説明

癌検出のための方法およびプローブのセット

【課題】 十分な感度を維持しつつ、迅速に癌を検出できる方法を提供する。
【解決手段】
(a) 染色体プローブのセットを被験者由来の生物学的サンプルにハイブリダイズさせ、
(b) 上記生物学的サンプルから細胞を選択し、
(c) 上記選択した細胞における異数染色体性細胞の有無を判定し、
(d) 上記選択した細胞における異数染色体性細胞の存在を被験者の癌と相関させる、
ことを含んでなる被験者の癌をスクリーニングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
米国では、膀胱癌は五番目に多い新生物であり、癌による死亡原因の第12位に位置する。米国では、毎年53,000人を超える新たな患者が膀胱癌と診断されている。米国において、膀胱癌患者の95%以上が、移行上皮癌(TCC、また、尿路上皮癌と呼ばれることもある)である。腫瘍の病期によって、膀胱癌患者の予後が最もよく予測できる。膀胱癌は、腫瘍の侵襲深度に応じて、また、リンパ節や遠隔転移があるかどうかによって、病期を決定する。非侵襲性の乳頭状腫瘍(最も一般的で、進行性が最も低いタイプの膀胱癌)は、pTa期腫瘍と呼ばれる。「偏平」TCC(より一般的には「上皮内癌」(CIS)と呼ばれる)は、より進行性だが、一般的ではない腫瘍で、侵襲性疾患の進行速度が速い。CISには、pTIS期が当てられる。上皮の基底膜を通って、その下にある固有層に侵入した腫瘍には、pT1期が当てられる。膀胱の筋肉に侵入した腫瘍はpT2期腫瘍である。さらに、筋肉を通って膀胱周囲の組織に侵入した腫瘍はpT3腫瘍である。また、周囲の器官に侵入した腫瘍はpT4腫瘍である。「表在性」膀胱癌という用語は、pTa、pTISおよびpT1腫瘍を指す。筋肉侵襲性膀胱癌は、pT2、pT3およびpT4腫瘍を指す。
【0003】
膀胱癌患者の約80%が、「表在性」膀胱癌であり、残り20%が筋肉侵襲性膀胱癌である。「表在性」膀胱癌患者には、膀胱切除術(すなわち、膀胱の除去)は必要ないが、腫瘍再発の危険性が高いため、定期的に(通常、初めの2年間は3ヵ月毎、次の2年間は6ヵ月毎、その後は年1回)腫瘍の再発および/または進行について監視する。表在性膀胱癌の治療は、一般に、乳頭状腫瘍の外科切除と、カルメット・ゲラン菌(BCG)によるCISの治療とから成る。筋肉侵襲性疾患患者は、膀胱切除術により治療するが、「表在性」膀胱癌患者と比べると予後が比較的悪い。残念なことには、筋肉侵襲性膀胱癌患者の80〜90%が、初めから筋肉侵襲性疾患を発病している。膀胱癌による毎年約10,000人の死亡の大部分は、このグループの患者で占められる。膀胱癌が進行した患者がこのように多く存在するという事実は、早期段階で、膀胱癌を検出するスクリーニング・プログラムが、この疾患による全体死亡率を減少させるのに役立つのではないかということを示唆している。実際に、少なくとも二つの大規模なスクリーニング研究から、膀胱癌を早期段階で特定するのにスクリーニングが役立つことが示されている。Messingら、Urology1995年45号、387〜396頁、ならびに、MayfieldおよびWhelan、Br.J.Urol.1998年82(6)号、825〜828頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過去数年にわたり、膀胱鏡検査法と尿細胞診断法が膀胱癌検出の主要な手段であった。しかし、いくつかの研究によって、細胞診断法は膀胱癌検出の感度が思いのほか低いことが明らかにされている。Maoら、Science1996年271号、656〜662頁、Ellisら、Urology1997年50号、882〜887頁、ならびにLandmanら、Urology1998年52号、398〜402頁。このために、膀胱癌検出の感度を向上させた新しいアッセイの開発に大きな関心が寄せられている。膀胱癌検出のために開発されてきた新しいアッセイの例として、例えば、BT試験(C.R.Bard社、Murrayhill,NJ)、NMP-22、FDP等の膀胱癌腫瘍抗原を検出する試験、テロメラーゼ活性の増加(通常、悪性腫瘍に伴う)を検出する試験、または、尿細胞および膀胱洗浄物の遺伝子変化を検出する試験(例えば、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)およびマイクロサテライト分析)が挙げられる。FISH分析は、他の検出方法より高感度であるが、多数の細胞を数えなければならないため、分析には時間と費用がかかる。このため、十分な感度を維持しつつ、迅速に癌を検出できる方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第一に、生物学的サンプルから選択した細胞のサブセットにおける異数染色体性(aneusomic)細胞の存在に基づいて、癌検出のための迅速かつ高感度の方法が実現可能であるという発見をもとにしている。染色体異常について評価すべき細胞のサブセットを選択することによって、分析する細胞数が減少するため、迅速に分析を実施し、しかも感度を維持する、または向上させることができる。本発明はまた、FISH分析に最適の感度を達成するように選択された染色体プローブのセット、ならびに染色体プローブのセットを含む検出キットを提供する。
【0006】
さらに、本発明は、被験者の癌スクリーニング方法に関する。この方法は、染色体プローブのセットを被験者由来の生物学的サンプルにハイブリダイズさせ、該生物学的サンプルから細胞を選択し、選択した細胞における異数染色体性細胞の有無を判定し、選択した細胞における異数染色体性細胞の存在を被験者の癌と相関させる工程を含む。生物学的サンプルは、尿、血液、脳脊髄液、胸膜液、喀痰、腹膜液、膀胱洗浄物、口腔洗浄物、組織サンプル、触診サンプル(touch preps)、または細い針による吸引液でよく、使用前に濃縮してもよい。尿は特に有用な生物学的サンプルである。細胞は、核の大きさや形状等の核の形態学によって選択することができる。核の形態学は、DAPI染色法によって評価することができる。この方法は、膀胱癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、結腸直腸癌、腎臓癌、ならびに白血病等の癌を検出するのに有用である。この方法は、特に、膀胱癌の検出に適している。
