説明

発光素子、発光装置、および電子機器

【課題】発光素子が作製時や駆動時において、物理的または化学的な影響を受けることにより劣化するのを保護するための機能層を設けると共に、このような機能層を設けることで駆動電圧の上昇や、透過率および色純度を悪化させることなく、素子の長寿命化および素子特性の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】一対の電極間に発光物質を含む層が挟持されてなる発光素子において、発光物質を含む層の一部に、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素および金属酸化物とを含む発光素子用複合材料で形成されたバッファー層を設ける。ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素および金属酸化物とを含む発光素子用複合材料は、導電性が高く、かつ透明性にも優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極間に発光物質を挟んでなる電流励起型の発光素子、そのような発光素子を有する発光装置、および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型軽量、高速応答性などの特徴を有する発光素子は、次世代のフラットパネルディスプレイへの応用が期待されている。また、発光素子をマトリクス状に配置した発光装置は、従来の液晶表示装置と比較して、視野角が広く視認性が優れる点に優位性があると言われている。
【0003】
発光素子は、一対の電極(陽極と陰極)間に発光物質を含む層を挟んでなり、その発光機構は、両電極間に電圧を印加した際に陽極から注入される正孔(ホール)と、陰極から注入される電子が、発光物質を含む層の発光層において再結合することにより発光中心で再結合して分子励起子を形成し、その分子励起子が基底状態に戻る際にエネルギーを放出して発光するといわれている。このようなメカニズムから、このような発光素子は、電流励起型の発光素子と呼ばれる。なお、発光物質が形成する励起状態の種類としては、一重項励起状態と三重項励起状態が可能であり、一重項励起状態からの発光が蛍光、三重項励起状態からの発光が燐光と呼ばれている。
【0004】
なお、これらの発光物質は、熱、水分、酸素等の物理的または化学的な影響による劣化を受けやすく、また、一般に単層の場合に50nm以下の薄膜で形成されることから、発光素子の作製時や駆動時に劣化しやすいという問題を有している。このような発光素子の劣化を防止することは、発光素子の歩留まり向上や信頼性向上につながる。
【0005】
また、このような発光素子を発光装置や電子機器等に応用する場合において、消費電力の低減も課題の一つとして挙げられる。なお、消費電力を低減させるためには、発光素子の駆動電圧を低減することが重要である。
【0006】
そして、電流励起型の発光素子は流れる電流量によって発光強度が決まるため、駆動電圧を低減するためには、低い電圧で多くの電流を流すことが必要となる。
【0007】
これまで、駆動電圧を低減させるための手法として、バッファー層を電極と発光性の有機化合物を含む層との間に設けるという試みがなされている。例えば、カンファースルホン酸をドープしたポリアニリン(PANI)からなるバッファー層をインジウム錫酸化物(ITO)と発光層との間に設けることにより、駆動電圧を低減できることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。これは、PANIの発光層へのキャリア注入性が優れているためと説明されている。なお、非特許文献1では、バッファー層であるPANIも電極の一部と見なしている。
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載してある通り、PANIは膜厚を厚くすると透過率が悪くなるという問題点がある。具体的には、250nm程度の膜厚で、透過率が70%を切ると報告されている。すなわち、バッファー層に用いている材料自体の透明性に問題があるため、素子内部で発生した光を効率良く取り出すことができない。
【非特許文献1】Y.Yang、他1名、アプライド フィジクス レターズ、Vol.64(10)、1245−1247(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明では、発光素子が作製時や駆動時において、物理的または化学的な影響を受けることにより劣化するのを保護するための機能層を設けると共に、このような機能層を設けることで駆動電圧の上昇や、透過率および色純度を悪化させることなく、素子の長寿命化および素子特性の向上を図ることを目的とする。さらに、そのような発光素子を備えた発光装置、および発光装置を備えた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、一対の電極間に発光物質を含む層が挟持されてなる発光素子において、発光物質を含む層の一部に、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素および金属酸化物とを含む発光素子用複合材料で形成されたバッファー層を設けることを特徴とする。なお、本発明のバッファー層を形成する発光素子用複合材料は、導電性が高く、かつ透明性にも優れている。
【0011】
本発明の構成は、一対の電極間に発光物質を含む層を挟持してなる発光素子において、発光物質を含む層の一部にビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素と金属酸化物とを含む層を有することを特徴とする発光素子である。
【0012】
また、本発明の別の構成においては、一対の電極間に発光物質を含む層を挟持してなる発光素子において、発光物質を含む層の一部であって、かつ一対の電極のいずれか一方または両方に接してビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素と金属酸化物とを含む層を有することを特徴とする発光素子である。
【0013】
さらに、本発明の別の構成においては、陽極と陰極との間に発光物質を含む層を挟持してなる発光素子において、発光物質を含む層の一部にバッファー層と電子発生層とを有し、前記バッファー層は、ビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素と、金属酸化物と、を含み、電子発生層は、電子輸送性物質またはバイポーラ性物質のいずれかと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物の中から選ばれた物質と、を含み、バッファー層は、陰極と電子発生層との間にそれぞれと接して形成されることを特徴とする発光素子である。
【0014】
さらに、本発明の別の構成においては、陽極と陰極との間に発光物質を含む層を挟持してなる発光素子において、発光物質を含む層の一部に陽極と陰極と接することなく形成されたバッファー層および電子発生層とを少なくとも有し、バッファー層は、ビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素と、金属酸化物と、を含み、電子発生層は、電子輸送性物質またはバイポーラ性物質のいずれかと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物の中から選ばれた物質と、を含み、電子発生層は、バッファー層よりも陰極側であって、かつバッファー層と接して形成されることを特徴とする発光素子である。
【0015】
なお、上記各構成において、金属酸化物は、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、またはレニウム酸化物のいずれかであることを特徴とする。
【0016】
また、上記各構成において、ビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素は、例えば、(1)〜(5)で示される下記構造式のいずれかである。
【0017】
【化1】

【0018】
また、上記各構成において、ビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素は、1×10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上述した発光素子を有する発光装置および発光装置を有する電子機器も範疇に含めるものである。本明細書中における発光装置とは、画像表示デバイス、発光デバイス、もしくは光源(照明装置含む)を指す。また、発光装置にコネクター、例えばFPC(Flexible printed circuit)もしくはTAB(Tape Automated Bonding)テープもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、または発光素子にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明において、発光素子の発光物質を含む層の一部にバッファー層を設けることにより、発光物質を含む層における正孔(ホール)密度を高めることができるので、導電率が向上し、発光素子の駆動電圧を低減させることが可能である。
【0021】
また、本発明のバッファー層を形成する発光素子用複合材料は、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と金属酸化物とが混合されていることから結晶化しやすい傾向にあるビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素の結晶化を抑えることができる。
【0022】
さらに、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素は、その構造から立体障害を有するためアモルファス状態の安定した膜を形成することができる。さらに、上記材料は、可視領域よりも短波長側に吸収ピークを有していることから、発光素子からの発光色純度にほとんど影響を与えることなく用いることができる。
【0023】
