説明

発光装置

【課題】有機EL素子を用いた発光装置において、発光効率を向上した上で色純度の向上を図る。
【解決手段】有機EL素子5の、光取り出し側とは逆側に低屈折率層6と反射膜7を設け、該低屈折率層6の膜厚を有機EL素子5の発光のピーク波長以下に設定することにより、該低屈折率層6を通過して反射膜7で反射する導波光の長波長成分を減衰させ、色純度を向上させた導波光を光取り出し構造としての光取り出し層8から取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)を備えた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光装置は、薄膜で自発光を特徴とした有機EL素子を画素として用いた新方式の発光装置であるが、課題として発光色の色純度向上と発光効率の向上がある。通常有機EL素子に用いられる発光ドーパントは、半値幅の大きい広帯域なスペクトル形状を有しているため色純度は低い。また、有機EL素子の発光は空気よりも屈折率が高い有機発光層内で起こるため、屈折率差から起こる全反射により有機EL素子から実際に空気中に取り出される光の割合は約20%乃至30%でしかない。特許文献1では有機EL素子の色純度向上及び光取り出し効率向上のために共振器構造を導入している。しかしながら、更なる光取り出し効率向上のために、空気中に取り出されることなく有機EL素子内を伝搬する導波光を、空気中に取り出す研究が進められている。例えば特許文献2では回折格子を用いることで、導波光を回折により空気中に取り出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−127795号公報
【特許文献2】特開2006−85985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機EL素子内を伝搬する導波光を反射・回折・散乱等により空気中に取り出すことにより、発光効率を向上することができるものの、取り出された導波光は発光ドーパントのスペクトル形状と同等であるため、色純度の向上は望めなかった。
【0005】
本発明の課題は、上記問題を解決し、発光効率を向上した上で色純度の向上を図った発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一対の透明電極と、前記透明電極の間に配置された発光層を含む有機化合物層とを有する有機EL素子と、
前記有機EL素子の光取り出し面とは逆側の透明電極が、前記有機化合物層よりも屈折率が高く、
前記有機EL素子の光取り出し面とは逆側に、有機化合物層よりも屈折率が低い低屈折率層と、反射膜とを有機化合物層側からこの順で有し、
前記低屈折率層の膜厚が、前記有機EL素子の発光ピーク波長以下であり、
導波光を取り出す光取り出し構造が設けられていることを特徴とする発光装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発光装置内を往復する導波光の長波長成分を減衰して取り出すことができるため、取り出された導波光のスペクトル形状は発光ドーパントよりも色純度が向上したものとなる。よって、本発明によれば、発光効率の向上と同時に、色純度の向上を図った発光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の発光装置の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】青色発光の有機EL素子におけるPLスペクトルの一例を示す図である。
【図3】反射膜において反射角60°の導波光の分光反射率を示す図である。
【図4】反射膜において反射角60°の導波光が5往復した場合の分光反射率を示す図である。
【図5】青色発光の発光装置の導波光における低屈折率層の膜厚と色純度の関係の一例を示す図である。
【図6】緑色発光の発光装置の導波光における低屈折率層の膜厚と色純度の関係の一例を示す図である。
【図7】本発明の発光装置の構成例を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の発光装置の他の構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発光装置は、有機EL素子の光取り出し側とは逆側に、低屈折率層と反射膜を備えている。そして、該低屈折率層の膜厚を調整することによって、該低屈折率層を通過して反射膜で反射される導波光の長波長成分を減衰させ、外部に取り出される導波光の色純度を向上させることに特徴を有する。本発明において、有機EL素子を構成する一対の電極はいずれも透明電極であり、反射膜を形成した側の電極は有機化合物層よりも屈折率が高い。
