソーム系及びウイルス由来の系が挙げられ、それらには、例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、酵母エピソーム、挿入エレメント、酵母染色体エレメント、ウイルス(バキュロウイルス、パポーバウイルス(SV40など)、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、偽狂犬病ウイルス及びレトロウイルスなど)、又はそれらの組合せ由来のベクター、例えばコスミド及びファージミドを含む、プラスミド及びバクテリオファージ遺伝子エレメント由来のものが含まれる。プラスミド内に含め発現させることができるDNAよりも大きなDNA断片を送達するために、ヒト人工染色体(HAC)も使用し得る。
【0074】
特に好適な発現系としては、組換えバクテリオファージ、プラスミド又はコスミドDNA発現ベクターで形質転換した微生物(細菌など);酵母発現ベクターで形質転換した酵母;ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)に感染させた昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)で又は細菌発現ベクター(例えば、Ti又はpBR322プラスミド)で形質転換した植物細胞系;あるいは動物細胞系が挙げられる。本発明のペプチドを生産するために無細胞翻訳系も使用することができる。
【0075】
組換えポリペプチドを長期にわたり高収量で生産するためには、安定した発現が好ましい。例えば、対象となるペプチドを安定に発現する細胞系を、同じベクター又は別のベクター上にウイルス複製起点及び/又は内因性発現エレメント及び選択マーカー遺伝子を含み得る発現ベクターを用いて形質転換することができる。ベクターの導入後、選択培地に変更する前に、細胞を富栄養培地で1〜2日間増殖させる。選択マーカーの目的は選択に対する耐性を与えることであり、選択マーカーの存在によって導入した配列の発現に成功した細胞の増殖及び回主が可能になる。安定形質転換細胞の耐性クローンは、その細胞種に適当な組織培養技術を用いて増殖させ得る。
【0076】
発現用の宿主として利用可能な哺乳動物細胞系統は当技術分野で公知であり、それらには、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞系が含まれる。そのような細胞系としては、限定されるものではないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓(COS)細胞、C127細胞、3T3細胞、BHK細胞、HEK 293細胞、Bowes黒色腫細胞及びヒト肝細胞癌(例えばHep G2)細胞及び複数の他の細胞系が挙げられる。
【0077】
バキュロウイルス系では、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のための材料は、とりわけ、Invitrogen, San Diego CAからキットとして市販されている(「MaxBac」キット)。これらの技術は当業者に一般的に公知であり、Summers et al. 16に十分に記載されている。この系での使用に特に好適な宿主細胞としては、昆虫細胞、例えばショウジョウバエ(Drosophila)S2細胞及びスポドプテラ(Spodoptera)Sf9細胞が挙げられる。
【0078】
当技術分野で公知の多くの植物細胞培養物及び全植物遺伝子発現系が存在する。好適な植物細胞遺伝子発現系の例としては、米国特許第5,693,506号;米国特許第5,659,122号;米国特許第5,608,143号及びZenk (1991) 17に記載されているものが挙げられる。特に、プロトプラストを単離し培養して完全な再生植物を得ることが可能な植物は全て利用することができ、それによって移入された遺伝子を含む完全な植物を回収することができる。限定されるものではないが、サトウキビ、サトウダイコン、綿、果実及び他の樹木、マメ類及び野菜の全ての主要な種を含む、ほとんど全ての植物は、培養細胞又は組織から再生させることができる。
【0079】
特に好ましい原核生物発現系の例としては、連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、ストレプトミセス属(Streptomyces)及び枯草菌(Bacillus subtilis)を宿主細胞として使用するものが挙げられる。
【0080】
特に好適な真菌発現系の例としては、酵母(例えば、S.セレビシエ(S. cerevisiae))及びアスペルギウス属の菌(Aspergillus)を宿主細胞として使用するものが挙げられる。
【0081】
本発明の一実施形態において、TRAIL変異体は、患者の体液から癌細胞を除去するために使用することができる。一態様では、TRAIL変異体を使用して、ex vivoで患者の血液と接触させて、それにより血液から癌細胞を除去する。なぜなら、該変異体は非癌細胞よりも高い親和性でDR5特異的TRAIL変異体と結合するためである。続いて、血液を患者に再導入することができる。また、患者から骨髄を吸引し、骨髄とDR5特異的TRAIL変異体とを接触させて、非癌細胞と比べてTRAIL変異体に対して高い親和性を有する癌細胞を骨髄から除去することも可能である。続いて、骨髄を患者に再導入することができる。体液を本発明のTRAIL変異体とex vivoで接触させる場合には、TRAIL変異体を好適なマトリックスに固定することが好ましい。さらなる用途は当業者には明らかであろう。
【0082】
好ましくは、本発明のTRAIL変異体により治療することができる好適な癌としては、原発腫瘍サンプルのフローサイトメトリー又は免疫組織化学(IHC)によって測定した場合にその表面上にDR5受容体を発現する細胞が含まれる。そのような癌細胞は、当業者に公知の種々の手段、例えば限定されるものではないが、受容体特異的抗体を用いた免疫細胞化学、受容体特異的抗体を用いた蛍光活性化セルソーティング(FACS)、受容体特異的抗体を用いたウエスタンブロット分析などにより容易に同定可能である。DR4特異的抗体は、例えばAbcam(ab8414)より入手可能である。DR5抗体も同様に入手可能である(Sigma-Aldrich, D3938)。
【0083】
好ましい実施形態において、細胞表面上のDR5受容体の発現は、DR4受容体の発現よりも高い。タンパク質の発現レベルは、当業者に公知の種々の技法、例えば限定されるものではないが、蛍光標識DR5及び/又はDR4特異的抗体を用いた定量的ウエスタンブロット分析、FACSなどにより評価することができる。「より高い発現(高発現)」及び「アップレギュレーション」とは、タンパク質の発現が、別のタンパク質と比較して、1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、100倍又は1,000倍も)増大することを意味する。従って、「より低い発現」とは、タンパク質の発現が、別のタンパク質と比較して、1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、100倍又は1,000倍も)低減することを意味する。
【0084】
より好ましい実施形態において、DR4受容体は、細胞表面上に検出可能なレベルでは発現しないのに対し、DR5受容体は発現される。「発現なし」とは、受容体が上述した技法及び当業者に公知の他の好適な技法を用いて検出可能ではないことを意味する。別の実施形態において、DR5受容体は、DcR1及び/又はDcR2と同様のレベルで発現される。より好ましい実施形態において、DR5受容体は、DcR1及び/又はDcR2と比べてより高レベルで発現される。よりさらに好ましい実施形態において、癌細胞は、化学療法剤に応答して、より高レベルでデコイ受容体DcR1及びDcR2を発現する。このような細胞は、wtTRAILがデコイ受容体との結合とwtTRAILの封鎖(sequester)のためにこれらの細胞におけるアポトーシス誘導効率の低減を示すため好ましい。従って、本発明のDR5特異的TRAIL変異体は特に有利であろう。
【0085】
1つの好ましい実施形態において、癌細胞は、化学療法剤に応答してDR5受容体の発現をアップレギュレートする。別の好ましい実施形態において、癌細胞は、アスピリンに応答してDR5受容体の発現をアップレギュレートする。本発明者は、受容体DR5及び/又はDR4がDNA損傷性化学療法剤又はアスピリンによる処置の後にアップレギュレートされる可能性があるという意見である。このような細胞では、TRAILが誘導するアポトーシスに対する応答は有意に増大する。文献では、このシグナル伝達経路が主にDR5を介して進行することが示唆されている。
【0086】
本発明のTRAIL変異体は、1種以上の他の化合物、好ましくは抗腫瘍化合物、より好ましくは本発明の変異体が標的とする癌細胞に対して活性を有するもの又はTRAIL変異体に対する腫瘍の反応性を高めるものと同時投与してもよい。よって、本発明の組成物は1種以上の抗腫瘍薬を含んでよく、それらの例は当業者には公知であり、γ線照射並びに化学療法剤、例えばアルキル化剤、代謝拮抗物質、植物アルカロイド及びテルペノイド、ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシン誘導体、タキサン、トポイソメラーゼ阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、モノクローナル抗体、DNA損傷薬、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、ホルモン、プロテアソーム阻害剤などが含まれる。好ましい実施形態において、化学療法剤は、抗血管新生抗体、例えばベバシズマブ、プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブなど)、又はDNA損傷薬(5-フルオロウラシルなど)である。好ましくは、使用する化学療法剤は、DR5(TRAIL-R2)受容体の癌細胞上の表面発現を増加させかつ/又はDR5によるアポトーシス誘導を強化/促進するように作用する。さらなる実施形態において、本発明の組成物はアスピリンを含みうる。
【0087】
抗腫瘍化合物は種々の方法で作用し、併用して使用した場合にはそれぞれが異なる標的部位において腫瘍を破壊する。従って、本発明のTRAIL変異体は、複数の発癌経路を標的化する薬剤、例えば複数のチロシンキナーゼ阻害剤など(限定されるものではないが、ソラフェニブ及びスニチニブなど)、並びに現在開発中の他の類似の薬剤と組み合わせた場合に良好に作用するだろう。前臨床試験では、そのような薬剤と併用した場合にTRAILの増強効果が示されている(データは示さない)。
【0088】
「アポトーシス誘導の強化」とは、化学療法剤が、その化学療法剤に曝露されていないサンプルと比べて、その化学療法剤の存在下でアポトーシスを受ける細胞の数を増加させることを意味する。好ましくは、この増加は1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、10倍、20倍、100倍又は1000倍)である。
【0089】
「アポトーシス誘導の増強」とは、アスピリンが、化学療法剤に曝露されていないサンプルと比べて、アスピリンの存在下でアポトーシスを受ける細胞の数を増加させることを意味する。好ましくは、この増加は1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、10倍、20倍、100倍又は1000倍)である。
【0090】
このような癌細胞は、当業者に公知の種々の手段により同定することができる。例えば、蛍光標識DR5及び/又はDR4抗体を用いて、試験対象の細胞を標識することができる。次に、化学療法剤又はアスピリンへの曝露前後のDR5及びDR4の発現を蛍光活性化セルソーティング(FACS)により評価することができる。本発明のDR5特異的TRAIL変異体による処理のために好ましい癌細胞は、対照と比較して、DR5受容体を1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、100倍又は1,000倍も)アップレギュレートするものである。化学療法剤に応答したDR5受容体のアップレギュレーションを評価する他の手段は当業者に公知である。
【0091】
本発明の好ましい実施形態では、化学療法剤はシスプラチン(シスプラチニウム又はシス-ジアミンジクロロ白金(II)(CDDP)としても知られている)である。本発明者は、シスプラチンへのA2780細胞の曝露によって、その細胞上のDR5及びDcR2受容体の発現が増大したことを示した(図1A)。さらに、本明細書中において、本発明のTRAIL変異体と併用したシスプラチンの投与が、in vitro(図2及び3)とin vivo(図6)における癌細胞でのアポトーシスの増大と、マウス異種移植モデル(図6C)における生存率の上昇をもたらした。従って、本発明のTRAIL変異体を、シスプラチン又は他の白金薬剤、例えばカルボプラチン若しくはオキサリプラチンと共に投与することが好ましい。患者に投与する有効量は、慣用の実験により決定することができ、臨床医の判断による。本発明の目的のため、有効用量は、一般的には血中で約0.1ng/ml〜約1,000ng/ml、又は約1ng/ml〜約100ng/ml、又は約10ng/ml〜約100ng/mlである。
【0092】
本発明者はまた、Colo205細胞の接種により誘導した結腸癌罹患マウスが、wtTRAIL又はD269HE195Rで処置した場合に腫瘍成長低減の増大を示すことを見い出した(図25)。
【0093】
本発明の一実施形態において、TRAIL変異体を用いて、本発明のTRAIL変異体による治療から利益があると思われる癌細胞をスクリーニングすることができる。TRAIL変異体を試験対象の細胞に曝露させる。これらの細胞は、腫瘍に由来する細胞系であってもよいし又は組織生検後に得られるサンプルであってもよい。本発明のTRAIL変異体による治療から利益があると思われる細胞は、TRAIL変異体が結合することができる細胞である。これは、例えば受容体結合アッセイにより評価することができる。あるいは、組換えTRAIL変異体を翻訳後に蛍光標識するか又は蛍光タンパク質(GFPなど)との融合タンパク質として発現させることも想定される。次に、標識TRAIL変異体が結合した細胞は、当業者に公知の種々の手段により容易に同定することができる。例えば、細胞に結合した蛍光TRAIL変異体を蛍光顕微鏡により可視化することができる。また、FACSを利用してTRAILの結合を評価することも可能である。全ての場合において、対照、例えば非標識TRAILを用いて実施した同一実験と、結果を比較する必要がある。好ましい実施形態において、上述した手段により同定することができる細胞系は、化学療法剤又はアスピリンに応答してDR5受容体をアップレギュレートする。そのようなアップレギュレーションは、化学療法剤又はアスピリンへの曝露前後の変異型TRAILタンパク質の結合を比較することにより評価することができる。
【0094】
他の好適な癌は、本発明のTRAIL変異体に応答してアポトーシス速度の増大を示す癌である。特に、当業者には明らかであろう、wtTRAIL又は他の好適な対照と比較した場合に本発明のTRAIL変異体の存在下でアポトーシスの増大を示す原発腫瘍細胞及び細胞系は、本発明の好ましい実施形態である。
【0095】
本発明のさらなる態様は、上記の変異型サイトカイン、核酸又はベクターを、製薬上許容される担体とともに含む医薬組成物を含む。本発明は、(a)上記のTRAIL変異体(複数でもよい)、核酸又はベクターと、(b)医薬担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0096】
成分(a)は前記組成物中の有効成分であり、これは治療上有効な量、例えばアポトーシスを誘導するのに十分な量で存在する。特定の患者についての正確な有効量は、それらの患者のサイズ及び健康状態、疾患の性質及び程度、並びに投与のために選択された組成物又は組成物の組合せに応じて異なる。有効量は、慣用の実験によって決めることができ、臨床医の判断の範囲内である。本発明の目的では、好適な用量は、血清濃度が0.1ng/ml〜1000ng/ml、好ましくは1ng/ml〜およそ100ng/ml、より好ましくはおよそ10〜100ng/mlに達するように用いるべきである。TRAIL変異体は、前記組成物中に塩及び/又はエステル形態で含めてよい。
【0097】
担体(b)は、それ自体は前記組成物を受容する患者に有害な抗体の産生を誘導せず、かつ過度に毒性をもたらすことなく投与することができる任意の物質であり得る。好適な担体は、大型でゆっくりと代謝される高分子、例えばタンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸コポリマー、及び不活性ウイルス粒子であり得る。このような担体は当業者に周知である。製薬上許容される担体には、水、生理食塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体が含まれ得る。このようなビヒクル中には、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝物質などのような補助剤も存在し得る。リポソームは好適な担体である。医薬担体の詳細な考察はGennaro18にある。
【0098】
本発明の医薬組成物は様々な剤形に調製し得る。例えば、前記組成物は、注射可能な剤として(溶液又は懸濁液のいずれかとして)調製し得る。注射の前に液体ビヒクルで溶液又は懸濁液とするのに好適な固体剤形も調製することができる。前記組成物は、凍結乾燥してもよい。
【0099】
医薬組成物は、好ましくは無菌である。医薬組成物は、好ましくは発熱物質不含である。医薬組成物は、好ましくは、例えばpH6〜pH8、一般的にはおよそpH7に緩衝化されている。
【0100】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を含有する送達デバイスも提供する。デバイスは、例えば、シリンジ(注射器)であってよい。
【0101】
本発明のある特定の実施形態において、上記のように、本発明に係る化合物は、別の薬剤、例えば抗腫瘍薬とともに投与されることが好ましい。本発明の医薬組成物と組み合わせて使用するためのこのような薬剤の好適な例は、当技術分野で公知であり、例は以上に挙げている。
【0102】
また、本発明の変異型TRAILを含む医薬組成物は、場合によって、1以上のDR4、DcR1又はDcR1に対する抗体とともに投与することも想定される。このようにして、DR4特異的経路又はTRAIL変異体とデコイ受容体との結合を介してシグナル伝達を遮断することがさらに可能である。DR5以外の受容体に対する残存結合活性が阻害され、本発明の変異型サイトカインの特異性がさらにもっと高まることから、これは有利である。
【0103】
本発明の組成物は、一般的には、対象に直接投与されるであろう。直接送達は、非経口注射により(例えば皮下、腹膜内、静脈内、筋肉内、又は組織の間質腔へ;さらに腫瘍内への直接注射によっても)達成され得る。
【0104】
TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物が腹腔内投与されることが本発明の好ましい実施形態である。IP薬物投与の理論的根拠は、血漿クリアランスが低下すると同時に、局所薬物曝露を増大させることである。本発明者は、この経路によるTRAILの注射によって、静脈内注射と比較して腫瘍取り込みが増大し、効力が増大し、かつクリアランス速度が低減することを見い出した。さらに、IP注射は、静脈内投与と比較して全身毒性の低減をもたらす(表2、図3)。
【0105】
本発明者はまた、125I-TRAILの特異的腫瘍滞留が起こることを示した。これは、他の十分に灌流した臓器における活性が15分で最大であったのに対して、IV投与の60分後における最大腫瘍活性により証明された。IP投与により、腫瘍における活性がより高くなり、累積腫瘍対血液比が高くなり、このことは、組換えヒトTRAIL(本明細書中ではTRAIL)の腹腔内投与によりIV投与と比較して腫瘍薬物曝露がより高くなったことを示している。さらに、低用量TRAILをIP注射した6時間後において、切断型カスパーゼ3が腫瘍の表層において検出され、このことは、自由表面拡散によるTRAILの浸透を示唆している。これは、IP投与後のIP腫瘍浸透に制限のあるモノクローナル抗体と比較して、TRAIL及びTRAIL変異体の可能性ある利点である。TRAIL及びTRAIL変異体がDR4/DR5に対するモノクローナル抗体よりも優れている別の利点は、免疫原性の低減である。さらに、有効なモノクローナル抗体の開発にはより費用が必要であり、それゆえTRAIL及びTRAIL変異体の使用は費用効率が高い。
【0106】
投薬治療は、単回投与スケジュールでも又は複数回投与スケジュールでもよい。本発明の好ましい実施形態において、TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物は、週1回の基準で患者に投与する。理解されているように、投与計画は、臨床医の判断内のものであり、必要が生じた場合又は別の投与計画が患者にとってより有益であるとわかった場合には変更することができる。
【0107】
次に、本発明の様々な態様及び実施形態を、実施例としてさらに詳細に説明する。本発明の範囲を逸脱することなく、細部にわたる改変を行い得ることは理解されよう。
【0108】
図面の簡単な説明
図1:DR5選択的変異体D269H/E195Rは、A2780細胞において、rhTRAIL単独及びシスプラチンとの併用と比較して、細胞傷害性の増強を示す。
【0109】
A.FACS分析により測定された、2.5μMのシスプラチンへの暴露前及び暴露後のA2780におけるTRAIL受容体膜発現のレベル。受容体発現は、蛍光強度(PE)として表す。
【0110】
B.0〜100 ng/mlのTRAIL及びTRAIL-DR5に96時間暴露した後の細胞傷害性アッセイで評価したA2780の生存。* p=0.008
C.細胞傷害性アッセイで測定したA2780の生存。2.5μMのシスプラチンで細胞を4時間プレインキュベートした後、細胞を洗浄し、0〜25 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5に92時間暴露した。* TRAIL対シスプラチンとTRAIL p<0.01、TRAIL-DR5対シスプラチンとTRAIL-DR5 p<0.01、シスプラチンとTRAIL対シスプラチンとTRAIL-DR5 p<0.001。
【0111】
データは、少なくとも3つの独立した実験の平均±SDを表す。
【0112】
図2:DR5選択的変異体D269H/E195Rは、A2780細胞においてシスプラチンとの併用で、全くDR5依存的にアポトーシス増強を示す。
【0113】
A.50 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5単独への暴露後のアポトーシスの誘導、あるいはTRAIL又はTRAIL-DR5投与の20時間前に、2.5μMのシスプラチンと4時間プレインキュベートした後のアポトーシスの誘導。1、3及び5時間の処理後にカスパーゼ-3活性アッセイにより、カスパーゼ活性化を測定した。
【0114】
B.培地、2.5、10、30μMのシスプラチンと一緒に細胞を4時間プレインキュベートした後、洗浄した。20時間後、細胞を100又は250 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5に4時間暴露した後、アクリジンオレンジ染色を用いて、アポトーシスを評価した。
【0115】
C.アクリジンオレンジアポトーシスアッセイ。2.5、10又は30μMのシスプラチンと一緒に細胞を4時間プレインキュベートした後、洗浄した。20時間後、細胞を2.5μg/mlの抗DcR2抗体又は培地に1時間暴露してから、100又は250 ng/mlのTRAILに4時間暴露した。抗DcR2抗体との共インキュベーションでは、アポトーシス誘導に有意な変化は起こらなかった。データは、少なくとも3つの独立した実験の平均±SDを表す。
【0116】
D.ルシフェラーゼに対するsiRNA(Luc siRNA)、又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞におけるDR5膜発現。細胞をシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートした後、洗浄して、培地中で20時間培養した後、DR5膜発現をフローサイトメトリーで測定した。非特異的アイソタイプ対照での染色について、平均蛍光強度(MFI)を補正した。
【0117】
E.ルシフェラーゼに対するsiRNA、又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)、DR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞におけるDR5細胞タンパク質発現。細胞をシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートした後、洗浄して、培地中で20時間培養した後、タンパク質ローディングのための対照としてアクチンを用いて、DR5タンパク質発現をウエスタンブロッティングで測定した。
【0118】
F.ルシフェラーゼに対するsiRNA(Luc siRNA)、又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞を培地又は30μMのシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートした後、洗浄した。20時間後、細胞を100 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5に4時間暴露した後、アクリジンオレンジ染色を用いて、アポトーシスを評価した。データは、3つの独立した実験の平均±SDを表す。
【0119】
表2:A.IV投与した125I-TRAILの生体分布、並びに注射から15分、30分、60分、90分及び360分後にIP A2780異種移植片を担持するマウスにおける腫瘍対血液比。データは、%ID/g±SEMとして表す。IVとIPの間の活性の有意差:(a)p=0.015;(b)p=0.009;(c)p=0.0015;(d)p=0.025;(e)p=0.0028;(f)p=0.035。
【0120】
B.IP投与した125I-TRAILの生体分布、並びに注射から15分、30分、60分、90分及び360分後にIP A2780異種移植片を担持するマウスにおける腫瘍対血液比。データは、%ID/g±SEMとして表す。
【0121】
図3:腫瘍担持マウスにおける125I-TRAILの生体分布を示す図である。
【0122】
A.IP及びIV 125I-TRAILについての血中活性対曲線下面積。血中活性は、125I-TRAILの投与から15分、30分、60分、90分及び360分後に測定した。%ID/gは、各時点で3〜5匹のマウスについて計算し、平均した後、2区画モデルを用いて、薬物反応速度プロフィールをフィッティングした。
【0123】
B.静脈内又は腹腔内投与した125I-TRAILの時間に対する腫瘍対血液比。腫瘍対血液比は、各時点での平均腫瘍活性(%ID/g)を各時点での平均血中活性(%ID/g)で割ることにより計算した。
【0124】
図4:15分時点での腫瘍におけるカスパーゼ-3活性の評価を示す図である。
【0125】
卵巣癌異種移植片組織を125I-TRAILのIP(A)及びIV(B)投与から15分後に切り出し、切断型カスパーゼ-3について染色した。IP投与後のより高い腫瘍取込みが、125I-TRAILの効力増強をもたらしたか否かを決定するために、パラフィン包埋組織を125I-TRAIL注射から15分後に取得して、切断型カスパーゼ-3で染色したところ、この時点で得られたサンプルには切断は見られなかった。
【0126】
図5:360分時点での腫瘍におけるカスパーゼ-3活性の評価を示す図である。
【0127】
卵巣癌異種移植片組織を125I-TRAILのIP(A)及びIV(B)投与から360分後に切り出し、切断型カスパーゼ-3について染色した。IP投与後のより高い腫瘍取込みが、125I-TRAILの効力増強をもたらしたか否かを決定するために、パラフィン包埋組織を125I-TRAIL注射から360分後に取得して、切断型カスパーゼ-3で染色したところ、IP投与の場合には腫瘍表面付近及び小血管付近にカスパーゼ-3切断染色の増加が見られた(図5A)のに対し、IV投与の場合、血管付近で検出可能なカスパーゼ-3活性を誘導したが、腫瘍縁付近では誘導しなかった(図5B)。
【0128】
図6:rhTRAIL及びD269H/E195R単剤療法並びにシスプラチンとの併用療法のin vivo効力を示す図である。
【0129】
生物発光イメージングによる、TRAIL、TRAIL-DR5、シスプラチン及び各リガンドとシスプラチンの併用に対する応答の視覚化。ヌードマウスに2 x 106個のA2780-Luc細胞をIP接種した。5日後、以下のような処置を開始した;5日目及び12日目にシスプラチン(4 mg/kg IP)若しくはビヒクル、5〜10日目及び12〜16日目にTRAIL、TRAIL-DR5(5 mg/kg IP)若しくはビヒクル、又はTRAIL若しくはTRAIL-DR5とシスプラチンの併用。CP=シスプラチン、TR=TRAIL/TRAIL-DR5。
【0130】
A.処置アームごとの経時的発光変化(ラジアンス単位)。各時点での生物発光シグナルを処置グループごとに平均した後、これらを平均値±SEMにより表す。16日目の差は、以下の通りであった:ビヒクルグループとTRAIL間では、(4.6 x 108 ± 6.7 x 107)対(2.3 x 108 ± 3.1 x 107)p=0.097;ビヒクル対TRAIL-DR5(1.4 x 108 ± 1.3 x 107)p=0.015;ビヒクル対シスプラチン(1.3 x 108 ± 2.4 x107)p=0.009;ビヒクル対シスプラチン及びTRAIL(6.7 x 107 ± 2.1 x 107)p=0.003;ビヒクル対シスプラチン及びTRAIL-DR5(1.6 x 107 ± 4.6 x 106)p=0.002であった。
【0131】
B.実験アーム当たり10匹のマウスを代表する各々4匹の処置終了時(16日目)の生物発光画像。画像を表示して、logラジアンス(光子/秒/cm2/sr)で定量する。
【0132】
C.全マウスのカプラン・マイヤー生存分析。材料及び方法に記載するように、生存の代用評価項目として、生物発光シグナル>3.1 x 108を用いた。
【0133】
図7:Colo205及びML-1細胞におけるTRAIL受容体の細胞表面発現を示す図である。
【0134】
Colo205(a)及びML-1(b)細胞におけるTRAIL受容体の細胞表面発現。(左側)DR4及びDR5受容体、(右側)DcR1及びDcR2。
【0135】
図8:TRAIL及びDR5選択的変異体の生物活性を示す図である。
【0136】
(A)Colo205及びML-1細胞における、1μg/mlのDR4(aDR4)、DR5(aDR5)、又はDR4及びDR5(+aDR4+aDR5)受容体中和抗体の存在下での100 ng/mlのTRAILのアポトーシス誘導活性。
【0137】
(B)Colo205細胞における、中和DR4若しくはDR5抗体の非存在下(抗体なし)で、又は中和抗体[aDR4、aDR5、若しくは両方(aDR4aDR5)]の存在下での100 ng/mlのTRAIL又はDR5選択的変異体のアポトーシス誘導活性。
【0138】
Colo205細胞(C)、ML-1(D)、及びA2780(E)におけるTRAIL又はDR5選択的変異体の細胞傷害能力(%細胞死)、さらには、DR4-及びDR5-媒介性細胞死の両方に対して応答性のBJAB細胞(BJABwt)、DR5を欠失したBJAB細胞(BJABDR5 DEF)と、DR5で安定にトランスフェクトしたDR5欠失BJAB細胞(BJABDR5 DEF+DR5)において、シクロヘキシミド対照(0.33μg/ml)と比較した、1、10又は100 ng/mlのTRAIL(WT)又はD269HE195R(DE)の細胞傷害能力(F)をそれぞれ示す。
【0139】
表3:Colo205及びA2780細胞のEC50値を示す。
【0140】
図9:DR5ノックダウンは、A2780細胞においてシスプラチンと併用したTRAILのアポトーシスを低減する。
【0141】
A)フローサイトメトリーにより評価した、様々な濃度のシスプラチンに応答した、A2780 DR5ノックダウン細胞及び対照細胞におけるDR5受容体の細胞表面発現。ルシフェラーゼに対するsiRNA(Luc siRNA)又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞におけるDR5の膜発現。細胞をシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートし、洗浄して、培地中で20時間培養した後、DR5膜発現をフローサイトメトリーにより測定した。平均蛍光強度(MFI)を非特異的アイソタイプ対照での染色について補正した。
【0142】
B)TRAIL及びシスプラチンに応答した、A2780 DR5ノックダウン細胞及び対照細胞におけるアポトーシス率。ルシフェラーゼに対するsiRNA(Luc siRNA)又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞は、培地又は30μMのシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートした後、洗浄した。20時間後、細胞を100 ng/mlのTRAILに4時間暴露した後、アクリジンオレンジ染色によりアポトーシスを評価した。
【0143】
図10:DR5選択的変異体は、wtTRAILよりDR5感受性腫瘍細胞死滅において効率的である。
【0144】
wtTRAIL又はDR5変異体の濃度を増加しながら(5〜30 ng/ml)、これらでColo205細胞を処理し、ホスファチジルセリン暴露(A)、カスパーゼ活性化(B)、及びプロカスパーゼ-8プロセシング(C)を測定することにより、アポトーシスの誘導をモニターした。(A)wtTRAIL及びDR5選択的変異体(D269H及びD269HE195R)による細胞死の誘導。グラフは、誘導されたアポトーシスの平均百分率±SEMを示す。(B)wtTRAIL、D269H及びD269HE195Rでの処理後のColo205細胞におけるDEVDase活性。DEVDase活性は、実施例6に記載のように反応速度アッセイにより、全細胞溶解物中で測定した。酵素活性は、1 mgの全細胞タンパク質により毎分放出されるnmolのAMCとして表した。(C)wtTRAIL及びDR5変異体で処理したColo205細胞におけるプロカスパーゼ-8切断のウエスタンブロット解析であり、wtTRAILと比較して、DR5特異的変異体は低濃度でカスパーゼ-8の切断を示している。グラフ(A、B)は、3つの独立した実験の平均値を示すが、Cは2つの独立した実験の1つの代表図を示す。
【0145】
図11:A2780細胞の表面上の4つのTRAIL受容体の発現を示す図である。
【0146】
DR4、DR5、DcR1及びDcR2の細胞表面発現を、免疫染色、次に、実施例6に記載のフローサイトメトリーにより測定した。各ヒストグラムは、該ヒストグラムに表示されているように、アイソタイプ対照(黒色、白抜きピーク)、及び1つのTRAIL-R標識(グレー、白抜きピーク)サンプルを示す。ヒストグラムは、3つの独立した実験の代表的なものである。
【0147】
図12:DR5選択的変異体は、DcR1及びDcR2の両方に対して低い結合を示す。
【0148】
wtTRAILの濃度を増加しながら、D269H及びD269HE195Rを用いて、SPR受容体結合アッセイにより、それらのDcR1及びDcR2との結合を評価した。(A)固定化DcR1-Igに対するTRAIL変異体の結合であり、wtTRAILと比較して、DR5選択的変異体の有意に低い結合を示している。(B)固定化DcR2-Igに対するTRAIL変異体の結合であり、wtTRAILと比較して、デコイ受容体2とのDR5選択的変異体の有意に低い結合を示している。TRAIL濃度の関数としての応答データ(応答単位で示す)は、4パラメーター方程式を用いてフィッティングすることにより、見かけ前定常状態親和性定数を取得した。
【0149】
図13:DR5選択的変異体は、wtTRAILより、A2780腫瘍細胞死滅において効率的である。
【0150】
(A)wtTRAIL及びD269HE195Rによる細胞死誘導。wtTRAIL又はD269HE195Rの濃度を増加しながら(10〜50 ng/ml)、これらでA2780細胞を処理した。処理から24時間後に、アネキシンVアッセイによりアポトーシス性細胞死を測定した。(B)wtTRAIL及びD269HE195Rの濃度を増加しながら、これらで24時間処理した後のA2780細胞におけるDEVDase活性。DEVDase活性は、実施例6に記載のように、反応速度アッセイにより全細胞溶解物において測定した。酵素活性は、1 mgの全細胞タンパク質により毎分放出されるnmolのAMCとして表した。グラフA及びBは、3つの独立した実験からの平均値±SEMを示している。(C)wtTRAIL及びD269HE195Rの濃度を増加しながら、これらで24時間処理したA2780細胞におけるプロカスパーゼ-8切断のウエスタンブロット分析であり、wtTRAILと比較して、D269HE195Rは低濃度でカスパーゼ-8の切断を示している。ウエスタンブロットは、2つの独立した実験の1つの代表図を示す。
【0151】
図14:デコイ受容体によるwtTRAIL及びDR5変異体が誘導するアポトーシスの阻害を示す図である。
【0152】
可溶性DcR1-Ig及びDcR2-Igの濃度を増加しながら、これらと一緒にwtTRAIL、D269H及びD269HE195Rを30分プレインキュベートした後、濃度10 ng/mlでColo205細胞培養物に3時間かけて添加した。(A)TRAIL及びDR5選択的変異体によるアポトーシス誘導に対する可溶性組換えDcR1-Ig(sDcR1)の作用。グラフは、可溶性DcR1を添加したTRAIL処理グループにおける細胞死が有意に低く、アネキシンVアッセイにより測定したD269H又はD269HE195Rが誘導する細胞死にはまったく影響がなかったことを示している。(B)TRAIL及びDR5選択的変異体によるアポトーシス誘導への可溶性組換えDcR2-Ig(sDcR2)の影響。グラフは、DR5選択的変異体により誘導されるアポトーシス(アネキシンV結合により測定)を低減するために、より高濃度のsDcR2が必要であることを示している。(C)TRAIL及びDR5選択的変異体によるアポトーシス誘導に対する可溶性組換えDR5-Ig(sDR5)の影響は、sDR5がwtTRAIL及びDR5選択的変異体の両方によるアポトーシス誘導を完全に遮断することができることを示している。グラフはすべて、2つの独立した反復実験の代表的なものである。(D)DcR1及びDcR2に対する中和抗体は、wtTRAIL誘導性細胞死を増加することはできるが、DR5変異体誘導性細胞死は増加しない。DcR1及びDcR2に対する中和抗体の濃度を高めながら、これらとColo205細胞を1時間インキュベートした後、wtTRAIL(20 ng/ml)及びD269HE195R(4 ng/ml)を用いて処理した。処理から3時間後、アネキシンVアッセイによりアポトーシスの誘導を測定した。グラフは、中和デコイ受容体抗体の存在下でwtTRAIL又は D269HE195Rにより誘導されたアポトーシス率(%)を、抗体の非存在下でリガンドにより誘導されたアポトーシス率(%)で割ることにより算出したアポトーシスの増加倍率を示す。グラフは、3つの独立した実験の平均値±SEMを示す。
【0153】
図15:DR5変異体は、非形質転換細胞に対して毒性ではない。
【0154】
wtTRAIL、並びにDR5選択的変異体、D269H及びD269HE195Rの濃度を増加しながら、これらで細胞を処理した後、MTTアッセイを用いて、細胞生存率を測定した。(A)線維芽細胞及び(B)HUVEC細胞のいずれでも細胞死がなかったことを示している。グラフは、非処理細胞の百分率として、3つの独立した実験からの平均細胞生存率±SDを示す。
【0155】
図16:D269HE195Rは、細胞死誘導TRAIL受容体及びアポトーシスをwtTRAILよりはるかに速く活性化する。
【0156】
Colo205細胞を30 ng/mlのwtTRAIL又はD269HE195Rで、表示時間処理した後、リガンドを洗い流して、合計180分(TRAIL受容体活性化のため)又は240分(PS暴露のため)通常の増殖培地でインキュベートした。(A)ウエスタンブロッティングでプロカスパーゼ-8プロセシングをモニターすることによって測定した、wtTRAIL及びD269HE195Rによる細胞死誘導TRAIL受容体活性化の反応速度。(B)アネキシンVアッセイにより測定したwtTRAIL及びD269HE195Rによる細胞死誘導の反応速度。細胞死誘導は、リガンドを洗い流さずに240分後誘導された細胞死率(%)に対して表した。グラフは、2つの独立した実験の平均値±SEMを示す。(C)細胞表面発現受容体に対するwtTRAILとD269HE195Rとの結合競合。wtTRAIL(30 ng/ml)をColo205細胞培養物に5分又は10分かけて添加した。非結合wtTRAILを洗い流してから、30 ng/mlのD269HE195Rをさらに5分又は10分かけて細胞に添加した後、除去した。細胞を通常の増殖培地中で合計180分インキュベートし、細胞死の誘導をアネキシンVアッセイにより測定した。グラフは、3つの独立した実験からのアポトーシス率の平均値±SEMを示す。
【0157】
図17:アスピリン及び5-フルオロウラシルでの処理後のColo205細胞系における受容体発現を示す図である。
【0158】
Colo205細胞系を5 mMアスピリンで24時間、又は10μMの5-フルオロウラシルで24時間処理した後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。アスピリンは、TRAIL R2、R3及びR4受容体発現の誘導を引き起こす。5-フルオロウラシルは、全TRAIL受容体の誘導を引き起こす。
【0159】
図18:アスピリンと併用したD269HE195Rは、wtTRAILと比較して、相乗作用の増強をもたらす。
【0160】
(A)アスピリンは、細胞表面にDR5、DcR1及びDcR2の発現を誘導する。Colo205細胞を5 mMのアスピリンで24時間処理し、DR4、DR5、DcR1及びDcR2の細胞表面発現を免疫染色により測定し、フローサイトメトリーで検出した。示したヒストグラムは、アイソタイプ対照(黒色、白抜きピーク)、非処理Colo205(グレー、塗りつぶしピーク)、並びにアスピリン処理Colo205(グレー、白抜きピーク)サンプルを含む。上記ヒストグラムは、3つの独立した実験の代表的なものである。(B)アスピリンとwtTRAIL又はD269HE195Rを用いた併用処理によるカスパーゼ活性化。細胞を5 mMのアスピリンで24時間、次に、5又は10 ng/mlのwtTRAIL又はD269HE195Rで表示時間処理した後、細胞を回収し、細胞溶解物においてDEVDase活性を測定した。DEVDase活性は、3つの独立した実験の、1mgの全細胞タンパク質により分当たり放出されるAMNの平均nmol±SDとして表した。
【0161】
図19:接種のための2x106個及び5x106個のColo205細胞の比較
胸腺欠損ヌードマウスに、2x106個及び5x106個のColo205細胞を含む200μlの培地を皮下注射した後、腫瘍増殖を数週間追跡した。
【0162】
図20:Colo205腫瘍に対する単剤療法としてのアスピリン
2つの濃度40及び200 mg/kgのアスピリンを少数の胸腺欠損ヌードマウスにおいて試験した。アスピリンは、2日をはさんで2x5日の期間毎日IP注射した。
【0163】
図21:Colo205腫瘍に対するTRAILのin vivo作用
Colo205細胞の腫瘍を担時する少数の胸腺欠損ヌードマウス(グループ当たりn=3〜5)において、rhTRAIL WT及びD269HE195Rの抗腫瘍作用を試験した。日用量のアスピリンと一緒に(タンパク質と同じ注射器で)、1 mg/kg及び5 mg/kgの用量でrhTRAILタンパク質を腹腔内注射により2x5日(1〜5日目及び8〜12日目)の間投与して、該タンパク質を試験した。
【0164】
図22:アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかを含む併用療法を用いて、又は用いないで、Colo205細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0165】
