説明

発酵ゴマの製造方法および発酵ゴマ

【課題】 抗酸化性が高く、免疫賦活、血圧降下作用をもつ発酵ゴマの製造方法を提供することである。
【解決手段】 ゴマ種子を180℃以上に加熱した後に摩砕し、水及びアミノ酸を添加し、ラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ロイテリなどの乳酸菌によって発酵させる発酵ゴマの製造方法である。ゴマが本来もっている抗酸化力を増強させるとともに、免疫賦活作用及び血圧降下作用を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性を有する発酵ゴマの製造方法および発酵ゴマに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴマは古くから栄養価が高い食品として食されている。近年その機能性が研究され、フェニルプロパノイドの一種であるゴマリグナンは、機能性食品素材として多くのサプリメントに利用されてきた。とりわけセサミンはゴマ由来の抗酸化食品素材として注目されている。発明者らは特許文献1において、ゴマ発酵物の製造方法を開示し、ゴマが元来有する抗酸化性や免疫賦活作用を著しく高めたゴマ発酵物を提供するに至った。抗酸化と免疫は昨今の機能性食品の重要要素であり、これらにより万病のもととなるいわゆる未病状態は改善出来るが、今や国民の三分の一に達する高血圧予備軍の血圧が改善出来ればより完全な機能性食品になるのではないかと考えた。
【特許文献1】特許公開2004−173692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明の課題は、従来のゴマ発酵物の機能性を強化し、ゴマが本来持っている血圧抑制効果に加えて、乳酸発酵させることによってγ−アミノ酪酸を効率よく産生させ、血圧上昇抑制効果を増強させた発酵ゴマの製造方法および発酵ゴマを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、ゴマ種子に水及びアミノ酸を添加したのち、乳酸菌を加えて発酵させるとγ−アミノ酪酸が生成されてゴマの抗酸化性と免疫賦活効果が高められるのに加えて、血圧上昇抑制効果も得られることを見出し、本発明に至った。水及びアミノ酸を添加する前工程でゴマ種子を加熱処理し、さらに摩砕することでより発酵を促進させることができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、従来の方法に加え、煩雑な工程を経ることなく、簡易な操作でゴマが本来有する抗酸化性、免疫賦活作用及び血圧上昇抑制作用等の機能性をさらに高めた発酵ゴマを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
本発明において、使用するゴマ種子としては、産地、色の種類に限定されないが、抗酸化性の高いセサミンをより多く含むことが望ましい。好ましくは0.4%以上含むことである。
【0007】
ゴマ種子を効率良く発酵させるためには、ゴマ種子表面の雑菌を殺菌する必要がある。ゴマ種子の殺菌方法としては、加熱殺菌、酸やアルカリによるpH処理、次亜塩素酸ソーダやアルコール等による方法を取ることが出来る。上記の特許文献1では水と糖類を添加後にオートクレーブによる滅菌処理をしているが、大規模生産する場合には加熱時に蛋白質が変性して膜をつくり、熱伝導が著しく悪くなるなどの問題もあった。また、発酵のみならず、熱によってもセサミノールはセサモールに転換することが知られている。そこで本発明では、セサミンが消失することなく、セサミノールが効率よくセサモールに転換するゴマの殺菌方法について検討した。その結果、ゴマ種子は洗浄乾燥後に180℃以上で加熱処理すれば殺菌が可能であることがわかった。ゴマ種子を加熱処理する方法は特に限定されないが、熱を均一に行き渡らせるためには乾燥熱風による方法が望ましい。セサモールの生成はより温度が高い方が良く、200℃以上、好ましくは210℃で2時間程度加熱処理するのが望ましい。
【0008】
他の加熱処理方法として、セサミンの分解を防ぎ、セサモールの生成を促す殺菌加熱方法がある。この殺菌加熱方法では、加熱時に酸を用いることで、100℃以下の加熱温度でも効率よく殺菌とセサモールの生成が行なえる。用いる酸として、塩酸、乳酸、酢酸の他、黒酢や香酢などの醸造酢も利用出来る。なお、酢酸が残留した場合は強酸性となるために乳酸発酵が妨げられることになり、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水などのアルカリ性のpH調整剤が必要となる。
