説明

癌罹病検定用データの収集方法及び該方法に使用される癌罹病検定用装置

【課題】 癌罹病の簡便な体外診断に使用し得る癌罹病検定用データの収集方法を提供すること、更に、該方法を高感度且つ簡便に実施することを可能とする癌罹病検定用装置を提供すること。
【解決手段】 癌罹病の検定に使用するデータを収集する方法であって、
被検者から採取したリンパ球にヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を加える工程と、前記工程で得られた混合物に特定波長の光を照射してヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体より励起発光を発生させる工程と、前記工程で発生した発光量を測定する工程と、を含み、前記工程で得られる発光量が正常健康者から同様の工程により得られた発光量より多い場合に被検者が癌を罹患している可能性が高いと判断する検定において使用されるデータを収集する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌罹病の簡便な体外診断に使用可能な癌罹病検定用データの収集方法及び該方法の実施に好適な癌罹病検定用装置に関するものであり、詳しくは、癌患者由来のリンパ球と結合したヘマトポルフィリン量を直接的に測定する技術を含む癌罹病検定用データの収集方法、及び、該ヘマトポルフィリン量を高精度に測定可能な癌罹病検定用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌の診断・治療方法として、光感受性物質であるヘマトポルフィリン誘導体(hematoporphyrin derivative : HPD)の腫瘍に対する親和性及び蓄積性を応用した技術の研究・開発が進められてきた。HPDは可視光によって励起され、一重項酸素、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなどの短寿命で毒性の高い分子種を生成させる。HPDを体内に投与し、長時間かけて腫瘍に蓄積させた後、光照射により励起三重項状態を経て誘起される活性酸素による酸化反応によって癌細胞を破壊する研究が進められている(例えば、非特許文献1を参照。)。また、癌細胞のどこにHPDが集結するかは明らかではないが、HPD染色した癌細胞が蛍光を発することから癌組織の有無を判定する体内診断に応用することが行われている(例えば、非特許文献2を参照。)。しかしながら、これらはいずれも生体内測定であり、腫瘍に蓄積するまでに3日程度かかり、多くの手間がかかる上、患者の苦痛を伴うものであった。また、活性酸素による癌細胞の破壊においては、活性酸素の過剰な生成により皮膚や目に対して様々な副作用を引き起こすという問題点も指摘されていた(例えば、非特許文献3、4を参照。)。従って、非侵襲の癌の体外診断技術の開発が切望されていた。
【0003】
癌の体外診断技術として、例えば特許文献1には、HPDが生体外に取り出した癌細胞やリンパ球によっても摂取されることに着目し、電子スピン共鳴装置(ESR)を用いて癌診断への応用を図った技術が開示されている。しかし、かかる技術は、細胞分離法が確立されておらず、またHPD染色などの前処理が煩雑であったこと、また細胞の管理、保存技術が確立されていなかったこと、更にESR装置を用いた観測では、HPDの選択的な測定をしていたものではなく、光励起によりHPDが生成する各種活性酸素により生成したリンパ球表面酸化物量を見ていたにすぎない。故に診断判定のためのESRスペクトルの解釈が難しい、などの理由により実用化に至っていない。
【特許文献1】特開昭60−135765号公報
【非特許文献1】Poto, L. & Berki.T. Investigation on the free radical producing effect of hematoporphyrin: aspin trapping study. Acta Physiol. Hung. 74, 285- (1989).
【非特許文献2】Dougherty, T.J.等、Photodynamic Therapy. J. Natl. Cancer Inst., 90, 889-905 (1998).
【非特許文献3】He, D., Soter, N.A., & Lim.H.W. The late phase of hematoporphyrin derivative-induced phototoxicity in mice: Release of hisitamine and histogic changes. Photochem. Photobiol., 50, 91- (1989).