(A)DR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、TRAILより有意に低い細胞生存率をもたらし、低濃度のリガンドで最大の差が見られた。(B)濃度の増加によるアスピリンの細胞生存率に対する影響。(C)濃度の増加による5-フルオロウラシルの細胞生存率に対する影響。(D)24時間プレインキュベートした5 mMアスピリンとの併用療法では、TRAIL及び2種のDR5変異体の両方で、細胞における細胞生存率のさらなる低下が起こる。(E)DR5変異体の30分のインキュベーションは、細胞生存率を低下させるのに十分であり、細胞をアスピリンと一緒に24時間プレインキュベートすると、細胞生存率はさらに上昇した。インキュベーション時間がこれより短いと、TRAIL単独又はアスピリンとの併用の能力低下を招く。(F)24時間プレインキュベートした10μMの5-フルオロウラシルとの併用療法では、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞のいずれにも、有意な増強は起こらなかった。(G)DR5変異体の30分のインキュベーションは、細胞生存率を低下させるのに十分であり、これは、5-フルオロウラシルによって増強されず、TRAILの能力低下が再び見られた。タンパク質は次のように表示する:TRAILは、rhTRAIL WTを表し;D269Hは、変異D269Hを有するrhTRAILを表し;E195Rは、変異D269H及びE195Rを有するrhTRAILを表し;M1は、変異D269H、E194I及びI196Sを有するrhTRAILを表す。
【0166】
図23:Colo205腫瘍に対する、wtTRAILの単剤療法及びアスピリンとの併用の影響を示す図である。
【0167】
Colo205細胞の腫瘍を担時する少数の胸腺欠損ヌードマウス(グループ当たりn=3〜5)において、単剤療法及び200 mg/kgのアスピリンとの併用療法として、rhTRAIL WTの抗腫瘍作用を試験した。上記用量のアスピリンと一緒に(タンパク質と同じ注射器で)、又はアスピリンを用いずに、用量1 mg/kg及び5 mg/kgのrhTRAILタンパク質を腹腔内注射により2x5日(1〜5日目及び8〜12日目)にわたり投与して、該タンパク質を試験した。ASAはアスピリンとの併用を示す。
【0168】
図24:Colo205腫瘍に対する、D269HE195R TRAILの単剤療法及びアスピリンとの併用の影響を示す図である。
【0169】
Colo205細胞の腫瘍を担時する少数の胸腺欠損ヌードマウス(グループ当たりn=3〜5)において、単剤療法及び200 mg/kgのアスピリンとの併用療法として、D269HE195Rの抗腫瘍作用を試験した。上記用量のアスピリンと一緒に(タンパク質と同じ注射器で)、又はアスピリンを用いずに、用量1 mg/kg及び5 mg/kgのrhTRAILタンパク質を腹腔内注射により2x5日(1〜5日目及び8〜12日目)の間投与して、該タンパク質を試験した。ASAはアスピリンとの併用を示す。
【0170】
図25:アポトーシスアッセイは、アスピリンと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示し、変異体は、TRAILと比較して高いアポトーシスを示す。
【0171】
5 mMのアスピリン若しくは10μMの5-フルオロウラシルと一緒に、又はこれらを用いずにプレインキュベートした細胞において、5 ng/ml及び10 ng/mlのTRAIL又はDR5変異体(D269HE195R)の添加から3時間後にアネキシンV/PI染色を用いて、アポトーシスを測定した。DR5変異体で処理した細胞は、高いアポトーシスを示し、これは、5-フルオロウラシルではなく、アスピリンにより増強することができる。TRAIL処理細胞は、これより低いアポトーシスを示し、これもアスピリンによって、また、より低い程度で5-フルオロウラシルによって増強することができる。
【0172】
図26:DR5変異体は、TRAILと比較して高いカスパーゼ活性化を示し、これはアスピリンにより増強することができる。
【0173】
Colo205細胞を様々な時点で回収したところ、10 ng/mlのDR5変異体(D269HE195R)での処理後に、より高いカスパーゼ活性化を示した。カスパーゼ活性は、5 mMのアスピリンと24時間プレインキュベートした細胞においてさらに増強されるが、5-フルオロウラシルでは増強されない。10 ng/mlのTRAILで処理した細胞において所与の時点で、最小のカスパーゼ活性化が見られる。
【0174】
図27:アスピリン及び5-フルオロウラシルで処理後のSW948細胞系における受容体発現を示す図である。
【0175】
SW948細胞系を2.5 mMのアスピリンで24時間又は10μMの5-フルオロウラシルで24時間処理した後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。アスピリンは、TRAIL R2発現の誘導のみをもたらす。5-フルオロウラシルは、TRAIL受容体のいずれの誘導も起こさなかった。
【0176】
図28:アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、SW948細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0177】
(A)TRAIL及びDR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、細胞生存率の低下を招いたが、DR5変異体と比較して、濃度が高くなると、TRAILの方が細胞生存率の大きな減少をもたらした。(B)SW948細胞に対する、濃度増加によるアスピリンの作用。(C)2.5 nMのアスピリンと24時間プレインキュベートした併用療法は、TRAIL及び2種のDR5変異体で処理した細胞の両方で細胞生存率のさらなる低下を招いた。(D)10μMの5-フルオロウラシルと24時間プレインキュベートした併用療法は、TRAIL処理細胞でのみ有意な増強をもたらした。
【0178】
図29:アポトーシスアッセイは、アスピリンと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示し、5-フルオロウラシルとの併用はTRAIL処理細胞のみを増強した。
【0179】
5 mMのアスピリン若しくは10μMの5-フルオロウラシルと一緒に、又はこれらを用いずにプレインキュベートした細胞において、5 ng/ml及び10 ng/mlのTRAIL又はDR5変異体(D269HE195R)の添加から3時間後にアネキシンV/PI染色を用いて、アポトーシスを測定した。DR5変異体で処理した細胞は、高いアポトーシスを示し、これは、5-フルオロウラシルではなく、アスピリンにより増強することができる。TRAIL処理細胞は、より低いアポトーシスを示し、これも、アスピリンによって、また、より低い程度で5-フルオロウラシルによって増強することができる。
【0180】
図30:TRAIL処理細胞は、5-フルオロウラシルと併用すると、カスパーゼ活性の増強を示した。
【0181】
20 ng/mlのTRAIL又はDR5変異体(D269HE195R)での処理から3時間後に測定したカスパーゼ活性。10μMの5-フルオロウラシルと一緒にプレインキュベートした細胞は、TRAILで処理後にカスパーゼ活性の増強を示したが、DR5変異体との処理では示さなかった。2.5 mMのアスピリンとのプレインキュベーションでは、この時点でのいずれのリガンド単独と比較しても、それ以上のカスパーゼ活性増強は示さなかった。
【0182】
図31:アスピリン及び5-フルオロウラシルで処理後のLOVO細胞系における受容体発現を示す図である。
【0183】
Lovo細胞系を2.5 mMのアスピリンで24時間又は10μMの5-フルオロウラシルで24時間処理した後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。アスピリンは、TRAIL R4、また、より低い程度でTRAIL R2受容体の発現の誘導をもたらす。5-フルオロウラシルは、TRAIL R2、R3及びR4受容体の誘導をもたらす。
【0184】
図32:アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、Lovo細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0185】
(A)TRAIL及びDR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、細胞生存率の同等の低下を招く。(B)Lovo細胞に対する、濃度増加によるアスピリンの作用。(C)Lovo細胞に対する、濃度増加による5-フルオロウラシルの作用。(D)2.5 mMのアスピリンとの24時間プレインキュベーションは、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞の両方で、細胞生存率を有意に低下させた。(E)10μMの5-フルオロウラシルとの24時間プレインキュベーションは、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞の両方で、細胞生存率を有意に低下させた。
【0186】
図33:アポトーシスアッセイは、アスピリン及び5-フルオロウラシルと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示した。
【0187】
5 mMのアスピリン若しくは10μMの5-フルオロウラシルと一緒に、又はこれらを用いずにプレインキュベートした細胞において、5 ng/ml及び50 ng/mlのTRAIL又はDR5変異体(D269HE195R)の添加から(A)7時間後及び(B)15時間後にアネキシンV/PI染色を用いて、アポトーシスを測定した。アスピリン及び5-フルオロウラシルで前処理した細胞において、TRAIL及びDR5変異体(D269HE195R)処理後にアポトーシスが増大した。アスピリンによるアポトーシス増大は、15時間後に最大で観察された。
【0188】
図34:アスピリン及び5-フルオロウラシルでプレインキュベートしたDR5変異体処理細胞において、より早期かつより高いカスパーゼ活性が見られる。
【0189】
Lovo細胞を様々な時点で回収したところ、50 ng/mlのTRAILと比較して、50 ng/mlのDR5変異体(D269HE195R)での処理後に、より早期のカスパーゼ活性を示した。カスパーゼ活性は、5 mMのアスピリン及び10μMの5-フルオロウラシルと一緒にプレインキュベートした細胞において、さらに増強される。
【0190】
図35:5-フルオロウラシルとの併用療法を用いた及び用いないHCT15、HT29及びRKO細胞の生存率に対する、TRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0191】
TRAIL及びDR5変異体(D269HE195R)は、5-フルオロウラシルとの併用療法を用いて、又は用いずに処理後、細胞生存率の同等の低下を示す。5-フルオロウラシルでは、試験したすべての細胞系(A)、並びに(B)HCT15、(C)RKO及び(D)HT29において、リガンド単独と比較して、それ以上細胞生存率を低下しない。
【0192】
図36:wtTRAIL(グレー)及びDR5(黒色)の細胞外部分の三量体−三量体複合体の正面(左側)及び側面(右側)図である。
【0193】
アミノ酸E195及びD269の側鎖は球体により示される。これらアミノ酸のアルギニン及びヒスチジンへの変異は、それぞれ、wtTRAILを無差別のサイトカインからDR特異的変異体10に変換する。
【0194】
表4:wtTRAIL及びDR選択性TRAIL変異体に対する結腸癌細胞系の感受性を示す。
【0195】
図37:固定化受容体へのwtTRAIL及びD269HE195Rの結合のSPR解析を示す図である。
【0196】
A)直接固定化したDR4-IgへのwtTRAILの結合の典型的センサーグラム。B)CM5チップの表面に直接固定化したDR4-Ig(左パネル)及びDR5-Ig(右パネル)に対するwtTRAIL及びD269HE195Rの結合の前定常状態解析。結合応答はすべて、250 nMでのwtTRAILの値(100%)に対してプロットした。
【0197】
図38:結腸癌細胞系Colo205におけるwtTRAIL及びD269HE195Rのアポトーシス活性の用量応答曲線を示す図である。
【0198】
濃度の関数としてのTRAIL誘導細胞死をMTSアッセイで測定した。
【0199】
図39:子宮頸癌細胞系におけるボルテゾミブによる処理後のp53の誘導を示す図である。
【0200】
3種の子宮頸癌細胞系はすべて、ボルテゾミブの濃度を増加しながら、これで処理して、p53タンパク質の発現を評価した。(A)p53タンパク質の誘導は、濃度1 nMで観察することができ、Caski細胞系では、5及び10 nMで最大の誘導が見とめられた。(B)SIHA細胞におけるp53の誘導は、5及び10 nMで観察することができる。(C)HELA細胞でも、p53の誘導は5 nM及び10 nMで観察されるが、SIHA及びCaski細胞系の誘導より比較的小さい。
【0201】
図40:ボルテゾミブ及び放射線療法後のCaski細胞系における受容体発現を示す図である。
【0202】
Caski細胞系を(A)5 nMのボルテゾミブで24時間処理するか、又は(B)10Gy放射線療法に続いて24時間インキュベートした後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。(A)ボルテゾミブで処理すると、TRAIL R2の受容体発現が増大し、TRAIL R3がわずかに増加した。(B)放射線療法は、TRAIL R3受容体発現のわずかな増加をもたらしただけで、他の受容体発現にまったく変化はなかった。
【0203】
図41:ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、Caski細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0204】
(A)TRAIL及びDR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、細胞生存率に与える影響に関しては、単剤として同等であるようだ。(B)細胞生存率に対する、濃度増加によるボルテゾミブの作用。(C)5 nMのボルテゾミブと24時間インキュベートした併用療法は、wtTRAIL及び2種のDR5変異体で処理した細胞の両方で、細胞生存率のさらなる低下をもたらした。(D)放射線療法は、wtTRAIL又はDR5変異体と併用しても増強作用はなかった。
【0205】
図42:アポトーシスアッセイは、ボルテゾミブと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示した。
【0206】
ボルテゾミブを用いて又は用いずに24時間プレインキュベートしたCaski細胞におけるTRAIL及びDR5変異体(D269HE195R)処理から7時間後の(A)アネキシンV/PI染色及び(B)測定。いずれのリガンドも、ボルテゾミブとの併用で作用の増強を示すようであり、DR5変異体は、所与の時点で、TRAILより高いアポトーシスを示す。放射線療法は、TRAIL又はDR5変異体単独で処理した細胞と比較して、増強作用はなかった(データは示していない)。
【0207】
図43:TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブに対するカスパーゼ活性の増強を示し、DR5変異体の方が早期のカスパーゼ活性化を示す。
【0208】
Caski細胞を様々な時点で回収したところ、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞のいずれも、ボルテゾミブとの併用で、カスパーゼ活性の増強を示した。用いたリガンドの濃度は、50 ng/mlであった。しかし、DR5変異体の方が、TRAIL処理サンプルと比較して、早期のカスパーゼ活性化を示す。
【0209】
図44:ボルテゾミブ及び放射線療法を用いた処理後のSIHA細胞系における受容体発現を示す図である。
【0210】
SIHA子宮頸癌細胞系を(A)10 nMのボルテゾミブで24時間処理するか、又は10Gy放射線療法に続いて24時間インキュベートした後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。(A)ボルテゾミブ処理では、TRAIL受容体すべての受容体発現が増大する。(B)放射線療法は、TRAIL R2及びTRAIL R3受容体発現の増加をもたらしただけで、他の受容体発現にはまったく変化はなかった。
【0211】
図45:ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、SIHA細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0212】
(A)細胞生存率に対する、濃度増加によるボルテゾミブの作用。(B)SIHA細胞は、TRAIL及びDR5変異体処理に対して耐性であるが、5 nMのボルテゾミブと24時間インキュベートすると、TRAIL及びDR5変異体いずれでの処理後も、細胞生存率が低下したことが明らかにされた。(C)10Gyの放射線療法は、TRAIL及びDR5変異体処理細胞のいずれにおいても、SIHA細胞の細胞生存率をそれ以上低下させる作用はなかった。
【0213】
図46:DR5変異体は、ボルテゾミブとのインキュベーション後のSIHA細胞において、TRAILより高いアポトーシスを示す。
【0214】
10 nMのボルテゾミブと24時間プレインキュベートした、又はしないSIHA細胞において、TRAIL及びDR5変異体D269HE195Rでの処理から7時間後に、アクリジンオレンジ染色を用いて、アポトーシスを測定し、細胞を測定した。DR5変異体は、所与の時点でTRAILより高いアポトーシスを示す。放射線療法は、TRAIL又はDR5変異体単独で処理した細胞と比較して増強作用はなかった(データは示していない)。
【0215】
図47:TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブに対するカスパーゼ活性の増強を示し、DR5変異体の方が、早期のカスパーゼ活性化を示す。
【0216】
SIHA細胞を様々な時点で回収したところ、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞のいずれも、ボルテゾミブとの併用で、カスパーゼ活性の増強を示した。用いたリガンドの濃度は、50 ng/mlであった。しかし、DR5変異体の方が、TRAIL処理サンプルと比較して、早期で、しかも高いカスパーゼ活性を示す。
【0217】
図48:ボルテゾミブによる処理及び放射線療法実施後のHELA細胞系における受容体発現を示す図である。
【0218】
Hela子宮頸癌細胞系を(A)10 nMのボルテゾミブで24時間処理するか、又は(B)10Gy放射線療法に続いて24時間インキュベートした後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。(A)ボルテゾミブ処理では、全TRAIL受容体の受容体発現が増大する。(B)また、放射線療法も、TRAIL受容体の増大をもたらす。
【0219】
図49:ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、HELA細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0220】
(A)TRAIL及びDR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、細胞生存率に与える影響に関しては、単剤として同等であるようだ。(B)細胞生存率に対する、濃度増加によるボルテゾミブの作用。Hela細胞は、Caski及びSIHA細胞と比較してより高い濃度のボルテゾミブに対して耐性があるようだ。(C)10 nMのボルテゾミブとの24時間インキュベートを含む併用療法では、TRAIL及び2種のDR5変異体のいずれで処理した細胞においても、細胞生存率がさらに低下する。(D)TRAIL又はDR5変異体と併用した放射線療法では、HELA細胞の細胞生存率がさらに低下する。DR5変異体は、TRAILと比較して、低濃度のリガンドで細胞生存率の低下を示す。
【0221】
図50:アポトーシスアッセイは、ボルテゾミブ及び10Gy放射線療法との併用で、TRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示している。
【0222】
10 nMのボルテゾミブとの24時間プレインキュベーション、若しくは10Gy放射線療法を実施した、又は両者とも実施しないHela細胞において、TRAIL及びDR5変異体D269HE195Rでの処理から7時間後に、アクリジンオレンジ染色を用いてアポトーシスを測定し、細胞を測定した。TRAIL及びDR5変異体のいずれも、どちらかの併用療法で、アポトーシスのほぼ同等の増強を示す。ボルテゾミブ、放射線療法及びTRAIL又はDR5変異体の併用は、それ以上相乗作用を示さかった。
【0223】
図51:TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブ及び放射線療法に対するカスパーゼ活性の増強を示す。
【0224】
Hela細胞を様々な時点で回収したところ、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞のいずれも、ボルテゾミブとの併用で、カスパーゼ活性の増強を示した。用いたリガンドの濃度は、50 ng/mlであった。放射線療法と併用した場合、TRAILは、DR5変異体と比較して、早期で、しかも高いカスパーゼ活性を示すようだ。
【0225】
図52:ヒト結腸腺腫細胞は、TRAIL及びD269H/E195Rに対して感受性である。
【0226】
結腸腺腫細胞系VACO-235及びVACO330をTRAIL又はD269H/E195Rで96時間処理した。腺腫細胞系は、D269H/E195Rに対して、より感受性であった。感受性は、cdk阻害剤のロスコビチンと一緒にTRAIL又はD269H/E195Rを用いると、さらに増強することができた。
【0227】
表5:wtTRAIL及びDR5選択的TRAIL変異体に対する子宮頸癌細胞系の感受性を示す。
【0228】
表6:wtTRAIL及びDR5選択的TRAIL変異体に対する卵巣癌細胞系A2780の感受性を示す。
【0229】
図53:17時間にわたるP-Akt阻害は、Colo205結腸癌をTRAIL-DR5(D269H/E195R)に対して選択的に増感する。
【0230】
TRAIL及びD269H/E195R のモジュレーションは、アネキシンVアッセイにより評価して、Colo205においてPI3K阻害によるアポトーシスを誘導した。細胞を20μMのLY294002と一緒に15〜18時間プレインキュベートした後、非処理のまま放置するか、又はrhTRAIL(0.1μg/ml)若しくはD269H/E195R(0.1μg/ml)にさらに3時間暴露した後、回収した。TRAILに対する感受性はやや低下したが、D269H/E195Rに対する感受性は増強した。
【0231】
図54:wtTRAIL又はTRAIL-DR5(D269H/E195R)で処理したHeLa異種移植片を示す図である。
【0232】
HeLa子宮頸癌細胞系の異種移植片をマトリゲルを用いて胸腺欠損ヌードマウス中に樹立した。腫瘍体積が+/-150 mm3に達したら、処置を開始した。TRAIL又は(D269H/E195R)で処置した後のHeLa子宮頸癌異種移植片には何の影響も観察されなかった。
【0233】
図55:経時的にwtTRAIL及びD269HE195Rにより誘発されるTRAIL受容体複合体形成の数学モデルを示す図である。
【0234】
(a)wtTRAIL又は(b)D269HE195Rへの暴露後に連結したホモ三量体DR4、DR5、DcR1及びDcR2複合体の形成。(c)wtTRAIL又は(d)D269HE195Rへの暴露後に、デコイ受容体の非存在下で連結したホモ三量体DR4及びDR5の形成。
【0235】
図56:経時的なリガンド誘導性TRAIL受容体複合体形成の数学的シミュレーションを示す図である。
【0236】
(a)理論上のTRAIL変異体によるホモ三量体DR4、DR5、DcR1及び DcR2の形成。上記TRAIL変異体は、D269HE195Rの親和性によりDR5に、またwtTRAILの親和性により他の3つのTRAIL受容体に結合する。(b、c)wtTRAIL(b)又はD269HE195R(c)を用いたホモ三量体受容体複合体の形成に対する、300秒のインキュベーション後のリガンド除去の影響。(d、e)(d)wtTRAIL又は(e)D269HE195Rでインキュベーション中のヘテロマー受容体三量体の形成及び分解。
【0237】
表7:TRAIL受容体結合シミュレーションに用いた反応速度定数を示す。
【実施例】
【0238】
[実施例1]野生型TRAIL及び変異体の発現及び精製
野生型TRAIL及びTRAIL変異体構築物を大腸菌BL21(DE3)(Invitrogen)に形質転換した。野生型TRAIL及びM1を、4xLB培地、1%(w/v)グルコース、100μg/mlアンピシリン及び追加の微量元素を用いて7.5L発酵槽(Applicon)において5Lバッチ規模で増殖させた。この培養物を37℃、30%酸素飽和で対数増殖中期に増殖させ、続いて1mM IPTGで誘導した。三量体形成を促進するために、ZnSO4を100μMの濃度で加えた。温度を28℃に下げ、培養物を静止期まで増殖させた。同様のプロトコールを用いて、他の変異体を振盪フラスコにおいて1L規模で250rpmにて増殖させた。培養物がOD600 0.5に達したときにタンパク質発現を誘導し、誘導を5時間続けた。この場合、使用した培地は追加の微量元素を含まない2xLBであった。
【0239】
単離したペレットを3倍量の抽出バッファー(PBS pH8、10%(v/v)グリセロール、7mM β-メルカプト-エタノール)中に再懸濁した。音波処理を利用して細胞を破壊し、抽出物を40,000gでの遠心分離により清澄化した。続いて、この上清を、ニッケルをチャージしたIMAC SepHarose fast-flowカラムに流し、野生型TRAIL及びTRAIL変異体を、Hymowitz24に記載されているとおり、次の修飾を加えて精製した:10%(v/v)グリセロール及び最小濃度の100mM NaClを全バッファーに用いた。これにより精製中の凝集を防いだ。IMAC分画ステップ後、全バッファーに20μM ZnSO4及び5mM DTT(β-メルカプト-エタノールの代わりに)を加えた。最後に、Hiload Superdex 75カラムを使用するゲル濾過ステップを含めた。コロイド状クーマシーブリリアントブルーにより染色したSDS-PAGEゲルを用いて決定したところ、精製されたタンパク質の純度は98%を超えていた。精製タンパク質溶液を液体窒素で急速冷凍し、−80℃で保存した。
【0240】
[実施例2]A2780に対するTRAIL-DR5、TRAIL及びシスプラチンのin vitro活性
A2780は、ヒト卵巣癌細胞系であり、これは、その細胞表面にDR5及び低レベルのDcR2を発現するが、DR4及びDcR1は検出されない(図1A)。シスプラチンでの処理により、DR5及びDcR2発現の用量依存的アップレギュレーションが起こった(図1A)。低濃度のTRAIL及びTRAIL-DR5にA2780細胞を長時間(96時間)暴露すると、用量依存性の生存率低下が誘導された(図1B)。TRAIL又はTRAIL-DR5での連続的処理前に低用量シスプラチン(2.5μM)と一緒にプレインキュベートすると、細胞生存率のさらなる低下が起こった(図1C)。TRAIL-DR5は、単剤(p<0.01)、及びシスプラチンとの併用(p<0.001)のいずれの場合にもTRAILより有効に細胞生存率を低下させた。これらの結果と一致して、TRAIL又はTRAIL-DR5に短時間暴露すると、カスパーゼ-3活性により決定されるように、アポトーシスが誘導された。カスパーゼ活性は、2.5μMシスプラチンとのプレインキュベーション時にすべての条件において増強された(図2A)。シスプラチンとTRAIL-DR5の組合せは、シスプラチンとTRAIL(p<0.001)の組合せへの暴露より有効であった。アクリジンオレンジアポトーシスアッセイを用いても、同様の結果が得られた(図2B)。また、TRAIL及び TRAIL-DR5についてのアポトーシスアッセイも、DcR2遮断抗体の同時インキュベーションを用いて実施した。DcR2の遮断は、TRAIL又はTRAIL-DR5によるアポトーシス誘導を増強しなかった(図2C)。
【0241】
上記細胞におけるアポトーシスの誘導へのDR5受容体の関与について、DR5受容体をRNA干渉によりノックダウンした細胞においてさらに評価した。このために、A2780細胞をDR5(5’GACCCUUGUGCUCGUUGUC-dTdT3’(センス)及び5’GACAACGAGCACAAGGGUC-dTdT3’(アンチセンス))に対するsiRNA、若しくはルシフェラーゼ(対照として)でトランスフェクトするか、又はトランスフェクトしないままにした。トランスフェクションから24時間後、細胞を2.5μM、10μM及び30μMのシスプラチンに4時間暴露した後、シスプラチンに暴露していない細胞を含むすべての細胞を洗浄した。翌日、細胞を回収し、フローサイトメトリーによりDR5発現について解析した。DR5発現は、平均蛍光強度(MFI)として表わす。データは、DR5受容体がシスプラチンに応答してアップレギュレートされなかったが、トランスフェクトした対照細胞におけるDR5アップレギュレーションは、トランスフェクトしていない細胞に類似していた(図9Aを図1Aと比較)。
【0242】
次に、対照及びDR5 siRNA細胞においてアポトーシスを誘導するTRAILの効率を評価した。このために、siRNA処理細胞懸濁液の小画分を96ウェルプレートにプレーティングし、200個以上の細胞を計数するアクリジンアポトーシスアッセイで、アポトーシスレベルを決定した。データは、少なくとも3つの独立した実験の平均±SDを示す。結果は、対照細胞のアポトーシスが、非処理細胞と比較して高いことを示している。しかし、DR5 siRNA細胞は、システインと一緒に投与したときでも、TRAILに応答したアポトーシスの増加を示さなかった(図9B)。従って、DR5 siRNAは、TRAILが誘導するアポトーシスの完全な阻害を招くと共に、A2780におけるTRAILが誘導するアポトーシスのシスプラチンによる増感を遮断した。
【0243】
これらのデータは、DR5経路が、卵巣癌細胞においてアポトーシスを誘導する上で重要であることを示しており、このことは、上記癌の治療のためにDR5特異的変異体を用いるという考えを支持するものである。
【0244】
TRAIL又はDR5選択的TRAILを用いた処理に応答するDR5の膜発現を評価するために、A2780-Luc細胞系を以下のように作製した。ルシフェラーゼ遺伝子をpGL3-basic(Promega、ウィスコンシン州マディソン)からHindIII及びXbaI制限酵素(Roche Applied Science、オランダ、アルメール)で切り出した後、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下のpcDNA3ベクターに連結した。A2780細胞を70%コンフルエントまで培養し、250μlのOptimem(Invitrogen、オランダ、ブレダ)中2.5μgのプラスミドDNA及び5μlのFugene6(Roche)と一緒にインキュベートすることにより、トランスフェクトした。トランスフェクションから2日後、ジェネティシン(1 mg/ml)(Roche Applied Science、オランダ、アルメール)を添加することにより、トランスフェクト細胞を選択した。クローン原性アッセイの後、限界希釈による陽性クローンのサブクローニングを実施して、安定なトランスフェクト細胞を取得した。細胞系を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)(Bodinco BV、オランダ、アルカマール)及び0.1 M L-グルタミンを添加したRPMI 1640(Life Technologies、オランダ、ブレダ)において、5%CO2を含む加湿空気中37℃で培養した。A2780-Luc培養物には、ジェネティシンを月1回添加した。ルシフェラーゼ発現について、ルシフェラーゼアッセイ(#E1500、Promega、オランダ、レイデン)及びBioRad ChemiDoc XRS system(BioRad、オランダ、フェーネンダール)で定期的に試験した。
【0245】
既述36のように実施する微量培養テトラゾリウムアッセイを用いて細胞傷害性を測定した。20%FCS及び0.1 M L-グルタミンを添加したHAM/F12及びDNEM培地中で細胞を培養した。本発明者の既述11、12のように、wtTRAIL及びTRAIL-DR5を作製した。DR4及びDcR1への結合能力は、TRAIL-DR5には実質的になかったが、DcR2に対する親和性は低下した11。処理は、0〜100 ng/mlのTRAIL-DR5又はwtTRAILと一緒に行う連続的インキュベーションからなるものであった。シスプラチンとの併用処理を評価する細胞生存アッセイでは、細胞を2.5μMシスプラチン(阻害濃度20%−IC20)と4時間プレインキュベートした後、0〜25 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5を添加した。
【0246】
カスパーゼ-3/7活性を早期アポトーシスマーカーとして用いた。カスパーゼ-3/7活性は、カスパーゼ-3/7蛍光定量アッセイ(Zebra Biosciences、オランダ、フローニンゲン)を用いて決定した。DEVDase活性の蛍光定量検出のために、細胞を6-ウェルプレートに塗布し、一晩かけて接着させた。細胞を2.5μMシスプラチンに4時間暴露した後、シスプラチンをPBS(6.4 mM Na2HPO4;1.5 mM KH2PO4;0.14 mM NaCl;2.7 mM KCl;pH=7.2)で洗い流してから、細胞に新鮮な培地を添加した。20時間後、50 ng/mlのTRAIL-DR5又はTRAILを何度か添加した。その後、トリプシンを用いて、細胞を回収し、氷冷PBSで2回洗浄した。製造者のプロトコルに従いカスパーゼ-3活性アッセイを実施する前に、溶解物のタンパク質含量をブラッドフォード(Bradford)分析21で決定した。
【0247】
アクリジンオレンジ染色を末期アポトーシスのマーカーとして用いた。アポトーシスアッセイのために、10,000個の細胞を96-ウェル組織培養プレート中でインキュベートした。細胞を2.5、10又は30μMのシスプラチンに4時間暴露した後、PBSで2回洗浄し、通常の培地中でインキュベートした。それから20時間後、100又は250 ng/mlのTRAIL-DR5又はTRAILを含む又はそれらを含まない通常の培地中で細胞をさらに4時間インキュベートした。TRAIL-DR5及びwtTRAILインキュベーションの前に、遮断抗体と一緒に1時間のプレインキュベーションを実施した以外は、同じ手順を2.5 μg/mlのマウス抗DcR2抗体(R&D Systems、英国オクソン)の存在下で実施した。上記抗DcR2抗体により、Colo205ヒト結腸癌細胞39において、TRAILのアポトーシス促進作用の増強が観察された(図14D)。薬物インキュベーション後、生存細胞からアポトーシス細胞を識別するために、アクリジンオレンジを各ウェルに添加した。染色強度は、蛍光顕微鏡検査により決定した。アポトーシスは、アポトーシス体及び/又はクロマチン凝縮の外観により決定し、最少300個の細胞を含む3つの視野において計数したアポトーシス細胞の百分率として表した。
【0248】
両薬剤の単独療法と比較して、併用療法(シスプラチンとTRAIL又はTRAIL-DR5)の効果を定量的に表すために、細胞死滅及びアポトーシスの増強比を以下のように計算した:増強比=併用療法による誘導%/(シスプラチン単独による誘導%+リガンドによる誘導%)。
【0249】
TRAIL受容体膜発現の解析を、以前記載されている35ようにFACSにより実施した。シスプラチン暴露後の死受容体発現のために、細胞を4時間暴露し、次に、PBSで洗浄してから、通常の培地中で20時間インキュベートした後、FACS解析を実施した。次に細胞を2%FCS及び0.1%アジ化ナトリウムを含む冷PBSで2回洗浄してから、DR4、DR5、DcR1及びDcR2に対するフィコエリトリン(PE)結合マウスモノクローナル抗体と一緒にインキュベートした。マウスPE標識IgG1及びIgG2Bをアイソタイプ対照として用いた。PE標識した抗体はすべて、R&D systems(英国オクソン)から購入した。膜受容体発現はWinlist及びWinlist 32ソフトウエア(Verity Software House, Inc.、メイン州トップシャム)で解析して、解析したすべての細胞の平均蛍光強度(MFI)として示す。
【0250】
前記細胞におけるアポトーシスの誘導へのDR5の関与について、低分子干渉RNA(siRNA)によりDR5をノックダウンした細胞においてさらに評価した。ルシフェラーゼsiRNA処理細胞では、DR5表面発現及びDR5細胞タンパク質発現の強力なシスプラチン濃度依存的増加が観察されたが、DR5 siRNAは、30μMまでのシスプラチンの存在下でDR5の完全なダウンレギュレーションをもたらした(図2D及び2E)。さらに、DR5 siRNAは、やはりシスプラチンの存在下で、TRAIL及びTRAIL-DR5誘導性アポトーシスからA2780細胞を完全に保護した(図2F)。シスプラチンで前処理すると、TRAIL-DR5又はTRAILにより誘導されたアポトーシス及び細胞傷害性が強力に増強され、シスプラチンとTRAIL-DR5の組合せが最も有効であった。
【0251】
Eurogentec(Seraing、ベルギー)により、ヒトDR5に特異的なsiRNAを設計して、合成した。ヒトDR5に特異的な二本鎖siRNAは、5'GACCCUUGUGCUCGUUGUC-dTdT3'(センス)及び5'GACAACGAGCACAAGGGUC-dTdT3'(アンチセンス)とした。二本鎖ルシフェラーゼsiRNA配列は、5'CUUACGCUGAGUACUUCGA-dTdT3'(センス)及び5'UCGAAGUACUCAGCGUAAG-dTdT3'(アンチセンス)とした。製造者(Invitrogen-Life Technologies)の指示に従い、オリゴフェクタミントランスフェクション試薬を用いて、A2780細胞を6-ウェルプレート(30〜50%コンフルエントで)においてsiRNA二本鎖(133 nM)でトランスフェクトした。24時間後、培地を吸引し、細胞を回収してプレーティングした。次に、細胞を様々な濃度のシスプラチンに4時間暴露してから、PBSで洗浄し、通常の培地中で20時間インキュベートした。最後に、細胞を回収し、フローサイトメトリー又はウエスタンブロッティングに用いた。アポトーシスアッセイのために、TRAIL-DR5若しくは TRAIL(100 ng/ml)を含む又は含まない通常の培地中で細胞をさらに4時間インキュベートして、アクリジンオレンジアッセイによりアポトーシスを決定した。
【0252】
ウエスタンブロッティングのために、細胞を氷冷PBSで洗浄した後、10%2-βメルカプトエタノール含有のSDSサンプルバッファー(4%SDS、20%グリセロール、0.5M Tris-HCl、pH 6.8及び0.002%ブルモフェノールブルー)中で水浴中で5分煮沸することにより溶解させた。タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル上で分離し、ウェットブロッティングによりポリフッ化ビニリデン膜(Millipore BV、オランダ、エッテン・ルール)に転写した。ブロッキング剤36として脱脂粉乳を用いて、ウエスタンブロッティングを実施した。以下の抗体を使用した:Cell Signaling Technology(オランダ、エッテン・ルール)製のウサギ抗DR5抗体、及び同量のタンパク質ローディングのための対照として、ICN Biomedicals(オランダ、ズーテルメール)からのマウス抗アクチン。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)と結合した二次抗体はDAKO Cytomation(デンマーク、グロストラップ)から取得した。BMケミルミネッセンスブロッティング試薬(POD)又はLumi-LightPLUSウエスタンブロッティング基質Roche Diagnostics(オランダ、アルメール)を用いて、化学発光を検出した。
【0253】
[実施例3]腫瘍担持マウスにおける125I-TRAIL生体分布
静脈内(IV)及び腹腔内(IP)投与した125I-TRAILの組織生体分布及び腫瘍取り込みをIP A2780-Luc異種移植片を有するヌードマウスにおいて比較した。
【0254】
100μM硫酸亜鉛及び10%グリセロールを含むpH 7.4 TRISバッファー中1 mg/mlのTRAIL溶液で、TRAILの放射ヨウ素標識を実施した。45μgのTRAIL及び50μgのクロルアミンT(Merck、オランダ、アムステルダム)をpH 8.0で0.05 M NaOH(pH 9.0、GE Healthcare、オランダ、アイントホーフェン)中の70 MBq125I-NaIと3分反応させた。標識反応をメタ亜硫酸ナトリウム(Acros Organics、ベルギー、ヘール)で停止した。非結合125Iをゲル濾過クロマトフラフィーにより除去した。100μM硫酸亜鉛、10%グリセロール及び0.5%ヒト血清アルブミンを含むTRISバッファーで、PD-10カラム(Sephadex(商標)G-25M、Amersham Biosciences AB、スエーデン、ウプサラ)を溶離した。前記のように、IP A2780-Luc異種移植片を有するヌードマウスを作製した。
【0255】
A2780-Luc IP異種移植片の樹立後、in vivo生体分布試験を50匹のマウスにおいて実施した。125I-TRAIL(0.15 ml;150 kBq、0.5μg)を25匹のマウスには眼窩後注射により静脈内(IV)投与し、25匹には腹腔内(IP)投与した。注射後5つの時点(t=15、30、60、90及び360分)で、5匹ずつのグループのマウスを犠牲にし、器官及び組織を切除し、残留血液を洗い流してから重量を計測した。組織学的評価のために、腫瘍組織をさらに10%緩衝ホルマリン中で固定した。較正したウェル型LKB-1282-CompuGammaカウンターで放射能を計数した。組織活性は、組織g当たりの注射用量の百分率(%ID/g)として表す。また、腫瘍対血液比及び腫瘍対筋肉比も計算した。データはすべて、物理的減衰について補正した後、既知の標準サンプルと比較した。薬物反応速度パラメーターは、MW/PHARMコンピュータープログラムパッケージ(バージョン3.50、MediWare、オランダ、フローニンゲン)のKINFITモジュールを用いて取得した。非線形回帰分析を用いて、循環からの125I-TRAILのクリアランス速度を計算した。
【0256】
投与経路は125I-TRAILの分布に影響を与えた。血中活性(%ID/g)は、IV対IP注射から15分後(43.29 ± 11.04対25.30 ± 5.04)、及び30分後(30.51 ± 12.40対15.33 ± 3.78) で高かったのに対し、90分後(7.52 ± 1.22対23.74 ± 6.85)及び360分後(2.63 ± 0.56対8.26 ± 1.74)では低かった。血液中の125I-TRAILの血中反応速度は、2区画モデルにより説明することができる。得られた血中活性対時間プロフィール(図3A)は、IV投与後(53.7)よりIP投与後(89.8)の方が、高い時間曲線下面積(AUC)を示した。IP注射後、ピーク血中活性は、IV注射後より低いが、これより長時間にわたって、より高く維持している。腎臓取込み(%ID/g)は、血液プール活性と同じパターンを示し、IV投与に対してIP投与から15分後(199.2 ± 40.69対19.83 ± 1.38)及び30分後(126.6 ± 49.68対21.45 ± 1.90)で高い活性、90分後(12.73 ± 2.47対17.87 ± 1.28)及び360分後(2.06 ± 0.56対4.45 ± 0.31)で低い活性を示した。十分に灌流した器官、例えば、肺、肝臓及び脾臓の活性は、両方の投与経路で、血液プール活性と同様の反応速度を示した。胃活性は、経時的に上昇したが、これは、in vivo脱ハロゲン化による可能性がある。IP投与では、15分後(11.31 ± 1.51)及び60分後(12.91 ± 3.29)に高い腫瘍活性を示し、360分後まで徐々に減少するのに対し、IV投与後、初め低い腫瘍活性が60分後最大(6.85 ± 1.29 IV)まで上昇した。腫瘍対血液比は、IP投与から15分後(0.13 ± 0.02対0.48 ± 0.03)及び60分後(0.38 ± 0.04対0.55 ± 0.06)が高かった。腫瘍対血液比は、IP注射後、経時的に一定のままであり、IV投与後は経時的に上昇した(図3B)。
【0257】
IP投与後の腫瘍取込みが高いほど、125I-TRAILの効果増大をもたらしたのか否かを決定するために、125I-TRAIL注射から15分及び360分後に取得したパラフィン包埋腫瘍組織を切断型カスパーゼ-3について染色した。15分後に取得したサンプルには切断型カスパーゼ-3がほとんど検出されなかった(図4A、4B)が、360分後に取得した組織は、切断型カスパーゼ-3染色の増強を示した。IP投与は、腫瘍表面付近及び小血管付近でカスパーゼ-3活性化をもたらした(図5A)のに対し、IV投与は、血管付近で検出可能なカスパーゼ-3活性を誘導したが、腫瘍縁付近では誘導しなかった(図5B)。
