説明

発光体混合物、発光インキ、発光印刷物、及び発光体塗工物並びに真偽判別方法

【課題】 特徴的な発光色の変化によってセキュリティレベルを向上させることが可能な発光体混合物、発光インキ、発光印刷物、及び発光体塗工物並びに真偽判別方法を提供する。
【解決手段】 発光色と、飽和発光時間が異なる少なくとも二つの発光体を混合することで発光体混合物を作製し、該発光体混合体をインキビヒクルに分散させて発光インキを作製する。該インキを用いて基材上又は基材内面の少なくとも一部に付与した発光印刷物を製造する。真偽判別方法は、発光印刷物を検査手段に配置し、前記発光印刷物に紫外線照射部から紫外線を照射し、前記紫外線の照射に対して前記発光印刷物の発光体からの反射光の発光色を光センサで光電変換し、前記発光体の飽和発光強度に達するまでの挙動の波形を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を照射してから発光強度が飽和に達するまでの励起時間と、発光色の異なる少なくとも二つの紫外線励起可視発光体を混合することで、紫外線照射時間に応じて発光色が連続的に変化する真偽判別性に優れた発光体混合物、前記発光体混合物をインキビヒクル中に混合した発光インキ、発光印刷物、及び発光体塗工物並びに真偽判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券や有価証券、郵券等の一定のセキュリティが必要とされる印刷物には、第三者による偽造及び改ざんを見分けるために、真正品と偽造品を区別する基準となる要素、いわゆる真偽判別要素の付与が不可欠となっている。
【0003】
付与される真偽判別要素の一つの例として、例えば銀行券に施されているすき入れが挙げられる。このすき入れは、ユーザが認証具を必要とすることなく、可視光にかざすだけで簡単に銀行券の真偽を判定することができる。
【0004】
一方、他の例として、可視光では観察できないか、又は可視光で観察できても違和感のない構成で印刷物中の図柄や背景に配されている特殊な真偽判別要素がある。この真偽判別要素は、特殊な認証具を用いた場合にのみに確認できるものであり、偽造者にその存在を特定し難く構成されていることが特徴となる。
【0005】
この特殊な認証具を必要とする真偽判別要素を構成する一つの物質として、発光体がある。ここでいう発光体とは、蛍光体、燐光体及び蓄光体を含むものとする。発光体の種類は数限りないが、発光体を構成する材料が異なれば、互いに励起波長や発光波長、残光強度等の特性のすべてが完全に一致することはない。このことを利用して、発光体を印刷したセキュリティ印刷物に特定の励起波長を照射し、発光色を官能検査で確認するか、あるいは機械検査によって発光スペクトルや特定波長域における発光強度、又は残光強度等を検出して、発光体自体の真偽判別を行うことで、セキュリティ印刷物の真偽を判別する手法は、従来から一般的に用いられている。
【0006】
発光体のなかでも紫外線励起可視発光体は、励起波長として紫外線領域の波長の光を照射することで可視領域の光を発するもので、ブラックライトや殺菌灯等の簡易的な認証具を用いて発光体を励起させることが可能で、かつその発光は人の目で捉えることができる。
【0007】
本来、紫外線励起可視発光体も、厳密な機械検査によって真偽判別を行うことを前提とした発光体であるが、上記のように目視でその発光を捉えることが可能であることから、チケットや商品券等のセキュリティ印刷物に利用されており、チケット換金所や販売店等では、持ち込まれるこれらのセキュリティ印刷物に対してブラックライトを用いて紫外線を照射し、目視によって発光を確かめることを真偽判別の一つの手段としていることも多い。
【0008】
このように紫外線励起可視発光体は、極めて認証が簡単な発光体として認知され、これまで多くのセキュリティ製品の真偽判別要素として用いられてきたが、これは付与する発光体が真正品製造者にしか入手できないことを前提にすることで成り立っていた。
【0009】
しかし、近年、従来は一般人が入手することが困難であった特殊な紫外線励起可視発光体が、一般の雑貨販売店において多種類販売されており、真正品に用いられている発光体に近い特徴を持つ発光体を入手することは容易となりつつある。
【0010】
