説明

発熱体ユニット及び加熱装置

【課題】本発明は、被加熱体を所望の配熱パターンで、且つ高効率で高温度に加熱することができる小型で優れた耐久性を有する発熱体ユニット及び加熱装置を提供することを目的とする。
【解決手段】発熱体ユニットにおける発熱体が、発熱体の長手方向に沿って対向する両側の縁部のそれぞれに対して斜角を有して形成された複数の第1のスリットと、複数の第1のスリットの間に所定間隔を有して平行に配置された複数の第2のスリットを有する伸長可能な形状を有し、複数の第2のスリットが、発熱体の幅方向の中央部分に形成されており、発熱体の長手方向に沿って対向する一対の両側縁部までの縁部分に電流通路が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源として使用される発熱体ユニット及びその発熱体ユニットを用いた加熱装置に関し、特に、炭素系物質を主成分としてフィルムシート状に形成された発熱体を有する発熱体ユニット及びその発熱体ユニットを用いた加熱装置に関する。本発明に係る加熱装置としては、例えば複写機、ファクシミリ、プリンタ等の電子装置、及び電気暖房機器、調理機器、乾燥機等の電気機器等の熱源を必要とする各種機器が含まれる。
【背景技術】
【0002】
従来の加熱装置においては、例えば黒鉛等の結晶化炭素の基材に窒素化合物の抵抗値調整物質及びアモルファス炭素を加えた炭素系物質を棒状又は板状に成形した発熱体を用いた発熱体ユニットが広く使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、発熱体ユニットにおいては、炭素系物質により発熱体を構成した熱源の開発が進められている。例えば、炭素繊維の表面に樹脂を塗布して焼成することにより炭化層を形成し、可撓性を損なうことなく発熱特性の調整が可能な発熱体が開発されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
このような炭素繊維を編み込んで形成した発熱体は炭素系物質を棒状又は板状に形成した発熱体に比べて抵抗値が小さく、発熱温度が低いという問題がある。また、炭素繊維を編んで発熱体が構成されているため、抵抗値が安定せず、製品間において発熱量にばらつきがあった。このような炭素繊維により構成された発熱体における問題点を解消することを目的として各種構成の発熱体ユニットが提示されている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−351762号公報
【特許文献2】特開2001−257058号公報
【特許文献3】特開2007−103292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発熱体ユニットにおいては、小型化及び高発熱化を目的として各種の対応が試みられている。特許文献3に開示された炭素繊維を用いた発熱体においては、炭素繊維自体の抵抗値が低いため、帯状の発熱体においてはその両側縁部から切り込まれた凹部を形成し、電流流路を細く形成して、抵抗値を高めて高温度の発熱が可能な熱源を提供していた。
【0005】
しかしながら、従来の発熱体ユニットにおいては、発熱体の電流経路は細く長くなるが、その電流経路における各部位の抵抗率が異なり、発熱温度がばらつき、発熱体における配熱分布が均一にならないという問題があった。また、電流径路を細くすることを目的として発熱体に大きな切り込み領域が形成されるため、発熱体における変形、ねじれ、破損、破壊の要因となっていた。
したがって、発熱体ユニットを熱源として用いる分野においては、小型化、高発熱化、配熱分布の均一化、及び優れた耐久性を有する発熱体の開発が望まれていた。
【0006】
本発明者らは、従来用いられていた炭素繊維を編み込んだシート状の発熱体、及び編み込んだ炭素繊維に樹脂を添着して焼成した発熱体とは、材料及び製造方法において全く異なる新たなフィルムシート状の材料を発熱材料として発熱体に適用し、新たな熱源としての発熱体ユニットの開発に取り組んできた。
本発明において用いられる発熱体2の材料であるフィルムシート素材は、積層構造を有し、面方向の層表面が平坦な面、凹凸面或いは波うつ面等の各種の面形状を有しており、対向する各層の間には空隙が形成されている。このフィルムシート素材の積層構造において、各層間に形成される空隙の形成状態のイメージは、複数回(例えば、何十回、何百回)と重ね合わせるように折り曲げてパイ生地を作り、そのパイ生地を焼いて得た、パイの断面形状と類似している。即ち、発熱体は、炭素系物質を含む材料により形成された複数の膜体が積層されて、積層方向が一部固着された層間構造を有しており、厚み方向に柔軟性を有するフィルムシート素材である。
【0007】
本発明は、上記の新たなフィルムシート状の発熱体を用いて、被加熱体を所望の配熱パターンで加熱することが可能であり、且つ高効率で高温度に加熱することができる小型で優れた耐久性を有する発熱体ユニット及び加熱装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る第1の観点の発熱体ユニットは、
炭素系物質を含む材料によりフィルムシートで形成され、2次元的等方向性の熱伝導を有する帯状の発熱体と、
前記発熱体における長手方向の両端に電力を供給する電力供給部と、
前記発熱体と前記電力供給部の一部を内包する容器と、を具備する発熱体ユニットであって、
前記発熱体の長手方向に平行な軸線に対して斜角を有して形成された複数のスリットを有する。このように構成された第1の観点の発熱体ユニットは、被加熱体を所望の配熱パターンで加熱することができ、且つ高効率で高温度に加熱することができる優れた耐久性を有する熱源となる。
【0009】
本発明に係る第2の観点の発熱体ユニットは、前記第1の観点の前記発熱体の複数のスリットは、当該発熱体の長手方向に沿って対向する両側縁部から平行に延設された複数の第1のスリットを含む。このように構成された第2の観点の発熱体ユニットは、被加熱体を所望の配熱パターンで加熱することができ、且つ高効率で高温度に加熱することができる優れた耐久性を有する熱源となる。
【0010】
本発明に係る第3の観点の発熱体ユニットは、前記第2の観点の前記発熱体の複数のスリットが、前記複数の第1のスリットを含むとともに、前記複数の第1のスリットの間で当該第1のスリットと平行に所定間隔を有して配置された複数の第2のスリットを含み、
前記複数の第2のスリットは、前記発熱体の長手方向に直交する幅方向の中央部分に形成されている。このように構成された第3の観点の発熱体ユニットは、第2のスリットの両端から発熱体の長手方向に沿って対向する両側縁部までの縁部分に電流通路が形成され、発熱体の長手方向に伸長可能な形状となる。
【0011】
本発明に係る第4の観点の発熱体ユニットは、前記第3の観点の前記発熱体における第1のスリット及び第2のスリットが、貫通した孔又は切り込みにより形成されている。このように構成された第4の観点の発熱体ユニットは、発熱体の長手方向に伸長可能な形状を容易に製造することができる構成となる。
