説明

癌治療用のプロテアソーム阻害剤

患者にプロテアソーム阻害剤を少なくとも週3日投与することを含む、患者の癌を治療するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2009年10月1日に出願された、米国特許仮特許出願第61/247,714号の利益を主張するものであり、当該出願を本明細書にその全容において、かつあらゆる目的について援用するものである。
【0002】
(発明の分野)
ボルテゾミブを含むプロテアソーム阻害剤により、治療を要する患者を治療するための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
真核細胞においては、ユビキチン−プロテアソーム経路は、細胞内タンパク質のタンパク質分解の中心的経路である。タンパク質は、最初にポリユビキチン鎖の付加によってタンパク質分解の標的とされた後、プロテアソームにより小さなペプチドに速やかに分解され、この後、ユビキチンは切り離されて再利用される。このような協調的なタンパク質分解経路は、ユビキチン共役システムと26Sプロテアソームとの相乗活性に依存している。26Sプロテアソームは真核生物の細胞核及び細胞質に存在する、複数のサブユニットからなる大きな(約1500〜2000kDa)複合体である。この複合体の触媒コアは20Sプロテアソームと呼ばれ、α及びβサブユニットから構成される4個の7量体リングからなる円筒状の構造を有している。プロテアソームはスレオニンプロテアーゼであり、βサブユニットのN末端のスレオニンが、標的タンパク質のペプチド結合のカルボニル基を攻撃する求核剤となる。プロテアソームは、キモトリプシン活性、トリプシン活性、及びペプチジルグルタミルペプチダーゼ活性の少なくとも3つの異なるタンパク質分解活性を有している。ポリユビキチン化された基質を認識して結合する能力は、20Sプロテアソームの両端に結合する19S(PA700)サブユニットによって与えられる。これらの付属サブユニットは、結合したユビキチン分子を除去する一方で、基質をアンフォールドして20S触媒複合体内に送り込む。26Sプロテアソームの会合及びタンパク質基質の分解はいずれもATPに依存している(Almond,Leukemia,16:433,2002)。
【0004】
プロテアソーム阻害剤に様々な腫瘍由来細胞株を曝露するとアポトーシスが誘発されるが、これは細胞周期調節タンパク質p53及び核内因子κβ(NF−κβ)を含む幾つかの経路に対する作用によるものと考えられる。プロテアソーム阻害剤により媒介されるアポトーシスについて述べた初期の研究の多くは、単芽球、T細胞及びリンパ球性白血病細胞、リンパ腫細胞、並びに前骨髄球性白血病細胞などの造血細胞由来の細胞を用いている。プロテアソーム阻害剤の生体内における抗腫瘍活性の最初の実証例では、ヒトリンパ腫異種移植モデルを用いている。更に、プロテアソーム阻害剤は、患者由来のリンパ腫及び白血病細胞の選択的アポトーシスを誘導し、コントロールとしての非形質転換細胞は比較的傷害することなく、多発性骨髄腫細胞の増殖を選択的に阻害することが報告されている。したがって、プロテアソーム阻害剤は、難治性の血液悪性腫瘍の患者の治療薬として特に有用である。
【0005】
このようなプロテアソーム阻害剤の1つに、PS−341としても知られるボルテゾミブがある(Velcade(登録商標)、ミレニアム・ファーマスーティカル社(Millennium Pharmaceuticals,Inc)(マサチューセッツ州ケンブリッジ)により開発されたもの)。ボルテゾミブは、ジペプチドボロン酸誘導体であり、Kiが0.6nmol/Lである高度に選択的で強力かつ可逆性のプロテアソーム阻害剤である(Adamsら、Semin Oncol 28:613〜619,2001)。ボルテゾミブは、ユビキチン−プロテアソーム経路を必要とする様々な細胞機能に対するその効果についてインビトロ及びインビボの系の両方において幅広く研究が行われてきた。
【0006】
ボルテゾミブは現在、世界の複数の箇所において、血液癌の治療に対して承認されている。例えば、ボルテゾミブは、米国では、多発性骨髄腫の患者の一次治療として、又は少なくとも1つの治療を予め受けたマントル細胞リンパ腫の患者の治療に対して承認されている。患者を治療するための現在のレジメンは、ボルテゾミブを隔週で、又は毎週、静脈内に投与するというものである。現在承認されている投与法では、ボルテゾミブの投与の間に少なくとも72時間をおかなければならない。最近では、前臨床及び臨床研究により、ボルテゾミブの皮下投与が静脈内投与の有効な代替法であることが示されている。
【0007】
生物学的研究によれば、血液癌においてプロテアソーム阻害によって影響される重要な異常シグナル伝達経路が、固形腫瘍においても存在することが示されており、プロテアソーム阻害が固形腫瘍の治療においても有用でありうることを示唆している。しかしながら、ボルテゾミブ療法にともなう主要な毒性として、末梢神経障害がある。末梢神経障害の症状が見られる場合には、ボルテゾミブ投与の用量又は頻度を減らす指示がなされる。この副作用は、固形腫瘍などの他の種類の癌に対する治療効果を得るために必要とされうるボルテゾミブのより高頻度、高用量又は交互の投与を行う際に大きな障害となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本出願の目的は、癌患者における治療効果を高める、ボルテゾミブなどのプロテアソーム阻害剤の代替的な投与レジメンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、患者におけるプロテアソーム媒介又は関連疾患を治療するための方法であって、この患者に、プロテアソーム阻害剤を72時間毎よりも高い頻度、又は少なくとも週3日、少なくとも週4日、少なくとも週5日、少なくとも週6日、若しくは少なくとも週7日投与することを含む方法を提供する。本発明は、患者におけるプロテアソーム媒介又は関連疾患を治療するためのプロテアソーム阻害剤の使用であって、この患者に、プロテアソーム阻害剤を72時間毎よりも高い頻度、又は少なくとも週3日、少なくとも週4日、少なくとも週5日、少なくとも週6日、若しくは少なくとも週7日投与する使用を提供する。プロテアソーム阻害剤は、3日間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、最大で数ヶ月及び数年といった任意の長さの時間にわたって投与することができる。プロテアソーム阻害剤は、プロテアソーム阻害剤を投与する治療期間と、プロテアソーム阻害剤を投与しない休止期間とを含む治療サイクルで投与することもできる。
