発光装置、及びこれを備えた電子機器
【課題】 例えば、有機EL装置等の発光装置の放熱量を高める。
【解決手段】 第2バンク部47bは、切り込み部65が設けられることによって熱容量を低減されており、且つ陰極49と接する表面積が増大している。したがって、熱容量が低減されたことによって有機EL層50から伝達された熱が第2バンク部47bに蓄積されることなく、装置外部に放熱される。加えて、第2バンク部47bから陰極49に伝達される熱量を増やすことができ、陰極49を介して装置外部に放熱される熱量を増大させることが可能である。
【解決手段】 第2バンク部47bは、切り込み部65が設けられることによって熱容量を低減されており、且つ陰極49と接する表面積が増大している。したがって、熱容量が低減されたことによって有機EL層50から伝達された熱が第2バンク部47bに蓄積されることなく、装置外部に放熱される。加えて、第2バンク部47bから陰極49に伝達される熱量を増やすことができ、陰極49を介して装置外部に放熱される熱量を増大させることが可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL装置等の発光装置、及びそのような発光装置を備えた電子機器の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の発光装置では、装置性能及び信頼性を高めるために各種技術開発が行われている(例えば、特許文献1乃至4参照。)。また、有機EL素子等の発光素子を含めた電子素子については、機械的応力の低減或いは装置の小型化の観点から各種素子構造が提案されている(例えば、特許文献5乃至7参照。)。
【0003】
【特許文献1】特許第2773742号公報
【特許文献2】特開2003−57559号公報
【特許文献3】特開2003−249375号公報
【特許文献4】特表2003−504894号公報
【特許文献5】特開平11−307241号公報
【特許文献6】特表2003−504676号公報
【特許文献7】特開2003−51383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の発光装置を長時間動作させた場合、或いは高温で動作させた場合に有機EL素子の輝度が低下し、装置の寿命が著しく低下する技術的問題点があることが知られている。有機EL素子の輝度が低下する原因の一つは、有機EL素子が発光する際に生じる熱を素子外部に効率良く放熱できないことによる素子特性の劣化であると考えられている。したがって、有機EL素子から効率良く熱を逃がす放熱特性を向上させることが、有機EL装置の寿命を延ばすためには重要になる。
【0005】
しかしながら、特許文献1乃至7には、放熱特性を向上させるための構造或いは材料に言及した記載は見られない。また、有機EL素子等を備えた大型サイズの発光装置或いは自動車等の表示部に用いられる発光装置には高い信頼性が要求されることもあり、発光装置及びこれを備えた各種電子機器の長寿命化を目的として今後益々素子及び装置の温度上昇を抑制することを目的とする技術的要請が高まっていくものと考えられる。
【0006】
よって、本発明は上記技術的問題点及び要請を鑑みてなされたものであり、熱を効率良く放熱できる発光装置、及びこれを備えた電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明に係る発光装置は上記課題を解決するために、基板と、前記基板上に設けられており、前記基板上の画像表示領域を構成する複数の画素領域の各々内に設けられた複数の凹部を規定する隔壁部と、前記隔壁部上に開口するように前記隔壁部に形成された切り込み部と、前記複数の凹部に形成された複数の発光部とを備える。
【0008】
本発明の第1の発明に係る発光装置によれば、隔壁部は凹部を規定しているため、凹部に形成される発光部と接しており、発光部で発生した熱が隔壁部に直接伝達される。隔壁部は切り込み部が形成されている分、切り込み部が形成されていない場合に比べて熱容量が低減されており、例えば発光部が発光することによって生じた熱が隔壁部に蓄積されることを低減できる。ここで、「熱容量」とは、隔壁部に保持可能な熱量を意味し、「熱容量が低減される」とは、例えば、発光部等の熱源に近い領域の隔壁部によって保持される熱量が低減されたため、発光部に近い領域から離れた領域に隔壁部を介して速やかに熱が伝達されることを意味する。より具体的には、隔壁部の体積に応じて発光部に近い隔壁部の一部の体積が減少し、その分保持しきれない熱量が隔壁部のうち発光部からはなれた部分に速やかに伝達されることを意味する。したがって、切り込み部が形成された分、発光部で発生した熱が隔壁部を介して発光部から離れた部分に速やかに伝達されることになる。
【0009】
また、切り込み部が形成された分、切り込み部を形成しない場合に比べて隔壁部の表面積が増大しているため、隔壁部の表面から放熱される熱量が増えることになる。したがって、切り込み部を形成しない場合に比べて隔壁部の表面から放熱される熱量が増大し、発光部に蓄積される熱が低減される。これにより、発光部から熱を放熱する放熱特性が高められ、発光部の温度上昇が抑制される。加えて、隔壁部における熱容量の低減及び表面積の増大の相乗効果によって、発光部の温度上昇を効果的に抑制でき、熱による発光部の特性劣化が抑制された結果、発光装置の寿命を延ばすことが可能になる。
【0010】
尚、本発明の「切り込み部」は、隔壁部が凹部を形成でき、且つ隔壁部の表面積を増大できる形状であれば如何なる形状でもよい。また、「切り込み部」は、隔壁部が形成された後に隔壁部の一部を除去して形成されたものでもよいし、最終的に切り込み部が形成されるように隔壁部の形状を予め所定の形状に形成しておいてよい。また、本発明に係る発光装置は、トップエミッション型又はボトムエミッション型の有機EL素子の何れの発光素子を備える発光装置にも適用可能であることは言うまでもない。また、本発明の発光装置によれば、配線又は素子等に電流が流れることによって発生するジュール熱も装置外部に放熱できることは言うまでもない。
【0011】
このように、本発明の第1の発明に係る発光装置によれば、発光部の温度上昇を抑制でき、装置の寿命を延ばすことが可能である。よって、発光装置を長期間に亘って安定して動作させることが可能である。
【0012】
本発明の第1の発明に係る発光装置の一の態様においては、前記隔壁部は、平面的にみて前記複数の画素領域に延在しており、前記切り込み部は、前記複数の画素領域に渡って格子状に延びていてもよい。
【0013】
この態様によれば、隔壁部は、平面的にみて複数の画素領域に延在しているため、発光部で発生した熱を装置外部に逃がすための伝熱路として機能し、発光部で発生した熱が順次隔壁部を介して装置外部に放熱される。ここで、「平面的にみて」とは、「基板に沿って延在する平面上で」という意味であり、より具体的には、例えば基板の基板面に沿って、或いは基板上に形成された他の層の表面に沿って隔壁部が延在されていることを意味する。このように画像表示領域内に延在された隔壁部に切り込み部を形成することによって装置全体で隔壁部の表面積が増大するため、画像表示領域全体で放熱量を高めることが可能である。加えて、複数の画素領域に渡って延在する隔壁部を介して画像表示領域の中央付近に蓄積される熱が画像表示領域の外側に向かって速やかに伝熱され、画像表示領域内における装置の温度ばらつきを低減できる。したがって、発光部の寿命を延ばすことができることに加え、異なる画素領域の夫々に設けられた発光部の温度の違いによる輝度のバラツキも低減することが可能であり、発光装置の表示特性を高めることも可能である。
【0014】
よって、この態様によれば、装置の寿命を延ばすことができることに加え、例えば発光部の輝度バラツキに起因する画質の低下を抑制でき、長期間に亘って高い表示性能を維持できる発光装置を提供できる。
【0015】
本発明の第1の発明に係る発光装置の他の態様においては、前記隔壁部の表面及び前記複数の発光部の表面を被うように形成された電極を更に備えていてもよい。
【0016】
この態様によれば、電極は、隔壁部の表面及び発光部の表面に被うように直接或いは間接的に電極が形成されており、隔壁部の表面及び発光部の表面の両方から熱を逃がすことができる。加えて、電極は、隔壁部に切り込み部が形成されている分、隔壁部の表面と直接或いは間接的に接する面積が増大しており、隔壁部に蓄積される熱が隔壁部の表面を介して電極に効率良く伝達され、装置外部に放熱される。したがって、この態様によれば、発光装置全体で電極に熱を伝達できると共に、電極を介して発光部及び隔壁部から熱を効率良く逃がすことが可能である。尚、電極は、例えば、発光装置における電極と接する他の構成要素、或いは電極と電気的に接続される配線等と接しており、電極に伝達された熱は速やかに装置外部に放熱される。
【0017】
本発明の第1の発明に係る発光装置の他の態様においては、前記電極は、前記隔壁部より熱伝導率が高くてもよい。
【0018】
この態様によれば、隔壁部を介して発光部から熱を放熱することに加え、電極を形成したことによって隔壁部以外に熱を伝える伝熱路を設けた利点を活かしながら放熱を効率良く行うことができる。電極が、例えば発光部の陰極である場合には、電極が接する発光部の表面の面積は、隔壁部が発光部と接する領域の面積より大きくなるため、発光部の外側に直接伝達される熱量を増大させることができ、隔壁部のみを介した放熱に比べてより一層効果的に発光部からの放熱量を増大させることが可能である。
【0019】
本発明の第1の発明に係る発光装置の他の態様においては、前記電極は、Al、Cu、Ag、Auから選ばれた少なくとも一種の材料を含んでいてもよい。
【0020】
この態様によれば、電極をして放熱される熱量を大きくすることができ、発光部の温度上昇をより効果的に抑制できる。例えば、隔壁部がアクリル樹脂或いはポリイミド樹脂等の高分子材料で形成されている場合、これら高分子材料に比べてAl等の材料は格段に熱伝導率が高く、電極を介して効率良く放熱できる。
【0021】
本発明の第1の発明に係る発光装置の他の態様においては、前記隔壁部は、第1隔壁部と該第1隔壁部上に形成された第2隔壁部とを有しており、前記1隔壁部の表面が露出するように前記第2隔壁部の一部が除去されていてもよい。
【0022】
この態様によれば、切り込み部を形成することによって第2隔壁部の表面積を可能な限り増大させることができ、第2隔壁部が除去されたことにより隔壁部全体の表面から放熱される熱量を増大させることができる。より具体的には、第1隔壁部の表面が露出するように第2隔壁部の一部を除去することにより、第2隔壁部の表面のうち切り込み部に臨む面積を大きくとることができ、隔壁部を介した放熱量を一層増大させることができる。
【0023】
本発明の第2の発明に係る発光装置は上記課題を解決するために、基板と、前記基板上に設けられており、前記基板上の画像表示領域を構成する複数の画素領域の各々内に設けられた複数の凹部を規定する隔壁部と、前記隔壁部内に形成された中空部と、前記複数の凹部に形成された複数の発光部とを備える。
【0024】
本発明の第2の発明に係る発光装置によれば、本発明の第1の発明に係る発光装置と同様に隔壁部の熱容量を低減でき、発光部の温度上昇を抑制でき、装置の寿命を延ばすことが可能である。よって、発光装置における長期間に亘る安定した動作を実現できる。
【0025】
本発明の第1及び第2の発明に係る発光装置の一の態様においては、前記発光部は、有機EL層を有していてもよい。
【0026】
この態様によれば、有機EL層の特性劣化を抑制でき、長期間に亘って所定の輝度で有機EL層を発光させることが可能である。
【0027】
本発明に係る電子機器は上記課題を解決するために、上述した本発明の発光装置を具備している。
【0028】
