皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法および皿ばねまたは波形ばね
【課題】皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法を改良して相応な製品のスタティックおよびダイナミックな負荷性能を有効に高める方法を提供する、もしくは皿ばねまたは波形ばねを改良して相応に高められたスタティックおよびダイナミックな負荷性能を有する形式のものを提供する。
【解決手段】皿ばねまたは波形ばねの、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される表面領域をボールまたはドラムで転がり圧縮するようにするかまたは少なくとも弾性変形させられたばねの前記表面領域に引張応力を負荷し、該表面領域をショットピーニングにより圧縮するようにした。さらに圧縮残留応力の最大値が転がり圧縮された表面領域の表面層において少なくとも850MPaであるか、または圧縮残留応力の最大値が変形させられたばねの場合、ショットピーニングにより処理された表面領域の表面層において少なくとも850MPaであるようにした。
【解決手段】皿ばねまたは波形ばねの、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される表面領域をボールまたはドラムで転がり圧縮するようにするかまたは少なくとも弾性変形させられたばねの前記表面領域に引張応力を負荷し、該表面領域をショットピーニングにより圧縮するようにした。さらに圧縮残留応力の最大値が転がり圧縮された表面領域の表面層において少なくとも850MPaであるか、または圧縮残留応力の最大値が変形させられたばねの場合、ショットピーニングにより処理された表面領域の表面層において少なくとも850MPaであるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法であって、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法に関する。さらに本発明は、皿ばねまたは波形ばねであって、皿ばねまたは波形ばねの、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えている形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
ここでいう表面層とは、完成した構成部材に形成されている圧縮残留応力を有する、表面から出発する深さ領域のことである。表面層における圧縮残留応力により、表面に現れる亀裂形成と亀裂増大とが防がれる。これにより構成部材の持久耐性は高められる。
【0003】
前記皿ばねまたは波形ばねは、閉じた円環状の形状を有している。この場合、皿ばねまたは波形ばねは、ほぼ均一の材料肉厚を有している。
【0004】
皿ばねは、極めて短い構成長さの場合には一般的に逓減特性曲線を有している。皿ばねは、僅かなばね撓みの際に既に高いばね力をもたらす。皿ばねは、一致するかまたは変化する円錐状態を有するばね柱として頻繁に使用されるが、単体エレメントとしても使用される。皿ばねの内側縁部および/または外側縁部は、スリットを有しているか、または歯を有していることがある。
【0005】
波形ばねはたいてい平面に対して相対的に波付けされたばねエレメントであるか、または円錐面に対して相対的に波付けされたばねエレメントである。このばねエレメントは線形または非線形に延びる特性曲線を有している。波形ばねは自動変速機の多板クラッチにおける緩衝ばねとして頻繁に使用される。
【0006】
この種の両ばねは、使用事例ではスタティックでありながらも、たいていダイナミックに負荷される。
【0007】
皿ばねと波形ばねとの製造は、僅かな肉厚しか備えていないばねの場合には、冷間圧延された平坦帯状部材から成るばね鋼片を打抜き加工することにより行われる。このことは標準打抜き加工により行われるか、または品質のより良い断面縁部を得るために精密打抜き加工により行われる。ばね鋼片の打抜き加工後に、一般的には標準打抜き加工もしくは精密打抜き加工時に発生するまくれは仕上げ研削により除去される。
【0008】
これに続いて、ばね鋼片の変形が、熱間変形または冷間変形により行われる。ばね特性を得るために、ばね鋼片は続いて焼入れ・焼戻しされる。焼入れ・焼戻しプロセス後のショットピーニングにより、圧縮残留応力を表面層を形成することができ、これにより、ダイナミックな負荷に対する皿ばねまたは波形ばねの寿命を改善することができる。
【0009】
皿ばねまたは波形ばねを負荷する場合、圧縮残留応力は、ばねリングの周面方向で作用する引張応力により低減されるかまたは抑えられる。
【0010】
皿ばねと波形ばねとは、機械工学およびテロテクノロジにおいて使用される場面は多い。幅広い使用範囲が、特に自動変速機の多板クラッチにもたらされる。
