説明

癌再発の可能性の予測

本発明は、その発現が癌、特に乳癌の診断および/または予後診断に重要な遺伝子セットを提供する。本発明は、そのセット中のすべてのマーカーをアッセイするために、保管されているパラフィン包埋生検材料を使用することに対応しており、そのため、最も広範に利用可能なタイプの生検材料に適合する。また、例えば針生検または細針吸引などによる、いくつかの異なった腫瘍組織回収法にも適合する。さらに、遺伝子セットの各メンバーについて、本発明は、検査に使用できるオリゴヌクレオチド配列を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、その発現が癌の診断および/または予後診断に重要な遺伝子セットを提供する。
【背景技術】
【0002】
(関連分野の説明)
癌の専門医には、「医療の標準」という性格をもつ化学療法薬のさまざまな組み合わせなど、彼らに利用可能な治療の選択肢が数多くあり、また、特定の癌に対してラベル表示されていないが、有効であるとの証拠がある数多くの薬剤もある。良好な治療成果をもたらす可能性を最も高くするには、患者に利用できる最適な癌治療を割り当てる必要があり、また、この割り当てが、診断後できるだけ早く行われる必要がある。
【0003】
現在、臨床診療において使用されている診断用検査は単一検体(single analyte)であるため、何十もの異なったマーカーの間の関係を知ることの潜在的な価値を捕捉できていない。さらに、診断用検査はしばしば非定量的で、免疫組織化学法に頼っている。この方法は、試薬が正規化されていないせいもあり、また、解釈が主観的で簡単には数値化できないせいもあって、しばしば、研究室が変わると結果も変わってしまう。RNAによる検査は、時間とともにRNAが分解するという問題があり、また、解析のために患者から新鮮な組織サンプルを得ることが難しいという事実があるために、あまり利用されていない。固定パラフィン包埋組織の方が容易に利用できるため、固定組織中のRNAを検出するための方法が確立されている。しかしながら、これらの方法では、一般的に、少量の材料から多数の遺伝子(DNAまたはRNA)を研究することはできない。したがって、伝統的な固定組織は、蛋白質の免疫組織化学的検出以外のために使用されることはほとんどない。
【0004】
過去数年間で、いくつかの群が、マイクロアレイ遺伝子発現分析法によって、さまざまな癌型の分類に関する研究を発表している(Golub et al.,Science 286:531−537(1999);Bhattacharjae et al.,Proc.Natl.Acad.Sci. USA 98:13790−13795(2001);Chen−Hsiang et al.,Bioinformatics 17 (Suppl.1):S316−S322 (2001);Ramaswamy et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:15149−15154(2001))。遺伝子発現パターンに基づいたヒト乳癌のいくつかの分類も報告されている(Martin et al., Cancer Res.60:2232−2238(2000);West et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:11462−11467(2001);Sorlie et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:10869−10874(2001);Yan et al.,Cancer Res.61:8375−8380(2001))。しかし、これらの研究は、乳癌など、さまざまなタイプの癌の既に確立している分類を充実および絞り込むことに主眼を置いているため、一般的には、示差的に発現される遺伝子の関係を新たに洞察するものではなく、それらの発見を、癌治療法の臨床成果を向上させるために、治療戦略と結びつけるものでもない。
【0005】
最新の分子生物学および生化学によって、活性が、腫瘍細胞の挙動、分化状態、および一定の治療薬に対する感受性または耐性に影響を与える何百もの遺伝子が明らかにされているにもかかわらず、いくつか例外があるものの、そのような遺伝子の状況を、薬剤治療に関する日常的な臨床判断を行う目的で利用してはいない。顕著な例外は、タモキシフェンなどの抗エストロゲン薬で治療する患者を選ぶために、乳癌におけるエストロゲンレセプター(ER)蛋白質の発現が利用されていることである。もう1つの例外的な実例は、Her2の拮抗薬である登録商標Herceptin(Genetech,Inc.,South San Francisco,CA)による患者を選択するために、乳癌におけるErbB2(Her2)蛋白質の発現が利用されていることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近の進歩にもかかわらず、相変わらず癌治療で困難なのは、病理学的に別個の腫瘍型に対する具体的な治療計画を対象とし、転帰を最大にするために腫瘍治療を個別化することである。したがって、さまざまな治療選択肢に対する患者の反応に関する予測情報を同時に提供する検査法に対する需要が存在している。これは、その生物学がよく分かっていない乳癌に特に言えることである。乳癌を、ErbB2下位群などのいくつかの下位群、および、エストロゲンレセプター(ER)およびいくつか別の転写因子(Perou et al.,Nature 406:747−752(2000))の遺伝子発現が低下ないし欠如するという特徴をもつ下位群に分類できることが、乳癌の細胞および分子的な多様性を反映しているわけではなく、また、患者の反応を最大にする治療法を計画できるわけではないことは明らかである。
【0007】
特に、乳癌や卵巣癌などの癌であると一旦診断されると、癌が再発する可能性や患者が長期間生存する可能性など、病気の予測される経路を医師が予測して、それに従って、最も適当な治療選択肢を選ぶことができる方法に対する需要が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、特に無病生存に関し、その発現が予後的に有意義な遺伝子のセットを提供する。
【0009】
本発明は、該セット中のすべてのマーカーをアッセイするために、保管されているパラフィン包埋生検材料を使用することに対応しており、そのため、最も広範に利用可能なタイプの生検材料に適合する。また、例えば針生検(core biopsy)または細針吸引などによる、いくつかの異なった腫瘍組織回収法にも適合する。さらに、遺伝子セットの各メンバーについて、本発明は、検査に使用できるオリゴヌクレオチド配列を特定する。
【0010】
1つの態様において、本発明は、患者が癌を再発させることなく長期間生存する可能性を予測する方法であって、患者から採取した癌細胞における1種類以上の予後RNA転写産物の発現レベルまたは発現産物を、該癌細胞におけるすべてのRNA転写産物またはそれらの産物の発現レベル、または、RNA転写産物またはそれらの発現産物の参照用セットの発現レベルに対して正規化して決定することを含む方法において、該予後RNA転写産物が、B_カテニン;BAG1;BIN1;BUB1;C20_orfl;CCNB1;CCNE2;CDC20;CDH1;CEGP1;CIAP1;cMYC;CTSL2;DKFZp586M07;DR5;EpCAM;EstR1;FOXM1;GRB7;GSTM1;GSTM3;HER2;HNRPAB;ID1;IGF1R;ITGA7;Ki_67;KNSL2;LMNB1;MCM2;MELK;MMP12;MMP9;MYBL2;NEK2;NME1;NPD009;PCNA;PR;PREP;PTTG1;RPLPO;Src;STK15;STMY3;SURV;TFRC;TOP2A;およびTSからなる群より選択される1つ以上の遺伝子の転写産物であり、
ここで、BUB1;C20_orfl;CCNB1;CCNE2;CDC20;CDH1;CTSL2;EpCAM;FOXM1;GRB7;HER2;HNRPAB;Ki_67;KNSL2;LMNB1;MCM2;MELK;MMP12;MMP9;MYBL2;NEK2;NME1;PCNA;PREP;PTTG1;Src;STK15;STMY3;SURV;TFRC;TOP2A;およびTSの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が低いことを示し、また、
BAG1;Bカテニン;BIN1;CEGP1;CIAP1;cMYC;DKFZp586M07;DR5;EstR1;GSTM1;GSTM3;ID1;IGF1R;ITGA7;NPD009;PR;およびRPLPOの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が高いことを示す方法に関する。
【0011】
さまざまな実施態様において、2つ以上、または5つ以上、または10以上、または15以上、または20以上、または25以上の予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する。
【0012】
別の実施態様において、癌は乳癌または卵巣癌である。
【0013】
さらに別の実施態様において、癌はリンパ節陰性かつER陽性の乳癌である。
【0014】
さらなる実施態様において、RNAはイントロンRNAを含む。
【0015】
なおさらなる実施態様において、MMP9、GSTM1、MELK、PR、DKFZp586M07、GSTM3、CDC20、CCNB1、STMY3、GRB7、MYBL2、CEGP1、SURV、LMNB1、CTSL2、PTTG1、BAG1、KNSL2、CIAP1、PREP、NEK2、EpCAM、PCNA、C20_orfl、ITGA7、ID1 B_カテニン、EstRl、CDH1、TS HER2、およびcMYCからなる群から選択される1つ以上の遺伝子の1つ以上の予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定するが、
ここで、C20_orfl;CCNB1;CDC20;CDH1;CTSL2;EpCAM;GRB7;HER2;KNSL2;LMNB1;MCM2;MMP9;MYBL2;NEK2;PCNA;PREP;PTTG1;STMY3;SUEV;TS;およびMELKの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が低いことを示し、また、
BAG1;Bカテニン;CEGP1;CIAP1;cMYC;DKFZp586M07;EstR1;GSTM1;GSTM3;ID1;ITGA7;およびPRの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が高いことを示す。
【0016】
別の実施態様において、GRB7、SURV、PR、LMNB1、MYBL2、HER2、GSTM1、MELK、S20_orfl、PTTG1、BUB1、CDC20、CCNB1、STMY3、KNSL2、CTSL2、MCM2、NEK2、DR5、Ki_67、CCNE2、TOP2A、PCNA、PREP、FOXM1、NME1、CEGP1、BAG1、STK15、HNRPAB、EstR1、MMP9、DKFZp586M07、TS、Src、BIN1、NP009、RPLPO、GSTM3、MMP12、TFRC、およびIGF1Rからなる群から選択される1つ以上の遺伝子の1つ以上の予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定するが、
