説明

発泡固形潤滑剤およびその製造方法

【課題】固形潤滑剤の使用が困難であった圧縮・屈曲などの外部応力の働く場所においても使用可能な発泡固形潤滑剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなり、上記潤滑成分は炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、上記液状ゴムは高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25 〜 110 mgKOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであり、上記硬化剤は分子内にイソシアネート基を有する有機化合物であり、上記発泡剤が水であり、上記液状ゴムと上記硬化剤との割合は、上記液状ゴムに含まれる水酸基と上記硬化剤に含まれるイソシアネート基とが当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0〜2.0 )であり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分を 40 〜80 重量%、上記液状ゴムを 5 〜45 重量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡固形潤滑剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や産業用機械では潤滑油またはグリースを回転部や摺動部などの潤滑箇所に供給する必要があるが、潤滑油やグリースを用いる温度などの使用条件によっては潤滑剤が潤滑箇所から飛散し、または垂れ落ちるといった問題点がある。そこで潤滑油やグリースの使用が困難な環境では軸受などに固形潤滑剤を用いることが多い。このような潤滑剤を軸受に封入して固化させ、使用することで軸受寿命の向上に成功した事例がこれまでに報告されている(特許文献1〜特許文献3参照)。
しかしながら、例えば等速ジョイントの駆動部のように圧縮、屈曲などの外部の応力が高い頻度で繰り返し加わるような部位に対してこのような潤滑剤組成物を使用した場合、変形が困難であるため非常に大きな駆動力を必要とするか、非常に大きな応力が固形潤滑剤に加わった結果、破損や破壊に至ることがあるため使用は困難である。このような場所においても使用可能な固形潤滑剤の開発が求められている。
【0003】
固形潤滑剤に高い柔軟性を付与する手法の1つとして固形成分の発泡化が挙げられる。固形成分を発泡化させることで外部応力に対する見かけの弾性力が改善され、変形を許容する材料となる。これまでにもこのような潤滑剤含有発泡体を軸受や等速ジョイントなどの内外輪結合体に用いた例が報告されている(特許文献4参照)。
特許文献4に開示されている潤滑剤はジョイントの屈曲により変形するブーツに追従して固形潤滑剤が圧縮される。そこで固形潤滑剤より滲み出た液状潤滑剤が必要部位に供給され、良好な潤滑を可能にするものである。ここで報告されている潤滑剤の含有方法はあらかじめ発泡させた樹脂に潤滑油を含浸させるという後含浸型のものである。後含浸型の場合には潤滑油が固形成分に含まれていないため、潤滑油保持力が小さく、高速条件下で使用した場合には潤滑油が一度に抜け出てしまうという問題がある。このような発泡潤滑剤においては短時間での潤滑や密閉空間においては使用可能であるものの、長時間での潤滑や開放空間で使用すると潤滑油の供給不足となり、使用することはできない。
また、油保持性が高くないため、潤滑油の放出と発泡体への吸収を繰り返しながら潤滑剤は絶えず空間内を流動する。このような場合、潤滑剤やそれに含まれる添加剤の化学的性質によってはブーツ材を攻撃、劣化させる可能性があり、潤滑剤またはブーツ材のどちらか一方の材料選択が制限されるという問題がある。また、後含浸に伴う製造工程の工数増加や、製造時間の増加、それらに伴うコストアップは避けられないという問題がある。
【0004】
一方、ポリオール成分とイソシアネート成分とで生成されるポリウレタン樹脂内に潤滑油を含ませた潤滑性組成物が知られている(特許文献5〜特許文献7参照)。
また、瀝青などによる油展が可能な原料として水酸基末端ポリジエン化合物がこれまでに報告されている(特許文献8参照)。
しかしながら、圧縮・屈曲などの外部応力の働く部位において使用できるようなゴム弾性を有し、潤滑剤の放出性が高く、かつ大きな変形を許容する発泡固形潤滑剤は知られていない。
【特許文献1】特開平6−41569号公報
【特許文献2】特開平6−172770号公報
【特許文献3】特開2000−319681号公報
【特許文献4】特開平9−42297号公報
【特許文献5】特開昭60−173010号公報
【特許文献6】特開昭62−241997号公報
【特許文献7】特開平8−3259号公報
【特許文献8】特開昭58−189243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、従来では固形潤滑剤の使用が困難であった圧縮・屈曲などの外部応力の働く場所においても使用可能な発泡固形潤滑剤およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
圧縮・屈曲などの外部応力の働く場所においても、潤滑剤の保持性が高く、かつ大きな変形を許容する発泡固形潤滑剤について研究を進めたところ、発泡体内に潤滑剤が保持されるだけでは不十分であり、固形樹脂成分内にも潤滑油等を含有させ、潤滑剤保持力を高める必要があることが分かった。大きな変形を許容することができ、潤滑剤保持力を高めることで、工業的に汎用されているようなグリース潤滑と比較して、必要量を必要箇所に供給することが可能である。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。すなわち本発明の発泡固形潤滑剤は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなり、上記潤滑成分は炭化水素系潤滑油および炭化水素系グリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、上記液状ゴムは高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25 〜 110 mgKOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであり、上記硬化剤は分子内にイソシアネート基を有する有機化合物であり、上記発泡剤が水であり、上記液状ゴムと上記硬化剤との割合は、上記液状ゴムに含まれる水酸基と上記硬化剤に含まれるイソシアネート基とが当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0 〜 2.0 )の範囲であり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分を 40 〜80 重量%、上記液状ゴムを 5 〜45 重量%含むことを特徴とする。
