説明

発光基板及びその製造方法、並びに発光基板を用いた電子線励起型の画像表示装置

【課題】全白輝度を高くし、かつ全白色を得る上で好適な構造を有する発光基板及びその製造方法、並びにかかる発光基板を用いた画像表示装置を提供すること。
【解決手段】発光基板上の異なる色を発光する複数の蛍光体から目的とする白白の色度を得る際の輝度(L)と、各蛍光体の発光効率(E)の比(E/L比)が最も低い蛍光体を選択して、その上に設けられたメタルバック層の部分の光反射率をその他の蛍光体上に設けられた部分より高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線励起型の画像表示装置の画像表示面の構成に好適に用い得る発光基板及びその製造方法、並びに、この発光基板を用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像情報の多様化、高密度化に伴い、カラー画像表示装置には更なる高性能化、大型化と画像品位の一層の向上が求められている。特に、省エネルギー及び省スペースといった要請が高まっている。そこで、電子線励起型の画像表示として、ブラウン管と呼ばれる陰極線管(CRT:Cathode Ray Tube)を使ったディスプレイから、フラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)への需要が高まってきている。
【0003】
FPDとして、電界放射型ディスプレイ(FED:Field Emission Display)がある。FEDは、微小な電子放出素子を画素の数だけ基板上に配置し、電子放出素子(エミッター)から真空中に電子を放ち、蛍光体にぶつけて発光させる原理により画像表示を行う画像表示装置である。電子放出素子は、ブラウン管の電子銃に相当するもので、CRTのような明るくてコントラストの高い画面を大型平面ディスプレイで実現することができ、次世代の自発光型FPDとして期待されている。
【0004】
FEDとしては、錐状のエミッタの錐の先端部から電子線を放出するスピント型と呼ばれる電子放出素子を用いたタイプと、表面伝導型電子放出素子(SEC:Surface−conduction Electron−emitter)という平面構造の電子放出素子を用いたタイプがある。SCEを電子放出素子として用いたFEDは、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED:Surface−conduction Electron−emitter Display)と呼ばれている。
【0005】
FEDでは、蛍光体の発光を効率よく利用するため、メタルバックと呼ばれる金属層(あるいは金属膜)を、蛍光体を配置した画素の上部に形成する。このメタルバックにより画像表示面ではない方向に散乱した光を画像表示面側に反射させることができるため、画素全体としての発光効率が向上する。このメタルバックの性能を決めるパラメータとしてメタルバックの光反射率、表面粗さ、電子線透過率などがある。
【0006】
メタルバックでの蛍光体の配置領域側への光反射率を向上させるために平滑なメタルバック層を得る方法として、CRT用の基板においては以下の2つの方法が一般的である。1つは、樹脂エマルジョンを、画素を構成する蛍光体上に塗布してメタルバック層平滑化のための下地層を形成し、この下地層の上にメタルバックを形成する方法である。もう1つは、蛍光体の上に、水の膜を形成し、ついで樹脂を溶剤に溶解した溶液を水膜上に供給し、乾燥によりメタルバック層平滑化のための下地としての樹脂膜とした後、メタルバック層を形成する方法である。
【0007】
特許文献1には、水膜を形成するための前処理剤の厚みを、蛍光体の厚みと同等かもしくはそれよりも少なくなるように形成した後、アルミバックアンダーコート被膜を形成する、CRTアルミバックアンダーコート被膜の形成方法が開示されている。特許文献2には、CTR用のパネル面に設ける蛍光体のメタルバック層が設けられる面を平滑化するために、蛍光体の粒子径を第1層目より第2層目が小なる2層で蛍光体を構成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−109357号公報
【特許文献2】特開平6−131988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カラー画像表示を行う場合、HDTV(High Definition TeleVision)の場合、赤色、緑色、青色(以下、R、G、Bと略す場合がある)及び白色(以下、Wと略す場合がある)には、CIE色度座標にける以下の規定がある。
【0010】
R:(x,y)=(0.64,0.33)
