説明

発泡性飲料及びその製造方法並びに泡特性向上剤及び泡特性向上方法

【課題】新たな添加成分により泡特性が効果的に向上した発泡性飲料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る発泡性飲料は、還元型クルクミノイドを含む。前記発泡性飲料は、前記還元型クルクミノイドを1ppm〜500ppmの濃度で含むこととしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性飲料及びその製造方法に関し、特に、発泡性飲料の製造における還元型クルクミノイドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒等の発泡性アルコール飲料において、泡立ち及び泡持ちといった泡特性は、重要な特性の一つである。そこで、従来、例えば、特許文献1において、タンパク質を添加することにより発泡性アルコール飲料の泡特性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/005593号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術のように発泡性アルコール飲料等の発泡性飲料の泡特性を効果的に向上させる新たな添加成分を見出すことは容易ではなかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、新たな添加成分により泡特性が効果的に向上した発泡性飲料及びその製造方法並びに泡特性向上剤及び泡特性向上方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る発泡性飲料は、還元型クルクミノイドを含むことを特徴とする。本発明によれば、新たな添加成分により泡特性が効果的に向上した発泡性飲料を提供することができる。
【0007】
また、前記発泡性飲料は、前記還元型クルクミノイドを1ppm〜500ppmの濃度で含むこととしてもよい。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る発泡性飲料の製造方法は、還元型クルクミノイドを添加することを含むことを特徴とする。本発明によれば、新たな添加成分により泡特性が効果的に向上した発泡性飲料の製造方法を提供することができる。
【0009】
また、前記方法においては、前記還元型クルクミノイドを、前記発泡性飲料における濃度が1ppm〜500ppmとなるように添加することとしてもよい。また、前記方法においては、前記還元型クルクミノイドをろ過後に添加することとしてもよい。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る泡特性向上剤は、還元型クルクミノイドを有効成分として含むことを特徴とする。本発明によれば、発泡性飲料の泡特性を効果的に向上できる泡特性向上剤を提供することができる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法は、還元型クルクミノイドを添加することにより発泡性飲料の泡特性を向上させることを特徴とする。本発明によれば、発泡性飲料の泡特性を効果的に向上できる方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新たな添加成分により泡特性が効果的に向上した発泡性飲料及びその製造方法並びに泡特性向上剤及び泡特性向上方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る発泡性アルコール飲料の製造方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る実施例において、発泡性アルコール飲料の泡特性を評価した結果の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る実施例において、発泡性アルコール飲料の外観及び香味を評価した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0015】
まず、本実施形態に係る発泡性飲料の製造方法(以下、「本方法」という。)及び発泡性飲料(以下、「本飲料」という。)の概要について説明する。本方法は、還元型クルクミノイドを添加することを含む発泡性飲料の製造方法である。また、本飲料は、還元型クルクミノイドを含む発泡性飲料である。本飲料は、本方法により好ましく製造される。
【0016】
還元型クルクミノイドは、クルクミノイドを還元することにより生成される化合物である。すなわち、還元型クルクミノイドは、例えば、クルクミノイドを水素化することにより得られる。
【0017】
クルクミノイドは、例えば、ウコンに含まれ、抗酸化作用や肝機能強化といった効果を示す成分として知られている。そして、還元型クルクミノイドは、ウコンから抽出されたクルクミノイドを還元することにより得られるものであることとしてもよい。
