説明

発光素子、発光装置、表示装置および電子機器

【課題】発光効率を優れたものとするとともに、高電流密度の電流で駆動する場合においても、長寿命化を図ることができる発光素子、かかる発光素子を備えた発光装置、表示装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】発光素子1は、陽極3と、陰極9と、陽極3と陰極9との間に設けられ、陽極3と陰極9との間に通電することにより発光する発光層6と、陽極3と発光層6との間に設けられ、正孔注入性を有する正孔注入層4と、正孔注入層4と発光層6との間に設けられ、正孔輸送性を有する正孔輸送層5と、正孔注入層4と正孔輸送層5との間に設けられ、正孔輸送性を有する正孔輸送性材料と、電子トラップ性を有する電子トラップ性材料とを含んで構成された電子中和層5Xとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、発光装置、表示装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(いわゆる有機EL素子)は、陽極と陰極との間に発光層として少なくとも1層の発光性有機層を介挿した構造を有する発光素子である。このような発光素子では、陰極と陽極との間に電界を印加することにより、発光層に陰極側から電子が注入されるとともに陽極側から正孔が注入され、発光層中で電子と正孔が再結合することにより励起子が生成し、この励起子が基底状態に戻る際に、そのエネルギー分が光として放出される。
【0003】
このような発光素子では、一般に、正孔の注入性や輸送性を向上させるために、陽極と発光層との間に、正孔注入層および正孔輸送層が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
また、このような発光素子では、正孔輸送層のHOMO(最高被占軌道)およびLUMO(最低空軌道)の大きさを調整することにより、正孔輸送層で陰極側(発光層側)からの電子をブロックし、発光層内に電子および正孔を閉じ込め、発光効率の向上を図ることが行われている。
【0004】
しかし、従来の発光素子においては、正孔輸送層が陰極側からの電子を十分にブロックすることができず、長期使用に伴い、正孔輸送層を通過した電子により正孔輸送層や正孔注入層が劣化するという問題があった。かかる問題は、電流密度が大きくなるほど、正孔輸送層の電子をブロックする機能(電子ブロック効果)がバンドベンディング効果により低下するため、顕著となる。
また、電子ブロック効果を高めるには、HOMOとLUMOとのエネルギーギャップが大きい材料を正孔輸送層に用いることが考えられるが、そのようなことは現実には難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3654909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、長寿命化を図ることができる発光素子、かかる発光素子を備えた発光装置、表示装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の発光素子は、陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する発光層と、
前記陽極と前記発光層との間に設けられ、正孔注入性を有する正孔注入層と、
前記正孔注入層と前記発光層との間に設けられ、正孔輸送性を有する正孔輸送層と、
前記正孔注入層と前記正孔輸送層との間に設けられ、正孔輸送性を有する正孔輸送性材料と、電子トラップ性を有する電子トラップ性材料とを含んで構成された電子中和層とを有することを特徴とする。
このような本発明の発光素子によれば、正孔輸送層が発光層からの電子をブロックしきれなかった場合においても、その電子を電子中和層が中和(消滅)させることができる。これにより、電子中和層に対して陽極側に設けられた正孔注入層が電子により劣化するのを防止することができる。そのため、高電流密度での電流で駆動する場合においても、発光素子の長寿命化を図ることができる。
【0008】
本発明の発光素子では、前記電子中和層は、前記正孔注入層および前記正孔輸送層にそれぞれ接していることが好ましい。
これにより、電子中和層の正孔輸送性を優れたものとすることができる。また、正孔輸送層に侵入した電子を電子中和層が速やかに中和(消滅)させることができる。
本発明の発光素子では、前記正孔輸送層は、電子をブロックする機能を有することが好ましい。
これにより、正孔輸送層が電子中和層から発光層へ正孔を輸送しつつ発光層からの電子をブロックすることができる。そのため、発光層に効率的に電子および正孔を閉じ込め、発光効率を向上させることができる。
このように正孔輸送層が電子をブロックする機能を有していても、特に高電流密度での駆動においては、正孔輸送層が電子をブロックしきれず、その結果、正孔輸送層に電子が侵入する(注入される)場合がある。このような場合においても、本発明の発光素子では、正孔輸送層に侵入した電子を電子中和層が速やかに中和(消滅)させることができる。
【0009】
本発明の発光素子では、前記電子トラップ性材料は、アセン系材料であることが好ましい。
アセン系材料は、適度な電子トラップ性を有する。そのため、電子中和層による発光素子の高駆動電圧化を抑制することができる。また、アセン系材料は、電子および正孔に対する耐性に優れる。そのため、電子中和層の電子および正孔による劣化を防止し、発光素子の長寿命化を図ることができる。さらに、アセン系材料は、それ自体発光しにくいので、電子中和層が発光素子の発光スペクトルに悪影響を及ぼすのを防止することもできる。
【0010】
本発明の発光素子では、前記電子中和層に含まれる前記正孔輸送性材料は、アミン系材料を含むことが好ましい。
アミン系材料は、正孔輸送性に優れる。そのため、アミン系材料を含む電子中和層は、陽極からの正孔を正孔輸送層へ速やかに輸送することができる。
本発明の発光素子では、前記電子中和層は、アセン系材料およびアミン系材料を混合した混合材料で構成されていることが好ましい。
これにより、電子中和層の正孔輸送性および電子トラップ性のバランスを好適な範囲に比較的簡単に調整することができる。
【0011】
本発明の発光素子では、前記アセン系材料は、アントラセン系材料であることが好ましい。
このようなアセン系材料は、適度な電子トラップ性を有するとともに、比較的簡単に高品位な膜質で成膜することができる。
本発明の発光素子では、前記発光層は、ホスト材料としてテトラセン誘導体、ゲスト材料としてジインデノペリレン系誘導体を含むことが好ましい。
これにより、発光層を赤色に効率的に発光させることができる。
【0012】
本発明の発光素子では、前記電子中和層中における前記電子トラップ性材料の含有量は、30wt%以上70wt%以下であることが好ましい。
これにより、発光素子の駆動電圧を抑えつつ、電子中和層の電子トラップ性を適度なものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記電子中和層の平均厚さは、30nm以上60nm以下であることが好ましい。
これにより、発光素子の駆動電圧を抑えつつ、電子中和層の電子トラップ性を適度なものとすることができる。
【0013】
本発明の発光装置は、本発明の発光素子を備えることを特徴とする。
このような発光装置は、長寿命な発光素子を備えるので、信頼性に優れる。
本発明の表示装置は、本発明の発光装置を備えることを特徴とする。
このような表示装置は、長期に亘り高品位な画像を表示し得るとともに、信頼性に優れる。
本発明の電子機器は、本発明の表示装置を備えることを特徴とする。
このような電子機器は、信頼性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1中の上側を「上」、下側を「下」として説明を行う。
図1に示す発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1は、陽極3と正孔注入層4と電子中和層(電子トラップ層)5Xと正孔輸送層5と発光層6と電子輸送層7と電子注入層8と陰極9とがこの順に積層されてなるものである。すなわち、発光素子1では、陽極3と陰極9との間に、陽極3側から陰極9側へ正孔注入層4と電子中和層5Xと正孔輸送層5と発光層6と電子輸送層7と電子注入層8とがこの順で積層された積層体14が介挿されている。