【0010】
プロテアソーム媒介又は関連疾患は癌でありうる。プロテアソーム阻害剤はボルテゾミブでありうる。
【0011】
本方法又は使用は、更なる治療を更に含んでもよい。更なる治療は、更なる抗癌治療であってよい。
【0012】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて考慮することで明らかとなるであろう。しかしながら、これらの図面は、あくまで説明を目的としたものであって、発明の境界を定義することを目的としたものではないことは理解を要する点であり、発明の境界については付属の「特許請求の範囲」を参照すべきである。これらの図面は必ずしも正確な縮尺で描画されたものではなく、特に断らないかぎりは、本明細書において述べる構造及び手法を概念的に説明するためのものに過ぎない点も更に理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下の図面において、
【図1A】隔週(0.075及び0.1mg/kg)又は毎週(0.166mg/kg)の投与レジメンで約0.075、0.1及び0.166mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合(TOX7345)の1回(1日目)、及び繰り返し(0.075及び0.1mg/kgを74日目に、又は0.166mg/kgを78日目に)の皮下投与後のカニクイザルにおけるボルテゾミブの血漿中濃度を示す。
【図1B】隔週(0.075及び0.1mg/kg)又は毎週(0.166mg/kg)の投与レジメンで約0.075、0.1及び0.166mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合(TOX7345)の1回(1日目)、及び繰り返し(0.075及び0.1mg/kgを74日目に、又は0.166mg/kgを78日目に)の皮下投与後のカニクイザルにおけるボルテゾミブの血漿中濃度を示す。
【図2A】カニクイザルに毎日(5/7日)の投与レジメンで連続8週間、約0.0166、0.0333及び0.05mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合(TOX8394)の1回(1日目)、及び繰り返し(54日目)の皮下投与後のボルテゾミブの血漿中濃度を示す。
【図2B】カニクイザルに毎日(5/7日)の投与レジメンで連続8週間、約0.0166、0.0333及び0.05mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合(TOX8394)の1回(1日目)、及び繰り返し(54日目)の皮下投与後のボルテゾミブの血漿中濃度を示す。
【図3】カニクイザルに隔週(約0.075及び0.1mg/kg)又は毎週(約0.166mg/kg)の投与レジメン(TOX7345)で約0.075、0.1及び0.166mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合の1回(1日目、サイクル1)、及び繰り返し(約0.075及び0.1mg/kgを74日目(サイクル4)、又は約0.166mg/kgを78日目に)の皮下投与後のボルテゾミブによるプロテアソーム阻害を示す。
【図4】カニクイザルに毎日(5/7日)の投与レジメンで連続8週間、約0.0166、0.0333及び0.05mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合の3日目及び54日目のボルテゾミブによる全血中のプロテアソーム阻害を示す。1番目のグラフは、それぞれの週の投与前、すなわち2日間の休止期間後の非活性を示す(TOX8394)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、治療を要する患者におけるプロテアソーム媒介又は関連疾患を治療するための方法であって、患者にプロテアソーム阻害剤の複数用量の有効量を投与することを含み、複数用量を72時間毎よりも高い頻度、又は少なくとも週3日投与する、方法を提供する。
【0015】
本明細書では、ボルテゾミブを少なくとも週3日投与することにより、隔週で投与する場合と同様の薬力学的効果及び安全性プロファイルが維持されることを見出した。少なくとも週3日投与される用量が、隔週で投与される用量よりも高い累積週用量、及びより高い累積プロテアソーム阻害作用となる場合であっても、末梢神経障害及び局所耐性などの安全性プロファイルは、これら2つのレジメン間で同等である。この結果は、許容される安全プロファイルを得るには、投与をより低頻度で行うことが必要であると従来は考えられていたことから、驚くべき、予想外のものであった。本発明は、治療用のプロテアソーム阻害剤の使用範囲を拡大するものである。
【0016】
特定の実施形態では、プロテアソーム媒介又は関連疾患は、移植片対宿主病(GVHD)である。他の実施形態では、プロテアソーム媒介又は関連疾患は、細胞の異常増殖に関連した状態である。細胞の異常増殖に関連した状態としては、化生、異形成、過形成、新形成が挙げられる。新形成には癌が含まれる。
【0017】
本発明に基づいて治療することが可能な癌の例には、癌腫、腺癌、肉腫などの固形腫瘍、及び血液に由来する癌などの非固形腫瘍の両方が含まれる。血液に由来する癌としては、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性(myelognous)白血病、リンパ球性白血病、及び骨髄性白血病などの白血病、マントル細胞リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、及び非ホジキンリンパ腫などのリンパ腫、並びに多発性骨髄腫などの骨髄腫が挙げられる。固形腫瘍としては、皮膚(メラノーマなど)、肺、気管支、前立腺、乳房、膵臓、副腎、小腸、大腸、結腸、直腸、甲状腺、胃、肝臓、胆管、腎臓、腎盂、膀胱、子宮、子宮頸部、卵巣、食道、脳、頭頸部、口腔、咽頭、及び喉頭の腫瘍が挙げられる。特定の癌としては、粘液及び円形細胞癌、局所進行腫瘍、ヒト軟組織癌、転移性癌、扁平上皮細胞癌、食道扁平上皮細胞癌、副腎皮質の癌、ACTH産生腫瘍、非小細胞癌、乳癌、消化器癌、泌尿器癌、女性生殖器の悪性腫瘍、男性生殖器の悪性腫瘍、腎癌、脳腫瘍、骨癌、皮膚癌、甲状腺癌、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、腹膜滲出液、悪性胸水、中皮腫、ウィルムス腫瘍、胆嚢癌、栄養膜新生物、血管外皮腫、及びカポジ肉腫が挙げられる。
【0018】
