説明

癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤

【課題】poly(I)・poly(C)を含有する癌治療に有効な新規な薬剤を提供することにある。
【解決手段】2−0−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−0−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成される担体とpoly(I)・poly(C)又はミスマッチドpoly(I)・poly(C)との複合体を含有する癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤に関するものである。ここで「癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤」とは、癌細胞内のヌクレアーゼを活性化して癌細胞にアポトーシスを誘導し癌細胞を死滅させることができる薬剤をいう。また、「I」とはイノシン酸を、「C」とはシチジル酸を、「A」とはアデニル酸を、「U」とはウリジル酸を、それぞれ意味する。
【0002】
ミスマッチドpoly(I)・poly(C)やミスマッチドpoly(A)・poly(U)とは、当業者に周知の事項であるが、二本鎖を構成する核酸塩基の中に一部相補的でない塩基を含むpoly(I)・poly(C)、poly(A)・poly(U)を意味する。
【背景技術】
【0003】
poly(I)・poly(C)は、ポリイノシン酸とポリシチジル酸とからなるポリリボヌクレオチドコポリマーの二本鎖RNAであり、強力なインターフェロン誘導能と免疫賦活作用を有する薬物として広く知られている。そして、かかるpoly(I)・poly(C)が免疫賦活作用を有することから、免疫反応により間接的に癌細胞の増殖を抑制しうると考えられ、これまで癌治療剤としての可能性が模索されてきた。しかし、poly(I)・poly(C)の免疫反応による間接的な作用では癌細胞の増殖を有効に抑えられず、poly(I)・poly(C)は癌治療剤として開発されるまでに至っていない。インターフェロン誘導能や免疫賦活作用に基づくその他の適応症についてもpoly(I)・poly(C)は開発されるに至っていない。
【0004】
ポリアデニル酸とポリウリジル酸とからなるポリリボヌクレオチドコポリマーであるpoly(A)・poly(U)やミスマッチドpoly(I)・poly(C)、ミスマッチドpoly(A)・poly(U)についても、程度の差はあれpoly(I)・poly(C)と同様な作用を有していると考えられる。
【0005】
一方、細胞内へ薬物を移入するのに有効な担体としては、例えば、カチオニック・リポソームと一般に呼ばれている、リポフェクチン(登録商標)や下記の構造式[I]に係る2−0−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−0−ジオレオイルグリセロール等のグリセロール誘導体及びリン脂質を必須構成成分として形成される担体が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0006】
【化1】

上記カチオニック・リポソームは、脂質二分子膜からなる、水溶液中で正電荷を持った小胞体であると考えられる。かかるカチオニック・リポソームは水溶液中で正電荷を帯び、poly(I)・poly(C)等の二本鎖RNAは水溶液中で負電荷を帯びることから、カチオニック・リポソームとpoly(I)・poly(C)等とは容易に複合体を形成することができる。
【0007】
しかし、poly(I)・poly(C)等の二本鎖RNA自身やそれらとカチオニック・リポソームとの複合体が癌細胞内のヌクレアーゼを活性化して癌細胞にアポトーンスを誘導し癌細胞を死滅させるかどうかについては、全く知られていなかった。
【特許文献1】国際公開第91/17424号パンフレット
【特許文献2】国際公開第94/19314号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、癌治療に有効な薬剤を提供することにある。また、本発明の目的は、poly(I)・poly(C)等の二本鎖RNAを含有する新規な薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤が癌治療に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明は、癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤に関する。癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤であるかどうかは、例えば後述する試験例2のようなDNAやRNAのフラグメント化を観察する実験等を行うことによって容易に決定することができる。例えば、本発明として、細胞内へ薬物を移入するのに有効な担体とpoly(I)・poly(C)若しくはミスマッチドpoly(I)・poly(C)又はpoly(A)・poly(U)若しくはミスマッチドpoly(A)・poly(U)(以下、これら二本鎖RNAを総称して「poly(I)・poly(C)等」という)との複合体を含有する癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤やカチオニック・リポソームとpoly(I)・poly(C)等との複合体を含有する癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤を挙げることができる。
【0011】
好ましい本発明の具体例としては、2−0−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−0−ジオレオイルグリセロール(以下「本グリセロール誘導体」という)及びリン脂質を必須構成成分として形成される担体(以下「本担体」という)とpoly(I)・poly(C)等との複合体(以下「本複合体」という)を含有する癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤(以下「本活性化剤」という)を挙げることができる。
【0012】
以下、好ましい本発明の具体例である本活性化剤について詳述する。
本担体は、カチオニック・リポソームの一種と一般に考えることができるが、細胞内へ薬物を移入する機能を有していれば必ずしもカチオニック・リポソームのような形態を有している必要はない。
【0013】
本発明に係るpoly(I)・poly(C)等の鎖長は、特に制限されないが、例えばpoly(I)・poly(C)の場合には、50〜2,000bp(bp:ベースペアー、塩基対数)のものが適当であり、100〜500bpのものが好ましく、200〜400bpのものがより好ましい。50bp未満であると有効性に問題が生じるおそれがあり、2,000bpより長いと安全性に問題が生じるおそれがある。100〜500bpの範囲のpoly(I)・poly(C)は、本発明において有効性と安全性とのバランスがとれている鎖長領域であると考えられる。poly(I)・poly(C)等は、通常様々な鎖長からなる一定の分布をもって存在するので、左記のpoly(I)・poly(C)の鎖長は、平均分布鎖長を意味する。
本発明に係るリン脂質は、医薬上許容されるリン脂質であれば特に制限されない。具体例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、レシチン等を挙げることができる。また、水素添加されたリン脂質も挙げることができる。好ましいリン脂質としては、卵黄ホスファチジルコリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、卵黄ホスファチドを挙げることができる。2種以上のリン脂質を用いることもできる。なお、ホスファチジルコリン又はレシチンは、カチオニック・リポソームにおいて一般的に用いられるホスファチジルエタノールアミンと比べて、活性の低下なしに毒性を有意に低下させることができる。
【0014】
本複合体中の、本担体とpoly(I)・poly(C)等との構成比率は、リン脂質の種類やpoly(I)・poly(C)等の種類、癌の種類等によって異なるが、本担体10重量部に対して、poly(I)・poly(C)等0.05〜10重量部が適当であり、0.1〜4重量部が好ましく、0.5〜2重量部がより好ましい。
【0015】
本担体中の、本グリセロール誘導体とリン脂質との構成比率は、poly(I)・poly(C)等の種類や使用量やリン脂質の種類等によって異なるが、本グリセロール誘導体1重量部に対して、リン脂質0.1〜10重量部が適当であり、0.5〜5重量部が好ましく、1〜2重量部がより好ましい。
【0016】
本活性化剤は、例えば、本複合体が水溶液中に分散している液剤(注射剤、点滴剤等)やその凍結乾燥製剤の形態をとることができる。液剤の場合、本複合体が、0.001〜25%(w/v)の濃度範囲内で存在しているものが適当であり、0.01〜5%(w/v)の濃度範囲内で存在しているものが好ましく、0.1〜1%(w/v)の濃度範囲内で存在しているものがより好ましい。
【0017】
