説明

発酵黒ニンニクの製造方法

【課題】厳密な水分量の調整が不要でありながら、生ニンニクの発酵過程において発生する臭気の外部放散を的確に抑制できる、発酵黒ニンニクの製造方法を提供する。
【解決手段】密閉容器10内に発酵菌を含む処理液と共に生ニンニクGを封入した状態で、密閉容器外10から加熱手段51によって生ニンニクGを加熱する発酵黒ニンニクの製造方法であって、密閉容器10は、細孔等を有さない完全密閉型の容器であり、密閉容器10内には、生ニンニクGと共にダンボール紙などの吸水体30が封入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵黒ニンニクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニンニクは、優れたスタミナ作用、殺菌作用、及び薬理作用等の効能を有する食材として古くから食されている。しかも、発酵菌等によって発酵・熟成させた黒ニンニクは、これらの効能がより向上する。なお、これらの効能を発揮する物質はアリシンであると考えられている。このアリシンは、アミノ酸の一種であるアリインがタンパク分解酵素であるアリイナーゼの作用で分解されて、ピルビン酸等と共に生成されるものである。しかし、このアリインからアリシンが生成される過程においては、ニンニク油に含まれている数種の硫化アリル類、すなわち硫化ジアリル、二硫化アリル、三硫化アリル、二硫化アリルプロピル等が分解されてジスルフィドや二硫化イオウ等の硫化ガスが生成されることで、ニンニク特有の臭気が発生する。そのため、黒ニンニクの生産施設では臭気が外部に放散されるため、人家から離れた場所で行うなどどの配慮が必要であった。
【0003】
そこで、このような生産過程において発生する臭気の放散を抑制する技術として、例えば下記特許文献1ないし特許文献3がある。特許文献1では、乳酸菌等を含む処理液に浸漬した生ニンニクを遠赤外線加熱装置によって発酵処理しているが、当該加熱装置内に脱臭装置を設けている。特許文献2では、海洋深層水に浸漬した生ニンニクを天然木材製の容器に収容すると共に、加熱装置の加熱室の壁面を天然木材で被覆し、さらに壁面の天然木材表面に木炭塗料を塗布している。これによれば、容器や壁面を構成する天然木材に加えて木炭によっても臭気が吸着されることで、臭気の外部放散を抑制している。なお、ここでの容器は密閉容器ではない。また、特許文献3では、乳酸菌等を含む処理液に浸漬した生ニンニクを、シール部材によって完全密閉可能な密閉容器に収容した状態で、当該密閉容器外から遠赤外線ヒータによって加熱している。
【0004】
一方、生産過程において発生する臭気の放散を抑制するための技術ではないが、密閉容器内で生ニンニクを加熱する技術として、特許文献4もある。当該特許文献4では、細孔等の蒸気逃がし手段を備える密閉容器に生ニンニクを収容した状態で、当該密閉容器外から加熱することで、生ニンニクを密閉容器内において所定の高圧下で蒸し焼きにしている。これにより、従来よりもエネルギーコストを低減している。なお、密閉容器内で発生した余剰の水蒸気は、細孔等の蒸気逃がし手段から密閉容器外へ排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−136468号公報
【特許文献2】特開2008−86281号公報
【特許文献3】特開2010−57386号公報
【特許文献4】特開2008−263871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、生産過程において生ニンニクから発生する臭気の放散を抑制するために、わざわざ加熱装置に脱臭装置を設けており、設備コストが嵩む。特許文献2では、天然木材や木炭等によって臭気を吸着しているが、全ての臭気を吸着することは不可能であり、放散抑制効果に課題が残る。
【0007】
一方、特許文献3では完全密閉型の密閉容器に生ニンニクを収容した状態で加熱しているので、一見臭気の放散抑制効果は高い。しかし、完全密閉型の密閉容器内で加熱すると、処理液や生ニンニク内の水分が蒸発して密閉容器の内圧が上昇するため、臭気が密閉容器外へ漏れ出るか、最悪の場合密閉容器が破損してしまう。しかも、処理液が過剰に存在する状態では、ニンニクがベタベタとなって発酵処理後の乾燥が必須となるばかりか、皮が黒変したり苦味が生じるなど発酵ニンニクの質も低下してしまう。これを避けるためには、密閉容器内の水分量を少なくするなどの厳密な水分調整をするか、優れた耐圧性を有する容器とするしかない。しかし、密閉容器内の水分量を厳密に調整するのは煩雑であると共に、生ニンニクの含水量も影響するので困難である。また、密閉容器内の水分を少なくするには処理液の付与量を低減しなければならず、良好な発酵・熟成が困難となる。一方、優れた耐圧性を有する密閉容器を使用するにはコストが嵩む。
