説明

白金ナノ粒子の製造方法

【課題】コスト低減を図りつつ、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが残留する不具合を抑え、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が有する性能を確保するのに有利な白金ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも一つと白金とを含む化合物を準備する準備工程と、化合物を還元剤で還元して白金ナノ粒子を形成する還元工程とを実施する。キャピング剤にポリアクリル酸ナトリウムを使用することを廃止または低減している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノサイズの多面体形状をもつ白金ナノ粒子を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多面体形状をもつ白金ナノ粒子は、球状の白金ナノ粒子に比較し、触媒活性等の性能が優れていることが知られている。そこで、文献1および2によれば、白金錯体を用い、液相還元法により白金ナノ粒子を合成させる際に、ポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤として用い、ポリアクリル酸ナトリウムを白金結晶核の(100)面へ選択的に吸着させ、(100)の成長を抑制し、逆に、白金結晶核の(111)面への成長を促すことにより、反応活性が高い(100)面をもつ多面体形状の白金ナノ粒子を合成させる技術が開示されている。このものでは、ポリアクリル酸ナトリウムは、これを構成する側鎖のカルボニル基が白金表面と結合することでキャピング剤として働くと記載されている。
【0003】
文献3は、ポリアクリル酸ナトリウムの他に、ヨウ化ナトリウム(NaI)を添加し、反応活性が高い(100)面をもつ多面体形状の白金粒子を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chemistry of Materials,8(1966) 1161-1163
【非特許文献2】Electrochimica Acta,52(2006) 1632-1638
【非特許文献3】燃料電池,5(2006) 69-72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した技術は、ポリアクリル酸ナトリウムを、凝集抑制効果のあるキャピング剤として使用している。しかしポリアクリル酸ナトリウムは、高い粘性をもつため、簡単に洗い落とすことが困難である。よって多面体形状の白金粒子の回収率を高めるためには限界がある。更にポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留するため、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、キャピング剤としてポリアクリル酸ナトリウムを使用することを廃止または低減し、コスト低減を図りつつ、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが残留する不具合を抑え、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利な白金ナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、白金ナノ粒子の製造方法について長年にわたり開発を進めている。そして、本発明者は、キャピング剤としてポリアクリル酸ナトリウムを使用することを廃止または低減しつつ、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも一つと白金とを含む化合物(原料)を準備する準備工程と、化合物(原料)を還元剤で還元して白金ナノ粒子を形成する還元工程とを実施すれば、多面体形状をなす白金ナノ粒子が得られることを知見し、本発明を完成させた。
【0008】
多面体形状をなす白金ナノ粒子が得られる理由としては、現段階では必ずしも明確ではないものの、白金ナノ粒子の核の特定の結晶面にアニオンが吸着し、そのアニオンの周囲にカチオンが吸着するため、他の特定の結晶面の成長が促進されることが影響しているものと推察される。
【0009】
すなわち、様相1に係る白金ナノ粒子の製造方法は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも一つと白金とを含む化合物(原料)を準備する準備工程と、化合物(原料)を還元剤で還元して白金ナノ粒子を形成する還元工程とを実施する。好ましくは、化合物は、ポリアクリル酸ナトリウムを含まない。ここで、様相1に係る化合物(原料)としては、単独の化合物としても良く、複数の化合物を混合させた混合物としても良く、例えば塩化白金酸カリウム(KPtCl)等のように、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を含む白金化合物が挙げられる。
【0010】
好ましくは、化合物を構成するアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs),ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)のうちの1種または2種以上を含むことができる。 ここで、ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs)はアルカリ金属である。ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)はアルカリ土類金属である。
【0011】
好ましくは、化合物はハロゲン化合物が挙げられる。ハロゲン化合物としては、ヨウ化物、塩化物および臭化物のうちの1種または2種以上が挙げられる。
【0012】
更に、様相2に係る白金ナノ粒子の製造方法は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも一つを含む化合物と、白金化合物溶液とを混合して混合物を形成する準備工程(混合工程)と、混合物を還元剤で還元して白金ナノ粒子を形成する還元工程とを実施する。
【0013】
本発明方法によれば、キャピング剤にポリアクリル酸ナトリウムを使用することを廃止または低減している。従って、製造された白金ナノ粒子は多面体形状、殊に立方体形状をなしていること、または、実質的に立方体形状をなしていることができる。従って多面体形状の白金ナノ粒子が製造されることが好ましい。白金ナノ粒子は、ナノレベルのサイズをもつ白金粒子を意味する。
【0014】
好ましくは、白金化合物溶液としては白金塩の溶液が挙げられ、殊に、白金塩化物の溶液が挙げられる。白金塩化物としては、塩化白金酸カリウム、塩化白金酸カリウム、四塩化白金酸カリウム、塩化白金、六塩化白金酸六水和物のうちの1種または2種以上が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種類以上使用しても良い。更に白金化合物としては、ヨウ化白金酸、臭化白金酸、フッ化白金酸が挙げられ、更に、これらのそれぞれのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
