説明

発ガン性診断システム

【課題】体内に沈着した放射性物質を原因とするガンが発症する危険性を診断する。
【解決手段】検出手段にポジトロンCTを活用して、アスベスト小体に沈着したラジウムから放射されるガンマ線を検出する。リング状の検出装置1と、検出装置1によって検出された放射線の線量を求め、該線量に基づいて、上記危険性を判定する判定装置2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に沈着した放射性物質を原因とするガンが発症する危険性を、診断する、発ガン性診断システムに、関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の一般的なガン検診では、ポジトロンCT(又はPET)と呼ばれる、陽電子を用いた検査装置が、多用されている。
【0003】
このポジトロンCTでは、アイソトープで標識されたブドウ糖を人体に注射して、このブドウ糖の体内分布を特殊なカメラで映像化しており、ガン細胞の方が正常な細胞よりもブドウ糖の取り込み量が多いことを利用して、ガン細胞を特定している。しかしながら、ポジトロンCTによっても特定が困難な種類のガンがあり、それ故、ポジトロンCTは、必ずしも万能ではない。
【0004】
一方、特許文献1に示されるようなガン診断支援システムが知られている。すなわち、ガン患者から腫瘍組織の検体を採取して組織診又は細胞診を行う際に、単なる閾値による判定を行うと、閾値近傍の検体を誤判定する恐れがあるため、上記支援システムは、複数のサンプルデータの中から、検体の判定を行うための参照範囲を抽出し、この参照範囲のサンプルデータにおける臨床情報を参照させながら、検体のガン化を判定できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−072181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の診断システムは、既にガン化した細胞又はガン化していると思われる細胞を検出できるが、ガン化する予兆のある細胞を検出できなかった。
【0007】
本発明は、放射性物質を原因として細胞がガン化する危険性を、診断することができる、発ガン性診断システムを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、アスベストに起因すると思われる胸膜中皮腫の研究を行う中で、次のような知見を得た。
【0009】
すなわち、含鉄角閃石系のアスベストが肺内に吸引されると、アスベストに、鉄結合蛋白質として知られているフェリチン、及び/又は、フェリチンの部分分解物であるヘモジデリンが、沈着して、アスベスト小体が生成され、このアスベスト小体に、ラジウムなどの放射性物質が沈着する。しかも、アスベスト小体に沈着するラジウムは、比較的短期間で相当量が蓄積され、高い頻度で放射線を放射させる恐れがある。特に、アスベスト小体は、人体内で肺などの組織に密着しているため、ラジウムから放射された放射線は、細胞に直接的に照射されて、細胞のガン化を著しく促進させる恐れがある。
【0010】
本発明者は、アスベスト小体に沈着したラジウムから放射される放射線を検出することによって、体内にラジウムが沈着していることを検出し、それにより、ラジウムから放射される放射線によって細胞がガン化される危険性を知ることができることに思い至り、本発明を成した。
【0011】
すなわち、本発明は、体内に沈着した放射性物質を原因とするガンが発症する危険性を、診断する、発ガン性診断システムであって、上記放射性物質から放射される放射線を検出する、検出手段と、検出手段で検出された放射線の、線量を求め、該線量に基づいて、上記危険性を判定する、判定手段と、を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、体内に沈着した放射性物質から放射される放射線を検出し、該放射線の線量を求め、該線量に基づいて、当該放射性物質を原因としてガンが発症する危険性を判定できる。したがって、危険性に応じた、投薬治療や外科治療などを、施すことができ、これにより、ガンの発症を阻止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の発ガン性診断システムの一実施形態を示す正面断面図である。
