説明

発光分光分析方法および発光分光分析装置

【課題】 金属試料に含まれる元素を発光分光分析技術によって定量するにあたり、元素ごとに金属試料と対電極をそれぞれ最適の位置に移動させて高精度かつ短時間で分析する方法および装置を提供する。
【解決手段】 不活性ガス雰囲気にて金属試料と対電極との間で多数回のスパーク放電を行なう発光分光分析にて、各元素ごとに金属試料と対電極とをそれぞれ最適の位置に移動させて定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属試料と対電極との間でスパーク放電を行ない、金属試料に含まれる元素を定量する発光分光分析方法および発光分光分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業における転炉あるいは脱ガス炉等を用いる精錬では、精錬中に炉内の溶鋼から試料を採取し、その試料の分析結果に基づいて溶鋼の成分を調整しながら精錬を行なう。したがって、溶鋼の精錬を迅速に行なうには、精錬中に採取された試料を高精度かつ短時間で分析することが必要となる。そこで、比較的短時間で分析が可能なスパーク放電発光分光分析技術(以下、発光分光分析技術という)が広く採用されている。
【0003】
このような状況で溶鋼の生産量の増加,製造コストの削減を図るために、溶鋼成分の分析精度の向上および分析時間の短縮が求められている。
これに対して従来の発光分光分析技術は、試料と対電極を固定して分析を行なうので、試料電極間距離も一定となり、一部の元素の分析においては最適の位置関係であっても、他の元素には必ずしも適していなかった。そのため、一部の元素の分析に関しては十分な精度が得られても、他の元素の分析精度は不十分であった。
【0004】
多数の元素を分析する際に各元素の分析精度を高めるためには、元素ごとに試料の位置と対電極の位置を作業員が調整し、さらに試料と対電極が分析中に移動しないように固定しなければならない。したがって試料の分析に多大な時間を要する。
つまり従来の発光分光分析技術では、分析精度の向上および分析時間の短縮を同時に達成するのは困難であった。
【0005】
そこで、発光分光分析技術を改善して、多数の元素を高精度かつ短時間で分析する技術が種々検討されている。
たとえば特許文献1には、複数の窓をもつ板体を用いることによって、元素ごとに最適な測光位置を得る方法が開示されている。しかしながらこの方法では、窓を通して測定するので、窓を通さない場合に比べて測定強度が格段に小さくなり、測定時間が大幅に増加するという問題点があった。さらに、ある一定の試料位置と電極位置に対しては最適化がされており有効であるが、実際には元素ごとに最適な試料位置と電極位置が異なるため、その最適化は試料位置と電極位置まで考慮した最適条件ではなかった。
【0006】
つまり特許文献1に開示された方法では、試料位置と電極位置まで考慮した最適条件で多数の元素を分析する場合には、窓を有する板体も変更する必要があり、分析に時間がかかるという問題があった。
【特許文献1】特開平11-30586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題を解消し、金属試料に含まれる元素を発光分光分析技術によって定量するにあたり、各元素ごとに金属試料と対電極をそれぞれ最適の位置に移動させて高精度かつ短時間で分析する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究・検討を行なった。以下に研究・検討の結果を説明する。
本発明者らは、図1に示すスパーク放電発光分光分析装置(以下、発光分光分析装置という)にて、対電極4の位置,金属試料3の位置を変更して様々な元素を定量し、その分析精度を調査した。その結果、対電極4と試料3の位置を変えることによって、元素ごとに精度良く分析を行なうことができた。
【0009】
つまり金属試料3に含まれる元素を定量する際には、各元素の分析を行なうための最適の位置関係が存在する。その理由は、
(a) スパーク放電による発光強度が、対電極4の位置,金属試料3の位置に応じて大きく変化する、
(b) スパーク放電による発光強度の空間分布も、金属試料3と対電極4の距離(以下、試料電極間距離という)に応じて変化し、その変化は元素や波長ごとに異なる
からである。
【0010】
したがって、各元素ごとに対電極4と金属試料3の位置および試料電極間距離を短時間で調整すれば、全ての元素を精度良く、かつ迅速に分析できるという知見を得た。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、不活性ガス雰囲気にて金属試料と対電極との間で多数回のスパーク放電を行ない、金属試料に含まれる元素を定量する発光分光分析方法において、各元素ごとに金属試料と対電極とをそれぞれ最適の位置に移動させて定量する発光分光分析方法である。
【0011】
本発明の発光分光分析方法においては、金属試料と対電極とを移動させるにあたり、基準点を設定し、金属試料の位置の変化量を基準点に対して3mm以下とし、対電極の位置の変化量を基準点に対して5mm以下とし、かつ金属試料と対電極との間隔を1〜5mmの範囲内に維持することが好ましい。
また本発明は、不活性ガス雰囲気にて金属試料と対電極との間で多数回のスパーク放電を行ない、金属試料に含まれる元素を定量する発光分光分析装置であって、金属試料を装着して移動可能に配設される試料支持台と、対電極を設置して移動可能に配設される電極架台とを有する発光分光分析装置である。
【0012】
本発明の発光分光分析装置は、金属試料と基準点の距離を測定する試料位置測定装置と、対電極と基準点の距離を測定する電極位置測定装置と、金属試料と対電極の距離を測定する試料電極間距離測定装置とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属試料と対電極を元素ごとに最適な位置関係に配置して分析することが可能となり、分析精度を向上できる。しかも各元素に応じて、金属試料と対電極を容易に最適な位置関係に移動できるので、様々な元素を短時間で分析できる。その結果、高精度かつ短時間で分析することが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に示すように、発光分光分析装置1は、放電装置2,金属試料3,対電極4を有しており、放電装置2からの信号に応じて金属試料3と対電極4との間でスパーク放電を発生する発光部,発光部で発光した光を分光するための分光部,分光部の検出器7によって検出されたスペクトル線を処理するための測光装置8,測光装置8から入力されるスペクトル線強度に基づいてデータ処理を行ない金属試料の元素の含有量を求める演算装置9で構成されている。さらにArガス等の不活性ガスで金属試料3と対電極4をパージする密閉装置(図示せず)が配設される。
