説明

発電セルの曲げ試験方法および曲げ試験装置

【課題】円板状の発電セルに均一な荷重を付加することにより、中央部分の曲げ強度だけでなく、周縁部の曲げ強度も評価して、曲げ強度の低い発電セルを排除することができる発電セルの曲げ強度験方法および曲げ強度試験装置を提供する。
【解決手段】平板状の発電セル1の曲げ強度を評価する方法であって、円筒面2aを有する凸状治具2と円筒面3aを有する凹状治具3との間に発電セル1を配置し、凸状治具2の円筒面2aと凹状治具3の円筒面3aとを近接させて湾曲させることにより、発電セル1全体の曲げ強度を評価することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスやサーメットなどからなる発電セルの曲げ強度を評価する発電セルの曲げ強度試験方法および曲げ試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、従来の一般的な固体酸化物型燃料電池においては、支持体となる固定電解質層の一方の面に燃料電極が一体に形成されるとともに、他方の面に空気極層が一体に形成された円板状の発電セルが用いられる。
【0003】
ここで、固体電解層としては、イットリアを添加した安定化ジルコニア(YSZ)や、(LaSr)(GaMg)O3、(LaSr)(GaMgCo)O3、(LaSr)(GaMgNi)O3、(LaSr)(GaMgFe)O3等の高い酸素イオン伝導率を有するランタンガレート系(LaGaO3系)材料が用いられている。
【0004】
また、燃料極層としては、Ni、Co等の金属あるいはNi−YSZ、Co−YSZ、Ni−GDC、Ni−SDC等のサーメットが用いられ、空気極層としては、LaMnO3、LaCoO3、SmCoO3等が用いられている。
ちなみに、上記固体電解質層は、150μm以上の厚さ寸法を有するとともに、上記燃料極層および空気極層は、それぞれ上記固体電解質層の表面に20〜30μmの厚さ寸法で形成されている。
【0005】
このような構成からなる発電セルは、当該発電セルに酸化剤ガスおよび燃料ガスを供給するセパレータや集電体とともに複数枚が積層され、所定の荷重が付加された状態で、700〜800℃の温度雰囲気下において発電を行うものである。
【0006】
ところで、この種の発電セルにあっては、セラミックスからなる150μmといった薄肉の円板状部材であるために弾性に乏しく、しかも常温から約800℃程度の高温との間において大きな熱圧力を受けるものである。このため、上記セラミックス素材からなる発電セルを用いて燃料電池を組み立てるに際しては、その素材のロット毎に複数枚の試験片を採得して材料曲げ強度試験を行い、平均強度やワイブル係数(形状係数)を算出することにより、当該ロットにおける素材の材料曲げ強度を評価している。
【0007】
一方、一般的なセラミックス材料における材料曲げ強度の試験方法については、JIS R1601に規格されている。これは、所定の寸法(4W×36L以上×3t、単位mm(以下同様))に切り出した試験片4に対して、図3(a)に示すように、下側の2つの支点5、5と、中央に荷重が付加される上側の支点6の3点による3点曲げ試験を行うものと、図3(b)に示すように、下側の2つの支点5、5と、中央の2点間に同じ荷重を付加する上側の支点6、6の4点による4点曲げ試験を行うものである。
【0008】
そこで、従来は、上記規格を参酌して、素材となる上記セラミックスのグリーンシートから定規とカッターを用いたり、あるいは方形の刃を有する金型を用いたりして方形シート(70×20)を切り出し、次いでこれを焼結して方形板状(50×15×0.1t)の試験片を製作して、当該試験片について上記3点曲げ試験または4点曲げ試験を行っていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、グリーンシートから方形シートを切り出す際に、定規とカッターを用いた場合には、当該カッターの刃の切れ味が悪い場合や、熟練度が低い作業者が、カッターを連続的に移動させずに途中で中断させたり、あるは局所的にカッターを定規から逸脱させたりした場合などに、得られた方形シートの切断縁部に、カッター不良に欠けが発生し易い。また、方形の刃を有する金型を用いた場合にも、当該刃をグリーンシートに押し付けて、そのままくり貫く際に、力の不均衡などに起因して同様のカット不良による欠けが発生し易い傾向にある。
【0010】
このため、一般的な3点曲げ試験方法においては、荷重が付加される部分に高い応力が生じることにより、荷重を付加する部分やその周囲にクラックなどの欠陥があった場合には、この欠陥部分に応力が集中し破損するため、この試験方法により曲げ強度を評価することができる。しかし、最も欠けが発生し易い周縁部に欠陥があった場合には、応力が周縁部に作用しないため、この試験方法では曲げ強度を評価することができないという問題がある。
【0011】
また、強度のバラツキが大きいセラミックス材料においては、一般的な4点曲げ試験方法を行うことにより、平均的な強度を評価することができる。ところが、この試験方法で評価した平均的な強度を有するロットにおいても、個々の周縁部に生じた欠陥などから、強度の低い発電セルも含まれている可能性があるため、強度の低い発電セルを製品とせずに排除する必要がある。しかし、上記の試験方法では、3点曲げ試験と同様に、応力が作用しない最も欠けが発生し易い周縁部に欠陥があった場合に、曲げ強度を評価することができないという問題がある。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、円板状の発電セルに均一な荷重を付加することにより、中央部分の曲げ強度だけでなく、周縁部の曲げ強度も評価して、曲げ強度の低い発電セルを排除することができる発電セルの曲げ強度試験方法および曲げ強度試験装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発電セルの曲げ強度試験方法は、平板状の発電セルの曲げ強度を評価する方法であって、円筒面を有する凸状治具と円筒面を有する凹状治具との間に上記発電セルを配置し、上記凸状治具の円筒面と上記凹状治具の円筒面とを近接させて湾曲させることにより、上記発電セル全体の曲げ強度を評価することを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項2に記載の発電セルの曲げ強度試験方法は、平板状の発電セルの曲げ強度を評価する方法であって、上記発電セルの耐曲げ強度に応じた曲率半径の円筒面を有する凸状治具と、上記曲率半径の円筒面を有する凹状治具との間に上記発電セルを配置し、上記凸状治具の円筒面と上記凹状治具の円筒面とを近接させて湾曲させることにより、上記発電セル全体の強度を評価し、強度の低い発電セルを排除することを特徴とするものである。
【0015】
そして、請求項3に記載の発電セルの曲げ強度試験装置は、平板状の発電セルを一対の治具の間に配置して湾曲させ、曲げ強度を評価する装置であって、上記一対の治具は、凸状の円筒面を有する雄型と凹状の円筒面を有する雌型により形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発電セルの曲げ強度試験装置において、上記円筒面の曲率半径は、上記発電セルがランタンガレート系電解質を用いた円形平板型セルの場合に、その厚さ寸法の600〜800倍であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜4に記載の本発明によれば、平板状の発電セルを円筒面を有する凸状治具と円筒面を有する凹状治具との間に配置し、当該凸状治具の円筒面と当該凹状治具の円筒面とを近接させ、荷重を付加することにより湾曲させているため、周縁部に欠けなどの欠陥が生じていた場合でも、この欠陥部分に応力が集中して破壊される。これにより、平板状の上記発電セル全体の曲げ強度を評価することができる。
【0018】
請求項2に記載の本発明によれば、平板状の発電セルを、この発電セルの耐曲げ強度に応じた曲率半径の円筒面を有する凸状治具と、上記曲率半径の円筒面を有する凹状治具との間に配置し、当該凸状治具の円筒面と当該凹状治具の円筒面とを近接させ、荷重を付加することにより湾曲させているため、耐曲げ強度に応じた上記曲率半径により等分荷重が付加されて、平板状の上記発電セル全体が湾曲する。これにより、上記発電セル全体に均一な応力が作用して、上記発電セルに欠けなど欠陥が生じていた場合には、その欠陥部分に応力が集中して上記発電セルは破壊される。この結果、平板状の上記発電セル全体の曲げ強度を評価し、強度の低い発電セルを排除することができる。
【0019】
請求項3に記載の本発明によれば、平板状の発電セルを湾曲させて曲げ強度を評価する装置に用いられる一対の治具が、凸状の円筒面を有する雄型と凹状の円筒面を有する雌型により形成されているため、この一対の治具の間に、平板状の上記発電セルを配置して、各々の型の上記円筒面を近接させ、荷重を付加することにより、上記雄型の凸状の円筒面と雌型の凹状の円筒面に沿って湾曲する。これにより、荷重が上記発電セル全体に作用し、均一な応力によって、平板状の上記発電セル全体の曲げ強度を評価することができる。
【0020】