G:(x,y)=(0.3,0.6)
B:(x,y)=(0.15,0.06)
W:(x,y)=(0.3127,0.329)(以下、(0.313,0.329)と略す)
ここでWは、すべての色の蛍光体を発光させたときに出る白色の色度である。
【0011】
画像表示のための色度を満たすR、G及びB用としての蛍光体を基板上に形成した場合、通常は、これらの蛍光体自体の発光効率は異なるものとなる。そのため、R、G及びB用の各蛍光体間において発光効率の比が決められてしまい、発光効率が異なる蛍光体では得られる輝度の範囲、例えば各蛍光体において得られる最大輝度も異なる。そこで、これらの蛍光体を用いて白色を表示する際には、各蛍光体での輝度を、基準となる色度の白色を得るために合わせる(ホワイトバランスを取る)必要がある。画像表示装置におけるホワイトバランスは、白色の輝度が最も高くなるように、かつ、意図した通りの白(色度)が発色されるよう調整を加えることで行われている。発光基板に配置した状態での蛍光体自体の発光効率を大きくすることはできないため、R、G、Bから選択した色の輝度を調整してホワイトバランスが取られている。
【0012】
ホワイトバランスを取って、基準となる色度の白色(全白色ともいう)を発光させた時の発光輝度を全白輝度と称す。この全白輝度の最大値を上げるためには、目的とする色度の白色を得るために必要とされる輝度(L)に対する発光効率(E)の比(E/L比)が最も低い色の蛍光体の最大輝度を変えず、すなわち低下させずに保持し、他の色の蛍光体の最大輝度を下げて目的とする色度の白色を得る方法が利用できる。
【0013】
このため、R、G、Bの3色により全白色を発光させた時の全白輝度は、E/L比が最も低い蛍光体の発光効率により制限されてしまっていた。
【0014】
尚、上述の説明は、R、G、Bの3色の蛍光体を用いた場合を例に説明したが、蛍光体の種類は、2色あるいは4色以上であっても同様である。
【0015】
本発明の目的は、全白輝度を高くし、かつ全白色を得る上で好適な構造を有する発光基板及びその製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、かかる発光基板を用いた画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかる発光基板は、
光透過性の基板上に、照射された電子線を受けて異なった色を発光する複数の蛍光体と、これらの蛍光体を覆うメタルバックと、を有する発光基板であって、
前記蛍光体を発光させて得られる異なる色によって白色を形成可能であり、
前記白色を表示する際の輝度(L)と発光効率(E)の比(E/L比)が最も低い蛍光体上のメタルバック層の該蛍光体側への光反射率を、他の蛍光体の上のメタルバック層よりも高くした光反射率差を設けた
ことを特徴とする発光基板である。
【0017】
本発明にかかる画像表示装置は、
複数の電子放出素子を備えるリアプレートと、前記電子放出素子から放出された電子が照射されることで発光する蛍光体が配置されたフェイスプレートと、を有する電子線励起型の画像表示装置であって、
前記フェイスプレートとして、請求項1から4のいずれか1項に記載の発光基板を有する
ことを特徴とする画像表示装置である。
【0018】
本発明にかかる発光基板の製造方法は、
光透過性の基板上に、照射された電子を受けて異なった色を発する複数の蛍光体と、該蛍光体を覆うメタルバック層とを有し、前記複数の蛍光体からの異なる色光により白色を形成可能とする発光基板の製造方法において、
光透過性の基板上に白色を形成可能な異なる色を発光する複数の蛍光体を設ける工程と、
白色を形成した際の輝度(L)と発光効率(E)の比(E/L比)が最も低い蛍光体の表面に樹脂部材を充填して平滑化する工程と、
前記樹脂部材を充填した蛍光体を含む複数の蛍光体を被覆するメタルバック層を設ける工程と
を有し、
前記E/L比が最も低い蛍光体の表面に樹脂部材を充填して平滑化する工程において、前記E/L比が最も低い蛍光体用の蛍光体の厚さを他の蛍光体より薄く形成し、前記樹脂部材の充填を前記E/L比が最も低い蛍光体用の蛍光材料層の表面までとすることにより、前記E/L比が最も低い蛍光体の表面を他の蛍光体の表面よりも平滑な面とし、前記E/L比が最も低い蛍光体上のメタルバック層の該蛍光体側への光反射率を、他の蛍光体の上のメタルバック層よりも高くした光反射率差を設ける