【0008】
これに対し特許文献4では、細孔等の蒸気逃がし手段を備える密閉容器を使用しているので容器破損の恐れは無い。しかし、蒸気と共に臭気も容器外へ排出されるので、根本的に臭気の放散抑制は不可能である。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、厳密な水分量の調整が不要でありながら、生ニンニクの発酵過程において発生する臭気の外部放散を的確に抑制できる、発酵黒ニンニクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する手段として、本発明は、密閉容器内に発酵菌を含む処理液と共に生ニンニクを封入した状態で、前記密閉容器外から加熱手段によって前記生ニンニクを加熱する発酵黒ニンニクの製造方法であって、前記密閉容器は、細孔等を有さない完全密閉型の容器であり、前記密閉容器内には、前記生ニンニクと共に吸水体が封入されていることを特徴とする。なお、本発明において「容器」とは、保形性を有する一般的な箱型の容器のほか、保形性を有しない「袋」も含む概念である。
【0011】
前記吸水体としては、例えばダンボール、厚紙、スポンジ体、不織布、又は布帛等を好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、完全密閉型の密閉容器内で生ニンニクを発酵させるので、このときに発生する臭気の外部放散を大幅に抑制できる。同時に、密閉容器内には吸水体も封入されている。したがって、処理液や密閉容器内で発生した水蒸気も含めて余剰の水分は吸水体に吸収される。しかも、密閉容器内の蒸気圧が低下すれば吸水体に吸収されていた水分が放出される。このように、吸水体によって水分が吸収・放出されることで、密閉容器内は一定の圧力で良好な湿潤状態に保たれながら、密閉容器の破損が防止される。而して、臭気の外部放散を的確に抑制することができる。また、吸水体によって一定の圧力で良好な湿潤状態が確保されるので、処理液の付与量や生ニンニクの含水率など密閉容器内の水分量を厳密に調整する手間が省ける。また、密閉容器は必ずしも耐圧容器とする必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】密閉容器の側面図である。
【図2】加熱装置の一例を示す縦断模式図である。
【図3】密閉容器の変形例を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本発明の代表的な実施形態について説明する。本発明は、図1に示すように、密閉容器10内に発酵菌等を含む処理液及び生ニンニクGと共に、吸水体30を収容した状態で、当該密閉容器10の外から加熱手段によって生ニンニクGを加熱する。
【0015】
生ニンニクGとは、加熱されていない球根(鱗茎)部分であって、食用に供されるニンニクであれば特に限定されない。具体的には、オオニンニク、ヒメニンニク、セイヨウニンニク、プチニンニクなどを使用できる。生ニンニクGは、鱗茎そのままでもよいし、鱗茎の皮を剥いだ小球の状態でもよい。皮剥きの手間の省略や完成品の見た目等の観点から、皮付きのまま加工することが好ましい。また、粉砕ないし切断したものでもよいが、粉砕等の手間の省略や完成品の見た目等の観点から、未粉砕ないし未切断の生ニンニクが好ましい。密閉容器10へ複数の生ニンニクGを収容する場合、未粉砕ないし未切断の生ニンニクであれば、整列配置できるメリットもある。また、生ニンニクGはある程度乾燥させた乾燥ニンニクでも構わないが、未乾燥のものでよい。含水率の高い生ニンニクであっても、後述のように吸水体30によって密閉容器10内の湿潤状態が調整されるからである。
【0016】
処理液としては、従来から生ニンニクの発酵・熟成に使用されている公知の発酵菌を1種又は2種以上含むものであれば特に制限は無い。発酵菌としては、乳酸菌、酵母菌、糸状菌、放線菌、麹菌、紅麹菌、プロピオン酸菌、酢酸菌などが挙げられる。
