説明

発光デバイス、並びに、電子デバイス用無機薄膜及びその製造方法

【課題】高性能で信頼性の高い発光デバイスを提供する。
【解決手段】発光デバイス1は、陽極5と、陰極3と、それらの間に配置された有機発光材料を含む発光層4と、陽極5と発光層4との間、及び/又は、陰極3と発光層4との間に配置された無機薄膜とを備える。無機薄膜は、無機マトリックス材料と、前記無機マトリックス材料にドープされた、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと、を含む。無機薄膜が正孔輸送層7の場合、無機クラスターのHOMO準位と真空準位との差分値が、陽極5の仕事関数よりも大きく、かつ有機発光材料のHOMO準位と真空準位との差分値よりも小さい。無機薄膜が電子輸送層6の場合、無機クラスターのLUMO準位と真空準位との差分値が、陰極3の仕事関数よりも小さく、かつ有機発光材料のLUMO準位と真空準位との差分値よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光デバイスと、当該発光デバイスのような電子デバイスに用いられる電子デバイス用無機薄膜及びその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
陽極と陰極との間に、有機発光材料を含む発光層が配置された構造を有する、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子のような発光デバイスは、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子とが再結合する時のエネルギーによって有機発光材料を励起させて、発光を得るものである。
【0003】
現在、より高性能で信頼性の高い発光デバイスを得るために、材料の開発及び改良と、様々なデバイス構造とが提案されており、活発な研究開発が行われている。例えば、封止することなしに安定かつ優れた発光効率を実現するために、発光層と陽極との間に設けられる正孔注入層、及び、発光層と陰極との間に設けられる電子注入層に、それぞれ、大気に安定である金属酸化物薄膜が用いられた発光デバイスも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の発光デバイスのように、金属酸化物薄膜のような無機薄膜が利用された発光デバイスも種々提案されている。発光デバイスの構成要素に無機材料を利用する場合、当該無機材料の価電子帯及び伝導帯のエネルギー準位は、デバイスの性能を左右する重要なパラメータとなる。
【0005】
無機材料は、有機材料とは異なり、デバイスの分野においては、バルクと呼ばれる大きな塊として扱われるサイズで適用されることが一般的である。バルクの状態での無機材料は、バンドと呼ばれるエネルギー準位を有しており、発光デバイスにおいてはそのエネルギー準位がデバイスの性能を決める重要な要素となる。従来、他の原子を無機材料中にドーピングすることによってエネルギー準位を制御する方法がよく知られていた。しかし、原子のドーピングによって無機材料のエネルギー準位を精密に制御することは難しかった。
【0006】
原子のドーピング以外の方法によるエネルギー準位の制御技術として、多層法を利用して、TiO2と金属酸化物クラスターである12タングスト(VI)リン酸(H3PW1240)との複合膜を作製することによって、酸化チタンのエネルギー準位を制御する技術が報告されている(非特許文献1参照)。
【0007】
しかし、未だ、発光デバイスを構成する無機材料のエネルギー準位を精密に制御して、高性能で信頼性の高い発光デバイスが得られたという報告はなく、その技術は確立されていない。また、発光デバイスに限らず、他の電子デバイスにおいても、同様に、無機材料を利用する際にその無機材料のエネルギー準位を精密に制御して、デバイスの性能を向上させることについての報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−53286号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yanagida et al.,“Processing and Photocatalytic Properties of Transparent 12 Tungsto(VI) Phosphoric Acid -TiO2 Hybrid Films”, Chemistry of Materials, 2008, 20, 3757-3764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、無機材料が用いられる発光デバイスにおいて、無機材料のエネルギー準位を精密に制御することによって、その無機材料と、発光デバイスの他の構成材料とのエネルギー準位の関係を適切に設計して、高性能で信頼性の高い発光デバイスを提供することを課題とする。また、本発明は、発光デバイスのような電子デバイスに適用することで、当該電子デバイスの性能を向上させることが可能な、エネルギー準位の精密な制御が可能である電子デバイス用無機薄膜と、その製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置された、有機発光材料を含む発光層と、
前記陽極と前記発光層との間、及び、前記陰極と前記発光層との間から選ばれる少なくとも何れか一方に配置された無機薄膜と、
を備え、
前記無機薄膜は、無機マトリックス材料と、前記無機マトリックス材料にドープされた、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと、を含み、
前記無機薄膜が前記陽極と前記発光層との間に配置される場合には、前記無機クラスターのHOMO準位と真空準位との差分値が、前記陽極の仕事関数よりも大きく、かつ前記有機発光材料のHOMO準位と真空準位との差分値よりも小さくなるように、前記陽極、前記有機発光材料及び前記無機クラスターが選択され、
前記無機薄膜が前記陰極と前記発光層との間に配置される場合には、前記無機クラスターのLUMO準位と真空準位との差分値が、前記陰極の仕事関数よりも小さく、かつ前記有機発光材料のLUMO準位と真空準位との差分値よりも大きくなるように、前記陰極、前記有機発光材料及び前記無機クラスターが選択される、
発光デバイスを提供する。