【0007】
上記液状ゴムがブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体であることを特徴とする。
【0008】
上記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有し、イソシアネート基の割合が 2.5 〜 5.0 NCO%からなるプレポリマーであるか、または、芳香族ポリイソシアネート、特にトリレンジイソシアネートであることを特徴とする。
上記潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物は、摺動部材の周囲、または成形用型内に充填された後に、発泡・硬化されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明の発泡固形潤滑剤の製造方法は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む成分を混合して混合物を得る混合工程と、上記混合物の発泡・硬化が完了する前に、上記混合物を摺動部材の周囲、または成形用型内に充填する充填工程と、上記充填された上記混合物を発泡・硬化させる発泡・硬化工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発泡固形潤滑剤は、炭化水素系潤滑成分と、分子内に水酸基を有する炭化水素系液状ゴムと、ポリイソシアネート系硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させるので、潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に保持される。この固形成分を発泡させることで、外部応力に対する自在な変形を可能にし、特に柔軟性を向上させることができる。この潤滑成分は主として固形成分に存在し、例えば圧縮、屈曲、ねじり、膨張などの外的な因子によって潤滑成分を必要部位に徐放することができる。
また、本発明の発泡固形潤滑剤は摺動部材の周囲、または成形用型内に混合物を充填して、発泡・硬化させてなるので、切削等の後加工が不要であり、潤滑成分保持力に優れる。
以上の結果、本発明の発泡固形潤滑剤を等速ジョイントに用いることで、従来のグリース使用量の低減によるコストダウン、ブーツ材への負荷低減、等速ジョイントの軽量化とコンパクト化を可能にすることができ、工業的に有利な経済的側面だけでなく環境に対する負荷低減、設計の自由度という複数の観点からも社会的重要度の高い技術となる。
【0011】
また、発泡固形潤滑剤の製造方法は、上記混合工程と、充填工程と、発泡・硬化工程とを備えるので、潤滑剤を保持した発泡・硬化物である発泡固形潤滑剤を直接製造することができ、切削や後含浸などの後加工の必要がない。その結果、生産効率が向上し、安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の発泡固形潤滑剤に用いられる固形成分には耐熱性および柔軟性に優れ、低コスト化が可能となるウレタン樹脂を用いるのが好ましい。ウレタン樹脂を形成する水酸基含有成分としては、分子内に水酸基を有する液状ゴムが好ましく、この液状ゴムは高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25 〜 110 mgKOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであることが好ましい。水酸基価が 25 mg KOH/g 未満では、発泡・硬化が十分でなく、水酸基価が 110 mg KOH/g をこえると、発泡固形潤滑剤の弾力性が失われる場合がある。
この液状ゴムは、ブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体を用いることができる。
水酸基末端液状ポリブタジエンとしては、poly-bd R45HT(出光興産社製)、poly-bd R15HT(出光興産社製)、NISSO−PB G−1000、G−2000、G−3000(日本曹達社製)が挙げられ、水酸基末端液状ポリイソプレンとしては、poly-ip(出光興産社製)が挙げられ、水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物としては、エポール(出光興産社製)、NISSO−PB GI−1000、GI−2000、GI−3000(日本曹達社製)等が挙げられる。
【0013】
また、これら水酸基末端ポリジエン化合物または水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物の末端水酸基をイソシアネート基やエポキシ基などで一部変性した水酸基末端ポリジエン化合物または水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物も水酸基が末端に含まれれば使用することができる。製造された発泡体の物性を制御するなどの目的でこれら化合物を2種類以上混合して用いてもよい。
【0014】
上記水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体は、後述する炭化水素から構成されるパラフィン系やナフテン系の鉱物油からなる潤滑成分と分子構造が類似するので、潤滑成分を構成する分子との化学的親和性に優れ、水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体と潤滑成分分子とが比較的弱い相互作用によって絡み合っていると考えられる。そのため多くの潤滑成分をその水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体の分子内に含浸させることが可能であり、高い潤滑成分保持性を発揮することができる。これに熱や遠心力などの強い力を加えることで、水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体と潤滑成分の相互作用が壊され、潤滑成分を徐放させることができる。