【0009】
ゴマ種子は粒状のままでも発酵するが、より良い発酵をさせるためには細かく摩砕したものを用いることが好ましい。ゴマ種子は、すり鉢、ボールミル、石臼などを用いて摩砕することができる。電動石臼は作業がきわめて容易である。
【0010】
ゴマの発酵は水の存在下で行なわれる。発酵方法として水を多く加えて発酵させるタンク培養、水を少なめに加えて発酵させる固体培養、その中間のペースト状で発酵させる方法などがある。本発明では、比較的早く大量に処理出来るタンク培養法がより好ましい。
【0011】
上記の加熱処理工程で殆どの菌が死滅し、また、水や発酵助剤は殺菌されているため必ずしも滅菌工程は必要としない。しかしながら、工程間の移動などでの雑菌混入を完全に防止するために、ゴマに水とアミノ酸を添加した後、乳酸菌を接種する前に滅菌工程を設けるのが望ましい。
【0012】
接種する乳酸菌の種類としては、例えばラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)などであり、それらの中でも毒物を産生しない株を用いることが出来る。特に、ラクトバチルス・カゼイはゴマ中の基質を効率よく発酵し、セサミノールをセサモールに効率よく転換するため好ましく、またラクトバチルス・ロイテリはγ−アミノ酪酸を効率よく産生するためより好ましい。
【0013】
接種する乳酸菌の量は、ゴマを含む液体または固体に対して、液体培養した菌液を0.5〜10重量%接種するものであり、特に1.0重量%を無菌的に接種するのが好ましい。
【0014】
ゴマを効率よく発酵させるため、発酵前には水および発酵助剤を添加することが重要である。一般に流通しているゴマ種子は乾燥状態であるため、水を加えなければほとんど発酵しない。ゴマ1重量に対して水1重量以上を加えることで発酵するが、4〜9重量の水を加えることが好ましい。
【0015】
上記特許文献1では、ゴマのほかに糖類を添加する例を開示しているが、ゴマと糖類だけでは効率よくγ−アミノ酪酸を産生することは出来ない。そこで、本発明では補助基質としてアミノ酸を添加することが特徴である。添加するアミノ酸としては、アミノ酸抽出物に限らず、アミノ酸が含まれているモルトエキスやイーストエキス、ペプトン、昆布エキス、動植物抽出物、魚介加工廃棄物などを用いることができるが、グルタミン酸、アルギニンがより多く含まれることが好ましい。アミノ酸類の添加量としては、ゴマに対して1〜20重量%、好ましくは10重量%である。添加物が多すぎるとゴマ自体が基質として消費されず、逆に添加量が少なすぎると乳酸菌による発酵速度が著しく遅くなる。
【0016】
本発明における乳酸菌による発酵期間は乳酸菌の接種量にもよるが、約3時間〜1週間程度であり、好ましくは約3日間程度である。約3日間の発酵によって乳酸菌の菌体量は10以上、γ−アミノ酪酸は1000mg/リットル以上に達する。
【0017】
上記の製造方法によって得られた発酵ゴマは、飲料やペースト状物としてそのまま飲食することができる。また、得られた発酵ゴマをそのまま又は濃縮後に粉霧乾燥や凍結乾燥させて粉末化することにより、粉末品や錠剤などにすることもできる。さらに、造粒して顆粒品とすることもできる。これらの粉末品あるいは顆粒品はそのまま機能性食品として用いることができ、食品原料としてお菓子やガム、アイスクリーム等に加工することもできる。また、培養ペーストや乾燥粉末から有効成分を抽出して利用することも出来る。
【0018】
さらに、上記の製造方法で得られた発酵ゴマを化粧品に加工して利用することもできる。化粧品の形態としては、軟膏剤、クリーム、液状剤などであり、具体的には、浴用剤、シャンプー、ハンドローション、外用クリームなどを挙げることができる。
【0019】
本発明の発酵ゴマは、加工前のゴマと比較して血圧降下作用も有する。したがって、本発明の発酵ゴマを食品や化粧品に加工した場合には機能性の高い複合的な作用効果を得ることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