【0012】
また、本発明は、
電子デバイスに含まれる無機薄膜であって、
無機マトリックス材料と、
前記無機マトリックス材料にドープされた、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと
を含む、電子デバイス用無機薄膜も提供する。
【0013】
また、本発明は、
(I)無機マトリックス材料の前駆体と、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと、を含む混合溶液を作製する工程と、
(II)前記混合溶液の塗膜を作製する工程と、
(III)前記塗膜を加熱する工程と、
を含む、電子デバイス用無機薄膜の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の発光デバイスに設けられた無機薄膜は、そのエネルギー準位が精密に制御されることが可能である。したがって、本発明の発光デバイスによれば、無機薄膜のエネルギー準位を精密に制御することによって、無機薄膜と他の構成材料とのエネルギー準位の関係を適切に設計できるので、高性能で信頼性の高い発光デバイスを提供できる。
【0015】
本発明の電子デバイス用無機薄膜は、そのエネルギー準位が精密に制御されることが可能である。したがって、本発明の電子デバイス用無機薄膜を電子デバイスに適用することにより、当該電子デバイスの性能を向上させることが可能となる。また、本発明の電子デバイス用無機薄膜の製造方法によれば、このような効果を奏する無機薄膜を、簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の発光デバイスの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の発光デバイスの一実施形態について、陽極及び陰極の仕事関数と、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層のエネルギー準位とを用いて、発光メカニズムを説明するための模式図である。
【図3】本発明において特定される無機薄膜が電子輸送層に適用された場合の、陰極、電子輸送層及び発光層の各構成材料のエネルギー準位を示す模式図である。
【図4】本発明において特定される無機薄膜が正孔輸送層に適用された場合の、陽極、正孔輸送層及び発光層の各構成材料のエネルギー準位を示す模式図である。
【図5】実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の発光デバイスについて、電圧と輝度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の発光デバイスの一実施形態について、以下に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの構造に限られるものではない。
【0018】
図1は、本実施形態の発光デバイス1の構成を模式的に示す断面図である。本実施形態の発光デバイス1は、有機EL素子である。発光デバイス1は、陰極3と、陽極5と、陰極3と陽極5との間に配置された発光層4とを備える。発光デバイス1は、さらに、発光層4と陽極5との間に配置された正孔輸送層7と、発光層4と陰極3との間に配置された電子輸送層6とを備える。発光デバイス1は、その全体が基板2上に配置されている。なお、本実施形態の発光デバイス1には設けられていないが、電極の絶縁性を維持したり、外部の酸素や水などの影響を排除したりするなどの目的で、全体を封止する封止構造が適用されることも可能である。
【0019】
基板2は、発光素子1の支持体となるものである。さらにここでは、基板2は、陰極3が直接その上に作製されるための支持体でもある。本実施形態の発光素子1では、光の取り出し方向が制限されない。すなわち、発光デバイス1は、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)と、基板2とは反対側の陽極5から光を取り出す構成(トップエミッション型)と、その両方が可能な構成(透明型)との3つの構成の何れかを取り得る。ボトムエミッション型の場合、基板2及び陰極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明又は半透明)である。
【0020】
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料、及び、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜30mm程度が好ましく、0.1〜10mm程度がより好ましい。
【0022】
なお、トップエミッション型の場合、基板2には、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。
【0023】
陰極3に求められる特性としては、導電性に優れていること、そしてボトムエミッション型及び透明型の場合、その透過性に優れていることである。これらは陽極5においても同様で、導電性に優れ、トップエミッション型及び透明型の場合、透過性に優れている材料を用いることが望ましい。
【0024】
陰極3の構成材料としては、例えば、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In23、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、及び、Au、Pt、Ag、Cu、Al、Ba、Ca、Mg又はこれらを含む合金等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
陰極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度が好ましく、30〜150nm程度がより好ましい。また、Au、Pt、Ag、Cu、Al、Ba、Ca、Mg等の不透過な材料を用いる場合は、例えば平均厚さを10〜30nm程度にすることで、陰極3をボトムエミッション型及び透明型として使用できる。
【0026】
陽極5の構成材料としては、例えば、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In23、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、及び、Au、Pt、Ag、Cu、Al又はこれらを含む合金等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