ここで、GRB7;SURV;LMNB1;MYBL2;HER2;MELK;C20_orfl;PTTG1;BUB1;CDC20;CCNB1;STMY3;KNSL2;CTSL2;MCM2;NEK2;Ki_67;CCNE2;TOP2A_4;PCNA;PREP;FOXM1;NME1;STK15;HNRPAB;MMP9;TS;Src;MMP12;およびTFRCの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が低いことを示し、また、
PR;GSTMI;DR5;CEGP1;BAG1;EstRl;DKFZp586M07;BIN1;NP009;RPLPO;GSTM3;IGF1Rの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が高いことを示す。
【0017】
別の態様において、本発明は、患者が癌を再発させることなく長期間生存する可能性を予測する方法であって、患者から採取した癌細胞における1種類以上の予後RNA転写産物の発現レベルまたは発現産物を、該癌細胞におけるすべてのRNA転写産物またはそれらの産物の発現レベル、または、RNA転写産物またはそれらの発現産物の参照用セットの発現レベルに対して正規化して決定することを含む方法において、該予後RNA転写産物が、GRB7;LMNB1;ER;STMY3;KLK10;PR;KRT5;FGFR1;MCM6;SNRPFからなる群から選択される1つ以上の遺伝子の1つ以上の予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定するが、
ここで、GRB7;LMNB1;STMY3;KLK10;FGFR1およびSNRPFの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が低いことを示し、また、
ER;PR;KRT5およびMCM6;ER;PR;KRT5およびMCM6の1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が高いことを示す。
【0018】
この方法の1つの実施態様において、RNAは、患者の固定ワックス包埋乳癌組織標本から単離される。
【0019】
別の実施態様において、RNAは針生検組織または細針吸引細胞から単離される。
【0020】
別の態様において、本発明は、固体表面に固定されている以下の遺伝子の2つ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むアレイに関する:B_カテニン:BAG1;BIN1;BUB1;C20_orfl;CCNB1;CCNE2;CDC20;CDH1;CEGP1;CIAP1;cMYC;CTSL2;DKFZp586M07;DR5;EpCAM;EstR1;FOXM1;GRB7;GSTM1;GSTM3;HER2;HNRPAB;ID1;IGF1R;ITGA7;Ki_67;KNSL2;LMNB1;MCM2;MELK;MMP12;MMP9;MYBL2;NEK2;NME1;NPD009;PCNA;PR;PREP;PTTG1;RPLPO;Src;STK15;STMY3;SURV;TFRC;TOP2A;およびTS。
【0021】
1つの実施態様において、このアレイは、以下の遺伝子の2つ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む:MMP9、GSTM1、MELK、PR、DKFZp586M07、GSTM3、CDC20、CCNB1、STMY3、GRB7、MYBL2、CEGP1、SURV、LMNB1、CTSL2、PTTG1、BAG1、KNSL2、CIAP1、PREP、NEK2、EpCAM、PCNA、C20_orfl、ITGA7、ID1 B_カテニン、EstRl、CDH1、TS HER2、およびcMYC。
【0022】
別の実施態様において、このアレイは、以下の遺伝子の2つ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む:GRB7、SURV、PR、LMNB1、MYBL2、HER2、GSTM1、MELK、S20_orfl、PTTG1、BUB1、CDC20、CCNB1、STMY3、KNSL2、CTSL2、MCM2、NEK2、DR5、Ki_67、CCNE2、TOP2A、PCNA、PREP、FOXM1、NME1、CEGP1、BAG1、STK15、HNRPAB、EstR1、MMP9、DKFZp586M07、TS、Src、BIN1、NP009、RPLPO、GSTM3、MMP12、TFRC、およびIGF1R。
【0023】
さらなる実施態様において、上記遺伝子の3つ以上、または5つ以上、または10以上、または15以上、または20以上、または25以上にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む。
【0024】
なおさらなる実施態様において、本アレイは、上記遺伝子のすべてにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む。
【0025】
さらに別の実施態様においては、本アレイは、同一の遺伝子にハイブリダイズする複数のポリヌクレオチドを含む。
【0026】
付加的な実施態様において、本アレイは、イントロンベースの配列を含む。
【0027】
別の実施態様において、これらのポリヌクレオチドはcDNAであって、例えば、約500から5000塩基長でありうる。
【0028】
さらに別の実施態様において、ポリヌクレオチドはオリゴヌクレオチドであって、例えば、約20から80塩基長程度である。
【0029】
本アレイは、例えば、ガラスに固定することができ、数十万個、例えば330,000個のオリゴヌクレオチドを含むことができる。
【0030】
さらなる態様において、本発明は、浸潤性乳癌と診断された患者が乳癌を再発させることなく長期間生存する可能性を予測する方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
(a)患者から採取した乳癌細胞におけるB_カテニン;BAG1;BIN1;BUB1;C20_orfl;CCNB1;CCNE2;CDC20;CDH1;CEGP1;CIAP1;cMYC;CTSL2;DKFZp586M07;DR5;EpCAM;EstR1;FOXM1;GRB7;GSTM1;GSTM3;HER2;HNRPAB;ID1;IGF1R;ITGA7;Ki_67;KNSL2;LMNB1;MCM2;MELK;MMP12;MMP9;MYBL2;NEK2;NME1;NPD009;PCNA;PR;PREP;PTTG1;RPLPO;Src;STK15;STMY3;SURV;TFRC;TOP2A;およびTSからなる群より選択される遺伝子セットの遺伝子のRNA転写産物または発現産物の発現レベルを、該癌細胞におけるすべてのRNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベル、または、RNA転写産物またはそれらの発現産物の参照用セットの発現レベルに対して正規化して決定する工程;
(b)工程(a)で得られたデータを統計分析に供する工程;および
(c)該長期間生存の可能性が高くなったか低くなったかを決定する工程。
【0031】
なおさらなる態様において、本発明は、患者に個別のゲノムプロフィールを作成する方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
(a)患者から採取した乳房組織から抽出されたRNAを遺伝子発現分析に供する工程;
(b)表1および2のいずれかに列挙されている乳癌遺伝子セットから選択された1つ以上の遺伝子の組織における発現レベルを決定する工程であって、該発現レベルが、参照用遺伝子に対して正規化されるか、選択的には、乳癌参照用組織セットに存在する量と比較される工程;および
(c)該遺伝子発現分析によって得られるデータをまとめた報告を作成する工程。
【0032】
乳房組織は、乳癌細胞を含む可能性がある。
【0033】
別の実施態様において、乳房組織は、固定されたパラフィン包埋生検サンプルから採取されるが、その中では、RNAが断片化している可能性がある。
【0034】
上記報告は、患者の長期間生存の可能性、および/または、該患者の治療様式についての提言を含む。
【0035】
さらなる態様において、本発明は、表1および2に列挙されている遺伝子のmRNA産物のレベルを、表に列挙されている単位複製配列および表4A−4Dに列挙されているプライマー−プローブのセットを用いて、リアルタイムのポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって決定する方法に関する。
【0036】
なおさらなる態様において、本発明は、表4A−4Dに列挙されているプライマー−プローブのセット、および表3に列挙されているPCR単位複製配列に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
(A.定義)
別段の記載がない限り、本明細書において使用される科学技術用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。Singleton et al.,Dictionary of Microbiologi and Molecular Biology 2nd ed.,J.Wiley & Son(New York,NY 1994)、およびMarch,Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisima and Structure 4th ed,John Wiley & Sons(New York,NY 1992)は、当業者にとって、本願で使用されている多くの用語に対する一般的な手引きとなる。
【0038】
当業者は、本明細書に記載されているのと同様または同等の多くの方法および材料があることを認識するであろうが、それらも、本発明を実施するときに使用することができよう。実際、本発明は、決して、記載されている方法および材料に限定されるものではない。本発明の目的にとって、以下の用語を下記のとおり定義する。
【0039】
「マイクロアレイ」という用語は、基質上に規則正しく並べられたハイブリダイズ可能なアレイ要素、好ましくはポリヌクレオチドプローブを意味する。
【0040】