治療は、一次、二次、三次、四次、又は更なる高次の治療であってよい。癌は、再発性、又は1以上の抗癌治療に対して難治性のものであってよい。したがって、患者は治療未経験者であってもよく、あるいは1以上の抗癌治療を以前に受けたことがあるが、それにより疾患が完全に治癒しなかった患者であってもよい。
【0019】
「患者」なる用語は、治療、観察又は実験の対象である、又はそうであった動物であって、調節不能のプロテアソーム活性に関連した疾患又は障害を発症するリスクを有する(又は発症しやすい)か、又はこうした疾患若しくは障害を有する動物を意味する。動物には、ヒト、霊長類、サル、ウシ、ウマ、ウサギ、ラット、又はマウスが含まれる。特定の実施形態では、患者はヒト患者である。
【0020】
障害又は疾患を「治療する」とは、投与によって、その疾患又は障害の1以上の症状の予防、進行速度の阻害、改善、又は完全な治癒につながることを意味する。この用語は、生理機能を効果的に高めうる量を更に示す。癌治療における治療には、癌細胞の数の減少、腫瘍サイズの縮小、腫瘍の数の減少、周辺臓器への癌細胞の浸潤の阻害(すなわち、ある程度遅くさせ、好ましくは停止させる)、腫瘍転移の阻害(すなわち、ある程度遅くさせ、好ましくは停止させる)、腫瘍増殖の阻害、及び/又は、癌にともなう1以上の症状の緩和が含まれる。有効成分又は薬剤は、存在する癌細胞の増殖を防止し、かつ/又は癌細胞を殺すものである限り、細胞増殖抑制性及び/又は細胞毒性を有しうる。癌治療においては、例えば、腫瘍増殖抑制時間(TTP)を評価し、かつ/又は応答時間(RR)を判定することによって有効性を測定することができる。
【0021】
本発明の方法に関して用いる「投与する」なる用語は、具体的に開示される化合物、又は本発明の化合物の特定のものとして具体的には開示されていないが本発明の範囲内に含まれるであろう化合物若しくはそのプロドラッグを用いて本明細書に述べられる疾患を治療するための手段のことを指す。
【0022】
本発明において有用なプロテアソーム阻害剤としては、プロテアソームの20Sコア内部の活性部位に結合して、これを直接阻害するペプチドアルデヒド及びペプチドビニルスルホンが挙げられる。ペプチドアルデヒド及びペプチドビニルスルホンは不可逆的に20Sコア粒子に結合するため、これらが除去されてもタンパク質分解活性は回復しない。
【0023】
ペプチドボロン酸塩又はペプチドボロン酸化合物もやはりプロテアソーム阻害剤であるが、ペプチドアルデヒド類似体とは異なる機能の仕方をする。ペプチドボロン酸塩又はペプチドボロン酸化合物はプロテアソームの安定的阻害を与え、プロテアソームからゆっくりと解離する。更に、ペプチドボロン酸化合物はそれらのペプチドアルデヒド類似体よりも強力であり、ホウ素と硫黄との間の弱い相互作用によってより特異的に作用する。したがって、ペプチドボロン酸塩は、チオールプロテアーゼを阻害しない(Richardsonら、Cancer Control 10:361,2003)。
【0024】
ペプチドボロン酸化合物は、配列の酸性末端すなわちC末端にαアミノボロン酸を有するペプチドである(Zembowerら、lnt.J.Pept.Protein Res.47:405〜413,1996)。ペプチドボロン酸は、ボロン酸基と活性部位のセリン又はヒスチジン部分との間で安定的な四面体ホウ酸エステル複合体を形成する能力を有することから、強力なセリンプロテアーゼ阻害剤である。ペプチドボロン酸の配列を変化させ、非天然アミノ酸残基及び他の置換基を導入することによって、しばしばこの活性を高めたり、特定のプロテアーゼに対して高い特異性を示すようにすることが行われる。ペプチドボロン酸化合物及びそれらの合成については、米国特許第4,499,082号、同第4,537,773号、同第5,780,454号、同第6,083,903号、同第6,297,217号、同第6,617,317号、同第6,713,446号、及び同第6,958,319号などにおいてこれまでに述べられており、これらの特許をいずれもその全容において本明細書に援用するものである。
【0025】
ペプチドボロン酸化合物は、一般的に以下の形を有する。すなわち、
【0026】
【化1】

式中、R1、R2、及びR3は、互いに同じでも異なってもよい独立して選択される部分であり、nは1〜8、好ましくは1〜4である。
【0027】
好ましくは、R1、R2、及びR3は、水素、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、アラルキル、アラルコキシ、シクロアルキル、若しくはヘテロ環から独立して選択されるか、又はR1、R2、及びR3のいずれかが、ペプチド主鎖中の隣接する窒素原子とヘテロ環を形成してよい。アルコキシ、アラルキル、及びアラルコキシのアルキル部分を含むアルキルは、好ましくは1〜10個の炭素原子、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有し、直鎖であっても分枝鎖であってもよい。アリールオキシ、アラルキル、及びアラルコキシのアリール部分を含むアリールは、好ましくは単核又は2核(すなわち、縮合2環)、より好ましくはベンジル、ベンジルオキシ、又はフェニルなどの単核である。アリールにはヘテロアリール、すなわち、フリル、ピロール、ピリジン、ピラジン、又はインドールなどの、環内に1個以上の窒素、酸素、又は硫黄原子を有する芳香環も含まれる。シクロアルキルは、3〜6個の炭素原子を有するものが好ましい。ヘテロ環は、環内に1個以上の窒素、酸素、又は硫黄原子を有する非芳香環のことを指し、好ましくは3〜6個の炭素原子を有する5〜7員環である。こうしたヘテロ環としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、及びモルホリンが挙げられる。シクロアルキル又はヘテロ環のいずれかが、例えばシクロヘキシルメチルなどのようにアルキルと組み合わされてもよい。
【0028】
上記基のいずれか(水素を除く)が、ハロゲン、好ましくはフルオロ又はクロロ、ヒドロキシ、低級アルキル、メトキシ又はエトキシなどの低級アルコキシ、ケト、アルデヒド、カルボン酸、エステル、アミド、カーボネート、又はカルバメート、スルホン酸又はエステル、シアノ、1級、2級、又は3級アミノ、ニトロ、アミジノ、及びチオ又はアルキルチオから選択される1つ以上の置換基で置換されてもよい。上記の基は、最大で2個のこうした置換基を含むことが好ましい。R1、R2、及びR3の具体的な例としては、n−ブチル、イソブチル、及びネオペンチル(アルキル)、フェニル又はピラジル(アリール)、4−((t−ブトキシカルボニル)アミノ)ブチル、3−(ニトロアミジノ)プロピル、及び(1−シクロペンチル−9−シアノ)ノニル(置換アルキル)、ナフチルメチル及びベンジル(アラルキル)、ベンジルオキシ(アラルコキシ)、並びにピロリジン(R2は隣接する窒素原子とヘテロ環を形成する)が挙げられる。R1として好ましい基は、置換又は非置換のアリール及びヘテロアリールである。R2及びR3として好ましい基は、天然アミノ酸の側鎖(例えば、アルキル、ヒドロキシアルキル、アラルキル、ヘテロアラルキル、アミノアルキル、カルボキシアルキル、グアニジノアルキル)、又はこれらの変異体である。
