説明

発酵乳ペーストおよびその製造方法

【課題】熱履歴に起因する黄変がない乳白色をしているので、純白色の洋菓子に使用できるし、良好な乳酸発酵臭を呈するので洋菓子に乳酸風味を付与するのに好適であり、製造工程も面倒がなく、また安定剤を添加しなくても離水や固化の問題がない発酵乳ペースト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】生乳の原料に、必要に応じて生クリームなどの乳製品を添加し、均質化した後殺菌処理して殺菌原料に生成する(工程1)。殺菌原料に乳酸菌を接種し、発酵温度で所定時間発酵させて発酵乳に生成する(工程2)。発酵乳は冷却した後ショ糖を添加し(工程3)、必要に応じて発酵乳中の乳酸菌を70℃で、10分間殺菌する殺菌処理を行う(工程4)。最後に、真空圧700mmHg以上740mmHg以下の減圧条件下で25℃以上40℃以下の低温で濃縮する(工程5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイスクリーム、洋菓子などの食品にヨーグルト風味を付与するための発酵乳ペースト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アイスクリーム、洋菓子などの食品にヨーグルト風味を付与する添加物として粘稠な発酵乳ペーストが知られている。従来の発酵乳ペーストは、脱脂粉乳、生クリームなどの乳製品からなる原料を乳酸菌及び/又は酵母菌によって発酵させて発酵乳を生成し、この発酵乳を殺菌し、最後に濃縮して或いは増粘剤を添加してペースト状にしたものを使用しており、酸味や風味を補うためにこれに酸味剤や香料を添加したものもある。
【0003】
この発酵乳ペーストの製法として、例えば、発酵乳又はその類似物に60〜100℃で加熱殺菌処理を行って乳酸菌を死滅させ、680〜750mmHg、温度45〜65℃で濃縮操作を行うものである(特許文献1)。
【0004】
また、pH5.0以下の発酵乳に酸性プロテイナーゼを作用させて発酵乳のpHを4.50に調整して総窒素量が原発酵乳中の総窒素量の19〜45%の範囲にあるようにした後殺菌処理を行い、濃縮操作を行うことにより、発酵乳を主原料とした低粘性かつ風味良好な濃縮乳製品の製造方法が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特公昭56−5133号公報
【特許文献2】特公平2−34580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来技術は、第一に、温度が45〜60℃と高いし、加熱履歴の大きい濃縮方法を用いていることから、発酵乳に含まれる乳糖と乳タンパク質は加熱温度が高い程、また時間が長い程影響されるメイラード反応により褐変を呈する結果、純白色の洋菓子には使用できないという欠点がある。第二に、ペクチン、カラギナン或いはゼラチンなどの安定剤を使用しているため、天然の発酵風味や食感が損われる欠点がある。第三に、乳固形分濃度を35%以上にするために発酵乳に酸性プロテイナーゼを添加する方法では、製造工程が増えることと、pH調整が面倒であるという欠点がある。第四に、発酵乳製品としての特徴である乳酸発酵臭(ヨーグルトフレーバー)が加熱履歴の長い濃縮方法により、加熱臭が付与されてしまうため、フレーバーなどを付与しても天然の発酵風味が得られないという欠点がある。第五に、微生物増殖の抑制のための加糖量が多いために、使用できる菓子の範囲が限られることである。
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点や諸欠点に鑑みなされたもので、加熱温度が低いので加熱による黄変が起らず、乳白色をしているので純白色な洋菓子にも使用することができるし、良好な乳酸発酵臭を呈するので洋菓子に乳酸風味を付与するのに好適であり、製造工程にも面倒がなく、また添加物を用いることなく離水の問題もない発酵乳風味及び食感が自然な発酵乳ペースト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための請求項1に係る本発明を構成する手段は、生乳からなる原料は、必要に応じて生クリーム、脱脂粉乳などの乳製品を添加し、均質化した後殺菌して殺菌原料に生成し、該殺菌原料に乳酸菌を接種して発酵温度で所定時間発酵させることにより発酵乳に生成し、該発酵乳は一旦冷却した後糖類を添加し、必要に応じて発酵乳中の乳酸菌を殺菌する低温殺菌処理を行い、最後に非殺菌又は殺菌済の発酵乳を減圧条件下で低温濃縮したものからなる。
【0008】
