説明

発光装置およびその放熱方法

【課題】電流供給量が多く、かつ寿命の長い発光装置およびその放熱方法を提供する。
【解決手段】透光性を有する円筒管1の内周側に、透明陽極層12bと、有機物層OLと、陰極層12gとが順に形成されている。封止部材110a、110bは、有機EL素子12を含む領域を気密に封止するように円筒管1に取り付けられている。ヒートパイプ21は、気密に封止された空間内で陰極層12gの内周側から封止部材110a、110bへ延びるように配置され、かつ有機EL素子12で生じた熱を封止部材110a、110bに伝えるよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光装置およびその放熱方法に関し、特に、発光可能な有機物層を含む発光装置およびその放熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electro Luminescence)素子が形成された円筒型の面発光デバイスが提案されている。たとえば特開2007−73403号公報(特許文献1)によれば、面発光デバイスは、円筒形状の透明基材(管)と、この透明基材に形成された有機EL素子とを有している。
【0003】
また、たとえば特開2003−142252号公報(特許文献2)には、筒状の非透湿性透明基板(管)と、この内周面に形成された有機EL素子とを備えている管状発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−73403号公報
【特許文献2】特開2003−142252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記2つの公報に記載の発光デバイスでは、輝度を上げるために有機EL素子に流す電流を増やすと、ジュール熱によって有機EL素子が発生する熱量が大きくなる。これにより、発光デバイスの発光効率の低下や有機EL素子の劣化による寿命の減少が生じるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電流供給量が多く、かつ寿命の長い発光装置およびその放熱方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発光装置は、管と、第1電極層と、有機物層と、第2電極層と、封止部材と、熱伝導部材とを備えている。管は透光性を有している。第1電極層は、管の内周側に配置されており、透光性を有している。有機物層は、第1電極層の内周側に形成され、かつ電圧が印加されることにより発光可能である。第2電極層は有機物層の内周側に形成されている。封止部材は、第1電極層と有機物層と第2電極層とを含む有機発光素子を含む領域を気密に封止するように管に取り付けられている。熱伝導部材は、気密に封止された空間内で第2電極層の内周側に配置され、かつ有機発光素子で生じた熱を封止部材に伝えるよう構成されている。
【0008】
本発明の発光装置によれば、有機発光素子に電流を供給すると、第1電極層と、有機物層と、第2電極層との各電気抵抗によって有機発光素子が発熱する。この有機発光素子から生じた熱は熱伝導部材を通じて封止部材に伝えられ、封止部材から気密に封止された空間の外部へ放出される。
【0009】
これにより有機発光素子から生じた熱を、管越しに放熱するよりも効率よく外部へ放出することが可能となるため、発光装置の発光効率の低下や有機発光素子の劣化による寿命の減少を抑制することができる。また有機発光素子への電流供給量を多くできるため、発光装置の輝度を上げることができる。
【0010】
上記の発光装置において好ましくは、有機発光素子の内周側において有機発光素子と熱伝導部材との間に配置され、かつ有機発光素子で生じた熱により蒸発可能な作動流体を含む多孔質体がさらに備えられている。
【0011】
これにより、多孔質体に含まれる作動流体を介して、有機発光素子で生じた熱を熱伝導部材に伝えることができる。つまり、有機発光素子で生じた熱から気化熱を得ることによって作動流体が蒸発し、この蒸発した作動流体の蒸気が多孔質内を移動して熱伝導部材に達して、熱伝導部材に熱を与えて液化する。このようにして作動流体から伝えられた熱が、熱伝導部材を通じて封止部材から気密に封止された空間の外へ放熱される。
【0012】
上記の発光装置において好ましくは、熱伝導部材はヒートパイプである。
これにより、ヒートパイプ現象を利用することで、さらに放熱特性を高めることができる。
【0013】
上記の発光装置において好ましくは、熱伝導部材は、毛細管作用を有する液体供給部材と、その液体供給部材の毛細管作用によって移動可能でかつ有機発光素子で生じた熱により蒸発可能な作動流体とを含む。
【0014】
