説明

癌感受性のスクリーニングにおける使用のためのチミジル酸合成酵素多型

本発明は、チミジル酸合成酵素(TS)遺伝子の単離された5’タンデムリピート内における新規単一ヌクレオチド多型(SNP)およびその使用のための方法を開示する。TS遺伝子の28bpの3番目のリピート(3R)の12番目のヌクレオチドに位置する新規SNPは、GをCに置換しており、前記リピートのバリアント形態である。野生型形態の3Rを有する対象は、バリアント形態を有する対象よりもTS遺伝子のより大きな転写を有している。本発明はまた、TSの3’領域の6塩基対欠失(-6 bp/1494)がmRNAの不安定性を表し、したがってTSの産生を減少させることを明らかにする。癌などの疾患組織においては、TSの減少した産生が、癌細胞が増殖し拡散することを抑制するので、有益である。両方の病気が対象においてTSレベルに関係しているので、いずれかの多型または一緒に両者を解析することにより、化学療法的処置および抗循環器疾患処置に対する対象の反応を予測することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2002年10月21日に出願された、「チミジル酸合成酵素遺伝子のタンデムリピートにおける新規単一ヌクレオチド多型はUSF-1の結合および転写活性を変化させる(A Novel Single Nucleotide Polymorphism in the Tandem Repeats of the Thymidylate Synthase Gene Alters USF1 Binding and Transcriptional Activation)」と題する米国仮出願No.60/420,164の一部継続出願であり、この出願は参照によりその全体において本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、医学的遺伝子学の分野および病気感受性のスクリーニングに関する。具体的には、本発明は、チミジル酸合成酵素(TS)遺伝子の5’領域における単一ヌクレオチド多型の同定、予測的使用および治療的使用に関する。前記多型は、TS遺伝子の転写活性を表し、関連的に癌および循環器疾患のリスクを表す。本発明はまた、TSの3’非翻訳領域において見出される6塩基対多型の予測的使用および治療的使用ならびにスクリーニング方法に関する。
【0003】
発明の背景
チミジル酸合成酵素(TS)は、還元的メチル化を介したdUTPをdTMPに変換するヌクレオチド生合成経路における重要な酵素である。TS反応は、細胞におけるデノボ(de novo)チミジル酸の唯一の供給源であり、したがって、DNA複製に必須である(Friedkin, et al., 1957; Heidelberger et al., 1957; Santi et al., 1984)。ヌクレオチド代謝におけるTSの重要な役割は、それを5−フルオロウラシル(5-FU)、ラルチトレキセド(Tomudex)、カペシタビン(Xeloda)およびペメトレキセド(Alimta)を含む種々の化学療法剤に対する共通の標的にすることであった(Danenberg, 1977; Papamichael, 1999)。
【0004】
これら薬剤によるTSの阻害は、チミン欠乏死(thymineless death)を惹起するdTTPプールの枯渇により誘発される細胞毒性を引き起こし(Houghton, 1999)、そしていくつかの場合にはDNAへのウラシルの誤取り込み(misincorporation)を起こし(Aherne, 1999; Ladner, 2001)、これはウラシル−DNA−グリコシラーゼの作用を介して修復不能な鎖破壊を引き起こす。
ヒト癌の処置におけるTS阻害剤の限定的な有効性は、一般的な現象であった。フルオロピリミジンに対する耐性は、TSの転写(Shibata et al. 1998)および翻訳(Kaneda, et al., 1987; Keyomarsi et al., 1993)の増加を含む種々のメカニズムを介して生じる。
【0005】
TS、循環器疾患(CVD)および他の障害の間の関係に関しては、TSおよびメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)と呼ばれる酵素が、ホモシステインの再メチル化に必要な葉酸の限られた供給に対して競合する(Trinh, 2002)。血漿の低葉酸レベルおよび高ホモシステインレベルは、独立かつ共同的にCVDの増加したリスクと相関する。特に、上昇した血漿ホモシステインは、閉塞性血管疾患、静脈血栓症、神経管障害および妊娠合併症に対する既知の危険因子である。
【0006】
28塩基対のタンデムリピートからなる、TS遺伝子の5’非翻訳領域内の多型は、TS mRNAの発現調節(Kanda, et al., 1987; Horie et al., 1995)およびTS mRNAの翻訳効率(Kawakami, et al., 2001)に関与している。あるアフリカ人およびアジア人集団においては4、5および9個のリピートが報告されているが(Marsh et al., 1999; Marsh et al., 2000; Luo et al., 2002)、個々のヒトTSアレルの大多数はダブルリピート(2R)またはトリプルリピート(3R)のいずれかを有し、この多型は2R/2R、2R/3Rおよび3R/3Rの遺伝子型をつくっている。3Rのホモ接合体である個体は、2Rホモ接合体と比較して、上昇した腫瘍内のTS mRNAレベル(Pullarkat et al., 2001)およびTSタンパク質レベル(Kawakami, et al., 1999)を有することが発見された。
【0007】
加えて、TS遺伝子の5’タンデムリピート多型は、アジュバント療法および転移療法(metastatic settinng)の両方において、5−FUに基づく化学療法に対する臨床的予後の予測因子として同定され(Pullarkat et al., 2001; Villafranca et al., 2001; Marsh et al., 2001; Iacopetta et al., 2001)、さらに急性リンパ性白血病のリスクおよび予後の予測に関連する(Krajinovic et al., 2002; Skibola et al., 2002)。またタンデムリピートは、血漿の葉酸レベルおよびホモシステインレベル(Trinh et al., 2002)ならびに結腸直腸腺腫のリスク(Ulrich et al., Cancer Res., 2002)を予測することも示されている。
【0008】
5’タンデムリピートのみをスクリーニングすることは有望であることが示されているが、より精密で包括的なスクリーニングの必要が保証されている。特に、既に有用な試験に加えられてもよい新規の機能的多型の同定は、それら試験の予測値を増加させるのに役立ち得る。互いに併用していくつかの多型を試験することは、癌またはCVDに対する個人のリスクおよび病気に対する既知の処置のその個人の反応を判断する予測値をさらに増加させ得る。
【0009】
USF-1およびUSF-2(上流の刺激因子)は、cMycに類似しているへリックス−ループ−へリックス(helix-loop-helix)ドメインを有する転写制御因子のファミリーに属し、大部分が細胞内でヘテロダイマーとして一緒になっていることが見出されている(Sirito, et al., 1992; Viollet et al., 1996)。E−ボックス(E-box)は、へリックス−ループ−へリックスUSF転写アクティベーターファミリーのタンパク質に対するコンセンサスエレメント(consensus element)である(Singh et al., 1994; Kiermaier et al., 1999; Luo et al., 1996; Ferre-D'Amare et al., 1994)。USF-1のE−ボックス(CANNTG)コンセンサス配列に対するDNA結合活性は、cdc2/p34(Cheung et al., 1999)およびストレス応答性p38キナーゼ(Galibert et al., 2001)によるリン酸化を介して制御されている。これらのキナーゼによるUSF-1のリン酸化は、通常の条件およびストレスの多い条件下においてそれぞれUSF-1の転写活性を活性化することが示されている。
【0010】
そのDNA結合活性を介して、USF-1は、p53(Reisman et al.,1993)および大腸腺腫性ポリポーシス(Adenomatous Plyposis Coli)(APC)タンパク質(Jaiswal, et al., 2001)を含む種々の遺伝子をトランス活性化(transactivate)することが示されている。USF-1およびUSF-2の両者は、遍在的に発現する因子であると考えられてきたが、近年の証拠は、USF-1およびUSF-2がいくつかの癌細胞において異なって制御されることを示唆している(Ismail et al., 1999)。この異なった制御は、USF-1/USF-2複合体が適切に形成し機能する能力に影響を及ぼしているかもしれない。
【0011】
TS mRNAのヌクレオチド1494において配列TTAAAGの6bpの欠失からなる、TS遺伝子内の他の多型(「-6 bp/1494」)は、公開されている発現配列タグ(Expressed Sequence Tag)(EST)データベースを検索することにより最近発見された(Ulrich, 2000)。この共通の多型はまた、TS一次転写産物(primary TS transcript)の3’UTRにも転写される。TSの3’UTRについてはほとんど知られていない。3’UTRは、主にmRNAの安定性および/または翻訳効率の制御を介して転写後制御因子(post-transcriptional regulator)として機能し、mRNAの全体的な運命において重要な役割を果たすと考えられている(Grzybowska, 2001)。伝統的に、3’UTRの機能は、ステムループ(stem loop)構造などのmRNAの2次構造的エレメントに主に支配されると考えられてきた。
【0012】
このことは正しいままであるが、最近の証拠は、配列特異的にRNA結合制御タンパク質と相互作用する、3’UTR内のシス結合(cis-binding)配列エレメントの増加する数を示している。事実、性質がよく明らかにされているmRNAのいくつかの制御は、一部、3’UTR内のシス結合配列に依存することが示されている。例えば、COX-2およびp21WAF1 のmRNAの3’UTRは、これらの転写産物の適切な転写後制御に必須であることが示されている(Cok, 2001; Giles, 2003)。さらに、他のmRNAの3’UTRにおける多型は、全体的な遺伝子発現に機能的に影響を及ぼすことが示されている。葉酸の代謝に関与する重要な酵素をコードするジヒドロ葉酸還元酵素mRNAの3’UTRにおける多型は、mRNAの転写後制御の支配および遺伝子発現の全体的な制御において機能的な役割を果たしている(Goto, 2001)。
【0013】
これまでのところ、5’タンデムリピート多型が転写を増加させる分子メカニズムは未だ明らかになっていない。さらに、前記リピートのヌクレオチド配列における相違が、転写および転写後の事象において機能的な役割を果たすとは考えられていなかった。多型領域内の結合およびTS mRNA発現の増加に関与する制御因子を同定することは、当分野における有意義な改善となるであろう。この改善は、なぜ3Rリピートが2Rに比べて増加したTS転写を示すのかを理解させるであろう。そして、それは、その機能的な相違の診断的および治療的使用を、TS経路に関連する癌やCVDなどの病気のリスクを有する患者を同定し、処置することができるようにし、有意に改善されかつ標的化された処置をもたらすであろう。
【0014】
加えて、TS mRNAの3’UTRは、転写後制御において機能的役割を果たすというようなこの点については詳細に研究されていない。さらに、-6 bp/1494欠失多型がTS mRNAの制御に影響を及ぼし得る分子メカニズムは未だ明らかにされていない。TS mRNAの転写後制御に関与し得るTS 3’UTR内の領域を特徴づけること、そして欠失多型がTS mRNA制御に影響を及ぼすメカニズムを同定することは、この分野において有意義な発見となるであろう。6塩基対多型がTS RNAの3’UTRにおいて有する効果を明らかにすることは、個体のTSレベルを予測するためのさらなるスクリーニングを提供する。それはまた、TSの産生または機能の阻害を対象とした、癌治療を含む標的化された臨床的治療の成功の機会を改善する。
【0015】
発明の概要
本発明の1番目の側面は、USF複合体の結合およびトランス活性化能を決定する、そして調べた集団において高頻度に生じる、3番目のタンデムリピート内の新規単一ヌクレオチド多型を同定する。臨床データは、タンデムリピート多型(3RV)と組み合わせたGからCへのSNPのスクリーニングが、癌の処置、特に5-FU/LVに対する反応性と生存の予測において、タンデムリピートの重要性を増加させることを示している。2つの均一な3Rコピーを有する個体は、反応性が最も悪い。3RVコピーは、癌および/またはCVDのための処置に対する反応性を増加させる。
【0016】
本発明のさらなる側面は、USF-1およびUSF-2が、TS 5’制御領域のタンデムリピート多型内に結合する因子として同定される。
本発明の3番目の側面は、USF-1が、2R、3Rおよび3RV TSレポーター遺伝子コンストラクトの転写をルシフェラーゼアッセイ系において増加させること、そして、TS転写活性における2Rまたは3R遺伝子型の影響が、究極的にUSF結合部位の存在または不存在に関連することを示す。
【0017】
さらに本発明の他の側面は、5’タンデムリピート多型のみ、3’-6 bp/1494多型のみと併用して、あるいは前記TS多型の両者を互いに併用して用いて、TS SNP多型を調べることにより、癌および/または循環器のリスクをスクリーニングするための診断キットを包含する。このスクリーニングは、その個体に存在する多型または多型の組合せを調べるために、個体の遺伝子材料を用いる。本診断キットは、1または2以上の関連する診断プライマーもしくはプローブおよび/または本発明のアレル特異的オリゴヌクレオチドプライマーを含む。本キットはまた、パッケージ、バイアルおよびチューブ、使用のための取り扱い説明書、バッファー、ポリメラーゼ、および/または他の反応成分を含んでいてもよい。
【0018】
他の側面においては、本発明の診断方法は、癌および/またはCVDを個体が発症する可能性を予測するために用いられる。関連して、多型のスクリーニングは単独でまたは組み合わせて、高処理能力スクリーニング(high throughput screening)(HTS)を用いることにより、癌および循環器関連疾患の処置における治療化合物の有効性を予測することができる。このHTSは、迅速かつ効率的に多数の患者を癌および/または循環器のリスクについてスクリーニングする。例えば、個体がより低いTSの転写率を有する場合には、その人は、腫瘍を発生する可能性がより少なく、そして現在存在する腫瘍と対抗する/腫瘍を縮小させるよりよい可能性を有する傾向にある。
【0019】
本発明の関連する側面は、患者に最も適した特定の薬剤を用いた治療を同定するための、TS SNPおよびタンデムリピートおよび/または-6bp/1494多型の薬理遺伝学的使用、ならびに、薬剤選択プロセスを助けるための、薬学的研究におけるTS SNPの使用に関する。
本発明の他の目的は、連鎖解析および疾患関連研究のための有用な標的を提供することである。
さらに、他の目的は、CVDおよび癌の検出において有用な新規分子診断マーカーを開発することである。
【0020】
本発明の他の側面は、TS遺伝子に関して所望の転写を引き起こす多型を生じさせる、遺伝子改変または置換の使用を含む。例えば、減少した活性が所望される場合には、TS遺伝子は、減少した転写および/または活性をもたらす配列を含むように操作される。
