説明

皮膚バリア機能の改善のための素材の有用性の鑑別方法。

【課題】皮膚バリア機能の改善に有用な働きをする物質を簡便に鑑別する方法を提供する。
【解決手段】3次元培養皮膚において、これを希薄なドデシル硫酸ナトリウム水溶液と接触させることによりクローディン1の発現が抑制されることを免疫染色法にて確認し、抑制されたクローディン1の発現を回復する作用を有する素材が、皮膚バリア機能を回復する作用(TEWLの回復作用)を有する事を見出し、これにより皮膚バリア機能の改善に有用な作用を有する素材を簡便に鑑別することができるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚バリア機能の改善のために有用な物質を鑑別できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外界からの刺激や異物の侵入から生体を防御したり、生体からの水分の蒸散を抑制する機能を有する重要な器官である。しかし、皮膚バリア機能は、乾燥などの外的環境変化、偏った食生活やストレスなどにより低下し易い。そこで、この低下した皮膚バリア機能を改善するために、これまで種々の皮膚バリア機能改善素材の探索が行われている。しかし、皮膚バリア機能の改善作用を有する素材の探索においては、実験動物やヒトを対象として、紫外線を照射して炎症を起こしたり、ドデシル硫酸ナトリウムの1〜10%水溶液を塗布したりして、強制的に皮膚にダメージを与え、経表皮水分蒸散量(Trans Epidermal Water Loss:TEWL)を指標とした素材の評価などを行っている。しかし、実験動物やヒトを対象とするので、これらの方法は素材の探索に使用するには簡便な方法ではなかった。最近、皮膚バリア機能に関するターゲットとしてタイトジャンクション構成タンパク質の1つであるクローディン1をノックアウトすることにより、皮膚の水分バリア機能が損傷されたマウスが生まれてくることは報告された(特許文献1を参照)が、これは発生時において遺伝子の発現を抑制した皮膚についての報告であり、正常な皮膚における表皮クローディン1と表皮水分バリア機能との明確な関連性は、まだ明らかとなっていない。
【0003】
また、表皮細胞を分化誘導して、表皮と類似した構造として基底層、有棘層、顆粒層、角層を有する表皮類似構造物である3次元培養皮膚において、タイトジャンクション構成タンパク質の一部が発現していること(非特許文献1を参照)や薬物等の経皮吸収性の試験に利用できること(特許文献2を参照)などが知られていた。しかし、3次元培養皮膚においては、そのTEWL値は、ヒトや実験動物のTEWL値と相関性を有するものではなく、TEWL値をバリア能の評価の指標に使用することはできない。この為、三次元培養皮膚を用いて、皮膚バリア機能に対する被験物質の作用を評価する試みが為されていないのが現状と言える。
【0004】
一方、3次元培養皮膚において、クローディン1の発現量に影響を与える処置や物質は全く知られていない。従って、三次元培養皮膚におけるクローディン1の発現量を指標に、被験物質の皮膚バリア機能を改善する作用を鑑別する方法も全く知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−245068号公報
【特許文献2】特開2000−201695号公報
【非特許文献1】European Journal of Cell Biology, Vol.81, No.5, 253-263(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
皮膚バリア機能の改善に有用な働きをする物質を簡便に鑑別する方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、希薄なドデシル硫酸ナトリウム水溶液との接触でクローディン1の発現が抑制された3次元培養皮膚において、クローディン1の発現を回復する作用を有する素材が、皮膚バリア機能を回復する作用(TEWLの回復作用)を有する事を見出し、本願発明を完成した。すなわち、以下に示す通りである。
【0008】