このように、真正品に用いられている発光体に近い特徴を持つ発光体を入手して偽造品を作製された場合には、外乱光を遮断した環境下で強度や波長が厳密に管理された紫外線を照射して発光体を励起させ、その発光スペクトルや発光強度を測定して真正品の値と比較する機械検査であればともかく、外乱光が差し込む環境において照射波長や照射強度があいまいなブラックライトや殺菌灯等の簡易的な認証具で紫外線を照射して、その発光色のみを目視で捉えて真偽判別を行う方法では、判別を誤る可能性が高いという問題がある。
【0011】
以上のことから、紫外線励起可視発光体をセキュリティ印刷物の真偽判別要素の一つとする方法は、製造者がこれを厳密な機械検査で真偽判別を行うことを意図していたとしても、流通過程において目視検査で真偽判別が行われる可能性があることを考慮すると、多種多様な発光体が一般人に入手可能となった現在、そのセキュリティレベルは総合的に低くなりつつあるという問題があった。
【0012】
この問題に対応するため、特殊な紫外線励起可視発光体が用いられつつある。これらの特殊な紫外線励起可視発光体を混合したインキの代表例としては、二色性蛍光インキやカラーシフトインキがある。二色性蛍光インキ(例えば特許文献1参照)及びカラーシフトインキ(例えば特許文献2参照)は、どちらも多くの場合二種類以上の紫外線励起可視発光体を一つのインキビヒクル中に混合したインキであって、紫外線を照射したときの発光色を変化させるものである。
【0013】
二色性蛍光インキは、紫外線励起特性と発光色の異なる発光体を混合するもので、多くの場合、短波紫外線で強く励起する励起特性を有する蛍光顔料と、紫外線長波で強く励起する励起特性を有する蛍光顔料の組み合わせで混合され、短波紫外線(254nmを中心波長とする)と長波紫外線(365nmを中心波長とする)を照射した場合に、一つのインキであるにもかかわらず発光色が変化するものである。
【0014】
具体的には短波紫外線を照射するライト1と長波紫外線を照射するライト2の二つの認証具を用いて、それぞれの波長におけるインキの発光色をそれぞれ真偽判別要素とすることが可能であり、従来の単一の発光色で真偽判別を行うことしかできなかった紫外線励起可視発光体と比較しても、そのセキュリティレベルは高いと考えられる。また、この二色性蛍光発光体は現在のところ一般には販売されていないこと考慮すると、一般的な紫外線励起可視発光体よりも偽造に用いられる可能性は低い。
【0015】
また、カラーシフトインキは、単一の波長域の紫外線の照射でも発光色が変化するインキであり、これは発光体の残光時間の違いを利用するものである。例えば、残光時間がほとんどない蛍光体と、残光時間の長い蓄光体を混合した場合には、紫外線を照射している間は、蛍光体の発光色が主体色となり、紫外線の照射を終了した瞬間から蓄光体の発光色(残光色)が主体色となる。蛍光体の発光色と蓄光体の発光色が異なっている場合、紫外線の照射の有無でインキの発光色が変化するものである。
【0016】
このカラーシフトインキについても二色性蛍光インキと同様に、従来の単一の発光色で真偽判別を行うことしかできなかった紫外線励起可視発光体と比較してセキュリティレベルは高いと考えられる。このカラーシフトインキについても一般には販売されていないので、一般的な紫外線励起可視発光体よりも偽造に用いられる可能性は低い。
【0017】
以上のように、紫外線励起可視発光体は、単純な発光ではそのセキュリティを維持することが困難になりつつあることから、偽造者には再現不可能な特殊な特性を持った発光体が要求されており、かつその特性は色変化のように目視でも容易に捉えることができることが望ましいと考えられている。
【0018】
【特許文献1】特開平10−251570号公報
【特許文献2】特開2005−67043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このように、紫外線励起可視発光体は、その認証の容易さから主に発光色の特殊化が望まれているが、前述の二色性蛍光インキやカラーシフトインキについてもその真偽判別を行う認証具やその認証環境において問題が生じる可能性がある。
【0020】
特許文献1の二色性蛍光インキが持つ顕著な特性である複数の波長域における発光色の違いを確認するためには、少なくとも二つの異なった波長の紫外線を照射することが可能なUVランプが必要となり、これまでのブラックライトや殺菌灯等のいずれか一つの認証具による真偽判別は不可能である。特に多くの場合、二色性蛍光インキの認証波長の一つである短波紫外線は、人体に有害であり、取り扱いには注意が必要となる。