本発明の他の側面は、標的細胞におけるTS酵素の産生および/または活性を阻害することである。
【0021】
図面の簡単な説明
図1は、ヒトTS遺伝子の5’非翻訳領域内のタンデムリピート多型の配列図である。E−ボックスの位置が示されている。
図2は、HT29核抽出物のヒトTS遺伝子のタンデムリピート内のE−ボックス部位にUSFタンパク質が結合することを示すゲルである。
図3は、USF-1活性の異なる側面を示す4つのゲルの写真である。図3Aは、インビトロにおけるcdc2/p34による組み換えUSF-1のリン酸化を示す。図3Bは、リン酸化された組み換えUSF-1が、EMSAによるそのコンセンサス配列に結合することを示す。図3Cは、リン酸化USF-1が、E−ボックス部位を有するTSタンデムリピートに結合することを示す。最後に、図3Dは、USF-1が12番目のヌクレオチドにG→C塩基の改変を有するバリアント(variant)TSタンデムリピートに結合しないことを示す。
【0022】
図4は、ChIPアッセイの結果であり、USF-1およびUSF-2がインビボにおいてTS5’UTRに結合することを示している。
図5Aは、TSルシフェラーゼレポーターコンストラクトの構造の図である。図5Bは、USF-1によるTS遺伝子プロモーターの活性化のレベルを示す棒グラフである。図6Aは、RFLP解析において生成するTSタンデムリピート断片のHaeIII制限酵素地図である。図6Bは、タンデムリピートおよびG→CSNPのスクリーニングに用いられる制限酵素断片長多型(restriction fragment length polymorphism)(RFLP)解析の結果である。
【0023】
図7は、TSの3’UTRが、転写の不安定性および翻訳サイレンシング(silencing)のエレメントを含まないことを示す。図7Aは、TS 3’UTRの近位および遠位末端の欠失を有するキメラルシフェラーゼレポーターコンストラクトの構造を示す。TS 3’UTR配列は、ルシフェラーゼコーディング領域およびポリ(A)シグナルの間に挿入された。転写は、全てのコンストラクトにおいてSV40プロモーターにより制御された。ルシフェラーゼ遺伝子を白いバーで表し、TS 3’UTR領域を黒いバーで示す。数字は、挿入されたTS 3’UTRの領域を表し、番号を付すのはTSの停止コドンの直後から始まっている。
【0024】
図7Bは、TS 3’UTRレポーターコンストラクトの活性およびmRNAレベルを示す。ルシフェラーゼ活性(黒いバー)は、β−ガラクトシダーゼ活性で標準化されており、空のpGL3コントロールベクターからの活性のパーセンテージとして表されている。ルシフェラーゼmRNAレベル(白いバー)は、内部GAPDH mRNAレベルで標準化されており、空のpGL3コントロールベクターのmRNAレベルのパーセンテージとして表されている。全ての結果は、それぞれデュプリケート(duplicate)で測定された独立した3回の実験についての平均値+S.E.である。a=pGL3コントロールに対して有意差あり(p<0.005);b=pGL3コントロールに対して有意差あり(p<0.05)
【0025】
図8は、-6 bp/1494欠失多型が、+6 bp/1494コンストラクトに比べて、ルシフェラーゼ活性およびメッセージレベルの減少を引き起こすことを示す。図8Aは、+6 bp/1494の挿入もしくはTS -6 bp/1494欠失多型のいずれかを含む、3’UTRの近位末端の欠失を有するキメラルシフェラーゼレポーターコンストラクトの構造を示す。欠失多型は、TS 3’UTRのヌクレオチド456に存在する。TS 3’UTR配列は、ルシフェラーゼコーディング領域およびポリ(A)シグナルの間に挿入された。転写は、全てのコンストラクトにおいてSV40プロモーターにより制御された。ルシフェラーゼ遺伝子を白いバーで表し、TS 3’UTR領域を黒いバーで示す(ギャップ(gap)は-6 bp/1494欠失多型を表す)。数字は、挿入されたTS 3’UTRの領域を表し、番号を付すのはTSの停止末端コドンの直後から始まっている。括弧は、比較されるべき対応するコンストラクトを表し、+および−は、コンストラクトが+6 bp/1494または-6 bp/1494多型のいずれを含むかを表す。
【0026】
図8Bは、TS 3’UTRレポーターコンストラクトの活性およびmRNAレベルを示す。ルシフェラーゼ活性(黒いバー)は、β−ガラクトシダーゼ活性で標準化されており、空のpGL3コントロールベクターからの活性のパーセンテージとして表されている。ルシフェラーゼmRNAレベル(白いバー)は、内部GAPDH mRNAレベルで標準化されており、空のpGL3コントロールベクターのmRNAレベルのパーセンテージとして表されている。括弧は、比較されるべき対応するコンストラクトを表し、+および−は、コンストラクトが+6 bp/1494または-6 bp/1494多型のいずれを含むかを表す。全ての結果は、それぞれデュプリケートで測定された独立した3回の実験についての平均値+S.E.である。a=pGL3コントロールに対して有意差あり(p<0.005);b=pGL3コントロールに対して有意差あり(p<0.05);c=各+6 bp/1494対応物(counterpart)に対して有意差あり(p<0.005);d=各+6 bp/1494対応物に対して有意差あり(p<0.05)。挿入図は、2%アガロースゲルで電気泳動されたキメラメッセージの代表的なRT-PCRを示す。内部GAPDHコントロール(510 bp)PCRは、ルシフェラーゼ(97 bp)PCRと同一反応中でおこなった。
【0027】
図9は、-6 bp/1494欠失多型が減少したmRNA安定性をもたらすことを示す。293細胞にレポーター遺伝子コンストラクトをトランスフェクトし、トランスフェクションの24時間後にアクノマイシンD(最終濃度10μg/ml)で処理した。全RNAを6時間にわたり種々の時点で抽出し、逆転写し、そしてセミ定量PCRによりルシフェラーゼおよびGAPDHレベルについてアッセイした。ルシフェラーゼmRNAレベルはGAPDHメッセージに対して標準化し、0時間の時点で存在するmRNAのパーセンテージとして表す。全ての実験および時点は、デュプリケートで行われた3回の実験の結果である。アスタリスク(*)は、-6 bp/1494コンストラクトのメッセージレベルが2、4および6時間の時点でその+6 bp/1494対応物に対して有意差(p<0.05)があったことを示している。
【0028】
発明の詳細な説明
I.総括
本発明の1番目の側面は、チミジル酸合成酵素の単一ヌクレオチド多型(TS SNP)を含む単離された核酸、ならびにそれに対するプローブおよびプライマーの発見である。「単離された」とは、天然には存在しないことを意味する。「単離された核酸」とは、それが由来する臓器の天然に存在するゲノムにおいて存在する場合には、正常にすぐに隣接している5’および3’フランキング配列に、すぐに隣接していない核酸を意味する。「単離された核酸」は、ベクターに組み込まれ、異種細胞のゲノムに組み込まれ、または分離した分子として存在する核酸を表してもよい。この語句はまた、融合タンパク質を産生するために用いられ得る付加的なポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部を形成する、組み換え核酸を表してもよい。したがって、単離されたTS SNP核酸は、これらの形態のいずれをとってもよい。
【0029】
さらに、TS 5’SNPおよび/または3’-6 bp/1494多型に対するプローブおよびプライマーを作製し利用することができる。TS SNPに対するプローブは、そのプローブが、TS SNPを含むTSタンデムリピートのバリアント形態に対してのみ結合するように作製することができる。3’-6 bp/1494多型に対するプローブは、野生型の形態(+6 bp/1494)のみに結合するかまたは多型のバリアント形態(-6 bp/1494)のみに結合するように作製することができる。精製された核酸または精製されていない核酸の一部のいずれに結合することができてもよいプローブは、TS遺伝子を含む、またはより特異的に目的とするTS遺伝子の多型部分を含む場合には、用いられ得る。核酸は、一本鎖または二本鎖のDNAもしくはメッセンジャーRNAを含むRNAであってもよい。
【0030】
プローブとは、目的遺伝子または目的配列に対応するDNAまたはRNAの一部をいう語である。本明細書においては、目的配列は、TS遺伝子の5’領域における3番目のタンデムリピートまたはTSの3’非翻訳領域である。1番目のプローブは、目的とする単離された核酸の配列に相補的な配列を有し、タンデムリピートのバリアント形態に選択的に結合するがタンデムリピートの野生型の形態には結合しない。2番目のプローブは、目的とする単離された核酸の配列に相補的な配列を有し、TSの3’UTRの選択された形態に選択的に結合するが、他の形態には結合しない。好ましくは、プローブは簡易な検出のためにラベルされている。例えばビオチン、ジゴキシゲニンまたはフルオレセインなどのラベル、およびプローブにこれらを結合させるための方法は、当分野において知られている。
【0031】
本発明の他の態様は、TS SNPおよび/または3’UTR多型を含む核酸に対するプライマーであり、これはプローブのように目的配列にハイブリダイズする。しかしながら、プライマーはまた、反応混合物中に遊離ヌクレオチド、ポリメラーゼおよび他の必要な試薬を加えることにより核酸配列を伸長させることができる。ハイブリダイゼーションとは、ストリンジェントな条件下において、ヌクレオチド配列に選択的に結合することを意味する。本明細書において、ストリンジェントな条件とは、バリアント3Rタンデムリピートには結合することができるが、野生型3Rタンデムリピートには結合できない条件、あるいはその逆である。3’UTR多型に関して、ストリンジェントな条件とは、多型の1つの形態には結合できるが、他の形態には結合できない条件である。
【0032】
プライマーは、典型的にはPCRなどの増幅プロセスにおいて用いられる。多型を含むTS遺伝子に対する領域のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅には、ヌクレオチド三リン酸(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)、重合試薬(plymerizing agent)、ならびに適切な温度、イオン強度およびpHが必要である。好ましくは、プライマーは、一本鎖であり、そして重合試薬を用いた伸長により合成するのに充分な長さである。オリゴヌクレオチドプライマーは、典型的には少なくとも8〜40ヌクレオチドを含むが、好ましくは12〜35ヌクレオチドを含有する。PCRは、核酸の一部の指数関数的増幅を可能にする。
【0033】
プライマーは、増幅される核酸に対して「実質的に」相補的であるべきであり、プライマーがその各鎖にハイブリダイズするのに充分に相補的であるべきであって、かつ増幅を生じることができることを意味する。プライマーは、慣用のまたは自動のホスホトリエステルおよびホスホジエステル法を用いて調製されてもよい。好ましくは、プライマーの伸長は、その各々がターミネータ(terminator)に含まれる塩基を識別する異なるラベルを用いてラベルされている、A、C、GおよびT/Uヌクレオチドターミネータの存在下で行われる。ヌクレオチドターミネータは、ヌクレオチドであるか、またはプライマーの伸長可能な末端に共有結合することができるが、さらなる伸長を行うことができないヌクレオチドである。好ましくは、ラベルは、4つの異なる発光波長を有する蛍光ラベルである。
【0034】
PCRは、プライマーと共に、核酸を変性させ、引き続いてポリメーラーゼもしくは他の酵素を用いた伸長を行うことにより開始され、その後、変性、プライマーのアニーリングおよび伸長のサイクルが繰り返し行われる。PCRのための特定の条件は、「実験」のセクションにおいて見出すことができ、または当分野において知られている。最終的に増幅されたTSの領域は、放射活性プローブを用いてまたは用いることなく、サザンブロットにより検出されてもよい。「領域」は、言及した特定のヌクレオチドから、数ヌクレオチド上流から数ヌクレオチド下流までの領域であり、そしてまた、サンプルDNAのアンチセンス鎖上において相補的なヌクレオチドを含む。非放射活性プローブは、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素を含む。増幅産物はまた、エチジウムブロマイドを含有するアガロースゲルを用いて分離することができる。
【0035】
関連して、プローブは、オリゴヌクレオチドがTS SNPおよび/または3’UTR多型を含む配列にハイブリダイズする核酸アレイ(array)の一部であってもよい。この態様においては、アレイの核酸分子標的は、固体担体に付着している。アレイが5’TS SNPをスクリーニングする場合には、アレイは、オリゴヌクレオチドが配列番号1からなる核酸分子に実質的にハイブリダイスしない条件下で、12番目の位置においてGがCに置換されているCCGCGCCACTTGGCCTGCCTCCGTCCCG [配列番号1]からなる核酸分子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む。アレイが3’UTR多型をスクリーニングする場合には、アレイは、多型の形態の1つを有する核酸分子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む。例えば、アレイは、+6 bp/1494領域を有する分子にはハイブリダイズするが、-6 bp/1494領域を有する分子にはハイブリダイズしないオリゴヌクレオチドを含んでいてもよい。またアレイは、その逆が当てはまるように設計されていてもよい:-6 bp/1494領域を有する分子にはハイブリダイズするが、+6 bp/1494領域を有する分子にはハイブリダイズしないオリゴヌクレオチド。アレイは、1つまたは複数の標的エレメントを有していてもよいが、本明細書において明らかにされる両方のTS標的に限定されない。
【0036】
本発明の異なる側面は、E−ボックスと呼ばれるタンデムリピートの重要な領域に結合する、上流の制御因子(USF-1およびUSF-2)に焦点を当てる。本発明は、USFエレメント自体の操作とその結合領域との両者を介した、これらUSFエレメントの結合の操作が意図されている。例えば、USFの結合はTSの転写を引き起こし、これは順番に癌および循環器疾患の増加したリスクを引き起こすため、USF結合エレメント自体が、結合しないように野生型USFエレメントの効率または頻度を変化させうる。この変化は、USFをコードする核酸の変異により、タンパク質の集合を阻害することにより、または集合後にUSFタンパク質の機能を変化させることにより、生じ得る。さらに、USFの結合を抑制するタンデムリピート配列のE−ボックスの変化、特に3番目のタンデムリピートの12番目のヌクレオチドにおけるGからCへの置換、はいずれも、意図されている。USF因子の結合を抑制するいかなる変化も、本発明の範囲内である。
【0037】
本発明の次の側面は、病気でない個体の疾患感受性および、薬剤選択を含む病気の個体に対する最適な疾患治療の経路を見出すために、5’領域における新規TS SNPおよび/または3’UTR多型を用いる方法に関する。さらに、意図される本方法は、分子マーカーとしてかつ連鎖解析のために多型を用いること、および、病気から生き残るまたは全く病気に罹患しない個体の可能性をより向上させるために遺伝子操作を用いることを含む。本発明において焦点が当てられる病気は、癌および循環器疾患であるが、本発明の方法は、チミジル酸合成酵素が関係する他の全ての病気に適用することができる。
【0038】