(1)予め培養された表皮細胞を分化誘導し、気液界面に角層類似構造を構築させて作成した基底層、有棘層、顆粒層、角層に相当する表皮類似構造物であって、該表皮類似構造物の角層側を弱度の化学損傷を施した後、生理食塩水で洗浄し、さらに1〜3日間、一方は通常の培地、もう一方は被験試料含有培地で培養した表皮類似構造物を用意し、該構造物の顕微鏡観察用の切片を作成し、切片におけるクローディン1の発現位置を可視化し、被験試料を含有しない通常の培地で培養した構造物の切片におけるクローディン1の発現に比して、被験試料含有培地で培養した構造物の切片のクローディン1の発現が明確に亢進していた場合に、前記被験試料は皮膚バリア機能の改善に有用な作用を有すると鑑別することを特徴とする、被験試料についての、皮膚バリア機能の改善作用の鑑別方法。
(2)前記弱度の化学損傷は、ドデシル硫酸エステル塩を0.0005〜0.005質量%含有する生理食塩水に1〜5時間浸漬する操作であることを特徴とする(1)に記載の鑑別方法。
(3)クローディン1の可視化が、免疫染色法であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の鑑別方法。
(4)前記免疫染色は、切片を抗クローディン1一次抗体で染色した後、蛍光標識化二次抗体で染色する免疫染色であることを特徴とする、(1)〜(3)何れかに記載の鑑別方法。
(5)クローディン1の発現状況を、オクルーディンの発現量で補正することを特徴とする、(1)〜(4)何れかに記載の鑑別方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人を含む動物を用いることなく、皮膚バリア機能の改善のために有用な物質を簡便に鑑別でき、スキンケア化粧料などに有用な素材として活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)本発明の鑑別方法に用いる表皮類似構造物
本発明に使用される表皮類似構造物は、基底細胞層、有棘細胞層、顆粒細胞層、角層に相当する細胞の層を有する。このような表皮類似構造物は、培養表皮細胞を培養増殖させた後に、培地をカルシウムイオンがそれまでの10倍程度の1〜2mMという高濃度で含有するものに置換して、分化誘導し、これをさらに気液界面でさらに培養することにより得ることができる。この様な表皮類似構造物は、培養表皮細胞から上記の様な誘導を掛けて、得ることも可能であるが、3次元培養皮膚として、市販されているものがあり、それらの市販品を購入して使用することができ、好ましい。例えば、倉敷紡績株式会社より正常ヒト皮膚3次元モデルとして「EPI−200」、「EPI−200X」、「EPI−606」、「EPI−606X」が、また、東洋紡績株式会社より、3次元培養皮膚モデルとして「TESTSKINTMLSE」、「TESTSKINTMLSE―d」、「TESTSKINLSE−high」などが、市販されており、これらを購入して使用することができ、好ましい。これらの3次元培養皮膚では、基底層、有棘層、顆粒層、角層に相当する層状構造を有し、さらにケラチン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼIなどの皮膚に特徴的なタンパク質の発現も知られている。
【0011】
(2)本発明の鑑別方法に用いる弱度の化学損傷手段
本発明の鑑別方法に用いる弱度の化学損傷手段としては、皮膚に於いて損傷作用のある化学物質を、in vivoの条件では無作用乃至は殆ど作用のない濃度の溶液に調整し、この溶液に無作用乃至は殆ど作用のない時間で、十分に細胞と接触する時間浸漬する方法が好ましく、前記化学物資としては、アルキル硫酸エステルが好ましく例示できる。このようなアルキル硫酸エステルのアルキル基としては、炭素数10〜24の直鎖上のアルキル基、アルケニル基、分岐のアルキル基などが挙げられ、これらの中では、本鑑別方法の操作法の安定性の面からラウリル基が最も適している。アルキル硫酸エステルの対イオンとしては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミンのようなアミン塩などが挙げられるが、アルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属塩の中でもナトリウム塩が入手もし易く好ましい。