説明

発泡樹脂細骨材を使用した曲げ応力を受ける鉄筋コンクリート部材

【課題】鉄筋コンクリート部材の必要強度を維持しつつ発泡樹脂を使用して軽量化する。
【解決手段】部材断面の中立軸を中心にして一方には圧縮応力が,他方には引張応力が作用し,中立軸から離れるほど応力が大きくなっていることに着目し,曲げ応力を受ける鉄筋コンクリート部材1において,部材の中立軸近傍の領域11の発泡樹脂細骨材の混入率を部材の縁辺領域12よりも大きくすることによって,軽量化と強度のバランスをとったものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,発泡スチロール等の発泡樹脂を細骨材として利用して軽量化を図った鉄筋コンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造は,必要とする強度を安価に得られるので多く使用されているが,重量が大きいという欠点を有しており,軽量化の方策が探索されており,構造部材内部に空洞部を設けたり,さらに大幅な軽量化を図る場合には軽量な骨材として発泡樹脂細骨材を使用することが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−101454号公報
【特許文献2】特開2001−232619号公報
【特許文献3】特開平5−837号公報
【特許文献4】特開2000−64493号公報
【特許文献5】特開平5−4843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の発泡樹脂を骨材とした軽量コンクリートは,発泡樹脂を一様に混入するか,発泡樹脂を混入した層と,混入しない層の積層体とすることがおこなわれている。積層体を力学的に一体化するためにはずれ止めを設けたり,強力な接着剤を使用するなど,コンクリート打設して成形した後に追加作業が必要であった。
【0005】
また,特許文献1は,基礎の土台に適用するものであり,支圧力に対抗するものである。また,発泡樹脂を混入した層と混入しない層を単純に積み重ねたものであり,圧縮応力のみに対応するものであり,曲げ応力については検討されていない。
【0006】
発泡樹脂を細骨材として混入すると,強度が低下するので,軽量化が達成できても強度が不十分ということがある。
本発明は,部材に作用する,曲げ応力の特質に着目し,曲げ応力を受ける鉄筋コンクリート部材の必要強度を維持しつつ発泡樹脂を使用して軽量化を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
曲げ応力を受ける部材は,図2に示すように,矩形断面及びI型断面の部材の中立軸を中心にして一方には圧縮応力が,他方には引張応力が作用し,中立軸から離れるほど応力が大きくなっていることに着目し,曲げ応力を受ける鉄筋コンクリート部材において,部材の中立軸近傍の発泡樹脂細骨材の混入率を部材の縁辺よりも大きくすることによって,軽量化と強度のバランスをとったものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鉄筋コンクリート部材は,発泡樹脂細骨材を使用することによって軽量化を図ると共に,必要強度が得られるようにしたものである。曲げ応力が直線分布する特質を利用して部材の領域に応じて発泡樹脂細骨材の混入割合を変化させるので,軽量化を合理的に図ることができ,現場施工であっても容易に対応することができる。また,従来のように積層のためのずれ止めが不要となるとともに,断熱性能の高い部材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は図1に示すように,鉄筋2が配筋してある曲げを受ける鉄筋コンクリート部材1に,発泡樹脂細骨材を使用したものである。
部材の中立軸の領域11は,発泡樹脂細骨材の混入率が高くしてあり,部材の縁辺の領域12に行くにしたがって混入率を下げてある。
【0010】
層状に混入率の異なるコンクリートを順に打設する。まず,混入率がゼロまたは小さなコンクリートを打設し,中立軸に近づくにしたがって混入率が大きなコンクリートを打設する。中立軸を越えたら,逆に混入率をさげてコンクリートを打設し,最後に混入率ゼロとする。
【0011】
層状にコンクリートを打設するだけでなく,混合割合を変更できるようにしたコンクリート打設機によって混入率を連続的に変更して打設してもよい。
【0012】
実験例
使用した発泡樹脂細骨材は,表1に示す物性の廃発泡スチロールを粗破砕した後,遠赤外線の照射により約20分の1に減容処理し,更に粉砕して粒径を4mm以下としたものである。熱による減容処理により低強度・低弾性の発泡スチロールは,大幅に硬質なものとなった。
【0013】
【表1】

