説明

皮革様シートおよびその製造方法

【課題】曲面に沿わせて用いるような用途においても外観の凹凸感が損なわれず、高い意匠性を有する皮革様シートを提供する。
【解決手段】極細長繊維束からなる不織布とその内部に付与された弾性ポリマーからなる基体の表面に形成された凹凸模様を有する皮革様シートにおいて、以下(1)〜(5)を満足することを特徴とする皮革様シート。
(1)極細長繊維束が平均単繊維繊度0.5デシテックス以下の極細長繊維が5〜70本集束していること
(2)極細繊維束の平均繊度が3デシテックス以下であること
(3)凹凸模様の凸部は0.5デシテックス以下の立毛繊維を有し、凹部は該立毛繊維が基体を構成する弾性ポリマーに固着されていること
(4)凹凸模様の凸部が凹部に周囲を囲まれ、個々の凸部分の平均面積が0.2〜25mmであること
(5)皮革様シートの20%強力が縦、横共に8kg/25mm以上であること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革様シートに関するものである。さらに詳しくは、自然で天然皮革ライクな表面の凹凸感を有し、かつ凹部には実質的な立毛がなく凸部には立毛が存在することから凹部と凸部のコントラストがついた皮革様シートであって、適度なのびにくさを有するためにソファーや靴などに応用した場合、曲面に張り込んでも凹凸感が保持され、意匠性の高い製品を得ることのできる皮革様シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮革様シートはイージーケア性や、軽さを特徴として天然皮革を代替する素材として、衣料、インテリア、靴、鞄、手袋等様々な用途に利用されてきた。その中には、銀付き調と言われる天然皮革の表面を模したものや、スエード調と言われる天然皮革の裏面をサンドペーパーでバフィングして得られる毛羽物があり、特に銀付き調においては天然皮革の表面の凹凸模様(以下、シボと称する場合もある)を模したものも数多くある。
従来から天然皮革のシボ感を模してそのシボ感を強調するために凹凸部それぞれの艶や色調に変化を与える提案は多くなされているが、天然皮革製品群に見られるようにシボ凸部のみに毛羽感の存在する皮革様シートであって、凹凸模様が伸ばされてもその凹凸感が損なわれない皮革様シートは殆ど提案されていない。わずかに極細繊維不織布とそれに充填された高分子弾性体からなり、その起毛面にエンボスにて凹凸面を付与した提案がなされているだけである(例えば、特許文献1参照。)。この理由としては、このように凹部が非立毛部となっていて凸部のみに毛羽が見られるような外観を得るためには、不織布を構成する繊維の繊度が高いと起毛面の外観は粗くなり、凹部の非立毛面も滑らかな銀感が得られないため超極細繊維を用いる必要があり、その超極細繊維を製造する技術的なハードルが高いことが考えられる。また、特許文献1に見られる皮革様シートにおいても、実質的に短繊維から成る不織布を用いており、かつ伸びに関する規定を設けていないために、外観は良好であるにもかかわらず実用的にソファーや靴といった曲面部に沿って張られるような用途においては、該皮革様シートが伸ばされ、本来保有している凹凸感が損なわれると言う問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−50580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、天然皮革のような自然な凹凸感のある皮革様シートであって、その凹部が非立毛部分であり、凸部は立毛を有するために凹部と凸部のコントラストが強調されているという特徴を持ち、さらに適度な伸びにくさを有するため、ソファーや靴など曲面に沿わせて張られる用途に用いてもその凹凸感を損ねることのない皮革様シートに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手法について、構成する繊維の繊度、繊維長等について鋭意検討した結果、繊維束としての繊度が低い極細長繊維を3次元絡合させた不織布を用いることによって得られる皮革様シートの伸びが抑えられ、結果としてシートに付与した凹凸表面が保持されやすい皮革シートが得られることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は、極細長繊維束からなる不織布とその内部に付与された弾性ポリマーからなる基体の表面に形成された凹凸模様を有する皮革様シートにおいて、以下(1)〜(5)を満足することを特徴とする皮革様シートである。