ことを特徴とする発光基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明における発光基板においては、ホワイトバランスをとる際の発光効率(E)と輝度(L)の比率(E/L)が最低となる蛍光体上のメタルバック層の蛍光体側への光反射率が他の蛍光体におけるよりも高いことによる光反射率差が設定される。この光反射率差を有する構成により、白色の色度を精度良く調節し、かつ全白輝度の最大値を上げることが可能となり、目的とする輝度及び画質での画像表示を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる発光基板の一例の構造を示す断面図である。
【図2】本発明にかかる画像表示装置の一例の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明にかかる発光基板は、画像表示面を構成する光透過性の基板と、異なる色を発光する複数の蛍光体と、これらの蛍光体を覆うメタルバック層と、を少なくとも有して構成される。基板上の蛍光体は平面配置されており、蛍光体が配置された面と反対側の基板面が画像表示面となる。この発光基板の有する蛍光体に発光のためのエネルギー、例えば電子線を照射して発光させ、得られた光を光透過性の基板を通して画像表示面側に取り出して画像表示を行う。この発光基板は、蛍光体層を発光させて画像表示を行う画像表示装置の画像表示部分(ディスプレイパネル)の構成部材として好適用いられる。特に、FED用として好適である。
【0022】
本発明の発光基板では、複数の異なる色によって白色表示を行う際の輝度(L)と発光効率(E)の比(E/L比)が最も低い蛍光体を覆うメタルバック層の蛍光体側の光反射率を他の蛍光体よりも高くしてメタルバック層に部分的な光反射率差を設ける。かかる光反射率差をメタルバック層に設けることにより、E/L比が最も低い蛍光体層の発光効率を高くしてその最大輝度を上げることが可能となる。その他の蛍光体は、元々発光効率が高く、全白色表示時にその輝度の上限(最大値)を低く制限されていたものである。従って、E/L比が最も低い蛍光体の最大輝度を上記の光反射率差を設ける構成により引き上げたことで、他の蛍光体の最大輝度も引き上げることができる。その結果、全白輝度の最大値を引き上げることができる。更に、全白色を表示する場合の各蛍光体の輝度の調整を上記の光反射率の差の設定という構造と電子線量の調整という駆動条件との両方で精度良く行うことが可能となる。
【0023】
白色表示を行う際の蛍光体の輝度は、蛍光体の色度に応じて規定される。また、蛍光体自体の発光効率は、蛍光体を構成する蛍光材料及び蛍光体の構造により規定される。これらの要件に基づいて得られた輝度(L)及び発光効率(E)を用いて上述したE/L比を求めることができる。なお、輝度測定用のサンプルとして蛍光体を形成して測定した値からE/L比を求めてもよい。
【0024】
発光効率の測定は、蛍光体に電子線を当てて放出される輝度を測定する事によって算出される。輝度は、蛍光体の形成されたガラス基板に電子線を当てて、ガラス面に放出された光を分光放射輝度計などで測定することができる。
【0025】
カラー表示は、補色の関係にある2色、例えば、赤色と青緑色、黄色と紫色等の組合せで行うことも可能である。色再現性をより良好とする上で、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)の三色を用いてカラー表示を行うことが一般に行われている。更に、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)以外の色を加えることで色再現性を改善する例もあるが、以下、R、GおよびBの3色(RGB蛍光体)を用いた例で説明する。
【0026】
本発明にかかる発光基板の構成の一例をに示す。図1(a)は3種の蛍光体の基板上の平面状の配置の最小単位部分を示す図であり、図1(b)は図1(a)におけるX−Xでの断面図である。
【0027】
図示した発光基板は、光透過性の基板1と、基板1上に設けられた3色の蛍光体2−1、2−2、2−3を有する蛍光面5と、これらの蛍光体を被覆するメタルバック層3とを有して構成される。各蛍光体の周囲にはブラックマトリクス4が設けられている。図示した例ではストライプ状のブラックマトリクスが設けられているが、ブラックマトリクスは種々の形状で必要に応じて設けられる。
【0028】
ブラックマトリクスは、電子ビームの照射位置に多少のずれがあっても、隣接の蛍光体への周り込みが生じないようにするためや、外光の反射を防止して表示コントラストの低下を防ぐために設けられている。従って、このような機能の少なくとも一つを満たす材料を用いてブラックマトリクスを構成することができる。ブラックマトリクスは、例えば、黒色材料とバインダーを含むインキとを用いたスクリーン印刷法などの公知の方法により形成可能である。黒色材料としては黒鉛を主成分として用いることができる。黒鉛以外の材料を用いてもよい。
【0029】
