発芽誘導物質と抗菌剤とを含む組成物
本発明は、発芽誘導物質と抗菌剤とを含む消毒組成物であって、前記発芽誘導物質が、前記抗菌剤からの攻撃に対する病原体の感受性を増加させ、かつ、前記抗菌剤が、前記発芽誘導物質を阻害しない、消毒組成物、を提供する。本発明は、そのような消毒組成物を含む消毒ワイプ、ハンドウォッシュまたは塗布剤、および、そのような組成物を用いて表面を滅菌する方法、も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する組成物およびかかる組成物を用いて表面を殺菌する方法に関する。より詳細には、本発明は、芽胞形成病原体に対し、効果的な抗菌活性を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばC.ディフィシル(C. difficile)などの芽胞形成病原体は重要な感染性因子である。C.ディフィシルは、英国では院内下痢症の主要原因であり、英国の病院におけるかなりの数の死の原因となっている。最近の数字は、C.ディフィシル感染における症例数の減少を示している。しかしながら、この減少にもかかわらず、C.ディフィシルの症例はそれでもMRSAに比べるとほぼ10倍も多くある。PCRリボタイプ027は、現在、C.ディフィシル患者から単離される最も一般的なリボタイプであり、その後にリボタイプ106および001が続く。
【0003】
感染患者は、大量のC.ディフィシル芽胞および細胞を、感染巣としての機能を果たす環境中へと排出する。したがって、患者は、通常、この生物を、この汚染環境からのその芽胞の摂取により獲得する。ひとたび摂取されれば、それら芽胞は、胃の酸性環境を生き抜き、胃腸管へと通過することができ、そこでそれらが発芽して栄養細胞となり、感受性の高い患者において疾患を引き起こし得るトキシンAおよびBを産生する。
【0004】
芽胞の発芽は不可逆的プロセスであり、そこでは、耐性の高い休眠芽胞が、代謝的に活性な細胞へと変わる。発芽は、いくつかの段階を経て起こる。まず初めに、細胞膜上の発芽誘導物質受容体の結合により活性化される。次いで、この後に、耐熱性の減少、ならびに、カリウム、水素およびナトリウムならびにカルシウムとジピコリン酸(DPA)との複合体などの種々の陽イオンの減少が続く。これは、結果として芯部の部分的再水和をもたらすが、しかしながら、この生物は、その皮層が分解されるまで、完全には水和されない。皮層が加水分解するにつれ、小さい酸性の可溶性タンパク質が分解され、細胞の代謝活性が再開される。
【0005】
C.ディフィシルはグリシンとタウロコール酸塩との組み合わせを含む発芽溶液への曝露により刺激されて芽胞形成し得る、とのことが当該分野において知られている。芽胞状態からの遷移によって、これらの病原体は、例えばクロルヘキシジンなどの抗細菌剤からの攻撃に感受性となる。先行技術の目的は、発芽の後の病原体の感受性を利用する、発芽/駆除プロトコルをデザインすることであった。そのプロトコルを図1に示す。具体的に言えば、先行技術においては、発芽を刺激し、かつ、その発芽した病原体を攻撃するための抗細菌剤を有する抗細菌性溶液をデザインする、という試みがなされてきた。しかしながら、こうしたアプローチで用いられる抗細菌剤は発芽用溶液に対して阻害効果を有するため、発芽/駆除アプローチは臨床現場における成功を制限するものであった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、これらの課題を克服し、かつ、臨床的に重要な病原体に対して効果的である、代替的な抗菌性組成物を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の発明者らは、アミノ酸(複数)とタウロコール酸ナトリウムとの組み合わせを含む特定の組成物が、グリシンのみとタウロコール酸塩とを組み合わせた先行技術組成物に比べて、向上した芽胞形成活性を有する、とのことを見出した。さらに、発明者らは、特定の抗菌剤が、その組成物中で防腐剤としての機能を果たしながらも、発芽した芽胞を
効果的に殺傷することができる、とのことを発見した。これらの薬剤は、発芽/駆除アプローチにおいて用いられる先行技術抗菌剤において観察された、病原体の発芽に対する阻害効果を有しない。
【0008】
さらに、本発明の発明者らは、本発明の組成物が、C.ディフィシルの芽胞からの栄養細胞の形成を刺激するだけでなく、C.ディフィシルの栄養細胞の芽胞形成の妨げをもする、とのことを見出した。これは臨床環境において特に有利である。入院患者の排泄物中には多数の栄養細胞(芽胞も同様)が排出される。これら栄養細胞は最終的には芽胞形成することとなり、そうなると、それら芽胞は、疾患を伝播させる媒介体としての機能を果たす。これらの細胞を栄養型に保つことが好ましい。これは、これらが、偏性嫌気性であるために空気によって、または、病院において使用される一般的な硬質表面殺菌剤によって、自然に殺菌されることとなるからである。したがって、本発明の組成物には、二通りの攻撃がある。すなわち、第一に、芽胞(pores)を栄養細胞へと変えること、および、
第二に、栄養細胞を栄養型に保持すること、である。
【0009】
第一の態様においては、本発明は、発芽誘導物質と抗菌剤とを含む消毒組成物であって、前記発芽誘導物質が、前記抗菌剤からの攻撃に対する病原体の感受性を増加させ、かつ、前記抗菌剤が、前記発芽誘導物質を阻害しない、消毒組成物、を提供する。
【0010】
第二の態様においては、本発明は、本発明の組成物をしみ込ませた織物、メッシュまたはガーゼタイプの材料を含む、消毒ワイプを提供する。第三の態様においては、本発明は、消毒ハンドウォッシュ、または非生物表面上のコーティングのための塗布剤であって、本発明の組成物を含むハンドウォッシュまたは塗布剤、を提供する。
【0011】
第四の態様においては、本発明は、本質的に病原体フリーとなるよう表面を殺菌する方法であって、前記表面を、本発明の組成物または本発明の組成物を含む抗菌ワイプもしくは塗布剤と、前記病原体が発芽し殺傷されるのに十分な時間にわたり接触させることを含む方法、を提供する。
【0012】
本発明の消毒組成物は、抗菌剤と組み合わせた発芽誘導物質を含む。この発芽誘導物質は、少なくとも2種類のアミノ酸から選択される。好ましくは、これらのアミノ酸は、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシンの組み合わせである。より好ましくは、アミノ酸の組み合わせは、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびバリンである。この特定の組み合わせのアミノ酸は、細菌芽胞に対する発芽効果が増加するため特に有利であるとのことが発明者らにより示されている。
【0013】
発芽誘導物質は、芽胞の効率的芽胞形成を刺激するのに適した量で提供される。好ましくは、発芽誘導物質は、最終組成物を基準に、1から10mMまでの量で提供される。発芽誘導物質溶液内の成分であるアミノ酸は、50mM(ヒスチジン)、50mM(グリシン)、50mM(アルギニン)、50mM 1:50(バリン)および50mM(アスパラギン酸)という量で提供されてもよい。
【0014】
抗菌剤は、病原体が観察される表面とのその接触に際して病原微生物を殺傷するのに効果的である薬剤である。好ましくは、抗菌剤は、病原体が芽胞形成の後の発芽状態にあるときに、効果的なものであるか、または、病原体を殺傷するものである。抗菌剤は、また、芽胞を形成しない病原体を殺傷するのに効果的なものであってもよい。
【0015】
好ましくは、抗菌剤は、塩化ベンザルコニウムとベンジルアルコールとの組み合わせである。当該消毒組成物における、塩化ベンザルコニウムのベンジルアルコールに対する比は、1:50である。抗菌剤は、(消毒組成物中の抗菌剤の総量に対して)0.01%か
ら2%までの量で提供される。
【0016】
当該消毒組成物は、臨床環境において表面を殺菌するための使用に必要な形で提供されてもよい。好ましくは、かかる表面は非生物表面である。あるいは、この表面は、患者、医師または介護者の皮膚であってもよい。好ましくは、当該組成物は、処理を必要とする表面に都合よく適用することができる、液体、ゲル、泡またはスプレーの形で提供される。さらなる一実施形態では、当該消毒組成物をしみ込ませた織物、メッシュまたはガーゼタイプの材料を含む、抗菌ワイプが提供される。当該組成物は、また、錠剤の形で提供されてもよい。このような錠剤の形は、適切な量の水に溶解してもよく、また、その結果として生じる溶液は、例えば広い表面積を清掃するなどの際に、病院の清掃員により殺菌剤として使用されてもよい。当該表面が人間の皮膚である実施形態の場合には、当該消毒組成物は、ハンドウォッシュまたはワイプの形であってもよい。好ましくは、当該消毒組成物は、処理しようとする表面に塗布することができる、塗布剤の形である。ひとたび乾燥すると効果的がなくなり、また、ある特定の長さの時間を経た後に抗菌剤によって発芽用物質の阻害へと導かれる先行技術消毒薬に比べると、このような塗布剤は、ひとたび乾燥すれば、より長期間にわたり病原体を殺傷するのに効果的であるため、特に有利である。さらにより好ましくは、この消毒薬は、それが適用された表面において硬質フィルムを形成し、容易には拭き取られない、ラッカーの形である。
【0017】
本発明の消毒組成物は、通常、広範囲の病原体から表面を衛生的にすることができる。この組成物は、芽胞形成細菌に対して特に効果的である。そのような芽胞形成細菌の一例がC.ディフィシルである。しかしながら、この組成物は、例えばMRSA、緑膿菌(P.