(1)極細長繊維束が平均単繊維繊度0.5デシテックス以下の極細長繊維が5〜70本集束していること、
(2)極細繊維束の平均繊度が3デシテックス以下であること
(3)凹凸模様の凸部は0.5デシテックス以下の立毛繊維を有し、凹部は該立毛繊維が基体を構成する弾性ポリマーに固着されていること
(4)凹凸模様の凸部が凹部に周囲を囲まれ、個々の凸部分の平均面積が0.2〜25mmであること
(5)皮革様シートの20%強力が縦、横共に8kg/25mm以上であること
【0006】
さらに本発明は、皮革様シートを製造するに際し、以下(1)〜(7)の工程を行うことを特徴とする皮革様シートの製造方法である。
(1)平均単繊維繊度0.5デシテックス以下の極細長繊維を5〜70本集束した平均繊度3デシテックス以下の極細長繊維束を発生する極細繊維発生型長繊維からなるウェブを製造する工程
(2)該ウェブを2枚以上積層し、3次元絡合して見かけ密度0.3g/cm以上の不織布を製造する工程
(3)弾性ポリマーを不織布に付与する工程
(4)該極細繊維発生型長繊維を極細化する工程
(5)表面に該弾性体ポリマーと親和性のある溶剤を塗布する工程
(6)該弾性体ポリマーを塗布した表面を起毛し、表面に立毛繊維を形成する工程
(7)起毛した表面に凸部は0.5デシテックス以下の立毛繊維をそのまま存在させながら、凸部の周囲を囲む凹部の立毛繊維を該弾性ポリマーによって固着し、個々の凸部分の平均面積を0.2〜25mmとする凹凸模様を付与する工程
【発明の効果】
【0007】
本発明の皮革様シートは、凹部と凸部のコントラストが強調された凹凸感のある皮革様シートであって、曲面に沿わせて用いるような用途においても外観の凹凸感が損なわれず、高い意匠性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳述する。
本発明を構成する繊維に関しては長繊維であれば特に限定されるものではない。本発明の長繊維とは、紡糸で得られた連続繊維をカットする工程を通さずそのまま用いていることを意味しており、例えば後述する絡合時のニードルパンチや、皮革様シート表面のバフィングにより繊維が切れて一部短繊維化していてもよい。本発明の皮革様シートは長繊維かつ特定の繊維束を用いることで凹凸模様の保持性に優れる。
【0009】
本発明の皮革様シートを構成する繊維の平均単繊維繊度は0.5デシテックス以下であることが良好なハンドリング性、さらに天然皮革様の柔軟性や風合い、銀付き調外観の場合の表面のスムースさを得る点で重要であり、0.2デシテックス以下であることが好ましい。さらに、本発明の皮革様シートを構成している不織布は、前述の通り平均単繊維繊度0.5デシテックス以下の長繊維が5〜70本集束した平均繊度3デシテックス以下の繊維束であることが重要である。極細繊維の繊度が0.5デシテックスを超えると凸部の立毛部のタッチが荒くなる傾向があり、凹部の非立毛部の銀面(立毛繊維が基体を構成する弾性ポリマーにより固着された部分)もスムースさが低下するため好ましくない。下限は特に限定しないが、工程安定性の点で、0.00001デシテックス以上が好ましい。また極細繊維束の平均繊度は3デシテックスを超えると不織布の緻密性が得られ難いことから得られる皮革様シートが伸びやすくなる傾向があるため好ましくない。そして得られる皮革様シートの20%強力を縦、横ともに8kg/25mm以上とすることが困難となる。より好ましくは2デシテックス以下である。さらに、極細繊維束は5〜70本であることが好ましいが、5本未満では皮革様シートが伸びやすくなる傾向があり、70本より多くなると立毛部の発色が悪くなるため、品位が低下する傾向がある。
【0010】
このような極細長繊維からなる繊維束は公知の通り、相溶性を有しない2種以上のポリマーを混合して溶融して紡糸口金から吐出する混合紡糸方法や、該ポリマーを別々に溶融して溶融物を紡糸口金で合せて吐出する複合紡糸方法により海島型繊維を紡糸し、海成分を溶解または分解除去することによって得ることができる。そして長繊維からウェブ化するまでの工程を効率よく得るには紡糸口金から吐出された溶融ポリマーをエアージェットノズルの吸引装置により牽引細化させた後、開繊させながら移動式の捕集面上に堆積させて長繊維ウェブまたは長繊維ウェブの積層体を形成させるいわゆるスパンボンド法が好ましく用いられる。