【0016】
そして、発光素子1は、その全体が基板2上に設けられるとともに、封止部材10で封止されている。
このような発光素子1にあっては、陽極3および陰極9に駆動電圧が印加されることにより、発光層6に対し、それぞれ、陰極9側から電子が供給(注入)されるとともに、陽極3側から正孔が供給(注入)される。そして、発光層6では、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。これにより、発光素子1は、発光する。
【0017】
その際、発光素子1では、電子中和層5Xが正孔輸送性材料を含むので、正孔輸送層5へ効率的に正孔を輸送することができる。また、正孔輸送層5が発光層6へ正孔を効率的に輸送するとともに発光層6からの電子をブロックすることができる。そのため、発光層6に効率的に電子および正孔を閉じ込めることができる。その結果、発光素子1の発光効率を高めることができる。
【0018】
特に、発光素子1では、電子中和層5Xが電子トラップ性材料を含むので、正孔輸送層5が電子をブロックしきれなくても、その電子を電子中和層5Xが中和(消滅)させることができる。これにより、電子中和層5Xに対して陽極3側に設けられた正孔注入層4が電子により劣化するのを防止することができる。また、正孔輸送層5内に電子が留まるのを防止できるので、正孔輸送層5の電子による劣化も防止できる。そのため、高電流密度での電流で駆動する場合においても、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
【0019】
基板2は、陽極3を支持するものである。本実施形態の発光素子1は、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)であるため、基板2および陽極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
【0020】
なお、発光素子1が基板2と反対側から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合、基板2には、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。
不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
また、このような発光素子1では、陽極3と陰極9との間の距離(すなわち積層体14の平均厚さ)は、150〜300nmであるのが好ましく、150〜250nmであるのがより好ましく、160〜200nmであるのがさらに好ましい。これにより、簡単かつ確実に、発光素子1の低駆動電圧化を図ることができる。
【0021】
以下、発光素子1を構成する各部を順次説明する。
[陽極]
陽極3は、後述する正孔注入層4を介して電子中和層5Xに正孔を注入する電極である。この陽極3の構成材料としては、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料を用いるのが好ましい。
【0022】
陽極3の構成材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、陽極3は、ITOで構成されているのが好ましい。ITOは、透明性を有するとともに、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料である。これにより、陽極3から正孔注入層4へ効率的に正孔を注入することができる。
【0023】
また、陽極3の正孔注入層4側の面(図1にて上面)は、プラズマ処理が施されているのが好ましい。これにより、陽極3と正孔注入層4との接合面の化学的および機械的な安定性を高めることができる。その結果、陽極3から正孔注入層4への正孔注入性を向上させることができる。なお、かかるプラズマ処理については、後述する発光素子1の製造方法の説明において詳述する。
このような陽極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、50〜150nm程度であるのがより好ましい。
【0024】
[陰極]
一方、陰極9は、後述する電子注入層8を介して電子輸送層7に電子を注入する電極である。この陰極9の構成材料としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。
陰極9の構成材料としては、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rbまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、複数層の積層体、複数種の混合層等として)用いることができる。
【0025】
特に、陰極9の構成材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。かかる合金を陰極9の構成材料として用いることにより、陰極9の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
このような陰極9の平均厚さは、特に限定されないが、100〜10000nm程度であるのが好ましく、100〜500nm程度であるのがより好ましい。
なお、本実施形態の発光素子1は、ボトムエミッション型であるため、陰極9に、光透過性は、特に要求されない。
【0026】
[正孔注入層]
正孔注入層4は、陽極3からの正孔注入効率を向上させる機能を有する(すなわち正孔注入性を有する)ものである。
このように陽極3と後述する正孔輸送層5との間に正孔注入層4を設けることにより、陽極3からの正孔性を向上させ、その結果、発光素子1の発光効率を高めることができる。
【0027】
この正孔注入層4は、正孔注入性を有する材料(すなわち正孔注入性材料)を含んでいる。
この正孔注入層4に含まれる正孔注入材料としては、特に限定されないが、例えば、銅フタロシアニンや、4,4',4''−トリス(N,N−フェニル−3−メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、下記式(1)で表わされるN,N'−ビス−(4−ジフェニルアミノ−フェニル)−N, N'−ジフェニル−ビフェニル−4−4'−ジアミン等が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
中でも、正孔注入層4に含まれる正孔注入性材料としては、正孔注入性および正孔輸送性に優れるという観点から、アミン系材料を用いるのが好ましく、ジアミノベンゼン誘導体、ベンジジン誘導体(ベンジジン骨格を有する材料)、分子内に「ジアミノベンゼン」ユニットと「ベンジジン」ユニットとの両方を有するトリアミン系化合物、テトラアミン系化合物を用いるのがより好ましい。
【0030】
また、正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料としては、発光層6からの電子をブロックし得るバンドギャップ(HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差)を有するものを用いるのが好ましい。すなわち、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる積層体は、電子をブロックする機能を有するのが好ましい。
これにより、正孔輸送層5が電子中和層5Xから発光層6へ正孔を輸送しつつ発光層6からの電子をブロックすることができる。そのため、発光層6に効率的に電子および正孔を閉じ込め、発光効率を向上させることができる。
【0031】
このように正孔輸送層5が電子をブロックする機能を有していても、特に高電流密度での駆動においては、正孔輸送層5が電子をブロックしきれず、その結果、正孔輸送層5に電子が侵入する(注入される)場合がある。このような場合においても、発光素子1では、正孔輸送層5に侵入した電子を後述する電子中和層5Xが中和(消滅)させることができる。
このような正孔注入層4の平均厚さは、特に限定されないが、5〜90nm程度であるのが好ましく、10〜70nm程度であるのがより好ましい。
【0032】
(電子中和層)
電子中和層5Xは、正孔注入層4と後述する正孔輸送層5との間に設けられている。本実施形態では、電子中和層5Xは、正孔注入層4および正孔輸送層5の双方に接して設けられている。