aeurginosa)、C.アルビカンス(C. albicans)およびA.ニガー(A.niger)などの、他の病原体に対しても効果的であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下は、本発明を実施する方法の、単に例を挙げての、添付の図および表を参照しての説明であり、その図および表は次の通りである:
【0019】
【図1】図1は、先行技術において用いられる発芽/駆除プロトコルを模式的に示す。
【図2】図2は、種々の発芽誘導物質溶液に1時間曝露し、その後、10分間熱ショックを与えたC.ディフィシルNCTC11204芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す。
【図3】図3は、各アミノ酸発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の70℃での10分間の熱ショックの後のC.ディフィシルNCTC11204芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す。
【図4】図4は、リボタイプ027、001、106およびNCTC11204株のC.ディフィシル芽胞との1時間のインキュベーションの後の、6.9mMタウロコール酸ナトリウムをも含有する発芽誘導物質溶液における、あるアミノ酸の組み合わせ(アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびヒスチジン)の濃度の効果を示す。
【図5】図5は、種々の発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の10分間の熱ショックの後のC.ディフィシルの種々の株の芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す。
【図6】図6は、10mMアルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジンおよびグリシンならびに6.9mMタウロコール酸ナトリウムを含有するトリス緩衝液におけるC.ディフィシルNCTC11204芽胞の発芽に対するpHの効果を示す。
【図7】図7は、種々の発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の熱ショックまたは氷上での冷却のいずれかの後のC.ディフィシル芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す(AA=アミノ酸、ST=タウロコール酸ナトリウム、BZC=塩化ベンザルコニウム、BZA=ベンジルアルコール)。
【図8】図8は、種々の発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の熱ショックまたは氷上での冷却のいずれかの後のC.ディフィシル芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す(CHG=ジグルコン酸クロルヘキシジン)。
【図9】図9は、PBS(コントロール)培養液中のC.ディフィシル栄養細胞の細胞数を示す。細胞数のうちの100%が24時間後に芽胞である。
【図10】図10は、本発明の発芽溶液中のC.ディフィシル栄養細胞の細胞数を示す。72時間後では細胞数のうちの100%が未だ栄養細胞である。
【図11】表1は、種々の発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の熱ショックまたは氷上での冷却のいずれかの後のC.ディフィシル芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す。
【実施例】
【0020】
実施例1―発芽誘導物質溶液用のアミノ酸の組み合わせ
【0021】
C.ディフィシルの株
リボタイプ106株(18587)、リボタイプ001株(8565)(健康保護局(Health Protection Agency;HPA)、英国北東部)およびNCTC11204参考株を、3種類のリボタイプ027株;すなわちR20291(嫌気レファレンス研究所(Anaerobic Reference Laboratory)、カーディフ)、18040および15900(HPA、英国北東部)と共に用いた。
【0022】
C.ディフィシル芽胞懸濁液の調製
C.ディフィシルの芽胞を、以前(Shetty et al., 1999)に記載された通りに調製し
た。血液寒天プレートにC.ディフィシルの当該株を播種し、嫌気的に(ミニマックス嫌気ワークステーション(MiniMACS anaerobic work station)、ドン・ホイットリー社(Don Whitley)、英国シプリー)、72時間、37℃でインキュベートした。次いで、このプレートを移動して、室温で24時間、空気中に放置し、その後、すべてのコロニーを回収し、10mLの50%生理食塩水(0.9%w/v)および50%メタノール変性アルコール(methylated spirits)の中に入れた。この懸濁液を、ボルテックスで完全に混合し、その後、グラスウールに通して濾過し、使用するまで4℃で保存した。芽胞懸濁液は、各実験の前に、13000rpmで5分間遠心し、滅菌蒸留水(SDW)中に再懸濁した。
【0023】
アミノ酸
次のアミノ酸を、以下に詳述する実験において使用した:グリシン、L‐イソロイシン、L‐プロリン、D‐アラニン、L‐グルタミン酸、L‐エリン(L-erine)、L‐スレオニン、L‐スパラギン酸(L-spartic acid)、L‐アルギニン、L‐バリン、L‐ロイシン、L‐グルタミン、L‐トリプトファンおよびL‐アスパラギン(すべて、英国、シグマアルドリッチ社から)、L‐リシン、L‐ヒスチジンおよびL‐メチオニン(BDH社)、L‐β‐フェニルアラニン(ファイソンズ社(Fisons))ならびにL‐システイン(フルカ社(Fluka))。チロシンは、蒸留水中には溶解しなかったため、試験しなかった。
【0024】
C.ディフィシルの芽胞に対する共発芽誘導物質としての種々のアミノ酸の有効性
すべての発芽誘導物質溶液は、0.4%(w/v)のアミノ酸(以前の研究(Wheeldon
et al., 2008)において用いられたグリシンの濃度)および13.8mM(w/v)タ
ウロコール酸ナトリウム(シグマアルドリッチ社、英国)(十二指腸における生理学的濃度(Leverrier et al., 2003)の二倍)を含有しており、これらは、蒸留水中に溶解させて、121℃で15分間オートクレーブ処理を行うことにより滅菌した。13.8mMタウロコール酸ナトリウム(sodium taurocholate;ST)を含有する、二倍の濃度のチオ
グリコール酸塩培地(Oxid社、英国)も、他の発芽誘導物質溶液に対する比較のために試験した。次いで、各発芽誘導物質溶液100マイクロリットルを、100μLのC.ディフィシル芽胞(106CFU/mLを含有する)に加え、ボルテックスで完全に混合
した。1時間後、この体積全200μLを、9.8mLのウィルキンス‐チャルグレンブロス(Oxoid社、英国)に加え、10分間70℃に平衡化するかまたは氷上で冷却するかのいずれかを行った。適切な希釈の後に、1mL試料を滅菌ペトリ皿にそれぞれ入れ、その後、0.1%(w/v)STおよび5%(v/v)ウマ脱線維血液を含有する、15mLの融解した偏性嫌気性細菌用寒天培地(FAA)(Lab M社、英国)を加えた。このプレートは、完全に混合し、その後、48時間、37℃で嫌気的にインキュベートした。この方法は、Levinson and Hyatt(1966)を基に改変したものであった。