【0015】
液状ゴムを硬化させる硬化剤としての分子内にイソシアネート基を有する有機化合物は、液状ゴム内の水酸基と反応し、分子鎖を延長させ、または架橋させるイソシアネート化合物であれば、特に制限なく使用できる。好ましいイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート類を挙げることができる。ポリイソシアネート類は後述する発泡剤となる水と反応して気体を発生させることができるので特に好ましい。
ポリイソシアネート類としては、ポリイソシアネートおよび/または分子内に2個以上のイソシアネート基を有するプレポリマーが挙げられる。
【0016】
ポリイソシアネート類は芳香族、脂肪族、または脂環族ポリイソシアネート類を挙げることができる。
芳香族ポリイソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと記す)、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)、TDIの多量体、MDIの多量体、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート、ジフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート類としては、オクタデカメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、へキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ポリイソシアネート類としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
また、上記ポリイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどのポリオールとの付加物も使用できる。
液状ゴムの末端官能基である水酸基との反応を高温度で行なう場合は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0017】
水酸基末端ポリジエン系重合体と反応させる場合、ポリイソシアネート類の中で芳香族ポリイソシアネート類が好ましく、更には水酸基末端ポリジエン系重合体等との発泡性および反応性に優れるTDIが好ましい。
【0018】
分子内に2個以上のイソシアネート基を有するプレポリマーとしては、イソシアネート基の割合が 2.5 〜 5.0 NCO%からなるプレポリマーであれば使用できる。なお、NCO%は、プレポリマー中におけるNCO基としての重量%である。 2.5 〜 5.0 NCO%のプレポリマーは水酸基末端ポリジエン系重合体等と反応して弾力性に富んだウレタンを得ることができる。
プレポリマー類には重合させるモノマーの種類によりPPG系、PTMG系、エステル系、カプロラクトン系などに分類される。PPG系にはタケネートL−1170(三井化学ポリウレタン社製)、L−1158(三井化学ポリウレタン社製)があり、PTMG系にはコロネート4090(日本ポリウレタン社製)がある。また、エステル系としてはコロネート4047(日本ポリウレタン社製)などがあり、カプロラクトン系にはタケネートL-1350(三井化学ポリウレタン社製)、タケネートL-1680(三井化学ポリウレタン社製)、サイアナプレン7−QM(三井化学ポリウレタン社製)、プラクセルEP1130(ダイセル化学工業社製)などを挙げることができる。
上記プレポリマーは、目的に応じて2種類以上を混合して用いることができる。
【0019】
末端水酸基を有する水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体とイソシアネート基を有するイソシアネート化合物との配合割合は、水酸基(−OH)とイソシアネート基(−NCO)との当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0 〜 2.0 )の範囲が好ましく、特に優れた発泡性および弾力性を考慮すると、(OH/NCO)=1/( 1.1 〜 1.9 )の範囲が好ましい。(OH/NCO)が1/ 2.0 より小さいときはイソシアネート基が過剰となり、架橋密度が大きく弾性に劣る場合がある。また、(OH/NCO)が1/ 1.0 より大きいときにはイソシアネート基が不足し、化学結合を形成せず、硬化しない場合がある。
【0020】
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば使用することができる。潤滑成分としては、炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリース、または炭化水素系潤滑油と炭化水素系グリースとの混合物が挙げられる。
炭化水素系潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、炭化水素系合成油、GTL基油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
炭化水素系グリースは炭化水素油を基油とするグリースであり、基油としては上述の炭化水素系潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物はジイソシアネートとモノアミンの反応で、ポリウレア化合物はジイソシアネートとポリアミンの反応で、それぞれ得られる。
【0021】
上記潤滑成分には、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル系ワックス、高級脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを混合して使用することができる。
【0022】