陽極5の平均厚さは、特に限定されないが、10〜10000nm程度が好ましく、20〜150nm程度がより好ましい。また、Au、Pt、Ag、Cu、Al等の不透過な材料を用いる場合は、例えば平均厚さを10〜30nm程度にすることで、陽極5をトップエミッション型及び透明型として使用できる。
【0028】
発光層4は、発光を担う層であり、少なくとも有機発光材料を含む。発光層4は、有機発光材料と正孔輸送性有機材料との混合物によって形成されていてもよいし、有機発光材料からなる層と正孔輸送性有機材料からなる層との積層体でもよい。有機発光材料としては、各種高分子の発光材料(高分子材料)及び各種低分子の発光材料(低分子材料)を、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0029】
高分子の発光材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ−フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ−フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレンビニレン)(RO−PPV)、シアノ−置換−ポリ(パラ−フェニレンビニレン)(CN−PPV)、ポリ(2−ジメチルオクチルシリル−パラ−フェニレンビニレン)(DMOS−PPV)、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチルヘキソキシ)−パラ−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン−アルト−ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω−ビス[N,N’−ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]−ポリ[9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニル−オルト−コ(アントラセン−9,10−ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ−フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレン)(RO−PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物、等が挙げられる。
【0030】
低分子の発光材料としては、例えば、配位子に2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、トリス(4−メチル−8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq3)、8−ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq2)、(1,10−フェナントロリン)−トリス−(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィンプラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6−ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−3,4,9,10−ペリレン−ジ−カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4−(ジ−シアノメチレン)−2−メチル−6−(パラ−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5−ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’−(パラ−フェニレンジビニレン)−ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1,3−シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,2’,7,7’−テトラフェニル−9,9’−スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニンのような金属又は無金属のフタロシアニン系化合物、等が挙げられる。
【0031】
正孔輸送性有機材料は、発光層4内での正孔の輸送を促進させるものである。この正孔輸送性有機材料には、各種p型の高分子材料及び各種p型の低分子材料を、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0032】
p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン−アリールアミン共重合体、フルオレン−ビチオフェン共重合体、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂又はその誘導体等が挙げられる。
【0033】
また、前記p型の高分子材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0034】