【0029】
一般に、ペプチドボロン酸化合物は、モノペプチド、ジペプチド、トリペプチド、又はより高次のペプチド化合物であってもよい。他のペプチドボロン酸化合物については、米国特許第6,083,903号、同第6,297,217号、及び同第6,617,317号に述べられており、これらの特許をいずれも本明細書にその全容において援用するものである。側鎖としてアスパラギン酸又はグルタミン酸残基をボロン酸とともに有する化合物も含まれる。
【0030】
特定の実施形態では、プロテアソーム阻害剤はボルテゾミブである。ボルテゾミブは、[(1R)−3−メチル−1−[[(2S)−1−オキソ−3−フェニル−2−[ピラジニルカルボニル)アミノ]プロピル]アミノ]ブチル]ボロン酸、又はN−ピラジンカルボニル−L−フェニルアラニン−L−ロイシンボロン酸とも呼ばれ、ロイシン及びフェニルアラニンから誘導される修飾ジペプチジルボロン酸である。
【0031】
本発明において有用な他のプロテアソーム阻害剤としては、NPI−0052、カーフィルゾミブ、リトナビル、ジスルフィラム、サリノスポラミドA、エピガロカテキン−3−ガレート、ゲニステイン、及びクルクミンが挙げられる。
【0032】
プロテアソーム阻害剤は、72時間毎よりも高い頻度で、又は少なくとも週3回投与される。プロテアソーム阻害剤は、48時間毎、24時間毎、又は12時間毎のように、6〜60時間毎に投与することができる。プロテアソーム阻害剤は、週3日、4日、5日、6日、又は7日投与するか、1日1回又は毎日複数回投与することができる。投与は、一定間隔で行うか、あるいは投与間の間隔が変化してもよい。投与は連続した日で行ってもよく、不連続な日で行ってもよい。プロテアソーム阻害剤を投与しない休止期間があってもよい。例えば、週3回の投与では、1日目、2日目、3日目に投与を行い、4〜7日目を休止期間とするか、又は、1日目、3日目、4日目に投与を行い、5〜7日目を休止期間とするか、又は1日目、3日目、及び5日目に投与を行い、6〜7日目を休止期間とする、といった要領である。特定の実施形態では、プロテアソーム阻害剤を1〜5日目に投与し、6〜7日目にはプロテアソーム阻害剤をいっさい投与しない。
【0033】
治療は必要なかぎり継続することができ、また、1週間の短期間であってもよい。特定の実施形態では、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、又はそれよりも長い期間にわたって治療を継続する。投与レジメン及び用量は、週毎に同じであってもよく、週毎に変化してもよい。
【0034】
プロテアソーム阻害剤は、各サイクルの間に休止期間をおいた治療サイクルで投与することもできる。例えば、プロテアソーム阻害剤を、週5日、1〜5日目及び8〜12日目に投与し、このサイクルを繰り返す前に1週間又は2週間の休止期間をおくことができる。
【0035】
プロテアソーム阻害剤の用量は、一般的には約0.001mg〜約300mg/kg体重/日、約0.03mg〜約100mg/kg体重/日、又は約0.05mg〜約15mg/kg体重/日である。最適用量は、治療される特定の患者に関連する因子(例えば、年齢、体重、食事内容、及び投与時間)、治療される状態の重症度、使用される化合物、投与方法、及び調製物の強度に応じて変化する。各用量は同じであってもよく、又は用量は、その投与毎、その日毎、若しくはその週毎に変化してもよい。
【0036】
特定の実施形態では、プロテアソーム阻害剤は、約0.1、0.2、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、又は1.1mg/m2の用量で投与される。一例として、ある治療では、ボルテゾミブを1日1回、約0.0166、0.0333又は0.05mg/kg体重(例えば、約0.2、0.4又は0.6mg/m2)の用量で投与することを含む。この1日一回の投与レジメンは、約0.075又は0.1mg/kg体重(例えば、約0.9又は約1.2mg/m2)のボルテゾミブを投与する隔週の投与レジメン、又は約0.166mg/kg(例えば、約2.0mg/m2)のボルテゾミブを投与する毎週の投与レジメンと比較して、毒性作用を増大させることなく、同様の薬力学的効果が得られる。
【0037】
特定の実施形態では、本方法又は使用は、1以上の更なる治療薬を投与することを含む。更なる治療薬は、プロテアソーム阻害剤の副作用を緩和する目的、プロテアソーム媒介又は関連疾患の別の症状又は局面を緩和する目的、プロテアソーム阻害剤の効果を増強する目的、又は関連していない疾患又は障害を治療する目的で投与することができる。
【0038】
本発明において有用な更なる治療薬としては、抗癌剤、免疫抑制剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、抗真菌剤、抗生物質、抗血管過剰増殖剤、抗うつ剤、抗高脂血症剤若しくは脂質低下剤若しくは脂質調節剤、抗糖尿病剤、抗肥満剤、抗高血圧剤、血小板凝集阻害剤、及び/又は抗骨粗鬆症剤が挙げられる。
【0039】
本発明において有用な更なる抗癌治療としては、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、抗体療法、及び免疫療法が挙げられる。このような組み合わせ治療は、分割又は組み合わされた治療薬を同時、連続的、又は別々に投与することによって行うことができる。例として、組み合わせ療法には、ペプチドボロン酸化合物若しくはその組成物と化学療法剤との同時投与、ペプチドボロン酸化合物若しくはその組成物と化学療法剤との逐次投与、ペプチドボロン酸化合物及び化学療法剤を含有する組成物の投与、又は、ペプチドボロン酸化合物を含有する別の組成物と、化学療法剤を含有する別の組成物との同時投与が含まれる。
【0040】
本発明において有用な化学療法剤としては、抗血管新生剤、抗腫瘍剤、細胞毒性剤、細胞増殖の阻害剤、及びこれらに類するもの、又はこれらの混合物が挙げられる。このような化学療法は、以下の治療薬の3つの主要なカテゴリーを包含しうる。すなわち、