このような、アルキル硫酸エステル塩はヒトや実験動物の皮膚にダメージを与えるのに使用する場合には1〜10質量%程度の濃度で使用されるが、本発明の表皮類似構造物に適用する場合には、0.0005〜0.005質量%という低濃度で生理食塩水に溶解して使用するのが好ましい。又、作用させる浸漬時間は1〜5時間が好ましい。これより低い濃度では、本発明の皮膚バリア機能改善のための素材の有用性の鑑別方法に使用可能な十分な損傷を与えることができず、また、これより高い濃度では、表皮類似構造物に不可逆的なダメージを与えて、本発明の鑑別方法に適用できなくなるからである。アルキル硫酸エステル以外にも、スルホコハク酸エステルなどのアニオン界面活性剤やステアリルトリメチルアンモニウムクロリドなどのカチオン界面活性剤等の高濃度では皮膚に損傷を与える成分を適切な量に調整して用いることもできる。
【0012】
(3)本発明の鑑別方法
基底細胞層、有棘細胞層、顆粒細胞層、角層に相当する細胞の層を有する表皮類似構造物を用意し、角層側を前記アルキル硫酸エステル塩の0.0005〜0.005質量%含有生理食塩水溶液と数時間接触させてダメージを与え、その後、アルキル硫酸エステル塩の生理食塩水溶液を捨て、さらに生理食塩水で洗浄する。これらの内、一方は被験試料を含有する培養液で、もう一方は被験試料を含有しない培養液にて培養を継続する。アルキル硫酸エステル塩との接触時間(ダメージ処理時間)は、アルキル硫酸エステル塩の濃度にもよるが、1〜5時間が好ましく、2〜4時間がより好ましく、3時間程度がより好ましい。この時間が短すぎると十分な損傷を与えられず、長すぎると細胞へのダメージが強くなりすぎる場合が存するからである。ダメージ処理後の被験試料等を含有した培地での培養期間は1〜3日間が好ましく、1〜2日間がより好ましく、1日程度がさらに好ましい。この期間が長いと自然回復してしまい、短かすぎるとダメージ処理からのクローディン1の発現回復を見ることができないからである。これらのことから、後述する皮膚類似構造物からの組織片の採取は、自然回復と被験物質の添加による回復促進作用の差が認められる期間に設定する必要があり、被験試料の添加後1〜3日間の間が好ましく、1〜2日間に採取することがより好ましく、1日程度がさらに好ましい。
【0013】
被験物質を含有する若しくは含有しない培地での培養が終了した後に、当該表皮類似構造物から、切片を作製するが、切片の作製は特段の限定はなく、常法に従って行えば良く、例えば、組織片を採取し、この組織片から、凍結切片を作製し、表皮タイトジャンクションの構成タンパク質の一つであるクローディン1を可視化し、顕微鏡で観察する。クローディン1の可視化の方法としては、クローディン1タンパク質そのものの免疫染色法やクローディン1のmRNAを検出するin situ hybridization法等を適宜選択できる。免疫染色法においても、蛍光標識化された抗体で可視化する蛍光抗体法やペルオキシダーゼ等の酵素を用いて可視化する酵素抗体法などを適宜選択できる。これらの中では、タンパク質を直接検出でき、検出感度の高い蛍光抗体法が適している。
【0014】
蛍光抗体法においては、前記組織片から作成された切片について、常法に従いクローディン1に対する一次抗体で免疫染色し、さらに蛍光標識化二次抗体で染色し、可視化する。これを蛍光顕微鏡にて観察することにより、クローディン1の発現状況が判る。この時、同時に表皮タイトジャンクションの構成タンパク質の一つであるオクルーディンに対しても、抗オクルーディン一次抗体と前記クローディン1に対するのとは異なる蛍光を有する蛍光標識化二次抗体で染色し、これを蛍光顕微鏡で観察することにより、組織切片上のタイトジャンクションの存在位置が判明し、クローディン1の発現状況を知るのにより効果的である。又、オクルーディンの発現量を用いて、クローディン1の発現量を補正することにより、絶対値に近いクローディン1の亢進状況が把握でき、オクルーディン染色を併用することが好ましい。
【0015】