【0018】
還元型クルクミノイドは、クルクミノイドを還元して生成されるものであれば特に限られず、例えば、テトラヒドロクルクミノイドを使用することができる。また、還元型クルクミノイドとしては、クルクミンを還元することにより得られる還元型クルクミンを使用することができ、例えば、テトラヒドロクルクミンを使用することができる。
【0019】
具体的に、還元型クルクミノイドとしては、例えば、テトラヒドロクルクミン、テトラヒドロデメトキシクルクミン及びテトラヒドロビスデメトキシクルクミンからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0020】
テトラヒドロクルクミンは、下記の式(I)で示される化合物である。テトラヒドロデメトキシクルクミンは、下記の式(II)で示される化合物である。テトラヒドロビスデメトキシクルクミンは、下記の式(III)で示される化合物である。
【化1】

【化2】

【化3】

【0021】
テトラヒドロクルクミンは、下記の式(IV)で示されるクルクミンを還元することにより得られる。テトラヒドロデメトキシクルクミンは、下記の式(V)で示されるデメトキシクルクミンを還元することにより得られる。テトラヒドロビスデメトキシクルクミンは、下記の式(VI)で示されるビスデメトキシクルクミンを還元することにより得られる。
【化4】

【化5】

【化6】

【0022】
上記式(I)〜(VI)に示されるように、還元型クルクミンは、クルクミンの主鎖における炭素間不飽和結合(二重結合)を水素化して飽和結合(単結合)に変換することにより得られる。すなわち、還元型クルクミノイドは、クルクミノイドの主鎖における炭素間不飽和結合(二重結合)を水素化することにより形成された炭素間飽和結合(単結合)を有するクルクミノイドである。
【0023】
ここで、本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、還元型クルクミノイドが発泡性アルコール飲料の泡特性を効果的に向上させるという意外な効果を奏することを独自に見出した。
【0024】
すなわち、発明者らは、発泡性アルコール飲料の製造過程において還元型クルクミノイドを添加することにより、製造される発泡性アルコール飲料の泡特性が、当該還元型クルクミノイドを添加しない場合に比べて効果的に向上するという独自の知見を得た。
【0025】
本発明は、このような発明者らの独自の知見に基づくものである。なお、還元型クルクミノイドに代えてウコンを添加すると、発泡性アルコール飲料の泡特性は、当該ウコンを添加しない場合に比べて損なわれる。
【0026】
また、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料の色は、その泡の色も含めて、ビールの色とは全く異なる、当該ウコンに特有の不透明な黄色となる。このようなウコンに特有の色は、ビールや、ビールに類似した透明な黄金色を有することが望まれる発泡性アルコール飲料にとって必ずしも好ましいものではない。
【0027】
これに対し、還元型クルクミノイドの添加は、発泡性アルコール飲料の色を実質的に変えない。すなわち、例えば、ビール、又はビールに類似した黄金色の発泡性アルコール飲料(例えば、発泡酒)に還元型クルクミノイドを添加した場合、当該還元型クルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料の色は、当該還元型クルクミノイドの添加前と同様、好ましい透明な黄金色である。また、還元型クルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料の泡の色は、当該還元型クルクミノイドの添加前と同様、好ましい白色である。
【0028】
また、ウコンの添加は、発泡性アルコール飲料の香味を損ねる。すなわち、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料は、例えば、当該ウコンに由来する土臭さや、漢方薬のような香りを有する。
【0029】
これに対し、還元型クルクミノイドの添加は、発泡性アルコール飲料の香味を実質的に損ねない。すなわち、還元型クルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料は、例えば、当該還元型クルクミノイドに由来する香味が付与されることはあるが、ウコンに由来するような好ましくない香りは付与されない。
【0030】
このように、発泡性アルコール飲料の製造過程において還元型クルクミノイドを添加することにより、色及び香味を損ねることなく、泡特性が効果的に向上した発泡性アルコール飲料を製造することができる。また、還元型クルクミノイドによる健康への好ましい効果(例えば、抗酸化作用や肝機能強化等)も期待できる。