【0025】
C.ディフィシル芽胞の発芽に必要なアミノ酸の最適濃度の決定
アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびヒスチジンは、13.8mMのST(これは、必要な濃度の二倍であるが、これは、実験中にそれらを1:2希釈するからである)と共に、200、20、2、0.2および0.02mMにて調製し、蒸留水中に溶解させた。すべての溶液は、溶解するまで加熱し、また、オートクレーブ処理を行うことにより滅菌した。上記と同じ方法を用いて、C.ディフィシルNCTC11204、リボタイプ027(R20291)、001および106の芽胞に対して種々の濃度の発芽誘導物質溶液を試験した。
【0026】
C.ディフィシルの6種類の異なる株の芽胞に対するアミノ酸およびタウロコール酸塩の有効性
アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびヒスチジン(20mM w/vで)は、別々にまたは組み合わせて、13.8mM(w/v)STに加え、加熱することにより蒸留水に溶解させ、その後、オートクレーブ処理を行うことにより滅菌した。上記で記載したのと同じ方法を用いて、C.ディフィシルリボタイプ001、106、027(R20291、15900および18040)およびNCTC11204の芽胞に対するこれらのアミノ酸溶液の有効性を決定した。
【0027】
C.ディフィシル芽胞の発芽に対する緩衝発芽誘導物質溶液のpHの効果
アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびヒスチジン(20mM w/vで)、13.8mM(w/v)STならびに200mM(w/v)トリスは、蒸留水中に溶解させ、塩酸を用いてpH5、6、7、8および9へと調整し、その後、濾過(0.2μm)またはオートクレーブ処理により滅菌した。上記と同じ方法を用いて、C.ディフィシルNCTC11204の芽胞に対して各緩衝溶液を試験した。
【0028】
実施例2―C.ディフィシルに対する、抗菌防腐剤を含有する発芽誘導物質溶液の効果
【0029】
発芽誘導物質溶液
100mM(w/v)グリシン、ヒスチジン、バリン、アスパラギン酸およびアルギニン、13.8mM(w/v)タウロコール酸ナトリウム、100mM(w/v)トリス緩衝液、0.04%(w/v)塩化ベンザルコニウム、2%(v/v)ベンジルアルコールを含有する溶液は、蒸留水を用いて必要な体積にメスアップし、塩酸を用いてpH7へと調整した。この溶液を加熱し、完全に混合してすべての成分を溶解させ、その後、滅菌のため、0.2μmの孔径に通して濾過した(この溶液は、使用濃度の二倍であるが、これは、実験中にこれを1:2希釈するからである)。
【0030】
C.ディフィシル芽胞懸濁液の調製
C.ディフィシル芽胞の調製は、上記で述べた通りに調製した。
【0031】
中和剤
本中和剤は、Espigares et al.,(2003)を基に改変したものであり、以下のものを含
有していた:120mL(v/v)のTween80、25mL(v/v)の40%メタ重亜硫酸ナトリウム、15.69g(w/v)のチオ硫酸ナトリウム五水和物、10g(w/v)のL‐システイン、4g(w/v)のレシチン。これを蒸留水を用いて1000mLにメスアップした。pHは、7へと調整し、オートクレーブ処理を行って滅菌した。
【0032】
発芽有効性試験
100マイクロリットルの発芽誘導物質溶液(上記で記載したもの)を、100μLのC.ディフィシル芽胞(106CFU/mLを含有する)に加え、ボルテックスで完全に
混合した。コントロール用に、100μLの滅菌蒸留水を、100μLのC.ディフィシル芽胞懸濁液と混合した。また、芽胞懸濁液は、塩化ベンザルコニウムおよびトリス緩衝液を含有する(アミノ酸またはタウロコール酸塩は含有しない)溶液、トリス緩衝液と共にベンジルアルコールを含有する(アミノ酸およびタウロコール酸塩は含有しない)溶液、ならびに、5種類のアミノ酸およびタウロコール酸塩を含有する(抗菌剤を全く含有しない)溶液と共にインキュベートした。1時間後、この体積全200μLを、9.8mLの中和剤(上記で記載したもの)に加え、10分間70℃に平衡化する(発芽している細胞を殺傷するための熱ショック)かまたは氷上で冷却する(コントロール)かのいずれかを行った。適切な希釈の後に、1mL試料を滅菌ペトリ皿にそれぞれ入れ、その後、0.1%(w/v)STおよび5%(v/v)ウマ脱線維血液を含有する、15mLの融解した偏性嫌気性細菌用寒天培地(FAA)(Lab M社、英国)を加えた。このプレートは、完全に混合し、その後、嫌気的に、48時間、37℃でインキュベートした(ミニマックス嫌気ワークステーション(miniMACS Anaerobic Workstation)(ドン・ホイットリー・サイエンティフィック社(Don Whitley Scientific Ltd)))。この方法は、Levinson and Hyatt(1966)による以前の研究を基に改変したものであった。
【0033】
結果および考察
【0034】
C.ディフィシルNCTC11204の芽胞に対する、グリシンとの共発芽誘導物質としての他のアミノ酸の有効性
グリシンおよびSTを伴う、アルギニン、アスパラギン酸またはヒスチジンとのC.ディフィシルNCTC11204芽胞のインキュベーションは、熱ショック後に、それぞれ、2.78(99.8%)、3.06(9.99%)および3.12(99.9%)というCFU/mLの大きな対数減少値をもたらした。バリン(グリシンおよびSTを伴う)およびロイシン(グリシンおよびSTを伴う)は、それぞれ、1.72(98.1%)および1.62(97.6%)というCFU/mLの対数減少値をもたらしたが、これらは、グリシンおよびSTのみの場合(1.85の対数減少値(98.6%))に類似するものであった。試験した他のすべてのアミノ酸は、グリシンおよびタウロコール酸ナトリウムのみの場合よりも小さい対数減少値をもたらした。
【0035】
C.ディフィシルNCTC11204の芽胞に対する、グリシンおよびタウロコール酸ナトリウムの、単独でのおよび組み合わせての、共発芽誘導物質の有効性
STを含有する溶液の中へ、最初のスクリーニングからの最も効果的な4種類のアミノ酸(アルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジンおよびグリシン)を一緒に入れて、C.ディフィシル芽胞と共にインキュベートした場合には、STを伴うアルギニン、アスパラギン酸またはヒスチジンのいずれかと共に芽胞をインキュベートした場合(しかし、グリシンなしでは、各溶液によってもたらされたのは1未満の対数減少値であった)と比べて、3.71(99.9%)というCFU/mLのより大きな対数減少値が、熱ショック後に、もたらされた。
【0036】
C.ディフィシル芽胞の発芽に必要なアミノ酸の最適濃度の決定
クロストリジウム・ディフィシル芽胞の発芽は、アミノ酸濃度が10から100mMまでの間である場合に、試験したすべての株で最適であった。この濃度を下回る場合には、C.ディフィシル芽胞の発芽は有意に減少し、1未満の対数減少が0.1mMおよびそれ以下において観察された。熱ショックを与えずに芽胞を100mMのアミノ酸に曝露した場合には、C.ディフィシルのすべての株でCFU/mLの有意な減少が観察された。
【0037】
C.ディフィシルPCRリボタイプ027の種々の株の芽胞に対するアミノ酸およびタウロコール酸ナトリウムの有効性