【非特許文献4】Hawkins, C.W. Bickkers, D.R.Mukhter, H. & Elemets, C.A. Cutaneour Photosensitization: murine ear swelling as a marker of acute response. J. Invest. Dermatol. 86, 638- (1986).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記背景技術に鑑み開発されたものであり、癌罹病の簡便な体外診断に使用し得る信頼性の高い癌罹病検定用データの収集方法を提供すること、更に、該方法を高感度且つ簡便に実施することを可能とする癌罹病検定用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく本発明者等が鋭意研究した結果、ヘマトポルフィリンがリンパ球に対して有する親和性及び蓄積性に関し新たな特質を見出し本発明を完成するに至った。すなわち、ヘマトポルフィリンは正常健康者由来のリンパ球に対しては殆ど摂取されることがなく、リンパ球への取り込みは、罹癌者由来のリンパ球に対し選択的に行われるという、ヘマトポルフィリンが有する特異的な性質を見出し、該性質を利用した癌罹病検定に使用するデータの収集方法を開発した。本方法では、ヘマトポルフィリンと結合したリンパ球からの発光量とヘマトポルフィリンと結合してないリンパ球からの発光量との差がヘマトポルフィリンの集積量として直接的に測定され、その差は有意な値として現れるため、信頼性の高い癌罹病検定用データを簡便に得ることができる。更に、本発明者等は、かかる方法の実施において高感度なデータの簡便な取得を可能ならしめる癌罹病検定用装置をも完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明により、
癌罹病の検定に使用するデータを収集する方法であって、
被検者から採取したリンパ球にヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を加える工程と、
前記工程で得られた混合物に特定波長の光を照射してヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体より励起発光を発生させる工程と、
前記工程で発生した発光量を測定する工程と、
を含み、
前記工程で得られる発光量が正常健康者から同様の工程により得られた発光量より多い場合に被検者が癌を罹患している可能性が高いと判断する検定において使用されるデータを収集する方法が提供される。
【0007】
かかる方法は、ヘマトポルフィリン及びその誘導体が罹癌者由来のリンパ球に選択的に結合する性質を利用したものであり、ヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を取り込んだ罹癌者由来のリンパ球、およびヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を取り込んでいない正常健康者由来のリンパ球に起因する前記発光量各々に有意な差があることを利用したものである。
【0008】
また、本発明により、
リンパ球に結合したヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を定量する方法であって、
リンパ球にヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を加える工程と、
前記工程で得られたリンパ球に特定波長の光を照射してヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体より励起発光を発生させる工程と、
前記工程で発生した発光量を測定する工程と、
を含む方法が提供される。
【0009】
かかる方法は、ヘマトポルフィリンが罹癌者由来のリンパ球に選択的に結合する性質を利用したものであり、該方法を用いて定量されたヘマトポルフィリン量から罹癌者由来のリンパ球の検知が可能となる。
【0010】
更に、本発明により、前記方法においてリンパ球に結合したヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体の検知・定量に使用される癌罹病検定用装置であって、特定波長の光照射手段と、微弱発光測定手段と、を具備する癌罹病検定用装置が提供される。
【0011】
また、本発明により、前記方法においてリンパ球に結合したヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体の検知・定量に使用される癌罹病検定用装置であって、試料セルと、前記試料セルを収容する試料室と、前記試料セルに収容されるべき試料に光を照射するための光照射手段と、前記試料から発生する発光強度を測定する発光強度測定手段と、前記試料室と前記発光強度測定手段との間に設けられた分光機構と、を具備する癌罹病検定用装置が提供される。
【0012】
この装置は、一態様において、前記試料室の下方に加熱手段が設けられている。
また、他の態様において、前記分光機構として600nm以上の光を通す光学フィルター、もしくは600nm以上の光を通す分光器又は受光素子が用いられ、ヘマトポルフィリンに特異的な発光が測定される。分光器としては、例えばグレーティングなどが好適に用いられる。
【0013】
また、他の態様において、前記試料セル及び/又は試料室が、照射される光により励起される物質を含まない材料から形成される。
【0014】
また、他の態様において、前記試料室が、前記試料セル中に収容されるべき試料の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換するためのガス入口及びガス出口を備えている。
【0015】