【0012】
本発明に係る第5の観点の発熱体ユニットは、前記第3及び第4の観点の前記発熱体が前記電力供給部により前記容器の内部に張設されることにより、当該発熱体の長手方向に対して伸長して、前記発熱体の長手方向に直交する幅方向の断面が湾曲形状となる。このように構成された第5の観点の発熱体ユニットは、加熱領域の広狭を容易に設定することが可能となり、効率高く加熱できる耐久性を有する熱源となる。
【0013】
本発明に係る第6の観点の発熱体ユニットは、前記第5の観点の前記容器の長手方向に直交する断面が円形状であり、前記電力供給部材により張設されていない状態の前記発熱体が、前記容器の内径より長い長手方向に直交する幅方向の寸法を有する。このように構成された第6の観点の発熱体ユニットは、小型で効率の高い加熱が可能な熱源となる。
【0014】
本発明に係る第7の観点の発熱体ユニットは、前記第1乃至第6の観点の前記発熱体が、炭素系物質を含む材料により形成された層間構造を有する。このように構成された本発明の第7の観点の発熱体ユニットは、被加熱体を均一に、且つ高温度に加熱することができ、効率の高い熱源となる。
【0015】
本発明に係る第8の観点の発熱体ユニットは、前記第1乃至第7の観点の前記容器が、耐熱性を有するガラス管又はセラミックス管により構成され前記電力供給部において封止し、容器内部に不活性ガスを充填している。このように構成された本発明の第8の観点の発熱体ユニットは、高温度に加熱することができる効率の高い熱源となる。
【0016】
本発明に係る第9の観点の加熱装置は、前記第1乃至第8の観点の発熱体ユニットを熱源として装備しており、被加熱体を均一に、且つ高温度に加熱することができ、信頼性が高く、且つ効率の高い加熱装置となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被加熱体を所望の配熱分布で、且つ高効率で高温度に加熱することができる小型で耐久性を有する発熱体ユニットを提供することができる。また、本発明によれば、上記の効果を有する発熱体ユニットが熱源として加熱装置に組み込まれているため、被加熱物を所望の温度分布で加熱することが可能となり、小型で効率が高く耐久性のある加熱装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る発熱体ユニット及びその発熱体ユニットを用いた加熱装置の好適な実施の形態について添付の図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(実施の形態1)
本発明に係る実施の形態1の発熱体ユニットについて図1乃至図6を用いて説明する。図1は実施の形態1の発熱体ユニットの構造を示す平面図である。図1においては、当該発熱体ユニットが長尺形状であるため、その中間部分を破断して省略し、両端部分近傍を示している。図2は図1に示した発熱体ユニットの正面図である。
【0020】
実施の形態1の発熱体ユニットにおいては、耐熱性を有する細長い容器1の内部にフィルムシート状で帯状の発熱体2が配置されている。帯状の発熱体2は容器1の長手方向に沿って延設されている。実施の形態1の発熱ユニットにおいては、容器1が透明な石英ガラス管により形成されており、石英ガラス管の両端部分が平板状に溶着されて容器1が構成されている。発熱体2を収容する容器内部には、不活性ガスとしてのアルゴンガスが封入されている。容器内部に封入可能な不活性ガスとしては、アルゴンガスに限定されるものではなくアルゴンガスの他に、窒素ガス又はアルゴンガスと窒素ガス、アルゴンガスとキセノンガス、アルゴンガスとクリプトンガス等の混合ガス等を用いても実施の形態1の発熱体ユニットと同様の効果を奏し、封入すべき不活性ガスとして目的に応じ適宜選択することが可能である。容器1の内部に不活性ガスを封入するのは、高温度で使用した際において、容器内部の炭素系物質である発熱体2の酸化を防止するためである。なお、容器1の材料としては、耐熱性、絶縁性及び熱透過性を有する材料であれば用いることができ、例えば石英ガラスの他に、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等のガラス材、セラミック材等から適宜選択される。
【0021】
図1及び図2に示すように、実施の形態1の発熱体ユニットは、容器1と、熱輻射膜体としての細長い帯状の発熱体2と、この発熱体2を容器内の所定位置に保持するために発熱体2の長手方向の両端部分に設けられ、発熱体2に電力を供給するための電力供給部8と、を備えている。
【0022】
図1及び図2に示すように、発熱体2の両端に設けられた電力供給部8は、発熱体2の両端に取り付けられた保持具3、位置規制部4、内部リード線部5、モリブデン箔6、及び外部リード線部7を含んでいる。保持具3には内部リード線部5が固定されており、内部リード線部5は容器1の両端部分の封着部分(溶着部分)に埋設されたモリブデン箔6を介して、容器1の両端から容器外部に導出する外部リード線部7と電気的に接続されている。
【0023】
発熱体2の端部は保持具3により平面側と裏面側が挟み付けらており、保持具3の略中央に形成された貫通孔と発熱体2の端部に形成された貫通孔が内部リード線部5の端部により貫通されている。内部リード線部5は、その発熱体側端部が屈曲されて、いわゆるL字状に形成されている。このL字に屈曲した内部リード線部5の先端が、発熱体2を挟んだ保持具3の貫通孔を貫通している。
【0024】
保持具3の貫通孔から突出した内部リード線部5の突出端部には、抜け落ち防止手段(脱落防止手段)、例えば、プレス加工等により塑性変形して潰された状態が施されている。なお、内部リード線部5の突出端部の塑性変形の方法としては、プレス加工の他に、回転カシメ加工等の機械的な加工方法、若しくは熱、電流、プラズマ等による溶着方法等を用いることができる。また、別の抜け落ち防止手段としては、内部リード線部5の突出端部を螺刻してナットによるネジ止め方法、又は突出端部に止め輪、例えばC型止め輪、E型止め輪等を装着する係止方法等がある。
【0025】
発熱体2の両端に接続されている内部リード線部5には、位置規制機能を有する位置規制部4が取り付けられている。内部リード線部5は、一本の線材、例えばモリブデン線をコイル状に形成したものである。
なお、実施の形態1における内部リード線部5は、モリブデン線により形成された例で説明するが、タングステン、ニッケル、ステンレス等を材料とした金属線(丸棒形状、平板形状)を用いて形成してもよい。
【0026】
実施の形態1における位置規制部4は、内部リード線部5に巻き付けられて固定され、コイル状に形成されている。位置規制部4が巻き付けられている内部リード線部5における取り付け部位は、プレス加工により対向する方向で押し潰されており、巻着により確実に固着されるよう形成されている。
【0027】