従って、発光素子の発光層を保護すべくバッファー層の膜厚を厚く形成した場合でも透明性を損なうことなく、かつ駆動電圧の上昇を抑制することができるため、発光素子の劣化や短絡を防止したり、光学設計による色純度の向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の一態様について図面等を用いながら詳細に説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
本実施の形態で説明する発光素子の素子構成は、図1に示す通りであり、基本的には、図1(A)に示すように一対の電極(第1の電極101及び第2の電極103)間に発光物質を含む層102を挟持した構成であり、発光物質を含む層102は、発光層105、および本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層104を少なくとも有し、かつバッファー層104が第1の電極101と接して設けられている。なお、本実施の形態1では、第1の電極101が陽極として機能し、第2の電極103が陰極として機能する場合について説明する。また、本実施の形態において、上記構造に加えて正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)等を適宜組み合わせた構造とすることもできる。
【0026】
本発明において、発光素子用複合材料は、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と、金属酸化物とで構成される。
【0027】
ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素としては、例えば、(1)〜(5)で示される下記構造式のいずれかである。
【0028】
【化2】

【0029】
また、上述したビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素は、1×10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有するものがより好ましい。なお、ここでの正孔移動度の測定には、過渡光電流を利用した飛行時間法(TOF法:time−of−flight method)を用いることができる。
【0030】
また、上記金属酸化物としては、上述したビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素に対し電子受容性を示すものが好ましい。このような金属酸化物として、例えば、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、レニウム酸化物等が挙げられる。この他、チタン酸化物、クロム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、タンタル酸化物、タングステン酸化物、銀酸化物等の金属酸化物を用いることもできる。
【0031】
なお、バッファー層104において、金属酸化物は、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素に対して質量比が0.5〜2、若しくはモル比が1〜4(=金属酸化物/芳香族炭化水素)となるように含まれていることが好ましい。このようにバッファー層104において、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と金属酸化物とを混合することにより結晶化しやすい傾向にあるビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素の結晶化を抑えることができる。また、金属酸化物とビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素とを含むバッファー層104は、可視光領域(450nm〜650nmの領域)における吸収が小さい。さらに、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素は、ビニル骨格を有さない芳香族炭化水素に比べ、共役長が延びず、吸収が短波長シフトする。したがって、発光層105により発光された可視光をバッファー層104により吸収されてしまうことを防ぐことができる。
【0032】
また、上述した金属酸化物の中でも特にモリブデン酸化物は、単体で層にしたときに結晶化し易いが、芳香族炭化水素と混合することによって、同様に結晶化を抑えることができる。このように、芳香族炭化水素と金属酸化物とを混合することによって、芳香族炭化水素と金属酸化物とが互いに結晶化を阻害し、結晶化し難い層を形成することができる。
【0033】
なお、バッファー層104は、導電率が高いことから50nm以上の膜厚とすることができる。
【0034】
また、第1の電極101に用いる陽極材料としては、仕事関数の大きい(仕事関数4.0eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。なお、陽極材料の具体例としては、インジウム錫酸化物(ITO:indium tin oxide)、酸化インジウムに2〜20[%]の酸化亜鉛(ZnO)を混合したインジウム亜鉛酸化物(IZO:indium zinc oxide)の他、金(Au)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、または金属材料の窒化物(例えばTiN)等を用いることができる。なお、本実施の形態の場合には、第1の電極に接してバッファー層104が設けられていることから、一般に仕事関数の小さい材料として知られるアルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)を用いることもできる。これは、バッファー層104を設けることにより幅広い範囲の仕事関数を有する電極材料に対してのオーム接触が可能となるためである。
【0035】
一方、第2の電極103に用いる陰極材料としては、仕事関数の小さい(仕事関数3.8eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。陰極材料の具体例としては、元素周期律の1族または2族に属する元素、すなわちLiやCs等のアルカリ金属、およびMg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、およびこれらを含む合金(Mg:Ag、Al:Li)や化合物(LiF、CsF、CaF)の他、希土類金属を含む遷移金属を用いることができるが、電子注入性を高める材料からなる層を発光物質を含む層102の一部に第2の電極103と接して設けたり、第2の電極103の一部として設ける場合には、インジウム錫酸化物、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物、2〜20%の酸化亜鉛を含む酸化インジウム、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、窒化タンタル等の仕事関数の高い材料も用いることができる。
【0036】
上述した陽極材料及び陰極材料は、蒸着法、スパッタリング法等により薄膜を形成することにより、それぞれ陽極及び陰極を形成する。膜厚は、5〜500nmとするのが好ましい。
【0037】
本発明の発光素子において、発光層105におけるキャリアの再結合により生じる光は、第1の電極(陽極)101または第2の電極(陰極)103の一方、または両方から外部に射出される構成となる。すなわち、第1の電極101から光を射出させる場合には、第1の電極101を透光性の材料で形成し、第2の電極103側から光を射出させる場合には、第2の電極103を透光性の材料で形成し、両電極側から光を射出させる場合には、両電極を透光性の材料で形成する。
【0038】
本実施の形態1において、一対の電極間に形成される発光物質を含む層102は、図1(B)に示すように発光層105およびバッファー層104以外に正孔輸送層106、電子輸送層107、電子注入層108を組み合わせて形成することができる。そこで、これらの層について以下に詳細に説明することとする。
【0039】
正孔輸送層106は、正孔の輸送性に優れた層であり、特に1×10−6cm/Vs以上の正孔移動度を示す正孔輸送性物質またはバイポーラ性物質を用いて形成することが好ましい。なお、正孔輸送性物質とは、電子よりも正孔の移動度が高い物質であり、好ましくは電子の移動度に対する正孔の移動度の比の値(=正孔移動度/電子移動度)が100よりも大きい物質をいう。
【0040】
正孔輸送性物質としては、例えば芳香族アミン系(すなわち、ベンゼン環−窒素の結合を有するもの)の化合物が好適である。広く用いられている物質として、例えば、4,4’−ビス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(以下、TPDと示す)の他、その誘導体である4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(以下、NPBと示す)や、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)−トリフェニルアミン(以下、TCTAと示す)、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(以下、TDATAと示す)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]−トリフェニルアミン(以下、MTDATAと示す)などのスターバースト型芳香族アミン化合物が挙げられる。
【0041】
また、バイポーラ性物質とは、電子の移動度と正孔の移動度とを比較したときに、一方のキャリアの移動度に対する他方のキャリアの移動度の比の値が100以下、好ましくは10以下である物質をいう。バイポーラ性の物質として、例えば、2,3−ビス(4−ジフェニルアミノフェニル)キノキサリン(略称:TPAQn)、2,3−ビス{4−[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]フェニル}−ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:NPADiBzQn)等が挙げられる。バイポーラ性の物質の中でも特に、正孔及び電子の移動度が1×10−6cm/Vs以上の物質を用いることが好ましい。