【0010】
以下、本発明の発光装置について、実施形態を挙げて図面を参照して説明する。尚、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。また以下に説明する実施形態は、発明の一つの実施形態であって、これらに限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の発光装置の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。本実施形態の発光装置は、有機EL素子が形成された基板側に光を取り出すボトムエミッション型である。
【0012】
本実施形態では、透明な絶縁性基板1上に有機EL素子5が配置されている。有機EL素子5は、2つの透明電極2,4間に挟まれた、発光層を含む有機化合物層(有機EL層)3を備えたものである。具体的には、基板1の上にアノード電極2と、アノード電極2上に設けられた有機化合物層3と、有機化合物層3の上に設けられたカソード電極4とを有している。本発明においては、アノード電極2、有機化合物層3、カソード電極4、を合わせて有機EL素子5とする。
【0013】
絶縁性基板1には屈折率1.5程度のガラス基板が一般的に用いられる。アノード電極2としては、正孔注入性の観点から仕事関数の高い電極が好ましく、ITO,IZOといった透明電極が挙げられる。有機化合物層3には発光層以外に、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層を含むことができ、各層には公知の材料を使用することができ、成膜手法も蒸着や転写等公知の成膜手法を用いることができる。カソード電極4としては、ITO,IZOといった透明電極を用いることが好適であり、必要に応じて公知の電子注入層を用いることで電子注入性を確保するのがよい。
【0014】
有機化合物層3は空気よりも屈折率が大きいため、垂直方向に近い光しか空気中に取り出すことができない。従って、有機化合物層3内から外部へ出射する光は、垂直方向を0°とすると入射角約30°以内であれば取り出されるが、入射角が約30°以上の光は空気界面での全反射により導波光となる。本実施形態では導波光の光取り出し構造として有機EL素子の端面(基板1に平行な面内方向端部)に光取り出し層8を配置している。導波光は発光装置内を、反射を繰り返しながら伝搬していき、端面の光取り出し層8に入射する。光取り出し層8に入射した導波光は、反射・散乱・回折等により伝搬角度が変換され、導波光の一部は空気中に取り出される。
【0015】
青色発光の有機EL素子に用いられる発光ドーパントの一例としてFIrPic及びFIr66のPL(フォトルミネッセンス)スペクトル形状を図2に示す。FIrPicはBis(3,5−difluoro−2−(2−pyridyl)phenyl−(2−carboxypyridyl) iridium(III)である。また、FIr6はBis(2,4−difluorophenylpyridinato)tetrakis(1−pyrazolyl)borate iridium(III)である。発光装置に求められる青色の仕様として例えばNTSCのCIExy(0.14,0.08)があるが、FIrPicのPLスペクトルから算出される色度は(0.14,0.34)で、NTSCの仕様から大きく離れた色度となる。また、FIr6についても、PLスペクトルから算出される色度が(0.15,0.28)であり、NTSCの仕様から大きく離れた色度となる。
【0016】
NTSCの色度から大きく離れている一因は、FIrPic,FIr6共に、500nm程度以上の波長における発光が存在するため水色に近い色純度になっているためである。光取り出し層8により取り出される導波光は発光ドーパントのスペクトル形状とほぼ同等であるため、単純に光取り出し構造を設けただけでは、光取り出し効率は向上しても発光色純度の向上は望めない。
【0017】
そこで本発明においては、カソード電極4の上部に有機化合物層3よりも屈折率の低い材料からなる低屈折率層6と、金属からなる反射膜7がこの順に設けられている。そして、有機化合物層3から見た反射膜7方向の分光反射率を、低屈折率層6の膜厚によって調整し、導波光の長波長成分を減衰させることで導波光の色純度を向上させている。
【0018】