TS多型を同定するために、核酸を対象から抽出する必要がある。好ましくは、対象はヒトであり、核酸の供給源は血液である。しかしながら、リンパ液、だ液、尿、また他の体排泄物を含む、適切な核酸標本を含有する体液はいずれも意図されている。また、核酸は、軟組織、髪の毛、または骨に由来してもよい。ヒトから核酸を得て、ヒトが新規のTS SNPおよび/または3’UTR多型を有するかどうかを判断する方法が用いられる場合には、核酸は、この開示の全般にわたり議論されているPCRなどの、遺伝子分野においてよく知られた方法を用いて増幅され、そして配列決定されることが好ましい。本発明の他の好ましい態様は、同時に多数のサンプルを試験するために、高処理能力スクリーニング法を用いる。典型的には、高処理能力スクリーニングにおいては、試験される核酸分子は、マイクロタイターデイッシュなどの固体担体に結合しており、増幅およびラベルされ、そして、結果をかかる用途に用いられる機械により読む。
【0039】
TS SNPおよび/または3’UTR多型がスクリーニングされ、特定の患者において同定されるかまたは存在しないことが判明した場合には、本発明の他の方法は、患者が化学療法剤および/または抗CVD剤に対する優れた候補となるかどうかの目安を提供する、予測および診断する方法である。より低いTS転写率を有する患者と比較して、TS転写の高いレベルがより短い生存率に関連することが発見されている(Ulrich et al., 2002)。TSと循環器疾患の関係に関しては、TSと5,10−メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素とが、血液中で検出されるアミノ酸であるホモシステインの再メチル化に必要な、限られた葉酸の供給に対して競合する。上昇したホモシステインのレベルは、CVDの増加したリスクにある患者を同定するのに用いられる(Trinh et al., 2002)。したがって、TSと癌ならびに、独立してTSとCVDとの間の関係により、本TS SNPは、(1)特定の個体が癌またはCVDを発症する可能性、(2)関連する疾患の潜在的な重篤度、および(3)特定のTS遺伝子の形態により有効な処置についてのスクリーニングのための有用な道具となる。
【0040】
例えば、患者がTS遺伝子の3R野生型形態を2コピー有する場合には(3R/3R)、アレルあたり2つのUSF E−ボックスがあり、その人におけるTSの転写は、3R/3RV、2R/2R、2R/3Rまたは、2R/3RV TSアレルを有する人よりもより高くなる可能性がある。そして、医師は、TSの発現が高いことがわかっているその人に対する有効な治療を設計しようと試みる。有効な治療は、TSの発現を減少させるためにTS遺伝子を標的とすること、および/または、産生されるTSの高いレベルを相殺するために病気の他の側面を標的とすることを含んでもよい。患者をスクリーニングし、TSの転写が高いレベルでないことが判明した場合には、医師は、高いTSの転写を有さない患者においては極めて高い成功率を有する、従来の治療を行うことを決定してもよい。TS SNPの存在は、タンデムリピートの余分なコピーがより高いTS転写活性を与えることを意味しないので、タンデムリピートの知識を併用して、TS SNPの存在または不存在を用いる多くの可能な方法がある。したがって、当業者は、より良く、遺伝学的に人をスクリーニングし、そのスクリーニングのみからTSの転写レベルを正確に決定することができる。そして、新規なTS診断マーカーは、特定の病気の処置の好ましい方法に言い換えることができる。
【0041】
本発明の別の側面は、他の多型−ヒトTS遺伝子の3’非翻訳領域(3’UTR)における6 bp/1494欠失多型−に焦点を当てる。本発明は、この多型がメッセージの不安定化を引き起こし、減少した腫瘍内TS mRNAレベルに関連することを発見した。+6 bp/1494多型を含むTSの3’UTRをルシフェラーゼ3’UTRに挿入したことにより、空のpGL3コントロールベクターと比較して、ルシフェラーゼ活性が〜35%減少し、mRNAレベルにおいても同様の減少がもたらされた。TSの3’UTRの一連の欠失は、全長3’UTRと比較して、ルシフェラーゼ活性に有意な差を全くもたらさなかったことから、TS−3’UTR内の領域が比較的全体で安定であることを示している。-6 bp/1494欠失多型を含むTS−3’UTRの挿入は、空のpGL3コントロールベクターと比較して、ルシフェラーゼ活性が〜70%減少し、mRNAレベルにおいて〜60%の減少がもたらされたことから、この欠失多型がmRNAの安定性の減少を引き起こしたことを示している。
【0042】
さらに、-6 bp/1494欠失多型を含むTS−3’UTRが、+6 bp/1494コンストラクトと比較して、メッセージの分解が有意により高率であったことから、この欠失が不安定化を引き起こすことを証明している。腫瘍内TS mRNAレベルの測定は、挿入多型のホモ接合体(+6 bp/+6 bp)である個体が、欠失多型のホモ接合体(-6 bp/-6 bp)である個体と比較して、TS mRNAレベルが有意により高いことを証明した(p<0.007)。統計解析は、種々の民族集団における-6 bp/1494欠失多型の頻度が、非ヒスパニック系白人において41%、ヒスパニック系白人において26%、そしてアフリカ系アメリカ人において52%であることを決定した。総合すると、これらの結果は、TSの3’UTRにおける-6 bp/1494欠失多型が、インビトロにおける減少したmRNAの安定性と関連しており、インビボにおいては腫瘍内におけるTSのより低い発現と関連していることを示している。
【0043】
したがって、-6 bp/1494欠失多型の効果の知識は、臨床治療において個体のTS mRNAレベルを予測するのに有用なスクリーニング手段である。-6 bp/1494欠失多型がTS mRNAの不安定化を引き起こすことから、スクリーニングは、この欠失多型を有する個体を発見するために用いることができる。そのスクリーニングの結果は、その後、その結果に依存して、癌処置および/または癌抑制治療法を調整するために用いられる。例えば、上記で説明したとおり、この欠失多型を有する個体は、TSの安定性が低いため、TSを標的とする治療法により反応性である傾向にある。さらに、この欠失多型を有する個体は、癌細胞内のTSが安定であり、癌細胞が確実に進行して個体の全体にわたり拡大し得る可能性が少ないので、癌を発症する可能性がより少ない。
【0044】
本発明の多型は、個体がより高いTS崩壊の可能性(-6 bp/1494欠失を有する3R/3RV、2R/2R、2R/3Rまたは2R/3RV)、平均的なTS崩壊の可能性(+6 bp/1494を有する3R/3RV、2R/2R、2R/3Rまたは2R/3RV、あるいは-6 bp/1494欠失を有する3R/3R)、またはより低いTS崩壊の可能性(+6 bp/1494を有する3R/3R)を有するかどうかを決定するために、スクリーニングとして別々に用いられてもよいが、好ましくは一緒に用いられる。多型を併用して用いることにより、診断医がTSの崩壊についてより正確な推測をすることができるようになり、したがって、いずれかを有する個体がどのように癌の処置または循環器疾患の処置に対して反応するかについての正確に考えることができるようになるかもしれない。
【0045】
薬剤の選択は、特定の薬剤が特定のTS多型を有する集団の一部においてどのように作用するかを調べることができるため、多型とも関連している。より高いTSの転写および/または活性が、特定の薬剤の低減した有効性と関連していることが知られている場合には、臨床医は、その薬の投与の代わりに、またはその薬の投与に加えて、癌および/またはCVDを処置する他の方法を追求する。逆に、より低いTSの転写および/または活性が、特定の薬剤の低減した有効性と関連していることが知られている場合には、減少したTSプロファイルに適合する人にその薬剤を投与することが有利である可能性がある。本方法は、さらに、TSの予想される転写率および安定性に基づいて、どれくらい個体が癌および/または循環器疾患を発症する可能性があるかを示す。また、安定なTSは、罹患組織が生存し増殖できるようにするため、TSの安定性が大きくなるにつれ、癌および/または循環器疾患を発症する可能性が高くなり、それらの疾患が有効に処置される可能性が低くなる。
【0046】
本発明の他の側面は、本明細書に記載されているTS多型の同定およびスクリーニングの方法を実行するためのキットである。好ましくは、本キットは、プライマー、プローブ、アレイのための器具、スクリーニングアレイ、および使用のための取り扱い説明書を含む。好ましくは、本キットはまた、試薬、ポリメラーゼ、チューブおよび、多型の1つまたは両方の同定を実行するために必要とされる他の全ての物質または器具を含む。
【0047】
本発明の他の側面は、TSの転写およびまたはTSの酵素活性を制御するために、遺伝子およびまたはタンパク質に基づく操作を使用することを意図している。遺伝子操作が意図される場合には、TS遺伝子の好ましい形態を含有するベクターが、インビトロまたはインビボで個体の細胞に導入されてもよい。または、宿主細胞は、本発明のベクターにより遺伝子的に操作されていてもよく、生体外(ex vivo)での手順と同様に、インビトロおよびインビボの両方で組み換え技術により、本発明のポリペプチドを産生してもよい。宿主細胞において好ましい多型を有するTSポリヌクレオチドの導入は、多くの標準的実験マニュアルにおいて記載されている方法により達成され得る(Davis et al., Basic Methods In Molecular Biology(1986)およびSambrook at al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989)参照)。ベクター、好ましくは標的化された組み換えウイルスベクターの使用は、当分野においてよく知られている(例えば、USPN 6,635,476)。
【0048】
ベクターは、TS配列の改変を助けるために、関連するプロモーター、エンハンサーなどを組み込む必要がある。プロモーター領域は、選択可能なマーカーを用いて所望のあらゆる遺伝子から選択され得る。1つの適切なベクターは、pKK232-8およびpCM7である。名付けられた特定のバクテリアプロモーターは、lacI、lacZ、T3、T7、gpt、ラムダ(lambda)PR、PLおよびtrpである。真核生物プロモーターは、CMV最初期(immediate early)、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40、レトロウイルス由来のLTR、ならびにマウスメタロチオネイン−1を含む。適切なベクターおよびプロモーターの選択は、当分野における通常の技術レベルの範囲内である。
【0049】
本発明のさらなる側面は、TSの酵素活性を低下させるために、TS酵素に対する抗体の使用である。好ましくは、抗体は最高のTS活性を有するTS酵素に対して標的化され、免疫特異的に結合する。TSによりコードされたポリペプチドに対するポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、標準的な方法により調製することができる。モノクローナル抗体は、Kohler およびMilstein、Nature(1995)256:495-497の一般的なハイブリドーマ法、トリオーマ(trioma)技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al., Immunology Today(1983)4:72)およびEBVハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, pp.77-96, Alan R. Liss, Inc., 1985)にしたがって調製することができる。本発明において使用される抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体は細胞培養または組み換えにより複製することができ、抗原性を低減するために修飾することができるので、モノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体は、上記のように調製された抗原組成物を産生動物に注射することにより、標準的なプロトコールで産生されてもよい(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1998)。
【0050】
また、モノクローナル抗体に関して、ハイブリドーマは、接種された動物の脾臓から得られた免疫細胞などの、刺激された免疫細胞を単離することにより作製されてもよい。次いで、これらの細胞は、細胞培養において永久に複製する能力を有する、ミエローマ細胞または形質転換細胞などの不死化細胞に融合され、それにより不死の免疫グロブリン分泌細胞株を産生する。使用される不死化細胞株は、好ましくは、特定の栄養素を使うことが必要な酵素を欠損しているために選択される。かかる多くの細胞株(ミエローマなど)は、当業者に知られており、例えば:チミジンキナーゼ(TK)またはヒポキサンチン−グアニンホスホリボキシル(phosphoriboxyl)トランスフェラーゼ(HGPRT)を含む。これらの欠損により、例えばヒポキサンチンアミノプテリンチミジン(hypoxanthine aminopterin thymidine)培地(HAT)などにおける増殖能により、融合した細胞を選択することができる。抗体は、非経口的に、静脈内に、または経口的に投与されてもよい。
本発明のこれらの態様および他の態様は、実験の記載から明らかになるであろう。
【0051】
II.実験
5’SNP実験シリーズの総括
下記例は、本発明を説明することを意味し、これに限定することを意味しない。開示の全般にわたる全ての引用は、参照により組み込まれ、明細書の最後に完全なリストとなっている。
【0052】
チミジル酸合成酵素(TS)遺伝子の発現は、遺伝子の5’制御領域における多型により一部調節されている。多型は、28bp配列の2つのリピート(2R)または3つのリピート(3R)のいずれかからなり、3R遺伝子型により、より多いTSの遺伝子発現とタンパク質レベルをもたらす。3番目のリピートの配列は、配列番号1に指定されているCCGCGCCACTTGGCCTGCCTCCGTCCCGという28塩基対である。2つのUSFファミリーE−ボックスコンセンサスエレメントが3R遺伝子型のタンデムリピート内に見出され、1つが2R遺伝子型内に見出される。これらのエレメントは、インビトロでは電気泳動移動度シフトアッセイ(electrophoretic mobility shift assay)により、そしてインビボではChIPアッセイにより、USFタンパク質複合体に結合する。本明細書は、3Rコンストラクト内の付加的なUSFコンセンサスエレメントが、2Rコンストラクトと比べてより大きな転写活性を与えることを示す。本発明は、USF部位の変異が、TSの転写制御がタンデムリピート内のUSFタンパク質の結合に依存していることを示すことを立証する。
【0053】
USFコンセンサスエレメント内の3Rアレルの2番目のリピートにおける、新規なG→C単一ヌクレオチド多型の同定は、USFタンパク質が変異した部位に結合する能力を変化させ、したがって、この遺伝子型を有するTS遺伝子の転写活性を変化させる。RFLP解析により、この多型(3RV)の頻度は、健康な非ヒスパニック系白人個体における全3Rアレルの56%であることが決定された。単一ヌクレオチド多型は、ゲノム配列における単一ヌクレオチド(A、T、CまたはG)が変化している場合に生じる、DNA配列のバリエーションである。タンデムリピート多型と組み合わせたSNPのスクリーニングは、5-FU/LV化学療法処置に対する反応および生存率の予測におけるタンデムリピート単独の価値を増加させる。
対象が有するTSアレルの非バリアント(non-variant)3Rコピーが多くなるほど、化学療法剤に対する反応が悪くなる。したがって、5’タンデムリピート多型のこの新規SNPは、チミジル酸合成酵素阻害剤および他の化学療法剤に対する臨床的効果の予測因子として用いることができる。