「ポリヌクレオチド」という用語は、単数形で用いられても複数形で用いられても、ポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドであって、未修飾のRNAもしくはDNAまたは修飾されたRNAもしくはDNAを意味する。したがって、例えば、本明細書で定義されているポリヌクレオチドには、1本鎖および2本鎖のDNA、1本鎖および2本鎖の領域を含むDNA、1本鎖および2本鎖のRNA、ならびに1本鎖および2本鎖の領域を含むRNA、1本鎖もしくは、より一般的には2本鎖であるか、または、1本鎖および2本鎖の領域を含むDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子などがあるが、これらに限定されるものではない。さらに、本明細書において使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、RNAまたはDNA、またはRNAとDNAの両方を含む三重鎖領域を意味する。このような領域にある鎖は、同一の分子または異なった分子に由来するものでもよい。該領域は、1つ以上の該分子のすべてを含んでいてもよいが、より一般的には、いくつかの分子の一領域のみを含む。三重鎖領域の分子の1つは、しばしばオリゴヌクレオチドである。「ポリヌクレオチド」という用語は、具体的にはcDNAを含む。この用語は、修飾された塩基を1つ以上含むDNA(cDNAを含む)およびRNAを包含する。したがって、安定性のため、またはそれ以外の理由で修飾されている骨格をもつDNAまたはRNAは、本明細書において意図されている用語としての「ポリヌクレオチド」である。さらに、DNAまたはRNAは、イノシンなどの例外的塩基、または、トリチウム化された塩基などの修飾塩基が、本明細書において定義されている「ポリヌクレオチド」という用語の範囲に含まれる。一般的に、「ポリヌクレオチド」という用語は、未修飾ポリヌクレオチドの化学的、酵素的および/は代謝的に修飾された形態のすべてを包含するとともに、ウイルス、ならびに単純細胞および複雑型細胞などの細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学形態も包含する。
【0041】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、比較的短いポリヌクレオチドを意味し、1本鎖デオキシリボヌクレオチド、1本鎖または2本鎖のリボヌクレオチド、RNA:DNAハイブリッド、および2本鎖DNAを意味する。1本鎖DNAプローブオリゴヌクレオチドなどのオリゴヌクレオチドは、例えば、市販されている自動式オリゴヌクレオチド合成装置を用いる化学合成法によってよく合成される。しかし、オリゴヌクレオチドは、これ以外に、インビトロ組換えDNAによる技術や、細胞および生物の中でDNAを発現させるなど、さまざまな方法によって作成できる。
【0042】
「示差的に発現される遺伝子」、「示差的遺伝子発現」およびこれらの同義語は、互換的に使用され、乳癌など、具体的には癌などの病気を患う被験者において、その発現が、正常または対照となる被験者における発現と比較して、より高いレベルかより低いレベルに活性化される遺伝子を意味する。この用語は、同じ病気の異なる段階で、その発現がより高いレベルまたはより低いレベルに活性化される遺伝子も包含する。また、示差的に発現される遺伝子は、核酸レベルまたは蛋白質レベルで活性化または抑制されてもよく、あるいは、異なったポリペプチド産物をもたらす選択的スプライシングを受けることもあると理解される。このような違いは、例えば、ポリペプチドのmRNAレベル、表面発現、分泌またはその他の分配における変化によって証明することができる。示差的遺伝子発現は、2つ以上の遺伝子またはそれらの遺伝子産物の間で発現を比較すること、または、2つ以上の遺伝子またはそれらの遺伝子産物の間における発現比率を比較すること、または、さらに、同じ遺伝子が異なってプロセッシングされた2つの産物であって、正常な被験者と、具体的には癌という病気を患う被験者の間で異なっているか、または、同じ病気のさまざまな段階で異なっている産物を比較することを包含しうる。示差的発現は、例えば、正常および病気の細胞間における、または、異なった病気が発症したか、異なった病気の段階にある細胞間における、遺伝子またはその発現産物の時間的または細胞内での発現パターンの定量的、および定性的な違いを含む。本発明の目的にとって、正常な被験者と病気の被験者において、または、病気の被験者の病気発症のさまざまな段階において、ある遺伝子の発現に約2倍以上、好ましくは約4倍以上、より好ましくは約6倍以上、最も好ましくは約10倍以上の違いがあるときに、「示差的遺伝子発現」が存在するとみなされる。
【0043】
RNA転写産物について「過剰発現」という用語は、標本中で決定されたRNAのすべてまたは特定の参照用mRNAセットであるかもしれない参照用mRNAのレベルに対して正規化することによって決定された転写産物のレベルを意味するために用いられる。
【0044】
「遺伝子増幅」という用語は、特定の細胞または細胞株において遺伝子または遺伝子断片のコピーを多数形成させる処理を意味する。複製領域(増幅されたDNAの鎖)は、しばしば「単位複製配列(アンプリコン)」と呼ばれる。通常、産生されるメッセンジャーRNA(mRNA)の量、すなわち遺伝子発現のレベルも、発現された特定の遺伝子から作られてコピーの数に比例して増加する。
【0045】
「予後」という用語は、本明細書において、乳癌などの腫瘍性疾患の再発、転移拡散、および薬剤耐性など、癌に起因する死または進行が起こる可能性を予測することを意味する。「予測」という用語は、本明細書において、患者が。薬剤または薬剤のセットに芳しくまたは芳しくなく反応する可能性、および、そのような反応の程度、または、原発性腫瘍の手術による除去および/または化学療法の後一定期間再発なしに生存する可能性のいずれかを意味する。本発明に係る予測法を臨床的に利用して、特定の患者に対して最も適切な治療法を選択することによって治療法を決定することができる。本発明に係る予測法は、ある患者が、外科的介入、所定の薬剤または薬剤の併用による化学療法、および/または放射線療法などの治療計画に対して良好な反応を示す可能性があるか否か、または、手術および/または化学療法の終了、またはその他の治療法の後に長期間生存する可能性があるか否かを予測するのに有益な手段である。
【0046】
「長期」生存という用語は、本明細書では、手術またはその他の治療の後3年以上、より好ましくは8年以上、最も好ましくは10年以上生存することを意味する。
【0047】
「腫瘍」という用語は、本明細書において使用される場合、悪性または良性のすべての腫瘍細胞の成長および増殖、および前癌および癌の細胞および組織を意味する。
【0048】
「癌」および「癌性」という用語は、一般的には無秩序な細胞増殖という特徴をもつ、哺乳動物における生理学的状態を意味または記述するものである。癌の例には、乳癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、肝臓癌、膀胱癌、尿道癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、メラノーマ、および脳腫瘍などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
癌の「病理」には、患者の健康を危うくする現象のすべてが含まれる。これに限定はないが、異常または制御不能な細胞増殖、転移、隣接した細胞の正常な機能による介入、サイトカインまたはその他の分泌産物の異常なレベルでの放出、炎症反応または免疫反応の抑制または悪化、新生組織形成、前癌状態、悪性腫瘍、周辺組織またはリンパ節など離れた組織または器官への浸潤などが含まれる。
【0050】
ハイブリダイゼーション反応の「厳密性」は、当業者によって容易に決定することができ、通常は、プローブの長さ、洗浄温度、および塩濃度に依存する実験的計算である。一般的に、プローブが長くなるほど、適当なアニーリングを行うための温度が高くなる一方で、プローブが短くなるほど低い温度を必要とする。ハイブリダイゼーションは、通常、変性したDNAが、融解温度よりも低い温度で環境中に相補鎖が存在する場合に再アニールできることにかかっている。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間の所望の相同性の程度が高くなるほど、利用できる相対的な温度は高くなる。その結果、相対温度が高くなるほど、反応条件の厳密性が高くなり、温度が低くなるほど厳密性は低くなることになる。ハイブリダイゼーション反応の厳密性のさらなる詳細と説明については、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照。
【0051】
「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェントな条件」は、本明細書で定義されているように、一般的には、(1)例えば50℃で0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウムというような低イオン強度および高温を洗浄に用い、(2)ハイブリダイゼーションの間、ホルムアミドなどの変性剤、例えば、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール(Ficoll)/0.1%ポリビニルピロリドン/50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)などを、750mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムとともに42℃で用い、または、(3)50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波破砕済みサケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、および10%硫酸デキストランを42℃で用い、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)および55℃での50%ホルムアミド中、42℃で洗浄した後、55℃でEDTA入り0.1×SSCによることからなる高厳密性洗浄を行う。
【0052】
「中程度にストリンジェントな条件」は、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Press,1989に記載されている条件とされ、上記の洗浄用溶液およびハイブリダイゼーション条件よりも厳密性の低い溶液および条件(例えば、温度、イオン強度および%SDS)を使用することを含む。中程度にストリンジェントな条件の一例は、20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、および20mg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中、37℃で一晩インキュベートした後、1×SSC中、約37〜50℃でフィルターを洗浄することである。当業者は、プローブの長さなどの要素を取り入れる必要に応じて、温度、イオン強度などをどのように調整すべきかを理解していよう。
【0053】
本発明との関連において、特定の遺伝子セットに列挙されている遺伝子を「1つ以上」、「2つ以上」「5つ以上」などと言うのは、列挙されている遺伝子のいずれか1つ、またはそれらのいずれか、およびすべての組み合わせを意味する。
【0054】
「リンパ節陰性」乳癌など、「リンパ節陰性」の癌という用語は、本明細書において、リンパ節にまで拡散していない癌を意味するために使用される。
【0055】
「スプライシング」および「RNAスプライシング」という用語は互換的に使用され、連続したコード配列をもち、真核細胞の細胞質に移行して行く成熟mRNAを産生するためにイントロンを除去しエクソンを連結させるRNAプロセッシングを意味する。
【0056】
