説明

発酵における改良された炭素捕捉

本発明は、COを含むガス状基質の微生物発酵による炭素捕捉法に関する。本発明の方法は、COをアルコール及び/又は酸を含む一つ又は複数の生成物に変換し、所望により総体的炭素捕捉を改良するためにCOを捕捉することも含む。ある側面において、本発明は、産業廃棄物ストリーム、特に製鋼所のオフガスからアルコール、特にエタノールを製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物発酵を含むプロセスにおける総体的な炭素捕捉の改良及び/又は総体的効率の改良のためのシステム及び方法に関する。特に、本発明は、産業発生源由来のCOを含む基質の微生物発酵を含むプロセスにおける炭素捕捉の改良及び/又は効率の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールは急速に世界中で主要な水素豊富液体輸送用燃料になりつつある。2005年におけるエタノールの世界的消費は推定122億ガロンであった。燃料エタノール産業に関する世界市場も、ヨーロッパ、日本、米国、及びいくつかの発展途上国でエタノールへの関心が高まっているため、将来的に急成長すると予測されている。
【0003】
例えば、米国では、エタノールは、エタノール10%混合ガソリンであるE10の製造に使用されている。E10ブレンドでは、エタノール成分は酸素化剤として作用し、燃焼効率を改良し、大気汚染物質の生成を削減する。ブラジルでは、エタノールは、ガソリンにブレンドされる酸素化剤として及びそれ自体でも純燃料として輸送用燃料需要の約30%を満たしている。ヨーロッパでも、温室効果ガス(GHG)排出の結果を取り巻く環境的懸念が刺激となり、欧州連合(EU)は、加盟国に対してバイオマス由来エタノールなどの持続可能な(地球に優しい)輸送用燃料の消費に関して義務的目標を設定している。
【0004】
燃料エタノールの大部分は、サトウキビから抽出されたショ糖又は穀類作物から抽出されたデンプンなどの作物由来炭水化物を主要炭素源として使用する伝統的な酵母ベースの発酵プロセスから製造されている。しかしながら、これらの炭水化物原料のコストは、人間又は動物の食料としてのそれらの価値によって影響され、他方で、エタノール製造用のデンプン又はショ糖を生産する作物の耕作は、すべての地域で経済的に維持可能とは限らない。そこで、より低コスト及び/又はより豊富な炭素資源を燃料エタノールに変換するための技術開発に関心が寄せられている。
【0005】
COは、石炭又は石油及び石油製品のような有機材料の不完全燃焼の主たる、遊離した、高エネルギー副産物である。例えば、オーストラリアの製鉄業は、年間500,000トンを超えるCOを生成し、大気中に放出していると報告されている。
【0006】
接触プロセスを使用すれば、主としてCO及び/又はCOと水素(H)からなるガスを様々な燃料及び化学物質に変換することができる。微生物もこれらのガスを燃料及び化学物質に変換するのに使用することができる。これらの生物学的プロセスは、一般的に化学反応よりも遅いが、高特異性、高収率、低エネルギーコスト及び中毒に対する耐性の高さといった、接触プロセスに優るいくつかの利点を有している。
【0007】
COを唯一の炭素源として増殖する微生物の能力は1903年に初めて発見された。これは後に、独立栄養増殖のアセチル補酵素A(アセチルCoA)生化学的経路(ウッド・ユングダール経路及び一酸化炭素デヒドロゲナーゼ/アセチルCoAシンターゼ(CODH/ACS)経路としても知られている)を使用する生物の特性と断定された。カルボキシド栄養性 (carboxydotrophic) 生物、光合成生物、メタン生成及び酢酸生成生物を含む多数の嫌気性生物は、COを様々な最終生成物、すなわちCO、H、メタン、n−ブタノール、アセテート及びエタノールに代謝することが示されている。COを唯一の炭素源として使用しながら、すべてのそのような生物はこれらの最終生成物の少なくとも二つを生成する。
【0008】
嫌気性細菌、例えばクロストリジウム属(genus Clostridium)の細菌は、アセチルCoA生化学的経路を介してCO、CO及びHからエタノールを生成することが示されている。例えば、ガスからエタノールを生成する様々なクロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)株が、WO00/68407、EP117309、米国特許第5,173,429号、5,593,886号及び6,368,819号、WO98/00558及びWO02/08438に記載されている。細菌のクロストリジウム・オートエタノゲナム種(Clostridium autoethanogenum sp)もガスからエタノールを生成することが知られている(Abriniら、Archives of Microbiology 161,pp345−351(1994))。
【0009】
しかしながら、微生物によるガスの発酵によるエタノール生成は常にアセテート及び/又は酢酸の同時生成を伴う。利用可能な炭素の一部はエタノールではなくアセテート/酢酸に変換されてしまうので、そのような発酵プロセスを用いるエタノールの製造効率は望ましいとは言い難い。また、アセテート/酢酸の副産物が何か他の目的に使用できない限り、それは廃棄物処理問題を提起しうる。アセテート/酢酸は微生物によってメタンに変換されるので、GHG排出に寄与する可能性もある。
【0010】
存在下でのCOの微生物発酵は、実質的に完全な炭素のアルコールへの移行をもたらすことができる。しかしながら、十分なHがないと、一部のCOはアルコールに変換されるが、相当部分は下記式に示すようにCOに変換される。
【0011】
6CO+3HO→COH+4CO
12H+4CO→2COH+6H
COの生成は、総体的な炭素捕捉の効率の悪さを表しており、放出されると、これも温室効果ガス排出に寄与する可能性がある。
【0012】
WO2007/117157(この開示内容は引用によって本明細書に援用する)に、一酸化炭素含有ガスの嫌気的発酵によってアルコール、特にエタノールを製造する方法が記載されている。発酵プロセスの副産物として生成するアセテートは、水素ガス及び二酸化炭素ガスに変換され、このいずれか又は両方は嫌気的発酵プロセスに使用できる。WO2008/115080(この開示内容は引用によって本明細書に援用する)に、多発酵段階でアルコール(一つ又は複数)を製造する方法が記載されている。第一のバイオリアクターでガス(一つ又は複数)の嫌気的発酵の結果として生成する副産物は、第二のバイオリアクターで生成物を製造するのに使用できる。さらに、第二の発酵段階の副産物は第一のバイオリアクターに生成物を製造するためにリサイクルすることができる。
【0013】
米国特許第7,078,201号及びWO02/08438にも、発酵が行われる液体栄養培地の条件(例えばpH及び酸化還元電位)を変えることによるエタノール製造のための発酵プロセスの改良法が記載されている。それらの公報に開示されているように、類似プロセスは、ブタノールのような他のアルコールの製造にも使用することができる。
【0014】
一つ又は複数の酸及び/又は一つ又は複数のアルコールを製造するための発酵プロセスに対するたとえ小さな改良でも、そのようなプロセスの効率、さらに詳しくは商業的実現性に顕著な影響を及ぼすことがある。
【0015】
例えば、発酵反応に供給するのに使用される供給源が何であれ、原料供給に中断があると問題が発生しうる。さらに詳しくは、そのような中断は、反応に使用されている微生物による製造効率に悪影響を与えかねず、場合によっては微生物に対しても有害となりうる。例えば、産業廃ガスストリーム中のCOガスを発酵反応に使用して酸/アルコールを製造するような場合、ストリームが産出されない時間があることがある。そのような時間の間、反応に使用される微生物は、不活性、非生産状態又は冬眠(休止)状態に入りうる。再びストリームが利用できるようになると、微生物が所望反応を実施するのに十分生産的になるまでのタイムラグが生じうる。従って、この遅延時間を削減又は排除するための手段があれば非常に有益であろう。
【0016】
別の例として、多くの産業プロセスでは、粒状物質(例えばダスト)及び排ガスを汚染しているその他の成分の濃度を削減するためにスクラバシステム又は装置が使用されている。乾式又は湿式スクラビングシステムが知られている。湿式スクラビングシステムでは、水又はその他の液体を使用して汚染物質をガスストリームから“スクラブ(洗浄)”している。典型的なスクラビングシステムは製鋼所で見られる。そこでは水を使用して製鋼の様々な段階で生じる煙道ガスをきれいにしている。例えば、コークス炉、高炉、酸素転炉又はアーク炉によって発生するガスなどである。スクラビングは排ガス中の汚染物質の濃度を削減するのに有益であるが、汚染物質を完全に排除することは決してない。望まざる物質は単にガスから除去されて固体又は粉末形にされるか、スクラバ水又は液体に取り込まれるだけである。従って、スクラバシステムで使用された水又は液体は、この産業によって生じる廃棄物ストリームになる。そのような廃棄物の処分は環境危険因子(ハザード)となる。そのような廃棄物を浄化及び処分する必要性も産業にとっては大きなコストとなる。
【0017】
従来の産業用スクラバ(製鋼所にあるような)は産業廃ガスストリームから一部の汚染物質を除去するが、当該技術分野では、該ガスを発酵反応への供給に使用する前に、該ガスに対する追加のスクラビング及び/又は処理ステップの実施が必要ということが受け入れられている。反応に使用される微生物に対するそのようなガスの有害性が認められているからである。例えば、Datarらによる、Fermentation of biomass−generated producer gas to ethanol,2004,Biotechnology and Bioengineering Vol.86,pp587−594参照。追加のスクラビング及び/又は処理ステップの使用は、工場に追加のスペースを必要とする。これは、発酵プロセスの使用を既存のプラントに追加する場合、特に問題となりかねない。従って、そのような追加のスクラビング又はその他の処理ステップを必要としない又は少なくとも最小限に抑えた改良プロセスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO00/68407
【特許文献2】EP117309
【特許文献3】米国特許第5,173,429号
【特許文献4】米国特許第5,593,886号
【特許文献5】米国特許第6,368,819号
【特許文献6】WO98/00558
【特許文献7】WO02/08438
【特許文献8】WO2007/117157
【特許文献9】WO2008/115080
【特許文献10】米国特許第7,078,201号
【特許文献11】WO02/08438
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Abrini et al., Archives of Microbiology 161, pp345-351(1994)
【非特許文献2】Datar et al.,2004, Biotechnology and Bioengineering Vol.86, pp587-594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、当該技術分野で公知の少なくとも一つの欠点を克服又は改善し、そして様々な有用製品の改良された及び/又は増大された生産のための新規方法を公に提供するシステム(一つ又は複数)及び/又は方法(一つ又は複数)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第一の側面において、微生物発酵による炭素捕捉法を提供する。該方法は、
i.産業プロセスからのCOを含むオフガスストリーム又は廃ガスストリーム(一つ又は複数)を受け取り;
ii.該ガスストリーム(一つ又は複数)を、一つ又は複数の微生物の培養物を含有するバイオリアクターに送り;そして
iii.バイオリアクター内で培養物を発酵させて一つ又は複数の生成物を製造する
ことを含む。
【0022】
ある態様において、該方法は、CO成分の少なくとも一部分を、CO除去装置を用いて、
i.バイオリアクターに入る前のストリーム;及び
ii.バイオリアクターを出た後のストリーム
の一方又は両方から捕捉することを含む。
【0023】
ある態様において、該方法は第一のガス分離ステップを含む。前記第一のガス分離ステップは、(i)ガスストリームを受け取り;(ii)ガスストリームの少なくとも一部分を実質的に分離し(前記一部分はガスストリームの一つ又は複数の成分を含む);そして(iii)分離された部分(一つ又は複数)の少なくとも一部をバイオリアクターに送ることを含む。一態様において、バイオリアクターに送られた前記分離された部分(一つ又は複数)の少なくとも一部はCOを含む。
【0024】
特定の態様において、該方法は第二のガス分離ステップを含む。前記第二のガス分離ステップは、(i)ガスストリームを受け取り;(ii)ガスストリームの少なくとも一部分を実質的に分離し(前記一部分はガスストリームの一つ又は複数の成分を含む);そして(iii)分離された部分(一つ又は複数)の少なくとも一部をCO除去装置に送ることを含む。一態様において、ガス分離ステップは、ガスストリームからCOを実質的に分離し、分離されたCOをCO除去装置に送る。
【0025】
特定の態様において、該方法は、ガスストリームの緩衝及びの少なくとも一部を実質的に連続様式でバイオリアクターに送ることを含む。一態様において、緩衝のステップは、(i)間欠的又は非連続的なガスストリームを貯蔵手段で受け取り;そして(ii)前記貯蔵手段から実質的に連続的なストリームをバイオリアクターに送ることを含む。
【0026】
ある態様において、該方法は、一つ又は複数のガスストリームを少なくとも一つの他のストリームとブレンドすることを含む。
ある態様において、該方法は、産業プロセスからのスクラバ水をバイオリアクターに加えることを含む。
【0027】
第二の側面において、微生物発酵による炭素捕捉のためのシステムを提供する。該システムは、産業プロセスからのオフガス又は廃ガスを受け取るための入口を含む。使用時、該システムは、微生物発酵によって生成物を生成させるためにガスの少なくとも一部分をバイオリアクターに送るように構成されている。
【0028】
ある態様において、該システムはCO除去装置を含み、該装置は、使用時、CO成分の少なくとも一部分を、
i.バイオリアクターに入る前のストリーム;及び
ii.バイオリアクターを出た後のストリーム
の一方又は両方から捕捉するように構成されている。
【0029】
特定の態様において、該システムは第一のガス分離装置を含み、該装置は、使用時、(i)ガスストリームを受け取り;(ii)ガスストリームの少なくとも一部分を実質的に分離し(前記一部分はガスストリームの一つ又は複数の成分を含む);(iii)分離された部分の少なくとも一部をバイオリアクターに送るように構成されている。一態様において、第一のガス分離装置は、使用時、ガスストリームからCOを実質的に分離し、分離されたCOをバイオリアクターに送るように適合されている。
【0030】
特定の態様において、該システムは第二のガス分離装置を含み、該装置は、使用時、(i)ガスストリームを受け取り;(ii)ガスストリームの少なくとも一部分を実質的に分離し(前記一部分はガスストリームの一つ又は複数の成分を含む);そして(iii)分離された部分の少なくとも一部をCO除去装置に送るように構成されている。一態様において、第二のガス分離装置は、ガスストリームからCOを分離し、分離されたCOをCO除去装置に送るように適合されている。
【0031】
ある態様において、該システムは緩衝手段を含み、該緩衝手段は、使用時、基質ストリームを実質的に連続的なストリームでバイオリアクターに提供するように適合されている。特定の態様において、該緩衝手段は緩衝貯蔵タンクを含み、該緩衝貯蔵タンクは、使用時、
i.間欠的又は非連続的なガス/基質ストリームを受け取り;そして
ii.実質的に連続的なガス/基質ストリームをバイオリアクターに送る
ように適合されている。
【0032】
ある態様において、該システムはブレンド手段を含み、該ブレンド手段は、使用時、ガスストリームを少なくとも一つの他のストリームと組み合わせた後、該組み合わされたストリームをバイオリアクターに送るように適合されている。
【0033】
特定の態様において、該システムは、バイオリアクターに供給される及び/又はバイオリアクターから排出される少なくとも一つのガスストリームの組成をモニターするための少なくとも一つの測定手段を含む。ある態様において、該システムは、一つ又は複数のガス/排出ストリームの少なくとも一部分を、
i.バイオリアクター;
ii.CO除去装置;
iii.第一のガス分離装置;
iv.第二のガス分離装置;
v.緩衝手段;
vi.ブレンド手段;及び
vii.排出手段
の一つ又は複数に向かわせるための制御手段を含む。
i〜viiの送り先の内の特定のものが、測定手段によってなされた測定に少なくとも部分的に基づいて選ばれる。
【0034】
第三の側面において、バイオリアクターでの基質の微生物発酵による生成物製造プロセスにおける総体的炭素捕捉を増大させるためのシステムを提供する。該システムは、CO成分の少なくとも一部分を、
i.バイオリアクターに入る前のストリーム;及び
ii.バイオリアクターを出た後のストリーム
の一方又は両方から捕捉するように構成されているCO除去装置を含む。
【0035】
第四の側面において、ガス(一つ又は複数)の供給が間欠的である場合の前記ガス(一つ又は複数)の微生物発酵による生成物製造プロセスの効率を増大させるためのシステムを提供する。該システムは、ガスの少なくとも一部分を受け取って貯蔵するように適合された緩衝手段、及びガスの少なくとも一部分を該緩衝手段から受け取るように適合されたバイオリアクターを含む。
【0036】
第五の側面において、ガス(一つ又は複数)の微生物発酵による生成物製造プロセスの効率を増大させるためのシステムを提供する。該システムは、ガスストリームを受け取り、前記ストリームの少なくとも一部分をバイオリアクターに送るように構成されたガス分離装置を含む。
【0037】
第六の側面において、廃ガス(一つ又は複数)の微生物発酵によってアルコールを製造するように適合された製鋼所を提供する。
特定の側面に従って、本発明のシステム及び方法は、一酸化炭素含有ガスの嫌気的発酵によってアルコール、さらに詳しくはエタノール及び/又はブタノールを製造するプロセスでの使用に適合されている。さらに又はあるいは、酸、例えば酢酸又はアセテートが製造されてもよい。しかしながら、本発明はそれに限定されず、その他の発酵反応、例えば好気的発酵、イソプロパノール又はHのような異なる生成物を生成するもの、及び炭素含有ガスの発酵を含まないものもカバーするものとする。