【0031】
なお、本実施形態において、発泡性飲料は、例えば、炭酸ガスを含有し、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性と、を含む泡特性を有する飲料である。発泡性飲料は、発泡性アルコール飲料であることとしてもよく、発泡性ノンアルコール飲料であることとしてもよい。発泡性アルコール飲料は、例えば、エタノールを1体積%以上の濃度で含有する(アルコール分1度以上の)発泡性飲料である。また、発泡性ノンアルコール飲料は、例えば、エタノールの含有量が1体積%未満の発泡性飲料である。
【0032】
具体的に、発泡性アルコール飲料は、例えば、ビール、発泡酒、及びビール又は発泡酒と蒸留酒等の他のアルコール飲料とを混合して得られる発泡性アルコール飲料からなる群より選択される。
【0033】
次に、本方法及び本飲料の詳細について説明する。図1は、本方法に含まれる主な工程の一例を示す説明図である。図1に示す例に係る本方法は、酵母が資化可能な炭素源及び窒素源を含む発酵前液を調製する発酵前工程S1と、当該発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う発酵工程S2と、当該発酵工程S2で得られた発酵後液に所定の処理を施して最終的に発泡性アルコール飲料を得る発酵後工程S3と、を含む。
【0034】
発酵前工程S1において調製される発酵前液は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源を含む溶液であれば特に限られない。窒素源及び炭素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。窒素源は、例えば、酵母が資化可能なアミノ酸及び/又はペプチドである。炭素源は、例えば、酵母が資化可能な糖類である。
【0035】
原料は、麦芽を含むこととしてもよい。麦芽としては、大麦麦芽及び/又は小麦麦芽を使用することが好ましく、少なくとも大麦麦芽を使用することが好ましい。大麦麦芽及び小麦麦芽は、大麦及び小麦をそれぞれ所定の条件で発芽させることにより調製することができる。原料は、麦芽に加えて又は麦芽に代えて、大麦及び/又は小麦を含むこととしてもよい。原料は、大麦麦芽、小麦麦芽、大麦及び小麦を含まないこととしてもよい。
【0036】
原料は、ホップを含むこととしてもよい。すなわち、原料は、大麦麦芽、小麦麦芽、大麦及び小麦からなる群より選択される1種以上とホップとを含むこととしてもよく、麦芽(大麦麦芽及び/又は小麦麦芽)とホップとを含むこととしてもよい。また、原料は、大麦麦芽、小麦麦芽、大麦及び小麦を含まず、ホップを含むこととしてもよい。
【0037】
原料は、ホップを含まないこととしてもよい。すなわち、原料は、大麦麦芽、小麦麦芽、大麦及び小麦からなる群より選択される1種以上を含み、ホップを含まないこととしてもよく、少なくとも麦芽を含み、ホップを含まないこととしてもよい。また、原料は、大麦麦芽、小麦麦芽、大麦、小麦及びホップを含まないこととしてもよく、麦芽及びホップを含まないこととしてもよい。
【0038】
ホップを使用しない場合、原料は、ホップに代えてハーブを含むこととしてもよい。ハーブの種類は特に限られず、例えば、ローズマリー、コリアンダー、オレンジピール及びカモミールからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0039】
原料は、窒素源及び/又は炭素源として、例えば、穀物由来のタンパク質及び/又はペプチドの分解物(例えば、エンドウ、大豆又はコーン由来のタンパク質及び/又はペプチドの分解物)、穀物由来のデンプンの分解物(例えば、コーン等の穀類由来のデンプンを分解し精製して得られた液状の糖類(いわゆる液糖))及び酵母エキス(例えば、酵母から抽出されたタンパク質、ペプチド及び/又はアミノ酸)からなる群より選択される1種以上を含むこととしてもよい。
【0040】
すなわち、原料は、大麦麦芽、小麦麦芽、大麦及び小麦からなる群より選択される1種以上に加えて、上述した他の窒素源及び/又は炭素源を含むこととしてもよい。また、原料は、大麦麦芽、小麦麦芽、大麦及び小麦を含まず、上述した他の窒素源及び/又は炭素源を含むこととしてもよい。
【0041】
発酵前工程S1においては、上述したような原料を使用して発酵前液を調製する。すなわち、まず、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源を含む原料の全部又は一部と水とを混合することにより原料液(いわゆるマイシェに相当)を調製する。
【0042】
また、原料が、大麦麦芽、小麦麦芽、大麦及び小麦からなる群より選択される1種以上等の穀物を含む場合には、原料液中で当該穀物に含まれるタンパク質及び/又は多糖類を酵素で分解する工程(いわゆる糖化工程)を実施する。
【0043】