また、他の態様において、光照射手段としてレーザー光源が使用され、該レーザー光源は300〜450nmとされ得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、癌罹病の簡便な体外診断に使用可能なデータの収集方法、更には該方法の実施において高精度なデータの取得を簡便に可能ならしめる癌罹病検定用装置が提供されたことは、癌の早期発見につながり、更には術後の経過診断及び癌再発防止のための治療にも有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る癌罹病検定用データの収集方法は、ヘマトポルフィリン及びその誘導体が正常健康者(健常人)由来のリンパ球には取り込まれないが、罹癌者由来のリンパ球には選択的に取り込まれるという特異的な性質を利用したものであり、本発明においては罹癌者由来のリンパ球とかかる特異的結合を示すすべてのヘマトポルフィリン誘導体が用いられ得る。
【0018】
本発明は、ヘマトポルフィリンに特定波長の光を照射することにより発生するヘマトポルフィリン由来の発光量を測定することにより、リンパ球に結合したヘマトポルフィリンを直接的に定量することを特徴とし、ヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体(以下において、「ヘマトポルフィリン誘導体」と総称し、これをHPDと略記する。)を取り込んだ罹癌者由来のリンパ球、およびHPDを取り込んでいない正常健康者由来のリンパ球に起因する前記発光量各々に有意な差があることを利用している。詳細は後掲の実施例で述べるが、罹癌者から採取したリンパ球と健常人から採取したリンパ球各々について、HPD染色した前後において特定波長の光を照射し発生するヘマトポルフィリン由来の発光量を測定した結果、罹癌者由来のHPD染色したリンパ球の発光量が、他の3群、すなわち、HPD染色した健常人由来のリンパ球、HPD未染色の罹癌者由来のリンパ球、及びHPD未染色の健常人由来のリンパ球各々からの発光量に比べ有意な差が見られることが確認された(図7を参照。)。また、HPD染色前後における罹癌者由来リンパ球の発光量の差と、同様にHPD染色前後における健常人由来リンパ球の発光量の差とを比較した結果から、HPDが健常人由来のリンパ球には殆ど取り込まれず、罹癌者由来のリンパ球に選択的に取り込まれることも確認された(図8を参照。)。
【0019】
本発明は、このような重要な特性に基づき開発されたものである。すなわち、本発明は、癌罹病の検定に使用するデータを収集する方法に係わり、該データは、被検者から採取したリンパ球にヘマトポルフィリン誘導体を加える工程と、前記工程で得られた混合物に特定波長の光を照射してヘマトポルフィリン誘導体より励起発光を発生させる工程と、前記工程で発生した発光量を測定する工程とを含み、前記工程で得られる発光量が正常健康者から同様の工程により得られた発光量より多い場合に被検者が癌を罹患している可能性が高いと判断する検定において使用される。
【0020】
従って、本発明においてデータを収集するために使用し得る癌罹病検定用装置は、特定波長の光照射手段と、低雑音で高感度に発光スペクトルを観測できる微弱発光測定手段とを具備することが必要である。図1は、本発明の癌罹病検定用装置の一態様を示すものであり、試料セル1と、試料セルを収容する試料室2と、試料セル1に収容されるべき試料に光を照射するための光照射手段10と、試料から発生する発光強度を測定する発光測定手段11と、前記発光測定手段11との間に設けられた光学フィルター12と、前記試料室の下方に設けられた加熱手段13とを具備し、更に前記試料室2は、該試料室内の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換するためのガス入口3及びガス出口4を備えている。
【0021】
前記光学フィルター12は、分光機構の一例であり、HPDに特異的な発光を測定するために600nm以上の光を通す光学フィルターが用いられる。また、分光機構の他の例としては、600nm以上の光を通す分光器又は受光素子が挙げられ、分光器としては例えばグレーティングなどが好適に用いられる。
【0022】
また、前記試料セル1及び/又は試料室2は、照射される光により励起される物質を含まない材料、すなわち、高純度物質から形成されていることが好ましく、例えば、SiO、高純度ガラス、高純度石英ガラス、ステンレス、Si、SiCなどが具体例として挙げられる。
【0023】
また、光照射手段10としてレーザー光源が使用され得、レーザー光の波長は、HPD由来の発光を誘発すべく、300nm〜450nmであることが好ましく、330nm〜420nmがより好ましい。更に、レーザー光の照射出力が高すぎると大量の活性酸素が生成し、細胞死を招いて自己発光を誘起するおそれがある。このため、照射出力の調整が必要であり、その上限は平均出力10mW以下とすることが好ましい。なお、レーザーは直線光であるため、拡散レンズ(非球面)を通すことにより、光を拡散させ照射面積を大きくすることもできる。また、パルスレーザーでも前記条件を満たすものであれば本発明において好適に使用することができる。パルスレーザーの場合、送信と受信との同期をとる周期増幅方式を受光源にも適用でき、ノイズ軽減に役立てることができる。
【0024】
本発明の癌罹病検定用装置における、特に光照射手段と、分光機構と、発光強度測定手段とにより構成される態様について、図1とは異なる他の態様を、模式的に示した図を参照しながら以下に説明する。
【0025】
図2は、特定波長の光を通す光学フィルターを用いた装置の一態様であり、光学フィルター112により、光照射手段100から照射された光が反射される一方、600nm以上の光を通すことにより、ヘマトポルフェリン及び/又はその誘導体由来の励起発光の発光量が発光強度測定手段111により測定される。
【0026】
図3は、特定波長の光を通す分光器としてグレーティングを用いた装置の一態様であり、光照射手段200から照射された光を受けて試料から発生した励起発光から、グレーティング212により600nm以上の光が取り出されることにより、ヘマトポルフェリン及び/又はその誘導体由来の励起発光の発光量が発光強度測定手段211により測定される。
【0027】
また、図4に示すような構成(多検体測定装置)とすることにより、複数の試料を連続的に測定することができる。すなわち、試料室(図示せず)内に設けられた移動手段350(例えば、ターンテーブル)の上に、複数の試料セル301を載荷する。ターンテーブルの場合、試料セル301は図4に示すように円状に配置する。このような構成を採用した場合、光照射手段300が光を試料302に照射した後、移動手段350を移動(回転)させることにより光照射後の試料302を発光強度測定手段311の下へ移動し、600nm以上の光を通す分光機構312を介した試料からの励起発光を測定することにより、ヘマトポルフェリン及び/又はその誘導体由来の励起発光の発光量が測定される。このような操作を繰り返すことにより、複数の試料を連続的に測定することができる。ここで、移動手段305及び試料セル301は照射光が当たっても光らない素材のものが用いられる。また、このような移動手段350を用いることなく試料室内に置かれた複数の試料について一度に測定することも、照射が均一になるよう複数の光照射手段を用いる、CCDカメラのような受光素子を利用した発光強度測定、など工夫次第で可能である。
【実施例】
【0028】
(1)細胞分離とHPD処理
被検者から採取した全血17ml(抗凝固液を含む。)に、6%デキストラン溶液を全血(質量)に対して20%となるように加え、転倒混和して1時間室温にて放置した。放置後、上清を回収し、フィコール溶液(Amersham Biosciences, Sweden)に重層し、比重遠心法によりリンパ球層及び好中球層を分離、回収した。
【0029】
リンパ球の回収層をPBS(137mM NaCl、8.1mM NaHPO・12HO、2.68mM KCl、1.47mM KHPO)10mlで2回洗浄した後、5mMのHPDをリンパ球数1×10個/mlに対して60μlの割合で添加し、37℃で10分間インキュベートした。次いで、前記PBS10mlで2回洗浄した後、リンパ球数1×10個/mlに対して200μlとなるよう生理食塩水で細胞を懸濁し、これをサンプルとした。
【0030】
(2)癌罹病検定用装置及び該装置を用いた化学発光量の測定条件
化学発光検出(Chemiluminescence detection: CL-detection)は、室温において、図1に示した低雑音で高感度に発光スペクトルを観測できる本発明の癌罹病検定用装置(フィルター:NDフィルター103+600High Pass (内蔵)+Gain=10、ステンレス微量セル(20mmφ)を用いレーザ照射しながら測定した。レーザ光の波長は408nm、照射出力は5mWとし、化学発光の測定時間は2分間とした。レーザー光の照射下で化学発光を検出する本方法では、未染色のリンパ球(ブランク)からも非特異的な発光が観測されるため、HPDによる化学発光量の計測値はブランク測定値との差から求めた。
【0031】
(3)HPDの発光スペクトルの観測
(3−1) 前記(1)で得られたサンプル50μl(リンパ球2.5×10個)に、前記(2)に示した装置及び測定条件にてレーザー光を照射し、励起することで観測された発光スペクトルを図5に示す。図5には、発光極大は560〜580nm、620〜640nm、及び680〜700nmにあることが示されている。生理食塩水(0.9%NaCl)の場合、560〜580nmのみに発光極大があることから、HPD由来の発光は600nm以降に存在することがわかる。従って、上述したように、600nm以上の波長のみを通すハイパスフィルターを使用することにより、リンパ球中のHPDを選択的に観測できることがわかる。
【0032】
(3−2)レーザー照射による化学発光量とHPD濃度との関係を調べ、その結果を図6に示す。408nmのレーザー励起した場合に観測されたHPD由来のCL放出量とHPD濃度との関係を示すものであり、図中の横軸は、HPDの最終濃度を表し、縦軸は30秒間の平均発光量(カウント数)を示す。HPD濃度を0−20pmolに調整したHPD水溶液(200μl)の発光量は、ブランクを除くと1400−2500カウントとなり、双方は良好な関係を示した。なお、本実験に用いた装置では、2.5pmolまでのHPD定量が可能であった。
【0033】
(4)HPD染色したリンパ球のフォトン放出量
生理食塩水および健常人のリンパ球からはHPD由来でない非特異的なCL(5000−6000カウント)が観測されるため、罹癌者及び健常人のリンパ球(1.25×10個)をHPDで染色し、レーザー光(408nm)を照射したときに観測されるCL放出量と、生理食塩水にレーザー光を照射したときのCL放出量との差を求めた。結果を表1及び図7に示す。表1及び図7において発光強度(CL強度)は30秒間の平均発光量(カウント数)を示し、健常人及び罹癌者各7人のサンプルのデータを平均したものである。
【0034】
図7から、HPD染色した罹癌者由来のリンパ球のCL放出量が、他の3群、すなわち、HPD染色した健常人由来のリンパ球、HPD未染色の罹癌者由来のリンパ球、及びHPD未染色の健常人由来のリンパ球各々からのCL放出量に比べ有意な差が見られることがわかる。HPD染色していない罹癌者由来のリンパ球のCL量との比較では約2〜2.5倍多いことがわかる。この差は統計学的にも、p<0.05で有意であった。罹癌者由来のリンパ球に結合したHPD濃度を図6から求めると約100pmol/1×10個であった。
【0035】