【0007】
上記染色体プローブのセットは、少なくとも三つの染色体プローブを含む。このセットは、少なくとも一つの動原体プローブ、もしくは少なくとも一つの遺伝子座特異的プローブを含む。適切な動原体染色体プローブには、3番、7番、8番、11番、15番、17番、18番染色体およびY染色体に対するプローブが含まれる。適切な遺伝子座特異的プローブは、9番染色体の9p21領域に対するプローブを含む。例えば、このセットは、動原体染色体プローブ3、7、17と、さらに、遺伝子座特異的プローブ9p21を含むことができる。染色体プローブは、蛍光標識することもできる。
【0008】
本発明はまた、染色体プローブのセット、ならびにこれら染色体プローブのセットを含む癌検出キットに関する。該染色体プローブのセットは、3番、7番、および17番染色体に対する動原体プローブを含むが、さらに、9p21のような遺伝子座特異的プローブを含んでいてもよい。染色体プローブは、蛍光標識することもできる。
【0009】
別に定義しない限り、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解する意味と同じである。これまで述べたものと類似もしくは同等の方法および材料を使用して、本発明を実施することもできるが、適した方法および材料を以下に説明する。本明細書に述べる出版物、特許出願、特許、ならびにその他の参考文献は、引用により全内容を組み入れる。矛盾する場合には、定義を含め本明細書によって調整する。さらに、材料、方法、ならびに実施例は、説明のために示したに過ぎず、これらに限定されるわけではない。本発明のその他の特徴および利点は、以下に示す詳細な説明、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、癌を検出するための迅速で高感度の方法を好適に提供する。本発明は、充実性腫瘍や白血病を含む癌の疑いのある被験者のスクリーニング、または、癌と診断された患者の腫瘍再発の監視に使用することができる。例えば、膀胱癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、結腸直腸癌、頭部および頸部の癌、腎臓癌、または白血病の疑いのある被験者のスクリーニング、もしくはその再発の監視を行うことができる。一般には、染色体プローブのセットをスライドガラス上の細胞(尿由来、またはその他の生物学的サンプル)にハイブリダイズさせる。次に、スライドガラス上の細胞を比較的低い拡大能(例えば、200〜400倍)で、視覚的に走査することにより、悪性腫瘍を強く示す形態的特徴(例えば、核の膨大や凹凸のある核形状)を見いだす。細胞診断法的に異常な細胞の核を染色体異常について検査するが、この検査は、対物レンズをさらに高い拡大能のもの(例えば、600〜1,000倍)に切り換え、フィルタを「反転させる(flipping)」ことによって、細胞が異数染色体性であるか否かを判定する。この方法を使用することによって、新生物である確率が低い細胞を評価するのに費やす時間を大幅に短縮し、検査者が、新生物であると同時に、異数染色体性を示す確率がはるかに高い細胞に焦点を絞ることが可能になる。
【0011】
in situハイブリダイゼーション
異数染色体性細胞の有無は、in situハイブリダイゼーションによって判定する。「異数染色体性細胞(aneusomic cell)」とは、異常な数の染色体を有する細胞、または、特定の染色体領域の半接合体または同型接合体の損失のような染色体の構造変化が生じた細胞を意味する。典型的には、一つまたは複数の染色体増加、すなわち、任意の所定の染色体の三つ以上のコピーを有する異数染色体性細胞が、本明細書に記載した方法ではテスト陽性と考えられるが、特定の状況下では、単染色体性や零染色体性を表す細胞もテスト陽性と考えてよい場合もある。一般的には、in situハイブリダイゼーションは、生物学的サンプルを固定し、染色体プローブを、固定した該生物学的サンプルに含まれる標的DNAにハイブリダイズさせ、洗浄によって非特異結合を除去し、ハイブリダイズしたプローブを検出する工程から成る。
【0012】
「生物学的サンプル」は、細胞または細胞性物質を含むサンプルである。典型的には、生物学的サンプルは、ハイブリダイゼーションの前に濃縮して、細胞密度を高める。生物学的サンプルの非制限的例としては、尿、血液、脳脊髄液(CSF)、胸膜液、喀痰、腹膜液、膀胱洗浄物、分泌物(例えば、乳房分泌物)、口腔洗浄物、組織サンプル、触診サンプル、または、細い吸引針による吸引液等が挙げられる。本明細書に記載した方法に使用される生物学的サンプルの種類は、検出したい癌の種類によって異なる。例えば、尿や膀胱洗浄物は、膀胱癌の検出、また、これより少ないが前立腺または腎臓癌の検出に有用な生物学的サンプルとなる。胸膜液は、肺癌、中皮腫、または転移性腫瘍(例えば、乳癌)の検出に有用であり、血液は、白血病の検出に有用な生物学的サンプルである。組織サンプルについては、組織をパラフィン中に固定・配置して薄切するか、もしくは、凍結して、薄い切片に切断する。
【0013】
典型的には、標準的な技術を用いて生物学的サンプルから細胞を回収する。例えば、尿等の生物学的サンプルを遠心分離にかけ、ペレット状にした細胞を再度懸濁させることによって、細胞を回収することができる。典型的には、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で細胞を再懸濁させる。細胞懸濁液を遠心分離にかけて、細胞ペレットを得た後、例えば、酸性アルコール溶液、酸性アセトン溶液、または、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等のアルデヒド類中で細胞を固定することができる。例えば、メタノールと氷酢酸をそれぞれ3:1の比で含む固定液を固定剤として用いることができる。中性緩衝ホルマリン溶液も使用することができるが、この溶液には、37〜40%のホルムアルデヒドのリン酸ナトリウム水溶液が約1〜10%含まれる。細胞を載せたスライドガラスは、固定液の大部分を除去し、わずかな溶液に懸濁した濃縮細胞を残すことによって調製することができる。