【0021】
特許文献2のカラーシフトインキについては、二色性蛍光体と異なり認証具は従来同様一つで十分であり、認証波長もほとんどの場合、従来から使用しているブラックライトが照射する長波紫外線でほぼ問題ない。しかし、カラーシフトインキが発する残光を目視で確認するためには、外乱となる周囲の光を遮断できる環境が必要となる。これは、蛍光発光による発光強度と比較して蓄光による残光強度は極めて微弱であることが原因で生じる問題であり、この問題は不可避である。よって、この色変化を目視で確認することは蛍光灯で照らし出された環境では困難であり、ブラックライトが発する紫外線以外の外乱となる光をほぼ遮断できる環境、あるいはブラックライトを備えた特殊な暗箱が必須となるという問題があった。
【0022】
また、暗箱に入れて認証するには、常に暗箱を備えておくか又は保持している必要があるため、瞬時に判別するには向いていない。
【0023】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その特徴的な発光色の変化によってセキュリティレベルを向上させることが可能であり、目視と簡易的な判別装置との両方を用いて判別することができる発光体混合物、発光インキ、発光印刷物及び発光体塗工物並びにこの発光印刷物及び発光体塗工物を目視で又は機械で容易に判別することが可能な真偽判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の発光体混合物は、紫外線を照射してから発光強度が飽和に達するまでの時間が異なり、かつ発光色の異なる少なくとも2つの発光体を混合した混合物であって、前記混合物は紫外線の照射開始からの時間経過に従って発光色が変化することを特徴とする。
【0025】
本発明の発光体混合物の少なくとも2つの発光体は、紫外線を照射してから発光強度が飽和に達するまでの時間の短い発光体と発光強度が飽和に達するまでの時間の長い発光体とから成り、発光初期から前記飽和発光時間の短い発光体の発光色は一定の強度で発光し続け、前記飽和発光時間の長い発光体は飽和発光強度に達するまで徐々に発光強度が上昇することで、前記少なくとも2つの発光体が飽和発光強度に達するまで、前記少なくとも2つの発光体の混合された発光色が連続的に遷移するものである。
【0026】
本発明の発光インキは、発光体混合物をインキビヒクル中に分散させたものである。
【0027】
本発明の発光印刷物は、発光体混合物を、基材上又は基材内面の少なくとも一部に付与することを特徴とする。
【0028】
本発明の発光体塗工物は、発光体混合物を、基材上又は基材内面の少なくとも一部に塗布することを特徴とする。
【0029】
本発明の発光印刷物又は発光体塗工物を用いた真偽判別方法は、紫外線の照射時間に応じた発光色の変化を捉えることを特徴とする。
【0030】
本発明の発光印刷物又は発光体塗工物を用いた真偽判別方法は、前記発光印刷物を検査手段に配置し、前記発光印刷物に紫外線照射部から紫外線を照射し、前記紫外線の照射に対して前記発光印刷物の発光体からの反射光の発光色を光センサで光電変換し、前記発光体の飽和発光強度に達するまでの発光色の変化の挙動を電気的に検出することで真偽判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、単一の紫外線照射光源のみで発光色の変化を生じ、かつその発光色変化は紫外線照射開始から紫外線照射中に少なくとも2つの発光体の発光色が混ざり合って徐々に発光色の変化及び発光輝度が増加するという特徴を有する発光体混合物を得ることができ、また、発光インキ、発光印刷物、及び発光体塗工物並びに真偽判別方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明の実施の形態による発光体混合物、発光インキ、発光印刷物、及び発光体塗工物並びに真偽判別方法について、図面を用いて説明する。
【0033】
ここで発光体混合物とは、本発明によって成された発光体であり、2つの異なる発光体を混合して作製した。また、2つの発光体は、発光色の変化が大きくなる発光体を選定した。本実施の形態では2つの異なる発光体の場合を説明しているが、発光体が三つ以上でも良いのはいうまでもない。
【0034】