分解酵素(例えば、プロテアーゼ及び/又はアミラーゼ)としては、穀物に含まれる分解酵素を利用してもよいし、当該分解酵素に代えて又は加えて、予め精製された分解酵素を外的に添加してもよい。
【0044】
次いで、原料液(例えば、糖化処理後の原料液)(いわゆる麦汁に相当)を濾過する(いわゆる麦汁ろ過に相当)。さらに、ろ過後の原料液を煮沸することとしてもよい。
【0045】
原料の一部としてホップを使用する場合、この煮沸の際に、当該ホップを添加することとしてもよい。すなわち、ホップ以外の原料を混合して原料液を調製し、当該原料液の煮沸時にホップを添加することとしてもよい。その後、原料液から不溶性成分を除去し、当該原料液を冷却する。
【0046】
こうして、発酵前工程S1においては、続く発酵工程S2における酵母の添加に適した無菌状態の冷却された発酵前液(いわゆる冷麦汁に相当)を調製する。
【0047】
発酵工程S2においては、発酵前工程S1で調製された発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う。すなわち、例えば、まず、予め温度が所定の範囲内(例えば、0℃〜40℃の範囲)に調整された無菌状態の発酵前液に酵母を添加して発酵液を調製する。
【0048】
発酵開始時の発酵液における酵母数は適宜調節することができ、例えば、1×10cells/mL〜3×10cells/mLの範囲内とすることができ、1×10cells/mL〜3×10cells/mLの範囲内とすることが好ましい。
【0049】
次いで、この発酵液を所定の温度で所定の時間維持することにより発酵を行う。発酵の温度は適宜調節することができ、例えば、0℃〜40℃の範囲内とすることができ、6℃〜15℃の範囲内とすることが好ましい。
【0050】
発酵工程S2においては、さらに熟成を行うこととしてもよい。熟成は、上述のような発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0051】
こうして発酵工程S2においては、酵母により生成されたエタノール及び香味成分を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるエタノールの濃度は、例えば、1〜20体積%とすることができ、好ましくは1〜10体積%とすることができ、より好ましくは3〜10体積%とすることができる。
【0052】
続く発酵後工程S3においては、発酵工程S2で得られた発酵後液に所定の処理を施して最終的に発泡性アルコール飲料を得る。発酵後工程S3においては、例えば、発酵工程S2により得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過に相当)を行う。このろ過により、発酵後液から不溶性の固形分や酵母を除去する。
【0053】
また、発酵後工程S3においては、さらに発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行うこととしてもよい。この精密ろ過により、発酵後液から雑菌や、残存する酵母を除去する。
【0054】
また、発酵後工程S3においては、この精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。
【0055】
こうして、発酵後工程S3においては、最終的に、発泡性アルコール飲料を得る。すなわち、麦芽を含む原料を使用した場合には、ビール又は発泡酒を得る。
【0056】
また、本方法において、ビール又は発泡酒と蒸留酒等の他のアルコール飲料とを混合して発泡性アルコール飲料を製造する場合には、発酵後工程S3において、当該ビール又は発泡酒と当該他のアルコール飲料とを混合することとしてもよい。
【0057】
ビール又は発泡酒と混合される他のアルコール飲料は、特に限られないが、蒸留酒(いわゆるスピリッツ)を好ましく使用することができる。蒸留酒としては、穀物を原料として製造されたものを好ましく使用することができる。
【0058】
すなわち、例えば、大麦、小麦、米、蕎麦、馬鈴薯、サツマイモ、トウモロコシ及びサトウキビからなる群より選択された1種以上を原料として製造された蒸留酒を使用することができ、特に、大麦及び/又は小麦を原料として製造された蒸留酒を好ましく使用することができる。蒸留酒に含有されるエタノール濃度は、例えば、10〜90体積%の範囲内とすることができる。
【0059】
本方法における還元型クルクミノイドの添加量は、上述した効果が得られる範囲であれば特に限られないが、還元型クルクミノイドは、最終的に得られる発泡性アルコール飲料における濃度が1ppm〜500ppmとなるように添加することとしてもよく、5ppm〜300ppmとなるように添加することが好ましく、5ppm〜100ppmとなるように添加することがより好ましい。なお、1ppmは、1×10−6g−還元型クルクミノイド/g−発泡性アルコール飲料(0.0001質量%)を示す。