【0054】
したがって、本発明は、タンデムリピートからの転写活性化のメカニズムを特徴づけ、付加的な28bpリピートがどのように転写活性を増強させるかを述べる。本発明はまた、2Rに対して増加した転写活性をなくすことができ、タンデムリピート内の配列のバリエーションが機能的な意義を有することを示す、3R内の高度に浸透した(penetrant)単一ヌクレオチド多型を同定する。
【0055】
タンデムリピートからの転写活性化にどのような制御因子が関与しているかを決定するため、28塩基対領域内の配列コンセンサスエレメントを調べた。E−ボックス部位であるCACTTGは、3R多型の1番目と2番目のリピートの真ん中および、2R多型の1番目のリピートに存在する(図1参照)。競合するオリゴヌクレオチドと共に核酸を使用するEMSA解析により、インビトロでこのエレメントに結合するUSF複合体を同定した。しかしながら、cdc2/p34によりリン酸化されたUSF-1のみが、タンデムリピート内のそのコンセンサスエレメントに結合した。ChIPアッセイは、インビボでのTS5’制御領域におけるUSF-1およびUSF-2の両者の存在を示している。ChIPアッセイで増幅された領域は、タンデムリピート内に位置する推定(putative)E−ボックス部位のみを含んでおり、USF-1およびUSF-2がインビボでこれらのサイトに結合することを示している。
【0056】
部位特異的変異誘発(site-directed mutagenesis)により、2Rまたは3Rコンストラクトのいずれかの1番目のリピート内にあるUSFコンセンサスエレメントが、ルシフェラーゼレポーター遺伝子コンストラクトの効率的な転写活性化に必要であることが示されている。これらのアッセイはまた、3Rコンストラクトにおける余分なリピートが、外在性のUSF-1の非存在下および存在下において、2Rコンストラクトと比較して増加した転写活性を引き起こす、付加的なUSF結合部位を追加することを示した。したがって、USF E−ボックス部位の数が増えるにつれて、転写レベルにおけるタンデムリピートの増強機能は増加する。USF-2は、TSプロモーターコンストラクトを有意に活性化しなかったが、ChIPアッセイにおけるUSF-2の存在、およびこれらのタンパク質が細胞においてかなりの程度でヘテロダイマーとして存在するという事実は、USF-2がインビボのタンデムリピートにおいてUSF-1を伴った複合体で存在するかもしれないことを示唆している。
【0057】
TS遺伝子自体の中のタンデムリピートの数が、TSの発現レベルを決定すると考えられてきた。しかしながら、本発明は、この説を、余分なリピートの増強機能を変化させる、タンデムリピート内の予想外でかつ新規なSNPの同定により修正する。3R遺伝子型にある2番目のリピートの12番目のヌクレオチドにおいて見出される単一G→C塩基の変化は、USFコンセンサスエレメントの重要な残基を変化させる。したがって、TSの転写レベルを決定するのは、タンデムリピートの数のみではなく、機能するタンデムリピートの数なのである。EMSAアッセイは、この塩基の変化が、USF複合体がリピート内で結合する能力をなくし、E−ボックス部位を効率的に消失させることを示している。このバリエーション、すなわち3RVを有する3Rコンストラクトは、患者のゲノムDNAから単離され、転写におけるこの多型の効果を解析するために、ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいて用いられた。3RVコンストラクトは、2Rコンストラクトと同様の転写活性を示した(図5B)。これらの結果は、28bpリピートの付加単独では、TS遺伝子の増強された転写活性に十分でないが、USF E−ボックスエレメントが転写を増加させるために余分なリピート内で必要であることを示唆している。
【0058】
この実験は、タンデムリピート多型遺伝子型を決定するための従来のPCRに基づく方法を、G→C SNPについてのスクリーニングを含む制限酵素断片多型(RFLP)技術に改変した。(外来のHaeIII部位をのぞくために)より小さいPCR断片を増幅し、サンプルの他の半分をHaeIII制限酵素を用いて消化する間、サンプルの半分は消化せずに残しておく。患者サンプルをアガロースゲルに並列に流す場合には、SNPと同様にタンデムリピート多型も両方のアレルについて決定することができる。99人の結腸直腸癌患者におけるSNPの頻度(表1)を、この新規方法を用いて決定した。
【0059】
表1:99人の非ヒスパニック系白人個体間の3Rの2番目のリピートにおける、5’タンデムリピート多型および新規G→C多型の分布
【0060】
【表1】

1.アレルの頻度を全てのアレルのパーセンテージとして示す。
2.アレルの頻度を3Rアレルのみのパーセンテージとして示す。
【0061】
SNPは、単一の制限酵素消化を加えることにより、容易にスクリーニングされ、そして癌の処置に関連した腫瘍の反応および宿主毒性の両方について個体の化学療法を設計するために、臨床医にとって有用な情報を生み出す。CVDの処置に関連して、臨床医は、非バリアントアレルの数をみることにより対象がCVDに対するより高いリスクにあるかどうかを決定することができる。したがって、その後に臨床医は、2Rおよび/または3RVを有する個体よりも、葉酸のレベルがより低い傾向にありかつホモシステインがより高い傾向にあり、それによりその個体がCVDに対してより感受性が高くなることに留意して、治療法を設計することができる。
【0062】
USFタンパク質の制御および機能は、さらにTS阻害経路ならびに発癌性の形成および進行に複雑さを加える。USFタンパク質は従来、遍在的な制御因子として記述されてきたが、最近の証拠は、これらのタンパク質が癌のいくつかの形態で誤制御されることがあり(Kawakami et al., 1999)、栄養失調、特にタンパク質を含まない食生活、の間に過剰発現すること(Matsukawa et al., 2001)を示している。さらに、USF-1はストレス応答性p38キナーゼにより活性化される。この活性化は、ストレス刺激と、場合によっては化学療法剤を含むストレス誘発剤による処置の結果として起こる、遺伝子発現における引き続く変化との間の関連を提供すると考えられてきた(Galibert et al., 2001)。
【0063】
したがって、USFタンパク質の過剰発現がUSF-1/USF-2複合体により標的とされる遺伝子の増加した活性化を引き起こし得るという仮説を立てることができ、したがって、インビボのTSの過剰発現のメディエーターとしてUSFタンパク質が関係していると考えられる。USFの過剰発現はまた、TSプロモーターをトランス活性化する腫瘍抑制因子p53の活性化を介して、間接的にTS過剰発現を引き起こし得る(Reisman et al., 1993)。この証拠に基づけば、USF-1およびUSF-2は、直接的および間接的メカニズムを介して、TS阻害剤による処置がなされた患者で観察される薬剤耐性の惹起において役割を果たし得る。本発明は、TS遺伝子におけるUSF結合部位を阻害することを意図しているため、USFが過剰発現している場合であっても、TS E−ボックスは、非TS活性化物質(non-TS activating substance)が競合的に結合する。
【0064】
逆に、USF機能の喪失は、発癌性に寄与し得る(Ismail et al., 1999)。APCにおける遺伝子の変化は、結腸癌における最初期段階の1つと考えられており(Ichii et al., 1992)、APC遺伝子機能の喪失は、増加したc-Myc癌遺伝子の活性に関連している(Erisman et al., 1985: Jaiswal et al., 1999)。USF-1/USF-2複合体は、APC遺伝子をトランス活性化することが示されている(Jaiswal et al., 2001)。USFタンパク質は、c-Mycの作用に拮抗するので(Luo et al., 1996)、USF機能の喪失は、増加したc-Mycの発現と増加した細胞増殖を引き起こす、APCの下方制御を引き起こし得ることが提唱されてきた(Pullarkat et al., 2001)。
【0065】
本明細書において、本発明はTS遺伝子発現の制御におけるUSFタンパク質の直接的役割についての証拠を提供し、USF活性またはUSF結合部位の阻害は、TS特異的抗ガン剤に対する治療の調整として考えることができる。その結果に基づいて、本発明の新規SNPが、転写のエンハンサーとして機能するリピートの能力を変化させるという事実は、5-FU処置に対する反応における矛盾を説明する。葉酸代謝におけるTS反応の重要性を考慮すれば、新規多型は、他の葉酸依存的経路の調節に付加的な影響を与え得る。チミジル酸の生合成に加えて、プリン合成、メチオニン再生および、DNAメチル化に関与する反応などの他の一炭素供与反応(one-carbon donar reaction)は全てこの多型により影響を受ける。本明細書において、本発明は、タンデムリピート内の転写コンポーネントが存在することを示し、このコンポーネントがリピートの核酸配列における相違により変化することを証明する。本発明の両方の多型の包括的解析は、TSの遺伝子発現ならびにフルオロピリミジンおよび他の化学療法剤に対する臨床的効果のより正確な予測、そしてCVDの予測および処置に寄与する。
【0066】
1.ヒトTS遺伝子の5’制御領域における28bpタンデムリピートは、その核酸配列において同一ではない
ヒトTS遺伝子およびその5’上流領域の公開されている配列は(Takeishi et al., 1989)、2Rおよび3R遺伝子型両方の最後の28bpリピートに、2つの単一塩基変化があることを示しており、最近の証拠は、これらの配列の相違が4Rおよび5Rアレルの最後のリピートにも同様に存在することを示している(Luo et al., 2002)。TS遺伝子の発現におけるこれら塩基変化の結果は、これら塩基変化の頻度と同様に、調べられていなかった。したがって、この実験は、リピート内における配列の相違の存在を立証し、他の塩基変化および潜在的な多型を探すことを目的とした。14人のヒトゲノムDNAサンプルを直接配列決定することにより、本実験は2Rおよび3Rの最後のリピートにおける2つの塩基変化の存在を証明し、3Rの2番目のリピート内の新規な単一ヌクレオチド多型を同定した(図1、アスタリスク)。
【0067】
図1は、ヒトTS遺伝子の5’非翻訳領域内におけるタンデムリピート多型の構造である。チミジル酸合成酵素遺伝子の5’非翻訳領域におけるエンハンサー多型は、2つまたは3つの28bpリピートのいずれかからなる。これらリピートのヌクレオチド配列は、上記で示しており、各リピート内にバリエーションを有する。上流刺激因子(USF-1/USF-2)の推定E−ボックス結合部位が同定され、各リピート内に下線が付され太字で記載されている。USF DNA結合のためのコンセンサス配列は、CANNTG(ここでNはいずれのヌクレオチドでもよい)である。3Rのリピート1および2ならびに2Rのリピート1は、USFコンセンサスエレメント(下線)を含むのに対し、いずれのコンストラクトにおいても最後のリピートは、推定E−ボックスを崩壊させるG→C塩基変化(アスタリスク)のために、不完全またはバリアントコンセンサス配列を含んでいる。2Rおよび3Rにおける最終リピートの最後のヌクレオチドもまたG→C塩基変化を有する。
【0068】
これらの塩基変化が遺伝子発現において機能的な役割を果たしているかどうかを決定するために、28bpTSタンデムリピート内に結合する制御因子を同定することが初めて追究された。前記の塩基変化を欠損している28bp配列および前記の塩基変化を有している28bp配列の両方が、TRANSFACデータベース(Wingender et al., 2000)を用いて、推定転写因子結合部位についてスキャンされた。USF E−ボックスコンセンサスエレメント(CACTTG)は、2R遺伝子型の最初のリピート内、および3R遺伝子型の最初の2つのリピート内で発見されたが、いずれの遺伝子型の最後のリピートにおいては発見されなかった(図1)。2Rおよび3Rの最後のリピートの12番目のヌクレオチドにおけるCは、USFの結合に関して重要なヌクレオチドにおけるUSFコンセンサス配列エレメント内にある。3Rの2番目のリピート内の12番目のヌクレオチドにおける潜在的SNPは、同様のやり方でUSFコンセンサスエレメントに関与している(図1、斜線の(shaded)ヌクレオチド)。これらの結果は、USF制御因子がTSタンデムリピート内の配列に結合できることを示している。
【0069】
2.リン酸化USF-1は、TSタンデムリピート内のコンセンサスエレメントに結合するが、12番目のヌクレオチドにおいてG→C塩基変化を含むリピートには結合しない
インビトロでのTSタンデムリピートに対するUSFタンパク質の配列特異的結合を決定するために、推定USFコンセンサスE−ボックスエレメントを有する28bp配列を、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)におけるプローブとして使用した。図2は、USFタンパク質が、HT29核抽出物中のヒトTS遺伝子のタンデムリピート内におけるE−ボックス部位に結合することを示すEMSAである。ゲル移動度シフトアッセイは、インタクトな(intact)E−ボックス部位を含有するタンデムリピート配列に対応する32Pでラベルされた28bpプローブによりHT29核抽出物を使用して行われた。図2において、レーン1はフリープローブ(free probe)である。レーン2では、ラベルされていない競合ヌクレオチドの非存在下で、2.5μgのHT29核抽出物がプローブと共にインキュベートされ、その結果、ゲルにおける数多くのバンドシフトの出現をもたらした。
【0070】
ラベルされていない特異的USF競合オリゴヌクレオチドを反応へ添加することにより、非特異的競合剤を加えた場合に再び出現した2本のバンドがなくなった。(図2、レーン3〜6)。レーン3〜4においては、抽出物を、増加した過剰モルの、USF-1に対するラベルされていない特異的競合オリゴヌクレオチドと共にあらかじめインキュベートした。レーン5〜6においては、抽出物を、増加した過剰モルのラベルされていない非特異的競合剤ポリ(dIdC)と共にあらかじめインキュベートした。矢印はUSFタンパク質複合体を示す。これらの競合実験は、インタクトなE−ボックスエレメントを含有する28bpタンデムリピート配列に対する、USF複合体の配列特異的結合を示している。
【0071】
USF-1は、リン酸化されている場合には、そのDNAコンセンサスエレメントに対する増加した親和性を示すため、リン酸化されているおよびリン酸化されていない形態のUSF-1が28bpリピート配列内の推定コンセンサスエレメントに結合する能力を調べた。組み換えUSF-1は、6−ヒスチジンタグと共に大腸菌に発現させ、Ni-NTAカラムで精製した。cdc2/p34をHeLa S3細胞から免疫沈降し、200ngの組み換えUSF-1をリン酸化するためのインビトロキナーゼ反応に用いた(図3A)。フィルム露光後にリン酸化を可視化するため、32PでラベルされたATPをコントロール反応において用いた(右パネル)。
【0072】
プローブとして完全なUSF-1コンセンサスエレメントを利用したEMSAアッセイにおいて、両方の形態のUSF-1が用いられた場合には、リン酸化された形態のみが結合することができる(図3B、レーン2および3)。ゲル移動度シフトアッセイは、インタクトなE−ボックス部位を含有する32PでラベルされたUSF-1特異的コンセンサスプローブと共に、組み換えUSF-1を用いて行った。レーン1は、フリープローブのみを含有していた。レーン2は、ラベルされていない競合オリゴヌクレオチドの非存在下でプローブと共にインキュベートされた30ngの組み換えリン酸化USF-1であった。レーン3は、ラベルされていない特異的競合オリゴヌクレオチドの非存在下でプローブと共にインキュベートされた30ngのリン酸化されていない組み換えUSF-1を含んでいた。レーン4〜5では、リン酸化USF-1を、それぞれ、500モル超のラベルされていない特異的競合オリゴヌクレオチド、および500モル超の非特異的dIdC競合剤と共にあらかじめインキュベートした。
