説明

発光タンパク質を用いたリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法

【課題】リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングを正確、迅速且つ低コストで行う方法を提供する。
【解決手段】本発明は、カルシウム結合型発光タンパク質で標識した抗リン酸化抗体を用いたリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法、及びリン酸化酵素阻害物質のスクリーニングにおいて使用するためのカルシウム結合型発光タンパク質標識抗リン酸化抗体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム結合型発光タンパク質で標識した抗リン酸化抗体を用いたリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法、及びリン酸化酵素阻害物質のスクリーニングにおいて使用するためのカルシウム結合型発光タンパク質標識抗リン酸化抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウム結合型発光タンパク質は、カルシウムイオンと特異的に結合し、その結合により瞬間的に発光するタンパク質である。そのようなものとしては、現在、イクオリン、オベリン、クライチン、マイトロコミン、ミネオプシン、及びベルボイン等が知られている。これらの発光タンパク質のカルシウムイオンに対する感受性は非常に高く、また、その発光強度が強いため、これらの発光タンパク質の発光に関しては、市販の検出装置を用いて検出した場合の検出限界がタンパク質1ピコグラム以下という、高い検出感度が実現できる(非特許文献1)。そのため、カルシウム結合型発光タンパク質は、上記のような特徴を活かし、細胞内カルシウム、及び液体検体(例えば、血液)中の微量カルシウムイオンの検出並びに定量に利用されている。
【0003】
イムノアッセイにおける検出法では、通常、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼなどを用いた化学発光反応が用いられるが、それらを用いる検出法では化学発光の際のバックグラウンドが問題となり、また、検出前の処理中の基質の分解を考慮する必要がある。一方で、カルシウム結合型発光タンパク質の発光はカルシウムイオンとの特異的な結合により生じるため、通常用いられるアルカリホスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼを用いた化学発光反応において問題となるバックグラウンドは全くない。それに加えて、カルシウム結合型発光タンパク質では、カルシウムの添加という簡便な処理により、カルシウムイオンの結合に際して瞬時に発光が起こり、その発光は数秒以内に終了する。このため、短時間にシグナル対ノイズ比(S/N)の高い検出を行うことができるという利点を有する。また、その発光はカルシウムとの結合に依存することから、検出の時点でのみ発光を生じさせることが可能であり、したがって検出前の処理中の基質の分解を考慮する必要がない。さらに、カルシウム結合型発光タンパク質の発光反応は、生物発光と呼ばれる酵素発光反応であり、当該反応に必要な構成要素はすべてが生体由来であるため、有害な化学物質等(例えば、放射線同位体、発癌性化合物)を含まず、よって安全性が高い。この理由から、当該発光タンパク質は、診断薬等における標識として応用されている。
【0004】
ヒトをはじめとする生物では、その外的環境の変化により、細胞レベルで様々な応答反応が引き起こされる。これらの応答としては、細胞運動、細胞死、生理活性物質の産生などが挙げられ、場合により、産生された生理活性物質の刺激によって他の細胞がさらなる応答反応を示す。このような応答反応には、タンパク質リン酸化を介した細胞内情報伝達が深く関わっている。遺伝子転写、タンパク質翻訳、分子輸送、タンパク質間相互作用、その他の様々な現象がタンパク質リン酸化を介した情報伝達によって制御されていることは広く知られている(非特許文献2)。また、ある種のリン酸化酵素が疾患時に活性化されること、及び遺伝子変異等によりリン酸化酵素が制御不能となることが疾患の原因となり得ることも示唆されてきている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】William,W.ら,Proc.Nat.Acad.Sci.USA.July 1975,Vol.72,No.7,p.2530−2534
【非特許文献2】山本ら(編)、実験医学増刊「シグナル伝達研究2005−’06」、羊土社、2005年
【非特許文献3】Kiyoi,H.ら,Leukemia.Sep 1998,12(9),p.1333−1337
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、タンパク質リン酸化反応は細胞の活動にとって重要な働きを担っている。上記のとおり、ある種のリン酸化酵素は疾患に関連する場合もあるため、特定のリン酸化酵素を特異的に阻害する阻害物質をスクリーニングすることにより、様々な疾患に対する治療薬・予防薬を開発することが可能になる。したがって、そのような阻害物質のスクリーニングを正確、迅速且つ低コストで行う方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、リン酸化反応を効果的に検出する手段を開発し、そのような手段を用いたリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法を完成させた。