【0060】
最終的に得られる発泡性アルコール飲料における濃度が1ppm〜500ppmとなるように還元型クルクミノイドを添加することにより、当該還元型クルクミノイドが当該発泡性アルコール飲料の香味に与える影響を最小限に抑えつつ、当該発泡性アルコール飲料の泡特性を効果的に向上させることができる。
【0061】
本方法において、還元型クルクミノイドは、任意のタイミングで添加することができる。すなわち、例えば、発酵前工程S1において還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。この場合、例えば、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源と還元型クルクミノイドとを水と混合することにより原料液を調製する。また、糖化工程の開始時、糖化工程中、煮沸開始時、煮沸中、煮沸後の冷却前又は冷却後であって酵母の添加前に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。
【0062】
また、発酵工程S2後に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。すなわち、本方法においては、還元型クルクミノイドをろ過後に添加することとしてもよい。より具体的に、例えば、発酵後液のろ過後に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。すなわち、例えば、発酵後液の一次ろ過後に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよく、発酵後液の一次ろ過及び二次ろ過後に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。
【0063】
また、還元型クルクミノイドを添加した後にろ過を行わないこととしてもよい。すなわち、例えば、発酵後工程S3において還元型クルクミノイドを添加し、当該還元型クルクミノイドの添加後にろ過を行わないこととしてもよい。
【0064】
より具体的に、例えば、発酵後工程S3において、発酵工程S2で得られた発酵後液をろ過し、次いで、当該ろ過後の発酵後液に還元型クルクミノイドを添加し、その後、当該還元型クルクミノイドを添加した後はろ過を行わないこととしてもよい。
【0065】
これらの場合、発酵後工程S3においては、還元型クルクミノイドの添加後はろ過を行うことなく、当該還元型クルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料を瓶、缶又は樽等の容器に充填する。
【0066】
なお、還元型クルクミノイドの添加後にろ過以外の方法で殺菌を行うこととしてもよい。ろ過以外の殺菌方法は、特に限られず、例えば、加熱殺菌を行うこととしてもよい。
【0067】
還元型クルクミノイドの添加後にろ過を行うと、当該ろ過によって当該還元型クルクミノイドの一部が除去されてしまう。このため、還元型クルクミノイドの添加後にろ過を行わないことにより、当該還元型クルクミノイドを効率よく利用することができる。また、発泡性アルコール飲料における還元型クルクミノイドの濃度を確実に制御することもできる。
【0068】
したがって、特に、微量の還元型クルクミノイドを添加する場合、すなわち、例えば、上述のように、最終的に得られる発泡性アルコール飲料における濃度が1ppm〜500ppmとなるように添加する場合には、当該還元型クルクミノイドの添加後にろ過を行わないことにより、当該還元型クルクミノイドのろ過による損失(濃度低下)を効果的に回避することができる。
【0069】
なお、本方法は、上述した発酵前工程S1、発酵工程S2及び発酵後工程S3を含むものに限られない。すなわち、例えば、本方法においては、例えば、予め得られた発泡性アルコール飲料(例えば、予めアルコール発酵を経て得られた発泡性アルコール飲料)に還元型クルクミノイドを添加することにより、当該還元型クルクミノイドを含む発泡性アルコール飲料を製造することとしてもよい。具体的に、例えば、ビール又は発泡酒に、還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。
【0070】
また、例えば、発泡酒に還元型クルクミノイドを添加し、次いで、当該還元型クルクミノイドが添加された発泡酒と他のアルコール飲料とを混合して発泡性アルコール飲料を製造することとしてもよい。また、例えば、発泡酒と他のアルコール飲料とを混合して発泡性アルコール飲料を調製し、次いで当該発泡性アルコール飲料に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。
【0071】