【0258】
IP薬物投与についての理論的根拠は、血漿クリアランスを低減しながら、局所薬物暴露を高めることである。本発明者らは、IP TRAIL投与によって、曲線下面積が増大すると同時に、クリアランスが低下したことを示す。高い腎活性は、TRAILクリアランスの主要部位としての腎臓の機能を裏付けるものであるが、これは、IP投与によって影響されない。大部分の器官における活性は、血液プール活性の後に起こるが、これは、正常な組織への分布が限られていることを示している。
【0259】
本発明者らはまた、125I-TRAILの特異的腫瘍滞留が起こることも示している。これは、IV投与から60分後の最大腫瘍活性により明らかにされたが、他の全ての十分に灌流した器官での活性は15分後最大であった。IP投与は、腫瘍においてさらに高い活性、かつより高い累積腫瘍対血液比をもたらし、これは、IP TRAIL投与により、このモデルにおいてIV投与と比較して高い腫瘍薬物暴露が起こることを示している。さらに、低用量のTRAILのIP注射から6時間後、腫瘍の表層で切断型カスパーゼ-3を検出したが、これは、自由表面拡散によるTRAIL透過を示唆するものである。これは、IP投与後に制限的なIP腫瘍透過を示し、モノクローナル抗体より優れたTRAIL及びその変異体の可能性ある有利な点である。
【0260】
[実施例4]wtTRAIL及びDR5選択的TRAILによる卵巣癌細胞系の細胞死滅
卵巣癌細胞系A2780は、非常に低レベルのDR4を発現し、また高レベルの他の3つの膜結合TRAIL受容体を発現する。上記細胞の野生型TRAIL及びDR特異的変異体に対する感受性を最初に単一剤として比較した。感受性パターンを表6に表示するが、表中、+は最小限の感受性、++は中程度の感受性、+++は高い感受性を示す。
【0261】
A2780は、野生型TRAILに対するものと比較して、DR5選択的TRAILに対する高い感受性を示した。上記作用は、リガンドをシスプラチン化学療法(現在、卵巣癌の治療に用いられる活性薬剤である)と組み合わせて用いたときに増強された。この場合もまた、DR5選択的変異体は、wtTRAILより高い効果を示した。
【0262】
[実施例5]生物発光イメージングにより決定されるIP異種移植片に対するTRAIL、TRAIL-DR5及びシスプラチンのin vivo効果
ヒト卵巣癌細胞系A2780は、ヌードマウスにおいて癌性腹膜炎を模倣するIP異種移植片を形成する。HindIII及びXbaI制限酵素(Roche Applied Science、オランダ、アルメール)を用いて、A2780-Luc細胞系を作製した。ルシフェラーゼ遺伝子をpGL3-basic(Promega、ウィスコンシン州マディソン)から切り出し、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でpcDNA3ベクターに連結した。A2780細胞を70%コンフルエントまで培養し、250μlのOptiMem(Invitrogen、オランダ、ブレダ)中2.5μgのプラスミドDNA及び5μlのFugene6(Roche)と一緒にインキュベートすることによりトランスフェクトした。トランスフェクションから2日後、ジェネティシン(1 mg/ml)(Roche Applied Science、オランダ、アルメール)を添加することにより、トランスフェクト細胞を選択した。クローン原性アッセイの後、限界希釈による陽性クローンのサブクローニングによって、安定なトランスフェクト細胞を取得した。細胞系を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)(Bodinco BV、オランダ、アルカマール)及び0.1 M L-グルタミンを添加したRPMI 1640(Life Technologies、オランダ、ブレダ)中で、5%CO2を含む加湿空気において37℃で培養した。A2780-Luc培養物には、ジェネティシンを月1回添加した。ルシフェラーゼ発現について、ルシフェラーゼアッセイ(#E1500、Promega、オランダ、レイデン)及びBioRad ChemiDoc XRS system(BioRad、オランダ、フェーネンダール)で定期的に試験した。
【0263】
6〜8週齢(約21 g)の雌ヌードマウス(Hsd:Athymic Nude-nu)をHarlan Nederland(オランダ、ホルスト)から取得した。馴化から10日後に接種を実施した。すべての動物実験は、動物実験法(Law on Animal Experimentation)及び現地の指針に従い実施し、現地の倫理委員会により承認された。
【0264】
イメージングはIVIS 100シリーズ(Xenogen Corporation Alameda、カリフォルニア州)を用いて実施したが、これは、遮光ブラックチャンバーに接続した冷却CCD(cooled charge-coupled device)カメラから構成される。in vivoイメージング前に、マウスを4%イソフルランで麻酔し、無菌PBSで再構成したD-ルシフェリン(150 mg/kg、Xenopgen)をIP注射した。イメージングチャンバー内の温めた(37℃)台の上にマウスを俯位で配置した後、薄暗い照明の下でグレースケール標準画像を取得した。完全な暗所でD-ルシフェリン注射から10及び15分後、LivingImageソフトウエア(バージョン2.50、Xenogen)を用いて、生物発光強度を表す疑似カラー画像を取得した。これらの画像を、Igor Proソフトウエア(バージョン4.09、WaveMetirics、オレゴン)による解析のためにグレースケール画像に重ね合わせた。生物発光イメージング(BLI)データはすべてラジアンス単位(光子/秒/cm2/sr)で表示し、これにより、生物発光画像同士の絶対比較が可能になり、これらは、バックグラウンドシグナルを差し引いた後に得られた最終データを示している。
【0265】
TRAIL、TRAIL-DR5及びシスプラチン、又はTRAIL若しくはTRAIL-DR5のいずれかとシスプラチンの組合せを用いた処置に対するIP A2780-Luc異種移植片の応答を評価した。5日目の処置開始から最初の48時間以内に腫瘍退縮は肉眼で見えなかったが、第1処置期間の終了時(9日目)には目に見えて明らかになり、TRAIL又はTRAIL-DR5とシスプラチンの組合せでの処置後、最大のシグナル減少が見とめられた(図6A)。日が経つにつれ両方の処置で、シグナルは上昇した。TRAIL処置アーム以外の処置グループはすべて、ビヒクル処置グループと比較して、16日目で腫瘍が有意に小さくなった。これは、ビヒクル処置マウスに対する、平均シグナルの減少に現れており、TRAIL療法は有意な減少をもたらさなかった(48.8%、範囲32.8〜64.6%、p=0.097)が、TRAIL-DR5及びシスプラチンは、それぞれ68.3%(範囲61.8〜74.8%、p=0.015)及び72.3%(範囲59.8〜84.9%、p=0.009)の減少をもたらした。併用療法は極めて有効であった。シスプラチンと併用したTRAILは、84.8%(範囲73.5〜96.1、p=0.003)のシグナル強度の低下を引き起こし、TRAIL-DR5とシスプラチンの併用では、96.5%(範囲93.2〜99.4%、p=0.002)のシグナル減少が起こった。従って、すべての療法が、処置の終了時に有意な抗腫瘍活性を発揮し、併用療法が最も高い活性を示した。TRAIL-DR5とシスプラチンの併用療法後のシグナル強度の低下は、単独でのシスプラチン療法(p=0.027)後の平均光度低下より大きかった。
【0266】
一般に、処置終了時の光強度は、生存率とは逆相関している(図6B)。マウスは、生物発光シグナル≧3.1 x 108光子/秒/cm2/srに達したとき、犠牲にした。ビヒクル対照の生存中央値は16日であり、18日以降生存したマウスはいなかった。TRAIL及びTRAIL-DR5での単剤療法により、生存中央値が21日まで延長され(p<0.001)、シスプラチンでの単剤療法で、28日まで延長された(p<0.0001)。TRAIL-DR5とシスプラチンの併用により、31日の生存中央値(p<0.0001)、またTRAILとシスプラチンの併用により、32.5日(p<0.0001)が得られた。後者はまた、シスプラチン単剤療法と比較しても有意であった(p=0.038)。犠牲時の肝組織学では、肝損傷の何の徴候も示されなかった。
【0267】
[実施例6]DR-5特異的変異体の生物活性
DR5結合に関する生物活性を評価するために、様々な癌細胞を用いた。Colo205結腸癌細胞とML-1慢性骨髄性白血病細胞は、FACS解析を用いて示されるように(図7)、細胞表面上に4つのTRAIL受容体すべてを発現することから、TRAILが誘導するアポトーシスに対して感受性が高い。TRAILが誘導する細胞死へのDR4対DR5の関与を試験するために、Colo205細胞を中和抗DR4又は抗DR5抗体で1時間処理した後、TRAILを添加した。いずれの抗体も、TRAIL媒介性細胞死を低減し、組み合わせて用いると、相加作用を有した(図8A)。しかし、DR5中和抗体は、DR4中和抗体より3倍効果が高く、Colo205細胞におけるTRAIL誘導性アポトーシスが、主にDR5により媒介されていることを示している。対照的に、DR4経路は、ML-1細胞におけるTRAIL誘導性アポトーシスの主要メディエーターである(図8A)。DR5特異的TRAIL変異体が、DR5受容体を介してColo205細胞に細胞死を誘導するか否かを調べるために、リガンド処理の1時間前に1μg/mlの中和抗DR4又は抗DR5抗体を投与した。抗DR4抗体が存在すると、DR5特異的変異体により誘導される細胞死を阻止することができなかった。しかし、1μg/mlの抗DR5抗体は、細胞死の量を有意に低減した(図8B)。
【0268】
次に、TRAIL又はDR5特異的変異体D269H、D269HE195R、及びD269H/T214Rの濃度を増加しながら、これらでColo205及びML-1細胞を処理し、その細胞傷害能力を3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイで測定した。Colo205細胞において、TRAILリガンドはすべて生物学的に活性であり、野生型TRAILに匹敵するか又は野生型TRAILより5倍高い活性レベルで、細胞死を誘導した(図8C及び表3)。Colo205細胞とは対照的に、TRAILのみがML-1細胞において細胞死を誘導することができた(図8D)。
【0269】
DR4受容体のみを発現し、かつDR5受容体が欠失したEM-2慢性骨髄性白血病細胞を用いて、また、DR5を発現するが、その表面にDR4が欠失しており、しかもTRAIL誘導性細胞死に対して比較的非感受性である卵巣癌細胞系A2780を用いて、同様の結果が得られた。EM-2細胞は、TRAIL誘導性細胞死に対して感受性であった(50 ng/mlのTRAILで、>80%細胞死を起こす)が、DR5変異体のいずれで処理しても、有意な細胞死を誘導することができなかった(データは示していない)。しかし、A2780細胞においては、D269H、D269HE195R、及びD269HT214Rの細胞傷害活性が有意に増大し、野生型TRAILと比較して、最大応答の増大と、EC50値の顕著な低下を同時に示している(図8E及び表3)。
【0270】
DR4及びDR5媒介性細胞死の両方に応答性の野生型BJAB細胞(BJABwt)、DR5が欠失したBJAB細胞(BJABDR5 DEF)、並びにDR5が欠失し、かつDR5で安定にトランスフェクトしたBJAB細胞(BJABDR5 DEF+DR5)を用いた別の実験により、本発明者らの知見を確認する。D269HE195Rは、BJABwt細胞に細胞死を誘導することができたが、野生型TRAILと比較すると、BJABDR5 DEFに有意な細胞死を誘導することはできなかった。しかし、DR5でトランスフェクトしたBJABDR5 DEF+DR5細胞では、細胞傷害能力が回復した(図8F)。100 ng/ml TRAIL又はTRAIL変異体の存在下で上記細胞をインキュベートすることにより、非癌性ヒト臍静脈内皮細胞に対する上記TRAIL変異体の細胞傷害作用を評価した。しかし、TRAIL及び受容体選択的TRAIL変異体について、細胞傷害作用はまったく観察されなかった(データは示していない)。
【0271】
以上を考え合わせると、Colo205、ML-1、A2780、及びBJAB細胞系で得られた結果は、D269H、D269HE195R、及びD269H/T214R変異体の生物活性が、DR5受容体に対して特異的であること、また、上記TRAIL変異体は、結腸及び卵巣癌細胞系にアポトーシスを誘導する上で非常に効率的であることを示している。
【0272】
[実施例7]DR5選択的TRAIL変異体は、腫瘍細胞死滅においてより有効である
Colo205細胞は、4つのTRAIL受容体すべてを発現し、該細胞において主にDR5により媒介されるTRAIL誘導性アポトーシスに対して感受性である10。wtTRAIL及びDR5選択的TRAIL変異体(D269H、D269HE195R)に対するColo205細胞の応答を比較するために、10%ウシ胎仔血清、2 mM L-グルタミン、50 U/mlペニシリン及び5 mg/mlストレプトマイシン及び10 mMピルビン酸ナトリウムを添加したRPMI 1640培地中で、Colo205細胞を培養して、処理の24時間前に濃度2 x 105 細胞/mlで接種した(別に記載のない限り、試薬はすべてSigma-Aldrichから入手した)。細胞を37℃及び5%CO2の加湿空気中で培養し、2〜30 ng/mlのwtTRAIL、D269H又は D269HE195Rで3時間処理することにより、増殖応答曲線を決定した(図10A)。細胞死の誘導をアネキシンVアッセイにより測定したが、該アッセイでは、アネキシンV-FITC(IQ Corporation、オランダ、フローニンゲン)を用いて、アポトーシス細胞の形質膜上のホスファチジルセリン(PS)の外面化(extenalization)を検出した。簡単に説明すると、細胞をトリプシン処理した後、400 gでの遠心分離により回収し、氷冷カルシウムバッファー(10 mM HEPES/NaOH、pH 7.4、140 mM NaCl、2.5 mM CaCl2)で洗浄してから、アネキシンV-FITCと一緒に15分暗所でインキュベートした後、FACSCaliburフローサイトメトリー(Becton Dickinson)で取得した。
【0273】
図10Aに示すように、2つのDR5選択的TRAIL変異体は同様の細胞傷害能力を呈示し、これは、IC50値(用量応答曲線の直線範囲から決定される)に基づくwtTRAILの細胞傷害能力より2.7〜4.2倍高かった。また、wtTRAIL及びDR5選択的変異体に応答するカスパーゼ活性化も測定したところ、2.9〜4.1倍低い濃度のDR5-選択的変異体が、同じレベルのカスパーゼ活性を誘導するのに十分であることが明らかになった(図10B)。DR5選択的変異体により誘導されたより高いDEVDase活性は、ウエスタンブロッティングにより、同じ用量範囲のwtTRAIL及びDR5選択的変異体を用いた3時間の処理後に試験したより強力なプロカスパーゼ-8プロセシングと相関した。上記試験では、処理後、細胞を100μlの全細胞溶解バッファー(20 mM HEPES、pH 7.5、350 mM NaCl、1 mM MgCl2、0.5 mM エチレンジアミン-四酢酸(EDTA)、0.1 mMエチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N'N'-四酢酸(EGTA)、1% Igepal-630、0.5 mMジチオトレイトール(DTT)、100μmフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、2μg/mlペプスタチンA、25μM N-アセチル-Leu-Leu-Nle-CHO(ALLN)、2.5μg/mlアプロチニン及び10μMロイペプチン)において15分氷上で溶解させた。タンパク質サンプルをLaemmliサンプルバッファー中で変性し、5分煮沸した。タンパク質を10%SDS-PAGEにより分離して、ニトロセルロース膜に転写した。0.05%Tween20と5%(w/v)脱脂粉乳を含むPBS中で1時間かけて膜をブロッキングした。次に、膜をアクチンに対する抗体(1:500;Sigma)と一緒に室温で1時間インキュベートするか、又はカスパーゼ-3及び-8に対する抗体(1:1,000;Cell Signaling Technologies)と一緒に4℃で一晩インキュベートした。これに続き、適切な二次抗体(すべての抗体について1:5,000)と一緒に2時間のインキュベーションを室温で実施した。Supersignal Ultra Chemiluminescent Substrate(Pierce)を用いて、X線フィルム(Agfa)にタンパク質バンドを視覚化した。ウエスタンブロットの結果を図10Cに示す。
【0274】
Colo205細胞の場合と同じ添加物を含むDMEM中でA2780卵巣癌細胞を培養し、処理の24時間前に濃度3.5 x 105 細胞/mlで接種した。
【0275】
A2780癌細胞上でのTRAIL受容体の各々の細胞表面発現を決定するために、1%BSAを含むPBSで細胞を2回洗浄した後、DR4、DR5、DcR1又はDcR2に対するモノクローナル抗体(Alexis)と一緒に40分インキュベートした。PBS/BSAを用いた2回の洗浄ステップの後、抗マウスIgG-FITC(Sigma)二次抗体を30分かけて添加した。インキュベーションはすべて氷上で実施した。陰性対照には、アイソタイプ対照抗体を含有させた。細胞をFacsCaliburフローサイトメーターにより解析した。A2780癌細胞は、その表面に高レベルのDR5、DcR1、DcR2を発現するが、検出可能なDR4は発現しないこと、また、wtTRAILが誘導するアポトーシスに対して部分的に耐性であることがわかった(図11及び13A)。Colo205細胞と同様に、D269HE195Rは、A2780細胞においてwtTRAILより有効なアポトーシス誘導物質であるようだ。wtTRAILは、試験した最高濃度(250 ng/ml)でも、24.3±4.5%以上の細胞死を誘導することはできなかったが、10 ng/mlのD269HE195Rは、30.6±2.5%のアポトーシス(前記のようにアネキシンVアッセイにより測定した)を誘導するのには十分であった(図13A)。DEVDaseアッセイによるエフェクターカスパーゼ活性化の試験を行った。上記アッセイでは、細胞溶解物(25μl)をマイクロタイタープレートに移し、液体窒素により急速凍結した。反応を開始するために、アッセイバッファー(100 mM Hepesバッファー、10%スクロース、0.1% 3[(3コルアミドプロピル)-ジメチルアンモニオ]-1プロパンスルホネート(CHAPS)、5 mM DTT及び0.0001% Igepal 630、pH 7.25)中50μMのカスパーゼ基質カルボベンゾキシ-Asp-Glu-Val-Asp-AMC(7-アミノ-4-メチルクマリン)(DEVD-AMC)(Peptide Institute Inc.、日本国大阪)を細胞溶解物に添加した。Wallacマルチラベルカウンター(励起355 nm、発光460 nm)を用いて、遊離AMCの放出を起こす基質切断を37℃にて60秒間隔で25サイクルモニターした。酵素活性は、タンパク質mg当たり毎分放出されたnmolのAMC(nmol/分/mg)として表し、ウエスタンブロッティングによるプロカスパーゼ-8プロセシングでこの結果を確認した(図13B及び13C)。要約すると、DR5受容体の選択的活性化は、機能的DR5受容体を含む腫瘍細胞系におけるより多くの細胞死と相関するプロカスパーゼ-8プロセシングの増強をもたらしたが、このことは、アポトーシス促進能力の増強が、より効率的な受容体活性化に起因する可能性を示している。これは、DR5に対する高い親和性及び特異性と、デコイ受容体との結合の低減との組合せによるものと考えられる。この仮定を試験するために、前記変異体とDcR1及びDcR2の相互反応を試験した。
【0276】
[実施例8]DR5選択的変異体は、DcR2と比べ、DcR1に対する結合の効率が低い
表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく受容体結合アッセイを実施して、固定化DcR1-Ig及びDcR2-Ig融合タンパク質に対するwtTRAILの結合親和性を、D269H及びD269HE195Rの結合親和性と比較した(図12)。結合実験は、以前記載されている10ように、表面プラズモン共鳴に基づくバイオセンサー(Biacore 3000、Biacore AB、スエーデン、ウプサラ)を用いて、37℃で実施した。簡単に説明すると、プロテインA(Sigma)修飾CM5センサーチップ(Biacore)を用いて、DcR1-Ig及び DcR2-Ig受容体キメラ(R&D Systems)を流速35μl/分で捕捉した。受容体キメラは約500〜800応答単位(RU)のレベルで捕捉した。精製済wtTRAIL及びTRAIL変異体は、泳動用及びサンプルバッファーとして、0.005%vol/vol P20(Biacore)を添加したPBS(pH 7.4)(Invitrogen)を用いて、流速70μl/分で250 nM〜2 nMの範囲の濃度で3重(three-fold)に注入した。受容体へのリガンドの結合をリアルタイムでモニターした。注入と注入の間に、30sパルスの0.1 Mグリシン、0.5 M NaCl pH3を用いて、プロテインAセンサー表面を再生した。TRAIL受容体複合体の解離が非常に緩徐であったため、前定常状態の結合データしか得ることができなかった。適切な高親和性複合体形成を示すデータを得るために、各濃度での応答を注入終了から30秒後に記録した。TRAIL濃度の関数としての応答データ(応答単位で表す)を、4パラメーター方程式を用いてフィッティングすることにより、見かけ前定常状態親和定数を取得した。
【0277】
0.1〜250 nMの範囲の濃度で受容体結合を測定することにより、リガンドの親和性を評価した。DcR1に対するD269H及びD269HE195Rの結合は、wtTRAILと比較すると、約20倍低かった(図12A)。DcR2に対するD269H及びD269HE195Rの結合も低かったが、観察されたDcR1との結合の低下と比較すると、作用ははるかに小さかった(図12B)。
【0278】
デコイ受容体のアンタゴニスト作用をさらに評価するために、可溶性の組換えDcR1-Ig(sDcR1)及び DcR2-Ig(sDcR2)の濃度を増加しながら、これらと一緒に、wtTRAIL、D269H及びD269HE195Rを30分インキュベートした後、最終リガンド濃度10 ng/mlでColo205細胞培養物に添加した。前記のように、細胞死の誘導を処理から3時間後にアネキシンVアッセイにより評価した(図14)。0.5μg/mlのsDcR1を含むwtTRAILのプレインキュベーションは、そのアポトーシス促進活性を完全に遮断した。これに反して、sDcR1との D269H又はD269HE195Rのプレインキュベーションは、用いた最も高い濃度(2μg/ml、図14A)でも、そのアポトーシス促進活性を低減することはできなかった。sDcR2とのプレインキュベーションは、sDcR1と同様、wtTRAILによるアポトーシス誘導を遮断することができた。sDcR2はまた、D269Hにより誘導されたアポトーシスも遮断することができたが、wtTRAILの場合より2倍高い濃度でしか達成しなかった。sDcR2は、D269HE195Rに対しては有効性がさらに低く、用いた最も高い濃度でも、完全な保護を達成することはできなかった(図14B)。対照的に、可溶性DR5とのDR5選択的変異体のプレインキュベーションは、そのアポトーシス促進活性の完全な遮断を達成した(図14C)。これにより、観察された遮断効果の差は、デコイ受容体がD269H及びD269HE195Rに結合して、これらを阻害する能力の低減によるものであることが確認される。
【0279】
前記の結果は、DcR1及びDcR2に対する中和抗体の濃度を増加しながら、これらと一緒に、Colo205細胞を1時間プレインキュベートした後、約50%細胞死を誘導した用量のwtTRAIL(20 ng/ml)又はD269HE195R(4 ng/ml)で処理することにより、確認した。前記のように、染色アネキシンVアッセイを用いて、処理から3時間後にアポトーシス細胞死を測定した(図15)。アポトーシスの増加は、中和抗体の非存在下で、リガンド単独によって起こったアポトーシスのレベルと比較した増加倍率として表した。細胞をDcR1中和抗体で前処理したところ、wtTRAIL処理細胞では1.51±0.15倍のアポトーシス増加が検出されたが、D269HE195R処理の場合、増加はまったく見られなかった。DcR2の中和により、wtTRAIL誘導性アポトーシスに1.22±0.07倍の増加が起こったが、D269HE195R処理後のアポトーシスの増加はまったくなかった。DcR1及びDcR2に対する中和抗体を組み合わせると、wtTRAIL誘導性細胞死には、さらにほぼ相加的な1.68±0.12倍の増加が起こったが、D269HE195Rでは見られなかった(図14D)。これらの結果は、wtTRAILがアポトーシスを誘導する能力は、細胞表面に発現したデコイ受容体により有意に制限されることを指摘している。対照的に、DR5選択的TRAIL変異体は、デコイ受容体による封鎖(sequestration)を回避することができ、従って、より高いアポトーシス促進能力を呈示する。
【0280】
以前の研究から、デコイ受容体発現は、全細胞発現、又は細胞表面上のいずれでも、TRAIL感受性と相関しないことがわかっている。これは、アポトーシスの細胞内阻害物質(c-FLIP、Bcl-2、リン酸化Aktなど)の存在又は受容体のコンパートメント化20によるものと考えられる。最新の研究の結果から、DcR1及びDcR2の中和により、TRAIL誘導性アポトーシスを増大させることができる(Colo205においてDcR1及びDcR2中和により、それぞれ1.5倍及び1.2倍)ことがわかった。言い換えれば、デコイ受容体の存在下で、wtTRAILのアポトーシス誘導能力は、Colo205細胞において約40%(100%/(1.5+1.2))低減する。これは、内在的に発現したデコイ受容体が、wtTRAILのアポトーシス誘導能力を制限することを示す最初のデータである。しかし、デコイ受容体を中和しても、D269HE195Rが誘導するアポトーシスを低減することはできず、これもやはり、DR5変異体が、デコイ受容体により媒介される中和を回避することができることを示している。高濃度の可溶性DcR2は、D269HE195Rの活性を制限することができるが、細胞表面に発現したDcR2は、D269HE195Rによるアポトーシス誘導を低減するのに十分ではなかった。これは、可溶性組換えFc融合受容体と比較して、DR5:DcR2比の違い、又は全長の表面発現DR5及びDcR2の構造の違いによるものであろう。
【0281】
本発明者らの結果は、Clancyらにより提案されたリガンド非依存的モデル21を排除することはできないが、Merinoらにより提案されたリガンド依存的モデル22の方を支持するものである。1受容体に対するその選択性によって、DR5選択的変異体は、DR5とデコイ受容体同士の非機能的ヘテロマー複合体ではなく、むしろホモマーDR5複合体の形成を選択し、このことが、リガンドのアポトーシス促進活性を増強すると推測することができる。
【0282】
[実施例9]DR5選択的変異体は、非形質転換細胞に対して毒性ではない
TRAILから非形質転換細胞を保護する上でのデコイ受容体の重要性は多数の報告37により示されている。従って、非癌細胞に対するDR5選択的変異体の毒性作用を評価した。10%ウシ胎仔血清、50 U/mlペニシリン及び5 mg/mlストレプトマイシンを添加した低グルコースDMEM(Sigma)中でヒト皮膚線維芽細胞を増殖し、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC、PromoCell)をSuplementMix(PromoCell)と一緒に内皮細胞増殖培地中で培養した。線維芽細胞及びHUVEC細胞を1.3x105細胞/mlで接種してから24時間後に、TRAIL並びにDR5選択的変異体、すなわち、D269H及びD269HE195R(50〜500 ng/ml)の濃度を増加しながら、これらを用いて24時間処理した後、MTTアッセイを用いて細胞生存率を測定した。上記アッセイでは、200 μg/mlのMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムブロミド)を対照細胞及び処理細胞に添加した後、37℃で3時間インキュベートした。反応を停止させ、形成された紫色のホルマザン沈殿物を、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて溶解させ、Wallacマルチラベルカウンターにより550 nmで色の強度を測定した。非処理細胞に対応する対照値を100%として、処理サンプルの生存率を対照の百分率として表した(図15)。wtTRAIL及びDR5選択的変異体のいずれも、ヒト線維芽細胞(図15A)又は内皮細胞系HUVECの一次培養物における細胞生存率に何の影響ももたらさなかったが、これは、TRAIL誘導性アポトーシスから非癌細胞を保護する上で、デコイ受容体には限定された役割しかないことを示している(図15B)。
【0283】
[実施例10]DR5選択的変異体は、wtTRAILの17倍速くDR5を活性化する
デコイ受容体の中和により、wtTRAILのアポトーシス誘導能力は1.68倍増加したが、この増加だけでD269HE195Rの2.7〜4.2倍高いアポトーシス促進活性を十分に説明することはできない。D269HE195Rは、wtTRAILより低い濃度で、より強力なプロカスパーゼ-8プロセシングを誘発するが、これは、DR5を活性化する能力の増強を示している。wtTRAIL及びD269HE195Rが細胞死誘導TRAIL受容体を活性化する能力を比較するために、Colo205細胞を濃度30 ng/mlのリガンド(この濃度で、wtTRAIL及びD269HE195Rの両方が最大の細胞死を誘導する)と一緒に様々な時間(5〜180分)インキュベートした後、リガンドを洗い流して、合計180分まで通常の増殖培地でインキュベーションを続けてから、細胞を回収し、これを受容体活性化のマーカーとしてプロカスパーゼ-8プロセシングを測定した。D269HE195Rでの処理により、インキュベーションから5分後、すでに有意なプロカスパーゼ-8プロセシングが起こったが、wtTRAILによる同等レベルのプロカスパーゼ-8プロセシングに達するのには60分を要した(図16A)。
【0284】
受容体活性化の反応速度高速化は、アポトーシス誘導に現れた。Colo205細胞を30 ng/mlのwtTRAIL又はD269HE195Rで表示時間処理した後、リガンドを洗い流して、合計240分まで通常の増殖培地でインキュベーションを続けた。細胞を回収し、前記のように、アネキシンV標識で細胞死を定量した(図16B)。ソフトウエアMatlabRを用いて、データを補間スプラインでフィッティングした。フィッティング曲線から、50%効果に必要なインキュベーション時間は、wtTRAILについては60.81分であると決定された。D269HE195Rのこの値は、3.55分であり、これは、D269HE195Rによる受容体活性化がwtTRAILより17倍速く起こることを示している。このことは、異種受容体が細胞内に存在するか、又は異種受容体がTRAILとリガンドの連結後に形成されうる(すなわち、DR4-DR5-DcR1の複合体)と想定すれば、設計変異体のより高速な結合反応速度、及び/又はより効率的な結合の結果であると考えられる。後者の想定の場合、設計した変異体は、選択的にDR5受容体のみと複合体を形成するため、効率的な活性化を誘導するであろう。
【0285】
こうした高速の受容体活性化が、wtTRAIL及びD269HE195Rの両リガンド間の受容体活性化の能力の差ではなく、むしろwtTRAILと比較して、D269HE195Rによる受容体結合が速いことによるものであったのか否かを判定するために、Colo205細胞をwtTRAILと一緒に5〜10分、プレインキュベートし、洗浄した後、D269HE195Rを上記細胞に添加し、さらに5〜10分(細胞死を誘導するのに十分な時間)インキュベートしてから除去した。次に、細胞を通常の増殖培地において合計180分までインキュベートした後、細胞死のレベルを決定した(図16C)。結果から、wtTRAILとのプレインキュベーションは、二重変異体によるアポトーシス誘導に影響を与えなかったことが明らかにされた。wtTRAILによるアポトーシス誘導の低速反応速度が、4つの受容体との不活性異種複合体の形成によるものであり、受容体との結合が遅かったからでないのであれば、変異体による完全な阻害を予想したであろう。反対に、wtTRAILの結合反応速度が非常に遅いのであれば、短いインキュベーション時間では、結合受容体はほとんど形成されず、従って、D269HE195Rの高いアポトーシス促進能力の阻害も起こらないであろう。明らかに本発明者らの結果は、後者の仮定を支持するものである。
【0286】
得られた結果は、wtTRAILとの5又は10分のいずれのプレインキュベーションでも、D269HE195R誘導性アポトーシスを阻害することができなかったため、D269HE195Rは、wtTRAILより高速の反応速度でDR5に結合することを示している。こうした結果はまた、2つのリガンドがアポトーシスを誘導する能力の差は、受容体との結合後に該受容体を活性化する能力の差によるものではないことも示している。
【0287】
[実施例11]TRAIL及びDR5選択的変異体は、Colo205細胞、及びColo205細胞の接種により誘導された腫瘍において、アスピリンとの高い相乗作用を発揮する
様々な化学療法剤が、TRAILに対する腫瘍細胞の感受性を高めることが報告されており、これは往々にしてDR5の誘導と相関していた。しかし、こうした療法の多くは、デコイ受容体の発現も誘導するため、誘導される細胞死の相乗作用の程度/量を制限する可能性がある。このようなモデルにおけるDR5選択的変異体D269HE195Rの効力を試験した。Colo205細胞におけるアスピリンとwtTRAIL又はD269HE195Rの併用効果を試験した(図22)。TRAIL受容体発現及びカスパーゼ活性化の誘導に対するアスピリンの作用をモニターした。5mMアスピリンでの処理は、DR5の発現増大、同様に、細胞表面のDcR1及びDcR2の発現増大を招いた(図22A)。アスピリンを用いた24時間の処理で、wtTRAILに対する細胞の感受性は増大したが、D269HE195Rとの方が増感ははるかに顕著であった。こうした結果は、高親和性TRAIL変異体による選択的受容体活性化が、腫瘍細胞死滅の顕著な増大をもたらすことを強調している。
【0288】
アスピリンとTRAILの相乗作用、並びにwtTRAIL及びD269HE195Rの相乗作用間の差を調べるために、さらにin vivo実験を実施した。
【0289】
第1の実験では、2つの濃度のColo205細胞を接種に用いた。腫瘍増殖を6週間にわたり追跡した。用いた濃度は、200μlの培地中2x106及び5x106細胞であった。腫瘍増殖を図20に示す。2x106細胞を接種したマウスは多量の腫瘍増殖を被らず、腫瘍は平均体積約80 mm3に達した。5x106細胞から出発した腫瘍は、かなり大きな腫瘍、平均体積約750 mm3を形成した。さらに別の実験のために、上記最後の濃度を接種に用いた。
【0290】
副作用を起こさず、かつ、TRAILと併用することができる濃度を決定するために、アスピリンのみを用いて、第2の試験を実施した。この実験では、2つの濃度(40及び200 mg/kg)のアスピリンを用いた。いずれも、2日をはさんで2x5日の期間にわたり投与した。図21はこの実験から得たデータを示す。グラフからわかるように、2つの濃度又は対照グループの間に作用の差はなかった。また、いずれの濃度でも副作用は見られなかった。併用試験のために、200 mg/kgのアスピリンを用いた。
【0291】
第3の実験では、TRAILとアスピリンの併用を試験した。wtTRAIL及びDR5特異的D269HE195Rの両方を用いた。両者とも、1 mg/kg及び5 mg/kgの用量で試験し、日用量のアスピリン(タンパク質と同じ注射器で)と一緒に、2x5日(1〜5日目と8〜12日目)にわたって腹腔内注射により投与した。データは13日目までしか示していない。というのは、変動(fluctuation)があまりにも多く、その翌日にマウスは死んだからである。
【0292】
図24からわかるように、2つの濃度のwtTRAILのいずれも、抗腫瘍作用をもたらさないが、変異型TRAILでの治療では腫瘍増殖が低減している。図24は、単独及び併用療法における、両用量のwtTRAILの作用を示す。
【0293】
wtTRAILのいずれの濃度でも、wtTRAILとアスピリンの併用の相加作用があるようだ。図25は、D269HE195Rとアスピリンとの併用の作用を示す。最低濃度のTRAILについてはアスピリンとの併用の相加作用があるようだが、5 mg/kgのTRAIL用量の場合、この作用は見られない。恐らく、5 mg/kgのD269HE195Rにより生じた作用が、この用量で達成することができる最大の作用であるためであろう。
【0294】
独立サンプルt検定を用いて、統計検定を実施し、これらの実験をグループ当たり非常に少数のマウス(<5)で実施したときでも、WT 5 mg/kgとWT 5 mg/kg+アスピリンの間、並びにWT 5 mg/kgとD269HE195R 5 mg/kgとの間に、有意性が見とめられた。
【0295】
[実施例12]wtTRAIL及びDR5選択的TRAILによる3種の結腸癌細胞系の細胞死滅
3種の結腸癌細胞系、すなわち、Colo205、LoVo及びSW948を用いた。上記3種の細胞系はすべて、4つの膜結合TRAIL受容体を発現する。最初に、wtTRAIL及びDR5特異的変異体D269HE195Rに対するこれらの細胞の感受性を単剤として比較した。感受性パターンを表4に示す。表中、+は最小限の感受性を、++は中程度の感受性、そして+++は高い感受性をそれぞれ示す。
【0296】
Colo205及びLovoは、wtTRAILと比較して、DR5選択的変異体に対する高い感受性を示した。SW948細胞は、比較したwtTRAILに対して、高い感受性を示した。さらに別の試験により、SW948細胞は、主にDR4受容体を介して、細胞死誘導シグナルを選択的に伝達することが示された(データは示していない)。
【0297】
現在使用されている化学療法剤、すなわち、5-フルオロウラシル及びアスピリンを、wtTRAIL及びDR5選択的変異体と併用して試験した。Colo205及びLovo細胞において、5-FU及びアスピリンの両方が、wtTRAIL及びDR5選択的変異体により誘導されるアポトーシスを増強した(図24、27、28及び33〜36)。
【0298】
[実施例13]TRAIL及びDR5選択的変異体は、Colo205細胞及びColo205細胞の接種により誘導された腫瘍において、アスピリンとの高い相乗作用を発揮する。
【0299】
様々な化学療法剤が、TRAILに対する腫瘍細胞の感受性を高めることが報告されており、これは往々にしてDR5の誘導と相関していた。しかし、こうした療法の多くは、デコイ受容体の発現も誘導するため、誘導された細胞死の相乗作用の程度/量を制限する可能性がある。このような一モデルにおけるDR5選択的変異体D269HE195Rの効力を試験した。Colo205細胞におけるアスピリンとwtTRAIL又はD269HE195Rの併用効果を試験した(図18)。TRAIL受容体発現及びカスパーゼ活性化の誘導に対するアスピリンの作用をモニターした。5 mMのアスピリンでの処理により、DR5の発現の増大、同様に、細胞表面でのDcR1及びDcR2の発現の増大が起こった(図18A)。アスピリンとの24時間の処理で、wtTRAILに対する細胞の感受性は増大したが、D269HE195Rによる増感の方がはるかに顕著であった(図18B)。以上の結果は、高親和性TRAIL変異体による選択性受容体活性化が、腫瘍細胞死滅の顕著な増大をもたらすことを強調するものである。
【0300】
アスピリンとTRAILの相乗作用、並びにwtTRAIL及びD269HE195Rの相乗作用の差を調べるために、別のin vivo実験を実施した。
【0301】
第1の実験では、2つの濃度のColo205細胞を接種に用いた。腫瘍増殖を6週間にわたり追跡した。用いた濃度は、200μlの培地中2x106細胞及び5x106細胞であった。腫瘍増殖を図19に示す。2x106細胞を接種したマウスは多量の腫瘍増殖を被らず、腫瘍は平均体積約80 mm3に達した。5x106細胞から出発した腫瘍は、かなり大きな腫瘍、平均体積約750 mm3を形成した。さらに別の実験のために、後者の濃度を接種に用いた。
【0302】
副作用を起こさず、かつ、TRAILと併用することができる濃度を決定するために、アスピリンのみを用いて、第2の試験を実施した。この試験では、2つの濃度(40及び200 mg/kg)のアスピリンを用いた。いずれも、2日をはさんで2x5日の期間にわたり投与した。図20はこの実験から得たデータを示す。グラフからわかるように、2つの濃度又は対照グループとの間に作用の差はなかった。また、いずれの濃度でも副作用は見とめられなかった。併用試験については、相加作用がいくらかでもあれば、それを確実に観察できるようにするため、200 mg/kgのアスピリンを用いた。
【0303】
第3の実験では、TRAILとアスピリンの併用を試験した。wtTRAIL及びDR5選択的D269HE195R TRAILの両方を用いた。両者とも、1 mg/kg及び5 mg/kgの用量で試験し、日用量のアスピリン(タンパク質と同じ注射器で)と一緒に、2x5日(1〜5日目と8〜12日目)にわたって腹腔内注射により投与した。データは13日目までしか示していない。というのは、変動(fluctuation)があまりにも多く、その翌日にマウスは死んだからである。
【0304】
図21からわかるように、2つの濃度のwtTRAILのいずれも、抗腫瘍作用をもたらさない。両濃度の変異型TRAILは、腫瘍増殖に対しある程度の正の作用をもたらすようだ。図23は、単剤及び併用療法における、両用量のwtTRAILの作用を示す。
【0305】
wtTRAILのいずれの濃度についても、wtTRAILとアスピリンの併用の相加作用があるようだ。図24は、D269HE195R TRAILとアスピリンの併用の作用を示す。最低濃度のTRAILについては、アスピリンとの併用の相加作用があるようだが、5 mg/kgのTRAIL用量の場合、この作用は見られない。恐らく、5 mg/kgのD269HE195R TRAILにより生じた作用が、この用量で達成することができる最大の作用であるためであろう。
【0306】
独立サンプルt検定を用いて、統計検定を実施したが、有意性は、WT 5 mg/kgとWT 5 mg/kg+アスピリンとの間、並びにWT 5 mg/kgとD269HE195R 5 mg/kgとの間にしか見とめられなかった。
【0307】
[実施例14]wtTRAIL及びDR5選択的TRAILによる3種の結腸癌細胞系の細胞死滅
3種の結腸癌細胞系、すなわち、Colo205、LoVo及びSW948を用いた。上記3細胞系はすべて、4つの膜結合TRAIL受容体を発現する。最初に、wtTRAIL及びDR5特異的変異体D269HE195Rに対する上記細胞の感受性を単剤として比較した。感受性パターンを表4に示す。表中、+は最小限の感受性を、++は中程度の感受性、そして+++は高い感受性をそれぞれ示す。
【0308】
Colo205及びLovoは、wtTRAILと比較して、DR5選択的変異体に対する高い感受性を示した。SW948は、比較したwtTRAILに対して、高い感受性を示した。別の試験により、SW948は、主にDR4受容体を介して、細胞死誘導シグナルを選択的に伝達することが示された(データは示していない)。
【0309】
現在使用されている化学療法剤、すなわち、5-フルオロウラシル及びアスピリンを、wtTRAIL及びDR5選択的変異体と併用して試験した。Colo205及びLovo細胞において、5-FU及びアスピリンの両方が、wtTRAIL及びDR5選択的変異体により誘導されたアポトーシスを増強した(図17、22、25、26及び31〜34)。SW948細胞では、5-FUは、DR5選択的変異体に対してではなく、wtTRAILに対する感受性を増強した(図27〜30)。興味深いことに、アスピリンは、SW948細胞におけるDR5選択的変異体の作用を増強したが、これは、化学療法剤が細胞においてDR5感受性をモジュレートすることができることを示している。
【0310】
結腸癌Colo205異種移植片において、単独及びアスピリンと併用したTRAIL-DR5対TRAILの抗腫瘍効力を決定するために、最初に、腫瘍増殖特性をマウスに樹立し、第2試験において、Colo205異種移植片を担持するマウスにおいてTRAIL及びTRAIL-DR5を試験した。実験により、TRAIL-DR5に対するColo205異種移植片の優れた応答、また、TRAILに対してはそれより低い応答が証明された。マウス及び腫瘍の病理学的解析により、商業的に入手したマウスは、良好な状態ではなかったことが示された(データは示していない)。
【0311】