理論上、「エクソン」という用語は、成熟RNA産物に現れる、断続的した遺伝子の分節を意味する(B.Lewin,Genes IV Cell Press,Cambridge Mass.1990)。理論上、「イントロン」という用語は、転写されるが、その両側にあるエクソンをスプライシングしてつなげることにより転写産物内から除去されるDNA分節を意味する。実施面において、エクソン配列は、配列番号によって定義されている遺伝子のmRNA配列の中に存在する。実施面において、イントロン配列は、遺伝子のゲノムDNAの中に存在する介在配列であって、エクソン配列によって挟まれ、5’側および3’側の境界にGTおよびAGというスプライス共通配列を有する。
【0057】
(B.詳細な説明)
本発明を実施するに当たって、別途記載がない限り、分子生物学(組換え技術など)、微生物学、細胞生物学、および生化学の常法を用いるが、それらは、当技術分野の範囲内である。そのような技術は、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版((Sambrook et al.,1989);「Oligoucleotide Synthesis」(M.J.Gait,ed., 1984);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney,ed.,1987);「Methods in Enzymology」(Academic Press,Inc.);「Handbook of Experimental Immunology」,第4版(D.M.Weir & C.C.Blackwell,eds.,BlackWell Science Inc.,1987);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(F.M.Miller & M.P.Calos,eds.,1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M. Ausubel et al.,eds.,1987);および「PCR:The Polymerase Chain Reaction」,(Mullis et al.,eds.,1994)などの文献で十分に説明されている。
【0058】
(1.遺伝子発現プロファイリング)
遺伝子発現プロファイリングの方法には、ポリヌクレオチド解析に基づく方法、ポリヌクレオチドの配列決定に基づく方法、およびプロテオミクスによる方法などがある。最も一般的に用いられる方法で、サンプル中のmRNA発現を定量するために当技術分野において知られている方法には、ノザンブロッティングおよびインサイツハイブリダイゼーション((Parker & Barnes,Methods in Molecular Biology 106:247−283(1999));RNAseプロテクション・アッセイ法(Hod,Biotechniques 13:852−854(1992));および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)などのPCR法(Weis et al.,Trends in Genetics 8:263−264(1992))などがある。あるいは、DNA二重鎖、RNA二重鎖、およびDNA−RNAハイブリッドの二重鎖またはDNA−蛋白質二重鎖などの特定の二重鎖を識別できる抗体を用いることもできる。配列決定による遺伝子発現分析法の代表的な方法には、遺伝子発現連続解析法(SAGE)、および大規模並列シグネチャー配列決定法(massively parallel signature sequencing:MPSS)による遺伝子発現分析法などがある。
【0059】
(2.PCRによる遺伝子発現プロファイリング法)
(a 逆転写酵素PCR(RT−PCR))
上記技術の中で、最も感度が高く、最も融通がきく定量法はRT−PCRであって、異なったサンプル集団、正常組織と腫瘍組織、薬物治療の有無などにおけるmRNAレベルを比較したり、遺伝子発現のパターンの特徴を調べたり、密接に関係したmRNAを区別したり、また、RNAの構造を解析するために利用できる。
【0060】
最初の工程は、標的サンプルからmRNAを単離することである。出発物質は、一般的には、ヒトの腫瘍または腫瘍細胞株、およびそれぞれに対応する正常な組織または細胞株から単離された全RNAである。このように、RNAは、乳房、肺、結腸、前立腺、脳、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、精巣、卵巣、子宮などの腫瘍など、さまざまな原発性腫瘍、または腫瘍細胞株から、健康なドナーからプールしたDNAを用いて単離することができる。mRNAが原発性腫瘍に由来するものであれば、凍結されたか、または保管されているパラフィン包埋され固定(ホルマリン固定)された組織サンプルからmRNAを抽出することができる。
【0061】
mRNAを抽出するための一般的な方法が、当技術分野において周知されており、Ausubel et al.,Current Protocols of Molecular Biology,John Wiley and Sons (1997)など、分子生物学の標準的な教科書に開示されている。パラフィン包埋された組織からRNAを抽出する方法は、例えば、Rupp and Locker,Lab Invest.56:A67(1987)、およびDe Andres et al.,BioTechniques 18:42044(1995)に開示されている。具体的には、Qiagenなどの製造業者から入手した精製キット、緩衝液セット、およびプロテアーゼを用いて、製造業者の指示に従ってRNA単離を行うことができる。例えば、培養されている細胞の全RNAは、QiagenのRNeasyミニカラムを用いて単離することができる。これ以外の市販されているRNA単離用キットには、商標MasterPure全DNAおよびRNA精製キット(登録商標EPICENTRE、Madison、WI)、およびパラフィンブロックRNA単離用キット(Ambion,Inc.)などがある。組織サンプルからの全RNAは、RNA Stat−60(Tel−Test)を用いて単離することができる。腫瘍から調製されたRNAは、例えば、塩化セシウム濃度勾配遠心法によって単離することができる。
【0062】
RNAは、PCRの鋳型としては利用できないため、RT−PCRによる遺伝子発現プロファイリングの第一の工程は、RNA鋳型を逆転写させてcDNAとした後、PCR反応でそれを指数的に増幅させることである。2つの最も広く使用されている逆転写酵素は、トリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV−RT)およびモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV−RT)である。逆転写工程は、一般的には、環境および発現プロファイリングの目的に応じて、特異的プライマー、ランダムなヘキサマー、またはオリゴ−dTプライマーを用いて開始される。例えば、GeneAmp RNA PCRキット(Perkin Elmer,CA,USA)を用いて製造業者の指示に従って、抽出されたRNAを逆転写することができる。そして、得られたcDNAを、次のPCR反応における鋳型として用いることができる。
【0063】
PCRの工程では、さまざまな熱安定的DNA依存型DNAポリメラーゼを使用するが、一般的には、5’−3’ヌクレアーゼ活性をもつが、3’−5’プルーフリーディングエキソヌクレアーゼ活性をもたないTaqDNAポリメラーゼが用いられる。すなわち、商標TaqMan PCRは、一般的には、TaqポリメラーゼまたはTthポリメラーゼの5’−ヌクレアーゼ活性を利用して、その標的単位複製配列に結合しているハイブリダイゼーション用プローブを加水分解するが、同じ5’ヌクレアーゼ活性をもつ酵素を使用することもできる。2種類のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR反応に特有の単位複製配列を生成させる。この2つのプライマーの間に存在する塩基配列を検出するために別のオリゴヌクレオチド、すなわちプローブを設計する。このプローブは、TaqDNAポリメラーゼ酵素によって伸長することはできず、レポーター用の蛍光色素およびクエンチャー用の蛍光色素で標識されている。これら2種類の色素がプローブ上にあって互いに近くにあるときには、レポーター用色素からレーザーによって発生する光は、クエンチャー用の色素で消光されている。増幅反応の過程で、Taq DNAポリメラーゼ酵素が、鋳型依存的にプローブを切断する。その結果得られたプローブ断片は溶液中に解離して、放出されたレポーター用色素からのシグナルが、第2のフルオロフォアの消光作用から解放される。レポーター用色素の一分子は、新しい分子が合成される度に放出されるため、消光されないレポーター用色素の検出に基づいて、データを定量的に解釈することが可能となる。
【0064】
商標TaqMan RT−PCRは、例えば、登録商標ABI PRISM 7700配列検出キット(Perkin−Elmer−Applied Biosystems, Foster City,CA,USA)、またはLightcycler(Roche Molecular Biochemicals,Mannheim,Germany)など市販の装置を用いて行うことができる。好適な実施態様において、5’ヌクレアーゼ法は、登録商標ABI PRISM 7700配列検出キットなどのリアルタイム定量用PCR装置上で行う。この装置は、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)カメラおよびコンピュータからなる。この装置は、サーモサイクラー上の96ウェルのフォーマットの中にあるサンプルを増幅する。増幅過程で、レーザーによって発生させた蛍光シグナルを、96ウェルすべてについて、光ファイバーケーブルを通じてリアルタイムで集めて、CCDで検出する。この装置は、器具を作動させるため、およびデータを解析するためのソフトウエアを含む。
【0065】
5’−ヌクレアーゼ・アッセイのデータは、まず、Ctすなわち限界サイクル(threshold cycle)として表現される。上記したように、蛍光値は、サイクル毎に記録され、増幅反応のその時点までに増幅された産物の量を示す。蛍光シグナルが統計的に有意であると最初に記録された時点が限界サイクル(Ct)である。
【0066】
誤差とサンプル対サンプルにおける変動作用を最小にするために、通常、内部標準を用いてRT−PCRを実施する。理想的な内部標準は、さまざまな組織の中で一定のレベルで発現され、実験処理によって影響されないものである。遺伝子発現のパターンを正規化するためにもっとも頻繁に使用されるRNAは、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)およびβ−アクチンのmRNAである。
【0067】
RT−PCR技術のより新しい変法は、リアルタイム定量的PCRであって、二重標識された蛍光発生プローブ(すなわち商標Taqmanプローブ)によってPCR産物の蓄積を決定する。リアルタイムPCRは、各標的配列に対する内部競合分子を正規化するために利用する定量的な競合PCRにも、サンプル中に含まれる正規化用遺伝子、またはRT−PCR用のハウスキーピング遺伝子を用いる定量的な比較PCRにも適合する。更なる詳細については、例えば、Held et al,Genome Research 6:986−994(1996)を参照されたい。