本発明に用いる極細長繊維束の強度は、1g/デシテックス以上であることが好ましく、1.2g/デシテックス以上であることがより好ましい。1g/デシテックス以上とすることによって得られる皮革様シートが伸び難くなる。上記強度とするために紡糸口金から吐出された溶融ポリマーを2000〜5000m/分の糸速度で牽引細化させる。
なお、該繊維束の強力の測定は、実際に行う牽引細化速度に合せてロールに巻き取った紡糸繊維を用い、海成分を溶剤で除去した後の繊維束強力を測定する。
【0011】
本発明の極細繊維は、先述した海島型繊維の島成分に相当するが、これにはアクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどが用いられ、特にナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類等が好ましく用いられる。特に好ましくは、ナイロン6が用いられる。また海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリスチレンや共重合ポリエステル、熱可塑性ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0012】
このようにスパンボンド方式によって得られたウェブは、直接目的の目付けに相当するウェブをネット上に捕集することもできるが、それだけでは十分な伸び止め効果が得られないので、得られたウェブを重ねた後に得られる皮革様シートの不織布密度を0.15g/cm以上に調整するためにニードルパンチ処理や高圧水流などによりパンチ密度1000〜2000パンチ/cmの条件で3次元絡合し、見かけ密度0.3g/cm以上の不織布とする必要があり、目付け300〜2000g/m2の不織布とすることが好ましい。
なお、ウェブの目付けムラを小さくするために、例えば20〜50g/m程度のウェブを捕集し、それをクロスラップなどの方法により目的の目付けに重ね合わせる方法が好ましく用いられる。得られる絡合不織布には、必要に応じて加熱ロールによるプレスなどによって、表面の平滑化を行い、不織布の密度調整を行う。
【0013】
得られた不織布には、続いて弾性体ポリマーが含浸される。弾性体ポリマーを不織布内部に含浸する方法としては、弾性体ポリマーの有機溶液を含浸した後に湿式凝固させる方法や、エマルジョン液を含浸し、乾燥させる方法があるが、本発明の皮革様シートにおいては、凹凸柄を付与した際に凹部の毛羽を弾性体ポリマーに融着保持し固着する必要があるため、前者の方がより好ましい。
皮革様シートを構成する弾性体ポリマーとしては、特に限定されず、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの共重合体、シリコンゴム等が例示できるが、最も好ましく用いられるのは、良好な風合が得られる点でポリウレタンである。ポリウレタンが最も好んで用いられることは皮革様シート業界ではすでに常識となっており、その用途によってソフトセグメントをポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系の中から1種類または複数種類選択してポリウレタンを構成させる。
本発明の適度な伸び難さを有する皮革様シートを得やすい点で、特に弾性ポリマーが、極細長繊維束を連続して覆うように接触していることが好ましい。弾性ポリマーが繊維束に連続して接着しないことから不織布の伸びを強く制限せず、また非連続に接触していないことで、適度な伸び難さを有する。弾性ポリマーが極細長繊維束に連続して覆うように接触するためには、極細繊維発生型繊維からなる不織布の内部に弾性ポリマーを湿式凝固方法にて付与し、その後極細繊維化処理を行うことが好ましい。
また弾性体ポリマーには、必要に応じて、顔料、染料、凝固調節剤、安定剤などを添加してもよく、さらに2種以上のポリマーを併用してもかまわない。
【0014】