これにより、作動流体を介して、有機発光素子で生じた熱を封止部材に伝えることができる。つまり、有機発光素子で生じた熱から気化熱を得ることによって作動流体が蒸発し、この蒸発した作動流体の蒸気が封止部材に達して、封止部材に熱を与えて液化する。このようにして作動流体から伝えられた熱が封止部材から気密に封止された空間の外へ放熱される。
【0015】
上記の発光装置において好ましくは、有機発光素子が形成された表面を有する可撓性フィルムがさらに備えられており、その可撓性フィルムは管の内周側に配置されている。
【0016】
このように可撓性フィルムを用いて、その可撓性フィルムの屈折率を適切に設定することにより発光装置における発光光の取り出し効率を高めることができる。
【0017】
上記の発光装置において好ましくは、可撓性フィルムは湾曲させた状態でその管の内周側に装着されている。
【0018】
このように可撓性フィルムを湾曲させて管の内周側に配置することにより、製造における自由度が高くなる。
【0019】
本発明の一の発光装置の放熱方法は、上記の発光装置の放熱方法であって、以下の工程を備えている。
【0020】
有機発光素子で生じた熱から気化熱を得ることによって作動流体が蒸発する。蒸発した作動流体の蒸気が多孔質体内を熱伝導部材へ移動する。熱伝導部材に達した作動流体の蒸気が熱伝導部材に熱を伝えて液化する。作動流体から伝えられた熱が、熱伝導部材を通じて、気密に封止された空間の外へ放熱される。
【0021】
本発明の他の発光装置の放熱方法は、上記の発光装置の放熱方法であって、以下の工程を備えている。
【0022】
液体供給部材が毛細管作用によって作動流体を有機発光素子に供給する。有機発光素子で生じた熱から気化熱を得ることによって作動流体が蒸発する。蒸発した作動流体の蒸気が封止部材へ移動する。封止部材に達した作動流体の蒸気が封止部材に熱を伝えて液化する。作動流体から伝えられた熱が、封止部材を通じて、気密に封止された空間の外へ放熱される。作動流体が封止部材で冷却されて液化し、液化した作動流体が液体供給部材によって再び有機発光素子に供給することで循環しながら放熱する。
【0023】
本発明の一および他の発光装置の放熱方法によれば、有機発光素子で生じた熱を、管越しに放熱するよりも効率よく外部へ放出することが可能となるため、発光装置の発光効率の低下や有機発光素子の劣化による寿命の減少を抑制することができる。また有機発光素子への電流供給量を多くできるため、発光装置の輝度を上げることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明によれば、電流供給量が多く、かつ寿命の長い発光装置およびその放熱方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態における発光装置の構成を概略的に示す外観図であり、(A)が側面図であり、(B)が正面図である。
【図2】図1(B)におけるII−II線に沿った断面図である。
【図3】比較例の構成を示す図1(B)のII−II線に沿った断面に対応する断面図であって、本発明の一実施の形態の放熱装置を使用しない発光装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態における発光装置の製造方法を示す斜視図であって、フレキシブル基板に有機EL素子を形成する工程(A)と、そのフレキシブル基板を湾曲させて円筒体内に装着する工程(B)とを示す斜視図である。
【図5】図4に示す方法で製造された、湾曲させたフレキシブル基板を内部に装着された円筒管の構成を概略的に示す断面図である。
【図6】円筒管の内周面に湾曲させたフレキシブル基板が装着された発光装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図7】円筒管の内周面に湾曲させたフレキシブル基板が複数積層された発光装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図8】放熱装置として毛細管現象を使って作動流体を蒸発させる液体供給部材を用いた発光装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
はじめに本実施の形態の発光装置の構成について説明する。
図1および図2を参照して、本実施の形態の有機EL発光装置130は、円筒管1(管)と、有機EL素子(有機発光素子)12と、封止部110と、電極112a、112bと、配線113a、113bと、吸水性スポンジ(多孔質体)20と、ヒートパイプ(熱伝導部材)21と、放熱フィン22とを主に有している。
【0027】
円筒管1は、長さ方向(図2中の仮想線LDの方向)に延びる空洞部を有する透光性の管である。より具体的には円筒管1は、たとえばソーダ石灰ガラスにより形成された、直径50mm、長さ540mm、厚さ1mmの管である。