【0017】
乳酸菌としては、例えばロイコノストック属、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ビフィドバクテリウム属、ペディオコッカス属、エンテロコッカス属などに属する乳酸菌が挙げられる。ロイコノストック属としては、例えばロイコノストック・メセントロイデス(Leuconostoc mesenteroides)などが挙げられる。ラクトバチルス属としては、例えばラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・デルブロイキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)などが挙げられる。ストレプトコッカス属としては、例えばストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)などが挙げられる。ビフィドバクテリウム属としては、例えばビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)などが挙げられる。ペディオコッカス属としては、例えばペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・ハロフィラス(Pediococcus halophilus)などが挙げられる。エンテロコッカス属としては、例えばエンテロコッカス・フェーカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェーシウム(Enterococcus faecium)などが挙げられる。
【0018】
酵母菌としては、例えば清酒酵母菌、ワイン酵母菌、ビール酵母菌、パン酵母菌などが挙げられる。具体的には、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・パストリアヌス等のサッカロミセス属や、シゾサッカロミセス・ポンベ等のシゾサッカロミセス属などに属する酵母菌が挙げられる。中でも、アミノ酸やビタミン類などの有用成分を産生する点で、サッカロミセス・セレビシエおよびその単離株が好ましい。
【0019】
糸状菌としては、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾパス属などに属する糸状菌が挙げられる。アスペルギルス属としては、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)などが挙げられる。ペニシリウム属としては、例えばペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)などが挙げられる。リゾパス属としては、例えばリゾパス・オリゼー(Rizopus oryzae)などが挙げられる。
【0020】
放線菌としては、例えばクリプトバクテリウム(Cryptobacterium),ルブロバクター(Rubrobacter),アクチノバチュラム(Actinobaculum),アクチノマイセス(Actinomyces),コリネバクテリウム(Corynebacterium),ゴルドニア(Gordonia),マイコバクテリウム(Mycobacterium),ノカルディア(Nocardia),ロドコッカス(Rhodococcus),ミクロスファエラ(Microsphaera),クリプトスポランギウム(Cryptosporangium),ミクロコッカス(Micrococcus),アースロバクター(Arthrobacter),ブレビバクテリウム(Brevibacterium),セルロモナス(Cellulomonas),ミクロバクテリウム(Microbacterium),アグロマイセス(Agromyces),クリオバクテリウム(Cryobacterium),ミクロモノスポラ(Micromonospora),アクチノプラネス(Actinoplanes),ダクチロスポランギウム(Dactylosporangium),ノカルディオイデス(Nocardioides),シュードノカルディア(Pseudonocardia),アクチノビスポラ(Actinobispora),アミコラトプシス(Amycolatopsis),サッカロモノスポラ(Saccharomonospora),アクチノシネマ(Actinosynnema),アクチノキネオスポラ(Actinokineospora),ストレプトマイセス(Streptomyces),キタサトスポラ(Kitasatospora),ストレプトスポランギウム(Streptosporangium),ミクロビスポラ(Microbispora),ミクロテトラスポラ(Microtetraspora),ノノムラエ(Nonomuraea),ノカルディオプシス(Nocardiopsis),アクチノマデュラ(Actinomadura),キネオコッカス(Kineococcus),キネオスポリア(Kineosporia),及びサーモビスポラ(Thermobispora)などが挙げられる。
【0021】
麹菌としては、アスペルギルス属やリゾプス属に属する麹菌等を挙げることができる。アスペルギルス属としては、例えばアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)などが挙げられる。リゾプス属としては、例えばリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)などが挙げられる。
【0022】
紅麹菌としては、モナスカス属に属する麹菌等を挙げることができる。具体的には、モナスカス・アンカ(Monascus anka)、モナスカス・パーパレウス(Monascus purpureus)などが挙げられる。
【0023】
プロピオン酸菌としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)、プロピオニバクテリウム・アシディプロピオニチ(Propionibacterium acidipropionici)、プロピオニバクテリウム・ジェンセニ(Propionibacterium jensenii)などが挙げられる。
【0024】
酢酸菌としては、アセトバクター属に属する酢酸菌が挙げられる。具体的には、アセトバクターアセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクターサブスピーシーズ(Acetobacter subsp.)、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)などが挙げられる。
【0025】
また、処理液には、上記発酵菌に加えて、その他の添加成分も添加することができる。例えば、アミラーゼ、ペクチナーゼ、エンドアラバナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、エンドβ−グルカナーゼ、エキソβ−グルカナーゼ、キシラーゼ、β−グルコシダーゼなどの酵素を1種又は2種以上添加することができる。これらの酵素を処理液に添加していれば、生ニンニクの細胞壁が積極的に破壊され、効率良く発酵することができる。
【0026】
また、セージ、タイム、マジョラム、オレガノ、バジル、ペパーミント、シソ、レモンバーム、ベルベナ、セイボリー、ローズマリー、レモングラス、ブルーベリーリーフ、ベイリーフ、マテ茶、ユーカリリーフ、サッサフラス、サンダルウッド、ニガヨモギ、センブリ、レッドペッパー、シンナモン、カッシャ、スターアニス、ワサビ、西洋ワサビ、ホースラディッシュ、ミズガラシ、マスタード、トンカ豆、フェネグリーク、サンショウ、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、オールスパイス、ナツメグ、メース、クローブ、セリ、アンゲリカ、チャービル、アニス、フェンネル、タラゴン、コリアンダー、クミン、ディル、キャラウェー、ガランガ、カルダモン、ジンジャー、ガジュツ、ターメリック(ウコン)、バニラ、ジュニパーベリー、ウインターグリーン、ジャーマンカモミール、ローマンカモミール、菊花、ラベンダー、ハイビスカスフラワー、サフラン、マリーゴールド、オレンジフラワー、マローフラワー、ローズヒップ、サンザシ、リュウガン、クコシ、サンデュー(モウセンゴケ)、オレンジピール、レモンピール、マシュマロールート、チョウセンニンジン、デンシチニンジン、エゾウコギ、ギムネマ、ルイボスティーなどのハーブ類や、抹茶、シイタケ茶、杜仲茶、ドクダミ茶、ケツメイシ茶、ハブ茶、アマチャヅル茶、オオバコ茶、桜茶、甘茶、柿の葉茶、昆布茶、松葉茶、明日葉茶、グァバ茶、ビワの葉茶、アロエ茶、ウコン茶、スギナ茶、紅花茶、サフラン茶、コンフリー茶、クコ茶、ヨモギ茶、イチョウ葉茶、カリン茶、桑の葉茶、ゴボウ茶、タラノキ茶、タンポポ茶、ナタマメ茶、ニワトコ茶、ネズミモチ茶、ビワの葉茶、メグスリノキ茶、羅漢果茶などの茶類を1種又は2種以上添加することもできる。これらハーブ類及び/又は茶類を添加していれば、生ニンニクからの臭気を抑制することができる。