p型の低分子材料としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−パラ−トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’−ビス(4−ジ−パラ−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物;4,4’,4’’−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD1)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(4−メトキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メトキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD3)、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物;N,N,N’,N’−テトラフェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラ(パラ−トリル)−パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラ(メタ−トリル)−メタ−フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物;カルバゾール、N−イソプロピルカルバゾール、N−フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物;スチルベン、4−ジ−パラ−トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物;OxZのようなオキサゾール系化合物;トリフェニルメタン、m−MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物;1−フェニル−3−(パラ−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物;ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物;トリアゾールのようなトリアゾール系化合物;イミダゾールのようなイミダゾール系化合物;1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジ(4−ジメチルアミノフェニル)−1,3,4,−オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アントラセン、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物;フルオレノン、2,4,7,−トリニトロ−9−フルオレノン、2,7−ビス(2−ヒドロキシ−3−(2−クロロフェニルカルバモイル)−1−ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物;ポリアニリンのようなアニリン系化合物;シラン系化合物;1,4−ジチオケト−3,6−ジフェニル−ピロロ−(3,4−c)ピロロピロールのようなピロール系化合物;フローレンのようなフローレン系化合物;ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物;キナクリドンのようなキナクリドン系化合物;フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属又は無金属のフタロシアニン系化合物;銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属又は無金属のナフタロシアニン系化合物;N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物、等が挙げられる。
【0035】
発光層4の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度が好ましく、20〜150nm程度がより好ましい。
【0036】
発光層4は、正孔輸送層7から注入された正孔を受け取るとともに、電子注入層6から電子を受け取る。発光層4内で正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによって発光層4でエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。
【0037】
発光層4の構成材料としては、上記材料の中でも、高分子の発光材料を主とするものが好ましい。液相プロセスにより成膜が可能な高分子材料は、電子輸送層6とより多くの接触面を作り得る。これにより、より発光効率の優れたデバイスが得られる。
【0038】
特に、発光層4の構成材料としては、ポリフルオレンまたその誘導体を主成分とする高分子の発光材料が好ましい。これにより、前記効果をより向上させることができる。
【0039】
正孔輸送層7は、陽極5から注入された正孔を発光層4へと輸送する。
【0040】
このような正孔注入性層7を構成する物質としては、p型の高分子材料やPEDOT/PSS等の有機高分子化合物、p型の低分子材料等の有機低分子化合物、無機塩、金属酸化物、金属硫化物などが挙げられる。中でも、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、仕事関数が大きな化合物が好ましく、特に限定されないが、例えば、酸化バナジウム、酸化モリブテン、酸化ルテニウム、酸化タングステン等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
これらの中でも、特に、酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とするものが好適である。酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主材料とすることによって、正孔輸送層7を、前述した能力に特に優れたものとできる。
【0042】
正孔輸送層7の成膜方法は、特に制限されず、気相成膜法及び液相成膜法の両方を利用できる。気相成膜法としては、例えば、プラズマCVD、熱CVD及びレーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)と、真空蒸着、スパッタリング及びイオンプレーティング等の乾式メッキ法と、溶射法とが利用できる。液相成膜法としては、例えば、電解メッキ、浸漬メッキ及び無電解メッキ等の湿式メッキ法と、ゾル・ゲル法と、MOD法と、スプレイ熱分解法と、微粒子分散液を用いたドクターブレイド法と、スピンコート法と、インクジェット法と、スクリーンプリンティング法などの印刷技術とを用いることができる。
【0043】
正孔輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、1〜1000nm程度が好ましく、5〜50nm程度がより好ましい。
