説明

発泡成形体およびその製造方法

【課題】発泡倍率が高く軽量でありながら優れた強度を有する優れた熱可塑性樹脂発泡成形体を提供する。
【解決手段】溶融温度が異なる熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)を含む発泡成形体であって、熱可塑性樹脂(a)とガスが含浸された熱可塑性樹脂(b)との混合物を熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下で射出発泡成形した、熱可塑性樹脂(a)が海部、気泡を有する熱可塑性樹脂(b)が島部である海島構造をもつ発泡成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性に優れ、且つ美観に優れ、さらに軽量化、剛性、制振性にも優れた発泡成形体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の外装材料、内装材料においてプラスチック化の動きが活発化している。例えば、バックパネル、フェンダー、バンパー、ドアパネル、ピラー、サイドプロテクター、サイドモール、各種スポイラー、ボンネット、ルーフパネルなどが挙げられる。プラスチック化のメリットとしては、軽量化が可能な点、デザインの自由度が高められる点、モジュールアッセンブリー化によるコストダウンが可能になる点、および軽い衝撃においては全く変形・破損がなく、剛性が高い点などを挙げることができる。
そして、このような成形体として、ポリオレフィンを用いた樹脂組成物を発泡することにより発泡成形体を製造する方法が知られている。
【0003】
ところで、プラスチックの発泡方法としては、古くは化学発泡剤を樹脂に添加して樹脂を発泡させることが知られているが(例えば、特許文献1参照)、成形品表面に発泡による模様が生じ、一般の射出成形品に比べ外観があまり良くない。そこで、スキン層となる樹脂を射出し、直後にコア層となる発泡性樹脂を射出することにより外観の良好な発泡成形体を得る技術があり(例えば、特許文献2参照)、これらを起点として様々な方法が開発されてきた。
最近では発泡能力を向上させるために、超臨界状態の二酸化炭素や窒素を樹脂に含浸させて樹脂の発泡成形を行う超臨界発泡成形法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また別の方法として、熱膨張性マイクロカプセルを含有した樹脂組成物を用いて発泡体を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭39−22213号公報
【特許文献2】特公昭47−26108号公報
【特許文献3】米国特許第5,334,356号明細書
【特許文献4】特開2000−17103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのように様々な素材や製造方法が提案されているが、得られる発泡成形体は、先に述べた軽量化、機械的強度などの点でまだ満足できるものではない。
したがって本発明は、発泡倍率が高く軽量でありながら高い強度を有する優れた発泡成形体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意研究した結果、溶融温度の異なる熱可塑性樹脂を用い、気泡をもつ樹脂が島部になり、他の樹脂が海部を形成した海島構造をもつ発泡成形体が上記の軽量化、機械的強度などの要求を満足するとの知見を得、この知見に基づき本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、
(1)溶融温度が異なる熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)を含む発泡成形体であって、熱可塑性樹脂(a)とガスが含浸された熱可塑性樹脂(b)との混合物を熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下で射出発泡成形した、熱可塑性樹脂(a)が海部、気泡を有する熱可塑性樹脂(b)が島部である海島構造をもつことを特徴とする発泡成形体、
(2)JIS K7171 に準拠した曲げ強度が40MPa以上であることを特徴とする(1)記載の発泡成形体、
(3)発泡成形体中の熱可塑性樹脂(a)の含有量が、25〜80質量%であることを特徴とする(1)または(2)記載の発泡成形体、
(4)前記熱可塑性樹脂(a)が、平均繊維長が1mm以上のガラス繊維を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項記載の発泡成形体、
(5)前記熱可塑性樹脂(a)が、5〜70質量%のガラス繊維を含有してなる熱可塑性樹脂であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載の発泡成形体、
(6)熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(a)と溶融温度の異なる熱可塑性樹脂(b)を混合して射出成形する発泡成形体の製造方法であって、圧力容器内でガスを充填、加圧して、ペレット状または粉末状の熱可塑性樹脂(b)にガスを含浸させた後に圧力を開放する工程の後、熱可塑性樹脂(a)と前記のガスを含浸させた熱可塑性樹脂(b)とを予め混合した状態で射出成形機に供給する工程、または射出成形機内で混合するように前記熱可塑性樹脂(a)および前記のガスを含浸させた熱可塑性樹脂(b)をそれぞれ射出成形機に供給する工程のいずれかの工程を行い、次いで、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の成形条件で金型内に射出充填する、島部を発泡させた海島構造を有する発泡成形体の製造方法、