【0011】
負荷時の高い引張応力に基づき、高い力が加えられ、組付け室が制限されている場合、皿ばねと波形ばねとの寿命に対する要求は、スタティックまたはダイナミックな負荷を考慮すると全て満たすことはしばしばできない。このことは特に、圧縮残留応力がショットピーニング法により、緊締されていない状態にある皿ばねの引張応力を負荷された表面領域の表面層に形成された場合にも当てはまる。
【0012】
従って、個々の皿ばねと波形ばねへの負荷を低く保ち、ひいては所要の負荷振動数を達成するために、皿ばねと波形ばねとを多重に配置して使用することが多々必要となる。
【0013】
このことに、皿ばねまたは波形ばねの個数の増大と、組付けスペースの全体的な拡大とが結び付く。皿ばねまたは波形ばねの個数の増大は、より高いコストを余儀なくし、同時に、不可欠なより大きな組付けスペースのため、より高い装置コストが結果としてもたらされる。
【0014】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10334470号明細書に記載されている皿ばねは、負荷時に引張応力によって負荷される表面領域が、ショットピーニングまたは熱間処理により、表面層に高められた圧縮残留応力を備えている。
【0015】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第4444649号明細書からは、帯状材料から打抜き加工され、その後、焼入れされて曲げ加工され、その後、焼戻しされてショットピーニングされ、続いてさらにいわゆる硬化が行われる皿ばねが公知である。この場合、ショットピーニングに関して、皿ばねの力経路特性に有利に影響を与えるために、ばね上側とばね下側とにおけるピーニングパラメータを種々異なるように選択することが提案される。
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10334470号明細書
【特許文献2】ドイツ連邦共和国特許出願公開第4444649号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の課題は、冒頭で述べた形式の皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法を改良して、相応な製品のスタティックおよびダイナミックな負荷性能を有効に高めることができる方法を提供するか、もしくは皿ばねまたは波形ばねを改良して、相応に高められたスタティックおよびダイナミックな負荷性能を有する形式のものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この課題を解決するために本発明の方法では、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域を、ボールまたはドラムで転がり圧縮するようにするか、または少なくとも弾性変形させられたばねの前記表面領域を引張応力によって負荷して、ショットピーニングにより圧縮するようにした。さらに、この課題を解決するために本発明の構成では、圧縮残留応力の最大値が、転がり圧縮された表面領域の表面層において、少なくとも850MPaであるか、または圧縮残留応力の最大値が、変形させられたばねの場合、ショットピーニングにより処理された表面領域の表面層において、少なくとも850MPaであるようにした。
【発明の効果】
【0018】
この課題を解決した本発明による方法によれば、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法において、前記表面領域を、ボールまたはドラムで転がり圧縮する。特に、前記表面領域を、ばねの軸線を中心としたボールまたはドラムの円運動において、ばねに対して相対的に転がり圧縮をするようにした。特に有利な実施態様によれば、引張応力を前記表面領域に強制付与している間に、前記表面領域を転がり圧縮する。
【0019】
さらにこの課題を解決した本発明による方法によれば、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法において、前記表面領域を、弾性変形させられたばねの場合、引張応力によって負荷して、ショットピーニングにより圧縮する。
【0020】
圧縮という概念を使用する限りは、圧縮は応力状態の一定の変化を明瞭に表すことが望まれる。ただ正確に言えば、記載の方法においては、弾性変形、必要な場合には塑性変形が、材料の体積不変性下で行われる。
【0021】
記載の実施態様によれば、一つには、従来のショットピーニングよりも高い圧縮残留応力が形成される。記載の実施態様によれば、もう一つには、圧縮残留応力の最大値を表面層のより深い領域に移すという可能性も与えられる。これによって、異物または材料の欠陥個所が存在し得る場合でも、スタティックおよびダイナミックに負荷されるばねの寿命値が高められる。