【0068】
mRNAの単離、精製、プライマー伸長、および増幅など、固定されたパラフィン包埋組織をRNAの由来源として使用する遺伝子発現プロファイリングの典型的プロトコールの各工程は、さまざまな発行済みの雑誌記事に記載されている{例えば、T.E.Godfrey et al.,J.Molec.Diagnostics 2:84−91[2000];K.Specht et al.,Am.J.Pathol.158:419−29[2001]}。端的には、典型的な方法は、パラフィン包埋された腫瘍組織サンプルの約10μm厚の切片を切り出すことから始まる。そして、RNAを抽出して、蛋白質およびDNAを除去する。RNA濃度を分析した後に、必要があれば、RNAの修復および/または増幅の工程を行うこともでき、遺伝子特異的プローブを用いてRNAを逆転写した後、RT−PCRを行う。
【0069】
(b.マスアレイ装置)
Sequenom Inc.(San Diego,CA)によって開発されたマスアレイによる遺伝子発現プロファイリング法において、RNAを単離し逆転写した後、得られたcDNAを、一塩基を除くすべての位置で標的となるcDNA領域に一致する合成DNA分子(競合分子)で固定して、内部標準として使用する。このcDNA/競合分子の混合液をPCRで増幅してから、エビ由来アルカリホスファターゼ(SAP)酵素によるPCR後処理を行ない、その結果、残ったヌクレオチドを脱リン酸化する。アルカリホスファターゼを不活性化させた後、競合分子およびcDNAのPCR産物にプライマー伸長処理を行って、競合分子およびcDNAに由来するPCR産物に対し異なった質量シグナルを生じさせる。これらの生成物は、精製された後、マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF MS)による解析に必要な成分を予め搭載しているチップアレイに分注される。そして、作成された質量スペクトルのピーク領域の比率を解析することによって反応液中に存在するcDNAを定量する。更なる詳細については、例えば、Ding and Cantor,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:3059−3064(2003)を参照されたい。
【0070】
(c.その他のPCR法)
さらなるPCRによる技術には、例えば、ディファレンシャルディスプレイ法(Liang and Pardee,Science 257:967−971(1992));増幅断片長多型法(iAFLP)(Kawamoto et al.,Genome Res.12:1305−1312(1999));登録商標ビーズアレイ技術(Illumina,San Diego,CA;Oliphant et al.,Discovery of Markers for Disease(Supplement to Biotechniques),June 2002;Ferguson et al.,Analytical Chemistry 72:5618(2000));遺伝子発現の迅速アッセイ法において、市販されているLuminex100LabMAP装置と複数に色分けされたミクロスフェア(Luminex Corp.,Austin,TX)を用いた遺伝子発現検出用ビーズアレイ(BADGE)(Yang et al.,Genome Res.11:1888−1898(2001));および高カバー率遺伝子発現プロフィール(HiCEP)解析法(Fukumura et al.,Nucl.Acids.Res.31(16)e94(2003))などがある。
【0071】
(3.マイクロアレイ)
示差的遺伝子発現は、マイクロアレイ技術を用いても同定または確認することができる。すなわち、新鮮な腫瘍組織またはパラフィン包埋された腫瘍組織のいずれにおいても、マイクロアレイ技術を用いて、乳癌関連遺伝子の発現プロフィールを決定することができる。この方法においては、目的とするポリヌクレオチド配列(cDNAおよびオリゴヌクレオチドなど)をマイクロチップ基板上にプレートするか、整列させる。そして、整列させた配列を、目的とする細胞または組織由来の特異的DNAプローブとハイブリダイズさせる。RT−PCRのときとちょうど同じように、mRNAの由来源は、腫瘍または腫瘍細胞株、および対応する正常組織または細胞株から単離した全RNAである。このように、さまざまな原発性腫瘍または腫瘍細胞株からRNAを単離することができる。mRNAの由来源が原発性腫瘍の場合には、例えばmRNAが原発性腫瘍に由来するものであれば、凍結されたか、または保管されているパラフィン包埋され固定(ホルマリン固定)された組織サンプルからmRNAを抽出することができ、日常の医療業務において、ごく普通に調製して保存することができる。
【0072】
マイクロアレイ技術の具体的な実施態様において、cDNAクローンのPCR増幅された挿入配列を高密度で基板に乗せる。好ましくは、10,000ヌクレオチド以上の配列を基板に適用する。マイクロアレイ上の遺伝子は、各10,000成分ずつマイクロアレイに固定されるが、高ストリンジェントな条件でのハイブリダイゼーションに適している。目的とする組織から抽出されたRNAの逆転写によって蛍光標識を取り込むことにより、蛍光標識されたcDNAプローブを作成することができる。チップに適用された標識cDNAプローブは、アレイ上のDNAスポットに特異性をもってハイブリダイズする。非特異的結合プローブを除去するための高厳密性洗浄の後、共焦点レーザー顕微鏡、またはCCDカメラなど、別の検出法によってチップを走査する。各アレイ上成分のハイブリダイゼーションを定量すると、対応するmRNAの豊富さを見積もることが可能になる。二色蛍光法によって、2種類のRNA由来源から作成され、別々に標識されたcDNAプローブを対毎にアレイにハイブリダイズさせる。こうして、これら2種類の由来源からの各特定遺伝子に対応する転写産物の相対的な豊富さが同時に決定される。ハイブリダイゼーションを小規模化させたことによって、多数の遺伝子の発現パターンの簡便で迅速な評価が利用可能になる。このような方法は、細胞当り数コピーしか発現されない希少な転写産物を検出するのに必要とされる感度をもつことが示されており、少なくとも約2倍の発現レベルの違いを再現性をもって検出することが示されている(Schena et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(2):106−149(1996)。マイクロアレイ解析法は、製造業者の指示に従って、Affymetrix GenChip技術、またはIncyteのマイクロアレイ技術を用いるなどして、市販されている装置によって実施することができる。
【0073】
遺伝子発現の大規模解析を行うためのマイクロアレイ法の開発によって、癌分類の分子マーカーおよびさまざまな腫瘍型の転帰予測を体系的に検索することが可能になった。
【0074】
(4.遺伝子発現連続解析法(SAGE))
遺伝子発現連続解析法(SAGE)は、各転写産物に対するハイブリダイゼーション・プローブを用意する必要なしに、多数の遺伝子転写産物を同時かつ定量的に解析できる方法である。まず、短い配列タグ(約10〜14塩基対)を各転写産物内部のユニークな位置から得る場合には、各転写産物を個別に同定するのに十分な情報を含むタグを作成する。そして、多数の転写産物を一緒に連結させて、長い連続した分子を形成させると、配列決定することができ、多数のタグの同一性を同時に明らかにすることができる。転写産物の集団の発現パターンを、各タグの量を決定し、各タグに対応する遺伝子を同定することによって定量的に評価することができる。さらなる詳細については、例えば、Velculescu et al.,Science 270:484−487 (1995);およびVelculescu et al.,Cell 88:243−51(1997)を参照されたい。
【0075】
(5.大規模並列シグネチャー配列決定法(MPSS))
この方法は、Brenner et al.,Nature Biotechnology 18:630−634(2000)に記載されているが、ゲルによらないシグネチャー配列決定法を、個別の直径5μmのマイクロビーズ上の何百万もの鋳型のインビトロにおけるクローニングと組み合わせる配列決定法である。まず、インビトロ・クローニングによって、DNA鋳型のマイクロビーズライブラリーを構築する。その後、フロー・セルにおいて高密度(一般的には3×10マイクロビーズ/cmよりも大きい)で、鋳型を含むマイクロビーズの平らなアレイを組み立てる。各マイクロビーズ上のクローニングされた鋳型の遊離末端を、DNA断片の分離を必要としない蛍光によるシグネチャー配列決定法を用いて同時に解析する。この方法は、1回の操作で、酵母cDNAライブラリーから何十万もの遺伝子のシグネチャー配列を同時かつ正確に提供できることが分かっている。
【0076】
(6.免疫組織化学法)
免疫組織化学法も、本発明に係る予後マーカーの発現レベルを検出するのに適している。すなわち、抗体または抗血清、好ましくはポリクローナル抗血清、もっとも好ましくは、各マーカーに対して特異的なモノクローナル抗体を用いて発現を検出する。これらの抗体は、例えば、放射性標識、蛍光標識、ビオチン、またはホースラディッシュ・ペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼなどのハプテン標識によって抗体そのものを直接標識して検出することができる。あるいは、非標識一次抗体を、抗血清、ポリクローナル抗血清、または一次抗体に特異的なモノクローナル抗体を含む、標識された二次抗体とともに用いる。免疫組織化学法のプロトコールおよびキットは、当技術分野において周知されていて市販されている。
【0077】
(7.プロテオミクス)
「プロテオミクス」という用語は、一定の時点でサンプル(例、組織、生物、または細胞培養物)の中に存在する蛋白質の全部と定義されている。とりわけ、プロテオミクスは、あるサンプルにおける蛋白質発現の全体的な変化を調べること(「発現プロテオミクス」とも呼ばれる)を含む。プロテオミクスは、一般的に以下の工程を含む:(1)2−Dゲル電気泳動(2−D PAGE)によるサンプル中の各蛋白質の分離、(2)このゲルから回収された各蛋白質の同定、例えば、my質量分析またはN−末端配列決定法、および(3)バイオインフォマティクスを用いたデータ解析。プロテオミクス法は、他の遺伝子発現プロファイリング法の有用な補助法であり、本発明に係る予後マーカーの産物を検出するために単独または他の方法と組み合わせて使用することができる。
【0078】
(8.mRNAの単離、精製、および増幅の一般的な説明)
固定されたパラフィン包埋組織をRNAの由来源として使用する遺伝子発現プロファイリングの典型的プロトコールの各工程は、mRNAの単離、精製、プライマー伸長、および増幅を含み、さまざまな発行済みの雑誌記事に記載されている(例えば、T.E.Godfrey et al.,J.Molec.Diagnostics 2:84−91[2000];K.Specht et al.,Am.J.Pathol.158:419−29[2001])。端的には、典型的な方法は、パラフィン包埋された腫瘍組織サンプルの約10μm厚の切片を切り出すことから始まる。そして、RNAを抽出して、蛋白質およびDNAを除去する。RNA濃度を分析した後に、必要があれば、RNAの修復および/または増幅の工程を行うこともでき、遺伝子特異的プローブを用いてRNAを逆転写した後、RT−PCRを行う。最後に、データを解析して、調べた腫瘍サンプルで同定された特徴的な遺伝子発現パターンに基づき、癌再発の予測された可能性に応じて、患者に利用できる最良の治療選択肢を同定する。