【0028】
有機EL素子12は、円筒管1の内面上に順に形成された、保護層12aと、透明陽極層(第1電極層)12bと、有機物層OLと、陰極層(第2電極層)12gとを有している。有機物層OLは、第1〜第4の層12c〜12fを有している。保護層12aと、透明陽極層12bと、有機物層OLと、陰極層12gとは、円筒管1の中心線(図2中の仮想線LD)に対して同心円状に配置されている。
【0029】
保護層12aは、アルカリ金属イオンの移動を防止する機能を有している。よって円筒管1の材質にソーダ石灰ガラスなどのアルカリ金属イオンを含む材質が用いられても、円筒管1から透明陽極層12bへアルカリ金属イオンが移動することが防止される。保護層12aは、たとえば酸化シリコン(SiO2)により形成された厚さ10nmの層である。
【0030】
透明陽極層12bは、透光性を有しており、かつ有機EL素子12の陽極としての機能を有している。透明陽極層12bは、導電性の酸化物層であり、たとえば酸化インジウム錫(ITO(Tin doped Indium Oxide))により形成された厚さ1μmの層である。
【0031】
有機物層OLの第1の層12cは、たとえば下記の式(1)に示す有機材料(NPD)から形成された厚さ40nmの層である。
【0032】
【化1】

【0033】
有機物層OLの第2の層12dは、たとえば、下記の式(2)に示す有機材料(Znbox2)を主成分とし、かつ下記の式(3)に示すペリレン(C2012)により1.5重量%のドーピングがなされた、厚さ7nmの層である。
【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
有機物層OLの第3の層12eは、たとえば、上記の式(2)に示す有機材料(Znbox2)を主成分とし、かつ下記の式(4)に示す有機材料(DCM1)により0.25重量%のドーピングがなされた、厚さ23nmの層である。
【0037】
【化4】

【0038】
有機物層OLの第4の層12fは、たとえば、上記の式(2)に示す有機材料(Znbox2)から形成された、厚さ30nmの層である。
【0039】
なお上記の第1の層12cはホール輸送層としての機能を有し、第4の層12fは電子輸送層としての機能を有している。また第2の層12dおよび第3の層12eのそれぞれは、ドーパント色素としてペリレンおよびDCM1を含有することにより、発光層としての機能を有している。第2の層12dおよび第3の層12eのそれぞれにおいて青色およびオレンジ色の発光が生じ、これら2色の光が混合することで白色の光が得られる。
【0040】
陰極層12gは、有機EL素子12の陰極としての機能を有している。陰極層12gは、金属層であり、たとえばアルミニウムにより形成された厚さ0.5μmの層である。
【0041】
なお有機EL素子12上の領域のうち円筒管1の長さ方向の両端側の領域は、陰極層12gが形成されていない領域であるショート防止用スペースSPとなっている。ショート防止用スペースSPが設けられていることにより、陰極層12gと透明陽極層12bとが有機EL素子12の端部において短絡することが防止されている。
【0042】
封止部110は、円筒管1の内部空間を気密に封止している。これにより、透明陽極層12bと有機物層OLと陰極層12gとを有する有機発光素子を含む領域が気密に封止されている。また気密に封止された円筒管1の内部には、不活性ガスIGとして、たとえば0.5気圧で窒素ガスが封入されている。
【0043】
封止部110は、封止部材110a、110b、およびOリング124a、124bを有している。封止部材110a、110bには、放熱特性の良い材料が使用されることが好ましい。封止部材110a、110bのそれぞれを貫通して有機EL発光装置130の外部に向かって突出するように、封止部材110a、110bのそれぞれに電極112a、112bが配置されている。
【0044】
配線113aの一端は透明陽極層12bに電気的に接続されており、配線113aの他端は電極112aに電気的に接続されている。配線113bの一端は陰極層12gに電気的に接続されており、配線113bの他端は電極112bに電気的に接続されている。
【0045】
また封止部材110a、110bのそれぞれには、乾燥剤127a、127bが配置されている。封止部材110aおよび110bのそれぞれは、円筒管1の両端に、Oリング124a、124bにより着脱可能に固定されている。
【0046】
封止部材110a、110bの材質は、たとえばガラスまたはアルミニウムである。各Oリング124a、124bは、たとえばエラストマーからなり、エラストマーの復元力により封止部材110a、110bと、円筒管1とに密着されている。なおOリング124a、124bによる封止をより確実にするため、封止部110にOリング124a、124bを締め付けるためのネジが取り付けられてもよい。