【0027】
さらには、ヒノキエキスなどのミネラル含有物を添加することも好ましい。これらミネラル含有物を添加していれば、発酵菌の活性が向上し、生ニンニクの発酵を促進することができる。
【0028】
密閉容器10は、細孔等を有さず完全に密閉可能な容器である。具体的には、図1に示すような袋状の密閉容器10を使用できる。当該袋状の密閉容器10は、一面が開口する樹脂製の袋を、生ニンニクGや吸水体30等を収容した後に、開口を溶着又は接着することで封止すればよい。袋状の密閉容器10は、融点ないし軟化点が後述の加熱温度よりも高い合成樹脂製とする。代表的には、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等が挙げられる。密閉容器10の寸法は、生ニンニクGを1つづつ個包装できる大きさでもよいし、複数個の生ニンニクGを封入できる大きさでもよい。密閉容器10内に複数個の生ニンニクGを封入すれば、生産性が高い。
【0029】
吸水体30としては、吸水性を有すると共に吸収されている水分を放出可能なものであれば特に限定されないが、シート状であることが好ましい。シート状の吸水体30であれば、当該吸水体30上に複数個の生ニンニクGを整列載置し易いからである。具体的には、ダンボール、厚紙、スポンジ体、不織布、又は布帛が挙げられる。中でも、ある程度の厚みと保形性を有するダンボールが好ましい。ダンボールであれば、生ニンニクG等を封入した袋状の密閉容器10のハンドリング(運搬)が容易となる。また、スポンジ体、不織布、布帛であれば、再利用が可能というメリットを有する。
【0030】
次に、生ニンニクGの処理方法について説明する。先ず、吸水体30と共に、処理液が付与された生ニンニクGを密閉容器10内へ収容する。このとき、シート状の吸水体30を密閉容器10内へ収容したうえで、吸水体30上に複数個の生ニンニクGを整列載置することが好ましい。また、処理液は、予め生ニンニクGを処理液に浸漬して生ニンニクG内へ浸透させておいたり、密閉容器10へ生ニンニクGを収容してから適量の処理液を密閉容器10内へ吹きかけてもよい。処理液が付与された生ニンニクGと吸水体30とを密閉容器10内へ収容した後は、密閉容器10の開口を封止する。この時点で、処理液の水分は一旦吸水体30へ吸収される。
【0031】
そのうえで、密閉容器10ごと生ニンニクGを加熱装置内へ収容して、密閉容器10外から加熱する。加熱手段としては、従来から使用されている公知の加熱方法を制限無く使用できる。例えば、ヒータ加熱、熱風加熱、水蒸気加熱等を使用できる。但し、加熱中、密閉容器10内は適度な湿潤状態(蒸し焼き状態)が保たれるので、水蒸気加熱以外の加熱方法が好ましい。中でも、エネルギーコストが比較的低廉で、且つ生ニンニクGの内部から的確に加熱できる遠赤外線ヒータ加熱が好ましい。
【0032】
加熱装置も特に限定されないが、例えば図2に示すような加熱装置50を使用できる。加熱装置50は、断熱性の壁にヒータ51が配されている。各ヒータ51には、図外の電源に繋がるコード52が連結されている。加熱装置50内には、上下複数段の収容棚53が設けられており、各収容棚53上に密閉容器10を載置できる。図示していないが、加熱装置50は開閉扉を有する。
【0033】
生ニンニクGの発酵・熟成条件も、従来と同様であればよく特に限定されない。例えば60〜90℃程度で3〜9日程度加熱する。生ニンニクGを加熱すると、吸水体30や生ニンニクGから水分が蒸発することで、密閉容器10内は適度な蒸し焼き状態となる。なお、余剰の水分は吸水体30に吸収されたまま保持されるので、密閉容器10内は必要以上に内圧が上昇することはない。すなわち、吸水体30の存在によって、密閉容器10内の水蒸気量が調整される。同時に、生ニンニクGから臭気が発生するが、本発明では完全密閉型の密閉容器10内で加熱していることで、臭気の外部放散を大幅に抑制することができる。但し、密閉容器10本体の透過や封止口からの漏れなど、完全に臭気を抑制できない場合もあるので、密閉容器10の外面に臭気分解菌等を噴霧しておくことも好ましい。生ニンニクGを蒸し焼きすると発酵菌等の作用によって発酵し、発酵黒ニンニクを得ることができる。なお、醗酵ニンニクが黒いのは水溶性硫黄化合物の存在による。その後、発酵黒ニンニクを密閉容器10外へ取り出す。この状態で食すこともできるが、さらに30〜40℃程度で1〜30日程度加熱して、熟成させることが好ましい。熟成が進むと、発酵黒ニンニクはさらに黒化が進む。