ブラックマトリックスは、電子線によるチャージアップを防止するために、導電性を有していても良い。また、ブラックマトリックスは、例えば、カーボン、クロム、コバルト、チタン、ルテニウム等や、それらの化合物等を含有し、可視光反射率の低いものであれば特に限定されるものではない。
【0030】
図示した例では、ブラックマトリックス4中に赤色(R)を発光する蛍光体2−1、青色(B)を発光する蛍光体2−2及び緑色(G)を発光する蛍光体2−3が形成されており、各蛍光体はそれぞれブラックマトリックス4によって区分されている。これらの各蛍光体の配置領域を画像表示におけるピクセル(画素)またはサブピクセル(副画素)として利用することができる。
【0031】
カラー表示を行うための最小単位である、赤色、青色及び緑色の3色の組をピクセルと称し、赤色・青色・緑色各セルをサブピクセルと称する場合もある。1画素の面積は、画素数とディスプレイのサイズにより決定される。
【0032】
基板1は光透過性、すなわち画像表示に必要とされる各蛍光体からの光を透過できる光透過性を有する。このような光透過性の基板としては、例えば石英ガラス、青板ガラス、無アルカリガラス、高歪点ガラス(例えば旭硝子(株)製PD200など)などの材料を用いた基板が利用できる。特に高歪点ガラスは、製造工程中の熱処理工程でひずみ難いという点で好ましい。
【0033】
赤色蛍光体2−1としては、Y23:Eu3+、Y22S:Eu3+などを用いることができる。緑色蛍光体2−2としては、ZnS:Cu,Al、SrGa24:Eu2+などを用いることができる。青色蛍光体2−3としては、は、ZnS:Ag、CaMgSi26:Eu2+などを用いることができる。各蛍光体の順番、配置については図示した順序でなくてもよい。各蛍光体は、粒子状の蛍光材料を層状として基板上の所定領域に固定することによって形成することができる。蛍光材料としては、発光基板の設計に応じた粒径(平均粒径)のものを選択することが好ましい。
【0034】
各蛍光体に照射される電子の進入長により蛍光体を構成する蛍光材料の好ましい粒径は異なるが、平均粒径が、0.5μm以上20μm以下の範囲内にあることが好ましい。各蛍光体は、蛍光材料とバインダーとを含む蛍光体形成用材料を調製し、スクリーン印刷やフォトリソグラフィー法によって基板上の所定領域に所定の構造(サイズ)で形成することができる。蛍光体の厚さは、蛍光体に含まれる蛍光材料の粒径にもよるが、電子線、光の利用効率を考えると、1μmから40μm程度にあることが好ましい。
【0035】
各蛍光体と基板1との間に、蛍光体の発光波長以外の光を吸収するような部材を形成すると、コントラストを向上させることができるので好ましい。
【0036】
各蛍光体を構成する蛍光材料同士及び基板との接着強度を向上させるための処理を必要に応じて行うこともできる。この接着強度向上のための処理には、シリカ微粒子などの接着材料を溶媒に分散した分散液をスプレー法あるいはスピンコート法等を用いて蛍光材料を用いて形成された蛍光体に供給して、乾燥処理する方法が利用できる。
【0037】
本発明においては、蛍光体2−1、2−2及び2−3の中で先に述べたE/L比が最も低い蛍光体を覆うメタルバック層3の部分の光反射率を、その他の蛍光体を覆う部分よりも高くすることにより光反射率差を設ける。この光反射率を設けるための方法としては種々の方法を用いることができる。中でも、メタルバック層3の各蛍光体側の面の表面粗さを変化させてこの光反射率差を設ける方法が好ましい。
【0038】
メタルバック層3の表面粗さは、算術平均粗さRaで規定する。このRaは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
【0039】
反射光には正反射と拡散反射があるが、正反射と拡散反射の両者を含んだ全光反射率でメタルバック層の光反射率を規定する。また蛍光体の発光波長での光反射率が光の利用効率に関係するので、発光のピーク波長での光反射率測定が好ましい。
【0040】
以下、表面粗さによって光反射率差を設けるための方法について説明する。
【0041】
まず、図1(b)で示された構造において、発光体としての蛍光体2−1、2−2、2−3からE/L比が最も低い蛍光体を選択する。以下、青色用の蛍光体2−3のE/L比が最も低い場合を例として発光基板の製造方法について説明する。
【0042】
各蛍光体を形成する段階で、目的とする輝度及び色度を得るための設計の範囲内で、青色用の蛍光体2−3を、他の蛍光体2−1、2−2よりも薄く形成しておく。
【0043】