そして、この電子中和層5Xは、正孔注入層4から正孔輸送層5へ正孔を輸送する機能を有する。また、電子中和層5Xは、正孔輸送層5からの電子を捕獲する機能(すなわち電子トラップ性)を有する。
【0033】
このような電子中和層5Xは、正孔輸送性を有する正孔輸送性材料と、電子トラップ性を有する電子トラップ性材料とを含んで構成されている。
このような電子中和層5Xは、正孔輸送性材料を含むので、正孔輸送層5へ正孔を効率的に輸送することができる。その結果、発光素子1の発光効率を高めることができる。
特に、電子中和層5Xは、電子トラップ性材料を含むので、正孔輸送層5が発光層6からの電子をブロックしきれなかった場合においても、その電子を中和(消滅)させることができる。これにより、電子中和層5Xに対して陽極3側に設けられた正孔注入層4が電子により劣化するのを防止することができる。また、正孔輸送層5内に電子が留まるのを防止できるので、正孔輸送層5の電子による劣化も防止できる。そのため、高電流密度での電流で駆動する場合においても、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
【0034】
本実施形態では、電子中和層5Xが正孔注入層4および正孔輸送層5の双方に接して設けられているので、電子中和層5Xの正孔輸送性を優れたものとすることができる。また、正孔輸送層5に侵入した電子を電子中和層5Xが速やかに中和(消滅)させることができる。
電子中和層5Xに含まれる正孔輸送性材料としては、後述する正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料と同様のものを用いることができる。すなわち、電子中和層5Xに含まれる正孔輸送性材料としては、例えば、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができ、例えば、下記式(2)で表わされる化合物、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)等のテトラアリールベンジジン誘導体、テトラアリールジアミノフルオレン化合物またはその誘導体(アミン系化合物)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
【化2】

【0036】
中でも、電子中和層5Xに含まれる正孔輸送性材料としては、正孔注入性および正孔輸送性に優れるという観点から、アミン系材料であるのが好ましく、ベンジジン誘導体(ベンジジン骨格を有する材料)であるのがより好ましい。
また、電子中和層5Xに含まれる正孔輸送性材料は、正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料と同じであっても異なっていてもよいが、発光素子1の発光効率を高める観点から、正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料と同じであるのが好ましい。
【0037】
また、電子中和層5Xに含まれる電子トラップ材料は、電子を受け入れることが可能(すなわち還元されて安定)な材料である。
より具体的には、電子中和層5Xに含まれる電子トラップ性材料としては、例えば、後述する発光層6に含まれるホスト材料やゲスト材料(発光材料)、電子輸送層7に含まれる電子輸送性材料等と同様の材料を用いることができるが、電子および正孔に対する耐性に優れるとともに適度な電子トラップ性を有する(電子トラップ性が強すぎない)という観点から、発光層6に含まれるホスト材料と同様の材料を用いるのが好ましい。
【0038】
具体的には、電子中和層5Xに含まれる電子トラップ性材料としては、特に限定されないが、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、5,12−ジフェニルナフタセン等ナフタセン誘導体、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン等のアントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のキノリノラト系金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ルブレンおよびその誘導体、シロール誘導体、ジカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ベンゾピラン誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
中でも、電子中和層5Xに含まれる電子トラップ性材料は、アセン系材料であるのが好ましい。
アセン系材料は、適度な電子トラップ性を有する。そのため、電子中和層5Xにおいて必要以上に電子が消費されるのを防止し、電子中和層5Xによる発光素子1の高駆動電圧化を抑制することができる。また、アセン系材料は、電子および正孔に対する耐性に優れる。そのため、電子中和層5Xの電子および正孔による劣化を防止し、発光素子1の長寿命化を図ることができる。さらに、アセン系材料は、それ自体発光しにくいので、電子中和層5Xが発光素子1の発光スペクトルに悪影響を及ぼすのを防止することもできる。
【0040】
このようなアセン系材料は、アセン骨格を有し、かつ、前述したような効果を発揮するものであれば、特に限定されず、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体(テトラセン誘導体)、ペンタセン誘導体、ヘキサセン誘導体、ヘプタセン誘導体等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体を用いるのが好ましく、アントラセン誘導体(特に、モノ−アントラセンまたはビス−アントラセンを主骨格として有するもの)を用いるのがより好ましい。
【0041】
このようなアセン系材料(特に、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体)は、適度な電子トラップ性を有するとともに、気相成膜法を用いて比較的簡単に高品位な膜質で成膜することができる。
また、電子中和層5Xが電子トラップ性材料としてアセン系材料を含む場合、電子中和層5Xは、正孔輸送性材料としてアミン系材料を含むのが好ましい。アミン系材料は、正孔輸送性に優れる。そのため、アミン系材料を含む電子中和層5Xは、陽極3からの正孔を正孔輸送層5へ速やかに輸送することができる。
【0042】
また、この場合、電子中和層5Xは、アセン系材料およびアミン系材料を混合した混合材料で構成されているのが好ましい。これにより、電子中和層5Xの正孔輸送性および電子トラップ性のバランスを好適な範囲に比較的簡単に調整することができる。
また、電子中和層5Xに含まれる電子トラップ性材料としては、炭素元素および水素元素のみから構成されている炭化水素化合物(誘電体)を用いるのが好ましい。このような化合物は、水酸基、カルボキシル基等の極性基を有しないため、一般に、反応性に乏しく、化学的に比較的安定であり、キャリア(電子および正孔)に対する耐性に優れ、また、正孔輸送性材料との相互作用も少ない。このようなことから、発光素子1の特性を長期に亘り優れたものとすることができる。
【0043】
また、電子中和層5Xに含まれる電子トラップ性材料のガラス転移温度(Tg)は、できる限り高いのが好ましく、具体的には、80℃以上であるのが好ましく、100℃以上であるのがより好ましい。これにより、高電流密度での電流で駆動した場合において、発光素子1が高温になっても、発光素子1の熱による性能低下を防止することができる。
また、電子中和層5X中における電子トラップ性材料の含有量は、30wt%以上70wt%以下であるのが好ましく、40wt%以上60wt%以下であるのがより好ましく、50wt%以上60wt%以下であるのがさらに好ましい。これにより、発光素子1の駆動電圧を抑えつつ、電子中和層5Xの電子トラップ性を適度なものとすることができる。
【0044】
これに対し、かかる含有量が前記下限値未満であると、電子中和層5Xの厚さや電子トラップ性材料の種類等によっては、電子中和層5Xの電子トラップ性が低下する傾向を示す。また、かかる含有量が少なすぎると、電子中和層5X中の電子トラップ性材料が励起されやすくなり、電子トラップ性材料自体が発光してしまい、発光素子1全体の発光スペクトルに悪影響を及ぼす場合がある。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、電子中和層5Xの厚さや電子トラップ性材料の種類等によっては、電子中和層5Xの電子トラップ性が強すぎて、発光素子1の駆動電圧が上昇する傾向を示す。