STと組み合わせた前記4種類のアミノ酸に曝露したC.ディフィシルPCRリボタイプ027のすべての株は、芽胞をチオグリコール酸塩培地およびSTに曝露した場合にもたらされた対数減少値と類似する対数減少値をもたらした。グリシンおよびタウロコール酸ナトリウムと組み合わせた場合には、アスパラギン酸もヒスチジンも、各リボタイプ027株で観察されたCFU/mLの対数減少値を増加させたが、しかしながら、アルギニンは、グリシンおよびSTに加えた場合にCFU/mLの対数減少値のさらなる増加をもたらさなかった。最も興味深かったのは、2つの臨床株(18040および15900)が、STと組み合わせたチオグリコール酸塩培地または前記4種類のアミノ酸に応答してR20291株よりも有意に大きい対数減少値をもたらしたということであった。
【0038】
C.ディフィシルの6種類の異なる株の芽胞に対するアミノ酸およびタウロコール酸ナトリウムの有効性
アミノ酸およびチオグリコール酸塩溶液への曝露後のC.ディフィシルのNCTC11204参考株で、CFU/mLの最も大きい対数減少値がそれぞれ観察された。PCRリボタイプ001は、試験した種々の組み合わせの発芽誘導物質溶液のそれぞれにおいて、PCRリボタイプ207のR20291株に非常によく似た対数減少値をもたらした。例えば、C.ディフィシルリボタイプ001および027 R20291では、前記4種類のアミノ酸およびSTとのインキュベーションとその後の熱ショックの後に、それぞれ、2.12(99.2%)および1.98(99%)というCFU/mLの対数減少値がもたらされた。
【0039】
C.ディフィシルNCTC11204芽胞の発芽に対する緩衝発芽誘導物質溶液のpHの効果
緩衝発芽誘導物質溶液のpHは、当該アミノ溶液(およびST)とのインキュベーションとその後の熱ショックの後にもたらされるCFU/mLの対数減少値に大きく影響する。酸性のpH5では、この発芽溶液は、CFU/mLの対数減少をもたらさなかったが、一方、中性のpH6.98では、CFU/mLの3.32の対数減少値(99.9%)が観察され、;これが最適なpHであることが分かった。よりアルカリ性のpH8.81は、観察されたCFU/mLのこの対数減少値を減少させることとなったが、酸性pHの場合よりずっと小さい程度であった。
【0040】
C.ディフィシルに対する、抗菌防腐剤を含有する発芽誘導物質溶液の効果
トリス緩衝液中のアミノ酸とタウロコール酸塩との混合物と共にC.ディフィシル芽胞を1時間インキュベートし、その後、熱ショックを与えた後に、CFU/mLの3を超える対数減少値(99.9%減少)がもたらされた。しかしながら、熱ショックを与えない場合には、このアミノ酸溶液とのインキュベーション後の残存芽胞の数の減少はほとんどなかった(0.13の対数減少値)。トリス中に塩化ベンザルコニウムを含有する溶液またはトリス中にベンジルアルコールを含有する溶液とのC.ディフィシル芽胞のインキュベーションは、熱ショックがある場合にもない場合にも、0.3未満というCFU/mLの非常に低い対数減少値を生じさせた。しかしながら、トリス中にアミノ酸、タウロコール酸塩、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールを含有する溶液と共にC.ディ
フィシル芽胞をインキュベートした場合には、氷で処理した芽胞ではCFU/mLの2.77の対数減少値(99.8%減少)、また、熱ショックを与えた芽胞ではCFU/mLの2.99の対数減少値(99.9%減少)となった。
【0041】
EDTAおよびクオロロヘキシジン(cholorohexidine)は発芽誘導物質溶液を阻害す
るが、一方、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールは発芽に影響しない、とのことも発明者らは示した。塩化ベンザルコニウム(benzalkonium choloride)およびベンジルアルコールは殺芽胞性のものではなく、また、発芽を開始させるものではなかった。加熱処理されなかった芽胞は、塩化ベンザルコニウム(benzalkonium choloride)、ベンジルアルコール、アミノ酸およびタウロコール酸ナトリウムとの1時間のインキュベーション後に、死滅した。芽胞は、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールを含有する発芽誘導物質溶液でそれらが発芽するがために死滅したように思われる。
【0042】
当該中和剤は、C.ディフィシル細胞および他の細菌に対しては毒性がないとのことが分かった。また、当該中和剤は、これら抗菌剤の活性を無効にするするのに効果的であった。したがって、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、アミノ酸およびタウロコール酸ナトリウムとの1時間のインキュベーション後にもたらされるCFU/mLの減少は、寒天プレートに対するキャリーオーバーの効果の結果である可能性は低い。
【0043】
本願発明者らは、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールが、発芽誘導物質溶液の有効性に影響しない、とのことも見出した。塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールは、それ故に、防腐効果を示し、C.ディフィシルの発芽している芽胞を殺傷するようである。
【0044】
芽胞形成に対する発芽溶液の阻害効果
図9および10に示す結果は、発芽溶液の存在下での培養72時間後では細胞数のうちの100%が未だ栄養細胞であり、一方、コントロール(PBS中の培養細胞)では細胞数のうちの100%が24時間後に芽胞である、とのことを指し示している。これらの結果は、本発明の発芽溶液が、C.ディフィシルの栄養細胞における芽胞形成を妨げる、とのことを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する組成物およびかかる組成物を用いて表面を殺菌する方法に関する。より詳細には、本発明は、芽胞形成病原体に対し、効果的な抗菌活性を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばC.ディフィシル(C. difficile)などの芽胞形成病原体は重要な感染性因子である。C.ディフィシルは、英国では院内下痢症の主要原因であり、英国の病院におけるかなりの数の死の原因となっている。最近の数字は、C.ディフィシル感染における症例数の減少を示している。しかしながら、この減少にもかかわらず、C.ディフィシルの症例はそれでもMRSAに比べるとほぼ10倍も多くある。PCRリボタイプ027は、現在、C.ディフィシル患者から単離される最も一般的なリボタイプであり、その後にリボタイプ106および001が続く。
【0003】
感染患者は、大量のC.ディフィシル芽胞および細胞を、感染巣としての機能を果たす環境中へと排出する。したがって、患者は、通常、この生物を、この汚染環境からのその芽胞の摂取により獲得する。ひとたび摂取されれば、それら芽胞は、胃の酸性環境を生き抜き、胃腸管へと通過することができ、そこでそれらが発芽して栄養細胞となり、感受性の高い患者において疾患を引き起こし得るトキシンAおよびBを産生する。
【0004】