1.これらに限定されるものではないが、エピポドフィロトキシン類(例えば、エトポシド及びテニポシド)、ジテルペノイド類(例えば、パクリタキセル及びドセタキセル)、ビンカアルカロイド類(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、及びビノレルビン)、代謝拮抗薬(例えば、クラドラビン、シタラビン、アロプリノール、フルダラビン、メトトレキセート、メルカプトプリン、チオグアニン、5−フルオロウラシン、及びフルオロデオキシウリジン)、及びカンプトテシン類(例えば、9−アミノカンプトテシン、トポテカン及びイリノテカン)などの細胞周期特異的化学療法剤。
2.これらに限定されるものではないが、アルキル化剤(例えば、ヘキサメチルメラミン、ブスルファン、メルファラン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メクロレタミン、カルムスチン、ロムスチン、ダカルバジン、カルボプラチン、ジスプラチン、及びオキサリプラチン)、抗腫瘍性抗生剤(例えば、ブレオマイシン、イダルビシン、マイトマイシン−c、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、ダクチノマイシン及びミトラマイシン)などの細胞毒性化学療法剤。
3.これらに限定されるものではないが、テストステロン5α−ジヒドロレダクターゼ阻害剤(例えば、フィナステリド)、抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン、トレミフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、及びイオドキシフェン)、プロゲストゲン類(progestrogens)(例えば、酢酸メゲストロール)、アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール、レトラゾール、ボラゾール及びエキセメスタン)、抗アンドロゲン剤(例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、及び酢酸シプロテロン(cytorterone))、LHRHアゴニスト及びアンタゴニスト(例えば、酢酸ゴセレリン及びルプロリド)、メタロプロテイナーゼ阻害剤(例えば、マリマスタット)、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体機能阻害剤、2型シクロオキシゲナーゼ阻害剤(例えば、セレコキシブ)、VEGFR及びTIE−2阻害剤などの血管形成阻害剤、肝細胞増殖因子の阻害剤などの増殖因子機能阻害剤、erb−B2、erb−B4、上皮増殖因子受容体(例えば、イレッサ及びタルセバ)、血小板由来増殖因子受容体、血管内皮増殖因子受容体及びTIE−2、並びに本発明に述べられるもの以外の他のチロシンキナーゼ阻害剤などの他の抗癌剤。
【0041】
最も一般的に使用される化学療法剤としては、タキサン類(パクリタキセル及びドセタキセルなど)、カンプトテシン、ドキソルビシン、ボヘミン、メトトレキセート;シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチンなどの白金ベースの治療薬、トポイソメラーゼ阻害剤(エトポシド及びトポテカンなど)、及びポドフィロトキシンが挙げられる。
【0042】
特定の実施形態では、1以上の更なる抗癌治療は、メルファラン及び/又はプレドニゾン、デキサメタゾン、シクロホスファミド、及び/又はレナリドミド、ロミデプシン、ゲムシタビン、イリノテカン、ドセタキセル、又はドキソルビシンである。
【0043】
プロテアソーム阻害剤又は更なる治療薬は、任意の適当な投与経路によって投与することができる。適当な投与経路としては、経口投与、並びに静脈内投与、皮下投与、筋内投与、皮内投与、及び経皮投与などの非経口投与が挙げられる。化合物は、持続注入により又は単回ボーラスとして投与することができる。特定の実施形態では、プロテアソーム阻害剤を皮下投与する。
【0044】
プロテアソーム阻害剤又は更なる治療薬は、医薬製剤の一部として投与することができる。医薬製剤は、薬学の分野においては周知の従来の、及び従来知られていない任意の医薬的方法によって調製することが可能であり、任意の適当な経路による投与に適合させることができる。
【0045】
皮下投与に適合された医薬製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬、及び対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含んでもよい水性及び非水性の滅菌注射液、並びに、懸濁剤及び増粘剤を含んでもよい水性及び非水性の滅菌懸濁液が含まれる。経皮投与用の製剤は、レシピエントの表皮と長期間にわたって密着状態に保たれるような個別のパッチとして与えることができる。
【0046】
本明細書において述べられる方法のプロテアソーム阻害剤の使用も提供される。
【0047】
本発明は、上記に述べた実施形態によって限定されるものではない。これらの実施形態は、あくまで例として示したものであり、付属の「特許請求の範囲」によって定義される保護の範囲内において様々な方法で改変を行うことが可能である。
【実施例】
【0048】
実施例1.前臨床研究方法及び材料
実験計画
隔週投与による治療(TOX 7345)について、3頭の雄及び3頭の雌からなるカニクイザルの群に4サイクルにわたって投与を行った。各サイクルでは、約0.075又は約0.1mg/kg(例えば、約0.9又は約1.2mg/m2)の溶媒又はボルテゾミブを、1、4、8、及び11日目に投与した後、1週間の休止期間をおいた。3頭の雄及び3頭の雌からなるカニクイザルの第2の群に、約0.166mg/kg(例えば、約2.0mg/m2)のボルテゾミブを毎週、12週間連続して投与した。毎日投与による治療(TOX 8394)については、3頭の雄及び3頭の雌からなるカニクイザルの群に約0.0166、0.0333又は0.05mg/kg(例えば、約0.2、0.4又は0.6mg/m2)の溶媒又はボルテゾミブを5日間連続して投与した後2日間の休止期間をおき、これを8週間連続して行った。
【0049】
試験物質及び溶媒は、使用する日に新しく調製した。ボルテゾミブは、それぞれに約3.5mgのボルテゾミブ及び約35mgのマンニトールが入った予め秤量した容器中で与えた。この物質に約0.9重量/体積%の注射用塩化ナトリウム溶液(米国薬局方(USP))を加え、静かに混合することによって戻し、約3.5(TOX7345)、又は1(TOX8394)mg/mLのボルテゾミブの溶液とした。コントロール動物用の溶媒は、適量のマンニトールを適当な体積の約0.9重量/体積%の注射用塩化ナトリウム溶液(米国薬局方(USP))に溶解することにより調製し、上記の3.5mg/mL(TOX7345)又は1.0mg/mL(TOX8394)のボルテゾミブ投与溶液に含まれるのと同じ濃度のマンニトールを含む投与溶液とした。