【0015】
好ましくは、化合物は、ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs),ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)のうちの1種または2種以上を含むことができる。ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs)はアルカリ金属である。従って、化合物はアルカリ金属含有化合物が挙げられる。ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)はアルカリ土類金属である。従って、化合物はアルカリ土類金属含有化合物が挙げられる。
【0016】
好ましくは、化合物はハロゲン化合物が挙げられ、ヨウ化物、塩化物および臭化物のうちの1種または2種以上が挙げられる。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム(KI),ヨウ化ルビジウム(RbI),ヨウ化セシウム(CsI),ヨウ化リチウム(LiI),ヨウ化ナトウム(NaI)のうちの1種または2種以上が挙げられる。塩化物としては、塩化カリウム(KCl),塩化ルビジウム(RbCl),塩化セシウム(CsCl),塩化リチウム(LiCl),塩化ナトリウム(NaCl)のうちの1種または2種以上が挙げられる。臭化物としては、臭化カリウム(KBr),臭化ナトリウム(NaBr),臭化セシウム(CsBr),臭化リチウム(LiBr)のうちの1種または2種以上が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明方法は、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤として使用することを廃止または低減している。従って、洗浄処理および洗浄コストを簡素化できる。更に、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが残留する不具合を抑え、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図2】実施例2に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図3】実施例3に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図4】実施例4に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図5】実施例5に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図6】実施例6に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図7】実施例7に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図8】実施例8に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図9】実施例9に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図10】実施例6〜9に基づいて形成された白金ナノ粒子を並べて示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図11】実施例10に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図12】実施例11に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図13】実施例12に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図14】実施例13に係り、白金ナノ粒子を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
代表的な製造方法としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも一つを含むヨウ化物、塩化物および臭化物のうちの1種または2種以上と、所定の濃度の白金錯体を有する白金錯体溶液とを混合して混合物を形成できる。白金錯体溶液の濃度は、白金錯体の組成、要請される白金ナノ粒子のサイズ、白金ナノ粒子の凝集度等によっても相違するが、例えば、10−2M〜10−8Mとすることができる。白金錯体溶液では白金錯体が凝集していない方が好ましい。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていないことが好ましい。但し、混合物にポリアクリル酸ナトリウムが含まれていても良い。
【0020】
白金錯体の組成、要請される白金ナノ粒子のサイズ、白金ナノ粒子の凝集度等によっても相違するが、ヨウ化物は、白金錯体のモル数の1〜150倍のモル数、更には、5〜100倍のモル数、殊に10〜70倍のモル数、20〜40倍のモル数をもつことができる。同様に、塩化物は、白金錯体のモル数の1〜150倍のモル数、更には、5〜100倍のモル数、殊に10〜70倍のモル数、20〜40倍のモル数をもつことができる。臭化物についても同様とすることができる。
【0021】
還元工程は、前記した混合物を還元剤で還元して白金ナノ粒子を形成する。還元剤としては水素が挙げられる。従って、還元工程は、混合物に水素ガスを吹き込むバブリングにより行われることが好ましい。還元工程は室温で行うことができる。還元工程の時間としては白金錯体を還元できる時間であれば、特に限定されるものではない。白金錯体の組成、要請される白金ナノ粒子のサイズ、白金ナノ粒子の凝集度、供給する水素ガスの流量等によっても相違するが、還元工程の時間としては、例えば、1分〜100時間、殊に5分〜50時間の範囲内、1時間〜20時間の範囲内とすることができる。
【0022】
準備工程(混合工程)および還元工程は、操業がやり易いように室温付近において行うことができるが、適宜変更することもできる。例えば2〜80℃、5〜60℃、または10〜30℃の温度範囲とすることが可能である。
【0023】
還元工程の後、この混合物を所定時間放置することが好ましい。放置は大気雰囲気あるいは場合によっては加圧雰囲気で行うことができる。放置により、白金錯体のイオンの還元反応を更に進行させることができる。放置時間としては特に限定されるものではなく、白金錯体の組成、要請される白金ナノ粒子のサイズ、白金ナノ粒子の凝集度、供給する水素ガスの流量、要請される生産性等によっても相違するが、例えば、1分間〜200時間、10分〜100時間、1時間〜20時間が挙げられる。
【0024】
製造された白金ナノ粒子は多面体形状をなしている。殊に、立方体形状(実質的な立方体形状を含む)をもつ多面体形状をなしていることが好ましい。従って、立方体型あるいは疑似立方体型の白金ナノ粒子が製造されることが好ましい。