図3は低屈折率層6の膜厚と、有機化合物層3から反射膜7に入射して反射角60°で反射する光の分光反射率の関係の計算結果である。前提として、カソード電極4は有機化合物層3よりも高屈折率なIZOからなり、低屈折率層6には有機化合物層3よりも低屈折な材料であるSiO2、反射膜7には十分な厚さを有するAlをそれぞれ使用している。図3に示されるように、分光反射率には干渉に起因する低屈折率層6の膜厚依存性があり、低屈折率層6の膜厚を厚くすると反射率の極小値をとる波長が長波側に変化する。一般的に有機EL素子の有機化合物層の膜厚は200nm乃至300nm程度のため、5μm導波すると導波光はカソード電極4とアノード電極2との間を5乃至10往復程度することになる。導波光が5往復したという前提で図3における反射率を5乗したものが図4であるが、5往復すると波長による反射率の差がさらに広がる。尚、反射角60°における分光反射率で考えるのは、導波光の伝搬角度が反射角で約30°乃至90°であるため、中間である60°で考えるのが妥当であるからである。
【0019】
導波光が5往復した場合の概略色純度は図2のPLスペクトル形状に図4の分光反射率を乗じたスペクトル形状から算出できる。下記表1はその結果であり、低屈折率層6の膜厚が変化した場合のFIrPic,FIr6の色度変化、及び、その時のNTSC青色色度(0.14,0.08)との色度差として平方距離Δxyを記載している。Δxyが小さいほどNTSCの青色色度に近いため色純度がよい。図5は表1における低屈折率層6の膜厚dと青色色度との平方距離Δxyの関係をグラフ化したものである。d=100nm乃至400nmの間におけるΔxyは従来構成(d=0nm)よりも小さい値になっており、本実施形態は従来よりも色純度が向上していることが分かる。青色発光の有機EL素子に用いられる発光ドーパントの色純度が低い一因は長波長側の強度が相対的に高いことであり、500nm程度以上の波長の光の減衰を大きくする本実施形態では導波光の色純度が向上する。青色発光の有機EL素子の発光ピーク波長は450nm乃至500nm程度であるため、低屈折率層6の膜厚はこの発光ピーク波長以下にすれば本発明の効果は得られる。よって、好ましくは100nm乃至400nmであり、特にd=200nmにおいてFIrPic,FIr6共にΔxyの極小値をとっており、青色の導波光の色純度を向上させるには、低屈折率層6の膜厚は200nm程度であることが好適である。
【0020】
【表1】

【0021】
尚、本発明は青色以外にも有効である。緑色の発光ドーパントであるAlqで導波光が5往復した場合の概略色純度とNTSCにおける緑色の色度(0.21,0.71)との色度差Δxyの結果を表2に記載する。また、図6は表2における低屈折率層6の膜厚と緑色色度との平方距離Δxyの関係をグラフ化したものである。d=200nm乃至700nmの間におけるΔxyは従来構成(d=0nm)よりも小さい値になっており、本実施形態は従来よりも色純度が向上していることが分かる。緑色発光の有機EL素子の発光ピーク波長は500nm乃至550nm程度であるため、低屈折率層6の膜厚は発光波長程度以下にすれば本発明の効果は得られる。特にd=300nm乃至400nmにおいてΔxyの極小値をとっており、緑色の導波光の色純度を向上させるには、低屈折率層6の膜厚が300nm乃至400nm程度が好適である。
【0022】
【表2】

【0023】
本発明は低屈折率層6の膜厚を調整することで、実質的にローパスフィルターとしての機能を持たせることで、導波光の色度調整を可能にしている。色度調整された導波光を光取り出し構造により空気中に取り出すと、色純度を向上させた上で、光取り出し効率の向上が達成できる。光取り出し構造としては、反射、回折、散乱等を利用して導波光を空気中に取り出す構造や、有機EL素子の端面に低屈折率材料を配置する構造がある。光取り出し構造を狭ピッチで配置すると、発光画素の開口率低下や作製手法が難解になることから、数μmピッチで配置されることが多い。
【0024】
光取り出し構造の具体例として、以下の実施例に有機EL素子の端面に低屈折率材料を配置する構造(実施例1)と回折格子構造(実施例2)を挙げるが、本発明は他の光取り出し構造にも適用できる。例えば、導波光を散乱により取り出す手法は、回折格子同様、発光装置内を往復しながら散乱により取り出すことになるため本発明による色度調整は有効である。また、有機EL素子の端面に反射ミラーを配置することにより導波光を空気中に取り出す手法も、反射ミラーに到達するまでに発光装置内を往復することになるため、本発明による色度調整は有効である。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
光取り出し構造として、青色発光の有機EL素子の端面に低屈折率材料を配置した実施例を図7を用いて説明する。アノード電極2としてITOが成膜された透明な絶縁性基板1上に、低屈折率材料(n=1.2)であるポーラスシリカを低屈折率構造体18として成膜する。そして通常のフォトリソ工程により幅1μm、高さ0.3μmのグリッドを作製する。この際、有機EL発光領域として5μm×5μmの開口部を設ける。