【0044】
電子輸送層6は、陰極3から注入された電子を発光層4へと輸送する。
【0045】
本実施形態の電子輸送層6は、無機薄膜によって形成されている。この無機薄膜は、無機マトリックス材料と、前記無機マトリックス材料にドープされた、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと、を含む。
【0046】
電子輸送層6の平均厚さは、特に限定されないが、0.5〜100nm程度が好ましく、0.5〜30nm程度がより好ましい。更に好ましくは、0.5〜20nmである。
【0047】
前記無機薄膜は、無機マトリックス材料に、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターがドープされることによって形成されている。このような無機薄膜は、従来のように単一の無機材料で構成されている無機薄膜とは異なり、ドーパントである無機クラスターを適宜選択することによって、所望の物性を実現できる。また、ドーパントが、原子の状態ではなく、2種類以上の元素で構成された無機クラスターの状態でドープされることで、ドーパントである無機材料自体のサイズや形状などによって変化するエネルギー準位を利用することができるようになり、無機薄膜全体のエネルギー準位を精密に制御できる。その結果、無機薄膜(ここでは、電子輸送層6)と、発光デバイス1の他の構成材料(ここでは、陰極3及び発光層4の材料)とのエネルギー準位の関係を適切に設計できるので、高性能で信頼性の高い発光デバイスを提供できる。なお、発光デバイス1の各構成材料におけるエネルギー準位の関係については、後述する。
【0048】
無機マトリックス材料及び無機クラスターは、バンドギャップを有する無機材料であればよく、特に限定されない。しかし、大気中でより安定に存在できる酸化物が好ましく用いられる。
【0049】
無機マトリックス材料は、それ自身単独で膜を形成できるような材料であることが好ましい。より好ましくは、無機マトリックス材料が酸化物であることである。また、無機薄膜が陽極と発光層との間に配置される場合には、無機マトリックス材料の価電子帯上端のエネルギー準位と真空準位との差分値が、前記陽極の仕事関数よりも大きく、かつ前記有機発光材料のHOMO準位と真空準位との差分値よりも小さくなるように、無機マトリックス材料が選択されることが好ましい。無機薄膜が陰極と発光層との間に配置される場合には、無機マトリックス材料の伝導帯下端のエネルギー準位と真空準位との差分値が、前記陰極の仕事関数よりも小さく、かつ前記有機発光材料のLUMO準位と真空準位との差分値よりも大きくなるように、無機マトリックス材料が選択されることが好ましい。
【0050】
無機クラスターは、2種類以上の元素で構成されていればよい。より好ましくは、無機クラスターが、例えば金属酸化物クラスターであることである。無機クラスターは、巨大な1分子とみなすことができ、1種の単一なエネルギー準位を有する。したがって、無機クラスターを用いれば、無機薄膜のエネルギー準位の制御が容易となり、かつより精密に行える。無機クラスターは、無機ナノ粒子であってもよい。ここでいう無機ナノ粒子は、数ナノメートルサイズの粒子のことであり、例えば、無機クラスターが崩れて1分子としての形状が保たれていない状態のものやクラスターが集合したようなもの等、量子サイズ効果によりバンドギャップを制御可能な種々の無機ナノ粒子が含まれる。
【0051】
無機クラスターのサイズは、無機薄膜の厚さ等も考慮して、適宜決定すればよい。本実施形態では、電子輸送層6の厚さよりも小さいサイズとする必要があり、好ましくは10nm以下である。一方、無機クラスターが小さすぎると、無機クラスター自体の安定性が低下し、その構造を維持することが難しくなる。したがって、無機クラスターのサイズは、0.5nm以上が好ましい。
【0052】
無機薄膜に含まれる無機クラスターの割合は、特に限定されないが、80wt%以下が好ましく、50wt%以下がより好ましい。無機クラスターの割合が80wt%を超えると、薄膜を形成するのが困難になる場合がある。一方、無機薄膜全体のエネルギー準位を効果的に制御するために、無機クラスターは0.1wt%以上含まれることが好ましく、より好ましくは、1wt%以上である。
【0053】
無機マトリックス材料及び無機クラスターの組み合わせは、目的とする物性を考慮して適宜選択すればよいので、特に限定されない。しかし、無機クラスターは、無機マトリックス材料単独では得られない物性(特にエネルギー準位)を制御するために用いられるので、その点を考慮して選択されるとよい。例えば本実施形態の場合、電子輸送層6は、発光層4への電子注入を効率よく行うことが必要となるため、無機マトリックス材料の伝導帯下端のエネルギー準位と真空準位との差分値、及び、無機クラスターのLUMO準位と真空準位との差分値が異なる値を持って、双方とも、前記陰極の仕事関数よりも小さく、かつ有機発光材料のLUMO準位と真空準位との差分値よりも大きくなるように選択することが好ましい。それにより、発光層4へのエネルギー障壁を小さくすることが可能となる。組み合わせの一例として、無機マトリックス材料としてTiO2が用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)リン酸(H3PW1240)が用いられることが考えられる。H3PW1240のLUMOエネルギー準位は、TiO2の伝導帯のエネルギー準位よりも低いので、陰極3から電子輸送層6への電子注入障壁を小さくすることが出来る。