弾性体ポリマーが付与された不織布は、その後不織布を構成する繊維の海成分を除去して極細繊維を発生させ、本発明の皮革様シートを得る。もちろん、極細繊維発生型繊維の極細化は、弾性体ポリマーを付与する前に行ってもよい。なお、本発明の極細繊維発生型繊維の極細化する工程は、特に限定することは無く、公知の方法を採用される。
本発明の皮革様シートは、前述の平均単繊維繊度0.5デシテックス以下の長繊維が5〜70本集束した平均繊度3デシテックス以下の繊維束からなる極細繊維不織布であって、更に該極細繊維不織布密度が0.15g/cm以上であることが好ましく、0.16g/cm以上であることがより好ましい。上限は皮革様の柔軟な風合いが得られることから0.4cm以下であることが好ましく、0.3g/cm以下がより好ましい。極細繊維不織布密度が0.15g/cm未満の場合、得られる皮革様シートが伸びやすくなる。従って、得られる皮革様シートの20%強力を縦、横ともに8kg/25mm以上とするためには上記極細繊維束を用いた不織布とすることが好ましい。
【0015】
皮革様シートを構成する基体の極細繊維と弾性ポリマーとの質量比は、風合いの観点から好ましくは40/60〜95/5の範囲内であり、さらに好ましくは、極細長繊維束を連続して覆うように接触しやすい点で50/50〜80/20の範囲内である。極細繊維の比率を40以上とすることで、ゴムライクな風合いを避けることができる。極細繊維の比率を95以下とすることで、ペーパーライクな風合いを避けることができる。さらに弾性ポリマーの比率を5以上とすることで、本発明の凹凸模様を有する皮革様シートの凹部において、弾性ポリマーによる繊維の把持効果が得られ凹凸模様の伸びによる凹凸感の保持性に優れる点で好ましい。また、皮革様シートの厚みとしては、0.3〜2.0mmが天然皮革調の風合いのものが得られやすいことから、本発明では好ましく用いられる。
【0016】
次に、得られた基体の表面に、基体を構成する弾性体ポリマーと親和性のある溶剤を塗布することが均一な立毛を形成することが可能な点、また凹凸模様を付与する際に凹部の立毛繊維を弾性ポリマーで固着しやすい点で好ましい。ここで弾性ポリマーと親和性のある溶剤とは、弾性ポリマーを溶解、または膨潤させる溶剤であり、このような溶剤として、例えば、弾性ポリマーがポリウレタンである場合、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンなどの単独溶剤、またはそれら2種以上の混合溶剤などが挙げられる。
【0017】
該溶剤の塗布量は、基体層の種類によって異なるが、基体表面に弾性体ポリマーによる薄い被膜を形成し得る量が好ましく、一般には、50g/m以下、特に5〜35g/mの範囲が好ましい。塗布量を5%以上とすることで基体表面の繊維の仮固定が十分となり、起毛処理時に立毛長の制御が容易となり表面の立毛長が均一になり、また凸部表面のタッチ感に優れる。また立毛繊維の脱落を防止することが可能となる。塗布量を50g/m未満とすることで、表面の風合いを固くすることなく、後工程での凹凸模様が付与し易い。基体層表面に塗布する方法は、グラビアコート法、ナイフコート法、スプレー法、その他の転写法など、上記の塗布量で塗布できるような公知の方法であれば何れも採用できるが、塗布量の均一性や連続処理の安定性などの点から、グラビアコート法が最も好ましい方法である。
【0018】
次に、基体層の表面をサンドペーパーまたは布帛でバフィングして起毛処理を行い、基体の表面に極細繊維からなる起毛(立毛)面を形成する。繊維立毛は、均一で、スエード調のライティング効果のある、優美な皮革様の外観のものが好ましい。例えば、240番以上の番手の目の細かいサンドペーパーを使用することにより、このようなスエード調の外観を有する立毛面を得ることができる。基体を構成する繊維が極細繊維の場合には、バフィング処理時のサンドペーパーの接触圧力を小さくして回転速度をより高速にする、あるいは、サンドペーパーの目をさらに細かくするなど、処理条件を適宜設定することにより、極細繊維立毛面(起毛面)の形成は達成できる。
【0019】