【0073】
USF-1のリン酸化形態がTSリピート内のコンセンサスエレメントに結合する能力を決定するために、インタクトなE−ボックス部位を含有する1つのタンデムリピートに対応するプローブとして32Pでラベルされた28bp配列を用いて、EMSAアッセイを行った。レーン1はフリープローブであった。レーン2では、ラベルされていない競合オリゴヌクレオチドの非存在下で、30ngの組み換えリン酸化USF-1をプローブと共にインキュベートした。レーン3では、ラベルされていない競合オリゴヌクレオチドの非存在下で、30ngのリン酸化USF-1をプローブと共にインキュベートした。レーン4〜6では、リン酸化USF-1を、それぞれ、500モル超の:ラベルされていないプローブ、USF-1特異的競合剤、および非特異的ポリdIdC競合剤オリゴヌクレオチドと共にあらかじめインキュベートした。リン酸化された形態のUSF-1の、プローブとのインキュベーションは、ゲルでシフトを引き起こし、このシフトは、ラベルされていない特異的競合オリゴヌクレオチドの添加によりなくなった(図3C、レーン3および5)。このデータはさらに、リン酸化された形態のUSF-1のみが、タンデムリピート内のそのコンセンサスエレメントに結合し得ることを証明している。
【0074】
28bpリピートの12番目のヌクレオチドにおける潜在的なG→C SNPが、USF結合部位内に存在することから、EMSAにより、組み換えUSF-1タンパク質がバリアントコンセンサスエレメントに結合する能力を調べた。USF-1のリン酸化されていない形態およびリン酸化された形態のいずれも、このバリアント配列に対しては全く親和性を示さなかった(図3D、右パネル)。12番目のヌクレオチドにおいてG→C塩基変化を含む1つのタンデムリピートに対応した、32Pでラベルされた28bpプローブと共に、組み換えUSF-1を用いて、ゲル移動度シフトアッセイを行った。レーン1はフリープローブであった。レーン2においては、30ngの組み換えUSF-1がプローブと共にインキュベートされた。レーン3においては、30ngのリン酸化USF-1がプローブと共にインキュベートされた。このデータは、タンデムリピート内の潜在的SNPが、USFコンセンサスE−ボックスエレメントを崩壊させることにより、USFの結合をなくすことを示している。
【0075】
3.USF-1およびUSF-2は、インビボでチミジル酸合成酵素のタンデムリピートに結合する
インビトロアッセイの結果は、USF-1およびUSF-2が、E−ボックスコンセンサス部位においてチミジル酸合成酵素のタンデムリピートに配列特異的に結合することを示している。USF-1およびUSF-2がインビボでこれらのエレメントに結合するかどうか決定するために、生存する293(ヒト胎児腎臓)細胞を使用したクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイを、USF-1およびUSF-2に対する1×10個の抗体により得られたゲノムDNAを用いて行った。インプットDNAは、抗体の添加前に採取された20μlのDNA分注物であり、抗体なしのコントロールは、抗体の添加をせずに、USF-1およびUSF-2の免疫沈降と一緒に平行して行った。タンパク質のDNAのホルムアルデヒドクロスリンク、およびソニケーションによるゲノムDNAの断片化の後、USF-1およびUSF-2の抗体を用いた免疫沈降を行った。免疫沈降は、抗体を用いずに行ったコントロールの反応を含んでいた。
【0076】
プルダウン(pull down)の後、タンデムリピートを含むTS 5’制御領域(転写開始部位に対して+15〜+195)にUSF-1およびUSF-2が結合するかどうかを決定するために、PCR増幅を64.8℃で行った。PCR産物は、次にエタノール沈殿を行い、1.5%アガロースゲルで電気泳動した。180bpの断片は、USF-1およびUSF-2のポリクローナル抗体を用いた免疫沈降から増幅されたが、抗体を含まないコントロールの反応においては存在しなかった(図4)。これらの結果は、タンデムリピートおよびE−ボックスエレメントを含むTS遺伝子座のクロマチンに、USF-1およびUSF-2が存在することを示している。この特定のDNA領域は、このタンデムリピート内に位置するエレメント以外には、他に推定E−ボックスエレメントを含まない。TS5’制御領域におけるUSF-1およびUSF-2の存在は、タンデムリピート内に位置するE−ボックスエレメントにこれらのタンパク質が結合することを示した。これらのデータにより、TS5’制御領域レポーターコンストラクトの転写活性化における、これらのタンパク質の潜在的役割を調べることになった。
【0077】
4.USF-1は、E−ボックスエレメントを含むタンデムリピートの結合を介してTSプロモーターをトランス活性化する
USF-1およびUSF-2が、タンデムリピート内における結合を介して転写を増強させる能力を調べるため、5’非翻訳領域を含む、-313〜+195までのヒトTS遺伝子5’プロモーター領域を、TATAレス(TATA-less)pGL3-Basicルシフェラーゼレポーターベクターのルシフェラーゼ翻訳開始部位のすぐ上流にクローニングした。2Rおよび3Rコンストラクトの両方を、それぞれベクターにクローニングし、部位特異的変異誘発を用いて、示したUSFコンセンサスエレメントを改変することにより、2RmutUSFおよび3RmutUSFを作製した。図5Aは、これら2つのTSルシフェラーゼレポーターコンストラクトの図である。3RVコンストラクトは、G→C SNP多型のために2番目のリピートにおいて、E−ボックスエレメントを欠失している。全てのE−ボックスエレメントはUSFと表示され、全てのバリアントまたは変異エレメントはXと表示されている。
【0078】
これらのコンストラクトは、293細胞に、USF-1発現ベクター、USF-2発現ベクターまたは空ベクターと共にコトランスフェクトした。これらの実験から得られた結果は、USF-1の存在下で2Rおよび3Rコンストラクトの両方に由来する相対的ルシフェラーゼ活性が増加していたことを示す(図5B)。転写活性におけるこの2〜3倍の増加は、従来の報告のUSFによる活性化と一致している。USF-2の活性化は、相対的ルシフェラーゼ活性の小幅な増加を引き起こした。3Rコンストラクトは、外在性USF-1タンパク質の発現の非存在下および存在下の両方で、2Rコンストラクトよりも大きなルシフェラーゼ活性を有していたことから、2Rおよび3Rの転写活性におけるこの相違は、同様のルシフェラーゼ系における従来の報告と一致している。TS遺伝子発現におけるわずかな違いは、インビボでの5-FUに対する反応の予測において重要であることが示されているため(Lenz et al., 1996)、これらの違いは重要である。2RmutUSFおよび3RmutUSFの両方は、その野生型の対応物と比べて、内在性の転写レベルを下回った劇的に減少した転写活性を示しており、これらのUSF部位、すなわち2Rにおける1つおよび3Rにおける2つ、はTSプロモーターの活性化に重要であることを示唆している。結果的に、これらの部位は、3R全体に由来するより大きな転写活性に関与している可能性がある。
【0079】
28bpリピートの12番目のヌクレオチドにおける単一G→C塩基変化は、EMSAによりこの部位に結合するUSFタンパク質の能力を喪失させることができることから、この塩基変化が、USF-1が3R TSプロモーターコンストラクトをトランス活性化する能力を変化させるかどうかを決定することが所望された。3Rバリアント(3RV)レポーターコンストラクト(図5A)は、外在性のUSF-1の非存在下および存在下において、3Rと比較して減少した転写活性を有していた。さらに3RVは、2Rコンストラクトと同様の、ルシフェラーゼレポーター遺伝子のトランス活性化能を有していた(図5B)。これらの結果は、タンデムリピートの転写を増強する能力が、USFコンセンサスエレメントの数が増えるにつれて増加するだけであり、必ずしもタンデムリピートが増加するにつれて増加するわけではないことを示している。したがって、3Rの2番目のリピート内の潜在的SNPは、2Rコンストラクトに対して、転写のエンハンサーとして作用する3Rコンストラクトの能力についての決定因子である。全体として、USF-2の活性化は、相対的ルシフェラーゼ活性のみにおいて小幅な増加を引き起こし、USF-1およびUSF-2をコトランスフェクトしたものにおいては、USF-1単独の場合と比べて、ルシフェラーゼ活性は全く増加を示さなかった。
【0080】
5.制限酵素断片長多型(RFLP)解析による、新規単一ヌクレオチド多型(SNP)の特徴づけ
大きな集団における潜在的なSNPの頻度を決定するために、RFLP解析を行った。図6Aは、このRFLP解析において産生されるTSタンデムリピート断片のHaeIII制限酵素地図のダイアグラムである。この地図は、RFLP解析のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により産生される断片内のHaeIII制限酵素部位を示している。
【0081】
PCRは、99人の健康な非ヒスパニック系白人個体から得たゲノムDNAを用いて行い、2Rアレルに対しては213bpの断片、3Rアレルに対しては241bpの断片、2R/3Rヘテロ接合体に対しては両方のフラグメントを産生した。TS遺伝子型は、99人のサンプルから得られた。3RVにおけるG→C塩基変化は、HaeIII制限酵素部位を除去し、0.5×TBE中の3%sea-plaqueアガロースゲルで、消化されたPCR断片のバンドパターンを変化させる(図6B、未消化サンプル)。PCR産物の半分をHaeIII制限酵素で消化し、半分を未消化のまま残した。矢印は、野生型サンプルには存在するが、G→C多型について陽性なサンプルには存在しない、付加的な92bp断片示している。遺伝子型は、リピート多型(2または3)およびG→C SNP多型(バリアントに対してはV)を示すレーンに対応して、上記のリストに記載されている。
【0082】
各患者からの消化されたまたは未消化のPCR産物は、各アレルのリピート多型遺伝子型およびG→C SNP遺伝子型を決定するために、隣合ったレーンで泳動した。酵素で消化された場合に、2R/3RVおよび3R/3RVと同様に2R/2R、2R/3Rおよび3R/3Rについてのバンドパターンが類似していることから、消化された産物の隣に未消化産物を泳動することが必要であった。いくつかのサンプルでは、未消化サンプルにおいて〜100bpの長さで非特異的DNA産物が観察された。この非特異的DNAは、HaeIII消化サンプルにおいて、遺伝子型の解釈を妨害しない 〜60bpのバンドの存在をもたらした。それにもかかわらず、一回のPCR反応とそれに引き続く半分のサンプルのHaeIIIによる消化によって、タンデムリピート多型およびタンデムリピート内のSNPについての患者の遺伝子型を得た。
【0083】
12番目のヌクレオチドにおけるG→C SNPは、3R遺伝子型の2番目のリピートにおいてのみ観察された。100人の白人における3Rの頻度は、58.6%であり、白人についての先の報告と矛盾していなかった。3Rの2番目のリピート内の12番目のヌクレオチドにおける新規G→C SNPの頻度は、全ての3R保有者間において56%であった。このデータは、3Rアレルの2番目のリピートの12番目のヌクレオチドにおけるG→C塩基変化が、非ヒスパニック系白人において高度に浸透している多型であることを示唆している。
【0084】
6.SNPは、結腸直腸癌での5-FU/LVに対する反応と生存の予測における、TSタンデムリピートの価値を増加させる。
予測マーカーとしてのSNPの役割を探索するために、40人の患者は、5−フルオロウラシルの長期投与に対する反応と生存について、播種性(disseminated)結腸直腸癌(SWOG 9420および3C-92-2)が評価された。TSタンデムリピート多型の分布は、下記:2R/2R 20%(8/40)、2R/3R 50%(20/40)および3R/3R 30%(12/40)であった。2R/2R遺伝子型と確認された患者は、2R/3R群における15%(3/20)と比較して、50%(4/8)が5-FUに対する反応を有していた。3R/3R遺伝子型を有する患者には、病気の反応(disease response)を示す者はいなかった(0/12)。しかしながら、この関係は統計学的有意に達しなかった(P=0.089、フィッシャーの正確検定(Fisher's exact test))。2R/2R遺伝子型を有する患者は、生存のメジアン(median)が、それぞれヘテロ接合体群における7.4ヶ月および3R/3R保有者の8.4ヶ月と比べて、16.2ヶ月であった。この関係もまた、統計学的に有意でなかった(P=0.14、ログランク(Logrank)検定)。
【0085】
タンデムリピート多型およびSNPを用いて、予測される高TS発現および低TS発現に基づき、患者サンプルを2つの群に再分類した。SNPまたはバリアント3R(3RV)アレルが3RアレルのTS遺伝子発現を減少させるであろうという仮説が立てられたため、21人の患者について、2R/2R、2R/3RVおよび3RV/3RVの遺伝子型を予測される「低TS発現」群(群A)に、ならびに、19人の患者について、2R/3R、3R/3RVおよび3R/3Rの遺伝子型を予測される「高TS発現」群(群B)に分類した。そして、これらの群をTS遺伝子型と5-FU化学療法に対する臨床的効果との関係について再評価した。
【0086】
低発現TS遺伝子型の1つを有する患者は、化学療法に対して改善された反応率を示した。群Bの患者の0%(0/19)と比較して、群Aの患者の33%(7/21)が病気の反応を示した。群Aの患者の48%(10/21)のみと比較して、群Bの患者の63%(12/19)が病気の進行を示した(P=0.019、フィッシャーの正確検定)(表2)。さらに、群Aの試験参加者は、群Bの患者のわずか7.4ヶ月と比較して、10.1ヶ月という優れた生存率を示した(P=0.035、ログランク検定)。
【0087】
表2.結腸直腸癌における、TS遺伝子型と5-FUに対する臨床的効果との関係
【表2】

1.フィッシャーの正確検定に基づく
【0088】
これらのデータの比較解析は、タンデムリピート多型と組み合わせたSNPのスクリーニングが、TS遺伝子型解析に基づく5-FUに対する臨床的効果の予測に関して、より正確かつ効果的であることを示している。予測されるTS発現に基づいて、SNPについての遺伝子型を包含させて患者を再分類することは、5-FU/LV化学療法(p=0.089 v. SNPを用いた場合の0.019)および全体的な生存(p=0.14 v. SNPを用いた場合の0.035)に対する反応における、タンデムリピートの予測値を有意に増加させた。
【0089】
3’UTRの実験シリーズの総括
本実験は、TSの3’UTRを特徴づけし、TS mRNAの安定性および/または翻訳効率における-6 bp/1494欠失多型の効果を決定した。安定性を決定するためにルシフェラーゼに基づくアッセイ系を用いたところ、本実験は、TSの3’UTR全体が全体として比較的安定であり、有意な不安定化または翻訳の抑制を引き起こすエレメントを全く含まないことを示した。また、-6 bp/1494欠失多型は、減少したmRNA安定性および増加したmRNA減衰率に関連することが判明した。さらに、-6 bp/1494欠失多型は、特定の個体のTS mRNAレベルおよび、この多型が比較的共通に存在することを決定することにおける予測値であり、異なる民族集団間で大幅に変化する。したがって、これは、種々の癌スクリーニングにおける用途のための優れた候補である。
【0090】