【0045】
電子中和層5Xの平均厚さは、20nm以上60nm以下であるのが好ましく、20nm以上50nm以下であるのがより好ましく、30nm以上50nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、発光素子1の駆動電圧を抑えつつ、電子中和層5Xの電子トラップ性を適度なものとすることができる。また、発光素子1内に光の取出しを良好に行える光学的なギャップを容易に形成することができる。
【0046】
これに対し、かかる平均厚さが前記下限値未満であると、電子中和層5Xの電子トラップ性材料の濃度や構成材料等によっては、電子中和層5Xの電子トラップ性が低下する傾向を示す。一方、かかる平均厚さが前記上限値を超えると、上記光学的なギャップの形成が難しくなり、また、発光素子1の駆動電圧が上昇する傾向を示す。
また、発光素子1内から光の取出しを考慮すると、陽極3と発光層6との間の距離(すなわち、本実施形態では正孔注入層4と正孔輸送層5と電子中和層5Xとの合計厚さ)が70nm以下であるのが好ましい。したがって、本実施形態では、陽極3と発光層6との間の距離が前記範囲内となるように、正孔注入層4や正孔輸送層5の厚さに応じて、電子中和層5Xの厚さが設定される。
【0047】
(正孔輸送層)
正孔輸送層5は、陽極3から正孔注入層4および電子中和層5Xを介して注入された正孔を発光層6まで輸送する機能を有する(すなわち正孔輸送性を有する)ものである。
この正孔輸送層5は、正孔輸送性を有する材料(すなわち正孔輸送性材料)を含んで構成されている。
【0048】
この正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料には、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができ、例えば、前記式(2)で表わされる化合物、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)等のテトラアリールベンジジン誘導体、テトラアリールジアミノフルオレン化合物またはその誘導体(アミン系化合物)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
中でも、正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料としては、正孔注入性および正孔輸送性に優れるという観点から、アミン系材料であるのが好ましく、ベンジジン誘導体(ベンジジン骨格を有する材料)であるのがより好ましい。
このような正孔輸送層5の平均厚さは、特に限定されないが、5〜90nm程度であるのが好ましく、10〜70nm程度であるのがより好ましい。
【0050】
(発光層)
この発光層6は、前述した陽極3と陰極9との間に通電することにより、発光するものである。
このような発光層6は、発光材料を含んで構成されている。
このような発光材料としては、特に限定されず、各種蛍光材料、各種燐光材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0051】
赤色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、下記式(3)で表わされるテトラアリールジインデノペリレン誘導体等のペリレン誘導体、ユーロピウム錯体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ポルフィリン誘導体、ナイルレッド、2−(1,1−ジメチルエチル)−6−(2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H−ベンゾ(ij)キノリジン−9−イル)エテニル)−4H−ピラン−4H−イリデン)プロパンジニトリル(DCJTB)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)等を挙げられる。
【0052】
【化3】

【0053】
赤色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられ、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つがフェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものも挙げられる。より具体的には、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム(アセチルアセトネート)(btp2Ir(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−12H,23H−ポルフィリン−白金(II)、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0054】
青色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、下記式(4)で表わされるジスチリルジアミン系化合物等のジスチリルアミン誘導体、フルオランテン誘導体、ピレン誘導体、ペリレンおよびペリレン誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、テトラフェニルブタジエン、4,4’−ビス(9−エチル−3−カルバゾビニレン)−1,1’−ビフェニル(BCzVBi)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0055】
【化4】

【0056】
青色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。より具体的には、ビス[4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C’]−ピコリネート−イリジウム、トリス[2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス[2−(3,5−トリフルオロメチル)ピリジネート−N,C’]−ピコリネート−イリジウム、ビス(4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C’)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
緑色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、クマリン誘導体、下記式(5)で表わされるキナクリドン誘導体等のキナクリドンおよびその誘導体、9,10−ビス[(9−エチル−3−カルバゾール)−ビニレニル]−アントラセン等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0057】
【化5】

【0058】
緑色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。中でも、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つが、フェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものが好ましい。より具体的には、ファク−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、ビス(2−フェニルピリジネート−N,C’)イリジウム(アセチルアセトネート)、ファク−トリス[5−フルオロ−2−(5−トリフルオロメチル−2−ピリジン)フェニル−C,N]イリジウムが挙げられる。
【0059】
黄色の蛍光を発する蛍光材料としては、例えば、ルブレン系材料等のナフタセン骨格を有する化合物であって、ナフタセンにアリール基(好ましくはフェニル基)が任意の位置で任意の数(好ましくは2〜6)置換された化合物、モノインデノペリレン誘導体等を用いることができる。