芽胞の発芽は不可逆的プロセスであり、そこでは、耐性の高い休眠芽胞が、代謝的に活性な細胞へと変わる。発芽は、いくつかの段階を経て起こる。まず初めに、細胞膜上の発芽誘導物質受容体の結合により活性化される。次いで、この後に、耐熱性の減少、ならびに、カリウム、水素およびナトリウムならびにカルシウムとジピコリン酸(DPA)との複合体などの種々の陽イオンの減少が続く。これは、結果として芯部の部分的再水和をもたらすが、しかしながら、この生物は、その皮層が分解されるまで、完全には水和されない。皮層が加水分解するにつれ、小さい酸性の可溶性タンパク質が分解され、細胞の代謝活性が再開される。
【0005】
C.ディフィシルはグリシンとタウロコール酸塩との組み合わせを含む発芽溶液への曝露により刺激されて芽胞形成し得る、とのことが当該分野において知られている。芽胞状態からの遷移によって、これらの病原体は、例えばクロルヘキシジンなどの抗細菌剤からの攻撃に感受性となる。先行技術の目的は、発芽の後の病原体の感受性を利用する、発芽/駆除プロトコルをデザインすることであった。そのプロトコルを図1に示す。具体的に言えば、先行技術においては、発芽を刺激し、かつ、その発芽した病原体を攻撃するための抗細菌剤を有する抗細菌性溶液をデザインする、という試みがなされてきた。しかしながら、こうしたアプローチで用いられる抗細菌剤は発芽用溶液に対して阻害効果を有するため、発芽/駆除アプローチは臨床現場における成功を制限するものであった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、これらの課題を克服し、かつ、臨床的に重要な病原体に対して効果的である、代替的な抗菌性組成物を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の発明者らは、アミノ酸(複数)とタウロコール酸ナトリウムとの組み合わせを含む特定の組成物が、グリシンのみとタウロコール酸塩とを組み合わせた先行技術組成物に比べて、向上した芽胞形成活性を有する、とのことを見出した。さらに、発明者らは、特定の抗菌剤が、その組成物中で防腐剤としての機能を果たしながらも、発芽した芽胞を
効果的に殺傷することができる、とのことを発見した。これらの薬剤は、発芽/駆除アプローチにおいて用いられる先行技術抗菌剤において観察された、病原体の発芽に対する阻害効果を有しない。
【0008】
さらに、本発明の発明者らは、本発明の組成物が、C.ディフィシルの芽胞からの栄養細胞の形成を刺激するだけでなく、C.ディフィシルの栄養細胞の芽胞形成の妨げをもする、とのことを見出した。これは臨床環境において特に有利である。入院患者の排泄物中には多数の栄養細胞(芽胞も同様)が排出される。これら栄養細胞は最終的には芽胞形成することとなり、そうなると、それら芽胞は、疾患を伝播させる媒介体としての機能を果たす。これらの細胞を栄養型に保つことが好ましい。これは、これらが、偏性嫌気性であるために空気によって、または、病院において使用される一般的な硬質表面殺菌剤によって、自然に殺菌されることとなるからである。したがって、本発明の組成物には、二通りの攻撃がある。すなわち、第一に、芽胞(pores)を栄養細胞へと変えること、および、
第二に、栄養細胞を栄養型に保持すること、である。
【0009】
第一の態様においては、本発明は、発芽誘導物質と抗菌剤とを含む消毒組成物であって、前記発芽誘導物質が、前記抗菌剤からの攻撃に対する病原体の感受性を増加させ、かつ、前記抗菌剤が、前記発芽誘導物質を阻害しない、消毒組成物、を提供する。
【0010】
第二の態様においては、本発明は、本発明の組成物をしみ込ませた織物、メッシュまたはガーゼタイプの材料を含む、消毒ワイプを提供する。第三の態様においては、本発明は、消毒ハンドウォッシュ、または非生物表面上のコーティングのための塗布剤であって、本発明の組成物を含むハンドウォッシュまたは塗布剤、を提供する。
【0011】
第四の態様においては、本発明は、本質的に病原体フリーとなるよう表面を殺菌する方法であって、前記表面を、本発明の組成物または本発明の組成物を含む抗菌ワイプもしくは塗布剤と、前記病原体が発芽し殺傷されるのに十分な時間にわたり接触させることを含む方法、を提供する。
【0012】
本発明の消毒組成物は、抗菌剤と組み合わせた発芽誘導物質を含む。この発芽誘導物質は、少なくとも2種類のアミノ酸から選択される。好ましくは、これらのアミノ酸は、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシンの組み合わせである。より好ましくは、アミノ酸の組み合わせは、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびバリンである。この特定の組み合わせのアミノ酸は、細菌芽胞に対する発芽効果が増加するため特に有利であるとのことが発明者らにより示されている。
【0013】
発芽誘導物質は、芽胞の効率的芽胞形成を刺激するのに適した量で提供される。好ましくは、発芽誘導物質は、最終組成物を基準に、1から10mMまでの量で提供される。発芽誘導物質溶液内の成分であるアミノ酸は、50mM(ヒスチジン)、50mM(グリシン)、50mM(アルギニン)、50mM 1:50(バリン)および50mM(アスパラギン酸)という量で提供されてもよい。
【0014】
抗菌剤は、病原体が観察される表面とのその接触に際して病原微生物を殺傷するのに効果的である薬剤である。好ましくは、抗菌剤は、病原体が芽胞形成の後の発芽状態にあるときに、効果的なものであるか、または、病原体を殺傷するものである。抗菌剤は、また、芽胞を形成しない病原体を殺傷するのに効果的なものであってもよい。
【0015】
好ましくは、抗菌剤は、塩化ベンザルコニウムとベンジルアルコールとの組み合わせである。当該消毒組成物における、塩化ベンザルコニウムのベンジルアルコールに対する比は、1:50である。抗菌剤は、(消毒組成物中の抗菌剤の総量に対して)0.01%か
ら2%までの量で提供される。
【0016】
当該消毒組成物は、臨床環境において表面を殺菌するための使用に必要な形で提供されてもよい。好ましくは、かかる表面は非生物表面である。あるいは、この表面は、患者、医師または介護者の皮膚であってもよい。好ましくは、当該組成物は、処理を必要とする表面に都合よく適用することができる、液体、ゲル、泡またはスプレーの形で提供される。さらなる一実施形態では、当該消毒組成物をしみ込ませた織物、メッシュまたはガーゼタイプの材料を含む、抗菌ワイプが提供される。当該組成物は、また、錠剤の形で提供されてもよい。このような錠剤の形は、適切な量の水に溶解してもよく、また、その結果として生じる溶液は、例えば広い表面積を清掃するなどの際に、病院の清掃員により殺菌剤として使用されてもよい。当該表面が人間の皮膚である実施形態の場合には、当該消毒組成物は、ハンドウォッシュまたはワイプの形であってもよい。好ましくは、当該消毒組成物は、処理しようとする表面に塗布することができる、塗布剤の形である。ひとたび乾燥すると効果的がなくなり、また、ある特定の長さの時間を経た後に抗菌剤によって発芽用物質の阻害へと導かれる先行技術消毒薬に比べると、このような塗布剤は、ひとたび乾燥すれば、より長期間にわたり病原体を殺傷するのに効果的であるため、特に有利である。さらにより好ましくは、この消毒薬は、それが適用された表面において硬質フィルムを形成し、容易には拭き取られない、ラッカーの形である。
【0017】
本発明の消毒組成物は、通常、広範囲の病原体から表面を衛生的にすることができる。この組成物は、芽胞形成細菌に対して特に効果的である。そのような芽胞形成細菌の一例がC.ディフィシルである。しかしながら、この組成物は、例えばMRSA、緑膿菌(P.