-6 bp/1494多型は、減少したTS mRNAレベルと関連しており、同様にTSタンパク質レベルに影響を及ぼす。この結果は、関節リウマチ(RA)を有する日本人患者を含む最近の研究と一致する。欠失多型についてホモ接合体であるRA患者(-6 bp/-6 bp)は、血清C反応性タンパク質レベルにおいて、>50%改善の発生率が有意により高かった。これは、いずれの+6 bpアレルを有する個体よりも(Kumagai, 2003)、低用量のメトトレキセート処置後の反応を示している(Nozoe, 1998および2001)。他の関連する研究は、タンデムリピート内にある新しく同定された機能的G116C SNPと一緒に、タンデムリピート多型をスクリーニングした。この機能的SNPは、5-FUに基づく化学療法により処置された転移性結腸直腸癌を有する患者の効果の予測において、タンデムリピート単独の価値を改善することが示された。これらの発見は、より低いTS発現を有する患者が、より高いTS発現を有する個体よりも、間接的TS阻害剤であるメトトレキセートに対して感受性がより高い場合があるという事実と一致している。
【0091】
機能的-6 bp/1494欠失多型は、TS遺伝子発現の予測因子としての使用のための候補である。興味深いことに、日本人のRA試験集団においては、5’トリプルタンデムリピート遺伝子型(3R/3R)と-6 bp/-6 bp 1494欠失遺伝子型との間に、有意な連鎖不平衡が発見された(Kumagai, 2003)。さらに、先の研究は、タンデムリピート多型と-6 bp欠失多型との間の連鎖不平衡についての最初の証拠を示した(Ulrich, 2002)。
【0092】
この研究では、白人集団において、5’ダブルタンデムリピート(2R/2R)遺伝子型と+6 bp/+6 bp 1494遺伝子型との間に、有意な連鎖不平衡が発見された。これらの発見は、TS遺伝子の発現に多型が及ぼす影響のために重要であり、タンデムリピート多型のみについて個体をスクリーニングした場合に観察される矛盾を説明するのに役立ち得る。例えば、2Rタンデムリピート多型のホモ接合体である個体は、比較的高いTS遺伝子の発現を示す可能性がある。これは、2R多型が、高いTS発現および5-FUに対する予想される増加した抵抗性に関連するという誤った印象を与えるであろう。2Rタンデムリピート多型は、TS mRNAを安定化する+6 bp/1494多型と共に、はるかに多い頻度で生じるため、タンデムリピート内の最近同定されたG116C SNPを併用して、両方の多型をスクリーニングすることが、TS遺伝子の発現に関連する遺伝子型における多くの矛盾を解決する。さらに、タンデムリピートおよびG116C SNPを用いたスクリーニングにおいて-6 bp/1494欠失多型を包含させることにより、未来の臨床試験における予想値を改善し得る。
【0093】
1.TSの3’UTRは安定であり、mRNAの不安定性または翻訳サイレンシングの検出可能なエレメントを含まない。
-6 bp/1494多型の機能を決定するために、TSの3’UTR全体の中にある制御エレメントを特徴付けした。+6 bp/1494アレルは、コンストラクトが増幅されたサンプル集団においてより共通に存在するため、+6 bp/1494多型を含むTS3’UTRから解析を開始した。pGL3コントロールベクタープラスミド中のルシフェラーゼ遺伝子の3’UTRに、ヒトTS−3’UTRの領域を挿入することにより、種々のレポーターコンストラクトを作製した(図7A)。TSの3’UTRをプラスミドの唯一のXbaI制限酵素部位に挿入することにより、各レポーターコンストラクトは、SV40プロモーターにより制御され、ルシフェラーゼ3’UTRの下流にSV40後期ポリ(A)シグナルを含んでいた。各レポーターコンストラクトは、挿入されたTS−3’UTR領域だけが異なっていたため、ルシフェラーゼ活性における変化は、変化した転写後制御に起因するべきである。
【0094】
293細胞に各レポーターコンストラクトを一過性にトランスフェクトし、レポーター遺伝子を発現させるために一晩インキュベートして、ルシフェラーゼ活性をアッセイした。全てのルシフェラーゼの値は、TS−3’UTRの領域を含まないpGL3コントロールコンストラクトから得られたルシフェラーゼ活性のパーセンテージとして表されている。このコンストラクトからのルシフェラーゼ活性を、100%の活性と設定した。ルシフェラーゼ3’UTRにTS(1-495)の3’UTR全長を挿入したところ、ルシフェラーゼ活性が〜35%減少する結果となった(図7、黒いバー)。ルシフェラーゼmRNAがそれ自体で高度に安定であり、コントロールの活性と比べたルシフェラーゼ活性の同様の減少は、この系を用いた他の3’UTR研究においても先に示されている(Cok, 2001; Giles, 2003)ため、ルシフェラーゼ活性の減少は予想されていた。TS−3’UTRの近位および遠位末端からの一連の欠失は、全体的にルシフェラーゼ活性の同様の減少をもたらし、全長(1-495)コンストラクトと比較してルシフェラーゼ活性に全く付加的な効果を及ぼさなかった(図7B、黒いバー)。
【0095】
ルシフェラーゼ活性において観察された変化が、mRNA安定性における変化によるものか、または翻訳効率における変化によるものかを決定するために、mRNAを定量した。ルシフェラーゼ活性における変化が、ルシフェラーゼのメッセージレベルにおける変化と相関している場合には、TS−3’UTRの挿入により観察された変化がメッセージレベルでの変化による可能性がある。ルシフェラーゼ活性がルシフェラーゼのメッセージレベルと相関していない場合には、変化は翻訳効率の変化による可能性がある。
【0096】
細胞はトランスフェクションの後に可溶化し、全RNAを定量し、半定量RT-PCRに用いた。ルシフェラーゼmRNAレベルをGAPDH mRNAレベルに対して標準化し、TS−3’UTR配列を全く有さないpGL3コントロールコンストラクトからのルシフェラーゼメッセージのパーセンテージとして表した。空のpGL3コントロールコンストラクトと比較して、ほとんどのTS−3’UTRを有するコンストラクトについて、ルシフェラーゼのmRNAレベルにおける有意な減少が観察された(図7B、白いバー)。しかしながら、全長(1-495)TS−3’UTRコンストラクトおよびそれぞれのその欠失コンストラクトの間には、メッセージレベルにおける有意な減少は観察されなかった。これらの結果は、上記で観察されたルシフェラーゼ活性における変化と相関しており、TS−3’UTR領域を高度に安定なルシフェラーゼ3’UTRへ挿入することにより引き起こされたルシフェラーゼ活性の減少が、主に変化したmRNAの安定性によるものであったことを示している。さらに、TS−3’UTRの全長および欠失コンストラクトの間に、ルシフェラーゼmRNAレベルまたはルシフェラーゼ活性において有意な変化が観察されなかったことから、これらの結果は、主要なmRNA不安定化エレメントまたは翻訳サイレンシングエレメントがTS−3’UTR内に存在しないことを示している。
【0097】
2.6 bp/1494欠失多型を有するTS−3’UTRコンストラクトは、6bpを含むTS−3’UTRコンストラクトと比較して、ルシフェラーゼ活性およびmRNAレベルを減少させる。
TS−3’UTRの制御における-6 bp/1494欠失の効果を決定するため、欠失多型を有する一連のコンストラクトを作製した。多型は3’UTRの遠い遠位領域にあるため(図8A、495のヌクレオチド456におけるギャップにより示されている)、全長または3’UTRの近位末端からの一連の欠失のいずれかのコンストラクトを作製する必要があった。
【0098】
293細胞に -6 bp/1494コンストラクトを一過性にトランスフェクトして、一晩インキュベートした。細胞をハーベストし、可溶化物を上記のルシフェラーゼ活性またはルシフェラーゼmRNAレベルのいずれかについてのアッセイを行った。全長の-6 bp/1494(1-489)コンストラクトは、その+6 bp/1494対応物(1-495)と比較して、〜35%減少したルシフェラーゼ活性(p<0.05)を有していた(図8B、黒いバー)。ルシフェラーゼ活性におけるこの減少はmRNAレベルにおける同様の減少と相関しており(図8B、白いバー)、+6 bpおよび-6 bpコンストラクトの間のルシフェラーゼ活性における変化がmRNA安定性における変化によるものであり、翻訳サイレンシングによるものでないことを示唆している。+6 bpおよび-6 bpコンストラクトの間のルシフェラーゼ活性およびmRNAレベルにおける有意な差は、300-495コンストラクト対300-489コンストラクト、および400-495コンストラクト対400-489コンストラクトについても観察された。
【0099】
これらの結果はさらに、-6 bp/1494コンストラクトが、+6 bpを有するTS−3’UTRコンストラクトと比較して、有意に減少したmRNA安定性を有していたことを証明している。ルシフェラーゼ活性およびmRNAレベルにおける減少の間の相関により観察されたように、-6 bp/1494に由来する増加した翻訳抑制に関する証拠はなかった。
【0100】
3.TS−3’UTRにおける-6 bp/1494欠失は、減少したメッセージ安定性を引き起こす。
ルシフェラーゼタンパク質およびmRNAレベルの減少が、減少したメッセージ安定性によるものであるという説を支持するために、mRNA減衰アッセイを行った。新たな転写を阻害するアクチノマイシンDで細胞を処置することにより、特定の転写物の相対的半減期またはmRNA減衰率を測定することができる。細胞に、+6 bpまたは-6 bp/1494 TS−3’UTRコンストラクトのいずれかをトランスフェクトし、新たな転写を阻害するためにアクチノマイシンを処置した。細胞を6時間の間、処置後から2時間ごとにハーベストし、全RNAを得て、ルシフェラーゼmRNAレベルのRT-PCR解析に用いた。結果は、時間0において残存しているmRNAのパーセンテージを0として示している。
【0101】
全長(1-495)TS−3’UTRコンストラクトは、pGL3コントロールの70%と比較して、6時間後に93%のmRNA残存を有しており(図9)、6時間後もTS−3’UTRが極めて安定であることを示している。-6 bp/1494(1-489)TS 3’UTRコンストラクトは、その+6 bp/1494対応物と比較して、6時間後には45%減少したmRNA残存を有していた(p<0.05)。300-495(+6 bp)および300-489(-6 bp)コンストラクトは、ルシフェラーゼ活性およびmRNAレベルにおいて最も大きな差を示したので、このアッセイにも使用した。300-489(-6 bp)コンストラクトは、野生型300-495(+6 bp)対応物と比較して、6時間後に38%減少したmRNA残存を有していた(p<0.05)。これらの結果は、-6 bp/1494欠失多型を有するTS−3’UTRコンストラクトにおけるルシフェラーゼmRNAレベルの減少が、mRNAの増加した分解率によるものであり、翻訳効率の変化によるものでないことを確認している。
【0102】
4.-6 bp/1494欠失多型は、腫瘍内TS mRNAレベルに関係している。
インビトロでのデータが、-6 bp/1494多型が減少したmRNA安定性を引き起こすことを証明したことから、次に、この多型がインビボにおけるTS mRNAの低発現に関係しているかどうかを決定した。リアルタイムTaqman RT-PCRを用い、進行性結腸直腸癌を有する43人の個体において、腫瘍内のTS mRNA発現を測定し、βアクチンmRNAに対して標準化した。+6 bp/1494多型にTS遺伝子発現を関連づけるために、以前に記載されているように(Ulrich, 2000)、全血から採取されたゲノムDNAからのRFLP解析により、これらの個体を多型についてスクリーニングした。
【0103】
多型に関する遺伝子型の分布は(表3)、挿入のホモ接合体(+6 bp/+6 bp)が30%であり、欠失多型のヘテロ接合体(+6 bp/-6 bp)が56%であり、欠失多型のホモ接合体(-6 bp/-6 bp)が14%であった。TS mRNA発現の幾何平均(表3)は、挿入のホモ接合体(+6 bp/+6 bp)である個体において最も高く(11.35)、欠失多型のホモ接合体(-6 bp/-6 bp)である個体において最も低かった(2.71)。多型のヘテロ接合体(+6 bp/-6 bp)である個体においては、TSの平均発現値は、2つの両端の間に入った。遺伝子型(+6 bp/+6 bp対-6 bp/-6 bp)およびmRNAの間の関係の比較は、統計学的に有意であった(p=0.007)。さらに、遺伝子型とTS mRNAレベルの間の全体的な比較も統計学的に有意であった(p=0.017)。
【0104】
表3.43人の結腸直腸癌を有する白人個体間での、転移性腫瘍組織におけるTS mRNAレベルの測定および-6 bp/1494欠失多型の分布。
【表3】

サンプル集団における個体の総数。
TS平均=βアクチンmRNAに対するTSのmRNA発現の幾何平均。
95%信頼区間。
全体の比較についてのp値はF検定に基づいており、他の全てのp値はLSD(最小有意差)検定に基づいている。
【0105】
これらの発見は、-6 bp/1494多型が減少したmRNA安定性に関係するという我々のビトロのデータと一致しており、この関係のインビボでの証拠をさらに提供している。
【0106】
5.-6 bp/1494欠失多型は、異なる民族集団間で大きく変化する。
上記で引用したRFLP解析を用い、カリフォルニアのロサンゼルスの非ヒスパニック系白人、ヒスパニック系白人およびアフリカ系アメリカ人において、-6 bp/1494欠失多型の頻度を評価した(表4)。
【0107】
表4.非ヒスパニック系白人、ヒスパニック系白人、アフリカ系アメリカ人およびシンガポール中国人個体間における-6 bp/1494欠失多型の分布。
【表4】

サンプル集団における個体の総数。
【0108】
非ヒスパニック系白人における多型の遺伝子型頻度は、ホモ接合体(+6/+6)が40%、ヘテロ接合体(+6/-6)が38%、欠失多型のホモ接合体(-6/-6)が22%であった。この多型の分布は、白人における先の報告と一致している(Ulrich, 2000; Kumagai, 2003)。多型の遺伝子型頻度は、ヒスパニック系白人においては(+6/+6)が58%、(+6/-6)が33%、および(-6/-6)が9%であり、アフリカ系アメリカ人においては(+6/+6)が25%、(+6/-6)が46%、および(-6/-6)が29%であった。3つの人種−民族群にわたって、遺伝子型頻度における統計学的有意差があった(p<0.0001)。同時に2つの人種−民族群間の遺伝子型分布により比較する場合には、非ヒスパニック系白人対アフリカ系アメリカ人を除いて、全てのペアワイズ比較が統計学的有意差をもたらした。
【0109】
III.材料および方法
組み換えUSF-1の発現、精製およびリン酸化、ならびにUSF-2の発現
USF-1(Gregor et al., 1990)をコードするcDNAを34Luヒト肺線維芽細胞cDNAから増幅した。上流プライマーは5’−CGGGATCCATGAAGGGGCAGCAGAAAACAG−3’[配列番号2] であり、下流プライマーは5’−GCTCTAGATTAGTTGCTGTCATTCTTGATGACGA−3’[配列番号3] であり、それぞれBamHIおよびXbaI制限酵素部位を付加した。PCRはAccuzyme DNAポリメラーゼ(Bioline)を用いて下記条件下:94℃30秒、59.3℃30秒および72℃45秒で30サイクル行った。産物をBamHIおよびXbaIで消化し、発現するタンパク質のN末端に6−ヒスチジンタグを付加するpProEX-HTbベクター(Invitorogen)にインフレーム(in-frame)でクローニングした。プラスミドで大腸菌のDH5α株を形質転換させ、培養物に最終濃度0.6mMでIPTGを加えることにより、タンパク質の発現を誘導した。誘導の後、細胞を10000×gで10分間遠心し、4倍量の可溶化バッファー(20mM Tris-HC、4℃でpH8.5、100mM KCl、5mM 2−メルカプトエタノール、1mM PMSF)に再懸濁した。細胞をフレンチプレス(French press)で可溶化し、細胞の破片を遠心により除去した。pProEX-HT Prokaryotic Expression System(真核生物発現システム)プロトコールに従って、上清をNi-NTAレジンカラムにのせ、組み換え6−ヒスチジンタグUSF-1を単離した。