【0025】
好ましくは、製造された白金ナノ粒子は1個で70ナノメートル以下、60ナノメートル以下、50ナノメートル以下のサイズをもつ。更に好ましくは、白金ナノ粒子は1個で40ナノメートル以下、30ナノメートル以下、20ナノメートル以下、10ナノメートル以下のサイズをもつ。白金ナノ粒子は単結晶とすることができるが、単結晶でなくても良い。なお、製造された白金ナノ粒子同士は、互いに非接触状態で分離していることが好ましいが、場合によっては、複数個が凝集している二次粒子の形態でも良い。二次粒子の粒径は150ナノメートル以下のサイズ、あるいは、80ナノメートル以下のサイズ、あるいは、70ナノメートル以下、50ナノメートル以下、30ナノメートル以下、10ナノメートル以下のサイズをもつことが好ましい。
【0026】
様相1,2の発明方法は、ポリアクリル酸ナトリウム(以下、PAAともいう)を廃止または従来よりも低減している。『廃止』とは、ポリアクリル酸ナトリウムを使用しないことをいう。『低減』とは、化合物において、モル比で、白金を1と相対表示するとき、ポリアクリル酸ナトリウムのモル比を5以下あるいは3以下あるいは1以下とすることをいう。ポリアクリル酸ナトリウムのモル比を0としても良い。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていないことが好ましい。この場合、ポリアクリル酸ナトリウムが含まれていないとき、あるいは、少ないときであっても、凝集度が少ない多面体形状をなす白金ナノ粒子が得られる理由としては、現段階では必ずしも明確ではないものの、白金ナノ粒子の核の特定の結晶面にアニオンが吸着し、そのアニオンの周囲にカチオンが吸着するため、他の特定の結晶面の成長が促進されることが影響しているものと推察される。ポリアクリル酸ナトリウムが含まれているときには、洗浄性および白金回収性は低下するが、白金ナノ粒子は形成される。
【0027】
様相1によれば、モル比で、白金:アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属:PAA=1:(1〜150):5以下の比率とされている好ましい。殊に、白金ナノ粒子の洗浄工程の簡素化を考慮すると、PAAは少ない方が好ましく、従って、1:(5〜100):3以下、あるいは、1:(5〜100):1以下とすることが好ましい。洗浄性を考慮すると、ポリアクリル酸ナトリウムのモル比を0とすることが好ましい。
【0028】
また様相2に係る混合物は、モル比で、白金:アルカリ金属またはアルカリ土類金属:PAA=1:(1〜150):5以下の比率で混合されている好ましい。殊に、白金ナノ粒子の洗浄工程の簡素化を考慮すると、PAAは少ない方が好ましく、従って、1:(5〜100):3以下、あるいは、1:(5〜100):1以下とすることが好ましい。洗浄性を考慮すると、ポリアクリル酸ナトリウムのモル比を0とすることが好ましい。
【0029】
[実施例1]
本発明の実施例1について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl,錯化合物,イオン性白金化合物)の溶液(温度:室温)に、ヨウ化カリウム(KI)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。Mは容積モル濃度であり、溶液1リットル(1L,1dm)あたりの溶質のモル数を表す溶液の濃度を意味する。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加されるヨウ化カリウム(KI)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:KI=1:25である。
【0030】
300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は金色であった。コロイド溶液の色は白金ナノ粒子のサイズに影響される。更にコロイド溶液をグリッドに数滴キャストして作製した試料について、透過型電子顕微鏡(TEM,日本電子社製,型式JEM−2000EX)で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。粒径はTEMの撮影写真における基準サイズに基づいた。図1は白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図1に示すように、立方体または実質的に立方体の形状を有する多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は10ナノメートル以下であり、殊に3〜8ナノメートル程度、4〜6ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子は単結晶であると推定される。
【0031】
更に図1から理解できるように、複数の白金ナノ粒子の凝集度は極めて少なく、多数の多面体形状(立方体形状)の白金ナノ粒子が互いに独立して存在していた。このため、燃料電池の膜電極接合体などにおける電極触媒として使用するとき、触媒性能が向上すると考えられる。
【0032】
本実施例によれば、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝集抑制剤として使用することを廃止している。従って、洗浄処理を簡素化でき、洗浄コストも低減できる。ポリアクリル酸ナトリウムを廃止しても多面体形状の白金粒子が得られるのは、ヨウ化物のカチオン(陽イオン)であるカリウムイオンが影響しているものと考えられる。この場合、ポリアクリル酸ナトリウムが含まれていないときであっても、凝集度が少ない多面体形状をなす白金ナノ粒子が得られる理由としては、現段階では必ずしも明確ではないものの、前述したように、白金ナノ粒子の核の特定の結晶面にアニオンが吸着し、そのアニオンの周囲にカチオン(陽イオン)が吸着するため、他の特定の結晶面の成長が促進されることが影響しているものと推察される。
【0033】
更に本実施例によれば、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0034】
本実施例において、立方体または立方体に近い形状を有する多面体形状の白金ナノ粒子が得られる理由としては、必ずしも明確ではないものの、次のように推察される。すなわち、白金錯イオンの水素還元により、白金ナノ粒子の核生成が起きる。このとき、白金ナノ粒子の核は、通常、表面エネルギの最も安定な多面体構造(14面体)を採ると考えられる。ここで、14面体は、(100)面と(111)面とが組み合わさった表面構造を採ると考えられる。白金ナノ粒子が核成長するとき、ヨウ化物が系内に存在していると、白金の(100)面の表面自由エネルギがより低下し、面成長が抑制され、その結果、<111>軸方向が優先的に面成長し、最終的に、粒子形状が(100)面で囲まれた立方体型がもつ多面体形状をなす白金ナノ粒子が生成されるものと考えられる。
【0035】
