説明

発光素子の作製方法

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 本発明は、亜鉛を添加したAlxGa1-xNを有する青色発光素子の作製方法に関するものであり、特に、発光効率の優れた発光素子の製造を可能とする発光素子の作製方法に関するものである。
従来の技術 通常、AlxGa1-xN(0≦x≦1)による着色発光ダイオードの作製には、ハロゲン輸送法あるいは有機金属化合物気相成長法(MOCVD)が用いられている。このタイプの青色発光ダイオードは、発光効率、輝度などの発光ダイオードとしての特性に関して緑色や赤色の発光ダイオードの特性と比較すると、まだ改善すべき点が多く、実用化レベルに達しているものは少ないのが現状と言える。
この材料を用いて青色発光ダイオードを作製する場合には、一般的に、青色発光中心の形成をねらいとして結晶中に亜鉛を添加することがおこなわれている。しかしながら、亜鉛の添加によって青色発光中心が形成されるほかに、意図しない無放射再結合中心が導入されるため、高輝度化、高効率の障害となっていた。
発明が解決しようとする問題点 そこで、発光効率を上げるために、亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN(0≦x≦1)単結晶層を熱処理する方法が試みられ、ジー.ジャコブス(G.Jacobs)他が『ジャーナル オブ クリスタル グロース(Journal of Crystal Growth)』42巻1977年pp136−143で報告している。この報告によれば、発光効率を数倍向上させるために、95時間もの非常に長い熱処理時間を必要とする。更には、熱処理中に結晶の電気的特性が変化するという問題があった。
そこで、本発明の第1の目的は、従来の熱処理法における欠点を解決して、亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN(0≦x≦1)単結晶の特性を、その電気的特性を変えることなく改善して、高発光効率を実現できる発光素子の作製方法を提供せんとするものである。
本発明の第2の目的は、亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN(0≦x≦1)単結晶を短時間処理するだけで高発光効率を実現できる発光素子の作製方法を提供せんとするものである。
問題点を解決するための手段 本発明によるならば、亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN(0≦x≦1)単結晶層を有する発光素子の作製方法において、上記亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xNN単結晶層を形成した後、高真空中で亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN単結晶層に対して垂直に9kV〜30kVの加速電圧、0.1μA以下の試料電流で電子線を照射する。
または、前記電子線の照射において、亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN単結晶層に対して傾斜した角度で30kV以上の加速電圧、0.1μA以下の試料電流の電子線を照射する。
作用 本発明の発明者らは、亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN単結晶内に、無放射再結合中心の数を増大することなく、青色発光中心の数を増大する処理方法を種々研究して、上記した本発明を完成した。本発明の方法のように、亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN単結晶層を高真空中で電子線照射処理すると、電子線照射処理しない場合に比較して、同一電流での発光強度が増大した。これは、無放射再結合中心の数を増大することなく、青色発光中心の数を増大することができたためと考えられる。従って、本発明の方法により作製した青色発光素子は、従来と比較して、高輝度化、高効率化が実現できる。
実施例 以下、添付図面を参照して本発明による発光ダイオードの作製方法の実施例を説明する。しかし、図示し且つ以下に説明する実施例は、本発明の方法を例示するものでに過ぎず、本発明を限定するものではない。
第1図は、本発明により発光ダイオードを作製するために使用する電子線照射装置の概略構成図である。図示の電子線照射装置は、電子銃1を有し、その電子銃1から射出された電子線Bは、電子線スキャンユニット2で偏向され、電子線集束系3で集束されて、ステージ4上の試料5に照射される。電子線Bは、電子線スキャンユニット2により所与の方向に偏向され、更に、電子線集束系3により、0.01μmφから200μmφまでの間の所望のビーム径に集束される。ステージ4は、XYZ移動・面内回転および傾斜機構が付設され、保持した試料を任意の位置及び角度に置くことができ且つ任意に移動及び回転させることができる。従って、電子線スキャンユニット2またはステージ4により、大面積の試料に電子線を容易に照射することができるとともに、試料の特定な場所に選択的に電子線を照射することができる。
かかる電子線照射装置において、試料5は、XYZ移動・面内回転および傾斜機構付のステージに配置する。この試料は、例えばサファイア基板上に成長させた亜鉛添加AlxGa1-xN(0≦x≦1)であり、その成長層の厚さは1μmである。一方、ステージ4を調整して、試料5の電子線を照射すべき所望の位置に、所望の入射角で電子線が照射されるように、試料を位置つける。
第2図は、第1図に電子線照射装置に、集光ミラー、分光器および検出器からなる陰極線発光測定ユニットを付加して、いわゆる陰極線発光により試料から発光される青色発光(430nm)の強度の時間変化を観測した結果を示すグラフである。なお、例えば、集光ミラーとして回転楕円ミラーを使用する場合には、その楕円の一方の中心に、試料5を位置つけ、他方の中心に分光器を配置する。
試料は、サファイア基板上に成長させた亜鉛添加A0.1Ga0.9Nであり、その成長層の厚さは約1μmである。電子線の試料への入射角は45度で1μmφの電子線を約100μm角の範囲を走査して照射した。その走査速度は、約100μm角の範囲全体を5秒で1回走査する程度の速度である。また、試料電流(照射した電子線の電流値から反射された電子線の電流値を引いた値)は、25nAであった。
第2図より、発光強度が約10分程度の短い時間で1桁程度増大するのが分かる。
なお、試料が非可逆的に変化していることは、電子線を照射していない領域と電子線を照射した領域とにそれぞれフォトルミネッセンス法を適用し、電子線を照射していない領域より電子線を照射した領域の方が青色発光強度が強いことより、確認した。
電子線の加速電圧に関しては高すぎると結晶欠陥を生成し、好ましくない。垂直入射の場合、9kVから30kVまでの加速電圧範囲の低加速電圧の方が青色発光強度増大が顕著である。これは、試料の厚さが約1μmと薄いためと考えられる。30KVの加速電圧では、低角入射にすると青色発光強度が増大した。従って、電子線の試料への入射角を浅くすることにより、試料へ電子線照射のダメージを軽減できるとともに、1μm程度の薄い試料への電子線照射効率を向上できる。その照射角度(法線に対する角度)は、0〜70゜の範囲が好ましい。
また、試料電流に関しては0.1μA以下では電流量に比例して青色発光強度が増加した。
電子線照射による結晶の電気的特性の有無を調べるため、電子線照射前後において不純物分析を実施した。参考のため熱処理後についても不純物分析を実施した。それぞれの場合の亜鉛濃度をGaとの比で以下の第1表にまとめて示す。