【0014】
細胞がスライドガラス上で重なり合わないように、細胞懸濁液をスライドガラスに塗布する。細胞密度は、光学顕微鏡または位相差顕微鏡によって測定することができる。例えば、20〜100mlの尿サンプルから回収した細胞は、典型的には、最終容量が約100〜200μlの固定液中に再懸濁させる。次に、この懸濁液を三種類の容量(通常3、10、および30μl)ずつスライドガラスの6mmウェルに滴下し、各ウェルの細胞充実度(すなわち細胞の密度)を位相差顕微鏡で評価する。最大容量の細胞懸濁液を入れたウェルが十分に細胞を含んでいない場合には、細胞懸濁液を濃縮し、別のウェルに滴下する。
【0015】
in situハイブリダイゼーションの前に、上記細胞の各々に含まれる染色体プローブおよび染色体DNAをそれぞれ変性させる。典型的には、高いpH、熱(例えば、約70℃〜95℃の温度)、ホルムアミドやハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等の有機溶剤の存在下で、またはこれらを組み合わせて、インキュベートすることによって変性を実施する。例えば、染色体DNAの変性は、70℃以上の温度(例えば、約73℃)と、70%ホルムアミドおよび2×SSC(0.3M塩化ナトリウムと0.03Mクエン酸ナトリウム)を含む変性バッファーとを組み合わせることによって実施することができる。典型的には、細胞形態が保存されるように、変性条件を設定する。染色体プローブは、熱によって変性させることができる。例えば、約5分間、プローブを約73℃に加熱することができる。
【0016】
変性のための化学薬品または条件を除去した後、ハイブリダイゼーション条件の下で、プローブを染色体DNAへアニーリングさせる。「ハイブリダイゼーション条件」とは、プローブと標的染色体DNA間のアニーリングを促進する条件である。ハイブリダイゼーション条件は、プローブの濃度、塩基組成、複雑さおよび長さ、ならびに、インキュベーションの塩濃度、温度および時間に応じて異なる。プローブの濃度が高いほど、ハイブリッドを形成する確率も高くなる。例えば、in situハイブリダイゼーションは、典型的には、1〜2×SSC、50%ホルムアミド、ならびに、非特異的ハイブリダイゼーションを抑制する遮断DNAを含むハイブリダイゼーション・バッファー中で実施される。一般に、ハイブリダイゼーション条件には、前述のように、約25℃〜約55℃の温度と、約0.5時間〜約96時間のインキュベーション時間が含まれる。さらに詳細には、ハイブリダイゼーションは、約32℃〜約40℃で、約2〜約16時間実施することができる。
【0017】
染色体プローブと、標的領域外のDNAとの非特異結合は、洗浄を連続して繰り返すことによって除去することができる。各回洗浄の温度および塩濃度は、所望のストリンジェンシーに応じて異なる。例えば、ストリンジェンシー条件が高い場合には、0.2×〜約2×SSC、ならびに、Nonidet P-40(NP40)等の非イオン性界面活性剤を約0.1%〜約1%用いて、約65℃〜約80℃で洗浄を実施することができる。また、洗浄の温度を下げるか、または、塩濃度を高めることによって、ストリンジェンシーを低くすることができる。
【0018】
染色体プローブ
本発明に従うin situハイブリダイゼーションに適したプローブは、染色体の動原体に対応する反復DNAとハイブリダイズする(すなわち、二本鎖のDNAを形成する)。霊長動物の染色体の動原体は、約171塩基対のモノマー反復長から構成される長い縦列反復DNAの複合体ファミリーを含み、これは、α-サテライトDNAと呼ばれる。動原体染色体プローブの非制限的例としては、3番、7番、8番、11番、15番、17番、18番染色体およびY染色体に対するプローブが挙げられる。また、9番染色体の9p21領域のような重要な染色体領域にハイブリダイズする遺伝子座特異的プローブも適している。
【0019】
染色体プローブは、最大の感度と特異性を達成すべく選択する。染色体プローブのセット(すなわち、二つ以上のプローブ)を使用することによって、任意の一つの染色体プローブの使用に比べて優れた感度および特異性が得られる。従って、本明細書に記載する結果に基づき、最もよく異数染色体性染色体を検出し、相互に相補的な染色体プローブがこのセットに含まれる。例えば、本発明で測定されるプローブの識別値によれば、染色体プローブのセットは、3番、7番および17番染色体に対する動原体プローブを含むことができる。さらに、このセットは、9番染色体の9p21領域のプローブ、もしくは、8番染色体、9番染色体、11番染色体、または18番染色体に対する動原体プローブも含むことができる。本明細書に記載するように、7番染色体に対するプローブは、単独で用いたときに高い感度を示し、膀胱癌の約76%を検出することができた。3番および17番染色体、ならびに9番染色体の9p21領域に対するプローブは、7番染色体プローブ単独では異常を示さなかった膀胱癌患者を新たに検出することができた。3番、7番および17番染色体、ならびに9p21に対するプローブを組み合わせることによって、本明細書に記載する患者コホートの膀胱癌検出について、約95%の感度を達成した。
【0020】
染色体プローブは、典型的には、長さが約50〜約1×105ヌクレオチドである。これより長いプローブは、典型的に、長さが約100〜約500ヌクレオチドのより小さい断片から構成される。動原体DNAおよび遺伝子座特異的DNAとハイブリダイズするプローブは、例えば、Vysis社(Downers Grove, IL)、Molecular Probes社(Eugene, OR)、またはCytocell社(Oxfordshire, UK)から市販されている。また、標準的な技術を駆使して、染色体またはゲノムDNAから非工業的にプローブを製造することも可能である。例えば、使用できるDNA源として、ゲノムDNA配列、クローン化DNA配列、宿主の正常染色体組と共に一つのヒトの染色体もしくはその一部を含む体細胞ハイブリッド、ならびに、フローサイトメトリーまたは顕微手術によって精製された染色体が挙げられる。クローニング、または、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を介した部位特異的増幅によって標的領域を単離することができる。例えば、NathおよびJohnsonのBiotechnic Histochem., 1998年、第73(1)号6〜22頁、WheelessらのCytometry, 1994年、第17号319〜326頁、ならびに米国特許第5,491,224号を参照のこと。