次に、起毛面に加熱された凹凸面をプレスすることにより、表面に特定の凹凸模様を形成させる必要がある。すなわち、起毛した表面に凸部は0.5デシテックス以下の立毛繊維をそのまま存在させながら、凸部の周囲を囲む凹部の立毛繊維を該弾性ポリマーによって固着し、個々の凸部分の平均面積を0.2〜25mmとする凹凸模様を付与する必要がある。凸部に該立毛繊維を有し凹部は該立毛繊維が基体を構成する弾性ポリマーに固着されることで表面タッチと凹凸感のコントラストが強調される。そして凸部分の平均面積が0.2〜25mmである凹凸模様を有することで外観と表面タッチに優れる。凸部分の平均面積が0.2mm未満あるいは25mmを越える場合であればコントラストに優れた外観を得ることが難しい。凹凸模様の凸部分の平均面積が0.5〜20mmであることが好ましく、また1〜10mmはであることがコントラストと表面タッチ感に優れる点でより好ましい。
なお、ここで言う凸部とは、凹部に囲まれ、かつ立毛繊維が存在している部分をいう。
使用する凹凸面としては、表面に凹凸模様を有し、かつ加熱することができれば、平板状、ロール状などの形状のものがいずれも使用できるが、連続生産性や処理の安定性の点で、表面に凹凸模様を有するエンボスロールを使用する方法が、好ましい方法として挙げられる。また、表面に凹凸模様を有するエンボスロールの中でも、高級感のある表面タッチ、風合いが得られる点において、エンボスロールの凹部分のサイズが、縦横0.5〜5.0mmの範囲にあるような、シュリンク調の柄を有するものが好ましく、凸部は0.5デシテックス以下の立毛繊維をそのまま存在させながら、凸部の周囲を囲む凹部の立毛繊維を該弾性ポリマーによって固着させやすい点で、凹凸面の凹部が起毛面に接触し難い形状が好ましい。
【0020】
上記方法によって表面に形成された凹部は、立毛繊維を毛羽伏せして基体を構成する弾性体ポリマーに固着された非立毛部分であり、凸部は立毛を有しかつ凹部に周囲を囲まれた柄であって、形成された凹凸模様の凹部が、屈曲状および/または分岐状に連続している溝形状であることが、高級感のある天然皮革様の外観、折れシボ、表面のタッチが得られるという優れた効果を示す点で好ましい。そして上記凹凸模様の凹部形状の中でも、天然皮革のシュリンク(皺)模様に類似していることが特に好ましく、凹部の溝で形成される凸部の大きさ及び形状は隣り合う凸部と異なること、すなわち凹凸模様が不均一なものであることがより好ましい。凹部の溝は、特定方向に伸びる一定幅の溝で、かつ隣り合う凹部溝と一定間隔をおいて交差して存在する場合、すなわち凸部の大きさや形状が一定である場合には、本発明が目的とするシュリンク模様は得られない。すなわち、本発明において、凹部を構成する溝は、不規則に伸びる溝で、かつ隣り合う溝同士が不規則な間隔で交差することで凹凸模様を形成して皮革様シート表面に存在しているのが好ましい。
【0021】
得られた皮革様シートは、さらに、柔軟処理、もみ処理、染色処理等を加えることによりさらに風合い、凹凸模様のコントラストおよび立体感ある色調が向上し、皮革様シートとして優れた風合いとすることができる。
【0022】
このようにして得られる本発明の皮革様シートは、20%強力が縦、横ともに8kg/25mm以上であることが必須である。8kg/25mm未満の場合、ソファーや靴等の曲面部に張り込んだときに伸ばされ、凹凸差が小さくなるあるいは凹凸模様が崩れやすい。20%強力を8kg/25mm以上とするためには、上記した極細長繊維不織布を用いることで達成することができる。そして得られる皮革様シートは、ソファーなどのインテリアや靴など、曲面部に張って用いられる用途に特に好ましく用いることができる。
【0023】
実施例
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0024】
[極細繊維の平均単繊維繊度と収束本数および極細繊維束の繊度]
皮革様シートの厚さ方向と並行な任意の断面を走査型電子顕微鏡(100〜300倍程度)で観察した。観察視野から断面に対してほぼ垂直に配向した極細繊維束を20個、万遍なく、かつ、無作為に選び出した。次いで選び出した個々の極細繊維束の断面を1000〜3000倍程度の倍率に拡大して、極細繊維の断面積の平均値と極細繊維を構成する成分の比重から平均単繊維繊度を求めた。また極細繊維束における集束本数を求めた。