ここで、クローディン1とオクルーディンの発現の蛍光抗体法による可視化の状態について説明する。ダメージ処理を行わない表皮類似構造物から得られた切片においては、蛍光抗体法によってオクルーディンが顆粒層上部にドット状に、クローディン1が表皮層の細胞膜に沿って網目状に観察される。ところが希薄なドデシル硫酸ナトリウム溶液(以下、単にSDSと記載する場合もある)と接触させた表皮類似構造物から作成された切片においては、一時的にオクルーディン、クローディン1の発現が共に抑制されるが、オクルーディンに関しては、希薄なドデシル硫酸ナトリウム水溶液処理1日後には発現が回復し、表皮細胞上層部にドット上に蛍光染色像が認められる。しかし、クローディン1に関しては1日後では発現が十分には回復せず、2〜3日後にその発現の自然な回復が認められた。クローディン1の発現が十分に回復しない、すなわち希薄SDS溶液処理1日後が、回復促進効果を見るのに適している。
【0016】
前述のように表皮類似構造物の角層側をドデシル硫酸ナトリウムの生理食塩水溶液と接触させてダメージ処理をし、生理食塩水で洗浄した後に、回復促進作用を検討する被験試料を含有する培地で培養を継続した場合と、被験試料を含有しない培地で培養した場合とを比較し、クローディン1の発現状況において、その発現が遅れるのか、同等か、早まるのかを観察し、「被験試料の存在下において、クローディン1の発現が早まっている(亢進している)場合に、被験試料が皮膚バリア機能の改善に有用であると鑑別する」のが、本願発明の鑑別法である。
【0017】
以下に、実施例によって、本発明に関し具体的に説明するが、本願発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0018】
(製造例) 被験試料の製造例
キンポウゲ科オウレンの根茎100gを細かく裁断し、50%エタノール水溶液300mlを加え、室温で1週間浸漬した。これを濾過して、濾液を濃縮し、酢酸エチルと水を加えて、液液抽出し、酢酸エチル層を採取した。この酢酸エチル層を、濃縮し、1質量%濃度で50%含水1,3−ブタンジオールに再溶解し、オウレン抽出エキスを得た。
【0019】
<実施例1>
正常ヒト皮膚3次元モデル「EPI−200」(倉敷紡績株式会社)をNMM長期維持培地を入れた6ウェルディッシュに移し、24時間培養した。次に、0.1質量%、0.01質量%、0.001質量%、0%(コントロール)のドデシル硫酸ナトリウム−生理食塩水溶液(以下SDS溶液と略す。)を含有する生理食塩水を角層側に添加し、3時間培養した。生理食塩水で、角層側を2回洗浄した後、さらに1日培養を継続した。この正常ヒト皮膚3次元モデル「EPI−200」から、組織切片を作製し、H−E染色(ヘマトシキリン−エオジン染色)し、顕微鏡にて観察した。0.1質量%、0.01質量%では、細胞層の崩れ等の組織の変性が認められたが、0.001質量%、0%(未処理)では、そのような組織の変性は認められなかった(図1、図2、図3、図4)。すなわち、0.01質量%以上の濃度のSDS溶液で正常ヒト皮膚3次元モデルをダメージ処理すると、不可逆的な組織の変性・壊死が生じていることが判り、タイトジャンクションへの可逆的な影響を観察するには、より希薄なSDS溶液により処理する必要があることが判った。
【0020】
<実施例2>
正常ヒト皮膚3次元モデル「EPI−200」をNMM長期維持培地を入れた6ウェルディッシュに移し、24時間培養した。次に、0.001質量%、0.0001質量%、0質量%のドデシル硫酸ナトリウムを含有する生理食塩水を角層側に添加し、3時間培養した。生理食塩水で、角層側を2回洗浄した後、さらに1日間、又は3日間培養を継続した。この正常ヒト皮膚3次元モデルより組織片を作製し、液体窒素で冷却し、凍結切片を作製した。この凍結切片を常法によって処理し、マウス抗オクルーディン一次抗体(Invitrogen社製)及びラビット抗クローディン1一次抗体(Invitrogen社製)で処理し、さらにローダミン標識ドンキー抗マウスIgG(Chemicon社製)及びFITC標識ドンキー抗ラビットIgG(Chemicon社製)による蛍光抗体染色によって表皮タイトジャンクション部分を染色した。これらを、落射蛍光顕微鏡にて観察し、ローダミンの赤の蛍光で示されるオクルーディンの発現状態とFITCの緑の蛍光によって示されるクローディン1の発現状態をそれぞれ観察し、画像として撮影した。結果の一部を図5〜図8に示す。
