説明

癌ワクチン

【課題】癌の治療または予防用のワクチンとして用いるための組成物を生産する方法の提供。
【解決手段】哺乳動物細胞の生存および成長に適した栄養素を含有する培地および環境条件下で、患者から単離された樹状細胞を培養するステップと、癌細胞系からの溶解物または種規定抗原、およびトコトリエノールで前記樹状細胞をパルス処理するステップと、次いで、パルス処理された前記樹状細胞を、癌患者への投与に適した固体または液体の状態で含有させるステップとを含む癌の治療または予防用の薬剤として用いる組成物の製造方法および癌ワクチンとしての使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は癌ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
弱毒化微生物、組換えタンパク質およびDNAワクチンを含む、いくつかのタイプのワクチンが、ある種の腫瘍のような感染症の予防のために用いられる。免疫機構における細胞媒介部門は、ウイルス感染から防御し、回復させ、および同一ウイルスによるさらなる感染を予防する能力を宿主に与えることに関与する主な部門である。このタイプの免疫応答は、宿主を腫瘍の開始、発達および拡大から保護することにおいて非常に重要である。
【0003】
最近、治療様式を改良するために、癌患者のためのワクチン免疫療法の開発に対して研究が行われてきた。この形態の免疫療法は、優れた抗原提示細胞であることが示されている樹状細胞の使用を含む。これらの細胞は、それらが一次およびブースト二次免疫応答を誘導させ、ならびに誘導されるT細胞媒介免疫応答のタイプを調節するのを可能とするユニークな特性を保有する。近年、いくつかの研究は、腫瘍抗原パルス処理樹状細胞が、各々、主要組織適合複合体(MHC)クラスIおよびクラスII分子による抗原提示を介してTヘルパーおよび細胞傷害性Tリンパ球(CTL)細胞の創製および増殖双方を誘導できることを示している。
【発明の詳細な説明】
【0004】
従って、癌の治療または予防用の薬剤として用いられる組成物を生産する方法が提供され、該方法は、(a)哺乳動物細胞の生存および成長に適した栄養素を含有する栄養分に富んだ培地上または中で、該哺乳動物細胞の成長および生存に適した条件のような、その成長および増殖を誘導する条件下で、患者から単離された樹状細胞を培養するステップと;
(b) 前記哺乳動物細胞の生存および成長に適した培養および環境条件下で、癌細胞系からの溶解物または種規定抗原、およびトコトリエノールで前記樹状細胞をパルス処理するステップと、次いで、(c)パルス処理された前記樹状細胞を、それを必要とする患者への投与に適した固体または液体の状態で含有させるステップと、を含む。
【0005】
本発明は、添付の図面において後に十分に記載され説明されるいくつかの新規な特徴および部分の組合せよりなり、発明の範囲を逸脱することなく、または本発明の利点のいずれかを犠牲とすることなく、詳細における種々の変形をなすことができると理解される。
【0006】
好ましい具体例の詳細な記載
本発明は、概して、癌ワクチンに関する。以下、本明細書は本発明の好ましい具体例に従って本発明を記載する。しかしながら、発明の好ましい具体例に対する記載の限定は、単に本発明の議論を容易とするものであって、当業者であれば、添付の請求の範囲を逸脱することなく種々の修飾および等価物を工夫することができると考えられる。
【0007】
癌、特に腫瘍の治療または予防用のワクチンとして用いられる組成物は、以下に記載する方法によって作製される。
【0008】
本発明の好ましい具体例において、腫瘍細胞溶解物は乳癌細胞系、メラノーマ細胞系、肺癌細胞系、前立腺癌細胞系、結腸癌細胞系、卵巣癌細胞系または他の組織学的タイプの細胞系から得られる。腫瘍細胞溶解物は、ワクチン製剤において腫瘍抗原のスペクトルを広げるように、異なるが補い合うパターンの腫瘍抗原を放出する腫瘍細胞のいくつかの異なる系から収集することもできる。
【0009】
油ヤシ樹木果実からの、特に、油ヤシ樹木果実のTenera種からの非毒性天然抽出物である、TRFは好ましいトコトリエノールとして用いられる。TRFは、マウスモデルへ添加された後にIFN−γの血清中レベルを増強させ、それにより、マウス乳癌の治療において樹状細胞の効率を増加させるためのアジュバントとして非常に効果的であることが判明した。TRFは単離するのが容易であり、かくして、種々のタイプの癌の治療における樹状細胞の効率をかなり増強させるための、低コストのアジュバントを提供することができる。TRFは好ましいトコトリエノールであるが、純粋なトコトリエノールを用いることもできることは認識されなければならない。