また、選び出した20個の極細繊維束について、前記の方法により測定した極細繊維の断面積および集束本数から極細繊維束の断面積を計算により求めた。最大の断面積および最小の断面積を削除し、残った18個の断面積を算術平均し極細繊維を構成する成分の比重から極細繊維束の平均繊度を求めた。
[極細繊維束の強力]
実施例にて紡糸する際の空気流速度と同速度でボビンに巻き取った海島型繊維の束を用いて繊度を測定し、極細繊維の繊度は海成分と島成分の仕込み質量比率から求めた。海島型繊維の海成分を可溶化する溶剤に浸漬して軽く絞ることを繰り返すことによって極細繊維束としたのち、引張り試験機でチャック間距離6cm、引張り速度10cm/分で引張り、破断応力を繊度で割って求めた。
[極細繊維不織布密度]
皮革様シートの密度を求めた後、弾性体ポリマーを除去し、極細繊維不織布と弾性体ポリマーの割合から求めた。
[20%強力]
JIS L−1096の6.12に則り、皮革様シートの試料を引張り強度試験機を用いて測定した。そして試料が20%伸張したときの応力を求めた。
[凸部の平均面積]
皮革様シートの表面を走査型電子顕微鏡(80〜200倍程度)で観察し。凹部に囲まれた凸部において極細繊維立毛から形成されている部分を10箇所任意に選び画像処理してそれらの平均面積を求めた。
【0025】
[凹凸柄の保持性]
縦方向、横方向共に長さ20cm、巾25mmの短冊状に切断したシートの片方に5kgの荷重を掛けてぶら下げたときの凹凸柄の変化を評価した。
良好:凹凸柄に変化なし。変化有り:凹凸柄に若干の変化が認められる。不良:凹凸柄が崩れた状態。
【0026】
製造例1
ナイロン−6とポリエチレンをそれぞれ1軸押し出し機中で溶融し、紡糸ノズルの中で25島の海島型にブレンドし、質量比で50:50の海島型繊維を紡糸した。海島型繊維の口金から吐出される繊維を3500m/分の空気流で捕集ネットに吹きつけて長繊維ウェブを得た。得られたウェブは30g/mの目付けであり、海島型繊維1本当たりの繊度は2デシテックスであった。その後クロスラッピングにより目付けを420g/mとし、1500パンチ/cmのニードルパンチを経、見かけ密度0.32g/cmの不織布を熱プレスし、目付け470g/m、厚み1.4mmの海島型長繊維からなる不織布を得た。さらに不織布にポリ3メチルペンタンアジペート/ポリエチレングリコール共重合系ポリウレタンのジメチルホルムアミド(DMF)溶液を含浸し、水中で湿式凝固させた後、繊維の海成分であるポリエチレンを95℃のトルエンで抽出除去した。得られた基体シートは、目付392g/m、厚み1.2mm、ポリウレタンと繊維の比率が40/60であった。
【0027】
製造例2
ナイロン−6とポリエチレンをそれぞれ1軸押し出し機中で溶融し、紡糸ノズルの中で25島の海島型にブレンドし、質量比で50:50の海島型繊維を紡糸した。海島型繊維の口金から吐出される繊維を800m/分で巻き取った後、延伸、捲縮、カットして4デシテックス、51mmの短繊維ステープルを作成した。その後、ウエーバーでクロスラップし、1000パンチ/cmのニードルパンチを経た後に熱プレスし、目付け490g/m、厚み1.4mmの海島型繊維からなる不織布を得た。さらに不織布にポリ3メチルペンタンアジペート/ポリエチレングリコール共重合系ポリウレタンのDMF溶液を含浸し、水中で湿式凝固させた後、繊維の海成分であるポリエチレンを95℃のトルエンで抽出除去した。得られた基体シートは、目付401g/m、厚み1.2mm、ポリウレタンと繊維の比率が40/60であった。
【実施例1】
【0028】
製造例1で得られた皮革様シートの一面に、200メッシュのグラビアロールを使用して、DMFとシクロヘキサノンの50:50混合溶剤を18g/m塗布し、乾燥した。この混合溶剤塗布面を粒度400番のサンドペーパーでバフィングによって起毛処理を行い、表面の極細繊維を起毛して、極細繊維立毛が形成された皮革様シート1を得た。
【0029】
次いで、凹部分のサイズが0.7〜9mmであり、かつ不均一に分布しており、凸部分が分岐状に連続した、シュリンク模様のエンボスロールを用い、エンボスロール表面の温度をポリウレタンの軟化温度以上に加熱して、立毛面に型押し処理を施すことにより、基体表面に凸部分の平均面積が5mmであって、凹部分に周囲を囲まれ、凹部分が分岐状に連続して、立毛繊維を毛羽伏せし、さらに基体を構成する弾性ポリマーによって熱個着され、かつ各凸部は隣り合う凸部と大きさ及び形状が異なっている凹凸模様を有するシートを得た。次に、得られたシートをウインス染色機で濃い茶色の含金染料を用い、90℃の温水中で60分間染色し、乾燥した。