なお、各蛍光体に含まれる蛍光材料の粒径に関しては、E/L比が最も低い蛍光体に含まれる蛍光材料の粒径(例えば平均粒径)を、他の蛍光体に含まれる蛍光材料よりも小さくすると、E/L比が最も低い蛍光体上のメタルバック層の表面粗さを相対的に低くすることができ、後述する平滑化用の樹脂部材の充填効果による表面粗さの低減効果を更に良好なものとすることができる。
【0044】
各蛍光体をその厚さを上述したように調整して形成した状態で、基板1の各蛍光体が設けられた面に、平滑化用の樹脂部材を蛍光体に供給し、青色用の蛍光体2−3の表面の蛍光材料からなる粒子間に充填して選択的に平滑化する。
【0045】
この平滑処理には、樹脂部材を充填するための液状材料を調製し、インクジェット法、スプレー法、スピンコート法などにより基板上に供給する方法が好適に利用できる。その際、青色用の蛍光体2−3の表面が選択的に平滑面となるように液状材料の供給条件を調整する。
【0046】
液体材料としては、蛍光材料からなる粒子の間に樹脂部材が充填された状態を形成でき、かつこの樹脂部材がメタルバック層3を形成した後で焼成除去できる、好ましくは低温で分解可能なものであれば種々の材料が利用できる。例えば、フィルミング処理に用いられている平滑化用の材料を利用することができる。樹脂部材としてはアクリル樹脂やウレタン樹脂などの樹脂が利用できる。液体材料としては、水性媒体などの溶媒にアクリル樹脂やウレタン樹脂などの樹脂粒子を分散させて含有し、加熱乾燥により容易に固体化できる樹脂エマルジョンが好適に利用可能である。
【0047】
樹脂部材は、青用の蛍光体2−3の表面の平均位置(平均厚さ)とほぼ一致する位置まで充填されていることが好ましい。すなわち、樹脂部材の充填が青用の蛍光体2−3の表面を越えてその平均位置よりも5μm以内で高い位置まで行われてもよい。樹脂部材の層が青用の蛍光体2−3の表面上に形成され、その厚さが、青用の蛍光体2−3の表面の平均位置よりも5μmを超えると、火ぶくれなどによるメタルバック層の剥がれが発生する場合がある。また、青用の蛍光体2−3内での樹脂部材の充填が、青用の蛍光体2−3の表面の平均位置よりも基板1側に蛍光材料の粒径(例えば、平均粒径)に相当する長さの範囲内で低い位置までであってもよい。樹脂部材の充填の位置が蛍光材料の粒径に相当する長さにを超えて低く形成された場合、蛍光体の表面に現われる蛍光材料の粒子形状により形成される凹凸の影響によって目的とする低表面粗さの平滑面が得られない場合がある。
【0048】
以上のとおり、E/L比が最も低い青色用の蛍光体2−3の厚さ(例えば平均厚さ)が他の蛍光体2−1、2−2の厚さ(例えば平均厚さ)よりも薄くなるように形成することによって青色用の蛍光体2−3の表面の選択的平滑化が容易に達成される。すなわち、メタルバック層3の青色用の蛍光体2−3上の部分の表面粗さを、他の蛍光体2−1、2−2上の部分の表面粗さよりも小さくすることができる。その結果、E/L比が最も低い青色用の蛍光体2−3からの発光のうちメタルバック層3に反射して基板11の反対側の画像表示面1aへ放出される光を有効に利用でき、目的とする色度を維持しつつ白色の輝度を上げることができる。
【0049】
以上、青色用の蛍光体2−3をE/L比が最も低い蛍光体として本発明の蛍光基板の構造及びその製造方法について説明したが、赤色用の蛍光体2−1または緑色用の蛍光体2−2がE/L比が最も低い場合も上記と同様にして発光基板を製造することができる。更に、2色あるいは4色以上の異なる色を用いる場合にも、E/L比が最も低い蛍光体を選択して同様の工程により発光基板を製造することができる。
【0050】
E/L比が最も低い蛍光体の表面が選択的に平滑化された状態の基板1上に、電子ビーム(E1ectron Beam:EB)蒸着法等を用いてメタルバック層3を設け、平滑化用として充填した樹脂部材を焼成分解して、発光基板を得ることができる。
【0051】
メタルバック4層は、発光基板の画像表示面1a側(光透過性基板の蛍光体が設けられた側と反対の面)へ蛍光体からの発光を反射させて光の利用効率を向上させる機能を有している。本発明では、E/L比が最も低い蛍光体における光反射率が他の蛍光体よりも高く設定されていることで、E/L比が最も低い蛍光体での光利用率を相対的に向上させて本発明の効果を得ている。
【0052】
またメタルバック4層は、電子線を発光用のエネルギーとして利用する場合における電子線の蛍光体への照射時における高電圧印加でのアノードとしての役割と、蛍光体の帯電を防止する機能も持っている。従って、メタルバック層3を形成するための材料としては、電子線の透過率が大きい事、光の光反射率が高いことなどの要件に基づいて、Al等の導電性の金属材料が好ましい。メタルバック層3の厚さは、電子の加速電圧により最適な値を選択することができるが、メタルバック層3の光反射率と電子線遮蔽効果との関係から膜厚100nm程度が好ましい。