【0010】
インターフェロンは、ウイルス、細菌、寄生虫および腫瘍細胞のような外来因子による攻撃に対する応答として、ほとんどの動物の免疫系の細胞によって生産される天然タンパク質である。インターフェロンは、サイトカインとして知られた糖タンパク質の大きなクラスに属する。
【0011】
特に、IFN−γは活性化されたT細胞で生産されるタイプIIのサブクラスである。IFN−γは、哺乳動物の免疫および炎症応答の調節に密接に関与する。それは、30までの遺伝子における転写を改変し、種々の生理学的および細胞の応答を生じさせることもできる。この結果、インターフェロンアルファ(IFN−α)およびインターフェロンベータ(IFN−β)の効果を増強するように作用しつつ、抗ウイルスおよび抗−腫瘍効果をもたらす。IFN−γはTh1細胞によっても放出され、白血球を感染の部位に動員させ、その結果、炎症が増大する。それは、また、マクロファージを刺激して、飲み込まれた細菌を殺傷させる。Th1細胞によって放出されたIFN−γは、Th2応答を調節することにおいても重要である。
【0012】
いくつかの異なるタイプのインターフェロンが今日ヒトに用いるために認可されており、インターフェロン療法は、多くのタイプの全身性癌に対する治療として、(化学療法および放射線療法と組み合わせて)用いられる。全身療法で用いる場合、IFN−αおよびIFN−γは筋肉内注射によって主として投与される。筋肉における、静脈におけるまたは皮膚下へのインターフェロンの注射は一般によく許容されている。驚くべきことに、インターフェロンガンマ(IFN−γ)の血清中濃度は、我々のマウスモデルにおいてトコトリエノール添加後にかなり増大することが判明した。
【0013】
樹状細胞、または特定の腫瘍タイプに向けられた抗原を提示することができる他のタイプの細胞を含有するワクチンは、1または2ヶ月の間、数回、次いで、治療すべき特定の病気に応じて、1ないし3ヶ月(またはそれ未満)ごとに1回、患者にワクチンを長期間投与することによって、ヒトでの癌の予防または治療に用いることができる。
【0014】
しかしながら、該ワクチンは乳癌抗原ワクチンの生産のために主として研究されているが、本発明は、ヒト肺癌ワクチン、ヒトメラノーマワクチン、ヒト結腸癌ワクチンおよび他のヒト癌ワクチンの生産に適応することもできる。
【0015】
以下の実施例は、本発明をここに記載する特定の具体例に限定する意図を含まず、本発明をさらに説明することを意図する。
【0016】
細胞の調製
5ないし6週齢のBALB/cマウスを、Institute for Medical Research(IMR)KuaraLumpurから購入した。マウスを犠牲にし、筋肉組織をガーゼで大腿骨および脛骨から除去した。次いで、骨を70%エタノールを含む60mm皿に1分間入れ、新鮮な培地に移す前にRPMI 1640培地で洗浄した。シリンジを用いて大腿骨および脛骨を5mlの同培地でフラッシュすることによって骨髄細胞を単離した。細胞を遠心分離し、完全培地(10%ウシ胎児血清、1%グルタミンおよび1%ペニシリンまたはストレプトマイシンを補足したRPMI 1640)に再懸濁させて、細胞を培養した。
【0017】
樹状細胞の生成
骨髄細胞は無菌条件下で大腿骨および脛骨のフラッシュされた骨髄腔から採取し、完全培地(10%加熱不活化FBS、0.1mM非必須アミノ酸、1μMピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン、100μg/mlストレプトマイシン、100ユニット/mlペニシリン、0.5μg/mlファンギゾン、および5×10−5M 2−メルカプトエタノールを含有するRPMI 1640)中で、10細胞/mlにて、100ユニット/ml顆粒球マクロファージコロニー刺激因子および100ユニット/mlインターロイキン4(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を含むT25フラスコ中で培養した。サイトカインを4日目に添加した。培養の6日目に、樹状細胞を収集し、10ng/mlの組換えヒトTGF−β(R&D Systems,Minneapolis,ML)を添加し、または添加することなく顆粒球マクロファージコロニー刺激因子およびインターロイキン4とともに10細胞/mlにて6日間培養した。樹状細胞を200ユニット/mlのTNF−α(Peprotech)とともに48時間成熟させた。
【0018】