【0047】
吸水性スポンジ20とヒートパイプ21と放熱フィン22とを有する放熱装置が有機EL発光装置130に含まれている。これにより、有機EL素子12で生じた熱を効率的に装置130の外部に放出することが可能となる。
【0048】
吸水性スポンジ20は、有機EL素子12の内周側に配置されている。この吸水性スポンジ20は、微細な連続気孔をもった絶縁性の多孔質体よりなっている。吸水性スポンジ20は、たとえば気孔径25μm、気孔率83%、保水率400%の連続多孔質体よりなっており、孔内に作動流体を吸水している。この作動流体は、有機EL素子12で生じた熱により蒸発可能であり、たとえば沸点が50℃程度で有機物層OLと無反応な絶縁性の有機化合物の液体である。作動流体は、たとえば沸点65℃の液体(メタノール)または沸点56℃の液体(フロリナートFC−72)よりなっている。
【0049】
ヒートパイプ21は、気密に封止された円筒管1の内部空間内で有機EL素子12の内周側から封止部材110a、110bへ延びるように配置されている。またヒートパイプ21は、有機EL素子12の内周側で吸水性スポンジ20に接するように配置されている。これにより、ヒートパイプ21は有機EL素子12で生じた熱を封止部材110a、110bに伝導可能に構成されている。またヒートパイプ21は、銅の10倍の熱伝導率を有する材質よりなっている。
【0050】
放熱フィン22は、封止部材110a、110bの外周に取り付けられており、ヒートパイプ21および封止部材110a、110bに熱的に接続されている。これにより、ヒートパイプ21および封止部材110a、110bの熱を放熱フィン22に伝えて、その放熱フィン22から有機EL発光装置130の外部へ放出することができる。
【0051】
なお放熱フィン22がなくても封止部材110a、110bの外周から有機EL発光装置130の外部へ熱を放出することは可能であるが、放熱フィン22を設けることによって、放熱面積を増加させることができるため、より効率的に有機EL発光装置130の外部へ熱を放出することが可能となる。
【0052】
次に、本実施の形態の発光装置における発光と放熱方法とについて説明する。
円筒管1の封止領域の外に露出した電極112aと電極112bとの間に電圧が印加されることで、透明陽極層12bと陰極層12gとの間に電圧が印加される。この電圧により透明陽極層12bから陰極層12gに向かって電流が流れ上記発光層における発光が生じる。
【0053】
電流が流れることにより有機EL素子12からジュール熱が発生する。発生した熱は円筒管1を伝わって外気に放熱されると同時に、陰極層12gに接触した吸水性スポンジ20の孔内の作動流体にも伝わる。
【0054】
次に、陰極層12gが50℃程度になると、吸水性スポンジ20の孔内の作動流体が蒸発し陰極層12gから気化熱として熱を奪う。作動流体は気化することにより圧力が高まるため、その蒸気は吸水性スポンジ20の孔を伝って吸水性スポンジ20内の圧力の低い内周側へ移動する。これにより、作動流体の蒸気は吸水性スポンジ20の内部の孔内に拡散し、ヒートパイプ21に接触することで冷却されて凝縮・液化して液体に戻る。液化した作動流体は吸水性スポンジ20の内部に毛細管現象で拡散し、再び陰極層12gに接触する。作動流体はこのサイクルを繰り返す。
【0055】
次に、作動流体の蒸気はヒートパイプ21に接触して液化したときに熱エネルギーを潜熱として放出して、その潜熱をヒートパイプ21に伝える。蒸発に伴う潜熱はきわめて大きく、銅パイプの数十倍の熱輸送能力をもつ。このヒートパイプ21は、銅の10倍の熱伝導率で封止部材110a、110bの外側に設置された放熱フィン22に熱を伝える。
【0056】
次に、放熱フィン22から外気に熱が伝わる。上記の工程により透明陽極層12bと有機EL素子12とで発生した熱は、外気に放出される。
【0057】
次に、本実施の形態の作用効果について比較例と対比して説明する。
図3を参照して、比較例の有機EL発光装置130Aは、図2に示す本実施の形態の構成から放熱装置(吸水性スポンジ20、ヒートパイプ21、放熱フィン22)を省略した構成を有している。なお、これ以外の比較例の構成は、図2に示す本実施の形態の構成とほぼ同じであるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
図3に示す比較例の構成では、有機EL素子12で発生した熱は、主に円筒管1を通じて有機EL発光装置130Aの外部へ放出される。しかし、この円筒管1には透光性が要求されるため、円筒管1の熱伝導率を高くするには制限があり放熱特性が悪い。また円筒管1の内部の不活性ガスIG(たとえば窒素ガス)を伝わって封止部材110a、110bから外気に放熱する場合には、窒素ガスの熱伝導率も小さいので放熱特性が悪い。