内部リード線部5に巻着されたコイル状の位置規制部4は、発熱体2を容器内の所定の位置に配置するための位置規制機能を有する。位置規制部4の外周部分は容器1の内周面に近接した位置にあり、位置規制部4が配設されることにより、発熱体2の長手方向の位置を容器1に対する所望の位置とすることができる、実施の形態1においては、発熱体2の長手方向に平行な中心軸が容器1の長手方向に延びる略中心軸上に配設されており、発熱体2が容器1に接触しないよう配置されている。
【0028】
以上のように、実施の形態1の発熱体ユニットにおいては、保持具3、位置規制部4、内部リード線部5、モリブデン箔6、及び外部リード線7により構成された電力供給部8により、発熱体2が容器内でその長手方向に沿った所定位置に張設されている。
【0029】
図3は実施の形態1の発熱体ユニットにおける発熱体2を示す平面図である。なお、発熱体2において、平面図に示されている面が被加熱物の対向面となる。
【0030】
図3に示すように、実施の形態1における発熱体2の発熱領域には、複数のスリット(第1のスリット2a及び第2のスリット2b)が形成されている。発熱領域における複数のスリットは、発熱体2の長手方向に平行な軸線に対して斜角を有して形成されている。これらのスリットにおける複数の第1のスリット2aは、発熱体2の長手方向に平行な対向する両側の縁部2cに沿って形成されている。複数の第1のスリット2aは、両側の縁部2cから斜めに直線状に延設されており、縁部2cに対して斜角A(図3参照)を有して並設されている。両側の縁部2cから斜めに形成された第1のスリット2aは、発熱体2における長手方向に平行な中心軸に関して対称に配置されている。対向する縁部2cから斜めに形成されている第1のスリット2aにおいて、その対向端部が所定距離(L1)を有して配設されている。上記のように、第1のスリット2aは縁部2cに対して斜角Aを有して形成されており、斜角Aは45度以上〜90度未満が好ましく、特に約60度(55度〜65度)が耐久性を有する好ましい形状となる。
【0031】
図4は発熱体2におけるスリット形状により、発熱体の耐久性を有する形態となることを説明する図である。図4の(a)は実施の形態1の発熱体2と同じ材料により形成された発熱体2Xにおいて、長手方向に平行な軸線に対して直交したスリットSxを両側縁部から延設した形態を示す図である。図4の(b)は実施の形態1の発熱体2と同じ材料により形成された発熱体2Yにおいて、長手方向に平行な軸線に対して斜行したスリットSyを両側縁部から延設した形態を示す図である。
【0032】
図4の(a)に示す発熱体2Xに対してその両側から張力Fが加えられた場合、例えばスリットSxに対して、そのスリットSxの延設方向に直交して力Fがそのまま加えられる。したがって、発熱体2Xに対してその両側から張力Fが加えられたとき、張力FがスリットSxの両側にそのまま加えられて、張力FによりスリットSxが引き裂かれる方向に引っ張られる状態となる。
【0033】
一方、図4の(b)に示す発熱体2Yに対してその両側から張力Fを加えられた場合には、例えばスリットSyに対して、以下のような力が加えられる。スリットSyにおいて、張力Fは、スリットSyの延設方向に直交する方向の力Faと、スリットSyの延設方向の力Fbと、に分解される(F=Fa+Fb)。したがって、発熱体2Yに対して、その両側から張力Fが加えられたとき、スリットSyの両側に対して、スリットSyの延設方向に直交する力Faが加えられる。スリットSyの延設方向に直交して加えられる、引き裂く方向の力Faは、張力Fより小さい力である。このように、長手方向に平行な軸線に対して斜行したスリットSyが形成された発熱体においては、長手方向に平行な軸線に対して直交したスリットSxが形成された発熱体2Xに比較して、張力Fが加えられたとき、張力Fより小さい力(Fa)がスリットSyの両側に加えられることになる。したがって、スリットSyが形成された発熱体2Yは、張力Fに対して強度を持つ耐久性を有する形態となる。
【0034】
実施の形態1の発熱体ユニットには、発熱体2の対向する両側の縁部2cから延設された複数の第1のスリット2aとともに、複数の複数の第2のスリット2bが形成されている。複数の第2のスリット2bにおいても、第1のスリット2aと同様に、発熱体2の長手方向に平行な軸線に対して斜角を有して形成されている。
図3に示すように、複数の第2のスリット2bは、発熱体2の長手方向に直交する幅方向の中央部分に形成され、発熱体2の長手方向に平行な中心軸と交差して並設されている。第2のスリット2bは、山型形状を有しており、その山型形状の頂点2dが発熱体2の長手方向に平行な中心軸上にある。また、山型形状の第2のスリット2bは、発熱体2の長手方向に平行な中心軸に関して対称に形成されている。したがって、山型形状の頂点2dは発熱体2の長手方向の一方の方向(図3における左方向)を向くよう配置されている。第2のスリット2bは、長手方向に沿って並設された複数の第1のスリット2aの間に所定間隔を有して配設されている。第2のスリット2bにおける頂点の角度である頂角Bは、90度以上〜180度未満が好ましく、特に約120度(115度〜125度)が張力を加えたときの湾曲形状が大きくなり好ましい形状となる。
なお、実施の形態1の発熱体ユニットにおける第2のスリット2bの頂点部分(頂点2dを含む部分)の形状は、曲線状に形成されている。
【0035】
上記のように構成された発熱体2は、容器内において電力供給部8により両側から張力が加えられて配設されているため、第2のスリット2bにより形成された山型部分が持ち上がり、発熱体2の長手方向に直交する断面が実質的に山型形状に湾曲した形状となる。このように、発熱体2は第1のスリット2aとともに第2のスリット2bが形成されているため、発熱体2を両側から引っ張られることにより、第2のスリット2bの頂点2dが持ち上がって山型部分が起き上がるとともに、発熱体2が長手方向に多少伸びる形態となる。この発熱体2において、その両側からの張力を無くすことにより元に戻る形態であり、発熱体2は伸縮性を有する構造である。
【0036】
したがって、実施の形態1の発熱体ユニットにおいては、発熱体2を保持するための電力供給部8には発熱体自体の熱伸縮を吸収するための弾性機構、例えばスプリング部材等が不要な構成となる。この結果、実施の形態1の発熱体ユニットは、発熱体2を保持するための電力供給部8の構成を小型化することが可能となり、容器内における発熱体2の発熱領域を大きく設定することが可能となる。
【0037】
図5は、発熱体2の両側に張力を加えたときの状態(張設状態)を示す正面図である。図6の(a)は張設状態における発熱体2の長手方向に直交する断面図であり、図6の(b)は発熱体2に対する張力を解放したときの発熱体2の長手方向に直交する断面図である。