【0008】
より詳細には、本発明は、以下の特徴を有する:
〔1〕リン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
(a)阻害候補物質の存在下で、基質ペプチドのリン酸化が可能な条件において該基質ペプチドにリン酸化酵素を作用させるステップ、
(b)カルシウム結合型発光タンパク質で標識した抗リン酸化抗体を、(a)でリン酸化酵素を作用させた基質ペプチドと接触させるステップ、
(c)カルシウムを添加し、標識抗体−基質ペプチド複合体から生じる発光を検出するステップ、
(d)該候補物質の非存在下で、(a)〜(c)を行うステップ
を含み、ここで、該抗リン酸化抗体は、該リン酸化酵素によりリン酸化された基質ペプチドに特異的に結合可能なものであり、かつ、ステップ(c)から得られた発光シグナルが、ステップ(d)から得られた発光シグナルより低い場合に、該候補物質が該リン酸化酵素の活性を阻害するものであることが示される、上記方法。
〔2〕前記基質ペプチドが固体支持体に固相化されている、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記カルシウム結合タンパク質がイクオリンである、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記イクオリンが組換えイクオリンである、上記〔3〕に記載の方法。
〔5〕前記抗リン酸化抗体が、配列番号1に示される配列を有するリン酸化ペプチドを認識できるものである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の方法。
〔6〕前記基質ペプチドが配列番号1に示される配列を含む、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の方法。
〔7〕前記リン酸化酵素がAurora B、PKA、MSK1、PKCε、CRIK、NDR1、DYRK1A、Rsk2、PIM1、PAK1、IKKα、JIL−1、VRK1、Snf1、PBK/TOPK、MNK1、MNK2、MRCKα、PAK2、WNK2、及びWNK3からなる群より選択され、かつ基質ペプチドが配列番号1に示される配列を含む、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングにおける使用のための、カルシウム結合型発光タンパク質で標識された抗リン酸化抗体。
〔9〕前記カルシウム結合型発光タンパク質による抗リン酸化抗体の標識が、マレイミド基とスルフヒドリル基との反応を用いて行われる、上記〔8〕に記載の抗体。
〔10〕前記カルシウム結合タンパク質がイクオリンである、上記〔8〕又は〔9〕に記載の抗体。
〔11〕上記〔8〕〜〔10〕のいずれか1つに記載の標識抗体、及び対象となるリン酸化酵素の基質ペプチドを含む、リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングのためのキット。
〔12〕前記基質ペプチドが配列番号1に示される配列を含む、上記〔11〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、疾患の治療薬・予防薬として応用可能なリン酸化酵素阻害物質を見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、イクオリン標識抗リン酸化抗体の電気泳動分析を示す。
【図2】図2は、AQ−S−H3S10Pの基質特異性結合を表すプロットである。
【図3】図3は、イクオリン標識抗リン酸化抗体を用いて検出したAurora B活性を示す。
【図4】図4は、イクオリン標識抗リン酸化抗体を用いて検出したスタウロスポリンによるAurora Bのリン酸化活性阻害を表すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「リン酸化酵素」とは、細胞内で標的タンパク質をリン酸化する活性を有することが知られているタンパク質である。本発明におけるリン酸化酵素は、セリン/スレオニン特異的なものでもよいし、チロシン特異的なものでもよい。リン酸化酵素としては、例えば、FLTキナーゼ、Auroraキナーゼ、カルモジュリンキナーゼ、PKCなどが挙げられる。
【0012】
好適なリン酸化酵素は、Aurora B、PKA、MSK1、PKCε、CRIK、NDR1、DYRK1A、Rsk2、PIM1、PAK1、IKKα、JIL−1、VRK1、Snf1、PBK/TOPK、MNK1、MNK2、MRCKα、PAK2、WNK2、及びWNK3であり、特に好適なリン酸化酵素は、Aurora B、PKA、MSK1、PKCε、CRIK、NDR1、DYRK1A、Rsk2、PIM1、及びPAK1である。
【0013】
Aurora BをはじめとするAuroraキナーゼは、細胞分裂において重要な役割を果たす酵素であり、種々の悪性腫瘍でアップレギュレートされていることが知られている(中山ら(編)、実験医学増刊「細胞周期の最前線」、羊土社、2005年、p.105−109)。Aurora BはヒストンH3の配列中のセリンをリン酸化することが知られている。
【0014】