【0059】
このため図3の比較例の構成では、有機EL素子12で発生した熱を外部へ効率よく放熱することが難しい。よって、輝度を上げるために有機EL素子12に流す電流を増やすと、有機EL素子12がジュール熱によって発生する熱量が大きくなって、有機物層OLの温度が上昇する。この有機物層OLの温度が100℃に達すると有機EL素子12の劣化が生じ、有機EL発光装置130Aの発光効率の低下や有機EL素子12の劣化による寿命の減少が生じる。
【0060】
これに対して本実施の形態によれば、上述したように放熱装置(吸水性スポンジ20、ヒートパイプ21、放熱フィン22)を用いて有機EL素子12で発生した熱を有機EL発光装置130Aの外部へ放出することができる。この放熱装置は有機EL素子12の内周側などに位置しており、透光性を要求されないため、熱伝導率の高い材質で構成することができる。これにより、有機EL素子12で発生した熱を、円筒管1越しに放熱するよりも効率よく有機EL発光装置130の外部へ放出することが可能となる。このため、有機EL素子12に流す電流を増やしても有機EL素子12の温度の上昇を抑制することができ、有機EL素子12の温度をたとえば50℃程度に保つことができる。よって、有機EL発光装置130の発光効率の低下や有機EL素子12の劣化による寿命の減少を抑制することができる。また有機EL素子12への電流供給量を多くできるため、有機EL発光装置130の輝度を上げることができる。
【0061】
具体的には、円筒管1にガラス管を使用した場合、円筒管1の熱伝導率は1.5W/mK程度となる。一方、本実施の形態の放熱装置(吸水性スポンジ20、ヒートパイプ21、放熱フィン22)の熱伝導率は4500W/mK程度であるので、ガラス管に対して3000倍の熱伝導率となる。
【0062】
また円筒管1の厚さが1mm、長さ1000mmの発光装置の場合、ヒートパイプ21は両端に設置しているので長さは500mm程度となる。このため、本実施の形態の放熱装置(吸水性スポンジ20、ヒートパイプ21、放熱フィン22)の熱伝導量はガラス管に対して6倍となる。
【0063】
また本実施の形態によれば、吸水性スポンジ20に含まれる作動流体を介して、有機EL素子12から生じた熱をヒートパイプ21に伝えることができる。つまり、有機EL素子12で生じた熱から気化熱を得ることによって作動流体が蒸発し、この蒸発した作動流体の蒸気が吸水性スポンジ20の孔内を移動してヒートパイプ21に達して、ヒートパイプ21に熱を与えて液化する。このようにして作動流体から伝えられた熱が、ヒートパイプ21を通じて封止部材110a、110bおよび放熱フィン22から有機EL発光装置130Aの外へ放熱される。
【0064】
また本実施の形態によれば、ヒートパイプ21が用いられているため、ヒートパイプ現象を利用することで、さらに放熱特性を高めることができる。
【0065】
また本実施の形態によれば、封止部材110a、110bのそれぞれの外周に設けた放熱フィン22により放熱面積を大きくできるため、放熱をより効率的に行なうことができる。
【0066】
上記の有機EL発光装置130においては、有機EL素子12がフレキシブル基板115上に形成されてもよい。以下、その内容について説明する。
【0067】
図4(A)を参照して、まずフレキシブル基板(可撓性フィルム)115が、たとえば透光性を有する厚さ75μmのPEN(Poly (ethylene naphthalate))フィルムから準備される。このフレキシブル基板115上に有機EL素子12が形成される。この有機EL素子12は、たとえば図2に示す透明陽極層(第1電極層)12bと、有機物層OLと、陰極層(第2電極層)12gとから構成される。
【0068】
図4(B)を参照して、この後、たとえばフレキシブル基板115が外周側、有機EL素子12が内周側となるようにフレキシブル基板115が湾曲させられる。湾曲されたフレキシブル基板115は円筒管1内面に装着される。この状態の円筒管1内の構成は、図5に示すような構成となっている。つまり、円筒管1の内周面にフレキシブル基板115を介在して有機EL素子12が配置されている。
【0069】
なお図2に示す保護層12aは、図5に示す構成において円筒管1とフレキシブル基板115との間、またはフレキシブル基板115と透明陽極層12bとの間に形成されていてもよいが、省略されてもよい。
【0070】
この後、図6を参照して、放熱装置(吸水性スポンジ20、ヒートパイプ21、放熱フィン22)などが円筒管1に取り付けられて有機EL発光装置130が製造される。
【0071】
