説明

発色構造及び発色構造を用いた製品

【課題】より広い角度で所望の色光を観測することが可能な発色構造を提供することを目的とする。
【解決手段】表面に形成された、光が反射する頂面26と、頂面26と平行であって、表面に形成された底面25とを備え、底面25は、頂面26に対して垂直な方向における位置が、底面25とずれており、頂面26によって反射された光と、底面25によって反射された光が重なることによって、ずれの量に対応する波長が強められ、頂面26と底面25は、隣接しており、交互に配置されている、発色構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色構造及びそれを用いた製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、材料自体によって特定波長の光が吸収されることによらず、材料やその構造に起因して発生する色光によって、その色が呈され、またその色が変化する現象がある。これは光の波長によってその光自体の性質が異なることによるものである。このように構造に起因して色光が発生する場合は、色素のように分子や固体そのものの電子的な性質により発色する場合とは異なり、それ自体には色が無く、構造体による光の反射や干渉、回折などの作用で発色するため、構造性発色と呼ばれる。
【0003】
通常、構造性発色の発現に関わる光学現象としては、多層膜干渉、薄膜干渉、屈折、分散、光散乱、Mie散乱、回折、及び回折格子、等があり、真空蒸着やスパッタリング等の真空成膜技術で形成された膜厚1μm以下の光学薄膜が利用されることが多い。このような構造性発色は、紫外線による経時変化が少なく、また光沢の出やすい等の利点を有することにより、外装部品への塗装方法や着色手段として期待されている。
【0004】
また、装飾効果を与える外装部品の成形方法としては、しぼ加工や、成形後に2次加工が施される方法や、金型面に化粧線や文字を彫り込んで成形面で浮き上がらせる方法が知られている。特に成形品の着色については、多色成形のような特殊成形によって着色する場合もあるが、一定の色を有する成形品に印刷や貼り付け、塗装を、行うことが一般的である。
【0005】
しかし、これらの方法による着色では、印刷や貼り付け、塗装といった工程の分だけ製造コストが増加し、特に塗装工程では多くの二酸化炭素が排出される。また、各種の顔料や染料あるいは有機溶剤を用いるため、廃液処理のような後始末も必要となり、作業面および環境面において問題が大きくなってきている。これらの問題を解決するためにも、顔料や染料などの色素を使用せず、光の干渉や回折などの物理現象を用いた上記構造性発色による発色手段が提案されてきており、例えば、微小な凹凸面を有する転写シートがあげられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
図8は、特許文献1において記載されている、従来の構造性発色を利用した転写シートの構成図である。
【0007】
図8に示す転写シートでは、支持体1001に、Tg.250℃のポリアミドイミド樹脂を主成分とする耐熱保護層1002および、ウレタン樹脂を主成分とする回折構造形成層1003が塗布される。次に、ロールエンボス法により、微小凹凸パターンによって構成される回折格子が回折構造形成層1003の表面に形成される。そして、金属反射性の回折効果層1004を形成するとともに耐熱マスク層1005がパターン印刷される。さらにこれをNaOH溶液が入った浴槽に浸して上記耐熱マスク層1005の不存在部から露出した部分の回折効果層1004をエッチングした後、接着層1006を形成して転写シートが製造される。
【0008】
この場合には、被転写体に回折格子を構成する微小凹凸パターンが形成され、構造色を有する色光を発生させることができるため、意匠性に富む転写シートおよびその製造方法を提供することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−7624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1で行われるような、回折格子を構成する微小凹凸パターンを被転写体に形成し、色光を発生させる方法では、狭い方向にしか色光を発生させられないという問題があった。
【0011】
すなわち、回折格子による回折光を用いて色光を発生させる場合、所望の構造色を有する色光を発生させることが出来る角度が非常に狭く、この角度を外れると、所望の構造色を有する色光を観測することが出来なくなる。また、回折角度は波長によって異なるため、観測角度によって異なる波長の色光が観測され、結果的に虹色(レインボーカラー)の色光が観測されることになる。