【0038】
本発明の態様は、酸及び/又はアルコールを製造するためにCOを含むガス状基質の発酵に特に応用されるが、本発明の特定の側面はCOを含む基質に限定されない。ガス状基質は、産業プロセスの副産物として得られるガスを含みうる。ある態様において、産業プロセスは、鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製プロセス、バイオマスのガス化、石炭のガス化、発電、カーボンブラック製造、アンモニア製造、メタノール製造及びコークス製造からなる群から選ばれる。最も好ましくは、ガス状基質は、製鋼所から得られるガスを含む。
【0039】
ある好適な態様において、ガス状基質は、体積で20%CO〜100%CO、例えば体積で50%CO〜95%CO、例えば体積で50%〜70%COを含む。6%というようなCO濃度が低いガス状基質も、特にH及びCOも併存している場合、適切であり得る。
【0040】
好適な態様において、発酵反応は、カルボキシド栄養性(carboxydotrophic)細菌の一つ又は複数の株によって実施される。
好ましくは、カルボキシド栄養性細菌は、クロストリジウム(Clostridium)、ムーレラ(Moorella)及びカルボキシドサーマス(Carboxydothermus)から選ばれる。最も好ましくは、カルボキシド栄養性細菌はクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
次に、本発明を添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【図1】図1は、本発明のある態様に従って、バイオリアクターの下流にCO除去装置を含むシステムの概略図である。
【図2】図2は、本発明のある態様に従って、バイオリアクターの上流にCO除去装置を含むシステムの概略図である。
【図3】図3は、バイオリアクターの下流にCO除去装置及び基質ストリームをバイオリアクターに戻すための手段を含むシステムの概略図である。
【図4】図4は、本発明のある態様に従って、バイオリアクターの上流にガス分離装置を含むシステムの概略図である。
【図5】図5は、本発明のある態様に従って、バイオリアクターの下流にガス分離装置を含むシステムの概略図である。
【図6】図6は、本発明のある態様に従って、二つのガス分離装置:バイオリアクターの上流に一つのガス分離装置及びバイオリアクターの下流に一つのガス分離装置を含むシステムの概略図である。
【図7】図7は、本発明のある態様に従って、緩衝貯蔵タンクを含むシステムの概略図である。
【図8】図8は、本発明のある態様に従って、所望による緩衝貯蔵タンクを含むシステムの概略図である。
【図9】図9は、本発明のある態様に従って、コンプレッサーを含むシステムの概略図である。
【図10a】図10aは、本発明のある態様に従って、複数の基質ストリーム源及び緩衝貯蔵タンクを含むシステムの概略図である。
【図10b】図10bは、本発明のある態様に従って、複数の基質ストリーム源及び緩衝貯蔵タンクを含むシステムの概略図である。
【図11】図11は、本発明のある態様に従って、緩衝貯蔵タンク、ガス分離装置及びCO除去装置を含むシステムの概略図である。
【図12】図12は、本発明のある態様に従って、廃棄物ストリームから炭素を捕捉するように適合されたシステムの概略図である。
【図13】図13は、本発明のある態様に従って、ブレンド手段を含むシステムの概略図である。
【図14】図14は、資源として製鋼所のガスを使用した場合の時間に伴う微生物増殖を示し;そして
【図15】図15は、資源として製鋼所のガスを使用した場合の時間に伴う生成物合成、すなわちアセテート生成を示す。
【図16】図16は、実験室培地における時間に伴う細菌増殖及び生成物合成を示し;そして
【図17】図17は、製鋼所のスクラバ水と1:1の比率で混合した実験室培地を用いた場合の時間に伴う細菌増殖及び生成物合成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明のある方法によれば、産業プロセスからの廃ガス又はオフガスが発酵反応の補給及び/又は支持に使用できるが、その際、発酵プロセスが実施されるバイオリアクターにガスを送る前にガスに対してなされる追加の加工又は処理ステップは最小限である。このことは、廃ガス又はオフガスは、発酵に使用される微生物の増殖及び/又は生存に有害と思われる汚染物質を含有していると一般的に信じられているため、特に驚くべきことである。本発明は、製鋼プロセス中に生成する廃ガス又はオフガス、特にCOを含有するものに対して特に適用可能性を有する。該ガスは、アルコール(例えばエタノール、ブタノール、イソプロパノール)及び/又は酸(例えば酪酸、酢酸及び/又はアセテート)及び/又は水素を製造するために用いられる。そのようなプロセスを実施できる微生物は様々あるが、本発明は、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)の使用を伴う発酵プロセスに対して特に適用可能性を有する。
【0043】
本発明のこの側面は、廃ガスを発酵反応に使用する前に該ガスに対して実施される予備加工ステップの数を少なくする又は予備加工ステップをなくすという点で非常に価値がある。従って、本発明は、特に、発酵を実施するための装置を追加するのに限られた所定量のスペースしか利用できない既存の工場において、そのような発酵プロセスの幅広い適合性及び/又は適用可能性を提供する。また、廃ガスに対して実施されるスクラビング及び/又は前処理プロセスがないか又は限定的であることから、本発明の態様は、スクラビング及び/又は前処理プロセスから生じた廃棄物又は汚染物質を処理する必要がなくなるため、産業プロセスから出る廃棄物を改善又は削減することもできる。
【0044】
製鋼以外の産業プロセスから出る廃ガスも同様に本発明の方法に使用できる。本発明は、炭素及びエネルギー源として一酸化炭素以外のガス状基質を利用し、エタノール以外のアルコールを生成し、水素を生成し、及び/又はクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)以外の微生物を利用する発酵反応にも容易に適用可能である。
【0045】
発酵プロセスに使用するのに適切な基質は多くの場合COも含有する。その上、例えばCOが酸及び/又はアルコールを含む生成物に変換される多くの発酵反応においては、相当量のCOも生成されうる。本発明は、そのような発酵反応における総体的炭素捕捉を改良するための方法、システム、及びプロセスに関する。
【0046】
本発明の方法によれば、基質ストリームからCO(又はその他のガス)を除去することは、CO濃度(又はガス状基質中のCO分圧)を増大するので、COが基質となる発酵反応の効率も増大することになる。ガス状基質中のCO分圧の増大は、発酵培地へのCO物質移動を増大する。さらに、発酵反応に供給するのに使用されるガスストリームの組成は、該反応の効率及び/又はコストに顕著な影響を与えうる。例えば、O2は嫌気的発酵プロセスの効率を低下させうる。さらに、発酵プロセスの段階で発酵の前又は後に望まざる又は不必要なガスを処理することは、そのような段階における負担を増大しかねない(例えば、ガスストリームがバイオリアクターに入る前に圧縮される場合、発酵に必要でないガスの圧縮のために不必要なエネルギーが使用されうる)。さらに又はあるいは、特定の基質ストリームのCO成分は、別の発酵反応を含む別の反応に使用されれば非常に価値が高いであろう。
【0047】
さらに、本発明の方法によれば、ストリーム中のCO濃度を増大させる、例えばガス状ストリーム中のCO分圧を増大させることは、発酵のようなCOを利用するプロセスの効率も増大させることになる。発酵のようなCOを利用するプロセスの例は当該技術分野で周知である。そのようなプロセスの例はWO2006/108532に詳細に記載されている(引用によって本明細書に援用する)。
【0048】
本発明のある側面は、一般的に、微生物発酵を含むプロセスにおける総体的炭素捕捉を改良するためのシステム及び方法に関する。特定の態様において、本発明は、発酵反応に供給される基質ストリームからのCO捕捉に関する。あるいは、又はさらに、本発明は、バイオリアクターを出た後の排出ストリームからのCO捕捉に関する。本発明の特定の態様において、発酵反応に供給される基質はCOを含む。
【0049】
さらに、上記のようなプロセスの総体的炭素捕捉を改良するために、炭素含有成分、例えばCO及び/又はCHを除去及び/又は捕捉するのが望ましいであろう。さらに又はあるいは、特定のガスの成分は、発酵反応以外の他の場所で使用されれば非常に有益であろう(例えばHは燃料として使用するのに相当価値がある)。
【0050】
本発明のある側面は、一般的に、ガスの微生物発酵による生成物製造プロセスの効率を、特に発酵に供給するのに使用されるガスストリーム及び/又は発酵の結果生じるガスストリームに対して少なくとも一つのガス分離プロセスを使用することを通じて改良するためのシステム及び方法に関する。一態様において、ガス分離装置は、ガスストリームの少なくとも一つの部分を実質的に分離するように構成され、該部分は一つ又は複数の成分を含む。例えば、ガス分離装置は、下記成分:CO、CO、Hを含むガスストリームからCOを分離でき、COはCO除去装置に送られ、残りのガスストリーム(COとHを含む)はバイオリアクターに送られうる。
【0051】
製鋼所における鉄からスチールへのバッチ処理のような産業プロセス中に生成するガスストリームは、間欠的な性質のものでありうる。このことは、そのようなガスをバイオ変換に使用する場合、望ましくないであろう。その上、該ストリームの性質は、特定の産業プロセスの様々な局面の間、ガスの組成が周期的に変動しうるようなものでありうる。例えば、製鋼プロセスにおいて、本質的に酸素を含まないガスが生成される期間中、CO濃度は最高になる。反対に、ガスが概してCOを含まない場合、相当濃度のO2が存在しうる。多くの発酵反応、例えば嫌気性細菌、特にカルボキシド栄養性細菌が関与する発酵反応は、本質的にO2を含まない高CO濃度を必要とする。
【0052】
本発明のある側面は、一般的に、発酵反応に供給するのに使用されるガスストリーム(又は溶解ガス及び/又は炭水化物のようなその他の供給源)が間欠的性質である場合のガスの微生物発酵による生成物製造プロセスの効率を改良するためのシステム及び方法に関する。本発明の特定の態様は製鋼業を背景に、カルボキシド栄養性細菌を用いる酸及び/又はアルコール、特にエタノール又はブタノールの製造が記載される。当業者であれば、本開示に鑑みて、本発明は、製鋼プロセスの様々な段階のみならず異なる産業にも適用できることは分かるであろう。同じく当業者であれば、本開示に鑑みて、本発明は、同じ又は異なる微生物を使用する発酵反応を含むその他の発酵反応にも適用できることは分かるであろう。従って、本発明の範囲は記載された特定の態様及び/又は適用に限定されないものとする。それどころか、プロセスに供給するのに使用される少なくとも一つのエレメントが間欠的様式で供給される(例えば産業プロセスからの廃ガスが使用される場合、該ガスは間欠的に生成する)あらゆる発酵プロセスに関すると理解されるべきである。
【0053】
本発明のある側面は、一般的に、基質ストリームの微生物発酵による生成物製造及び/又は炭素捕捉のためのプロセスの効率を改良するためのシステム及び方法であって、微生物発酵のために組成を最適にするために基質ストリームが追加のストリームとブレンドされるシステム及び方法に関する。
【0054】
驚くべきことに、塩基性酸素製鋼プロセス又は製鋼所の酸素転炉のオフガスストリームからのスクラバ水を、本発明の方法に従ってエタノール製造のために一酸化炭素含有ガスを利用する発酵反応の標準微生物増殖培地と混合すると、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)の増殖のみならず、そのエタノール製造能力も改良される。このことは、その水は微生物の増殖及び生存に有害であろう汚染物質を含有していると思われていたので、特に驚くべきことである。
【0055】
この発見は、産業プロセスからの廃棄物を改善又は削減し、発酵反応の効率を増大し、発酵反応を支持するのに必要とされる培地の量を削減し、ひいては運転コストを低減するという点で非常に価値がある。従って、本発明は、そのような発酵反応中に形成されるアセテート副産物の量を低下させる役割を果たしうる。このことは、アセテートが役に立たず、用がなければ廃棄され、産業に対してはコストの増大をもたらし、環境問題も引き起こすような状況においては有益であろう。
【0056】
得られた結果に基づき、本発明は、発酵反応のための主要供給原料としてのスクラバ水の使用を可能にする。製鋼以外の産業プロセスからのスクラバ水も同様に使用できる。さらに、本発明は、炭素及びエネルギー源として一酸化炭素以外のガス状基質を利用し、エタノール以外のアルコールを生成し、水素を生成し、及び/又はクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)以外の微生物を利用する発酵反応にも容易に適用可能である。
【0057】
上記側面のいずれか二つ以上のそれぞれの一つ又は複数の特徴は、同じシステム内で随伴する利点とともに併用できる。
定義
別途記載のない限り、本明細書全体にわたって使用されている下記用語は以下のように定義される。
【0058】
“炭素捕捉”という用語は、本明細書中では、CO及び/又はCOを含む炭素化合物を、CO及び/又はCOを含むストリームから分離し、
・CO及び/又はCOを生成物に変換する;又は
・CO及び/又はCOを長期保存に適切な物質に変換する;又は
・CO及び/又はCOを長期保存に適切な物質中に捕捉する;
又はこれらのプロセスの組合せのいずれかを実施することを言う。
【0059】
“一酸化炭素を含む基質”という用語及び類似用語は、一酸化炭素が一つ又は複数の細菌株の例えば増殖及び/又は発酵に利用されうるあらゆる基質を含むと理解されるべきである。
【0060】
“一酸化炭素を含むガス状基質”は、一酸化炭素を含有するあらゆるガスを含む。ガス状基質は、典型的には、相当割合のCO、好ましくは体積で少なくとも約5%〜約100%のCOを含有する。
【0061】
“バイオリアクター”という用語は、一つ又は複数の容器及び/又は塔又は配管からなる発酵装置を含み、連続撹拌槽リアクター(Continuous Stirred Tank Reactor, CSTR)、固定化細胞リアクター(Immobilized Cell Reactor, ICR)、細流床リアクター(Trickle Bed Reactor, TBR)、バブルカラム(Bubble Column)、ガスリフト発酵槽(Gas Lift Fermenter)、膜リアクター(Membrane Reactor)、例えば中空繊維膜バイオリアクター(Hollow Fiber Membrane Bioreactor,HFMBR)、静的ミキサー(Static Mixer)、又は気液接触に適切なその他の容器又はその他の装置を含む。
【0062】
“補基質(co-substrate)”という用語は、必ずしも生成物合成の主要エネルギー及び材料源ではないが、別の基質、例えば主要基質に加えた場合、生成物合成に利用できる基質のことを言う。
【0063】
“酸”という用語は、本明細書中では、カルボン酸及び関連するカルボキシレートアニオンの両方を含む。例えば本明細書中に記載の発酵ブロス中に存在する遊離酢酸及びアセテートの混合物などである。発酵ブロス中の分子酸対カルボキシレートの比率は、系のpHに依存する。さらに、“アセテート”という用語は、酢酸塩単独及び分子状又は遊離酢酸と酢酸塩の混合物の両方を含む。例えば本明細書中に記載の発酵ブロス中に存在する酢酸塩と遊離酢酸の混合物などである。
【0064】
“制限的濃度”という用語は、微生物発酵培地中の所定成分の初期濃度のことで、これは発酵のどこかの段階で枯渇することが確実なほど十分に低い。
“間欠ストリーム”という用語は、連続的に入手できないストリームだけでなく、所望の組成を連続的に持たないストリームも意味する。
【0065】
“スクラバ水”という用語は、鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製プロセス、石炭のガス化、バイオマスのガス化、発電、カーボンブラック製造及びコークス製造などの産業プロセス中に生成するガスストリームの浄化の結果得られる水又はその他の液体のことである。
【0066】
産業オフガス又は廃ガスをバイオリアクターに送ることに関連して使用される“直接(そのまま)”という用語は、バイオリアクターに入る前のガスに対して、冷却及び粒状物質除去といった加工又は処理ステップを全く又は最小限しか実施しないことを意味するために使用される(注:嫌気的発酵の場合、酸素の除去ステップは必要となりうる)。
【0067】
“所望の組成”という用語は、物質中、例えばガスストリームの成分が所望濃度及びタイプであることについて使用される。さらに詳しくは、ガスは、特定の成分(例えばCO及び/又はCO)を含有する及び/又は特定の成分を特定の濃度で含有する及び/又は特定の成分(例えば微生物に有害な汚染物質)を含有しない及び/又は特定の成分を特定の濃度で含有しない場合に、“所望の組成”を有するとみなされる。ガスストリームが所望の組成を有しているかどうかを決定する場合、二つ以上の成分が考慮される。
【0068】
“ストリーム”という用語は、プロセスの一つ又は複数の段階に入る、そこを通過する及びそこから出る材料の流れを言うために使用される。例えば、前記材料とはバイオリアクター及び/又は所望によりCO除去装置に供給される材料のことである。ストリームの組成はストリームが特定の段階を通過するに従って変動しうる。例えば、ストリームがバイオリアクターを通過すると、ストリームのCO含有量は減少しうるが、CO含有量は増加しうる。同様に、ストリームがCO除去装置の段階を通過すると、CO含有量は減少する。
【0069】
文脈上他の意味に解すべき場合を除き、“発酵する”、“発酵プロセス”又は“発酵反応”などの語句は、本明細書中では、プロセスの増殖期及び生成物生合成期の両方を包含するものとする。
【0070】
“効率を増大する”、“増大した効率”などの用語は、発酵プロセスとの関連で使用される場合、以下の一つ又は複数を増大することを含むが、これらに限定されない。すなわち、発酵における微生物の増殖速度、消費される基質(例えば一酸化炭素)の体積又は質量あたり生成する所望生成物(例えばアルコール)の体積又は質量、所望生成物の生成速度又は生成量、及び生成した所望生成物を発酵の他の副産物と比較した場合の相対的割合。この用語は、さらに、プロセス中に生成する何らかの副産物の価値(正でも負でも)も反映しうる。
【0071】