【0079】
(9.乳癌遺伝子セット、アッセイされた遺伝子の結果、および遺伝子発現データの臨床への応用)
本発明の重要な態様は、乳癌組織による一定の遺伝子の測定された発現を用いて、予後情報を提供することである。そのためには、測定されたRNAの量の差異と、用いたRNAの品質のばらつきの両方を補正(正規化)する必要がある。そのため、このアッセイ法は、一般的には、GAPDHおよびCyp1のような周知のハウスキーピング遺伝子など、一定の正規化遺伝子の発現を測定して取り込む。あるいは、正規化は、測定した遺伝子のすべて、またはそれらの大きなサブセットのシグナルの平均値または中央値(Ct)に基づくことも可能である。患者の腫瘍mRNAの測定・正規化された量を、乳癌組織の参照用セットで見られる量と遺伝子毎に比較する。この参照用セットにおける乳癌組織の数(N)は十分に大きいので、別の参照用セットが(全体として)、本質的には同一の挙動をとることは確実である。この条件に合えば、具体的なセットにおける各乳癌組織の同一性は、測定される遺伝子の相対量に対して有意な影響を与えないはずである。通常、乳癌組織の参照用セットは、約30以上、好ましくは約40以上の異なったFPE乳癌組織標本からなる。別途記載がない限り、各mRNA/検査される腫瘍/患者毎に正規化された発現レベルは、参照用セットにおいて測定された発現レベルに対するパーセントで表示される。より具体的には、腫瘍の数が十分に多い(例えば40個の)参照用セットから、各mRNA分子種の正規化されたレベル分布を得ることができる。解析すべき特定の腫瘍サンプルで測定されたレベルは、この範囲内にあるパーセント値になるが、これは、当技術分野において周知されている方法によって決定することができる。以下、別途記載がない限り、遺伝子の発現レベルと言うときには、必ずしも明示されていないが、参照用セットに対して正規化された発現をいうものとする。
【0080】
(10.イントロンに基づくPCR用のプライマーおよびプローブの設計)
本発明の一つの態様によれば、PCR用のプライマーおよびプローブは、増幅する遺伝子に存在するイントロン配列に基づいて設計される。したがって、プライマー/プローブ設計における最初の工程は、該遺伝子内のイントロン配列を明らかにすることである。これは、Kent,W.J.,Genmome Res.12(4):656−64(2000)によって開発されたDNA BLASTのような公開されているソフトウエアによって、または、その変法を含むBLASTソフトウエアによって行うことができる。その次の工程は、PCR用のプライマーおよびプローブを設計する十分に確立した方法を行う。
【0081】
非特異的なシグナルを防止するためには、プライマーおよびプローブを設計するときに、イントロンに含まれる反復配列をマスクすることが重要である。これは、Baylor College of Medicine経由でオンラインにて利用可能なRepeat Maskerプログラムを用いて簡単に行うことができ、このプログラムは、反復因子のライブラリーに対してDNA配列をスクリーニングして、反復因子をマスクしたクエリ配列を返して来る。次に、Primer Express(Applied Biosystems);MGB assay−by−design(Applied Biosystems);Primer3(Steve Rozen and Helen J.Skaletsky(2000)on the WWW for general users and for biologist programmers.Krawetz S,Misener S(eds)Bioinformatics Methods and Protocols:Methods in Molecular Biology.Humana Press,Totowa,NJ,pp.365−386より)など、市販されているか、さもなければ公開されているプライマー/プローブ設計用パッケージを用いて、マスクされたイントロン配列を、プライマーおよびプローブを設計するために使用することができる。
【0082】
PCRプライマーの設計において考慮される最も重要な要素は、プライマーの長さ、融解温度(Tm)、およびG/C含有量、特異性、相補的プライマー配列、および3’−末端の配列などである。一般的に、最適なPCRプライマーは、通常17〜30塩基の長さであって、例えば、約50〜60%など、約20〜80%のG+C塩基を含む。Tmは、50から80℃の間であり、例えば約50から70℃が一般的には好適である。
【0083】
PCR用のプライマーおよびプローブの設計に関するさらなる手引きについては、例えば、Dieffenbach, C.W. et al.,「General Concepts for PCR Primer Design.」 in: PCR PYitner, A .laboratory 1Vlanual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,1995,pp.133−155;Innis and Gelfand,「Optimization of PCRs」 in:PCR Protocols,A Guide to Methods and Applications, CRC Press,London,1994,pp.5−11;およびPlasterer,T.N.Primerselect:Primer and probe design.Methods Mol. Biol.70:520−527(1997)などを参照されたい。また、これらの開示内容はその全体が、参照することによって明示的に本明細書に組み込まれる。
【0084】
本発明のさらなる詳細を、以下の非制限的な実施例において説明する。
【実施例】
【0085】
(242人の悪性乳癌における遺伝子発現の第2相試験)
浸潤性乳腺癌腫のパラフィン包埋固定組織サンプルにおける遺伝子発現を分子的に特徴づけて、そのような分子的特徴と無病生存率の相関関係を明らかにすることを主な目的として、遺伝子発現試験を設計して実施した。
【0086】
(試験計画)
浸潤性乳癌と診断された252人の各患者から採取されたパラフィン包埋されホルマリン固定された原発性乳癌組織に対して分子的アッセイ法を行った。患者はすべてリンパ節転移陰性、ER陽性で、タモキシフェン(Tamoxifen)による治療を受けていた。平均年齢は52歳で、平均の臨床腫瘍サイズは2cmであった。追跡調査の中央値は10.9年であった。2003年1月1日現在、41人の患者が局所的または遠位での病気の再発を起こしているか、死亡している。材料および方法の節に記載したようにして行われた組織病理学的評価が、十分な量の腫瘍組織と均一な病理を示した場合にのみ、患者を試験に組み込んだ。
【0087】
(材料および方法)
標準的な組織病理学法によって、診断、腫瘍量の半定量的評価、および腫瘍の悪性度を調べるために各代表的腫瘍塊の特徴を調べた。腫瘍の面積が切片の70%よりも小さい場合には、腫瘍領域を肉眼で見て切除して、6つの(10ミクロンの)切片から組織を取り出した。それ以外の場合は、全部で3つの切片を(これらも、それぞれ10ミクロンの厚さに)調製した。切片を2つのCostar印の微量遠心用チューブ(ポリプロピレン製、1.7mLチューブ、透明)に入れた。外科手術の一環として2個以上の腫瘍塊が得られた場合には、その病理を最も顕著に示す塊を解析に用いた。
【0088】
(遺伝子発現分析)
固定パラフィン包埋組織サンプルからmRNAを抽出して精製し、上記第6章に記載した遺伝子発現分析を行うために調製した。
【0089】
定量的な遺伝子発現の分子的アッセイは、登録商標ABI PRISM 7900配列検出キット(Perkin−Elmer−Applied Biosystems, Foster City,CA,USA)を用いてRT−PCRにより実施した。登録商標ABI PRISM 7900は、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)カメラおよびコンピュータからなる。この装置は、サーモサイクラー上の384ウェルのフォーマットの中にあるサンプルを増幅する。増幅過程で、レーザーによって発生させた蛍光シグナルを、384ウェルのすべてについて、光ファイバーケーブルを通じてリアルタイムで集め、CCDで検出する。この装置は、器具を作動させるため、およびデータを解析するためのソフトウエアを含む。
【0090】
(解析と結果)
187個の癌関連遺伝子および5個の参照用遺伝子について腫瘍組織を解析した。十分なRT−PCRプロフィールが、252人の患者のうち242人から得られた。各患者あたり平均して7つの参照用遺伝子に基づいて、その患者ごとに限界サイクル(CT)値を正規化した。登録データおよび選択された患者のチャートを検討することから、すべての患者について臨床転帰データを利用することができた。転帰を以下のように分類した:
発症あり:局所的、部分的、または遠位において乳癌を再発させつつ生存しているか、乳癌が原因で死亡した。
【0091】
発症なし:局所的、部分的、または遠位における乳癌を再発せずに生存しているか、反対側に乳癌を再発して生存しているか、乳癌ではない二次原発性癌を患いつつ生存しているか、または、乳癌を再発する前に死亡した。
【0092】
解析は、
A.正規化された遺伝子発現と、0または1という2進法的転帰との関係を判定すること、
B.乳癌を再発せずに生存している患者、または、乳癌以外の原因で死亡した患者が検閲された場合には、正規化された遺伝子発現と、転帰するまでの時間(上記したように0または1)との関係を解析することによって実施した。この方法を用いて、各遺伝子、また複数の遺伝子セットの予後への影響を評価した。
【0093】
(2進法的アプローチによる浸潤性乳癌患者の解析)
最初の(2進法的)方法において、242人の浸潤性乳癌患者のすべてについて解析を行った。10年後に再発なしおよび乳癌と無関係な死亡と分類されたか、または、10年後に再発もしくは乳癌に関係して死亡と分類された患者群に対してt検定を行ない、各遺伝子に対する群間の違いについてp値を計算した。
【0094】
表Iは、群間の差異に関するp値が0.05未満であった33の遺伝子を列挙したものである。平均発現値の1列目は、乳癌の転移によって再発したか、または乳癌によって死亡した患者に関する。平均発現値の2列目は、乳癌の転移による再発もなく、乳癌によって死亡したのでもない患者に関する。
【0095】
【表1】

上記表Iにおいて、マイナスのt値は、より高い発現を示していて、良好な転帰と関係があり、逆に、より高い(プラスの)t値は、不良な転帰と関係した発現が高い事を示している。したがって、例えば、CCNB1遺伝子の発現が上昇すること(t−値=3.02;CT平均生存率<CT平均死亡率)は、無病生存の可能性が低くなることを示している。同様に、GSTM1遺伝子の発現が上昇すること(t−値=−3.56;CT平均生存率>CT平均死亡率)は、無病生存の可能性が高くなることを示している。