【0015】
図2は、図1中の金属試料3と対電極4を拡大して示す断面図である。金属試料3を装着する試料支持台10と対電極4を設置する電極架台11は、各々単独に上下に移動することが可能である。試料支持台10,電極架台11が移動すれば、金属試料3,対電極4も移動する。金属試料3と対電極4を移動させる際には、基準点SPとの距離を測定する。
つまり試料位置測定装置(図示せず)を用いて、金属試料3と基準点SPの距離を測定し、その測定値を演算装置9に伝送する。また電極位置測定装置(図示せず)を用いて、対電極4と基準点SPの距離を測定し、その測定値を演算装置9に伝送する。さらに試料電極間距離測定装置(図示せず)を用いて、試料電極間距離を測定し、その測定値を演算装置9に伝送する。
【0016】
演算装置9は、分析する元素に応じて金属試料3と対電極4の最適の位置関係を求め、次いで上記した測定値を用いて金属試料3と対電極4の移動量を算出する。算出された移動量に基づいて金属試料3(すなわち試料支持台10)および対電極4(すなわち電極架台11)を移動するのは、作業員が行なっても良いし、あるいは自動制御で行なっても良い。ただし、金属試料3と対電極4の位置の調整に要する時間を大幅に短縮するためには、自動制御を採用するのが好ましい。
【0017】
このようにして元素ごとに電極位置および試料位置を短時間で調整することが可能となり、元素ごとに最適条件で測定が可能になる。
金属試料3の移動量は、基準点SPからの距離の変化量を3mm以下とするのが好ましい。基準点SPからの変化量が3mmを超えると、測定強度の減少が著しいためである。
対電極4の移動量は、基準点SPからの距離の変化量を5mm以下とするのが好ましい。基準点SPからの変化量が5mmを超えると、測定強度の減少が著しくなり、さらにスパーク放電も不安定になるからである。
【0018】
さらに試料電極間距離は1〜5mmの範囲内に維持することが好ましい。試料電極間距離が1mm未満になると、電極の存在が発光強度へ影響を及ぼす可能性が大きくなる。一方、試料電極間距離が5mmを超えると、測定強度の減少が著しくなり、さらにスパーク放電も不安定になるからである。
また多種類の元素を分析する際には、試料電極間距離が大きい方から徐々に小さくなるような順に測定するのが好ましい。その理由は、試料電極間距離が大きいほど、放電領域は大きくなるからである。つまり、試料電極間距離が小さい方から徐々に大きくなるような順に測定を行なうと、試料電極間距離が小さいときの狭い放電領域と、放電されていない領域を測定することになり、分析精度に悪影響を及ぼす。
【0019】
このようにして、金属試料と対電極を元素ごとに最適な位置関係に配置して分析することが可能となり、分析精度を向上できる。しかも各元素に応じて、金属試料と対電極を容易に最適な位置関係に移動できるので、様々な元素を短時間で分析できる。
【実施例】
【0020】
本発明装置を用いて、標準試料(低合金鋼)を分析し、その精度を調査した。分析の精度は、変動係数CV(%)で評価した。その結果は表1に示す通りである。なお、変動係数CVは、
CV=100 ×A/B
A:標準偏差
B:平均値
で算出される値である。CV値が小さいほど、分析精度が高いことを示している。
【0021】
表1から明らかなように、元素ごとに対電極4の位置,金属試料3の位置,試料電極間距離を最適化することにより、分析精度の向上が確認できた。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用する装置の例を模式的に示す配置図である。
【図2】図1中の金属試料と対電極を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 発光分光分析装置
2 放電装置
3 金属試料
4 対電極
5 スリット
6 回析格子
7 検出器
8 測光装置
9 演算装置
・ 試料支持台
11 電極架台
SP 基準点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気にて金属試料と対電極との間で多数回のスパーク放電を行ない、前記金属試料に含まれる元素を定量する発光分光分析方法において、各元素ごとに前記金属試料と前記対電極とをそれぞれ最適の位置に移動させて定量することを特徴とする発光分光分析方法。
【請求項2】
前記金属試料と前記対電極とを移動させるにあたり、基準点を設定し、前記金属試料の位置の変化量を前記基準点に対して3mm以下とし、前記対電極の位置の変化量を前記基準点に対して5mm以下とし、かつ前記金属試料と前記対電極との間隔を1〜5mmの範囲内に維持することを特徴とする請求項1に記載の発光分光分析方法。
【請求項3】
不活性ガス雰囲気にて金属試料と対電極との間で多数回のスパーク放電を行ない、前記金属試料に含まれる元素を定量する発光分光分析装置であって、前記金属試料を装着して移動可能に配設される試料支持台と、前記対電極を設置して移動可能に配設される電極架台とを有することを特徴とする発光分光分析装置。
【請求項4】
前記金属試料と基準点の距離を測定する試料位置測定装置と、前記対電極と前記基準点の距離を測定する電極位置測定装置と、前記金属試料と前記対電極の距離を測定する試料電極間距離測定装置とを有することを特徴とする請求項3記載の発光分光分析装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−266949(P2006−266949A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87214(P2005−87214)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】