図5及び図6に示すように、張力が加えられた発熱体2の頂点2dは、高さHまで持ち上がり、発熱体2の山型部分が湾曲した断面形状となる。したがって、張力が加えられて容器内に配設された張設状態の発熱体2の実質的な幅は、張力が加えられていないときの平坦な状態の発熱体2の幅に比べて短くなる。図6において、幅Cは張力が加えられた張設時の発熱体2の幅を示し、幅Dは張力が加えられていない平坦な状態のときの発熱体2の幅を示す。したがって、実施の形態1の発熱体ユニットにおいては、断面円形の筒状の容器1に対して湾曲した発熱体2が配設されるため、容器1の直径に比して、張力が加えられていないときの幅が大きな発熱体2を容器内に収納することが可能となる。
【0038】
また、容器内で張設された発熱体2は、長手方向に直交する断面が湾曲形状であるため、発熱体2の発熱領域は曲面形状となる。このため、発熱領域の曲面形状における凸面部分を被加熱物に対向するよう配置することにより、加熱領域を広く設定することが可能となる。反対に、発熱領域の曲面形状における凹面部分を被加熱物に対向するよう配置することにより、加熱領域を狭く設定することが可能となる。
なお、上記のように凸面部分又は凹面部分が被加熱物に対向して配置された場合、その反対の凹面部分又は凸面部分から輻射された熱に対しては、反射膜又は反射板による反射により、被加熱物に対する加熱領域を規制することができる。
【0039】
前述のように、実施の形態1の発熱体ユニットの発熱体2において、対向するそれぞれの縁部2cから斜めに形成された第1のスリット2aの中央側の対向端部は、第1の所定距離(図3においてL1で示す距離)を有しており、発熱体2の中央部分に電流通路を形成している。また、第2のスリット2bの両端部である縁部側端部は、発熱体2の縁部2cからそれぞれ同じ第2の所定距離(図3においてL2で示す距離)を有しており、発熱体2の両側縁部の近傍に電流通路を形成している。
【0040】
実施の形態1の発熱体2においては、第1の所定距離L1は第2の所定距離L2の2倍に設定している。また、第1のスリット2aと第2のスリット2bとの長手方向における間隔(図3においてL3で示す距離)は、第1の所定距離L2と同じ距離である。このようなスリットパターンが形成された発熱体2においては、蛇行した電流径路が形成されており、電流の流れに対して直交する断面積が略同じとなり、抵抗値の計算が容易となり、均一な温度分布を形成することができる。なお、発熱体2の面方向の熱伝導率が、例えば600W/m・K以上の特性を有する材料であれば、第2の所定距離L2が第1の所定距離L1の1/2でなくても均一な温度分布(配熱分布)に大きな影響を与えることはない。好ましくは、第2の所定距離L2を第1の所定距離L1の1/2以上に設定することにより、発熱体ユニットに加わる衝撃に対して発熱体の機械的強度を高めることができる。
【0041】
なお、実施の形態1の発熱体ユニットにおいては、第1のスリット2aと第2のスリット2bが上記のように形成されているが、このようなスリットパターンに本発明は限定されるものではなく、各スリットは少なくとも発熱体2の長手方向に平行な軸線に対して斜角を有して形成されていれば、耐久性を有する電流径路を形成することが可能となり、高効率で高温度に加熱することができる発熱体ユニットを提供することができる。
また、実施の形態1の発熱体ユニットにおいては、スリットパターンが発熱体2の長手方向に平行な中心軸に関して対称である形態について説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではなく、少なくとも発熱体2の長手方向に平行な線に関して対称であればよい。
【0042】
また、発熱体2に形成されるスリット形状は、当該発熱体ユニットが用いられる製品仕様や用途に応じて適宜選択することにより、発熱体2の温度分布(配熱パターン)を所望のパターンとすることが可能である。
【0043】
なお、実施の形態1の発熱体ユニットにおいて、発熱体2の第1のスリット2aと第2のスリット2bの長手方向における間隔L1、L2及びL3を、発熱体2の長手方向の両端部分に近づくほど徐々に広くすることにより、発熱領域における電流径路の抵抗率を徐々に変化させて、発熱領域の温度分布(配熱パターン)を中央部分が高熱となるように変更することが可能となる。勿論、当該発熱体ユニットが用いられる製品仕様や用途に応じて上記間隔L3を変更することにより、所望の配熱パターンを有する熱源とすることが可能である。
【0044】
実施の形態1における発熱体2には、発熱領域から保持具3に保持される保持領域に繋がる領域が放熱機能を有する。この放熱機能を有する領域(放熱領域)には前述のような溝は形成されておらず、広い電流径路が形成されている(図1参照)。このため、この放熱領域おいては、発熱領域から伝導した熱が放熱されて、発熱体2における熱ストレスの低減及び長寿命化が図られている。
【0045】
また、実施の形態1における発熱体2においては、保持具3により保持される保持領域が発熱領域の幅より狭く形成されており、保持具3により保持される保持領域から発熱領域へ繋がる放熱領域の縁形状は、集中荷重が加わって破損しないように曲面で構成されている。
【0046】
上記のように構成された発熱体2において、電流の流れを阻害する複数のスリットを有するスリットパターンが発熱体2に形成されているため、発熱体2の全体形状に規制されずに所望の電流径路を設定することが可能となる。したがって、実施の形態1の発熱体ユニットにおいては、製品仕様及び用途等に応じて所望の発熱分布を設定することが可能であり、多方面の熱源として利用できる。
【0047】
発熱体2に形成されるスリットの形状(貫通した孔又は切り込み)及び寸法により、発熱体2の特性(発熱温度、伸縮性等)が大きく変わるため、その発熱体ユニットが用いられる製品仕様及び用途等に応じて適宜決定される。また、スリットの形成方法によっても発熱体における特性(発熱温度、張設時の形状変化、伸縮性等)が変わるため、スリットの形成方法も製品仕様及び用途等に応じて選択される。
【0048】
実施の形態1の発熱体ユニットにおける発熱体2は、プレス加工により帯状に形成し、レーザー加工により所望のスリット形状を加工した。レーザー加工を行う場合、発熱体2の面方向の熱伝導率が200W/m・K以上となるとCOレーザー(波長10600nm)等の熱加工作用を主体としたレーザー加工を用いた場合には、発熱体2に熱を奪われてしまい、加工できないという問題がある。しかしながら、非熱加工作用を主体とした波長1064から380nmのレーザー加工、例えば、呼称1064nmの短波長レーザー加工を用いることにより所望の形状を精度高く加工することが可能となる。
【0049】