(7)ガスを含浸させる前の前記熱可塑性樹脂(b)が、平均粒径2〜50μmの粉末状であることを特徴とする(6)記載の発泡成形体の製造方法、および
(8)前記熱可塑性樹脂(b)へのガスの含浸は、前記ガスが超臨界状態で行うことを特徴とする(6)または(7)項記載の発泡成形体の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の発泡成形体は、熱可塑性樹脂(a)を海部とし、内部に独立気泡を多数持つ熱可塑性樹脂(b)を島部とする海島構造であり、熱可塑性樹脂(b)の発泡倍率を通常よりも大きくすることができるので、成形体全体として発泡倍率を高くし、軽量化できる。そして、発泡倍率が高く軽量であるにもかかわらず、優れた強度、特に曲げ強度および曲げ弾性率を有する。
また、この発泡成形体は、内部の気泡構造および異なった2つの熱可塑性樹脂の粘弾性によって、振動エネルギーが熱エネルギーへ変換されて振動エネルギーを吸収し、制振性を向上させる作用がある。更に、この2つの熱可塑性樹脂はガラス転移点が異なることから、比較的広い使用温度領域で高い制振性が得られる。
さらに、熱可塑性樹脂(a)にガラス繊維などの補強剤を添加することで制振性と高剛性を兼ね備えた発泡成形体を得ることが出来るので、自動車の外装など高剛性が必要な分野に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の製造方法を示す概略工程図である。
【図2】本発明の発泡成形体の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発泡成形体の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。
本発明の発泡成形体を構成する熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)は、熱可塑性樹脂(b)の溶融温度が、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度よりも高ければ特に限定されるものではなく、それぞれが、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂等)、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイト樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン樹脂(ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂等)、ポリアミド樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂(酢酸セルロース等)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、および塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーなどから適宜選択される熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0010】
熱可塑性樹脂(b)の溶融温度は、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度よりも高く、本発明の発泡成形体の成形時の射出温度と同じかそれ以上である。
尚、溶融温度とは、例えば板状の成形品を成形する際に通常成形できる下限温度を意味する。
熱可塑性樹脂(b)と熱可塑性樹脂(a)の溶融温度の差は特に限定するものではないが、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは40〜100℃の差とすることが射出成形を行うのに都合が良い。
【0011】
熱可塑性樹脂(a)としては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂等)、ポリスチレン樹脂(ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂等)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、または塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーが好ましく、特にポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂等)が好ましい。
【0012】
熱可塑性樹脂(b)としては、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイト樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂等)、ポリアミド樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、またはセルロース系樹脂(酢酸セルロース等)が好ましく、特にポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイト樹脂、またはポリスチレン樹脂(ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂等)が好ましい。
【0013】
熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)との好ましい組み合わせは、(a)ポリプロピレン樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂、(a)ポリプロピレン樹脂と(b)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(a)ポリプロピレン樹脂と(b)シンジオタクチックポリスチレン樹脂等を挙げることができる。
熱可塑性樹脂(a)の配合割合は、発泡成形体中好ましくは25〜80質量%、さらに好ましくは30〜50質量%である。この割合が多すぎると成形体の海部が増えるため発泡倍率が低くなって軽量化という目的が達せられず、少ないと成形体の海部が少なくなり発泡部分が増えすぎて高強度という目的が達せられなくなるためである。
【0014】
これらの上記熱可塑性樹脂には、気泡核剤、結晶核剤、可塑剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填材、ガラス繊維などの補強剤、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を必要に応じて適量加えることができる。
【0015】
熱可塑性樹脂(a)は、ガラス繊維を添加した繊維強化熱可塑性樹脂であることが、より優れた強度の発泡成形体を得るのに好ましい。ガラス繊維を添加する場合は、ガラス繊維の平均繊維長が1mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは2〜10mm、より好ましくは3〜8mmである。ガラス繊維長が1mm未満であると、発泡成形体で高剛性が得られないことがあり、10mmを超えるものは射出成形機に供給しても可塑化が不充分になり成形が不安定になることがある。
また、ガラス繊維の含有量は、熱可塑性樹脂(a)中、好ましくは5〜70質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。ガラス繊維の配合量が少ないと発泡成形体にさらに所望の強度が得られないことがあり、70質量%を超えると射出成形が不安定になり且つ発泡成形体の軽量効果が低減することがある。
【0016】
原料とする熱可塑性樹脂(b)の形状は特に問わないが、好ましくは3mm以下のペレット、または粉末状(微粉末を含む)であり、さらに好ましくは平均粒径2〜50μm、より好ましくは平均粒径3〜50μmの微粉末である。なお、上記の微粉末の平均粒径は、マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計(日機装社製)で測定された値をいう。
熱可塑性樹脂(b)のペレットまたは粉末の発泡方法としては加圧された高圧ガスを用いて発泡させる方法(発泡手段として高圧ガスを含浸させた後、減圧する発泡方法)を本発明では用いる。発泡剤を用いる化学的発泡では、熱可塑性樹脂(a)および(b)共に発泡してしまい、また微細な気泡構造を形成することが難しく、特に300μm以下の微細気泡を形成することは極めて困難である。
高圧ガスは、熱可塑性樹脂(b)に対して不活性で且つ含浸可能なものであれば特に限定されず、例えば、空気、不活性ガス(二酸化炭素、窒素、ヘリウムなど)が挙げられる。これらのガスは混合して用いてもよい。これらのうち、含浸量が多く、含浸速度が速い点から、不活性ガスが好ましく、そのなかでも特に二酸化炭素が好適である。
【0017】
さらに、含浸速度を速めるという観点から、前記高圧ガス(特に二酸化炭素)は、超臨界状態の流体であることが好ましい。超臨界状態では、熱可塑性樹脂(b)へのガスの溶解度が増大し、高濃度の混入が可能である。また、含浸後の急激な圧力降下時には、前記のように高濃度で含浸することが可能であるため、気泡核の発生が多くなり、その気泡核が成長してできる気泡の密度が大きくなるため、微細な気泡を得ることができ、従来に比べ発泡倍率を上げることが可能である。
本発明において、発泡形成体の形状は特に制限はない。板状、円筒状、角状、球面状などでもよく、さらに各種の用途、使用場面に応じて適宜の形状にさらに成形加工することもできる。
【0018】
次に、発泡成形体の製造方法の好ましい実施態様について、添付する図1を参照して説明する。
原料のペレットまたは粉末の熱可塑性樹脂(b)2は、室温(10〜25℃)にて圧力容器3内でガスを充填、加圧して、好ましくは超臨界状態のガスを含浸させた後に圧力を開放して、ガスが含浸された熱可塑性樹脂(b)とする。
原料の熱可塑性樹脂(a)1とガスが含浸された熱可塑性樹脂(b)を混合器4で撹拌混合(ドライブレンド)し、予め混合した状態で射出成形機5に供給する。あるいは、熱可塑性樹脂(a)とガスが含浸された熱可塑性樹脂(b)は射出成形機内で混合するように、それぞれホッパーまたはサイドフィーダーから射出成形機5に供給することもできる。
そして、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の成形条件で、熱可塑性樹脂(a)は溶融し、ガスが含浸された熱可塑性樹脂(b)は発泡する。これを金型内に射出充填することにより本発明の海島構造を有する発泡成形体6を得ることができる。なお、発泡成形体6において、熱可塑性樹脂(b)内で生起した一部の気泡が熱可塑性樹脂(a)内に存在していてもよい。成形温度は、使用する熱可塑性樹脂により決まるが、220〜290℃が好ましい。
【0019】
前記熱可塑性樹脂(a)として着色したものを使用し、発泡射出成形により得られた発泡成形体をスライスサーなどを用いて断面構造が破壊されないようにカットし、走査型電子顕微鏡にてその断面構造を観察した、本発明の発泡成形体の断面構造の一例を模式図で図2に示す。