リン酸化酵素の活性亢進は、癌、アルツハイマー病等の様々な疾患に関与することが明らかになっており、分子標的治療薬の候補になりうる。
【0015】
本発明の方法で用いるリン酸化酵素は、生物組織から抽出・精製したものでもよいし、大腸菌又は哺乳動物細胞などの宿主細胞により組換え的に発現させた後、適宜精製したものでもよい。
【0016】
本発明において「候補物質」とは、リン酸化酵素を阻害する活性を有することが予想されるいずれかの物質であり、例えば、動物・植物組織の抽出物若しくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、又はそれらから単離された標品;天然に生じる分子(例えば、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど);天然に生じる物質の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチドミメティクスなど);天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製した低分子有機化合物);並びにそれらの混合物を挙げることができる。本発明において「リン酸化酵素阻害物質」とは、対象となるリン酸化酵素の活性を阻害することが可能な物質である。
【0017】
本発明において、「カルシウム結合型発光タンパク質」とは、カルシウムの結合により発光を生じるタンパク質を指す。その発光のメカニズムには、当該タンパク質へのカルシウムの結合が該タンパク質のコンホメーションを変化させ、それにより発光団が形成されることが含まれる。発光団は当該タンパク質のアミノ酸側基同士の結合により形成されるものでもよいし、当該タンパク質に結合したアミノ酸側基以外の化学基により形成されるものでもよい。本発明において利用しうるカルシウム結合型発光タンパク質としては、限定するものではないが、イクオリン、オベリン、クライチン、マイトロコミン、ミネオプシン、及びベルボインが挙げられる。好適なカルシウム結合型発光タンパク質はイクオリンであり、さらに好適なカルシウム結合型発光タンパク質は組換えイクオリンである。組換えイクオリンは、例えばチッソ株式会社(東京、日本)から入手することができる。
【0018】
本発明において標識としてカルシウム結合型発光タンパク質を用いる利点としては、カルシウムの添加という簡便な処理により発光が生じること、発光・検出の際に、検体中の分子全体としての発光がカルシウムの結合から短時間に、例えば数秒以内にピークに達することなどが挙げられる。発光は、好適にはカルシウムの結合から1秒以内にピークに達する。カルシウムの結合から短時間で発光がピークに達することは、分子間での発光のタイミングのばらつきが少ないこと、すなわち、ほぼすべての分子が同時に発光することを表す。これにより、検出感度が上昇する。
【0019】
カルシウム結合型発光タンパク質を標識として用いることの他の利点は、(1)検出を発光により行うため、蛍光色素を用いる場合に問題となる検出の際の励起光の漏れがないこと、(2)その発光がカルシウムとの結合に依存するため、アルカリホスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼを用いる化学発光の場合に問題となるバックグラウンドがないこと、(3)その発光がカルシウムとの結合に依存し、検出の時点でのみ発光させることができるため、検出前の処理中の基質の分解を考慮する必要がないこと、(4)放射性同位体や発癌性色素などの危険物質を用いないことなどである。
【0020】
本発明において「抗リン酸化抗体」とは、リン酸化された特定のペプチド又はタンパク質に特異的に結合するが、リン酸化されていない同一のペプチドには実質的に結合しない抗体を意味する。そのような抗体では、標的ペプチド配列がリン酸化されている場合の結合強度が、該ペプチドがリン酸化されていない場合と比較して10倍以上、50倍以上、100倍以上、1,000倍以上又は10,000倍以上である。抗リン酸化抗体は、様々な標的配列に対するものが市販されている。例えば、抗リン酸化CREB(セリン)ウサギ抗体、抗リン酸化Jak2(チロシン)ウサギ抗体などがある。また、本発明における抗リン酸化抗体として、以下に示すペプチドK9Pを抗原として生起されたモノクローナル抗体を用いることができる。
【0021】
本発明における抗リン酸化抗体は、ポリクローナル抗体(例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、もしくはIgE)、モノクローナル抗体、又は抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)、Fv、scFv)のいずれであってもよい。抗リン酸化抗体は、市販されているものを購入してもよいし、新たに作製してもよい。各抗体タイプの抗体の作製方法は当業者に公知である。特に、モノクローナル抗体の作製方法は当業者に公知であり、適切な免疫原でのマウスの免疫化、免疫されたマウス由来の脾臓細胞と、同系のマウス骨髄腫細胞とのハイブリドーマの作製、抗体産生ハイブリドーマのクローニング、及びクローニングされたハイブリドーマからの抗体の精製を含む。
【0022】