【0012】
このように非常に狭い角度でしか所望の色光を観測することが出来ないと、この発色構造を、内部に物体を有する製品の外装部品に用いる場合、ユーザーにとって、製品を使用する際に製品を観測する角度のうちの、非常に狭い一部の角度からしか所望の構造色を有する色光を観測することができないということになる。このため、意匠性に富んだ外装部品を実現する上で問題となる。
【0013】
また、顔料や染料などの色素を用いた、材料自体によって特定波長の光が吸収されることによる発色手段に代替するためには、より広い角度範囲に対して単色(同一波長域)の色光を発生させることが必要になる。
【0014】
本発明は、上記従来の発色構造の課題を考慮し、より広い角度で所望の色光を観測することが可能な発色構造及び発色構造を用いた製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための、第1の本発明は、
表面に形成された、光が反射する第1反射面部と、
前記第1反射面部と平行であって、前記表面に形成された第2反射面部とを備え、
前記第2反射面部は、前記第1反射面部に対して垂直な方向における位置が、前記第1反射面部とずれており、
前記第1反射面部によって反射された光と、前記第2反射面部によって反射された光が重なることによって、前記ずれの量に対応する波長が強められる、発色構造である。
【0016】
又、第2の本発明は、
前記第1反射面部と前記第2反射面部は、交互に配置されている、第1の本発明の発色構造である。
【0017】
又、第3の本発明は、
前記第1反射面部と前記第2反射面部は、隣接している、第1又は2の本発明の発色構造である。
【0018】
又、第4の本発明は、
平面と、
前記平面に形成された複数の凹部とを備え、
前記凹部は、前記平面において規則的に配列されており、
前記凹部の底面が、前記第2反射面部であり、
前記平面のうち、前記凹部の間に形成される凸部の頂面が、前記第1反射面部である、第1の本発明の発色構造である。
【0019】
又、第5の本発明は、
前記凹部の底面で反射した光と、その凹部に隣接する前記凸部の頂面で反射した光が重なることによって、前記凹部の深さに対応する波長が強められる、第4の本発明の発色構造である。
【0020】
又、第6の本発明は、
前記底面には、反射膜が形成されている、第4の本発明の発色構造である。
【0021】
又、第7の本発明は、
前記複数の凹部は、格子状に配列されている、第4の本発明の発色構造である。
【0022】
又、第8の本発明は、
前記凹部は、前記平面に形成された矩形状の開口部を有しており、
複数の前記矩形状の開口部は、横方向及び縦方向に平行に配置されている、第4の本発明の発色構造である。
【0023】
又、第9の本発明は、
前記凹部の深さが、第1の所定の深さである複数の前記凹部が隣り合って配置された第1の構造色領域と、
前記凹部の深さが、第2の所定の深さである複数の前記凹部が隣り合って配置された第2の構造色領域とを備え、
前記第1の構造色領域の前記第1の反射面部及び前記第2の反射面部によって強められる第1の波長と、前記第2の構造色領域の前記第1の反射面部及び前記第2の反射面部によって強められる第2の波長は異なっている、第4〜8のいずれかの本発明の発色構造である。
【0024】
又、第10の本発明は、
前記凹部の深さが、第3の所定の深さである複数の前記凹部が隣り合って配置された第3の構造色領域を更に備え、
前記第1の波長は、青色発色する波長であり、
前記第2の波長は、緑色発色する波長であり、
前記第3の構造色領域の前記第1の反射面部及び前記第2の反射面部によって強められる第3の波長は、赤色発色する波長である、第9の本発明の発色構造である。
【0025】
又、第11の本発明は、
前記第1反射面部と前記第2反射面部は、300nm以下の周期で交互に配置されている、第4〜10のいずれかの本発明の発色構造である。
【0026】
又、第12の本発明は、
前記第1の反射面部の幅に対する前記第2反射面部の幅の比率は、0.3以上、0.7以下である、第4〜11のいずれかの本発明の発色構造である。
【0027】
又、第13の本発明は、
強められる前記波長と、前記凹部の深さは、(数1)を満たす、第4〜12のいずれかの本発明の発色構造である。
【0028】
(数1)(前記凹部の深さ)=0.75×(強められる波長)―200nm
又、第14の本発明は、