発泡成形体6は、熱可塑性樹脂(a)が海部7を構成し、気泡9を有する熱可塑性樹脂(b)が島部8を構成する海島構造をもつ。島部8に相当する部分の粒径はほぼ0.05〜0.8mmであり、気泡の大きさ(最大径)はほぼ30〜200μmである。
熱可塑性樹脂(a)として、ガラス繊維を含有するものを原料とした場合においては、ガラス繊維はほぼそのまま海部7に残っている。
【0020】
射出成形時の発泡は、熱可塑性樹脂(b)の溶融温度よりも低く且つ熱可塑性樹脂(a)の溶融状態で生起するので、気泡9は独立気泡であり、熱可塑性樹脂(b)単独での発泡よりも発泡倍率を大きくすることができる。したがって、発泡成形体全体として発泡倍率を上げることができ、軽量化を行うことが可能である。また、多数の気泡は独立したものであるので、優れた機械的強度、好ましくは40MPa以上、さらに好ましくは45MPa以上の曲げ強度(JIS K7171 に準拠した値)をもつ。また、曲げ弾性率も優れたものである。
さらに、この発泡成形体が振動を受けたときに、内部の気泡構造および異なった2つの熱可塑性樹脂の粘弾性によって、振動エネルギーが熱エネルギーへ変換されて振動エネルギーを吸収し、制振性が向上する。更に、この2つの熱可塑性樹脂はガラス転移点が異なることから、広い使用温度領域で高い制振性を得ることが可能となる。
また、熱可塑性樹脂(a)にガラス繊維などの補強剤を添加することで制振性と高剛性を兼ね備えた発泡成形体を得ることが出来るので、自動車の外装など高剛性が必要な分野に広く適用することが可能である。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
以下の各実施例および比較例に製造方法を記載し、その概要を表1〜3に示す。さらに、得られた発泡成形体は、成形性および外観を評価すると共に、機械的強度として曲げ強度、曲げ弾性率および発泡倍率を測定して、その結果も表1〜3に示した。
なお、各実施例および比較例で使用した熱可塑性樹脂について、表4に一覧表で示した。
【0022】
<実施例1>
熱可塑性樹脂(a)としてはペレット状のポリプロピレン(日本ポリプロ製「ノバテックBC03C」)を、熱可塑性樹脂(b)としてはポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック社製「ユーピロンS3000」)を使用した。熱可塑性樹脂(b)はペレット形状をしており、このペレットを圧力容器内に投入後炭酸ガスを超臨界状態となる8MPa、23℃で充填した。
次に、熱可塑性樹脂(a)と炭酸ガスが含浸された熱可塑性樹脂(b)を30:70の質量比で混合後射出成形機のポッパーに投入し、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の260℃の成形条件で金型内に射出充填し、板状の発泡成形体(長さ150mm、幅150mm、厚さ4mm)を得た。
【0023】
<実施例2〜4>
熱可塑性樹脂(a)として実施例1と同様ポリプロピレン(日本ポリプロ製「ノバテックBC03C」)を使用し、熱可塑性樹脂(b)として、表1に示すようにポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチック社製「ジュラネックス2002」)、シンジオタクチックポリスチレン(出光興産製「ザレックS100」、またはポリエチレンテレフタレート(ユニチカ製「SA−1206」)をそれぞれ使用した。熱可塑性樹脂(b)はペレット形状をしており、このペレットを実施例1と同様圧力容器内に投入後炭酸ガスを8MPa、23℃で充填した。
次に、実施例1と同様熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)を30:70の質量比で混合後射出成形機のポッパーに投入し、表1に示すように、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下のそれぞれ220℃、270℃、240℃の成形条件で金型内に射出充填し、板状の発泡成形体(長さ150mm、幅150mm、厚さ4mm)を得た。
【0024】
<実施例5、6>
熱可塑性樹脂(a)は、表1に示すようにペレット状の長繊維ガラス含有ポリプロピレン(日本ポリプロ社製「ファンクスターLR23C」、ガラス繊維長約4mm:30質量%含有)または長繊維ガラス含有ポリプロピレン(日本ポリプロ製「ファンクスターLR23C」、ガラス繊維長約8mm:30質量%含有)をそれぞれ使用し、熱可塑性樹脂(b)はポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック社製「ユーピロンS3000」)を使用した。熱可塑性樹脂(b)はペレット形状をしており、このペレットを実施例1と同様圧力容器内に投入後炭酸ガスを8MPa、23℃で充填した。
次に、熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)を30:70の質量比で混合後射出成形機のポッパーに投入し、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の260℃の成形条件で金型内に射出充填し、板状の発泡成形体(長さ150mm、幅150mm、厚さ4mm)を得た。
【0025】
<実施例7、8>