特に、実施の形態1における発熱体2を形成する場合には、呼称532nmの第二高調波レーザー加工を用いることにより、高精度に加工できることを発明者らは確認した。実施の形態1における発熱体2の材料は、フィルムシート素材であり、高分子フィルム又はフィラーを添加した高分子フィルムを高温度、例えば2400℃以上の雰囲気中にて熱処理し、焼成してグラファイト化した耐熱性を有する高配向性のグラファイトフィルムシートを材料としている。そして、発熱体2は、面方向の熱伝導率が600から950W/m・Kの特性を有する材料で形成されている。このような材料から、例えば、厚み(t)が100μm、幅(W)が6.0mm、長さ(L)が300mmの発熱体2を加工する場合、又は前述のように発熱体2にスリット等の複雑な形状に加工する場合には、呼称532nmの第二高調波レーザー加工を用いることが望ましい。
【0050】
なお、好ましいレーザー加工方法は、発熱体2の材料、即ち面方向の熱伝導性及び形状によって、前述の非熱加工作用を主体としたレーザー加工波長(1064から380nm)を持つ加工方法から適宜選択し得ることは言うまでもない。さらに、上記説明した発熱体2を加工するためのレーザー加工方法は後述の他の実施の形態における発熱体ユニットの発熱体の加工においても採用できることは言うまでもない。
【0051】
本発明に係る実施の形態1の発熱体ユニットにおいて用いた発熱体2は、炭素系物質を主成分とし厚み方向において各層が互いに空隙をなすように一部が固着された積層構造で、優れた二次元的等方向性の熱伝導を有しており、熱伝導率が200W/m・K以上を有するフィルムシート状の材料で形成されている。したがって、帯状の発熱体2は温度ムラがなく均一に発熱する熱源となる。
【0052】
発熱体2の材料であるフィルムシート素材は、高分子フィルム又はフィラーを添加した高分子フィルムを高温度、例えば2400℃以上の雰囲気中にて熱処理し、焼成してグラファイト化した耐熱性を有する高配向性のグラファイトフィルムシートであり、面方向の熱伝導率が200W/m・K以上であり、600から950W/m・Kの特性を有する。このように、実施の形態1において用いた発熱体2は、面方向の熱伝導率が600から950W/m・Kという優れた二次元的等方向性の熱伝導を有する。
【0053】
ここで、二次元的等方向性の熱伝導とは、直交するX軸とY軸で設定される面における、あらゆる方向の熱伝導率が略同じであることを示すものである。したがって、本発明において二次元的等方向性とは、例えば炭素繊維が同じ方向に並設して形成された発熱体における炭素繊維方向である1方向(X軸方向)、又は炭素繊維をクロスに編んで形成された発熱体における炭素繊維方向である2方向(X軸方向とY軸方向)だけを指すものではなく、フィルムシート状の発熱体2における面方向において同じ性質を持つことを言う。
【0054】
本発明において用いられる発熱体2の材料であるフィルムシート素材は、積層構造を有し、面方向の層表面が平坦な面、凹凸面或いは波うつ面等の各種の面形状を有しており、対向する各層の間には空隙が形成されている。このフィルムシート素材の積層構造において、各層間に形成される空隙の形成状態のイメージは、複数回(例えば、何十回、何百回)と重ね合わせるように折り曲げてパイ生地を作り、そのパイ生地を焼いて得た、パイの断面形状と類似している。即ち、発熱体2は、炭素系物質を含む材料により形成された複数の膜体が積層されて、積層方向が一部固着された層間構造を有しており、厚み方向に柔軟性を有するフィルムシート素材である。したがって、本発明における発熱体2の材料であるフィルムシート素材は、前述のように、面方向の熱伝導率が同じである優れた二次元的等方向性の熱伝導性を有する材料である。
【0055】
前述のように製造されたフィルムシート素材として用いられる高分子フィルムとしては、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリピロメリットイミド(ピロメリットイミド)、ポリフェニレンイソフタルアミド(フェニレンイソフタルアミド)、ポリフェニレンベンゾイミタゾール(フェニレンベンゾイミタゾール)、ポリフェニレンベンゾビスイミタゾール(フェニレンベンゾビスイミタゾール)、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレンのうちから選ばれた少なくとも一種類の高分子フィルムを挙げることができる。また、高分子フィルムに添加されるフィラーとしては、リン酸エステル系、リン酸カルシウム系、ポリエステル系、エポキシ系、ステアリン酸系、トリメリット酸系、酸化金属系、有機錫系、鉛系、アゾ系、ニトロソ系およびスルホニルヒドラジド系の各化合物を挙げることができる。より具体的には、リン酸エステル系化合物として、リン酸トリクレジル、リン酸(トリスイソプロピルフェニル)、トリブチルホスフェ−ト、トリエチルホスフェ−ト、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリスブトキシエチルフォスフェート等を挙げることができる。リン酸カルシウム系化合物としては、リン酸二水素カルシウム、リン水素カルシウム、リン酸三カルシウム、等を挙げることができる。また、ポリエステル系化合物としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸などと、グリコール、グリセリン類との反応により得られるポリマー等を挙げることができる。また、ステアリン酸系化合物としては、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、クエン酸アセチルトリブチル等を挙げることができる。酸化金属系化合物としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉛等を挙げることができる。トリメリット酸系化合物としては、ジブチルフマレート、ジエチルフタレート等を挙げることができる。鉛系化合物としては、ステアリン酸鉛、ケイ酸鉛等を挙げることができる。アゾ系化合物としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等を挙げることができる。ニトロソ系化合物としては、ニトロソペンタメチレンテトラミン等を挙げることができる。スルホニルヒドラジド系化合物としては、p−トルエンスルホニルヒドラジド等を挙げることができる。
【0056】
前記フィルムシート素材を積層し、不活性ガス中において2400℃以上で処理し、グラファイト化の過程で発生するガス処理雰囲気の圧力を調整することにより制御してフィルムシート状の発熱体が製造される。更に、必要に応じて、前記のように製造されたフィルムシート状の発熱体を圧延処理することにより、さらに良質のフィルムシート状の発熱体を得ることができる。このように製造されたフィルムシート状の発熱体を本発明の発熱体ユニットにおける発熱体2として用いる。
【0057】
なお、前記フィラーの添加量は、0.2〜20.0重量%の範囲が適当であり、より好ましくは1.0〜10.0重量%の範囲である。その最適添加量は、高分子の厚さによって異なり、高分子の厚さが薄い場合には添加量が多い方がよく、厚い場合には添加量は少なくてよい。フィラーの役割は熱処理後のフィルムを均一発泡の状態にすることにある。即ち、添加されたフィラーは、加熱中にガスを発生し、このガスの発生した後の空洞が通り道となってフィルム内部からの分解ガスの穏やかな通過を助けるものである。フィラーはこのように均一発泡状態を作り出すのに役立つ。