本発明におけるカルシウム結合型発光タンパク質を用いた抗リン酸化抗体の標識は、それらの間の安定な結合が実現できるかぎりいかなる手段により行ってもよい。そのような手段としては、例えば、グルタールアルデヒド一段階法、グルタールアルデヒド二段階法、過ヨウ素酸法、マレイミド法、スクシンイミド法などがある。好適な手段は、マレイミド基とスルフヒドリル基との結合である。マレイミド基とスルフヒドリル基との結合を用いて抗体を標識する場合、好適なカルシウム結合型発光タンパク質は、システイン導入型イクオリンである。この場合、イクオリンに導入されたシステインの側鎖であるスルフヒドリル基を、抗体にコンジュゲートされたマレイミド基と結合させる。
【0023】
タンパク質のリン酸化状態を検出する方法としては、放射性同位体である32Pを用いる方法がよく知られているが、放射性同位体を用いる方法を実施するには、特別な施設が必要であり、また試薬を厳重に管理しなければならない。本発明の方法では、抗リン酸化抗体を用いてタンパク質のリン酸化状態を検出することにより、そのような問題を回避することができる。
【0024】
本発明の方法において、「基質ペプチドのリン酸化が可能な条件」とは、対象となるリン酸化酵素による基質ペプチドのリン酸化が可能な条件である。例えば、グリセロリン酸、オルトバナジン酸等のリン酸化アッセイで通常用いられる試薬を含有する緩衝液に、対象となるリン酸化酵素及びATPを添加し、この緩衝液を基質ペプチドに作用させて室温〜37℃でインキュベートする。
【0025】
本発明の方法において、基質ペプチドは適切なペプチド合成機を用いた化学合成により取得してもよいし、大腸菌などの宿主細胞により組換え的に発現させた後に適宜精製することによって取得してもよい。
【0026】
本明細書中で用いられる「ペプチド」との用語には、化学合成により取得されたもの、又は天然に存在するタンパク質及び組換え的に発現させたタンパク質並びにそれらの分解物が含まれる。
【0027】
基質ペプチドの配列は、対象となるリン酸化酵素に依存して決定される。特定のリン酸化酵素の標的配列は当業者に公知である。本発明で用いる好ましい基質ペプチドの配列は、ARTKQTARKSTGGKAPRKQC(配列番号1)を含む。この配列は、ヒストンH3の部分配列として知られ、配列番号1に示される配列の10番目のセリンは広範なリン酸化酵素によりリン酸化される。リン酸化酵素Aurora B、PKA、MSK1、PKCε、CRIK、NDR1、DYRK1A、Rsk2、PIM1及びPAK1が当該配列の10番目のセリンをリン酸化することは、以下の実施例において示されている。IKKα(Yang SR et.al,Am J Respir Cell Mol Biol. 2008 Jun;38(6):689−98)、JIL−1(Ivaldi MS et.al,Genes Dev.2007 Nov 1;21(21):2818−31)、VRK1(Kang TH et.al,Mol Cell Biol.2007 Dec;27(24):8533−46)、Snf1(Lo WS et.al,EMBO J.2005 Mar 9;24(5):997−1008.)、及びPBK/TOPK(Park JH et.al,Cancer Res.2006 Sep 15;66(18):9186−95)が当該配列中の10番目のセリンをリン酸化することが、カッコ内に記載した文献中に示されている。また、MNK1、MNK2、MRCKα、PAK2、WNK2、及びWNK3は、PerkinElmer社のLANCE(登録商標)Ultraキナーゼアッセイの説明書中で、当該配列の10番目のセリンを基質としてリン酸化することが記載されている。
【0028】
本発明の方法により、Auroraキナーゼなどの疾患関連リン酸化酵素の阻害物質を、迅速かつ簡便にスクリーニングすることが可能になる。特に、本発明の方法は、カルシウム結合型発光タンパク質を標識として用いることにより、カルシウムの添加という簡便な処理により、カルシウムイオンの結合に際して瞬時に発光が起こり、その発光は数秒以内に終了する。このため、短時間にシグナル対ノイズ比(S/N)の高い検出を行うことができるという利点を有する。また、その発光はカルシウムとの結合に依存することから、検出の時点でのみ発光を生じさせることが可能であり、したがって検出前の処理中の基質の分解を考慮する必要がない。そのため、簡便な操作で、短時間で感度のよい検出が可能となるので、リン酸化酵素阻害物質のハイスループットスクリーニングに適している。
【0029】
本発明の方法では、基質タンパク質は好ましくは固体支持体に固相化されている。好ましい固体支持体は、限定するものではないが、プラスチック製の測定用プレートである。
【0030】
本発明の方法では、発光の検出は、使用するカルシウム結合型発光タンパク質の発光波長を検出しうる検出器を用いて行う。カルシウム結合型発光タンパク質の発光波長は当業者には公知であり、例えばイクオリンの場合、470nm付近である。そのような検出器としては、市販のプレートリーダーが挙げられる。例えば、パーキンエルマー社のARVOシリーズを用いることができる。
【0031】
本発明には、リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングにおける使用のための、カルシウム結合型発光タンパク質で標識された抗リン酸化抗体が包含される。
【0032】
また、本発明には、少なくとも上記標識抗体、及び対象となるリン酸化酵素の基質ペプチドを含む、リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングのためのキットが包含される。該キットには、さらに、固定化担体、バッファー、陽性対照試料及び陰性対照試料、本発明のスクリーニング方法を利用した該キットの使用方法を記載した指示書等を含めることができる。