一側面において、本発明は、基質の微生物発酵による生成物製造プロセスにおける総体的炭素捕捉を増大するためのシステム及び方法に関し、前記システム及び方法は、発酵反応の前(すなわち上流)又は後(すなわち下流)の基質及び/又はストリームに対して実施される少なくとも一つのCO除去プロセスを含む。本発明のある態様において、基質はCOを含む。典型的には、基質はガス状であるが、本発明はそれに限定されない。
【0072】
一側面において、本発明は、ガスの微生物発酵による生成物製造プロセスの効率を増大するためのシステム及び方法に関し、前記システム及び方法は、発酵反応の前(すなわち上流)又は後(すなわち下流)のガスに対して実施される少なくとも一つのガス分離プロセスを含む。前述のように、特定の態様において、微生物発酵に使用される基質ガスはCOを含むが、本発明はそれに限定されない。
【0073】
別の特定の側面において、本発明は、ガスの微生物発酵による生成物製造プロセスの効率を、特にガスの供給が間欠的な性質である場合に増大するためのシステム及び方法に関する。特定の態様において、微生物発酵に使用される基質ガスはCOを含むが、本発明はそれに限定されない。
【0074】
本発明はさらに、微生物発酵を用いてアルコールを製造するための方法及びシステムも提供する。これらの方法及びシステムは、製鋼のような産業プロセスからの廃ガスを発酵反応に使用することを含む。この場合、そのような使用の前にガスに対して実施される追加の加工ステップはないか又はごく最小限である。ある態様において、一つ又は複数の産業プロセス及び/又は代替供給源由来の廃ガスは、発酵反応に望ましい又は最適な組成を有するストリームを提供するために組み合わされる又はブレンドされる。
【0075】
本発明はまた、少なくとも一部は製鋼のような産業プロセスに由来するCOを含む基質ストリームの組成を最適化するための方法及びシステムも提供する。
本発明はまた、微生物発酵を用いるアルコールの製造法及び微生物発酵を用いるアルコール製造の効率増大法も提供する。一態様において、これらの方法は、発酵反応に産業プロセスからのスクラバ水を利用することを含む。
【0076】
本発明のある態様、すなわち主要基質としてCOを用いる嫌気的発酵によるエタノールの製造を含む態様は、現在の非常に関心のある技術に対する価値ある改良であることは容易に分かるが、当然のことながら、本発明は、他のアルコールのような代替生成物の製造及び代替基質(特にガス状基質)の使用にも適用可能であることは、本発明の関連する分野の当業者であれば、本開示を考慮すれば分かるはずである。例えば、二酸化炭素及び水素を含有するガス状基質を本発明の特定の態様において使用することができる。さらに、本発明は、アセテート、ブチレート、プロピオネート、カプロエート、エタノール、プロパノール及びブタノール、並びに水素を製造するための発酵にも適用できる。例えば、これらの生成物は、ムーレラ(Moorella)、クロストリジウム(Clostridia)、ルミノコッカス(Ruminococcus)、アセトバクテリウム(Acetobacterium)、真正細菌(Eubacterium)、ブチリバクテリウム(Butyribacterium)、オキソバクター(Oxobacter)、メタノサルシナ(Methanosarcina)、及びデスルホトマクルム(Desulfotomaculum)属の微生物を使用する発酵によって製造できる。
【0077】
本発明のある態様は、一つ又は複数の産業プロセスによって生成したガスストリームを使用するように適合されている。そのようなプロセスは、製鋼プロセス、特に高CO含有量又は所定濃度(すなわち5%)より高いCO含有量を有するガスストリームを生成するプロセスなどである。そのような態様に従って、好ましくはカルボキシド栄養性細菌が、酸及び/又はアルコール、特にエタノール又はブタノールを一つ又は複数のバイオリアクター内で生成するのに使用される。当業者は本開示を考慮すれば、本発明は、様々な産業又は廃ガスストリーム、例えば内燃機関を有する自動車のそれにも適用できることは分かるであろう。また、当業者は本開示を考慮すれば、本発明は、同じ又は異なる微生物を使用するものを含むその他の発酵反応にも適用できることは分かるであろう。従って、本発明の範囲は、記載された特定の態様及び/又は用途に限定されず、それどころか広義に理解されるものとする。例えば、ガスストリームの供給源は、その少なくとも一つの成分が発酵反応に供給するのに使用可能であるという以外に制限はない。本発明は、自動車の排ガス及び高容量のCO含有産業煙道ガスなどのガス状基質からの総体的炭素捕捉及び/又はエタノール及びその他のアルコール製造の改良に特に適用性がある。
【0078】
発酵
ガス状基質(例えば上記背景の部で記載したものなど)からのエタノール及びその他のアルコールの製造法は知られている。例示的プロセスは、例えば、WO2007/117157及びWO2008/115080、並びに米国特許第6,340,581号、6,136,577号、5,593,886号、5,807,722号及び5,821,111号に記載されているものなどである(前記特許はそれぞれ引用によって本明細書に援用する)。
【0079】
いくつかの嫌気性細菌が、COのアルコール(n−ブタノール及びエタノールを含む)及び酢酸への発酵を実行できることが知られており、本発明のプロセスに使用するのに適している。本発明に使用するのに適切なそのような細菌の例は、クロストリジウム属の細菌、例えばクロストリジウム・リュングダリイ(Clostridium ljungdahlii)(WO00/68407、EP117309、米国特許第5,173,429号、5,593,886号及び6,368,819号、WO98/00558及びWO02/08438に記載のものを含む)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxydivorans)(Liouら、International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 33:pp2085−2091)及びクロストリジウム・オートエタノゲナム (Clostridium autoethanogenum) (Abriniら、Archives of Microbiology 161:pp345−351)の株などである。その他の適切な細菌は、ムーレラ属の細菌、例えばムーレラ種HUC22−1(Moorella sp HUC22-1)(Sakaiら、Biotechnology Letters 29:pp1607−1612)、及びカルボキシドサーマス(Carboxydothermus)属の細菌(Svetlichny,V.A.,ら(1991),Systematic and Applied Microbiology 14:254−260)などである。これらの各出版物の開示内容は引用によって本明細書に援用する。さらに、その他のカルボキシド栄養性嫌気性細菌も当業者によって本発明のプロセスに使用できる。当然のことながら、本開示を考慮すれば、二つ以上の細菌の混合培養物も本発明のプロセスに使用できることは分かるであろう。
【0080】
本発明の方法に使用される細菌の培養は、嫌気性細菌を用いる基質の培養及び発酵のための当該技術分野で公知の様々なプロセスを用いて実施できる。例示的技術は以下の“実施例”の部に提供されている。更なる例として、発酵にガス状基質を用いる下記文献に一般的に記載されたプロセスも利用できる。(i)K.T.Klassonら,(1991).Bioreactors for synthesis gas fermentations resources.Conservation and Recycling,5;145−165;(ii)K.T.Klassonら,(1991).Bioreactor design for synthesis gas fermentations.Fuel.70.605−614;(iii)K.T.Klassonら,(1992).Bioconversion of synthesis gas into liquid or gaseous fuels.Enzyme and Microbial Technology.14;602−608;(iv)J.L.Vega,ら(1989).Study of Gaseous Substrate Fermentation:Carbon Monoxide Conversion to Acetate.2.Continuous Culture.Biotech.Bioeng.34.6.785−793;(vi)J.L.Vega,ら(1989).Study of gaseous substrate fermentations:Carbon monoxide conversion to acetate.1.Batch culture.Biotechnology and Bioengineering.34.6.774−784;(vii)J.L.Vega,ら(1990).Design of Bioreactors for Coal Synthesis Gas Fermentations.Resources,Conservation and Recycling.3.149−160;これらはすべて引用によって本明細書に援用する。
【0081】
本発明に使用するのに適切な一つの微生物の例はクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)である。一態様において、クロストリジウム・オートエタノゲナムは、German Resource Centre for Biological Material(DSMZ)に識別寄託番号19630で寄託された株の識別特徴を有するクロストリジウム・オートエタノゲナムである。別の態様において、クロストリジウム・オートエタノゲナムは、DSMZ寄託番号DSMZ10061の識別特徴を有するクロストリジウム・オートエタノゲナムである。
【0082】
発酵は任意の適切なバイオリアクター中で実施できる。本発明のある態様において、バイオリアクターは、微生物が培養される第一の増殖リアクターと、増殖リアクターからの発酵ブロスが供給され、ほとんどの発酵生成物(例えばエタノール及びアセテート)が製造される第二の発酵リアクターとを含みうる。
【0083】
本発明の様々な態様に従って、発酵反応用の炭素源は、COを含有するガス状基質である。ガス状基質は、産業プロセスの副産物として、又は自動車の排ガスのような何らかのその他の供給源から得られるCO含有廃ガスでありうる。ある態様において、産業プロセスは、製鋼所で実施されるような鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製プロセス、石炭のガス化、発電、カーボンブラック製造、アンモニア製造、メタノール製造及びコークス製造からなる群から選ばれる。これらの態様において、CO含有ガスは、それが大気中に放出される前に何らかの好都合な方法を用いて産業プロセスから捕捉されうる。ガス状CO含有基質の組成によっては、それを発酵に導入する前に何らかの望まざる不純物、例えばダスト粒子を除去するために処理するのも望ましいであろう。例えば、ガス状基質を公知の方法を用いてろ過又はスクラブすることができる。
【0084】
CO含有ガス状基質は、理想的には、相当割合のCO、例えば、体積で少なくとも約5%〜約100%のCO、又は体積で20%〜95%のCO、又は体積で40%〜95%のCO、又は体積で60%〜90%のCO又は体積で70%〜90%のCOを含有する。低濃度のCO、例えば6%のガス状基質も、特にH及びCOも併存する場合、適切であり得る。
【0085】
ガス状基質が何らかの水素を含有することは必要ではないが、本発明の方法による生成物の形成にとって水素の存在は一般的に有害ではない。しかしながら、本発明のある態様では、ガス状基質は実質的に水素を含有しない(1%未満)。ガス状基質は、いくらかのCO、例えば体積で約1%〜30%、又は例えば約5%〜約10%のCOを含有することもある。
【0086】
前述のように、基質ストリーム中に水素が存在すると、総体的炭素捕捉及び/又はエタノール生産性における効率の改良がもたらされうる。例えば、WO0208438には様々な組成のガスストリームを用いるエタノールの製造法が記載されている。一つの好適な態様において、63%のH、32%のCO及び5%のCH4を含む基質ストリームをバイオリアクター中のC.リュングダリイ(C.ljungdahlii)培養物に供給して、微生物増殖及びエタノール生成を促進させている。培養物が定常状態に達し、微生物増殖がもはや主目的でなくなったら、少し過剰のCOを供給してエタノール生成を促進するために、基質ストリームを15.8%H、36.5%CO、38.4%N2及び9.3%COに切り替えている。この文献は、CO及びH濃度が高い場合及び低い場合のガスストリームについても記載している。
【0087】
従って、アルコール生成及び/又は総体的炭素捕捉を改良するために、基質ストリームの組成を変えることは必要であろう。さらに又はあるいは、発酵反応の効率を最適化し、最終的にはアルコール生成及び/又は総体的炭素捕捉を改良するために、組成は変更されてよい(すなわち、CO、CO及び/又はH濃度を調整する)。
【0088】
ある態様において、CO含有ガス状基質は、メタン、エタン、プロパン、石炭、天然ガス、原油、石油精製所からの低価値残渣(石油コークス又はペトコークス(petcoke)を含む)、固形都市廃棄物又はバイオマスなどの有機物質のガス化から供給されうる。バイオマスは、食料の抽出及び加工中(例えばサトウキビから砂糖、又はトウモロコシもしくは穀物からデンプン)に得られる副産物、又は林業によって生じる非食料バイオマス廃棄物を含む。これらの炭素質材料のいずれもがガス化、すなわち酸素と部分燃焼できて合成ガスを生じる(合成ガスは相当量のH及びCOを含む)。ガス化プロセスは、典型的には、H対COのモル比約0.4:1〜1.2:1の合成ガスのほか、少量のCO、HS、メタン及びその他の不活性物質も生成する。生成するガスの比率は、当該技術分野で公知の手段によって変えることができ、詳細はWO200701616に記載されている。しかしながら、例えば、ガス化装置の下記条件を変えてCO:Hの生成物比率を調整することもできる。すなわち、供給原料の組成(特にC:Hの比率)、運転圧力、温度プロフィール(生成物ミックスの急冷に影響する)及び使用される酸化剤(空気、酸素豊富空気、純O又は水蒸気;水蒸気は高いCO:H比をもたらす傾向にある)の条件である。このように、ガス化装置の運転条件は、発酵や一つ又は複数の他のストリームとのブレンドに望ましい組成を有する基質ストリームを提供するように調整できるので、発酵プロセスにおけるアルコール生産性及び/又は総体的炭素捕捉の増大に最適化された又は望ましい組成が提供される。
【0089】
他の態様において、COを含む基質は炭化水素の水蒸気改質から得ることもできる。天然ガス炭化水素のような炭化水素は高温で改質されて、次式に従ってCO及びHを得ることができる。
【0090】
+nHO→nCO+(m/2+n)H
例えば、水蒸気メタン改質は、ニッケル触媒の存在下、高温(700〜1100℃)で水蒸気をメタンと反応させ、CO及びHを製造することを含む。得られたストリーム(変換されたCH1モルごとに1モルのCO及び3モルのHを含む)は、直接発酵槽に送られるか、又は別の供給源の基質ストリームとブレンドされて、発酵プロセスにおけるエタノール生産性及び/又は総体的炭素捕捉を増大できる。メタノールのようなアルコールも改質されてCO及びHを生成できるので、これも同様に使用することができる。
【0091】
別の態様において、COを含む基質は製鋼プロセスから得られる。製鋼プロセスでは、鉄鉱石は粉砕及び微粉砕され、焼結又はペレット化のような前処理に付された後、高炉(BF)に送られ、そこで精錬される。精錬プロセスではコークスは還元剤として作用して鉄鉱石を還元する炭素源としての役割を果たす。コークスは材料の加熱及び溶融のための熱源としても働く。熱金属は酸素転炉(BOF)で高速ジェットの純酸素を熱金属の表面に対して注入することにより脱炭される。酸素は熱金属中の炭素と直接反応して一酸化炭素(CO)を生成する。こうして、高CO含有量のガスストリームがBOFから排出される。本発明のある態様に従って、このストリームは、一つ又は複数の発酵反応に供給するのに使用される。しかしながら、当業者には明白であろうが、COは製鋼プロセス内の他の場所でも製造されうる。そこで、本発明の様々な態様に従って、そのような代替供給源もBOFからの排ガスに代わって又は排ガスと共に使用できる。供給源(すなわち製鋼プロセス内の特定の段階)に応じて、排出されるガスのCO含有量はそれによって変動しうる。また、特にバッチ加工方式のプラントでは、一つ又は複数のそのようなストリームに中断が生じる期間がありうる。
【0092】
典型的には、製鋼所の脱炭プロセスから排出されるストリームは高濃度のCOと低濃度のHを含む。そのようなストリームは、更なる処理を殆どあるいは全くせずにバイオリアクターに直接送ることができるが、高効率のアルコール生成及び/又は総体的炭素捕捉を達成するために、基質ストリームの組成を最適化することが望ましいであろう。例えば、基質ストリーム中のH濃度はストリームをバイオリアクターに送る前に増大できる。
【0093】
本発明の特定の態様に従って、二つ以上の供給源からのストリームは組み合わせ及び/又はブレンドされて、望ましい及び/又は最適の基質ストリームにすることができる。例えば、製鋼所の転炉からの排ガスのような高濃度のCOを含むストリームは、製鋼所のコークス炉からのオフガスのような高濃度のHを含むストリームと組み合わせることができる。
【0094】
製鋼プロセスの初期段階は、典型的にはコークスを用いた鉄鉱石の還元を含む。コークスは鉄鉱石を溶融及び還元するのに使用される固体の炭素燃料源で、典型的には製鋼所で現場製造される。コークス製造プロセスでは、瀝青炭を一連の炉に供給し、これを密閉して酸素の不在下、高温で、典型的には14〜36時間持続する周期で加熱する。炉に残った固体炭素がコークスである。これを消火塔に取り、そこで散水又は不活性ガス(窒素)の循環によって冷却する。その後ふるいにかけ、高炉に送る。
【0095】
このプロセス中に生成した揮発性化合物は、通常、タール、アンモニア、ナフタレン、フェノール、軽油及び硫黄を除去するために処理された後、ガスは炉を加熱するための燃料として使用される。コークス製造の結果として生成したガスは、典型的には高H含有量を有する(典型的組成:55%H、25%CH4、6%CO、3%N2、2%その他の炭化水素)。従って、コークス炉ガスの少なくとも一部は、COを含むストリームとブレンドするために発酵プロセスに流用され、アルコール生産性及び/又は総体的炭素捕捉を改良することができる。コークス炉ガスは、発酵槽に送る前に培養物に有毒であろう副産物を除去するための処理が必要であろう。
【0096】