【0021】
染色体プローブは、典型的には、蛍光団、すなわち、波長が短く/高エネルギーの光を吸収した後に蛍光を発する有機分子で直接標識する。蛍光団によって、プローブは、二次検出分子を用いずに視覚化することができる。蛍光団をヌクレオチドに共有結合させた後、ニックトランスレーション、ランダムプライミング、ならびにPCR標識等の標準的な技術を用いて、ヌクレオチドをプローブに直接組み込むことができる。これ以外にも、プローブ内のデオキシシチジンヌクレオチドをリンカーによりアミノ基転移することもできる。次いで、蛍光団をアミノ基転移したデオキシシチジンヌクレオチドに共有結合させる。米国特許第5,491,224号を参照のこと。
【0022】
セットに含まれる染色体プローブの各々が、明瞭に視覚化されるように、異なる色の蛍光団を選択する。例えば、次の蛍光団を組合わせて使用することができる:7-アミノ-4-メチルクマリン-3-酢酸(AMCA)、Texas Red(商標)(Molecular Probes社、Eugene, OR)、5-(および-6)-カルボキシ-X-ローダミン、リサミン(lissamine)ローダミンB、5-(および-6)-カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン-5-イソチオシアネート(FITC),7-ジエチルアミノクマリン-3-カルボン酸、テトラメチルローダミン-5-(および-6)-イソチオシアネート、5-(および-6)-カルボキシテトラメチルローダミン、7-ヒドロキシクマリン-3-カルボン酸、6-[フルオレセイン5-(および-6)-カルボキシアミド]ヘキサン酸、N-(4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4aジアザ-3-インダセンプロピオン酸(indacenepropionic acid)、エオジン-5-イソチオシアネート、エリスロシン-5-イソチオシアネート、ならびに、Cascade(商標)ブルーアセチルアジド(Molecular Probes社、Eugene, OR)。プローブは、蛍光顕微鏡や各蛍光団に適したフィルタによって、または、多数の蛍光団を観察するための二重または三重バンドパスフィルタのセットを用いて、観察することができる。例えば、米国特許第5,776,688号を参照のこと。これ以外にも、フローサイトメトリー等の方法を用いて、染色体プローブのハイブリダイゼーション・パターンを調べることもできる。
【0023】
プローブは、ビオチンまたはジゴキシゲニンで間接的に標識するか、または、32Pおよび3Hなどの放射性同位体で標識することができるが、二次検出分子もしくは追加処理の場合には、プローブを視覚化する必要がある。例えば、ビオチンで間接的に標識したプローブは、検出可能なマーカーにコンジュゲートしたアビジンによって検出することができる。例えば、アビジンは、アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ等の酵素マーカーにコンジュゲートすることができる。酵素マーカーは、酵素の基質および/または触媒を用いて、標準的な比色法反応で検出することができる。アルカリホスファターゼの触媒としては、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェートならびにニトロ・ブルー・テトラゾリウムが挙げられる。また、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼの触媒としては、ジアミノベンゾエートを用いることができる。
【0024】
細胞の選択
本発明によれば、異数染色体性細胞の有無を評価する前に、スライドガラス上の生物学的サンプル(例えば、尿等)の細胞から、顕微鏡を用いて細胞を選択する。「選択」とは、核の膨大、核の凹凸、または、異常な核染色(通常は斑状染色パターン)のような一つまたは複数の細胞学的(主に核の)異常による新生物の疑いが高い細胞の特定を意味する。これらの核の特徴は、ヨウ化プロピジウムもしくは4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール・ジヒドロクロライド(DAPI)等の核酸染色または染料を用いて評価することができる。ヨウ化プロピジウムは、614nmの発光ピーク波長で観察できる赤い蛍光を発するDNA特異的染料である。典型的には、ヨウ化プロピジウムは、約0.4μg/ml〜約5μg/mlの濃度で使用する。DAPIは、青い蛍光を発するDNA特異的染料であり、452mnの発光ピーク波長で観察できるが、一般に、約125ng/ml〜約1,000ng/mlまでの範囲の濃度で使用する。DAPIまたはヨウ化プロピジウムによる細胞の染色は、一般にin situハイブリダイゼーションを実施した後に行う。
【0025】
異数染色体性細胞の存在の判定
細胞を前記基準の一つまたは複数に従って選択した後、選択した各細胞の染色体プローブのハイブリダイゼーション・パターン(すなわち、各プローブのシグナル数)を調べ、染色体シグナル数を記録することによって、異数染色体性の有無を評価する。この工程は、4個の細胞がすべて異数染色体性であれば、少なくとも4個の細胞について、ハイブリダイゼーション・パターンを評価するまで繰り返す。典型的なアッセイでは、選択した約20〜約25個の細胞について、ハイブリダイゼーション・パターンを評価する。
【0026】
複合染色体の二つ以上のコピー(すなわち、複合染色体の増加)を持つ細胞が、癌陽性と考えられる。約20個の選択細胞と少なくとも約4個のテスト陽性細胞を含むサンプルは、典型的に癌陽性と考えられる。約4個以下のテスト陽性細胞がみつかった場合には、染色体の倍数性レベルを決定する。また、30%を超える細胞が、膀胱癌における9p21の損失のように、特定の染色体領域の半接合体もしくは同型接合体の損失(すなわち、零染色体性)を示す場合にも、癌陽性の結果を意味する。周囲の正常と思われる細胞を観察し、上記特定染色体領域に二つのシグナルを持っているかどうかを調べることによって、零染色体性を非人為構造として確認することができる。