【実施例】
【0033】
実施例1:免疫原の調製
Aurora Bによりリン酸化されるヒストンH3の部分配列を含むリン酸化ペプチドK9P(配列番号1:ARTKQTARKSTGGKAPRKQCで表されるペプチドK9Cの10番目のアミノ酸であるセリンがリン酸化されたもの)は、通常のペプチド合成機を用い、予めリン酸化したセリンを使用して合成することにより取得した。
【0034】
このK9Pペプチドを、Imject(登録商標)Maleimide Activated mcKLH Kit(PIERCE)によってKLH(キーホールリンペット・ヘモシアニン)に結合させ、これを免疫原として用いた。すなわち、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)中で、2mgのマレイミド活性型KLHと2mgのK9Pペプチドとを、室温で2時間放置することにより反応させた。反応後、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)に対して十分に透析し、PBSで0.5mg/mLの濃度に調整し、10μLずつ分注して、−20℃で凍結して保存した。
【0035】
実施例2:マウスの免疫
実施例1で調製したペプチド結合KLH溶液400μLと、フロイント完全アジュバント400μLとをよく混合して懸濁液を作製し、この懸濁液を、抗原として3匹のマウス(メス、BALB/c)に1匹あたり25μgずつ腹腔内投与した。さらに、同量の抗原を2週間ごとに4回投与し、最後の投与の3日後に脾臓を摘出し、実施例3に記載の細胞融合に用いた。
【0036】
実施例3:細胞融合、目的とするモノクローナル抗体(H3S10P抗体)を産生する融合細胞の選択、及び抗体の取得
摘出したマウス脾臓の細胞と、同系マウスの骨髄腫細胞(P3X63Ag8.653)とを約5:1の比率で混合し、50%ポリエチレングリコール1500を融合促進剤として用いて、細胞融合を行った。融合後の細胞は、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有するGIT培地に懸濁して、細胞濃度を1×10細胞/mLとした。得られた細胞懸濁液を、96ウェルマイクロタイタープレート(ヌンク社製、以下同じ。)に1ウェルあたり100μLずつ分注した。
【0037】
融合細胞をCOインキュベーター(5%CO、37℃)中で培養した。ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有する培地(HAT培地)で培地交換を行い、融合細胞をHAT培地中で増殖させることにより、ハイブリドーマについてのスクリーニングを行った。得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とのハイブリドーマを、HT培地で馴化し、さらにGIT培地で馴化した。
【0038】
ハイブリドーマの培養上清中の抗体を、K9Pペプチドを固相化したマイクロタイタープレートを用いるELISA法により検出した。陽性と認められたウェルについて、限界希釈法によるクローニングを2回繰り返し、K9Pペプチドに対する反応性を有する抗体を産生している細胞クローンを得た。得られた細胞クローンが産生するモノクローナル抗体(H3S10P抗体)を、該細胞をCDハイブリドーマ培地で培養した培養上清から、HiTrapプロテインGカラム(GEヘルスケア社)を用いて精製した。
【0039】
実施例4:イクオリン標識抗リン酸化抗体の調製
イクオリン標識抗リン酸化抗体の調製は、化学修飾法に基づき、抗体にマレイミド基を導入するステップ、ついで該抗体をスルフヒドリル基を有するイクオリン(システイン導入型イクオリン)と反応させるステップの2段階によって行った。
【0040】
(1)スルフヒドリル基と反応するマレイミド基導入抗体の調製
マレイミド基導入抗体は、抗リン酸化モノクローナル抗体にマレイミド基を有する架橋試薬を導入することにより行った。
【0041】
上記で調製した、リン酸化ペプチドK9P(配列番号1で表されるK9Cの10番目のアミノ酸であるセリンがリン酸化されたもの)と特異的に結合するモノクローナル抗リン酸化ペプチド抗体(H3S10P抗体)534μg(3nmol)を、0.1mM EDTAを含む66mMリン酸緩衝液(pH7.4、以下「緩衝液A」と記載)200μLに溶解した。この溶液に、緩衝液Aにて1mMに調製したスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC、PIERCE社製)を30μL加え(スルホ−SMCC 30nmol、抗体:スルホ−SMCC=1:10)、4℃にて2時間反応させた。反応後、50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.6)2μL(100nmol)を加え、25℃にて10分以上静置して、反応を停止した。アミコンウルトラ−4スピンカラム(ミリポア社製、分画分子量10,000)を用いて4℃、6000rpmにて15分間遠心して(日立製作所製、CR20B2)、未反応のスルホ−SMCCを除去し、マレイミド基を導入したH3S10P抗体を得た(以下「マレイミド化H3S10P抗体」と表記)。なお、E1%280nm=14から算出したマレイミド化H3S10P抗体の回収率は84.6%(454μg)であった。