本活性化剤は、任意の医薬上許容される添加剤、例えば、乳化補助剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤を適当量含有していてもよい。具体的には、炭素数6〜22の脂肪酸(例、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸)やその医薬上許容される塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)、アルブミン、デキストラン等の乳化補助剤、コレステロール、ホスファチジン酸等の安定化剤、塩化ナトリウム、グルコース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース等の等張化剤、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン等のpH調整剤などを挙げることができる。
【0018】
本活性化剤は、例えば、リポソームの一般的な製法と同様にして製造することができる。例えば、まず所定量の本グリセロール誘導体及びリン脂質に、所定量の水(注射用水、注射用蒸留水、生理食塩水等)を加えこれらを攪拌混合し、この混合物を適当な分散機、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散器、超音波ホモジナイザー、高圧乳化分散機、マイクロフルイダイザー(商品名)、ナノマイザー(商品名)、アルティマイザー(商品名)、マントン−ガウリン型高圧ホモジナイザーを用いて分散処理する。そして、その上に所定量のpoly(I)・poly(C)等を加え、再度適当な分散機で分散処理して注射剤としての本活性化剤を製造することができる。他の任意の添加剤は、分散前でも分散後でも適当な工程で添加することができる。また、初めから本グリセロール誘導体、リン脂質、及びpoly(I)・poly(C)等の三者の混合物に水を加えて同時に分散処理して本活性化剤を製造することもでき、また、粗分散を経て製造することもできる。
【0019】
次いで、上記分散処理して得られた本活性化剤を凍結乾燥処理すれば、本活性化剤の凍結乾燥製剤を調製することができる。凍結乾燥処理は、常法により行なうことができる。例えば、上記分散処理して得られた本活性化剤を滅菌後、所定量をバイアル瓶に分注する。約−40〜−20℃の条件で予備凍結を約2時間程度行い、約0〜10℃で減圧下に一次乾燥を行い、次いで、約15〜25℃で減圧下に二次乾燥して凍結乾燥する。そして、一般的にはバイアル内部を窒素ガスで置換し、打栓して本活性化剤の凍結乾燥製剤を得ることができる。
【0020】
本活性化剤の凍結乾燥製剤は、一般には任意の適当な溶液(再溶解液)の添加によって再溶解し使用することができる。このような再溶解液としては、注射用水、生理食塩水、その他一般輸液を挙げることができる。この再溶解液の液量は、用途等によって異なり特に制限されないが、凍結乾燥前の液量の0.5〜2倍量、又は500mL以下が適当である。
【0021】
本活性化剤は、癌細胞内のヌクレアーゼを活性化して癌細胞にアポトーシスを誘導し癌細胞を死滅させることができ、毒性も低いので、ヒトを含む哺乳動物の癌治療、例えば肝臓癌治療に有用である。特に本担体とpoly(I)・poly(C)との複合体を含有する本活性化剤は、有効性が極めて高い反面、毒性が極めて低いので優れている。
【0022】
本活性化剤は、癌治療のため静脈内投与、癌内局所投与、経粘膜投与等することができ、肝臓癌治療のため本活性化剤を用いる場合には、静脈内投与、肝動脈内投与、門脈内投与が適当である。
【0023】
本活性化剤の癌治療のための投与量は、poly(I)・poly(C)等やリン脂質の種類、癌の種類、癌の進行状況、年齢、種差、投与経路、投与方法等によって異なるが、poly(I)・poly(C)等の投与量として、1回当たり通常50μg〜50mg/ヒトが適当であり、100μg〜2mg/ヒトが好ましい。poly(I)・poly(C)の投与量としても、1回当たり通常50μg〜50mg/ヒトが適当であり、100μg〜2mg/ヒトが好ましい。本活性化剤は、1日1〜3回を、連日、隔日、1週毎、2週毎等に1ショット投与や点滴投与等することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施例及び試験例を掲げて、本発明を更に詳しく説明する。各実施例及び各試験例において、本活性化剤の濃度は、すべて本活性化剤中の当該poly(I)・poly(C)の濃度で表している。
実施例1
本グリセロール誘導体2gと精製卵黄レシチン2gに100mLの注射用水に溶解したマルトース40gを加え攪拌混合し、ホモジナイザーを用いて5分間分散処理して本担体の粗分散液を得た。かかる粗分散液を更に実験用小型乳化分散機を用いて1時間分散処理し、注射用水で250mLに定容して本担体分散液を回収した。本担体分散液250mLに500mgのpoly(I)・poly(C)〔平均鎖長は、ほぼ200bp〕を含む150mLの水溶液を攪拌しながら添加し、更に1時間実験用小型乳化分散機を用いて分散処理し本活性化剤を得た。その後、本活性化剤を1mLづつバイアルに分注し常法に従って凍結乾燥製剤とした。