【0096】
このように、表1に示したデータによれば、乳癌における以下の遺伝子のいずれかの発現は、癌を再発せずに生存する可能性が低いことを示している:C20_orfl;CCNB1;CDC20;CDH1;CTSL2;EpCAM;GRB7;HER2;KNSL2;LMNB1;MCM2;MMP9;MYBL2;NEK2;PCNA;PREP;PTTG1;STMY3;SURV;TS;MELK。
【0097】
表1に示したデータによれば、乳癌における以下の遺伝子のいずれかの発現は、癌を再発せずに生存する良好な予後を示している:BAG1;Bカテニン;CEGP1;CIAP1;cMYC;DKFZp586M07;EstR1;GSTM1;GSTM3;ID1;ITGA7;およびPR。
【0098】
(複数の遺伝子の解析および転帰の指標)
複数の遺伝子を用いることで、転帰をよりよく区別できるか否かを判断するために2つの方法を採り上げた。まず、変数増加工程ワイズ法を用いて判別分析を行った。どの単一遺伝子単独で得られたよりも高い判別を示す転帰を分類したモデルを作成した。第2の方法(時間−発症法)によって、各遺伝子について、Coxの比例ハザード(Cox Proportional Hazards)モデル(例えば、Cox,D.R.,and Oakes,D.(1984),Analysis of Survival Date,Chapman and Hall,London,New York参照)を、再発または死亡までの時間によって従属変数として、また、該遺伝子の発現レベルを独立変数として定義した。Coxモデルにおいてp−値が0.05未満である遺伝子を同定した。各遺伝子について、Coxモデルは、該遺伝子の発現の単位変化(unit change)について、再発または死亡の相対的リスク(RR)を提供する。測定された発現の閾値で(CT目盛りによって)、患者を選択して下位群に分配することができるが、その場合、その遺伝子が不良な予後(RR>1.01)または良好な予後(RR<1.01)のいずれの指標であるかによって、閾値よりも高い発現値をもつ患者はすべてリスクが高くなり、閾値よりも低い発現値をもつ患者はすべてリスクが低くなるか、または、その逆である。したがって、どの閾値によっても、それぞれ高いリスクか低いリスクをもつ患者の下位群を規定できる。結果を表2にまとめてあるが、表は、群間の差異に対するp値が0.05未満であった42の遺伝子を列挙している。
【0099】
【表2】

表2に示したデータによれば、乳癌における以下の遺伝子のいずれかの発現は、癌を再発せずに生存する可能性が低いことを示している:GRB7;SURV;LMNB1;MYBL2;HER2;MELK;C20_orfl;PTTG1;BUB1;CDC20;CCNB1;STMY3;KNSL2;CTSL2;MCM2;NEK2;Ki_67;CCNE2;TOP2A_4;PCNA;PREP;FOXM1;NME1;STK15;HNRPAB;MMP9;TS;Src;MMP12;TFRC。
【0100】
表2に示したデータによれば、乳癌における以下の遺伝子のいずれかの発現は、癌を再発せずに生存する良好な予後を示している:PR;GSTMI;DR5;CEGP1;BAG1;EstRl;DKFZp586M07;BIN1;NP009;RPLPO;GSTM3;IGF1R。
【0101】
2進法的解析法および時間−発症解析法は、いくつか例外はあるが、同じ遺伝子を予後マーカーとして同定した。例えば、表1および2を比較すると、10個の遺伝子が、両方の表で上位15の遺伝子に現れている。さらに、両方の解析法で、同じ遺伝子が[p<0.10]で同定された場合(26の遺伝子で同定されている)、それらは常に、生存/再発との相関関係の方向性(プラスのサインかマイナスのサインか)についても一致していた。全体的に、これらの結果は、同定されたマーカーが、重要な予後的価値を有するという結論を強めている。
【0102】
(浸潤性乳癌患者242人の多変量遺伝子解析法)
2つ以上の遺伝子を含むCoxモデル(多変量モデル)のために、各個別の遺伝子を段階的にモデルの中に組み込ませることを行ったが、ここで、最初に入れた遺伝子は、有意な一変量p−値をもつ遺伝子の中から予め選択されており、各後続工程においてモデルに入れ込むために選ばれた遺伝子は、そのモデルのデータへの適合性をもっとも高める遺伝子である。この解析は、どのような遺伝子総数であっても行うことができる。結果を以下に示す解析法において、段階的入力は、最大10遺伝子についてまで行った。
【0103】
以下の等式を用いて多変量解析を行った;RR=exp[coef(A遺伝子)×Ct(A遺伝子)+coef(B遺伝子)×Ct(B遺伝子)+coef(C遺伝子)×Ct(C遺伝子)+............]。
【0104】
この等式において、良好な転帰を予測する因子となる遺伝子の係数は正の数であり、不良な転帰を予測する因子となる遺伝子の係数は負の数である。この等式における「Ct」値はΔCtsであって、すなわち、ある集団に対する正規化されたCt値の平均と、問題となっている患者について測定した正規化Ctとの間の差異を反映している。本解析法で用いられる規則は、集団の平均値よりも低いΔCtsと高いΔCtsが、それぞれ、(mRNAの量の多寡を反映して)正のサインと負のサインを示すということであった。この等式を解いて計算された相対的リスク(RR)は、患者が、癌を再発せずに長期間生存する機会が大きくなるか低くなるかを示す。
【0105】
Coxの比例ハザードモデルを用いた多変量段階解析法を、浸潤性乳癌の患者242人すべてについて得られた遺伝子発現データに対して行った。以下の10遺伝子セットが、この解析法によって、患者の生存について特に強い予測的価値をもつと同定されている:GRB7;LMNB1;ER;STMY3;KLK10;PR;KRT5;FGFR1;MCM6;SNRPF。この遺伝子セットにおいて、ER;PR;KRT5およびMCM6は良好な予後に寄与するが、GRB7;LMNB1;STMY3;KLK10;FGFR1およびSNRPFは不良な予後に寄与する。
【0106】
何が具体的な実施態様であるとみなされるかに言及しながら、本発明を説明してきたが、本発明が、そのような実施態様に限定されるものでないことは当然である。逆に、本発明は、添付の請求項の精神と範囲に含まれるさまざまな改変や同等なものを含むものである。例えば、開示は、さまざまな乳癌関連遺伝子および遺伝子セットと、乳癌の個人別の予後に焦点を絞っているが、他の型の癌に関する遺伝子、遺伝子セットおよび方法も、具体的に本明細書の範囲に含まれる。特に、本発明の遺伝子セットまたはそれらの変異体を、卵巣癌の症例において長期間生存または再発の可能性を予測するための予後マーカーとして利用することもできる。
【0107】
本開示全体にわたって引用された文献はすべて、参照することにより明らかに本明細書に組み込まれる。
【0108】
【表3−1】

【0109】
【表3−2】

【0110】
【表4−1】

【0111】
【表4−2】

【0112】
【表4−3】

【0113】
【表4−4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌患者が癌を再発せずに長期間生存する可能性を予測する方法であって、該患者から採取した癌細胞における1種類以上の予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを、該癌細胞におけるすべてのRNA転写産物またはそれらの産物の発現レベル、あるいはRNA転写産物またはそれらの発現産物の参照用セットの発現レベルに対して正規化して決定する工程を含み、該予後RNA転写産物が、B_カテニン;BAG1;BIN1;BUB1;C20_orfl;CCNB1;CCNE2;CDC20;CDH1;CEGP1;CIAP1;cMYC;CTSL2;DKFZp586M07;DR5;EpCAM;EstR1;FOXM1;GRB7;GSTM1;GSTM3;HER2;HNRPAB;ID1;IGF1R;ITGA7;Ki_67;KNSL2;LMNB1;MCM2;MELK;MMP12;MMP9;MYBL2;NEK2;NME1;NPD009;PCNA;PR;PREP;PTTG1;RPLPO;Src;STK15;STMY3;SURV;TFRC;TOP2A;およびTSからなる群より選択される1つ以上の遺伝子の転写産物であり、
ここで、BUB1;C20_orfl;CCNB1;CCNE2;CDC20;CDH1;CTSL2;EpCAM;FOXM1;GRB7;HER2;HNRPAB;Ki_67;KNSL2;LMNB1;MCM2;MELK;MMP12;MMP9;MYBL2;NEK2;NME1;PCNA;PREP;PTTG1;Src;STK15;STMY3;SURV;TFRC;TOP2A;およびTSの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が低いことを示し、そして
BAG1;Bカテニン;BIN1;CEGP1;CIAP1;cMYC;DKFZp586M07;DR5;EstR1;GSTM1;GSTM3;ID1;IGF1R;ITGA7;NPD009;PR;およびRPLPOの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が高いことを示す、方法。
【請求項2】
少なくとも2つの前記予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも5つの前記予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも10の前記予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも15の予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記癌が乳癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記癌が、リンパ節陰性かつER陽性の乳癌である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記癌が卵巣癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
1つ以上の予後RNA転写産物の発現レベルが決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記RNAがイントロンRNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、MMP9、GSTM1、MELK、PR、DKFZp586M07、GSTM3、CDC20、CCNB1、STMY3、GRB7、MYBL2、CEGP1、SURV、LMNB1、CTSL2、PTTG1、BAG1、KNSL2、CIAP1、PREP、NEK2、EpCAM、PCNA、C20_orfl、ITGA7、ID1 B_カテニン、EstRl、CDH1、TS HER2、およびcMYCからなる群から選択される1つ以上の遺伝子の、1つ以上の予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程を含み、