【0042】
発光層105は、少なくとも一種の発光物質を含んでおり、ここでいう発光物質とは、発光効率が良好で、所望の波長の発光をし得る物質である。発光層は、発光物質のみから形成された層であってもよいが、発光物質の有するエネルギーギャップ(LUMO準位とHOMO準位との間のエネルギーギャップをいう)よりも大きいエネルギーギャップを有する物質からなる層中に、発光物質が分散するように混合された層(いわゆる、ホストとゲストの関係にある物質をそれぞれ含む層)であっても良い。なお、発光層において、ホストとして機能する発光物質(ホスト物質ともいう)にゲストとして機能する発光物質(ゲスト物質ともいう)を分散して存在させることにより、発光が濃度に起因して消光してしまうことを防ぐこともできる。
【0043】
具体的な発光物質としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alqと示す)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Almqと示す)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]−キノリナト)ベリリウム(以下、BeBqと示す)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−(4−ヒドロキシ−ビフェニリル)−アルミニウム(以下、BAlqと示す)、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾオキサゾラト]亜鉛(以下、Zn(BOX)と示す)、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾチアゾラト]亜鉛(以下、Zn(BTZ)と示す)、4−ジシアノメチレン−2−イソプロピル−6−[2−(1,1,7,7−テトラメチル−9−ジュロリジル)エテニル]−4H−ピラン(以下、DCJTIと示す)、4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−[2−(1,1,7,7−テトラメチル−9−ジュロリジル)エテニル]−4H−ピラン(以下、DCJTと示す)、4−ジシアノメチレン−2−tert−ブチル−6−[2−(1,1,7,7−テトラメチル−9−ジュロリジル)エテニル]−4H−ピラン(以下、DCJTBと示す)やペリフランテン、2,5−ジシアノ−1,4−ビス[2−(10−メトキシ−1,1,7,7−テトラメチル−9−ジュロリジル)エテニル]ベンゼン、N,N’−ジメチルキナクリドン(以下、DMQdと示す)、クマリン6やクマリン545T、9,10−ビス(2−ナフチル)−tert−ブチルアントラセン(以下、t−BuDNAと示す)、9,9’−ビアントリル、9,10−ジフェニルアントラセン(以下、DPAと示す)、9,10−ビス(2−ナフチル)アントラセン(以下、DNAと示す)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−ガリウム(以下、BGaqと示す)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−アルミニウム(以下、BAlqと示す)、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(以下、Ir(ppy)と示す)、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン−白金(以下、PtOEPと示す)、ビス[2−(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ピリジナト−N,C’]イリジウム(III)ピコリナート(以下、Ir(CFppy)(pic)と示す)、ビス[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(以下、FIr(acac)と示す)、ビス[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C’)]イリジウム(III)ピコリナート(以下、FIr(pic)と示す)、などの各種蛍光色素が有効である。
【0044】
なお、ホスト物質とゲスト物質とを組み合わせて発光層を形成する場合には、上述した発光物質と以下に示すようなホスト物質とを組み合わせて形成すればよい。
【0045】
具体的なホスト物質としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alqと示す)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Almqと示す)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]−キノリナト)ベリリウム(以下、BeBqと示す)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−(4−ヒドロキシ−ビフェニリル)−アルミニウム(以下、BAlqと示す)、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾオキサゾラト]亜鉛(以下、Zn(BOX)と示す)、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾチアゾラト]亜鉛(以下、Zn(BTZ)と示す)、9,10−ビス(2−ナフチル)−tert−ブチルアントラセン(以下、t−BuDNAと示す)、9,10−ビス(2−ナフチル)アントラセン(以下、DNAと示す)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−ガリウム(以下、BGaqと示す)、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(以下、CBPと示す)、4,4’,4’’−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(以下、TCTAと示す)、2,2’,2’’−(1,3,5−ベンゼントリイル)−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(以下、TPBIと示す)、TPAQn等を用いることができる。
【0046】
電子輸送層107は、電子の輸送性に優れた層であり、特に1×10−6cm/Vs以上の電子移動度を示す電子輸送性物質またはバイポーラ性物質を用いて形成することが好ましい。なお、電子輸送性物質とは、正孔よりも電子の移動度が高い物質であり、好ましくは正孔の移動度に対する電子の移動度の比の値(=電子移動度/正孔移動度)が100よりも大きい物質をいう。
【0047】
具体的な電子輸送性物質としては、先に述べたAlq、Almq、BeBqなどのキノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体や、混合配位子錯体であるBAlqなどが好適である。また、Zn(BOX)、Zn(BTZ)などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体もある。さらに、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(以下、PBDと示す)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(以下、OXD−7と示す)などのオキサジアゾール誘導体、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(以下、TAZと示す)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(以下、p−EtTAZと示す)などのトリアゾール誘導体、バソフェナントロリン(以下、BPhenと示す)、バソキュプロイン(以下、BCPと示す)等のフェナントロリン誘導体、その他、4,4−ビス(5−メチルベンズオキサゾリル−2−イル)スチルベン(以下、BzOsと示す)等を用いることができる。なお、バイポーラ性物質としては、上述した材料を用いることができる。
【0048】
電子注入層108は、第2の電極103から電子が注入されるのを補助する機能を有する層である。図1(B)に示す構造の場合には、第2の電極103から電子輸送層107へ電子が注入されるのを補助する機能を有する。電子注入層108を設けることによって、第2の電極103の仕事関数と電子輸送層107の電子親和力との差が緩和され、電子が注入され易くなる。電子注入層108は、電子輸送層107を形成している物質よりも電子親和力が大きく、第2の電極103を形成している物質の仕事関数よりも電子親和力の小さい物質、または電子輸送層107と第2の電極103との間に約1〜2nmの薄膜として設けることによりエネルギーバンドを曲げる効果を有する物質を用いて形成することが好ましい。
【0049】
電子注入層108を形成するのに用いることのできる物質の具体例として、リチウム(Li)等のアルカリ金属、またはマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属、フッ化セシウム(CsF)等のアルカリ金属のフッ化物、フッ化カルシウム(CaF)等のアルカリ土類金属のフッ化物、リチウム酸化物(LiO)、ナトリウム酸化物(NaO)、カリウム酸化物(KO)、のアルカリ金属の酸化物、カルシウム酸化物(CaO)、マグネシウム酸化物(MgO)等のアルカリ土類金属の酸化物等の無機物が挙げられる。これらの物質は薄膜として設けたときにエネルギーバンドを曲げる効果を有するため好ましい。
【0050】