【0027】
患者の癌スクリーニングおよび監視
本明細書に説明する方法は、癌患者のスクリーニング、または、癌と診断された患者の監視に使用することができる。例えば、スクリーニングでは、膀胱癌の早期検出を目的として、年齢50歳以上で喫煙習慣のある患者、または、長期にわたって芳香族アミン類にさらされてきた患者等、膀胱癌の疑いのある患者を選別する。本明細書に記載する方法は、単独で用いても、ヘモグロビン試験紙試験のようなその他の試験と組み合わせて用いてもよい。例えば、尿中のヘモグロビン、すなわち血尿を検出することによって、膀胱癌の疑いが高い患者を選別することができる。このようなスクリーニングの際に、血尿のない患者は、それ以上の分析を必要としないが、適当な時間をおいて(例えば、毎年の定期検診で)、血尿の再検査を行う。血尿患者からのサンプルは、本明細書に記載する方法を用いてさらに詳しく分析する。一般に、染色体プローブのセットを生物学的サンプルにハイブリダイズさせ、細胞のサブセットを選択した後、選択した細胞について、異数染色体性細胞の存在を判定する。異数染色体性細胞を持つ患者は、例えば、膀胱鏡検査法によってさらに検査し、必要であれば、適切な治療を受けることができる。治療後に、本明細書に記載する方法によって、患者の癌再発を監視する。
【0028】
本明細書に記載する方法は感度が優れているため、この方法が、膀胱癌等の癌の検出および監視を目的とする細胞診断法に取って代わることができることは明らかである。大部分の膀胱癌患者には、検出可能な異数染色体性細胞があり、治療の効力、ならびに腫瘍の再発/進行を本明細書に記載した方法で監視することができる。膀胱鏡検査法または生検により膀胱癌(主に、低段階の非侵襲性腫瘍)が明らかとなった患者の一部は、その尿に検出可能な異数染色体性細胞がない場合もある。これらの患者(すなわち、低段階の乳頭状腫瘍を有する患者)は、腫瘍の進行速度が非常に遅いため、本明細書に記載した方法と膀胱鏡検査法を組み合わせて簡便に監視することができる。これら患者の尿に異数染色体性細胞が存在すれば、このサブグループに属する患者にさらに進行性の腫瘍の発現が予測される場合もある。進行性膀胱癌については、本明細書に記載したFISH試験の感度および特異性が優れているため、膀胱鏡検査法の使用頻度を少なくすることができる。
【0029】
以下に示す実施例に基づき、本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1−サンプルとサンプル調製:
サンプルは生検により証明された21人の膀胱癌患者からの排尿を含み、これに対して陽性細胞診断法、または、細胞診断法で陰性のサンプルの場合には組織学法のいずれかによって診断した。対照尿サンプルは、健康体のドナー(年齢25〜80歳)からの九つのサンプルと、膀胱癌以外の尿生殖器疾患患者からの三つのサンプルから成る。
【0031】
患者一人につき約50〜200mlの尿を採取した。尿サンプルは、48時間足らずの間、4℃で保存し、1,200gで5分間遠心分離により処理した。上清を捨て、ペレットを10mlの0.075 M KCl中に再懸濁し、室温で15分間インキュベートした。サンプルを1,200gで5分間回転させた後、KCl溶液を除去した。ペレットを10mlの3:1のメタノール:氷酢酸固定液中に再懸濁し、1,200gで8分間遠心分離にかけた。固定液を注意深く除去することによって細胞ペレットを残し、この工程をさらに2回繰り返した。
【0032】
スライドガラス上の密度は、滴下するたびに、20倍の対物レンズを用いた位相差顕微鏡により何度も確認しながら監視した。全般に、スライドガラス上に可能な限り多数の細胞を一切重なり合わないように載せるよう努めた。サンプルが少数の細胞しか含んでいない場合には、出来るだけ多くのサンプルをスライドガラスに載せた。細胞の数が非常に少ないサンプルは、サンプルの全量を使用した。スライドガラスは、室温で一晩乾燥させた。
【0033】
サンプルを含むスライドガラスを2×SSC中で、37℃にて10〜30分間培養した後、0.2mg/mlペプシン中で、37℃にて20分間インキュベートした。次に、スライドガラスを室温にてPBSで1度の洗浄につき2分ずつ2回洗浄した。細胞を室温にて2.5%中性緩衝化ホルマリン中に5分間固定した。スライドガラスを再びPBSで1度の洗浄につき2分ずつ2回洗浄した。70%、85%、および100%エタノールでそれぞれ1分間ずつ脱水した後、スライドガラスを直ちに使用した、あるいは、室温で暗所に保存した。
【0034】
三つの多色プローブセット:A、BおよびCを最初のハイブリダイゼーションに使用した。プローブセットA〜Cは、表1に示す動原体/遺伝子座特異的プローブを含んでいた。各プローブを標識するのに用いた蛍光団の色も表1に示す。染色体プローブ(CEP(登録商標)、染色体列挙プローブ)は、Vysis, Inc.(ダウナーズ・グローヴ、IL)製のものを使用した。アクア色フィルタを用いて、17および18番染色体を視覚化した。黄色フィルタを用いて、9p21遺伝子座特異的プローブを視覚化し、赤/緑の二色フィルタ、もしくは赤または緑色のいずれか一色のフィルタを用いて、3番、7番、8番、9番、11番染色体およびY染色体を視覚化した。
【表1】

【0035】
ハイブリダイゼーションは、HYBrite法もしくは従来の方法によって実施した。HYBrite法では、Vysis(ダウナーズ・グローヴ、IL)製のHYBriteTMシステムを使用した。スライドガラスをHYBriteに設置し、約10μlのプローブセットを添加し、覆い、密封した。HYBriteは次のようにプログラムした:73℃で5分間の後、37℃で16時間。次に、スライドガラスを0.4×SSC(0.06M塩化ナトリウム/0.006Mクエン酸ナトリウム)/0.3%NP-40中で、2分間、73℃で洗浄し、2×SSC/0.1%NP-40中で室温にてすすぎ、通気乾燥させた。スライドガラスを約10μlのDAPI II(125ng/mlの4,6-ジアミジノ-2-フェニリンドール・ジヒドロクロライド)で対比染色した。