ここで、C20_orfl;CCNB1;CDC20;CDH1;CTSL2;EpCAM;GRB7;HER2;KNSL2;LMNB1;MCM2;MMP9;MYBL2;NEK2;PCNA;PREP;PTTG1;STMY3;SURV;TS;およびMELKの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が低いことを示し、そして
BAG1;Bカテニン;CEGP1;CIAP1;cMYC;DKFZp586M07;EstR1;GSTM1;GSTM3;ID1;ITGA7;およびPRの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が高いことを示す、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、GRB7、SURV、PR、LMNB1、MYBL2、HER2、GSTM1、MELK、S20_orfl、PTTG1、BUB1、CDC20、CCNB1、STMY3、KNSL2、CTSL2、MCM2、NEK2、DR5、Ki_67、CCNE2、TOP2A、PCNA、PREP、FOXM1、NME1、CEGP1、BAG1、STK15、HNRPAB、EstR1、MMP9、DKFZp586M07、TS、Src、BIN1、NP009、RPLPO、GSTM3、MMP12、TFRC、およびIGF1Rからなる群から選択される1つ以上の遺伝子の、1つ以上の予後RNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程を含み、
ここで、GRB7;SURV;LMNB1;MYBL2;HER2;MELK;C20_orfl;PTTG1;BUB1;CDC20;CCNB1;STMY3;KNSL2;CTSL2;MCM2;NEK2;Ki_67;CCNE2;TOP2A_4;PCNA;PREP;FOXM1;NME1;STK15;HNRPAB;MMP9;TS;Src;MMP12;およびTFRCの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が低いことを示し、そして
PR;GSTM1;DR5;CEGP1;BAG1;EstRl;DKFZp586M07;BIN1;NP009;RPLPO;GSTM3;IGF1Rの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が高いことを示す、方法。
【請求項13】
癌患者が癌を再発せずに長期間生存する可能性を予測する方法であって、患者から採取した癌細胞における1種類以上の予後RNA転写産物または発現産物の発現レベルを、該癌細胞におけるすべてのRNA転写産物またはそれらの産物の発現レベル、あるいはRNA転写産物またはそれらの発現産物の参照用セットの発現レベルに対して正規化して決定する工程を含み、該予後RNA転写産物が、GRB7;LMNB1;ER;STMY3;KLK10;PR;KRT5;FGFR1;MCM6;SNRPFからなる群から選択される1つ以上の遺伝子の転写産物であり、
ここで、GRB7;LMNB1;STMY3;KLK10;FGFR1およびSNRPFの1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が低いことを示し、そしてER;PR;KRT5およびMCM6の1つ以上の発現が、癌を再発せずに長期間生存する可能性が高いことを示す、方法。
【請求項14】
前記RNAが、前記患者の固定したろう包埋乳癌組織標本から単離される、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記RNAが、針生検組織または細針吸引細胞から単離される、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
固体表面に固定された以下の遺伝子:B_カテニン;BAG1;BIN1;BUB1;C20_orfl;CCNB1;CCNE2;CDC20;CDH1;CEGP1;CIAP1;cMYC;CTSL2;DKFZp586M07;DR5;EpCAM;EstR1;FOXM1;GRB7;GSTM1;GSTM3;HER2;HNRPAB;ID1;IGF1R;ITGA7;Ki_67;KNSL2;LMNB1;MCM2;MELK;MMP12;MMP9;MYBL2;NEK2;NME1;NPD009;PCNA;PR;PREP;PTTG1;RPLPO;Src;STK15;STMY3;SURV;TFRC;TOP2A;およびTSの2つ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、アレイ。
【請求項17】
以下の遺伝子:MMP9、GSTM1、MELK、PR、DKFZp586M07、GSTM3、CDC20、CCNB1、STMY3、GRB7、MYBL2、CEGP1、SURV、LMNB1、CTSL2、PTTG1、BAG1、KNSL2、CIAP1、PREP、NEK2、EpCAM、PCNA、C20_orfl、ITGA7、ID1 B_カテニン、EstRl、CDH1、TS HER2、およびcMYCの2つ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項16に記載のアレイ。
【請求項18】
以下の遺伝子:GRB7、SURV、PR、LMNB1、MYBL2、HER2、GSTM1、MELK、S20_orfl、PTTG1、BUB1、CDC20、CCNB1、STMY3、KNSL2、CTSL2、MCM2、NEK2、DR5、Ki_67、CCNE2、TOP2A、PCNA、PREP、FOXM1、NME1、CEGP1、BAG1、STK15、HNRPAB、EstR1、MMP9、DKFZp586M07、TS、Src、BIN1、NP009、RPLPO、GSTM3、MMP12、TFRC、およびIGF1Rの2つ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項16に記載のアレイ。
【請求項19】
前記遺伝子の少なくとも3つにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項16に記載のアレイ。
【請求項20】
前記遺伝子の少なくとも5つにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項16に記載のアレイ。
【請求項21】
前記遺伝子の少なくとも10にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項16に記載のアレイ。
【請求項22】
前記遺伝子のすべてにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項16に記載のアレイ。
【請求項23】
同一の遺伝子にハイブリダイズする1つより多くのポリヌクレオチドを含む、請求項16に記載のアレイ。
【請求項24】
前記ポリヌクレオチドがcDNAである、請求項16に記載のアレイ。
【請求項25】
前記cDNAが、約500から5000塩基長である、請求項24に記載のアレイ。
【請求項26】
前記ポリヌクレオチドがオリゴヌクレオチドである、請求項16に記載のアレイ。
【請求項27】
前記オリゴヌクレオチドが約20から80塩基長である、請求項26に記載のアレイ。
【請求項28】
前記固体表面がガラスである、請求項16に記載のアレイ。
【請求項29】
約330,000個のオリゴヌクレオチドを含む、請求項16に記載のアレイ。
【請求項30】
前記アレイが、イントロンベースのポリヌクレオチド配列を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項31】
浸潤性乳癌と診断された患者が乳癌を再発せずに長期間生存する可能性を予測する方法であって、
(a)該患者から採取した乳癌細胞における、B_カテニン;BAG1;BIN1;BUB1;C20_orfl;CCNB1;CCNE2;CDC20;CDH1;CEGP1;CIAP1;cMYC;CTSL2;DKFZp586M07;DR5;EpCAM;EstR1;FOXM1;GRB7;GSTM1;GSTM3;HER2;HNRPAB;ID1;IGF1R;ITGA7;Ki_67;KNSL2;LMNB1;MCM2;MELK;MMP12;MMP9;MYBL2;NEK2;NME1;NPD009;PCNA;PR;PREP;PTTG1;RPLPO;Src;STK15;STMY3;SURV;TFRC;TOP2A;およびTSからなる群より選択される遺伝子セットの、遺伝子のRNA転写産物または発現産物の発現レベルを、該乳癌細胞におけるすべてのRNA転写産物またはそれらの発現産物の発現レベル、あるいはRNA転写産物またはそれらの発現産物の参照用セットの発現レベルに対して正規化して決定する工程;
(b)工程(a)で得られたデータを統計分析に供する工程;ならびに
(c)該長期間生存する可能性が高いかまたは低いかを決定する工程
を含む、方法。
【請求項32】
患者に対して個別のゲノムプロフィールを作成する方法であって、
(a)該患者から採取した乳房組織から抽出されたRNAを遺伝子発現分析に供する工程;
(b)表1および2のいずれかに列挙されている乳癌遺伝子セットから選択された1つ以上の遺伝子の組織における発現レベルを決定する工程であって、該発現レベルが、コントロール遺伝子に対して正規化され、必要に応じて、乳癌参照用組織セットに見られる量と比較される、工程;ならびに
(c)該遺伝子発現分析によって得られるデータをまとめた報告を作成する工程
を含む方法。
【請求項33】
前記乳房組織が乳癌細胞を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記乳房組織が、固定したパラフィン包埋生検サンプルから採取される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記RNAが断片化している、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記報告が、前記患者の長期間生存の可能性の予測を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記報告が、前記患者の治療様式についての提言を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
表1および2に列挙される遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅するための方法であって、表3に列挙される単位複製配列および表4A−4Dに列挙されるプライマー−プローブのセットを用いて該PCRを行う工程を含む、方法。
【請求項39】
表4A−4Dに列挙される、PCRプライマー−プローブのセット。
【請求項40】
表3に列挙される、PCR単位複製配列。

【公表番号】特表2007−521005(P2007−521005A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517415(P2006−517415)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/019567
【国際公開番号】WO2005/039382
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(504345126)ジェノミック ヘルス, インコーポレイテッド (17)
【Fターム(参考)】