【0053】
本発明にかかる発光基板は、各蛍光体を発光させるためのエネルギーの付与によって画像表示を行う画像表示装置の画像表示パネルの構成部材として好適に利用できる。
【0054】
以下、本発明にかかる発光基板をFEDパネルに利用した例について説明する。
【0055】
電子線励起型の画像表示装置としての図2に示すFEDパネルは、フェイスプレート10とリアプレート11とを側壁17を介して接合し、これらの部材により封止された内部空間を設けた構造を有する。この内部空間は画像表示に必要な、例えば10-5Pa程度以下に減圧される。
【0056】
フェイスプレート10は上述した構成の、光透過性の基板1、蛍光面5及びメタルバック層3を有する発光基板を有し、画像表示面1a(発光基板の外面)を構成する。
【0057】
リアプレート11は、リアプレート側の基板13、基板13上に設けられた電子放出素子14、電子放出素子に電子の放出のための電気信号を印加する配線15及び16と、を有して構成されている。
【0058】
電子放出素子14としては、表面伝導型電子放出素子(SCE)、Spindt型電界放出素子、MIM型電子放出素子あるいはカーボンナノチューブ(CNT)を電子放出部とする素子等を用いることができる。特に、容易に作製できる表面伝導型電子放出素子は、本発明の画像表示装置の電子放出素子として好適に用いることができる。
【0059】
図示した例では、配線15によりx方向配線が構成され各配線には入力端子Dox1〜Doxnの端子が設けられている。配線16によりy方向配線が構成され、各配線には入力端子Doy1〜Doymが設けられている。これらの電極によりマトリクス配線が構成されている。x方向配線15とy方向配線16とを電気的に絶縁状態で交差させた交点またはその近傍にこれらの配線に接続された電子線放出素子14が形成されている。y方向配線を走査線とし、x方向配線により駆動する電子放出素子を駆動回路(不図示)からの画像信号に応じて選択することにより、画像表示のための電子線のリアプレート側からの放出を行うことができる。尚、ゲート電極を有する電子放出素子を用いた場合における外部から電圧をゲート電極に印加する端子については図示を省略している。
【0060】
高圧電圧印加用の端子12はフェイスプレート10の有するメタルバック層3に接続されており、この構成により、メタルバック層3を高電圧(加速電圧)が印加用のアノードとし、電子放出素子14をカソードとして、リアプレート11側の電子放出素子14から放出された電子をフェイスプレート10側へ効果的に誘導することができる。
【0061】
リアプレート側の基板11は、例えば石英ガラス、青板ガラス、無アルカリガラス、高歪点ガラス(例えば旭硝子(株)製PD200など)などの材料から構成される。基板11の構成材料としては、特に高歪点ガラスは、製造工程中の熱処理工程でひずみ難いという点で好ましい。
【0062】
電子線放出素子14から放出された電子線は、電子放出素子14に対応して設けられた蛍光体(不図示)にメタルバック層3を通して照射され、蛍光体が発光し、フェイスプレート10の画像表示面1aに画像が表示される。
【0063】
本発明の画像表示装置によれば、所望の白色を維持しつつ、白色の輝度を向上することができる。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
光透過性の基板として厚さ2.8mmのガラス基板(PD200、旭硝子社製)を用い、ブラックマトリックス用材料(NP−7803D、ノリタケ機材(株)製)をスクリーン印刷し、フォトリソグラフィー法を用いてパターンニングを行い、ブラックマトリクスを基板上に作製した。
【0065】
次に、図1に示すRBGに対応した蛍光体を形成した。蛍光材料としては、赤色蛍光体用として化成オプトニクス(株)製のY22S:Eu(平均粒径:6.5μm)を用い、緑色蛍光体用として神岡鉱業(株)製のSrGa24:Eu(平均粒径:6.8μm)を用い、青色蛍光体用として、(株)東京化学研究所製のCaMgSi26:Eu(平均粒径:2.7μm)を用いた。
【0066】
これらの蛍光材料を用いて各蛍光体を作成した場合において白色の色度(x,y)=(0.313,0.329)の発光に必要とされる各蛍光体の輝度の比は、およそR:G:B=2:7:1に設定される。各蛍光体の発光効率の比は、およそR:G:B=3:14:1である。すなわち、E/L比は、およそR:G:B=1.5:2:1となる。したがって、E/L比が最も低い青色の蛍光体上のメタルバック層の反射率を他の蛍光体上のメタルバック層の反射率よりも大きくなるようにした。
【0067】