【0058】
上記のように製造されたフィルムシート素材は、レーザー加工等により所望の形状に加工されるが、その他の方法により加工することも可能である。例えば、トムソン型若しくはピナクル型の抜き型、又はロータリーダイカッタ等の鋭利な刃物等により所望の形状に加工される。
【0059】
以上のように、実施の形態1の発熱体ユニットは、耐久性を有する熱源であると共に、被加熱体を均一若しくは所望の配熱分布で加熱することが可能であり、且つ高効率で高温度に加熱することができる。また、実施の形態1の発熱体ユニットは、早い立ち上がりを有して、加熱領域を所望の範囲とすることができ、熱源を細く小型化することができる。
【0060】
(実施の形態2)
以下、本発明に係る実施の形態2の発熱体ユニットについて図7を用いて説明する。実施の形態2の発熱体ユニットにおいて、前述の実施の形態1の発熱体ユニットと異なる点は、発熱体のスリットパターンにおけるスリット形状であり、その他の構成は前述の実施の形態1の発熱体ユニットの構成と同じである。このため、実施の形態2の発熱体ユニットの説明においては、発熱体のスリットパターンについて説明し、実施の形態1の発熱体ユニットと同じ機能、構成を有するものには同じ符号を付して、その説明は実施の形態1の説明を適用する。
【0061】
図7は、実施の形態2の発熱体ユニットにおける発熱体12の発熱領域の一部を示す平面図である。なお、図7に示す発熱体12において、平面図に示されている面が被加熱物の対向面となる。
【0062】
図7に示すように、実施の形態2における発熱体12の発熱領域には、複数の円弧状のスリット(第1の円弧スリット12a及び第2の円弧スリット12b)が形成されている。複数の第1の円弧スリット12aは、発熱体2の長手方向に平行な対向する両側の縁部12cに沿って所定距離を有して形成されている。複数の第1の円弧スリット12aは、両側の縁部12cから円弧状に延設されており、当該円弧の中心点が発熱体12の長手方向に平行な中心軸上に配置されている。両側の縁部12cから対向して形成された第1の円弧スリット12aは、その対向端部が第1の所定距離L1を有して配設されている。したがって、両側の縁部12cから対向して形成された第1の円弧スリット12aは、同一円上に形成されている。両側の縁部12cに沿って形成された複数の第1の円弧スリット12aは、発熱体2における長手方向に平行な中心軸に関して対称に配置されている。
【0063】
一方、複数の第2の円弧スリット12bは、発熱体12の幅方向の中央部分において長手方向に平行な中心軸と交差しており、その中心軸に沿って一定間隔を有して並設されている。また、円弧形状の第2のスリット12bは、発熱体2の長手方向に平行な中心軸に関して対称に形成されている。したがって、第2のスリット12bにより形成されるお椀型形状の頂点12dは、発熱体12の長手方向の一方の方向を向くように配置されている。第2の円弧スリット12bは、長手方向に沿って並設された複数の第1の円弧スリット12aの間に所定間隔を有して配設されている。複数の第2の円弧スリット12bは、実質的に同じ円弧形状を有しており、当該円弧の中心点が発熱体12の長手方向に平行な中心軸上に配置される。
【0064】
上記のように、実施の形態2の発熱体ユニットの発熱体12において、対向する縁部12cに沿って形成された第1の円弧スリット12aの中央側の対向端部は、第1の所定距離L1を有して、発熱体12の中央部分に電流通路を形成している。また、第2の円弧スリット12bの両端部である縁部側の端部は、発熱体12の縁部12cからそれぞれ同じ第2の所定距離L2を有しており、発熱体12の両側縁部の近傍に電流通路を形成している。
実施の形態2の発熱体ユニットの発熱体12においても、実施の形態1における発熱体2と同様に、第1の円弧スリット12a及び第2の円弧スリット12bが発熱体12の縁部12cに対して(張力方向に対して)実質的に斜めに形成されている。このため、実施の形態2の発熱体ユニットにおける発熱体12は、張力に対する強度を有して耐久性のある構成となっている。
【0065】
実施の形態2の発熱体12において、第1の所定距離L1は第2の所定距離L2の2倍に設定している。また、第1の円弧スリット12aと第2の円弧スリット12bとの長手方向における間隔L3は、第1の所定距離L2と同じ距離である。このようなスリットパターンが形成された発熱体12においては、蛇行した電流径路が形成されており、電流の流れに対して直交する断面積が略同じとなり、抵抗値の計算が容易となり、均一した温度分布を形成することができる。なお、発熱体12の面方向の熱伝導率が、例えば600W/m・K以上の特性を有する材料であれば、第2の所定距離L2が第1の所定距離L1の1/2でなくても均一な温度分布(配熱分布)に大きな影響を与えることはない。好ましくは、第2の所定距離L2を第1の所定距離L1の1/2より大きく設定することにより、発熱体ユニットに加わる衝撃に対する発熱体12の機械的強度を高めることができる。
【0066】
上記のように構成された発熱体12は、容器内で発熱体12の両端を保持して電力を供給する電力供給部8により両側から張力が加えられている。このため、第2の円弧スリット12bにより形成されたお椀形状の頂点12dが持ち上がり、長手方向に直交する断面が実質的にお椀形状に湾曲した形状となる。
したがって、実施の形態2の発熱体ユニットにおいては、実施の形態1の発熱体ユニットと同様に、断面円形の筒状の容器1に対して湾曲した発熱体12が配設されるため、容器1の直径に比して、張力が加えられていないときの幅が大きな発熱体12を容器内に収納することが可能となる。
【0067】
また、容器内の発熱体12は長手方向に直交する断面が湾曲形状であるため、発熱体12の発熱領域が曲面形状となる。このため、発熱領域の曲面形状における凸面部分を被加熱物に対向するよう配置することにより、加熱領域を広く設定することが可能となる。反対に、発熱領域の曲面形状における凹面部分を被加熱物に対向するよう配置することにより、加熱領域を狭く設定することが可能となる。
なお、上記のように凸面部分又は凹面部分が被加熱物に対向して配置された場合、その反対の凹面部分又は凸面部分から輻射された熱に対しては、反射膜又は反射板による反射により、被加熱物に対する加熱領域を規制することができる。
【0068】
また、発熱体12に形成される円弧スリットの円弧形状及び配置は、当該発熱体ユニットが用いられる製品仕様や用途に応じて適宜選択することにより、発熱体12の温度分布(配熱パターン)を所望のパターンとすることが可能である。
【0069】