前記矩形状の開口部の4角には、アールが形成されている、第8の本発明の発色構造である。
【0029】
又、第15の本発明は、
前記凸部の頂面と前記凹部の側面に形成される角には、アールが形成されている、第4の本発明の発色構造である。
【0030】
又、第16の本発明は、
前記凸部の頂面、及び複数の前記凹部の側面及び前記底面には反射膜が形成されており、
前記側壁に形成された前記反射膜の厚みは、前記頂面及び前記底面に形成された前記反射膜の厚みの半分以下である、第4の本発明の発色構造である。
【0031】
又、第17の本発明は、
第1〜16のいずれかの本発明の発色構造を備えた、製品である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、より広い角度で所望の色光を観測することが可能な発色構造及び発色構造を用いた製品を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る発色構造による構造性発色を説明するための断面構成図
【図2】(a)本発明に係る実施の形態1における発色構造を有する外装部品の部分平面図、(b)図2(a)のZZ´間断面図
【図3】(a)、(b)、(c)本発明に係る実施の形態1の変形例の発色構造を有する外装部品の部分平面図
【図4】(a)、(b)本発明に係る実施の形態1の変形例の発色構造を有する外装部品の部分平面図
【図5】本発明に係る実施の形態2における発色構造を有する外装部品の部分断面構成図
【図6】(a)〜(c)本発明に係る実施の形態2における発色構造を有する外装部品の製造工程を説明するための図
【図7】本発明に係る実施の形態3における発色構造を有する外装部品の部分斜視図
【図8】従来例における構造性発色を利用した転写シートの構成図を示す図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0035】
はじめに、本発明の発色構造による構造性発色の原理について説明する。
【0036】
図1は、本発明にかかる発色構造10を有する構造発色部1の断面構成図である。この本発明にかかる発色構造10では、回折光ではなく反射光を特定の波長域に制限することにより、目的とする色光を発生させる。
【0037】
ここで構造発色部1は、平面2に形成された矩形状の複数の凹部3によって形成され、この凹凸構造の表面反射により発色する。凹部3の間に形成される凸部6の頂面4(凹部3の間の平面2の部分)で反射した光12と、凹部3の底面5で反射した光13との間の光路差15(図中太線部分)であるΔが、所定の波長の整数倍程度になった場合には所定の波長の反射光が強く、逆に半波長分ずれれば所定の波長の反射光が弱くなる。この頂面4が、本発明の第1反射面部の一例に相当し、底面5が本発明の第2反射面部の一例に相当する。又、本発明の表面の一例は、平面2、底面5、及び凹部3の側面7を含む構造発色部の平面2側の面に相当する。
【0038】
また、図1に示すように、光路差15であるΔは、凹部3の深さ14であるdの約2倍程度になる。このため、凹部3の深さ14の長さdを大きくすると、強められる反射光の波長が長波長側にシフトする。このように凹部3の深さ14を変化させることによって、強められる反射光の波長の色のコントロールが可能であり、所望の波長を発色することが出来る。
【0039】
なお、実際には反射光と回折光の両方が観測されるが、反射光は角度による色変化が緩やかであるのに対して、回折角度は波長によって異なる。これは、回折光の場合には、角度が変化すると光路差が大きく変化し、反射光の場合には、角度が変化しても光路差が大きくは変化しないためと考えられる。このため、回折光は角度による色変化が急峻であり、観測角度によって異なる波長の色光が観測され、結果的に虹色(レインボーカラー)の色光が観測されることになる。
【0040】
したがって、広い角度範囲に対して単色(同一波長域)の色光を発生させるためには、反射光を強く、回折光を弱くする必要がある。反射光を強くするためには、後で述べるように反射膜を付加する等の手段を取ることになるが、回折光を弱くするためには構造周期を小さくする必要がある。これは、構造が短ピッチであるほど、回折角度が大きくなるため、回折光の出射角度を低くして反射光のみが観測されるようにすることができるためである。下記に述べるように、実施の形態1では、製作難易度を考慮しピッチは300nmに設定されている。
【0041】