【0036】
従来の方法(すなわち、コプリンびん法)では、50%のホルムアルデヒドと、2×SSC、0.5μg/ml Cot1 DNA、ならびに2μg/ml HP DNAを含むハイブリダイゼーション・バッファー中で、染色体プローブを含む主配合物を製造した。プローブ配合物を73℃で5分間変性させ、スライドガラスを73℃のコプリンびんに入れた変性バッファー(70%ホルムアミド、2X SSC)中で5分間変性させた(1びんにつきスライドガラス6〜8枚)。スライドガラスを70%、85%および100%エタノールでそれぞれ1分間ずつすすいだ。約10μlのハイブリダイゼーション配合物を各スライドガラスに塗布し、カバーガラスで覆った後、ラバーセメントで密封した。給湿したチャンバ内でハイブリダイゼーションを37℃で一晩実施した。スライドガラスを0.4×SSC/0.3%NP-40中で、2分間、73℃で洗浄し、次に、2×SSC/0.1%NP-40中で、室温にて簡単にすすいだ。通気乾燥させた後、スライドガラスをDAPI IIで対比染色した。100個の連続した細胞中のFISHシグナルの数を記録することにより、サンプルを列挙した。
【0037】
要約すると、この実施例は、生物学的サンプルから細胞を単離し、染色体プローブセットを細胞にハイブリダイズする方法を提供する。
【0038】
実施例2−膀胱癌の検出:
表2は、細胞診断法によって分析したサンプルをまとめたものである。全体として、尿細胞診断法では、21人の癌患者のうち13人が陽性であり、これは62%の感度に等しい。この値は、発表された文献とも一致する。細胞診断法により、疾患が進行した段階にある11人(表2の初めの11人)の膀胱癌患者のうち10人に腫瘍細胞を検出した。また、表在性膀胱癌患者10人(表2の最後の10人)から、細胞診断法では、3人を陽性、3人を疑い有り、4人を陰性と診断した。NDは、未検出を意味する。疑い有り(E)は、疑いがあるものの、移行上皮癌(TCC)とは診断されないサンプルを意味する。pTisは上皮内癌を、pTaは非侵襲性の乳頭状癌をそれぞれ指す。pT1は、腫瘍の上皮下結合組織への侵入を、pT2は、腫瘍の筋肉への侵入を、pT3は、腫瘍の膀胱周囲組織への侵入を、pT4は、前立腺、子宮、膣、骨盤壁、あるいは、腹壁への侵入をそれぞれ示す。
【0039】
四つ以上の染色体シグナルを持つ異数染色体性細胞のパーセンテージによって、癌グループと、正常グループを極めて明瞭に識別することができた。対照グループ内で単一コピー増加または損失は、はるかに高い頻度(回数)で起き、同等の感度および特異性には達しなかった。上記定義を用いて、各サンプルグループ(癌および正常)について、また、各グループの一人一人について、異数染色体性細胞のパーセンテージを決定した。この定義を用いて、サンプルを下記のように分析した。
【0040】
識別分析を実施した後、下記式を用いて、各プローブが、正常な対照グループから癌患者をいかによく識別したかを評価する:
識別値=(M1−M2)2/SD12+SD22
上記式において、M1とM2は、それぞれ、癌(n=21)および正常(n=9)グループについて、四つ以上のシグナルを持つ異数染色体性細胞の平均パーセンテージであり、SD1とSD2は、各サンプルグループの標準偏差である。表3に、この分析を用いた染色体列挙プローブ(CEP)の結果をまとめた。
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
識別値>1.0、すなわち二つの母集団を隔てる95%信頼区間は、良と考えられた(正常分布およびほぼ同等の標準偏差値を想定して)。この基準によれば、最良のプローブは、7、3、および17であった。この分析から、個々のプローブの感度および特性に関する情報は得られるが、様々なプローブの組合わせの感度および特性は明らかにされない。
【0043】
染色体増加を決定するFISH陽性基準として、正常細胞中の異数染色体性細胞の平均%を超える標準偏差の切捨てを用いた。他方で、膀胱癌における9p21の変化は損失として表われることから、零染色体性として評価した。零染色体性に用いた切捨て値は、正常サンプルの平均値より大きい三つの標準偏差であった。プローブ毎の各患者の異数染色体性細胞のパーセンテージを正常な人については表4Aに、また癌患者については表4Bにそれぞれ示す。表4Bでは、二重線から下のサンプルは、細胞診断法による偽陰性の場合を示し、影を付けた部分は、表3の切捨て値を用いた偽陰性のFISH結果を示す。表4Aに示すように、正常サンプル中の異数染色体性細胞のパーセンテージ(染色体増加により定義した通り)は低く、約0.5%〜約4.5%であった。
【表4A】

【0044】
【表4B】

【0045】
【表5】

【0046】
全体的にみて、表4Bに示すように、7番染色体は、個々のプローブのうち最高の感度を示した(76%、16/21)。3番染色体および9p21に対するプローブは、7番染色体を補足したため、7番染色体の結果が正常であった患者の何人かについて陽性となった。3番、7番染色体および9p21に対する三つのプローブを組み合わせると、20/21膀胱癌患者を検出し、さらに重要なことには、7/8細胞診断法偽陰性患者を検出した(表4B)。このデータセットでは、これは総合感度の95%に等しい。
【0047】
17番染色体プローブ(3番染色体プローブとともに)は、最大数の細胞診断法偽陰性サンプルを検出した(4/8)。
【0048】
実施例3-標準スクリーニング法による比較分析
本試験には、Mayo診療所の190名の患者が参加する見込みであった。患者の多くは、以前膀胱癌の診断を受けたか、あるいは膀胱癌の可能性があるとの初期診断を受けていた(例えば微小血尿(microhematuria)のため)。患者の一部は、膀胱癌以外に、尿生殖器疾患の診断を受けていた。比較した検査法は、尿細胞診断法、膀胱鏡検査法、BTA STAT法(C.R.Bard,Inc.、米国ニュージャージー州ムレイヒル市)、蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH)、およびヘモグロビン試験紙(dipstick)法(Bayer Corporation、診断部門、米国インディアナ州エルカート市)であった。