あるいは又はさらに、転炉からの排出ストリームのようなCOを含む間欠ストリームは、前述のようにガス化プロセスで製造される合成ガスのようなCO及び任意にHを含む実質的に連続したストリームと組み合わせる又はブレンドすることもできる。ある態様においては、これによってバイオリアクターへの実質的に連続した基質ストリームの供給が維持されることになろう。特定の態様では、ガス化装置によって生成するストリームを産業発生源からのCOの間欠的生成に応じて増減すれば、所望の又は最適な組成を有する実質的に連続した基質ストリームを維持することができる。別の態様では、産業発生源からのCOの間欠的生成に応じて前述のようにガス化装置の条件を変更してCO:H比を増減することにより、所望の又は最適なCO及びH組成を有する実質的に連続した基質ストリームを維持することができる。
【0097】
典型的には、本発明で使用される基質ストリームはガス状であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、一酸化炭素はバイオリアクターに液体で供給されてもよい。例えば、液体を一酸化炭素含有ガスで飽和した後、その液体をバイオリアクターに加えることができる。これは標準的な方法論を用いて達成できる。一例を挙げると、マイクロバブル分散物発生装置(Hensirisakら、Scale−up of microbubble dispersion generator for aerobic fermentation;Applied Biochemstry and Biotechnology Volume 101,Number 3,October,2002)をこの目的のために使用することができる。
【0098】
当然のことながら、細菌の増殖とCOからエタノールへの発酵を起こすためには、CO含有基質ガスの他に、適切な液体栄養培地もバイオリアクターに供給する必要がある。栄養培地は、使用される微生物を増殖させるのに十分なビタミン及びミネラルを含有する。COを唯一の炭素源として使用するエタノールの発酵に適切な嫌気性培地は当該技術分野で公知である。例えば、適切な培地は、上記の米国特許第5,173,429号及び5,593,886号並びにWO02/08438、WO2007/115157及びWO2008/115080に記載されている。本明細書の“実施例”には他の培地の例が提供されている。
【0099】
発酵は、望ましくは、所望の発酵(例えばCOからアルコール)が起こるのに適切な条件下で実施されるべきである。考慮されるべき反応条件は、圧力、温度、ガス流速、液体流速、培地pH、培地の酸化還元電位、撹拌速度(連続撹拌槽リアクターを使用する場合)、植菌量、液相中のCOが制限的にならないような最大のガス基質濃度、及び生成物抑制を回避するための最大の生成物濃度などである。
【0100】
最適な反応条件は、一部は使用される特定の微生物に左右される。しかしながら、一般的に、発酵は周囲圧力より高い圧力で実施されるのが好適であろう。高めた圧力での運転は、気相から液相へのCO移動速度を著しく増加させる。COは液相で微生物にエタノール生成のための炭素源として取り込まれる。このことは、ひいては、バイオリアクターが大気圧より高い圧力に維持された場合、滞留時間(バイオリアクター中の液量÷流入ガス流速として定義される)を削減できることを意味している。
【0101】
また、所定のCO−エタノール変換速度は一部は基質の滞留時間の関数であり、所望の滞留時間の達成はバイオリアクターの必要容量を決定するので、加圧システムの使用は必要なバイオリアクターの容量を大きく削減でき、その結果、発酵装置の資本コストも削減できる。米国特許第5,593,886号に示されている実施例によれば、リアクターの容量はリアクターの運転圧力の増加に線形比例して削減できる。すなわち、10気圧の圧力で運転されるバイオリアクターは、1気圧の圧力で運転されるリアクターの容量の10分の1しか必要ない。
【0102】
ガスからエタノールへの発酵を高圧で実施することの利益は他の場所でも記載されている。例えば、WO02/08438には、30psig及び75psigの圧力下で実施されたガス−エタノール発酵で、それぞれ150g/l/日及び369g/l/日のエタノール生産性が得られたことが記載されている。しかしながら、類似の培地及び流入ガス組成を用いて大気圧で実施された発酵例では、1日あたり1リットルにつき10〜20分の1のエタノールしか生産されないことが分かった。
【0103】
CO含有ガス状基質の導入速度は、液相中のCO濃度が決して制限的にならないようなものであることも望ましい。なぜならば、COが制限された条件だと、エタノール生成物が培養物によって消費されるという結果になりうるからである。
【0104】
生成物回収
発酵反応の生成物は公知の方法を用いて回収できる。方法の例は、WO2007/117157、WO2008/115080並びに米国特許第6,340,581号、6,136,577号、5,593,886号、5,807,722号及び5,821,111号に記載されている。しかしながら、手短に、単なる例として述べると、エタノールは発酵ブロスから、分別蒸留又は蒸発、及び抽出発酵などの方法によって回収できる。
【0105】
発酵ブロスからのエタノール蒸留によってエタノールと水の共沸混合物(すなわちエタノール95%及び水5%)が得られる。無水エタノールは、その後、分子ふるいエタノール脱水技術(これも当該技術分野で周知である)を用いて得ることができる。
【0106】
抽出発酵法は、発酵生体に対する毒性リスクの低い水混和性溶媒を使用して、エタノールを希釈発酵ブロスから回収する方法である。例えば、オレイルアルコールは、このタイプの抽出プロセスに使用できる溶媒である。このプロセスでは、オレイルアルコールを発酵槽に連続的に導入すると、この溶媒が上昇し、発酵槽の上部に層を形成する。これを連続的に抽出し、遠心分離機に送り込む。すると、水と細胞は該オレイルアルコールから容易に分離されて発酵槽に戻される。一方、エタノールを含んだ溶媒はフラッシュ蒸発装置に送り込まれる。ほとんどのエタノールは蒸発し凝結するが、非揮発性のオレイルアルコールは発酵での再使用のために回収される。
【0107】
アセテートも当該技術分野で公知の方法を用いて発酵ブロスから回収できる。例えば、活性炭フィルタを含む吸着システムが使用できる。この場合、微生物細胞を通常最初に適切な分離法を用いて発酵ブロスから除去する。生成物回収のために細胞を含まない(無細胞)発酵ブロスを生成する多数のろ過ベースの方法が当該技術分野で知られている。次に、無細胞エタノール、及びアセテートを含有する透過物を活性炭を詰めたカラムに通してアセテートを吸着させる。酸の形態のアセテート(酢酸)の方が塩の形態(酢酸塩)よりも活性炭に容易に吸着される。そこで、活性炭カラムに通す前に発酵ブロスのpHを約3未満に下げて大部分のアセテートを酢酸形に変換するのが好適である。
【0108】
活性炭に吸着された酢酸は、当該技術分野で公知の方法を用いて溶離によって回収できる。例えば、結合したアセテートの溶離にエタノールを使用することができる。ある態様において、発酵プロセスそのものから生成したエタノールをアセテートの溶離に使用してもよい。エタノールの沸点は78.8℃で酢酸のは107℃であるので、エタノールとアセテートは、蒸留のような揮発性ベースの方法を用いて容易に相互分離できる。
【0109】
発酵ブロスからアセテートを回収するためのその他の方法も当該技術分野では公知であり、本発明のプロセスに使用できる。例えば、米国特許第6,368,819号及び6,753,170号は、発酵ブロスから酢酸の抽出に使用できる溶媒及び共溶媒系について記載している。エタノールの抽出発酵で上記したオレイルアルコールベースの系と同様、米国特許第6,368,819号及び6,753,170号に記載の系は、酢酸抽出のために発酵微生物の存在下でも不在下でも発酵ブロスと混合できる水非混和性の溶媒/共溶媒について記載している。次いで、酢酸を含有する溶媒/共溶媒は蒸留によってブロスから分離される。次に、酢酸を溶媒/共溶媒系から精製するために第二の蒸留ステップを使用してもよい。
【0110】
発酵反応の生成物(例えばエタノール及びアセテート)は、発酵ブロスから、ブロスの一部を発酵バイオリアクターから連続的に除去し、微生物細胞をブロスから分離し(都合よくはろ過によって)、そして一つ又は複数の生成物をブロスから同時又は逐次回収することによって回収することができる。上記の方法を用いて、エタノールは蒸留によって都合よく回収でき、アセテートは活性炭上への吸着によって回収できる。分離された微生物細胞は発酵バイオリアクターに戻すことができる。エタノール及びアセテートの除去後に残った無細胞透過物も発酵バイオリアクターに戻すことができる。バイオリアクターに戻す前に追加の栄養素(例えばビタミンB類)を無細胞透過物に加えて栄養培地を補充してもよい。また、酢酸の活性炭への吸着を増強するために上記のようにブロスのpHを調整した場合、そのpHは、バイオリアクターに戻す前に発酵バイオリアクターのブロスのpHと類似したpHに再調整されるべきである。
【0111】
CO除去
本発明のある態様によれば、CO除去に使用されるシステムは、混合ストリームからCOを選択的に分離するための手段、及びCOを生成物に変換及び/又はCOを貯蔵又は更なる使用のために準備するための手段を含む。あるいは、プロセスは、ストリーム中のCOを生成物及び/又は貯蔵又は更なる使用に適切な物質に直接変換するための手段を含む。
【0112】
一態様において、COは混合ガスストリームから、以下に示す例示的方法のような当該技術分野で公知の何らかの分離手段を用いて選択的に分離される。本発明の態様に使用できる他のCO分離法は、CaOのような金属酸化物による抽出、及び多孔質炭素の使用又はアミン抽出のような選択的溶媒抽出などである。
【0113】
水性モノエタノールアミン(MEA)、ジグリコールアミン(DGA)、ジエタノールアミン(DEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)及びメチルジエタノールアミン(MDEA)のようなアミンは、天然ガスストリーム及び精製プロセスストリームからCO及び硫化水素を除去するために工業的に広く使用されている。
【0114】
そのようなプロセスで分離されたCOは永久的に貯留されうる。永久的なCO貯留の多数の例、例えば地質学的貯留(地中貯留)、海洋貯留及び鉱物貯留(例えば金属炭酸塩への変換)が当該技術分野で知られている。
【0115】
地質学的貯留は、一般的に超臨界形の二酸化炭素を地下の地層に直接注入することを含む。油田、ガス田、含塩層、採掘不可能な炭層、及び塩分充満玄武岩層が貯留用地として示唆されている。COが地表に逃げるのを防止するために様々な物理的(例えば高不透過性のキャップロック)及び地球化学的なトラップ機構が使用できる。よく選択され、設計され、管理された地質学的貯留用地の場合、気候変動に関する政府間パネルの見積では、COは数百万年トラップ可能で、該用地は注入されたCOの99%以上を1,000年以上保持する見込みとのことである。
【0116】
海洋貯留のいくつかの選択肢も提案されている。(i)船舶又はパイプラインによって水深1000m以上の海中にCOを‘溶解’注入し、その後COを溶解させる;(ii)水深3000m以上の海底にCOを直接‘湖’堆積させる。そこではCOは水より高密度になるので‘湖’を形成すると考えられ、COの環境中への溶解を遅らせることができる;(iii)COを炭酸水素塩に変換する(石灰石を用いて);及び(iv)海底に既に存在する固体包接水和物(クラスレート・ハイドレート)中にCOを貯留する、又はより多くの固体クラスレートの増殖に使用する。
【0117】
鉱物貯留では、COは、豊富に得られる金属酸化物と発熱反応して安定な炭酸塩を生成する。このプロセスは長年にわたって自然に起こり、地表の石灰石の多くはそれに由来している。反応速度は、例えば高温及び/又は高圧で反応させることによって、又は鉱物の前処理によって速くすることができる。ただし、この方法は追加のエネルギーを必要としうる。
【0118】
あるいは、分離されたCOは、炭化水素への直接又は間接変換など、製品(生成物)の製造に使用してもよい。炭化水素を製造するためのよく知られた方法は、CO及びHからメタノールを製造する方法である。水の接触又は電気化学的解離によって酸素及び水素イオンを製造し、該水素イオンを用いてCOを炭化水素に変換する方法も当該技術分野では知られている。COを2400℃に加熱すると、一酸化炭素と酸素に分解する。次に、フィッシャー・トロプシュ法を用いるとCOを炭化水素に変換できる。そのようなプロセスでは、COは発酵プロセスに戻すことができる。例えば、必要な温度は、日光をガスの上に集める鏡を含有するチャンバを用いることによって達成できる。あるいは、分離されたCOは更なる発酵に使用して生成物を製造することもできる。当業者であれば、COを生成物に変換する微生物発酵反応の多数の例があることは分かるであろう。例えば、COは、メタン生成微生物を用いる嫌気的発酵によってメタンに変換することができる。これの及びその他の関連発酵プロセスの例は前述のWO2006/108532に開示されている。COを用いて生成物を製造する更なる発酵反応の例は、前述のWO2007/117157及びWO2008/115080に示されている。
【0119】
COは合成ガス製造における望ましい原料でもある。COを改質装置(ガス化装置)に供給するとメタン消費を削減し、H:CO比を改良/増大することができる。従って、一態様において、分離されたCOの少なくとも一部は発酵プロセスに組み込まれたガス化装置に供給してもよい。
【0120】
本発明の別の態様において、分離されたCOは、コンクリートセメントのような製品に変換することもできる。サンゴが殻や礁を製造するときにサンゴによって作り出される海洋セメントを模倣したプロセスでは、マグネシウム及び/又はカルシウムをCOと結合させて炭酸塩を製造することができる。
【0121】
COは藻類の光合成プロセスによっても容易に吸収される。これは廃棄物ストリームからの炭素捕捉に使用できる。藻類はCO及び日光の存在下で迅速に成長する。これを収穫してバイオディーゼル及び/又はアルコールのような製品に変換することができる。
【0122】
あるいは、COは追加の分離ステップの必要なしにストリームから直接捕捉することもできる。例えば、特定の態様においては、COを含むストリーム、好ましくはガス状ストリームを第二の発酵プロセスに送ってCOを生成物に変換すればよい。
【0123】
ガス分離
本発明のある態様に従って、ガス分離に使用される方法は、極低温分別法、分子ふるい法、吸着法、圧力スイング吸着法、又は吸収法の一つ又は複数のステップを含む。どの方法を使用するにしても、ガス分離を実施すれば、ガスストリームから以下の成分:H、O2、CO及びCOの一つ又は複数の少なくとも一部分を単離することができる。さらに又はあるいは、本発明の態様によるガス分離は、ガスストリームから一つ又は複数の部分を除去して(例えばN2、O2)、その残りを例えばバイオリアクター中でより効率的に使用できるようにするために使用されうる。
【0124】
吸着は、ガス、液体又は溶質を固体又は液体の表面に蓄積することである。吸収は、固体又は液体などの一つの物質が、その分子間の微小孔又は空隙から液体又はガスなどの別の物質を取り込むプロセスである。
【0125】
圧力スイング吸着(PSA)は、ガスの精製に使用されうる断熱プロセスであって、高圧下、圧力容器に入っている固定床中の適切な吸着剤による吸着によって随伴不純物を除去する。吸着剤の再生は、向流減圧によって、及び前に回収されたほぼ生成物品質のガスを用いて低圧でパージすることによって達成される。生成物の連続フローを得るために、好ましくは少なくとも二つの吸着装置が設備される。少なくとも一つの吸着装置は、ガスストリーム(例えば、廃棄物/排ガス/バイオガスのガスストリーム)を受け取り、実際に所望純度の生成物を製造する。同時に、減圧、パージ、及び吸着圧に戻す再加圧という次のステップを他方の吸着装置で実施する。吸着され除去される不純物の種類に応じて、普通の吸着剤が当業者によって容易に選択されうる。適切な吸着剤は、ゼオライト分子ふるい、活性炭、シリカゲル又は活性アルミナなどである。吸着床の組合せを互いの上に使用すれば、吸着装置の中味をいくつかの異なるゾーンに分割することができる。圧力スイング吸着法は、圧力、温度、フロー及びガス状の吸着される相の組成といったパラメーターにおける、振り子のように揺れ動く規則的変動を含む。
【0126】
PSAを用いるガスの精製又は分離は、通常、周囲温度に近い供給ガス温度で実施され、それによって除去される成分は選択的に吸着される。吸着は理想的には同様の周囲温度で吸着剤の再生を可能にできるほど可逆的であるべきである。PSAは、CO、CO及びHを含む最も一般的なガスの処理及び/又は精製に使用できる。圧力スイング吸着技術の例は、Ruthven,Douglas M.ら、1993 Pressure Swing Adsorption,John Wiley and Sonsに詳細に記載されている。
【0127】
分子ふるいは、気体及び液体の吸着剤として使用される正確で均一なサイズの微小孔を含有する材料である。その孔を通過できるほど小さい分子は吸着されるが、大きい分子は吸着されない。分子ふるいは一般的なフィルタに類似しているが、分子レベルで動作する。分子ふるいは、アルミノケイ酸塩鉱物、粘土、多孔質ガラス、微小孔チャコール、ゼオライト、活性炭、又は窒素及び水のような小分子が拡散できる開口構造を有する合成化合物からなることが多い。分子ふるいの再生法は、圧力変化(例えば酸素濃縮器中で)及び加熱及びキャリヤーガスによるパージなどである。
【0128】
膜を使用することもできる。例えば、水素を窒素及びメタンのようなガスから分離するため、水素を回収するため、メタンをバイオガスから分離するため、又は水蒸気、CO、HSもしくは揮発性有機液体を除去するための膜などである。本開示を考慮すれば当業者には明白なように、所望の目的を果たすために多孔質及び非孔質膜を含む様々な膜を選ぶことができる。例えば、パラジウム膜はHだけを透過させる。特定の態様において、COは、CO透過性の膜を用いてストリームから分離できる。ストリームから分離されたCOは、前述のガス化装置のようなCO除去装置に送ることができる。
【0129】
極低温分別法は、ガスストリームを圧縮し、それを蒸留による分離が可能になるほど低い温度に冷却することを含む。これは、例えばCOの除去に使用できる。ある種の成分(例えば水)は通常、極低温分別を実施する前にストリームから除去される。
【0130】
同じ技術は、ガス状ストリームから酸素を除去してCO及び/又はCO豊富な嫌気性ストリームを製造するのにも使用できる。さらに、酸素は、例えば燃焼排ガスを、通性好気性微生物、還元(reduced)炭素基質、及び微生物に必要な栄養素が入った密閉発酵槽に通すことによって生物学的に除去することもできる。通性好気性微生物は酸素を消費して、CO及び/又はCO豊富な嫌気性ストリームを作り出すことができる。