本発明に係る電子機器によれば、上述した本発明の第1又は第2の発明に係る発光装置を具備してなるので、長期間に亘って高品位の表示が可能な、投射型表示装置、携帯電話、PDA、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネル、更には電気光学装置を露光用ヘッドとして用いたプリンタ、コピー、ファクシミリ等の画像形成装置などの各種電子機器を実現できる。更に、本発明の電子機器は放熱特性に優れているため、車両に搭載されるカーナビゲーション等が備える表示装置、及び車両の動作状態を示すインパネに設けられる表示部等のように高温環境下で長時間駆動されるものの信頼性を高めることが可能である。また、長期間に亘って優れた表示性能を維持することができる電子機器を提供することができる。
【0029】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1及び第2の発明に係る発光装置、及びこれを備えた電子機器の実施形態について詳細に説明する。尚、以下では本発明の第1の発明に係る発光装置の夫々一例である有機EL装置を第1及び第2実施形態において説明し、第2の発明に係る発光装置の一例である有機EL装置を第3実施形態において説明する。
【0031】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の有機EL装置10の全体構成を示すブロック図である。有機EL装置10は、駆動回路内蔵型のアクティブマトリクス駆動方式で駆動される表示装置であり、有機EL装置10が有する各画素部70は有機EL素子72を備えている。
【0032】
有機EL装置10の画像表示領域110には、縦横に配線されたデータ線114及び走査線112が設けられており、それらの交点に対応する各サブ画素部70R、70G、及び70Bはマトリクス状に配列され、これら3つのサブ画素部を一組として一つの画素部70が構成されている。サブ画素部70R、70G及び70Bは、赤色に発光する有機EL素子72R、緑色に発光する有機EL素子72G及び青色に発光する有機EL素子72Bを夫々有している。更に、画像表示領域110には各データ線114に対して配列されたサブ画素部70R、70G及び70Bに対応する電源供給線117が設けられている。
【0033】
画像表示領域110の周辺に位置する周辺領域には、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150が設けられている。走査線駆動回路130は複数の走査線112に走査信号を順次供給する。データ線駆動回路150は、画像表示領域110に配線されたデータ線114に画像信号を供給する。尚、走査線駆動回路130の動作とデータ線駆動回路150の動作とは、同期信号線160を介して相互に同期が図られる。電源供給線117には、外部回路から画素部を駆動するための画素駆動用電源が供給される。図1中、一つの画素部70に着目すれば、画素部70には、有機EL素子72R、72Gお呼び72Bが設けられると共に、例えばTFTを用いて構成されるスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74、並びに保持容量78がサブ画素部毎に設けられている。スイッチング用トランジスタ76のゲート電極には走査線112が電気的に接続されており、スイッチング用トランジスタ76のソース電極にはデータ線114が電気的に接続され、スイッチング用トランジスタ76のドレイン電極には駆動用トランジスタ74のゲート電極が電気的に接続されている。また、駆動用トランジスタ74のドレイン電極には、電源供給線117が電気的に接続されており、駆動用トランジスタ74のソース電極には有機EL素子72の陽極が電気的に接続されている。尚、図1に例示した画素回路の構成の他にも、電流プログラム方式の画素回路、電圧プログラム方式の画素回路、電圧比較方式の画素回路、サブフレーム方式の画素回路等の各種方式の画素回路を採用することが可能である。
【0034】
次に、図2及び図3を参照しながら有機EL装置10の具体的な構成を説明する。図2は、有機EL装置10の概略構成を示す平面図であり、図3は図2のIII−III´線断面図である。
【0035】
図2において、有機EL装置10は、基板1、画素部70、本発明の「隔壁部」の一例であるバンク部47、切り込み部65、及び有機EL素子72を備えている。
【0036】
画素部70は、基板1上における画像表示領域110にマトリクス状に配設されている。画素部70は、図中横方向に沿って配列された3つのサブ画素部70R、70G及び70Bを一組として構成されており、画像表示領域110の図中縦方向及び横方向の夫々に沿って配列されている。バンク部47は、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから構成されており、各画素領域においてこれら有機EL素子72が形成される凹部62を規定しつつ、基板1上における画像表示領域110の全体に延在している。切り込み部65は、画像表示領域110内で格子状に延びるように第2バンク部47bの一部を除去して形成されており、第1バンク部47aが切り込み部65から臨む。切り込み部65が形成された分、第2バンク部47bの表面積は増大している。加えて、第2バンク部47bの一部が除去されたことによってバンク部47全体で熱容量を低減できる。また、バンク部47は、画像表示領域110全体に延在されているため、有機EL素子72で発生した熱を装置外部に逃がすための伝熱路として機能し、有機EL素子72で発生した熱が順次バンク部47を介して装置外部に放熱される。これにより、画像表示領域110の中央付近に蓄積される熱が画像表示領域110の外側に向かって速やかに伝熱され、画像表示領域110内における有機EL素子72の温度上昇を抑制できると共に、画像表示領域110内における各画素部70の温度バラツキを低減することが可能である。サブ画素部70R、70G及び70Bの夫々に設けられた有機EL素子72R、72G及び72Bは、凹部62の底部から基板1の上側、即ち図中手前側に臨む。
【0037】
図3において、有機EL装置10は、基板1、基板1上に形成された有機EL素子72、駆動用トランジスタ74、バンク部47、切り込み部65、及び封止部20を備えている。尚、有機EL素子72は、図中下側に光を出射するボトムエミッション型の有機EL素子であるが、図中上側に光を出射するトップエミッション型の有機EL素子を備えた有機EL装置でも本発明の発光装置は適用可能であることは言うまでもない。
【0038】
基板1は、例えば、ガラス基板等で構成されており、有機EL素子72が図中下側に出射する光を透過させる。したがって、図1に示す駆動用トランジスタ74及びスイッチング用トランジスタ76は、基板1における有機EL素子72の下側の領域を避けるように形成されている。基板1は、基板1上に有機EL素子72が形成されているだけでなく、図1に示す走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150の各種回路を備えている。このような回路は、基板1における画像表示領域110の周辺領域に設けられる。
【0039】
有機EL素子72は、本発明の「発光部」の一例である有機EL層50、陰極49、及び陽極34を備えて構成されている。
【0040】
有機EL層50は、後述するように発光層を含む複数の有機層を備えており、これら有機層は、複数の有機EL層50を互いに隔てるための素子分離部として機能するバンク部47に囲まれた凹部62に有機材料を塗布することによって形成されている。より具体的には、有機EL層50は、塗布法の一例であるインクジェット法を用いて各有機層を形成するインクを凹部62に順次塗布することによって形成されている。有機EL層50の端部、即ち後述するバンク部47と接する部分は有機EL層50の中央付近の膜厚より若干厚めに形成されている。したがって、有機EL層50は、その端部において陰極49及び陽極34間がショートすることを抑制できる。加えて、有機EL層50の中央付近は平坦であるため、有機EL層50の中央付近で均一な輝度で発光することが可能である。
【0041】
バンク部47は、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから構成されており、有機EL層50が形成される凹部62を規定する。第1バンク部47aは、SiO、SiO2又はTiO2等の無機材料で構成される無機材料層であり、例えば、保護層45上にCVD(Chemical Vapor Deposition;化学蒸着)法、コート法、スパッタ法等の膜形成法を用いて形成されている。第2バンク部47bは、アクリル樹脂、又はポリイミド樹脂等の有機材料で構成される有機材料層であり、図中上側に向かって先細りとなるテーパー形状を有している。第2バンク部47bは、第1バンク部47a上に有機材料層を形成した後、この有機材料層をフォトリソグラフィ技術等を用いてパターニングすることによって形成されている。第2バンク部47bは、その底部が図中横方向に沿って第1バンク部47aより小さめとなるように形成されている。また、第2バンク部47bは、凹部62に形成された有機EL層50の端部と接しており、有機EL層50で生じた熱が直接第2バンク部47bに伝達される。
【0042】
尚、バンク部47は、隣接する有機EL層50間で実使用上支障が生じない範囲で絶縁性を維持されるように金属等の熱伝導材料を所定量含んでいてもよい。また、バンク部47は、熱放射によって放熱量を増大させることができるように、例えばアクリル樹脂等より熱放射率が高いAl2O3、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO、SiCから選ばれた少なくとも一種の材料をバンク部47の形成に支障が生じない範囲で含んでいてもよい。このような熱伝導材料或いは熱放射材料を含むバンク部47によれば、第2バンク部47bの熱容量の低減及び表面積の増大に伴って高められた有機EL装置の放熱特性をより向上させることが可能である。
【0043】
切り込み部65は、第1バンク部47bの一部を除去し、第1バンク部47aが切り込み部65から図中上側に臨むように第2バンク部47bの上側に開口する。第2バンク部47bは、切り込み部65が形成されている分、切り込み部65が形成されていない場合に比べて熱容量が低減されており、有機EL層50が発光することによって生じた熱がバンク部47に蓄積されることを低減できる。より具体的には、第2バンク部47bの体積が減少した分、有機EL層50から第2バンク部47bに伝達された熱が第2バンク部47bを介して有機EL層50から離れた領域に速やかに伝達される。その結果、有機EL層50に近傍のバンク部47に蓄積される熱を低減でき、有機EL層50の発光時における温度上昇を抑制することが可能である。
【0044】
尚、切り込み部65は、第2バンク部47b上に開口するように第2バンク部47bに形成されていればよい。即ち、第2バンク部47bの熱容量を低減し、且つ第2バンク部47bが陰極49と接する面積を増大させる形状であれば如何なる形状であってもよい。また、切り込み部65は、第2バンク部47bが形成された後に第2バンク部47bの一部を除去して形成されたものでもよいし、最終的に切り込み部65が形成されるように第2バンク部47bの形状を予め所定の形状に形成しておいてもよい。
【0045】