aeurginosa)、C.アルビカンス(C. albicans)およびA.ニガー(A.niger)などの、他の病原体に対しても効果的であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下は、本発明を実施する方法の、単に例を挙げての、添付の図および表を参照しての説明であり、その図および表は次の通りである:
【0019】
【図1】図1は、先行技術において用いられる発芽/駆除プロトコルを模式的に示す。
【図2】図2は、種々の発芽誘導物質溶液に1時間曝露し、その後、10分間熱ショックを与えたC.ディフィシルNCTC11204芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す。
【図3】図3は、各アミノ酸発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の70℃での10分間の熱ショックの後のC.ディフィシルNCTC11204芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す。
【図4】図4は、リボタイプ027、001、106およびNCTC11204株のC.ディフィシル芽胞との1時間のインキュベーションの後の、6.9mMタウロコール酸ナトリウムをも含有する発芽誘導物質溶液における、あるアミノ酸の組み合わせ(アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびヒスチジン)の濃度の効果を示す。
【図5】図5は、種々の発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の10分間の熱ショックの後のC.ディフィシルの種々の株の芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す。
【図6】図6は、10mMアルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジンおよびグリシンならびに6.9mMタウロコール酸ナトリウムを含有するトリス緩衝液におけるC.ディフィシルNCTC11204芽胞の発芽に対するpHの効果を示す。
【図7】図7は、種々の発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の熱ショックまたは氷上での冷却のいずれかの後のC.ディフィシル芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す(AA=アミノ酸、ST=タウロコール酸ナトリウム、BZC=塩化ベンザルコニウム、BZA=ベンジルアルコール)。
【図8】図8は、種々の発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の熱ショックまたは氷上での冷却のいずれかの後のC.ディフィシル芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す(CHG=ジグルコン酸クロルヘキシジン)。
【図9】図9は、PBS(コントロール)培養液中のC.ディフィシル栄養細胞の細胞数を示す。細胞数のうちの100%が24時間後に芽胞である。
【図10】図10は、本発明の発芽溶液中のC.ディフィシル栄養細胞の細胞数を示す。72時間後では細胞数のうちの100%が未だ栄養細胞である。
【図11】表1は、種々の発芽誘導物質溶液への1時間の曝露とその後の熱ショックまたは氷上での冷却のいずれかの後のC.ディフィシル芽胞のCFU/mLの対数減少値を示す。
【実施例】
【0020】
実施例1―発芽誘導物質溶液用のアミノ酸の組み合わせ
【0021】
C.ディフィシルの株
リボタイプ106株(18587)、リボタイプ001株(8565)(健康保護局(Health Protection Agency;HPA)、英国北東部)およびNCTC11204参考株を、3種類のリボタイプ027株;すなわちR20291(嫌気レファレンス研究所(Anaerobic Reference Laboratory)、カーディフ)、18040および15900(HPA、英国北東部)と共に用いた。
【0022】
C.ディフィシル芽胞懸濁液の調製
C.ディフィシルの芽胞を、以前(Shetty et al., 1999)に記載された通りに調製し
た。血液寒天プレートにC.ディフィシルの当該株を播種し、嫌気的に(ミニマックス嫌気ワークステーション(MiniMACS anaerobic work station)、ドン・ホイットリー社(Don Whitley)、英国シプリー)、72時間、37℃でインキュベートした。次いで、このプレートを移動して、室温で24時間、空気中に放置し、その後、すべてのコロニーを回収し、10mLの50%生理食塩水(0.9%w/v)および50%メタノール変性アルコール(methylated spirits)の中に入れた。この懸濁液を、ボルテックスで完全に混合し、その後、グラスウールに通して濾過し、使用するまで4℃で保存した。芽胞懸濁液は、各実験の前に、13000rpmで5分間遠心し、滅菌蒸留水(SDW)中に再懸濁した。
【0023】
アミノ酸
次のアミノ酸を、以下に詳述する実験において使用した:グリシン、L‐イソロイシン、L‐プロリン、D‐アラニン、L‐グルタミン酸、L‐エリン(L-erine)、L‐スレオニン、L‐スパラギン酸(L-spartic acid)、L‐アルギニン、L‐バリン、L‐ロイシン、L‐グルタミン、L‐トリプトファンおよびL‐アスパラギン(すべて、英国、シグマアルドリッチ社から)、L‐リシン、L‐ヒスチジンおよびL‐メチオニン(BDH社)、L‐β‐フェニルアラニン(ファイソンズ社(Fisons))ならびにL‐システイン(フルカ社(Fluka))。チロシンは、蒸留水中には溶解しなかったため、試験しなかった。
【0024】
C.ディフィシルの芽胞に対する共発芽誘導物質としての種々のアミノ酸の有効性
すべての発芽誘導物質溶液は、0.4%(w/v)のアミノ酸(以前の研究(Wheeldon
et al., 2008)において用いられたグリシンの濃度)および13.8mM(w/v)タ
ウロコール酸ナトリウム(シグマアルドリッチ社、英国)(十二指腸における生理学的濃度(Leverrier et al., 2003)の二倍)を含有しており、これらは、蒸留水中に溶解させて、121℃で15分間オートクレーブ処理を行うことにより滅菌した。13.8mMタウロコール酸ナトリウム(sodium taurocholate;ST)を含有する、二倍の濃度のチオ
グリコール酸塩培地(Oxid社、英国)も、他の発芽誘導物質溶液に対する比較のために試験した。次いで、各発芽誘導物質溶液100マイクロリットルを、100μLのC.ディフィシル芽胞(106CFU/mLを含有する)に加え、ボルテックスで完全に混合
した。1時間後、この体積全200μLを、9.8mLのウィルキンス‐チャルグレンブロス(Oxoid社、英国)に加え、10分間70℃に平衡化するかまたは氷上で冷却するかのいずれかを行った。適切な希釈の後に、1mL試料を滅菌ペトリ皿にそれぞれ入れ、その後、0.1%(w/v)STおよび5%(v/v)ウマ脱線維血液を含有する、15mLの融解した偏性嫌気性細菌用寒天培地(FAA)(Lab M社、英国)を加えた。このプレートは、完全に混合し、その後、48時間、37℃で嫌気的にインキュベートした。この方法は、Levinson and Hyatt(1966)を基に改変したものであった。
【0025】
C.ディフィシル芽胞の発芽に必要なアミノ酸の最適濃度の決定
アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびヒスチジンは、13.8mMのST(これは、必要な濃度の二倍であるが、これは、実験中にそれらを1:2希釈するからである)と共に、200、20、2、0.2および0.02mMにて調製し、蒸留水中に溶解させた。すべての溶液は、溶解するまで加熱し、また、オートクレーブ処理を行うことにより滅菌した。上記と同じ方法を用いて、C.ディフィシルNCTC11204、リボタイプ027(R20291)、001および106の芽胞に対して種々の濃度の発芽誘導物質溶液を試験した。
【0026】
C.ディフィシルの6種類の異なる株の芽胞に対するアミノ酸およびタウロコール酸塩の有効性
アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびヒスチジン(20mM w/vで)は、別々にまたは組み合わせて、13.8mM(w/v)STに加え、加熱することにより蒸留水に溶解させ、その後、オートクレーブ処理を行うことにより滅菌した。上記で記載したのと同じ方法を用いて、C.ディフィシルリボタイプ001、106、027(R20291、15900および18040)およびNCTC11204の芽胞に対するこれらのアミノ酸溶液の有効性を決定した。
【0027】
C.ディフィシル芽胞の発芽に対する緩衝発芽誘導物質溶液のpHの効果
アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびヒスチジン(20mM w/vで)、13.8mM(w/v)STならびに200mM(w/v)トリスは、蒸留水中に溶解させ、塩酸を用いてpH5、6、7、8および9へと調整し、その後、濾過(0.2μm)またはオートクレーブ処理により滅菌した。上記と同じ方法を用いて、C.ディフィシルNCTC11204の芽胞に対して各緩衝溶液を試験した。
【0028】
実施例2―C.ディフィシルに対する、抗菌防腐剤を含有する発芽誘導物質溶液の効果
【0029】
発芽誘導物質溶液
100mM(w/v)グリシン、ヒスチジン、バリン、アスパラギン酸およびアルギニン、13.8mM(w/v)タウロコール酸ナトリウム、100mM(w/v)トリス緩衝液、0.04%(w/v)塩化ベンザルコニウム、2%(v/v)ベンジルアルコールを含有する溶液は、蒸留水を用いて必要な体積にメスアップし、塩酸を用いてpH7へと調整した。この溶液を加熱し、完全に混合してすべての成分を溶解させ、その後、滅菌のため、0.2μmの孔径に通して濾過した(この溶液は、使用濃度の二倍であるが、これは、実験中にこれを1:2希釈するからである)。
【0030】
C.ディフィシル芽胞懸濁液の調製
C.ディフィシル芽胞の調製は、上記で述べた通りに調製した。
【0031】
中和剤
本中和剤は、Espigares et al.,(2003)を基に改変したものであり、以下のものを含
有していた:120mL(v/v)のTween80、25mL(v/v)の40%メタ重亜硫酸ナトリウム、15.69g(w/v)のチオ硫酸ナトリウム五水和物、10g(w/v)のL‐システイン、4g(w/v)のレシチン。これを蒸留水を用いて1000mLにメスアップした。pHは、7へと調整し、オートクレーブ処理を行って滅菌した。
【0032】
発芽有効性試験
100マイクロリットルの発芽誘導物質溶液(上記で記載したもの)を、100μLのC.ディフィシル芽胞(106CFU/mLを含有する)に加え、ボルテックスで完全に
混合した。コントロール用に、100μLの滅菌蒸留水を、100μLのC.ディフィシル芽胞懸濁液と混合した。また、芽胞懸濁液は、塩化ベンザルコニウムおよびトリス緩衝液を含有する(アミノ酸またはタウロコール酸塩は含有しない)溶液、トリス緩衝液と共にベンジルアルコールを含有する(アミノ酸およびタウロコール酸塩は含有しない)溶液、ならびに、5種類のアミノ酸およびタウロコール酸塩を含有する(抗菌剤を全く含有しない)溶液と共にインキュベートした。1時間後、この体積全200μLを、9.8mLの中和剤(上記で記載したもの)に加え、10分間70℃に平衡化する(発芽している細胞を殺傷するための熱ショック)かまたは氷上で冷却する(コントロール)かのいずれかを行った。適切な希釈の後に、1mL試料を滅菌ペトリ皿にそれぞれ入れ、その後、0.1%(w/v)STおよび5%(v/v)ウマ脱線維血液を含有する、15mLの融解した偏性嫌気性細菌用寒天培地(FAA)(Lab M社、英国)を加えた。このプレートは、完全に混合し、その後、嫌気的に、48時間、37℃でインキュベートした(ミニマックス嫌気ワークステーション(miniMACS Anaerobic Workstation)(ドン・ホイットリー・サイエンティフィック社(Don Whitley Scientific Ltd)))。この方法は、Levinson and Hyatt(1966)による以前の研究を基に改変したものであった。
【0033】
結果および考察
【0034】
C.ディフィシルNCTC11204の芽胞に対する、グリシンとの共発芽誘導物質としての他のアミノ酸の有効性
グリシンおよびSTを伴う、アルギニン、アスパラギン酸またはヒスチジンとのC.ディフィシルNCTC11204芽胞のインキュベーションは、熱ショック後に、それぞれ、2.78(99.8%)、3.06(9.99%)および3.12(99.9%)というCFU/mLの大きな対数減少値をもたらした。バリン(グリシンおよびSTを伴う)およびロイシン(グリシンおよびSTを伴う)は、それぞれ、1.72(98.1%)および1.62(97.6%)というCFU/mLの対数減少値をもたらしたが、これらは、グリシンおよびSTのみの場合(1.85の対数減少値(98.6%))に類似するものであった。試験した他のすべてのアミノ酸は、グリシンおよびタウロコール酸ナトリウムのみの場合よりも小さい対数減少値をもたらした。
【0035】
C.ディフィシルNCTC11204の芽胞に対する、グリシンおよびタウロコール酸ナトリウムの、単独でのおよび組み合わせての、共発芽誘導物質の有効性
STを含有する溶液の中へ、最初のスクリーニングからの最も効果的な4種類のアミノ酸(アルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジンおよびグリシン)を一緒に入れて、C.ディフィシル芽胞と共にインキュベートした場合には、STを伴うアルギニン、アスパラギン酸またはヒスチジンのいずれかと共に芽胞をインキュベートした場合(しかし、グリシンなしでは、各溶液によってもたらされたのは1未満の対数減少値であった)と比べて、3.71(99.9%)というCFU/mLのより大きな対数減少値が、熱ショック後に、もたらされた。
【0036】
C.ディフィシル芽胞の発芽に必要なアミノ酸の最適濃度の決定
クロストリジウム・ディフィシル芽胞の発芽は、アミノ酸濃度が10から100mMまでの間である場合に、試験したすべての株で最適であった。この濃度を下回る場合には、C.ディフィシル芽胞の発芽は有意に減少し、1未満の対数減少が0.1mMおよびそれ以下において観察された。熱ショックを与えずに芽胞を100mMのアミノ酸に曝露した場合には、C.ディフィシルのすべての株でCFU/mLの有意な減少が観察された。
【0037】
C.ディフィシルPCRリボタイプ027の種々の株の芽胞に対するアミノ酸およびタウロコール酸ナトリウムの有効性
STと組み合わせた前記4種類のアミノ酸に曝露したC.ディフィシルPCRリボタイプ027のすべての株は、芽胞をチオグリコール酸塩培地およびSTに曝露した場合にもたらされた対数減少値と類似する対数減少値をもたらした。グリシンおよびタウロコール酸ナトリウムと組み合わせた場合には、アスパラギン酸もヒスチジンも、各リボタイプ027株で観察されたCFU/mLの対数減少値を増加させたが、しかしながら、アルギニンは、グリシンおよびSTに加えた場合にCFU/mLの対数減少値のさらなる増加をもたらさなかった。最も興味深かったのは、2つの臨床株(18040および15900)が、STと組み合わせたチオグリコール酸塩培地または前記4種類のアミノ酸に応答してR20291株よりも有意に大きい対数減少値をもたらしたということであった。
【0038】
C.ディフィシルの6種類の異なる株の芽胞に対するアミノ酸およびタウロコール酸ナトリウムの有効性
アミノ酸およびチオグリコール酸塩溶液への曝露後のC.ディフィシルのNCTC11204参考株で、CFU/mLの最も大きい対数減少値がそれぞれ観察された。PCRリボタイプ001は、試験した種々の組み合わせの発芽誘導物質溶液のそれぞれにおいて、PCRリボタイプ207のR20291株に非常によく似た対数減少値をもたらした。例えば、C.ディフィシルリボタイプ001および027 R20291では、前記4種類のアミノ酸およびSTとのインキュベーションとその後の熱ショックの後に、それぞれ、2.12(99.2%)および1.98(99%)というCFU/mLの対数減少値がもたらされた。
【0039】
C.ディフィシルNCTC11204芽胞の発芽に対する緩衝発芽誘導物質溶液のpHの効果
緩衝発芽誘導物質溶液のpHは、当該アミノ溶液(およびST)とのインキュベーションとその後の熱ショックの後にもたらされるCFU/mLの対数減少値に大きく影響する。酸性のpH5では、この発芽溶液は、CFU/mLの対数減少をもたらさなかったが、一方、中性のpH6.98では、CFU/mLの3.32の対数減少値(99.9%)が観察され、;これが最適なpHであることが分かった。よりアルカリ性のpH8.81は、観察されたCFU/mLのこの対数減少値を減少させることとなったが、酸性pHの場合よりずっと小さい程度であった。
【0040】
C.ディフィシルに対する、抗菌防腐剤を含有する発芽誘導物質溶液の効果
トリス緩衝液中のアミノ酸とタウロコール酸塩との混合物と共にC.ディフィシル芽胞を1時間インキュベートし、その後、熱ショックを与えた後に、CFU/mLの3を超える対数減少値(99.9%減少)がもたらされた。しかしながら、熱ショックを与えない場合には、このアミノ酸溶液とのインキュベーション後の残存芽胞の数の減少はほとんどなかった(0.13の対数減少値)。トリス中に塩化ベンザルコニウムを含有する溶液またはトリス中にベンジルアルコールを含有する溶液とのC.ディフィシル芽胞のインキュベーションは、熱ショックがある場合にもない場合にも、0.3未満というCFU/mLの非常に低い対数減少値を生じさせた。しかしながら、トリス中にアミノ酸、タウロコール酸塩、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールを含有する溶液と共にC.ディ