実施例2
本グリセロール誘導体50gと卵黄ホスファチド30gに10Lの注射用水に溶解したスクロース4kgを加えマントン−ガウリン型高圧ホモジナイザーを用いて10分間分散処理し、注射用水で25Lに定容して本担体分散液を回収した。本担体分散液20Lに10gのpoly(I)・poly(C)〔平均鎖長は、ほぼ200bp〕を含む12Lの水溶液を攪拌しなから添加し、塩酸を用いてpHを5.5に調整し、さらに30分マントン−ガウリン型高圧ホモジナイザーを用いて分散処理して本活性化剤を得た。その後、本活性化剤を20mLづつバイアルに分注し常法に従って凍結乾燥製剤とした。当該凍結乾燥製剤に市販の5%ブドウ糖輪液(500mL)を加えて溶解した。
実施例3
本グリセロール誘導体2gと大豆レシチン2gに100mLの注射用水に溶解したブドウ糖20gを加え攪拌混合し、ホモジナイザーを用いて5分間分散処理して本担体の粗分散液を得た。かかる粗分散液を更に実験用小型高圧乳化分散磯を用いて1時間分散処理し、注射用水で250mLに定容して本担体分散液を回収した。本担体分散液250mLに50mgのpoly(I)・poly(C)〔平均鎖長は、ほぼ200bp〕を含む150mLの水溶液を攪拌しなから添加し、さらに1時間実験用小型高圧乳化分散機を用いて分散処理して本活性化剤を得た。
実施例4
本グリセロール誘導体1.2gと精製卵黄レシチン2.0gに100mLの注射用水に溶解したマルトース40gを加え攪拌混合し、実験用小型乳化分散機を用いて30分間分散処理し、注射用水で250mLに定容して本担体分散液を回収した。本担体分散液250mLに200mgのpoly(I)・poly(C)〔平均鎖長は、ほぼ200bp〕を含む150mLの水溶液を攪拌しながら添加し、さらに2時間実験用小型乳化分散機を用いて分散処理して本活性化剤を得た。
実施例5
本グリセロール誘導体1.2gと精製卵黄レシチン2.0gに100mLの注射用水に溶解したマルトース40gを加え攪拌混合し、実験用小型乳化分散機を用いて30分間分散処理し、注射用水で250mLに定容して本担体分散液を回収した。本担体分散液250mLに、平均鎖長が360ベースのpoly(I)100mgと318ベースのpoly(C)100mgを含む150mLの水溶液を攪拌しながら添加し、さらに2時間実験用小型乳化分散機を用いて分散処理して本活性化剤を得た。
実施例6
本グリセロール誘導体2gと精製卵黄レシチン2gに100mLの注射用水に溶解したマルトース40gを加え攪拌混合し、ホモジナイザーを用いて5分間分散処理して本担体の粗分散液を得た。かかる粗分散液を更に実験用小型乳化分散機を用いて1時間分散処理し、注射用水で250mLに定容して本担体分散液を回収した。本担体分散液250mLに、平均鎖長が1419ベースのpoly(I)250mgと1491ベースのpoly(C)250mgを含む150mLの水溶液を攪拌しなから添加し、更に1時間実験用小型乳化分散機を用いて分散処理し本活性化剤を得た。その後、本活性化剤を1mLづつバイアルに分注し常法に従って凍結乾燥製剤とした。
実施例7
本グリセロール誘導体1.2gと精製卵黄レシチン2.0gに100mLの注射用水に溶解したマルトース40gを加え攪拌混合し、実験用小型乳化分散機を用いて30分間分散処理し、注射用水で250mLに定容して本担体分散液を回収した。本担体分散液250mLに、平均鎖長が84ベースのpoly(I)100mgと76ベースのpoly(C)100mgを含む150mLの水溶液を攪拌しながら添加し、さらに2時間実験用小型乳化分散機を用いて分散処理して本活性化剤を得た。
実施例8
実施例4と同様にして、平均鎖長がほぼ350bpのpoly(I)・poly(C)を含む本活性化剤を得た。
実施例9
実施例4と同様にして、平均鎖長がほぼ1450bpのpoly(I)・poly(C)を含む本活性化剤を得た。
実施例10
実施例4と同様にして、平均鎖長がほぼ80bpのpoly(I)・poly(C)を含む本活性化剤を得た。
試験例1 各種細胞株に対する増殖抑制効果(in vitro)
各々の細胞を96穴のプレートに10細胞/穴の密度でまき、翌日実施例4に係る本活性化剤又はアドリアマイシンを添加して培養を続けた。3日後に生細胞数をMTT法で測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