陰極49は、第2バンク部47bの表面及び有機EL層50の表面を被うように形成されている。よる具体的には、陰極49は、第2バンク部47bの表面及び切り込み部65の内壁面に沿って形成されており、有機EL層50或いは第2バンク部47bを介して直接有機EL層50で発生した熱が伝達される。第2バンク部47bに切り込み部65が形成されていることにより、切り込み部65を形成しない場合に比べて陰極49が第2バンク部47bと接する接触面積は増大しており、その分第2バンク部47bから陰極49に伝達される熱を増大させることが可能である。これにより、切り込み部65を形成しない場合に比べてより効果的に有機EL層50で発生した熱を陰極49に伝達することができ、有機EL層50の発光時における温度上昇を抑制することが可能である。ここで、陰極49の熱伝導率を第2バンク部47より高くしておけば、陰極49を介した放熱量を更に増大させることが可能である。例えば、陰極49は第2バンク部47bを構成するアクリル樹脂等の樹脂より熱伝導率が高いAl等の金属薄膜で形成されることが多いため、有機EL層50の温度上昇を抑制するための伝熱路として効果的に機能する。また、放熱量を高めるために、陰極49は、Al、Cu、Ag、Auから選ばれた少なくとも一種の材料を含んでいてもよい。更に、陰極49は、有機EL層50との接合性及び熱伝導率を考慮してこれら材料から選ばれた複数の材料によって構成された多層構造を有していてもよい。
【0046】
電極49は、有機EL装置における陰極49と接する他の構成要素、或いは電極49と電気的に接続される配線等と接しており、陰極49に伝達された熱は速やかに装置外部に放熱されることになる。尚、本実施形態では、後述するように有機EL層50は電子注入層を含んでいるが、発光層を含む有機EL層50及び陰極49間に有機EL層50と別層とされる電子注入層或いは電子輸送層等の各種層が介在してもよい。即ち、陰極49は、第2バンク部47bの表面及び有機EL層50の表面に直接或いは間接的に形成されていればバンク部47及び有機EL層50の両方から放熱される熱量を相応に増大させることができ、これに伴い有機EL層50及び有機EL層全体の温度上昇を抑制できる。
【0047】
陰極49は、基板1上に形成された各有機EL素子72で共通とされる共通電極であり、第2バンク部47b、切り込み部65、及び有機EL層50の表面に沿って延在するように形成されている。陰極49は、基板1上で平面的に見て複数の有機EL素子72間で物理的に接続された電極、或いは一枚の連続した電極として延在しているため、有機EL素子72で発生した熱を装置外部に放熱できる。加えて、陰極49は、切り込み部65の表面に沿って形成されているため、切り込み部65を設けない場合に比べて第2バンク部47bに接する面積が大きくなる。更に、陰極49は、切り込み部65の底部で第1バンク部47aとも接しているため、陰極49の面積をより大きくとることができる。これにより、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから陰極49を介して熱を放熱することが可能である。
【0048】
陽極34は、基板1上に順次形成されたゲート絶縁層2、層間絶縁膜41、保護層45、及び第1バンク部47aのうち第1バンク部47aに埋め込まれるように形成されている。陽極34は、例えば、有機EL層50から出射された光を図中下側に透過するようにITO等の透明材料で形成された透明電極である。
【0049】
駆動用トランジスタ74のソース電極74sは、図1に示す電源供給線117に電気的に接続されており、ドレイン電極74dは陽極34に電気的に接続されている。駆動用トランジスタ74は、図1に示すデータ線114を介してゲート電極3aに供給されるデータ信号に応じてオンオフされ、駆動電流を有機EL素子72に供給する。このような素子を含む回路は、有機EL素子50から基板1側に出射される光を遮らないように、有機EL素子50の下側を避けるように設けられている。また、駆動用トランジスタ74と同様に図1に示すスイッチング用トランジスタ76も基板1上に形成されている。
【0050】
半導体層3は、例えば低温ポリシリコン技術を用いて形成された多結晶シリコン層或いはアモルファスシリコン層である。半導体層3上には、半導体層3を埋め込んで、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び図1に示す走査線112は、ゲート絶縁層2上に形成されている。走査線112の一部は、スイッチング用トランジスタ76のゲート電極として形成されている。
【0051】
走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込んで、ゲート絶縁層2上には図2に示す層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41及びゲート絶縁層2は例えばシリコン酸化膜から構成されている。層間絶縁層41上には、例えばアルミニウム(Al)又はITO(Indium Tin Oxide)を含む導電材料から夫々構成される、データ線114及び電源供給線117、更には駆動用トランジスタ74のソース電極74sが形成されている。層間絶縁層41には、層間絶縁層41の表面から層間絶縁層41及びゲート絶縁層2を貫通して、駆動用トランジスタ74の半導体層3に至るコンタクトホール501及び502が形成されている。電源供給線117及びドレイン電極74dを構成する導電膜は、コンタクトホール501及び502の各々の内壁に沿って半導体層3の表面に至るように連続的に形成されている。層間絶縁層41上には、電源供給線117及びドレイン電極74dを埋め込んで、保護層45として例えばシリコン窒化膜(SiNx)ないしシリコン酸化膜(SiOx)が形成されている。保護層45上には、例えばシリコン酸化膜よりなる第1バンク部47aが形成され、更に第1バンク部47a上に第2バンク部47bが形成されている。第1バンク部47a及び第2バンク部47bによって、画素部における有機EL層50の形成領域が規定されている。
【0052】
封止板20は、分が有機EL装置10の外部から備える有機EL層50に浸入することを防止する。より具体的には、封止板20は、基板1上に接着剤によって接着されており、有機EL装置10の外気が有機EL素子72に触れないように有機EL素子72を封止する。基板1上に封止板20を接着する接着剤は、熱硬化樹脂或いは紫外線硬化樹脂を含んでおり、例えば、熱硬化樹脂の一例であるエポキシ樹脂を封止板20の周縁部にディスペンサ等の塗布手段を用いて塗布される。
【0053】
封止板20における陰極49に臨む側の面において、封止板20の周縁部は中央部に対して凸状となっており、有機EL素子72が封止板20によって封止された状態で、封止板20の中央部及び有機EL素子72の間に一定の空間が介在する。封止板20及び有機EL素子72間の空間には、不活性ガス、樹脂或いはオイル等の充填材が充填され、この充填材により装置外部から侵入する水分を低減する。また、封止板20及び有機EL素子72間の空間は、封止板20及び基板1で封止された真空であってもよい。尚、封止板20は、有機EL素子72から放射される赤外線を透過する透明板であり、例えば、ガラス板、又は防湿処理を施したプラスチック板を用いることができる。特に、封止板20としてガラス基板を用いた場合には、ガラス基板である基板1及び封止板20の熱膨張率が同等であることから、熱膨張率の違いに起因するこれら板間のひずみを低減することができ、装置全体の信頼性を高めることが可能である。
【0054】
このように、本実施形態の有機EL装置10によれば、有機EL層50の温度上昇を抑制でき、有機EL層50の輝度を長時間所定の値に維持することが可能である。これにより、装置の寿命を延ばすことが可能であり、有機EL装置における長期間に亘る安定した動作を実現できる。また、切り込み部65によれば、画像表示領域110の中央付近及びで端付近の夫々に設けられた有機EL層50における放熱量を均一にでき、画像表示領域110内における温度バラツキを一因とする画質の低下を抑制できる。
【0055】
次に、図4及び図5を参照して、有機EL素子72の詳細な構成について説明する。図4は、有機EL素子72を含む任意の画素部の平面図であり、図5は図4に示す画素部のA−A´線断面図である。尚、図4及び図5においては、各層・各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層・各部材ごとに縮尺を異ならしめてある。尚、図4及び図5に加えて、随時図1乃至図3も参照する。
【0056】
図4において、図2に示す基板1上には、駆動用トランジスタ74の半導体層3が形成されている。尚、本実施形態では詳細な説明を省略するが、駆動用トランジスタ74と同様に図1に示すスイッチング用トランジスタ76も基板1上に形成されている。半導体層3は、例えば低温ポリシリコン技術を用いて形成された多結晶シリコン層或いはアモルファスシリコン層である。半導体層3上には、半導体層3を埋め込んで、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。更には、ゲート絶縁層2上に、駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び走査線112が形成されている。走査線112の一部は、スイッチング用トランジスタ76のゲート電極として形成されている。ゲート電極3a及び走査線112は、Al(アルミニウム)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、銅(Cu)、クロム(Cr)等のうち少なくとも一つを含む金属材料を用いて形成されている。
【0057】
走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込んで、ゲート絶縁層2上には図2に示す層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41上には、電源供給線117及びドレイン電極74dを埋め込んで、図2に示す保護層45が形成されている。
【0058】
保持容量78の下部容量電極は、走査線112と同一の層に、例えば同様の材料を用いて形成され、電源供給線117の一部が保持容量78の上部容量電極として形成されている。層間絶縁層41は誘電体膜として形成されており、層間絶縁層41の一部分が下部容量電極及び上部容量電極の間に挟持される。
【0059】
有機EL装置10の駆動時、走査線112を介して走査信号が供給されることにより、スイッチング用トランジスタ76がオン状態になる。スイッチング用トランジスタ76がオン状態となると、データ線114より画像信号が保持容量78に供給される。この保持容量78に供給された画像信号の電圧に応じて、駆動用トランジスタ74の電気的な導通状態が決まる。保持容量78に供給された画像信号に応じた電流が、駆動用トランジスタ74のチャネルを介して電源供給線117より有機EL素子72に供給されると、供給された電流に応じて有機EL層50に含まれる発光層が発光する。
【0060】
図5において、有機EL素子72は、基板1上に順次形成された陽極34、有機EL層50、及び陰極49を備えて構成されており、有機EL層50は正孔注入層50c、発光層50a及び電子注入層50bを備えて構成されている。
【0061】
有機EL層50を構成する正孔注入層50c、発光層50a及び電子注入層50bはこの順で陽極34上に形成されている。
【0062】
電子注入層50bは、カルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)等の仕事関数の低い材料を用いて形成されている。電子注入層50bによれば、電流駆動型の発光層50aに電子を効率良く注入でき、発光層50aの発光効率を高めることが可能である。尚、電子輸送層が陰極49及び発光層間に設けられていてもよいし、電子注入層50bが電子輸送層を含んで構成されていてもよい。
【0063】
発光層50aは、有機EL材料を用いて構成されている。このような有機EL材料としては、例えば(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、またはこれらの高分子材料にルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等をドープした材料を用いることができる。