このように、構造色を発生させるために、回折光ではなく反射光を積極的に用いることにより、出射角度に対する色の変化が緩やかになり、広い角度範囲に対して単色(同一波長域)の色光を発生させることができ、また、構造深さによって色(色光の波長域)を制御することができる。
【0042】
(実施の形態1)
以下に、本発明にかかる実施の形態1における発色構造20について図面を参照しながら説明する。
【0043】
図2(a)は、本発明に係る実施の形態1の発色構造20が形成された外装部品の部分平面図である。また、図2(b)は、図2(a)のZZ´間断面図である。
【0044】
図2(a)、(b)に示すように、本実施の形態1の発色構造20は、平面21に設けられた複数の凹部22から形成されている。この複数の凹部22は、平面21に形成された正方形状の開口部23と、開口部23の縁から平面2に対して垂直に形成された側面24と、平面2と平行に形成された底面25とを有している。
【0045】
又、複数の凹部22は、縦方向(図2(b)中Y方向)及び横方向(図2(b)中X方向)に同一間隔で配置されている。X方向とY方向によって形成される角度は、90度である。横方向の配列においては、各々の凹部22は、それぞれの開口部23の上下の辺が同一直線上にあり、それぞれの左右の辺が平行になるように配置されている。縦方向の配列においては、各々の凹部22は、その開口部23の上下の辺が平行になり、左右の辺が同一直線上になるように配置されている。
【0046】
すなわち、外装部品の表面に、上方から見て正方形状の開口部23が、面内X方向とY方向に同じ周期でそれぞれ直線上に配列され、縦及び横方向に配列された複数の開口部23は、上下左右に対称であって、頂面26のそれぞれの交差部分Aの周りに配置された4つの開口部23は、Aの中央を基準にして4回対称になるように配置されている。このように、凹部22の中心間隔を1辺の長さとする正方形の頂点に凹部22を配列する方法を、以下、正方配列という。
【0047】
又、図2(a)に示すように、開口部23の角204にはアールが形成されている。また、図2(b)に示すように、凹部22の間には、凸部27が形成されており、平面2の凹部22の間の部分は、凸部27の頂面26となる。そして、この頂面26と、凹部22の側面24の間に形成される角205にもアールが形成されている。
【0048】
なお、本発明の第1反射面部の一例は、本実施の形態の頂面26に相当し、本発明の第2反射面部の一例は、本実施の形態の底面25に相当する。又、本発明のずれの量は、本実施の形態の凹部22の深さ206であるdに相当する。
【0049】
以下に、本実施の形態の発色構造の具体的な寸法について説明する。
【0050】
光学解析シミュレーションの結果では、上記正方形状の開口部23の内側底面25の一辺202の長さと、平面21内X方向とY方向に同じ周期で配列されている上記開口部23の間にある頂面26の幅203との比率(デューティー比)が、大きくなると青色純度は向上するが輝度が低下する。そのため、トレードオフで平面2内において、X方向とY方向ともに、その比率が2/3に設定されている。
【0051】
具体的には、凹ドットパターンである上記正方形状の開口部23の底面25の一辺202の長さは200nmに設定され、平面2内X方向とY方向に同じ周期で配列されている上記開口部23の間にある頂面26の幅は100nmに設定される。
【0052】
これは、図2(a)、(b)において、底面25の一辺202の幅p1が、200nmとなり、頂面26の幅203の長さp2が100nmとなる構造である。
【0053】
一方、光学解析シミュレーションの結果から、構造深さと発色狙い波長の間には、おおよそ以下の数式1に示されるような関係が成り立つことがわかった。
【0054】
(数1): (構造深さ) = 0.75×(発色狙い波長)―200〔nm〕
本実施の形態1では、凹部22の深さ206の長さdは、青色狙いで150nmに設定されている。
【0055】
なお、シミュレーションの結果から、本実施の形態の発色構造において、(頂面26の幅203の長さp2)/(底面25の一辺202の長さp1)は、0.3〜0.7であれば良い。
【0056】
また、頂面26の交差部分Aからの反射光を強め、上面での反射光と下面での反射光の光量をより同等にするため、正方形状の開口部23の角204に、アールを有し、その角204の曲率半径R1は、正方形状の一辺202の1/10以上に設定されている。
【0057】
さらに、頂面26の角に曲率を付けることで底面25からの反射光を通りやすくするため、頂面26と側面24の間に形成される角205にアールが形成され、その角205の曲率半径R2が凹部22の深さ206であるdよりも大きくなるように設定されている。