また、同様に無機マトリックス材料としてTiO2が用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)ケイ酸(H4SiW1240)が用いられる組み合わせ、無機マトリックス材料としてZrO2が用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)リン酸(H3PW1240)が用いられる組み合わせ、無機マトリックス材料としてZrO2が用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)ケイ酸(H4SiW1240)が用いられる組み合わせ、無機マトリックス材料としてZnOが用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)リン酸(H3PW1240)が用いられる組み合わせ、無機マトリックス材料としてZnOが用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)ケイ酸(H4SiW1240)が用いられる組み合わせ、無機マトリックス材料としてAl23が用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)リン酸(H3PW1240)が用いられる組み合わせ、無機マトリックス材料としてAl23が用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)ケイ酸(H4SiW1240)が用いられる組み合わせ、無機マトリックス材料としてSiO2が用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)リン酸(H3PW1240)が用いられる組み合わせ、無機マトリックス材料としてSiO2が用いられ、無機クラスターとして12タングスト(VI)ケイ酸(H4SiW1240)が用いられる組み合わせ、等が考えられる。
【0054】
このような無機薄膜は、例えば、
(I)無機マトリックス材料の前駆体と、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと、を含む混合溶液を作製する工程と、
(II)前記混合溶液の塗膜を作製する工程と、
(III)前記塗膜を加熱する工程と、
を含む方法によって、作製できる。混合溶液の溶媒は、無機マトリックス材料の前駆体と無機クラスターとが均一に分散できることが望ましい。より好ましくは、双方の材料がその溶媒に溶解することである。無機マトリックス材料の前駆体としては、均一に塗膜できるような前駆体を適宜決定すればよく、特に限定されないが、水酸化物、アルコキシド、錯体、微粒子を前駆体として用いることが好ましい。塗膜を作製する方法には、公知の方法が利用でき、例えばスピンコート法、ディップコート法及びインクジェット法等を用いることができる。塗膜を加熱する際の温度は、用いられる材料に応じて適宜決定すればよく、特に限定されないが、50℃〜600℃が好ましく、80℃〜400℃がより好ましい。50℃以下であると、塗膜の形成に用いた溶液の溶媒や、無機マトリックス材料の前駆体が膜中に多量に残存する可能性がある。600℃以上であると、塗膜が形成される基板の材料や電極が熱で変化してしまう可能性がある。
【0055】
次に、発光デバイス1の発光メカニズムと、発光デバイス1の各構成材料に求められるエネルギー準位とについて、図2及び図3を参照しながら説明する。
【0056】
図2は、陽極5及び陰極3の仕事関数と、正孔輸送層7、発光層4及び電子輸送層6のエネルギー準位とを示す。なお、図2において、正孔輸送層7、発光層4及び電子輸送層6は矩形で表され、各矩形の上辺は各層の伝導帯下端のエネルギー準位又はLUMO準位を表しており、各矩形の下辺は各層の価電子帯上端のエネルギー準位又はHOMO準位を表している。発光デバイス1では、陽極5から正孔輸送層7を経由して発光層4に入った正孔と、陰極3から電子輸送層6を経由して発光層4に入った電子とが再結合することで発光する。その際、エネルギーギャップを少なくするという観点から、陽極側は、陽極5の仕事関数(W.F.)が発光層4のHOMO準位と真空準位との差分値よりも小さい場合には、正孔輸送層7のHOMO準位又は価電子帯上端のエネルギー準位と真空準位との差分値が以下の関係(陽極側の関係)を満たすように、各層を設計することが好ましい。一方、陰極側は、陰極3の仕事関数(W.F.)が発光層4のLUMO準位と真空準位との差分値よりも大きい場合には、電子輸送層6のLUMO準位又は伝導帯下端のエネルギー準位(本実施形態では無機薄膜の伝導帯下端のエネルギー準位)と真空準位との差分値が以下の関係を満たすように、各層を設計することが好ましい。このような関係を満たすように各層を設計することによって、発光デバイス1の発光効率を向上させることができる。
<陽極側の関係>
陽極3の仕事関数<正孔輸送層7のHOMO準位又は価電子帯上端のエネルギー準位と真空準位との差分値<発光層4のHOMO準位と真空準位との差分値
<陰極側の関係>
陰極5の仕事関数>電子輸送層6のLUMO準位又は伝導帯下端のエネルギー準位と真空準位との差分値>発光層4のLUMO準位と真空準位との差分値
【0057】
また、正孔や電子を発光層4内にとどめておくために、正孔輸送層7のLUMO準位又は伝導帯下端のエネルギー準位は発光層4のLUMO準位よりも高く(正孔輸送層7のLUMO準位又は伝導帯下端のエネルギー準位と真空準位との差分値が、発光層4のLUMO準位と真空準位との差分値よりも小さく)、電子輸送層6のHOMO準位又は価電子帯上端のエネルギー準位は発光層4のHOMO準位よりも低い(電子輸送層6のHOMO準位又は価電子帯上端のエネルギー準位と真空準位との差分値が、発光層4のHOMO準位と真空準位との差分値よりも大きい)ことが好ましい。このような関係を満たすことにより、発光効率をより向上させることができる。
【0058】
本実施形態では、電子輸送層6に、無機マトリックス材料及び無機クラスターで構成された無機薄膜が用いられている。そこで、図3に、本実施形態の発光デバイス1における陰極3、電子輸送層6及び発光層4の各構成材料のエネルギー準位を示す。図3中、6aは電子輸送層6を構成する無機マトリックス材料のエネルギー準位を表しており、6bは電子輸送層6を構成する無機クラスターのエネルギー準位を表している。無機マトリックス材料6aの伝導帯下端のエネルギー準位(C.B.)及び無機クラスター6bのLUMO準位と真空準位との差分値は、陰極3の仕事関数(W.F.)よりも小さく、かつ発光層4を構成する有機発光材料のLUMO準位と真空準位との差分値よりも大きい。言い換えると、無機マトリックス材料6aの伝導帯下端のエネルギー準位(C.B.)及び無機クラスター6bのLUMO準位は、陰極3のフェルミ準位(EF)よりも高く、かつ発光層4を構成する有機発光材料のLUMO準位よりも低い。なお、図3中に示された、無機マトリックス材料の価電子帯上端のエネルギー準位(V.B.)及び無機クラスターのHOMO準位及び有機発光材料のHOMO準位は一例であり、これに限定されない。なお、ここでは、好ましい例として、無機マトリックス材料の伝導帯下端のエネルギー準位と真空準位との差分値が、前記陰極の仕事関数よりも小さく、かつ前記有機発光材料のLUMO準位と真空準位との差分値よりも大きくなるように無機マトリックス材料が選択された例が示されているが、これに限定されず、エネルギー準位がこれとは異なる関係を有する無機マトリックス材料を使用することも可能である。