【0064】
正孔注入層50cは、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン等のポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸等の混合物を用いて形成されている。
【0065】
有機EL層50を構成する各材料は、有機EL素子72が駆動されるに伴って生じる熱によって高温に曝されると特性劣化を生じ易い。したがって、本実施形態の有機EL装置10によれば、有機EL素子72から効率良く放熱でき、有機EL装置10の寿命を延ばすことが可能である。尚、陰極49を介した熱伝導によっても相応の放熱効果は得られる。
【0066】
(第2実施形態)
次に、図6を参照しながら本実施形態の有機EL装置100を説明する。図6は、本実施形態の有機EL装置100の構成を示す断面図である。尚、以下で説明する各実施形態の有機EL装置では、第1実施形態の有機EL装置と共通する部分に共通の参照符号を付して説明し、共通部分についての詳細な説明は便宜省略する。
【0067】
図6において、本実施形態の有機EL装置100は、切り込む部65aがV字型であるいる点で第1実施形態の有機EL装置10と相違する。陰極49は、切り込み部65aの内壁面、第2バンク部47bの表面、及び有機EL層50の表面に渡って延在するように形成されている。有機EL層50で発生した熱は、有機EL層50及び第2バンク部47bの表面を介して陰極49に伝達される。ここで、第2実施形態と同様に、第2バンク部47bに切り込み部65aが形成されていることにより、第2バンク部47bの熱容量が低減されており、且つ第2バンク部47b及び陰極49の接触面積が増大しているため、有機EL層50で発生した熱は、第2バンク部47b及び陰極49を介して装置外部に放熱される。したがって、有機EL層50の温度上昇を抑制でき、有機EL装置100の寿命を延ばすことが可能である。
【0068】
尚、第1及び第2実施形態の有機EL装置が備える切り込み部65及び65aは、各実施形態で示した形状に限定されるものではない。例えば、断面上でテーパー形状であってもよいし、異なる形状の切り込み部が異なる画素領域の第2バンク部47bの夫々に形成されていてもよい。
【0069】
(第3実施形態)
次に、図7を参照しながら本実施形態の有機EL装置200を説明する。図7は、本実施形態の有機EL装置200の構成を示す断面図である。有機EL装置200は、第2バンク部47bに切り込み部の代わりに中空部69が設けられている点で第1及び第2実施形態の有機EL装置と相違する。
【0070】
図7において、有機EL装置200は、第2バンク部47bに設けられた中空部69を備えている。中空部69は、第2バンク部47bの体積を低減するように第2バンク部47b中に形成されていれば如何なる形状であってもよい。中空部69によれば、アクリル樹脂或いはポリイミド樹脂等の樹脂で構成された第2バンク部47bの熱容量を低減できるため、有機EL層50で生じた熱がバンク部47に蓄積されることなく有機EL層50から離れた領域に速やかに伝達される。第2バンク部47bは、外側の表面及び中空部69に臨む内側の表面の両方から放熱できるため、中空部69を設けない場合に比べて第2バンク部47bの表面から放熱される熱量を増大させることが可能である。また、バンク部47は、平面的に見て基板1上を被うように複数の画素領域に渡って延在するように形成されているため、中空部69を第2バンク部47bが延在する方向に沿って連通するように形成しておくことにより、中空部69を介して有機EL層50で生じた熱を放熱できる。
【0071】
よって、本実施形態の有機EL装置200によれば、第1及び第2実施形態の有機EL装置と同様に、バンク部47の熱容量を低減することによって放熱量の増大させることができ、有機EL層50の温度上昇を抑制することが可能である。その結果、有機EL装置200の寿命を延ばすことができ、有機EL装置を長期間に亘って安定して動作させることが可能である。尚、第2バンク部47bは、アクリル樹脂或いはポリイミド樹脂等の基材と共に実使用上支障が生じない程度に金属等の熱伝導材料又は第2バンクb47bの熱放射率を高めるための熱放射材料を含んでいてもよい。
【0072】
このように、中空部60が設けられた第2バンク部47bによれば、有機EL装置200及び有機EL素子72の構造を大きく変更することなく、有機EL素子72及び有機EL装置200から効率良く放熱することが可能である。
【0073】
尚、上述した第1乃至第3実施形態では、有機EL層50で発生した熱を装置外部に放熱する観点に注目して各有機EL装置の構成を説明したが、切り込み部65及び中空部69の少なくとも一方を備えた有機EL層装置によれば、有機EL層50で生じた熱の放熱量を増大させるだけでなく、各有機EL装置で熱源となりうる部分の全てから効率良く放熱することが可能である。より具体的には、例えば、配線等或いは駆動トランジスタ等の電子素子で発生したでジュール熱もバンク部47を介して装置外部に効率良く放熱できる。
【0074】
(実験結果)
次に、表1を参照しながら第1及び第2実施形態の有機EL装置について行った実験結果を説明する。表1は、従来構造の有機EL装置と、第1及び第2実施形態の有機EL装置とを駆動させた際の夫々の基板表面の温度を測定した結果を示す。尚、基板の表面温度は、各有機EL素子が形成された基板表面に熱電対を取り付けて測定された値である。試料1は、第1実施形態で説明したように、第2バンク部47bに断面上で矩形状の切り込む部が設けられた有機EL装置であり、試料2は第2バンク部47bにV字型の切り込み部が設けられた有機EL装置である。試料1及び2の切り込み部の表面の夫々は、陰極で覆われている。これら試料1及び2と、従来構造を有するモニタは、切り込み部の有無の違いの除いた他の部分は同様の構造を有している。尚、実験は周囲温度が80℃の環境で行った。
【0075】
【表1】
表1に示すように、本願発明者が行った実験によれば、試料1は従来構造の有機EL装置に比べて基板表面温度を9℃下げることができ、試料2は従来構造より基板表面温度を10℃下げることが可能であることが分かった。これに伴い、有機EL素子の輝度が半減するまでの時間を示す半減寿命が、従来構造の装置では800時間であるのに対し、試料1及び試料2の夫々で1100時間、1200時間であり、大幅に半減寿命を伸ばすことが可能であることが分かった。このように、本実験によれば、第1及び第2実施形態の有機EL装置が備える有機EL素子の寿命を延ばすことが可能であり、これに伴い有機EL装置全体の寿命が格段に延びることが示された。
【0076】
(電子機器)
次に、上述した有機EL素子を含む有機EL装置を備えた各種電子機器について説明する。
【0077】
<A:モバイル型コンピュータ>
図8を参照しながらモバイル型のコンピュータに上述した有機EL装置を適用した例について説明する。図8は、コンピュータ1200の構成を示す斜視図である。
【0078】
図8において、コンピュータ1200は、キーボード1202を備えた本体部1204と、図示しない有機EL装置を用いて構成された表示部1005を有する表示ユニット1206とを備えている。表示部1005は、素子内の温度上昇に起因する発光層等の特性劣化が低減されており、装置全体の信頼性も高められている。また、上述した有機EL素子を含んだ表示部1005は、熱伝導のみで放熱を行う従来の表示部に対して放熱構造を簡略化できるため、表示ユニット1206を小型に構成できる。よって装置全体の小型化につながり、装置の携帯性が改善される。また、表示部1005が備える複数の有機ELディスプレイ基板に赤、緑、青の光の三原色の光を発光する有機EL素子を形成しておくことによって、該表示部1005はフルカラー表示で画像表示を行うことができる。
【0079】
<B:携帯型電話機>
更に、上述した有機EL装置を携帯型電話機に適用した例について、図9を参照して説明する。図9は、携帯型電話機1300の構成を示す斜視図である。
【0080】
図9において、携帯型電話機1300は、複数の操作ボタン1302と共に、本発明の一実施形態である有機EL装置を有する表示部1305を備えるものである。
【0081】
表示部1305は、上述の表示部1005と同様に発光層等の特性劣化が低減されていることから、高品質の画像を表示することができると共に信頼性が高められている。これにより、携帯型電話機1300の耐久性も高められている。また、表示部1305が備える複数の有機EL素子が夫々赤、緑、青の光の三原色の光を発光することによって、該表示部1305はフルカラー表示で画像表示を行うこともできる。
【0082】
尚、本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う発光装置及び電子機器もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III´線断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の画素部の構成を示す平面図である。
【図5】図4のA−A´線断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図8】本発明に係る電子機器の一例の斜視図である。
【図9】本発明に係る電子機器の他の例の斜視図である。
【符号の説明】
【0084】
10,100,200・・・有機EL装置、20・・・封止板、34・・・陽極、47・・・バンク部、49・・・陰極、50・・・有機EL層、65,65a・・・切り込み部、72・・・有機EL素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL装置等の発光装置、及びそのような発光装置を備えた電子機器の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の発光装置では、装置性能及び信頼性を高めるために各種技術開発が行われている(例えば、特許文献1乃至4参照。)。また、有機EL素子等の発光素子を含めた電子素子については、機械的応力の低減或いは装置の小型化の観点から各種素子構造が提案されている(例えば、特許文献5乃至7参照。)。
【0003】
【特許文献1】特許第2773742号公報
【特許文献2】特開2003−57559号公報
【特許文献3】特開2003−249375号公報
【特許文献4】特表2003−504894号公報
【特許文献5】特開平11−307241号公報
【特許文献6】特表2003−504676号公報
【特許文献7】特開2003−51383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の発光装置を長時間動作させた場合、或いは高温で動作させた場合に有機EL素子の輝度が低下し、装置の寿命が著しく低下する技術的問題点があることが知られている。有機EL素子の輝度が低下する原因の一つは、有機EL素子が発光する際に生じる熱を素子外部に効率良く放熱できないことによる素子特性の劣化であると考えられている。したがって、有機EL素子から効率良く熱を逃がす放熱特性を向上させることが、有機EL装置の寿命を延ばすためには重要になる。
【0005】
しかしながら、特許文献1乃至7には、放熱特性を向上させるための構造或いは材料に言及した記載は見られない。また、有機EL素子等を備えた大型サイズの発光装置或いは自動車等の表示部に用いられる発光装置には高い信頼性が要求されることもあり、発光装置及びこれを備えた各種電子機器の長寿命化を目的として今後益々素子及び装置の温度上昇を抑制することを目的とする技術的要請が高まっていくものと考えられる。