白金は立方晶系(面心立方構造,fcc構造)を有すると考えられる。(100)面は、(111)面に比較して原子が疎に配列しているため、表面エネルギが高く、触媒活性等の性能が高いと考えられている。白金ナノ粒子が立方体を構成したときには、白金ナノ粒子の全ての表面が(100)面で取り囲まれる。従って、立方体の多面体形状をもつ白金ナノ粒子は、他の形状(球体など)に比較して、触媒活性等の性能が良いと考えられる。
【0036】
[実施例2]
本実施例は基本的には実施例1と同様である。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、ヨウ化ルビジウム(RbI)を添加して混合物を形成した。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。ヨウ化ルビジウム(RbI)は、白金錯体モル数の25倍のモル数をもつ。300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した(金色)。更に、上記した透過型電子顕微鏡(TEM)で白金ナノ粒子の例および粒径を調べた。図2は白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図2に示すように、多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径が15ナノメートル以下の粒子、殊に10ナノメートル以下の粒子が多かった。殊に、5〜15ナノメートル程度、5〜10ナノメートル程度と微小の粒子が多かった。更に図2から理解できるように、複数の白金ナノ粒子の凝集度は極めて少なく、多数の多面体形状(立方体形状)の白金ナノ粒子が互いに独立して存在している割合が多かった。
【0037】
本実施例によれば、高い粘性をもつ高価なポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝集抑制剤として使用することを廃止している。ポリアクリル酸ナトリウムを廃止しても多面体形状の白金粒子が得られるのは、ヨウ化物のカチオン(陽イオン)であるルビジウムイオンが影響しているものと考えられる。ポリアクリル酸ナトリウムが含まれていないときであっても、凝集度が少ない多面体形状をなす白金ナノ粒子が得られる理由としては、現段階では必ずしも明確ではないものの、白金ナノ粒子の核の特定の結晶面にアニオンが吸着し、そのアニオンの周囲にカチオンが吸着するため、他の特定の結晶面の成長が促進されることが影響しているものと推察される。従ってコスト低減を図りつつ、洗浄処理を簡素化でき、洗浄コストも低減できる。更に本実施例によれば、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0038】
[実施例3]
本実施例は基本的には実施例1と同様である。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、ヨウ化セシウム(CsI)を添加して混合物を形成した。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。ヨウ化セシウム(CsI)は、白金錯体モル数の25倍のモル数をもつ。300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した(金色)。更に、上記した透過型電子顕微鏡(TEM)で白金ナノ粒子の例および粒径を調べた。図3は白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図3に示すように、多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径が40ナノメートル以下の粒子、殊に30ナノメートル以下の粒子が多かった。更に図3に示すように、複数の白金ナノ粒子の凝集度は無いか、凝集していたとしても少なかった。
【0039】
本実施例によれば、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝集抑制剤として使用することを廃止している。ポリアクリル酸ナトリウムを廃止しても多面体形状の白金粒子が得られるのは、ヨウ化物のカチオン(陽イオン)であるセシウムイオンが影響しているものと考えられる。従ってコスト低減を図りつつ、洗浄処理を簡素化でき、洗浄コストも低減できる。更に、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0040】
[実施例4]
本実施例は基本的には実施例1と同様である。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、ヨウ化リチウム(LiI)を添加して混合物を形成した。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。ヨウ化リチウム(LiI)は、白金錯体モル数の25倍のモル数をもつ。300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した(黒色)。更に、上記した透過型電子顕微鏡(TEM)で白金ナノ粒子の例および粒径を調べた。図4は白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図4に示すように、多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。複数の白金ナノ粒子が凝集した二次粒子は、30〜60ナノメートル程度であった。よって白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。なお本実施例によれば、ポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝集抑制剤として使用していないが、ヨウ化リチウム(LiI)の濃度増で、白金ナノ粒子の凝集性が低下するものと推察される。
【0041】
本実施例によれば、高い粘性をもつ高価なポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝集抑制剤として使用することを廃止している。ポリアクリル酸ナトリウムを廃止しても多面体形状の白金粒子が得られるのは、ヨウ化物のカチオン(陽イオン)であるリチウムイオンが影響しているものと考えられる。従ってコスト低減を図りつつ、洗浄処理を簡素化でき、洗浄コストも低減できる。更に本実施例によれば、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0042】
[実施例5]
本実施例は基本的には実施例1と同様である。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、ヨウ化ナトウム(NaI)を添加して混合物を形成した。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。ヨウ化ナトウム(NaI)は、白金錯体モル数の25倍のモル数をもつ。300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した(黒色)。更に、上記した透過型電子顕微鏡(TEM)で白金ナノ粒子の例および粒径を調べた。図5は白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図5に示すように、多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。複数の白金ナノ粒子が凝集した二次粒子のサイズは、30〜50ナノメートル程度であった。よって白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。なお本実施例によれば、ポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝集抑制剤として使用していないが、ヨウ化ナトリウムの濃度増加で、白金ナノ粒子の凝集性が低下するものと推察される。