【0049】
FISHは、通常、実施例1に述べたように行った。患者1名あたり約25〜200mlの尿を採取した。尿サンプルは、採取後48時間まで4℃で保存し、遠心分離機に600gで10分間かけた。上清を捨て、ペレットを25〜50mlの1×リン酸緩衝生理食塩水(PBSと略す)に再懸濁した。600gで5分間遠心後、再度上清を捨てた。ペレットをゆっくりと1.5〜5mlの固定液(メタノール:氷酢酸、3:1)に再懸濁し、600gで5分間遠心した。固定液を注意深く除き、この過程を更に2回繰り返した。
【0050】
最後の遠心の後、12ウェル6mm Shandon Lipshawスライドのようなスライドに滴下するのに適切な量を残して、固定液を除いた。細胞ペレットが少ない場合、ならびに肉眼で見にくい場合は、約100μlをペレット上に残した。細胞ペレットが容易に肉眼で確認できる場合は、出来るだけカルノア固定液を除去し、0.5mlの新鮮なカルノア固定液を加えた。ペレットが見えない場合、しばしば試料全部をスライドに滴下した。約3、10、30μlの細胞懸濁液を12ウェルShandonスライドの直径0.6mmの3つの異なるウェルに滴下した。これらのウェルの細胞性(即ち細胞の密度)を位相差顕微鏡で調べた。最も容量の少ない細胞懸濁液を含むウェルの密度が高すぎる場合、細胞懸濁液をさらに希釈し、希釈液の一部を4番目のウェルに入れた。最も容量の多い細胞懸濁液を含むウェルにおいて十分な細胞が得られない場合、細胞懸濁液を濃縮し4番目のウェルに入れた。
【0051】
サンプルを加えたスライドを、2×SSCを用いて37℃で10-30分間インキュベートした。次に、0.2mg/mlペプシン溶液中で37℃で10分間インキュベートした。そして、スライドをPBSで、室温で1回につき2分間ずつ2回洗浄した。室温で、2.5%中性緩衝ホルマリンを用いて細胞を5分間固定した。再度、スライドを5分間PBSで洗浄した。それぞれ70%、85%、100%のエタノール中で1分間脱水後、スライドを45-50℃のスライド・ウォーマー(slide warmer)上で2分間乾燥した。スライドは、使用時まで100%エタノール中で4℃にて保存、あるいはFISHに使用した。
【0052】
ハイブリダイゼーションは、HYBrite法または従来の方法で行った。HYBrite法には、Vysis社(米国イリノイ州ダウナーズ・グローブ市)のHYBriteシステム(商標名)を用いた。スライドをHYBrite上に置き、標的あたり3μlのプローブを加え、スライドを覆い密封した。HYBriteを次のようにプログラムした。73℃5分間、37℃16時間。次にスライドを0.4SSC(0.06M塩化ナトリウム/0.006Mクエン酸ナトリウム)/0.3%NP-40中で73℃にて2分間洗浄し、2×SSC/0.1%NP40中で室温にてすすぎ、風乾した。スライドを約3μlのDAPI II(125ng/mlの4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドールジヒドロクロライド)で対比染色した。
【0053】
従来の方法では、染色体プローブを含むマスターミックス(master mix)を、50%ホルムアミド、2×SSC、0.5μg/mlのCot1 DNAおよび2μg/mlのHP DNAを含有するハイブリダイゼーション・バッファー中で調製した。このプローブミックスを73℃で5分間かけて変性させ、スライドをコプリン・ジャー(Coplin jar)を用い、変性バッファー(70%ホルムアミド、2X SSC)中で73℃5分間(6-8スライド/ジャー)で変性した。スライドを、それぞれ70%、85%、100%エタノールで1分間洗浄した。サンプルをスライドウォーマー上で2分間以下の時間乾燥した。各スライドの標的あたり約3μlのハイブリダイゼーション・ミックスを載せ、直ちにカバーグラスでスライドを覆い、ゴムセメントで密封した。ハイブリダイゼーションは、加湿したチャンバー内で37℃で一晩行った。スライドを、0.4×SSC/0.3%NP-40中で、73℃で2分間洗浄し、次に室温で2×SSC/0.1%NP-40で短時間すすいだ。風乾後、スライドをDAPI IIで対比染色した。各試料から、20個の細胞診断学上異常な細胞を選択し、FISHパターンを分析した。
【0054】
生検(病期/段階)(n=49)および細胞学的陽性TCC(n=34)により癌と診断された53例について、細胞診断法の感度は57%(不明瞭な細胞診断は陽性とした)、膀胱鏡検査法の感度は88%(不明瞭な膀胱鏡結果は陽性とした)、BTA STAT法の感度は71%およびFISHの感度は86%であった。膀胱鏡検査陰性で膀胱癌歴が無く、細胞診断法陰性を伴うまたは伴わず、癌陰性と診断された63例について、BTA STAT法の感度は73%およびFISHの感度は90%であった(細胞診断法と膀胱鏡検査法の感度は、これらの検査法を膀胱癌患者でないと定義するのに使用したため、調べられなかった)。
【0055】
FISHで偽陽性であった3名のうち2名は、テロメラーゼ、ヘモグロビン試験紙法およびBTA-STATまたはBTA-TRAKでも陽性であった。もし上述の2名の患者が膀胱癌であると証明されれば、FISHの感度は100%に近づくであろう。これは、以下に述べる、検査法の陽性予測値に対し密接な関係が有る。表6に、各検査法の病期および段階別の感度を示した。表6で、「E」は不明瞭を示し、「*」はFISH陽性で細胞診断法のみにより癌とされた3例を含んでいない事を示している。
【0056】
疾患発病率28%(53/190)、特異性93%、感度77%に基づく陽性ならびに陰性予測値(PV)を表7に示した。
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
癌の症例53のうち51例については、試験紙法を行った。ヘモグロビン試験紙法の感度は、病期pT1-pT4に対して91%、癌腫in situ(Tis)に対しては100%で、理想的なスクリーニング検査法である(表8)。しかしながら、ヘモグロビン試験紙法の特異性は低かった(52%)。ヘモグロビン試験紙法は、感度が高く費用が安いので有用なスクリーニング検査法であるが、検査結果が陽性の場合、さらに明確な検査で確認する必要があるのは明らかである。細胞診断法は選択できる検査法ではあり得ない。なぜなら、pT2-pT4症例のうち33%だけを陽性とし、癌腫in situ12例の内2例を検出できなかったからである(表6参照)。