【0131】
O2をガス状ストリームから分離又は除去するための代替法も当該技術分野では周知である。しかしながら、例えば、酸素は熱銅又は触媒コンバーターを用いて簡単に低減(reduced)及び/又は除去することができる。
【0132】
ガス分離プロセスを特定のガス発生源に合わせて調整すると、そうでなければ商業的に実現不能な生物変換(バイオコンバージョン)プロセスを商業的に実現可能にすることができる。例えば、自動車排ガスストリームからCOの適切な分離を行うと、該ストリームから使用可能なエネルギー源を得ることができ、不必要なガス排出を低減することができる。本発明の一態様に従って、ガス状基質はCO及びHを含有する合成ガスを含み、ガス分離は、ストリームから水素を除去するために実施される。そうすると、水素が単離され、発酵プロセス以外で燃料として使用できるようになる。COは発酵反応に供給するのに使用すればよい。
【0133】
間欠的ガスストリーム
本発明の様々な側面によれば、発酵基質は産業発生源から誘導される。典型的には、産業発生源由来の基質はガス状で、そのようなガスは組成及び/又は圧力が様々であり、場合よっては間欠性のこともある。ある態様において、本発明は、生成物製造のため、発酵用バイオリアクターへのガス状基質の供給を、特に基質供給が間欠的又は非連続的性質である場合に、改良及び/又は“滑らかに”するための手段を提供する。ガス状基質ストリームの連続性を改良又は“平滑化”するためのいずれの公知手段も使用できるが、本発明の特定の態様は、間欠的な基質ストリームを受け取り、実質的に連続した基質ストリームをバイオリアクターに送達するように適合された少なくとも一つの緩衝手段を含むプロセス又はシステムを含む。
【0134】
特定の態様において、緩衝手段は、間欠的ガスストリームを受け取るように適合された貯蔵タンクを含む。間欠ストリームは貯蔵タンクに入る前に圧縮されてもよい;又は貯蔵タンクは基質ストリームを受け取ると膨張するように構成されてもよい。例えば、緩衝貯蔵タンクは、ガス状基質を収容するために上昇及び降下するように適合された“浮き屋根”を含むことができる。浮き屋根型の貯蔵タンクは当該技術分野で公知である。例えば、ガス供給における需給変動に対応するために使用されるものなどである。貯蔵タンクは、発酵バイオリアクターに実質的に連続的な基質ストリームを供給するように適合されており、従って、タンクを出るストリームの流速を制御するための手段を含みうる。
【0135】
そのような態様では、貯蔵タンクは基質貯留槽としての役割を果たす。しかしながら、代替の態様に従って、緩衝貯蔵タンクは同じ機能を果たす代替の貯蔵形態に置き換えてもよい。例えば、代替形は、吸収、吸着、及び圧力及び/又は温度スイングの一つ又は複数を含みうる。さらに又はあるいは、基質を、必要とされるまで、貯留槽で液体中に溶解するか又は多孔質固体材料のようなマトリックスに保持することもできる。本発明の特定の態様において、基質は貯蔵タンクで液体に溶解され、必要とされたら、溶液の状態でバイオリアクターにそのまま送達することができる。
【0136】
あるいは、バイオリアクター自体を、発酵液体栄養培地上の上部空間が間欠ストリームのための緩衝器として働くように構成してもよい。例えば、そのようなシステムは、ガス状基質ストリーム(入手可能な場合)を圧縮し、バイオリアクターに送るための手段を含むことができる。バイオリアクターの上部空間の圧力は、追加の基質が供給されると増加する。このようにして、基質は、微生物発酵による生成物への変換のために連続的に入手できるようになる。
【0137】
別の態様において、該システムは、複数の間欠的供給源からのガス状基質ストリームを受け取るように適合させることができる。そのようなシステムは、バイオリアクターに実質的に連続的な基質ストリームを供給するために、ストリーム間で組み合わせ及び/又は切り替えるための手段を含みうる。
【0138】
発酵反応に使用される微生物は、典型的には許容可能な温度範囲を有しており、それを上回る又は下回ると反応速度は著しく遅くなる。そこで、該システムは冷却手段を含みうる。つまり、基質ストリームの入手が限られている場合、バイオリアクター中の培地を冷却して発酵反応を緩徐化し、基質の需要を低下させる。反対に、基質ストリームの入手が増加した場合は、バイオリアクター内部の温度を温度範囲の上限方向に上げ、反応速度を増大すればよい。
【0139】
あるいは又はさらに、冷却手段は、発酵システムに対するピークの冷却負荷を削減するために冷却負荷を平準化するように構成されてもよい。例えば、所定期間(ガスが処理されている間)中、ガス供給ストリーム内の熱及び/又は発酵の発熱に対処するのに必要な冷却負荷が2MWであると仮定する。この期間中、発酵タンクの内容物を一定温度に維持するには、熱をこの速度で除去してタンク内の一定温度を維持しなければならない。反対に、ガスが処理されず、発熱が本質的に止まっている期間中、冷却負荷はゼロになる。従って、特に大規模工業用途の場合、冷却負荷が非常に大きくなる期間があり、これがシステムに著しい制約を課すことになる。冷却負荷を平準化することによって最大必要冷却速度は減少する。そうすれば連続(又はさらに連続)ベースであっても、小規模の冷却システムでの運転が可能になる。
【0140】
前述の例のパラメーターを使用し、ガスが処理されている期間及びガスが処理されていない期間が等期間であると仮定すると、熱は発酵タンクから連続的に1MWで除去されうる。このような条件下では、ガスが処理されているときの除熱速度は熱の注入/発生についていけず、発酵タンク内の温度は上昇することになる。ガスは止まったが冷却が続くと、発酵タンク内の温度は降下する。このように、1MWの連続負荷用の大きさの冷却システムが、半分の時間しか動作しない2MW負荷用の大きさのシステムよりも必要となる。しかしながら、温度上昇とその後の降下は、タンク内部の温度を微生物の許容範囲内に維持するために制限されなければならない。そこで、特定の態様に従って、一定ではないが、冷却負荷は、最大及び最小の冷却負荷間に小さい差しかないという点で、その内部での変動がより緩やか及び/又はより限定的になるように“滑らかにする”ことができる。
【0141】
発酵のための資源としての産業オフガス
本発明の他の側面に従って、産業廃ガスが発酵反応に使用される。その際、それに適切なガスにするために使用される追加のスクラビング又は前処理ステップは、ないか又はごく最小限である。
【0142】
廃ガスは様々な産業プロセスからのものであってよい。本発明は、高容量のCOを含有する産業煙道ガスのようなガス状基質からのエタノール製造を支持することに特に適用可能性を有する。例としては、鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製プロセス、石炭のガス化、バイオマスのガス化、発電、カーボンブラック製造、アンモニア製造、メタノール製造及びコークス製造時に生成するガスなどが挙げられる。本発明の特定の態様において、廃ガスは製鋼プロセス中に発生する。例えば、当業者には分かる通り、製鋼プロセスの様々な段階で発生する廃ガスは高いCO及び/又はCO濃度を有している。特に、様々な製鋼法において、例えば酸素転炉(例えばBOF又はKOBM)での鋼の脱炭中に生成する廃ガスは高CO含有量及び低O含有量を有しており、嫌気的カルボキシド栄養性発酵のための適切な基質となっている。
【0143】
鋼の脱炭中に生成する廃ガスは、所望により水に通して粒状物質を除去した後、廃棄物集積所又は廃ガスを大気中に排出するための煙道に送られる。典型的には、該ガスは一つ又は複数のファンを用いて廃棄物集積所に送り込まれる。
【0144】
本発明の特定の態様において、鋼の脱炭中に生成する廃ガスの少なくとも一部は、適切な管路手段によって発酵システムに転用される。例えば、パイプ又はその他の移送手段を製鋼所の廃ガス集積所に接続すれば、廃ガスの少なくとも一部を発酵システムに転用することができる。ここでも、廃ガスの少なくとも一部を発酵システムに振り向けるのに一つ又は複数のファンを使用することができる。本発明の特定の態様において、管路手段は、鋼の脱炭中に生成する廃ガスの少なくとも一部を発酵システムに供給するように適合されている。バイオリアクターにガスを供給するための制御及び手段は、本発明に関連する分野の当業者には容易に分かるであろう。
【0145】
製鋼所は、鋼及びその後の廃ガスを実質的に連続的に製造するように適合させることができるが、該プロセスの特定の側面は間欠的なこともある。典型的には、鋼の脱炭は数分から数時間続くバッチプロセスである。従って、管路手段は、鋼の脱炭中に生成するガスなどの廃ガスの少なくとも一部を、該廃ガスが所望の組成を有していると判断されたら発酵システムに振り向けるように適合させることができる。
【0146】
発酵プロセスに使用されるバイオリアクターの内容物のpHは必要に応じて調整することができる。適切なpHは、本発明に関連する分野の当業者には理解される通り、使用される栄養培地及び微生物を考慮して、特定の発酵反応に必要とされる条件に応じて異なるであろう。一つの好適な態様において、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)を利用するCO含有ガス状基質の発酵では、pHは約5.5〜6.5、最も好ましくは約5.5に調整されうる。更なる例としては、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)を用いる酢酸製造の場合のpH5.5〜6.5、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)を用いるブタノール製造の場合のpH4.5〜6.5、及びカルボキシドサーマス・ハイグロゲナフォルマンス(Carboxydothermus hygrogenaformans)を用いる水素製造の場合のpH7などが挙げられる。当業者であれば、バイオリアクターを所要pHに維持するための適切な手段は周知であろう。しかしながら、例を挙げると、NaOHのような塩基水溶液及びHSOのような酸水溶液が発酵培地のpHの上げ下げ及び所望pHの維持に使用できる。
【0147】
本発明の追加の利益は、廃ガスを発酵反応に利用する前に該ガスに対して実施されるスクラビング及び/又はその他の処理プロセスがないか又はごく最小限であるために、該ガスは産業プロセスに由来する追加の物質も含有することになるが、その追加の物質も、少なくとも一部は発酵反応のための供給原料として使用できるという点である。
【0148】
ストリームのブレンド
前述のように、発酵反応の効率、アルコール生成及び/又は総体的炭素捕捉を改良するために、産業廃ストリームを一つ又は複数の更なるストリームとブレンドすることが望ましいこともある。理論に拘束されるつもりはないが、本発明のある態様において、カルボキシド栄養性細菌は下記式に従ってCOをエタノールに変換する。
【0149】
6CO+12H+3HO→COH+4CO
しかしながら、Hの存在下では総体的変換は次のようになる。
6CO+12H+3HO→3COH
従って、産業ストリームがCOの含有量は高いがHは最小限であるか含まない場合、Hを含む一つ又は複数のストリームをCOを含む廃ストリームとブレンドした後、ブレンドされた基質ストリームを発酵槽に供給するのが望ましいであろう。発酵の総体的効率、アルコール生産性及び/又は総体的炭素捕捉は、ブレンドストリーム中のCO及びHの化学量論に依存することになる。しかしながら、特定の態様において、ブレンドストリームは実質的に下記モル比、すなわち、20:1、10:1、5:1、3:1、2:1、1:1又は1:2のCO及びHを含みうる。
【0150】
さらに、発酵の異なる段階で特定の比率のCO及びHを供給するのが望ましいであろう。例えば、比較的高いH含有量(例えば1:2のCO:H)を有する基質ストリームは、開始時の発酵段階及び/又は急速微生物増殖期に供給すればよい。しかしながら、増殖期が緩徐化し、培養物が実質的に安定した微生物密度で維持されるようになったら、CO含有量を増加させればよい(例えば、少なくとも1:1又は2:1以上、その場合H濃度は0以上)。
【0151】
また、ストリームのブレンドは、特にCOを含む廃ストリームが間欠的な性質である場合、更なる利益を有しうる。例えば、COを含む間欠的廃ストリームは、CO及び場合によってはHを含む実質的連続ストリームとブレンドし、発酵槽に供給すればよい。本発明の特定の態様において、実質的連続ストリームの組成及び流速は、実質的に連続的な組成及び流速の基質ストリームを発酵槽に供給するのを維持するために、間欠ストリームに応じて変えることができる。
【0152】
二つ以上のストリームをブレンドして所望の組成を達成するということは、すべてのストリームの流速を変動させるか、又は一つ又は複数のストリームは一定に維持しつつ他のストリームを変動させて基質ストリームを所望の組成に‘調整’又は最適化するということを含みうる。連続的に加工されているストリームの場合、更なる処理(例えば緩衝)はほとんど又は全く必要なく、ストリームは発酵槽に直接供給できる。しかしながら、一つ又は複数のストリームが間欠的に得られる場合、及び/又はストリームは連続的に得られるが、使用及び/又は生成する速度が変動しうる場合、ストリームの緩衝貯蔵庫を設備するのが必要なこともある。
【0153】
当業者であれば、ブレンドする前にストリームの組成及び流速をモニターするのが必要なことは分かるであろう。ブレンドストリームの組成の調節は、構成ストリームの割合を変えて標的又は所望組成を達成することによって達成できる。例えば、基本の装入ガスストリームが主にCOでありうる場合、高濃度のHを含む第二のガスストリームをブレンドして特定のH:CO比を達成することができる。ブレンドストリームの組成及び流速は、当該技術分野で公知のいずれかの手段によってモニターできる。ブレンドストリームの流速はブレンド操作とは無関係に調節できるが、個々の構成ストリームを取り出す速度は限度内に制御されねばならない。例えば、間欠的に生成するストリームは、緩衝貯蔵庫から連続的に取り出されることになるが、緩衝貯蔵庫の容量が枯渇したり容量一杯になったりしないような速度で取り出されねばならない。
【0154】
ブレンド時、個々の構成ガスは混合チャンバに入ることになるが、これは典型的には小型容器又はパイプの一部である。そのような場合、該容器又はパイプは、個別成分の撹乱及び迅速均一化を促進するために用意された静的混合装置、例えばバッフルを備えることができる。
【0155】
ブレンドストリームの緩衝貯蔵庫も、必要であれば、バイオリアクターへの実質的に連続的な基質ストリームの供給を維持するために提供されてもよい。
所要又は所望のブレンドを達成するために、構成ストリームの組成及び流速をモニターし、ストリームのブレンドを適切な割合に調節するように適合された処理装置を所望によりシステムに組み込んでもよい。例えば、アルコール生産性及び/又は総体的炭素捕捉の効率を最適化するために、特定の成分を必要に応じて又は利用可能な様式で供給することができる。
【0156】
CO及びHを常に特定の比率で供給することは可能でも費用効果的でもないだろう。従って、上記のように二つ以上のストリームをブレンドするように適合されたシステムを、利用可能な資源を用いて比率を最適化するように適合させることができる。例えば、不適切なH供給しか利用できない場合、最適なストリームを供給し、アルコール生成及び/又は総体的炭素捕捉における改良された効率を達成するために、システムに過剰のCOをシステムから方向転換するための手段を含めるとよい。本発明のある態様では、システムは、少なくとも二つのストリームの流速及び組成を連続的にモニターし、それらを組み合わせて最適組成の一つのブレンド基質ストリームを生み出し、最適化された基質ストリームを発酵槽に送るための手段を持つように適合されている。アルコール生成のためにカルボキシド栄養性微生物を使用する特定の態様において、基質ストリームの最適組成は、少なくとも0%のH及び約1:2までのCO:Hを含む。
【0157】
非制限的例を挙げると、本発明の特定の態様は、CO源として鋼の脱炭由来の転炉ガスの利用を含む。典型的には、そのようなストリームはHをほとんど又は全く含有しないので、より望ましいCO:H比を達成するために、COを含むストリームをHを含むストリームと組み合わせるのが望ましいであろう。Hは、製鋼所のコークス炉で大量に生成することが多い。従って、Hを含むコークス炉からの廃ストリームを、COを含む転炉からの廃ストリームとブレンドすれば、所望の組成を達成することができる。
【0158】
さらに、又はあるいは、ガス化装置を設備して様々な供給源からCO及びHを製造してもよい。ガス化装置によって製造されるストリームはCOを含むストリームとブレンドして所望の組成を達成することができる。当業者であれば、ガス化装置の条件を制御すれば特定のCO:H比を達成できることは分かるであろう。さらに、ガス化装置を増強及び減弱して、ガス化装置によって製造されるCO及びHを含むストリームの流速を増加及び減少させることができる。従って、アルコール生産性及び/又は総体的炭素捕捉を増大するために、ガス化装置からのストリームを、COを含む基質ストリームとブレンドしてCO:H比を最適化することができる。さらに、ガス化装置を増強及び減弱して様々な流速及び/又は組成のストリームを提供し、これをCOを含む間欠ストリームとブレンドすれば、実質的に連続した所望組成のストリームを達成することができる。
【0159】
COを含む基質ストリームとブレンドできるその他のCO及び/又はH源は、天然ガス及び/又はメタンなどの炭化水素の改質及びメタノールの改質を含む。
スクラバ水の添加
本発明に従って、増殖及び生成物製造の効率を増大するためにスクラバ水を発酵反応に利用する。
【0160】
スクラバ水は、前述のように、任意の適切な産業発生源由来のものでよい。本発明の特定の態様において、スクラバ水は、製鋼時に発生する一つ又は複数の排ガスをクリーニングするプロセスから得られる。例えば、スクラバ水は、コークス炉、高炉、酸素転炉、及び/又はアーク炉からのオフガスのクリーニングから得られる。
【0161】
ある態様において、スクラバ水は、(ガス状)発酵基質の供給源と同じ産業プロセスから供給される。例えば、スクラバ水及び基質(CO含有排ガス)は同じ製鋼所から得られる。
【0162】
スクラバ水は、産業プロセスのスクラビングシステム又は装置から直接のそのままの形態で使用できる。しかしながら、スクラバ水は、その中に含まれる残留粒状物質の量を除去又は少なくとも削減するために処理されてもよい。スクラバ水を処理するための方法は、本発明の関連する分野の当業者には分かるであろう。しかしながら、例を挙げると、スクラバ水は、発酵槽への導入前に、ろ過、遠心分離又は沈降させることができる。
【0163】