【図2】図1のII矢視相当図であり、図1のシステムの検出装置のリング型検出器を示す図である。
【図3】図2に対応する図であり、リング型検出器の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、体内に沈着した放射性物質を原因とするガンが発症する危険性を、診断する、発ガン性診断システムである。そして、本発明は、上記放射性物質から放射される放射線を検出する、検出手段と、検出手段で検出された放射線の、線量を求め、該線量に基づいて、上記危険性を判定する、判定手段と、を備えている。
【0015】
検出手段は、好ましくは、ポジトロンCT又はスペクトロメータである。これらは、放射線検出器を含んでいる。
【0016】
主として、上記放射性物質は、鉄含有物にフェリチン及び/又はヘモジデリンが沈着して生成された小体に、沈着した、ラジウムである。また、主として、上記鉄含有物は、アスベストであり、生成される小体は、アスベスト小体である。
【0017】
すなわち、含鉄角閃石系のアスベスト、例えば、アモサイトやクロシドライトが、体内に取り込まれると、体内の至る所に存在しており且つ鉄結合蛋白質として知られている、フェリチンやヘモジデリンが、アスベストに沈着して、アスベスト小体が生成され、このアスベスト小体に、ラジウムなどの放射性物質が沈着する。特に、アスベスト小体では、ラジウムが比較的高濃度で沈着するので、ラジウムから放射される放射線の放射頻度が高まる。したがって、ラジウムが沈着しているアスベスト小体は、正常な細胞のガン化を促進する。
【0018】
また、アスベスト以外の鉄含有物、例えば、鉄を含有している、ダストやガスが、体内に取り込まれた場合も、フェリチンやヘモジデリンが、ダストやガスに含まれている鉄に沈着して、小体が生成され、この小体に、ラジウムなどの放射性物質が沈着する。それ故、この小体も、アスベスト小体と同様に、正常な細胞をガン化する。なお、鉄を含有している、ダストやガスは、タバコの煙や、鉱山内又は製鉄所内などにおける空気などであり、日常生活においても吸引する可能性が比較的高くなっている。
【0019】
本発明においては、検出手段によって、小体に沈着しているラジウムなどの放射性物質から放射される放射線が、検出される。そして、判定手段によって、検出された放射線の線量が求められ、該線量に基づいて、放射性物質を原因とするガンが発症する危険性が、判定される。その判定は、例えば、検出された放射線の線量と、予め経験から定められている線量の閾値と、を比較することによって、行われる。
【0020】
図1は、本発明の発ガン性診断システムの一実施形態を示す正面断面図である。この発ガン性診断システム100は、体内に沈着した放射線物質を原因とするガンが発症する危険性を、診断するようになっている。ここでは、放射線物質はラジウムであり、放射線はγ線である、とする。具体的には、このシステム100は、体内に沈着したラジウムから放射されるγ線を検出する、検出装置1と、検出装置1で検出されたγ線の、線量を求め、該線量に基づいて、上記危険性を判定する、判定装置2と、を備えている。検出装置1と判定装置2とは、配線3によって接続されている。検出装置1は、中空部11を有する円筒状の装置である。ベッド4は、被験者5を乗せた状態で、中空部11内を軸方向(X方向)に進退可能となっている。
【0021】
検出装置1は、具体的には、ポジトロンCTである。ポジトロンCTは、図1に示されるように、リング型検出器12を軸方向に多数重ねて構成されている。リング型検出器12は、例えば、図1のII矢視相当図である図2に示されるように、放射線検出器13をリング状に多数配列して構成されている。検出装置1は、各リング型検出器12によって放射線を検出して、その検出信号を判定装置2へ出力するようになっている。
【0022】
判定装置2は、検出装置1から配線3を介して出力されて来る検出信号を、受信する、受信部と、受信した検出信号に基づいて、γ線をカウントする、カウント部と、カウント結果に基づいて、体内に沈着しているラジウムから放射されるγ線の線量を推定する、推定部と、推定した線量に基づいて、ラジウムを原因とするガンが発症する危険性を判定する、判定部と、受信した検出信号に基づいて、検出装置1において略同時に検出されたγ線の検出位置を求め、その検出位置に基づいて、γ線の飛翔方向を3本以上特定し、それらの飛翔方向に基づいて、放射線源を特定する、特定部と、を有している。