【0058】
これにより、平面2における反射光と底面25における反射光の光量をより同等にすることができる。以上の関係は以下のような数式で表される。
【0059】
(数2) 0.3 < p2/p1 < 0.7 (デューティー比)
(数3) R1 > p1/10 (曲率半径)
(数4) R2 > d (曲率半径)

本実施の形態では、頂面と底面の反射光の光路差によって所望の色を強調するが、このときに上記正方配列構造により、頂面での反射光と底面での反射光の光量がほぼ同等にすることができ、所望の色を最も強調することができる。また、このときに、回折光はノイズ成分となるが、上記正方配列構造によって、回折方位を増やし回折光の密度を下げることにより、回折光を弱めることができ、相対的に回折光に対する反射光の光量を大きくすることができるため、所望の色をさらに強調することが可能となる。
【0060】
(実施例)
本実施の形態1の上記寸法を用いて作成した発色構造を有する外装部品を作成し、目視における発色の確認を行った。その結果、発色構造に対して垂直な方向から約30度傾いた角度まで、青色発色を確認することが出来た。
【0061】
この点からも本実施の形態の発色構造により、所望の波長の発色光が得られることがわかる。
【0062】
以上のように、本実施の形態では、外装部品の表面に矩形状の凹部を正方配列で形成した発色構造を設けることにより、回折光を用いず、隣り合う凹部と凸部の反射光を特定の波長域に制限することが可能となり、目的とする色光を発生させることができる。ここで、構造周期を小さくすることにより回折光の出射角度を低く(回折角度を大きく)して反射光のみが観測されるようにするとともに、矩形状の凹部の深さを、発生させる色(色光の波長域)に合わせて変化させる。
【0063】
このように回折光ではなく反射光を用いることにより、出射角度に対する色の変化が緩やかになり、広い角度範囲に対して単色(同一波長域)の色光を発生させることができ、また、構造深さによって色(色光の波長域)を制御することができる。
【0064】
また、本実施の形態の発色構造により、広い角度範囲に対して単色(同一波長域)の色光を発生させることができ、また、構造深さによって色(色光の波長域)を制御することができる。これにより、顔料や染料などの色素を用いた、材料自体によって特定波長の光が吸収されることによる発色手段に代替することができる。
【0065】
また、本実施の形態で述べたような構造性発色は、紫外線による経時変化が少なく、また光沢の出やすい等の利点を有することから、外装部品への塗装方法や着色手段として有用である。また、各種の顔料や染料あるいは有機溶剤を用いる必要がないため、廃液処理などの後始末も不要となり、作業面および環境面においても負担を軽減することができる。さらに、印刷や貼り付け、塗装といった工程の分だけ製造コストを削減することができ、特に塗装工程で発生する多くの二酸化炭素を削減することも可能となる。
【0066】
なお、本実施の形態の発色構造では、格子状の一例として、縦方向及び横方向に凹部22が配列されているが、図3(a)に示すように、縦方向(Y方向)及び右斜め上方に向かって凹部22が配列された発色構造であってもよく、図3(b)に示すように、左斜め上方及び横方向(X方向)に向かって凹部22が配列された発色構造であってもよい。また、図3(c)に示すように、半径の異なる複数の同心円上に凹部22が配列されていても良い。なお、図中、Oを中心とする同心円が二点鎖線で示されている。
【0067】
また、本発明の矩形状の開口部の一例は、本実施の形態では、正方形状の開口部23に相当するが、正方形状に限らず、長方形状であってもよい。更に、平行四辺形、菱形、円形、楕円形状、多角形状など、適宜変形することが出来る。
【0068】
また、本実施の形態2では、縦方向及び横方向の2方向に向かって、複数の凹部が配列されているが、例えば、図4(a)に示すように、横方向の一方向に向かってのみ凹部22が配列されていても良い。
【0069】
また、本発明の第1反射面部の一例は、本実施の形態の頂面26に相当し、本発明の第2反射面部の一例は、本実施の形態の底面25に相当し、本発明の第2反射面部の一例は、凹形状の底に形成されているが、凹形状ではなく溝形状の底に形成されていてもよい。このような構成として、例えば、図4(b)に示すように、複数の溝28(斜線部)が配列されている構成が挙げられる。この溝28の間には、凸状部29(白色部)が形成される。この場合、DD´間断面図は、図2(b)のような構造となる。但し、図4(a)、(b)では、X方向において視線を移動させた場合には、広い角度で所定の波長の構造色を視ることが出来るが、Y方向において視線を移動させた場合には、狭い角度でしか所定の波長の構造色を視ることが出来ないことになる。