前述のように、スクラバ水のpHは使用前に調整できる。適切なpHは、本発明に関連する分野の当業者には理解される通り、使用される栄養培地及び微生物を考慮して、特定の発酵反応に必要とされる条件に応じて異なるであろう。一つの好適な態様において、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)を利用するCO含有ガス状基質の発酵では、pHは約5.5〜6.5、最も好ましくは約5.5に調整されうる。更なる例としては、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)を用いる酢酸製造の場合のpH5.5〜6.5、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)を用いるブタノール製造の場合のpH4.5〜6.5、及びカルボキシドサーマス・ハイグロゲナフォルマンス(Carboxydothermus hygrogenaformans)を用いる水素製造の場合のpH7などが挙げられる。
【0164】
スクラバ水は発酵反応に任意の適切な手段を用いて添加できる。例えば、スクラバ水は発酵が起こっている又は行われることになるバイオリアクターにスクラビング装置から直接供給できる。あるいは、スクラビング装置から回収されて適切なチャンバに貯蔵され、そこからバイオリアクターに供給されても、又はスクラビング装置から回収され、貯蔵され、そしてバイオリアクターに手動で供給されてもよい。バイオリアクターへのスクラバ水の添加は連続的であっても、又は発酵反応のある時点で添加されても、又は状況に応じてオンデマンドであってもよい。
【0165】
本発明の一態様において、スクラバ水は、発酵反応に使用される栄養培地と混合された後、前述の手段のいずれか一つによってバイオリアクターに添加される。従って、本発明は、適切な栄養培地及びスクラバ水の混合物を含む組成物も提供する。本発明に関連する分野の当業者であれば、微生物発酵に使用するのに適切な栄養培地は分かるであろう。しかしながら、例を挙げると、そのような培地は、窒素、ホスフェート、カリウム、ナトリウム、硫黄、様々な金属イオン及びビタミンB類などの供給源を含有しうる。培地の例は以下の“実施例”の部に提供する。
【0166】
スクラバ水は、約1:9までの栄養培地対スクラバ水の量で使用されうる。本発明の一つの好適な態様において、スクラバ水は、約1:1の栄養培地対スクラバ水の比率で使用される。
【0167】
分かるように、特定のプロセスから得られたスクラバ水は、特定の微生物に対して有毒又は有害な成分を含有することもある。そこで、本発明はすべての前処理プロセスを排除するものではないが、可能であればそのような追加のプロセスは回避する。あるいは又はさらに、バイオリアクター中のスクラバ水の含有量の比率は、有毒又は有害な可能性のある成分が許容濃度未満に維持されるように制御されうる。
【0168】
主要供給原料としてのスクラバ水
本発明の別の態様において、発酵反応はスクラバ水だけを供給原料として用いて実施される。言い換えれば、スクラバ水が発酵反応のための主要炭素源である。この態様において、発酵反応は実質的に本明細書で前述したように実施できるが、CO含有ガスを供給又は捕捉したり、代替の炭素源を供給する必要はない。
【0169】
スクラバ水は、本明細書で前述したように、発酵が起こるバイオリアクターに供給できる。一態様において、スクラバ水は、スクラビングシステム又は装置からバイオリアクターに直接及び連続的に、発酵反応にとって最適な条件を維持するのに適切なレベルで供給される。
【0170】
関連の態様において、スクラバ水は貯蔵され、その後代替の供給原料又は基質が利用できないときにバイオリアクターに供給される。例えば、ある製鋼プロセスで発生する排ガスは持続的でなく間欠的である。これらのガスが発酵反応に供給するのに利用できない場合、スクラバ水をバイオリアクターに供給して、アルコール生成を維持し、反応の総体的効率を増大する。スクラバ水に発酵培地を補充してバイオリアクターに供給するそのようなプロセスは、細胞保持システム(例えばクロスフロー膜ろ過、連続遠心分離又は固定化細胞システム)を用いて実施できる。この態様において、スクラバ水と発酵培地の混合物はリアクターを通って流れることができ、細菌に栄養を供給する。このシステムの利点は、スクラバ水が高濃度の溶解一酸化炭素を含有していることである。ガス状基質を発酵に使用することに伴う主なプロセス運転コストは、COガスの気相から液相への物質移動を可能にする装置の購入と運転であるため、既にCOを含有している液体ストリームの使用は、このコストを著しく低減する。
【0171】
概要
本発明の態様を例として記載する。しかしながら、一つの態様に必要な特定のステップ又は段階が別の態様においては必要でないこともあることは理解されるべきである。反対に、特定の態様の記載に含まれているステップ又は段階が、それらが明記されていない態様において、所望により有益に利用できることもある。
【0172】
本発明は、いずれか公知の移送手段によってシステムを通過又は巡回できるあらゆる種類のストリームに関して広く記載するが、ある態様において、基質及び/又は排出ストリームはガス状である。当業者であれば、特定の段階は、ストリームを受け取る又はシステム全体に送るように構成可能な適切な管路手段などによって結合できることは分かるであろう。特定の段階へのストリームの送達を容易にするためにポンプ又はコンプレッサーが設備されうる。さらに、コンプレッサーは、一つ又は複数の段階、例えばバイオリアクターに供給されるガスの圧力を増大するのにも使用できる。前述のように、バイオリアクター内のガスの圧力はその中で実施される発酵反応の効率に影響を及ぼしうる。従って、圧力を調整すれば発酵の効率を改良することができる。一般的反応のための適切な圧力は当該技術分野で公知である。
【0173】
さらに、本発明のシステム又はプロセスは、所望により、プロセスの総体的効率を改良するために、その他のパラメーターを調節及び/又は制御するための手段を含んでいてもよい。プロセスの特定のパラメーターを調節及び/又は制御するために一つ又は複数の処理装置をシステムに組み込むことができる。例えば、特定の態様は、基質及び/又は排出ストリームの組成をモニターするための測定手段を含みうる。さらに、特定の態様は、測定手段によって基質ストリームが特定の段階にとって適切な組成を有していると判定された場合に、該ストリームを特定のシステム内の特定の段階又は構成要素に送達するのを制御するための手段も含みうる。例えば、ガス状基質ストリームが発酵反応に有害でありうる低濃度のCO又は高濃度のO2を含有している場合、該基質ストリームはバイオリアクターから方向転換されうる。本発明の特定の態様において、システムは、基質ストリームの送り先及び/又は流速を、所望の又は適切な組成を有するストリームが特定の段階に送達できるように、モニター及び制御するための手段を含む。
【0174】
さらに、特定のシステム成分又は基質ストリームを、プロセスの一つ又は複数の段階の前又は最中に加熱又は冷却することが必要なこともある。そのような場合、公知の加熱又は冷却手段が使用できる。例えば、熱交換器を使用して基質ストリームを加熱又は冷却することができる。
【0175】
さらに、システムは、特定の段階の運転又は効率を改良するための一つ又は複数の前/後処理ステップを含んでいてもよい。例えば、前処理ステップは、粒状物質及び/又は長鎖炭化水素又はタールをガス状基質ストリームから除去するための手段を含みうる。実施されうるその他の前又は後操作は、特定の段階、例えばバイオリアクターでの製造段階からの所望生成物の分離(例えば蒸留によるエタノールの取り出し)を含む。
【0176】
本発明のシステムの様々な態様が添付図面に記載されている。図1〜13に記載されている代替の態様は互いに共通の特徴を含み、各種図面中の同じ又は類似の特徴を示すのに同じ参照番号が使用されている。図2〜13の新規特徴のみ(図1と比較して)が記載されているので、これらの図面は図1の記載と合わせて考慮されるべきである。
【0177】
図1は、本発明の一態様によるシステム101の概略図である。装入される基質ストリーム1は適切な管路を経由してシステム101に入る。装入基質ストリーム1は、CO及び場合によりCOを含み、ある態様において、基質ストリームは、酸素転炉における鋼の炭化中に放出されるような、産業プロセスからの廃ガスストリームである。ガスストリーム1内の成分の濃度は変動しうる。所望によるバルブ2は、ストリーム1が所望の組成を有していないと判定された場合に、ストリーム1を他の場所(ストリーム3によって表示)に方向転換するために含まれうる。例えば、ストリーム1からCOを得ることが所望される場合、ストリーム1に対して最小CO含有量を設定することができ、それによって最小CO含有量が適合しない場合、該ストリームはシステム101での更なる処理から方向転換される。そのような閾値を設定すれば、ストリームの非経済的又は非実現的な処理が避けられる。ガスが所望組成を有しているかどうかを判定するのに任意の公知手段が使用できる。また、“所望組成”とは、ストリーム1に包含されるのが所望される物質だけでなく、非所望成分のことも言う。例えば、ストリーム1は、特定の汚染物質がストリーム1中に存在する場合、方向転換されうる。
【0178】
当業者には分かる通り、バルブ2はシステム101内の他の場所に配置することもできる。例えば、それはバイオリアクター5による処理後に配置されてもよい。
ストリーム1が所望組成を有していると判定されたら、所望による前処理4に送られる。前処理4は、ストリームの各種側面、例えば温度及び汚染物質又はその他の望まざる成分(components)又は構成要素(constituents)の濃度などを制御するために使用できる。成分をストリームに追加するのにも使用できる。これは、ガスストリーム1の特定の供給源及び/又は特定の発酵反応及び/又はそのために選択される微生物が何であるかによる。
【0179】
前処理4はシステム101内の他の場所に配置しても省略してもよく、又は複数の前処理4をシステム101の様々なポイントに設備してもよい。これは、ガスストリーム1の特定の供給源及び/又は特定の発酵反応及び/又はそのために選択される微生物が何であるかによる。例えば、追加の前処理をCO除去装置8の上流に設備して、CO除去装置8に入るストリームの側面を制御してもよい。
【0180】
所望による前処理の後、ストリームは任意の公知移送手段によってバイオリアクター5に送られうる。例えば、ストリームは一つ又は複数のファン及び/又はポンプに駆動されてシステム全体に送られうる。バイオリアクター5は、生成物を製造するために所望の発酵反応を実施するように構成される。ある態様によれば、バイオリアクター5は、CO含有基質を処理して一つ又は複数の酸及び/又は一つ又は複数のアルコールを製造するように構成される。特定の態様において、バイオリアクター5はエタノール及び/又はブタノールを製造するために使用される。バイオリアクター5は複数のタンクを含みうる。各タンクは、同じ反応及び/又は特定の発酵プロセス内の異なる段階及び/又は異なる反応(一つ又は複数の共通段階を含みうる異なる発酵プロセスのための異なる反応を含む)を実施するように構成されている。
【0181】
バイオリアクター5は、その内部の温度を、実施される特定の発酵反応に使用される微生物のために許容限度内に制御するための冷却手段を備えうる。
バイオリアクター5で製造される生成物は、当該技術分野で公知の任意の回収プロセスによって回収されうる。しかしながら、本発明のある態様においては、生成物の少なくとも一部はバイオリアクター5を出て、CO及び場合により非変換COなどの成分を含むストリーム7に入ってもよい。そのようなストリームは、生成物取出し装置6で何らかの生成物を取り出すために所望により処理でき、その後、実質的に生成物を含まないストリーム7がCO除去装置8に送られる。
【0182】
CO除去装置8はストリーム7を受け取るように構成され、そこでストリーム7に存在するCOの少なくとも一部が該ストリームから除去され、残りの廃棄物ストリーム9が後に残る。ある態様において、CO除去装置8は、CO成分の少なくとも一部をストリーム7から分離するように構成され、分離されたCOを捕捉及び/又は更なる使用又は貯蔵に適切な生成物に変換するように適合されている。あるいは、CO除去装置8はストリーム7からCOを直接捕捉及び/又はそれを生成物に変換するように構成されてもよい。
【0183】
バイオリアクター5が複数の段階又は別個のタンクを含む場合、段階の少なくとも一部からのストリームがCO除去装置8に受け取られうる。また、複数の下流CO除去装置8を設備して、同じストリームが複数のCO除去ステップを受けるか、又は異なる発酵段階又はタンクからのストリームに対して同じ又は異なる除去ステップを実施してもよい。
【0184】
図2に示されている代替の態様によれば、CO除去装置8はバイオリアクター5の上流に配置されている(参照:図1では下流)。従って、図2の態様によれば、CO除去装置8は、基質ストリームがバイオリアクター5に送られる前に、該ストリームからCOを捕捉するのに使用できる。所望によるバルブ2は、CO含有量が少なすぎて効率的及び/又は効果的なCO捕捉ができないと判定されたら、該ストリームをバイオリアクター5に直接送ることができるように構成されうる。あるいは、ストリーム3は、例えばストリームがCO除去にも発酵にも不適切であるような場合に、まとめてシステムから離れる方に向けられる。
【0185】
図3の態様によれば、CO除去装置8はバイオリアクター5の下流に設備され、バルブ10は、十分なCOがストリーム9中に残っていて更なる発酵により生成物が製造できると判定されたら、ストリーム9をバイオリアクター5に戻すように構成されている。しかしながら、ストリームのCO含有量が所望レベル未満であると判定されたら、該ストリームは他の場所に向けることができる(ストリーム11によって表示)。図3の態様は、図1及び図2の態様の両方に付随する利益も含む。
【0186】
図4は、本発明の更なる態様によるシステム104の概略図である。装入されるガスストリーム1は適切な管路を経由してシステム104に入る。装入ガスストリーム1は、酸素転炉における鋼の炭化中に放出されるような、産業プロセスからの廃ガスストリームである。装入ガスストリーム1は、好ましくは少なくとも一つの炭素ベースのガスを含む。特定の態様において、ストリーム1はCO及び/又はCOを含む。ガスストリーム1内の成分の濃度は変動しうる。所望によるバルブ2は、ストリーム1が所望の組成を有していないと判定された場合にストリーム1を他の場所に方向転換するために含まれうる(ストリーム3によって表示)。例えば、ストリーム1からCOを得ることが所望される場合、ストリーム1に対して最小CO含有量を設定することができ、それによって最小含有量が適合しない場合、該ストリームはシステム104での更なる処理から方向転換される。そのような閾値を設定すれば、ストリームの非経済的又は非実現的な処理が避けられる。ガスが所望組成を有しているかどうかを判定するのに任意の公知手段が使用できる。前述のように、“所望組成”とは、ストリーム1に包含されるのが所望される物質だけでなく、非所望成分のことも意味しうる。例えば、ストリーム1は、特定の汚染物質がストリーム1中に存在する場合、方向転換されうる。
【0187】
本開示を考慮すれば当業者には分かるように、バルブ2はシステム104内の他の場所に配置することもできる。例えば、それはガス分離装置13による処理後のシステムに配置されてもよい。
【0188】
ストリーム1が所望組成を有していると判定されたら、ガス分離装置13に送られる。ガスストリーム1の少なくとも第一の成分が該ストリームから分離され、残りの成分が後に残る。少なくとも第一の成分又は残りの成分のいずれかがストリーム12として方向転換され、他の成分は所望による前処理4及びバイオリアクター5に送られる。従って、発酵反応に供給するためにガスストリーム中にCOが必要な場合、COが残りのストリームから分離されてCOのみ(又はCO豊富ストリーム)がバイオリアクター5に送られる。あるいは、ストリームの一つ又は複数の成分(例えばO2及び/又はH)が、それらが少なくとも部分的に除去されるように分離され、残りのストリームがバイオリアクター5に送られてもよい。
【0189】
本開示を考慮すれば当業者には分かるように、ガス分離装置13は、一つ又は複数の段階又は別個の装置(ユニット)を含んでよく、一つ又は複数のガスが各段階で分離されうる。
【0190】
ガス分離のためのプロセス及び配置(アレンジ)の更なる説明を以下に提供する。
前述のように、前処理4はシステム104内の他の場所に配置しても省略してもよく、又は複数の前処理4をシステム104の様々なポイントに設備してもよい。前処理4の使用は、ガスストリーム1の特定の供給源及び/又は特定の発酵反応及び/又はそのために選択される微生物が何であるかによるであろう。
【0191】
バイオリアクター5は、所望の発酵反応を実施するように構成される。ある態様によれば、バイオリアクター5は、CO含有基質を処理して一つ又は複数の酸及び/又は一つ又は複数のアルコールを製造するように構成される。特定の態様において、バイオリアクター5はエタノール及び/又はブタノールを製造するために使用される。バイオリアクター5は複数のタンクを含みうる。各タンクは、同じ反応及び/又は特定の発酵プロセス内の異なる段階及び/又は異なる反応(一つ又は複数の共通段階を含みうる異なる発酵プロセスのための異なる反応を含む)を実施するように構成されている。
【0192】
バイオリアクター5は、その内部の温度を、実施される特定の発酵反応に使用される微生物のために許容限度内に制御するための冷却手段を備えうる。
図5の代替の態様によれば、ガス分離装置13はバイオリアクターの下流に配置される(参照:図4では上流)。従って、図5の態様によれば、ガス分離装置13は、バイオリアクター5での発酵反応によって生成したガスの一つ又は複数の成分を分離、及び/又はバイオリアクター5に供給されたが使用されなかったガスを分離するのに使用されうる。バイオリアクター5が複数の段階又は別個のタンクを含む場合、段階の少なくとも一部からのガスがガス分離装置13に受け取られうる。また、複数の下流ガス分離装置13を設備して、同じガスストリームが複数の分離を受けるか、又は異なる発酵段階又はタンクからのガスストリームに対して同じ又は異なる分離を実施するようにしてもよい。
【0193】
図6の態様によれば、ガス分離装置13は、バイオリアクターの上流及び下流に備えられており、図4及び図5の態様の両方に付随する利益を有している。
ポンプ又はコンプレッサー(図示せず)をバイオリアクター5の上流に設備すれば、バイオリアクター5内のガスの圧力を増大することができる。本明細書で前述したように、バイオリアクター内のガスの圧力はその中で実施される発酵反応の効率に影響を及ぼしうる。従って、圧力を調整すれば発酵の効率を改良することができる。一般的反応のための適切な圧力は当該技術分野で公知である。
【0194】