[実施例15]wtTRAIL及びDR5選択的TRAILによる3種の子宮頸癌細胞系の細胞死滅
3種の子宮頸癌細胞系:HeLa、Caski及びSiHaを用いた。上記3種の細胞系はすべて、4つの表面発現TRAIL受容体すべてを発現する。初めに、wtTRAIL及びDR5特異的/選択性変異体D269HE195Rに対する上記細胞の感受性を単剤として比較した。感受性パターンを表5に示す。表中、-は耐性、+は最小限の感受性、++は中程度の感受性、+++は高い感受性をそれぞれ示す。
【0312】
HeLa及びCaski細胞はいずれも、DR5選択的変異体及びwtTRAILに対して同様の感受性を示した(図40〜43及び48〜51)。反対に、SiHa細胞は、wtTRAIL及びDR5選択的変異体の両方に対して耐性であった(図44〜47)。
【0313】
子宮頸癌の一般的療法は、放射線療法及びプロテオソーム阻害(ボルテゾミブ(Bortezomib))である。放射線療法及びボルテゾミブの両方をwtTRAIL及びDR5選択的変異体と併用して試験した。いずれの物質も、wtTRAIL及びDR5選択的変異体により誘導されるHeLa細胞におけるアポトーシスを増強した。放射線療法には、SiHa及びCaski細胞において増強作用がなかったが、ボルテゾミブとwtTRAIL及びDR5選択的変異体との併用により、腫瘍細胞死が増大した。増感が検出されたすべてのケースで、増感の程度は、wtTRAILより DR5選択的変異体の方が高かった。
【0314】
単独並びに放射線療法と併用したTRAIL-DR5対TRAILの抗腫瘍効力を決定するために、生物発光HeLa異種移植片を樹立した。ルシフェラーゼ陽性HeLa細胞系を産生させることにより、皮膚を通して目に見えるようになる前に、マウスにおける腫瘍増殖の開始をモニターできるようにした(データは示していない)。
【0315】
[実施例16]TRAIL及びDR5選択的変異体は、非形質転換細胞に対して毒性ではない
TRAILから非形質転換細胞を保護する上でのデコイ受容体の重要性は、多くの報告により提唱されている。従って、非癌細胞に対するR5選択性変異体の毒性作用を評価した。前記のように、ヒト皮膚線維芽細胞及びヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)細胞を、wtTRAIL並びに DR5選択的変異体、D269H及びD269HE195Rの濃度を増加しながら(50〜500 ng/ml)、これらで24時間処理した後、MTTアッセイを用いて細胞生存率を測定した(データは示していない)。wtTRAIL又はDR5選択的変異体のいずれも、ヒト線維芽細胞(図37A)又は内皮細胞系HUVEC(図37B)の一次培養物において細胞生存率に何の影響ももたらさなかった。
【0316】
[実施例17]DR5特異的TRAIL変異体のさらなる特性決定
アミノ酸114〜281を含む、ヒトTRAILの細胞外ドメインの部位指定変異誘発により、設計TRAIL変異体を作製した。TRAILタンパク質はすべて、大腸菌において組換え可溶性タンパク質としてpET15bから産生され、3つのクロマトフラフィーステップ15で精製した。精製タンパク質は、ELISAアッセイ、及び表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いた前定常状態手法で、各種受容体に対する結合について、さらには様々なTRAIL受容体発現パターンを有する細胞型において細胞死を誘導するその能力により、特性決定した。
【0317】
数種のDR5特異的変異体を設計し、特性決定したが、その中に変異体D269HE195R10も含まれる。図35に示すように、この変異体では2つのアミノ酸変化がTRAIL及び受容体の界面に起こる。残基E195及びD269の位置をTRAIL及びDR5の三量体−三量体複合体の平面図及び側面図に示す。
【0318】
図35Aは、TRAILが固定化TRAIL受容体に結合するときの典型的センサーグラムを示す。特に低濃度で、曲線は有意な解離を示していない。別の実験では、2,000秒までの時間にわたり解離を継続したが、同様の結果であった。結果として、解離速度定数を得ること、従って、結合及び解離速度定数から親和性を計算することは実質的に不可能である。そのため、データを解析するのに、前定常状態手法10を用いることを選択した。固定化受容体に結合するwtTRAILの能力と比較した、上記変異体の能力のSPR解析を図35Bに表す。結合試験は、設計が見事に成功したことを示している。すなわち、DR5-Igに対するD269HE195Rの親和性は数倍も増大しているが、DR4-Igに対する親和性はほとんど脱落している。こうした2つの変化により、上記変異体は、高い選択性及び親和性でDR5に結合するTRAIL変異体になっている。
【0319】
D269HE195RのDR-5選択性は、癌細胞系でも明らかにされた。図40に、結腸癌細胞系Colo205において、D269HE195Rのアポトーシス活性をwtTRAILと比較して示すが、ここで、生存細胞は、可溶性テトラゾリウムに基づくMTS増殖試薬(Promega)で染色した。Colo205細胞は、主にDR5受容体を介してTRAIL誘導性アポトーシスに対し感受性である。実際、変異体D269HE195Rは、wtTRAILに必要な濃度の数倍低い濃度で、効率的である。効率の増加は、用量応答曲線により明らかにされただけではなく、時間に関しても観察することができる。図41には、25 ng/mlのwtTRAIL又はD269HE195Rで処理後のColo205細胞における細胞死の誘導を時間に関して示す。明らかに、細胞死の誘導は、DR5特異的変異体の方が速く進行する。D269HE195Rの性能の方が良好であることは、アポトーシス特異的アッセイ、例えば、アネキシンV染色及びカスパーゼアッセイ39でも証明することができる。数種の別の細胞系を試験したところ、DR5感受性細胞系、例えば、ヒト卵巣癌細胞系A2780及びバーキット様リンパ腫細胞系BJABにおいて効率の改善が得られたが、実質的にDR4応答性である細胞系、例えば、慢性骨髄性白血病細胞系ML1及びEM-210には、ほとんどアポトーシスを観察することができなかった。
【0320】
ヒト卵巣A2780細胞の腫瘍を担時する、異種移植胸腺欠損ヌードマウスを用いた試験は、フローニンゲン大学医療センター(University Medical Centre Groningen34)のSteven de Jong及びLiesbeth de Vriesのグループにより実施された。
【0321】
[実施例18]リガンド−受容体相互作用の数学モデル
D269HE195Rの高速受容体結合反応速度のメカニズムを調べるため、また、アポトーシスの誘導に対する各細胞死誘導受容体及びデコイ受容体の寄与について分析することができるように、数学モデルを用いて、リガンド−受容体相互作用をシミュレートした。モデルは、Colo205細胞をwtTRAIL又はDR5変異体に暴露した際に該細胞の表面に起こる相互作用をシミュレートする。上記モデルは、リガンド(wtTRAIL又はD269H/E195R)と受容体の結合を段階的に説明し、ホモマー受容体複合体(例えば、TRAIL-3DR5)及びヘテロマー受容体複合体(例えば、TRAIL-2DR5-DcR2)両方の形成を可能にする。
【0322】
細胞表面上でのTRAIL及びD269HE195Rの受容体結合は、起こりうるあらゆる結合事象を説明する数学モデルを用いて、シミュレートした。ホモマー受容体複合体(例えば、TRAIL-3DR5)及びヘテロマーリガンド−受容体複合体(例えば、TRAIL-2DR5-DcR2)両方の形成が達成され、結合は段階的にシミュレートした。単量体DR4、DR5、DcR1及びDcR2受容体に結合するTRAILについて測定された結合速度及び解離速度は、Leeらの報告40から取得した。一般的に用いられる二量体TRAIL-受容体-IgG Fcキメラ構築物とは対照的に、Leeらは、単量体TRAIL-受容体構築物を使用した。これにより、段階的な結合定数を導き出し、また、「結果」に詳細に記載するように、ヘテロマー受容体-リガンド相互作用をモデル化することができた。単一のリガンド結合受容体から、2つのリガンド結合受容体を介して、三量体リガンドが結合した3つの受容体からなる複合体に到る段階的定数を以下のように推定した。Leeらにより報告されたKonを第1結合事象に割り当てた。第1結合段階は、非結合状態から結合状態に移行する際の自由の回転度減少のために、エントロピー的に最も不都合なものである。第1段階における上記エントロピーペナルティーを補償するために、第2及び第3段階のKonを2 kcal/モルずつ高くした。報告されたKoffを第3段階に割り当てた。第2及び第3段階に存在するアビディティ作用(2つ又は3つの受容体に結合したTRAIL)を補償するため、第2及び第1段階のKoffをそれぞれ10倍及び100倍高くした。見かけ解離速度に対するアビディティの作用は、2つの代わりに3つの受容体サブユニットより、1つの代わりに2つの受容体サブユニットを結合するときの方が大きいであろう。従って、係数の差を用いる。ホモマーTRAIL-3DR5及びTRAIL-3DR4複合体の場合には、細胞内DISCの集合を数学的に説明するために、「活性化」受容体複合体への追加的段階を導入した。DISCの形成は、複合体が分解して、別の遊離細胞死又はデコイ受容体との再結合事象に参加する可能性を低下させる。前述のように、DcR1は細胞内ドメインを含まず、DcR2だけが切断型死ドメイン(Death domain)を含み、デコイ受容体については「活性化」段階は追加しなかった(表1a)。
【0323】
Colo205とMD MBA-231細胞の表面上の受容体発現レベルを比較した後、この比率を、Kimら40によりMD MBA-231細胞について決定された表面発現受容体の数と関連付けることにより、Colo205の表面上のDR5受容体の数を推定した。D269HE195Rの見かけ親和性は、van der Slootら10から取得した。DR5についてのD269HE195Rの親和性の増大は、完全にKonによるものであった。というのは、wtTRAILとD269HE195Rの間のSPRセンサーグラムにおける解離速度の変化は、最小限かつ極めて低速度のリガンド解離のために、計算することができなかったからである。本発明者らは、DR5についてのKonの増加の影響を低く見積もりすぎないようにするため、wtTRAILとD269HE195Rの間の係数5のKon差を用いることを選択した。D269HE195RのSPRセンサーグラムにより、wtTRAILのセンサーグラムに対して結合段階及び解離段階の両方で変化が明らかになったことから、他の受容体についての親和性の低下も同様にKon及びKoffによるものであった。ホモマー死受容体複合体のための「活性化」ステップは、用いたリガンドから独立していると考えたため、wtTRAILの場合と同じ「Kon及びKoff」値を用いた(表1b)。モデルは、SmartCellバージョン4.2(2、8)(http://smartcell.crg.es/)で実施されるように、確率的ネクストサブボリューム(next subvolume)方法(Elf及びEhrenberg)を用いてシミュレートした。受容体結合は、連続的に存在するリガンドを用いて、又はウォッシュアウト実験をシミュレートする目的で、シミュレーション過程中のリガンド除去により、シミュレートした。後者の場合、上記システムを表示時間シミュレートした後、遊離リガンド濃度をゼロに設定した。
【0324】
wtTRAILの結合をシミュレートしたとき、wtTRAIL-3DR5複合体の場合、約500秒以内に「ED50」に達したが、DR4の場合、約1,200秒後にED50に達した(図55A)。1時間後に形成されたwtTRAIL-3DR5複合体の数が最も高く、TRAIL-3DR4、TRAIL-3DcR1及びTRAIL-3DcR2の数は、それぞれ、TRAIL-3DR5複合体の数の70%、6%及び0%であった。対照的に、D269H/E195R-3DR5複合体形成の場合、20秒以内に「ED50」に達したが、D269H/E195R-3DR4、-3DcR1又は-3DcR2複合体のいずれも、1時間のシミュレーション中に形成されなかった(図55B)。1時間後に形成されたD269HE195R-3DR5複合体の数は、wtTRAILとの複合体数の125%であった。モデルからDcR1及びDcR2受容体を除去すると、wtTRAIL-3DR5複合体の総数は、10%増加し、ED50に到達する時間を約380秒に短縮した(図55C)。wtTRAIL-3DR4複合体については、デコイ受容体の非存在下で240秒以内に「ED50」に到達し、複合体の総数は14%増加した。デコイ受容体の非存在は、D269HE195R-3DR5複合体形成にわずかにしか影響しなかった(図55D)。全体として、デコイ受容体の遮断は、wtTRAILがD269HE195Rと同じ結合反応速度に到達するには十分ではなく、このことは、実験的デコイ遮断アッセイと一致している。DR5についてのwtTRAIL反応速度定数をD269HE195Rの定数まで高める対照実験により、DR-5結合のみについて反応速度を高めても、DR5選択的変異体と同じ活性に達するには十分ではないことが明らかにされた。そうではなく、観察される作用は、DR5の増大した親和性と、DR4、DcR1、及び恐らくDcR2に対する低減した親和性との組み合わせである(図56A)。これは、ヘテロ三量体複合体の形成を研究した際に、さらにはっきりと示された。wtTRAILは、特にインキュベーションの最初の30分の間に、はるかに高い量のヘテロマー受容体複合体形成を誘発した。上記受容体プールは、ホモマー複合体への再編成のために、動的に変化し、かつ徐々に消失するようであった。反対に、D269HE195Rは、受容体ヘテロ三量体形成のレベルははるかに低く、しかも、インキュベーションの最初の5分間だけであった(図56D、E)。
【0325】
ウォッシュアウト実験をシミュレートすることにより、D269HE195Rが、5分のインキュベーション後にすでに最大結合に達したこと、また、いったんDR5に結合したら、D269HE195Rの有意な再分布はないことが示された。これに対し、wtTRAILとの30分のインキュベーション後でも、wtTRAIL-3DR5及び-3DR4複合体の数は、それぞれ最大レベルの80%及び70%である(図56B、C)。
【0326】
要約すると、数学的シミュレーションは、DR4、DcR1及びDcR2についてのD269HE195Rの低い親和性は、DR5についての高いkonと併せ、すべてがホモ三量体DR5受容体複合体形成の速度の17倍増大を生み出すのに寄与していたことを示した。また、モデルは、別の実験データについても説明している。これは、D269HE195Rが、5分以内に利用可能なDR5受容体の大部分にすでに結合していることを示し;従って、非結合D269HE195Rのウォッシュアウトはアポトーシスの誘導にほとんど影響を与えないであろう。さらに、上記モデルは、デコイ受容体を遮断する、又はDR5に対するwtTRAILの結合を改善しても、その活性をD269HE195Rと同等のレベルまで増強するには不十分であることも明らかにしている。wtTRAILとデコイ受容体の結合を遮断すれば、wtTRAILは、依然として不活性DR4/DR5ヘテロ三量体を形成することができ、従って、DR5との結合の改善だけで、不活性ヘテロ三量体複合体の形成を阻止するのには十分であろう。この現象は、他の高速作用リガンドの設計にも関連があり、他の無差別のリガンドの高速反応速度の操作は、標的受容体に対するkonを高めるだけでは達成することはできず、他の受容体に対する親和性を低下させることも必要である。wtTRAILについて報告46されている短いin vivo半減期を考慮に入れると、受容体結合反応速度を速くする(従って、アポトーシスの誘導を速くする)ことにより、相当な治療上の利点を生み出すことができる。
【表2】
【0327】
【表3】
【0328】
【表4】
【0329】
【表5】
【0330】
【表6】
【0331】
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【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物における種々の癌を治療するための変異型TRAILタンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインは、主として白血球から分泌される増殖因子のファミリーであり、広範な細胞機能(特に免疫応答及び細胞増殖)を制御することができる強力な調節因子として作用するメッセンジャータンパク質である1。これらの役割には、免疫応答の調節2、炎症3、創傷治癒4、胚形成及び発生、並びにアポトーシス5が含まれる。
【0003】
特に興味深いのは、腫瘍壊死因子リガンド(TNF)ファミリーに属するリガンドである。これらのタンパク質は細胞増殖からアポトーシスに及ぶ広範な生物活性に関与している。TNFファミリーのメンバーの一例はTRAIL(腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド)である。
【0004】
TRAILは、細胞上の数種の異なる受容体と相互作用することができる。そのうちの2つ、すなわちDR4(TRAIL-R1)及びDR5(TRAIL-R2)は、細胞内でアポトーシスを誘導することができるのに対し、他のDcR1(TRAIL-R3)及びDcR2(TRAIL-R4)はそれぞれ死ドメインを含まないか又は切断型死ドメインを含み、アポトーシスを誘導することができない。
【0005】
TRAILは、その可溶性形態で、in vitro及びin vivoにて腫瘍細胞においてアポトーシスを選択的に誘導する。他のアポトーシス誘導TNFファミリーメンバーとは異なり、TRAILは、正常な健康組織に対して不活性であるように思われるため、潜在的癌治療薬として高い関心を集めている6。そのため、TRAILは腫瘍細胞に対する安全で強力な治療薬となる可能性がある。複数のin vitro研究により、異なる起源の多くの腫瘍細胞系は、TRAILが誘導するアポトーシスに対して感受性が高いことが分かっている。
【0006】
最近の重要な刊行物により、DcR1(TRAIL-R3)は、遺伝毒性薬であるドキソルビシンの使用により、乳房腫瘍細胞においてp53によりアップレギュレートされることが示された7。これは、野生型TRAIL(wtTRAIL)がデコイ受容体(アポトーシスを起こさない)とも結合するために、抗腫瘍療法においてその効果が弱まる可能性があることを意味している。そのため、選択性/特異性が改変されたTRAILの変異体は、理論上は、癌治療における最大限に改善された用途を有する可能性がある。
【0007】
この点において、新規分子の選択性は、種々の受容体の活性化の特定の役割、それゆえ複数の受容体と結合するリガンドの機能的効果、及びシグナル活性化に関係する関連疾患の病因への付随影響を理解するのに最も重要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様において、癌と診断された哺乳動物を治療するための、死受容体5に対して優れた選択性を有する変異型TRAILタンパク質を提供する。
【0009】
TRAIL(TNFSF10、TL2;APO2L;CD253;Apo-2Lとしても知られる)は、TNFリガンドファミリーのメンバーであり8 9、末端切断型細胞内ドメインを欠く又は有するデコイ受容体などの2以上の受容体と結合するサイトカインの例である。TRAILは、TNF受容体ファミリーの5つの関連する受容体とも;死受容体4(DR4、TRAIL-R1)、死受容体5(DR5、TRAIL-R2、KILLLER、TRICK-2)とも、デコイ受容体1、(DcR1、TRAIL-R3、TRIDD)、デコイ受容体2(DcR2、TRAIL-R4、TRUNDD)とも、可溶性分泌受容体であるオステオプロテジェリン(OPG)とも結合するため、無差別(promiscuous)のリガンドである。DR4(TRAIL-R1)及びDR5(TRAIL-R2)だけが機能的死ドメイン(DD)を含み、DcR1、DcR2又はOPGは機能的死ドメイン(DD)を含まないことから、これらの受容体とTRAILが結合するだけで、細胞外因性又は死受容体媒介のアポトーシス経路の活性化を介して、アポトーシスが誘導される。また、TRAILは、そのような受容体を通じてだけでなくDcR2を通じて、生存促進NF-κB経路も誘導することができるように思われる。ある特定の細胞において優勢な経路(アポトーシス又は生存)を決定する因子については、ほとんど解明されていない。
【0010】
死受容体DR4及びDR5の両方の異なる架橋要件を考えると、DR5(TRAIL-R2)シグナル伝達の選択的誘導因子の提供は、非常に重要である可能性がある。例えば、架橋に応じて、シグナル伝達経路は増殖経路又はアポトーシス経路を誘導しうる。さらに、TRAILとデコイ受容体との結合は、TRAILがアポトーシスを誘導する効率に対して抑制的作用を有する可能性があることが報告されている。そのため、本発明者は、DR5受容体選択的TRAIL変異体の使用によって、デコイ受容体が媒介するアンタゴニスト作用から回避することにより良好な腫瘍特異的療法が可能となり、wtTRAILと比較して副作用がおそらく少なく効力が高くなると考えている。
【0011】
さらに、受容体DR5及び/又はDR4は、DNA損傷性の化学療法剤、例えばボルテゾミブ、5-フルオロウラシル若しくはアスピリン、又は放射線による処置の後にアップレギュレートされると考えられる。そのような細胞では、TRAILが誘導するアポトーシスに対する応答は、有意に上昇している。文献では、このシグナル伝達経路が主にDR5によって媒介されていると示唆されている。デコイ受容体はまた上記のような処置によって誘導されることもあり、このことは、DR5の選択的ターゲティングがより有効な腫瘍細胞の死滅を達成しうることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】DR5選択的変異体D269H/E195Rは、A2780細胞において、rhTRAIL単独及びシスプラチンとの併用と比較して、細胞傷害性の増強を示す。
【図1−2】図1−1の続き。
【図2−1】DR5選択的変異体D269H/E195Rは、A2780細胞においてシスプラチンとの併用で、全くDR5依存的にアポトーシス増強を示す。
【図2−2】図2−1の続き。
【図2−3】図2−1の続き。
【図3】腫瘍担持マウスにおける125I-TRAILの生体分布を示す図である。
【図4】15分時点での腫瘍におけるカスパーゼ-3活性の評価を示す図である。
【図5】360分時点での腫瘍におけるカスパーゼ-3活性の評価を示す図である。
【図6−1】rhTRAIL及びD269H/E195R単剤療法並びにシスプラチンとの併用療法のin vivo効力を示す図である。
【図6−2】図6−1の続き。
【図6−3】図6−1の続き。
【図7】Colo205及びML-1細胞におけるTRAIL受容体の細胞表面発現を示す図である。
【図8】TRAIL及びDR5選択的変異体の生物活性を示す図である。
【図9】DR5ノックダウンは、A2780細胞においてシスプラチンと併用したTRAILのアポトーシスを低減する。
【図10】DR5選択的変異体は、wtTRAILよりDR5感受性腫瘍細胞死滅において効率的である。
【図11】A2780細胞の表面上の4つのTRAIL受容体の発現を示す図である。
【図12】DR5選択的変異体は、DcR1及びDcR2の両方に対して低い結合を示す。
【図13】DR5選択的変異体は、wtTRAILより、A2780腫瘍細胞死滅において効率的である。
【図14】デコイ受容体によるwtTRAIL及びDR5変異体が誘導するアポトーシスの阻害を示す図である。
【図15】DR5変異体は、非形質転換細胞に対して毒性ではない。
【図16】D269HE195Rは、細胞死誘導TRAIL受容体及びアポトーシスをwtTRAILよりはるかに速く活性化する。
【図17】アスピリン及び5-フルオロウラシルでの処理後のColo205細胞系における受容体発現を示す図である。
【図18】アスピリンと併用したD269HE195Rは、wtTRAILと比較して、相乗作用の増強をもたらす。
【図19】接種のための2x106個及び5x106個のColo205細胞の比較を示す。
【図20】Colo205腫瘍に対する単剤療法としてのアスピリンを示す。
【図21】Colo205腫瘍に対するTRAILのin vivo作用を示す。
【図22−1】アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかを含む併用療法を用いて、又は用いないで、Colo205細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図22−2】図22−1の続き。
【図23】Colo205腫瘍に対する、wtTRAILの単剤療法及びアスピリンとの併用の影響を示す図である。
【図24】Colo205腫瘍に対する、D269HE195R TRAILの単剤療法及びアスピリンとの併用の影響を示す図である。
【図25】アポトーシスアッセイは、アスピリンと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示し、変異体は、TRAILと比較して高いアポトーシスを示す。
【図26】DR5変異体は、TRAILと比較して高いカスパーゼ活性化を示し、これはアスピリンにより増強することができる。
【図27】アスピリン及び5-フルオロウラシルで処理後のSW948細胞系における受容体発現を示す図である。
【図28】アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、SW948細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図29】アポトーシスアッセイは、アスピリンと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示し、5-フルオロウラシルとの併用はTRAIL処理細胞のみを増強した。
【図30】TRAIL処理細胞は、5-フルオロウラシルと併用すると、カスパーゼ活性の増強を示した。
【図31】アスピリン及び5-フルオロウラシルで処理後のLOVO細胞系における受容体発現を示す図である。
【図32−1】アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、Lovo細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図32−2】図32−1の続き。
【図33】アポトーシスアッセイは、アスピリン及び5-フルオロウラシルと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示した。
【図34】アスピリン及び5-フルオロウラシルでプレインキュベートしたDR5変異体処理細胞において、より早期かつより高いカスパーゼ活性が見られる。
【図35】5-フルオロウラシルとの併用療法を用いた及び用いないHCT15、HT29及びRKO細胞の生存率に対する、TRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図36】wtTRAIL(グレー)及びDR5(黒色)の細胞外部分の三量体−三量体複合体の正面(左側)及び側面(右側)図である。
【図37】固定化受容体へのwtTRAIL及びD269HE195Rの結合のSPR解析を示す図である。
【図38】結腸癌細胞系Colo205におけるwtTRAIL及びD269HE195Rのアポトーシス活性の用量応答曲線を示す図である。
【図39】子宮頸癌細胞系におけるボルテゾミブによる処理後のp53の誘導を示す図である。
【図40−1】ボルテゾミブ及び放射線療法後のCaski細胞系における受容体発現を示す図である。
【図40−2】図40−1の続き。
【図41】ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、Caski細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図42】アポトーシスアッセイは、ボルテゾミブと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示した。
【図43】TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブに対するカスパーゼ活性の増強を示し、DR5変異体の方が早期のカスパーゼ活性化を示す。
【図44−1】ボルテゾミブ及び放射線療法を用いた処理後のSIHA細胞系における受容体発現を示す図である。
【図44−2】図44−1の続き。
【図45】ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、SIHA細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図46】DR5変異体は、ボルテゾミブとのインキュベーション後のSIHA細胞において、TRAILより高いアポトーシスを示す。
【図47】TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブに対するカスパーゼ活性の増強を示し、DR5変異体の方が、早期のカスパーゼ活性化を示す。
【図48】ボルテゾミブによる処理及び放射線療法実施後のHELA細胞系における受容体発現を示す図である。
【図49】ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、HELA細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【図50】アポトーシスアッセイは、ボルテゾミブ及び10Gy放射線療法との併用で、TRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示している。
【図51】TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブ及び放射線療法に対するカスパーゼ活性の増強を示す。
【図52】ヒト結腸腺腫細胞は、TRAIL及びD269H/E195Rに対して感受性である。
【図53】17時間にわたるP-Akt阻害は、Colo205結腸癌をTRAIL-DR5(D269H/E195R)に対して選択的に増感する。
【図54】wtTRAIL又はTRAIL-DR5(D269H/E195R)で処理したHeLa異種移植片を示す図である。
【図55】経時的にwtTRAIL及びD269HE195Rにより誘発されるTRAIL受容体複合体形成の数学モデルを示す図である。
【図56】経時的なリガンド誘導性TRAIL受容体複合体形成の数学的シミュレーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、本発明のTRAIL変異体が、胃腸系及び婦人科系の癌の治療に特に有用であることを見い出した。
【0014】
婦人科癌としては、限定されるものではないが、卵巣、子宮頸、子宮及び膣の癌が含まれる。別の婦人科癌は当業者に公知であろう。
【0015】
本発明のTRAIL変異体はまた、ホルモン依存性癌、例えば限定されるものではないが、甲状腺、前立腺及び乳房の癌などの治療に有効である。他のホルモン依存性癌は当業者に公知である。このような癌の増殖は、特定のホルモンにより刺激されるため、TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物による治療とホルモン療法とを組み合わせることも可能である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物を使用して、卵巣癌を治療する。本発明者は、本発明のTRAIL変異体の使用によって、wtTRAILと比較した場合に、in vitro及びin vivoにおいて卵巣癌細胞のアポトーシス増大がもたらされることを見い出した。
【0017】
様々なタイプの卵巣癌が知られている。卵巣悪性腫瘍には、それぞれが固有の組織病理学的外観及び生物学的挙動を有するいくつかのタイプがある。世界保健機関(WHO)は、その細胞型、すなわち上皮、生殖細胞及び間質に基づいて卵巣腫瘍を分類しており、それでは上皮腫瘍が圧倒的に最も一般的なタイプである。本発明者は、原発性卵巣上皮腫瘍が本発明のTRAIL変異体による治療に特に好適であることを見出した。なぜなら、この腫瘍が高レベルのDR5受容体を発現するためである。さらに本発明者は、化学療法及びアスピリンによる治療がそれぞれこれらの細胞におけるDR5受容体の発現をアップレギュレートすることができることを示す。
【0018】
本発明者は、D269HE195R TRAIL変異体が卵巣癌細胞系A2780におけるアポトーシスを少なくとも2倍増大するこを見出した。本発明者はまた、D269HE195R TRAIL変異体及びD269H TRAIL変異体が結腸腺癌細胞系Colo205におけるアポトーシスを2.7〜4.2倍増大することを見出した。さらに、IP異種移植卵巣癌マウスモデルにおける研究によって、変異型TRAILタンパク質(D269HE195R)が、in vivoにおけるアポトーシス誘導についてwtTRAILよりも効果が高いことが明らかとなった。このモデル系では、癌細胞を発光により検出することができ、変異型TRAILタンパク質による処置によって、wtTRAIL(48.8%)と比較してより高い平均シグナル減少(68.3%)が生じたことがわかり、このことは、TRAIL変異体が卵巣腫瘍の体積の低減に非常に効率的であることを証明している。
【0019】
「アポトーシスの増大」及び「アポトーシス誘導の増強」という用語は、本発明のTRAIL変異体が、wtTRAILで処理したサンプル又は他の好適な対照と比較して、アポトーシスを受ける細胞数を増大することを意味し、当業者には明らかであろう。
【0020】
癌の進行は、ステージ決定プロセスによりモニターする。これは、癌がどの程度発達したか、それが拡大しているかどうかを示す。卵巣癌は通常、International Federation of Gynecology and Obstetrics(FIGO)により確立されたシステムに従って分類される。以下の例は卵巣癌に関するFIGOシステムを示すが、種々の癌ステージ分類は他の婦人科悪性腫瘍に関しても非常に類似している。スコアは1〜4であり、各ステージにおいて予後は段階的に悪化する。
【0021】
ステージI−片側又は両側の卵巣に限局した悪性細胞
IA−片側の卵巣に関係;嚢(capsule)は完全;卵巣表面に腫瘍はない;腹水又は腹腔洗浄液に悪性細胞はない
IB−両側の卵巣に関係;嚢(capsule)は完全;卵巣表面に腫瘍はない;洗浄液陰性
IC−腫瘍が次のいずれかを有する卵巣に限局している:嚢が破裂、卵巣表面上の腫瘍、洗浄液陽性
ステージII−骨盤への拡大又は生着
IIA−子宮又は卵管への拡大又は生着:洗浄液陰性
IIB−他の骨盤構造物への拡大又は生着;洗浄液陰性
IIC−骨盤への拡大又は生着と腹腔洗浄液陽性
ステージIII−骨盤の外側への顕微鏡的腹腔生着;又は小腸若しくは網への拡大を有する骨盤への限局
IIIA−骨盤外への顕微鏡的腹腔転移
IIIB−2cm未満のサイズの骨盤外への肉眼的腹腔転移
IIIC−2cmを超える骨盤外への腹腔転移、又はリンパ節転移
ステージIV−遠隔転移
【0022】
転移腫瘍の治療は、初期の発現、治療に対する進行、又は婦人科系に由来する原発腫瘍での初期補助療法後の再発のいずれでも、本発明の一実施形態を構成する。転移腫瘍は、卵巣腫瘍である原発腫瘍に由来するものでありうる。
【0023】
本発明の別の実施形態では、TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物を使用して胃腸系の癌を治療する。これらの癌には、食道、胃、肝臓、胆管系、膵臓、腸及び直腸の癌が含まれる。本発明者は、驚くべきことに、本発明のDR5選択的TRAIL変異体の使用によって、wtTRAILで処理した細胞と比較して結腸癌細胞におけるアポトーシスが高くなることを見い出した。
【0024】
胃腸癌もまた単一の疾患ではなく、細胞型に応じて、例えば限定されるものではないが、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫及び神経内分泌腫瘍に分類されており、大腸の腺癌が最も一般的なタイプである。本発明者は、原発性結腸癌細胞、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)及び家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)が本発明のTRAIL変異体による治療に特に好適であることを見い出した。なぜなら、この腫瘍が高レベルのDR5受容体を発現するためである。本発明の別の実施形態は、家族性大腸癌のリスクのある人の集団における一次予防としてのTRAIL変異体の使用である。
【0025】
上述した婦人科悪性腫瘍と同様に、大腸癌(結腸癌)の進行は、ステージ決定プロセスによりモニターすることができる。大腸癌に関しては、TNM([原発性]腫瘍、[局所リンパ]節、[遠隔]転移)ステージ判定が通常使用されている。
【表1】
【0026】
転移腫瘍の治療は、初期の発現、治療に対する進行、又は胃腸系に由来する原発腫瘍での初期補助療法後の再発のいずれでも、本発明の一実施形態を構成する。好ましい実施形態において、転移腫瘍は、結腸腫瘍である原発腫瘍に由来するものでありうる。
【0027】
本明細書におけるColo205、LoVo、SW948、ML-1、HeLa、Caski、SiHa、A2780及びBJAB細胞系を用いて得られた結果と考察は、試験したD269H、D269HE195R及びD269HT214R TRAIL変異体の生物活性がDR5受容体に対して特異的なものであり、これらのTRAIL変異体が、結腸、卵巣及び子宮頸癌細胞系において高効率にアポトーシスを誘導することを示す。
【0028】
本発明に係るTRAIL変異体は、デコイ受容体であるDcR1(TRAIL-R3)及びDcR2(TRAIL-R4)に対してよりも、死受容体5(TRAIL-R2)に対して優れた選択性を示すことが好ましい。DcR1及びDcR2は、それぞれ死ドメインを含まないか、又は末端切断型死ドメインを含む。TRAILがこれらの受容体と結合してもアポトーシスは誘導されず、それどころか、その結合により、DR4及びDR5から利用可能なTRAILが封鎖されることによって、又はDcR2を介してNF-κB活性化が誘導されることによって、実際にはアポトーシスが阻止されることもある。従って、本発明のTRAIL変異体は、この経路を介して封鎖されないことが好ましい。
【0029】
本発明者は、DR5受容体への結合についてのD269HE195Rの結合速度定数(kon)の増大がwtTRAILのkonと比較した場合に5倍未満改善されたが、Colo205細胞におけるアポトーシス誘導の反応速度が驚くべきことに17倍増加を示したことを示した。総効果の50%に達するためには、wtTRAILは60.8±4.3分のインキュベーションが必要であったのに対し、D269HE195Rが同じ値に達するための時間はわずかに3.6±0.4分であった。本発明者は、wtTRAILによる処理の前のDcR1中和抗体との結腸腺癌細胞系Colo205のインキュベーションによって、アポトーシスが1.51±0.15倍増大するのに対し、D269HE195Rによる処理の前のDcR1中和抗体とのインキュベーションがアポトーシスの増大を示さなかったことを示した(図14D)。本発明者はまた、wtTRAILによる処理の前のDcR2中和抗体とのColo205細胞のインキュベーションによって、アポトーシスが適度に1.22±0.07倍増大するのに対し、D269HE195Rによる処理の前のDcR2中和抗体とのインキュベーションがアポトーシスの増大を示さなかったことを示した(図14D)。DcR1及びDcR2の両方に対する中和抗体の併用によって、TRAILについてはアポトーシスのさらなる及びほぼ相加的な増大(1.68±0.12倍)と適度なアポトーシス速度(1.5±0.1倍)が生じたが、D269HE195Rについてのアポトーシスのレベル及び速度には影響がなかった。デコイ受容体の中和はwtTRAILのアポトーシス誘導能を1.68倍増大したが、この増大のみがD269H/E195Rの3.3〜4.2倍高く、かつ17倍速いアポトーシス促進活性を完全に説明するものではなかった。wtTRAILの半減期はおよそ30分であると認識されているため、効率的に結合する変異体が、これらの組換えタンパク質の短い半減期に付随する問題を解決することが理解されるだろう。
【0030】
D269HE195Rの高くかつ速いアポトーシス促進活性を明らかにするため、細胞表面上のTRAIL及びD269HE195Rの受容体結合を、可能な全結合事象を説明する数学モデルを用いてシミュレートした。シミュレーションデータから、観察される効果が、DR5に対する親和性の増大と、DR4、DcR1及びDcR2に対する親和性の低減との組み合わせと考えることが合理的であろう。これはさらに、ヘテロ三量体複合体の形成をシミュレーションにより研究した場合にも示される。wtTRAILは、特にインキュベーションの最初の30分の間に、非常に多量のヘテロマー受容体複合体形成を誘導した。この受容体プールは、ホモマー複合体への再構成のために、動的に変化し、段階的に消失するように見える。一方、D269HE195Rは、インキュベーションの最初の5分の間にのみ、非常に低量の受容体ヘテロ三量体を生じた。wtTRAILについて報告38されているin vivo半減期が短いことから、D269H及びD269HE195Rの速い受容体結合反応速度及び速いアポトーシス誘導は、治療上顕著な利点をもたらす。
【0031】
本発明者は、治療上完全に効率的かつ効果的であるためには、サイトカイン及び受容体結合混乱(promiscuity)を示す他のタンパク質の治療効力のために、標的受容体に対する結合速度定数及び親和性定数(Kd)の両方を増大させ、かつ標的外受容体(複数であってもよい)に対する親和性定数(Kd)を低減させる(標的外受容体への結合を低減する)ことが重要であることを証明した。
【0032】
例えば、これは、TRAIL(例えば、TNF-α、TNF-β、FASL、RANKL、APRIL、BAFF、Light、TL1A)の他に、複数の受容体に結合するTNFリガンドファミリーのアゴニスト又はアンタゴニスト作用を有する変異体の開発において特に重要であると考えられる。特定の受容体を活性化又は遮断する変異体は、その標的受容体への結合を改善することに加えて、その他の受容体への結合を低減することにより効率的に作製することができる。そのような変異体は、本発明者により示されるように、合理的設計により得ることができ、例えばD269HE195Rの場合にはコンピュータによる設計方法を用いることにより、又は例えば定方向進化法及び/若しくはハイスループットスクリーニング技法を用いることにより得ることができる。
【0033】
本発明の一態様において、特定の標的受容体の活性化(又は遮断)の反応速度を、その受容体結合特異性を変更して高めることによりタンパク質の治療効果を増強する方法を提供する。好ましくは、タンパク質の活性化(又は遮断)の反応速度は、該タンパク質と好ましい標的受容体との結合及び結合速度を増大させることにより高める。より好ましくは、標的受容体の活性化(又は遮断)の反応速度は、1又は複数の標的外受容体(off-target receptor)への該タンパク質の結合を低減することにより増大する。最も好ましくは、タンパク質と好ましい標的受容体との結合及び結合速度の増大を、該タンパク質と1又は複数の標的外受容体との結合の低減とを組み合わせる。好ましくは、改善された反応速度特性を有するタンパク質は、定方向進化又はハイスループットスクリーニングにより作製する。より好ましくは、反応速度特性を改善する方法は、定方向進化とハイスループットスクリーニングの組合せを含む。好ましくは、治療効果の増強方法は合理的設計手法を使用するものであり、いくつかの実施形態では、この手法はコンピュータによるタンパク質設計を含んでもよい。より好ましくは、合理的設計方法を定方向進化及び/又はハイスループットスクリーニング法と組み合わせてもよい。好ましくは、治療効果の増強を示すタンパク質はサイトカインである。より好ましくは、タンパク質は1を超える受容体に結合する無差別の(promiscuous)サイトカインである。より好ましくは、タンパク質はTNFリガンドファミリーのメンバーである。より好ましくは、TNFリガンドは無差別のTNFリガンドであり、例えば限定されるものではないが、TNF-α、TNF-β、FASL、TRAIL、RANKL、APRIL、BAFF、Light又はTL1Aが含まれる。最も好ましくは、タンパク質はTRAILである。
【0034】
本発明の変異型TRAIL分子は、細胞におけるアポトーシスの誘導において大変有用である。「アポトーシスを誘導する」とは、本発明に係る化合物が標的細胞において細胞死を引き起こすように作用するということを意味する。アポトーシスは、in vivoでも、ex vivoでも又はin vitroでも誘導され得る。アポトーシスは癌細胞で誘導されるが、健康な細胞では誘導されないことが好ましい。
【0035】
以前には、デコイ受容体は、TRAILが誘導するアポトーシスから非形質転換細胞を保護する役割を有するだろうと考えられていた。しかしながら、本発明者は、wtTRAIL、D269H及びD269HE195Rによるヒト皮膚線維芽細胞及びヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の処理がそれぞれ細胞生存率の低下をもたらさないことを発見した(図15参照)。好ましくは、本発明のTRAIL変異体は、健常な非形質転換細胞の生存率に影響のないものである。