また、アルコール発酵後にろ過された発泡性アルコール飲料に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。すなわち、例えば、アルコール発酵後に一次ろ過され、二次ろ過されていない発泡性アルコール飲料に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。また、アルコール発酵後に一次ろ過され、次いで二次ろ過された発泡性アルコール飲料に還元型クルクミノイドを添加することとしてもよい。
【0072】
これらの場合においても、還元型クルクミノイドの添加後にろ過を行わないことが好ましい。すなわち、例えば、予め製造された発泡性アルコール飲料に還元型クルクミノイドを添加し、その後、ろ過を行うことなく、当該還元型クルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料を容器に充填する。
【0073】
また、例えば、予め製造された発泡酒に還元型クルクミノイドを添加し、次いで、当該還元型クルクミノイドが添加された発泡酒と他のアルコール飲料とを混合し、その後、ろ過を行うことなく、当該還元型クルクミノイド及び他のアルコール飲料が添加された発泡性アルコール飲料を容器に充填することとしてもよい。
【0074】
なお、本方法が発泡性ノンアルコール飲料の製造方法である場合、例えば、上述のようにして得られた発泡性アルコール飲料に含まれるエタノールの濃度を低減する処理及び/又は当該発泡性アルコール飲料からエタノールを除去する処理を行うことにより、発泡性ノンアルコール飲料を製造することとしてもよい。
【0075】
本実施形態に係る泡特性向上方法は、還元型クルクミノイドを添加することにより発泡性飲料の泡特性を向上させる方法である。すなわち、発泡性飲料に対し、又は発泡性飲料の製造過程において還元型クルクミノイドを添加することにより、当該発泡性飲料の泡特性を向上させる。より具体的に、例えば、既に得られた発泡性アルコール飲料に対し、又は上述したような発泡性アルコール飲料の製造過程において還元型クルクミノイドを添加することにより、当該発泡性アルコール飲料の泡特性を向上させる。
【0076】
本飲料は、還元型クルクミノイドを含む発泡性飲料である。本飲料は、上述した本方法により好ましく製造される。本飲料は、還元型クルクミノイドを1ppm〜500ppmの濃度で含むこととしてもよく、5ppm〜300ppmの濃度で含むことが好ましく、5ppm〜100ppmの濃度で含むことがより好ましい。本飲料が還元型クルクミノイドを1ppm〜500ppmの濃度で含むことにより、本飲料の色及び香味が損なうことなく、本飲料の泡特性を効果的に向上させることができる。
【0077】
すなわち、本飲料が発泡性アルコール飲料である場合、本飲料は、例えば、ビールと同様の色及び香味を有し、且つ優れた泡特性を有する発泡性アルコール飲料とすることができる。この場合、本飲料に含まれるエタノールの濃度は、例えば、1〜20体積%とすることができ、好ましくは1〜10体積%とすることができ、より好ましくは3〜10体積%とすることができる。
【0078】
本実施形態に係る泡特性向上剤は、還元型クルクミノイドを有効成分として含む。すなわち、泡特性向上剤は、発泡性飲料の泡特性を向上させる有効成分として還元型クルクミノイドを含む。そして、この泡特性向上剤は、発泡性飲料に対し、又は発泡性飲料の製造過程において添加されることにより、当該発泡性飲料の泡特性を向上させる。泡特性向上剤における還元型クルクミノイドの含有量は、当該泡特性向上剤が発泡性飲料の泡特性を向上できる範囲であれば特に限られず、適宜決定される。
【0079】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0080】
[発泡性アルコール飲料の調製]
麦芽及びホップを使用して予め製造されたビールに対して、5ppm、10ppm、30ppm、50ppm又は100ppmの濃度で市販のテトラヒドロクルクミノイド(還元型クルクミノイドの一種)を添加して、いずれかの当該濃度で当該還元型クルクミノイドを含む5種類の発泡性アルコール飲料を調製した。そして、各発泡性アルコール飲料について、後述するような評価を行った。
【0081】
また、比較のために、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料を調製し、同様の評価を行った。ウコンとしては、クルクミノイドを13重量%含む市販のウコンを使用した。そして、クルクミノイドの濃度が30ppmとなるように、上述したビールにウコンを添加した。こうして、30ppmの濃度でウコンのクルクミノイドを含む発泡性アルコール飲料を得た。また、還元型クルクミノイド及びウコンのいずれも添加されていないビールについても、同様の評価を行った。
【0082】
[評価]
熟練した8名のパネリストによって、各発泡性アルコール飲料の泡特性、外観(色を含む)及び香味(香り及び味を含む)の3つの項目を評価した。
【0083】