【0006】
よって、本発明は上記技術的問題点及び要請を鑑みてなされたものであり、熱を効率良く放熱できる発光装置、及びこれを備えた電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明に係る発光装置は上記課題を解決するために、基板と、前記基板上に設けられており、前記基板上の画像表示領域を構成する複数の画素領域の各々内に設けられた複数の凹部を規定する隔壁部と、前記隔壁部上に開口するように前記隔壁部に形成された切り込み部と、前記複数の凹部に形成された複数の発光部とを備える。
【0008】
本発明の第1の発明に係る発光装置によれば、隔壁部は凹部を規定しているため、凹部に形成される発光部と接しており、発光部で発生した熱が隔壁部に直接伝達される。隔壁部は切り込み部が形成されている分、切り込み部が形成されていない場合に比べて熱容量が低減されており、例えば発光部が発光することによって生じた熱が隔壁部に蓄積されることを低減できる。ここで、「熱容量」とは、隔壁部に保持可能な熱量を意味し、「熱容量が低減される」とは、例えば、発光部等の熱源に近い領域の隔壁部によって保持される熱量が低減されたため、発光部に近い領域から離れた領域に隔壁部を介して速やかに熱が伝達されることを意味する。より具体的には、隔壁部の体積に応じて発光部に近い隔壁部の一部の体積が減少し、その分保持しきれない熱量が隔壁部のうち発光部からはなれた部分に速やかに伝達されることを意味する。したがって、切り込み部が形成された分、発光部で発生した熱が隔壁部を介して発光部から離れた部分に速やかに伝達されることになる。
【0009】
また、切り込み部が形成された分、切り込み部を形成しない場合に比べて隔壁部の表面積が増大しているため、隔壁部の表面から放熱される熱量が増えることになる。したがって、切り込み部を形成しない場合に比べて隔壁部の表面から放熱される熱量が増大し、発光部に蓄積される熱が低減される。これにより、発光部から熱を放熱する放熱特性が高められ、発光部の温度上昇が抑制される。加えて、隔壁部における熱容量の低減及び表面積の増大の相乗効果によって、発光部の温度上昇を効果的に抑制でき、熱による発光部の特性劣化が抑制された結果、発光装置の寿命を延ばすことが可能になる。
【0010】
尚、本発明の「切り込み部」は、隔壁部が凹部を形成でき、且つ隔壁部の表面積を増大できる形状であれば如何なる形状でもよい。また、「切り込み部」は、隔壁部が形成された後に隔壁部の一部を除去して形成されたものでもよいし、最終的に切り込み部が形成されるように隔壁部の形状を予め所定の形状に形成しておいてよい。また、本発明に係る発光装置は、トップエミッション型又はボトムエミッション型の有機EL素子の何れの発光素子を備える発光装置にも適用可能であることは言うまでもない。また、本発明の発光装置によれば、配線又は素子等に電流が流れることによって発生するジュール熱も装置外部に放熱できることは言うまでもない。
【0011】
このように、本発明の第1の発明に係る発光装置によれば、発光部の温度上昇を抑制でき、装置の寿命を延ばすことが可能である。よって、発光装置を長期間に亘って安定して動作させることが可能である。
【0012】
本発明の第1の発明に係る発光装置の一の態様においては、前記隔壁部は、平面的にみて前記複数の画素領域に延在しており、前記切り込み部は、前記複数の画素領域に渡って格子状に延びていてもよい。
【0013】
この態様によれば、隔壁部は、平面的にみて複数の画素領域に延在しているため、発光部で発生した熱を装置外部に逃がすための伝熱路として機能し、発光部で発生した熱が順次隔壁部を介して装置外部に放熱される。ここで、「平面的にみて」とは、「基板に沿って延在する平面上で」という意味であり、より具体的には、例えば基板の基板面に沿って、或いは基板上に形成された他の層の表面に沿って隔壁部が延在されていることを意味する。このように画像表示領域内に延在された隔壁部に切り込み部を形成することによって装置全体で隔壁部の表面積が増大するため、画像表示領域全体で放熱量を高めることが可能である。加えて、複数の画素領域に渡って延在する隔壁部を介して画像表示領域の中央付近に蓄積される熱が画像表示領域の外側に向かって速やかに伝熱され、画像表示領域内における装置の温度ばらつきを低減できる。したがって、発光部の寿命を延ばすことができることに加え、異なる画素領域の夫々に設けられた発光部の温度の違いによる輝度のバラツキも低減することが可能であり、発光装置の表示特性を高めることも可能である。
【0014】
よって、この態様によれば、装置の寿命を延ばすことができることに加え、例えば発光部の輝度バラツキに起因する画質の低下を抑制でき、長期間に亘って高い表示性能を維持できる発光装置を提供できる。
【0015】
本発明の第1の発明に係る発光装置の他の態様においては、前記隔壁部の表面及び前記複数の発光部の表面を被うように形成された電極を更に備えていてもよい。
【0016】
この態様によれば、電極は、隔壁部の表面及び発光部の表面に被うように直接或いは間接的に電極が形成されており、隔壁部の表面及び発光部の表面の両方から熱を逃がすことができる。加えて、電極は、隔壁部に切り込み部が形成されている分、隔壁部の表面と直接或いは間接的に接する面積が増大しており、隔壁部に蓄積される熱が隔壁部の表面を介して電極に効率良く伝達され、装置外部に放熱される。したがって、この態様によれば、発光装置全体で電極に熱を伝達できると共に、電極を介して発光部及び隔壁部から熱を効率良く逃がすことが可能である。尚、電極は、例えば、発光装置における電極と接する他の構成要素、或いは電極と電気的に接続される配線等と接しており、電極に伝達された熱は速やかに装置外部に放熱される。
【0017】
本発明の第1の発明に係る発光装置の他の態様においては、前記電極は、前記隔壁部より熱伝導率が高くてもよい。
【0018】
この態様によれば、隔壁部を介して発光部から熱を放熱することに加え、電極を形成したことによって隔壁部以外に熱を伝える伝熱路を設けた利点を活かしながら放熱を効率良く行うことができる。電極が、例えば発光部の陰極である場合には、電極が接する発光部の表面の面積は、隔壁部が発光部と接する領域の面積より大きくなるため、発光部の外側に直接伝達される熱量を増大させることができ、隔壁部のみを介した放熱に比べてより一層効果的に発光部からの放熱量を増大させることが可能である。
【0019】
本発明の第1の発明に係る発光装置の他の態様においては、前記電極は、Al、Cu、Ag、Auから選ばれた少なくとも一種の材料を含んでいてもよい。
【0020】
この態様によれば、電極をして放熱される熱量を大きくすることができ、発光部の温度上昇をより効果的に抑制できる。例えば、隔壁部がアクリル樹脂或いはポリイミド樹脂等の高分子材料で形成されている場合、これら高分子材料に比べてAl等の材料は格段に熱伝導率が高く、電極を介して効率良く放熱できる。
【0021】
本発明の第1の発明に係る発光装置の他の態様においては、前記隔壁部は、第1隔壁部と該第1隔壁部上に形成された第2隔壁部とを有しており、前記1隔壁部の表面が露出するように前記第2隔壁部の一部が除去されていてもよい。
【0022】
この態様によれば、切り込み部を形成することによって第2隔壁部の表面積を可能な限り増大させることができ、第2隔壁部が除去されたことにより隔壁部全体の表面から放熱される熱量を増大させることができる。より具体的には、第1隔壁部の表面が露出するように第2隔壁部の一部を除去することにより、第2隔壁部の表面のうち切り込み部に臨む面積を大きくとることができ、隔壁部を介した放熱量を一層増大させることができる。
【0023】
本発明の第2の発明に係る発光装置は上記課題を解決するために、基板と、前記基板上に設けられており、前記基板上の画像表示領域を構成する複数の画素領域の各々内に設けられた複数の凹部を規定する隔壁部と、前記隔壁部内に形成された中空部と、前記複数の凹部に形成された複数の発光部とを備える。
【0024】
本発明の第2の発明に係る発光装置によれば、本発明の第1の発明に係る発光装置と同様に隔壁部の熱容量を低減でき、発光部の温度上昇を抑制でき、装置の寿命を延ばすことが可能である。よって、発光装置における長期間に亘る安定した動作を実現できる。
【0025】
本発明の第1及び第2の発明に係る発光装置の一の態様においては、前記発光部は、有機EL層を有していてもよい。
【0026】
この態様によれば、有機EL層の特性劣化を抑制でき、長期間に亘って所定の輝度で有機EL層を発光させることが可能である。
【0027】
本発明に係る電子機器は上記課題を解決するために、上述した本発明の発光装置を具備している。
【0028】
本発明に係る電子機器によれば、上述した本発明の第1又は第2の発明に係る発光装置を具備してなるので、長期間に亘って高品位の表示が可能な、投射型表示装置、携帯電話、PDA、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネル、更には電気光学装置を露光用ヘッドとして用いたプリンタ、コピー、ファクシミリ等の画像形成装置などの各種電子機器を実現できる。更に、本発明の電子機器は放熱特性に優れているため、車両に搭載されるカーナビゲーション等が備える表示装置、及び車両の動作状態を示すインパネに設けられる表示部等のように高温環境下で長時間駆動されるものの信頼性を高めることが可能である。また、長期間に亘って優れた表示性能を維持することができる電子機器を提供することができる。
【0029】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1及び第2の発明に係る発光装置、及びこれを備えた電子機器の実施形態について詳細に説明する。尚、以下では本発明の第1の発明に係る発光装置の夫々一例である有機EL装置を第1及び第2実施形態において説明し、第2の発明に係る発光装置の一例である有機EL装置を第3実施形態において説明する。
【0031】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の有機EL装置10の全体構成を示すブロック図である。有機EL装置10は、駆動回路内蔵型のアクティブマトリクス駆動方式で駆動される表示装置であり、有機EL装置10が有する各画素部70は有機EL素子72を備えている。
【0032】
有機EL装置10の画像表示領域110には、縦横に配線されたデータ線114及び走査線112が設けられており、それらの交点に対応する各サブ画素部70R、70G、及び70Bはマトリクス状に配列され、これら3つのサブ画素部を一組として一つの画素部70が構成されている。サブ画素部70R、70G及び70Bは、赤色に発光する有機EL素子72R、緑色に発光する有機EL素子72G及び青色に発光する有機EL素子72Bを夫々有している。更に、画像表示領域110には各データ線114に対して配列されたサブ画素部70R、70G及び70Bに対応する電源供給線117が設けられている。
【0033】