上記のように構成された実施の形態2の発熱体ユニットの発熱体12において、電流の流れを阻害する複数の円弧スリットを有するスリットパターンが発熱体12に形成されているため、発熱体12の全体形状に規制されずに所望の電流径路を設定することが可能となる。したがって、実施の形態2の発熱体ユニットにおいては、製品仕様及び用途に応じて所望の発熱分布を設定することが可能であり、多方面の熱源として利用できる。
【0070】
以上のように、実施の形態2の発熱体ユニットは、耐久性を有する熱源であると共に、被加熱体を均一若しくは所望の配熱分布で加熱することが可能であり、且つ高効率で高温度に加熱することができる。また、実施の形態2の発熱体ユニットは、早い立ち上がりを持ち、加熱領域を所望の範囲とすることができる熱源を細く小型化することができる。
【0071】
(実施の形態3)
以下、本発明に係る実施の形態3の発熱体ユニットについて図8を用いて説明する。実施の形態3の発熱体ユニットにおいて、前述の実施の形態1の発熱体ユニットと異なる点は、発熱体のスリットパターンの構成であり、その他の構成は前述の実施の形態1の発熱体ユニットの構成と同じである。このため、実施の形態3の発熱体ユニットの説明においては、発熱体のスリットパターンの構成について説明し、実施の形態1の発熱体ユニットと同じ機能、構成を有するものには同じ符号を付して、その説明は実施の形態1の説明を適用する。
【0072】
図8の(a)は、実施の形態3の発熱体ユニットにおける発熱体13の発熱領域の一部を示す平面図である。なお、図8に示す発熱体13において、平面図に示されている面が被加熱物の対向面である。
【0073】
図8の(a)に示すように、実施の形態3における発熱体13の発熱領域には、複数のスリット(第1のスリット13a及び第2のスリット13b)が形成されている。複数の第1のスリット13aは、発熱体13の長手方向に平行な対向する両側の縁部13cに沿って形成されている。複数の第1のスリット13aは、両側の縁部13cから斜めに直線状に形成されており、縁部13cに対して斜角Eを有して並設されている。両側の縁部13cから斜めに形成された第1のスリット13aは、発熱体13における長手方向に平行な中心軸に関して対称に配置されている。対向する縁部13cから斜めに形成されている第1のスリット13aにおいて、その対向端部は所定距離有して配設されている。図8の(a)に示すように、第1のスリット13aは縁部13cに対して斜角Eを有しており、この斜角Eは30度〜90度未満が好ましく、特に斜角Eが約30度(25度〜35度)のときが耐久性を有し、且つ電流径路を長く形成できる好ましい形状となる。
【0074】
一方、複数の第2のスリット13bは、発熱体13の幅方向の中央部分において長手方向に平行な中心軸と交差して並設されている。発熱体13において、第2のスリット13bにより、頂点13dが鋭角である山型部分が形成されており、山型部分の頂点13dが発熱体13の長手方向の一方(図8の(a)における左方向)を向くように配置されている。第2のスリット13bは、長手方向に沿って並設された複数の第1のスリット13aの間に所定間隔を有して配設されている。図8の(a)に示すように、第2のスリット13bにより形成された山型部分の頂点13dは頂角Fを有しており、頂角Fは60度〜180度未満が好ましく、特に頂角Fが約60度(55度〜65度)のときが張力を加えたとき好ましい湾曲形状となり、且つ電流径路を長く形成できる好ましい形状となる。
【0075】
図8の(b)は、比較例としての発熱体14を記載したものであり、発熱体14に形成されたスリットパターンは発熱体14の長手方向と平行な軸線に直交するスリットにより構成されている。図8の(b)に示す発熱体14においては、複数の第1のスリット14aが、両側の縁部14cから長手方向に直交して直線状に延設されている。一方、複数の第2のスリット14bは、発熱体14の長手方向に直交する幅方向の中央部分において長手方向に平行な中心軸と交差している。また、第2のスリット14bは、長手方向に沿って並設された複数の第1のスリット14aの間に配設されている。このようにスリットパターンが形成された発熱体14に対して、その両端から張力を加えても、第1のスリット14a及び第2のスリット14bの孔が広がって伸びるだけであり、湾曲することはない。また、図8の(b)に示した発熱体14は、前述の図4を用いて説明したように両側に引っ張られる張力に対して強度が弱く、破壊されるおそれがある。
【0076】
一方、図8の(a)に示す発熱体13においては、スリットパターンが長手方向に平行な軸線に対して斜角を有するスリットにより構成されているため、電流通路を細く長く形成することができるとともに、容器内に張設されたとき山型部分の頂点13dが持ち上がり湾曲すると共に、伸縮可能な形態となる。また、図8の(a)に示した発熱体13は、両側から引っ張られる張力に対する強度が強く、耐久性を有すると共に組み立て作業が容易なものとなり、信頼性の高い熱源となる。
【0077】
上記のように構成された実施の形態3の発熱体ユニットにおける発熱体13においては、電流の流れを阻害する複数のスリットを有するスリットパターンが形成されているため、発熱体13の全体形状に規制されずに所望の電流径路を設定することが可能となる。したがって、実施の形態3の発熱体ユニットにおいては、製品仕様及び用途に応じて所望の発熱分布を設定することが可能であり、多方面の熱源として利用できる。
【0078】
以上、本発明に係る実施の形態1から実施の形態3において各種スリットについて説明したが、本発明における斜角とは発熱体の長手方向に平行な両縁側に対し平行或いは直角でない全ての角度を指しており、直線に限定されるものではない。例えば、実施の形態1においては、図3に示すように発熱体2の両側の縁部2cに対して直線状のスリット2aが斜角Aで形成されている。また、実施の形態2においては、図7に示すように発熱体12の両側の縁部12cに対して円弧状のスリット12aが形成されており、この場合の斜角とは縁部12cに対する円弧状のスリット12aの接線との間の角度を斜角とする。実施の形態3においては、図8に示すように、発熱体13の両側の縁部13cに対して直線状のスリット13aが斜角Eで形成されている。このように、本発明における斜角とは、発熱体2,12,13の長手方向に平行な両縁側に対して平行或いは直角でない全てを指しており、直線の組み合わせ或いは直線と曲線の組み合わせであっても本発明の効果を奏することは言うまでもない。
なお、上記各実施の形態においては、発熱体がその長手方向に引っ張られることを前提として、スリットが発熱体の長手方向に延びる縁部に対して斜めになっているとして説明したが、スリットは張力の方向に対して斜めになっていれば、発熱体の耐久性が確保される構成となることは言うまでもない。
【0079】
(実施の形態4)
本発明に係る実施の形態4の加熱装置ついて図9を用いて以下に説明する。
図9は、前述の実施の形態1から実施の形態3において説明した発熱体ユニットを装備した加熱装置の一例を示す斜視図である。
【0080】