発光体には、一定量の紫外線照射光量に対して、それ以上発光強度が上がらない最大値が存在する(以下、この最大値を飽和発光強度と称する。)。多くの発光体の場合、一定強度の紫外線を照射すると、ほぼ一瞬でこの飽和発光強度に達するが、ある特定の発光体は、一定の紫外線を照射してから徐々に発光が強くなり、最終的にこの飽和発光強度に達するまでに紫外線照射開始から時間を要する特性を有するものがある(以下、この紫外線照射開始から飽和発光強度に達するまでの時間を飽和発光時間と称する。)。
【0035】
この飽和発光時間の短い発光体1はほぼ零秒であり、逆に長い発光体2は1秒に達する。例えば、飽和発光時間がほぼ零秒である発光体1と、飽和発光時間に1秒を要する発光体2とを混合して均一に分散させた場合、紫外線照射開始から照射時間1秒までは飽和発光時間の短い発光体1の発光色が主体色となり、照射時間1秒以上の場合には飽和発光時間の短い発光体1の発光色と飽和発光時間の長い発光体2の発光色の混合色となる。
【0036】
この2つの発光体に、異なる発光色(飽和発光時間の短い発光体1の発光色と飽和発光時間の長い発光体2の発光色)を有するものを選択した場合には、飽和発光時間の長い発光体2が飽和発光強度に達するまでは、紫外線照射直後の飽和発光時間の短い発光体1の発光色が主体であるが、飽和発光時間の長い発光体2が徐々に発光するにしたがって、飽和発光時間の短い発光体1の発光色は徐々にその発光色が2つの発光体の混合色に至るまで色相が連続的に遷移するという特殊な発光強度の増加を伴う色の変化を生じせしめることが可能となる。
【0037】
この飽和発光時間の差は大きければ大きいほど、目視で容易に発光色変化を確認することが可能となり、その真偽判別性は高くなることはいうまでもない。この発光色変化を目視で捉えるためには、飽和発光時間の差は0.1秒以上であることが望ましい。0.1秒より小さい場合、その色変化の認証には個人差が生じるとともに、万人が目視で真偽判別することは困難となる。
【0038】
図1に、目視上の発光色の変化が最大となりうる発光体の選定結果を示す。
R系(赤系)、G系(緑系)及びB系(青系)の発光体の、飽和発光時間の短い発光体と飽和発光時間の長い発光体とをそれぞれ組み合わせ、それらの組み合わせに対して、紫外線照射直後の発光色、両発光体が飽和発光強度に達するまでの中間混合色、両発光体が飽和発光強度に達した時の混合色を目視で観察し、評価した結果である。
【0039】
その結果、R系(赤系)、G系(緑系)及びB系(青系)発光体の組み合わせにおいて、目視上、発光色の変化が最大と感じ、且つ中間混合発光色と混合色の発色が鮮やかであった組み合わせは、R系とG系の組み合わせであった。ただし、言うまでもなく本発明はこのR系とG系の発光体の組み合わせに限定するものではない。
【0040】
本実施の形態による構成要件である2つの発光体のうちの一つである飽和発光時間が長い発光体2としては、比較的長い残光を有する蓄光体が本実施の形態で述べる特徴を有している場合が多いことから、一般的に蓄光体と呼称される発光体を飽和発光時間が長い発光体2とし、また、他の発光体としては、一般的に蛍光体、あるいは燐光体と呼称される発光体を飽和発光時間の短い発光体1とする。ただし、燐光体の中には比較的飽和発光時間の長いものが含まれる場合がある。この場合には、発光体1と発光体2の飽和発光時間の差が0.1秒以上になる組み合わせであれば、例えば蛍光体と燐光体の組み合わせ、あるいは燐光体と燐光体の組み合わせであっても本発明の発光体混合物を構成することが可能である。
【0041】
目視上、発光色の変化を効果的に生じさせる各発光体の適当な混合比率は、機械的にあらかじめ算出することが可能である。これは、発光体1と発光体2の飽和発光時間経過後の分光スペクトルに示す発光波形の積分値がほぼ同じ値であることが目安となる。
【0042】
(実施例)
上記実施の形態における実施例として、二つの発光体の発光色はR系とG系の二つの発光体の組み合わせを選択し、発光体混合物、発光インキ及び発光印刷物を作製する。
【0043】
二つの発光体のうち、R系発光体は発光ピークが657nmの赤色である可視領域の最高波長の発光体1(販売メーカ:東芝 製品名:SPD-116S)、G系発光体は発光ピークが516nmを中心波長とする発光体2(販売メーカ:根本特殊化学 製品名:DM224)を選定した。
【0044】
図2に、発光体1と発光体2の飽和発光時間と飽和発光強度の関係を示す。