【0021】
コントロール(0質量%SDS溶液)においては、オクルーディンのドット状の発現が顆粒層上部(図9)に、及び細胞膜上に局在化したクローディン1の網目状の発現が表皮層全体(図8)に認められた。0.001質量%SDS溶液処理では、1日後には、オクルーディンの発現は認められるが(図6)、クローディン1の発現は認められず、タイトジャンクションが損傷を受けていることが判った(図5)が、0.0001質量%SDSでの処理では、1日後にクローディン1の染色像は0質量%処理と変わらなかった(図7)。また、0.001質量%SDSでの処理において、3日後にはクローディン1の網目状の発現が認められた(図10)。すなわち、0.001質量%SDSでの処理では、1日後にはまだクローディン1の発現が抑制されているが、3日後にはクローディン1の発現が自然回復していることが判った。これらのことから、ヒト皮膚3次元モデルに不可逆的なダメージを与えずに、クローディン1の発現を抑できる程度の損傷を与えるには、0.0005〜0.005質量%程度のSDS溶液で処理する必要があることが判った。
【0022】
<実施例3>
正常ヒト皮膚3次元モデル「EPI−200」(倉敷紡績株式会社)をNMM長期維持培地を入れた6ウェルディッシュに移し、24時間培養した。次に、0.001質量%のドデシル硫酸ナトリウムを含有する生理食塩水を角層側に添加し、3時間培養してダメージ処理した。次に、生理食塩水で、角層側を2回洗浄した後、被験試料である前記製造例で得た被験試料である「オウレン抽出エキス」を5%含有する培養液に置換し、1日間培養を継続した。同時に、被験試料の溶媒である50%含水1,3−ブタンジオールを5%含有する培養液での培養も実施した。1日後に両ヒト皮膚3次元モデルより、組織片を切り出し、液体窒素で冷却し、凍結切片を作製した。この凍結切片を常法によって処理した後、抗クローディン1一次抗体と抗オクルーディン一次抗体処理、さらにFITC標識二次抗体、ローダミン標識二次抗体処理による蛍光抗体染色によってクローディン1とオクルーディンを染色した。これらを、落射蛍光顕微鏡にて観察し、「オウレン抽出エキス」の有無におけるFITCの緑の蛍光で示されるクローディン1とローダミンの赤の蛍光で示されるオクルーディンの発現状況観察し、画像として撮影した。
【0023】
0.001質量%SDS溶液で3時間ダメージ処理したヒト皮膚3次元モデルにおいて、オウレン抽出エキス無添加の場合は、1日後にはオクルーディンの染色像は認められたが(図12)、クローディン1の染色像(細胞膜状への局在による網目状の発現)が認められなかった(図11)。それに対して、0.001%SDS溶液で3時間処理した後に、5%オウレン抽出エキスを含有する培養液で培養を継続した3次元培養皮膚においては、1日後において、オクルーディンのドット状の発現(図14)に加えて、クローディン1の網目状の発現が認められ(図13)、タイトジャンクションの回復が促進されていることが判った。すなわち、本発明により、希薄SDS溶液との接触によって損傷を受けた表皮タイトジャンクションにおいて、オウレン抽出エキスなどのクローディン1発現の回復促進作用を有する素材を簡便に鑑別することが可能となる。
【0024】
<試験例1>
健常な成人男子5名の上腕内側部に1cm×1cmの2部位を設定し、未処置部位のTEWL値を測定した。次いで、サージカルテープ(3M社製)により、浸潤液が出るまでテープストリッピングを繰り返し、テープストリッピング直後のTEWL値を測定した。TEWL値の測定後、1部位には製造例のオウレン抽出エキス、もう一部位には対象例として50%含水ブタンジオール(コントロール)を塗布した。このサンプル塗布を1日3回行い、サンプル塗布48時間後に再度TEWL値を測定し、テープストリッピング直後からのTEWLの回復状況を評価した。結果を、図15示す。
【0025】