図9に示した加熱装置は、本発明の加熱装置の一例として暖房用の加熱機器21を示している。この加熱機器21の内部には、実施の形態1から実施の形態3で説明した本発明の発熱体ユニットが装備されている。なお、実施の形態4においては発熱体ユニットに符号22を付して説明する。実施の形態4の加熱機器21には、温度コントローラー23、反射板24、保護用のカバー25等の一般的な暖房用の加熱機器に用いられる構成部材が設けられている。
【0081】
このように構成された加熱機器21において、発熱体ユニット22に定格の電圧を印加することにより、所定の電流が発熱体ユニット22内の発熱体2に流れて発熱し、早い立ち上がりで温度が上昇する。実施の形態4の加熱機器21は、温度コントローラー23による温度制御により、ユーザが望む所定の温度に確実に保持される。また、発熱体ユニット22には、平面を有する帯状の発熱体2が熱源として用いられている。このため、その平面から輻射される熱は指向性を有している。実施の形態4の加熱機器21においては、発熱体ユニット22の発熱体2の平面部分が正面側と背面側に向くよう配設されている。このため、発熱体2の正面側から輻射された熱は、加熱機器21の正面側にある被加熱領域を加熱し、発熱体2の背面側から輻射された熱は反射板24により反射されて被加熱領域を加熱する。なお、発熱体2はフィルムシート素材で帯状に形成されているため、発熱体2の側面側から輻射される熱量は非常に少なく、正面側(背面側)から輻射される熱量に比べて無視できる程小さいものである。このため、実施の形態4の加熱機器21においては、高い指向性を有して、被加熱領域を効率高く加熱することができる。
【0082】
本発明の加熱装置に装備された発熱体ユニット22は、前述の実施の形態1から実施の形態3において説明した発熱体2を有しており、この発熱体2は、面方向の熱伝導率が略同じである優れた二次元的等方向性の熱伝導を有するフィルムシート素材で形成されており、熱容量が小さいため立ち上がりが早く、且つ突入電流が少ない特性を有している。このため、本発明の発熱体ユニットを熱源として装備した加熱機器は、素早く加熱することが可能となる優れた応答性を有し、所定の領域を効率が高く加熱することができる優れた特徴を有する暖房機器となる。
【0083】
なお、本発明の発熱体ユニットは、暖房機器以外でも多種多様な電子/電気機器の熱源として用いることができ、例えば高温度の発熱体を装備している複写機、ファクシミリ、プリンタ等のOA機器、及び調理機器、乾燥機、加湿器等の電気機器等の熱源を必要とする各種機器に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、安全性及び信頼性が高く、且つ効率の高い熱源となる発熱体ユニット及び加熱装置を提供することができるため、熱源を必要とする電子/電気機器分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る実施の形態1の発熱体ユニットの構造を示す平面図
【図2】図1に示した発熱体ユニットの正面図
【図3】実施の形態1の発熱体ユニットにおける発熱体を示す平面図
【図4】実施の形態1における発熱体2のスリット形状により、発熱体の耐久性を有する形態となることを説明する図
【図5】実施の形態1の発熱体ユニットにおける発熱体の正面図
【図6】実施の形態1の発熱体ユニットにおける発熱体が張力を加えられたときの断面図
【図7】本発明に係る実施の形態2の発熱体ユニットにおける発熱体を示す平面図
【図8】(a)本発明に係る実施の形態3の発熱体ユニットにおける発熱体を示す平面図(b)比較例としての発熱体を示す平面図
【図9】本発明に係る実施の形態4の加熱装置の一例を示す斜視図
【符号の説明】
【0086】
1 容器
2,12,13 発熱体
2a,12a,13a 第1のスリット
2b,12b,13b 第2のスリット
2c,12c,13c 縁部
2d,12d,13d 頂点
3 保持具
4 位置規制部
5 内部リード線部
6 モリブデン箔
7 外部リード線部
8 電力供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系物質を含む材料によりフィルムシートで形成され、2次元的等方向性の熱伝導を有する帯状の発熱体と、
前記発熱体における長手方向の両端に電力を供給する電力供給部と、
前記発熱体と前記電力供給部の一部を内包する容器と、を具備する発熱体ユニットであって、
前記発熱体の長手方向に平行な軸線に対して斜角を有して形成された複数のスリットを有する発熱体ユニット。
【請求項2】
前記発熱体の複数のスリットは、当該発熱体の長手方向に沿って対向する両側縁部から平行に延設された複数の第1のスリットを含む請求項1に記載の発熱体ユニット。
【請求項3】
前記発熱体の複数のスリットは、前記複数の第1のスリットを含むとともに、前記複数の第1のスリットの間で当該第1のスリットと平行に所定間隔を有して配置された複数の第2のスリットを含み、
前記複数の第2のスリットは、前記発熱体の長手方向に直交する幅方向の中央部分に形成され、当該第2のスリットの両端から前記発熱体の長手方向に沿って対向する両側縁部までの縁部分に電流通路を形成し、前記発熱体の長手方向に伸長可能な形状である請求項2に記載の発熱体ユニット。
【請求項4】
前記発熱体における第1のスリット及び第2のスリットが、貫通した孔又は切り込みにより形成された請求項3に記載の発熱体ユニット。
【請求項5】
前記発熱体が前記電力供給部により前記容器の内部に張設されることにより、当該発熱体の長手方向に対して伸長して、前記発熱体の長手方向に直交する幅方向の断面が湾曲形状となる請求項3又は4に記載の発熱体ユニット。
【請求項6】
前記容器の長手方向に直交する断面が円形状であり、前記電力供給部材により張設されていない状態の前記発熱体が、前記容器の内径より長い長手方向に直交する幅方向の寸法を有する請求項5に記載の発熱体ユニット。
【請求項7】
前記発熱体は、炭素系物質を含む材料により形成された層間構造を有する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の発熱体ユニット。
【請求項8】
前記容器が、耐熱性を有するガラス管又はセラミックス管により構成され前記電力供給部において封止し、容器内部に不活性ガスを充填した請求項1乃至7のいずれか一項に記載の発熱体ユニット。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の発熱体ユニットを熱源として装備した加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−272223(P2009−272223A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123401(P2008−123401)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】