ガスストリーム1は複数の異なるストリームを含みうる。異なるストリームには別の処理エレメントが提供でき、エレメントの一部だけが共通である。例えば、第一のストリームは第一のガス分離装置によって受け取られ、第二のストリームは第二の分離装置によって受け取られうる。第一及び第二の両分離装置からの流出ストリームはその後共通のバイオリアクターに送ることができる。その他のレベルの共通性又は相違性も本発明の範囲内に含まれる。
【0195】
図7は、本発明の一態様によるシステム107の概略図である。廃ガスストリーム14は、産業プロセス(例えばBOFにおける鋼の炭化)から適切な管路を経由してシステム107に入る。ストリーム14は、破線によって示されているように間欠的な性質のものである。ストリーム14は、絶えず供給されているという意味では持続的ストリームであるかもしれないが、ストリーム内の特定のガスの含有量は時間とともに変動しうる。例えば、ストリーム14内のCOは時間とともに高濃度及び低濃度の間で変動しうる。ストリーム14が実際持続的又は間欠的に生成しているかどうかに関わらず、所望ガスの濃度が低すぎて発酵反応を支持できない(又は望まざるガス(例えばO2)の濃度が高すぎる)間は、バルブ2を使用してストリーム14を大気中を含む他の場所に方向転換すればよい(ストリーム3によって示されている)。ストリーム14が所望ガスを所望濃度で含む時は、バルブ2は得られたストリーム15を緩衝貯蔵タンク16に送る。ストリーム15もそのおそらくは間欠的性質のために破線で示されている。
【0196】
緩衝貯蔵タンク16は、前処理4でのガスの何らかの前処理後にバイオリアクター5にガスを供給する貯留槽としての役割を果たす。前処理4は、ガスストリーム14の特定の供給源及び/又は特定の発酵反応及び/又はそのために選択される微生物に応じて、システム1内の他の場所に配置されても、さらには省略されてもよい。
【0197】
緩衝貯蔵タンク16は、好ましくはガスの定常ストリーム17を放出する。これは前処理4に送られた後、定常ストリーム18としてバイオリアクター5に送られる。ストリーム17及び18は、それらの実質的に連続的な性質を反映するために実線として示されている。ガスは、緩衝貯蔵タンク16内でそれに必要な空間を削減するために圧縮することができる。バルブ(図示せず)又はその他の手段を使用して、緩衝貯蔵タンク16からのガスの流速を設定することができる。速度は、好ましくは一定で、緩衝貯蔵タンク16が常にガスの供給を有し枯渇しないように選択される。一態様によれば、制御手段(図示せず)は、タンクに含有されるガスの量に応じてバルブを制御してガス15の流速を変えることができる。さらに詳しくは、緩衝貯蔵タンク16に貯蔵されているガスが所定レベル未満に落ちたら、緩衝貯蔵タンク16からのガスの流速は、最適レベルのガスはバイオリアクター5に送られないが、バイオリアクター5内の微生物にとって改良された条件を提供することにより、バイオリアクター5の生産性に対する作用を少なくとも軽減しうる削減レベルが提供されるように削減することができる。
【0198】
このように、間欠的性質のストリーム14は、図7に示された態様において、貯蔵タンク16におけるガスの緩衝によって緩和される。
本開示を考慮すれば当業者には明白なように、緩衝貯蔵タンク16は、好ましくは発酵プロセスの廃ガスを除去するための排気口を含む。バイオリアクター5は、その中の温度を微生物のために許容限度内に制御するための冷却手段を備えていてもよい。
【0199】
システム107の代替の態様によれば、緩衝貯蔵タンク16は、同じ又は類似の機能を果たす代替の貯蔵形態に置き換えられる。これらには、吸収、吸着、及び圧力及び/又は温度スイングの一つ又は複数が含まれうる。一態様によれば、ガスは溶解して貯蔵され、その後該溶液がバイオリアクター5に供給される。そのようなアレンジは、必要なガスがバイオリアクター5に届く前に既に溶解されているので、バイオリアクター5内での処理時間を削減しうる。
【0200】
図8に示されたアレンジにおいて、緩衝貯蔵タンク16は、破線によって示されているように任意である。緩衝貯蔵タンク16が省略された態様では、ストリーム14は、バイオリアクター5に、入手可能かつ許容しうる組成を有する場合に送られる結果、間欠的性質のストリーム19及び20となる。前述のように、これは特定の微生物又はプロセスにとって理想的でないであろう。緩衝貯蔵タンク16が含まれる場合、ストリーム15の一部はそちらに方向転換されうる。その結果、ストリーム15が入手可能な場合、ガスはバイオリアクター5及び緩衝貯蔵タンク16の両方に送られる。緩衝貯蔵タンク16に送られたガスは、ストリーム15が入手できないときまで貯蔵されうる。従って、少なくとも低レベルのガスストリームを緩衝貯蔵タンク16からバイオリアクター5に送ることができる。
【0201】
当業者には明らかなように、産業プロセスからの廃ガスストリーム14は高温でありうる。微生物にとって許容可能な温度範囲は様々であるが、エタノールなどのアルコールを製造するのに通常使用される嫌気性細菌の場合、ほぼ30℃〜50℃程度である。ガスストリーム14は、バイオリアクター5内の温度を上昇させうる。これは発酵プロセスの発熱的性質によってさらに悪化するので、システム内に冷却のための対策を含める必要性が生じる。一態様によれば、ストリーム14の間欠的性質は、バイオリアクター5のための冷却手段を設計する場合に考慮される。さらに詳しくは、ストリーム14が入手できない又は所望組成でない間、バイオリアクター5内の温度は、使用される微生物の許容温度範囲の下限の温度に低下しうる(例えば30℃の方に)。その後、ガスストリーム14が所望組成で入手可能になった場合、バイオリアクター5内では温度上昇が可能となるので、ガスがバイオリアクター5に供給される場合に提供される冷却手段の必要性が低減する。このように、エタノールなどのアルコールを製造するのに通常使用される嫌気性細菌の場合、バイオリアクター5内の温度は50℃に近づくことが許されうる。一態様によれば、バイオリアクター5が最大許容温度に近づいた場合、ガスストリーム14は、たとえ所望組成で入手可能であってもバイオリアクター5に入らないようにできる。そうすることにより、バイオリアクター5内の温度はより容易に制御可能になる。そのような場合、ガスは後の使用のために貯蔵されるか又はどこか他の場所に方向転換され、そこで追加の処理ステップを受けてもよい。このことは本開示を考慮すれば当業者には明白な通りである。本発明の特定の態様は、冷却負荷の平準化を提供する。
【0202】
図9は、本発明の別の態様によるシステム109の概略図である。コンプレッサー22は、間欠的ストリーム21(入手可能な場合)を圧縮する役割を果たし、圧縮ストリーム23をバイオリアクター5に送達する。従って、図9の態様によれば、バイオリアクター5は、発酵タンクとしてのみならず、ストリーム14が入手可能で所望組成を有する場合に高めた圧力でタンク内にガスを保持することにより貯蔵タンクとしても効果的に機能する。ストリーム14に中断がある間又はストリーム14が所望組成を持たない場合、バイオリアクター5内のガスの圧力が降下するように、しかしながら、所望ガスが、相当な時間微生物がガスを奪われることを防ぐのに十分なレベルに連続的に維持されるか又は十分よく維持されるように、廃ガスはバイオリアクター5から少しずつ排気することができる。
【0203】
図10a及び10bは、本発明の別の態様によるシステム110a及び110bの概略図である。ここでは、複数の間欠的ガスストリーム14a及び14bがバイオリアクター5内での発酵反応への供給用に使用されている。従って、ストリーム14aが入手できないか又は所望組成を持たない場合、バイオリアクター5は代わりにストリーム14bによって供給されうる。当業者には明らかなように、三つ以上のガスストリーム源も利用可能である。また、各ストリームの処理ステップがどの程度共通かも各ストリームの特定の組成に応じて変動しうる。図10a及び10bに示されているアレンジは、製鋼所で製鋼プロセスの異なる段階に由来する異なるストリームを用いて実施できる。さらに又はあるいは、他のガス源も使用できる。例えば、エタノールなどのアルコールを製造するために嫌気性細菌を使用する発酵においては、ストリームを供給するのに従来的供給源が使用できる(例えばバイオマス)。
【0204】
図11は、本明細書中で前述したいくつかの段階を組み込んだ、本発明の別の態様によるシステム111の概略図である。間欠的ストリーム14は、図7に関して前述したように、実質的に連続したストリーム17に変換される。実質的に連続したストリーム17はガス分離装置13に送られる。これは、基質ストリームのその他の成分、例えばCOからCOを分離するように適合されている。COを含む分離ストリーム12はCO除去装置8に送られ、そこで更なる使用に適切な生成物に変換されるか又は貯蔵されうる。COを含む残りのストリームは、所望による前処理4に送られた後、バイオリアクター5に送られる。任意の管路24は、バイオリアクター5を出たCOを含むストリームをCO除去装置8(そこで更なる使用に適切な生成物に変換されるか又は貯蔵されうる)に戻すために設備されうる。
【0205】
図12は、本発明の更なる態様によるシステム112の概略図である。ブロウン・オキシジェン・ファーナンス(blown oxygen furnace)25は、鋼の脱炭のような産業プロセスの一部でありうるが、廃ストリーム1を生成する。特定の態様において、廃ストリーム1はCO及び/又はCOを含む。廃ストリーム1は所望による前処理4aを通る。典型的には、前処理4aは、ストリーム1から粒状物質を除去するように適合されたスクラバ又は水浴である。バルブ2aは、ストリーム1の少なくとも一部を、それが所望組成を有していないと判定された場合に、廃棄物集積所26に方向転換させるように適合されている。方向転換されたストリームは矢印3aによって示されている。典型的には、廃棄物集積所26に方向転換されたストリームは、矢印27によって示されているように大気中に放出される。典型的には、ストリームはガス状なので、一つ又は複数のファン及び/又はポンプに駆動されて廃棄物集積所及び所望によりシステム113全体に送ることができる。
【0206】
ストリーム1が所望組成を有していると判定されたら、ストリーム14として所望による熱交換器28aに振り向けることができる。典型的には、ストリーム14は間欠的な性質であり、冷却を必要としうる。熱交換器28aは当該技術分野で公知のいずれかの熱交換手段でよい。しかしながら、例を挙げると、それはシェルチューブ熱交換器である。必要であれば、所望による前処理4bを使用して残留粒状物質をストリームから除去することができる。例えば、膜フィルタがストリームから残留粒状物質を除去するのに使用できる。前処理4bは、所望により冷却されたストリームから凝縮水を除去するための手段、例えばノックアウトポット又は当該技術分野で公知のその他の適切な水分回収手段を含むこともできる。
【0207】
ストリームは、ガスコンプレッサー22のような任意の適切な手段によって加圧された後、酸素除去段階29に送ることができる。酸素除去に適切な任意の手段が使用できるが、例を挙げると、酸素除去段階29は、熱銅触媒又は接触コンバーターなどである。ストリームは任意の熱交換器28bを使用して冷却された後、保持チューブ30に送ることができる。保持チューブ30は、ストリームがバルブ2bに到達する前にストリームの組成を任意の適切な測定手段(図示せず)によって決定できるほど十分長い。ストリームが所望の組成を有していると判定されたら、バルブ2bによって緩衝貯蔵手段16に振り向けることができる。組成が発酵に適切でない場合、例えば酸素含有量が高すぎる場合、バルブ2bはストリームを廃棄物集積所26の方に方向転換できる(矢印3bによって示す)。緩衝手段16は、実質的に連続した基質ストリーム17を所望による前処理4c経由でバイオリアクター5に送る。所望による前処理4cは、ストリーム17から微生物のような望まざる汚染物質を除去するために使用できる。例えば、除菌フィルタ又は膜を使用すれば、ストリームから望まざる細菌を除去できる。バイオリアクター5を出た廃棄物ストリーム3cも廃棄物集積所26に送ることができる。
【0208】
ストリームの組成を測定する手段は、所望によりシステムのいずれの段階に含めてもよい。例えば、O2、CO及び/又はCOの組成を測定するための手段は、バルブ2aの上流、保持チューブ30又はバルブ2bの上流及び/又はバイオリアクター5の上流に含めることができる。さらに、ストリームがおそらくは可燃性であるために、火炎防止装置などの安全装置もシステムのいずれかの段階に含めることができる。
【0209】
図13は、本発明の更なる態様によるシステム113の概略図である。廃ストリーム1及びストリーム13(このいずれか又は両方とも間欠性でありうる)はブレンダー32に送られる。ブレンダー32は、少なくとも二つのストリーム(例えばストリーム1及び31)の流れを制御し、該ストリームを混合して所望組成を有するストリーム(ストリーム33)を達成するように適合されている。望ましくない組成を有するストリームのような望まざるストリームは、矢印3によって示されているように、システム113から方向転換されうる。しかしながら、望ましい組成を有するストリーム33は、所望による緩衝装置16、所望による前処理4の後、生成物への変換のためにバイオリアクター5に送られうる。ストリーム1、3、31及び33の組成及び流速は、当該技術分野で公知のいずれかの手段によって連続的に又は別の方法でモニターされうる。
【0210】
ストリーム1及び/又はストリーム31は、さらに又はあるいは、それらの個々の組成に基づいて、ブレンダー32に入る前に方向転換できる。そのようなアレンジは、ストリーム1、31の一方を使用することを可能にする(一つだけが望ましくない組成を有している場合)。
【0211】
特定の態様において、ブレンダー32は混合チャンバを含む。これは典型的には小型容器又はパイプの一部を含む。そのような場合、容器又はパイプは、バッフルなどの混合手段を備え、個別成分の撹乱及び迅速な均一化を促進するように適合させることができる。
【0212】
本発明のある態様において、ブレンダー32は、望ましい最適化された基質ストリーム33を達成するために、二つ以上のストリームのブレンドを制御するための手段を含む。例えば、ブレンダー32は、ブレンダー32に入るストリーム1及び31のそれぞれの流速を、望ましい組成のストリーム33が達成されるように(例えば望ましいCO:H比)制御するための手段を含みうる。ブレンダーは、好ましくは混合チャンバの下流にモニター手段(連続的又は別の方法)も含む。特定の態様において、ブレンダーは、モニター手段からのフィードバックの結果として、各種ストリームの流速及び/又は組成を制御するように適合された処理装置を含む。
【実施例】
【0213】
次に、本発明を以下の非制限的実施例を参照しながらさらに詳細に説明する。
これらの実施例中に記載されている発酵に使用される培地及び溶液は、別途記載のない限り、下記成分を含有する。
培地:
【0214】
【表1】

【0215】
【表2】

【0216】
方法論
培地
培地溶液LM23及びLM33をpH5.5で以下のように調製した。システインHCLを除く全成分を400mlのdHO中に混合した。この溶液を、95%CO、5%COガスの一定流量下で沸騰するまで加熱し、室温に放冷することによって嫌気性にした。冷却したら、システインHCLを加え、溶液のpHを5.5に調整した後、容量を1000ml(実施例1用)又は500mL(実施例2用)にした。嫌気性は実験の間ずっと維持された。
【0217】
製鋼所のオフガス
製鋼所のオフガスは、ニュージーランドのグレンブルックにあるNew Zealand Steel Glenbrook施設から得た。さらに詳しくは、該オフガスをガス不透過性バッグに捕捉及び貯蔵するか又はスチールガスシリンダに入れて100〜130バールで加圧した。バッグに貯蔵された製鋼所オフガスは、ガス不透過性ブチルゴムのセプタムを介して利用した。製鋼所オフガスの組成は、製鋼の段階に応じて時間とともに変動する。しかしながら、ガスは脱炭プロセス中に回収され、そのようなガスは典型的には、CO:43〜50%;CO:17〜20%;H:2〜3%;N2:27〜34%を含有する。
【0218】
製鋼所のスクラバ水
ニュージーランドのグレンブルックにあるNew Zealand Steel Glenbrook施設でKOBMオフガスストリームをスクラブ(洗浄)するのに使用された水をブフナー漏斗及び真空ラインを用い、S95ろ紙を通して一度ろ過した。ろ水のpHを5.5に調整し、95%CO、5%COガスを45分間通気した後、更なる使用に供した。
【0219】
細菌
クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)をGerman Resource Centre for Biological Material(DSMZ)から得た。該細菌に付与された受入番号はDSMZ10061である。あるいは、使用されたクロストリジウム・オートエタノゲナムは、German Resource Centre for Biological Material(DSMZ)に寄託され、受入番号19630を割り当てられたものである。
【0220】
サンプリング及び分析手順
培地サンプルを5日間にわたって時々採取した。培地採取のたびごとに、リアクター/血清ボトルへのガスの侵入又はボトルからのガスの漏出が何らないことを確保するために注意を払った。
【0221】
細胞密度を決定するために全サンプルを使用して600nmにおける吸光度(分光光度計)を確立した。基質及び生成物の量はHPLC及びGCによって決定した。HPLCは、アセテート、エタノールの量を定量するために日常的に使用した。GCは、一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び窒素のガスの割合(v/v)を定量するために使用した。
【0222】
HPLC
HPLCシステム Agilent 1100シリーズ。移動相:0.0025N 硫酸。流量及び圧力:0.800mL/分。カラム:Alltech IOA;カタログ番号9648、150×6.5mm、粒径5μm。カラム温度:60℃。検出器:屈折率。検出器の温度:45℃。
【0223】
サンプル調製法:400μLのサンプル+50μLの0.15M ZnSO+50μLの0.15M Ba(OH)をエッペンドルフ管に入れる。12,000rpm、4℃で10分間遠心分離。200μLの上清をHPLCバイアルに移し、HPLC器具5μLに注入。
【0224】
ガスクロマトグラフィー