上記のようにフレキシブル基板115を用いた場合には、フレキシブル基板115の屈折率を適切に設定することにより有機EL発光装置130における光の取り出し効率を高めることができる。
【0072】
また図7に示すように、フレキシブル基板115、透明陽極層12b、有機物層OLおよび陰極層12gの積層体が複数(たとえば2層)積層されていてもよい。この場合、配線113aは、補助電極114により外周側と内周側との双方の透明陽極層12bに電気的に接続されている。また配線113bは、補助電極114により外周側と内周側との双方の陰極層12gに電気的に接続されている。
【0073】
また内周側有機EL素子12の発光光の装置外への取り出し効率を高めるため、外周側の有機EL素子12に含まれる陰極層12gは透光性を有していることが好ましく、たとえば酸化インジウム錫などよりなっていることが好ましい。
【0074】
なお、図7の上記以外の構成は図6に示す構成とほぼ同じであるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0075】
上記の有機EL発光装置130においては、ヒートパイプ21の代わりに金属が用いられてもよく、また吸水性スポンジ20と作動流体との代わりに絶縁性の熱伝導素材が用いられてもよい。また放熱フィン22ではなく電極112a、112bを用いて、ケーブルに熱を逃がすような構成が採用されてもよい。また放熱フィン22ではなく照明器具の筐体を使って熱を逃がすような構成が採用されてもよい。
【0076】
また円筒管1について説明したが、円筒管1の形状は円筒状でなくともよく、筒状(管)であればよい。また円筒管1は長さ方向の両端が開口した構成について説明したが、円筒管1の長さ方向の一方端のみが開口し、その一方端の開口部のみを封止するように封止部110が設けられていてもよい。また透明陽極層12bが外周側で、陰極層12gが内周側の場合について説明したが、透明陽極層12bが内周側で、陰極層12gが外周側であってもよい。ただし、この場合、少なくとも外周側の電極は透光性を有する材質である必要がある。
【0077】
また熱伝導部材として、図8に示すように毛細管作用を有する液体供給部材20aと、液体供給部材の毛細管現象によって移動可能な作動流体とが用いられてもよい。この液体供給部材20aは、毛細管作用によって作動流体を移動可能とし、その移動によって作動流体を有機発光素子に供給するためのものである。この液体供給部材20aは、たとえば網線(メッシュ体)により構成されるウィックである。この液体供給部材20aは、有機EL素子12の内周側に配置されている。熱伝導部材として上記の液体供給部材20aと作動流体とを用いる場合には、図2に示す吸水性スポンジ20やヒートパイプ21は無くてもよい。
【0078】
この図8に示す構造においては、封止部材110a、110bの各外周面と円筒管1の内周面との間にOリング124a、124bが配置されている。乾燥剤127aは封止部材110aと配線113aとの間の領域に配置されており、乾燥剤127bは封止部材110bと配線113bとの間の領域に配置されている。
【0079】
なお、図8の上記以外の構成は図2に示す構成とほぼ同じであるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0080】
次に、図8に示す発光装置における発光と放熱方法とについて説明する。
円筒管1の封止領域の外に露出した電極112aと電極112bとの間に電圧が印加されることで、有機EL素子12から発光が生じるとともにジュール熱が発生する。発生した熱は円筒管1を伝わって外気に放熱されると同時に、液体供給部材20aの作動流体(たとえばウィックを濡らす作動流体)にも伝わる。
【0081】
これにより作動流体が所定の温度になると蒸発し、気化熱として有機EL素子12から熱を奪う。作動流体は気化することにより圧力が高まるため、円筒管1内の圧力の低い方へ移動する。これにより、作動流体の蒸気は円筒管1内に拡散して封止部材110a、110bへ移動し、封止部材110a、110bに接触することで冷却されて凝縮・液化して液体に戻る。液化した作動流体は液体供給部材20aを濡らし、毛細管現象によって長手方向の端部側から中央部側へ移動する。作動流体はこのサイクルを繰り返す。
【0082】
次に、作動流体の蒸気は封止部材110a、110bに接触して液化したときに熱エネルギーを潜熱として放出して、その潜熱を封止部材110a、110bに伝える。封止部材110a、110bに伝えられた熱は、封止部材110a、110bから外気に放出される。上記の工程により有機EL素子12で発生した熱は、外気に放出される。
【0083】