【0030】
得られた皮革様シートの表面に形成された凹部は、極細繊維立毛を毛羽伏せして基体を構成する弾性体ポリマーによって固着された部分を有する非立毛部分であり、凸部は極細繊維立毛を有し、かつ凹部に周囲を囲まれた柄であって、個々の凸部分の平均面積が5mmの大きさであった。また凹部の溝で形成される各凸部の大きさ及び形状は隣り合う凸部と異なっており、規則性のない模様であった。そして凸部はライティング効果および優れた表面タッチを有し、表面の凹凸模様には立体感と高級感のあるシュリンク調の外観と柔軟な風合いを兼ね備えたものであった。
得られた皮革様シートは平均単繊維繊度0.04デシテックスの極細繊維が25本の束で繊度1デシテックス繊維束の強力が1.6g/デシテックスの極細繊維束からなる極細長繊維不織布であり、該極細長繊維不織布の見かけ密度は0.19g/cmであった。また皮革様シートの20%強力は、縦10.5kg/25mm、横9.8kg/25mmであり、凹凸の保持性も良好であった。
【0031】
比較例1
製造例3で得られた皮革様シートを用いた以外は、実施例1と同様の方法で繊維質シートを得、次いでエンボス、染色を経て皮革様シートを得た。得られた皮革様シートの表面は、実施例1と同様の凹凸があるシュリンク調の外観であった。
また、得られた皮革様シートは平均単繊維繊度0.08デシテックスの極細繊維が25本の束で繊度2デシテックスの極細繊維束からなる極細短繊維不織布であり、該極細短繊維不織布の見かけ密度は0.18g/cmであった。また皮革様シートの20%強力は、縦2.5kg/25mm、横0.8kg/25mmであり、皮革様シートの凹凸柄の保持性に関して、凹凸柄が崩れた状態となり不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細長繊維束からなる不織布とその内部に付与された弾性ポリマーからなる基体の表面に形成された凹凸模様を有する皮革様シートにおいて、以下(1)〜(5)を満足することを特徴とする皮革様シート。
(1)極細長繊維束が平均単繊維繊度0.5デシテックス以下の極細長繊維が5〜70本集束していること
(2)極細繊維束の平均繊度が3デシテックス以下であること
(3)凹凸模様の凸部は0.5デシテックス以下の立毛繊維を有し、凹部は該立毛繊維が基体を構成する弾性ポリマーに固着されていること
(4)凹凸模様の凸部が凹部に周囲を囲まれ、個々の凸部分の平均面積が0.2〜25mmであること
(5)皮革様シートの20%強力が縦、横共に8kg/25mm以上であること
【請求項2】
凹部が、屈曲状および/または分岐状に連続している溝形状である請求項1記載の皮革様シート。
【請求項3】
弾性ポリマーが極細長繊維束に連続して覆うように接触している請求項1または2に記載の皮革様シート。
【請求項4】
皮革様シートを製造するに際し、以下(1)〜(7)の工程を行うことを特徴とする皮革様シートの製造方法。
(1)平均単繊維繊度0.5デシテックス以下の極細長繊維を5〜70本集束した平均繊度3デシテックス以下の極細長繊維束を発生する極細繊維発生型長繊維からなるウェブを製造する工程
(2)該ウェブを2枚以上積層し、3次元絡合して見かけ密度0.3g/cm以上の不織布を製造する工程
(3)弾性ポリマーを不織布に付与する工程
(4)該極細繊維発生型長繊維を極細化する工程
(5)表面に該弾性体ポリマーと親和性のある溶剤を塗布する工程
(6)該弾性体ポリマーを塗布した表面を起毛し、表面に立毛繊維を形成する工程
(7)起毛した表面に凸部は0.5デシテックス以下の立毛繊維をそのまま存在させながら、凸部の周囲を囲む凹部の立毛繊維を該弾性ポリマーによって固着し、個々の凸部分の平均面積を0.2〜25mmとする凹凸模様を付与する工程

【公開番号】特開2009−1945(P2009−1945A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166325(P2007−166325)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】