ガスクロマトグラフ CP−4900 Micro−GC、デュアルチャンネルを使用した:CP−4900チャンネル Molecular Sieve 5A PLOT、10m、内径0.25mm、バックフラッシュ4.2秒、インジェクタ及びカラム温度 70℃、アルゴンキャリヤーガス 200kPa 40ミリ秒注入。CP−4900チャンネル PoraPLOT Q、10m、内径0.25mm、インジェクタ温度70℃及びカラム温度90℃、ヘリウムキャリヤーガス 150kPa 40ミリ秒注入。サンプリング時間20秒。方法のランタイム2分。サンプルラインを70℃に加熱し、Nafionドライヤーと接続。
【0225】
実施例1 製鋼所のオフガスを用いる発酵
実施例1a(血清ボトル)
培養は、それぞれ50mlの培地を含有する250mlの密閉血清ボトル中で実施した。各血清ボトルの上部空間をまずCOで3回フラッシュした後、排気して、回収された製鋼所のオフガスを充填し、最終圧力25psigとした。各ボトルに1mlのクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)培養物を植菌した。振盪培養器を使用し、反応温度は37℃に維持した。
【0226】
培地サンプルを15日間にわたって時々採取した。毎回培地を採取した。血清ボトルへのガスの侵入又はボトルからのガスの漏出が何らないことを確保するために注意を払った。
【0227】
全サンプルを使用して、細胞密度及びアセテート濃度を確立した。
図14及び15から分かるように、細胞増殖及びアセテート生成は最初の10日間上昇した後、徐々に減少していった。このように、細胞増殖及びアセテート生成は、製鋼所のオフガスを用いて、該ガスに対して発酵反応に使用する前に何の追加的処理ステップを実施しなくても、容易に支持された。
【0228】
実施例1b(血清ボトル)
培養は、それぞれ50mlの培地LM33を含有する234mlの密閉血清ボトル中で実施した。各血清ボトルの184mlの上部空間をまず製鋼所のオフガスで3回フラッシュした後、排気して、30psigの過剰圧力まで充填した。各ボトルに2mlのクロストリジウム・オートエタノゲナム培養物を植菌した。振盪培養器を使用し、反応温度は37℃に維持した。実験の結果を表3に示す。
【0229】
【表3】

【0230】
実施例1c(10Lの連続撹拌槽リアクター)
Bioflo 3000バイオリアクターに5Lの培地LM33(システイン及びビタミン溶液(LS03)は含まず)を満たし、121℃で30分間オートクレーブ処理した。冷ましている間、培地にN2を散布し、LS03溶液並びにシステインを加えた。ガスを製鋼所のオフガスに切り替えた後、150mlのクロストリジウム・オートエタノゲナム培養物を植菌した。バイオリアクターを37℃に維持し、培養開始時200rpmで撹拌した。ガス流量は60ml/分であった。増殖期の間、撹拌を400rpmに上げ、ガス流量を100ml/分に設定した。pHを5.5に設定し、5MのNaOHの自動添加によって維持した。ガス消費を含めた本実験の結果を表4に示す。
【0231】
【表4】

【0232】
実施例1d(50Lのガスリフトリアクター)
50Lのガスリフトリアクター(高さ2900mm×直径150mm及びドラフトチューブ 高さ2000mm×直径95mm)に、0.2マイクロメートル孔フィルタ(Pall KA2 DFL P2フィルタ)を通してろ過滅菌された37Lの培地LM33を満たした。培地に窒素を18時間散布した後、製鋼所のオフガスに切り替え、その後5Lのクロストリジウム・オートエタノゲナム培養物を植菌した。ガスリフトリアクターを37℃に維持し、上部空間のガスを15L/分で再循環させることによって混合を達成した。リアクターへのガス流量は開始時500ml/分であった。上部空間の過剰圧力は8psigに維持した。増殖期の間、リアクターへのガス流量を1000ml/分に増大した。pHを5.5に設定し、5MのNaOHの自動添加によって維持した。ガス消費を含めた本実験の結果を表5に示す。
【0233】
【表5】

【0234】
本発明の特定の態様は、特にクロストリジウム・オートエタノゲナムによるエタノール製造のために、産業オフガスを用いる微生物発酵反応の適用可能性を増大する。産業プロセスから直接得られたCOを含む廃ガスは、アセテート及び/又はエタノールのような生成物を製造するための発酵反応における基質として使用できる。その結果、廃ガス中の炭素捕捉、ひいては産業プロセス、特に製鋼によって発生する廃棄物の改善又は削減、及び発酵反応の運転に伴うコスト低下がもたらされる。
【0235】
実施例2:スクラバ水を用いる発酵
95%CO、5%COの連続ガスフロー下、25mlのLM23培地を250mlの血清ボトルに分配し、25mlのdHO(対照ボトル)又は25mlのpH調整された嫌気性スクラバ水(実験ボトル)のいずれかと混合した。全ボトルとも、ガス不透過性ブチルゴムのセプタムで栓をし、クリンプシールして、121℃で20分間オートクレーブ処理した。
【0236】
冷めたら、全血清ボトルに1mlのクロストリジウム・オートエタノゲナム培養物(95%CO、5%CO上で活発に増殖)を植菌した。上部空間ガスは95%CO、5%COで35psigに加圧した。初期の培地サンプルを各ボトルから無菌的に採取した。ボトルは37℃の振盪培養器上に置いた。
【0237】
培地サンプルを15日間にわたって一定間隔で採取した。培地採取のたびごとに、各ボトルの上部空間を95%CO、5%COガスで3回フラッシュし、その後このガスで35psigに加圧した。
【0238】
全サンプルを用いて、各培養物中の細胞濃度とエタノール及びアセテートのレベルを確立した。
結果
図16及び17から分かるように、50%のスクラバ水を培地に加えた影響は、
1.低レベルのアセテート生成;
2.最終細菌密度の45%増加;及び
3.エタノール生成レベルの44%増加
であった。
【0239】
このように、本発明の特定の態様は、発酵反応における増殖及びアルコール製造、特にクロストリジウム・オートエタノゲナムによるエタノール製造の効率を増大する。産業プロセスからの廃棄物は、発酵反応に使用される栄養培地を補給するのに使用できる。特に、スクラバ水は、微生物発酵反応のための代替の主要供給原料又は基質として使用することができる。この結果、産業プロセス、特に製鋼によって発生する廃棄物の改善又は削減、発酵反応を支持するために必要な培地の量の削減、及び発酵によるエタノール製造におけるアセテート副産物の量の削減、ひいては発酵反応の総体的効率の改良及びそのような反応の運転に伴うコストの低下がもたらされる。
【0240】
本発明をある好適な態様に関して本明細書中で説明してきたが、それは過度の実験をせずとも読者が本発明を実施できるようにするためである。当業者であれば、本発明は、具体的に記載されたもの以外にも、多数の変形及び変更をして実施できることは分かるであろう。本発明はすべてのそのような変形及び変更も含むことは理解されるはずである。さらに、表題、見出しなどは、本文献に対する読者の理解を助けるために提供されるものであって、本発明の範囲を制限するものとして読まれるべきでない。本明細書中に引用されたすべての出願、特許及び出版物の全開示内容は、引用によって本明細書に援用する。
【0241】
さらに詳しくは、当業者には分かる通り、本発明の態様の実施には一つ又は複数の追加的要素が含まれうる。特定の実施例又は記載においては本発明をその様々な側面において理解するのに必要な要素しか示されていない。しかしながら、本発明の範囲は、記載された態様に限定されず、一つ又は複数の追加ステップ及び/又は一つ又は複数の置換ステップを含むシステム及び/又は方法、及び/又は一つ又は複数のステップを省略したシステム及び/又は方法も含む。
【0242】
本明細書においてどの先行技術への言及も、該先行技術があらゆる国において努力傾注分野の共通の一般的知識の一部を形成していることの承認又は何らかの形態の示唆であるとは受け取られないし、受け取られるべきでない。
【0243】
本明細書及び以下の請求項の全体を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、“含む(comprise, comprising)”などの用語は、排他的意味とは反対に包括的意味、すなわち“含むが、限定されない”の意味と解釈されるものとする。
【符号の説明】
【0244】
1 基質ストリーム
2 バルブ
3 ストリーム
4 前処理
5 バイオリアクター
6 生成物取出し装置
7 ストリーム
8 CO除去装置
9 廃棄物ストリーム
10 バルブ
11 ストリーム
12 ストリーム
13 ガス分離装置
14 廃ガスストリーム
15 ストリーム
16 緩衝貯蔵タンク
17 ストリーム
18 ストリーム
19 ストリーム
20 ストリーム
21 ストリーム
22 コンプレッサー
23 ストリーム
24 管路
25 ブロウン・オキシジェン・ファーナンス
26 廃棄物集積所
27 矢印
28a 熱交換器
29 酸素除去段階
30 保持チューブ
31 ストリーム
32 ブレンダー
33 ストリーム
101 システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物発酵による炭素捕捉法であって、
i.産業プロセスからのCOを含むオフガスストリーム又は廃ガスストリームを受け取り;
ii.当該ガスストリームを、一つ又は複数の微生物の培養物を含有するバイオリアクターに送り;そして
iii.当該バイオリアクター内で当該培養物を発酵させて一つ又は複数の生成物を製造する
ことを含む方法。
【請求項2】
CO成分の少なくとも一部分を、CO除去装置を用いて、
i.前記バイオリアクターに入る前のストリーム;及び
ii.前記バイオリアクターを出た後のストリーム
の一方又は両方から捕捉することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一のガス分離ステップを含み、当該第一のガス分離ステップは、
i.ガスストリームを受け取り;
ii.当該ガスストリームの少なくとも一部分を実質的に分離し、ここで、当該一部分は当該ガスストリームの一つ又は複数の成分を含み;そして
iii.分離された部分の少なくとも一部を前記バイオリアクターに送る
ことを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオリアクターに送られた分離された部分の少なくとも一部がCOを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第二のガス分離ステップを含み、当該第二のガス分離ステップは、
i.ガスストリームを受け取り;
ii.当該ガスストリームの少なくとも一部分を実質的に分離し、ここで、当該一部分は当該ガスストリームの一つ又は複数の成分を含み;そして
iii.分離された部分の少なくとも一部を前記CO除去装置に送る
ことを含む、請求項2、又は請求項2に従属している場合、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ガス分離ステップが前記ガスストリームからCOを実質的に分離し、分離されたCOを前記CO除去装置に送る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ガスストリームを緩衝すること、及びその少なくとも一部を実質的に連続的な様式で前記バイオリアクターに送ることを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
緩衝のステップが、
i.間欠的又は非連続的なガスストリームを貯蔵手段で受け取り;そして
ii.前記貯蔵手段から実質的に連続的なストリームを前記バイオリアクターに送る
ことを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
一つ又は複数のガスストリームを少なくとも一つの他のストリームとブレンドすることを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガスストリームが20%〜95%のCOを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
発酵が、アルコール及び/又は酸を含む一つ又は複数の生成物を製造するために、前記バイオリアクター内の液体栄養培地中で一つ又は複数のカルボキシド栄養性(carboxydotrophic)細菌を培養することによって実施される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
カルボキシド栄養性細菌が、クロストリジウム、ムーレラ及びカルボキシドサーマスから選ばれる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
カルボキシド栄養性細菌がクロストリジウム・オートエタノゲナムであり、発酵生成物がエタノール及び/又はアセテートである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
産業プロセスからのスクラバ水を前記バイオリアクターに加えることを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
微生物発酵による炭素捕捉のためのシステムであって、産業プロセスからのオフガス又は廃ガスを受け取るための入口を含み、該システムは、使用時、微生物発酵によって生成物を生成させるために、当該ガスの少なくとも一部分をバイオリアクターに送るように構成されているシステム。
【請求項16】
使用時に、CO成分の少なくとも一部分を
i.前記バイオリアクターに入る前のストリーム;及び
ii.前記バイオリアクターを出た後のストリーム
の一方又は両方から捕捉するように構成されたCO除去装置を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
使用時に、
i.ガスストリームを受け取り;
ii.当該ガスストリームの少なくとも一部分を実質的に分離し、ここで、当該一部分は当該ガスストリームの一つ又は複数の成分を含み;
iii.分離された部分の少なくとも一部を前記バイオリアクターに送る
ように構成された第一のガス分離装置を含む、請求項15又は16に記載のシステム。
【請求項18】
第一のガス分離装置が、使用時に前記ガスストリームからCOを実質的に分離し、分離されたCOを前記バイオリアクターに送るように適合されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
使用時に、
i.ガスストリームを受け取り;
ii.当該ガスストリームの少なくとも一部分を実質的に分離し、ここで、当該一部分は当該ガスストリームの一つ又は複数の成分を含み;そして
iii.分離された部分の少なくとも一部を前記CO除去装置に送る
ように構成された第二のガス分離装置を含む、請求項16、又は請求項16に従属している場合、請求項17又は18に記載のシステム。
【請求項20】
第二のガス分離装置が当該ガスストリームからCOを分離し、分離されたCOをCO除去装置に送るように適合されている、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
使用時に、基質ストリームを実質的に連続的なストリームで前記バイオリアクターに供給するように適合された緩衝手段を含む、請求項15〜20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記緩衝手段が、使用時に、
i.間欠的又は非連続的なガス/基質ストリームを受け取り;そして
ii.実質的に連続的なガス/基質ストリームを前記バイオリアクターに送る
ように適合された緩衝貯蔵タンクを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
使用時に、ガスストリームを少なくとも一つの他のストリームと組み合わせた後、当該組み合わされたストリームを前記バイオリアクターに送るように適合されたブレンド手段を含む、請求項15〜22のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項24】
前記バイオリアクターに供給される及び/又は前記バイオリアクターから排出される少なくとも一つのガスストリームの組成をモニターするための少なくとも一つの測定手段を含む、請求項15〜23のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
一つ又は複数のガス/排出ストリームの少なくとも一部分を、
i.前記バイオリアクター;
ii.請求項25が請求項16に従属している場合、前記CO除去装置;
iii.請求項17に従属している場合、前記第一のガス分離装置;
iv.請求項19に従属している場合、前記第二のガス分離装置;
v.請求項25が請求項21に従属している場合、前記緩衝手段;
vi.請求項25が請求項23に従属している場合、前記ブレンド手段;及び
vii.排出手段
の一つ又は複数に向かわせるための制御手段を含み、i〜viiの送り先の内の特定のものが、前記測定手段によってなされた測定に少なくとも部分的に基づいて選ばれる、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
バイオリアクターでの基質の微生物発酵による生成物製造プロセスにおける総体的炭素捕捉を増大させるためのシステムであって、CO成分の少なくとも一部分を、
i.当該バイオリアクターに入る前のストリーム;及び
ii.当該バイオリアクターを出た後のストリーム
の一方又は両方から捕捉するように構成されたCO2除去装置を含むシステム。
【請求項27】
ガスの供給が間欠的である場合の前記ガスの微生物発酵により生成物を製造するためのプロセスの効率を増大させるためのシステムであって、当該ガスの少なくとも一部分を受け取って貯蔵するように適合された緩衝手段、及び当該ガスの少なくとも一部分を当該緩衝手段から受け取るように適合されたバイオリアクターを含むシステム。
【請求項28】
ガスの微生物発酵により生成物を製造するためのプロセスの効率を増大させるためのシステムであって、ガスストリームを受け取り、前記ストリームの少なくとも一部分をバイオリアクターに送るように構成されたガス分離装置を含むシステム。
【請求項29】
廃ガスの微生物発酵によってアルコールを製造するように適合された製鋼所。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2011−500100(P2011−500100A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531980(P2010−531980)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際出願番号】PCT/NZ2008/000275
【国際公開番号】WO2009/058028
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510119555)ランザテク・ニュージーランド・リミテッド (6)
【Fターム(参考)】