画像表示領域110の周辺に位置する周辺領域には、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150が設けられている。走査線駆動回路130は複数の走査線112に走査信号を順次供給する。データ線駆動回路150は、画像表示領域110に配線されたデータ線114に画像信号を供給する。尚、走査線駆動回路130の動作とデータ線駆動回路150の動作とは、同期信号線160を介して相互に同期が図られる。電源供給線117には、外部回路から画素部を駆動するための画素駆動用電源が供給される。図1中、一つの画素部70に着目すれば、画素部70には、有機EL素子72R、72Gお呼び72Bが設けられると共に、例えばTFTを用いて構成されるスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74、並びに保持容量78がサブ画素部毎に設けられている。スイッチング用トランジスタ76のゲート電極には走査線112が電気的に接続されており、スイッチング用トランジスタ76のソース電極にはデータ線114が電気的に接続され、スイッチング用トランジスタ76のドレイン電極には駆動用トランジスタ74のゲート電極が電気的に接続されている。また、駆動用トランジスタ74のドレイン電極には、電源供給線117が電気的に接続されており、駆動用トランジスタ74のソース電極には有機EL素子72の陽極が電気的に接続されている。尚、図1に例示した画素回路の構成の他にも、電流プログラム方式の画素回路、電圧プログラム方式の画素回路、電圧比較方式の画素回路、サブフレーム方式の画素回路等の各種方式の画素回路を採用することが可能である。
【0034】
次に、図2及び図3を参照しながら有機EL装置10の具体的な構成を説明する。図2は、有機EL装置10の概略構成を示す平面図であり、図3は図2のIII−III´線断面図である。
【0035】
図2において、有機EL装置10は、基板1、画素部70、本発明の「隔壁部」の一例であるバンク部47、切り込み部65、及び有機EL素子72を備えている。
【0036】
画素部70は、基板1上における画像表示領域110にマトリクス状に配設されている。画素部70は、図中横方向に沿って配列された3つのサブ画素部70R、70G及び70Bを一組として構成されており、画像表示領域110の図中縦方向及び横方向の夫々に沿って配列されている。バンク部47は、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから構成されており、各画素領域においてこれら有機EL素子72が形成される凹部62を規定しつつ、基板1上における画像表示領域110の全体に延在している。切り込み部65は、画像表示領域110内で格子状に延びるように第2バンク部47bの一部を除去して形成されており、第1バンク部47aが切り込み部65から臨む。切り込み部65が形成された分、第2バンク部47bの表面積は増大している。加えて、第2バンク部47bの一部が除去されたことによってバンク部47全体で熱容量を低減できる。また、バンク部47は、画像表示領域110全体に延在されているため、有機EL素子72で発生した熱を装置外部に逃がすための伝熱路として機能し、有機EL素子72で発生した熱が順次バンク部47を介して装置外部に放熱される。これにより、画像表示領域110の中央付近に蓄積される熱が画像表示領域110の外側に向かって速やかに伝熱され、画像表示領域110内における有機EL素子72の温度上昇を抑制できると共に、画像表示領域110内における各画素部70の温度バラツキを低減することが可能である。サブ画素部70R、70G及び70Bの夫々に設けられた有機EL素子72R、72G及び72Bは、凹部62の底部から基板1の上側、即ち図中手前側に臨む。
【0037】
図3において、有機EL装置10は、基板1、基板1上に形成された有機EL素子72、駆動用トランジスタ74、バンク部47、切り込み部65、及び封止部20を備えている。尚、有機EL素子72は、図中下側に光を出射するボトムエミッション型の有機EL素子であるが、図中上側に光を出射するトップエミッション型の有機EL素子を備えた有機EL装置でも本発明の発光装置は適用可能であることは言うまでもない。
【0038】
基板1は、例えば、ガラス基板等で構成されており、有機EL素子72が図中下側に出射する光を透過させる。したがって、図1に示す駆動用トランジスタ74及びスイッチング用トランジスタ76は、基板1における有機EL素子72の下側の領域を避けるように形成されている。基板1は、基板1上に有機EL素子72が形成されているだけでなく、図1に示す走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150の各種回路を備えている。このような回路は、基板1における画像表示領域110の周辺領域に設けられる。
【0039】
有機EL素子72は、本発明の「発光部」の一例である有機EL層50、陰極49、及び陽極34を備えて構成されている。
【0040】
有機EL層50は、後述するように発光層を含む複数の有機層を備えており、これら有機層は、複数の有機EL層50を互いに隔てるための素子分離部として機能するバンク部47に囲まれた凹部62に有機材料を塗布することによって形成されている。より具体的には、有機EL層50は、塗布法の一例であるインクジェット法を用いて各有機層を形成するインクを凹部62に順次塗布することによって形成されている。有機EL層50の端部、即ち後述するバンク部47と接する部分は有機EL層50の中央付近の膜厚より若干厚めに形成されている。したがって、有機EL層50は、その端部において陰極49及び陽極34間がショートすることを抑制できる。加えて、有機EL層50の中央付近は平坦であるため、有機EL層50の中央付近で均一な輝度で発光することが可能である。
【0041】
バンク部47は、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから構成されており、有機EL層50が形成される凹部62を規定する。第1バンク部47aは、SiO、SiO2又はTiO2等の無機材料で構成される無機材料層であり、例えば、保護層45上にCVD(Chemical Vapor Deposition;化学蒸着)法、コート法、スパッタ法等の膜形成法を用いて形成されている。第2バンク部47bは、アクリル樹脂、又はポリイミド樹脂等の有機材料で構成される有機材料層であり、図中上側に向かって先細りとなるテーパー形状を有している。第2バンク部47bは、第1バンク部47a上に有機材料層を形成した後、この有機材料層をフォトリソグラフィ技術等を用いてパターニングすることによって形成されている。第2バンク部47bは、その底部が図中横方向に沿って第1バンク部47aより小さめとなるように形成されている。また、第2バンク部47bは、凹部62に形成された有機EL層50の端部と接しており、有機EL層50で生じた熱が直接第2バンク部47bに伝達される。
【0042】
尚、バンク部47は、隣接する有機EL層50間で実使用上支障が生じない範囲で絶縁性を維持されるように金属等の熱伝導材料を所定量含んでいてもよい。また、バンク部47は、熱放射によって放熱量を増大させることができるように、例えばアクリル樹脂等より熱放射率が高いAl2O3、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO、SiCから選ばれた少なくとも一種の材料をバンク部47の形成に支障が生じない範囲で含んでいてもよい。このような熱伝導材料或いは熱放射材料を含むバンク部47によれば、第2バンク部47bの熱容量の低減及び表面積の増大に伴って高められた有機EL装置の放熱特性をより向上させることが可能である。
【0043】
切り込み部65は、第1バンク部47bの一部を除去し、第1バンク部47aが切り込み部65から図中上側に臨むように第2バンク部47bの上側に開口する。第2バンク部47bは、切り込み部65が形成されている分、切り込み部65が形成されていない場合に比べて熱容量が低減されており、有機EL層50が発光することによって生じた熱がバンク部47に蓄積されることを低減できる。より具体的には、第2バンク部47bの体積が減少した分、有機EL層50から第2バンク部47bに伝達された熱が第2バンク部47bを介して有機EL層50から離れた領域に速やかに伝達される。その結果、有機EL層50に近傍のバンク部47に蓄積される熱を低減でき、有機EL層50の発光時における温度上昇を抑制することが可能である。
【0044】
尚、切り込み部65は、第2バンク部47b上に開口するように第2バンク部47bに形成されていればよい。即ち、第2バンク部47bの熱容量を低減し、且つ第2バンク部47bが陰極49と接する面積を増大させる形状であれば如何なる形状であってもよい。また、切り込み部65は、第2バンク部47bが形成された後に第2バンク部47bの一部を除去して形成されたものでもよいし、最終的に切り込み部65が形成されるように第2バンク部47bの形状を予め所定の形状に形成しておいてもよい。
【0045】
陰極49は、第2バンク部47bの表面及び有機EL層50の表面を被うように形成されている。よる具体的には、陰極49は、第2バンク部47bの表面及び切り込み部65の内壁面に沿って形成されており、有機EL層50或いは第2バンク部47bを介して直接有機EL層50で発生した熱が伝達される。第2バンク部47bに切り込み部65が形成されていることにより、切り込み部65を形成しない場合に比べて陰極49が第2バンク部47bと接する接触面積は増大しており、その分第2バンク部47bから陰極49に伝達される熱を増大させることが可能である。これにより、切り込み部65を形成しない場合に比べてより効果的に有機EL層50で発生した熱を陰極49に伝達することができ、有機EL層50の発光時における温度上昇を抑制することが可能である。ここで、陰極49の熱伝導率を第2バンク部47より高くしておけば、陰極49を介した放熱量を更に増大させることが可能である。例えば、陰極49は第2バンク部47bを構成するアクリル樹脂等の樹脂より熱伝導率が高いAl等の金属薄膜で形成されることが多いため、有機EL層50の温度上昇を抑制するための伝熱路として効果的に機能する。また、放熱量を高めるために、陰極49は、Al、Cu、Ag、Auから選ばれた少なくとも一種の材料を含んでいてもよい。更に、陰極49は、有機EL層50との接合性及び熱伝導率を考慮してこれら材料から選ばれた複数の材料によって構成された多層構造を有していてもよい。
【0046】
電極49は、有機EL装置における陰極49と接する他の構成要素、或いは電極49と電気的に接続される配線等と接しており、陰極49に伝達された熱は速やかに装置外部に放熱されることになる。尚、本実施形態では、後述するように有機EL層50は電子注入層を含んでいるが、発光層を含む有機EL層50及び陰極49間に有機EL層50と別層とされる電子注入層或いは電子輸送層等の各種層が介在してもよい。即ち、陰極49は、第2バンク部47bの表面及び有機EL層50の表面に直接或いは間接的に形成されていればバンク部47及び有機EL層50の両方から放熱される熱量を相応に増大させることができ、これに伴い有機EL層50及び有機EL層全体の温度上昇を抑制できる。
【0047】
陰極49は、基板1上に形成された各有機EL素子72で共通とされる共通電極であり、第2バンク部47b、切り込み部65、及び有機EL層50の表面に沿って延在するように形成されている。陰極49は、基板1上で平面的に見て複数の有機EL素子72間で物理的に接続された電極、或いは一枚の連続した電極として延在しているため、有機EL素子72で発生した熱を装置外部に放熱できる。加えて、陰極49は、切り込み部65の表面に沿って形成されているため、切り込み部65を設けない場合に比べて第2バンク部47bに接する面積が大きくなる。更に、陰極49は、切り込み部65の底部で第1バンク部47aとも接しているため、陰極49の面積をより大きくとることができる。これにより、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから陰極49を介して熱を放熱することが可能である。
【0048】
陽極34は、基板1上に順次形成されたゲート絶縁層2、層間絶縁膜41、保護層45、及び第1バンク部47aのうち第1バンク部47aに埋め込まれるように形成されている。陽極34は、例えば、有機EL層50から出射された光を図中下側に透過するようにITO等の透明材料で形成された透明電極である。
【0049】