【0043】
本実施例によれば、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝縮抑制剤として使用することを廃止している。ポリアクリル酸ナトリウムを廃止できるのは、ヨウ化物のカチオン(陽イオン)であるナトリウムイオンが影響しているものと考えられる。従ってコスト低減を図りつつ、洗浄処理を簡素化でき、洗浄コストも低減できる。更に本実施例によれば、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0044】
[実施例1〜5の評価]
上記した実施例1〜5によれば、ポリアクリル酸ナトリウムを使用することを廃止しつつ、ヨウ化物を用いることにより、多面体形状(立方体型)をなし粒径が小さく且つ凝集度が少ない白金ナノ粒子を製造することができた。殊に、実施例1〜3によれば、立方体型の多面体形状をなす粒径が小さな且つ凝集度が少ない白金ナノ粒子を製造することができた。すなわち、カリウムイオン以上のイオン半径をもつ陽イオン(カチオン)をもつヨウ化物を採用している実施例1〜3によれば、凝集度が少ない立方体型の多面体形状の白金ナノ粒子を良好に製造することができた。
【0045】
[比較例1]
本発明の比較例1について説明を加える。比較例は実施例1と基本的には共通する。但し、ポリアクリル酸ナトリウム(PAA)を使用している。すなわち、所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、ポリアクリル酸ナトリウムを添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれている。添加されるポリアクリル酸ナトリウム(PAA)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:PAA=1:25である。
【0046】
そして、実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に実施例1と同様に、透過型電子顕微鏡(TEM)で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。立方体または実質的に立方体の形状を有する多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は6ナノメートル以下であり、大きかった。
【0047】
比較例によれば、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムの使用量が多い。更に、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムによる不具合が洗浄処理において発生するため、他の実施例と異なり、洗浄コストが高くなり、且つ白金ナノ粒子の回収率を高めるには限界がある。更に高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留するおそれがあるため、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに好ましくない。
【0048】
[実施例6]
本発明の実施例6について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、塩化カリウム(KCl)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加される塩化カリウム(KCl)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:KCl=1:25である。
【0049】
実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に透過型電子顕微鏡で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。図6は本実施例に係る白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図6に示すように、多面体(おそらく14面体と考えられる)形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は10ナノメートル以下であり、殊に7〜8ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。
【0050】
本実施例においても、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムを廃止しているため、ポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0051】
[実施例7]
本発明の実施例7について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、塩化ナトリウム(NaCl)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加される塩化ナトリウム(NaCl)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:NaCl=1:25である。
【0052】
実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に透過型電子顕微鏡で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。図7は本実施例に係る白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図7に示すように、多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は20ナノメートル以下であり、殊に7〜15ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。本実施例においても、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムを廃止しているため、ポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0053】
[実施例8]