【0070】
また、本実施の形態では、発色構造20は、平面上に形成されているが、緩やかな曲面上に形成されていてもよい。
【0071】
なお、光学解析シミュレーションの結果から、p1=200nm、p2=100nm、で上記(数1)〜(数4)を満たすように構成されたとき、所望の波長の光が強められるが、角204、205の双方または一方にアールが形成されていなくてもよい。角204にアールが形成されていない場合、頂面26からの反射光が減少し、角205にアールが形成されていない場合、底面25からの反射光が減少するものの、従来と比較すると、より広い角度で、所望の波長の発色を観測することが出来る。
【0072】
また、上述もしたが、光学解析シミュレーションから、p1=100nm、p2=200nmとピッチが300nmに設定されているが、ピッチを例えば900nmのように大きくすると、回折角度が小さくなり、回折光である虹光(レインボー)が観測されやすくなるため好ましくないことがわかる。
【0073】
(実施の形態2)
次に、本発明にかかる実施の形態2の発色構造について説明する。本実施の形態の発色構造30は、実施の形態1の発色構造20と基本的な構成は同じであるが、反射膜が形成されている点が異なる。そのため、本相違点を中心に説明する。なお、本実施の形態2において、実施の形態1と同様の構成については同一の符号が付されている。
【0074】
図5は、本発明に係る実施の形態2における発色構造30が形成された外装部品の部分断面構成図である。図5に示すように、本実施の形態2の外装部品には、裏面側基材31と、裏面側基材31上に形成された反射膜32と、反射膜32上に形成された表面側基材33が設けられている。
【0075】
そして、反射膜32と表面側基材33の境界部分に、本実施の形態2の発色構造30が形成されている。すなわち、図5に示すように、表面側基材33側の凹んでいる部分が、実施の形態1で説明した凹部22となり、表面側基材33側に突出している部分の反射膜32の面が頂面26となり、反射膜32の表面の凹部22の底面が、底面25となる。
【0076】
本実施の形態2の外装部品の発色構造30では、表面の反射率が元々低い材質の場合には反射光はそれ以上の明るさにはならないため、反射膜32を付加し反射率を向上させることにより構造色強度を向上させている。
【0077】
なお、裏面側基材31及び表面側基材33は、石英や樹脂のような材料で形成することが出来る。また、反射膜32は、アルミニウムや銀等を蒸着することによって形成することが出来る。
【0078】
このような外装部品の製造方法について説明する。
【0079】
はじめに、図6(a)に示すように、表面側基材33の表面(図中下面)に正方配列された複数の矩形状の凹部334がエッチングにより形成される。このエッチングにより形成される凹部334及び凸部335は、図2に示した凹凸形状と嵌り合うように形成されている。そして、下側に突出している突出面331が、図2の底面25の部分に対応し、上側に凹んでいる凹部天井面332が図2の頂面26に対応している。また、凹部天井面332と突出面331の間に形成されている側面部333が、図2の側面24に対応する。また、凹部天井面332と側面部333の間で形成される角336には、アールが形成されており、図2の角205のアールに対応する。なお、図示していないが、図2の開口部23の4角204のアールに対応するように、凹部天井面332の4角にもアールが形成されている。
【0080】
次に、図6(b)に示すように、表面側基材33の裏面側から蒸着によって、銀、アルミニウム等によって反射膜32が形成される。
【0081】
最後に、図6(c)に示すように、エッチングによって表面に凹凸形状が形成された、裏面側基材31が配置される。なお、この裏面側基材31上に形成された凹凸形状は、図5から明らかなように、その凸部315が、表面側基材33に形成された凹部334よりも小さく、その凹部314が、表面側基材33に形成された凸部335よりも大きくなるように構成されている。
【0082】
以上の工程により、本実施の形態2の外装部品が製造され、発色構造に蒸着により反射膜32を付加し反射率を向上させることにより構造色強度が向上させることが出来る。
【0083】