フィシル芽胞をインキュベートした場合には、氷で処理した芽胞ではCFU/mLの2.77の対数減少値(99.8%減少)、また、熱ショックを与えた芽胞ではCFU/mLの2.99の対数減少値(99.9%減少)となった。
【0041】
EDTAおよびクオロロヘキシジン(cholorohexidine)は発芽誘導物質溶液を阻害す
るが、一方、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールは発芽に影響しない、とのことも発明者らは示した。塩化ベンザルコニウム(benzalkonium choloride)およびベンジルアルコールは殺芽胞性のものではなく、また、発芽を開始させるものではなかった。加熱処理されなかった芽胞は、塩化ベンザルコニウム(benzalkonium choloride)、ベンジルアルコール、アミノ酸およびタウロコール酸ナトリウムとの1時間のインキュベーション後に、死滅した。芽胞は、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールを含有する発芽誘導物質溶液でそれらが発芽するがために死滅したように思われる。
【0042】
当該中和剤は、C.ディフィシル細胞および他の細菌に対しては毒性がないとのことが分かった。また、当該中和剤は、これら抗菌剤の活性を無効にするするのに効果的であった。したがって、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、アミノ酸およびタウロコール酸ナトリウムとの1時間のインキュベーション後にもたらされるCFU/mLの減少は、寒天プレートに対するキャリーオーバーの効果の結果である可能性は低い。
【0043】
本願発明者らは、塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールが、発芽誘導物質溶液の有効性に影響しない、とのことも見出した。塩化ベンザルコニウムおよびベンジルアルコールは、それ故に、防腐効果を示し、C.ディフィシルの発芽している芽胞を殺傷するようである。
【0044】
芽胞形成に対する発芽溶液の阻害効果
図9および10に示す結果は、発芽溶液の存在下での培養72時間後では細胞数のうちの100%が未だ栄養細胞であり、一方、コントロール(PBS中の培養細胞)では細胞数のうちの100%が24時間後に芽胞である、とのことを指し示している。これらの結果は、本発明の発芽溶液が、C.ディフィシルの栄養細胞における芽胞形成を妨げる、とのことを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽誘導物質と抗菌剤とを含む消毒組成物であって、前記発芽誘導物質が、前記抗菌剤からの攻撃に対する病原体の感受性を増加させ、かつ、前記抗菌剤が、前記発芽誘導物質を阻害しない、消毒組成物。
【請求項2】
前記発芽誘導物質が、タウロコール酸塩と少なくとも2種類のアミノ酸とを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記タウロコール酸塩が、タウロコール酸ナトリウムであり、かつ、前記少なくとも2種類のアミノ酸が、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびバリンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記細菌性病原体が、C.ディフィシル(C. difficile)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、大腸菌(E. coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から選択される病原体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗菌剤が、塩化ベンジルコニウム(benzylkonium chloride)とベンジルアルコー
ルとを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記発芽誘導物質が、最終組成物を基準に、1から10mMまでの量で提供され、かつ、前記抗菌剤が、0.01%から2%までの量で提供される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
液体、ゲル、泡、スプレーまたは錠剤の形の、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物をしみ込ませた織物、メッシュまたはガーゼタイプの材料を含む、消毒ワイプ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を含む、消毒ハンドウォッシュ、または非生物表面をコーティングするための塗布剤もしくはラッカー。
【請求項10】
本質的に病原体フリーとなるよう表面を滅菌する方法であって、前記表面を、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物または請求項8に記載の消毒ワイプもしくは請求項8に記載の塗布剤と、前記病原体が発芽し殺傷されるのに十分な時間にわたり接触させることを含む方法。
【請求項1】
発芽誘導物質と抗菌剤とを含む消毒組成物であって、前記発芽誘導物質が、前記抗菌剤からの攻撃に対する病原体の感受性を増加させ、かつ、前記抗菌剤が、前記発芽誘導物質を阻害しない、消毒組成物。
【請求項2】
前記発芽誘導物質が、タウロコール酸塩と少なくとも2種類のアミノ酸とを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記タウロコール酸塩が、タウロコール酸ナトリウムであり、かつ、前記少なくとも2種類のアミノ酸が、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシンおよびバリンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記細菌性病原体が、C.ディフィシル(C. difficile)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、大腸菌(E. coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から選択される病原体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗菌剤が、塩化ベンジルコニウム(benzylkonium chloride)とベンジルアルコー
ルとを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記発芽誘導物質が、最終組成物を基準に、1から10mMまでの量で提供され、かつ、前記抗菌剤が、0.01%から2%までの量で提供される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
液体、ゲル、泡、スプレーまたは錠剤の形の、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物をしみ込ませた織物、メッシュまたはガーゼタイプの材料を含む、消毒ワイプ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を含む、消毒ハンドウォッシュ、または非生物表面をコーティングするための塗布剤もしくはラッカー。
【請求項10】
本質的に病原体フリーとなるよう表面を滅菌する方法であって、前記表面を、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物または請求項8に記載の消毒ワイプもしくは請求項8に記載の塗布剤と、前記病原体が発芽し殺傷されるのに十分な時間にわたり接触させることを含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2013−519720(P2013−519720A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553407(P2012−553407)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050278
【国際公開番号】WO2011/101661
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512213424)インサイト ヘルス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050278
【国際公開番号】WO2011/101661
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512213424)インサイト ヘルス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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