【0050】
各群を、以下に述べるように毒物学的プロファイル、薬物動態、及び薬力学について評価した。
【0051】
実施例2.前臨床スクリーニング実験
各実験群について、以下の毒物学的スクリーニングを行った。すなわち、死亡率、体重、食餌消費量、臨床所見、眼科的所見、心電図、血液学的所見、血清生化学、尿検査、注射部位の評価(紅斑及び浮腫)、神経学的検査、組織学的所見、及び末梢神経障害である。毒物学的スクリーニング又は安全性評価の結果を下記表1にまとめて示した。
【0052】
表1.隔週、及び1日1回の投与レジメンの毒物学的スクリーニングの結果。
【0053】
【表1−1】

【0054】
【表1−2】

【0055】
表1に示されるように、繰り返しで行った、1日1回、週5回のボルテゾミブの皮下投与に対して、カニクイザルは8週間にわたり高い耐性を示した。いずれのサルも予定の屠殺時点まで生存した。ECG、眼科的所見、直腸温度、又は血圧測定の結果、ボルテゾミブに関連した変化は見られなかった。また、解剖によりボルテゾミブで処理したサルには肉眼的異常は認められなかった。治療により血清化学パラメータに変化は見られなかった。
【0056】
注射部位のドレイズスコアは、約0.05mg/kg/投与を投与した雄及び雌のサルの注射部位における繊維増殖の組織病理学的所見と相関する、紅斑及び浮腫の発生、頻度及び重症度が、ボルテゾミブ治療によって用量依存的に増大することを示した。注射部位では、単核球/好中球の浸潤(軽度〜中度)に冒された領域及び組織切片の数が用量相関的に増大した。
【0057】
約0.0333mg/kg/投与を投与した1頭の雄及び1頭の雌において、また、約0.05mg/kg/投与を投与した1頭の雌において中度の食欲低下が認められた。しかしながら、これらの群の9頭の雄及び雌のサルで体重の約3〜12%が減少した。2頭の雄を除き、約0.05mg/kg/投与を投与したすべてのサルが投与期間で体重を回復した。約0.0166mg/kg/投与及び0.0333mg/kg/投与を投与した各群の1頭の雄ザル、及び約0.05mg/kg/投与を投与した1頭の雌ザルにおいて、複数の日に軟便も認められた。
【0058】
すべてのボルテゾミブ処理群で用量依存的に血小板数が減少し、平均血小板容積が増大し、フィブリノーゲン濃度が上昇した。尿検査のパラメータであるクレアチニン、無機リン、ケトン、タンパク質及びナトリウムの増加は、病理学的所見との相関が見られた。約0.05mg/kg/投与を投与したすべてのサルにおいて、腎重量はコントロールのサルの腎重量よりも大きかった。更に、約0.0333mg/kg/投与を投与した雄ザル、並びに約0.05mg/kg/投与を投与した雄及び雌のサルの腎臓において、尿細管変性/再生が観察された。
【0059】
他の組織病理学的所見としては、約0.0333又は0.05mg/kg/投与を投与した雄及び雌のサルの膵臓におけるチモーゲン顆粒、並びに約0.0333及び0.05mg/kg/投与を投与した雄ザルの前立腺の腺房における壊死片が低下した。MTDは、隔週の投与レジメン(TOX7345)では約0.1mg/kgであり、毎日の投与レジメン(TOX8394)では約0.05mg/kgであった。
【0060】
まとめると、>=0.0166mg/kg/投与以上のボルテゾミブの皮下投与により、異なる尿検査パラメータの変化、血小板の減少、平均血小板容積及び血清フィブリノーゲン濃度の増大につながった。>=0.0333mg/kg/投与以上のボルテゾミブの皮下投与により、食餌消費量の減少、並びに腎臓、膵臓及び前立腺の病変、並びに多くの場合、治療期間においてその後の体重増加をともなう初期の体重減少につながった。約0.05mg/kg/投与の高用量では、注射部位における組織病理学的病変及び腎重量はコントロールよりも高かった。更に、初期の体重減少が見られた2頭の雄で、治療期間の間に体重の回復が見られなかった。したがって、この実験の条件下で、得られたデータに基づけば、カニクイザルに8週間にわたって繰り返しで行った、週5回のボルテゾミブの皮下投与では、「最大無毒性量」(NOAEL)を特定することはできない。
【0061】
実施例3.前臨床毒物動態及び薬物動態
各実験において、最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、最高血漿中濃度(Cmax)の値を、データを目視検査することにより決定した。血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)を、線形台形則により推定した。血漿試料は、定量下限値が約0.5ng/mLである有効LC/MS/MS法を用いて分析した。
【0062】
隔週及び1日1回の投与レジメンにおけるボルテゾミブの血漿中濃度を、それぞれ図1A、1B、2A、2Bに示した。雄と雌のサルの間で曝露に差はなかった。したがって、雄及び雌の動物の両方から得た結果を用いて平均のパラメータを計算した。
【0063】
各実験で、ボルテゾミブは投与後速やかに吸収された。Tmaxの値は、平均して最も遅い投与の0.25時間後であった。Cmax及びAUCの値は、隔週の投与レジメン及び毎日の投与レジメンについて、ボルテゾミブの用量レベルの増加にともなって、用量に比例して、又は用量に比例した量よりも若干高めに増加した。
【0064】
更に、各実験において、曝露量(AUC)は、繰り返し投与に際して増大した。この増加は、初回から早期の繰り返し用量投与にかけて、後の用量投与間におけるよりも顕著であった。データは、隔週の治療レジメン(TOX7345)では2回目のサイクルから、1日1回投与(TOX8394)では第3週から、曝露量の更なる増加は見られなかったことを示している。同様の用量レベルに正規化すると、曝露量(Cmax及びAUC)は2つの実験間で同等であった。
【0065】
表2:カニクイザルに隔週(0.075及び0.1mg/kg)又は毎週(0.166mg/kg)の投与レジメン(TOX7345)で0.075、0.1及び0.166mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合の1回(1日目)、及び繰り返し(0.075及び0.1mg/kgを32、74日目に、又は0.166mg/kgを50及び78日目に)の皮下投与後に計算した血漿中のボルテゾミブの薬物動態パラメータ。