FACS分析
用いた全ての抗体はBecton Dickinsonから購入した。樹状細胞の分析のために、試料をFITC標識抗CD11cで染色した。FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson Immunocytometry Systems,San Jose,CA)を用いて細胞を分析した。
【0019】
腫瘍溶解物の調製
マウス乳癌細胞系である4T1を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン−ストレプトマイシンおよび1%グルタミンが添加されたRPMI 1640培地を含むT25cmフラスコ中で培養した。細胞を5%COインキュベータ中で37℃にてインキュベートした。TRF処理のために、密集した細胞を8ug/mlのTRF(トコトリエノールに富む画分、Carotech)で3日間処理した。腫瘍溶解物は、細胞を−80℃から25℃への2回の凍結/解凍サイクルに付すことによって作製した。GM−CSF、IL−4およびTNF−αを樹状細胞培養の濃度と同一濃度で溶解物に加えた。溶解物を平板培養した樹状細胞に加え、37℃にて一晩パルス処理した。腫瘍溶解物とともにパルス処理された樹状細胞を次いで収集し、2000rpmにて5分間遠心分離し、1%PBS溶液で3回洗浄し、マウスに注射する前に完全培地に再懸濁した。
【0020】
マウスの処理
6週齢BALB/cマウスの乳腺に10 4T1腫瘍細胞を局所注射した。樹状細胞を、1:1の腫瘍細胞同等物/樹状細胞の比率にて4T1腫瘍細胞溶解物とともに24時間パルス処理した。パルス処理の後、樹状細胞を200ユニット/mlのTNF−αとともに48時間成熟させた。マウスに、腫瘍を触知できる15日目に50μlのPBS中の1.5×10腫瘍細胞溶解物パルス処理成熟樹状細胞を局所注射(i.t.)した。ワクチン接種を20日目と25日目に繰り返し行った。一次腫瘍を、ノギスを用いて測定した。
【0021】
実験設計
各バッチは4群のマウスよりなる:
グループ1:4T1のみを注射
グループ2:4T1+腫瘍溶解物とともにパルス処理された樹状細胞
グループ3:4T1+腫瘍溶解物とともにパルス処理された樹状細胞+TRF
グループ4:樹状細胞を注射
【0022】
【表1】

【表2】

【0023】
Mini Macs磁性ビーズを用いる樹状細胞の精製
樹状細胞を穏やか掻き取り、室温において1000gで10分間遠心し、90μLの緩衝液(2mM EDTA15および0.5%BSAを補足したPBS pH7.2)に再懸濁させた。10μLのCD 11cマイクロビーズを樹状細胞に加え、4℃にて15分間インキュベートした。樹状細胞分離の前に、カラムを500μLの緩衝液で洗浄した。カラムを緩衝液で3回洗浄して、陰性画分を除去した。カラムを磁石から外し、樹状細胞を1mlの緩衝液で溶出させた。
【0024】
結果
1)樹状細胞は首尾よく得られ、マウス骨髄から成長した。
2)Mini macsキットを用いて純粋な樹状細胞を単離した。
3)サイトカインを、TRFと共にインキュベートした樹状細胞において測定した。テストした濃度(1ないし5μg/ml)において、対照細胞と比較してIFN−γの直線的な増加があった。
4)4T1乳腺腫瘍溶解物でパルス処理されたトコトリエノール補足樹状細胞は、マウスモデルにおいて広がった転移性乳癌の成長を阻害した。
5)対照マウスで発生した腫瘍は、樹状15細胞を注射したマウスにおけるよりも大きかった。
結果を添付の図面の図1ないし4に示す。
【0025】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の容易化および理解の目的で、添付の図面を説明するが、それを精査すると、以下の説明と組み合わせて考慮した場合、その構成および操作、およびその利点の多くは容易に理解され認識されるであろう。
【図1】ヤシ油果実から得られたトコトリエノールに富む画分(TRF)で処理された樹状細胞におけるインターフェロンガンマ濃度を示すチャートである。
【図2】樹状細胞でパルス処理され、かつTRFで処理されたBALB/cマウスにおける腫瘍発生率を示すチャートである。
【図3】BALB/cマウスの体重対週を示すチャートである。
【図4】4T1を注射し、かつパルス処理された樹状細胞で処理されたBALB/cマウスにおけるインターフェロンガンマ(INF−γ)濃度を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 哺乳動物細胞の生存および成長に適した栄養素を含有する栄養分に富んだ培地上または中で、該哺乳動物細胞の成長および生存に適した条件のような、その成長および増殖を誘導する条件下で、患者から単離された樹状細胞を培養するステップと;