【0042】
(2)システイン導入型イクオリンとマレイミド化H3S10P抗体との反応によるイクオリン標識抗リン酸化抗体の調製
0.1mM EDTAを含む66mMリン酸緩衝液(pH7.4)にて溶解したシステイン導入型イクオリン(チッソ株式会社製)10μL(7.5nmol)を、マレイミド化H3S10P抗体90μL(1.5nmol)に加え、4℃にて一晩反応させた。反応後、10mMシステイン水溶液を2μL(20nmol)加えて、反応を停止した。これによりイクオリン標識抗リン酸化抗体(以下、場合により「AQ−S−H3S10P」と記載する)を得た。
【0043】
得られたAQ−S−H3S10Pに発光活性の低下はほとんど起こらず、いずれも96%の発光活性を保持していた。得られたAQ−S−H3S10Pを、12%分離ゲルを用いて還元条件下でSDS−PAGE分析に供した。
【0044】
結果を図1に示す。システイン導入型イクオリン(21kDa)とH3S10P抗体由来のH鎖(55kDa)が結合してできたと思われる75kDaに主なバンドが観察され、AQ−S−H3S10Pがイクオリン:H3S10P抗体=1:1で結合形成されていることが示された。
【0045】
実施例5:基質ペプチド調製及び抗体反応検出
(1)基質ペプチド調製
上記実施例1と同様に調製した、非リン酸化ペプチドK9C(配列番号1)、及びK9Cの10番目のアミノ酸であるセリンがリン酸化されたリン酸化ペプチドK9Pを用いた。両合成ペプチドは20アミノ酸残基からなり、C末端にマレイミドと反応するシステイン残基を持つ。
【0046】
これらのK9Cペプチド及びK9Pペプチドは、化学結合によりマレイミド活性化ウシ血清アルブミン(PIERCE社)と結合させた。結合は以下のように行った。リン酸化ペプチドK9P 1mg(444nmol)を1.5mLチューブに入れ、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)を100μL加えて溶解させた。このリン酸化ペプチドK9P溶液65μLに、マレイミド活性化ウシ血清アルブミン(以下マレイミド−BSAと表記、PIERCE社製)95μL(16.1nmol BSA、241.7nmol マレイミド基当量)を加え、室温にて2時間反応させ、リン酸化ペプチドK9P結合BSA(以下K9P−BSAと表記)を得た。一方、非リン酸化ペプチドK9C 1mgを別の1.5mLチューブに入れ、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)を100μL加えて溶解させた(454nmol/100μL)。その後、上記と同様にマレイミド−BSAと反応させ、非リン酸化ペプチドK9C結合BSA(以下K9C−BSAと表記)を得た。
【0047】
(2)BSA結合ペプチド基質の固相化
K9P−BSA及びK9C−BSAのストック溶液(それぞれ1mg/mL)を50mM 炭酸緩衝液(pH9.6)で5μg/mL濃度に希釈した。これらの溶液を、Maxisorp 96ウェル白色プレート(Nunc,#437796)に1ウェル当たり100μLで分注し、1分間振盪した後、30℃にて18時間インキュベートした。ペプチド溶液を除去し、次いでポストコーティング溶液(1%BSA、2mM EDTA、0.05% NaNを含む150mM NaCl、Tris−HCl緩衝液(以下TBSと表記))を200μL分注し、1分間振盪した後、4℃にて18時間以上静置保存した。なお、陰性対照としてポストコーティングのみを施したプレートも作製した。
【0048】
(3)K9P−BSA、K9C−BSA及びBSAとAQ−S−H3S10Pとの結合
イクオリン標識された抗リン酸化ヒストンH3抗体(AQ−S−H3S10P)について、K9P−BSAに対する反応性の確認を行った。
【0049】
方法は以下のとおりとした。K9P−BSA又はK9C−BSA溶液を固相化したMaxisorp 96ウェル白色プレートを用いた。プレートからポストコーティング溶液を除去し、2mM EDTA、0.05% Tween20を含むTBS(以降TBST−Eと表記)にてよく洗浄した後、10%ブロックエース(大日本製薬製)、5mM EDTAを含むTBS(以降希釈液と記載)で1250〜5000倍(2.1〜0.53μg/mL)に希釈したAQ−S−H3S10Pを100μL/ウェルで分注した。続いて30℃にて1時間静置した。
【0050】
(4)イクオリンによる発光の測定
静置後、反応液を捨て、TBST−Eにて洗浄した後、発光測定装置ARVO(パーキンエルマー社製)にて、50mM CaCl(和光純薬社製)を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.6)(以降カルシウム溶液と表記)を100μL/ウェル注入して発光強度を0.1秒間隔で5秒間測定した。
【0051】
最大発光強度値(Imax)を算出し、表1及び図2に示した。データは3回の測定の平均を表す。非リン酸化ペプチドであるK9Cに対してはいずれの抗体濃度でもイクオリンの発光はほとんど検出されないが、リン酸化ペプチドであるK9Pに対しては、抗体の濃度に比例してイクオリンの発光強度が上昇していることが見て取れる。
【0052】
【表1】

【0053】
以上の結果から、AQ−S−H3S10PはK9P−BSAに特異的かつ濃度依存的に反応することが示された。
【0054】
実施例6:Aurora Bリン酸化酵素活性測定の検討