【0066】
【表2】

平均値を示す。
括弧内に標準偏差を示す。
max=Cmaxとなるまでの時間。
max=最高血漿中濃度。
AUC0〜t=0〜tまでの血漿中濃度時間曲線下面積。
【0067】
表3:カニクイザルに毎日(5/7日)の投与レジメン(TOX8394)で連続8週間にわたって0.0166、0.0333及び0.05mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合の1回(1日目)、及び繰り返し(3及び54日目)の皮下投与後に計算した血漿中のボルテゾミブの薬物動態パラメータ。
【0068】
【表3】

平均値を示す。
括弧内に標準偏差を示す。
max=Cmaxとなるまでの時間。
max=最高血漿中濃度。
AUC0〜t=0〜tまでの血漿中濃度時間曲線下面積。
【0069】
平均のTmaxは投与後約0.138〜0.203時間であり、これらの結果は、化合物が投与後に速やかに吸収されたことを示す。Cmax及びAUCによって表される曝露量は、ボルテゾミブの用量レベルの増加にともなって増大した。投与の約0.5時間後に最大プロテアソーム阻害が観察された。プロテアソーム阻害率もまた、ボルテゾミブの用量の増加にともなって増大した。
【0070】
消化管、骨髄、リンパ系、腎臓においても同様の全身毒性が、隔週(TOX7345)及び毎日(TOX8394)投与の両方において認められた。更に、両方の実験で同様の神経障害が認められた。局所耐性は、両方の毒性実験において極めて良好であった。1日曝露量(AUC)は、約0.6mg/m2の1日1回投与において、約1.2mg/m2の隔週投与におけるよりも低かった。しかしながら、累積毎週曝露量は、1日1回の投与レジメンにおいて隔週の投与レジメンよりも高かった。
【0071】
最大プロテアソーム阻害率(Emax)は、約0.6mg/m2及び1.2mg/m2と同様であり、約65%〜73%の間で変化した。AUEは、1日1回投与では約0.6mg/m2(AUE0〜24時間:900%・時間)であり、隔週投与における約1.2mg/m2(AUE0〜72時間:1500%・時間)よりも低かった。累積毎週曝露量AUEは、毎日の投与スケジュールにおいて、3000%・時間に対して4500%・時間とより高かった。毎日の投与スケジュールでは、2日間の休止期間が、プロテアソーム阻害の蓄積がなく、薬物動態の回復に適当であるようであった。
【0072】
毎日の投与スケジュールにおけるこのような高い薬物動態の曝露にも関わらず、全身毒性は、約1.2mg/m2の隔週投与の投与スケジュールよりも約0.6mg/m2の1日1回の投与スケジュールの全身毒性に近かった。
【0073】
実施例4.プロテアソーム阻害の前臨床薬物動態学
各実験で、全血中の20Sプロテアソーム活性をLightcap,Clin.Chem.,46:673(2000)に述べられるようにして決定した。蛍光標識された小さなポリペプチド基質のアミド結合をプロテアソームが加水分解する速度を測定することによって、キモトリプシン活性を評価した。比活性(Spa)を、分解物中に存在するタンパク質の量に対して正規化した。
【0074】
各治療サイクルにおいて、各時点のSpaを各個体のそれぞれのベースライン値の比率(%)として計算した。最高阻害作用到達時間(Tmax)、最高阻害作用(Emax)を、データを目視検査することにより決定した。作用曲線下面積(AUE)を線形台形則により推定した。
【0075】
両方の安全性評価実験において、血漿試料は、定量下限値が約0.5ng/mLである有効LC/MS/MS法を用いて分析した。
【0076】
隔週の投与レジメン及び1日1回の投与レジメンにおけるボルテゾミブの薬物動態パラメータを、表4及び5にそれぞれまとめた。更に、隔週の投与レジメン及び1日1回の投与レジメンにおけるボルテゾミブによる全血中のプロテアソーム阻害率(%)を、図3及び4にそれぞれ示した。
【0077】
これらの結果は、20Sプロテアソーム活性のボルテゾミブ媒介プロテアソーム阻害には性別による差は見られなかったことを示している。これらの結果は、両方の実験において平均して皮下投与の約0.5時間後に最大の阻害が見られたことを更に示している。
【0078】
各実験において、20Sプロテアソーム特異的阻害の阻害は、用量との関係が見られた。隔週の投与レジメンでは、0.1mg/kgの用量レベルで最大の阻害が観察された(Emax=74%)。毎日の投与レジメンでは、0.05mg/kgの用量レベルで最大の阻害が観察された(Emax=73%)。毎週(0.166mg/kg)の投与群では、78%の最大阻害率が認められた。
【0079】
全体として、投与後の時間の関数としての阻害プロファイルの経過は、各実験の各ボルテゾミブ投与群間で、また、各実験間で同等であった。しかしながら、最も高い用量レベル、特に0.166mg/kgの用量レベルにおいて、プロテアソーム阻害がベースラインによりゆっくりと回復する傾向が見られた。隔週の投与レジメン(TOX7345)では、プロテアソーム阻害は、すべての群で投与の24〜48時間後にベースラインの値に回復した。
【0080】
毎日の投与レジメン(TOX8394)では、投与前の異なる日に決定された20Sプロテアソーム活性は、2日間の薬物休止期間のそれぞれの終わりに、残留する20Sプロテアソーム阻害が見られないことを示した。
【0081】
血中の最高プロテアソーム阻害率(Emax)は、0.05mg/kg(0.6mg/m2)の毎日投与、及び0.1mg/kg(1.2mg/m2)の隔週投与で同様であった(65〜73%の阻害率)。作用曲線下面積(AUE)は、それぞれの対応する投与間隔間で、0.1mg/kgよりも0.05mg/kgにおいてより低かったが、累積AUE(1週間にわたって計算した)は、毎日の治療スケジュールでは隔週投与よりも約50%高かった。
【0082】
表4:カニクイザルに隔週(0.075及び0.1mg/kg)又は毎週(0.166mg/kg)の投与レジメン(TOX7345)で0.075、0.1及び0.166mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合の1回(1日目)、及び繰り返し(0.075及び0.1mg/kgを32、74日目に、又は0.166mg/kgを50及び78日目に)の皮下投与後に計算した全血中のボルテゾミブの薬物動態パラメータ。
【0083】
【表4】

平均値を示す。
括弧内に標準偏差を示す。
max=Emaxとなるまでの時間。
max=最大作用(=プロテアソーム阻害率%)。
AUE0〜t=0〜tの作用曲線下面積。
【0084】