210℃で2時間加熱殺菌したゴマ20重量%に対して水76.5重量%とアミノ酸(イーストエキス2重量%とグルタミン酸0.5重量%)を加えた後、ラクトバチルス・ロイテリの菌液を1重量%接種し、35℃で30時間静置培養(途中10時間後と20時間後に均一になるよう撹拌)を行い、培養液のアミノ酸組成を測定した。
【0021】
上記測定結果を表1に示す。それによれば、グルタミン酸、アルギニン及びγ−アミノ酪酸以外のアミノ酸は、培養前と培養後とではそれほど変化が見られなかった。しかし、グルタミン酸とアルギニンは、培養前に比べて培養後には大幅に減少し、γ−アミノ酪酸は大幅に増えて100ミリリットル中に352.5ミリグラム生成した。この菌の培養にはグルタミン酸だけなくアルギニンが比較的多く消費されたため、添加するアミノ酸としてはグルタミン酸とアルギニンが望ましい。
【0022】
【表1】

【0023】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、乳酸菌の菌種を変えて発酵させ、凍結乾燥によって乾燥したサンプルを1グラム取り、クロロホルムを50ミリリットル加えたのち超音波破砕機によって粉砕混合した。1時間放置後、5B濾紙で濾過し、上清をクロロホルムで定容し、HPLC(カラム;Develosil ODS10、移動層;メタノール:水=6:4、290nm)にて標準物質で検量線を作成し、菌種に対するセサミン(和光)とセサモール(Sigma)の含量を測定した。その結果を図1に示す。いずれの菌種でも発酵によってセサモールが生成したが、セサモールの生成にはラクトバチルス・カゼイが最も適していた。
【0024】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、乳酸菌の菌種を変えて発酵させ、凍結乾燥によって乾燥したサンプルをHPLCにてアミノ酸分析を行い、菌種に対するγ−アミノ酪酸の含量を測定した。その結果を図2に示す。いずれも場合もγ−アミノ酪酸が検出できたが、菌種によってγ−アミノ酪酸の生成量は大きく異なり、ラクトバチルス・ロイテリが最も良かった。
【0025】
(実施例4)
上記特許文献1におけるゴマに糖類だけを加えた従来の方法と、本発明によるゴマにアミノ酸を加えた方法とで培養した後の発酵ゴマのγ−アミノ酪酸の産生について比較した。従来の方法ではγ−アミノ酪酸の含量は0.2mg/gに留まったが、アミノ酸を添加した本発明ではγ−アミノ酪酸の含量が17mg/gに達した。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】菌種に対するセサミンとセサモールの含量を示すグラフである。
【図2】菌種に対するγ−アミノ酪酸の含量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸が添加されたゴマ種子に、乳酸菌の中から選ばれた一以上の菌を接種して発酵させることを特徴とする発酵ゴマの製造方法。
【請求項2】
前記ゴマ種子を加熱したのちに水及びアミノ酸を添加する請求項1記載の発酵ゴマの製造方法。
【請求項3】
前記ゴマ種子の加熱が180℃〜240℃、好ましくは210℃である請求項2記載の発酵ゴマの製造方法。
【請求項4】
前記乳酸菌がラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)及びラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)である請求項1記載の発酵ゴマの製造方法。
【請求項5】
前記アミノ酸がグルタミン酸又はアルギニンである請求項1記載の発酵ゴマの製造方法。
【請求項6】
アミノ酸が添加されたゴマ種子に、乳酸菌の中から選ばれた一以上の菌を接種して発酵させ、γ−アミノ酪酸の含有量が1mg/g以上であることを特徴とする発酵ゴマ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−245545(P2008−245545A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88848(P2007−88848)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(595175301)株式会社応微研 (28)
【Fターム(参考)】