【0059】
無機マトリックス材料及び無機クラスターは、用いられる陰極3の材料及び発光層4の有機発光材料に応じて、上記の関係を満たすように適宜選択されることが好ましいが、使用可能な材料は多種存在する。そこで、無機マトリックス材料として使用可能な材料の例を表1に示し、無機クラスターとして使用可能な材料の例を表2に示す。なお、表1中、「C.B.」欄の値は伝導帯下端のエネルギー準位と真空準位との差分値を示し、「V.B.」欄の値は価電子帯上端のエネルギー準位と真空準位との差分値を示す。用いられる陰極3の材料及び発光層4の有機発光材料と上記のエネルギー準位の関係を満たすことができるように、表1及び表2中の材料から無機マトリックス材料及び無機クラスターをそれぞれ選択することが可能である。なお、表3−1及び表3−2に、有機発光材料として使用可能な材料の例が示されている。また、表4に、電極材料(ここでは陰極3の材料)として使用可能な材料の例が示されている。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3−1】

【0063】
【表3−2】

【0064】
【表4】

【0065】
本実施形態では、本発明の電子デバイス用無機薄膜として特定された無機薄膜が、電子輸送層6に適用された構成を有する、発光デバイスについて説明した。しかし、本発明の発光デバイスは、この構成に限定されず、この無機薄膜が正孔輸送層7に適用された構成を有することも可能である。その場合、陽極5、正孔輸送層7及び発光層4の各構成材料のエネルギー準位は、図4に示された関係を満たす。図4中、7aは正孔輸送層7を構成する無機マトリックス材料のエネルギー準位を表しており、7bは正孔輸送層7を構成する無機クラスターのエネルギー準位を表している。無機マトリックス材料7aの価電子帯上端のエネルギー準位(V.B.)及び無機クラスター7bのHOMO準位と真空準位との差分値は、陽極5の仕事関数(W.F.)よりも大きく、かつ発光層4を構成する有機発光材料のHOMO準位と真空準位との差分値よりも小さい。言い換えると、無機マトリックス材料7aの価電子帯上端のエネルギー準位(V.B.)及び無機クラスター7bのHOMO準位は、陽極5のフェルミ準位(EF)よりも低く、かつ発光層4を構成する有機発光材料のHOMO準位よりも高い。なお、図4中に示された、無機マトリックス材料7aの伝導帯下端のエネルギー準位(C.B.)及び無機クラスターのLUMO準位及び有機発光材料のLUMO準位は一例であり、これに限定されない。なお、ここでは、好ましい例として、無機マトリックス材料の価電子帯上端のエネルギー準位と真空準位との差分値が、前記陽極の仕事関数よりも大きく、かつ前記有機発光材料のHOMO準位と真空準位との差分値よりも小さくなるように無機マトリックス材料が選択された例が示されているが、これに限定されず、エネルギー準位がこれとは異なる関係を有する無機マトリックス材料を使用することも可能である。
【0066】
電子輸送層6及び正孔輸送層7の両方に、本発明の電子デバイス用無機薄膜として特定された無機薄膜が適用されてもよい。その場合は、図3及び4に示されたエネルギー準位の関係が、共に満たされる。
【0067】
本実施形態の発光デバイス1は、陰極3側に基板2が配置される構成を有しているが、陽極5側に基板2が配置される構成であってもよい。また、本実施形態の発光デバイス1には、電子輸送層6及び正孔輸送層7の両方が設けられているが、何れか一方のみが設けられていてもよい。
【0068】
本実施形態では、本発明の電子デバイス用無機薄膜が発光デバイスに適用されている。しかし、これに限定されず、発光デバイス以外であっても、物性(特に、エネルギー準位)の制御が求められる無機薄膜を構成要素として含む電子デバイスであれば、この無機薄膜を適用することができる。
【実施例】
【0069】
次に、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
以下の(1)〜(6)の工程によって、図1に示された発光デバイス1と同じ構成を有する実施例1の発光デバイスを作製した。すなわち、実施例1の発光デバイスは、電子輸送層6に本発明の電子デバイス用無機薄膜が用いられた発光デバイスであった。
(1) 市販されている、平均厚さ0.7mmのITO付き透明ガラス基板を用意した。この基板を、イソプロパノール及びアセトンで洗浄後、UVオゾン洗浄を20分行った。
(2) メチルセロソルブ10mLに、金属酸化物クラスターとしてH3PW1240・nH2O(無機クラスター)を0.5g溶解させ、その溶液中にチタンテトライソプロポキシド(無機マトリックス材料の前駆体)5mLをゆっくり滴下した。そのまま24時間攪拌し、溶媒を60℃で減圧下除去した。得られた粘性液体をメチルセロソルブ中に希釈させ1%溶液(混合溶液)を作製した。
(3) 上記(1)で得た基板上に、スピンコート法(回転数1500rpm)により、上記(2)で作製した混合溶液を塗布した。その後、400℃に加熱して、無機薄膜(電子輸送層)を得た。
(4) ADS社製ポリフルオレン誘導体「ADS133YE」(有機発光材料)を1wt%でキシレンに溶解させた。得られた溶液をスピンコート法(回転数1500rpm)により、上記(3)で得られた無機薄膜上に塗布した後、乾燥させた。なお、液状材料の乾燥条件は、大気下、室温とした。これにより、発光層が作製された。
(5) 以降の正孔輸送層及び陽極の作製工程は、真空蒸着機内で行った。まず、発光層の上に、酸化モリブテン(MoO3)層(正孔輸送層)を、平均厚さ10nmで蒸着した。
(6) 上記(5)からの連続工程で、平均厚さ30nmの金(Au)(陽極)を蒸着した。
【0071】