上記の液体供給部材20aは網線に限定されるものではなく、多孔体などの毛細管作用を有する材料であればよい。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、管の内面に形成された有機EL素子を含む発光装置およびその放熱方法に関するもので、特に照明器具に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0086】
1 円筒管、12 有機EL素子、12a 保護層、12b 透明陽極層、12c〜12f 第1〜第4の層、12g 陰極層、20 吸水性スポンジ、20a 液体供給部材、21 ヒートパイプ、22 放熱フィン、110a,110b 封止部材、112a,112b 電極、113a,113b 配線、115 フレキシブル基板、124 シール材、124a、124b Oリング、127a、127b 乾燥剤、130 有機EL発光装置、IG 不活性ガス、OL 有機物層、SP ショート防止用スペース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する管と、
前記管の内周側に配置された、透光性を有する第1電極層と、
前記第1電極層の内周側に形成され、かつ電圧が印加されることにより発光可能な有機物層と、
前記有機物層の内周側に形成された第2電極層と、
前記第1電極層と前記有機物層と前記第2電極層とを含む有機発光素子を含む領域を気密に封止するように前記管に取り付けられた封止部材と、
気密に封止された空間内で前記第2電極層の内周側に配置され、かつ前記有機発光素子で生じた熱を前記封止部材に伝えるための熱伝導部材とを備えた、発光装置。
【請求項2】
前記有機発光素子の内周側において前記有機発光素子と前記熱伝導部材との間に配置され、かつ前記有機発光素子で生じた熱により蒸発可能な作動流体を含む多孔質体をさらに備えた、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記熱伝導部材はヒートパイプである、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記熱伝導部材は、毛細管作用を有する液体供給部材と、前記液体供給部材の前記毛細管作用によって移動可能でかつ前記有機発光素子で生じた熱により蒸発可能な作動流体とを含む、請求項1に記載の発光装置。
【請求項5】
前記有機発光素子が形成された表面を有する可撓性フィルムをさらに備え、
前記可撓性フィルムは前記管の内周側に配置されている、請求項1〜4のいずれかに記載の発光装置。
【請求項6】
前記可撓性フィルムは湾曲させた状態で前記管の内周側に装着されている、請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
請求項2に記載の発光装置の放熱方法であって、
前記有機発光素子で生じた熱から気化熱を得ることによって前記作動流体が蒸発する工程と、
蒸発した前記作動流体の蒸気が前記多孔質体内を前記熱伝導部材へ移動する工程と、
前記熱伝導部材に達した前記作動流体の蒸気が前記熱伝導部材に熱を伝えて液化する工程と、
前記作動流体から伝えられた熱を、前記熱伝導部材を通じて、気密に封止された前記空間の外へ放熱する工程とを備えた、発光装置の放熱方法。
【請求項8】
請求項4に記載の発光装置の放熱方法であって、
前記液体供給部材が前記毛細管作用によって前記作動流体を前記有機発光素子に供給する工程と、
前記有機発光素子で生じた熱から気化熱を得ることによって前記作動流体が蒸発する工程と、
蒸発した前記作動流体の蒸気が前記封止部材へ移動する工程と、
前記封止部材に達した前記作動流体の蒸気が前記封止部材に熱を伝えて液化する工程と、
前記作動流体から伝えられた熱を、前記封止部材を通じて、気密に封止された前記空間の外へ放熱する工程と、
前記作動流体が前記封止部材で冷却されて液化し、液化した前記作動流体が前記液体供給部材によって再び前記有機発光素子に供給することで循環しながら放熱する工程とを備えた、発光装置の放熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−245164(P2010−245164A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90080(P2009−90080)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【特許番号】特許第4548806号(P4548806)
【特許公報発行日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(508016664)フジテック・インターナショナル株式会社 (7)
【出願人】(599048661)有限会社マイクロシステム (9)
【Fターム(参考)】