【0022】
この場合、特に、前記表面領域が、少なくとも弾性変形可能なばね、特に平坦な状態になるように押圧されているばねの場合には、転がり圧縮されるか、またはショットピーニングにより圧縮されることが提案される。しかし、平坦状態への押圧とは異なる、比較的僅かな変形、または皿ばねの場合、平坦状態を越える比較的激しい変形が可能であるか、または圧縮された領域におけるそれぞれ局地的な変形だけが可能でもある。圧縮中の一時的な変形は降伏点を超えることもできるので、前記表面領域は塑性変形される。
【0023】
この実施態様によれば、表面層における圧縮残留応力に対する最大値も、表面層における圧縮残留応力の相応な最大値の深部位置も、後に詳しく説明するように有効に高められる。
【0024】
圧縮残留応力に対する値の改善の他に、特別な利点は、処理される表面領域の平滑化が同時に得られるということにある。これにより、表面から出発する亀裂形成の恐れが減じられる。
【0025】
固定ドラムもしくは固定ローラ(圧縮ドラムもしくは圧縮ローラ)により処理されない表面が、表面の部分領域に限定される限りは、残余領域を公知のショットピーニングにより圧縮することは有利である。この場合、有利には、ローラ圧縮による既述の平滑化作用を、皿ばねまたは波形ばねの極めて負荷されている領域に維持したままにするために、表面圧縮をショットピーニング法によりまず行う。
【0026】
ショットピーニングによる圧縮が、平坦な状態になるように押圧されたばねの場合、表面の部分領域に限定される限りは、緊締されていない状態のばねでは、残余領域をショットピーニングにより圧縮することは有利である。この場合、有利には、全表面の表面圧縮が、緊締されていない状態のばねでまず行われる。
【0027】
転がり圧縮および/またはショットピーニングによる圧縮は、固定ドラムもしくは固定ローラおよび/またはショットピーニングの成果が、後続の熱処理により部分的に再び損なわれないように、有利には、ばねの焼入れ・焼戻し後に行われる。
【0028】
有利な実施態様によれば、転がり圧縮は、ばねが180℃以上、特に約200℃の温度に高められた場合に行われ、ショットピーニングによる圧縮は、変形させられたばねにおいては、ばねが150〜約250℃、特に約200℃に高められた場合に行われる。従って、圧縮残留応力の最大値は、表面下のより深い深部に移動する。
【0029】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法は、有利には、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域を、ばねの軸線を中心としたボールまたはドラムの円運動において、ばねに対して相対的に転がり圧縮する。
【0030】
本発明に係る方法は、有利には、引張応力を前記表面領域に強制付与している間に、前記表面領域を転がり圧縮する。
【0031】
本発明に係る方法は、有利には、転がり圧縮を、ばねの温度を少なくとも180℃に高めて行う。
【0032】
本発明に係る方法は、有利には、転がり圧縮を、ショットピーニングによる事前の圧縮の後に行う。
【0033】
本発明に係る方法は、有利には、ばねの全表面を、ショットピーニングにより圧縮し、ばねの部分表面を、転がり圧縮によって圧縮する。
【0034】
本発明に係る方法は、有利には、表面領域をショットピーニングにより圧縮している間に、前記表面領域において降伏点を超過する。
【0035】
本発明に係る方法は、有利には、ショットピーニングによる圧縮を、ばねの温度を150〜250℃に高めて行う。
【0036】
本発明に係る方法は、有利には、ばねの全表面を、ショットピーニングによって圧縮し、変形させられたばねの場合には、ばねの部分表面を、ショットピーニングにより圧縮する。
【0037】
本発明に係る方法は、有利には、前記表面領域を、少なくとも弾性変形させられたばね、特に平坦な状態になるように押圧されたばねの場合、転がり圧縮するかまたはショットピーニングにより圧縮する。
【0038】
本発明に係る方法は、有利には、転がり圧縮および/またはショットピーニングによる圧縮を、ばねの焼入れ・焼戻し後に行う。
【0039】
さらに本発明は、皿ばねまたは波形ばねを含んでいて、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えていて、転がり圧縮された表面領域の表面層における圧縮残留応力の最大値が、少なくとも850MPaであり、当該皿ばねまたは波形ばねを、特に既述の方法により製造することができる。この場合、有利な構成では、前記表面領域の表面層における圧縮残留応力が、200μmの深部で、少なくとも500MPaであるようになっている。