【0110】
USF-1のDNA結合能を活性化させるために、cdc2/p34を用いて組み換えタンパク質をインビトロでリン酸化した。cdc2/p34はマウスモノクローナル抗体(sc-54、Santa Cruz Biotechnologies)を用いて免疫沈降により単離した。インビトロでのリン酸化反応は、6μlの5×cdc2キナーゼバッファー(1M Tris-HCl, pH7.5、1M MgCl2および1Mジチオスレイトール)、1μlの1mM ATP/1mM MgCl2(リン酸化の可視化のため1mM [γ-32P]ATP/1mM MgCl2)、200ngの組み換えUSF-1ならびに6μlのH2Oを、cdc2/p34に結合しているプロテインAセファロースビーズ15μlに加えることにより行った。反応を30℃で20分間行い、次いで12.5%のSDS-PAGEゲルにロードして泳動した。ゲルを乾燥させ、[γ-32P]ATPの取り込みを可視化するために、Kodak Biomax Maximum Sensitivityフィルムを用いてカートリッジ内にセットした。
【0111】
USF-2のcDNAを34Lu cDNAから増幅し(上流プライマーは5’−CCGGAATTCCATGCCATGGACATGCTGGACCC−3’[配列番号4] 、下流プライマーは5’−GCTCTAGACATGTGTCCCTCTCTGTGCTAAGG−3’[配列番号5] 、それぞれBamHIおよびXbaI制限酵素部位を付加)、PCRはAccuzyme DNAポリメラーゼ(Bioline, Denville Scientific)を用いて下記条件下:94℃30秒、62℃30秒および72℃45秒で30サイクル行った。USF-1およびUSF-2のcDNAは、一過性トランスフェクションの実験において発現させるために、pCI-neoプラスミドベクター(Promega)へクローニングした。
【0112】
電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)
TS5’制御領域からの野生型(R)またはバリアント(RV)28bpタンデムリピートに対応する合成2本鎖オリゴヌクレオチド(Integrated DNA Technologies)を、Gel-Shift Assay Kitプロトコール(Promega)にしたがって、[γ-32P]ATP(Amersham Pharmacia Biotech)でラベルした。各ゲルシフト反応では、10mM Tris-HCl, pH7.5、50mM NaCl、0.5mM ジチオスレイトール、0.5mM EDTA、4%グリセロール、1mM MgCl2および0.1μgのポリ(dIdC)DNAを含む20μlの反応混合物中で、10000cpmのラベルされたプローブを20分間室温で〜30ngの組み換えUSF-1と共にインキュベートした。示された場合には、ラベルされたプローブを添加する前に、ラベルされていない競合オリゴヌクレオチドを核抽出物と共に10分間室温でインキュベートした。
【0113】
組み換えUSF-1を用いる反応は、〜30ngのUSF-1またはリン酸化USF-1を含んでいた。サンプルを4%の非変性アクリルアミドゲルにロードし、350Vで4℃にて0.5×TBEバッファー中で電気泳動した。ゲルを乾燥させ、Kodak Biomax Maximum Resolution Filmを用いてオートラジオグラフィーにより可視化した。オリゴヌクレオチドの配列は下記の通りであった:TS野生型リピート(R)、5’−CCGCGCCACTTGGCCTGCCTCCGTCCCG−3’[配列番号6];TSバリアントリピート(RV)、5’−CCGCGCCACTTcGCCTGCCTCCGTCCCG−3’[配列番号7];USF-1特異的競合オリゴヌクレオチド(Santa Cruz Biotechnology)、5’−CACCCGGTCACGTGGCCTACACC−3’[配列番号8];USF-1変異体競合オリゴヌクレオチド(Santa Cruz Biotechnology)、5’−CACCCGGTCAATTGGCCTACACC−3’[配列番号9];非特異的競合剤としてポリ(dIdC)(Sigma)。
【0114】
クロマチン免疫沈降アッセイ(ChIP)
293細胞からのクロマチン免疫沈降アッセイは、製造者のプロトコールにしたがい、ChIPアッセイキット(Upstate Biotechnologies)を用いて行った。簡潔には、1×106個の細胞を10cmディッシュに播種し、37℃で一晩インキュベートした。タンパク質のDNAへのクロスリンクは、37%ホルムアルデヒドを最終濃度1%で増殖培地に添加することにより行った。クロスリンク反応は、10分間37℃で行った。細胞を、プロテアーゼ阻害剤(Protease inhibitor cocktail set III, Calbiochem)を含有する氷冷PBS中で洗い、コニカルスクリューキャップチューブにかき集めた。細胞を遠心してSDS可溶化バッファーに再懸濁し、次いで、Branson 450 sonifierを用いて、氷上、全出力で10秒間3回ソニケートを行って、DNAを200〜1000 bpの断片に剪断した。サンプルを遠心し、各目的タンパク質について、ソニケートされた細胞の上清20μlを1800μlのChIP希釈バッファーで希釈した。
【0115】
プロテインAアガロースに結合したサケ精子DNAを加えて、スピンダウンし、非特異的バックグラウンドを除いた。ウサギポリクローナル免疫沈降抗体(USF-1, sc-229x; USF-2, sc-861x, Santa Cruz Biotechnologies)を各チューブに加え、回転させながら4℃で一晩インキュベートした。サケ精子DNA/プロテインAアガロースを1時間4℃で加え、沈殿させて、抗体/タンパク質/ヒストン/DNA複合体を分離した。タンパク質−DNA複合体を洗浄して溶出し、65℃で4時間サンプルを加熱することによりクロスリンクを外した。DNAをフェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により回収した。RFLPプロトコールにおけるのと同じPCRプライマーおよび条件を用い、PCRを行った。
【0116】
レポータープラスミドの作製
遺伝子の5’エクソン上流のゲノム配列に位置するTSプロモーターを同定し、単離した。プライマーは、転写開始に対して-313および+195の位置に設計し、PCR反応により、3R遺伝子型については508 bpおよび2R遺伝子型については480 bpの産物を産生した。3RV DNAを単離するために、ヒトゲノムDNAのランダム集団からPCR増幅を行い、直接、産物を配列決定した(Davis Sequencing)。プロモーターのないpGL3-Basicルシフェラーゼレポーター遺伝子ベクター(Promega)に、ルシフェラーゼ遺伝子転写開始のすぐ上流のSstIおよびXhoI部位で、断片をクローニングした。部位特異的変異誘発を製造者(Promega)のプロトコールに従って行い、2Rおよび3Rコンストラクト両方の最初の28 bpタンデムリピート内にあるUSF-1 E−ボックスコンセンサスエレメントを変異させた。変異原性オリゴヌクレオチドプライマー配列は、5’−GTCCTGCCACCGCGCgtCTTGGCCTGCC−3’[配列番号10](Integrated DNA Technologies)であり、2RmutUSFおよび3RmutUSF レポーターコンストラクトを産生した。全てのプラスミドDNAは単離し、Qiagen mini-およびmidi-prep kitをもちいて精製した。
【0117】
細胞培養および一過性トランスフェクション
ヒト胎児腎臓293細胞(American Type Culture Collection)を6ウェルディッシュに5×105細胞/ウェルの密度で播種し、ウシ胎仔血清5%(v/v)、ペニシリン100ユニット/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、ピルビン酸塩10mMおよびL−グルタミン 2mMを補充した2.5mlのDMEM培地中で一晩インキュベートした。翌日、増殖培地を細胞から吸引し、無血清Opti-MEM培地(Invitrogen)2.5mlにより置換した。合計5μgのプラスミドDNA(トランスフェクション効率の標準化のためpCMV−β−galactosidase (Invitrogen)を1μg、USF-1/pCI-neoまたはpCI-neoを1μg、およびレポーターコンストラクトを3μg)を250 μlのOpti-MEMで希釈した。250μlのOpti-MEMおよび15μlのLipofectamine 2000 reagent(Invitrogen)を含む溶液を室温で5分インキュベートし、前のステップからのDNAを含む溶液と混合した。室温での20分間のインキュベーションの後、DNA−Lipofectamine溶液を円を描くように293細胞に一滴ずつ添加し、37℃で2時間細胞をインキュベートした。溶液を吸引して3mlの増殖培地で置換し、細胞を37℃で一晩インキュベートして遺伝子を発現させた。
【0118】
細胞のトランスフェクション
293細胞に、プロモーターなし(pGL3-Basic)、2つのタンデムリピート(2R)を含むTS5’領域、3つのタンデムリピート(3R)を含むTS5’領域、3番目のリピートの12番目のヌクレオチドにおいてG→C SNPを有する3Rを含むTS5’領域、あるいは、変異したE−ボックス部位を有する2つまたは3つのタンデムリピートを含むTS5’領域(2RmutUSFおよび3RmutUSF)、のいずれかを含有するルシフェラーゼレポーターコンストラクト3μgをトランスフェクトした。細胞に、1μgの空pCI-NEOベクター、1μgのUSF-1 cDNAを含むベクター、1μgのUSF-2 cDNAを含むベクター、または0.5μgのUSF-1およびUSF-2を含むベクターをそれぞれコトランスフェクトした。また、トランスフェクション効率の標準化のため、細胞に1μgのpCMV−β−galactosidaseベクターをコトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後、細胞をハーベストし、可溶化し、β−ガラクトシダーゼ活性およびルシフェラーゼ活性についてアッセイを行った。これらの実験からの結果は、USF-1の存在下において2Rおよび3Rコンストラクト両方からの相対的ルシフェラーゼ活性が増加したことを示す。
【0119】
ルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼ活性は、製造者のプロトコールに従い、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いて測定した。簡潔には、細胞を可溶化試薬中にかき集めてマイクロフュージ(microfuge)チューブに移し、12000×gで30秒間遠心した。ルシフェラーゼ活性は、マニュアルルミノメーター(Turner Design, TD20/20)を用い、20μlの1:10希釈細胞可溶化液に100μlのルシフェラーゼアッセイ試薬を混合し、各サンプルについて10秒間隔で3回読み取ることにより測定した。トランスフェクション効率は、細胞可溶化物のβ−ガラクトシダーゼアッセイ(Promega)を用いて、420nmでの吸収を読むことにより得た。相対的ルシフェラーゼ活性は、トランスフェクション効率係数に対してルシフェラーゼ活性を標準化することにより定量した。
【0120】
制限酵素断片長多型解析による2R、3Rおよび3RVの遺伝子型同定
ゲノムDNAは、100人の結腸直腸癌患者から、QiaAmp kit(Qiagen, Valencia, CA)を用いて200μlの全血から単離した。タンデムリピートを含むDNA領域を単離するために、PCRプライマーを転写開始に対して+15および+195の位置に設計した。上流プライマーの配列は5’−CGAGCAGGAAGAGGCGGAG−3’[配列番号11]であり、下流プライマーの配列は5’−TCCGAGCCGGCCACAGGCAT−3’[配列番号12]であった。35サイクルのPCRを94℃30秒、60℃30秒および72℃1分で行った。PCR反応物の15μlを20μlの反応量でHaeIII制限酵素により消化した。各患者からの消化されたPCR産物および消化されていないPCR産物を、エチジウムブロマイド(0.5mg/ml)を含有する3%のsea plaqueアガロース(BioWhittaker Molecular Applications)ゲルの隣接したレーンにロードし、0.5×TBE中で電気泳動した。全てのサンプルについて別の研究者により遺伝子型同定を2回行った。
【0121】
患者の選別
TS遺伝子内の新規SNPの存在は、非ヒスパニック系白人において確認された。個体(病気のないコントロール)は、Castelao et al., 2001において記載されているようにカリフォルニアにおいて癌症例制御研究(cancer-case control study)のために当初募集された。この研究に含まれる患者は、転移性結腸直腸癌を有しており、下記プロトコール:1995年5月に発生して開始し、1999年5月に終了した、Southwest Oncology Groupプロトコール9420(患者19人、5-FUの用量は:毎週CI(連続注入)300 mg/m2/d対CI2600 mg/m2/d qで用いられた);および1992年9月に発生して開始し、1995年6月に終了した、the University of Souther Californiaプロトコール:3C-92-2(患者21人、5-FUの用量は:1週間の停止後3週間、毎週CI(連続注入)200 mg/m2/d qで用いられた)に登録された。全ての患者は臨床試験に参加することおよびTS多型を評価することについてのインフォームドコンセントに署名した。TS多型についての遺伝子型同定は、全ての患者において、パラフィン包埋された組織で行われた。
【0122】
全ての患者は、プロトコールにエントリーする際に、2つの寸法で測定可能な病気(bi-dimensionally measurable disease)を有していた。治療に対して反応する者を、その腫瘍の大きさ(全体として測定可能な病変の最大直径および垂直方向の直径の結果の合計)が少なくとも6週間で50%以上減少した患者に分類した。病気の進行は、(最小の大きさと比較して)腫瘍の大きさの25%以上の増加、または新しい病変の出現として定義した。5-FU/ロイコボリン(Leucovorin)の開始から最初の12週間以内に反応がなく、かつ進行しなかった患者を安定した病気を有すると分類した。
生存は、5-FUによる化学療法からいかなる原因かを問わず死に至るまでの月数として計算した。最後の追跡評価で生存していた患者は、その時点で打ち切られた。
【0123】
統計解析
分割表(contingency table)およびフィッシャーの正確検定(Metha et al., 1983)を用いて、TS遺伝子型と5-FUに対する反応(反応、病気安定および病気進行として分類)との関係をまとめた。カプラン−マイヤープロット(Kaplan et al., 1958)およびログランク検定(Miller et al., 1981)を用い、TS遺伝子型にしたがって患者の生存を比較した。生存のメジアンは、カプラン−マイヤー推定量に基づいて計算した。全てのp値は両側検定による。
【0124】
3’UTR細胞培養における6塩基対欠失の調製および研究