前述の方法で固相化したK9C−BSAに対する、リン酸化酵素Aurora B(Upstate社)の用量依存的リン酸化活性を、イクオリン標識抗リン酸化抗体AQ−S−H3S10Pを用いて検討した(Aurora B添加量:0〜1000ng/ウェル)。酵素反応溶液としては、10mM MgCl、5mM β−グリセロリン酸、0.1mM オルトバナジン(V)酸ナトリウム、2mM ジチオスレイトール、0.1%ウシ血清アルブミンを含む25mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)を用いた。
【0055】
ブロッキング処理されたペプチド固相化96ウェルプレートを、TBST−Eで3回、続いて純水で2回洗浄した。次に酵素反応を行った。各ウェルに酵素反応溶液100μLを分注し、最終濃度が0、1、3、10、30、100、300、又は1000ng/ウェルになるように希釈したAurora B 25μLを添加し、攪拌した。次に、酵素反応溶液を用いて調製された60μM ATP 25μLを加えた。攪拌後、30℃、1時間のリン酸化反応を行った。反応溶液を除去し、TBST−Eにて3回洗浄を行い、1250倍希釈(2.1μg/mL)のAQ−S−H3S10P 150μLを各ウェルに加えた。続いて30℃にて1時間反応させた。反応溶液を除去し、TBST−Eにて3回洗浄後、カルシウム溶液を100μL添加して発光検出を行った。
【0056】
結果を表2及び図3に示す。データは3回の測定の平均を表す。Aurora Bの濃度上昇に伴い、イクオリンの発光活性が上昇していることが見て取れる。この結果から、Aurora B酵素の用量依存的発光値の上昇は、固相化された基質ペプチドに対するAurora Bのリン酸化活性を反映するものであることが明らかである。
【0057】
【表2】

【0058】
以上より、イクオリン標識抗リン酸化抗体(AQ−S−H3S10P)を用いた発光検出において定量的なリン酸化活性の測定系が確立された事が示された。
【0059】
実施例7:Aurora Bキナーゼリン酸化活性阻害物質を用いた、本発明のスクリーニング方法の検討
前述で示したイクオリン標識抗体を用いるリン酸化酵素活性検出法に基づき、プロテインキナーゼ阻害剤であるスタウロスポリン(カルビオケム社)による、Aurora Bキナーゼリン酸化活性の阻害について検討した。
【0060】
前述の方法に従い、ポストコーティング処理済みのK9C固相化プレートをTBST−Eで3回、純水で2回洗浄し、阻害剤であるスタウロスポリンの最終濃度が0、1、3、10、30、100、300、1000、又は3000nMになるように希釈系列を作成し、各ウェルに酵素反応溶液50μL、スタウロスポリン溶液50μL、最終濃度100ng/ウェルに調製されたAurora Bキナーゼ溶液25μLを添加して攪拌した。最後に、60μM ATP 25μLを加えた。攪拌後、30℃にて1時間、リン酸化反応を行った。反応後TBST−Eで3回洗浄し、1250倍希釈(2.1μg/mL)のAQ−S−H3S10P抗体を150μL加え、30℃にて1時間反応させ、再びTBST−Eにて3回洗浄を行った。続いてカルシウム溶液100μLを添加し、発光検出を行った。
【0061】
結果を表3及び図4に示す。データは3回の測定の平均を表す。イクオリン標識抗リン酸化抗体を用いて検出した場合、スタウロスポリンの濃度が上昇するにつれ、イクオリンの発光が低下していることが見て取れる。
【0062】
【表3】

【0063】
以上の結果から、プロテインキナーゼ阻害剤であるスタウロスポリンにおける濃度依存的なイクオリン発光値の低下が認められ、Aurora Bキナーゼのリン酸化酵素活性阻害の定量的検出が確認された。すなわちこの系がリン酸化酵素阻害物質スクリーニングとして有用であることが示された。
【0064】
実施例8:様々なリン酸化酵素に関する本発明のスクリーニング方法の使用
上述のイクオリン標識抗リン酸化抗体を用いたリン酸化酵素活性の検出及びそれを利用したリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法が、Aurora Bのみならず他のリン酸化酵素についても適用可能であることを実証するために、上記で用いたペプチドK9Cを基質とすることが予測される様々なリン酸化酵素に関して本発明の方法を使用した。
【0065】
タンパク質リン酸化酵素として、PKA(PKAα;GenBank登録番号NM_002730)及びDYRK1A(GenBank登録番号NM_001396.3;特願2008−190277に記載(該出願は参照によりその全文が本明細書に組み入れられる))は自社精製のもの、MSK1、PKCε、CRIK、NDR1、Rsk2、PIM1及びPAK1はカルナバイオサイエンス社(兵庫)から市販されているものを用いた。また、これらのリン酸化酵素に対する阻害剤として、スタウロスポリン(カルビオケム社)又はハルミン(SIGMA)を用いた。
【0066】
上述の方法に従って、ポストコーティング処理済のK9C固相化プレートをTBST−Eで3回、純水で2回洗浄した。0μM又は30μMの阻害剤溶液(酵素反応溶液中)を調製した。また、リン酸化酵素溶液は、各リン酸化酵素の最終濃度がそれぞれ、PKA:800ng/ウェル、MSK1:100ng/ウェル、PKCε:300ng/ウェル、CRIK:300ng/ウェル、NDR1:300ng/ウェル、DYRK1A:500ng/ウェル、Rsk2:100ng/ウェル、PIM1:6μg/ウェル、及びPAK1:300ng/ウェルとなるように、酵素反応溶液を用いて調製した。プレートの各ウェルに、酵素反応溶液50μL、阻害剤溶液50μL、リン酸化酵素溶液25μLを添加して撹拌し、最後に、60μM ATPを25μL加えた。撹拌後、30℃にて1時間反応させた。リン酸化反応後、TBST−Eで3回洗浄し、1250倍希釈(2.1μg/mL)のAQ−S−H3S10P抗体を150μL添加し、30℃にて1時間反応させ、再びTBST−Eで3回洗浄した。続いて、カルシウム溶液100μLを添加し、発光を検出した。