本発明の発泡固形潤滑剤を発泡させる発泡剤としては、原料にイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分と、液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、 40 重量%〜80 重量%である。潤滑成分が 40 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しなくなる。
上記液状ゴムの配合割合は、混合物全体に対して、 5 重量%〜45 重量%、好ましくは 9 重量%〜42 重量%である。5 重量%より少ないときは固化しないため発泡固形潤滑剤としての機能を持たず、45 重量%より多いときには潤滑剤の供給が少なく、発泡固形潤滑剤としての機能を持たない。
【0024】
本発明において発泡固形潤滑剤の発泡倍率は 1.1 倍〜 50 倍であることが好ましく、より好ましくは 1.1 倍〜10 倍である。発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できない。また、50 倍をこえる場合は外部応力に耐える強度を得ることが困難となる。
【0025】
また、発泡固形潤滑剤の硬化速度を促進させるために、3級アミン系触媒や有機金属触媒などを用いることができる。使用する3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類などが挙げられる。また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレートなどが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0026】
本発明において発泡固形潤滑剤には必要に応じて顔料や帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。
さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0027】
本発明において潤滑油などの潤滑成分存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なう反応型含浸法を用いることが、潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化を同時に両立させるためには望ましい。これは発泡体形成段階において発泡体に形成された気泡に潤滑剤が均一に含浸されるとともに、潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に吸蔵されることにより潤滑剤の高充填化と材料物性の高伸化が両立するものと考えられる。
これに対してあらかじめ発泡体を製造しておき、これに潤滑剤を含浸させる後含浸法では潤滑剤保持力が十分でなく、短時間で潤滑剤が放出され長期的に使用すると潤滑剤が供給不足となる。
【0028】
本発明の発泡固形潤滑剤の製造方法は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む成分を混合して混合物を得る混合工程と、上記混合物の発泡・硬化が完了する前に、上記混合物を摺動部材の周囲、または成形用型内に充填する充填工程と、上記充填された上記混合物を発泡・硬化させる発泡・硬化工程とを備える。
上記混合工程において、液状ゴムと、硬化剤と、潤滑成分と、発泡剤とを混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
混合物は硬化剤により速やかに硬化するため、硬化剤を除く他の成分を撹拌機へ投入し、最後に硬化剤を投入することが望ましい。
【0029】
上記充填工程において、液状ゴムと、硬化剤と、潤滑成分と、発泡剤とを含む混合物を混合物の発泡・硬化が完了する前に摺動部材の周囲または、成形用型内に充填する。摺動部材の周囲、または成形用型内に充填された混合物中のイソシアネートと水との化学反応により生成する二酸化炭素を発泡剤とする液状ゴムの発泡と、また混合物中の液状ゴムと、硬化剤とによる硬化反応とが同時に進行し、充填空間の形状を有する発泡・硬化物である発泡体が摺動部材の周囲、または成形用金型内で形成される。この潤滑成分を含浸した発泡体が本発明の発泡固形潤滑剤である。
【0030】
上記製造方法において、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが望ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0031】
また、上記製造方法において摺動部材を有する機材としては軸受や等速ジョイント、ボールねじやリニアガイド、球面ブッシュ等があり、これらの機材の摺動部材の周囲に、潤滑成分と、水酸基末端ポリジエン化合物または水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物と、イソシアネート化合物と、発泡剤とを含む混合物を充填後に発泡・硬化させて、発泡固形潤滑剤が封入された機材を直接製造することができる。
【0032】
また、上記製造方法において成形用金型や摺動部材を有する機材(以下、成形用金型等と記す)を用いずに成形することもできる。この場合は発泡・硬化物を裁断や研削等で目的の形状に後加工する必要がある。また、成形用金型等を用いない場合は潤滑成分が発泡・硬化物中に保持されにくいので、潤滑剤量が不足する場合は目的の形状に後加工した後、潤滑剤を後含浸する必要がある。また、硬化した発泡体に潤滑剤を後含浸しても、潤滑剤保持性が成形用金型等を用いる方法に比べて低下することや、発泡体のハンドリング時に潤滑剤が漏出しやすい等の不具合が生じやすい。
以上のことから本発明においては、品質面、作業面、コスト面で混合物を成形用金型等に充填する方法を採用することが好ましい。
【0033】
本発明において、発泡固形潤滑剤中に含浸された状態で含まれる潤滑成分は、外力による発泡体の変形によっても急激に染み出すことがなく、潤滑成分を効率よく染み出させて用いることができる。その結果、潤滑成分量は必要最小限でよく、しかも長期間にわたって潤滑性能を保つことができる。
【実施例】
【0034】
実施例1〜実施例15および比較例1〜比較例4
実施例に用いた潤滑成分、液状ゴム、硬化剤、発泡剤、触媒を以下に示す。なお、( )内は表中での略号を表す。
潤滑成分
潤滑油(潤滑油):タービン100(新日本石油社製)
潤滑グリース(グリース):NTG2218M(協同油脂社製)
液状ゴム