また、無機物の他、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:p−EtTAZ)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)等の電子輸送層107を形成するのに用いることのできる有機物も、これらの物質の中から、電子輸送層107の形成に用いる物質よりも電子親和力が大きい物質を選択することによって、電子注入層108を形成する物質として用いることができる。つまり、電子注入層108における電子親和力が電子輸送層107における電子親和力よりも相対的に大きくなるように物質を選択し、電子注入層108を形成すればよい。なお、電子注入層108を設ける場合、第2の電極103は、アルミニウム等の仕事関数の低い物質を用いて形成することが好ましい。
【0051】
なお、上記電子注入層108に変えて電子発生層を設けることもできる。電子発生層は、電子を発生する層であり、電子輸送性物質およびバイポーラ性物質から選ばれる少なくとも一の物質と、これらの物質に対し電子供与性を示す物質(ドナー)とを混合して形成することができる。なお、電子輸送性物質およびバイポーラ性物質としては、1×10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質が好ましい。
【0052】
なお、電子輸送性物質およびバイポーラ性物質については、それぞれ、上述したものを用いることができる。また、電子供与性を示す物質としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の中から選ばれた物質、具体的にはリチウム(Li)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)等を用いることができる。さらに、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属窒化物、アルカリ土類金属窒化物等、具体的にはリチウム酸化物(LiO)、カルシウム酸化物(CaO)、ナトリウム酸化物(NaO)、カリウム酸化物(KO)、マグネシウム酸化物(MgO)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF)等の物質も電子供与性を示す物質として用いることができる。
【0053】
また、図1(B)には図示していないが、発光層105と電子輸送層107との間には、正孔阻止層(ホールブロッキング層)を設けることもできる。正孔阻止層を設けることによって、正孔が発光層105において電子と再結合することなく第2の電極103の方向に流れていくのを防ぐことができ、キャリアの再結合効率を高めることができる。また、発光層105で生成された励起エネルギーが電子輸送層107等、他の層へ移動してしまうことを防ぐことができる。
【0054】
正孔阻止層には、BAlq、OXD−7、TAZ、BPhen等の電子輸送層107を形成するのに用いることのできる物質の中から、特に、発光層105を形成するのに用いる物質よりもイオン化ポテンシャル及び励起エネルギーが大きい物質が選択される。つまり、正孔阻止層は、正孔阻止層におけるイオン化ポテンシャルが電子輸送層107におけるイオン化ポテンシャルよりも相対的に大きくなるように物質を選択して形成されていればよい。同様に、発光層105と正孔輸送層106との間にも、発光層105で正孔と再結合することなく第2の電極103の方に電子が流れていくのを阻止するための層を設けても構わない。
【0055】
以上により、発光素子の発光物質を含む層102の一部に本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層104を有し、かつバッファー層104が、陽極である第1の電極101に接して形成された発光素子が得られる。
【0056】
なお、本実施の形態1において、バッファー層104を形成する発光素子用複合材料は正孔輸送性を有し、また、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と金属酸化物とが混合されていることから結晶化しやすい傾向にあるビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素の結晶化を抑えることができる。また、透明性が高く、さらには導電性が高いという性質を有している。
【0057】
従って、バッファー層104の膜厚を厚く形成した場合でも透明性を損なうことなく、かつ駆動電圧の上昇を抑制することができるため、発光素子の短絡を防止したり、光学設計による色純度の向上のために膜厚を自由に設定することも可能である。なお、短絡を防止するためにはバッファー層104の膜厚を60nm以上とすると効果的である。
【0058】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、実施の形態1で説明した発光素子とは構造が異なるもの、具体的にはバッファー層が、第2の電極(陰極)と接して設けられる場合の構造について説明する。
【0059】
本実施の形態2で説明する発光素子の素子構成は、図2に示す通りであり、基本的には、図2(A)に示すように一対の電極(第1の電極201及び第2の電極203)間に発光物質を含む層202を挟持した構成であり、発光物質を含む層202は、発光層204、電子発生層205および本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層206を少なくとも有し、かつバッファー層206が第2の電極203と電子発生層205との間に接して設けられている。なお、本実施の形態2では、第1の電極201が陽極として機能し、第2の電極203が陰極として機能する場合について説明する。また、本実施の形態2において、上記構造に加えて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)等を適宜組み合わせた構造とすることもできる。
【0060】
バッファー層206を形成する発光素子用複合材料は、実施の形態1で示すビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と、実施の形態1で示す金属酸化物とで構成される。
【0061】
なお、本実施の形態2の場合においてもバッファー層206において、金属酸化物は、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素に対して質量比が0.5〜2、若しくはモル比が1〜4(=金属酸化物/芳香族炭化水素)となるように含まれていることが好ましい。また、バッファー層206は、導電率が高いことから50nm以上の膜厚とすることができる。
【0062】
また、電子発生層205は、電子を発生する層であり、電子輸送性物質およびバイポーラ性物質から選ばれる少なくとも一の物質と、これらの物質に対し電子供与性を示す物質(ドナー)とを混合して形成することができる。なお、電子輸送性物質およびバイポーラ性物質としては、1×10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質が好ましい。
【0063】
なお、電子発生層205の形成に用いる電子輸送性物質、バイポーラ性物質、および電子供与性を示す物質(ドナー)としては、実施の形態1で挙げた物質をそれぞれ用いることができる。
【0064】
また、第1の電極201に用いる陽極材料としては、仕事関数の大きい(仕事関数4.0eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。なお、陽極材料の具体例としては、インジウム錫酸化物(ITO:indium tin oxide)、酸化インジウムに2〜20[%]の酸化亜鉛(ZnO)を混合したインジウム亜鉛酸化物(IZO:indium zinc oxide)の他、金(Au)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、または金属材料の窒化物(例えばTiN)等を用いることができる。
【0065】
一方、第2の電極203に用いる陰極材料としては、金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。陰極材料の具体例としては、インジウム錫酸化物、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物、2〜20%の酸化亜鉛を含む酸化インジウム、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、窒化タンタル等の仕事関数の高い材料等も用いることができる。
【0066】
上述した陽極材料及び陰極材料は、蒸着法、スパッタリング法等により薄膜を形成することにより、それぞれ陽極及び陰極を形成する。膜厚は、5〜500nmとするのが好ましい。
【0067】
本発明の発光素子において、発光物質を含む層202におけるキャリアの再結合により生じる光は、第1の電極(陽極)201または第2の電極(陰極)203の一方、または両方から外部に射出される構成となる。すなわち、第1の電極201から光を射出させる場合には、第1の電極201を透光性の材料で形成し、第2の電極203側から光を射出させる場合には、第2の電極203を透光性の材料で形成し、両電極側から光を射出させる場合には、両電極を透光性の材料で形成する。
【0068】
なお、本実施の形態2において、一対の電極間に形成される発光物質を含む層202は、図2(B)に示すように発光層204、電子発生層205、およびバッファー層206以外に正孔注入層207、正孔輸送層208、電子輸送層209を組み合わせて形成することができる。そこで、これらの層について以下に詳細に説明することとする。
【0069】
正孔注入層207は、本実施の形態2においては、第1の電極201から正孔輸送層208へ正孔の注入を補助する機能を有する層である。正孔注入層207を設けることによって、第1の電極201の仕事関数と正孔輸送層208のイオン化ポテンシャルとの差が緩和され、正孔が注入され易くなる。正孔注入層207は、正孔輸送層208を形成する物質よりもイオン化ポテンシャルが小さく、第1の電極201を形成する物質の仕事関数よりもイオン化ポテンシャルの大きい物質を用いて形成することが好ましい。
【0070】
正孔注入層207を形成するのに用いることのできる物質の具体例として、フタロシアニン(略称:HPc)や銅フタロシアニン(略称:CuPc)等の低分子、或いはポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)水溶液(略称:PEDOT/PSS)等の高分子等が挙げられる。