このような発光材料(蛍光材料や燐光材料)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の発光材料を組み合わせて用いる場合、発光層6は、含まれる発光材料が互い異なる複数の層(発光層)を積層した積層体の形態としてもよいし、複数種の発光材料を混合した混合材料で構成された層の形態としてもよい。なお、発光層6が複数の発光層で構成されている場合、発光層同士の間に発光に寄与しない層(中間層)が介在していてもよい。
【0060】
また、発光層6の構成材料としては、前述したような発光材料に加えて、この発光材料がゲスト材料(ドーパント)として添加(担持)されるホスト材料を用いてもよい。このホスト材料は、正孔と電子とを再結合して励起子を生成するとともに、その励起子のエネルギーを発光材料に移動(フェルスター移動またはデクスター移動)させて、発光材料を励起する機能を有する。このようなホスト材料は、例えば、ゲスト材料である発光材料をドーパントとしてホスト材料にドープして用いることができる。
【0061】
このようなホスト材料としては、用いる発光材料に対して前述したような機能を発揮するものであれば、特に限定されないが、発光材料が蛍光材料を含む場合、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、下記式(7)で表わされる化合物等のナフタセン誘導体、下記式(6)で表わされる化合物、2−t−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(TBADN)等のアントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアミン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のキノリノラト系金属錯体、トリフェニルアミンの4量体等のトリアリールアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ルブレンおよびその誘導体、シロール誘導体、ジカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ベンゾピラン誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
【化6】

【0063】
【化7】

【0064】
特に、前述した電子中和層5Xに含まれる電子トラップ性材料がアセン系材料である場合、発光層6は、ホスト材料としてテトラセン誘導体(ナフタセン誘導体)を用いるとともに、ゲスト材料としてジインデノペリレン系誘導体を用いるのが好ましい。このようなテトラセン誘導体およびジインデノペリレン系誘導体を含む発光層6は、赤色の発光を効率的に行うことができる。
【0065】
また、発光材料が燐光材料を含む場合、第1のホスト材料としては、例えば、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニルカルバゾール、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
発光層6がホスト材料を含む場合、発光層6中における発光材料の含有量(ドープ量)は、0.01〜10wt%であるのが好ましく、0.1〜5wt%であるのがより好ましい。発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
また、発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、1〜60nm程度であるのが好ましく、3〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0066】
(電子輸送層)
電子輸送層7は、陰極9から電子注入層8を介して注入された電子を発光層6に輸送する機能を有するものである。
電子輸送層7の構成材料(電子輸送材料)としては、例えば、下記式(8)で表わされるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、下記式(9)で表わされる化合物等のアザインドリジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
【化8】

【0068】
【化9】

【0069】
また、電子輸送層7は、前述したような電子輸送性材料のうち2種以上を組み合わせて用いる場合、2種以上の電子輸送性材料を混合した混合材料で構成されていてもよいし、異なる電子輸送性材料で構成された複数の層を積層して構成されていてもよい。
電子輸送層7を異なる電子輸送性材料で構成された複数の層を積層して構成する場合、陽極側の層(第1の電子輸送層)の構成材料としては、発光層6に電子を注入することができるものであればよいが、例えば、アントラセン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体等を用いるのが好ましく、また、陰極側の層(第2の電子輸送層)の構成材料としては、電子注入層8が電子を受け取るとともに第1の電子輸送層へ電子を注入することができるものであればよいが、例えば、上記式(9)で表わされる化合物等のアザインドリジン誘導体、ピリジン誘導体、フェナントリン誘導体等を用いるのが好ましい。
【0070】
また、前記第1の電子輸送層の平均厚さは、前記第2の電子輸送層の平均厚さよりも薄いのが好ましく、前記第2の電子輸送層の平均厚さに対して0.1倍以上0.4倍以下であるのがより好ましい。これにより、電子輸送層7の電子輸送性および電子注入性を優れたものとすることができる。
電子輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、0.5〜100nm程度であるのが好ましく、1〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0071】
(電子注入層)
電子注入層8は、陰極9からの電子注入効率を向上させる機能を有するものである。
この電子注入層8の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、各種の無機絶縁材料、各種の無機半導体材料が挙げられる。
このような無機絶縁材料としては、例えば、アルカリ金属カルコゲナイド(酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物)、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらを主材料として電子注入層8を構成することにより、電子注入性をより向上させることができる。特にアルカリ金属化合物(アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物等)は仕事関数が非常に小さく、これを用いて電子注入層8を構成することにより、発光素子1は、高い輝度が得られるものとなる。
【0072】
アルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe、NaO等が挙げられる。
アルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等が挙げられる。
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等が挙げられる。
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF、BeF等が挙げられる。
【0073】
また、無機半導体材料としては、例えば、Li、Na、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Cd、Mg、Si、Ta、SbおよびZnのうちの少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物または酸化窒化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
電子注入層8の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜1000nm程度であるのが好ましく、0.2〜100nm程度であるのがより好ましく、0.2〜50nm程度であるのがさらに好ましい。
【0074】
(封止部材)