表5:カニクイザルに毎日(5/7日)の投与レジメン(TOX8394)で連続8週間にわたって0.0166、0.0333及び0.05mg/kgのボルテゾミブを皮下投与した場合の3日目及び54日目の全血中のボルテゾミブの薬物動態パラメータ。
【0085】
【表5】

平均値を示す。
括弧内に標準偏差を示す。
max=Emaxとなるまでの時間。
max=最大作用(=プロテアソーム阻害率%)。
AUE0〜t=0〜tの作用曲線下面積。
【0086】
より高い累積用量及び累積プロテアソーム阻害率にも関わらず、安全性プロファイルは隔週の投与レジメンと1日1回の投与レジメンとで同等であった。これらの実験により更に、試験した動物では末梢神経障害及び局所耐性は両方の投与レジメンで同様であることが示された。
【0087】
実施例5.臨床実験
ボルテゾミブを、単独又は放射線治療と組み合わせて、進行性又は転移性固形腫瘍を有する患者に5日間投与2日間休止のスケジュールで1日1回皮下投与する。毎日投与はコース1の1日目に開始し、各コースは連続した28日間とする。投与する用量は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、又は1.1mg/m2とする。
【0088】
腫瘍反応を、腫瘍反応についての改変されたWHO基準を使用して測定可能な病変を有するすべての患者について測定した。評価は2ヶ月毎、又は示される場合にはより高い頻度で行う。
【0089】
以上、本発明の基礎となる新規な特徴を本発明の好ましい実施形態に適用したものを図示、説明、及び指摘したが、本発明の趣旨から逸脱することなく、例示した装置の形態及び細部、並びにその動作において、様々な省略、代用及び変更を行うことができる点は当業者によれば理解されるところであろう。例えば、同じ結果を得るために、実質的に同じ機能を実質的に同様の要領で行うこれらの要素、及び/又は方法の工程のあらゆる組み合わせは、明らかに本発明の範囲内にあるものとする。更に、本発明のあらゆる開示形態又は実施形態との関連において示され、かつ/又は述べられる構造、及び/又は要素、及び/又は方法の工程は、構成の選択の一般的な事項として他のあらゆる開示又は記載又は示唆される形態又は実施形態に組み込まれうるものである。したがって、本明細書に付属する「特許請求の範囲」の記載のみに基づいて限定がなされるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の癌を治療するための方法であって、前記患者にプロテアソーム阻害剤の複数用量を投与することを含み、前記複数用量を72時間毎よりも高い頻度、又は少なくとも週3日投与する、方法。
【請求項2】
前記プロテアソーム阻害剤を少なくとも週4日投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロテアソーム阻害剤を少なくとも週5日投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プロテアソーム阻害剤を少なくとも週6日投与する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロテアソーム阻害剤を少なくとも1日1回投与する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記複数用量を、48時間毎に少なくとも1回投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数用量を、24時間毎に少なくとも1回投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記複数用量を、少なくとも2週間にわたって投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記複数用量を、少なくとも4週間にわたって投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プロテアソーム阻害剤を、静脈内投与、皮下投与、非経口投与、筋内投与、皮内投与、又は経皮投与する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記プロテアソーム阻害剤がボルテゾミブである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記癌が固形腫瘍である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記固形腫瘍が、皮膚、肺、気管支、前立腺、乳房、膵臓、副腎、小腸、大腸、結腸、直腸、甲状腺、胃、肝臓、胆管、腎臓、腎盂、膀胱、子宮、子宮頸部、卵巣、食道、脳、頭頸部、口腔、咽頭、及び喉頭の腫瘍からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者に第2の抗癌治療を投与することを更に含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の抗癌治療が、抗体療法、ホルモン療法、放射線、化学療法、手術、遺伝子治療、免疫療法、又は癌を予防、治療、若しくは改善するための他の治療からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記化学療法が、抗血管新生剤、抗腫瘍剤、細胞毒性剤、及び細胞増殖の阻害剤からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記癌が難治性又は再発性のものである、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
癌の治療を必要とする患者にプロテアソーム阻害剤を少なくとも週3回又は72時間毎よりも高い頻度で投与する、癌の治療のためのプロテアソーム阻害剤の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−506626(P2013−506626A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531285(P2012−531285)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005994
【国際公開番号】WO2011/038924
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(397060175)ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー. (28)
【Fターム(参考)】