次に、ブチルカルビトールアセテートとエチルセルロースとを混合してバインダーを得た。得られたバインダーと赤色蛍光材料とを混合し、赤色蛍光体用のペーストを調製した。緑色蛍光体及び青色蛍光体についても同様にペーストを調製した。
【0068】
各ペーストを個々に用いてスクリーン印刷法により、ブラックマトリクスの開口部に供給し、オーブンにて80℃、15分の乾燥を行い、所定の厚さの蛍光材料層を形成した。各蛍光材料層の厚さは、用いた蛍光材料の平均粒径の2倍程度とした。
【0069】
その後、オーブンにて450℃、60分で焼成することで、それぞれの蛍光材料層中に含まれる樹脂分を分解除去した。
【0070】
続いて、コロイダルシリカ(日産化学工業製IPA−ST)をスピンコート法により塗布し、オーブンにて100℃、10分の乾燥を行って各蛍光体を得た。尚、コロイダルシリカ塗布は、蛍光材料の付着力強化のために行った。
【0071】
青色蛍光体の表面が平滑になるように平滑化用の材料としてのアクリル樹脂をエマルジョンとしてスピンコートにより、基板のブラックマトリクス及び蛍光体が配置された面に全面に塗布した。その際、加熱乾燥処理後に青色蛍光体の表面の平均位置までアクリル樹脂が充填されているようにエマルジョンを塗布した。その後、オーブンにて120℃、10分の熱処理を行った。この処理により、青色蛍光体の表面が選択的に平滑化される。
【0072】
その後、EB蒸着法によって、Alを膜厚100nmで形成し、450℃、60分の焼成を行い、アクリル樹脂を分解除去することで、メタルバック層を形成した。メタルバック層の表面粗さRaをレーザー顕微鏡(OLYMPUS製)、メタルバック層の光反射率を分光測色計(コニカミノルタ製)で測定した。その結果、青色蛍光体上のメタルバック層の青色蛍光体と接する面の表面粗さはRa=0.2μmであり、光反射率は波長450nmで80%であった。赤色蛍光体上のメタルバック層の赤色蛍光体と接する面の表面粗さはRa=1.2μmであり、波長630nmで光反射率は70%であった。緑色蛍光体上のメタルバック層の赤色蛍光体と接する面の表面粗さはRa=1.5μmであり、波長530nmで光反射率は68%となった。
【0073】
なお、表面粗さRaは、メタルバックの蛍光体側から光を照射してレーザー顕微鏡でメタルバックの表面形状を抽出し、基準長さを画素より小さく蛍光体の粒径より大きいサイズである30μmとして算出した。
【0074】
最後にゲッターとして、TiをEB蒸着によって500nm形成し、発光基板を得た。
【0075】
この発光基板をフェイスプレートとして用いて図2に示す構造のFEDパネルを作製し、ゲッターを利用して内部を所定の減圧状態とした。分光放射計SR−3(株式会社トプコンテクノハウス製)によって各蛍光体での輝度を測定し、発光効率の算出を行った。その結果、青色の蛍光体単体の発光効率がメタルバック層の光反射率を高くしたことにより向上している事が確認された。
【0076】
このFEDパネルで白色表示を行ったところ、最も低い発光効率の蛍光体である青色蛍光体上のメタルバック層の光反射率を、他の蛍光体上のメタルバック層の光反射率よりも向上することができた。これにより、青色光の輝度を向上でき、所望の白色を得るために求められる各色の発光効率の比率とするために輝度調整で制限していた赤色および緑色の輝度を向上できるため、白色の輝度を向上することができた。
(実施例2)
以下の蛍光材料の組合せを用いる以外は、実施例1と同様にしてFEDパネルを作製した。
・赤色蛍光体用:化成オプトニクス(株)製のY22S:Eu(平均粒径:4.0μm)
・緑色蛍光体用:化成オプトニクス(株)製のZnS:Cu,Al(平均粒径:8.2μm)
・青色蛍光体用:化成オプトニクス(株)製のZnS:Ag(平均粒径:4.0μm)
上記の蛍光材料の組合せでは、白色の色度(x,y)=(0.313,0.329)の発光に必要とされる各蛍光体の輝度の比が、およそR:G:B=2:7:1である。各蛍光体の発光効率の比は、およそR:G:B=4:7:1.3である。すなわち、各蛍光体におけるE/L比は、およそR:G:B=2:1:1.3となる。したがって、本実施例では、E/L比の最も低い緑色蛍光体上のメタルバック層の反射率を他の蛍光体上のメタルバック層の反射率よりも大きくなるようにした。また、各蛍光体を形成する際の蛍光材料層の厚さとして、緑色用では蛍光材料の平均粒子径の2倍程度、赤色用及び青色用では蛍光材料の平均粒子径の3倍程度として、緑色用が最も薄くなるように調整した。
【0077】
実施例1と同様にして測定した各蛍光体上のメタルバック層の表面粗さ及び光反射率は以下のとおりである。
・緑色蛍光体上:表面粗さRa=0.25μm、波長530nmでの光反射率77%
・青色蛍光体上:表面粗さRa=1.2μm、波長440nmで光反射率は70%