【0071】
正孔輸送層208は、正孔の輸送性に優れた層であり、本実施の形態2においては、正孔注入層207から注入された正孔を発光層204へ輸送する機能を有する。なお、正孔輸送層208を形成する物質としては、特に1×10−6cm/Vs以上の正孔移動度を示す正孔輸送性物質またはバイポーラ性物質を用いて形成することが好ましい。なお、ここでいう正孔輸送性物質およびバイポーラ性物質としては、実施の形態1に挙げた物質をそれぞれ用いることができる。
【0072】
発光層204は、少なくとも一種の発光物質を含んでおり、ここでいう発光物質とは、発光効率が良好で、所望の波長の発光をし得る物質である。発光層204は、発光物質のみから形成された層であってもよいが、発光物質の有するエネルギーギャップ(LUMO準位とHOMO準位との間のエネルギーギャップをいう)よりも大きいエネルギーギャップを有する物質からなる層中に、発光物質が分散するように混合された層(いわゆる、ホストとゲストの関係にある物質をそれぞれ含む層)であっても良い。なお、発光層において、ホストとして機能する発光物質(ホスト物質ともいう)にゲストとして機能する発光物質(ゲスト物質ともいう)を分散して存在させることにより、発光が濃度に起因して消光してしまうことを防ぐことができる。発光層204に用いることができる具体的な発光物質としては、実施の形態1に挙げた物質(ゲスト物質を含む)を用いることができる。
【0073】
電子輸送層209は、電子の輸送性に優れた層であり、本実施の形態2においては、電子発生層205から注入された電子を発光層204へ輸送する機能を有する。なお、電子輸送層209を形成する物質としては、特に1×10−6cm/Vs以上の電子移動度を示す電子輸送性物質またはバイポーラ性物質を用いて形成することが好ましい。なお、ここでいう電子輸送性物質およびバイポーラ性物質としては、実施の形態1に挙げた物質をそれぞれ用いることができる。
【0074】
また、図2(B)には図示していないが、発光層204と電子輸送層209との間には、正孔阻止層(ホールブロッキング層)を設けることもできる。正孔阻止層を設けることによって、正孔が発光層204において電子と再結合することなく第2の電極203の方向に流れていくのを防ぐことができ、キャリアの再結合効率を高めることができる。なお、正孔阻止層を形成する物質としては、実施の形態1に挙げた物質を用いることができる。
【0075】
以上により、発光素子の発光物質を含む層202の一部に本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層206を有し、かつバッファー層206が陰極である第2の電極203と電子発生層205との間に接して形成された発光素子が得られる。
【0076】
本実施の形態2の発光素子において、バッファー層206を形成する発光素子用複合材料は正孔輸送性を有し、また、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と金属酸化物とが混合されていることからビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素の結晶化を抑えることができる。また、透明性が高く、さらには導電性が高いという性質を有している。
【0077】
従って、バッファー層206の膜厚を厚く形成した場合でも透明性を損なうことなく、かつ駆動電圧の上昇を抑制することができるため、発光素子の短絡を防止したり、光学設計による色純度の向上のために膜厚を自由に設定することが可能である。なお、短絡を防止するためにはバッファー層206の膜厚を60nm以上とすると効果的である。
【0078】
また、発光物質を含む層202を形成した後に、第2の電極203をスパッタリング法により成膜する場合などは、バッファー層206がバリア膜として機能し、発光層204等へのダメージを低減させることもできる。
【0079】
また、本発明においては、本実施の形態2で示した構造と実施の形態1で示した構造とを組み合わせ、発光素子の両方の電極(陽極および陰極)に接して本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層が設けられた図3に示すような構造を形成することもできる。
【0080】
図3においては、一対の電極(第1の電極301及び第2の電極303)間に発光物質を含む層302を挟持し、発光物質を含む層302は、発光層305、および本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層(第1のバッファー層304、第2のバッファー層307)、電子発生層306とを少なくとも有している。
【0081】
また、第1のバッファー層304は、第1の電極301と接して設けられ、第2のバッファー層307が第2の電極303と電子発生層306との間に接して設けられている。この場合も第1の電極301が陽極として機能し、第2の電極303が陰極として機能する。なお、この構造の場合も、図3に示す構造に加えて正孔輸送層、電子輸送層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)等を適宜組み合わせた構造とすることができる。また、正孔輸送層、電子輸送層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)を形成する物質としては、実施の形態1に挙げた物質を用いることができる。
【0082】
図3に示す発光素子においても、バッファー層(第1のバッファー層304、第2のバッファー層307)を形成する発光素子用複合材料は、正孔輸送性を有し、結晶化しにくく、透明性が高く、かつ導電性が高いという性質を有していることから、第1のバッファー層304および第2のバッファー層307の膜厚を厚くしても透明性を損なうことなく、かつ駆動電圧の上昇を抑制することができるため、発光素子の短絡を防止したり、光学設計による色純度の向上のため、第1のバッファー層304および第2のバッファー層307の膜厚を自由に設定することも可能である。
【0083】
また、発光物質を含む層302を形成した後に、第2の電極303をスパッタリング法により成膜する場合などは、第2のバッファー層307がバリア膜として機能し、発光層305等へのダメージを低減させることもできる。さらに、第1のバッファー層304および第2のバッファー層307を同じ物質で構成する場合には、発光物質を含む層302の両側が同じ物質で構成されることになるため、応力歪みを抑制する効果も期待できる。
【0084】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、実施の形態1および2で説明した発光素子とは構造が異なるもの、具体的には陽極および陰極と接することなく形成されたバッファー層が少なくとも一つ設けられる場合の構造であって、いわゆるマルチフォトン型の発光素子について説明する。
【0085】
本実施の形態3で説明する発光素子の素子構成は、図4に示す通りであり、基本的には、図4(A)に示すように一対の電極(第1の電極401及び第2の電極403)間に発光物質を含む層402を挟持した構成であり、発光物質を含む層402は、第1の発光層406、第2の発光層407、電子発生層404および本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層405を少なくとも有し、かつ少なくとも一つのバッファー層405およびそれに接して形成される電子発生層404が第1の電極401及び第2の電極403と接することなく設けられている。なお、本実施の形態3では、第1の電極401が陽極として機能し、第2の電極403が陰極として機能する場合について説明する。また、本実施の形態3において、上記構造に加えて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子注入層等を適宜組み合わせた構造とすることもできる。
【0086】
バッファー層405を形成する発光素子用複合材料は、実施の形態1で示すビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と、実施の形態1で示す金属酸化物とで構成される。
【0087】
なお、本実施の形態3の場合においてもバッファー層405において、金属酸化物は、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素に対して質量比が0.5〜2、若しくはモル比が1〜4(=金属酸化物/芳香族炭化水素)となるように含まれていることが好ましい。また、バッファー層405は、導電率が高いことから50nm以上の膜厚とすることができる。
【0088】
また、本実施の形態3において、電子発生層404はバッファー層405と接して形成され、かつ電子発生層404はバッファー層405よりも陽極である第1の電極401側に形成される。また、電子発生層404は、電子を発生する層であり、電子輸送性物質およびバイポーラ性物質から選ばれる少なくとも一の物質と、これらの物質に対し電子供与性を示す物質とを混合して形成することができる。ここで、電子輸送性物質およびバイポーラ性物質の中でも特に1×10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質であることが好ましい。
【0089】
なお、電子発生層404の形成に用いる電子輸送性物質、バイポーラ性物質、および電子供与性を示す物質としては、実施の形態1で挙げた物質をそれぞれ用いることができる。
【0090】
また、第1の電極401に用いる陽極材料としては、仕事関数の大きい(仕事関数4.0eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。なお、陽極材料の具体例としては、インジウム錫酸化物(ITO:indium tin oxide)、酸化インジウムに2〜20[%]の酸化亜鉛(ZnO)を混合したインジウム亜鉛酸化物(IZO:indium zinc oxide)の他、金(Au)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、または金属材料の窒化物(例えばTiN)等を用いることができる。なお、上記構造に加え、実施の形態1で示すように第1の電極401と接してバッファー層を設ける場合には、一般に仕事関数の小さい材料として知られるアルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)を用いることもできる。これは、バッファー層405を設けることにより幅広い範囲の仕事関数を有する電極材料に対してのオーム接触が可能となるためである。