請求項4に記載の本発明によれば、上記雄型の凸状の円筒面および雌型の凹状の円筒面の曲率半径が、上記発電セルがランタンガレート系電解質を用いた円形平板型セルの場合に、その厚さ寸法の600〜800倍であるため、材質および厚さ寸法が同一のもの場合には、上記一対の治具の間に平板状の上記発電セルを配置するだけで、平板状の上記発電セル全体に均一な応力を与えることができる。これにより、簡便に平板状の上記発電セルの曲げ強度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の発電セルの曲げ試験装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の発電セルの曲げ試験装置による曲げ試験方法を説明する概略図を示し、(a)は一対の治具に平板状の発電セルを配置した状態、(b)平板状の発電セルの中央部に荷重を掛けた状態、(c)は平板状の発電セル全体に荷重を掛けた状態である。
【図3】JIS規格の曲げ試験方法を説明する概略図を示し、(a)は3点曲げ試験方法、(b)は4点曲げ試験方法である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図2は、本発明の発電セルの曲げ試験方法および曲げ試験装置の一実施形態を示すものである。
図1に示すように、本発明の発電セルの曲げ試験装置は、凸状の円筒面2aを有する雄型(凸状治具)2と、凹状の円筒面3aを有する雌型(凹状治具)3が、各々の円筒面2a、3aを対峙させて配設されて概略構成されている。
【0023】
また、上記装置に用いられる上記発電セル1は、固体電解層に、イットリアを添加した安定化ジルコニア(YSZ)や、(LaSr)(GaMg)O3、(LaSr)(GaMgCo)O3、(LaSr)(GaMgNi)O3、(LaSr)(GaMgFe)O3等の高い酸素イオン伝導率を有するランタンガレート系(LaGaO3系)、またはガドリニウムを添加したセリア(GDC)材料が用いられている。
【0024】
また、燃料極層としては、Ni、Co等の金属あるいはNi−YSZ、Co−YSZ、Ni−GDC、Ni−SDC等のサーメットが用いられ、空気極層としては、LaMnO3、LaCoO3、SmCoO3等が用いられている。さらに、上記固体電解質層は、150μm以上の厚さ寸法を有するとともに、上記燃料極層および空気極層は、それぞれ上記固体電解質層の表面に20〜30μmの厚さ寸法で形成されている。
【0025】
そして、雄型2の凸状の円筒面2aおよび雌型3の凹状の円筒面3aは、平板状の発電セル1の耐曲げ強度に応じた曲率半径に形成されている。この曲率半径は、ランタンガレート系電解質を用いた円形平板型セルの場合に、その厚さ寸法の600〜800倍に形成されている。
【0026】
これは、図3(a)に示すJIS規定の3点曲げ試験方法を用いて、発電セル1の厚さに対し、下側の支点5、5間距離を変えて、最大曲げ応力時の変位量を求めた下記データを基に、曲率半径を算出したものである。
なお、この曲率半径は、材料の弾性係数により変化する。
【0027】
<実験例>

【0028】
以上の構成による本実施形態の発電セルの曲げ強度試験装置を用いて、発電セル1の曲げ強度試験を行うには、まず、図2(a)に示すように、凹状の円筒面3aを有する雌型3の中央部に、平板状の発電セル1を配置する。次いで、雄型2を雌型3に近接させ、荷重を付加して発電セル1を湾曲させる。このときに、図2(b)に示すように、雄型2の凸状の円筒面2aの頂部が、発電セル1の中央部に当接し、この中央部に応力が作用して発電セル1が湾曲し始める。そして、雄型2が雌型3に近接するに従い、発電セル1の中央部に作用する応力が、周縁部へと分散される。このときに、発電セル1に欠けなどの欠陥が生じていた場合には、この欠陥部分に応力が集中し、発電セル1は破壊される。これにより、発電セル1の曲げ強度を評価することができる。
【0029】
また、雄型2の凸状の円筒面2aおよび雌型3の凹状の円筒面3aを、発電セル1の耐曲げ強度に応じた曲率半径に形成した場合には、図2(c)に示すように、荷重を付加し発電セル1の厚さ寸法まで雄型2を雌型3に近接させて湾曲させる。このときに、各々の型の円筒面2a、3aの間において、発電セル1に等分荷重が付加されることにより、発電セル1全体に均一な応力が作用する。これにより、発電セル1に欠陥があった場合に、その欠陥部分に応力が集中し、発電セル1は破損する。これにより、発電セル1の耐曲げ強度に応じた曲率半径により、発電セル1を湾曲することにより、曲げ強度を評価することができる。
【0030】