【0034】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、これに限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば密閉容器としては、図3に示すような箱型の密閉容器20を使用することもできる。当該箱型の密閉容器20は、上面が開口する容器本体21と、容器本体21の上面開口を塞ぐ蓋体22とからなる。また、容器本体21と蓋体22との当接面は、ゴム製のシール部材23によって封止される。シール部材23は、容器本体21の周壁又は蓋体22の外周縁に設けられている。箱型の密閉容器20も、代表的にはPEやPP等の合成樹脂製とすればよいが、木製や金属製でも構わない。
【0035】
また、収容棚53を有しない加熱装置を使用することもできる。この場合、上下複数段の棚を有するキャスター付台車へ密閉容器10を載置した状態で、当該台車ごと加熱装置
の加熱室内へ搬送すればよい。また、袋状の密閉容器を使用する場合は、必要に応じて密閉容器10をメッシュ籠へ入れておくことも好ましい。
【実施例】
【0036】
4リットルの水に、自然と共生研究所製の微生物(商品名:アクトバイオ)を20ml添加したものを処理液Aとした。また、26リットルの水に抹茶10gとヒノキエキス100mlを添加したものを処理液Bとした。ポリプロピレン製の樹脂袋内に、吸水体として0.3mm×300mm×450mmのダンボール紙を収容し、これの上に処理液Bにドブ漬けした40個の生ニンニクを載置したうえで、十分量の処理液Aを霧吹きにて吹きかけた後、樹脂袋の開口を融着して密閉したものを実施例とした。一方、樹脂袋内にダンボール紙を収容しなかった以外は実施例と同様のものを比較例とした。
【0037】
実施例及び比較例の密閉容器を、それぞれ別途遠赤外線ヒータを備える加熱装置内において80℃で9日間加熱発酵し、そのときの臭気を官能評価した。吸水体を使用しなかった比較例では、加熱中加熱装置外からも臭気が感じられ、加熱直後の加熱装置内では臭気が強く感じられた。これは、加熱中に密閉容器内の内圧が上昇しすぎて、臭気が密閉容器外へ漏れ出たからと考えられる。また、比較例ではニンニクに多量の水分が付着していてベタついていた。一方、吸水体を使用した実施例では、加熱中加熱装置外からは臭気は全く感じられず、加熱直後でも加熱装置内において臭気はあまり感じられなかった。また、ニンニクが必要以上にベタ付くことも無かった。
【符号の説明】
【0038】
10・20密閉容器
21 容器本体
22 蓋体
23 シール部材
30 吸水体
50 加熱装置
51 ヒータ
53 収容棚
G 生ニンニク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に発酵菌を含む処理液が付与された生ニンニクを収容した状態で、前記密閉容器外から加熱手段によって加熱する、発酵黒ニンニクの製造方法であって、
前記密閉容器は、細孔等を有さない完全密閉型の容器であり、
前記密閉容器内には、前記生ニンニクと共に吸水体が収容されていることを特徴とする、発酵黒ニンニクの製造方法。
【請求項2】
前記吸水体が、ダンボール、厚紙、スポンジ体、不織布、又は布帛であることを特徴とする、請求項1に記載の発酵黒ニンニクの製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−161245(P2012−161245A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21547(P2011−21547)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(504298372)株式会社杉山晴子薬膳研究所 (2)
【Fターム(参考)】