ここでは、下側から蒸着しているため、図5に示すように、側面部の反射膜32の厚み36の幅d2が、頂面26および底面25の反射膜32の厚み35の幅d1の半分以下になっており、その結果、側面部からの反射光が低減され色純度が高まるという効果がある。この関係は以下の数式で表される。
【0084】
(数5) d2 < d1/2 (構造深さ)
なお、本実施の形態2では、反射膜32は、裏面側基材31及び表面側基材33によって挟まれているが、どちらか一方が設けられておらず、空気層であっても構わない。但し、その場合には、他方は石英や樹脂のような基材でなければならない。
【0085】
又、表面側基材33が設けられておらず、反射膜32の表面側基材33側が空気層であるような構成の場合、裏面側基材31にエッチングによって複数の凹部を形成し、凹凸形状が形成された表面に表側から蒸着によって反射膜が形成される。このように表側から反射膜32が形成された場合であっても、(数5)を満たすことが出来る。
【0086】
又、上記実施の形態2では、エッチングにより、正方配列された正方形状の複数の凹部を形成し、反射膜を蒸着していたが、エッチングにより正方配列された正方形状の凹部を形成した型形状をインプリント成形品に転写し、反射膜を蒸着してもよい。
【0087】
また、本実施の形態では、反射膜32は、頂面26及び底面25の双方に設けられているが、底面25にのみ設けられていても良い。
【0088】
(実施の形態3)
以下に、本発明にかかる実施の形態3における発色構造について説明する。本実施の形態3における発色構造40は、実施の形態1の発色構造20と基本的な構成は同じであるが、凹部の深さの異なる領域が設けられている点が異なる。そのため、本相違点を中心に説明する。なお、実施の形態3では、実施の形態1と同様の構成については同一の符号が付されている。
【0089】
図7は、本発明にかかる実施の形態3における発色構造40を有する外装部品を示す表面斜視構成図である。
【0090】
図7に示すように、本実施の形態3の外装部品の表面41に形成された発色構造40には、実施の形態1で説明した発色構造10を各々に有する第1構造色領域42、第2構造色領域43、及び第3構造色領域44が設けられている。
【0091】
ここで、第1構造色領域42には、実施の形態1で説明した凹部22が複数配列されているが、その深さ206であるdが、頂面及び底面からの反射光によって青色の波長が強められるような深さAに設定されている。この深さAとしては、例えば、強める波長を467nmとすると、(数1)から150nmに設定することが出来る。
【0092】
また、第2構造色領域43にも、同様に実施の形態1で説明した凹部22が複数配列されているが、その深さ206であるdは、頂面及び底面からの反射光によって緑色の波長が強められるような深さBに設定されている。この深さBとしては、例えば、強める波長を525nmとすると、(数1)から194nmに設定することが出来る。
【0093】
また、第3構造色領域44にも、同様に実施の形態1で説明した凹部22が複数配列されているが、その深さ206であるdは、頂面及び底面からの反射光によって赤色の波長が強められるような深さCに設定されている。この深さCとしては、例えば、強める波長を660nmとすると、(数1)から295nmに設定することが出来る。
【0094】
このように、RGB3原色の発色領域を組み合わせることにより、多色の発色が得られる。例えば、青色の発色領域である第1構造色領域42と、緑色の発色領域である第2構造色領域43の領域の大きさを、赤色の発色領域である第3構造色領域44よりも小さくした場合、3色が混ざり合いピンク色を発色させることが出来る。
【0095】
また、このような構成を用いた場合には、全面一色の加飾外装のみではなく、多数の色を組み合わせることによって何らかの画像や模様を付加した加飾外装を施すことができ、より意匠性の高い外装部品を形成することができる。
【0096】
なお、本実施の形態3では、3つの異なる深さの凹部を有する構造色領域が設けられていたが、2つの異なる深さの凹部を有する構造色領域が設けられていても良いし、4つ以上の構造色領域が設けられていても良く、数が限定されるものではない。
【0097】
また、本実施の形態3の表面41にも、実施の形態2で述べたような表面側基材層を設けても良い。
【0098】