そして、前記発酵乳中の乳酸菌は、60℃以上75℃以下で10〜40分間、望ましくは70℃で10分間、殺菌したものであるとよい。
【0009】
また、前記減圧条件は、真空圧で700mmHg以上740mmHg以下とし、前記非殺菌又は殺菌済の発酵乳は25℃以上40℃以下の低温で濃縮するとよい。
【0010】
更に、請求項1記載の発酵乳ペーストは、冷凍・解凍による変質がない冷凍耐性を有している。
【0011】
また、請求項5に係る本発明を構成する手段は、
(1)生乳からなる原料は、必要に応じて生クリーム、脱脂粉乳などの乳製品を添加し、均質化した後殺菌して殺菌原料に生成する殺菌原料生成工程、
(2)前記殺菌原料に乳酸菌を接種して発酵させることにより発酵乳に生成する発酵工程、
(3)一旦冷却した発酵乳に糖類を添加する糖類添加工程、
(4)必要に応じ、発酵乳中の乳酸菌を低温殺菌する殺菌工程、
(5)非殺菌又は殺菌済の発酵乳を減圧条件下で低温濃縮する濃縮工程、からなる。
【0012】
そして、前記殺菌工程において、乳酸菌は60℃以上75℃以下で10〜40分間、望ましくは70℃で10分間、殺菌処理するとよい。
【0013】
また、前記減圧条件は、真空圧で700mmHg以上740mmHg以下とし、前記非殺菌又は殺菌済の発酵乳は、25℃以上40℃以下で濃縮するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述の如く構成したから、下記の諸効果を奏する。
(1)本発明による発酵乳ペーストは加熱温度が低いので熱履歴に起因する黄色味がなく、乳白色で滑らかな組成を保持しているから、乳白色を生かした純白色の菓子製品の製造に用いることができる。
(2)本発明の製造方法によれば、乳白色で滑らかな組成を保持し、しかも全固形分が35%以上に濃縮した発酵乳ペーストを製造することができる。
(3)ペクチン、カラギナン或はゼラチンなどの安定剤を一切使用しなくても、離水や固化を生じることなく、良好な組成を保持することができる。
(4)本発明による発酵乳ペーストは良好な乳酸発酵臭を呈するから、洋菓子などに用いた場合に少量でもヨーグルト風味を充分に持たせることができる。
(5)乳酸菌は殺菌することも可能なので、非加熱製品の原材料に使用することが可能である。
(6)発酵乳ペーストは冷凍耐性を有しているので、冷凍保存後に解凍しても離水や固化のない良好な組成と風味を維持することができる。
(7)発酵乳ペーストは上記6の効果を有するから、大量製造して冷凍保存することにより随時出荷することができると共に、使用直前に解凍して使用することが可能であり、製造販売者側には効率的であるし、使用者側には従来品より長い賞味期限があるので期限切れの無駄といった問題を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳述する。先ず、原料である生乳は、例えばホモジナイザーによって150kgf/cmの条件で均質化する。均質化した生乳はUHT殺菌で130℃、2秒間の殺菌処理を行うことにより雑菌を除去した殺菌生乳に生成する(工程1)。
【0016】
なお、生乳のみを原料とする発酵乳ペーストは風味が良好であって食材として好ましい。しかし、生乳の品質である脂肪分に季節変動があり、生乳のみで品質が一定の製品を作ることは難しい点があるので、生乳に生クリーム、脱脂粉乳、ホエーパウダーなどの乳製品を加えたものを原料として用いてもよい。
【0017】
均質化と殺菌処理を行って生成した殺菌生乳は処理タンクに移し、処理タンク内で約45℃の発酵温度に加温し、これにブルガリア乳酸桿菌、サーモフィラス菌、アシドフィルス菌などの乳酸菌及び/又はビフィズス菌などの発酵菌スターターを0.004〜5重量%添加して発酵させる。発酵時間は約6時間が好適である(工程2)。ここで、処理タンクは、容器本体の外側に設けたジャケットに水及び蒸気を選択的に供給することによって冷却機能と加熱機能を有して任意の設定温度による処理が可能であり、また内部に攪拌翼を設けて攪拌機能を有する構成からなっている。
【0018】
発酵時間の6時間が経過したら、発酵乳は10℃以下に一旦冷却して発酵乳の組織を落ち着かせ、これにショ糖を1.7〜5重量%添加して溶解する(工程3)。この際、処理タンク内では攪拌翼が回転しているので、添加したショ糖は攪拌溶解することができる。本実施の形態において糖類を添加する目的は組成保持にあり、これにより解凍時の離水や組織不良といった冷凍障害のない冷凍耐性を有することができる。したがって、ショ糖の外にブドウ糖、乳糖などの糖類を用いてもよい。
【0019】