図15結果より、テープストリッピング後に、対照例を塗布した部位に比べて、オウレン抽出エキスを塗布した部位では、TEWLの回復促進効果が認められた。希薄SDS溶液との接触でダメージを受けたヒト皮膚3次元モデルにおいて、クローディン1の発現回復において有効であったオウレン抽出エキスは、ヒトダメージモデルにおいても、TEWLの回復に効果的であることが判った。これより、クローディン1の発現状況を指標に三次元培養皮膚を用いて、被験物質の皮膚バリア機能の改善作用を鑑別できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、皮膚のバリア機能の回復を促進する皮膚外用剤の開発などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】0.1質量%SDS溶液処理1日後の採取培養皮膚切片のHE染色像
【図2】0.01質量%SDS溶液処理1日後の採取培養皮膚切片のHE染色像
【図3】0.001質量%SDS溶液処理1日後の採取培養皮膚切片のHE染色像
【図4】0質量%(コントロール)処理での培養皮膚切片のHE染色像
【図5】0.001質量%SDS溶液処理1日後の、培養皮膚切片のクローディン1蛍光染色像
【図6】0.001質量%SDS溶液処理1日後の、培養皮膚切片のオクルーディン蛍光染色像
【図7】0.0001質量%SDS溶液処理1日後の、培養皮膚切片のクローディン1蛍光染色像
【図8】0質量%(コントロール)処理1日後の、培養皮膚切片のクローディン1蛍光染色像
【図9】0質量%(コントロール)処理1日後の、培養皮膚切片のオクルーディン蛍光染色像
【図10】0.001質量%SDS溶液処理3日後の、培養皮膚切片のクローディン1蛍光染色像
【図11】0.001質量%SDS溶液処理、エキス無添加、1日後の培養皮膚切片のクローディン1蛍光染色像
【図12】0.001質量%SDS溶液処理、エキス無添加、1日後の培養皮膚切片のオクルーディンの蛍光染色像
【図13】0.001質量%SDS溶液処理、オウレン抽出エキス添加、1日後の培養皮膚切片のクローディン1の蛍光染色像(1日後)
【図14】0.001質量%SDS溶液処理、オウレン抽出エキス添加、1日後の培養皮膚切片のオクルーディンの蛍光染色像(1日後)
【図15】試験例1の結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め培養された表皮細胞を分化誘導し、気液界面に角層類似構造を構築させて作成した基底層、有棘層、顆粒層、角層に相当する表皮類似構造物であって、該表皮類似構造物の角層側を弱度の化学損傷を施した後、生理食塩水で洗浄し、さらに1〜3日間、一方は通常の培地、もう一方は被験試料含有培地で培養した表皮類似構造物を用意し、該構造物の顕微鏡観察用の切片を作成し、切片におけるクローディン1の発現位置を可視化し、被験試料を含有しない通常の培地で培養した構造物の切片におけるクローディン1の発現に比して、被験試料含有培地で培養した構造物の切片のクローディン1の発現が明確に亢進していた場合に、前記被験試料は皮膚バリア機能の改善に有用な作用を有すると鑑別することを特徴とする、被験試料についての、皮膚バリア機能の改善作用の鑑別方法。
【請求項2】
前記弱度の化学損傷は、ドデシル硫酸エステル塩を0.0005〜0.005質量%含有する生理食塩水に1〜5時間浸漬する操作であることを特徴とする請求項1に記載の鑑別方法。
【請求項3】
クローディン1の可視化が、免疫染色法であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鑑別方法。
【請求項4】
前記免疫染色は、切片を抗クローディン1一次抗体で染色した後、蛍光標識化二次抗体で染色する免疫染色であることを特徴とする、請求項1〜3何れかに記載の鑑別方法。
【請求項5】
クローディン1の発現状況を、オクルーディンの発現量で補正することを特徴とする、請求項1〜4何れかに記載の鑑別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−26092(P2008−26092A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197573(P2006−197573)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】