説明

発光分析装置

【課題】1パルスの放電における試料の発光状態について詳細なデータが得られるようにする。
【解決手段】分光部6は、光検出器から出力される光電流を10μ秒以下の時間分解能をもってAD変換するAD変換部8に電流‐電圧変換部11を介して接続されている。AD変換部8はメモリ24に接続されており、AD変換部8でデジタル変換されたデータが時系列的にメモリ24に格納される。演算処理部12はメモリ24に格納されているデータを用いて、1パルスの放電において作業者が任意に設定した領域のデジタルデータを積算処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料と対向電極との間に高電圧をパルス状に印加して放電を発生させ、放電によって試料から発せられた光を分光し、分光された光の強度を複数の波長でそれぞれ測定することで試料の元素分析を行なう固体発光分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体発光分析は、測定対象である試料に対向するように電極を配置し、試料とその対向電極との間に高電圧を印加して放電を発生させる。放電のエネルギーによって試料が蒸発して励起され、発光する。試料からの光は試料に含まれる成分特有の波長をもっており、この光を分光器で元素に対応した光に分光し、各元素の波長に対応した光検出器で測定することにより、試料の組成分析を行なうことができる。
試料と対向電極との間に印加される高電圧はパルス状であり、放電の形態もパルス状となる。1回の分析において放電は数十Hz(ヘルツ)〜1KHz程度の周波数で繰り返し行なわれ、その間に光検出器から出力された光電流の積分値が1回の分析における発光強度となる。
【0003】
図3に一般的な発光分析装置の構成を概略的に示す。
放電部2は配置された試料3に対向する対向電極2aを備え、放電回路4によって電極2aと試料3との間に10〜1000Hzの周波数のパルス状の放電を発生させるようになっている。6は電極2aと試料3との間の放電によって発生した光を分光し、分光された光を複数の波長の位置で検出する分光部である。分光部6は、入口スリット14を通過した光束を回折格子16で分光し、その分光光のうち出口スリット18a〜18dを通過した光束を光検出器20a〜20dで検出する。出口スリット18a〜18dの位置は互いに異なっていて、それぞれの異なる波長の光を選択する。光検出器20a〜20dは検出した光量に応じた光電流と呼ばれる電流を出力するようになっており、光検出器20a〜20dから出力された光電流は積分器18a〜18dに入力され、放電部2で発生した放電1パルスごとの光電流がそれぞれの波長ごとに蓄積される。積分器22a〜22dに蓄積された放電1パルス分の光電流は、1回の放電ごとに切替器20が切替えられることでAD変換器26によって順にデジタル変換されてデジタルデータとされ、メモリ24に格納される。演算処理部26はメモリ24に格納されたデジタルデータを放電回数分積算することで、該当する元素の発光強度が得られる。
【0004】
放電部2における放電1パルスあたりの所要時間は数十μ(マイクロ)秒〜数ミリ秒程度である。しかし、この1パルスの間にも放電状態は時間的に変化しており、分光部6から出力される光電流も例えば図4に示されるように時間変化する。
元素や試料の母材によって効率のよい発光が起こる放電状態は異なっているため、正確な分析を行なうためには、分析する元素にとって最適な放電が行なわれている時間帯の光電流のみを用いて測定し、その測定値を放電回数分積算して発光強度とすることが好ましい。
【0005】
上記の目的を達成するために、現在の発光分析装置では、1パルスの放電において分析試料の発光効率のよい時間帯の光電流のみを積分するように積分回路の開閉タイミング(積分ウィンドウ)を設定し、その積分値を1回の分析で行なわれる放電回数分積算することが行なわれている。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開昭60−52746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の発光分析装置では、1度の分析において、積分回路において設定した時間帯における光電流の積分値を発光回数分積算したデータしか得ることができず、そのような方法では、1回の放電における互いに重なる複数の時間帯や連続しない時間帯の光電流の積分値を1回の分析で得ることはできない。開閉タイミングを任意に設定できる積分回路を複数設けるようにすることで任意の時間帯における光電流の積分値を得ることはできるが、回路が複雑になるという問題がある。
【0007】
また、従来の固体発光分析では、1パルスの放電における試料の発光状態についての詳細なデータを得ることができず、最適な積分条件を得るためには、積分開始時間などの積分条件を変更して膨大な回数のデータを採取する必要があった。
【0008】
そこで本発明は、1パルスの放電における試料の発光状態について詳細なデータが得られるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる発光分析装置は、配置された試料に対向する電極を備えた放電部と、電極と試料との間に10Hzから1000Hzの間の周波数でパルス状の高電圧を繰り返して印加するための放電回路と、放電部において放電により試料から発生した光を分光する分光素子、及び分光素子からの分光された光を複数の波長の位置でそれぞれ受光し、その受光量に応じた信号を出力する複数の光検出器を備えた分光部と、放電部における放電1回ごとに光検出器からの出力信号を10μ秒以下の時間分解能をもってAD変換(アナログ−デジタル変換)するAD変換部と、AD変換部によりデジタル信号とされたデータを記憶しておくメモリと、メモリに記憶されているデータにおいて1パルスの放電のうちの任意の領域のデータを積分するように設定できる演算処理部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
AD変換部の10μ秒以下の時間分解能は放電パルスの放電時間である数十μ秒〜数ミリμ秒に比べると十分に短い。放電パルスは、図4に示されるように、初めに急峻なピークが現れ、続いてなだらかなピークが現れる。急峻なピークは数十μ秒、例えば50μ秒程度の寿命をもつので、10μ秒以下の時間分解能をもつAD変換部であれば、その急峻なピークからだけでも複数の出力信号データを取り込むことができる。
【0011】
演算処理部は、1パルスの放電のうちの複数の領域を設定できるようになっていることが好ましい。