しかる後、発酵乳中に唯一生育している乳酸菌を殺菌するための殺菌処理を行う(工程4)。この乳酸菌の殺菌処理は乳酸菌を殺菌するためだけであり、60℃以上75℃以下で10から40分間、望ましくは70℃で10分間、加熱することで足りるので、殺菌の温度と時間を最低限に設定することにより、熱ストレスを最小限にして製品の劣化を抑制することができる。
【0020】
また、上述した殺菌処理は必要に応じて行う工程であって、腸内細菌叢の改善などを目的としたプロバイオティクス食品として利用する場合など、製品中での乳酸菌の生存が求められる場合においては、発酵乳の殺菌は行わないで非殺菌発酵乳として次の濃縮工程へ送る。
【0021】
このようにして殺菌処理を行った殺菌発酵乳は、濃縮してペースト状に生成するために処理タンクから濃縮機に移し変える。濃縮処理においても発酵乳の品質維持が重要なことは当然であり、本実施の形態では減圧低温加熱によって水分を蒸発させることにより濃縮処理を行う(工程5)。減圧条件は、真空圧で700mmHg以上740mmHg以下とし、発酵乳は25℃以上40℃以下、望ましくは37℃の低温で濃縮することにより、発酵乳の熱履歴を最小限に抑制して濃縮している。所望の粘性の発酵乳ペーストが得られたら、濃縮処理を終了する。
【0022】
製造した発酵乳ペーストは保存用或いは販売用容器に充填して凍結保存する。凍結した発酵乳ペーストは、解凍して使用するが、濃縮時の加熱条件が低くタンパク質の変性が抑えられることによると考えられる冷凍耐性を有していることから、解凍によって離水することも固化することもなく、組成と風味を維持している。
【0023】
なお、本発明による発酵乳ペーストは安定剤を必要としないが、洋菓子などの製品の種類に応じて、安定剤などの添加物を添加した発酵乳ペーストにすることを妨げるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る発酵乳ペーストの製造工程図である。
【符号の説明】
【0025】
1 殺菌生乳生成工程
2 発酵工程
3 糖類添加工程
4 殺菌工程
5 濃縮工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生乳からなる原料は、必要に応じて生クリーム、脱脂粉乳などの乳製品を添加し、均質化した後殺菌して殺菌原料に生成し、該殺菌原料に乳酸菌を接種して発酵温度で所定時間発酵させることにより発酵乳に生成し、該発酵乳は一旦冷却した後糖類を添加し、必要に応じて発酵乳中の乳酸菌を殺菌する低温殺菌処理を行い、最後に非殺菌又は殺菌済の発酵乳を減圧条件下で低温濃縮してなる発酵乳ペースト。
【請求項2】
前記発酵乳中の乳酸菌は、60℃以上75℃以下で10〜40分間、望ましくは70℃で10分間、殺菌したものであることを特徴とする請求項1記載の発酵乳ペースト。
【請求項3】
前記減圧条件は、真空圧で700mmHg以上740mmHg以下とし、前記非殺菌又は殺菌済の発酵乳は25℃以上40℃以下の低温で濃縮することを特徴とする請求項1記載の発酵乳ペースト。
【請求項4】
請求項1記載の発酵乳ペーストは、冷凍・解凍による変質がない冷凍耐性を有していることを特徴とする発酵乳ペースト。
【請求項5】
下記の工程からなる発酵乳ペーストの製造方法;
(1)生乳からなる原料は、必要に応じて生クリーム、脱脂粉乳などの乳製品を添加し、均質化した後殺菌して殺菌原料に生成する殺菌原料生成工程、
(2)前記殺菌原料に乳酸菌を接種して発酵させることにより発酵乳に生成する発酵工程、
(3)一旦冷却した発酵乳に糖類を添加する糖類添加工程、
(4)必要に応じ、発酵乳中の乳酸菌を低温殺菌する殺菌工程、
(5)非殺菌又は殺菌済の発酵乳を減圧条件下で低温濃縮する濃縮工程。
【請求項6】
前記殺菌工程において、乳酸菌は60℃以上75℃以下で10〜40分間、望ましくは70℃で10分間、殺菌処理することを特徴とする請求項5記載の発酵乳ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記減圧条件は、真空圧で700mmHg以上740mmHg以下とし、前記非殺菌又は殺菌処理の発酵乳は、25℃以上40℃以下の低温で濃縮することを特徴とする請求項5記載の発酵乳ペーストの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−253214(P2008−253214A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100722(P2007−100722)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(501112851)サツラク農業協同組合 (1)
【Fターム(参考)】