上述の実施形態による発電セルの曲げ試験方法および曲げ試験装置によれば、平板状の発電セル1を円筒面2aを有する凸状治具2と円筒面3aを有する凹状治具3との間に配置し、凸状治具2の円筒面2aと凹状治具3の円筒面3aとを近接させ、荷重を付加することにより湾曲させているため、周縁部に欠けなどの欠陥が生じていた場合でも、この欠陥部分に応力が集中して破壊される。これにより、平板状の発電セル1全体の曲げ強度を評価し、強度が低い発電セルを排除することができる。
【0031】
また、平板状の発電セル1を、この発電セル1の耐曲げ強度に応じた曲率半径の円筒面2aを有する凸状治具2と、上記曲率半径の円筒面3aを有する凹状治具3との間に配置し、凸状治具2の円筒面2aと凹状治具3の円筒面3aとを近接させ、荷重を付加することにより湾曲させているため、耐曲げ強度に応じた上記曲率半径に則した等分荷重により、平板状の発電セル1全体が湾曲し、発電セル1全体に均一な応力が及ぶ。これにより、発電セル1にクラックなど欠陥が生じていた場合には、この欠陥部分に応力が集中して発電セル1は破壊される。この結果、平板状の発電セル1全体の曲げ強度をバラツキなく評価し、強度が低い発電セルを排除することができる。
【0032】
そして、平板状の発電セル1を湾曲させて曲げ強度を評価す装置に用いられる一対の治具2、3が、凸状の円筒面2aを有する雄型2と凹状の円筒面3aを有する雌型3により形成されているため、この一対の治具2、3の間に、平板状の発電セル1を配置して、各々の型の円筒面2a、3aを近接させ、荷重を付加することにより、雄型2の凸状の円筒面2aと雌型3の凹状の円筒面3aに沿って湾曲する。これにより、等分荷重が発電セル1全体に及び、均一な応力によって、平板状の発電セル1全体の曲げ強度を評価し、強度が低い発電セルを排除することができる。
【0033】
さらに、雄型2の凸状の円筒面2aおよび雌型3の凹状の円筒面3aの曲率半径が、発電セル1をランタンガレート系電解質を用いた円形平板型セルにした場合に、その厚さ寸法の600〜800倍であるため、材質および厚さ寸法が同一のもの場合には、一対の治具2、3の間に平板状の発電セル1を配置するだけで、平板状の発電セル1全体に均一な応力を与えることができる。これにより、簡便に平板状の発電セル1の曲げ強度を評価することができる。
【0034】
なお、上記実施の形態において、雄型2の凸状の円筒面2aおよび雌型3の凹状の円筒面3aを、平板状の発電セル1の耐曲げ強度に応じた曲率半径に形成する場合のみ説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、凸状の円筒面2aおよび凹状の円筒面3aを、発電セル1の強度基準に対応する曲率半径にしても対応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
燃料電池に使用される発電セルの曲げ試験に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 発電セル
2 凸状治具(雄型)
2a 円筒面
3 凹状治具(雌型)
3a 円筒面
4 試験片
5 下側の支点
6 上側の支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の発電セルの曲げ強度を評価する方法であって、
円筒面を有する凸状治具と円筒面を有する凹状治具との間に上記発電セルを配置し、
上記凸状治具の円筒面と上記凹状治具の円筒面とを近接させて湾曲させることにより、上記発電セル全体の曲げ強度を評価することを特徴とする発電セルの曲げ強度試験方法。
【請求項2】
平板状の発電セルの曲げ強度を評価する方法であって、
上記発電セルの耐曲げ強度に応じた曲率半径の円筒面を有する凸状治具と、
上記曲率半径の円筒面を有する凹状治具との間に上記発電セルを配置し、
上記凸状治具の円筒面と上記凹状治具の円筒面とを近接させて湾曲させることにより、上記発電セル全体の強度を評価し、強度が低い発電セルを排除することを特徴とする発電セルの曲げ強度試験方法。
【請求項3】
平板状の発電セルを一対の治具の間に配置して湾曲させ、曲げ強度を評価する装置であって、
上記一対の治具は、凸状の円筒面を有する雄型と凹状の円筒面を有する雌型により形成されていることを特徴とする発電セルの曲げ強度試験装置。
【請求項4】
上記円筒面の曲率半径は、上記発電セルがランタンガレート系電解質を用いた円形平板型セルの場合に、その厚さ寸法の600〜800倍であることを特徴とする請求項3に記載の発電セルの曲げ強度試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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