・赤色蛍光体上:表面粗さRa=1.2μm、波長630nmで光反射率70%
実施例1と同様の評価を行ったところ、緑色の発光効率が、メタルバックをつけることによって向上している事が確認された。
【0078】
本実施例の結果によると、E/L比が最も低い発光効率の蛍光体である青色蛍光体上のメタルバック層の光反射率を他の蛍光体上のメタルバックの光反射率よりも向上することができた。これにより、青色光の輝度を向上でき、所望の白色を得るために求められる各色の発光効率の比率とするために輝度調整で制限していた赤色および緑色の輝度を向上できるため、白色の輝度を向上することができた。
【0079】
(比較例)
以下のメタルバック層の表面粗さ及び光反射率となるように実施例2と同様にしてFEDパネルを作製した。
・緑色蛍光体上:表面粗さRa=1.5μm、光反射率65%
・青色蛍光体上:表面粗さRa=0.2μm、光反射率は80%
・赤色蛍光体上:表面粗さRa=0.2μm、光反射率80%
本比較例では実施例2における白色の輝度の向上はみられなかった。
【符号の説明】
【0080】
1 光透過性の基板
1a 画像表示面
2−1、2−2、2−3 蛍光体
3 メタルバック層
4 ブラックマトリクス
5 蛍光面
10 フェイスプレート
11 リアプレート
12 高電圧印加用の端子
13 リアプレート側基板
14 電子放出素子
15 配線
16 配線
17 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基板上に、照射された電子線を受けて異なった色を発光する複数の蛍光体と、これらの蛍光体を覆うメタルバックと、を有する発光基板であって、
前記蛍光体を発光させて得られる異なる色によって白色を形成可能であり、
前記白色を形成する際の輝度(L)と発光効率(E)の比(E/L比)が最も低い蛍光体上のメタルバック層の該蛍光体側への光反射率を、他の蛍光体の上のメタルバック層よりも高くした光反射率差を設けた
ことを特徴とする発光基板。
【請求項2】
前記蛍光体として、赤色を発する赤色蛍光体、青色を発する青色蛍光体及び緑色を発する緑色蛍光体を有する請求項1に記載の発光基板。
【請求項3】
前記E/L比が最も低い蛍光体上のメタルバック層の該蛍光体側の面の表面粗さを他の蛍光体上のメタルバック層よりも小さくすることにより、前記光反射率差を設けた請求項1または2に記載の発光基板。
【請求項4】
前記E/L比が最も低い蛍光体に含まれる蛍光材料の平均粒径が、前記他の蛍光体に含まれる蛍光材料の平均粒径よりも小さい請求項1から3のいずれか1項に記載の発光基板。
【請求項5】
複数の電子放出素子を備えるリアプレートと、前記電子放出素子から放出された電子が照射されることで発光する蛍光体が配置されたフェイスプレートと、を有する電子線励起型の画像表示装置であって、
前記フェイスプレートとして、請求項1から4のいずれか1項に記載の発光基板を有する
ことを特徴とする画像表示装置。
【請求項6】
光透過性の基板上に、照射された電子を受けて異なった色を発する複数の蛍光体と、該蛍光体を覆うメタルバック層とを有し、前記複数の蛍光体からの異なる色光により白色を形成可能とする発光基板の製造方法において、
光透過性の基板上に白色を形成可能な異なる色を発光する複数の蛍光体を設ける工程と、
白色を形成した際の輝度(L)と発光効率(E)の比(E/L比)が最も低い蛍光体の表面に樹脂部材を充填して平滑化する工程と、
前記樹脂部材を充填した蛍光体を含む複数の蛍光体を被覆するメタルバック層を設ける工程と
を有し、
前記E/L比が最も低い蛍光体の表面に樹脂部材を充填して平滑化する工程において、前記E/L比が最も低い蛍光体用の蛍光体の厚さを他の蛍光体より薄く形成し、前記樹脂部材の充填を前記E/L比が最も低い蛍光体用の蛍光材料層の表面までとすることにより、前記E/L比が最も低い蛍光体の表面を他の蛍光体の表面よりも平滑な面とし、前記E/L比が最も低い蛍光体上のメタルバック層の該蛍光体側への光反射率を、他の蛍光体の上のメタルバック層よりも高くした光反射率差を設ける
ことを特徴とする発光基板の製造方法。
【請求項7】
前記E/L比が最も低い蛍光体における蛍光材料の平均粒径が、他の蛍光体における蛍光材料の平均粒径よりも小さい請求項6に記載の発光基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−129305(P2011−129305A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285199(P2009−285199)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】