熱可塑性樹脂(a)はペレット状の長繊維ガラス含有ポリプロピレン(日本ポリプロ製「ファンクスターLR23C」、ガラス繊維長約8mm:30質量%含有)、熱可塑性樹脂(b)はペレット状のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック社製「ユーピロンS3000」)をそれぞれ使用した。このペレット状の熱可塑性樹脂(b)を実施例1と同様圧力容器内に投入後炭酸ガスを8MPa、23℃で充填した。次に、熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)を実施例8は50:50の質量比で、実施例9は70:30の質量比でそれぞれ混合後、射出成形機のポッパーに投入し、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の260℃の成形条件で金型内に射出充填し、板状の発泡成形体(長さ150mm、幅150mm、厚さ4mm)を得た。
【0026】
<実施例9〜11>
熱可塑性樹脂(a)は、表2に示すように、ペレット状の長繊維ガラス含有ポリプロピレン(日本ポリプロ社製「ファンクスターLR21V」、ガラス繊維長約8mm:10質量%含有)、長繊維ガラス含有ポリプロピレン(日本ポリプロ製「ファンクスターLR22W」、ガラス繊維長約8mm:20質量%含有)、または長繊維ガラス含有ポリプロピレン(日本ポリプロ製「ファンクスターLR24A」、ガラス繊維長約8mm:40質量%含有)をそれぞれ使用し、熱可塑性樹脂(b)はポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック社製「ユーピロンS3000」)を使用した。熱可塑性樹脂(b)はペレット形状をしており、このペレットを実施例1と同様圧力容器内に投入後炭酸ガスを8MPa、23℃で充填した。
次に、熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)を30:70の質量比で混合後射出成形機のポッパーに投入し、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の260℃の成形条件で金型内に射出充填し、板状の発泡成形体(長さ150mm、幅150mm、厚さ4mm)を得た。
【0027】
<実施例12>
熱可塑性樹脂(a)はポリプロピレン(日本ポリプロ製「ノバテックBC03C」)を、熱可塑性樹脂(b)はアクリロニトリル共重合樹脂(日本合成ゴム社製「N230S」)を使用した。アクリロニトリル共重合樹脂は平均粒径を約30μmの粉末形状とし、この粉末を圧力容器内に投入後炭酸ガスを8MPa、23℃で充填した。次に、熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)を30:70の質量比で混合後射出成形機のポッパーに投入し、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の220℃の成形条件で金型内に射出充填し、板状の発泡成形体(長さ150mm、幅150mm、厚さ4mm)を得た。
【0028】
<比較例1>
熱可塑性樹脂(a)はポリプロピレン(日本ポリプロ製「ノバテックBC03C」)を使用し、熱可塑性樹脂(b)は配合せず、200℃で射出成形し、板状の成形体(長さ150mm、幅150mm、厚さ4mm)を得た。
【0029】
<比較例2>
熱可塑性樹脂(a)は配合せず、熱可塑性樹脂(b)としてペレット形状のポリプロピレン(日本ポリプロ製「ノバテックBC03C」)を使用して、このペレットを圧力容器内に投入後炭酸ガスを8MPa、23℃で充填した。次に、この熱可塑性樹脂(b)を射出成形機のポッパーに投入し、熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の180℃の成形条件で金型内に射出充填したが、成形できなかった。
【0030】
<参考例1>
熱可塑性樹脂(a)は長繊維ガラス含有ポリプロピレン(日本ポリプロ製「ファンクスター」、ガラス繊維長約12mm:30%含有)を、熱可塑性樹脂(b)はポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック社製「ユーピロンS3000」)を使用した。熱可塑性樹脂(b)はペレット形状をしており、このペレットを圧力容器内に投入後炭酸ガスを8MPa、23℃で充填した。
次に、熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)を70:30の質量比で混合後、射出成形機のポッパーに投入し、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の260℃の成形条件で金型内に射出充填し、成形を行った。
【0031】
<参考例2>
熱可塑性樹脂(a)はポリプロピレン(日本ポリプロ製「ノバテックBC03C」)、熱可塑性樹脂(b)はアクリロニトリル共重合樹脂(日本合成ゴム社製「N230S」)を使用した。熱可塑性樹脂(b)は平均粒径を約30μmの粉末形状とし、この粉末を圧力容器内に投入後炭酸ガスを8MPa、23℃で充填した。
次に、熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)を20:80の質量比で混合後、射出成形機のポッパーに投入し、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の220℃の成形条件で金型内に射出充填し、板状の成形体を得た。
【0032】
試験例
各実施例の成形体について、走査型電子顕微鏡でその断面構造を調べた。いずれも熱可塑性樹脂(a)が海部を、熱可塑性樹脂(b)が島部を構成する海島構造をもつものであり、島部には多数の気泡が認められた。
【0033】