R系発光体1は、長波紫外線の照射を受けて励起し、第1の波長(657nm)で発光し、その飽和発光時間はほぼ零秒である。一方、G系発光体2は長波紫外線の照射を受けて励起し、第2の波長(516nm)で発光し、その飽和発光時間は約1秒である。
【0045】
本実施例において、発光体1及び発光体2には無機系発光顔料を用いているが、有機系発光顔料を用いたとしても何ら問題ない。
【0046】
上記したように本実施の形態の構成要件を満たす二つの発光体を選定したのち、目視上その発光色の変化を最大に感じられる混合割合を決定するためにそれぞれの混合割合の検討を行った。
【0047】
本実施例で用いる発光体1及び発光体2の二つの発光体を合わせた総重量を一定値とし、その中で発光色のバランスを考慮しながら二つの発光体の混合重量比率を調整した。顔料の混合にあたっては、得られる混合物が均一な発光になるまで、メノウ乳鉢を用いて入念に混合し、顔料が均一に分散した状態で発光体混合物とした。この分散状態が均一でない場合には、発光体混合物の発光色の変化は、紫外線照射開始時からそれぞれの発光体の色となり、鮮明な発光色の変化を生じないことは言うまでもない。
【0048】
発光体1と発光体2の配合割合を変えた5水準の発光体混合物を作製し、この発光体混合物に紫外線照射手段を用いて長波紫外線を照射して発光色の変化を目視で観察し、発光色の変化の大きかった水準を基に最適な配合割合を導いた。
紫外線照射手段として、一般的なブラックライトに準じる紫外線を発する紫外線照射ランプ(中心波長366nm販売メーカ:フナコシ製薬株式会社、製品名:UVL-56)を使用した。
【0049】
図3に、発光体混合物の水準1から水準5における発光体1と発光体2との配合割合と、長波紫外線を照射した場合に目視で観察された発光色の変化に対する視覚評価結果を示す。
【0050】
目視で観察した結果、水準4の配合割合(DM224:SPD116S=1:5)で作製したものが最も良好な発光色の変化を成すことを確認した。また、分光測定機(日立製作所、製品名:F−4500分光蛍光光度計)で機械的に検出した各水準の、両発光体がともに飽和発光強度に達した状態の発光体混合物の発光スペクトルは、図4に示すとおりであった。各水準の発光体2の発光スペクトルは450〜600nmに、発光体1の発光スペクトルは600〜700nmの部分に現われる。水準4における発光体1と発光体2の飽和発光時間経過後の分光スペクトルに示す波形の積分値は、ほぼ同一であった。
【0051】
水準4に紫外線を照射したところ照射直後に発光体1の発光色である赤色と、照射直後から照射経過時間1秒以内では発光体1と発光体2の中間混合色である橙色、照射経過時間1秒以上で発光体1と発光体2の混合色である黄色を確認することができた。
【0052】
また、本実施例の主体的な効果ではないが、本実施例に付随する効果として、紫外線照射終了後の発光体2の単独残光色である緑色残光も確認することができた。以上のことから、目視上、最も色変化の効果が高かった水準4を本実施例が成す発光体混合物とした。
【0053】
次に前記発光体混合物をインキ化するためにビヒクルの選定を行ない、発光インキを作製し、得られた発光インキを用いて、一般に公知の印刷方法により印刷し発光印刷物を作製し、得られた発光印刷物に対して、目視又は機械判別を行うことで、真偽判別をするものである。
【0054】
発光体混合物をインキ化するためにインキビヒクルを選定した。
【0055】
グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷といった印刷方式で使用されるインキビヒクルはいずれも有機物で構成されるため、紫外線を吸収する特性をもともと有している。紫外線を特に吸収する性質をもつインキビヒクルは避けることが望ましい。
【0056】
本実施例においては、市販されているブラックライトを用いて長波紫外線を照射した場合に、発光色の変化を鮮明に見せることが目的であるため、長波紫外線を特に強く吸収する特性を持つインキビヒクルは避けることとした。また、発光色の変化を目視で認証することを前提にしているため発光を強く保てることを前提としている。このことから、インキ膜厚を厚く付与することが可能であるスクリーン印刷を選択し、スクリーン印刷で用いられる紫外線乾燥タイプのメジューム(販売メーカ:永瀬スクリーン印刷研究所 製品名:A−Z)を用いた。
【0057】