駆動用トランジスタ74のソース電極74sは、図1に示す電源供給線117に電気的に接続されており、ドレイン電極74dは陽極34に電気的に接続されている。駆動用トランジスタ74は、図1に示すデータ線114を介してゲート電極3aに供給されるデータ信号に応じてオンオフされ、駆動電流を有機EL素子72に供給する。このような素子を含む回路は、有機EL素子50から基板1側に出射される光を遮らないように、有機EL素子50の下側を避けるように設けられている。また、駆動用トランジスタ74と同様に図1に示すスイッチング用トランジスタ76も基板1上に形成されている。
【0050】
半導体層3は、例えば低温ポリシリコン技術を用いて形成された多結晶シリコン層或いはアモルファスシリコン層である。半導体層3上には、半導体層3を埋め込んで、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び図1に示す走査線112は、ゲート絶縁層2上に形成されている。走査線112の一部は、スイッチング用トランジスタ76のゲート電極として形成されている。
【0051】
走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込んで、ゲート絶縁層2上には図2に示す層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41及びゲート絶縁層2は例えばシリコン酸化膜から構成されている。層間絶縁層41上には、例えばアルミニウム(Al)又はITO(Indium Tin Oxide)を含む導電材料から夫々構成される、データ線114及び電源供給線117、更には駆動用トランジスタ74のソース電極74sが形成されている。層間絶縁層41には、層間絶縁層41の表面から層間絶縁層41及びゲート絶縁層2を貫通して、駆動用トランジスタ74の半導体層3に至るコンタクトホール501及び502が形成されている。電源供給線117及びドレイン電極74dを構成する導電膜は、コンタクトホール501及び502の各々の内壁に沿って半導体層3の表面に至るように連続的に形成されている。層間絶縁層41上には、電源供給線117及びドレイン電極74dを埋め込んで、保護層45として例えばシリコン窒化膜(SiNx)ないしシリコン酸化膜(SiOx)が形成されている。保護層45上には、例えばシリコン酸化膜よりなる第1バンク部47aが形成され、更に第1バンク部47a上に第2バンク部47bが形成されている。第1バンク部47a及び第2バンク部47bによって、画素部における有機EL層50の形成領域が規定されている。
【0052】
封止板20は、分が有機EL装置10の外部から備える有機EL層50に浸入することを防止する。より具体的には、封止板20は、基板1上に接着剤によって接着されており、有機EL装置10の外気が有機EL素子72に触れないように有機EL素子72を封止する。基板1上に封止板20を接着する接着剤は、熱硬化樹脂或いは紫外線硬化樹脂を含んでおり、例えば、熱硬化樹脂の一例であるエポキシ樹脂を封止板20の周縁部にディスペンサ等の塗布手段を用いて塗布される。
【0053】
封止板20における陰極49に臨む側の面において、封止板20の周縁部は中央部に対して凸状となっており、有機EL素子72が封止板20によって封止された状態で、封止板20の中央部及び有機EL素子72の間に一定の空間が介在する。封止板20及び有機EL素子72間の空間には、不活性ガス、樹脂或いはオイル等の充填材が充填され、この充填材により装置外部から侵入する水分を低減する。また、封止板20及び有機EL素子72間の空間は、封止板20及び基板1で封止された真空であってもよい。尚、封止板20は、有機EL素子72から放射される赤外線を透過する透明板であり、例えば、ガラス板、又は防湿処理を施したプラスチック板を用いることができる。特に、封止板20としてガラス基板を用いた場合には、ガラス基板である基板1及び封止板20の熱膨張率が同等であることから、熱膨張率の違いに起因するこれら板間のひずみを低減することができ、装置全体の信頼性を高めることが可能である。
【0054】
このように、本実施形態の有機EL装置10によれば、有機EL層50の温度上昇を抑制でき、有機EL層50の輝度を長時間所定の値に維持することが可能である。これにより、装置の寿命を延ばすことが可能であり、有機EL装置における長期間に亘る安定した動作を実現できる。また、切り込み部65によれば、画像表示領域110の中央付近及びで端付近の夫々に設けられた有機EL層50における放熱量を均一にでき、画像表示領域110内における温度バラツキを一因とする画質の低下を抑制できる。
【0055】
次に、図4及び図5を参照して、有機EL素子72の詳細な構成について説明する。図4は、有機EL素子72を含む任意の画素部の平面図であり、図5は図4に示す画素部のA−A´線断面図である。尚、図4及び図5においては、各層・各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層・各部材ごとに縮尺を異ならしめてある。尚、図4及び図5に加えて、随時図1乃至図3も参照する。
【0056】
図4において、図2に示す基板1上には、駆動用トランジスタ74の半導体層3が形成されている。尚、本実施形態では詳細な説明を省略するが、駆動用トランジスタ74と同様に図1に示すスイッチング用トランジスタ76も基板1上に形成されている。半導体層3は、例えば低温ポリシリコン技術を用いて形成された多結晶シリコン層或いはアモルファスシリコン層である。半導体層3上には、半導体層3を埋め込んで、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。更には、ゲート絶縁層2上に、駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び走査線112が形成されている。走査線112の一部は、スイッチング用トランジスタ76のゲート電極として形成されている。ゲート電極3a及び走査線112は、Al(アルミニウム)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、銅(Cu)、クロム(Cr)等のうち少なくとも一つを含む金属材料を用いて形成されている。
【0057】
走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込んで、ゲート絶縁層2上には図2に示す層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41上には、電源供給線117及びドレイン電極74dを埋め込んで、図2に示す保護層45が形成されている。
【0058】
保持容量78の下部容量電極は、走査線112と同一の層に、例えば同様の材料を用いて形成され、電源供給線117の一部が保持容量78の上部容量電極として形成されている。層間絶縁層41は誘電体膜として形成されており、層間絶縁層41の一部分が下部容量電極及び上部容量電極の間に挟持される。
【0059】
有機EL装置10の駆動時、走査線112を介して走査信号が供給されることにより、スイッチング用トランジスタ76がオン状態になる。スイッチング用トランジスタ76がオン状態となると、データ線114より画像信号が保持容量78に供給される。この保持容量78に供給された画像信号の電圧に応じて、駆動用トランジスタ74の電気的な導通状態が決まる。保持容量78に供給された画像信号に応じた電流が、駆動用トランジスタ74のチャネルを介して電源供給線117より有機EL素子72に供給されると、供給された電流に応じて有機EL層50に含まれる発光層が発光する。
【0060】
図5において、有機EL素子72は、基板1上に順次形成された陽極34、有機EL層50、及び陰極49を備えて構成されており、有機EL層50は正孔注入層50c、発光層50a及び電子注入層50bを備えて構成されている。
【0061】
有機EL層50を構成する正孔注入層50c、発光層50a及び電子注入層50bはこの順で陽極34上に形成されている。
【0062】
電子注入層50bは、カルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)等の仕事関数の低い材料を用いて形成されている。電子注入層50bによれば、電流駆動型の発光層50aに電子を効率良く注入でき、発光層50aの発光効率を高めることが可能である。尚、電子輸送層が陰極49及び発光層間に設けられていてもよいし、電子注入層50bが電子輸送層を含んで構成されていてもよい。
【0063】
発光層50aは、有機EL材料を用いて構成されている。このような有機EL材料としては、例えば(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、またはこれらの高分子材料にルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等をドープした材料を用いることができる。
【0064】
正孔注入層50cは、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン等のポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸等の混合物を用いて形成されている。
【0065】
有機EL層50を構成する各材料は、有機EL素子72が駆動されるに伴って生じる熱によって高温に曝されると特性劣化を生じ易い。したがって、本実施形態の有機EL装置10によれば、有機EL素子72から効率良く放熱でき、有機EL装置10の寿命を延ばすことが可能である。尚、陰極49を介した熱伝導によっても相応の放熱効果は得られる。
【0066】
(第2実施形態)
次に、図6を参照しながら本実施形態の有機EL装置100を説明する。図6は、本実施形態の有機EL装置100の構成を示す断面図である。尚、以下で説明する各実施形態の有機EL装置では、第1実施形態の有機EL装置と共通する部分に共通の参照符号を付して説明し、共通部分についての詳細な説明は便宜省略する。
【0067】
図6において、本実施形態の有機EL装置100は、切り込む部65aがV字型であるいる点で第1実施形態の有機EL装置10と相違する。陰極49は、切り込み部65aの内壁面、第2バンク部47bの表面、及び有機EL層50の表面に渡って延在するように形成されている。有機EL層50で発生した熱は、有機EL層50及び第2バンク部47bの表面を介して陰極49に伝達される。ここで、第2実施形態と同様に、第2バンク部47bに切り込み部65aが形成されていることにより、第2バンク部47bの熱容量が低減されており、且つ第2バンク部47b及び陰極49の接触面積が増大しているため、有機EL層50で発生した熱は、第2バンク部47b及び陰極49を介して装置外部に放熱される。したがって、有機EL層50の温度上昇を抑制でき、有機EL装置100の寿命を延ばすことが可能である。
【0068】
尚、第1及び第2実施形態の有機EL装置が備える切り込み部65及び65aは、各実施形態で示した形状に限定されるものではない。例えば、断面上でテーパー形状であってもよいし、異なる形状の切り込み部が異なる画素領域の第2バンク部47bの夫々に形成されていてもよい。
【0069】
(第3実施形態)
次に、図7を参照しながら本実施形態の有機EL装置200を説明する。図7は、本実施形態の有機EL装置200の構成を示す断面図である。有機EL装置200は、第2バンク部47bに切り込み部の代わりに中空部69が設けられている点で第1及び第2実施形態の有機EL装置と相違する。
【0070】