本発明の実施例8について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、塩化ルビジウム(RbCl)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加される塩化ルビジウム(RbCl)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:RbCl=1:25である。
【0054】
実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に透過型電子顕微鏡で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。図8は本実施例に係る白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図8に示すように、多面体(おそらく14面体と考えられる)形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は10ナノメートル以下であり、殊に7〜8ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。
【0055】
本実施例においても、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムを廃止しているため、ポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、洗浄処理において洗浄コストを低減できると共に、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0056】
[実施例9]
本発明の実施例9について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl,錯化合物)の溶液(温度:室温)に、塩化リチウム(LiCl)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加される塩化リチウム(LiCl)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:LiCl=1:25である。
【0057】
実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に透過型電子顕微鏡で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。図9は本実施例に係る白金ナノ粒子を基準サイズと共に示す。図9に示すように、多面体(おそらく14面体と考えられる)の多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は20ナノメートル以下であり、殊に6〜15ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。
【0058】
本実施例においても、高い粘性をもつ高価なポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝縮抑制剤として使用することを廃止している。従ってコスト低減を図りつつ、洗浄処理を簡素化でき、洗浄コストも低減でき、多面体形状の白金粒子の回収率が高められる。
【0059】
なお図10は、アルカリ金属の塩化物を用いた前記した実施例6〜実施例9においてそれぞれ生成された白金粒子のTEM写真を並べて示す。基準サイズは50ナノメートルおよび20ナノメートルである。
[実施例10]
本発明の実施例10について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、臭化カリウム(KBr)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加される臭化カリウム(KBr)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:KBr=1:25である。
【0060】
実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に透過型電子顕微鏡で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。図11は本実施例に係る白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図11に示すように、多面体(おそらく14面体と考えられる)形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は50ナノメートル以下であり、殊に18〜30ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。
【0061】
本実施例においても、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムを廃止しているため、ポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0062】
[実施例11]
本発明の実施例11について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、臭化ナトリウム(NaBr)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加される臭化ナトリウム(NaBr)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:NaBr=1:25である。
【0063】
実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に透過型電子顕微鏡で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。図12は本実施例に係る白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図12に示すように、多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は40ナノメートル以下であり、殊に10〜30ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。本実施例においても、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムを廃止しているため、ポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0064】
[実施例12]
本発明の実施例12について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液(温度:室温)に、臭化ルビジウム(RbBr)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加される臭化ルビジウム(RbBr)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:RbBr=1:25である。
【0065】