【0067】
タンパク質リン酸化酵素であるPKA、MSK1、PKCε、CRIK、NDR1、DYRK1A、Rsk2、PIM1、又はPAK1を用いた結果を表4に示す。阻害剤の非存在下でリン酸化反応を行った場合、リン酸化酵素を加えなかった場合と比較して発光強度が上昇し、それぞれのリン酸化酵素に対する阻害作用を有することが知られているスタウロスポリン又はハルミンの存在下では発光強度が低下していることが見て取れる。
【0068】
【表4】

【0069】
以上の結果から、本発明の方法はAurora Bキナーゼに限らず、広範なリン酸化酵素に対する阻害物質のスクリーニング方法として有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、リン酸化酵素の阻害物質の特定を可能にすることにより、リン酸化酵素が関与する疾患の予防薬・治療薬の開発に役立つ。
【配列表フリーテキスト】
【0071】
配列番号1:基質ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
(a)阻害候補物質の存在下で、基質ペプチドのリン酸化が可能な条件において該基質ペプチドにリン酸化酵素を作用させるステップ、
(b)カルシウム結合型発光タンパク質で標識した抗リン酸化抗体を、(a)でリン酸化酵素を作用させた基質ペプチドと接触させるステップ、
(c)カルシウムを添加し、標識抗体−基質ペプチド複合体から生じる発光を検出するステップ、
(d)該候補物質の非存在下で、(a)〜(c)を行うステップ
を含み、ここで、該抗リン酸化抗体は、該リン酸化酵素によりリン酸化された基質ペプチドに特異的に結合可能なものであり、かつ、ステップ(c)から得られた発光シグナルが、ステップ(d)から得られた発光シグナルより低い場合に、該候補物質が該リン酸化酵素の活性を阻害するものであることが示される、上記方法。
【請求項2】
前記基質ペプチドが固体支持体に固相化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルシウム結合タンパク質がイクオリンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記イクオリンが組換えイクオリンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗リン酸化抗体が、配列番号1に示される配列を有するリン酸化ペプチドを認識できるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記基質ペプチドが配列番号1に示される配列を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記リン酸化酵素がAurora B、PKA、MSK1、PKCε、CRIK、NDR1、DYRK1A、Rsk2、PIM1、PAK1、IKKα、JIL−1、VRK1、Snf1、PBK/TOPK、MNK1、MNK2、MRCKα、PAK2、WNK2、及びWNK3からなる群より選択され、かつ基質ペプチドが配列番号1に示される配列を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングにおける使用のための、カルシウム結合型発光タンパク質で標識された抗リン酸化抗体。
【請求項9】
前記カルシウム結合型発光タンパク質による抗リン酸化抗体の標識が、マレイミド基とスルフヒドリル基との反応を用いて行われる、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
前記カルシウム結合タンパク質がイクオリンである、請求項8又は9に記載の抗体。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の標識抗体、及び対象となるリン酸化酵素の基質ペプチドを含む、リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングのためのキット。
【請求項12】
前記基質ペプチドが配列番号1に示される配列を含む、請求項11に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−236905(P2009−236905A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49763(P2009−49763)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、大学発事業創出実用化研究開発事業(新規蛍光発光蛋白を利用した活性評価システムの構築及びリン酸化酵素阻害を作用機構とする臨床薬開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505272984)株式会社キノファーマ (1)
【Fターム(参考)】