また、上記データ(表1)から、HPD染色前後における罹癌者由来リンパ球の発光量の差と、HPD染色前後における健常人由来リンパ球の発光量の差とを比較した結果を表1及び図8に示す。この結果から、HPDが健常人由来のリンパ球には殆ど取り込まれず、罹癌者由来のリンパ球に選択的に取り込まれることは明らである。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の癌罹病検定用装置の一態様を模式的に示す図。
【図2】本発明の癌罹病検定用装置の他の態様を模式的に示す図。
【図3】本発明の癌罹病検定用装置の他の態様を模式的に示す図。
【図4】本発明の癌罹病検定用装置の他の態様を模式的に示す図。
【図5】HPDの励起発光スペクトルを示すグラフ。
【図6】生理食塩水溶液中のHPD濃度と一重項酸素由来CL放出量の関係を示すグラフ。
【図7】罹癌者由来のリンパ球及び健常人由来のリンパ球各々のHPD染色、及びHPD未染色におけるCL量の測定結果を示すグラフ。
【図8】罹癌者由来リンパ球のHPD取込み量と健常人由来リンパ球のHPD取込み量とを比較したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌罹病の検定に使用するデータを収集する方法であって、
被検者から採取したリンパ球にヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を加える工程と、
前記工程で得られた混合物に特定波長の光を照射してヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体より励起発光を発生させる工程と、
前記工程で発生した発光量を測定する工程と、
を含み、
前記工程で得られる発光量が正常健康者から同様の工程により得られた発光量より多い場合に被検者が癌を罹患している可能性が高いと判断する検定において使用されるデータを収集する方法。
【請求項2】
前記方法が、ヘマトポルフィリン及びその誘導体が罹癌者由来のリンパ球に選択的に結合する性質を利用したものであり、ヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を取り込んだ罹癌者由来のリンパ球、およびヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を取り込んでいない正常健康者由来のリンパ球に起因する前記発光量各々に有意な差があることを利用した罹癌病の検定に使用される、請求項1に記載のデータの収集方法。
【請求項3】
リンパ球に結合したヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を定量する方法であって、
リンパ球にヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体を加える工程と、
前記工程で得られたリンパ球に特定波長の光を照射してヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体より励起発光を発生させる工程と、
前記工程で発生した発光量を測定する工程と、
を含む方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法が、ヘマトポルフィリン及び/又はその誘導体が罹癌者由来のリンパ球に選択的に結合する性質を利用したものであり、該方法を用いて定量されたヘマトポルフィリン量から罹癌者由来のリンパ球を検知する方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法において使用される癌罹病検定用装置であって、特定波長の光照射手段と、微弱発光測定手段と、を具備する癌罹病検定用装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法において使用される癌罹病検定用装置であって、試料セルと、前記試料セルを収容する試料室と、前記試料セルに収容されるべき試料に光を照射するための光照射手段と、前記試料から発生する発光強度を測定する発光強度測定手段と、前記試料室と前記発光強度測定手段との間に設けられた分光機構と、を具備する癌罹病検定用装置。
【請求項7】
前記試料室の下方に加熱手段が設けられている、請求項6に記載の癌罹病検定用装置。
【請求項8】
前記分光機構として600nm以上の光を通す、光学フィルター、分光器、又は受光素子を具備し、これによりヘマトポルフィリンに特異的な発光を測定する、請求項6又は7に記載の癌罹病検定用装置。
【請求項9】
前記試料セル及び/又は試料室が、照射される光により励起される物質を含まない材料から形成されている、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の癌罹病検定用装置。
【請求項10】
前記試料室が、前記試料セル中に収容されるべき試料の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換するためのガス入口及びガス出口を備えている、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の癌罹病検定用装置。
【請求項11】
光照射手段としてレーザー光源を使用している、請求項5乃至10のいずれか1項に記載の癌罹病検定用装置。
【請求項12】
レーザー光源を300〜450nmとする、請求項11に記載の癌罹病検定用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−178237(P2007−178237A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376251(P2005−376251)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000222026)東北電子産業株式会社 (11)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】