発光体混合物を下記に示す配合割合でインキ化した。顔料コンテントは30%である。高速分散機(販売メーカ:特殊機化工業株式会社、製品名:ホモディスパー)を使用して回転数3000rpmで5分間攪拌を行うことでインキ化し、このインキに対して長波紫外線を照射したところ、発光体混合物同様の発光色の変化を確認した。これをもって、本実施例の発光インキとした。
発光体混合物 30部
メジューム 70部
消泡剤 1部(外割)
【0058】
前記発光インキを用いてスクリーン印刷機(販売メーカ:美濃商事株式会社、製品名:卓上型印刷台WHT3号)を使用して無蛍光グラビア印刷用塗工紙を基材としてスクリーン印刷を行い、発光印刷物を得た。
【0059】
得られた発光印刷物に対して紫外線を照射して効果の確認を行ったところ、発光混合物とほぼ同様な発光色の変化を示すことを確認した。
【0060】
次に、実施例で得られた発光体混合物や発光印刷物を用いて、真偽判別する方法について、目視による場合と機械による場合とについて説明する。
【0061】
まず、紫外線照射時間に応じて発光色が変化する様子を単に目視で確認するだけでなく、紫外線遮断物質を用いることで、その発光色の変化の効果をより容易に観察する真偽判別方法について説明する。
本実施例では、真偽判別方法として、一般的に市販されているブラックライトが発する長波紫外線を発光体に照射して、発光体の発光色の変化を目視で簡易的に判定することを想定している。
【0062】
発光印刷物の印刷画像の一部を人の手や用紙等の紫外線遮断物質で覆ったのち、この紫外線遮断物質の上から印刷画像全体に対して紫外線を照射し、飽和発光時間経過後に印刷画像全体に対して紫外線を照射したままでこの紫外線遮断物質を取り除くと、紫外線遮断物質で覆われていた印刷画像部分は赤色発光しはじめ、一方、紫外線遮断物質で覆われていなかった印刷画像は黄色発光している。これは、紫外線遮断物質によって覆われていた部位と紫外線遮断物質に覆われていない部位によって、飽和発光時間の長い発光体が励起していない部位と励起している部位が生じ、部分的な遮蔽を取り除いて全体に紫外線を照射した場合に発光色の違いとして現れたものである。
【0063】
このように、簡易的な紫外線遮断物質を用いることで、紫外線の照射時間に応じて発光色が変化する効果を、同一の印刷物において隣接した状態での色変化として、より容易に目視で捉えられる状態となり、極めて容易に真偽判別を行うことが可能となる。
【0064】
次に、機械判別によって真偽判別を行う例について、図面を用いて説明する。
【0065】
図5に、簡易的な検査装置の一例を示す。完全な暗箱1の中に励起光源として紫外線照射LED2と、発光体の発光を捉えて光電変換する光センサ5とを備えた検査装置である。
【0066】
暗箱1の中に測定対象物となる発光体混合物8を載置し、この発光体混合物8に対して紫外線照射LED2にローパスフィルタ3(390nm以下の波長の光のみを透過)を配している。紫外線照射LEDはパルス発振器4によってデューティ50%で紫外線を発光体混合物にパルス照射する。紫外線によって励起した発光体混合物の発光を捉えて光電変換センサ5で電気変換し、アンプ6を介して、発光体混合物の飽和発光強度に達するまでの発光挙動をオシロスコープ7で検出した。
【0067】
図6に、検査装置で測定した発光体混合物及び従来の蛍光体や蓄光体の飽和発光強度に達するまでの発光挙動をオシロスコープで検出した検出結果の波形を示す。
【0068】
図6より、本実施例で得られた発光体混合物と、従来の蛍光体や蓄光体の発光挙動とはその図形は明らかに異なっているのが分かる。従来の一般的な蛍光体は紫外線で励起すると垂直に発光波形が立ち上がり(a)、一般的な蓄光体は飽和発光強度に対して対数的に立ち上がる(b)のに対して、発光体混合物は、蛍光体が発光するため、その初期の発光波形は垂直に立ち上がり、その後飽和発光強度に達するまで対数的に徐々に発光強度が上昇する(c)。このように、発光体混合物は、機械的にも発光波形を検出することが可能であって容易に真偽判別が可能である。
【0069】