図7において、有機EL装置200は、第2バンク部47bに設けられた中空部69を備えている。中空部69は、第2バンク部47bの体積を低減するように第2バンク部47b中に形成されていれば如何なる形状であってもよい。中空部69によれば、アクリル樹脂或いはポリイミド樹脂等の樹脂で構成された第2バンク部47bの熱容量を低減できるため、有機EL層50で生じた熱がバンク部47に蓄積されることなく有機EL層50から離れた領域に速やかに伝達される。第2バンク部47bは、外側の表面及び中空部69に臨む内側の表面の両方から放熱できるため、中空部69を設けない場合に比べて第2バンク部47bの表面から放熱される熱量を増大させることが可能である。また、バンク部47は、平面的に見て基板1上を被うように複数の画素領域に渡って延在するように形成されているため、中空部69を第2バンク部47bが延在する方向に沿って連通するように形成しておくことにより、中空部69を介して有機EL層50で生じた熱を放熱できる。
【0071】
よって、本実施形態の有機EL装置200によれば、第1及び第2実施形態の有機EL装置と同様に、バンク部47の熱容量を低減することによって放熱量の増大させることができ、有機EL層50の温度上昇を抑制することが可能である。その結果、有機EL装置200の寿命を延ばすことができ、有機EL装置を長期間に亘って安定して動作させることが可能である。尚、第2バンク部47bは、アクリル樹脂或いはポリイミド樹脂等の基材と共に実使用上支障が生じない程度に金属等の熱伝導材料又は第2バンクb47bの熱放射率を高めるための熱放射材料を含んでいてもよい。
【0072】
このように、中空部60が設けられた第2バンク部47bによれば、有機EL装置200及び有機EL素子72の構造を大きく変更することなく、有機EL素子72及び有機EL装置200から効率良く放熱することが可能である。
【0073】
尚、上述した第1乃至第3実施形態では、有機EL層50で発生した熱を装置外部に放熱する観点に注目して各有機EL装置の構成を説明したが、切り込み部65及び中空部69の少なくとも一方を備えた有機EL層装置によれば、有機EL層50で生じた熱の放熱量を増大させるだけでなく、各有機EL装置で熱源となりうる部分の全てから効率良く放熱することが可能である。より具体的には、例えば、配線等或いは駆動トランジスタ等の電子素子で発生したでジュール熱もバンク部47を介して装置外部に効率良く放熱できる。
【0074】
(実験結果)
次に、表1を参照しながら第1及び第2実施形態の有機EL装置について行った実験結果を説明する。表1は、従来構造の有機EL装置と、第1及び第2実施形態の有機EL装置とを駆動させた際の夫々の基板表面の温度を測定した結果を示す。尚、基板の表面温度は、各有機EL素子が形成された基板表面に熱電対を取り付けて測定された値である。試料1は、第1実施形態で説明したように、第2バンク部47bに断面上で矩形状の切り込む部が設けられた有機EL装置であり、試料2は第2バンク部47bにV字型の切り込み部が設けられた有機EL装置である。試料1及び2の切り込み部の表面の夫々は、陰極で覆われている。これら試料1及び2と、従来構造を有するモニタは、切り込み部の有無の違いの除いた他の部分は同様の構造を有している。尚、実験は周囲温度が80℃の環境で行った。
【0075】
【表1】
表1に示すように、本願発明者が行った実験によれば、試料1は従来構造の有機EL装置に比べて基板表面温度を9℃下げることができ、試料2は従来構造より基板表面温度を10℃下げることが可能であることが分かった。これに伴い、有機EL素子の輝度が半減するまでの時間を示す半減寿命が、従来構造の装置では800時間であるのに対し、試料1及び試料2の夫々で1100時間、1200時間であり、大幅に半減寿命を伸ばすことが可能であることが分かった。このように、本実験によれば、第1及び第2実施形態の有機EL装置が備える有機EL素子の寿命を延ばすことが可能であり、これに伴い有機EL装置全体の寿命が格段に延びることが示された。
【0076】
(電子機器)
次に、上述した有機EL素子を含む有機EL装置を備えた各種電子機器について説明する。
【0077】
<A:モバイル型コンピュータ>
図8を参照しながらモバイル型のコンピュータに上述した有機EL装置を適用した例について説明する。図8は、コンピュータ1200の構成を示す斜視図である。
【0078】
図8において、コンピュータ1200は、キーボード1202を備えた本体部1204と、図示しない有機EL装置を用いて構成された表示部1005を有する表示ユニット1206とを備えている。表示部1005は、素子内の温度上昇に起因する発光層等の特性劣化が低減されており、装置全体の信頼性も高められている。また、上述した有機EL素子を含んだ表示部1005は、熱伝導のみで放熱を行う従来の表示部に対して放熱構造を簡略化できるため、表示ユニット1206を小型に構成できる。よって装置全体の小型化につながり、装置の携帯性が改善される。また、表示部1005が備える複数の有機ELディスプレイ基板に赤、緑、青の光の三原色の光を発光する有機EL素子を形成しておくことによって、該表示部1005はフルカラー表示で画像表示を行うことができる。
【0079】
<B:携帯型電話機>
更に、上述した有機EL装置を携帯型電話機に適用した例について、図9を参照して説明する。図9は、携帯型電話機1300の構成を示す斜視図である。
【0080】
図9において、携帯型電話機1300は、複数の操作ボタン1302と共に、本発明の一実施形態である有機EL装置を有する表示部1305を備えるものである。
【0081】
表示部1305は、上述の表示部1005と同様に発光層等の特性劣化が低減されていることから、高品質の画像を表示することができると共に信頼性が高められている。これにより、携帯型電話機1300の耐久性も高められている。また、表示部1305が備える複数の有機EL素子が夫々赤、緑、青の光の三原色の光を発光することによって、該表示部1305はフルカラー表示で画像表示を行うこともできる。
【0082】
尚、本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う発光装置及び電子機器もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III´線断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の画素部の構成を示す平面図である。
【図5】図4のA−A´線断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図8】本発明に係る電子機器の一例の斜視図である。
【図9】本発明に係る電子機器の他の例の斜視図である。
【符号の説明】
【0084】
10,100,200・・・有機EL装置、20・・・封止板、34・・・陽極、47・・・バンク部、49・・・陰極、50・・・有機EL層、65,65a・・・切り込み部、72・・・有機EL素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられており、前記基板上の画像表示領域を構成する複数の画素領域の各々内に設けられた複数の凹部を規定する隔壁部と、
前記隔壁部上に開口するように前記隔壁部に形成された切り込み部と、
前記複数の凹部に形成された複数の発光部と
を備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記隔壁部は、平面的にみて前記複数の画素領域に延在しており、
前記切り込み部は、前記複数の画素領域に渡って格子状に延びていること
を特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記隔壁部の表面及び前記複数の発光部の表面を被うように形成された電極を更に備えたこと
を特徴とする請求項1又2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記電極は、前記隔壁部より熱伝導率が高いこと
を特徴とする請求項4に記載の発光装置。
【請求項5】
前記電極は、Al、Cu、Ag、Auから選ばれた少なくとも一種の材料を含むこと
を特徴とする請求項3又は4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記隔壁部は、第1隔壁部と、該第1隔壁部上に形成された第2隔壁部とを有しており、
前記1隔壁部の表面が露出するように前記第2隔壁部の一部が除去されていること
を特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
基板と、
前記基板上に設けられており、前記基板上の画像表示領域を構成する複数の画素領域の各々内に設けられた複数の凹部を規定する隔壁部と、
前記隔壁部内に形成された中空部と、
前記複数の凹部に形成された複数の発光部と
を備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項8】
前記発光部は、有機EL層を有すること
を特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載の発光装置を具備してなること
を特徴とする電子機器。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられており、前記基板上の画像表示領域を構成する複数の画素領域の各々内に設けられた複数の凹部を規定する隔壁部と、
前記隔壁部上に開口するように前記隔壁部に形成された切り込み部と、
前記複数の凹部に形成された複数の発光部と
を備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記隔壁部は、平面的にみて前記複数の画素領域に延在しており、
前記切り込み部は、前記複数の画素領域に渡って格子状に延びていること
を特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記隔壁部の表面及び前記複数の発光部の表面を被うように形成された電極を更に備えたこと
を特徴とする請求項1又2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記電極は、前記隔壁部より熱伝導率が高いこと
を特徴とする請求項4に記載の発光装置。
【請求項5】
前記電極は、Al、Cu、Ag、Auから選ばれた少なくとも一種の材料を含むこと
を特徴とする請求項3又は4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記隔壁部は、第1隔壁部と、該第1隔壁部上に形成された第2隔壁部とを有しており、
前記1隔壁部の表面が露出するように前記第2隔壁部の一部が除去されていること
を特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
基板と、
前記基板上に設けられており、前記基板上の画像表示領域を構成する複数の画素領域の各々内に設けられた複数の凹部を規定する隔壁部と、
前記隔壁部内に形成された中空部と、
前記複数の凹部に形成された複数の発光部と
を備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項8】
前記発光部は、有機EL層を有すること
を特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載の発光装置を具備してなること
を特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−252839(P2006−252839A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64987(P2005−64987)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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