表1及び表2から明らかなように、数多くの上皮系及び繊維芽細胞由来の癌細胞株に対し、0.01〜500ng/mLの濃度で強い増殖抑制作用が見られた。核酸合成阻害により抗癌作用を示すアドリアマイシンと比較しても遜色のない強さであった。どの臓器の癌細胞に対しても効果があり、臓器特異性は見られなかった。一方、非癌細胞である肝臓由来株化細胞4株及び株化繊維芽細胞7株に対して本活性化剤は1000ng/mLの濃度でも増殖抑制作用を示さなかった。なお、このin vitro癌細胞増殖抑制効果は、poly(I)・poly(C)単独添加及び本担体単独では全く見られず、また単に細胞内へpoly(I)・poly(C)が移入されただけでは想像のつかなかった現象である。
試験例2 アポトーシス現象の観察
(1)DNA及びRNAフラグメンテーション
1)DNAフラグメンテーション
A431細胞及びKM12−HX細胞の各々にpoly(I)・poly(C)の濃度として1μg/mLの実施例4に係る本活性化剤を添加し、A431細胞については5時間後に、KM12−HX細胞については7.5時間後に細胞を回収した。5mM Tris−HCl(pH8.0)・10mM EDTA・0.5%(v/v)Triton X−100で細胞を溶解した後、13000×gで20分間遠心してフラグメント化したDNA(上清)とクロマチン画分(沈殿)を分離した。上清に100μg/ml RNase Aを加え37℃で1時間作用させた後、200μg/mL Proteinase K及び1%(w/v)SDS(Sodium dodecyl sulfate)を50℃で1.5時間反応させた。さらにフェノール/クロロホルムによりフラグメント化DNAを抽出し、1.8%アガロースゲルで電気泳動した。その結果、いずれの細胞においてもDNAフラグメンテーションが観察された。
【0027】
また、A431細胞についてその時間経過を調べた。A431細胞を6穴プレートに2.8×10細胞/穴の密度でまき、翌日2μCi〔H〕Thymidineを加え細胞のDNAをラベルした。その後実施例4に係る本活性化剤(1μg/mL)を添加し、各時間で細胞を集めた。5mM Tris−HCl(pH8.0)・10mM EDTA・0.5%(v/v)Triton X−100で細胞を溶解した後、13000×gで20分間遠心してフラグメント化したDNA(上清)とクロマチン画分(沈殿)を分離した。上清及び沈殿の放射活性量からフラグメント化DNAの全DNAに対する割合を算出した。その結果を図1に示す。
【0028】
添加後3時間で全DNAの約30%、5時間で55%以上のフラグメント化が起こっており、この分解が本活性化剤が細胞に入ってから直ぐに起こる現象であることがわかった。
2)RNAフラグメンテーション
【0029】
A431細胞、MDA−MB−468細胞、KB細胞、HeLaS3細胞、及びMCF−7細胞の各々にpoly(I)・poly(C)の濃度として1μg/mLの実施例4に係る本活性化剤を添加し、4時間後に細胞を回収した。各細胞からリボソーム画分を分画し、AGPC(Acid−Guanidium−Phenol−Chloroform)法により総RNAを抽出した。RNAをホルムアルデヒド変性ゲル(1.8%アガロースゲル)で電気泳動後、エチジウムブロマイド染色した。その結果、いずれの細胞においても28S及び18SリボソームRNAのフラグメンテーションが観察された。
(2)ヌクレアーゼ阻害剤の影響
HeLaS3細胞を96穴プレートに10細胞/穴の密度でまき、翌日ヌクレアーゼ阻害剤ATA(aurintricarboxylic acid)10μMと実施例4に係る本活性化剤とを同時に添加した。さらに3日間培養を続け、生細胞数をMTT法で測定した。その結果を図2に示す。
【0030】
図2から明らかなように、ATAを加え細胞内ヌクレアーゼの働きを止めておくと本活性化剤の癌細胞増殖抑制作用は見られなかった。そして、添加したATAを8時間後に培地から取り除き、その後本活性化剤を添加しても本活性化剤の作用はないことから、このATAの効果は、本活性化剤の細胞内への取り込みを抑えるものではなく、ヌクレアーゼ阻害剤として働いた結果のものと考えられる。
(3)以上の試験結果から、本活性化剤は細胞内のヌクレアーゼを活性化することがわかり、それにより癌細胞内にアポトーシスをもたらすことがわかった。
試験例3 マウス転移性肝臓癌モデルでの効果(in vivo)
ヌードマウスBalb/c,nu/nu(5週齢、雄)の脾臓にKM12−HX(ヒト大腸癌細胞であり、ヌードマウスの脾臓に移植すると効率的に肝臓に転移して肝臓癌病変を形成する株)を10細胞/マウスで注射し、10分後に脾臓を摘出した。3日後から実施例4に係る本活性化剤をほぼ等間隔で週2回、5週間静脈内投与した。最終投与2日後に肝臓を摘出し、肝臓に形成された癌結節数及び面積を測定した。その結果を表3に示す。
【表3】