【0091】
一方、第2の電極403に用いる陰極材料としては、仕事関数の小さい(仕事関数3.8eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。陰極材料の具体例としては、元素周期律の1族または2族に属する元素、すなわちLiやCs等のアルカリ金属、およびMg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、およびこれらを含む合金(Mg:Ag、Al:Li)や化合物(LiF、CsF、CaF)の他、希土類金属を含む遷移金属を用いることができるが、上記構造に加え、実施の形態2で示すように第2の電極403と接してバッファー層を、バッファー層と接して電子発生層を設ける場合には、第2の電極403に用いる陰極材料として、インジウム錫酸化物、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物、2〜20%の酸化亜鉛を含む酸化インジウム、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、窒化タンタル等の仕事関数の高い材料等も用いることができる。
【0092】
上述した陽極材料及び陰極材料は、蒸着法、スパッタリング法等により薄膜を形成することにより、それぞれ陽極及び陰極を形成する。膜厚は、5〜500nmとするのが好ましい。
【0093】
本発明の発光素子において、発光物質を含む層402におけるキャリアの再結合により生じる光は、第1の電極(陽極)401または第2の電極(陰極)403の一方、または両方から外部に射出される構成となる。すなわち、第1の電極401から光を射出させる場合には、第1の電極401を透光性の材料で形成し、第2の電極403側から光を射出させる場合には、第2の電極403を透光性の材料で形成し、両電極側から光を射出させる場合には、両電極を透光性の材料で形成する。
【0094】
本実施の形態3において、電子発生層404とバッファー層405は、第1の電極401および第2の電極403と接することなく形成されており、第1の電極401と電子発生層404との間には少なくとも第1の発光層406が設けられている。また、バッファー層405と第2の電極403との間には、少なくとも第2の発光層407が設けられている。なお、第1の発光層406および第2の発光層407の形成に用いる物質は、実施の形態1において発光層を形成する物質として記載された物質を用いることができる。
【0095】
また、本実施の形態3において、上記構成に加えて第1の電極401および第2の電極403に接してそれぞれバッファー層を設けることもできる。なお、この場合には、図4(B)に示すように第1の電極401と接して第1のバッファー層408を設け、第2の電極403と接して第3のバッファー層412を設ける。さらに第3のバッファー層412に接して第2の電子発生層411が設けられており、図4(B)に示す第1の電子発生層409および第2のバッファー層410は、図4(A)に示す電子発生層404およびバッファー層405と同じ機能を示すものである。
【0096】
図4(B)に示す第1のバッファー層408、第2のバッファー層410、第3のバッファー層412は、いずれも実施の形態1で示すビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と、金属酸化物とで構成される発光素子用複合材料を用いて形成することができる。また、図4(B)に示す第1の電子発生層409および第2の電子発生層411は、実施の形態1で示す電子輸送性物質およびバイポーラ性物質から選ばれる少なくとも一の物質と、これらの物質に対し電子供与性を示す物質とを混合して形成することができる。
【0097】
また、図4(B)において(ここでは図示しないが)、第1のバッファー層408と第1の電子発生層409との間であって、第1の発光層406を少なくとも含む領域、および第2のバッファー層410と第2の電子発生層411との間であって、第2の発光層407を少なくとも含む領域には、正孔輸送層、電子輸送層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)等を適宜組み合わせて形成することもできる。なお、正孔輸送層、電子輸送層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)は、それぞれ実施の形態1に記載した物質を用いて形成することができる。
【0098】
以上により、発光素子の発光物質を含む層402の一部に本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層405を有し、少なくともバッファー層405およびそれに接して形成される電子発生層404が第1の電極401および第2の電極403と接することなく形成された発光素子が得られる。
【0099】
本実施の形態3の発光素子において、バッファー層405(図4(B)に示す場合には、第1のバッファー層408、第2のバッファー層410、第3のバッファー層412)を形成する発光素子用複合材料は、正孔輸送性を有し、また、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と金属酸化物とが混合されていることからビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素の結晶化を抑えることができる。また、透明性が高く、さらには導電性が高いという性質を有している。
【0100】
従って、バッファー層405(図4(B)に示す場合には、第1のバッファー層408、第2のバッファー層410、第3のバッファー層412)の膜厚を厚く形成した場合でも透明性を損なうことなく、かつ駆動電圧の上昇を抑制することができるため、発光素子の短絡を防止したり、光学設計による色純度の向上のために膜厚を自由に設定することが可能である。なお、短絡を防止するためにはバッファー層405(図4(B)に示す場合には、第1のバッファー層408、第2のバッファー層410、第3のバッファー層412)の膜厚を60nm以上とすると効果的である。
【0101】
また、図4(B)に示すように発光物質を含む層402を形成した後に、第2の電極403をスパッタリング法により成膜する場合などは、第3のバッファー層412がバリア膜として機能し、第2の発光層407等へのダメージを低減させることもできる。さらに、第1のバッファー層408および第3のバッファー層412を同じ物質で構成する場合には、発光物質を含む層402の両側が同じ物質で構成されることになるため、応力歪みを抑制する効果も期待できる。
【0102】
(実施の形態4)
本実施の形態4では、画素部に本発明により形成される発光素子を有する発光装置について図5を用いて説明する。図5では、本発明により形成されるアクティブマトリックス発光素子を有する発光装置を示したが、パッシブマトリックス発光素子を有する発光装置にも本発明を適用することはできる。なお、本発明における発光装置は、本発明の発光素子に加えて発光素子を駆動する制御手段等を構成に含むものとする。なお、図5(A)は、発光装置を示す上面図、図5(B)は図5(A)をA−A’で切断した断面図である。点線で示された501は駆動回路部(ソース側駆動回路)、502は画素部、503は駆動回路部(ゲート側駆動回路)である。また、504は封止基板、505はシール材であり、シール材505で囲まれた内側は、空間507になっている。
【0103】
なお、508はソース側駆動回路501及びゲート側駆動回路503に入力される信号を伝送するための配線であり、外部入力端子となるFPC(フレキシブルプリントサーキット)509からビデオ信号、クロック信号、スタート信号、リセット信号等を受け取る。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基盤(PWB)が取り付けられていても良い。本明細書における発光装置には、発光装置本体だけでなく、それにFPCもしくはPWBが取り付けられた状態をも含むものとする。
【0104】
次に、断面構造について図5(B)を用いて説明する。素子基板510上には駆動回路部及び画素部が形成されているが、ここでは、駆動回路部であるソース側駆動回路501と、画素部502が示されている。
【0105】
なお、ソース側駆動回路501はnチャネル型TFT523とpチャネル型TFT524とを組み合わせたCMOS回路が形成される。また、駆動回路を形成するTFTは、CMOS回路、PMOS回路もしくはNMOS回路で形成しても良い。また、本実施の形態では、基板上に駆動回路を形成したドライバー一体型を示すが、必ずしもその必要はなく、基板上ではなく外部に形成することもできる。
【0106】
また、画素部502はスイッチング用TFT511と、電流制御用TFT512とそのドレインに電気的に接続された第1の電極513とを含む複数の画素により形成される。なお、第1の電極513の端部を覆って絶縁物514が形成されている。ここでは、ポジ型の感光性アクリル樹脂膜を用いることにより形成する。
【0107】
第1の電極513上には、発光物質を含む層516、および第2の電極517がそれぞれ形成されている。ここで、陽極として機能する第1の電極513に用いる材料としては、仕事関数の大きい材料を用いることが望ましい。例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)膜、インジウム亜鉛酸化物(IZO)膜、窒化チタン膜、クロム膜、タングステン膜、Zn膜、Pt膜などの単層膜の他、窒化チタン膜とアルミニウムを主成分とする膜との2層構造、窒化チタン膜とアルミニウムを主成分とする膜と窒化チタン膜との3層構造等の積層膜を用いることができる。なお、積層構造とすると、配線としての抵抗も低く、良好なオーミックコンタクトがとれ、さらに陽極として機能させることができる。