また、上述した実施の形態の発色構造は、テレビ、机等、あらゆる製品に使用することが出来、それら製品の外装部品に限らず内装部品に用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の発色構造によれば、より広い角度で所望の色光を観測することが出来るという効果を発揮することが出来、例えば、製品の外装部品、内装部品等として有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 構造発色部
2 平面
3 凹部
4 頂面
5 底面
6 凸部
12、13、光
14 深さ
15 光路差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に形成された、光が反射する第1反射面部と、
前記第1反射面部と平行であって、前記表面に形成された第2反射面部とを備え、
前記第2反射面部は、前記第1反射面部に対して垂直な方向における位置が、前記第1反射面部とずれており、
前記第1反射面部によって反射された光と、前記第2反射面部によって反射された光が重なることによって、前記ずれの量に対応する波長が強められる、発色構造。
【請求項2】
前記第1反射面部と前記第2反射面部は、交互に配置されている、請求項1記載の発色構造。
【請求項3】
前記第1反射面部と前記第2反射面部は、隣接している、請求項1又は2記載の発色構造。
【請求項4】
平面と、
前記平面に形成された複数の凹部とを備え、
前記凹部は、前記平面において規則的に配列されており、
前記凹部の底面が、前記第2反射面部であり、
前記平面のうち、前記凹部の間に形成される凸部の頂面が、前記第1反射面部である、請求項1記載の発色構造。
【請求項5】
前記凹部の底面で反射した光と、その凹部に隣接する前記凸部の頂面で反射した光が重なることによって、前記凹部の深さに対応する波長が強められる、請求項4記載の発色構造。
【請求項6】
前記底面には、反射膜が形成されている、請求項4記載の発色構造。
【請求項7】
前記複数の凹部は、格子状に配列されている、請求項4記載の発色構造。
【請求項8】
前記凹部は、前記平面に形成された矩形状の開口部を有しており、
複数の前記矩形状の開口部は、横方向及び縦方向に平行に配置されている、請求項4記載の発色構造。
【請求項9】
前記凹部の深さが、第1の所定の深さである複数の前記凹部が隣り合って配置された第1の構造色領域と、
前記凹部の深さが、第2の所定の深さである複数の前記凹部が隣り合って配置された第2の構造色領域とを備え、
前記第1の構造色領域の前記第1の反射面部及び前記第2の反射面部によって強められる第1の波長と、前記第2の構造色領域の前記第1の反射面部及び前記第2の反射面部によって強められる第2の波長は異なっている、請求項4〜8のいずれかに記載の発色構造。
【請求項10】
前記凹部の深さが、第3の所定の深さである複数の前記凹部が隣り合って配置された第3の構造色領域を更に備え、
前記第1の波長は、青色発色する波長であり、
前記第2の波長は、緑色発色する波長であり、
前記第3の構造色領域の前記第1の反射面部及び前記第2の反射面部によって強められる第3の波長は、赤色発色する波長である、請求項9記載の発色構造。
【請求項11】
前記第1反射面部と前記第2反射面部は、300nm以下の周期で交互に配置されている、請求項4〜10のいずれかに記載の発色構造。
【請求項12】
前記第1の反射面部の幅に対する前記第2反射面部の幅の比率は、0.3以上、0.7以下である、請求項4〜11のいずれかに記載の発色構造。
【請求項13】
強められる前記波長と、前記凹部の深さは、(数1)を満たす、請求項4〜12のいずれかに記載の発色構造。
(数1)(前記凹部の深さ)=0.75×(強められる波長)―200nm
【請求項14】
前記矩形状の開口部の4角には、アールが形成されている、請求項8記載の発色構造。
【請求項15】
前記凸部の頂面と前記凹部の側面に形成される角には、アールが形成されている、請求項4記載の発色構造。
【請求項16】
前記凸部の頂面、及び複数の前記凹部の側面及び前記底面には反射膜が形成されており、
前記側壁に形成された前記反射膜の厚みは、前記頂面及び前記底面に形成された前記反射膜の厚みの半分以下である、請求項4記載の発色構造。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかの発色構造を備えた、製品。



























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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