【0014】
細骨材に発泡ポリスチロール廃材,セメントには,早強ポルトランドセメントを使用し,モルタルミキサーを用いてセメントと水を投入後60秒間練り混ぜ,粉砕した発泡ポリスチロール廃材を投入し120秒間練混ぜをおこなった。
配合を表2に示す。水セメント比を30〜60%と変化させ,各々について発泡ポリスチロール混入率(モルタル中に占めるEPS廃材の体積比:EPS混入率またはVEPSと表示)を0〜60%に変化させた。
【0015】
【表2】

【0016】
強度試験用の供試体(40×40×160mm)を作製し,振動台およびハンドバイブレーターで締め固めた。翌日脱型後,標準養生(20±2℃)をおこない,材齢7日で強度試験(JIS A 1108)をおこなった。
EPS混入率と密度の関係を図3に示す。EPS混入率の増加に伴って密度は直線的に減少し,EPS混入率60%程度でモルタルの密度は約1.0g/cm3となる。
【0017】
図4にEPS混入率と圧縮強度の関係を,図5にEPS混入率と曲げ強度の関係を示す。図4及び図5から,EPS混入率の増加に伴い圧縮強度,曲げ強度ともに低下する傾向にあることがわかる。
【0018】
図6にモルタルの密度と圧縮強度の関係を示す。図には,対比のためEPS廃材の熱による減容処理を施していないものについても示している。
図6から,同密度での強度発現は,減容処理を施したEPS廃材を使用したモルタルの方が大きいことがわかる。これは熱による減容処理によってEPS廃材のヤング係数が増加することに起因すると考えられ,熱による減容処理したEPSを使用したコンクリートにおいては,初期微細ひび割れの発生が従来よりも遅くなることによると推察される。
【0019】
強度試験結果をBacheの式(1)を使用して見かけのEPS廃材強度を計算した。
【数1】

【0020】

【0021】
EPS混入率と見かけのEPS骨材強度の関係を図7に示す。水セメント比を小さく,すなわちマトリックス強度を大きくすることでEPSの見かけの強度は総じて増加した。また,マトリックス強度ごとに見かけのEPS強度が最大値となるEPS混入率が存在し,それを最適混入率と考えると,マトリックス強度を高めると最適混入率は小さくなった。
【0022】
以上のことから,水セメント比を30%,EPS混入率を40%とすると最も高い見かけのEPS骨材強度が得られた。
実際にはEPS廃材の強度は変化しないので,見かけの強度が大きいことが,配合的にEPS強度を有効に発揮できる条件であると判断した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の概念を示す断面図。
【図2】曲げ応力を受けたときの応力分布説明図。
【図3】EPS混入率とモルタル密度の関係を示すグラフ。
【図4】EPS混入率と圧縮強度の関係を示すグラフ。
【図5】EPS混入率と曲げ強度の関係を示すグラフ。
【図6】モルタルの密度と圧縮強度の関係を示すグラフ。
【図7】EPS混入率と見かけのEPS骨材強度の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0024】
1 鉄筋コンクリート部材
2 鉄筋
11 EPSの混入率が大きい領域
12 EPSの混入率が小さい領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ応力を受ける鉄筋コンクリート部材において,部材の中立軸近傍の発泡樹脂細骨材の混入率を部材の縁辺よりも大きくした鉄筋コンクリート部材。
【請求項2】
請求項1において,中立軸における発泡樹脂細骨材の混入率を最大にし,部材の縁辺に向かって一定割合で発泡樹脂細骨材の混入率を減少させてある鉄筋コンクリート部材。
【請求項3】
請求項1または2において,最大圧縮応力を受ける上縁部および最大引っ張り応力を受ける下縁部近傍では発泡樹脂細骨材の混入率をゼロとした鉄筋コンクリート部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて,発泡樹脂は廃棄発泡ポリスチレンを粗粉砕し,加熱によって減容処理して微粉砕したものである鉄筋コンクリート部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて,発泡樹脂細骨材の体積混入率は40%以下である鉄筋コンクリート部材。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかにおいて,発泡樹脂細骨材の粒径が4.0mm以下である鉄筋コンクリート部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−254933(P2008−254933A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70872(P2007−70872)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】