【0108】
また、発光物質を含む層516は、蒸着マスクを用いた蒸着法、またはインクジェット法によって形成される。発光物質を含む層516には、本発明の発光素子用複合材料からなるバッファー層が含まれる。その他にも、発光層、電子発生層、正孔輸送層、電子輸送層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、正孔注入層、電子注入層等が含まれる。なお、これらの層を形成する際には、低分子系材料、中分子材料(オリゴマー、デンドリマーを含む)、または高分子系材料を用いることができる。また、発光物質を含む層を形成する場合には、通常、有機化合物を単層もしくは積層で用いる場合が多いが、本発明においては、有機化合物からなる膜の一部に無機化合物を用いる構成も含めることとする。
【0109】
また、本発明において、バッファー層は、発光素子の両電極の一方の電極(陽極または陰極の一方)、または両方の電極に接して設けたり、両方の電極に接することなく設けられる。但し、バッファー層が陰極と接して形成される場合には、陰極と接するバッファー層の反対側の面と接して、電子発生層を設ける必要がある。また、バッファー層が両電極と接することなく形成される場合には、バッファー層と接して電子発生層を陽極側に設ける必要がある。
【0110】
また、発光物質を含む層516上には、第2の電極(陰極)517が形成されている。
【0111】
さらに、シール材505で封止基板504を素子基板510と貼り合わせることにより、素子基板510、封止基板504、およびシール材505で囲まれた空間507に発光素子518が備えられた構造になっている。なお、空間507には、不活性気体(窒素やアルゴン等)が充填される場合の他、シール材505で充填される構成も含むものとする。
【0112】
なお、シール材505にはエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの材料はできるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが望ましい。また、封止基板504に用いる材料としてガラス基板や石英基板の他、FRP(Fiberglass−Reinforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、マイラー、ポリエステルまたはアクリル等からなるプラスチック基板を用いることができる。
【0113】
以上のようにして、本発明により形成される発光素子を有する発光装置を得ることができる。
【0114】
なお、本実施の形態に示す発光装置は、実施の形態1〜3に示した発光素子の構成を自由に組み合わせて実施することが可能である。
【0115】
(実施の形態5)
本発明の発光装置を備えた電子機器として、テレビジョン装置(単にテレビ、又はテレビジョン受信機ともよぶ)、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等のカメラ、携帯電話装置(単に携帯電話機、携帯電話ともよぶ)、PDA等の携帯情報端末、携帯型ゲーム機、コンピュータ用のモニター、コンピュータ、カーオーディオ等の音響再生装置、家庭用ゲーム機等の記録媒体を備えた画像再生装置等が挙げられる。その具体例について、図6を参照して説明する。
【0116】
図6(A)に示すテレビジョン装置は、本体8001、表示部8002等を含んでいる。表示部8002は、本発明の発光装置を適用することができる。その結果、低電圧でも充分な電流を流すことができるだけでなく、十分な発光特性を得ることができる。また膜厚を自由に設計することによって光学特性を向上させることができる。これらにより、駆動電圧がおさえられたテレビジョン装置を提供することができる。
【0117】
図6(B)に示す携帯情報端末機器は、本体8101、表示部8102等を含んでいる。表示部8102は、本発明の発光装置を適用することができる。その結果、低電圧でも充分な電流を流すことができるだけでなく、十分な発光特性を得ることができる。また膜厚を自由に設計することによって光学特性を向上させることができる。これらにより、駆動電圧がおさえられた携帯情報端末機器を提供することができる。
【0118】
図6(C)に示すデジタルビデオカメラは、本体8201、表示部8202等を含んでいる。表示部8202は本発明の発光装置を適用することができる。その結果、低電圧でも充分な電流を流すことができるだけでなく、十分な発光特性を得ることができる。また膜厚を自由に設計することによって光学特性を向上させることができる。これらにより、駆動電圧がおさえられたデジタルビデオカメラを提供することができる。
【0119】
図6(D)に示す携帯電話機は、本体8301、表示部8302等を含んでいる。表示部8302は、本発明の発光装置を適用することができる。その結果、低電圧でも充分な電流を流すことができるだけでなく、十分な発光特性を得ることができる。また膜厚を自由に設計することによって光学特性を向上させることができる。これらにより、駆動電圧がおさえられた携帯電話機を提供することができる。
【0120】
図6(E)に示す携帯型のテレビジョン装置は、本体8401、表示部8402等を含んでいる。表示部8402は、本発明の発光装置を適用することができる。その結果、低電圧でも充分な電流を流すことができるだけでなく、十分な発光特性を得ることができる。また膜厚を自由に設計することによって光学特性を向上させることができる。これらにより、駆動電圧がおさえられた携帯型のテレビジョン装置を提供することができる。またテレビジョン装置としては、携帯電話機などの携帯端末に搭載する小型のものから、持ち運びをすることができる中型のもの、また、大型のもの(例えば40インチ以上)まで、幅広いものに、本発明の発光装置を適用することができる。
【0121】
このように、低電圧でも充分な電流を流すことができるだけでなく、十分な発光特性を得ることができ、また膜厚を自由に設計することによって光学特性を向上させることができる本発明の発光装置により、駆動電圧がおさえられた電子機器を提供することができる。
【実施例1】
【0122】
本実施例では、実施の形態1で示した素子構造を有する発光素子(第1の電極(陽極)と接してバッファー層が設けられる構造)であって、第1の電極側から順次、バッファー層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、および第2の電極が積層された発光素子の作製方法および素子特性について測定した結果を図7〜11に示す。
【0123】
まず、図7に示すように基板700上に発光素子の第1の電極701が形成される。なお、本実施例では、第1の電極701は陽極として機能する。材料として透明導電膜であるITOを用い、スパッタリング法により110nmの膜厚で形成する。なお、ここで用いるスパッタリング法としては、2極スパッタ法、イオンビームスパッタ法、または対向ターゲットスパッタ法等がある。電極の大きさは2mm×2mmとした。
【0124】
次に、第1の電極(陽極)701上に発光物質を含む層702が形成される。なお、本実施例では、発光物質を含む層702が第1の電極側からバッファー層704、正孔輸送層706、発光層705、電子輸送層707、電子注入層708の積層構造を有し、特にバッファー層704にビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と金属酸化物とで構成される発光素子用複合材料を用いることを特徴とする。
【0125】
第1の電極701が形成された基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに第1の電極701が形成された面を下方にして固定し、真空蒸着装置の内部に備えられた蒸発源の一方にビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素として実施の形態1において、構造式(1)で表される化合物(DPVBi)を入れ、他方に金属酸化物としてモリブデン酸化物を入れ、抵抗加熱法を用いた共蒸着法により120nmの膜厚でバッファー層704を形成する。なお、ここで形成されるバッファー層704におけるDPVBiとモリブデン酸化物との重量比は1:0.5(モル比は、1:1.8)(=DPVBi:モリブデン酸化物)となるようにした。
【0126】
次に正孔輸送性に優れた材料により正孔輸送層706を形成する。ここでは、正孔輸送性に優れた材料としてNPBを抵抗加熱法を用いた蒸着法により、10nmの膜厚で形成する。
【0127】
次に発光層705が形成される。なお、発光層705において正孔と電子が再結合し、発光を生じる。ここでは、Alqとクマリン6とをバッファー層と同様の共蒸着法により37.5nmの膜厚で形成する。なお、Alqとクマリン6との重量比は、1:0.01(モル比は、1:0.013)(=Alq:クマリン6)となるようにした。これによって、クマリン6はAlqからなる層の中に分散して含まれた状態となる。
【0128】
次に、電子輸送層707が形成される。なお、電子輸送層707は、Alqを正孔輸送層706と同様の蒸着法により37.5nmの膜厚で形成する。
【0129】
次に、電子注入層708が形成される。なお、電子注入層708は、LiFを正孔輸送層706と同様の蒸着法により1nmの膜厚で形成する。
【0130】
上述したように積層構造を有する発光物質を含む層702を形成した後、陰極として機能する第2の電極703をスパッタリング法または蒸着法により形成する。なお、本実施例では、発光物質を含む層702上にアルミニウムをスパッタリング法により200nmの膜厚で形成することにより第2の電極703を得る。
【0131】
以上により、本発明の発光素子が形成される。なお、本実施例では、基板上に形成される第1の電極が陽極材料で形成され、陽極として機能する場合について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、第1の電極を陰極材料で形成し、陰極として機能させることもできる。ただし、この場合(陽極と陰極とを入れ替えた場合)には、発光物質を含む層の積層順が本実施例で示した場合と逆になる。さらに、本実施例では、第1の電極701は透明電極であり、第1の電極701側から発光層705で生じた光を射出させる構成としているが、本発明はこれに限定されることはなく、透過率を確保するために適した材料を選択することにより第2の電極703側から光を射出させる構成とすることもできる。