30μg/kg投与群では、コントロール群(10%マルトース投与)に比較して72%、100μg/kg投与群では91%の肝臓癌細胞の増殖抑制効果が見られた。また、100μg/kg投与に関しては週1回投与でも77%の肝臓癌細胞の増殖抑制効果が見られた。
【0031】
また、各々の肝臓組織の標本を作製し、病理学的解析を行ったところ、コントロール群の肝臓に形成された癌は上皮性低分化型腺癌であった。腫瘍血管は普通程度に発達していた。特に免疫担当細胞の浸潤は見られなかった。また、この癌組織では所々に石灰化を伴っていた。本活性化剤投与群では明らかな癌細胞は見当たらず、薬物投与による癌治癒後に残存した石灰化のみが見られた。
【0032】
このように本活性化剤は、肝癌モデル動物において10μg/kg〜100μg/kg・週2回の連続静脈投与で有意な効果があった。
試験例4 毒性試験
(1)ラット単回投与による肝毒性の発現(急性毒性試験)
6週齢SD雄性ラット8匹について実施例4に係る本活性化剤の単回静脈内投与を行い、20時間後の血清アミノアシルトランスフェラーゼ活性を測定した。その結果、5mg/kgまで死亡例は見られず、5mg/kgで軽度の血清アミノアシルトランスフェラーゼの上昇が見られた程度であった。1mg/kgでは血清アミノアシルトランスフェラーゼの上昇はほとんどなかった。
(2)ラット2週間限定亜急性毒性試験
実施例4に係る本活性化剤について、SD雄性ラット6匹(6週齢)に14日間連日静脈内投与したところ、1mg/kg以下では特に問題となる毒性は見られなかった。
(3)抗原性試験
実施例4に係る本活性化剤について、雄性モルモット(hartley,5週齢)を用い抗原性試験を実施したところ、50μg/モルモットで抗原性は認められなかった。
(4)簡易変異原性試験
実施例4に係る本活性化剤について、簡易復帰突然変異試験および簡易染色体異常試験を実施したところ、10μg/mLで変異原性は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】DNAフラグメンテーションの割合を示す。縦軸はDNAフラグメンテーションの割合(%)を、横軸は時間(時間)をそれぞれ表す。
【図2】ATA添加によるヌクレアーゼ阻害剤の影響を示す。縦軸は阻害率(%)を、横軸は実施例4に係る本活性化剤の濃度(ng/ml)を表す。−○−は、ATAを添加しない系での結果を、−●−は、ATAを添加した系での結果を、それぞれ表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成される担体とpoly(I)・poly(C)又はpoly(A)・poly(U)との複合体を含有する癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤。
【請求項2】
リン脂質がレシチンである請求項1記載の癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤。
【請求項3】
poly(I)・poly(C)又はpoly(A)・poly(U)の平均鎖長が100〜500bpの範囲内である請求項1又は2記載の癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤。
【請求項4】
癌が肝臓癌である請求項1〜3のいずれかに記載の癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の癌細胞内ヌクレアーゼ活性化剤を含有することを特徴とする癌治療剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−O−(2−ジエチルアミノエチル)カルバモイル−1,3−O−ジオレオイルグリセロール及びリン脂質を必須構成成分として形成される担体とpoly(I)・poly(C)またはpoly(A)・poly(U)との複合体。
【請求項2】
リン脂質がレシチンである請求項1記載の複合体。
【請求項3】
Poly(I)・poly(C)の平均鎖長が100〜500bpの範囲内である請求項1又は2記載の複合体。
【請求項4】
請求項1〜3記載の複合体を含有する組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−206607(P2006−206607A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119672(P2006−119672)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【分割の表示】特願2000−516680(P2000−516680)の分割
【原出願日】平成10年10月15日(1998.10.15)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】