【0036】
当業者には明らかなように、アポトーシスは複数の異なるアッセイによって測定することができる。例としては、DNAラダーリングアッセイ(例えば、EP0835305;Immunex参照);Hoechst33342によるクロマチン断片化及び凝縮の検出、アネキシンV及びプロピジウムヨージドでの染色により測定される膜透過性と組み合わせたホスファチジルセリン露出の染色及び検出が挙げられる。これらのアッセイに共通することは、活性を測定中のある濃度の化合物と持続的に接触させた際に死にかけている細胞で起こる生化学的又は形態学的変化を測定するということである。細胞死は、前記化合物への暴露に応答して死にかけている細胞の割合の増加として表すことができる(すなわち未処理の対照細胞集団における死にかけている細胞の割合を、前記薬物に暴露した細胞集団におけるその割合から差し引く)。有効濃度は、一般に、IC50値(細胞の50%がアポトーシスを受ける化合物の濃度である)の形で計算される。好ましくは、本発明に係る化合物は、1ng/ml〜1000ng/ml、より好ましくは1ng/ml〜100ng/ml、より好ましくは1ng/ml〜10ng/ml、またより好ましくは44ng/mlの濃度において細胞の50%にアポトーシスを誘導する。
【0037】
好ましくは、本発明において、有用な化合物は、1ng/ml〜1000ng/ml、より好ましくは1ng/ml〜100ng/ml、より好ましくは1ng/ml〜10ng/ml、より好ましくは4ng/mlのIC50値を有する。
【0038】
また、アポトーシスは、カスパーゼの活性化や当業者に公知の他のアッセイによっても測定することができる。
【0039】
「変異型」TRAILタンパク質とは、TRAILタンパク質が、wtTRAILタンパク質(TNFSF10、TL2;APO2L;CD253;Apo-2Lとしても知られる)、Entrez GeneID: 8743;アクセッション番号NM_003810.2;UniProtKB/Swiss-Prot: P50591;UniProtKB/TrEMBL: Q6IBA9と、少なくとも1つのアミノ酸位置で異なっていることを意味する。
【0040】
「選択性」とは、本発明の変異体が、相対語であるデコイ受容体DcR1(TRAIL-R3)及びDcR2(TRAIL-R4)に対する親和性よりも、好ましくはDR4に対しても、DR5に対して実質的に高い親和性を有することを意味する。「実質的により高い親和性」とは、DR5に対するTRAIL変異体の親和性が、DR4、DcR1及びDcR2に対する親和性と比べて、測定可能な程度に高いということである。好ましくは、親和性は、DR4、DcR1及びDcR2の1つ以上に対してよりも、DR5に対して少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、又は1000倍以上である。より好ましくは、親和性は、DR4、DcR1及びDcR2の少なくとも2つ、好ましくはそれら全てに対してよりも、DR5に対して少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、又は1000倍以上である。結合相手に対するタンパク質の結合親和性の測定方法は、当技術分野で周知であり、例えば、競合アッセイ、表面プラズモン共鳴などが挙げられる。
【0041】
また、DR5に対する本発明のTRAIL変異体の結合親和性は、DR5に対するwtTRAIL分子の結合親和性よりも絶対的に高いことが好ましい。さらに、DR4に対する本発明のTRAIL変異体の結合親和性は、DR4に対するwtTRAIL分子の結合親和性よりも低くなければならない。DcR1及びDcR2に対して証明されている結合親和性にも同じことが当てはまることが好ましい。
【0042】
好ましくは、本発明に係るTRAIL変異体は、DR5に対して、以前に記載された10ように表面プラズモン共鳴により測定した(この場合、wtTRAILの親和性の測定値は7.2nMであった)、Kd=1000nM未満、好ましくはKd=100nM未満、より好ましくはKd=10nM未満、より好ましくはKd=5nM未満、より好ましくはKd=1nM未満の結合親和性を示す。
【0043】
好ましくは、本発明に係るTRAIL変異体は、DR4に対して、以前に記載された10ように表面プラズモン共鳴により測定した(この場合、wtTRAILの親和性の測定値は2.5nMであった)、Kd=1nMより高い、好ましくはKd=5nMより高い、好ましくはKd=10nMより高い、好ましくはKd=100nMより高い、より好ましくはKd=1000nMより高い結合親和性を示す。
【0044】
好ましくは、本発明に係るTRAIL変異体は、DcR1に対して、以前に記載された10ように表面プラズモン共鳴により測定した(この場合、wtTRAILの親和性の測定値は約25nMであった)、Kd=10nMより高い、好ましくはKd=25nMより高い、好ましくはKd=50nMより高い、好ましくはKd=100nMより高い、より好ましくはKd=1000nMより高いの結合親和性を示す。
【0045】
好ましくは、本発明に係るTRAIL変異体は、DcR2に対して、以前に記載された10ように表面プラズモン共鳴により測定した(この場合、wtTRAILの親和性の測定値は約8nMであった)、Kd=10nMより高い、好ましくはKd=25nMより高い、好ましくはKd=50nMより高い、好ましくはKd=100nMより高い、より好ましくはKd=1000nMより高い結合親和性を示す。
【0046】
好ましくは、D269HE195RによるDR5受容体活性化は、wtTRAILよりも少なくとも2倍速く、好ましくはwtTRAILよりも少なくとも5倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも10倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも15倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも17倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも20倍速く起こる。
【0047】
好ましくは、D269HE195Rによるアポトーシスの誘導は、wtTRAILよりも少なくとも2倍速く、好ましくはwtTRAILよりも少なくとも5倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも10倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも15倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも17倍速く、より好ましくはwtTRAILよりも少なくとも20倍速く起こる。
【0048】
本発明のTRAIL変異体は変異D269Hを含むことが好ましい。本明細書中で示すTRAILタンパク質配列におけるアミノ酸位置及び特異的なTRAIL変異体に関する参照は全て、配列番号1に示されるアミノ酸配列を参照するものとする。この変異体は、DR4に対する結合親和性が非常に低減しており、かつDR5受容体に対する親和性が増大している。この変異体の結合特性のさらなる詳細は、同時係属中の国際特許出願WO05/056596号中に見出すことができる。
【0049】
この変異体はさらに、種々の癌細胞系における高いアポトーシス誘導能を有している。例えば、結腸癌細胞Colo205においてwtTRAILと比較して約4倍効率的にアポトーシスを誘導することが示されている。さらに、本発明者は、この変異体が卵巣癌細胞系におけるアポトーシスの誘導において3〜4倍効率的であることも発見した。また、本発明のD269H TRAIL変異体は変異E195R及び/又はT214Rをさらに含むことが好ましい。これらの変異体は、wtTRAILと比較した場合にDR5に対する優れた選択性と、DR4に対する結合の低減を示す。これらの変異体の結合特性は、WO05/056596号において既に論じられている。
【0050】
本発明の1つの好ましい実施形態では、変異はD269HT214Rである。この変異体は、結腸癌細胞系Colo205において、wtTRAILと比較して、低濃度でアポトーシス速度を1.5倍増大させることが示されている(図8C参照)。さらに、卵巣癌細胞系A2780におけるアポトーシスの誘導効率の2倍改善を示す。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態では、変異はD269HE195Rである。本発明者は、この変異体が卵巣癌細胞系A2780においてアポトーシスを3〜4倍増大することを見い出した。さらに、IP異種移植卵巣癌マウスモデルにおける研究によって、驚くべきことに、この変異型TRAILタンパク質がin vivoでのアポトーシスの誘導にwtTRAILよりも効果があることが明らかとなった。このモデル系では、癌細胞を発光により検出することができ、変異型TRAILタンパク質による処置によって、wtTRAIL(48.8%)と比較してより高い平均シグナル減少(68.3%)が生じ、このことは、TRAIL変異体が卵巣腫瘍の体積の低減に非常に効率的であることを示している。さらに、この変異体は、結腸癌細胞系Colo205におけるアポトーシスのレベルを2.7〜4.2倍増大することができ、また結腸癌細胞系LoVo及びSW948、並びに子宮頸癌細胞系HeLa、Caski及びSiHaにおけるアポトーシスの誘導能を増強した。
【0052】
上記変異は、全長TRAIL配列に導入することができる。しかしながら、好ましくは、上記変異はTRAIL配列の可溶性形態、例えばアミノ酸114〜281を含む又はアミノ酸95〜281を含む形態に導入されるが、当業者ならば他の例も分かるであろう。よって、本発明に係る好ましいTRAIL変異体は、配列番号1に示される全長TRAIL配列の可溶性断片の変異体である。
【0053】
好ましい可溶性断片鋳型は、アミノ酸114〜281(本明細書ではTRAILと呼ぶ)を含み、本明細書に記載する全ての変異体はこの長さのものである。メチオニンが前に付いたTRAILのwtTRAIL配列(114〜281)は、配列番号3に示され、好ましいコード配列は配列番号4に示される。従って、本発明の変異体はこの配列から誘導することができる。
【0054】
しかしながら、当業者には理解されるように、これらの可溶性鋳型内の変異はこの可溶性形態の性質を保持する可能性が非常に高く、前記ポリペプチド配列内のこれらの境界のC末端及び/又はN末端に追加の残基が含まれる場合には生物活性を示す。例えば、前記ポリペプチド断片が正確にフォールディングされて生物活性を示す能力を損なうことなく、野生型TRAIL配列から、又は相同配列からの追加の1個、2個、3個、4個、5個、10個、20個若しくは30個以上のアミノ酸残基を、これらの境界のC末端及び/又はN末端の一方又は両方に含め得る。同様に、生物活性を損なうことなく、C末端又はN末端の一方又は両方において1又は数個のアミノ酸残基(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、10個以上)が欠失したこの鋳型の末端切断型変異体も可能である。
【0055】
本発明は、医薬として使用するためのDR5特異的TRAIL変異体を提供する。本発明はまた、疾患に罹患している又は罹患の危険性がある対象を治療するための方法であって、前記対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む方法も提供する。本発明はまた、対象を治療するための医薬の製造における本発明の医薬組成物の使用も提供する。特に好適な疾患には、癌疾患、例えば白血病、リンパ腫、黒色腫、前立腺癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、頭頸部癌、肝臓癌及び乳癌、肺、卵巣、子宮頸及び結腸の癌、並びに多発性骨髄腫が挙げられる。
【0056】
好ましい実施形態において、癌は、卵巣癌又は結腸癌である。別の実施形態において、癌は、子宮頸癌である。これらは世界で最も一般的な癌であり、癌関連死の主因である。卵巣癌及び結腸癌はいずれも、通常、明確な初期兆候がないために後期ステージにおいてのみ発見される。さらに、治療に対する初期の応答が進行ステージ患者において良好であるが、全体的な生存率は薬剤耐性の発生により低いことが多く観察されている。従って、これらの疾患の治療を改善することが最も重要である。
【0057】
癌と診断された哺乳動物に投与するTRAIL変異体は、治療有効量で、例えばアポトーシスを誘導するのに十分な量で存在する必要がある。所定の患者のための正確な有効量は、患者の大きさ及び健康、疾患の性質及び程度、並びに投与する組成物又は組成物の組み合わせに応じて異なる。有効量は、慣用の実験により決定することができ、臨床医の判断による。本発明の目的のため、有効用量は、一般的には約0.01mg/kg〜約5mg/kg、又は約0.01mg/kg〜約50mg/kg又は約0.05mg/kg〜約10mg/kg、好ましくは約10 mg/kgである。好適な用量を使用して、患者の血清濃度0.1〜1,000ng/ml、好ましくは1ng/ml〜およそ100ng/ml、より好ましくはおよそ10〜100ng/mlを達成する必要がある。TRAIL変異体は、塩及び/又はエステルの形態で投与してもよい。
【0058】
本発明の第1の態様のTRAIL変異体は、融合タンパク質の一部を構成し得る。例えば、分泌若しくはリーダー配列、プロ配列、精製に役立つ配列、又は例えば組換え生産中に、より高いタンパク質安定性を与える配列を含み得る1以上の追加アミノ酸配列を含むことが有利である場合が多い。あるいは又は加えて、成熟TRAIL変異体は、別の化合物(TRAIL変異体の半減期を増加させる化合物(例えば、ポリエチレングリコール)など)と融合させてもよい。
【0059】
これらの融合タンパク質は、TRAIL変異体をコードするポリヌクレオチドを異種タンパク質配列のコード配列にインフレームでクローニングすることにより得ることができる。
【0060】
本明細書において用いる「異種」という用語は、本発明に係るTRAIL変異体以外の任意のポリペプチドを示すように意図されている。N末端又はC末端のいずれかにおける融合タンパク質に含めることができる異種配列の例としては、膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、細胞外タンパク質のドメイン、シグナル配列、輸送配列、及びアフィニティークロマトグラフィーにより精製可能な配列が挙げられる。
【0061】
これらの異種配列の多くは、それらと融合するタンパク質の特異的生物活性を実質的に損なうことなく追加の性質を与えるために融合タンパク質中に一般に含められることから、発現プラスミドとして市販されている11。このような追加の性質の例は、体液中でのより長く持続する半減期、細胞外局在性、あるいはいわゆる「ヒスチジンタグ」を形成するヒスチジンのストレッチ12により又はインフルエンザ血球凝集素タンパク質由来のエピトープである「HA」タグ13により可能になるより簡単な精製手順である。必要に応じて、異種配列は、タンパク質分解切断により、例えばタンパク質と異種配列との間にタンパク質分解切断部位を挿入し、精製した融合タンパク質を適当なプロテアーゼに暴露することにより、除去することができる。これらの特徴は、医薬組成物の調製における融合タンパク質の生産及び使用を容易にすることから、融合タンパク質には特に重要である。例えば、TRAIL変異体は、N末端又はC末端に融合されたヘキサヒスチジンペプチドによって精製し得る。ヘキサヒスチジンペプチドの融合はTRAILを非癌細胞に対する毒性をより高くすることが知られているため、TRAILと融合したヘキサヒスチジンペプチドはタンパク質分解切断により除去することができる。融合タンパク質が免疫グロブリン領域を含む場合、この融合は、直接的であってもよく、あるいは1〜3個のアミノ酸残基長以上(例えば、13個のアミノ酸残基長)であり得る短いリンカーペプチドを介してもよい。前記リンカーは、例えば、配列E-F-M(Glu-Phe-Met)のトリペプチドであってよく、又は本発明の物質の配列と免疫グロブリン配列との間に導入されるGlu-Phe-Gly-Ala-Gly-Leu-Val-Leu-Gly-Gly-Gln-Phe-Metを含む13-アミノ酸リンカー配列であってよい。得られた融合タンパク質は、体液中での滞留時間の延長(すなわち半減期の増加)、特異的活性の増加、発現レベルの増加、又は融合タンパク質の精製の簡便化など性質が改善されている。
【0062】
本発明のTRAIL変異体はまた、マーカータンパク質、例えば蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)及び類似のタンパク質など)と融合させてもよい。このようなタンパク質は診断目的に特に利点がある。
【0063】
一実施形態において、タンパク質はIg分子の定常領域に融合される。Ig分子の例としては、ヒトIgG1のCH2及びCH3ドメインのような重鎖領域が挙げられる。Ig分子の他のアイソフォームも本発明に係る融合タンパク質の作製に好適である(アイソフォームIgG2若しくはIgG4、又は例えばIgM若しくはIgAのような他のIgクラスなど)。融合タンパク質は、単量体又は多量体、ヘテロ−若しくはホモ多量体であってよい。
【0064】
さらに好ましい実施形態において、TRAIL変異体は、アミノ酸残基上で1以上の側鎖として存在する1個以上の官能基と結合する少なくとも1つの部分を含んでもよい。好ましくは、前記部分はポリエチレン(PEG)部分である。PEG付加は、公知の方法、例えば、WO99/55377号に記載されているものなどにより行うことができる。
【0065】
TRAIL変異体の生物学的合成を容易にするために、本発明の一態様は、本発明のTRAIL変異体をコードする核酸分子を提供する。野生型TRAILのコード配列は、アクセッション番号NM_003810に示されている。本発明に係るTRAIL変異体をコードする核酸分子は、変異点に適当なコード配列を補うことによってこの配列から誘導し得る。本発明に係る好ましい核酸分子の例は、配列番号2に示される配列の変異体(全長遺伝子);又はコード配列である配列番号2のヌクレオチド88〜933(846ヌクレオチド長)である。野生型TRAILの好ましいコード配列(アミノ酸114〜281)は、配列番号4に示され(メチオニンが前に付いたTRAIL変異体114〜281)、それゆえ、本発明の変異体は、好ましくはこの配列の変異体によりコードされる。
【0066】
変異を全長又はTRAILコード配列に導入するために、当業者ならば、完璧に、前記配列内の関連位置において必要なコドンを置換することができるであろう。本明細書において記述する全てのアミノ酸の番号は全長TRAILタンパク質配列に関する。異なる宿主生物間のコドンバイアスを明らかにするために、当業者ならばこの件に関して公開されているテキスト又は周知の一般知識を参照し得る。
【0067】
例えば、様々な異なる種におけるコドン使用頻度は、http://www.kazusa.or.jp/codon/に見い出すことができ、特に大腸菌(Escherichia coli)のコドン使用頻度情報については、http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=155864に見い出すことができる。
【0068】
核酸は、DNA若しくはRNA(又はそれらのハイブリッド)、あるいはそれらの類似体(修飾主鎖を含有するもの(例えばホスホロチオエート)又はペプチド核酸(PNA)など)であってよい。核酸は、一本鎖(例えばmRNA)でも二本鎖でもよく、本発明は、(例えばアンチセンス、プライマー結合又はプローブ結合を目的とする)二本鎖核酸の個々の鎖の両方を含む。核酸は線状でも環状でもよい。核酸は標識されていてもよい。核酸は固相支持体に結合されていてもよい。
【0069】
本発明に係る核酸は、当然、多くの方法によって(例えば全体又は一部の化学合成(例えばDNAのホスホルアミダイト合成)により、長い分子のヌクレアーゼ消化により、短い分子の連結により、ゲノム又はcDNAライブラリーから、ポリメラーゼの使用によるなど)調製することができる。
【0070】
よって、本発明はまた、本発明の核酸を含むベクター(例えばプラスミド)(例えば発現ベクター及びクローニングベクター)並びにこのようなベクターで形質転換した(原核生物又は真核生物の)宿主細胞も提供する。
【0071】
本発明はまた、本発明のTRAIL変異体を生産する方法であって、本発明の核酸で形質転換した宿主細胞を、前記変異体の発現を誘導する条件下で培養するステップを含む方法も提供する。
【0072】
本発明における使用に好適な発現系は、当業者に周知であり、多くはSambrook (1989) 14及びFernandez et al. (1998) 15に詳細に記載されている。一般的には、必要な宿主においてポリペプチドを生産するために核酸分子を維持、増殖又は発現させるのに好適ないかなる系又はベクターも使用し得る。適当なヌクレオチド配列は、様々な周知の慣用の技術(例えば、Sambrook14に記載されているものなど)のいずれかによって発現系に挿入し得る。一般的には、コード遺伝子は、プロモーター、リボソーム結合部位(細菌発現の場合)、場合によってはオペレーターなどの制御エレメントの制御下におくことができ、その結果所望のペプチドをコードするDNA配列は、形質転換を受けた宿主細胞においてRNAに転写される。
【0073】
好適な発現系の例としては、例えば、染色体系、エピソーム系及びウイルス由来の系が挙げられ、それらには、例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、酵母エピソーム、挿入エレメント、酵母染色体エレメント、ウイルス(バキュロウイルス、パポーバウイルス(SV40など)、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、偽狂犬病ウイルス及びレトロウイルスなど)、又はそれらの組合せ由来のベクター、例えばコスミド及びファージミドを含む、プラスミド及びバクテリオファージ遺伝子エレメント由来のものが含まれる。プラスミド内に含め発現させることができるDNAよりも大きなDNA断片を送達するために、ヒト人工染色体(HAC)も使用し得る。
【0074】
特に好適な発現系としては、組換えバクテリオファージ、プラスミド又はコスミドDNA発現ベクターで形質転換した微生物(細菌など);酵母発現ベクターで形質転換した酵母;ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)に感染させた昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)で又は細菌発現ベクター(例えば、Ti又はpBR322プラスミド)で形質転換した植物細胞系;あるいは動物細胞系が挙げられる。本発明のペプチドを生産するために無細胞翻訳系も使用することができる。
【0075】
組換えポリペプチドを長期にわたり高収量で生産するためには、安定した発現が好ましい。例えば、対象となるペプチドを安定に発現する細胞系を、同じベクター又は別のベクター上にウイルス複製起点及び/又は内因性発現エレメント及び選択マーカー遺伝子を含み得る発現ベクターを用いて形質転換することができる。ベクターの導入後、選択培地に変更する前に、細胞を富栄養培地で1〜2日間増殖させる。選択マーカーの目的は選択に対する耐性を与えることであり、選択マーカーの存在によって導入した配列の発現に成功した細胞の増殖及び回主が可能になる。安定形質転換細胞の耐性クローンは、その細胞種に適当な組織培養技術を用いて増殖させ得る。
【0076】
発現用の宿主として利用可能な哺乳動物細胞系統は当技術分野で公知であり、それらには、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞系が含まれる。そのような細胞系としては、限定されるものではないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓(COS)細胞、C127細胞、3T3細胞、BHK細胞、HEK 293細胞、Bowes黒色腫細胞及びヒト肝細胞癌(例えばHep G2)細胞及び複数の他の細胞系が挙げられる。
【0077】
バキュロウイルス系では、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のための材料は、とりわけ、Invitrogen, San Diego CAからキットとして市販されている(「MaxBac」キット)。これらの技術は当業者に一般的に公知であり、Summers et al. 16に十分に記載されている。この系での使用に特に好適な宿主細胞としては、昆虫細胞、例えばショウジョウバエ(Drosophila)S2細胞及びスポドプテラ(Spodoptera)Sf9細胞が挙げられる。
【0078】
当技術分野で公知の多くの植物細胞培養物及び全植物遺伝子発現系が存在する。好適な植物細胞遺伝子発現系の例としては、米国特許第5,693,506号;米国特許第5,659,122号;米国特許第5,608,143号及びZenk (1991) 17に記載されているものが挙げられる。特に、プロトプラストを単離し培養して完全な再生植物を得ることが可能な植物は全て利用することができ、それによって移入された遺伝子を含む完全な植物を回収することができる。限定されるものではないが、サトウキビ、サトウダイコン、綿、果実及び他の樹木、マメ類及び野菜の全ての主要な種を含む、ほとんど全ての植物は、培養細胞又は組織から再生させることができる。
【0079】
特に好ましい原核生物発現系の例としては、連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、ストレプトミセス属(Streptomyces)及び枯草菌(Bacillus subtilis)を宿主細胞として使用するものが挙げられる。
【0080】
特に好適な真菌発現系の例としては、酵母(例えば、S.セレビシエ(S. cerevisiae))及びアスペルギウス属の菌(Aspergillus)を宿主細胞として使用するものが挙げられる。
【0081】
本発明の一実施形態において、TRAIL変異体は、患者の体液から癌細胞を除去するために使用することができる。一態様では、TRAIL変異体を使用して、ex vivoで患者の血液と接触させて、それにより血液から癌細胞を除去する。なぜなら、該変異体は非癌細胞よりも高い親和性でDR5特異的TRAIL変異体と結合するためである。続いて、血液を患者に再導入することができる。また、患者から骨髄を吸引し、骨髄とDR5特異的TRAIL変異体とを接触させて、非癌細胞と比べてTRAIL変異体に対して高い親和性を有する癌細胞を骨髄から除去することも可能である。続いて、骨髄を患者に再導入することができる。体液を本発明のTRAIL変異体とex vivoで接触させる場合には、TRAIL変異体を好適なマトリックスに固定することが好ましい。さらなる用途は当業者には明らかであろう。
【0082】
好ましくは、本発明のTRAIL変異体により治療することができる好適な癌としては、原発腫瘍サンプルのフローサイトメトリー又は免疫組織化学(IHC)によって測定した場合にその表面上にDR5受容体を発現する細胞が含まれる。そのような癌細胞は、当業者に公知の種々の手段、例えば限定されるものではないが、受容体特異的抗体を用いた免疫細胞化学、受容体特異的抗体を用いた蛍光活性化セルソーティング(FACS)、受容体特異的抗体を用いたウエスタンブロット分析などにより容易に同定可能である。DR4特異的抗体は、例えばAbcam(ab8414)より入手可能である。DR5抗体も同様に入手可能である(Sigma-Aldrich, D3938)。
【0083】
好ましい実施形態において、細胞表面上のDR5受容体の発現は、DR4受容体の発現よりも高い。タンパク質の発現レベルは、当業者に公知の種々の技法、例えば限定されるものではないが、蛍光標識DR5及び/又はDR4特異的抗体を用いた定量的ウエスタンブロット分析、FACSなどにより評価することができる。「より高い発現(高発現)」及び「アップレギュレーション」とは、タンパク質の発現が、別のタンパク質と比較して、1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、100倍又は1,000倍も)増大することを意味する。従って、「より低い発現」とは、タンパク質の発現が、別のタンパク質と比較して、1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、100倍又は1,000倍も)低減することを意味する。
【0084】
より好ましい実施形態において、DR4受容体は、細胞表面上に検出可能なレベルでは発現しないのに対し、DR5受容体は発現される。「発現なし」とは、受容体が上述した技法及び当業者に公知の他の好適な技法を用いて検出可能ではないことを意味する。別の実施形態において、DR5受容体は、DcR1及び/又はDcR2と同様のレベルで発現される。より好ましい実施形態において、DR5受容体は、DcR1及び/又はDcR2と比べてより高レベルで発現される。よりさらに好ましい実施形態において、癌細胞は、化学療法剤に応答して、より高レベルでデコイ受容体DcR1及びDcR2を発現する。このような細胞は、wtTRAILがデコイ受容体との結合とwtTRAILの封鎖(sequester)のためにこれらの細胞におけるアポトーシス誘導効率の低減を示すため好ましい。従って、本発明のDR5特異的TRAIL変異体は特に有利であろう。
【0085】
1つの好ましい実施形態において、癌細胞は、化学療法剤に応答してDR5受容体の発現をアップレギュレートする。別の好ましい実施形態において、癌細胞は、アスピリンに応答してDR5受容体の発現をアップレギュレートする。本発明者は、受容体DR5及び/又はDR4がDNA損傷性化学療法剤又はアスピリンによる処置の後にアップレギュレートされる可能性があるという意見である。このような細胞では、TRAILが誘導するアポトーシスに対する応答は有意に増大する。文献では、このシグナル伝達経路が主にDR5を介して進行することが示唆されている。
【0086】
本発明のTRAIL変異体は、1種以上の他の化合物、好ましくは抗腫瘍化合物、より好ましくは本発明の変異体が標的とする癌細胞に対して活性を有するもの又はTRAIL変異体に対する腫瘍の反応性を高めるものと同時投与してもよい。よって、本発明の組成物は1種以上の抗腫瘍薬を含んでよく、それらの例は当業者には公知であり、γ線照射並びに化学療法剤、例えばアルキル化剤、代謝拮抗物質、植物アルカロイド及びテルペノイド、ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシン誘導体、タキサン、トポイソメラーゼ阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、モノクローナル抗体、DNA損傷薬、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、ホルモン、プロテアソーム阻害剤などが含まれる。好ましい実施形態において、化学療法剤は、抗血管新生抗体、例えばベバシズマブ、プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブなど)、又はDNA損傷薬(5-フルオロウラシルなど)である。好ましくは、使用する化学療法剤は、DR5(TRAIL-R2)受容体の癌細胞上の表面発現を増加させかつ/又はDR5によるアポトーシス誘導を強化/促進するように作用する。さらなる実施形態において、本発明の組成物はアスピリンを含みうる。
【0087】
抗腫瘍化合物は種々の方法で作用し、併用して使用した場合にはそれぞれが異なる標的部位において腫瘍を破壊する。従って、本発明のTRAIL変異体は、複数の発癌経路を標的化する薬剤、例えば複数のチロシンキナーゼ阻害剤など(限定されるものではないが、ソラフェニブ及びスニチニブなど)、並びに現在開発中の他の類似の薬剤と組み合わせた場合に良好に作用するだろう。前臨床試験では、そのような薬剤と併用した場合にTRAILの増強効果が示されている(データは示さない)。
【0088】
「アポトーシス誘導の強化」とは、化学療法剤が、その化学療法剤に曝露されていないサンプルと比べて、その化学療法剤の存在下でアポトーシスを受ける細胞の数を増加させることを意味する。好ましくは、この増加は1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、10倍、20倍、100倍又は1000倍)である。
【0089】
「アポトーシス誘導の増強」とは、アスピリンが、化学療法剤に曝露されていないサンプルと比べて、アスピリンの存在下でアポトーシスを受ける細胞の数を増加させることを意味する。好ましくは、この増加は1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、10倍、20倍、100倍又は1000倍)である。
【0090】
このような癌細胞は、当業者に公知の種々の手段により同定することができる。例えば、蛍光標識DR5及び/又はDR4抗体を用いて、試験対象の細胞を標識することができる。次に、化学療法剤又はアスピリンへの曝露前後のDR5及びDR4の発現を蛍光活性化セルソーティング(FACS)により評価することができる。本発明のDR5特異的TRAIL変異体による処理のために好ましい癌細胞は、対照と比較して、DR5受容体を1.5倍(より好ましくは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、100倍又は1,000倍も)アップレギュレートするものである。化学療法剤に応答したDR5受容体のアップレギュレーションを評価する他の手段は当業者に公知である。
【0091】
本発明の好ましい実施形態では、化学療法剤はシスプラチン(シスプラチニウム又はシス-ジアミンジクロロ白金(II)(CDDP)としても知られている)である。本発明者は、シスプラチンへのA2780細胞の曝露によって、その細胞上のDR5及びDcR2受容体の発現が増大したことを示した(図1A)。さらに、本明細書中において、本発明のTRAIL変異体と併用したシスプラチンの投与が、in vitro(図2及び3)とin vivo(図6)における癌細胞でのアポトーシスの増大と、マウス異種移植モデル(図6C)における生存率の上昇をもたらした。従って、本発明のTRAIL変異体を、シスプラチン又は他の白金薬剤、例えばカルボプラチン若しくはオキサリプラチンと共に投与することが好ましい。患者に投与する有効量は、慣用の実験により決定することができ、臨床医の判断による。本発明の目的のため、有効用量は、一般的には血中で約0.1ng/ml〜約1,000ng/ml、又は約1ng/ml〜約100ng/ml、又は約10ng/ml〜約100ng/mlである。
【0092】
本発明者はまた、Colo205細胞の接種により誘導した結腸癌罹患マウスが、wtTRAIL又はD269HE195Rで処置した場合に腫瘍成長低減の増大を示すことを見い出した(図25)。
【0093】
本発明の一実施形態において、TRAIL変異体を用いて、本発明のTRAIL変異体による治療から利益があると思われる癌細胞をスクリーニングすることができる。TRAIL変異体を試験対象の細胞に曝露させる。これらの細胞は、腫瘍に由来する細胞系であってもよいし又は組織生検後に得られるサンプルであってもよい。本発明のTRAIL変異体による治療から利益があると思われる細胞は、TRAIL変異体が結合することができる細胞である。これは、例えば受容体結合アッセイにより評価することができる。あるいは、組換えTRAIL変異体を翻訳後に蛍光標識するか又は蛍光タンパク質(GFPなど)との融合タンパク質として発現させることも想定される。次に、標識TRAIL変異体が結合した細胞は、当業者に公知の種々の手段により容易に同定することができる。例えば、細胞に結合した蛍光TRAIL変異体を蛍光顕微鏡により可視化することができる。また、FACSを利用してTRAILの結合を評価することも可能である。全ての場合において、対照、例えば非標識TRAILを用いて実施した同一実験と、結果を比較する必要がある。好ましい実施形態において、上述した手段により同定することができる細胞系は、化学療法剤又はアスピリンに応答してDR5受容体をアップレギュレートする。そのようなアップレギュレーションは、化学療法剤又はアスピリンへの曝露前後の変異型TRAILタンパク質の結合を比較することにより評価することができる。
【0094】
他の好適な癌は、本発明のTRAIL変異体に応答してアポトーシス速度の増大を示す癌である。特に、当業者には明らかであろう、wtTRAIL又は他の好適な対照と比較した場合に本発明のTRAIL変異体の存在下でアポトーシスの増大を示す原発腫瘍細胞及び細胞系は、本発明の好ましい実施形態である。
【0095】
本発明のさらなる態様は、上記の変異型サイトカイン、核酸又はベクターを、製薬上許容される担体とともに含む医薬組成物を含む。本発明は、(a)上記のTRAIL変異体(複数でもよい)、核酸又はベクターと、(b)医薬担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0096】
成分(a)は前記組成物中の有効成分であり、これは治療上有効な量、例えばアポトーシスを誘導するのに十分な量で存在する。特定の患者についての正確な有効量は、それらの患者のサイズ及び健康状態、疾患の性質及び程度、並びに投与のために選択された組成物又は組成物の組合せに応じて異なる。有効量は、慣用の実験によって決めることができ、臨床医の判断の範囲内である。本発明の目的では、好適な用量は、血清濃度が0.1ng/ml〜1000ng/ml、好ましくは1ng/ml〜およそ100ng/ml、より好ましくはおよそ10〜100ng/mlに達するように用いるべきである。TRAIL変異体は、前記組成物中に塩及び/又はエステル形態で含めてよい。
【0097】
担体(b)は、それ自体は前記組成物を受容する患者に有害な抗体の産生を誘導せず、かつ過度に毒性をもたらすことなく投与することができる任意の物質であり得る。好適な担体は、大型でゆっくりと代謝される高分子、例えばタンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸コポリマー、及び不活性ウイルス粒子であり得る。このような担体は当業者に周知である。製薬上許容される担体には、水、生理食塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体が含まれ得る。このようなビヒクル中には、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝物質などのような補助剤も存在し得る。リポソームは好適な担体である。医薬担体の詳細な考察はGennaro18にある。
【0098】
本発明の医薬組成物は様々な剤形に調製し得る。例えば、前記組成物は、注射可能な剤として(溶液又は懸濁液のいずれかとして)調製し得る。注射の前に液体ビヒクルで溶液又は懸濁液とするのに好適な固体剤形も調製することができる。前記組成物は、凍結乾燥してもよい。
【0099】
医薬組成物は、好ましくは無菌である。医薬組成物は、好ましくは発熱物質不含である。医薬組成物は、好ましくは、例えばpH6〜pH8、一般的にはおよそpH7に緩衝化されている。
【0100】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を含有する送達デバイスも提供する。デバイスは、例えば、シリンジ(注射器)であってよい。
【0101】
本発明のある特定の実施形態において、上記のように、本発明に係る化合物は、別の薬剤、例えば抗腫瘍薬とともに投与されることが好ましい。本発明の医薬組成物と組み合わせて使用するためのこのような薬剤の好適な例は、当技術分野で公知であり、例は以上に挙げている。
【0102】
また、本発明の変異型TRAILを含む医薬組成物は、場合によって、1以上のDR4、DcR1又はDcR1に対する抗体とともに投与することも想定される。このようにして、DR4特異的経路又はTRAIL変異体とデコイ受容体との結合を介してシグナル伝達を遮断することがさらに可能である。DR5以外の受容体に対する残存結合活性が阻害され、本発明の変異型サイトカインの特異性がさらにもっと高まることから、これは有利である。
【0103】
本発明の組成物は、一般的には、対象に直接投与されるであろう。直接送達は、非経口注射により(例えば皮下、腹膜内、静脈内、筋肉内、又は組織の間質腔へ;さらに腫瘍内への直接注射によっても)達成され得る。
【0104】
TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物が腹腔内投与されることが本発明の好ましい実施形態である。IP薬物投与の理論的根拠は、血漿クリアランスが低下すると同時に、局所薬物曝露を増大させることである。本発明者は、この経路によるTRAILの注射によって、静脈内注射と比較して腫瘍取り込みが増大し、効力が増大し、かつクリアランス速度が低減することを見い出した。さらに、IP注射は、静脈内投与と比較して全身毒性の低減をもたらす(表2、図3)。
【0105】
本発明者はまた、125I-TRAILの特異的腫瘍滞留が起こることを示した。これは、他の十分に灌流した臓器における活性が15分で最大であったのに対して、IV投与の60分後における最大腫瘍活性により証明された。IP投与により、腫瘍における活性がより高くなり、累積腫瘍対血液比が高くなり、このことは、組換えヒトTRAIL(本明細書中ではTRAIL)の腹腔内投与によりIV投与と比較して腫瘍薬物曝露がより高くなったことを示している。さらに、低用量TRAILをIP注射した6時間後において、切断型カスパーゼ3が腫瘍の表層において検出され、このことは、自由表面拡散によるTRAILの浸透を示唆している。これは、IP投与後のIP腫瘍浸透に制限のあるモノクローナル抗体と比較して、TRAIL及びTRAIL変異体の可能性ある利点である。TRAIL及びTRAIL変異体がDR4/DR5に対するモノクローナル抗体よりも優れている別の利点は、免疫原性の低減である。さらに、有効なモノクローナル抗体の開発にはより費用が必要であり、それゆえTRAIL及びTRAIL変異体の使用は費用効率が高い。
【0106】
投薬治療は、単回投与スケジュールでも又は複数回投与スケジュールでもよい。本発明の好ましい実施形態において、TRAIL変異体又はTRAIL変異体を含む医薬組成物は、週1回の基準で患者に投与する。理解されているように、投与計画は、臨床医の判断内のものであり、必要が生じた場合又は別の投与計画が患者にとってより有益であるとわかった場合には変更することができる。
【0107】
次に、本発明の様々な態様及び実施形態を、実施例としてさらに詳細に説明する。本発明の範囲を逸脱することなく、細部にわたる改変を行い得ることは理解されよう。
【0108】
図面の簡単な説明
図1:DR5選択的変異体D269H/E195Rは、A2780細胞において、rhTRAIL単独及びシスプラチンとの併用と比較して、細胞傷害性の増強を示す。
【0109】
A.FACS分析により測定された、2.5μMのシスプラチンへの暴露前及び暴露後のA2780におけるTRAIL受容体膜発現のレベル。受容体発現は、蛍光強度(PE)として表す。
【0110】
B.0〜100 ng/mlのTRAIL及びTRAIL-DR5に96時間暴露した後の細胞傷害性アッセイで評価したA2780の生存。* p=0.008
C.細胞傷害性アッセイで測定したA2780の生存。2.5μMのシスプラチンで細胞を4時間プレインキュベートした後、細胞を洗浄し、0〜25 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5に92時間暴露した。* TRAIL対シスプラチンとTRAIL p<0.01、TRAIL-DR5対シスプラチンとTRAIL-DR5 p<0.01、シスプラチンとTRAIL対シスプラチンとTRAIL-DR5 p<0.001。
【0111】
データは、少なくとも3つの独立した実験の平均±SDを表す。
【0112】
図2:DR5選択的変異体D269H/E195Rは、A2780細胞においてシスプラチンとの併用で、全くDR5依存的にアポトーシス増強を示す。
【0113】
A.50 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5単独への暴露後のアポトーシスの誘導、あるいはTRAIL又はTRAIL-DR5投与の20時間前に、2.5μMのシスプラチンと4時間プレインキュベートした後のアポトーシスの誘導。1、3及び5時間の処理後にカスパーゼ-3活性アッセイにより、カスパーゼ活性化を測定した。
【0114】
B.培地、2.5、10、30μMのシスプラチンと一緒に細胞を4時間プレインキュベートした後、洗浄した。20時間後、細胞を100又は250 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5に4時間暴露した後、アクリジンオレンジ染色を用いて、アポトーシスを評価した。
【0115】