封止部材10は、陽極3、積層体14、および陰極9を覆うように設けられ、これらを気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。封止部材10を設けることにより、発光素子1の信頼性の向上や、変質・劣化の防止(耐久性向上)等の効果が得られる。
封止部材10の構成材料としては、例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。なお、封止部材10の構成材料として導電性を有する材料を用いる場合には、短絡を防止するために、封止部材10と陽極3、積層体14および陰極9との間には、必要に応じて、絶縁膜を設けるのが好ましい。
【0075】
また、封止部材10は、平板状として、基板2と対向させ、これらの間を、例えば熱硬化性樹脂等のシール材で封止するようにしてもよい。
以上のように構成された発光素子1によれば、電子中和層5Xが正孔輸送性材料を含むので、正孔輸送層5へ効率的に正孔を輸送することができる。また、正孔輸送層5が発光層6へ正孔を効率的に輸送するとともに発光層6からの電子をブロックすることができる。そのため、発光層6に効率的に電子および正孔を閉じ込めることができる。その結果、発光素子1の発光効率を高めることができる。
【0076】
特に、発光素子1では、電子中和層5Xが電子トラップ性材料を含むので、正孔輸送層5が電子をブロックしきれなくても、その電子を電子中和層5Xが中和(消滅)させることができる。これにより、電子中和層5Xに対して陽極3側に設けられた正孔注入層4が電子により劣化するのを防止することができる。また、正孔輸送層5内に電子が留まるのを防止できるので、正孔輸送層5の電子による劣化も防止できる。そのため、高電流密度での電流で駆動する場合においても、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
以上のような発光素子1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0077】
[1] まず、基板2を用意し、この基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着等の乾式メッキ法、電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
[2] 次に、陽極3上に正孔注入層4を形成する。
正孔注入層4は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成するのが好ましい。
【0078】
なお、正孔注入層4は、例えば、正孔注入材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔注入層形成用材料を、陽極3上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
正孔注入層形成用材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることもできる。かかる塗布法を用いることにより、正孔注入層4を比較的容易に形成することができる。
正孔注入層形成用材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、各種無機溶媒や、各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
【0079】
なお、乾燥は、例えば、大気圧または減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
また、本工程に先立って、陽極3の上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、陽極3の上面を親液性を付与すること、陽極3の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、陽極3の上面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、例えば、プラズマパワー100〜800W程度、酸素ガス流量50〜100mL/min程度、被処理部材(陽極3)の搬送速度0.5〜10mm/sec程度、基板2の温度70〜90℃程度とするのが好ましい。
【0080】
[3] 次に、正孔注入層4上に、電子中和層5Xを形成する。
電子中和層5Xは、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成するのが好ましい。
なお、正孔輸送材料および電子トラップ性材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる電子中和層形成用材料を、正孔注入層4上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0081】
[4] 次に、電子中和層5X上に正孔輸送層5を形成する。
正孔輸送層5は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成するのが好ましい。
なお、正孔輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔輸送層形成用材料を、電子中和層5X上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0082】
[5] 次に、正孔輸送層5上に、発光層6を形成する。
発光層6は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
[6] 次に、発光層6上に、電子輸送層7を形成する。
電子輸送層7は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成するのが好ましい。
なお、電子輸送層7は、例えば、電子輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる電子輸送層形成用材料を、発光層6上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0083】
[7] 次に、電子輸送層7上に、電子注入層8を形成する。
電子注入層8の構成材料として無機材料を用いる場合、電子注入層8は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセス、無機微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
[8] 次に、電子注入層8上に、陰極9を形成する。
陰極9は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合、金属微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
以上のような工程を経て、発光素子1が得られる。
最後に、得られた発光素子1を覆うように封止部材10を被せ、基板2に接合する。
【0084】
以上説明したような発光素子1は、それぞれ、例えば、電子写真方式を採用するプリンター、複写機、ファクシミリ装置等の露光用ヘッドの光源、センサー用の光源、照明、ピコプロジェクター(ハンディプロジェクター)用の光源、スキャナー用の光源、反射型液晶表示装置のフロントライト用の光源等の発光装置として使用することができる。このような発光装置は、長寿命な発光素子を備えるので、信頼性に優れる。
【0085】
また、複数の発光素子をマトリックス状に配置することにより、例えば、ディスプレイ装置(本発明の表示装置)を構成することができる。このような表示装置は、長期に亘り高品位な画像を表示し得るとともに、信頼性に優れる。
なお、ディスプレイ装置の駆動方式としては、特に限定されず、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリックス方式のいずれであってもよい。
また、本発明の発光素子、光源装置または表示装置を備える電子機器は、信頼性に優れる。
【0086】
次に、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の一例について説明する。
図2は、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