【0132】
次に、図7に示す発光素子の素子特性について測定した結果を図8〜11の白丸印(発光素子(2))で表されるプロットで示す。
【0133】
図8に示す電流−電圧特性においては、6Vの電圧を印加したところ1.0mA程度の電流が流れた。この結果から、本発明のバッファー層704を設けることにより、低電圧の場合においても発光素子の発光物質を含む層702に電流が十分に注入されている様子が確認される。
【0134】
また、図9に示す輝度−電圧特性においては、6Vの電圧を印加したところ1000cd/m程度の輝度が得られた。このことから本発明のバッファー層704を設けることにより電圧に対する輝度特性に対しても良好な効果が得られることが分かる。
【0135】
また、図10に示す電流効率−輝度特性においては、100cd/mの輝度が得られた場合における電流効率は11.5cd/A程度であり、図11に示す輝度−電流密度特性においては、電流密度が100mA/cmの場合において、10000cd/m程度の輝度が得られた。これらの結果からは、発光素子の発光物質を含む層702において、正孔(ホール)と電子とがバランス良く存在しており、効率よく再結合できる環境にあるといえる。
【0136】
(比較例1)
これに対して、実施例1で測定した素子構造において、バッファー層704にビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素としてDPVBiを用いて作製した発光素子(発光素子(1)と示す)の素子特性について測定した。なお、ここで測定する発光素子(1)は、実施例1の図7に示す発光素子とバッファー層704以外の構成が同じになるように作製したものである。具体的には、第1の電極:ITO(110nm)/バッファー層:DPVBi(120nm)/正孔輸送層:NPB(10nm)/発光層:Alq+クマリン6(37.5nm)/電子輸送層:Alq(37.5nm)/電子注入層:LiF(1nm)/第2の電極:Al(200nm)が順次積層された構造である。その結果を図8〜11の黒丸印(発光素子(1))で表されるプロットで示す。
【0137】
図8に示す電流−電圧特性において、1.0mA程度の電流を流すためには24V程度の電圧を印加する必要があった。これは、6V程度の電圧を印加することで同じ電流を流すことができた発光素子(2)に比べると発光素子の発光物質を含む層へ電流が注入されにくい状態であるといえる。
【0138】
また、図9に示す輝度−電圧特性においては、1000cd/m程度の輝度を得るために25V程度の電圧を印加する必要があった。これは、6V程度の電圧を印加することで同じ輝度を得ることができた発光素子(2)に比べると発光素子の発光物質を含む層702へ電流が注入されにくい状態にあることが、素子の輝度特性にも影響していることが分かる。
【0139】
また、図10に示す電流効率−輝度特性においては、100cd/mの輝度が得られた場合における電流効率は3.0cd/A程度であり、図11に示す輝度−電流密度特性においては、電流密度が100mA/cmの場合において、5000cd/m程度の輝度しか得られなかった。なお、これらの結果は、発光素子(1)における発光物質を含む層において、正孔(ホール)と電子とのバランスが悪く、再結合に必要な正孔(ホール)が十分に注入されていないことに起因した結果であるといえる。
【0140】
以上の結果から、本発明の発光素子は、ビニル骨格を少なくとも一つ含む芳香族炭化水素と金属酸化物とで構成される発光素子用複合材料からなるバッファー層を設けることにより、発光物質を含む層における正孔(ホール)の注入性を高めることができるため、発光素子の駆動電圧を低下させることができると共に、輝度特性などの素子特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の発光素子の素子構造を示す図。
【図2】本発明の発光素子の素子構造を示す図。
【図3】本発明の発光素子の素子構造を示す図。
【図4】本発明の発光素子の素子構造を示す図。
【図5】本発明の発光装置について示す図。
【図6】本発明の電子機器について示す図。
【図7】実施例1で説明する発光素子の素子構造を示す図。
【図8】発光素子の素子特性を示すグラフ。
【図9】発光素子の素子特性を示すグラフ。
【図10】発光素子の素子特性を示すグラフ。
【図11】発光素子の素子特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0142】
101 第1の電極(陽極)
102 発光物質を含む層
103 第2の電極(陰極)
104 バッファー層
105 発光層
106 正孔輸送層
107 電子輸送層
108 電子注入層
201 第1の電極(陽極)
202 発光物質を含む層
203 第2の電極(陰極)
204 発光層
205 電子発生層
206 バッファー層
207 正孔注入層
208 正孔輸送層
209 電子輸送層
301 第1の電極(陽極)
302 発光物質を含む層
303 第2の電極(陰極)
304 第1のバッファー層
305 発光層
306 電子発生層
307 第2のバッファー層
401 第1の電極(陽極)
402 発光物質を含む層
403 第2の電極(陰極)
404 電子発生層
405 バッファー層
406 第1の発光層
407 第2の発光層
408 第1のバッファー層
409 第1の電子発生層
410 第2のバッファー層
411 第2の電子発生層
412 第3のバッファー層
501 駆動回路部(ソース側駆動回路)
502 画素部
503 駆動回路部(ゲート側駆動回路)
504 封止基板
505 シール材
507 空間
509 FPC(フレキシブルプリントサーキット)
510 素子基板
511 スイッチング用TFT
512 電流制御用TFT
513 第1の電極
514 絶縁物
516 発光物質を含む層
517 第2の電極
518 発光素子
523 nチャネル型TFT
524 pチャネル型TFT
700 基板
701 第1の電極
702 発光物質を含む層
703 第2の電極
704 バッファー層
705 発光層
706 正孔輸送層
707 電子輸送層
708 電子注入層
8001 本体
8002 表示部
8101 本体
8102 表示部
8201 本体
8202 表示部
8301 本体
8302 表示部
8401 本体
8402 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に発光物質を含む層を挟持してなる発光素子において、
前記発光物質を含む層の一部にビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素と金属酸化物とを含む層を有することを特徴とする発光素子。
【請求項2】
一対の電極間に発光物質を含む層を挟持してなる発光素子において、
前記発光物質を含む層の一部であって、かつ前記一対の電極のいずれか一方または両方に接してビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素と金属酸化物とを含む層を有することを特徴とする発光素子。
【請求項3】
陽極と陰極との間に発光物質を含む層を挟持してなる発光素子において、
前記発光物質を含む層の一部にバッファー層と電子発生層とを有し、
前記バッファー層は、ビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素と、金属酸化物と、を含み、
前記電子発生層は、電子輸送性物質またはバイポーラ性物質のいずれかと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物の中から選ばれた物質と、を含み、
前記バッファー層は、前記陰極と前記電子発生層との間にそれぞれと接して形成されることを特徴とする発光素子。
【請求項4】
陽極と陰極との間に発光物質を含む層を挟持してなる発光素子において、
前記発光物質を含む層の一部に前記陽極及び前記陰極と接することなく形成されたバッファー層および電子発生層とを少なくとも有し、
前記バッファー層は、ビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素と、金属酸化物と、を含み、
前記電子発生層は、電子輸送性物質またはバイポーラ性物質のいずれかと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物の中から選ばれた物質と、を含み、
前記電子発生層は、前記バッファー層よりも前記陰極側であって、かつ前記バッファー層と接して形成されることを特徴とする発光素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記金属酸化物は、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、またはレニウム酸化物のいずれかであることを特徴とする発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記ビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素は、構造式(1)〜(5)で示されるいずれかであることを特徴とする発光素子。
【化1】

【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記ビニル骨格を少なくとも一つ有する芳香族炭化水素は、1×10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有することを特徴とする発光素子。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載の発光素子を用いて形成されたことを特徴とする発光装置。
【請求項9】
請求項8に記載の発光装置を用いて形成されたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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