以上詳述したように、二色性蛍光インキでは不可能であったブラックライトや殺菌灯等の単一の紫外線照射光源のみで発光色の変化を生じ、かつその発光色の変化は従来のカラーシフトインキのように残光によって生じるものではなく、紫外線照射開始から紫外線照射中に複数の発光体の飽和発光強度が変化することによって生じるものであることから、発光色の変化中の発光強度も極めて良好であって、認証環境に外乱光が存在していても、従来のようにその都度暗箱等に入れて検査することなく、目視で発光色の変化を確認することができる。また、その紫外線照射直後から一定時間が経過するまでの発光強度の変化は機械的にも検出することが可能であることから、機械的な真偽判別要素としても従来以上に機能することは言うまでもない。
【0070】
本実施例においては、発光印刷物は発光インキを用いて構成したが、一般に公知の蛍光繊維の製造方法を用いて発光体混合物を繊維に固着させた発光繊維を製造して基材中に混抄したり、直接発光体混合物を用紙基材に混合した発光用紙を抄造することで、発光印刷物の基材を構成することは容易であり、本発明の範疇であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明における二つの発光体発光色の組み合わせと発光色の変化及び視覚評価結果を示す図である。
【図2】実施例による二つの発光体の飽和発光時間と飽和発光強度の関係を示す図である。
【図3】実施例による発光体の配合割合と発光色の変化及び視覚評価結果を示す図である。
【図4】実施例による発光体の配合割合と発光スペクトルを示す。
【図5】実施例による簡易検査装置を示す図である。
【図6】実施例による簡易検査装置で測定した発光挙動をオシロスコープで示した図である。
【符号の説明】
【0072】
1 暗箱
2 紫外線照射LED
3 ローパスフィルタ
4 パルス発振器
5 光電変換センサ
6 アンプ
7 表示装置
8 測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を照射してから発光強度が飽和に達するまでの時間が異なり、かつ発光色の異なる少なくとも2つの発光体を混合した混合物であって、
前記混合物は紫外線の照射開始からの時間経過に従って発光色が変化することを特徴とする発光体混合物。
【請求項2】
前記少なくとも2つの発光体は、紫外線を照射してから発光強度が飽和に達するまでの時間の短い発光体と発光強度が飽和に達するまでの時間の長い発光体とからなり、発光初期から前記飽和発光時間の短い発光体の発光色は一定の強度で発光し続け、前記飽和発光時間の長い発光体は飽和発光強度に達するまで徐々に発光強度が上昇することで、前記少なくとも2つの発光体が飽和発光強度に達するまで、前記少なくとも2つの発光体の混合された発光色が連続的に遷移する請求項1に記載の発光体混合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発光体混合物を、インキビヒクル中に分散させたことを特徴とする発光インキ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の発光体混合物を、基材上又は基材内面の少なくとも一部に付与することを特徴とする発光印刷物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の発光体混合物を、基材上又は基材内面の少なくとも一部に塗布することを特徴とする発光体塗工物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の発光印刷物、又は発光体塗工物を用いた真偽判別方法であって、紫外線の照射時間に応じた発光色の変化を捉えることを特徴とする真偽判別方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の発光印刷物、又は発光体塗工物を用いた真偽判別方法であって、
前記発光印刷物を検査手段に配置し、
前記発光印刷物に紫外線照射部から紫外線を照射し、
前記紫外線の照射に対して前記発光印刷物の発光体からの反射光の発光色を光センサで光電変換し、
前記発光体の飽和発光強度に達するまでの発光色の変化の挙動を電気的に検出することで真偽判別することを特徴とする真偽判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−277281(P2007−277281A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101367(P2006−101367)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】