図2に示すディスプレイ装置100は、基板21と、サブ画素100、100、100に対応して設けられた複数の発光素子1、1、1およびカラーフィルタ19、19、19と、各発光素子1、1、1をそれぞれ駆動するための複数の駆動用トランジスタ24とを有している。ここで、ディスプレイ装置100は、トップエミッション構造のディスプレイパネルである。
【0087】
基板21上には、複数の駆動用トランジスタ24が設けられ、これらの駆動用トランジスタ24を覆うように、絶縁材料で構成された平坦化層22が形成されている。
各駆動用トランジスタ24は、シリコンからなる半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
平坦化層上には、各駆動用トランジスタ24に対応して発光素子1、1、1が設けられている。
【0088】
発光素子1は、平坦化層22上に、反射膜32、腐食防止膜33、陽極3、積層体(有機EL発光部)14、陰極13、陰極カバー34がこの順に積層されている。本実施形態では、各発光素子1、1、1の陽極3は、画素電極を構成し、各駆動用トランジスタ24のドレイン電極245に導電部(配線)27により電気的に接続されている。また、各発光素子1、1、1の陰極13は、共通電極とされている。
【0089】
図2における発光素子1は、白色発光するものである。例えば、発光素子1の発光層は、赤色に発光する発光層と青色に発光する発光層と緑色に発光する発光層とが積層された積層体、あるいは、青色に発光する発光層と黄色に発光する発光層とが積層された積層体で構成されている。
なお、発光素子1、1の構成は、発光素子1の構成と同様である。また、図2では、図1と同様の構成に関しては、同一符号を付してある。また、反射膜32の構成(特性)は、光の波長に応じて、発光素子1、1、1間で異なっていてもよい。
【0090】
隣接する発光素子1、1、1同士の間には、隔壁31が設けられている。また、これらの発光素子1、1、1上には、これらを覆うように、エポキシ樹脂で構成されたエポキシ層35が形成されている。
カラーフィルタ19、19、19は、前述したエポキシ層35上に、発光素子1、1、1に対応して設けられている。
【0091】
カラーフィルタ19は、発光素子1からの白色光Wを赤色に変換するものである。また、カラーフィルタ19は、発光素子1からの白色光Wを緑色に変換するものである。また、カラーフィルタ19は、発光素子1からの白色光Wを青色に変換するものである。このようなカラーフィルタ19、19、19を発光素子1、1、1と組み合わせて用いることで、フルカラー画像を表示することができる。
【0092】
また、隣接するカラーフィルタ19、19、19同士の間には、遮光層36が形成されている。これにより、意図しないサブ画素100、100、100が発光するのを防止することができる。
そして、カラーフィルタ19、19、19および遮光層36上には、これらを覆うように封止基板20が設けられている。
以上説明したようなディスプレイ装置100は、単色表示であってもよく、各発光素子1、1、1に用いる発光材料を選択することにより、カラー表示も可能である。
【0093】
このようなディスプレイ装置100(本発明の表示装置)は、各種の電子機器に組み込むことができる。
図3は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0094】
図4は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0095】
図5は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0096】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0097】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0098】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、データ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0099】
なお、本発明の電子機器は、図3のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図4の携帯電話機、図5のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0100】
以上、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
例えば、陽極と正孔注入層との間、正孔注入層と電子中和層との間、電子中和層と正孔輸送層との間、および、正孔輸送層と発光層との間に、それぞれ、少なくとも1つの他の層(例えば電子や正孔の注入性や輸送性を調整する層)が介在していてもよい。
【実施例】
【0101】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.発光素子の製造
(実施例1)
<1> まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板を用意した。次に、この基板上に、スパッタ法により、平均厚さ100nmのITO電極(陽極)を形成した。
そして、基板をアセトン、2−プロパノールの順に浸漬し、超音波洗浄した後、酸素プラズマ処理およびアルゴンプラズマ処理を施した。これらのプラズマ処理は、それぞれ、基板を70〜90℃に加温した状態で、プラズマパワー100W、ガス流量20sccm、処理時間5secで行った。
【0102】
<2> 次に、ITO電極上に、前記式(1)で表わされるベンジジン誘導体(正孔注入性材料)を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ40nmの正孔注入層を形成した。
<3> 次に、正孔注入層上に、前記式(2)で表わされるベンジジン誘導体(正孔輸送性材料)と、下記式(10)で表わされるアントラセン誘導体(電子トラップ性材料)とを真空蒸着法により共蒸着させ、平均厚さ20nmの電子中和層を形成した。
ここで、電子中和層は、前記式(2)で表わされるベンジジン誘導体(正孔輸送性材料)と、下記式(10)で表わされるアントラセン誘導体(電子トラップ性材料)との混合材料で構成されていた。その混合比(重量比)は、(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=50:50であった。
【0103】
【化10】

【0104】
<4> 次に、電子中和層上に、前記式(2)で表わされるベンジジン誘導体(正孔輸送性材料)を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ10nmの正孔輸送層を形成した。
<5> 次に、正孔輸送層上に、赤色発光層の構成材料を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ40nmの赤色発光層(発光層)を形成した。赤色発光層の構成材料としては、赤色発光材料(ゲスト材料)として前記式(3)で表わされるテトラアリールジインデノペリレン誘導体を用い、ホスト材料として前記式(7)で表わされるナフタセン誘導体を用いた。また、赤色発光層中の発光材料(ドーパント)の含有量(ドープ濃度)を1.0wt%とした。
【0105】
<6> 次に、赤色発光層上に、前記式(8)で表わされるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ5nmの第1の電子輸送層を形成した。
<7> 次に、第1の電子輸送層上に、前記式(9)で表わされるアザインドリジン誘導体を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ25nmの第2の電子輸送層を形成した。
これにより、第1の電子輸送層および第2の電子輸送層が積層されてなる電子輸送層を得た。
【0106】
<8> 次に、電子輸送層の第2の電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ1nmの電子注入層を形成した。
<9> 次に、電子注入層上に、Alを真空蒸着法により成膜した。これにより、Alで構成される平均厚さ150nmの陰極を形成した。
<10> 次に、形成した各層を覆うように、ガラス製の保護カバー(封止部材)を被せ、エポキシ樹脂により固定、封止した。