C.アクリジンオレンジアポトーシスアッセイ。2.5、10又は30μMのシスプラチンと一緒に細胞を4時間プレインキュベートした後、洗浄した。20時間後、細胞を2.5μg/mlの抗DcR2抗体又は培地に1時間暴露してから、100又は250 ng/mlのTRAILに4時間暴露した。抗DcR2抗体との共インキュベーションでは、アポトーシス誘導に有意な変化は起こらなかった。データは、少なくとも3つの独立した実験の平均±SDを表す。
【0116】
D.ルシフェラーゼに対するsiRNA(Luc siRNA)、又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞におけるDR5膜発現。細胞をシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートした後、洗浄して、培地中で20時間培養した後、DR5膜発現をフローサイトメトリーで測定した。非特異的アイソタイプ対照での染色について、平均蛍光強度(MFI)を補正した。
【0117】
E.ルシフェラーゼに対するsiRNA、又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)、DR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞におけるDR5細胞タンパク質発現。細胞をシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートした後、洗浄して、培地中で20時間培養した後、タンパク質ローディングのための対照としてアクチンを用いて、DR5タンパク質発現をウエスタンブロッティングで測定した。
【0118】
F.ルシフェラーゼに対するsiRNA(Luc siRNA)、又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞を培地又は30μMのシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートした後、洗浄した。20時間後、細胞を100 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5に4時間暴露した後、アクリジンオレンジ染色を用いて、アポトーシスを評価した。データは、3つの独立した実験の平均±SDを表す。
【0119】
表2:A.IV投与した125I-TRAILの生体分布、並びに注射から15分、30分、60分、90分及び360分後にIP A2780異種移植片を担持するマウスにおける腫瘍対血液比。データは、%ID/g±SEMとして表す。IVとIPの間の活性の有意差:(a)p=0.015;(b)p=0.009;(c)p=0.0015;(d)p=0.025;(e)p=0.0028;(f)p=0.035。
【0120】
B.IP投与した125I-TRAILの生体分布、並びに注射から15分、30分、60分、90分及び360分後にIP A2780異種移植片を担持するマウスにおける腫瘍対血液比。データは、%ID/g±SEMとして表す。
【0121】
図3:腫瘍担持マウスにおける125I-TRAILの生体分布を示す図である。
【0122】
A.IP及びIV 125I-TRAILについての血中活性対曲線下面積。血中活性は、125I-TRAILの投与から15分、30分、60分、90分及び360分後に測定した。%ID/gは、各時点で3〜5匹のマウスについて計算し、平均した後、2区画モデルを用いて、薬物反応速度プロフィールをフィッティングした。
【0123】
B.静脈内又は腹腔内投与した125I-TRAILの時間に対する腫瘍対血液比。腫瘍対血液比は、各時点での平均腫瘍活性(%ID/g)を各時点での平均血中活性(%ID/g)で割ることにより計算した。
【0124】
図4:15分時点での腫瘍におけるカスパーゼ-3活性の評価を示す図である。
【0125】
卵巣癌異種移植片組織を125I-TRAILのIP(A)及びIV(B)投与から15分後に切り出し、切断型カスパーゼ-3について染色した。IP投与後のより高い腫瘍取込みが、125I-TRAILの効力増強をもたらしたか否かを決定するために、パラフィン包埋組織を125I-TRAIL注射から15分後に取得して、切断型カスパーゼ-3で染色したところ、この時点で得られたサンプルには切断は見られなかった。
【0126】
図5:360分時点での腫瘍におけるカスパーゼ-3活性の評価を示す図である。
【0127】
卵巣癌異種移植片組織を125I-TRAILのIP(A)及びIV(B)投与から360分後に切り出し、切断型カスパーゼ-3について染色した。IP投与後のより高い腫瘍取込みが、125I-TRAILの効力増強をもたらしたか否かを決定するために、パラフィン包埋組織を125I-TRAIL注射から360分後に取得して、切断型カスパーゼ-3で染色したところ、IP投与の場合には腫瘍表面付近及び小血管付近にカスパーゼ-3切断染色の増加が見られた(図5A)のに対し、IV投与の場合、血管付近で検出可能なカスパーゼ-3活性を誘導したが、腫瘍縁付近では誘導しなかった(図5B)。
【0128】
図6:rhTRAIL及びD269H/E195R単剤療法並びにシスプラチンとの併用療法のin vivo効力を示す図である。
【0129】
生物発光イメージングによる、TRAIL、TRAIL-DR5、シスプラチン及び各リガンドとシスプラチンの併用に対する応答の視覚化。ヌードマウスに2 x 106個のA2780-Luc細胞をIP接種した。5日後、以下のような処置を開始した;5日目及び12日目にシスプラチン(4 mg/kg IP)若しくはビヒクル、5〜10日目及び12〜16日目にTRAIL、TRAIL-DR5(5 mg/kg IP)若しくはビヒクル、又はTRAIL若しくはTRAIL-DR5とシスプラチンの併用。CP=シスプラチン、TR=TRAIL/TRAIL-DR5。
【0130】
A.処置アームごとの経時的発光変化(ラジアンス単位)。各時点での生物発光シグナルを処置グループごとに平均した後、これらを平均値±SEMにより表す。16日目の差は、以下の通りであった:ビヒクルグループとTRAIL間では、(4.6 x 108 ± 6.7 x 107)対(2.3 x 108 ± 3.1 x 107)p=0.097;ビヒクル対TRAIL-DR5(1.4 x 108 ± 1.3 x 107)p=0.015;ビヒクル対シスプラチン(1.3 x 108 ± 2.4 x107)p=0.009;ビヒクル対シスプラチン及びTRAIL(6.7 x 107 ± 2.1 x 107)p=0.003;ビヒクル対シスプラチン及びTRAIL-DR5(1.6 x 107 ± 4.6 x 106)p=0.002であった。
【0131】
B.実験アーム当たり10匹のマウスを代表する各々4匹の処置終了時(16日目)の生物発光画像。画像を表示して、logラジアンス(光子/秒/cm2/sr)で定量する。
【0132】
C.全マウスのカプラン・マイヤー生存分析。材料及び方法に記載するように、生存の代用評価項目として、生物発光シグナル>3.1 x 108を用いた。
【0133】
図7:Colo205及びML-1細胞におけるTRAIL受容体の細胞表面発現を示す図である。
【0134】
Colo205(a)及びML-1(b)細胞におけるTRAIL受容体の細胞表面発現。(左側)DR4及びDR5受容体、(右側)DcR1及びDcR2。
【0135】
図8:TRAIL及びDR5選択的変異体の生物活性を示す図である。
【0136】
(A)Colo205及びML-1細胞における、1μg/mlのDR4(aDR4)、DR5(aDR5)、又はDR4及びDR5(+aDR4+aDR5)受容体中和抗体の存在下での100 ng/mlのTRAILのアポトーシス誘導活性。
【0137】
(B)Colo205細胞における、中和DR4若しくはDR5抗体の非存在下(抗体なし)で、又は中和抗体[aDR4、aDR5、若しくは両方(aDR4aDR5)]の存在下での100 ng/mlのTRAIL又はDR5選択的変異体のアポトーシス誘導活性。
【0138】
Colo205細胞(C)、ML-1(D)、及びA2780(E)におけるTRAIL又はDR5選択的変異体の細胞傷害能力(%細胞死)、さらには、DR4-及びDR5-媒介性細胞死の両方に対して応答性のBJAB細胞(BJABwt)、DR5を欠失したBJAB細胞(BJABDR5 DEF)と、DR5で安定にトランスフェクトしたDR5欠失BJAB細胞(BJABDR5 DEF+DR5)において、シクロヘキシミド対照(0.33μg/ml)と比較した、1、10又は100 ng/mlのTRAIL(WT)又はD269HE195R(DE)の細胞傷害能力(F)をそれぞれ示す。
【0139】
表3:Colo205及びA2780細胞のEC50値を示す。
【0140】
図9:DR5ノックダウンは、A2780細胞においてシスプラチンと併用したTRAILのアポトーシスを低減する。
【0141】
A)フローサイトメトリーにより評価した、様々な濃度のシスプラチンに応答した、A2780 DR5ノックダウン細胞及び対照細胞におけるDR5受容体の細胞表面発現。ルシフェラーゼに対するsiRNA(Luc siRNA)又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞におけるDR5の膜発現。細胞をシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートし、洗浄して、培地中で20時間培養した後、DR5膜発現をフローサイトメトリーにより測定した。平均蛍光強度(MFI)を非特異的アイソタイプ対照での染色について補正した。
【0142】
B)TRAIL及びシスプラチンに応答した、A2780 DR5ノックダウン細胞及び対照細胞におけるアポトーシス率。ルシフェラーゼに対するsiRNA(Luc siRNA)又はDR5に対するsiRNA(DR5 siRNA)でトランスフェクトしたA2780細胞は、培地又は30μMのシスプラチンと一緒に4時間プレインキュベートした後、洗浄した。20時間後、細胞を100 ng/mlのTRAILに4時間暴露した後、アクリジンオレンジ染色によりアポトーシスを評価した。
【0143】
図10:DR5選択的変異体は、wtTRAILよりDR5感受性腫瘍細胞死滅において効率的である。
【0144】
wtTRAIL又はDR5変異体の濃度を増加しながら(5〜30 ng/ml)、これらでColo205細胞を処理し、ホスファチジルセリン暴露(A)、カスパーゼ活性化(B)、及びプロカスパーゼ-8プロセシング(C)を測定することにより、アポトーシスの誘導をモニターした。(A)wtTRAIL及びDR5選択的変異体(D269H及びD269HE195R)による細胞死の誘導。グラフは、誘導されたアポトーシスの平均百分率±SEMを示す。(B)wtTRAIL、D269H及びD269HE195Rでの処理後のColo205細胞におけるDEVDase活性。DEVDase活性は、実施例6に記載のように反応速度アッセイにより、全細胞溶解物中で測定した。酵素活性は、1 mgの全細胞タンパク質により毎分放出されるnmolのAMCとして表した。(C)wtTRAIL及びDR5変異体で処理したColo205細胞におけるプロカスパーゼ-8切断のウエスタンブロット解析であり、wtTRAILと比較して、DR5特異的変異体は低濃度でカスパーゼ-8の切断を示している。グラフ(A、B)は、3つの独立した実験の平均値を示すが、Cは2つの独立した実験の1つの代表図を示す。
【0145】
図11:A2780細胞の表面上の4つのTRAIL受容体の発現を示す図である。
【0146】
DR4、DR5、DcR1及びDcR2の細胞表面発現を、免疫染色、次に、実施例6に記載のフローサイトメトリーにより測定した。各ヒストグラムは、該ヒストグラムに表示されているように、アイソタイプ対照(黒色、白抜きピーク)、及び1つのTRAIL-R標識(グレー、白抜きピーク)サンプルを示す。ヒストグラムは、3つの独立した実験の代表的なものである。
【0147】
図12:DR5選択的変異体は、DcR1及びDcR2の両方に対して低い結合を示す。
【0148】
wtTRAILの濃度を増加しながら、D269H及びD269HE195Rを用いて、SPR受容体結合アッセイにより、それらのDcR1及びDcR2との結合を評価した。(A)固定化DcR1-Igに対するTRAIL変異体の結合であり、wtTRAILと比較して、DR5選択的変異体の有意に低い結合を示している。(B)固定化DcR2-Igに対するTRAIL変異体の結合であり、wtTRAILと比較して、デコイ受容体2とのDR5選択的変異体の有意に低い結合を示している。TRAIL濃度の関数としての応答データ(応答単位で示す)は、4パラメーター方程式を用いてフィッティングすることにより、見かけ前定常状態親和性定数を取得した。
【0149】
図13:DR5選択的変異体は、wtTRAILより、A2780腫瘍細胞死滅において効率的である。
【0150】
(A)wtTRAIL及びD269HE195Rによる細胞死誘導。wtTRAIL又はD269HE195Rの濃度を増加しながら(10〜50 ng/ml)、これらでA2780細胞を処理した。処理から24時間後に、アネキシンVアッセイによりアポトーシス性細胞死を測定した。(B)wtTRAIL及びD269HE195Rの濃度を増加しながら、これらで24時間処理した後のA2780細胞におけるDEVDase活性。DEVDase活性は、実施例6に記載のように、反応速度アッセイにより全細胞溶解物において測定した。酵素活性は、1 mgの全細胞タンパク質により毎分放出されるnmolのAMCとして表した。グラフA及びBは、3つの独立した実験からの平均値±SEMを示している。(C)wtTRAIL及びD269HE195Rの濃度を増加しながら、これらで24時間処理したA2780細胞におけるプロカスパーゼ-8切断のウエスタンブロット分析であり、wtTRAILと比較して、D269HE195Rは低濃度でカスパーゼ-8の切断を示している。ウエスタンブロットは、2つの独立した実験の1つの代表図を示す。
【0151】
図14:デコイ受容体によるwtTRAIL及びDR5変異体が誘導するアポトーシスの阻害を示す図である。
【0152】
可溶性DcR1-Ig及びDcR2-Igの濃度を増加しながら、これらと一緒にwtTRAIL、D269H及びD269HE195Rを30分プレインキュベートした後、濃度10 ng/mlでColo205細胞培養物に3時間かけて添加した。(A)TRAIL及びDR5選択的変異体によるアポトーシス誘導に対する可溶性組換えDcR1-Ig(sDcR1)の作用。グラフは、可溶性DcR1を添加したTRAIL処理グループにおける細胞死が有意に低く、アネキシンVアッセイにより測定したD269H又はD269HE195Rが誘導する細胞死にはまったく影響がなかったことを示している。(B)TRAIL及びDR5選択的変異体によるアポトーシス誘導への可溶性組換えDcR2-Ig(sDcR2)の影響。グラフは、DR5選択的変異体により誘導されるアポトーシス(アネキシンV結合により測定)を低減するために、より高濃度のsDcR2が必要であることを示している。(C)TRAIL及びDR5選択的変異体によるアポトーシス誘導に対する可溶性組換えDR5-Ig(sDR5)の影響は、sDR5がwtTRAIL及びDR5選択的変異体の両方によるアポトーシス誘導を完全に遮断することができることを示している。グラフはすべて、2つの独立した反復実験の代表的なものである。(D)DcR1及びDcR2に対する中和抗体は、wtTRAIL誘導性細胞死を増加することはできるが、DR5変異体誘導性細胞死は増加しない。DcR1及びDcR2に対する中和抗体の濃度を高めながら、これらとColo205細胞を1時間インキュベートした後、wtTRAIL(20 ng/ml)及びD269HE195R(4 ng/ml)を用いて処理した。処理から3時間後、アネキシンVアッセイによりアポトーシスの誘導を測定した。グラフは、中和デコイ受容体抗体の存在下でwtTRAIL又は D269HE195Rにより誘導されたアポトーシス率(%)を、抗体の非存在下でリガンドにより誘導されたアポトーシス率(%)で割ることにより算出したアポトーシスの増加倍率を示す。グラフは、3つの独立した実験の平均値±SEMを示す。
【0153】
図15:DR5変異体は、非形質転換細胞に対して毒性ではない。
【0154】
wtTRAIL、並びにDR5選択的変異体、D269H及びD269HE195Rの濃度を増加しながら、これらで細胞を処理した後、MTTアッセイを用いて、細胞生存率を測定した。(A)線維芽細胞及び(B)HUVEC細胞のいずれでも細胞死がなかったことを示している。グラフは、非処理細胞の百分率として、3つの独立した実験からの平均細胞生存率±SDを示す。
【0155】
図16:D269HE195Rは、細胞死誘導TRAIL受容体及びアポトーシスをwtTRAILよりはるかに速く活性化する。
【0156】
Colo205細胞を30 ng/mlのwtTRAIL又はD269HE195Rで、表示時間処理した後、リガンドを洗い流して、合計180分(TRAIL受容体活性化のため)又は240分(PS暴露のため)通常の増殖培地でインキュベートした。(A)ウエスタンブロッティングでプロカスパーゼ-8プロセシングをモニターすることによって測定した、wtTRAIL及びD269HE195Rによる細胞死誘導TRAIL受容体活性化の反応速度。(B)アネキシンVアッセイにより測定したwtTRAIL及びD269HE195Rによる細胞死誘導の反応速度。細胞死誘導は、リガンドを洗い流さずに240分後誘導された細胞死率(%)に対して表した。グラフは、2つの独立した実験の平均値±SEMを示す。(C)細胞表面発現受容体に対するwtTRAILとD269HE195Rとの結合競合。wtTRAIL(30 ng/ml)をColo205細胞培養物に5分又は10分かけて添加した。非結合wtTRAILを洗い流してから、30 ng/mlのD269HE195Rをさらに5分又は10分かけて細胞に添加した後、除去した。細胞を通常の増殖培地中で合計180分インキュベートし、細胞死の誘導をアネキシンVアッセイにより測定した。グラフは、3つの独立した実験からのアポトーシス率の平均値±SEMを示す。
【0157】
図17:アスピリン及び5-フルオロウラシルでの処理後のColo205細胞系における受容体発現を示す図である。
【0158】
Colo205細胞系を5 mMアスピリンで24時間、又は10μMの5-フルオロウラシルで24時間処理した後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。アスピリンは、TRAIL R2、R3及びR4受容体発現の誘導を引き起こす。5-フルオロウラシルは、全TRAIL受容体の誘導を引き起こす。
【0159】
図18:アスピリンと併用したD269HE195Rは、wtTRAILと比較して、相乗作用の増強をもたらす。
【0160】
(A)アスピリンは、細胞表面にDR5、DcR1及びDcR2の発現を誘導する。Colo205細胞を5 mMのアスピリンで24時間処理し、DR4、DR5、DcR1及びDcR2の細胞表面発現を免疫染色により測定し、フローサイトメトリーで検出した。示したヒストグラムは、アイソタイプ対照(黒色、白抜きピーク)、非処理Colo205(グレー、塗りつぶしピーク)、並びにアスピリン処理Colo205(グレー、白抜きピーク)サンプルを含む。上記ヒストグラムは、3つの独立した実験の代表的なものである。(B)アスピリンとwtTRAIL又はD269HE195Rを用いた併用処理によるカスパーゼ活性化。細胞を5 mMのアスピリンで24時間、次に、5又は10 ng/mlのwtTRAIL又はD269HE195Rで表示時間処理した後、細胞を回収し、細胞溶解物においてDEVDase活性を測定した。DEVDase活性は、3つの独立した実験の、1mgの全細胞タンパク質により分当たり放出されるAMNの平均nmol±SDとして表した。
【0161】
図19:接種のための2x106個及び5x106個のColo205細胞の比較
胸腺欠損ヌードマウスに、2x106個及び5x106個のColo205細胞を含む200μlの培地を皮下注射した後、腫瘍増殖を数週間追跡した。
【0162】
図20:Colo205腫瘍に対する単剤療法としてのアスピリン
2つの濃度40及び200 mg/kgのアスピリンを少数の胸腺欠損ヌードマウスにおいて試験した。アスピリンは、2日をはさんで2x5日の期間毎日IP注射した。
【0163】
図21:Colo205腫瘍に対するTRAILのin vivo作用
Colo205細胞の腫瘍を担時する少数の胸腺欠損ヌードマウス(グループ当たりn=3〜5)において、rhTRAIL WT及びD269HE195Rの抗腫瘍作用を試験した。日用量のアスピリンと一緒に(タンパク質と同じ注射器で)、1 mg/kg及び5 mg/kgの用量でrhTRAILタンパク質を腹腔内注射により2x5日(1〜5日目及び8〜12日目)の間投与して、該タンパク質を試験した。
【0164】
図22:アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかを含む併用療法を用いて、又は用いないで、Colo205細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0165】
(A)DR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、TRAILより有意に低い細胞生存率をもたらし、低濃度のリガンドで最大の差が見られた。(B)濃度の増加によるアスピリンの細胞生存率に対する影響。(C)濃度の増加による5-フルオロウラシルの細胞生存率に対する影響。(D)24時間プレインキュベートした5 mMアスピリンとの併用療法では、TRAIL及び2種のDR5変異体の両方で、細胞における細胞生存率のさらなる低下が起こる。(E)DR5変異体の30分のインキュベーションは、細胞生存率を低下させるのに十分であり、細胞をアスピリンと一緒に24時間プレインキュベートすると、細胞生存率はさらに上昇した。インキュベーション時間がこれより短いと、TRAIL単独又はアスピリンとの併用の能力低下を招く。(F)24時間プレインキュベートした10μMの5-フルオロウラシルとの併用療法では、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞のいずれにも、有意な増強は起こらなかった。(G)DR5変異体の30分のインキュベーションは、細胞生存率を低下させるのに十分であり、これは、5-フルオロウラシルによって増強されず、TRAILの能力低下が再び見られた。タンパク質は次のように表示する:TRAILは、rhTRAIL WTを表し;D269Hは、変異D269Hを有するrhTRAILを表し;E195Rは、変異D269H及びE195Rを有するrhTRAILを表し;M1は、変異D269H、E194I及びI196Sを有するrhTRAILを表す。
【0166】
図23:Colo205腫瘍に対する、wtTRAILの単剤療法及びアスピリンとの併用の影響を示す図である。
【0167】
Colo205細胞の腫瘍を担時する少数の胸腺欠損ヌードマウス(グループ当たりn=3〜5)において、単剤療法及び200 mg/kgのアスピリンとの併用療法として、rhTRAIL WTの抗腫瘍作用を試験した。上記用量のアスピリンと一緒に(タンパク質と同じ注射器で)、又はアスピリンを用いずに、用量1 mg/kg及び5 mg/kgのrhTRAILタンパク質を腹腔内注射により2x5日(1〜5日目及び8〜12日目)にわたり投与して、該タンパク質を試験した。ASAはアスピリンとの併用を示す。
【0168】
図24:Colo205腫瘍に対する、D269HE195R TRAILの単剤療法及びアスピリンとの併用の影響を示す図である。
【0169】
Colo205細胞の腫瘍を担時する少数の胸腺欠損ヌードマウス(グループ当たりn=3〜5)において、単剤療法及び200 mg/kgのアスピリンとの併用療法として、D269HE195Rの抗腫瘍作用を試験した。上記用量のアスピリンと一緒に(タンパク質と同じ注射器で)、又はアスピリンを用いずに、用量1 mg/kg及び5 mg/kgのrhTRAILタンパク質を腹腔内注射により2x5日(1〜5日目及び8〜12日目)の間投与して、該タンパク質を試験した。ASAはアスピリンとの併用を示す。
【0170】
図25:アポトーシスアッセイは、アスピリンと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示し、変異体は、TRAILと比較して高いアポトーシスを示す。
【0171】
5 mMのアスピリン若しくは10μMの5-フルオロウラシルと一緒に、又はこれらを用いずにプレインキュベートした細胞において、5 ng/ml及び10 ng/mlのTRAIL又はDR5変異体(D269HE195R)の添加から3時間後にアネキシンV/PI染色を用いて、アポトーシスを測定した。DR5変異体で処理した細胞は、高いアポトーシスを示し、これは、5-フルオロウラシルではなく、アスピリンにより増強することができる。TRAIL処理細胞は、これより低いアポトーシスを示し、これもアスピリンによって、また、より低い程度で5-フルオロウラシルによって増強することができる。
【0172】
図26:DR5変異体は、TRAILと比較して高いカスパーゼ活性化を示し、これはアスピリンにより増強することができる。
【0173】
Colo205細胞を様々な時点で回収したところ、10 ng/mlのDR5変異体(D269HE195R)での処理後に、より高いカスパーゼ活性化を示した。カスパーゼ活性は、5 mMのアスピリンと24時間プレインキュベートした細胞においてさらに増強されるが、5-フルオロウラシルでは増強されない。10 ng/mlのTRAILで処理した細胞において所与の時点で、最小のカスパーゼ活性化が見られる。
【0174】
図27:アスピリン及び5-フルオロウラシルで処理後のSW948細胞系における受容体発現を示す図である。
【0175】
SW948細胞系を2.5 mMのアスピリンで24時間又は10μMの5-フルオロウラシルで24時間処理した後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。アスピリンは、TRAIL R2発現の誘導のみをもたらす。5-フルオロウラシルは、TRAIL受容体のいずれの誘導も起こさなかった。
【0176】
図28:アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、SW948細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0177】
(A)TRAIL及びDR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、細胞生存率の低下を招いたが、DR5変異体と比較して、濃度が高くなると、TRAILの方が細胞生存率の大きな減少をもたらした。(B)SW948細胞に対する、濃度増加によるアスピリンの作用。(C)2.5 nMのアスピリンと24時間プレインキュベートした併用療法は、TRAIL及び2種のDR5変異体で処理した細胞の両方で細胞生存率のさらなる低下を招いた。(D)10μMの5-フルオロウラシルと24時間プレインキュベートした併用療法は、TRAIL処理細胞でのみ有意な増強をもたらした。
【0178】
図29:アポトーシスアッセイは、アスピリンと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示し、5-フルオロウラシルとの併用はTRAIL処理細胞のみを増強した。
【0179】
5 mMのアスピリン若しくは10μMの5-フルオロウラシルと一緒に、又はこれらを用いずにプレインキュベートした細胞において、5 ng/ml及び10 ng/mlのTRAIL又はDR5変異体(D269HE195R)の添加から3時間後にアネキシンV/PI染色を用いて、アポトーシスを測定した。DR5変異体で処理した細胞は、高いアポトーシスを示し、これは、5-フルオロウラシルではなく、アスピリンにより増強することができる。TRAIL処理細胞は、より低いアポトーシスを示し、これも、アスピリンによって、また、より低い程度で5-フルオロウラシルによって増強することができる。
【0180】
図30:TRAIL処理細胞は、5-フルオロウラシルと併用すると、カスパーゼ活性の増強を示した。
【0181】
20 ng/mlのTRAIL又はDR5変異体(D269HE195R)での処理から3時間後に測定したカスパーゼ活性。10μMの5-フルオロウラシルと一緒にプレインキュベートした細胞は、TRAILで処理後にカスパーゼ活性の増強を示したが、DR5変異体との処理では示さなかった。2.5 mMのアスピリンとのプレインキュベーションでは、この時点でのいずれのリガンド単独と比較しても、それ以上のカスパーゼ活性増強は示さなかった。
【0182】
図31:アスピリン及び5-フルオロウラシルで処理後のLOVO細胞系における受容体発現を示す図である。
【0183】
Lovo細胞系を2.5 mMのアスピリンで24時間又は10μMの5-フルオロウラシルで24時間処理した後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。アスピリンは、TRAIL R4、また、より低い程度でTRAIL R2受容体の発現の誘導をもたらす。5-フルオロウラシルは、TRAIL R2、R3及びR4受容体の誘導をもたらす。
【0184】
図32:アスピリン又は5-フルオロウラシルのいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、Lovo細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0185】
(A)TRAIL及びDR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、細胞生存率の同等の低下を招く。(B)Lovo細胞に対する、濃度増加によるアスピリンの作用。(C)Lovo細胞に対する、濃度増加による5-フルオロウラシルの作用。(D)2.5 mMのアスピリンとの24時間プレインキュベーションは、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞の両方で、細胞生存率を有意に低下させた。(E)10μMの5-フルオロウラシルとの24時間プレインキュベーションは、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞の両方で、細胞生存率を有意に低下させた。
【0186】
図33:アポトーシスアッセイは、アスピリン及び5-フルオロウラシルと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示した。
【0187】
5 mMのアスピリン若しくは10μMの5-フルオロウラシルと一緒に、又はこれらを用いずにプレインキュベートした細胞において、5 ng/ml及び50 ng/mlのTRAIL又はDR5変異体(D269HE195R)の添加から(A)7時間後及び(B)15時間後にアネキシンV/PI染色を用いて、アポトーシスを測定した。アスピリン及び5-フルオロウラシルで前処理した細胞において、TRAIL及びDR5変異体(D269HE195R)処理後にアポトーシスが増大した。アスピリンによるアポトーシス増大は、15時間後に最大で観察された。
【0188】
図34:アスピリン及び5-フルオロウラシルでプレインキュベートしたDR5変異体処理細胞において、より早期かつより高いカスパーゼ活性が見られる。
【0189】
Lovo細胞を様々な時点で回収したところ、50 ng/mlのTRAILと比較して、50 ng/mlのDR5変異体(D269HE195R)での処理後に、より早期のカスパーゼ活性を示した。カスパーゼ活性は、5 mMのアスピリン及び10μMの5-フルオロウラシルと一緒にプレインキュベートした細胞において、さらに増強される。
【0190】
図35:5-フルオロウラシルとの併用療法を用いた及び用いないHCT15、HT29及びRKO細胞の生存率に対する、TRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0191】
TRAIL及びDR5変異体(D269HE195R)は、5-フルオロウラシルとの併用療法を用いて、又は用いずに処理後、細胞生存率の同等の低下を示す。5-フルオロウラシルでは、試験したすべての細胞系(A)、並びに(B)HCT15、(C)RKO及び(D)HT29において、リガンド単独と比較して、それ以上細胞生存率を低下しない。
【0192】
図36:wtTRAIL(グレー)及びDR5(黒色)の細胞外部分の三量体−三量体複合体の正面(左側)及び側面(右側)図である。
【0193】
アミノ酸E195及びD269の側鎖は球体により示される。これらアミノ酸のアルギニン及びヒスチジンへの変異は、それぞれ、wtTRAILを無差別のサイトカインからDR特異的変異体10に変換する。
【0194】
表4:wtTRAIL及びDR選択性TRAIL変異体に対する結腸癌細胞系の感受性を示す。
【0195】
図37:固定化受容体へのwtTRAIL及びD269HE195Rの結合のSPR解析を示す図である。
【0196】
A)直接固定化したDR4-IgへのwtTRAILの結合の典型的センサーグラム。B)CM5チップの表面に直接固定化したDR4-Ig(左パネル)及びDR5-Ig(右パネル)に対するwtTRAIL及びD269HE195Rの結合の前定常状態解析。結合応答はすべて、250 nMでのwtTRAILの値(100%)に対してプロットした。
【0197】
図38:結腸癌細胞系Colo205におけるwtTRAIL及びD269HE195Rのアポトーシス活性の用量応答曲線を示す図である。
【0198】
濃度の関数としてのTRAIL誘導細胞死をMTSアッセイで測定した。
【0199】
図39:子宮頸癌細胞系におけるボルテゾミブによる処理後のp53の誘導を示す図である。
【0200】
3種の子宮頸癌細胞系はすべて、ボルテゾミブの濃度を増加しながら、これで処理して、p53タンパク質の発現を評価した。(A)p53タンパク質の誘導は、濃度1 nMで観察することができ、Caski細胞系では、5及び10 nMで最大の誘導が見とめられた。(B)SIHA細胞におけるp53の誘導は、5及び10 nMで観察することができる。(C)HELA細胞でも、p53の誘導は5 nM及び10 nMで観察されるが、SIHA及びCaski細胞系の誘導より比較的小さい。
【0201】
図40:ボルテゾミブ及び放射線療法後のCaski細胞系における受容体発現を示す図である。
【0202】
Caski細胞系を(A)5 nMのボルテゾミブで24時間処理するか、又は(B)10Gy放射線療法に続いて24時間インキュベートした後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。(A)ボルテゾミブで処理すると、TRAIL R2の受容体発現が増大し、TRAIL R3がわずかに増加した。(B)放射線療法は、TRAIL R3受容体発現のわずかな増加をもたらしただけで、他の受容体発現にまったく変化はなかった。
【0203】
図41:ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、Caski細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0204】
(A)TRAIL及びDR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、細胞生存率に与える影響に関しては、単剤として同等であるようだ。(B)細胞生存率に対する、濃度増加によるボルテゾミブの作用。(C)5 nMのボルテゾミブと24時間インキュベートした併用療法は、wtTRAIL及び2種のDR5変異体で処理した細胞の両方で、細胞生存率のさらなる低下をもたらした。(D)放射線療法は、wtTRAIL又はDR5変異体と併用しても増強作用はなかった。
【0205】
図42:アポトーシスアッセイは、ボルテゾミブと併用したTRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示した。
【0206】
ボルテゾミブを用いて又は用いずに24時間プレインキュベートしたCaski細胞におけるTRAIL及びDR5変異体(D269HE195R)処理から7時間後の(A)アネキシンV/PI染色及び(B)測定。いずれのリガンドも、ボルテゾミブとの併用で作用の増強を示すようであり、DR5変異体は、所与の時点で、TRAILより高いアポトーシスを示す。放射線療法は、TRAIL又はDR5変異体単独で処理した細胞と比較して、増強作用はなかった(データは示していない)。
【0207】
図43:TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブに対するカスパーゼ活性の増強を示し、DR5変異体の方が早期のカスパーゼ活性化を示す。
【0208】
Caski細胞を様々な時点で回収したところ、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞のいずれも、ボルテゾミブとの併用で、カスパーゼ活性の増強を示した。用いたリガンドの濃度は、50 ng/mlであった。しかし、DR5変異体の方が、TRAIL処理サンプルと比較して、早期のカスパーゼ活性化を示す。
【0209】
図44:ボルテゾミブ及び放射線療法を用いた処理後のSIHA細胞系における受容体発現を示す図である。
【0210】
SIHA子宮頸癌細胞系を(A)10 nMのボルテゾミブで24時間処理するか、又は10Gy放射線療法に続いて24時間インキュベートした後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。(A)ボルテゾミブ処理では、TRAIL受容体すべての受容体発現が増大する。(B)放射線療法は、TRAIL R2及びTRAIL R3受容体発現の増加をもたらしただけで、他の受容体発現にはまったく変化はなかった。
【0211】
図45:ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、SIHA細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0212】
(A)細胞生存率に対する、濃度増加によるボルテゾミブの作用。(B)SIHA細胞は、TRAIL及びDR5変異体処理に対して耐性であるが、5 nMのボルテゾミブと24時間インキュベートすると、TRAIL及びDR5変異体いずれでの処理後も、細胞生存率が低下したことが明らかにされた。(C)10Gyの放射線療法は、TRAIL及びDR5変異体処理細胞のいずれにおいても、SIHA細胞の細胞生存率をそれ以上低下させる作用はなかった。
【0213】
図46:DR5変異体は、ボルテゾミブとのインキュベーション後のSIHA細胞において、TRAILより高いアポトーシスを示す。
【0214】
10 nMのボルテゾミブと24時間プレインキュベートした、又はしないSIHA細胞において、TRAIL及びDR5変異体D269HE195Rでの処理から7時間後に、アクリジンオレンジ染色を用いて、アポトーシスを測定し、細胞を測定した。DR5変異体は、所与の時点でTRAILより高いアポトーシスを示す。放射線療法は、TRAIL又はDR5変異体単独で処理した細胞と比較して増強作用はなかった(データは示していない)。
【0215】
図47:TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブに対するカスパーゼ活性の増強を示し、DR5変異体の方が、早期のカスパーゼ活性化を示す。
【0216】
SIHA細胞を様々な時点で回収したところ、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞のいずれも、ボルテゾミブとの併用で、カスパーゼ活性の増強を示した。用いたリガンドの濃度は、50 ng/mlであった。しかし、DR5変異体の方が、TRAIL処理サンプルと比較して、早期で、しかも高いカスパーゼ活性を示す。
【0217】
図48:ボルテゾミブによる処理及び放射線療法実施後のHELA細胞系における受容体発現を示す図である。
【0218】
Hela子宮頸癌細胞系を(A)10 nMのボルテゾミブで24時間処理するか、又は(B)10Gy放射線療法に続いて24時間インキュベートした後、TRAIL R1、R2、R3及びR4の受容体発現のために回収した。(A)ボルテゾミブ処理では、全TRAIL受容体の受容体発現が増大する。(B)また、放射線療法も、TRAIL受容体の増大をもたらす。
【0219】
図49:ボルテゾミブ又は放射線療法のいずれかとの併用療法を用いて、及び併用療法を用いずに、HELA細胞の生存率に対するTRAIL/DR5変異体の影響を調べる細胞生存アッセイを示す図である。
【0220】
(A)TRAIL及びDR5変異体(D269H、D269HE195R及びM1)は、細胞生存率に与える影響に関しては、単剤として同等であるようだ。(B)細胞生存率に対する、濃度増加によるボルテゾミブの作用。Hela細胞は、Caski及びSIHA細胞と比較してより高い濃度のボルテゾミブに対して耐性があるようだ。(C)10 nMのボルテゾミブとの24時間インキュベートを含む併用療法では、TRAIL及び2種のDR5変異体のいずれで処理した細胞においても、細胞生存率がさらに低下する。(D)TRAIL又はDR5変異体と併用した放射線療法では、HELA細胞の細胞生存率がさらに低下する。DR5変異体は、TRAILと比較して、低濃度のリガンドで細胞生存率の低下を示す。
【0221】
図50:アポトーシスアッセイは、ボルテゾミブ及び10Gy放射線療法との併用で、TRAIL及びDR5変異体の作用の増強を示している。
【0222】
10 nMのボルテゾミブとの24時間プレインキュベーション、若しくは10Gy放射線療法を実施した、又は両者とも実施しないHela細胞において、TRAIL及びDR5変異体D269HE195Rでの処理から7時間後に、アクリジンオレンジ染色を用いてアポトーシスを測定し、細胞を測定した。TRAIL及びDR5変異体のいずれも、どちらかの併用療法で、アポトーシスのほぼ同等の増強を示す。ボルテゾミブ、放射線療法及びTRAIL又はDR5変異体の併用は、それ以上相乗作用を示さかった。
【0223】
図51:TRAIL及びDR5変異体のいずれも、ボルテゾミブ及び放射線療法に対するカスパーゼ活性の増強を示す。
【0224】
Hela細胞を様々な時点で回収したところ、TRAIL及びDR5変異体で処理した細胞のいずれも、ボルテゾミブとの併用で、カスパーゼ活性の増強を示した。用いたリガンドの濃度は、50 ng/mlであった。放射線療法と併用した場合、TRAILは、DR5変異体と比較して、早期で、しかも高いカスパーゼ活性を示すようだ。
【0225】
図52:ヒト結腸腺腫細胞は、TRAIL及びD269H/E195Rに対して感受性である。
【0226】
結腸腺腫細胞系VACO-235及びVACO330をTRAIL又はD269H/E195Rで96時間処理した。腺腫細胞系は、D269H/E195Rに対して、より感受性であった。感受性は、cdk阻害剤のロスコビチンと一緒にTRAIL又はD269H/E195Rを用いると、さらに増強することができた。
【0227】
表5:wtTRAIL及びDR5選択的TRAIL変異体に対する子宮頸癌細胞系の感受性を示す。
【0228】
表6:wtTRAIL及びDR5選択的TRAIL変異体に対する卵巣癌細胞系A2780の感受性を示す。
【0229】
図53:17時間にわたるP-Akt阻害は、Colo205結腸癌をTRAIL-DR5(D269H/E195R)に対して選択的に増感する。
【0230】
TRAIL及びD269H/E195R のモジュレーションは、アネキシンVアッセイにより評価して、Colo205においてPI3K阻害によるアポトーシスを誘導した。細胞を20μMのLY294002と一緒に15〜18時間プレインキュベートした後、非処理のまま放置するか、又はrhTRAIL(0.1μg/ml)若しくはD269H/E195R(0.1μg/ml)にさらに3時間暴露した後、回収した。TRAILに対する感受性はやや低下したが、D269H/E195Rに対する感受性は増強した。
【0231】
図54:wtTRAIL又はTRAIL-DR5(D269H/E195R)で処理したHeLa異種移植片を示す図である。
【0232】
HeLa子宮頸癌細胞系の異種移植片をマトリゲルを用いて胸腺欠損ヌードマウス中に樹立した。腫瘍体積が+/-150 mm3に達したら、処置を開始した。TRAIL又は(D269H/E195R)で処置した後のHeLa子宮頸癌異種移植片には何の影響も観察されなかった。
【0233】
図55:経時的にwtTRAIL及びD269HE195Rにより誘発されるTRAIL受容体複合体形成の数学モデルを示す図である。
【0234】
(a)wtTRAIL又は(b)D269HE195Rへの暴露後に連結したホモ三量体DR4、DR5、DcR1及びDcR2複合体の形成。(c)wtTRAIL又は(d)D269HE195Rへの暴露後に、デコイ受容体の非存在下で連結したホモ三量体DR4及びDR5の形成。
【0235】
図56:経時的なリガンド誘導性TRAIL受容体複合体形成の数学的シミュレーションを示す図である。
【0236】
(a)理論上のTRAIL変異体によるホモ三量体DR4、DR5、DcR1及び DcR2の形成。上記TRAIL変異体は、D269HE195Rの親和性によりDR5に、またwtTRAILの親和性により他の3つのTRAIL受容体に結合する。(b、c)wtTRAIL(b)又はD269HE195R(c)を用いたホモ三量体受容体複合体の形成に対する、300秒のインキュベーション後のリガンド除去の影響。(d、e)(d)wtTRAIL又は(e)D269HE195Rでインキュベーション中のヘテロマー受容体三量体の形成及び分解。