各実施例、比較例および参考例で得られた充填材および成形体について、下記に示す仕様で評価した。その結果を表1〜3に示した。また表4には用いた樹脂を示した。
a.成形性
150×150×4mmの成形体を作製し、成形品が未充填にならない場合を「良好」とし、未充填もしくは成形できない状態や、成形状態が不安定である場合を「不良」とした。
b.外観
表面に性能上問題となり得るヒケやウエルドが無い場合を「良好」とし、表面に大きなヒケ、凹凸やウエルドがある場合は、不良と判定し、表にはその状態を記した。
c.曲げ強度、および、d.曲げ弾性率
曲げ強度および曲げ弾性率の評価は、各実施例で得られた板状の成形体から80mm×10mm×4mmの試料板を切り出して評価用サンプルとし、JIS K7171 に準拠して評価した。
e.発泡倍率
各材料の密度から発泡させない状態の成形品(150×150×4mm)「未発泡成形品」の質量を算出してこれを発泡倍率1とし、実施例、比較例のごとく射出発泡成形した成形体「発泡成形品」の質量を測定して、後述の計算式
(「未発泡成形品」の質量)/(「発泡成形品」の質量)=発泡倍率
と定義し、その発泡倍率を求めた。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
表1〜2に示されるように、実施例1〜12では、成形性、外観に優れ、曲げ強度、曲げ弾性率、発泡倍率も高く、軽量かつ高強度の材料であった。なかでも、熱可塑性樹脂(a)がガラス繊維を含む実施例5〜11では、樹脂(b)として同じPCを用いた実施例1と比べ、強度に非常に優れたものとなった。
これに対し、表3に示されるように、比較例1は、外観は良好であるが、発泡性ガスを入れていないので発泡体ではなく、軽量化されないものであった。また、比較例2では、成形できなかった。また、参考例1では、繊維長が長いガラス繊維が多く含まれているため、成形性が悪く、成形に適していなかった。参考例2では、成形性は良いが、バルーンが多く壊れて表面に凹凸ができ、外観が悪く、曲げ強度および曲げ弾性率も低いものであった。
【符号の説明】
【0039】
1 熱可塑性樹脂(a)(原料)
2 熱可塑性樹脂(b)(原料)
3 圧力容器
4 混合器
5 射出成形機
6 発泡成形体
7 海部
8 島部
9 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融温度が異なる熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)を含む発泡成形体であって、熱可塑性樹脂(a)とガスが含浸された熱可塑性樹脂(b)との混合物を熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下で射出発泡成形した、熱可塑性樹脂(a)が海部、気泡を有する熱可塑性樹脂(b)が島部である海島構造をもつことを特徴とする発泡成形体。
【請求項2】
JIS K7171 に準拠した曲げ強度が40MPa以上であることを特徴とする請求項1記載の発泡成形体。
【請求項3】
発泡成形体中の熱可塑性樹脂(a)の含有量が、25〜80質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の発泡成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(a)が、平均繊維長が1mm以上のガラス繊維を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の発泡成形体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(a)が、5〜70質量%のガラス繊維を含有してなる熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の発泡成形体。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(a)と溶融温度の異なる熱可塑性樹脂(b)を混合して射出成形する発泡成形体の製造方法であって、圧力容器内でガスを充填、加圧して、ペレット状または粉末状の熱可塑性樹脂(b)にガスを含浸させた後に圧力を開放する工程の後、熱可塑性樹脂(a)と前記のガスを含浸させた熱可塑性樹脂(b)とを予め混合した状態で射出成形機に供給する工程、または射出成形機内で混合するように前記熱可塑性樹脂(a)および前記のガスを含浸させた該熱可塑性樹脂(b)をそれぞれ射出成形機に供給する工程のいずれかの工程を行い、次いで、熱可塑性樹脂(a)の溶融温度以上でかつ熱可塑性樹脂(b)の溶融温度以下の成形条件で金型内に射出充填する、島部を発泡させた海島構造を有する発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
ガスを含浸させる前の前記熱可塑性樹脂(b)が、平均粒径2〜50μmの粉末状であることを特徴とする請求項6項記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(b)へのガスの含浸は、前記ガスが超臨界状態で行うことを特徴とする請求項6または7項記載の発泡成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−254930(P2010−254930A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110000(P2009−110000)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】