【0040】
その他に本発明は、皿ばねまたは波形ばねであって、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えていて、変形させられたばねにおいて、ショットピーニングにより処理された表面領域の表面層における圧縮残留応力の最大値が、少なくとも850MPaである形式のものを含む。この場合、有利な構成では、変形させられたばねにおいて、ショットピーニングにより形成された表面領域の表面層における圧縮残留応力は、100μmの深部においては少なくとも750MPaである。
【0041】
圧縮残留応力による品質改善が、特に、負荷時に引張応力によって負荷される表面領域を対象としなければならないという自体公知の実状から出発して、特に、少なくとも1つの内側のリング縁部と、少なくとも1つの外側のリング縁部とが、圧縮残留応力を表面層に備えているか、または皿ばねにおいて、内側円錐状の下側の少なくとも1つの縁領域が、圧縮残留応力を表面層に備えているか、もしくは波形ばねにおいて、波付けされた上側の表面と下側の表面との少なくとも1つの縁領域が、それぞれ圧縮残留応力を表面層に備えていることが提案されている。この場合、皿ばねの内側縁部がスリットを有するか、もしくは歯を有する、および/または皿ばねの外側縁部がスリットを有するか、もしくは歯を有するように形成されていてよい。波形ばねでは、波形ばねの波状部材が、皿状部材、つまり円錐形部材によってオーバーラップされていてよい。さらに、種々異なる大きさおよび高さの最小値と最大値とが連続して存在するように、波状部材を周面にわたって変えることもできる。
【0042】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、転がり圧縮された表面領域の表面層における圧縮残留応力が、200μmの深部において少なくとも500MPa、特に少なくとも700MPa、有利には1000MPaである。
【0043】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによって処理された表面領域の表面層における圧縮残留応力が、100μmの深部において少なくとも750MPa、特に少なくとも850MPaである。
【0044】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、少なくとも1つの内側のリング縁部と、少なくとも1つの外側のリング縁部とが、転がり圧縮により形成された、または特に変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによる圧縮により形成された圧縮残留応力を表面層に備えている。
【0045】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、内側円錐状の下側の少なくとも1つの縁領域が、転がり圧縮により形成された、または特に変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによる圧縮により形成された圧縮残留応力を表面層に備えている。
【0046】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、波付けされた上側の表面と下側の表面との少なくとも1つの縁領域が、それぞれ転がり圧縮により形成された圧縮残留応力を表面層に備えているか、または特に変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによる圧縮により形成された圧縮残留応力を表面層に備えている。
【0047】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、皿ばねの内側縁部および/または皿ばねの外側縁部が、スリットもしくは歯を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面につき詳しく説明する。
【0049】
まず以下に、図1〜図5を一緒に説明する。それぞれに皿ばね111を3Dで示してあり、ここでは前方に位置する部分領域を切除してある。皿ばねは全体的に完全な円リングである。この皿状部材は、互いに平行な上側と下側との円錐状の開口部の先端が、ばねリングの下方に位置するようになっている。ここでは、上方に位置する面を下側12と呼称し、下方に位置する面を上側13と呼称する。さらに、内側のリング縁部14と外側のリング縁辺部15とは区別される。横断面で見て、皿ばね111は方形であり、つまり皿ばね111は、ほぼ均一の肉厚の金属薄板、つまり薄板から成る。転がり圧縮の対象となる表面領域は、グレー面として示されている。図1〜図5には、転動工具31がそれぞれ種々異なる位置で示されている。この場合、これらの種々異なる位置は、種々異なる表面領域の転がり圧縮を象徴している。