293ヒト胎児腎臓(HEK)細胞株をATCCから得て、ウシ胎仔血清5%(v/v)、ペニシリン100ユニット/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、ピルビン酸塩10mMおよびL−グルタミン 2mMを補充したダルベッコ改変イーグル培地中で培養した。全ての実験に用いられる細胞はコンフルエントであり、ATCCによる供給された元のストックから継代10回以内で使用した。
【0125】
レポーター遺伝子作製
XbaI消化断片と適合する末端を産生するSpeI認識配列中で終了するプライマーを用いるPCRにより、3’UTRをコードするチミジル酸合成酵素遺伝子の種々の領域をゲノムDNAから増幅した。+6 bp/1494多型および-6 bp/1494多型を含む産物を、ヒトゲノムDNAを先に記載されている(Ulrich, 2000)RFLP解析による各多型のホモ接合体テンプレートサンプルについて予備スクリーニングを行うことにより、PCRを用いて得た。DNA断片を消化し、アガロース電気泳動により精製して、DNAゲル抽出キット(Millipore)を用いて抽出した。PCR産物は、唯一のXbaI部位でホタルルシフェラーゼ遺伝子の3’−UTR内においてpGL3コントロールベクターとライゲーションした。全てのコンストラクトの方向、配列、および1494多型を配列決定により確認した(Davis Sequencing)。
【0126】
一過性トランスフェクション
LipofectAMINE 2000トランスフェクション試薬(Invitrogen)を用いて293細胞に一過性にトランスフェクトした。細胞を6ウェルプレートに1×106細胞/ウェルの密度で播種し、一晩培養した。トランスフェクションは製造者のプロトコール(Invitrogen)に従って行った。1.5μgのレポーター遺伝子プラスミドDNAおよび標準化のための0.5μgpCMV−β−ガラクトシダーゼプラスミドDNA(Invitrogen)を、4μlのトランスフェクション試薬と共に500μlの無血清培地中へ混合し、20分間室温でインキュベートした。DNA−LipofectAMINE複合体を各ウェルに滴下添加し、細胞を遺伝子発現のために一晩インキュベートした。トランスフェクションから24時間後、細胞を、アクチノマイシンDにより処置するかまたは、ルシフェラーゼアッセイもしくはmRNA定量のために培養ディッシュ中で可溶化した。
【0127】
ルシフェラーゼ活性は、製造者のプロトコールに従い、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いて測定した。350μlの細胞培養可溶化試薬を各ウェルに加え、細胞をかき集めてマイクロフュージチューブに移した。細胞の破片を、12000rpmで2分間遠心することにより除いた。上清を細胞培養可溶化試薬中に1:10で希釈し、ルシフェラーゼ活性をマニュアルルミノメーター(TD20/20, Turner Design)を用いてアッセイした。
【0128】
ルシフェラーゼアッセイは、20μlの希釈された上清に100μlのルシフェラーゼアッセイ試薬を混合することにより行った。各サンプルについてトリプリケート(triplicate)で10秒間にわたり発光を測定した。相対的ルシフェラーゼ活性は、測定値を平均し、次いでβ−ガラクトシダーゼ活性を測定することによるトランスフェクション効率に対して標準化することにより算出した。相対的β−ガラクトシダーゼ活性は、アッセイキット(Promega)を用いて420nmにおけるサンプルの吸収を決定することにより測定した。全てのルシフェラーゼの値は、pGL3コントロールと比較した相対的ルシフェラーゼのパーセンテージとして表されている。
【0129】
半定量逆転写PCR
全RNAは、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて、トランスフェクトされた細胞から単離した。レポータープラスミドDNAおよびゲノムDNAの増幅を除くため、全RNAをミニカラム上でDNase Iにより処置した。全RNAは、One Step RT-PCR Kit(Qiagen)を用いたRT-PCRにより、増幅を定量し標準化した。cDNAを2%アガロースゲルで泳動し、ルシフェラーゼおよびグリセルアルデヒド−3−ホスフェート(GAPDH)産物のバンド強度をEagle Eyeソフトウェア(Stratagene)を用いてデンシトメトリー(densitometry)により定量した。ルシフェラーゼ増幅プライマーは、フォワードプライマーが5’−GCCTGAAGTCTCTGATTAAGT−3’[配列番号13]、およびリバースプライマーが5’−ACACCTGCGTCGAAGATGT−3’[配列番号14]であった(97 bp産物)。
【0130】
GAPDHの増幅プライマーは、フォワードプライマーがCCCCTGGCCAAGGTCATCCATGACAACTTT[配列番号15]、リバースプライマーがGGCCATGAGGTCCACCACCCTGTTGCTGTA[配列番号16]であった(510bp産物)。15pmolの各ルシフェラーゼプライマーおよび3pmolの各GAPDHプライマー(内部コントロール)を各反応において用いた。PCR条件は:RT反応に50℃で30分間ホットスタート、そして95℃15分、引き続いて94℃1分、58℃1分、72℃1分30秒を25サイクル、続いて72℃10分からなっていた。各RNAサンプル中のルシフェラーゼメッセージの量は定量し、GAPDH含量に対して標準化し、pGL3コントロールベクターをトランスフェクトした細胞と比較したルシフェラーゼcDNAのパーセンテージとして表している。
【0131】
レポーター遺伝子mRNA減衰
293(HEK)細胞に一過性にトランスフェクトし、24時間インキュベートしてルシフェラーゼ遺伝子を発現させた。培地を吸引し、新たな転写を阻害するために、アクチノマイシンD(10μg/ml)を含有する培地で置換した。アクチノマイシンD処置後、種々の時点で全RNAを抽出し、ルシフェラーゼmRNA含量を上記のようにRT-PCRにより測定した。ルシフェラーゼmRNAレベルはGAPDH mRNA含量に対して標準化し、時間0におけるmRNAレベルのパーセンテージとして表されている。データはPrismプログラム(Graph Pad, Inc)を用いて線形回帰分析によりプロットした。
【0132】
統計解析
全ての実験はデュプリケートで別の時に3回行った。データは平均値±S.E.として表されている。平均値の比較はスチューデントのt検定を用いて行った。
患者の選別、mRNA定量および統計解析
この研究における43人の患者は、進行性結腸直腸癌を有しており、以前に処置されていなかった。全ての患者は、組織の収集ならびに5-FUの有効性および毒性の決定要因の評価についてのインフォームドコンセントに署名した。PCR増幅およびRFLP解析を行い、先に記載されているように(Ulrich, 2000)各患者のTS 6bp/1494遺伝子型を同定した。他で詳細に記載されているように(Horikoshi, 1992)定量的RT-PCR法を用いて、TS mRNAを測定した。
【0133】
アレル頻度解析
TS遺伝子型測定は、先に記載されているように(Ulrich, 2000)RFLPに基づく解析を用いて、カリフォルニアのロサンゼルスの63人の非ヒスパニック系白人、98人のヒスパニック系白人および59人のアフリカ系アメリカ人対象において、ならびにシンガポールの80人の中国人対象において行った。63人の非ヒスパニック系白人対象は、ロサンゼルス群で最近終了した集団に基づく膀胱癌の症例制御研究(Castelao, 2001)からの691人の白人コントロールのランダムサンプルを代表していた。59人のアフリカ系アメリカ人(34人の膀胱癌症例および25人のコントロール)ならびに98人のヒスパニック(50人の膀胱癌症例および48人のコントロール)対象もまた、このロサンゼルス膀胱癌研究(Los Angeles Bladder Cancer Study)(Castelao, 2001)の参加者であった。アフリカ系アメリカ人対象またはヒスパニック系白人対象の間には、膀胱癌症例とコントロールとの間に遺伝子型分布において、統計学的な有意差は存在しなかった。したがって、頻度は、各人種内で全ての対象を組み合わせて報告された。80人のシンガポール中国人対象は、食事と癌の発症に焦点を当てた継続中の展望的集団研究である、シンガポール中国人衛生研究(Singapore Chinese Health Study)(Seow, 2002)の63000人の参加者のランダムサンプルであった。カイ二乗検定は、人種による遺伝子型の分布における起こり得る差異を調べるために用いられた。付された全てのp値は両側検定による。0.05未満のp値は、統計学的に有意とみなした。
【0134】
【表5】

【0135】
【表6】

【0136】
【表7】

【0137】
【表8】

【0138】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】ヒトTS遺伝子の5’非翻訳領域内のタンデムリピート多型の配列図である。
【図2】HT29核抽出物のヒトTS遺伝子のタンデムリピート内のE−ボックス部位にUSFタンパク質が結合することを示すゲルである。
【図3A】USF-1活性の異なる側面を示すゲルの写真である。
【図3B】USF-1活性の異なる側面を示すゲルの写真である。
【図3C】USF-1活性の異なる側面を示すゲルの写真である。
【図3D】USF-1活性の異なる側面を示すゲルの写真である。
【図4】ChIPアッセイの結果である。
【図5A】TSルシフェラーゼレポーターコンストラクトの構造の図である。
【図5B】USF-1によるTS遺伝子プロモーターの活性化のレベルを示す棒グラフである。
【図6】図6Aは、RFLP解析において生成するTSタンデムリピート断片のHaeIII制限酵素地図である。図6Bは、タンデムリピートおよびG→CSNPのスクリーニングに用いられる制限酵素断片長多型(RFLP)解析の結果である。
【0140】
【図7】TSの3’UTRが、転写の不安定性および翻訳サイレンシング(silencing)のエレメントを含まないことを示す。図7Aは、TS 3’UTRの近位および遠位末端の欠失を有するキメラルシフェラーゼレポーターコンストラクトの構造を示す。 図7Bは、TS 3’UTRレポーターコンストラクトの活性およびmRNAレベルを示す。
【図8】-6 bp/1494欠失多型が、+6 bp/1494コンストラクトに比べて、ルシフェラーゼ活性およびメッセージレベルの減少を引き起こすことを示す。図8Aは、+6 bp/1494の挿入もしくはTS -6 bp/1494欠失多型のいずれかを含む、3’UTRの近位末端の欠失を有するキメラルシフェラーゼレポーターコンストラクトの構造を示す。図8Bは、TS 3’UTRレポーターコンストラクトの活性およびmRNAレベルを示す。
【図9】-6 bp/1494欠失多型が減少したmRNA安定性をもたらすことを示す。
【配列表】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の単離された核酸分子であって、配列中、12番目のヌクレオチドにおいてGがCにより置換されている、前記分子。
【請求項2】
請求項1の単離された核酸分子および配列番号1の単離された核酸分子であって、前記2つの単離された核酸分子はチミジル酸合成酵素(TS)遺伝子の5’領域において単一ヌクレオチド多型の形態である、前記分子。
【請求項3】
請求項1の単離された核酸分子にハイブリダイズするが、配列番号1の単離された核酸分子にハイブリダイズしない、一本鎖核酸プローブ。
【請求項4】
核酸がDNAである、請求項3のプローブ。
【請求項5】
プローブが検出可能にラベルされている、請求項3のプローブ。
【請求項6】
診断キットであって、請求項3により定義されるプローブ、および/または請求項1の分子に特異的にハイブリダイズして該分子を検出する8〜40ヌクレオチドのアレル特異的核酸プライマー、ならびに使用のための取扱説明書を含む、前記キット。
【請求項7】
プライマーが12〜35ヌクレオチドからなる、請求項6の診断キット。
【請求項8】
プライマーが17〜35ヌクレオチドからなる、請求項6の診断キット。
【請求項9】
ハイブリダイゼーションが、TS遺伝子の減少した転写活性、および対応する病気発症の減少したリスクを表す、請求項6の診断キット。
【請求項10】
病気が、癌または循環器疾患である、請求項9の診断キット。
【請求項11】
個体が、癌または循環器疾患に対する増大した素因をより高い見込みで有するかまたは有することを判断するための方法であって:
(a)個体から、チミジル酸合成酵素を包含する核酸分子を含むサンプルを得ること;そして
(b)TS遺伝子における1または2以上の多型を検出すること、ここで
(i)TS遺伝子の5’領域において3R/3Rコンストラクトを有する個体は、3R/3RV、2R/2R、2R/3Rまたは2R/3RVコンストラクトを有する個体と比較して、増大した素因をより高い見込みで有するかまたは有しており;
(ii)TS遺伝子の+6 bp/1494 3’非翻訳領域多型を有する個体は、TS遺伝子の-6 bp/1494 3’非翻訳領域多型を有する個体と比較して、増大した素因をより高い見込みで有するかまたは有しており;
(iii)TS遺伝子において5’領域の3R/3Rコンストラクトと+6 bp/1494 3’非翻訳領域多型とを両方有する個体は、癌または循環器疾患を発症する最も高い蓋然性を最も高い見込みで有するかまたは有している、
を含む、前記方法。
【請求項12】
TS遺伝子の5’領域において3R/3Rコンストラクトを有する個体が、各3R部分において2つの活性なUSFコンセンサス配列を有し、その結果、2Rコンストラクトまたは可変の3RVコンストラクトのいずれかにおいて1つの活性なUSFコンセンサス配列を有する対象と比較して、より大きな転写活性をもたらす、請求項11の方法。
【請求項13】
検出するステップが、TS遺伝子を含有する核酸分子の一部を増幅することを含む、請求項11の方法。
【請求項14】
増幅がポリメラーゼ連鎖反応の方法を用いる、請求項13の方法。
【請求項15】
判断するステップが、TS遺伝子を含有する核酸分子の一部を配列決定することを含む、請求項11の方法。
【請求項16】
判断するステップが、高処理能力スクリーニングの使用を含む、請求項11の方法。
【請求項17】
3Rコンストラクトが配列番号1を含み、そして3RVコンストラクトが配列番号1を含み、配列中、位置12においてGがCにより置換されている、請求項11の方法。
【請求項18】
位置12におけるCによるGの置換が、化学療法剤または抗CVD剤の有効性に関連しており、ここで、位置12におけるCによるGの置換が生じている場合には、前記置換が生じていない場合よりも化学療法剤または抗CVD剤がより有効である、請求項17の方法。
【請求項19】
TS遺伝子が対象の体液に由来する、請求項11の方法。
【請求項20】
体液が血液である、請求項19の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−506983(P2006−506983A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−547010(P2004−547010)
【出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2003/033441
【国際公開番号】WO2004/037852
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(502175099)ユニバーシティ オブ メディシン アンド デンティストリー オブ ニュージャージー (1)
【出願人】(301042871)ユニバーシティー・オブ・サウザーン・カリフォルニア (1)
【Fターム(参考)】