実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に透過型電子顕微鏡で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。図13は本実施例に係る白金ナノ粒子の例を基準サイズと共に示す。図13に示すように、多面体(おそらく14面体と考えられる)形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は30ナノメートル以下であり、殊に10〜30ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。
【0066】
本実施例においても、高い粘性をもつポリアクリル酸ナトリウムを廃止しているため、ポリアクリル酸ナトリウムが白金ナノ粒子に残留する不具合を抑えることができ、洗浄処理において洗浄コストを低減できると共に、多面体形状の白金粒子の回収率を高めると共に、白金ナノ粒子が本来有する触媒性能等の性能を確保するのに有利となる。
【0067】
[実施例13]
本発明の実施例13について説明を加える。所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl,錯化合物)の溶液(温度:室温)に、塩化リチウム(LiBr)を添加して混合物を形成した。雰囲気は大気雰囲気とした。この混合物にはポリアクリル酸ナトリウムが含まれていない。添加される塩化リチウム(LiBr)は、白金錯体モル数(塩化白金酸カリウム(KPtCl)のモル数)の25倍のモル数をもつ。すなわち、モル比で、Pt:LiBr=1:25である。
【0068】
実施例1と同様に、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスをこの混合物に所定時間(10分間)吹き込んでバブリングし、水素還元工程を行った。その後、この混合物を密閉した状態で、一昼夜(10時間)放置して保持工程を行い、白金ナノ粒子を含むコロイド溶液を作製した。コロイド溶液の色を目視で観察した。色は黒色であった。更に透過型電子顕微鏡で白金ナノ粒子の形態および粒径を調べた。図14は本実施例に係る白金ナノ粒子を基準サイズと共に示す。図14に示すように、多面体(おそらく14面体と考えられる)の多面体形状の白金ナノ粒子が得られた。粒径は40ナノメートル以下であり、殊に6〜30ナノメートル程度と極めて微小であった。白金ナノ粒子の凝集度も少なかった。
【0069】
本実施例においても、高い粘性をもつ高価なポリアクリル酸ナトリウムをキャピング剤および凝縮抑制剤として使用することを廃止している。従ってコスト低減を図りつつ、洗浄処理を簡素化でき、洗浄コストも低減でき、多面体形状の白金粒子の回収率が高められる。
【0070】
[その他]
本発明は上記した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。上記した実施例は、所定の容積(300cc)の1×10−4Mの濃度の塩化白金酸カリウム(KPtCl,錯化合物)の溶液を採用しているが、塩化白金酸カリウムの濃度および容積はこれに限定されるものではない。例えば、塩化白金酸カリウムの濃度を1×10−7〜1×10−1Mの範囲内、1×10−6〜1×10−2Mの範囲内、1×10−5〜1×10−3Mの範囲内としても良く、これらに限定されるものではない。
【0071】
必要に応じて、混合物または塩化白金酸カリウム(KPtCl)の溶液に超音波振動を入力させても良い。水素還元工程においては、300ミリリットル/分間の条件で水素ガスを混合物に10分間吹き込んでバブリングしているが、水素ガスの単位時間あたりの供給流量は、これに限定されるものではなく、50〜3000ミリリットル/分間等と、混合物の容積などの要因に応じて変更できる。吹き込み時間は10分間に限定されるものではなく、5分間、20分間、40分間等のように適宜変更できる。本明細書から次の技術的思想も把握できる。
(付記項1)40マイクロメートル以下の粒径をもち多面体形状をなす白金ナノ粒子。
(付記項2)40マイクロメートル以下の粒径をもち、互いに分離している多面体形状をなす白金ナノ粒子。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、例えば、燃料電池の膜電極接合体に保持される触媒、改質装置の改質触媒、排気ガス浄化装置に保持される触媒等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも一つと白金とを含む化合物を準備する準備工程と、前記化合物を還元剤で還元して白金ナノ粒子を形成する還元工程とを実施する白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記化合物はポリアクリル酸ナトリウムを含まない白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも一つを含む化合物と、白金化合物溶液とを混合して混合物を形成する準備工程と、前記混合物を還元剤で還元して白金ナノ粒子を形成する還元工程とを実施する白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記化合物は、ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs),ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)のうちの1種または2種以上を含む白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの一項において、前記化合物は、ヨウ化物、塩化物および臭化物のうちの1種または2種以上である白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちの一項において、前記還元工程は、前記混合物に水素ガスを吹き込むバブリングにより行われる白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のうちの一項において、前記白金化合物溶液は、塩化白金酸カリウム(KPtCl)を含む白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項3〜7のうちの一項において、前記混合物はポリアクリル酸ナトリウムを含まない白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のうちの一項において、前記白金ナノ粒子は多面体形状をなしている白金ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のうちの一項において、前記白金ナノ粒子は50ナノメートル以下のサイズをもつ白金ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−31354(P2010−31354A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61265(P2009−61265)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】