水酸基末端ポリブタジエン(PBOH1):Poly-bd R45HT(水酸基価:46.6mgKOH/g、数平均分子量:2,800、出光興産社製)
水酸基末端ポリブタジエン(PBOH2):Poly-bd R15HT(水酸基価:102.7mgKOH/g 、数平均分子量:1,200、出光興産社製)
水酸基末端ポリイソプレン(PipOH):Poly-ip(水酸基価:46.6mgKOH/g 、数平均分子量:2,500、出光興産社製)
水添水酸基末端ポリイソプレン(HPipOH):エポール(水酸基価:50.5mgKOH/g 、数平均分子量:2,500、出光興産社製)
硬化剤
イソシアネート化合物(TDI):コロネートT−80(日本ポリウレタン社製)
エラストマ1(UE1):コロネート4090(4.4NCO% 日本ポリウレタン社製)
エラストマ2(UE2):プラクセルEP1130(3.3NCO% ダイセル化学工業社製)
発泡剤(発泡剤) イオン交換水
整泡剤(整泡剤) SRX298(東レダウ社製)
触媒(触媒) DM70(東ソー社製)
【0035】
硬化剤(イソシアネート)を除く配合材料を表1〜表3に示す配合割合でよく混合し、最後に硬化剤を加えて素早く混合した混合物 40 g を、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製容器(直径 70 mm×高さ 150 mm )に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、常温で数時間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 Nの力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を、また、発泡体として硬化しない場合、潤滑油が分離したり放出したりしない場合を「×」印を付して表1〜表3に併記した。
また、「○」印と評価された試験片は試験片の円柱軸方向に 20 %伸張させても油が滲み出すことはなかった。
【0036】
【表1】

【表2】

【表3】

【0037】
表1〜表3に示すように、実施例1〜実施例15では指で押したとき相当する力を加えたときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であり、優れた発泡固形潤滑剤であると認められたが、比較例では発泡はしたものの一部固化せず、発泡固形潤滑剤としては機能しないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の発泡固形潤滑剤は、外力による発泡体の変形によっても急激に染み出すことがなく、潤滑成分を効率よく染み出させて用いることができる。その結果、潤滑成分量は必要最小限でよく、しかも長寿命である。このため摺動部材を有する撚線機、電動機器、印刷機、自動車部品、電装補機、建設機械等の各種産業用機械の軸受や自在継手の固形潤滑剤として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤であって、
前記潤滑成分は炭化水素系潤滑油および炭化水素系グリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、
前記液状ゴムは高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25 〜 110 mgKOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであり、
前記硬化剤は分子内にイソシアネート基を有する有機化合物であり、
前記発泡剤が水であり、
前記液状ゴムと前記硬化剤との割合は、前記液状ゴムに含まれる水酸基と前記硬化剤に含まれるイソシアネート基とが当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0 〜 2.0 )の範囲であり、
前記混合物は、混合物全体に対して、前記潤滑成分を 40 〜80 重量%、前記液状ゴムを 5 〜45 重量%含むことを特徴とする発泡固形潤滑剤。
【請求項2】
前記液状ゴムがブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体であることを特徴とする請求項1記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項3】
前記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有し、イソシアネート基の割合が 2.5 〜 5.0 NCO%からなるプレポリマーであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項4】
前記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、芳香族ポリイソシアネートであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項5】
前記芳香族ポリイソシアネートがトリレンジイソシアネートであることを特徴とする請求項4記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項6】
前記混合物は、摺動部材の周囲、または成形用型内に充填された後に、発泡・硬化されてなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の発泡固形潤滑剤の製造方法であって
潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む成分を混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物の発泡・硬化が完了する前に、前記混合物を摺動部材の周囲、または成形用型内に充填する充填工程と、
前記充填された前記混合物を発泡・硬化させる発泡・硬化工程とを備えることを特徴とする発泡固形潤滑剤の製造方法。

【公開番号】特開2008−297365(P2008−297365A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142667(P2007−142667)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】