工具31は工具保持部(図示せず)内で緊締されている。この工具保持部は数値制御することができ、特に3つの軸線を中心にして運動することができる。工具31はボールホルダ32を有していて、このボールホルダ32は、工具31に対して移動可能にハイドロスタティックに支持されている。ボールホルダ32の前方の端部は、たとえば硬質セラミックスから成るボール33を自由回転可能に支持している。図示されていない手段によって、皿ばね111を張設することができ、皿ばねの表面にわたって工具31が送られる際、皿ばね111をその軸線を中心にして回転駆動することができる。この場合、ボール33の接触圧が形成され、この接触圧は表面を塑性変形させ、この際に圧縮残留応力を表面層に形成する。固定ドラムに把持される表面を、それぞれ図では濃く示した。この場合、明瞭にすべく、工具31を処理される表面の所定の位置にそれぞれ示した。
【0050】
こうして、図1では、下側12と、内側のリング縁部14と、外側のリング縁部15とが転がり圧縮される。
【0051】
こうして、図2では、下側12と、外側のリング縁部15とが転がり圧縮される。
【0052】
こうして、図3では、下側12と、内側のリング縁部14とが転がり圧縮される。
【0053】
こうして、図4では、外側のリング縁部15と、このリング縁部15に続いている下側12の狭幅の縁領域17とが転がり圧縮される。
【0054】
こうして、図5では、内側のリング縁部14と、このリング縁部14に続いている下側12の狭幅の縁領域16とが転がり圧縮される。
【0055】
まず図6および図7を一緒に説明する。図1〜図5と同様の表示形式で皿ばね112を示した。しかしこの場合、皿ばね112は内側にスリットを有しているので、平坦な外側のリング縁部15は前記同様に設けられているが、内面では台形のスリット182と台形の舌片192とが、内側のリング縁部142の経過を規定している。舌片192は、表面層圧縮の対象にはならない。
【0056】
図6では、転がり圧縮が、下側12と、外側に位置するリング縁部15とに対して行われる。
【0057】
図7では、転がり圧縮部が、上側のリング縁部15と、このリング縁部15に続いている下側12の縁領域17とに対して行われる。
【0058】
図8では、皿ばね113が図1〜図5と根本的に同じように示してある。しかしこの場合、皿ばね113は外側にスリットを有しているので、全周にわたって延びている内側のリング縁部14だけが存在し、外側のリング縁部153は台形のスリット183と舌片193とによって規定される。転がり圧縮は、舌片193に対しては行われない。その代わりに、皿ばね113の下側12と内側のリング縁部14とが転がり圧縮の対象となる。
【0059】
まず図9〜図11を一緒に説明する。それぞれに波形ばね21を3Dで示してあり、ここでは前方に位置する部分領域を切除してある。波形ばねは全体的に完全な円リングである。波形ばねは周面にわたって規定通りに波形延在を有している。この場合、波形ばね21からは、互いに平行な上側と下側とを見て取ることができる。詳しくは、下側22と、上側23と、内側のリング縁部14と、外側のリング縁部15とが示されている。横断面で見て、波形ばね21は方形であり、つまりこの波形ばね21はほぼ均一の肉厚の薄板から成る。波形ばね21の皿状部材を見て取ることができないが、皿状部材は補足的な構成基準である波形部材にさらに付加することができる。工具31は工具保持部(図示せず)内で緊締される。この工具保持部は数値制御することができ、特に3つの軸線を中心にして運動することができる。工具31はボールホルダ32を有していて、このボールホルダ32は工具31に対して移動可能にハイドロスタティックに支持されている。ボールホルダ32の前方の端部は、たとえば硬質セラミックスから成るボール33を自由回転可能に支持している。図示されていない手段によって、波形ばね21を張設することができ、皿ばねの表面にわたって工具31が送られる場合には、皿ばねをその軸線を中心にして回転駆動することができる。この場合、ボール33の接触圧が形成される。この接触圧は表面を塑性変形させ、その際に圧縮残留応力を表面層に形成する。この場合、固定ドラムによって把持される表面は、それぞれ図には濃く示した。明瞭にすべく、工具31を処理される表面の所定位置でそれぞれ示した。
【0060】
図9では、下側22と上側23が転がり圧縮の対象となる。
【0061】
図10では、下側22と、上側23と、内側のリング縁部14と、外側のリング縁部15とが、転がり圧縮の対象となる。
【0062】
図11では、内側のリング縁部14と、下側22もしくは上側23に設けられている、内側のリング縁部14に続いているそれぞれ制限された2つの縁領域162,163とが、転がり圧縮の対象となる。
【0063】