【0026】
さらに、正孔注入層、正孔輸送層、青色発光の有機発光層、電子輸送層、電子注入層からなる有機化合物層3を蒸着により成膜し、カソード電極4としてIZOをスパッタする。尚、有機化合物層の材料としては公知のものが使用できるため詳細は省略する。
【0027】
低屈折率層6としてSiO2をスパッタにより300nm程度の膜厚で成膜し、さらに、反射膜17としてAlを蒸着により成膜する。最後にキャップ缶で封止を行う。
【0028】
以上の工程を真空一貫で行うことで、色純度が改善された導波光を有機EL素子5の端面に配置された低屈折率構造体18より空気中に取り出すことができる。
【0029】
(実施例2)
図8は、本実施例の構成を模式的に示す断面図であり、本実施例の発光装置は、有機EL素子が形成された基板とは逆側に光を取り出すトップエミッション型である。光取り出し構造としては、有機EL素子の光取り出し側に回折格子を有する。回折格子の回折効率は通常5%乃至20%程度と低いため、回折により取り出すまでに導波光は発光装置内を往復することになる。従って、光取り出し構造として回折格子を設けた場合にも、導波光の色度を調整する本発明は有効である。以下具体的に説明する。
【0030】
本実施例は、絶縁性基板1の上に、反射膜7、低屈折率層6、アノード電極2、有機化合物層3、カソード電極4を形成したものである。低屈折率層6の膜厚は緑色発光の色純度が向上するよう300nmとする。カソード電極4の上部には有機EL素子5を水分や酸素から保護する保護膜28と光取り出し構造として機能する回折格子層29がある。
【0031】
保護膜28は光の透過率が高く、防湿性に優れた部材が好ましく、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜が好適であり、成膜法としてはCVD法のような公知の手法が適用できる。回折格子層29は樹脂材料にナノインプリント法を適用すれば作製できる。樹脂材料としては熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化型樹脂を用いることができる。一例としては、塗布した熱硬化型樹脂に対して所望の周期構造を成形するための型を押し当てたまま、熱により硬化させ、型を剥離すればよい。回折格子の周期は発光ピーク波長の0.5倍乃至1.5倍程度が、回折効率が高いため好適である。
【符号の説明】
【0032】
2,4:透明電極、3:有機化合物層、5:有機EL素子、6:低屈折率層、7:反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の透明電極と、前記透明電極の間に配置された発光層を含む有機化合物層とを有する有機EL素子と、
前記有機EL素子の光取り出し面とは逆側の透明電極が、前記有機化合物層よりも屈折率が高く、
前記有機EL素子の光取り出し面とは逆側に、有機化合物層よりも屈折率が低い低屈折率層と、反射膜とを有機化合物層側からこの順で有し、
前記低屈折率層の膜厚が、前記有機EL素子の発光ピーク波長以下であり、
導波光を取り出す光取り出し構造が設けられていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記光取り出し構造が、前記有機EL素子の面内方向端部に配置された、有機化合物層よりも屈折率の低い低屈折率構造体である請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記光取り出し構造が、導波光を反射、回折、或いは散乱することにより外部に取り出す構造体である請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
前記有機EL素子が、青色発光を示し、前記低屈折率層の膜厚が100nm乃至400nmである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記有機EL素子が、緑色発光を示し、前記低屈折率層の膜厚が300nm乃至400nmである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−12378(P2013−12378A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143897(P2011−143897)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】