陰極の材料は、ITO(仕事関数:4.8eV)であった。無機マトリックス材料は、TiO2(伝導帯下端のエネルギー準位(−4.2eV)と真空準位との差分値:4.2eV、価電子帯上端のエネルギー準位(−7.4eV)と真空準位との差分値:7.4eV)であった。無機クラスターは、H3PW1240(LUMO準位(−4.5eV)と真空準位との差分値:4.5eV、HOMO準位(−8.3eV)と真空準位との差分値:8.3eV)であった。有機発光材料は、ADS133YE(LUMO準位(−3.3eV)と真空準位との差分値:3.3eV、HOMO準位(−5.9eV)と真空準位との差分値:5.9eV)であった。したがって、実施例1の発光デバイスにおける陰極の材料、無機クラスター及び有機発光材料は、図3に示されたエネルギー準位の関係を満たしていた。
【0072】
(実施例2)
金属酸化物クラスターとして、0.5gのH3PW1240・nH2Oの代わりに、0.5gのH4SiW1240・nH2Oを使用した点以外は、実施例1と同様にして実施例2の発光デバイスを作製した。すなわち、実施例2では、無機クラスターがH4SiW1240(LUMO準位(−4.3eV)と真空準位との差分値:4.3eV、HOMO準位(−8eV)と真空準位との差分値:8eV)であった。したがって、実施例2の発光デバイスにおける陰極の材料、無機クラスター及び有機発光材料は、図3に示されたエネルギー準位の関係を満たしていた。
【0073】
(比較例1)
金属酸化物クラスターを使用しなかった点以外は、実施例1と同様にして比較例1の発光デバイスを作製した。すなわち、比較例1の発光デバイスは、電子輸送層が無機マトリックス材料のみによって形成されていた。
【0074】
(比較例2)
金属酸化物クラスターとして、0.5gのH3PW1240・nH2Oの代わりに、0.34gのH3PMo1240・nH2Oを使用した点以外は、実施例1と同様にして比較例2の発光デバイスを作製した。すなわち、比較例2では、無機クラスターがH3PMo1240(LUMO準位(−5.2eV)と真空準位との差分値:5.2eV、HOMO準位(−7.6eV)と真空準位との差分値:7.6eV)であった。したがって、比較例2の発光デバイスでは、陰極の材料と無機クラスターとが、図3に示されたエネルギー準位の関係を満たしていなかった。
【0075】
(評価)
実施例1及び2と比較例1及び2の各発光デバイスについて、初期の発光特性(輝度−電圧)を評価した。この発光特性の評価は、直流電源により、発光デバイスに0Vから8Vまで電圧を印加して、各電圧時の輝度を輝度計を用いて測定することによって行った。その結果は、図5に示されている。本発明の発光デバイスの構成を満たす実施例1及び2の発光デバイスは、本発明の発光デバイスの構成を満たさない比較例1及び2の発光デバイスと比較して、優れた発光特性を示した。また、実施例1、実施例2及び比較例2の結果を比較すると、無機薄膜の主材料である無機マトリックス材料が同じであっても、ドープされる無機クラスターが異なることにより、発光輝度が大きく変化していることがわかる。この結果は、ドープされる無機クラスターによって無機薄膜自体の物性が変化する、すなわちエネルギー準位を制御できるということを意味する。したがって、無機マトリックス材料及び無機クラスターを適宜選択すれば、エネルギー準位が精密に制御された無機薄膜を得ることができるということが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の発光デバイスは、無機薄膜を構成要素として含む発光デバイスであれば、種々の発光デバイスに好適に利用できる。本発明の電子デバイス用無機薄膜は、エネルギー準位の精密な制御が可能であるため、発光デバイスだけでなく、他の電子デバイスにも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
1 発光デバイス
2 基板
3 陰極
4 発光層
5 陽極
6 電子輸送層(無機薄膜)
7 正孔輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置された、有機発光材料を含む発光層と、
前記陽極と前記発光層との間、及び、前記陰極と前記発光層との間から選ばれる少なくとも何れか一方に配置された無機薄膜と、
を備え、
前記無機薄膜は、無機マトリックス材料と、前記無機マトリックス材料にドープされた、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと、を含み、
前記無機薄膜が前記陽極と前記発光層との間に配置される場合には、前記無機クラスターのHOMO準位と真空準位との差分値が、前記陽極の仕事関数よりも大きく、かつ前記有機発光材料のHOMO準位と真空準位との差分値よりも小さくなるように、前記陽極、前記有機発光材料及び前記無機クラスターが選択され、
前記無機薄膜が前記陰極と前記発光層との間に配置される場合には、前記無機クラスターのLUMO準位と真空準位との差分値が、前記陰極の仕事関数よりも小さく、かつ前記有機発光材料のLUMO準位と真空準位との差分値よりも大きくなるように、前記陰極、前記有機発光材料及び前記無機クラスターが選択される、
発光デバイス。
【請求項2】
前記無機薄膜が、0.5nm以上100nm以下の厚さを有する、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
前記無機マトリックス材料が酸化物である、請求項1又は2に記載の発光デバイス。
【請求項4】
前記無機クラスターが酸化物である、請求項1〜3の何れか1項に記載の発光デバイス。
【請求項5】
電子デバイスに含まれる無機薄膜であって、
無機マトリックス材料と、
前記無機マトリックス材料にドープされた、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと、
を含む、電子デバイス用無機薄膜。
【請求項6】
(I)無機マトリックス材料の前駆体と、前記無機マトリックス材料とは異なるエネルギー準位を有し、かつ2種類以上の元素で構成された無機クラスターと、を含む混合溶液を作製する工程と、
(II)前記混合溶液の塗膜を作製する工程と、
(III)前記塗膜を加熱する工程と、
を含む、電子デバイス用無機薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−46040(P2013−46040A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185207(P2011−185207)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】