以下に、図12および図13を一緒に説明する。2つの部材から成る保持部材41が示されていて、この保持部材41は、皿ばねまたは波形ばねのためのサポートリング42と、緊締挿入体43とを備えている。この緊締挿入体43は皿ばねまたは波形ばねに作用し、サポートリング42に対してバヨネット式に緊締することができる。サポートリング42と緊締挿入体43とによる緊締状態では、皿ばねまたは波形ばねは平坦状態になるように押圧されている。この場合、保持部材のこの構成では、皿ばねまたは波形ばねの下側の外側の部分と、外側のリング縁部とは、転動工具31によって自由に接近可能である。保持部材41が回転駆動される場合、圧力によって載着された転動工具31は、半径方向で下側12,22にわたって運動し、軸線方向で外側のリング縁部15にわたって運動することができる。
【0064】
以下に、図14および図15を一緒に説明する。2つの部材から成る保持部材51が示されていて、この保持部材51は、皿ばねまたは波形ばねのためのサポートリング52と、緊締載着体53とを備えている。この緊締載着体53は皿ばねまたは波形ばねに作用し、サポートリング52に対してバヨネット式に緊締することができる。緊締状態では、皿ばねまたは波形ばねは平坦になるように押圧されていて、この場合、保持部材のこの構成では下側の内側の部分と、内側のリング縁部14とは、転動工具31によって自由に接近可能である。保持部材が回転駆動される場合、加圧されて載着された転動工具31は、半径方向で下側にわたって運動し、軸線方向で内側のリング縁部15にわって運動することができる。
【0065】
図16は、先行技術による皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過と比較において、本発明により処理された表面領域の表面層における応力経過(MPa)を縦軸に取り、表面からの間隔(μm)を横軸に取っている。この場合、上側の曲線Iは、皿ばねまたは波形ばねのショットピーニングによる先行技術の実施態様の結果を示していて、下側の曲線IIは、皿ばねまたは波形ばねを緊締した状態、つまりこの事例では平坦状態になるように押圧されたばねを転がり圧縮した際の、本発明による実施態様の結果を示している。下側の曲線IIの圧縮残留応力値は、ショットピーニング法に基づく曲線Iにおいて得られる圧縮残留応力値よりも明らかに高く、より深く表面層内に達している。
【0066】
図17は、第2変化実施例において、本発明によって転がり圧縮により処理された表面領域の表面層における応力経過(MPa)を縦軸に取り、表面からの間隔(μm)を横軸に取っている。この場合、上側の曲線Vは、皿ばねまたは波形ばねが緊締されていない状態、つまり転がり圧縮時にばねを負荷していない固有形状で支持する場合の、本発明による実施態様の結果を示していて、下側の曲線VIは、皿ばねまたは波形ばねが緊締されている状態、つまりこの事例ではばねを平坦状態に押圧した状態で転がり圧縮する場合の、本発明による実施態様の結果を示している。上側の曲線の圧縮残留応力値は、ショットピーニング法において得られる圧縮残留応力値よりも明らかに高く、より深く表面層内に達している。これに対して、下側の曲線の圧縮残留応力値はさらに改善されている。さらにグラフには、圧縮残留応力の最大値に対して要求される最小値が符号IIIで示してあり、圧縮残留応力に対して要求される最小値が、200μmの深部に符号IVで示してある。
【0067】
以下に、まず図18〜図22を一緒に説明する。それぞれに皿ばね111が3Dで示してあり、ここでは前方に位置する部分領域は切除してある。皿ばねは全体的に完全な円リングである。皿状部材は、互いに平行な上側と下側との円錐状の開口部の先端が、ばねリングの下方に位置するようになっている。ここでは、上方に位置する面を下側12と呼称し、下方に位置する面を上側13と呼称する。さらに、内側のリング縁部14と外側のリング縁部15とは区別される。横断面で見て、皿ばね111は方形であり、つまり皿ばね111はほぼ均一の肉厚の薄板から成る。ショットピーニング圧縮の対象となる表面領域は、グレー面として示されている。図1〜図5には、ショットピーニング装置が種々異なる位置でそれぞれ示してある。この場合、種々異なる位置は、種々異なる表面領域のショットピーニング圧縮を象徴している。装置61は工具保持部(図示せず)内で緊締されている。この工具保持部は数値制御することができ、特に3つの軸線を中心にして運動することができる。図示されていない手段によって、皿ばね111を張設することができ、皿ばね111の表面に装置61が方向づけられる場合には、皿ばね111はその軸線を中心にして回転駆動することができる。この場合、押圧脈動が表面33に形成され、この押圧脈動は表面を塑性変形させ、その際、圧縮残留応力を表面層に形成する。ショットピーニングの対象となる表面を、それぞれ図では濃く示した。この場合、明瞭にすべく、装置61を処理される表面の所定の位置でそれぞれ示した。上側と下側とを区別できるように、ばねは緊締されていない状態で示されているが、ショットピーニングは、実際にはプリロードをかけられた、特に平坦な状態になるように押圧されている皿ばねにおいて行われる。