泡については、還元型クルクミノイド及びウコンのいずれも添加されていないビールを基準として、「良い」と評価された場合には点数「3」、「同等」と評価された場合には点数「2」及び「悪い」と評価された場合には点数「1」が付された。
【0084】
外観及び香味については、ビールに類似した外観を有する発泡性アルコール飲料として、「望ましい」と評価された場合には点数「3」、「許容できる」と評価された場合には点数「2」及び「許容できない」と評価された場合には点数「1」が付された。
【0085】
また、泡特性については、所定の測定装置を使用して、NIBEM値の測定を行った。ただし、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料については、測定装置への当該ウコンの着色を避けるため、及びウコンは完全に溶解せず、その不溶成分が残るため、NIBEM値の測定は行わなかった。そこで、発泡性アルコール飲料の泡の高さの経時的な変化を目視でも観察した。
【0086】
なお、NIBEM値は、ビール等の発泡性アルコール飲料の泡持ちを示す指標値として使用されている。NIBEM値は、発泡性アルコール飲料を所定の容器に注いだ際に形成された泡の高さが所定量減少するまでの時間(秒)として評価される。NIBEM値が高いほど、発泡性アルコール飲料の泡持ちが優れていることになる。
【0087】
図2には、泡特性を評価した結果を示す。図2において、横軸は評価の対象となった発泡性アルコール飲料の種類を示す。すなわち、「無添加」は還元型クルクミノイド及びウコンのいずれも添加されていないビールを示し、「ウコン」はウコンが添加された発泡性アルコール飲料を示し、「5ppm」、「10ppm」、「30ppm」、「50ppm」及び「100ppm」は還元型クルクミノイドを各濃度で添加された発泡性アルコール飲料を示す。
【0088】
また、図2において、左側の縦軸はパネリストによる泡の評価点数を示し、右側の縦軸はNIBEM値を示す。図2において、黒塗りの菱形印は泡の評価点数を示し、白抜きの丸印はNIBEM値を示す。
【0089】
図2に示すように、還元型クルクミノイドが添加された全ての発泡性アルコール飲料(5ppm〜100ppm)のNIBEM値は、当該還元型クルクミノイドが添加されていないビール(無添加)に比べて顕著に増加した。
【0090】
また、容器に注がれた発泡性アルコール飲料の泡の高さの経時的な変化を目視で観察したところ、ウコンが添加された(クルクミノイドが30ppmの濃度で添加された)発泡性アルコール飲料の泡は、当該発泡性アルコール飲料を当該容器に注いでから240秒が経過した時点で完全に消失した。
【0091】
これに対し、還元型クルクミノイドが30ppmの濃度で添加された発泡性アルコール飲料及び無添加のビールの泡は、いずれも240秒の時点でも消失せず、少なくとも300秒までは残っていた。
【0092】
また、図2に示すように、還元型クルクミノイドが添加された全ての発泡性アルコール飲料(5ppm〜100ppm)の泡は、当該還元型クルクミノイドが添加されていないビール(無添加)に比べて顕著に優れていると評価された。具体的に、還元型クルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料の泡は、ビールのそれと同等に白く、きめ細かいことに加えて、ビールのそれに比べて泡持ち及び付着性がよいと評価された。
【0093】
これに対し、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料の泡は、当該ウコンが添加されていないビール(無添加)に比べて劣っていると評価された。具体的に、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料の泡は、不自然に黄色く、ビールのそれに比べて粗いことに加えて、泡持ち及び付着性が悪いと評価された。
【0094】
このように、ウコンの添加は発泡性アルコール飲料の泡特性を劣化させたのに対して、還元型クルクミノイドの添加は、当該発泡性アルコール飲料の泡特性を顕著に向上させた。
【0095】
図3には、外観及び香味を評価した結果を示す。図3の横軸及び縦軸は、それぞれ図2の横軸及び左縦軸と同様である。図3において、白抜きの四角印は、発泡性アルコール飲料の外観を評価した結果を示し、黒塗りの三角印は、発泡性アルコール飲料の香味を評価した結果を示す。
【0096】
図3に示すように、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料の外観は、当該ウコンが添加されていないビール(無添加)より劣ると評価された。すなわち、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料は、その泡も含めて、ビールとは異質の不自然で不透明な黄色を呈していた。
【0097】