【表8】

【0059】
FISHの臨床的有用性を標準細胞診断/膀胱鏡検査法と比較した。癌53例の内、進行期(pT2-pT4またはpTIS)が22例であった。これらの症例を検出できない事は、最も深刻な偽陰性と言える。細胞診断/膀胱鏡検査法が13/22例で陽性で感度59%であったのに対し、FISHの感度は100%、すなわち22/22例を検出できた(これらの症例の内5例を代表として表9に示した)。これは、FISHが、進行期疾患の検出感度の良い、改良された細胞診断法である事を示唆する。
【表9】

【0060】
他の実施形態
本発明はその詳細な説明と共に記載されたが、上述の記載は例証するためであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、請求の範囲により定義される。他の態様、優位性、変更は以下の請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 染色体プローブのセットを被験者由来の生物学的サンプルにハイブリダイズさせ、
(b) 上記生物学的サンプルから細胞を選択し、
(c) 上記選択した細胞における異数染色体性細胞の有無を判定し、
(d) 上記選択した細胞における異数染色体性細胞の存在を被験者の癌と相関させる、
ことを含んでなる被験者の癌をスクリーニングする方法。
【請求項2】
上記生物学的サンプルが、尿、血液、脳脊髄液、胸膜液、喀痰、腹膜液、膀胱洗浄物、口腔洗浄物、組織サンプル、触診サンプル、または細い吸引針による吸引液から成る群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記生物学的サンプルを濃縮する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
上記生物学的サンプルが尿である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
上記癌が、膀胱癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、結腸直腸癌、腎臓癌、および白血病から成る群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
上記癌が膀胱癌である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
上記染色体プローブを蛍光標識する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
上記プローブのセットが少なくとも三つの染色体プローブを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
上記セットが少なくとも一つの動原体プローブを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
上記セットが少なくとも一つの遺伝子座特異的プローブをさらに含んでなる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
上記動原体染色体プローブが、3番、7番、8番、11番、15番、17番、18番染色体プローブおよびY染色体プローブから成る群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項12】
上記遺伝子座特異的プローブが9p21である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
上記セットが、3番、7番、および17番染色体プローブを含んでなる、請求項8記載の方法。
【請求項14】
上記セットが、9p21遺伝子座特異的プローブをさらに含んでなる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
核の形態学によって細胞を選択する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
核の大きさによって細胞を選択する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
核の形状によって細胞を選択する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
DAPI染色法によって核の形態学を評価する、請求項15記載の方法。
【請求項19】
3番、7番および17番染色体に対する動原体プローブを含んでなる染色体プローブのセット。
【請求項20】
遺伝子座特異的プローブをさらに含んでなる、請求項19記載の染色体プローブのセット。
【請求項21】
上記遺伝子座特異的プローブが9p21である、請求項20記載の染色体プローブのセット。
【請求項22】
染色体プローブのセットを含む癌検出のためのキットであって、3番、7番、および17番染色体に対する動原体プローブを含んでなる前記キット。
【請求項23】
遺伝子座特異的プローブをさらに含んでなる、請求項22記載のキット。
【請求項24】
上記遺伝子座特異的プローブが9p21である、請求項23記載のキット。
【請求項25】
上記染色体プローブを蛍光標識する、請求項22記載のキット。

【公開番号】特開2011−224021(P2011−224021A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172496(P2011−172496)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【分割の表示】特願2000−61230(P2000−61230)の分割
【原出願日】平成12年3月6日(2000.3.6)
【出願人】(500107119)ヴィシス,インコポレーテッド (1)
【出願人】(501083115)メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ (27)
【Fターム(参考)】