【0237】
表7:TRAIL受容体結合シミュレーションに用いた反応速度定数を示す。
【実施例】
【0238】
[実施例1]野生型TRAIL及び変異体の発現及び精製
野生型TRAIL及びTRAIL変異体構築物を大腸菌BL21(DE3)(Invitrogen)に形質転換した。野生型TRAIL及びM1を、4xLB培地、1%(w/v)グルコース、100μg/mlアンピシリン及び追加の微量元素を用いて7.5L発酵槽(Applicon)において5Lバッチ規模で増殖させた。この培養物を37℃、30%酸素飽和で対数増殖中期に増殖させ、続いて1mM IPTGで誘導した。三量体形成を促進するために、ZnSO4を100μMの濃度で加えた。温度を28℃に下げ、培養物を静止期まで増殖させた。同様のプロトコールを用いて、他の変異体を振盪フラスコにおいて1L規模で250rpmにて増殖させた。培養物がOD600 0.5に達したときにタンパク質発現を誘導し、誘導を5時間続けた。この場合、使用した培地は追加の微量元素を含まない2xLBであった。
【0239】
単離したペレットを3倍量の抽出バッファー(PBS pH8、10%(v/v)グリセロール、7mM β-メルカプト-エタノール)中に再懸濁した。音波処理を利用して細胞を破壊し、抽出物を40,000gでの遠心分離により清澄化した。続いて、この上清を、ニッケルをチャージしたIMAC SepHarose fast-flowカラムに流し、野生型TRAIL及びTRAIL変異体を、Hymowitz24に記載されているとおり、次の修飾を加えて精製した:10%(v/v)グリセロール及び最小濃度の100mM NaClを全バッファーに用いた。これにより精製中の凝集を防いだ。IMAC分画ステップ後、全バッファーに20μM ZnSO4及び5mM DTT(β-メルカプト-エタノールの代わりに)を加えた。最後に、Hiload Superdex 75カラムを使用するゲル濾過ステップを含めた。コロイド状クーマシーブリリアントブルーにより染色したSDS-PAGEゲルを用いて決定したところ、精製されたタンパク質の純度は98%を超えていた。精製タンパク質溶液を液体窒素で急速冷凍し、−80℃で保存した。
【0240】
[実施例2]A2780に対するTRAIL-DR5、TRAIL及びシスプラチンのin vitro活性
A2780は、ヒト卵巣癌細胞系であり、これは、その細胞表面にDR5及び低レベルのDcR2を発現するが、DR4及びDcR1は検出されない(図1A)。シスプラチンでの処理により、DR5及びDcR2発現の用量依存的アップレギュレーションが起こった(図1A)。低濃度のTRAIL及びTRAIL-DR5にA2780細胞を長時間(96時間)暴露すると、用量依存性の生存率低下が誘導された(図1B)。TRAIL又はTRAIL-DR5での連続的処理前に低用量シスプラチン(2.5μM)と一緒にプレインキュベートすると、細胞生存率のさらなる低下が起こった(図1C)。TRAIL-DR5は、単剤(p<0.01)、及びシスプラチンとの併用(p<0.001)のいずれの場合にもTRAILより有効に細胞生存率を低下させた。これらの結果と一致して、TRAIL又はTRAIL-DR5に短時間暴露すると、カスパーゼ-3活性により決定されるように、アポトーシスが誘導された。カスパーゼ活性は、2.5μMシスプラチンとのプレインキュベーション時にすべての条件において増強された(図2A)。シスプラチンとTRAIL-DR5の組合せは、シスプラチンとTRAIL(p<0.001)の組合せへの暴露より有効であった。アクリジンオレンジアポトーシスアッセイを用いても、同様の結果が得られた(図2B)。また、TRAIL及び TRAIL-DR5についてのアポトーシスアッセイも、DcR2遮断抗体の同時インキュベーションを用いて実施した。DcR2の遮断は、TRAIL又はTRAIL-DR5によるアポトーシス誘導を増強しなかった(図2C)。
【0241】
上記細胞におけるアポトーシスの誘導へのDR5受容体の関与について、DR5受容体をRNA干渉によりノックダウンした細胞においてさらに評価した。このために、A2780細胞をDR5(5’GACCCUUGUGCUCGUUGUC-dTdT3’(センス)及び5’GACAACGAGCACAAGGGUC-dTdT3’(アンチセンス))に対するsiRNA、若しくはルシフェラーゼ(対照として)でトランスフェクトするか、又はトランスフェクトしないままにした。トランスフェクションから24時間後、細胞を2.5μM、10μM及び30μMのシスプラチンに4時間暴露した後、シスプラチンに暴露していない細胞を含むすべての細胞を洗浄した。翌日、細胞を回収し、フローサイトメトリーによりDR5発現について解析した。DR5発現は、平均蛍光強度(MFI)として表わす。データは、DR5受容体がシスプラチンに応答してアップレギュレートされなかったが、トランスフェクトした対照細胞におけるDR5アップレギュレーションは、トランスフェクトしていない細胞に類似していた(図9Aを図1Aと比較)。
【0242】
次に、対照及びDR5 siRNA細胞においてアポトーシスを誘導するTRAILの効率を評価した。このために、siRNA処理細胞懸濁液の小画分を96ウェルプレートにプレーティングし、200個以上の細胞を計数するアクリジンアポトーシスアッセイで、アポトーシスレベルを決定した。データは、少なくとも3つの独立した実験の平均±SDを示す。結果は、対照細胞のアポトーシスが、非処理細胞と比較して高いことを示している。しかし、DR5 siRNA細胞は、システインと一緒に投与したときでも、TRAILに応答したアポトーシスの増加を示さなかった(図9B)。従って、DR5 siRNAは、TRAILが誘導するアポトーシスの完全な阻害を招くと共に、A2780におけるTRAILが誘導するアポトーシスのシスプラチンによる増感を遮断した。
【0243】
これらのデータは、DR5経路が、卵巣癌細胞においてアポトーシスを誘導する上で重要であることを示しており、このことは、上記癌の治療のためにDR5特異的変異体を用いるという考えを支持するものである。
【0244】
TRAIL又はDR5選択的TRAILを用いた処理に応答するDR5の膜発現を評価するために、A2780-Luc細胞系を以下のように作製した。ルシフェラーゼ遺伝子をpGL3-basic(Promega、ウィスコンシン州マディソン)からHindIII及びXbaI制限酵素(Roche Applied Science、オランダ、アルメール)で切り出した後、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下のpcDNA3ベクターに連結した。A2780細胞を70%コンフルエントまで培養し、250μlのOptimem(Invitrogen、オランダ、ブレダ)中2.5μgのプラスミドDNA及び5μlのFugene6(Roche)と一緒にインキュベートすることにより、トランスフェクトした。トランスフェクションから2日後、ジェネティシン(1 mg/ml)(Roche Applied Science、オランダ、アルメール)を添加することにより、トランスフェクト細胞を選択した。クローン原性アッセイの後、限界希釈による陽性クローンのサブクローニングを実施して、安定なトランスフェクト細胞を取得した。細胞系を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)(Bodinco BV、オランダ、アルカマール)及び0.1 M L-グルタミンを添加したRPMI 1640(Life Technologies、オランダ、ブレダ)において、5%CO2を含む加湿空気中37℃で培養した。A2780-Luc培養物には、ジェネティシンを月1回添加した。ルシフェラーゼ発現について、ルシフェラーゼアッセイ(#E1500、Promega、オランダ、レイデン)及びBioRad ChemiDoc XRS system(BioRad、オランダ、フェーネンダール)で定期的に試験した。
【0245】
既述36のように実施する微量培養テトラゾリウムアッセイを用いて細胞傷害性を測定した。20%FCS及び0.1 M L-グルタミンを添加したHAM/F12及びDNEM培地中で細胞を培養した。本発明者の既述11、12のように、wtTRAIL及びTRAIL-DR5を作製した。DR4及びDcR1への結合能力は、TRAIL-DR5には実質的になかったが、DcR2に対する親和性は低下した11。処理は、0〜100 ng/mlのTRAIL-DR5又はwtTRAILと一緒に行う連続的インキュベーションからなるものであった。シスプラチンとの併用処理を評価する細胞生存アッセイでは、細胞を2.5μMシスプラチン(阻害濃度20%−IC20)と4時間プレインキュベートした後、0〜25 ng/mlのTRAIL又はTRAIL-DR5を添加した。
【0246】
カスパーゼ-3/7活性を早期アポトーシスマーカーとして用いた。カスパーゼ-3/7活性は、カスパーゼ-3/7蛍光定量アッセイ(Zebra Biosciences、オランダ、フローニンゲン)を用いて決定した。DEVDase活性の蛍光定量検出のために、細胞を6-ウェルプレートに塗布し、一晩かけて接着させた。細胞を2.5μMシスプラチンに4時間暴露した後、シスプラチンをPBS(6.4 mM Na2HPO4;1.5 mM KH2PO4;0.14 mM NaCl;2.7 mM KCl;pH=7.2)で洗い流してから、細胞に新鮮な培地を添加した。20時間後、50 ng/mlのTRAIL-DR5又はTRAILを何度か添加した。その後、トリプシンを用いて、細胞を回収し、氷冷PBSで2回洗浄した。製造者のプロトコルに従いカスパーゼ-3活性アッセイを実施する前に、溶解物のタンパク質含量をブラッドフォード(Bradford)分析21で決定した。
【0247】
アクリジンオレンジ染色を末期アポトーシスのマーカーとして用いた。アポトーシスアッセイのために、10,000個の細胞を96-ウェル組織培養プレート中でインキュベートした。細胞を2.5、10又は30μMのシスプラチンに4時間暴露した後、PBSで2回洗浄し、通常の培地中でインキュベートした。それから20時間後、100又は250 ng/mlのTRAIL-DR5又はTRAILを含む又はそれらを含まない通常の培地中で細胞をさらに4時間インキュベートした。TRAIL-DR5及びwtTRAILインキュベーションの前に、遮断抗体と一緒に1時間のプレインキュベーションを実施した以外は、同じ手順を2.5 μg/mlのマウス抗DcR2抗体(R&D Systems、英国オクソン)の存在下で実施した。上記抗DcR2抗体により、Colo205ヒト結腸癌細胞39において、TRAILのアポトーシス促進作用の増強が観察された(図14D)。薬物インキュベーション後、生存細胞からアポトーシス細胞を識別するために、アクリジンオレンジを各ウェルに添加した。染色強度は、蛍光顕微鏡検査により決定した。アポトーシスは、アポトーシス体及び/又はクロマチン凝縮の外観により決定し、最少300個の細胞を含む3つの視野において計数したアポトーシス細胞の百分率として表した。
【0248】
両薬剤の単独療法と比較して、併用療法(シスプラチンとTRAIL又はTRAIL-DR5)の効果を定量的に表すために、細胞死滅及びアポトーシスの増強比を以下のように計算した:増強比=併用療法による誘導%/(シスプラチン単独による誘導%+リガンドによる誘導%)。
【0249】
TRAIL受容体膜発現の解析を、以前記載されている35ようにFACSにより実施した。シスプラチン暴露後の死受容体発現のために、細胞を4時間暴露し、次に、PBSで洗浄してから、通常の培地中で20時間インキュベートした後、FACS解析を実施した。次に細胞を2%FCS及び0.1%アジ化ナトリウムを含む冷PBSで2回洗浄してから、DR4、DR5、DcR1及びDcR2に対するフィコエリトリン(PE)結合マウスモノクローナル抗体と一緒にインキュベートした。マウスPE標識IgG1及びIgG2Bをアイソタイプ対照として用いた。PE標識した抗体はすべて、R&D systems(英国オクソン)から購入した。膜受容体発現はWinlist及びWinlist 32ソフトウエア(Verity Software House, Inc.、メイン州トップシャム)で解析して、解析したすべての細胞の平均蛍光強度(MFI)として示す。
【0250】
前記細胞におけるアポトーシスの誘導へのDR5の関与について、低分子干渉RNA(siRNA)によりDR5をノックダウンした細胞においてさらに評価した。ルシフェラーゼsiRNA処理細胞では、DR5表面発現及びDR5細胞タンパク質発現の強力なシスプラチン濃度依存的増加が観察されたが、DR5 siRNAは、30μMまでのシスプラチンの存在下でDR5の完全なダウンレギュレーションをもたらした(図2D及び2E)。さらに、DR5 siRNAは、やはりシスプラチンの存在下で、TRAIL及びTRAIL-DR5誘導性アポトーシスからA2780細胞を完全に保護した(図2F)。シスプラチンで前処理すると、TRAIL-DR5又はTRAILにより誘導されたアポトーシス及び細胞傷害性が強力に増強され、シスプラチンとTRAIL-DR5の組合せが最も有効であった。
【0251】
Eurogentec(Seraing、ベルギー)により、ヒトDR5に特異的なsiRNAを設計して、合成した。ヒトDR5に特異的な二本鎖siRNAは、5'GACCCUUGUGCUCGUUGUC-dTdT3'(センス)及び5'GACAACGAGCACAAGGGUC-dTdT3'(アンチセンス)とした。二本鎖ルシフェラーゼsiRNA配列は、5'CUUACGCUGAGUACUUCGA-dTdT3'(センス)及び5'UCGAAGUACUCAGCGUAAG-dTdT3'(アンチセンス)とした。製造者(Invitrogen-Life Technologies)の指示に従い、オリゴフェクタミントランスフェクション試薬を用いて、A2780細胞を6-ウェルプレート(30〜50%コンフルエントで)においてsiRNA二本鎖(133 nM)でトランスフェクトした。24時間後、培地を吸引し、細胞を回収してプレーティングした。次に、細胞を様々な濃度のシスプラチンに4時間暴露してから、PBSで洗浄し、通常の培地中で20時間インキュベートした。最後に、細胞を回収し、フローサイトメトリー又はウエスタンブロッティングに用いた。アポトーシスアッセイのために、TRAIL-DR5若しくは TRAIL(100 ng/ml)を含む又は含まない通常の培地中で細胞をさらに4時間インキュベートして、アクリジンオレンジアッセイによりアポトーシスを決定した。
【0252】
ウエスタンブロッティングのために、細胞を氷冷PBSで洗浄した後、10%2-βメルカプトエタノール含有のSDSサンプルバッファー(4%SDS、20%グリセロール、0.5M Tris-HCl、pH 6.8及び0.002%ブルモフェノールブルー)中で水浴中で5分煮沸することにより溶解させた。タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル上で分離し、ウェットブロッティングによりポリフッ化ビニリデン膜(Millipore BV、オランダ、エッテン・ルール)に転写した。ブロッキング剤36として脱脂粉乳を用いて、ウエスタンブロッティングを実施した。以下の抗体を使用した:Cell Signaling Technology(オランダ、エッテン・ルール)製のウサギ抗DR5抗体、及び同量のタンパク質ローディングのための対照として、ICN Biomedicals(オランダ、ズーテルメール)からのマウス抗アクチン。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)と結合した二次抗体はDAKO Cytomation(デンマーク、グロストラップ)から取得した。BMケミルミネッセンスブロッティング試薬(POD)又はLumi-LightPLUSウエスタンブロッティング基質Roche Diagnostics(オランダ、アルメール)を用いて、化学発光を検出した。
【0253】
[実施例3]腫瘍担持マウスにおける125I-TRAIL生体分布
静脈内(IV)及び腹腔内(IP)投与した125I-TRAILの組織生体分布及び腫瘍取り込みをIP A2780-Luc異種移植片を有するヌードマウスにおいて比較した。
【0254】
100μM硫酸亜鉛及び10%グリセロールを含むpH 7.4 TRISバッファー中1 mg/mlのTRAIL溶液で、TRAILの放射ヨウ素標識を実施した。45μgのTRAIL及び50μgのクロルアミンT(Merck、オランダ、アムステルダム)をpH 8.0で0.05 M NaOH(pH 9.0、GE Healthcare、オランダ、アイントホーフェン)中の70 MBq125I-NaIと3分反応させた。標識反応をメタ亜硫酸ナトリウム(Acros Organics、ベルギー、ヘール)で停止した。非結合125Iをゲル濾過クロマトフラフィーにより除去した。100μM硫酸亜鉛、10%グリセロール及び0.5%ヒト血清アルブミンを含むTRISバッファーで、PD-10カラム(Sephadex(商標)G-25M、Amersham Biosciences AB、スエーデン、ウプサラ)を溶離した。前記のように、IP A2780-Luc異種移植片を有するヌードマウスを作製した。
【0255】
A2780-Luc IP異種移植片の樹立後、in vivo生体分布試験を50匹のマウスにおいて実施した。125I-TRAIL(0.15 ml;150 kBq、0.5μg)を25匹のマウスには眼窩後注射により静脈内(IV)投与し、25匹には腹腔内(IP)投与した。注射後5つの時点(t=15、30、60、90及び360分)で、5匹ずつのグループのマウスを犠牲にし、器官及び組織を切除し、残留血液を洗い流してから重量を計測した。組織学的評価のために、腫瘍組織をさらに10%緩衝ホルマリン中で固定した。較正したウェル型LKB-1282-CompuGammaカウンターで放射能を計数した。組織活性は、組織g当たりの注射用量の百分率(%ID/g)として表す。また、腫瘍対血液比及び腫瘍対筋肉比も計算した。データはすべて、物理的減衰について補正した後、既知の標準サンプルと比較した。薬物反応速度パラメーターは、MW/PHARMコンピュータープログラムパッケージ(バージョン3.50、MediWare、オランダ、フローニンゲン)のKINFITモジュールを用いて取得した。非線形回帰分析を用いて、循環からの125I-TRAILのクリアランス速度を計算した。
【0256】
投与経路は125I-TRAILの分布に影響を与えた。血中活性(%ID/g)は、IV対IP注射から15分後(43.29 ± 11.04対25.30 ± 5.04)、及び30分後(30.51 ± 12.40対15.33 ± 3.78) で高かったのに対し、90分後(7.52 ± 1.22対23.74 ± 6.85)及び360分後(2.63 ± 0.56対8.26 ± 1.74)では低かった。血液中の125I-TRAILの血中反応速度は、2区画モデルにより説明することができる。得られた血中活性対時間プロフィール(図3A)は、IV投与後(53.7)よりIP投与後(89.8)の方が、高い時間曲線下面積(AUC)を示した。IP注射後、ピーク血中活性は、IV注射後より低いが、これより長時間にわたって、より高く維持している。腎臓取込み(%ID/g)は、血液プール活性と同じパターンを示し、IV投与に対してIP投与から15分後(199.2 ± 40.69対19.83 ± 1.38)及び30分後(126.6 ± 49.68対21.45 ± 1.90)で高い活性、90分後(12.73 ± 2.47対17.87 ± 1.28)及び360分後(2.06 ± 0.56対4.45 ± 0.31)で低い活性を示した。十分に灌流した器官、例えば、肺、肝臓及び脾臓の活性は、両方の投与経路で、血液プール活性と同様の反応速度を示した。胃活性は、経時的に上昇したが、これは、in vivo脱ハロゲン化による可能性がある。IP投与では、15分後(11.31 ± 1.51)及び60分後(12.91 ± 3.29)に高い腫瘍活性を示し、360分後まで徐々に減少するのに対し、IV投与後、初め低い腫瘍活性が60分後最大(6.85 ± 1.29 IV)まで上昇した。腫瘍対血液比は、IP投与から15分後(0.13 ± 0.02対0.48 ± 0.03)及び60分後(0.38 ± 0.04対0.55 ± 0.06)が高かった。腫瘍対血液比は、IP注射後、経時的に一定のままであり、IV投与後は経時的に上昇した(図3B)。
【0257】
IP投与後の腫瘍取込みが高いほど、125I-TRAILの効果増大をもたらしたのか否かを決定するために、125I-TRAIL注射から15分及び360分後に取得したパラフィン包埋腫瘍組織を切断型カスパーゼ-3について染色した。15分後に取得したサンプルには切断型カスパーゼ-3がほとんど検出されなかった(図4A、4B)が、360分後に取得した組織は、切断型カスパーゼ-3染色の増強を示した。IP投与は、腫瘍表面付近及び小血管付近でカスパーゼ-3活性化をもたらした(図5A)のに対し、IV投与は、血管付近で検出可能なカスパーゼ-3活性を誘導したが、腫瘍縁付近では誘導しなかった(図5B)。
【0258】
IP薬物投与についての理論的根拠は、血漿クリアランスを低減しながら、局所薬物暴露を高めることである。本発明者らは、IP TRAIL投与によって、曲線下面積が増大すると同時に、クリアランスが低下したことを示す。高い腎活性は、TRAILクリアランスの主要部位としての腎臓の機能を裏付けるものであるが、これは、IP投与によって影響されない。大部分の器官における活性は、血液プール活性の後に起こるが、これは、正常な組織への分布が限られていることを示している。
【0259】
本発明者らはまた、125I-TRAILの特異的腫瘍滞留が起こることも示している。これは、IV投与から60分後の最大腫瘍活性により明らかにされたが、他の全ての十分に灌流した器官での活性は15分後最大であった。IP投与は、腫瘍においてさらに高い活性、かつより高い累積腫瘍対血液比をもたらし、これは、IP TRAIL投与により、このモデルにおいてIV投与と比較して高い腫瘍薬物暴露が起こることを示している。さらに、低用量のTRAILのIP注射から6時間後、腫瘍の表層で切断型カスパーゼ-3を検出したが、これは、自由表面拡散によるTRAIL透過を示唆するものである。これは、IP投与後に制限的なIP腫瘍透過を示し、モノクローナル抗体より優れたTRAIL及びその変異体の可能性ある有利な点である。
【0260】
[実施例4]wtTRAIL及びDR5選択的TRAILによる卵巣癌細胞系の細胞死滅
卵巣癌細胞系A2780は、非常に低レベルのDR4を発現し、また高レベルの他の3つの膜結合TRAIL受容体を発現する。上記細胞の野生型TRAIL及びDR特異的変異体に対する感受性を最初に単一剤として比較した。感受性パターンを表6に表示するが、表中、+は最小限の感受性、++は中程度の感受性、+++は高い感受性を示す。
【0261】
A2780は、野生型TRAILに対するものと比較して、DR5選択的TRAILに対する高い感受性を示した。上記作用は、リガンドをシスプラチン化学療法(現在、卵巣癌の治療に用いられる活性薬剤である)と組み合わせて用いたときに増強された。この場合もまた、DR5選択的変異体は、wtTRAILより高い効果を示した。
【0262】
[実施例5]生物発光イメージングにより決定されるIP異種移植片に対するTRAIL、TRAIL-DR5及びシスプラチンのin vivo効果
ヒト卵巣癌細胞系A2780は、ヌードマウスにおいて癌性腹膜炎を模倣するIP異種移植片を形成する。HindIII及びXbaI制限酵素(Roche Applied Science、オランダ、アルメール)を用いて、A2780-Luc細胞系を作製した。ルシフェラーゼ遺伝子をpGL3-basic(Promega、ウィスコンシン州マディソン)から切り出し、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でpcDNA3ベクターに連結した。A2780細胞を70%コンフルエントまで培養し、250μlのOptiMem(Invitrogen、オランダ、ブレダ)中2.5μgのプラスミドDNA及び5μlのFugene6(Roche)と一緒にインキュベートすることによりトランスフェクトした。トランスフェクションから2日後、ジェネティシン(1 mg/ml)(Roche Applied Science、オランダ、アルメール)を添加することにより、トランスフェクト細胞を選択した。クローン原性アッセイの後、限界希釈による陽性クローンのサブクローニングによって、安定なトランスフェクト細胞を取得した。細胞系を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)(Bodinco BV、オランダ、アルカマール)及び0.1 M L-グルタミンを添加したRPMI 1640(Life Technologies、オランダ、ブレダ)中で、5%CO2を含む加湿空気において37℃で培養した。A2780-Luc培養物には、ジェネティシンを月1回添加した。ルシフェラーゼ発現について、ルシフェラーゼアッセイ(#E1500、Promega、オランダ、レイデン)及びBioRad ChemiDoc XRS system(BioRad、オランダ、フェーネンダール)で定期的に試験した。
【0263】
6〜8週齢(約21 g)の雌ヌードマウス(Hsd:Athymic Nude-nu)をHarlan Nederland(オランダ、ホルスト)から取得した。馴化から10日後に接種を実施した。すべての動物実験は、動物実験法(Law on Animal Experimentation)及び現地の指針に従い実施し、現地の倫理委員会により承認された。
【0264】
イメージングはIVIS 100シリーズ(Xenogen Corporation Alameda、カリフォルニア州)を用いて実施したが、これは、遮光ブラックチャンバーに接続した冷却CCD(cooled charge-coupled device)カメラから構成される。in vivoイメージング前に、マウスを4%イソフルランで麻酔し、無菌PBSで再構成したD-ルシフェリン(150 mg/kg、Xenopgen)をIP注射した。イメージングチャンバー内の温めた(37℃)台の上にマウスを俯位で配置した後、薄暗い照明の下でグレースケール標準画像を取得した。完全な暗所でD-ルシフェリン注射から10及び15分後、LivingImageソフトウエア(バージョン2.50、Xenogen)を用いて、生物発光強度を表す疑似カラー画像を取得した。これらの画像を、Igor Proソフトウエア(バージョン4.09、WaveMetirics、オレゴン)による解析のためにグレースケール画像に重ね合わせた。生物発光イメージング(BLI)データはすべてラジアンス単位(光子/秒/cm2/sr)で表示し、これにより、生物発光画像同士の絶対比較が可能になり、これらは、バックグラウンドシグナルを差し引いた後に得られた最終データを示している。
【0265】
TRAIL、TRAIL-DR5及びシスプラチン、又はTRAIL若しくはTRAIL-DR5のいずれかとシスプラチンの組合せを用いた処置に対するIP A2780-Luc異種移植片の応答を評価した。5日目の処置開始から最初の48時間以内に腫瘍退縮は肉眼で見えなかったが、第1処置期間の終了時(9日目)には目に見えて明らかになり、TRAIL又はTRAIL-DR5とシスプラチンの組合せでの処置後、最大のシグナル減少が見とめられた(図6A)。日が経つにつれ両方の処置で、シグナルは上昇した。TRAIL処置アーム以外の処置グループはすべて、ビヒクル処置グループと比較して、16日目で腫瘍が有意に小さくなった。これは、ビヒクル処置マウスに対する、平均シグナルの減少に現れており、TRAIL療法は有意な減少をもたらさなかった(48.8%、範囲32.8〜64.6%、p=0.097)が、TRAIL-DR5及びシスプラチンは、それぞれ68.3%(範囲61.8〜74.8%、p=0.015)及び72.3%(範囲59.8〜84.9%、p=0.009)の減少をもたらした。併用療法は極めて有効であった。シスプラチンと併用したTRAILは、84.8%(範囲73.5〜96.1、p=0.003)のシグナル強度の低下を引き起こし、TRAIL-DR5とシスプラチンの併用では、96.5%(範囲93.2〜99.4%、p=0.002)のシグナル減少が起こった。従って、すべての療法が、処置の終了時に有意な抗腫瘍活性を発揮し、併用療法が最も高い活性を示した。TRAIL-DR5とシスプラチンの併用療法後のシグナル強度の低下は、単独でのシスプラチン療法(p=0.027)後の平均光度低下より大きかった。
【0266】
一般に、処置終了時の光強度は、生存率とは逆相関している(図6B)。マウスは、生物発光シグナル≧3.1 x 108光子/秒/cm2/srに達したとき、犠牲にした。ビヒクル対照の生存中央値は16日であり、18日以降生存したマウスはいなかった。TRAIL及びTRAIL-DR5での単剤療法により、生存中央値が21日まで延長され(p<0.001)、シスプラチンでの単剤療法で、28日まで延長された(p<0.0001)。TRAIL-DR5とシスプラチンの併用により、31日の生存中央値(p<0.0001)、またTRAILとシスプラチンの併用により、32.5日(p<0.0001)が得られた。後者はまた、シスプラチン単剤療法と比較しても有意であった(p=0.038)。犠牲時の肝組織学では、肝損傷の何の徴候も示されなかった。
【0267】
[実施例6]DR-5特異的変異体の生物活性
DR5結合に関する生物活性を評価するために、様々な癌細胞を用いた。Colo205結腸癌細胞とML-1慢性骨髄性白血病細胞は、FACS解析を用いて示されるように(図7)、細胞表面上に4つのTRAIL受容体すべてを発現することから、TRAILが誘導するアポトーシスに対して感受性が高い。TRAILが誘導する細胞死へのDR4対DR5の関与を試験するために、Colo205細胞を中和抗DR4又は抗DR5抗体で1時間処理した後、TRAILを添加した。いずれの抗体も、TRAIL媒介性細胞死を低減し、組み合わせて用いると、相加作用を有した(図8A)。しかし、DR5中和抗体は、DR4中和抗体より3倍効果が高く、Colo205細胞におけるTRAIL誘導性アポトーシスが、主にDR5により媒介されていることを示している。対照的に、DR4経路は、ML-1細胞におけるTRAIL誘導性アポトーシスの主要メディエーターである(図8A)。DR5特異的TRAIL変異体が、DR5受容体を介してColo205細胞に細胞死を誘導するか否かを調べるために、リガンド処理の1時間前に1μg/mlの中和抗DR4又は抗DR5抗体を投与した。抗DR4抗体が存在すると、DR5特異的変異体により誘導される細胞死を阻止することができなかった。しかし、1μg/mlの抗DR5抗体は、細胞死の量を有意に低減した(図8B)。
【0268】
次に、TRAIL又はDR5特異的変異体D269H、D269HE195R、及びD269H/T214Rの濃度を増加しながら、これらでColo205及びML-1細胞を処理し、その細胞傷害能力を3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイで測定した。Colo205細胞において、TRAILリガンドはすべて生物学的に活性であり、野生型TRAILに匹敵するか又は野生型TRAILより5倍高い活性レベルで、細胞死を誘導した(図8C及び表3)。Colo205細胞とは対照的に、TRAILのみがML-1細胞において細胞死を誘導することができた(図8D)。
【0269】
DR4受容体のみを発現し、かつDR5受容体が欠失したEM-2慢性骨髄性白血病細胞を用いて、また、DR5を発現するが、その表面にDR4が欠失しており、しかもTRAIL誘導性細胞死に対して比較的非感受性である卵巣癌細胞系A2780を用いて、同様の結果が得られた。EM-2細胞は、TRAIL誘導性細胞死に対して感受性であった(50 ng/mlのTRAILで、>80%細胞死を起こす)が、DR5変異体のいずれで処理しても、有意な細胞死を誘導することができなかった(データは示していない)。しかし、A2780細胞においては、D269H、D269HE195R、及びD269HT214Rの細胞傷害活性が有意に増大し、野生型TRAILと比較して、最大応答の増大と、EC50値の顕著な低下を同時に示している(図8E及び表3)。
【0270】
DR4及びDR5媒介性細胞死の両方に応答性の野生型BJAB細胞(BJABwt)、DR5が欠失したBJAB細胞(BJABDR5 DEF)、並びにDR5が欠失し、かつDR5で安定にトランスフェクトしたBJAB細胞(BJABDR5 DEF+DR5)を用いた別の実験により、本発明者らの知見を確認する。D269HE195Rは、BJABwt細胞に細胞死を誘導することができたが、野生型TRAILと比較すると、BJABDR5 DEFに有意な細胞死を誘導することはできなかった。しかし、DR5でトランスフェクトしたBJABDR5 DEF+DR5細胞では、細胞傷害能力が回復した(図8F)。100 ng/ml TRAIL又はTRAIL変異体の存在下で上記細胞をインキュベートすることにより、非癌性ヒト臍静脈内皮細胞に対する上記TRAIL変異体の細胞傷害作用を評価した。しかし、TRAIL及び受容体選択的TRAIL変異体について、細胞傷害作用はまったく観察されなかった(データは示していない)。
【0271】
以上を考え合わせると、Colo205、ML-1、A2780、及びBJAB細胞系で得られた結果は、D269H、D269HE195R、及びD269H/T214R変異体の生物活性が、DR5受容体に対して特異的であること、また、上記TRAIL変異体は、結腸及び卵巣癌細胞系にアポトーシスを誘導する上で非常に効率的であることを示している。
【0272】
[実施例7]DR5選択的TRAIL変異体は、腫瘍細胞死滅においてより有効である
Colo205細胞は、4つのTRAIL受容体すべてを発現し、該細胞において主にDR5により媒介されるTRAIL誘導性アポトーシスに対して感受性である10。wtTRAIL及びDR5選択的TRAIL変異体(D269H、D269HE195R)に対するColo205細胞の応答を比較するために、10%ウシ胎仔血清、2 mM L-グルタミン、50 U/mlペニシリン及び5 mg/mlストレプトマイシン及び10 mMピルビン酸ナトリウムを添加したRPMI 1640培地中で、Colo205細胞を培養して、処理の24時間前に濃度2 x 105 細胞/mlで接種した(別に記載のない限り、試薬はすべてSigma-Aldrichから入手した)。細胞を37℃及び5%CO2の加湿空気中で培養し、2〜30 ng/mlのwtTRAIL、D269H又は D269HE195Rで3時間処理することにより、増殖応答曲線を決定した(図10A)。細胞死の誘導をアネキシンVアッセイにより測定したが、該アッセイでは、アネキシンV-FITC(IQ Corporation、オランダ、フローニンゲン)を用いて、アポトーシス細胞の形質膜上のホスファチジルセリン(PS)の外面化(extenalization)を検出した。簡単に説明すると、細胞をトリプシン処理した後、400 gでの遠心分離により回収し、氷冷カルシウムバッファー(10 mM HEPES/NaOH、pH 7.4、140 mM NaCl、2.5 mM CaCl2)で洗浄してから、アネキシンV-FITCと一緒に15分暗所でインキュベートした後、FACSCaliburフローサイトメトリー(Becton Dickinson)で取得した。
【0273】
図10Aに示すように、2つのDR5選択的TRAIL変異体は同様の細胞傷害能力を呈示し、これは、IC50値(用量応答曲線の直線範囲から決定される)に基づくwtTRAILの細胞傷害能力より2.7〜4.2倍高かった。また、wtTRAIL及びDR5選択的変異体に応答するカスパーゼ活性化も測定したところ、2.9〜4.1倍低い濃度のDR5-選択的変異体が、同じレベルのカスパーゼ活性を誘導するのに十分であることが明らかになった(図10B)。DR5選択的変異体により誘導されたより高いDEVDase活性は、ウエスタンブロッティングにより、同じ用量範囲のwtTRAIL及びDR5選択的変異体を用いた3時間の処理後に試験したより強力なプロカスパーゼ-8プロセシングと相関した。上記試験では、処理後、細胞を100μlの全細胞溶解バッファー(20 mM HEPES、pH 7.5、350 mM NaCl、1 mM MgCl2、0.5 mM エチレンジアミン-四酢酸(EDTA)、0.1 mMエチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N'N'-四酢酸(EGTA)、1% Igepal-630、0.5 mMジチオトレイトール(DTT)、100μmフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、2μg/mlペプスタチンA、25μM N-アセチル-Leu-Leu-Nle-CHO(ALLN)、2.5μg/mlアプロチニン及び10μMロイペプチン)において15分氷上で溶解させた。タンパク質サンプルをLaemmliサンプルバッファー中で変性し、5分煮沸した。タンパク質を10%SDS-PAGEにより分離して、ニトロセルロース膜に転写した。0.05%Tween20と5%(w/v)脱脂粉乳を含むPBS中で1時間かけて膜をブロッキングした。次に、膜をアクチンに対する抗体(1:500;Sigma)と一緒に室温で1時間インキュベートするか、又はカスパーゼ-3及び-8に対する抗体(1:1,000;Cell Signaling Technologies)と一緒に4℃で一晩インキュベートした。これに続き、適切な二次抗体(すべての抗体について1:5,000)と一緒に2時間のインキュベーションを室温で実施した。Supersignal Ultra Chemiluminescent Substrate(Pierce)を用いて、X線フィルム(Agfa)にタンパク質バンドを視覚化した。ウエスタンブロットの結果を図10Cに示す。
【0274】
Colo205細胞の場合と同じ添加物を含むDMEM中でA2780卵巣癌細胞を培養し、処理の24時間前に濃度3.5 x 105 細胞/mlで接種した。
【0275】
A2780癌細胞上でのTRAIL受容体の各々の細胞表面発現を決定するために、1%BSAを含むPBSで細胞を2回洗浄した後、DR4、DR5、DcR1又はDcR2に対するモノクローナル抗体(Alexis)と一緒に40分インキュベートした。PBS/BSAを用いた2回の洗浄ステップの後、抗マウスIgG-FITC(Sigma)二次抗体を30分かけて添加した。インキュベーションはすべて氷上で実施した。陰性対照には、アイソタイプ対照抗体を含有させた。細胞をFacsCaliburフローサイトメーターにより解析した。A2780癌細胞は、その表面に高レベルのDR5、DcR1、DcR2を発現するが、検出可能なDR4は発現しないこと、また、wtTRAILが誘導するアポトーシスに対して部分的に耐性であることがわかった(図11及び13A)。Colo205細胞と同様に、D269HE195Rは、A2780細胞においてwtTRAILより有効なアポトーシス誘導物質であるようだ。wtTRAILは、試験した最高濃度(250 ng/ml)でも、24.3±4.5%以上の細胞死を誘導することはできなかったが、10 ng/mlのD269HE195Rは、30.6±2.5%のアポトーシス(前記のようにアネキシンVアッセイにより測定した)を誘導するのには十分であった(図13A)。DEVDaseアッセイによるエフェクターカスパーゼ活性化の試験を行った。上記アッセイでは、細胞溶解物(25μl)をマイクロタイタープレートに移し、液体窒素により急速凍結した。反応を開始するために、アッセイバッファー(100 mM Hepesバッファー、10%スクロース、0.1% 3[(3コルアミドプロピル)-ジメチルアンモニオ]-1プロパンスルホネート(CHAPS)、5 mM DTT及び0.0001% Igepal 630、pH 7.25)中50μMのカスパーゼ基質カルボベンゾキシ-Asp-Glu-Val-Asp-AMC(7-アミノ-4-メチルクマリン)(DEVD-AMC)(Peptide Institute Inc.、日本国大阪)を細胞溶解物に添加した。Wallacマルチラベルカウンター(励起355 nm、発光460 nm)を用いて、遊離AMCの放出を起こす基質切断を37℃にて60秒間隔で25サイクルモニターした。酵素活性は、タンパク質mg当たり毎分放出されたnmolのAMC(nmol/分/mg)として表し、ウエスタンブロッティングによるプロカスパーゼ-8プロセシングでこの結果を確認した(図13B及び13C)。要約すると、DR5受容体の選択的活性化は、機能的DR5受容体を含む腫瘍細胞系におけるより多くの細胞死と相関するプロカスパーゼ-8プロセシングの増強をもたらしたが、このことは、アポトーシス促進能力の増強が、より効率的な受容体活性化に起因する可能性を示している。これは、DR5に対する高い親和性及び特異性と、デコイ受容体との結合の低減との組合せによるものと考えられる。この仮定を試験するために、前記変異体とDcR1及びDcR2の相互反応を試験した。
【0276】
[実施例8]DR5選択的変異体は、DcR2と比べ、DcR1に対する結合の効率が低い
表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく受容体結合アッセイを実施して、固定化DcR1-Ig及びDcR2-Ig融合タンパク質に対するwtTRAILの結合親和性を、D269H及びD269HE195Rの結合親和性と比較した(図12)。結合実験は、以前記載されている10ように、表面プラズモン共鳴に基づくバイオセンサー(Biacore 3000、Biacore AB、スエーデン、ウプサラ)を用いて、37℃で実施した。簡単に説明すると、プロテインA(Sigma)修飾CM5センサーチップ(Biacore)を用いて、DcR1-Ig及び DcR2-Ig受容体キメラ(R&D Systems)を流速35μl/分で捕捉した。受容体キメラは約500〜800応答単位(RU)のレベルで捕捉した。精製済wtTRAIL及びTRAIL変異体は、泳動用及びサンプルバッファーとして、0.005%vol/vol P20(Biacore)を添加したPBS(pH 7.4)(Invitrogen)を用いて、流速70μl/分で250 nM〜2 nMの範囲の濃度で3重(three-fold)に注入した。受容体へのリガンドの結合をリアルタイムでモニターした。注入と注入の間に、30sパルスの0.1 Mグリシン、0.5 M NaCl pH3を用いて、プロテインAセンサー表面を再生した。TRAIL受容体複合体の解離が非常に緩徐であったため、前定常状態の結合データしか得ることができなかった。適切な高親和性複合体形成を示すデータを得るために、各濃度での応答を注入終了から30秒後に記録した。TRAIL濃度の関数としての応答データ(応答単位で表す)を、4パラメーター方程式を用いてフィッティングすることにより、見かけ前定常状態親和定数を取得した。
【0277】
0.1〜250 nMの範囲の濃度で受容体結合を測定することにより、リガンドの親和性を評価した。DcR1に対するD269H及びD269HE195Rの結合は、wtTRAILと比較すると、約20倍低かった(図12A)。DcR2に対するD269H及びD269HE195Rの結合も低かったが、観察されたDcR1との結合の低下と比較すると、作用ははるかに小さかった(図12B)。
【0278】
デコイ受容体のアンタゴニスト作用をさらに評価するために、可溶性の組換えDcR1-Ig(sDcR1)及び DcR2-Ig(sDcR2)の濃度を増加しながら、これらと一緒に、wtTRAIL、D269H及びD269HE195Rを30分インキュベートした後、最終リガンド濃度10 ng/mlでColo205細胞培養物に添加した。前記のように、細胞死の誘導を処理から3時間後にアネキシンVアッセイにより評価した(図14)。0.5μg/mlのsDcR1を含むwtTRAILのプレインキュベーションは、そのアポトーシス促進活性を完全に遮断した。これに反して、sDcR1との D269H又はD269HE195Rのプレインキュベーションは、用いた最も高い濃度(2μg/ml、図14A)でも、そのアポトーシス促進活性を低減することはできなかった。sDcR2とのプレインキュベーションは、sDcR1と同様、wtTRAILによるアポトーシス誘導を遮断することができた。sDcR2はまた、D269Hにより誘導されたアポトーシスも遮断することができたが、wtTRAILの場合より2倍高い濃度でしか達成しなかった。sDcR2は、D269HE195Rに対しては有効性がさらに低く、用いた最も高い濃度でも、完全な保護を達成することはできなかった(図14B)。対照的に、可溶性DR5とのDR5選択的変異体のプレインキュベーションは、そのアポトーシス促進活性の完全な遮断を達成した(図14C)。これにより、観察された遮断効果の差は、デコイ受容体がD269H及びD269HE195Rに結合して、これらを阻害する能力の低減によるものであることが確認される。
【0279】