(b) 前記哺乳動物細胞の生存および成長に適した培養および環境条件下で、癌細胞系からの溶解物または種規定抗原、およびトコトリエノールで前記樹状細胞をパルス処理するステップと;次いで、
(c) パルス処理された前記樹状細胞を、それを必要とする患者への投与に適した固体または液体の状態で含有させるステップと;
を含むことを特徴とする、癌の治療または予防用の薬剤として用いる組成物の製造方法。
【請求項2】
前記樹状細胞は36ないし38℃、好ましくは37℃で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
用いる培養基は、10%加熱不活化FBS、0.1mM非必須アミノ酸、1μMピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン、100μg/mlストレプトマイシン、100ユニット/mlペニシリン、0.5μg/mlファンギゾン、および5×10−5M 2−メルカプトエタノールを含有するRPMI 1640である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記樹状細胞は、無菌条件下でフラッシュされた大腿骨および脛骨の骨髄腔から採取され、完全培地(10%加熱不活化FBS、0.1mM非必須アミノ酸、1μMピルビン酸ナトリウム、2mM L−グルタミン、100μg/mlストレプトマイシン、100ユニット/mlペニシリン、0.5μg/mlファンギゾン、および5×10−5M 2−メルカプトエタノールを含有するRPMI 1640)中で、10細胞/mlにて、100ユニット/ml顆粒球マクロファージコロニー刺激因子および100ユニット/mlインターロイキン4(Peprotech, Rocky Hill, NJ)とともにT25フラスコ中で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記樹状細胞は、TRFへの暴露に先立って200ユニット/mlのTNF−α(Peprotech)とともに48時間成熟される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記トコトリエノールはヤシ油果実から得られたトコトリエノールに富む画分(TRF)である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記TRFがアジュバントに作用して、癌を患っている患者におけるインターフェロンガンマ(IFN−γ)の血清レベルを上昇させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記癌細胞の溶解物が乳癌細胞系、メラノーマ細胞系、肺癌細胞系、前立腺癌細胞系、結腸癌細胞系、卵巣癌細胞系または他の組織学的タイプの細胞系から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記癌細胞の溶解物が乳癌細胞系から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
患者の癌の予防または治療のための薬剤の製造における、請求項1に従って作製される有効量のワクチンの使用。
【請求項11】
前記癌が腫瘍であり、請求項10により作製される有効量のワクチンの使用。
【請求項12】
前記樹状細胞が腫瘍抗原を免疫系に提示する、請求項1に記載の有効量のトコトリエノールの使用。
【請求項13】
癌を患っている患者におけるインターフェロンガンマ(IFN−γ)の血清中レベルを上昇させるためのアジュバントとしての、請求項1に従って作製される有効量のワクチンの使用。
【請求項14】
請求項1に記載の方法に従って作製される組成物を薬学上許容される賦形剤内に含む、患者における癌の治療または予防のためのワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−254458(P2007−254458A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−25080(P2007−25080)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(500511648)マレーシアン・パーム・オイル・ボード (12)
【Fターム(参考)】