第1表より電子線照射前と10分の照射後では亜鉛の濃度が殆ど変化していないことがわかる。前述したジー.ジャコブス(G.Jacobs)他『ジャーナル オブ クリスタル グロース(Journal of Crystal Growth)』42巻1977年pp136−143で述べられた熱処理の場合には、亜鉛濃度のGaに対する比が低下し、電子的特性が変化するという報告を考慮すると、電子線照射の場合、電気的特性の変化はないといえる。
第3図を参照して発光ダイオードの具体例を説明する。第3図に示すように、サファイア基板6上に、亜鉛に添加しないAlxGa1-xN(0≦x≦1)単結晶層(n型)7を形成し、次いで、結晶層7の一部に亜鉛(Zn)を選択的にドープして半絶縁性のAlxGa1-xN層(I型)8を形成する。そして、その亜鉛添加AlxGa1-xN層8に対して本発明により電子線照射した後、結晶層7及び8の各々の露出部分に金属電極を形成し、それら金属電極の各々リード線9A及び9Bを接続して、発光ダイオードを形成した。かかる発光ダイオードの両リード線9A及び9B間に電流を流したところ、従来のAlGaN発光ダイオードに比較して高い効率で発光した。
発明の効果 以上説明したように、本発明の発光素子の作製方法では、亜鉛添加AlxGa1-xN結晶(青色発光材料)成長後にその結晶に電子線を照射する。従って、通常の市販の走査電子顕微鏡あるいは陰極線発光測定装置における加速電圧および試料電流を用いて、材料の電気的特性を変化させることなく、短時間でかつ容易に青色発光強度の増大を図れる。更に、試料の厚さの薄い厚いにかかわらず、効率的に青色発光強度の増大を図れる。
また、電子線の入射角度及び集束径を調整することにより、照射面積を大きく取れ、かつ電流容量の大きい電子銃を用いれば、より短時間にかつ大面積の発光強度を増大することが容易であることはいうまでもない。
従って、緑色や赤色の発光素子に比較て高輝度化、高効率化が遅れているAlxGa1-xN結晶を使用した青色発光素子の特性の改善が図られ、工業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の方法を実施するために使用される電子線照射装置の概略構成図、
第2図は、本発明の実施例で、試料より発光される青色発光(430nm)の強度の時間依存性を示すグラフ、
第3図は、本発明による方法で作製される発光ダイオードの概略構成図である。
〔主な参照番号〕
1……電子銃
2……電子線スキャンユニット
3……電子線集束系
4……ステージ
5……試料
6……サファイア基板
7……亜鉛無添加AlGaNの結晶層
8……亜鉛添加AlGaNの結晶層
9A、9B……リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN(0≦x≦1)単結晶層を有する発光素子の作製方法において、上記亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN単結晶層を形成した後、高真空中で該亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN単結晶層に対して垂直に9kV〜30kVの加速電圧、0.1μA以下の試料電流で電子線を照射することを特徴とする発光素子の作製方法。
【請求項2】亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN(0≦x≦1)単結晶層を有する発光素子の作製方法において、上記亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN単結晶層を形成した後、高真空中で該亜鉛(Zn)添加AlxGa1-xN単結晶層に対して傾斜した角度で30kV以上の加速電圧、0.1μA以下の試料電流で電子線を照射することを特徴とする発光素子の作製方法。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【特許番号】第2587825号
【登録日】平成8年(1996)12月5日
【発行日】平成9年(1997)3月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−73138
【出願日】昭和62年(1987)3月27日
【公開番号】特開昭63−239989
【公開日】昭和63年(1988)10月5日
【出願人】(999999999)日本電信電話株式会社
【出願人】(999999999)
【出願人】(999999999)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−18184(JP,A)
【文献】特開 昭50−126180(JP,A)
【文献】特開 昭51−157064(JP,A)