前記の結果は、DcR1及びDcR2に対する中和抗体の濃度を増加しながら、これらと一緒に、Colo205細胞を1時間プレインキュベートした後、約50%細胞死を誘導した用量のwtTRAIL(20 ng/ml)又はD269HE195R(4 ng/ml)で処理することにより、確認した。前記のように、染色アネキシンVアッセイを用いて、処理から3時間後にアポトーシス細胞死を測定した(図15)。アポトーシスの増加は、中和抗体の非存在下で、リガンド単独によって起こったアポトーシスのレベルと比較した増加倍率として表した。細胞をDcR1中和抗体で前処理したところ、wtTRAIL処理細胞では1.51±0.15倍のアポトーシス増加が検出されたが、D269HE195R処理の場合、増加はまったく見られなかった。DcR2の中和により、wtTRAIL誘導性アポトーシスに1.22±0.07倍の増加が起こったが、D269HE195R処理後のアポトーシスの増加はまったくなかった。DcR1及びDcR2に対する中和抗体を組み合わせると、wtTRAIL誘導性細胞死には、さらにほぼ相加的な1.68±0.12倍の増加が起こったが、D269HE195Rでは見られなかった(図14D)。これらの結果は、wtTRAILがアポトーシスを誘導する能力は、細胞表面に発現したデコイ受容体により有意に制限されることを指摘している。対照的に、DR5選択的TRAIL変異体は、デコイ受容体による封鎖(sequestration)を回避することができ、従って、より高いアポトーシス促進能力を呈示する。
【0280】
以前の研究から、デコイ受容体発現は、全細胞発現、又は細胞表面上のいずれでも、TRAIL感受性と相関しないことがわかっている。これは、アポトーシスの細胞内阻害物質(c-FLIP、Bcl-2、リン酸化Aktなど)の存在又は受容体のコンパートメント化20によるものと考えられる。最新の研究の結果から、DcR1及びDcR2の中和により、TRAIL誘導性アポトーシスを増大させることができる(Colo205においてDcR1及びDcR2中和により、それぞれ1.5倍及び1.2倍)ことがわかった。言い換えれば、デコイ受容体の存在下で、wtTRAILのアポトーシス誘導能力は、Colo205細胞において約40%(100%/(1.5+1.2))低減する。これは、内在的に発現したデコイ受容体が、wtTRAILのアポトーシス誘導能力を制限することを示す最初のデータである。しかし、デコイ受容体を中和しても、D269HE195Rが誘導するアポトーシスを低減することはできず、これもやはり、DR5変異体が、デコイ受容体により媒介される中和を回避することができることを示している。高濃度の可溶性DcR2は、D269HE195Rの活性を制限することができるが、細胞表面に発現したDcR2は、D269HE195Rによるアポトーシス誘導を低減するのに十分ではなかった。これは、可溶性組換えFc融合受容体と比較して、DR5:DcR2比の違い、又は全長の表面発現DR5及びDcR2の構造の違いによるものであろう。
【0281】
本発明者らの結果は、Clancyらにより提案されたリガンド非依存的モデル21を排除することはできないが、Merinoらにより提案されたリガンド依存的モデル22の方を支持するものである。1受容体に対するその選択性によって、DR5選択的変異体は、DR5とデコイ受容体同士の非機能的ヘテロマー複合体ではなく、むしろホモマーDR5複合体の形成を選択し、このことが、リガンドのアポトーシス促進活性を増強すると推測することができる。
【0282】
[実施例9]DR5選択的変異体は、非形質転換細胞に対して毒性ではない
TRAILから非形質転換細胞を保護する上でのデコイ受容体の重要性は多数の報告37により示されている。従って、非癌細胞に対するDR5選択的変異体の毒性作用を評価した。10%ウシ胎仔血清、50 U/mlペニシリン及び5 mg/mlストレプトマイシンを添加した低グルコースDMEM(Sigma)中でヒト皮膚線維芽細胞を増殖し、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC、PromoCell)をSuplementMix(PromoCell)と一緒に内皮細胞増殖培地中で培養した。線維芽細胞及びHUVEC細胞を1.3x105細胞/mlで接種してから24時間後に、TRAIL並びにDR5選択的変異体、すなわち、D269H及びD269HE195R(50〜500 ng/ml)の濃度を増加しながら、これらを用いて24時間処理した後、MTTアッセイを用いて細胞生存率を測定した。上記アッセイでは、200 μg/mlのMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムブロミド)を対照細胞及び処理細胞に添加した後、37℃で3時間インキュベートした。反応を停止させ、形成された紫色のホルマザン沈殿物を、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて溶解させ、Wallacマルチラベルカウンターにより550 nmで色の強度を測定した。非処理細胞に対応する対照値を100%として、処理サンプルの生存率を対照の百分率として表した(図15)。wtTRAIL及びDR5選択的変異体のいずれも、ヒト線維芽細胞(図15A)又は内皮細胞系HUVECの一次培養物における細胞生存率に何の影響ももたらさなかったが、これは、TRAIL誘導性アポトーシスから非癌細胞を保護する上で、デコイ受容体には限定された役割しかないことを示している(図15B)。
【0283】
[実施例10]DR5選択的変異体は、wtTRAILの17倍速くDR5を活性化する
デコイ受容体の中和により、wtTRAILのアポトーシス誘導能力は1.68倍増加したが、この増加だけでD269HE195Rの2.7〜4.2倍高いアポトーシス促進活性を十分に説明することはできない。D269HE195Rは、wtTRAILより低い濃度で、より強力なプロカスパーゼ-8プロセシングを誘発するが、これは、DR5を活性化する能力の増強を示している。wtTRAIL及びD269HE195Rが細胞死誘導TRAIL受容体を活性化する能力を比較するために、Colo205細胞を濃度30 ng/mlのリガンド(この濃度で、wtTRAIL及びD269HE195Rの両方が最大の細胞死を誘導する)と一緒に様々な時間(5〜180分)インキュベートした後、リガンドを洗い流して、合計180分まで通常の増殖培地でインキュベーションを続けてから、細胞を回収し、これを受容体活性化のマーカーとしてプロカスパーゼ-8プロセシングを測定した。D269HE195Rでの処理により、インキュベーションから5分後、すでに有意なプロカスパーゼ-8プロセシングが起こったが、wtTRAILによる同等レベルのプロカスパーゼ-8プロセシングに達するのには60分を要した(図16A)。
【0284】
受容体活性化の反応速度高速化は、アポトーシス誘導に現れた。Colo205細胞を30 ng/mlのwtTRAIL又はD269HE195Rで表示時間処理した後、リガンドを洗い流して、合計240分まで通常の増殖培地でインキュベーションを続けた。細胞を回収し、前記のように、アネキシンV標識で細胞死を定量した(図16B)。ソフトウエアMatlabRを用いて、データを補間スプラインでフィッティングした。フィッティング曲線から、50%効果に必要なインキュベーション時間は、wtTRAILについては60.81分であると決定された。D269HE195Rのこの値は、3.55分であり、これは、D269HE195Rによる受容体活性化がwtTRAILより17倍速く起こることを示している。このことは、異種受容体が細胞内に存在するか、又は異種受容体がTRAILとリガンドの連結後に形成されうる(すなわち、DR4-DR5-DcR1の複合体)と想定すれば、設計変異体のより高速な結合反応速度、及び/又はより効率的な結合の結果であると考えられる。後者の想定の場合、設計した変異体は、選択的にDR5受容体のみと複合体を形成するため、効率的な活性化を誘導するであろう。
【0285】
こうした高速の受容体活性化が、wtTRAIL及びD269HE195Rの両リガンド間の受容体活性化の能力の差ではなく、むしろwtTRAILと比較して、D269HE195Rによる受容体結合が速いことによるものであったのか否かを判定するために、Colo205細胞をwtTRAILと一緒に5〜10分、プレインキュベートし、洗浄した後、D269HE195Rを上記細胞に添加し、さらに5〜10分(細胞死を誘導するのに十分な時間)インキュベートしてから除去した。次に、細胞を通常の増殖培地において合計180分までインキュベートした後、細胞死のレベルを決定した(図16C)。結果から、wtTRAILとのプレインキュベーションは、二重変異体によるアポトーシス誘導に影響を与えなかったことが明らかにされた。wtTRAILによるアポトーシス誘導の低速反応速度が、4つの受容体との不活性異種複合体の形成によるものであり、受容体との結合が遅かったからでないのであれば、変異体による完全な阻害を予想したであろう。反対に、wtTRAILの結合反応速度が非常に遅いのであれば、短いインキュベーション時間では、結合受容体はほとんど形成されず、従って、D269HE195Rの高いアポトーシス促進能力の阻害も起こらないであろう。明らかに本発明者らの結果は、後者の仮定を支持するものである。
【0286】
得られた結果は、wtTRAILとの5又は10分のいずれのプレインキュベーションでも、D269HE195R誘導性アポトーシスを阻害することができなかったため、D269HE195Rは、wtTRAILより高速の反応速度でDR5に結合することを示している。こうした結果はまた、2つのリガンドがアポトーシスを誘導する能力の差は、受容体との結合後に該受容体を活性化する能力の差によるものではないことも示している。
【0287】
[実施例11]TRAIL及びDR5選択的変異体は、Colo205細胞、及びColo205細胞の接種により誘導された腫瘍において、アスピリンとの高い相乗作用を発揮する
様々な化学療法剤が、TRAILに対する腫瘍細胞の感受性を高めることが報告されており、これは往々にしてDR5の誘導と相関していた。しかし、こうした療法の多くは、デコイ受容体の発現も誘導するため、誘導される細胞死の相乗作用の程度/量を制限する可能性がある。このようなモデルにおけるDR5選択的変異体D269HE195Rの効力を試験した。Colo205細胞におけるアスピリンとwtTRAIL又はD269HE195Rの併用効果を試験した(図22)。TRAIL受容体発現及びカスパーゼ活性化の誘導に対するアスピリンの作用をモニターした。5mMアスピリンでの処理は、DR5の発現増大、同様に、細胞表面のDcR1及びDcR2の発現増大を招いた(図22A)。アスピリンを用いた24時間の処理で、wtTRAILに対する細胞の感受性は増大したが、D269HE195Rとの方が増感ははるかに顕著であった。こうした結果は、高親和性TRAIL変異体による選択的受容体活性化が、腫瘍細胞死滅の顕著な増大をもたらすことを強調している。
【0288】
アスピリンとTRAILの相乗作用、並びにwtTRAIL及びD269HE195Rの相乗作用間の差を調べるために、さらにin vivo実験を実施した。
【0289】
第1の実験では、2つの濃度のColo205細胞を接種に用いた。腫瘍増殖を6週間にわたり追跡した。用いた濃度は、200μlの培地中2x106及び5x106細胞であった。腫瘍増殖を図20に示す。2x106細胞を接種したマウスは多量の腫瘍増殖を被らず、腫瘍は平均体積約80 mm3に達した。5x106細胞から出発した腫瘍は、かなり大きな腫瘍、平均体積約750 mm3を形成した。さらに別の実験のために、上記最後の濃度を接種に用いた。
【0290】
副作用を起こさず、かつ、TRAILと併用することができる濃度を決定するために、アスピリンのみを用いて、第2の試験を実施した。この実験では、2つの濃度(40及び200 mg/kg)のアスピリンを用いた。いずれも、2日をはさんで2x5日の期間にわたり投与した。図21はこの実験から得たデータを示す。グラフからわかるように、2つの濃度又は対照グループの間に作用の差はなかった。また、いずれの濃度でも副作用は見られなかった。併用試験のために、200 mg/kgのアスピリンを用いた。
【0291】
第3の実験では、TRAILとアスピリンの併用を試験した。wtTRAIL及びDR5特異的D269HE195Rの両方を用いた。両者とも、1 mg/kg及び5 mg/kgの用量で試験し、日用量のアスピリン(タンパク質と同じ注射器で)と一緒に、2x5日(1〜5日目と8〜12日目)にわたって腹腔内注射により投与した。データは13日目までしか示していない。というのは、変動(fluctuation)があまりにも多く、その翌日にマウスは死んだからである。
【0292】
図24からわかるように、2つの濃度のwtTRAILのいずれも、抗腫瘍作用をもたらさないが、変異型TRAILでの治療では腫瘍増殖が低減している。図24は、単独及び併用療法における、両用量のwtTRAILの作用を示す。
【0293】
wtTRAILのいずれの濃度でも、wtTRAILとアスピリンの併用の相加作用があるようだ。図25は、D269HE195Rとアスピリンとの併用の作用を示す。最低濃度のTRAILについてはアスピリンとの併用の相加作用があるようだが、5 mg/kgのTRAIL用量の場合、この作用は見られない。恐らく、5 mg/kgのD269HE195Rにより生じた作用が、この用量で達成することができる最大の作用であるためであろう。
【0294】
独立サンプルt検定を用いて、統計検定を実施し、これらの実験をグループ当たり非常に少数のマウス(<5)で実施したときでも、WT 5 mg/kgとWT 5 mg/kg+アスピリンの間、並びにWT 5 mg/kgとD269HE195R 5 mg/kgとの間に、有意性が見とめられた。
【0295】
[実施例12]wtTRAIL及びDR5選択的TRAILによる3種の結腸癌細胞系の細胞死滅
3種の結腸癌細胞系、すなわち、Colo205、LoVo及びSW948を用いた。上記3種の細胞系はすべて、4つの膜結合TRAIL受容体を発現する。最初に、wtTRAIL及びDR5特異的変異体D269HE195Rに対するこれらの細胞の感受性を単剤として比較した。感受性パターンを表4に示す。表中、+は最小限の感受性を、++は中程度の感受性、そして+++は高い感受性をそれぞれ示す。
【0296】
Colo205及びLovoは、wtTRAILと比較して、DR5選択的変異体に対する高い感受性を示した。SW948細胞は、比較したwtTRAILに対して、高い感受性を示した。さらに別の試験により、SW948細胞は、主にDR4受容体を介して、細胞死誘導シグナルを選択的に伝達することが示された(データは示していない)。
【0297】
現在使用されている化学療法剤、すなわち、5-フルオロウラシル及びアスピリンを、wtTRAIL及びDR5選択的変異体と併用して試験した。Colo205及びLovo細胞において、5-FU及びアスピリンの両方が、wtTRAIL及びDR5選択的変異体により誘導されるアポトーシスを増強した(図24、27、28及び33〜36)。
【0298】
[実施例13]TRAIL及びDR5選択的変異体は、Colo205細胞及びColo205細胞の接種により誘導された腫瘍において、アスピリンとの高い相乗作用を発揮する。
【0299】
様々な化学療法剤が、TRAILに対する腫瘍細胞の感受性を高めることが報告されており、これは往々にしてDR5の誘導と相関していた。しかし、こうした療法の多くは、デコイ受容体の発現も誘導するため、誘導された細胞死の相乗作用の程度/量を制限する可能性がある。このような一モデルにおけるDR5選択的変異体D269HE195Rの効力を試験した。Colo205細胞におけるアスピリンとwtTRAIL又はD269HE195Rの併用効果を試験した(図18)。TRAIL受容体発現及びカスパーゼ活性化の誘導に対するアスピリンの作用をモニターした。5 mMのアスピリンでの処理により、DR5の発現の増大、同様に、細胞表面でのDcR1及びDcR2の発現の増大が起こった(図18A)。アスピリンとの24時間の処理で、wtTRAILに対する細胞の感受性は増大したが、D269HE195Rによる増感の方がはるかに顕著であった(図18B)。以上の結果は、高親和性TRAIL変異体による選択性受容体活性化が、腫瘍細胞死滅の顕著な増大をもたらすことを強調するものである。
【0300】
アスピリンとTRAILの相乗作用、並びにwtTRAIL及びD269HE195Rの相乗作用の差を調べるために、別のin vivo実験を実施した。
【0301】
第1の実験では、2つの濃度のColo205細胞を接種に用いた。腫瘍増殖を6週間にわたり追跡した。用いた濃度は、200μlの培地中2x106細胞及び5x106細胞であった。腫瘍増殖を図19に示す。2x106細胞を接種したマウスは多量の腫瘍増殖を被らず、腫瘍は平均体積約80 mm3に達した。5x106細胞から出発した腫瘍は、かなり大きな腫瘍、平均体積約750 mm3を形成した。さらに別の実験のために、後者の濃度を接種に用いた。
【0302】
副作用を起こさず、かつ、TRAILと併用することができる濃度を決定するために、アスピリンのみを用いて、第2の試験を実施した。この試験では、2つの濃度(40及び200 mg/kg)のアスピリンを用いた。いずれも、2日をはさんで2x5日の期間にわたり投与した。図20はこの実験から得たデータを示す。グラフからわかるように、2つの濃度又は対照グループとの間に作用の差はなかった。また、いずれの濃度でも副作用は見とめられなかった。併用試験については、相加作用がいくらかでもあれば、それを確実に観察できるようにするため、200 mg/kgのアスピリンを用いた。
【0303】
第3の実験では、TRAILとアスピリンの併用を試験した。wtTRAIL及びDR5選択的D269HE195R TRAILの両方を用いた。両者とも、1 mg/kg及び5 mg/kgの用量で試験し、日用量のアスピリン(タンパク質と同じ注射器で)と一緒に、2x5日(1〜5日目と8〜12日目)にわたって腹腔内注射により投与した。データは13日目までしか示していない。というのは、変動(fluctuation)があまりにも多く、その翌日にマウスは死んだからである。
【0304】
図21からわかるように、2つの濃度のwtTRAILのいずれも、抗腫瘍作用をもたらさない。両濃度の変異型TRAILは、腫瘍増殖に対しある程度の正の作用をもたらすようだ。図23は、単剤及び併用療法における、両用量のwtTRAILの作用を示す。
【0305】
wtTRAILのいずれの濃度についても、wtTRAILとアスピリンの併用の相加作用があるようだ。図24は、D269HE195R TRAILとアスピリンの併用の作用を示す。最低濃度のTRAILについては、アスピリンとの併用の相加作用があるようだが、5 mg/kgのTRAIL用量の場合、この作用は見られない。恐らく、5 mg/kgのD269HE195R TRAILにより生じた作用が、この用量で達成することができる最大の作用であるためであろう。
【0306】
独立サンプルt検定を用いて、統計検定を実施したが、有意性は、WT 5 mg/kgとWT 5 mg/kg+アスピリンとの間、並びにWT 5 mg/kgとD269HE195R 5 mg/kgとの間にしか見とめられなかった。
【0307】
[実施例14]wtTRAIL及びDR5選択的TRAILによる3種の結腸癌細胞系の細胞死滅
3種の結腸癌細胞系、すなわち、Colo205、LoVo及びSW948を用いた。上記3細胞系はすべて、4つの膜結合TRAIL受容体を発現する。最初に、wtTRAIL及びDR5特異的変異体D269HE195Rに対する上記細胞の感受性を単剤として比較した。感受性パターンを表4に示す。表中、+は最小限の感受性を、++は中程度の感受性、そして+++は高い感受性をそれぞれ示す。
【0308】
Colo205及びLovoは、wtTRAILと比較して、DR5選択的変異体に対する高い感受性を示した。SW948は、比較したwtTRAILに対して、高い感受性を示した。別の試験により、SW948は、主にDR4受容体を介して、細胞死誘導シグナルを選択的に伝達することが示された(データは示していない)。
【0309】
現在使用されている化学療法剤、すなわち、5-フルオロウラシル及びアスピリンを、wtTRAIL及びDR5選択的変異体と併用して試験した。Colo205及びLovo細胞において、5-FU及びアスピリンの両方が、wtTRAIL及びDR5選択的変異体により誘導されたアポトーシスを増強した(図17、22、25、26及び31〜34)。SW948細胞では、5-FUは、DR5選択的変異体に対してではなく、wtTRAILに対する感受性を増強した(図27〜30)。興味深いことに、アスピリンは、SW948細胞におけるDR5選択的変異体の作用を増強したが、これは、化学療法剤が細胞においてDR5感受性をモジュレートすることができることを示している。
【0310】
結腸癌Colo205異種移植片において、単独及びアスピリンと併用したTRAIL-DR5対TRAILの抗腫瘍効力を決定するために、最初に、腫瘍増殖特性をマウスに樹立し、第2試験において、Colo205異種移植片を担持するマウスにおいてTRAIL及びTRAIL-DR5を試験した。実験により、TRAIL-DR5に対するColo205異種移植片の優れた応答、また、TRAILに対してはそれより低い応答が証明された。マウス及び腫瘍の病理学的解析により、商業的に入手したマウスは、良好な状態ではなかったことが示された(データは示していない)。
【0311】
[実施例15]wtTRAIL及びDR5選択的TRAILによる3種の子宮頸癌細胞系の細胞死滅
3種の子宮頸癌細胞系:HeLa、Caski及びSiHaを用いた。上記3種の細胞系はすべて、4つの表面発現TRAIL受容体すべてを発現する。初めに、wtTRAIL及びDR5特異的/選択性変異体D269HE195Rに対する上記細胞の感受性を単剤として比較した。感受性パターンを表5に示す。表中、-は耐性、+は最小限の感受性、++は中程度の感受性、+++は高い感受性をそれぞれ示す。
【0312】
HeLa及びCaski細胞はいずれも、DR5選択的変異体及びwtTRAILに対して同様の感受性を示した(図40〜43及び48〜51)。反対に、SiHa細胞は、wtTRAIL及びDR5選択的変異体の両方に対して耐性であった(図44〜47)。
【0313】
子宮頸癌の一般的療法は、放射線療法及びプロテオソーム阻害(ボルテゾミブ(Bortezomib))である。放射線療法及びボルテゾミブの両方をwtTRAIL及びDR5選択的変異体と併用して試験した。いずれの物質も、wtTRAIL及びDR5選択的変異体により誘導されるHeLa細胞におけるアポトーシスを増強した。放射線療法には、SiHa及びCaski細胞において増強作用がなかったが、ボルテゾミブとwtTRAIL及びDR5選択的変異体との併用により、腫瘍細胞死が増大した。増感が検出されたすべてのケースで、増感の程度は、wtTRAILより DR5選択的変異体の方が高かった。
【0314】
単独並びに放射線療法と併用したTRAIL-DR5対TRAILの抗腫瘍効力を決定するために、生物発光HeLa異種移植片を樹立した。ルシフェラーゼ陽性HeLa細胞系を産生させることにより、皮膚を通して目に見えるようになる前に、マウスにおける腫瘍増殖の開始をモニターできるようにした(データは示していない)。
【0315】
[実施例16]TRAIL及びDR5選択的変異体は、非形質転換細胞に対して毒性ではない
TRAILから非形質転換細胞を保護する上でのデコイ受容体の重要性は、多くの報告により提唱されている。従って、非癌細胞に対するR5選択性変異体の毒性作用を評価した。前記のように、ヒト皮膚線維芽細胞及びヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)細胞を、wtTRAIL並びに DR5選択的変異体、D269H及びD269HE195Rの濃度を増加しながら(50〜500 ng/ml)、これらで24時間処理した後、MTTアッセイを用いて細胞生存率を測定した(データは示していない)。wtTRAIL又はDR5選択的変異体のいずれも、ヒト線維芽細胞(図37A)又は内皮細胞系HUVEC(図37B)の一次培養物において細胞生存率に何の影響ももたらさなかった。
【0316】
[実施例17]DR5特異的TRAIL変異体のさらなる特性決定
アミノ酸114〜281を含む、ヒトTRAILの細胞外ドメインの部位指定変異誘発により、設計TRAIL変異体を作製した。TRAILタンパク質はすべて、大腸菌において組換え可溶性タンパク質としてpET15bから産生され、3つのクロマトフラフィーステップ15で精製した。精製タンパク質は、ELISAアッセイ、及び表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いた前定常状態手法で、各種受容体に対する結合について、さらには様々なTRAIL受容体発現パターンを有する細胞型において細胞死を誘導するその能力により、特性決定した。
【0317】
数種のDR5特異的変異体を設計し、特性決定したが、その中に変異体D269HE195R10も含まれる。図35に示すように、この変異体では2つのアミノ酸変化がTRAIL及び受容体の界面に起こる。残基E195及びD269の位置をTRAIL及びDR5の三量体−三量体複合体の平面図及び側面図に示す。
【0318】
図35Aは、TRAILが固定化TRAIL受容体に結合するときの典型的センサーグラムを示す。特に低濃度で、曲線は有意な解離を示していない。別の実験では、2,000秒までの時間にわたり解離を継続したが、同様の結果であった。結果として、解離速度定数を得ること、従って、結合及び解離速度定数から親和性を計算することは実質的に不可能である。そのため、データを解析するのに、前定常状態手法10を用いることを選択した。固定化受容体に結合するwtTRAILの能力と比較した、上記変異体の能力のSPR解析を図35Bに表す。結合試験は、設計が見事に成功したことを示している。すなわち、DR5-Igに対するD269HE195Rの親和性は数倍も増大しているが、DR4-Igに対する親和性はほとんど脱落している。こうした2つの変化により、上記変異体は、高い選択性及び親和性でDR5に結合するTRAIL変異体になっている。
【0319】
D269HE195RのDR-5選択性は、癌細胞系でも明らかにされた。図40に、結腸癌細胞系Colo205において、D269HE195Rのアポトーシス活性をwtTRAILと比較して示すが、ここで、生存細胞は、可溶性テトラゾリウムに基づくMTS増殖試薬(Promega)で染色した。Colo205細胞は、主にDR5受容体を介してTRAIL誘導性アポトーシスに対し感受性である。実際、変異体D269HE195Rは、wtTRAILに必要な濃度の数倍低い濃度で、効率的である。効率の増加は、用量応答曲線により明らかにされただけではなく、時間に関しても観察することができる。図41には、25 ng/mlのwtTRAIL又はD269HE195Rで処理後のColo205細胞における細胞死の誘導を時間に関して示す。明らかに、細胞死の誘導は、DR5特異的変異体の方が速く進行する。D269HE195Rの性能の方が良好であることは、アポトーシス特異的アッセイ、例えば、アネキシンV染色及びカスパーゼアッセイ39でも証明することができる。数種の別の細胞系を試験したところ、DR5感受性細胞系、例えば、ヒト卵巣癌細胞系A2780及びバーキット様リンパ腫細胞系BJABにおいて効率の改善が得られたが、実質的にDR4応答性である細胞系、例えば、慢性骨髄性白血病細胞系ML1及びEM-210には、ほとんどアポトーシスを観察することができなかった。
【0320】
ヒト卵巣A2780細胞の腫瘍を担時する、異種移植胸腺欠損ヌードマウスを用いた試験は、フローニンゲン大学医療センター(University Medical Centre Groningen34)のSteven de Jong及びLiesbeth de Vriesのグループにより実施された。
【0321】
[実施例18]リガンド−受容体相互作用の数学モデル
D269HE195Rの高速受容体結合反応速度のメカニズムを調べるため、また、アポトーシスの誘導に対する各細胞死誘導受容体及びデコイ受容体の寄与について分析することができるように、数学モデルを用いて、リガンド−受容体相互作用をシミュレートした。モデルは、Colo205細胞をwtTRAIL又はDR5変異体に暴露した際に該細胞の表面に起こる相互作用をシミュレートする。上記モデルは、リガンド(wtTRAIL又はD269H/E195R)と受容体の結合を段階的に説明し、ホモマー受容体複合体(例えば、TRAIL-3DR5)及びヘテロマー受容体複合体(例えば、TRAIL-2DR5-DcR2)両方の形成を可能にする。
【0322】
細胞表面上でのTRAIL及びD269HE195Rの受容体結合は、起こりうるあらゆる結合事象を説明する数学モデルを用いて、シミュレートした。ホモマー受容体複合体(例えば、TRAIL-3DR5)及びヘテロマーリガンド−受容体複合体(例えば、TRAIL-2DR5-DcR2)両方の形成が達成され、結合は段階的にシミュレートした。単量体DR4、DR5、DcR1及びDcR2受容体に結合するTRAILについて測定された結合速度及び解離速度は、Leeらの報告40から取得した。一般的に用いられる二量体TRAIL-受容体-IgG Fcキメラ構築物とは対照的に、Leeらは、単量体TRAIL-受容体構築物を使用した。これにより、段階的な結合定数を導き出し、また、「結果」に詳細に記載するように、ヘテロマー受容体-リガンド相互作用をモデル化することができた。単一のリガンド結合受容体から、2つのリガンド結合受容体を介して、三量体リガンドが結合した3つの受容体からなる複合体に到る段階的定数を以下のように推定した。Leeらにより報告されたKonを第1結合事象に割り当てた。第1結合段階は、非結合状態から結合状態に移行する際の自由の回転度減少のために、エントロピー的に最も不都合なものである。第1段階における上記エントロピーペナルティーを補償するために、第2及び第3段階のKonを2 kcal/モルずつ高くした。報告されたKoffを第3段階に割り当てた。第2及び第3段階に存在するアビディティ作用(2つ又は3つの受容体に結合したTRAIL)を補償するため、第2及び第1段階のKoffをそれぞれ10倍及び100倍高くした。見かけ解離速度に対するアビディティの作用は、2つの代わりに3つの受容体サブユニットより、1つの代わりに2つの受容体サブユニットを結合するときの方が大きいであろう。従って、係数の差を用いる。ホモマーTRAIL-3DR5及びTRAIL-3DR4複合体の場合には、細胞内DISCの集合を数学的に説明するために、「活性化」受容体複合体への追加的段階を導入した。DISCの形成は、複合体が分解して、別の遊離細胞死又はデコイ受容体との再結合事象に参加する可能性を低下させる。前述のように、DcR1は細胞内ドメインを含まず、DcR2だけが切断型死ドメイン(Death domain)を含み、デコイ受容体については「活性化」段階は追加しなかった(表1a)。
【0323】
Colo205とMD MBA-231細胞の表面上の受容体発現レベルを比較した後、この比率を、Kimら40によりMD MBA-231細胞について決定された表面発現受容体の数と関連付けることにより、Colo205の表面上のDR5受容体の数を推定した。D269HE195Rの見かけ親和性は、van der Slootら10から取得した。DR5についてのD269HE195Rの親和性の増大は、完全にKonによるものであった。というのは、wtTRAILとD269HE195Rの間のSPRセンサーグラムにおける解離速度の変化は、最小限かつ極めて低速度のリガンド解離のために、計算することができなかったからである。本発明者らは、DR5についてのKonの増加の影響を低く見積もりすぎないようにするため、wtTRAILとD269HE195Rの間の係数5のKon差を用いることを選択した。D269HE195RのSPRセンサーグラムにより、wtTRAILのセンサーグラムに対して結合段階及び解離段階の両方で変化が明らかになったことから、他の受容体についての親和性の低下も同様にKon及びKoffによるものであった。ホモマー死受容体複合体のための「活性化」ステップは、用いたリガンドから独立していると考えたため、wtTRAILの場合と同じ「Kon及びKoff」値を用いた(表1b)。モデルは、SmartCellバージョン4.2(2、8)(http://smartcell.crg.es/)で実施されるように、確率的ネクストサブボリューム(next subvolume)方法(Elf及びEhrenberg)を用いてシミュレートした。受容体結合は、連続的に存在するリガンドを用いて、又はウォッシュアウト実験をシミュレートする目的で、シミュレーション過程中のリガンド除去により、シミュレートした。後者の場合、上記システムを表示時間シミュレートした後、遊離リガンド濃度をゼロに設定した。
【0324】
wtTRAILの結合をシミュレートしたとき、wtTRAIL-3DR5複合体の場合、約500秒以内に「ED50」に達したが、DR4の場合、約1,200秒後にED50に達した(図55A)。1時間後に形成されたwtTRAIL-3DR5複合体の数が最も高く、TRAIL-3DR4、TRAIL-3DcR1及びTRAIL-3DcR2の数は、それぞれ、TRAIL-3DR5複合体の数の70%、6%及び0%であった。対照的に、D269H/E195R-3DR5複合体形成の場合、20秒以内に「ED50」に達したが、D269H/E195R-3DR4、-3DcR1又は-3DcR2複合体のいずれも、1時間のシミュレーション中に形成されなかった(図55B)。1時間後に形成されたD269HE195R-3DR5複合体の数は、wtTRAILとの複合体数の125%であった。モデルからDcR1及びDcR2受容体を除去すると、wtTRAIL-3DR5複合体の総数は、10%増加し、ED50に到達する時間を約380秒に短縮した(図55C)。wtTRAIL-3DR4複合体については、デコイ受容体の非存在下で240秒以内に「ED50」に到達し、複合体の総数は14%増加した。デコイ受容体の非存在は、D269HE195R-3DR5複合体形成にわずかにしか影響しなかった(図55D)。全体として、デコイ受容体の遮断は、wtTRAILがD269HE195Rと同じ結合反応速度に到達するには十分ではなく、このことは、実験的デコイ遮断アッセイと一致している。DR5についてのwtTRAIL反応速度定数をD269HE195Rの定数まで高める対照実験により、DR-5結合のみについて反応速度を高めても、DR5選択的変異体と同じ活性に達するには十分ではないことが明らかにされた。そうではなく、観察される作用は、DR5の増大した親和性と、DR4、DcR1、及び恐らくDcR2に対する低減した親和性との組み合わせである(図56A)。これは、ヘテロ三量体複合体の形成を研究した際に、さらにはっきりと示された。wtTRAILは、特にインキュベーションの最初の30分の間に、はるかに高い量のヘテロマー受容体複合体形成を誘発した。上記受容体プールは、ホモマー複合体への再編成のために、動的に変化し、かつ徐々に消失するようであった。反対に、D269HE195Rは、受容体ヘテロ三量体形成のレベルははるかに低く、しかも、インキュベーションの最初の5分間だけであった(図56D、E)。
【0325】
ウォッシュアウト実験をシミュレートすることにより、D269HE195Rが、5分のインキュベーション後にすでに最大結合に達したこと、また、いったんDR5に結合したら、D269HE195Rの有意な再分布はないことが示された。これに対し、wtTRAILとの30分のインキュベーション後でも、wtTRAIL-3DR5及び-3DR4複合体の数は、それぞれ最大レベルの80%及び70%である(図56B、C)。
【0326】
要約すると、数学的シミュレーションは、DR4、DcR1及びDcR2についてのD269HE195Rの低い親和性は、DR5についての高いkonと併せ、すべてがホモ三量体DR5受容体複合体形成の速度の17倍増大を生み出すのに寄与していたことを示した。また、モデルは、別の実験データについても説明している。これは、D269HE195Rが、5分以内に利用可能なDR5受容体の大部分にすでに結合していることを示し;従って、非結合D269HE195Rのウォッシュアウトはアポトーシスの誘導にほとんど影響を与えないであろう。さらに、上記モデルは、デコイ受容体を遮断する、又はDR5に対するwtTRAILの結合を改善しても、その活性をD269HE195Rと同等のレベルまで増強するには不十分であることも明らかにしている。wtTRAILとデコイ受容体の結合を遮断すれば、wtTRAILは、依然として不活性DR4/DR5ヘテロ三量体を形成することができ、従って、DR5との結合の改善だけで、不活性ヘテロ三量体複合体の形成を阻止するのには十分であろう。この現象は、他の高速作用リガンドの設計にも関連があり、他の無差別のリガンドの高速反応速度の操作は、標的受容体に対するkonを高めるだけでは達成することはできず、他の受容体に対する親和性を低下させることも必要である。wtTRAILについて報告46されている短いin vivo半減期を考慮に入れると、受容体結合反応速度を速くする(従って、アポトーシスの誘導を速くする)ことにより、相当な治療上の利点を生み出すことができる。
【表2】
【0327】
【表3】
【0328】
【表4】
【0329】
【表5】
【0330】
【表6】
【0331】
参照文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌と診断された哺乳動物を治療するための、死受容体5に対して優れた選択性を有する変異型TRAILタンパク質。
【請求項2】
変異D269Hを含む、請求項1に記載のTRAIL変異体。
【請求項3】
さらに変異E195Rを含む、請求項2に記載のTRAIL変異体。
【請求項4】
変異T214Rを含む、請求項2又は3に記載のTRAIL変異体。
【請求項5】
癌の細胞がその表面上にDR5受容体を発現するものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
TRAIL変異体が化学療法剤と併用して投与される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
化学療法剤が癌細胞におけるDR5受容体の表面発現を増大するものである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
化学療法剤がシスプラチンである、請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
癌が胃腸系の癌である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
癌が結腸癌である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
癌がホルモン依存性である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
癌が卵巣癌である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
哺乳動物がヒトである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
ヒトが成人である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
ヒトが小児である、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
TRAIL変異体が腹腔内投与される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
TRAIL変異体が週1回の投与計画で投与される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項1】
癌と診断された哺乳動物を治療するための、死受容体5に対して優れた選択性を有する変異型TRAILタンパク質。
【請求項2】
変異D269Hを含む、請求項1に記載のTRAIL変異体。
【請求項3】
さらに変異E195Rを含む、請求項2に記載のTRAIL変異体。
【請求項4】
変異T214Rを含む、請求項2又は3に記載のTRAIL変異体。
【請求項5】
癌の細胞がその表面上にDR5受容体を発現するものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
TRAIL変異体が化学療法剤と併用して投与される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
化学療法剤が癌細胞におけるDR5受容体の表面発現を増大するものである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
化学療法剤がシスプラチンである、請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
癌が胃腸系の癌である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
癌が結腸癌である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
癌がホルモン依存性である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
癌が卵巣癌である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
哺乳動物がヒトである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
ヒトが成人である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
ヒトが小児である、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
TRAIL変異体が腹腔内投与される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
TRAIL変異体が週1回の投与計画で投与される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用。
【図1−1】
【図1−2】
【図2−1】
【図2−2】
【図2−3】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図6−3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22−1】
【図22−2】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32−1】
【図32−2】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40−1】
【図40−2】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44−1】
【図44−2】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図1−2】
【図2−1】
【図2−2】
【図2−3】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図6−3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22−1】
【図22−2】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32−1】
【図32−2】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40−1】
【図40−2】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44−1】
【図44−2】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【公表番号】特表2011−506592(P2011−506592A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538945(P2010−538945)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003720
【国際公開番号】WO2009/077857
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510141914)
【出願人】(510142623)
【出願人】(509237767)ナショナル ユニバーシティー オブ アイルランド, ゴールウェイ (12)
【出願人】(510168243)
【出願人】(510141899)ライクスユニベルジテート フローニンゲン (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003720
【国際公開番号】WO2009/077857
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510141914)
【出願人】(510142623)
【出願人】(509237767)ナショナル ユニバーシティー オブ アイルランド, ゴールウェイ (12)
【出願人】(510168243)
【出願人】(510141899)ライクスユニベルジテート フローニンゲン (3)
【Fターム(参考)】
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