これに対し、還元型クルクミノイドが添加された全ての発泡性アルコール飲料(5ppm〜100ppm)の外観は、当該還元型クルクミノイドが添加されていないビール(無添加)と同等と評価された。すなわち、還元型クルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料は、ビールと同様、透明な黄金色と白い泡とを有していた。
【0098】
また、図3に示すように、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料の香味は、当該ウコンが添加されていないビール(無添加)より顕著に劣ると評価された。すなわち、ウコンが添加された発泡性アルコール飲料は、土臭さや、漢方薬のような香りといった、当該ウコンに特有の好ましくない香りが付与されていた。
【0099】
これに対し、還元型クルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料の香味は、当該還元型クルクミンの添加濃度の増加に応じて点数が低下する傾向はあったものの、ウコンに比べると、当該還元型クルクミノイドが添加されていないビール(無添加)により近く、好ましいレベルであると評価された。
【0100】
すなわち、図3に示すように、還元型クルクミノイドを30ppmの濃度で含む発泡性アルコール飲料(図3における「30ppm」)の香味に対する評価点数は、還元されていないウコンのクルクミノイドを30ppmの濃度で含む発泡性アルコール飲料(図3における「ウコン」)のそれに比べて顕著に高かった。
【0101】
このように、ウコンの添加は発泡性アルコール飲料の外観及び香味を顕著に損ねたのに対して、還元型クルクミノイドの添加は、発泡性アルコール飲料の外観及び香味を大きく損ねることはなかった。
【実施例2】
【0102】
還元型クルクミノイドの添加後におけるろ過の影響について評価した。すなわち、麦芽及びホップを使用して予め製造されたビールに対して、市販のテトラヒドロクルクミノイドを所定量添加し、当該テトラヒドロクルクミノイドを含む発泡性アルコール飲料を調製した。そして、まず、この発泡性アルコール飲料におけるテトラヒドロクルクミノイドの濃度を測定した。なお、テトラヒドロクルクミノイド濃度の測定は、ガス抜きした試料液250μlに750μlのアセトニトリルを加えて撹拌し、得られた混合液を孔径0.45μmのPTFE製フィルターでろ過したものをHPLC−UVで測定した。市販のテトラヒドロクルクミノイドに添付のクロマトグラムに基づきピークの同定を行った。そして、試料液で検出された複数種類のテトラヒドロクルクミノイド(例えば、テトラヒドロクルクミン及びテトラヒドロデメトキシクルクミン)のピークの面積の和と、市販のテトラヒドロクルクミノイドを使用して作成した検量線と、に基づき当該試料液中のテトラヒドロクルクミノイドを定量した。
【0103】
その後、テトラヒドロクルクミノイドが添加された発泡性アルコール飲料を、ビールの製造において二次ろ過に使用されるものと同様のカートリッジフィルターにてろ過した。次いで、ろ過後の発泡性アルコール飲料におけるテトラヒドロクルクミノイドの濃度を測定した。
【0104】
その結果、発泡性アルコール飲料におけるテトラヒドロクルクミノイドの濃度は、ろ過前が34ppmであり、ろ過後は24ppmであった。すなわち、ろ過によってテトラヒドロクルクミノイドの濃度が約30%低下した。
【0105】
このように、還元型クルクミノイドの添加後にろ過を行うことにより、当該還元型クルクミノイドの一部が除去されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元型クルクミノイドを含む
ことを特徴とする発泡性飲料。
【請求項2】
前記還元型クルクミノイドを1ppm〜500ppmの濃度で含む
ことを特徴とする発泡性飲料。
【請求項3】
還元型クルクミノイドを添加することを含む
ことを特徴とする発泡性飲料の製造方法。
【請求項4】
前記還元型クルクミノイドを、前記発泡性飲料における濃度が1ppm〜500ppmとなるように添加する
ことを特徴とする請求項3に記載された発泡性飲料の製造方法。
【請求項5】
前記還元型クルクミノイドをろ過後に添加する
ことを特徴とする請求項3又は4に記載された発泡性飲料の製造方法。
【請求項6】
還元型クルクミノイドを有効成分として含む
ことを特徴とする泡特性向上剤。
【請求項7】
還元型クルクミノイドを添加することにより発泡性飲料の泡特性を向上させる
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−13385(P2013−13385A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150274(P2011−150274)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】