以上の工程により、発光素子を製造した。
【0107】
(実施例2)
正孔注入層の平均厚さを30nmとし、電子中和層の平均厚さを30nmとした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
(実施例3)
正孔注入層の平均厚さを10nmとし、電子中和層の平均厚さを50nmとした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0108】
(実施例4)
正孔注入層の平均厚さを5nmとし、電子中和層の平均厚さを60nmとし、正孔輸送層の平均厚さを5nmとした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
(実施例5)
正孔注入層の平均厚さを30nmとし、電子中和層の平均厚さを30nmとするとともに、電子中和層におけるベンジジン誘導体およびアントラセン誘導体の混合比(重量比)を、(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=70:30とした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0109】
(実施例6)
正孔注入層の平均厚さを30nmとし、電子中和層の平均厚さを30nmとするとともに、電子中和層におけるベンジジン誘導体およびアントラセン誘導体の混合比(重量比)を、(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=30:70とした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0110】
(実施例7)
正孔注入層の平均厚さを30nmとし、電子中和層の平均厚さを30nmとするとともに、電子中和層における電子トラップ性材料としてアントラセン誘導体に代えて前記式(7)で表わされるテトラセン誘導体を用いた以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0111】
(実施例8)
正孔注入層の平均厚さを30nmとし、電子中和層の平均厚さを30nmとするとともに、電子中和層における電子トラップ性材料としてアントラセン誘導体に代えて前記式(3)で表わされるテトラアリールジインデノペリレン誘導体を用いた以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0112】
(参考例)
正孔注入層の平均厚さを50nmとし、電子中和層の平均厚さを10nmとした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
(比較例)
正孔注入層の平均厚さを60nmとするとともに、電子中和層を省略した以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0113】
2.評価
2−1.発光寿命の評価
参考例、各実施例および比較例について、初期の輝度が60000cd/mとなるような電流密度で直流電源を用いて発光素子に定電流を流しつづけ、その間、輝度計を用いて輝度を測定し、その輝度が初期の輝度の90%となる時間(LT90)を測定した。そして、比較例におけるLT90の時間を1.00として規格化し、参考例、比較例および各実施例のLT90の時間を相対的に評価した。
【0114】
2−2.発光効率の評価
参考例、各実施例および比較例について、輝度計を用いて輝度を測定しながら、初期の輝度が60000cd/mとなるように、直流電源を用いて発光素子に電流を流し、そのときの電流を測定した。また、このときの発光素子に印加された駆動電圧も同様にして測定した。
【0115】
2−3.発光バランスの評価
参考例、各実施例および比較例について、輝度計を用いて輝度を測定しながら、初期の輝度が60000cd/mとなるように、直流電源を用いて発光素子に電流を流し、そのときの色度を色度計を用いて測定した。
上記の評価結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1から明らかなように、各実施例の発光素子は、参考例および比較例の発光素子に比し、長い寿命を有することが分かる。
【符号の説明】
【0118】
1、1、1、1……発光素子 2……基板 3……陽極 4……正孔注入層 5……正孔輸送層 5X……電子中和層 6……発光層 7……電子輸送層 8……電子注入層 9……陰極 10……封止部材 13……陰極 14……積層体 19、19、19……カラーフィルタ 100……ディスプレイ装置 101……発光装置 100、100、100……サブ画素 20……封止基板 21……基板 22……平坦化層 24……駆動用トランジスタ 241……半導体層 242……ゲート絶縁層 243……ゲート電極 244……ソース電極 245……ドレイン電極 27……配線 31……隔壁 32……反射膜 33……腐食防止膜 34……陰極カバー 35……エポキシ層 36……遮光層 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306……シャッタボタン 1308……回路基板 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する発光層と、
前記陽極と前記発光層との間に設けられ、正孔注入性を有する正孔注入層と、
前記正孔注入層と前記発光層との間に設けられ、正孔輸送性を有する正孔輸送層と、
前記正孔注入層と前記正孔輸送層との間に設けられ、正孔輸送性を有する正孔輸送性材料と、電子トラップ性を有する電子トラップ性材料とを含んで構成された電子中和層とを有することを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記電子中和層は、前記正孔注入層および前記正孔輸送層にそれぞれ接している請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記正孔輸送層は、電子をブロックする機能を有する請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記電子トラップ性材料は、アセン系材料である請求項1ないし3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
前記電子中和層に含まれる前記正孔輸送性材料は、アミン系材料を含む請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記電子中和層は、アセン系材料およびアミン系材料を混合した混合材料で構成されている請求項5に記載の発光素子。
【請求項7】
前記アセン系材料は、アントラセン系材料である請求項4ないし6のいずれかに記載の発光素子。
【請求項8】
前記発光層は、ホスト材料としてテトラセン誘導体、ゲスト材料としてジインデノペリレン系誘導体を含む請求項7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記電子中和層中における前記電子トラップ性材料の含有量は、30wt%以上70wt%以下である請求項1ないし8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項10】
前記電子中和層の平均厚さは、30nm以上60nm以下である請求項1ないし9のいずれかに記載の発光素子。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の発光素子を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項12】
請求項11に記載の発光装置を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項13】
請求項12に記載の表示装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−69858(P2012−69858A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215081(P2010−215081)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】