【0023】
判定部は、危険性を例えば「A判定」、「B判定」、及び「C判定」の、3段階で示すようになっている。具体的には、判定部は、γ線の線量が第1閾値以下の場合には、発ガンの危険性が殆ど無いと判断して、「A判定」とし、γ線の線量が第1閾値より大きく且つ第2閾値以下の場合には、発ガンの危険性が少しは有ると判断して、「B判定」とし、γ線の線量が第2閾値より大きい場合には、発ガンの危険性が高いと判断して、「C判定」とするようになっている。なお、この場合の第1及び第2閾値は、予め、経験から定められたものである。また、「B判定」は、「要経過観察」の意味を有し、すなわち、被験者に半年毎又は1年毎の再検査を勧める意味を有しており、「C判定」は、被験者に投薬治療又は外科治療を勧める意味を有している。
【0024】
特定部は、判定部によって「C判定」とされた場合に作動するようになっている。特定部は、検出装置1における隣接したリング型検出器12において略同時に検出されたγ線の検出位置を求め、その検出位置に基づいて、γ線の飛翔方向を3本以上特定し、それらの飛翔方向に基づいて、放射線源を特定する。飛翔方向に基づいた放射線源の特定は、具体的には、次のように行う。すなわち、特定されたγ線の各飛翔方向の上に仮想直線を想定し、3本以上の仮想直線の交点位置を求め、この交点位置を放射線源の位置とする。なお、実際には、3本以上の仮想直線が一点で交わることはないので、交点の密度が高い領域の中心位置を放射線源の位置としている。
【0025】
以上のように、図1に示されるシステム100によれば、体内に沈着したラジウムから放射されるγ線を検出し、γ線の線量を求め、該線量に基づいて、ラジウムを原因とするガンが発症する危険性を判定できるので、その危険性に応じた治療を的確に施すことによって、ガンの発生を未然に防止できる。特に、アスベストに起因したガンの発生を未然に防止できる。
【0026】
なお、検出装置1として用いられるポジトロンCTは、図3に示されるリング型検出器12を用いて構成されてもよい。図3のリング型検出器12では、放射線検出器13が、内側列13Aと外側列13Bとからなる二重のリング状に配列されている。この検出装置1を用いると、判定装置2によって、より正確に、放射線源の位置を特定できる。
【0027】
また、上記システム100では、検出装置1として、ポジトロンCTを用いているが、スペクトロメータ、ガイガーカウンターなどを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の発ガン性診断システムは、ガンが発症する危険性を、診断できるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0029】
1 検出装置 2 判定装置 100 発ガン性診断システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に沈着した放射性物質を原因とするガンが発症する危険性を、診断する、発ガン性診断システムであって、
上記放射性物質から放射される放射線を検出する、検出手段と、
検出手段によって検出された放射線の、線量を求め、該線量に基づいて、上記危険性を判定する、判定手段と、
を備えていることを特徴とする、発ガン性診断システム。
【請求項2】
検出手段は、ポジトロンCT又はスペクトロメータである、請求項1記載の発ガン性診断システム。
【請求項3】
判定手段は、更に、検出手段において略同時に検出された放射線の検出位置に基づいて、放射線の飛翔方向を3本以上特定し、それらの飛翔方向に基づいて、放射線源を特定するようになっている、請求項2記載の発ガン性診断システム。
【請求項4】
上記放射性物質は、鉄含有物にフェリチン及び/又はヘモジデリンが沈着して生成された小体に、沈着した、ラジウムである、請求項1記載の発ガン性診断システム。
【請求項5】
上記鉄含有物は、アスベストである、請求項4記載の発ガン性診断システム。
【請求項6】
上記鉄含有物は、ダスト又はガスである、請求項4記載の発ガン性診断システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate