説明

発泡性スチレン系樹脂粒子及びこれを用いた発泡性スチレン系樹脂粒子成形品

【課題】 環境に配慮した安全性の高い可塑剤を用い、発泡性、成形品の強度に優れた発泡性スチレン系樹脂粒子及びそれを用いた発泡性スチレン系樹脂粒子成形品を提供する。
【解決手段】 スチレン系単量体を懸濁重合することにより得られる樹脂粒子であって、25℃で液状の脂肪族2塩基酸エステルの少なくとも3種類以上を含有させた発泡性スチレン系樹脂粒子。脂肪族2塩基酸エステルが、コハク酸ジメチル15〜20重量%、グルタル酸ジメチル55〜65重量%、アジピン酸ジメチル10〜25重量%の混合液であると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用容器や梱包、緩衝材等に有用な発泡性スチレン系樹脂粒子及びそれを用いた発泡性スチレン系樹脂粒子成形品に関する。さらに詳しくは、安全性が高く、発泡性に優れ、しかも高い強度を有する成形品が得られる発泡性スチレン系樹脂粒子及びこれを用いた発泡成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品用容器や梱包、緩衝材に用いられる発泡プラスチックとしては、優れた断熱性、経済性、衛生性を保つ発泡スチレン樹脂粒子が多く使用されている。
一般的に工業的に行われている発泡スチレン樹脂成形品の製造方法は、まず、発泡性スチレン系樹脂粒子をスチーム等により加熱し、所定の嵩密度まで予備発泡させる。次いで、熟成工程を経た後、成形金型に充填し、再度加熱し、所望の発泡スチレン系樹脂成形品とする。
発泡性スチレン系樹脂粒子の発泡性を向上させることは、予備発泡時間を短縮でき、発泡スチレン系樹脂成型品の生産性向上につながる。
【0003】
発泡性を向上させる方法としては、発泡性スチレン系樹脂の分子量を低くする方法、樹脂を軟化させるため、モノマを発泡スチレン系樹脂粒子に残留させる方法、トルエン、エチルベンゼン等の揮発性有機化合物を樹脂粒子に含浸させる方法、スチレンにジアリルフタレートと(メタ)アクリル酸エステルを共重合させ、フタル酸エステル、アジピン酸エステルを樹脂粒子に含浸させる方法がある(特許文献1参照)。
【0004】
また、安全性の高い可塑剤として、グリセリン酢酸脂肪酸エステルを用い、発泡性を向上させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特公昭58−58347号公報
【特許文献2】特開2001−164023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、分子量を低くする方法は、成形品の強度が低下する問題がある。モノマを残留させる方法、トルエン、エチルベンゼン等の揮発性有機化合物を使用する方法は、近年の環境問題から使用が規制(低VOC化)されている。また、フタル酸エステル、アジピン酸エステルについても同様に、環境問題からその使用が規制されている。
グリセリン酢酸脂肪酸エステルを使用する方法では、可塑性が小さく、多量に使用する必要があり、コストアップとなること及び成形品の強度が低下する問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって環境に配慮し、安全性の高い可塑剤を用い、発泡性、成形品の強度に優れた発泡性スチレン系樹脂粒子及びそれを用いた発泡性スチレン系樹脂粒子成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、[1] スチレン系単量体を懸濁重合することにより得られる樹脂粒子であって、25℃で液状の脂肪族2塩基酸エステルの少なくとも3種類以上を含有させた発泡性スチレン系樹脂粒子に関する。
また、本発明は、[2] 脂肪族2塩基酸エステルが、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルである上記[1]に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子に関する。
また、本発明は、[3] 脂肪族2塩基酸エステルが、コハク酸ジメチル15〜20重量%、グルタル酸ジメチル55〜65重量%及びアジピン酸ジメチル10〜25重量%の混合液を、樹脂粒子に対して0.05〜2.0重量%配合し含浸させたことにより、含有される上記[1]又は上記[2]に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子に関する。
また、本発明は、[4] 上記[1]ないし上記[3]のいずれかに記載の発泡性スチレン系樹脂粒子を用いた発泡性スチレン系樹脂粒子成形品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子は、環境への安全性が高く、発泡性に優れ、この発泡スチレン系樹脂粒子から成形された発泡性スチレン系樹脂粒子成形品は、嵩密度が低く、しかも高い強度を有し、特性のバランスに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用する脂肪族2塩基酸エステルは、25℃(常温)で液状の脂肪族2塩基酸エステルの少なくとも3種類以上の混合液であり、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチルの混合液が好ましく、コハク酸ジメチル15〜20重量%、グルタル酸ジメチル55〜65重量%、アジピン酸ジメチル10〜25重量%の混合液であるとより好ましい。
【0011】
本発明で使用する脂肪族2塩基酸エステルとして、例えば、25℃で液状のアジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル等のアジピン酸ジエステル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジペンチル等のシュウ酸エステル、マロン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸ジエステル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル等のフマル酸ジエステル、グルタル酸ジメチル等のグルタル酸エステル、酒石酸ジブチル、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸2−エチルヘキシル等のセバシン酸エステルが挙げられる。
これらは、環境への安全性が高く、3種類以上の混合液を使用することで1〜2種類の混合液では達成できない発泡性、成形品強度を改善することが出来る。
2塩基酸エステルのスチレン系樹脂粒子へ含有させる方法としては特に制限はなく、例えば、当該スチレン系単量体の懸濁重合に際し重合の後半もしくは重合完結後に、発泡剤である易揮発性炭化水素をとともに含浸させることができる。
【0012】
ここで、使用されるスチレン系樹脂の種類としては、特に制限はない。例えば、スチレンホモポリマが挙げられる。また、スチレン系単量体と共重合可能な成分、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類、α−メチルスチレン等スチレンモノマとの共重合体を挙げることが出来る。
【0013】
本発明では、25℃で液状のコハク酸ジメチル15〜20重量%、グルタル酸ジメチル55〜65重量%、アジピン酸ジメチル10〜25重量%の混合液からなる脂肪族2塩基酸エステルを使用することが好ましい。これらの2塩基酸エステルの使用量は、樹脂粒子に対して0.05〜2.0重量%であることが好ましく、0.05重量%未満では、十分な発泡性を得ることが難しく、2.0重量%を超えると予備発泡時のブロッキングの発生による作業性の低下や、発泡粒子の収縮が大きくなる傾向がある。
【0014】
また、本発明で使用するスチレン系樹脂粒子を構成するには、発泡剤を使用する必要があるが、発泡剤の種類としては、特に制限はない。但し、一般に入手が容易で、25℃(常温)で液体あるいは気体である必要から、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素の易揮発性発泡剤を挙げることが出来る。
また、発泡助剤として炭素数が6以上の脂肪族炭化水素や、シクロヘキサンの脂肪族炭化水素や、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素、あるいは芳香族炭化水素を上記発泡剤と併用することも好ましい。
【0015】
上記の発泡剤の添加量は、樹脂粒子に対して3〜10重量%の範囲内とすることが好ましい。発泡剤量の添加量が、3重量%未満では、発泡性が著しく低下する恐れがあり、一方、10重量%を超えると、それ以上添加しても発泡性としての効果の向上はなく、不経済である。
【0016】
本発明における発泡性スチレン系樹脂粒子は、発泡剤が含浸され、脱水乾燥の後、表面被覆剤を被覆される。かかる被覆剤は発泡性ポリスチレンに適用されるものがそのまま応用できる。かかる被覆剤は、発泡性ポリスチレンに適用されるものがそのまま応用できる。例えば、ジンクステアレ−ト、ステアリン酸トリグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、ヒマシ硬化油、アミド化合物、シリコ−ン類、静電気防止剤などが例示される。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を示し本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。
【0018】
(実施例1)
撹拌機付の4Lオ−トクレ−ブ中に平均粒径が0.85mmのポリスチレン粒子(日立化成工業株式会社製 商品名GP−M−SSB)を1300g、イオン交換水を1700g、燐酸三カルシウムを65g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2g入れ、密閉下において80℃まで昇温する。
その後、コハク酸ジメチル15〜20重量%、グルタル酸ジメチル55〜65重量%、アジピン酸ジメチル10〜25重量%の混合液である脂肪族2塩基酸エステル(米国デユポン社製 商品名 DBE)13g(樹脂粒子に対し1wt%)と23gのシクロヘキサン、100gのブタンを順次オ−トクレ−ブに圧入した。
その後、110℃に昇温し、更に4時間保温した後、室温(25℃)まで冷却し、含浸工程を終了した。取り出したスラリ−を洗浄、脱水、乾燥した後、14メッシュ通過、26メッシュ残で分級し、さらに、ジンクステアレ−ト1.7g、ヒマシ硬化油1.2gを加えて撹拌し、表面を被覆して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡度、成形品曲げ強度を測定し表1に示した。
【0019】
(比較例1)
2塩基酸エステルの代わりに、グリセリン酢酸脂肪酸エステル13gとした以外は、実施例1と同様にして発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0020】
表1に示した特性の評価は以下のように行った。発泡度は、発泡剤の割合がスチレンに対して7.0重量%になった時点で100℃沸騰水中に3分間浸し、得られた発泡粒子の嵩密度を重量で除した値を用いた。
【0021】
曲げ強度は、得られた発泡性スチレン系樹脂粒子を、60ml/gに予備発泡し、約18時間熟成後、発泡スチレン系樹脂成形機(株式会社ダイセン工業製 、発泡スチロール成形機 VS−300)を用いて、成形圧力0.08MPaで成形し、密度0.0167g/cmの発泡成形体をJIS−A−9511に準じて曲げ強度を測定した。
ブロッキング発生(%)は、予備発泡された粒子の総量に対する、予備発泡粒子が30個以上凝集してブロッキングが発生した粒子の量の百分率を測定した。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例1に示したように、本発明のスチレン系単量体を懸濁重合することにより得られる樹脂粒子に対し、25℃で液状の脂肪族2塩基酸エステルの少なくとも3種類以上を含有させることにより、発泡性、成形品の強度に優れた発泡性スチレン系樹脂粒子及びそれを用いた発泡性スチレン系樹脂粒子成形品を提供できる。一方、グリセリン酢酸脂肪酸エステルを用いた比較例1では、発泡度がやや低く、曲げ強度も低い。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体を懸濁重合することにより得られる樹脂粒子であって、25℃で液状の脂肪族2塩基酸エステルの少なくとも3種類以上を含有させた発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
脂肪族2塩基酸エステルが、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルである請求項1に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
脂肪族2塩基酸エステルが、コハク酸ジメチル15〜20重量%、グルタル酸ジメチル55〜65重量%及びアジピン酸ジメチル10〜25重量%の混合液を、樹脂粒子に対して0.05〜2.0重量%配合し含浸させたことにより、含有される請求項1又は請求項2に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の発泡性スチレン系樹脂粒子を用いた発泡性スチレン系樹脂粒子成形品。


【公開番号】特開2006−152057(P2006−152057A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342035(P2004−342035)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】