その場合、それら複数の領域は互いに重なる領域を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発光分析装置は、放電部における放電1回ごとに光検出器からの出力信号を10μ秒以下の時間分解能をもってAD変換するAD変換部と、AD変換部によりデジタル信号とされたデータを記憶しておくメモリと、メモリに記憶されているデータにおいて1パルスの放電のうちの任意の領域のデータを積分するように設定できる演算処理部とを備えているので、1パルスの放電における試料の発光状態についての詳細なデータを得ることができ、得られたデータから1パルスの放電における任意の領域の積分値を得ることができる。
【0013】
演算処理部が1パルスの放電のうちの複数の領域を設定できるようになっていれば、それらの領域のデータを用いて多様な分析データを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は一実施例の発光分析装置の構成を概略的に示すブロック図である。
試料は放電部2に配置される。放電部2は配置された試料に対向する電極を備え、放電部2には、電極と試料の間に高電圧を印加して10〜1000Hzの周波数でパルス状の放電を発生させる放電回路4が接続されている。
6は放電部2で発生した光を分光素子を用いて各元素の波長ごとに分光し、分光された光を複数の波長の位置に設けられた光検出器で検出する分光部である。分光部6からは光検出器で検出された光量に応じた電流(光電流)が出力されるようになっている。
【0015】
分光部6は、光検出器から出力される光電流を10μ秒以下の時間分解能をもってAD変換するAD変換部8に電流‐電圧変換部11を介して接続されている。AD変換部8はメモリ24に接続されており、AD変換部8でデジタル変換されたデータが時系列的にメモリ24に格納される。
12はメモリ24に格納されているデータを用いて、1パルスの放電において作業者が任意に設定した領域のデジタルデータを積算処理することができる演算処理部である。
【0016】
図2は図1に示した実施例の発光分析装置を具体的に示す図である。
放電部2は配置された試料3に対向する対向電極2aを備え、放電回路4によって対向電極2aと試料3との間に10〜1000Hzの周波数でパルス状の放電を発生させるようになっている。放電部2の側方に分光部6が設けられている。分光部6内は真空となっている。分光部6内には、放電部2において放電により発生した光のうち一定方向に向かう平行光束を取り出すための入口スリット14と、スリット14を通過した光を波長ごとに分光する回折格子16と、回折格子16からの分光光のうち、出口スリット18a〜18dを通過した光を受光する光検出器20a〜20dが設けられており、光検出器20a〜20dからその検出光量に応じた光電流が出力される。
【0017】
分光部6の各光検出器20a〜20dはそれぞれ電流‐電圧変換回路7a〜7dを介してAD変換器8a〜8dに接続されている。AD変換器8a〜8dは10μ秒以下、例えば0.1〜1μ秒程度の時間分解能をもって各光検出器20a〜20dから出力された光電流をデジタル変換するものである。AD変換器8a〜8dはメモリ10に接続されており、それぞれのAD変換器8a〜8dにより生成されたデジタルデータはメモリ10により時系列的に記憶される。AD変換器8a〜8dとしては、画像信号処理や画像伝送、通信における復調や伝送用のものとして一般に入手できるものでよい。
【0018】
演算処理部12はメモリ10に格納されているデジタルデータを用いて、1パルスの放電において分析者が任意に設定した領域のデジタルデータを、分析で行なった放電回数分だけ積算処理する。この演算処理12によるデータ処理は、メモリ10に格納されている、高い時間分解能で詳細に測定された光電流のデジタルデータを用いて行なうので、1パルスの放電における光電流の時間変化から好ましい領域のデータを任意に選択でき、また、1パルスの放電中の複数の領域を選択して測定結果の演算に用いることもできる。それらの領域は互いに一部が重なったものとすることもできる。
【0019】
従来では、光検出器からの光電流のうち、予め積分回路に設定された時間領域の積分値のみがメモリに格納されるようになっていた。そのため、設定されていない時間領域の光電流の積分値を用いて発光強度を算出することはできなかった。それに対し、この実施例に示されているように、高い時間分解能をもつAD変換器8a〜8dを用いてメモリ10に光検出器20a〜20dからの光電流の詳細なデータを格納しておくことで、分析者が分析後にメモリ10に格納されているデジタルデータを確認して好ましい領域のデータの演算結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施例の発光分析装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例の発光分析装置を具体的に示す図である。
【図3】従来の発光分析装置の一例を示す図である。
【図4】光検出器からの出力電流の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
2 放電部
2a 対向電極
3 試料
4 放電回路
6 分光部
7 電流‐電圧変換部
8a〜8d AD変換器
10 メモリ
12 演算処理部
14 入口スリット
16 回折格子
18a〜18d 出口スリット
20a〜20d 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配置された試料に対向する電極を備えた放電部と、
前記電極と試料との間に10Hzから1000Hzの間の周波数でパルス状の高電圧を繰り返して印加するための放電回路と、
前記放電部において放電により前記試料から発生した光を分光する分光素子、及び前記分光素子からの分光された光を複数の波長の位置でそれぞれ受光し、その受光量に応じた信号を出力する複数の光検出器を備えた分光部と、
前記放電部における放電1回ごとに前記光検出器からの出力信号を10μ秒以下の時間分解能をもってAD変換するAD変換部と、
前記AD変換部によりデジタル信号とされたデータを記憶しておくメモリと、
前記メモリに記憶されているデータにおいて1パルスの放電のうちの任意の領域のデータを積分するように設定できる演算処理部と、を備えていることを特徴とする発光分析装置。
【請求項2】
前記演算処理部は複数の領域を設定できる請求項1に記載の発光分析装置。
【請求項3】
前記複数の領域は互いに重なる領域を含む請求項2に記載の発光分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−156742(P2009−156742A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336228(P2007−336228)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】