【0068】
こうして、図18では、下側12と、内側のリング縁部14と、外側のリング縁部15とが、引張応力下でショットピーニングにより圧縮される。
【0069】
こうして、図19では、下側12と外側のリング縁部15とが、引張応力下でショットピーニングにより圧縮される。
【0070】
こうして、図20では、下側12と内側のリング縁部14とが、引張応力下でショットピーニングにより圧縮される。
【0071】
こうして、図21では、外側のリング縁部15と、このリング縁部15に続いている下側12の狭幅な縁領域17が、引張応力下でショットピーニングにより圧縮される。
【0072】
こうして、図22では、内側のリング縁部14と、このリング縁部14に続いている下側12の狭幅な縁領域16が、引張応力下でショットピーニングにより圧延される。
【0073】
まず図23および図24を一緒に説明する。皿ばね112を、図1〜図5と同じ表示形式で示した。しかしこの場合、皿ばね112は内側にスリットを有しているので、平坦な外側のリング縁部15は前記同様に設けられているが、内側には台形のスリット182と台形の舌片192とが、内側のリング縁部14の経過を規定している。舌片192は、表面層圧縮の対象にはならない。
【0074】
図23では、ショットピーニング圧縮が、引張応力下で下側12と外側に位置するリング縁部15と対して行われる。
【0075】
図24では、ショットピーニング圧縮が、引張応力下で外側のリング縁部15と、このリング縁部15に続いている下側12の狭幅な縁領域17とに対して行われる。
【0076】
図25には、皿ばね113が、図1〜図5と根本的に同じ表示形式で示してある。しかしこの場合、皿ばね113は外側にスリットを有しているので、全周にわたって延びる平坦な内側のリング縁部14しか設けられておらず、外側のリング縁部15は台形のスリット183と舌片193とによって規定される。ショットピーニング圧縮は舌片193に対しては行われない。その代わりに、皿ばね113の下側12と内側リング縁部14とが、引張応力下でショットピーニング圧縮の対象となる。
【0077】
まず図26〜図28を一緒に説明する。それぞれに波形ばね21が3Dで示してあり、ここでは前方に位置する部分領域は切除してある。波形ばねは全体的に完全な円リングである。波形ばねは周面にわたって規定通りに波形延在を有している。この場合、波形ばねからは、互いに平行な上側と下側とを見て取ることができる。詳しくは、下側22と、上側23と、内側リング縁部14と、外側のリング縁部15とが示されている。横断面で見て、波形ばね21は方形であり、つまりこの波形ばね21はほぼ均一の肉厚の薄板から成る。波形ばね21の皿状部材は見て取ることはできないが、皿状部材は補足的な構成基準である波状部材にさらに付加することができる。ショットピーニング装置61は、工具保持部(図示せず)内で緊締される。この工具保持部は数値制御することができ、特に3つの軸線を中心にして運動することができる。図示されていない手段によって、波形ばね21を張設することができ、波形ばねの表面に装置61が方向づけられる場合には、波ばねはその軸線を中心にして回転駆動することができる。この場合、押圧脈動が表面に形成される。この押圧脈動は表面を塑性変形させ、その際、圧縮残留応力を表面層に形成する。ショットピーニングの対象となる表面を、それぞれ図では濃く示した。この場合、明瞭にすべく、装置61を処理される表面の所定の位置にそれぞれ示した。上側と下側とを区別できるように、ばねは緊締さていない状態で示してあるが、ショットピーニングは、実際にはプリロードをかけられた、特にフラットな状態になるように押圧されている波形ばねにおいて行われる。
【0078】
図26では、下側22と上側23とが、引張応力下でショットピーニング圧縮の対象となる。
【0079】
図27では、下側22と、上側23と、内側リング縁部14と、外側のリング縁部15とが、引張応力下でショットピーニング圧縮の対象となる。
【0080】
図28では、内側リング縁部14と、下側22もしくは上側23に設けられている、内側のリング縁部14に続いているそれぞれ隣接する2つの縁領域162,163とが、引張応力下でショットピーニング圧縮の対象とる。
【0081】
図29は、先行技術による皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過との比較において、本発明により、ショットピーニングにより処理された表面領域の表面層における応力経過(MPa)を縦軸に取り、表面からの間隔(μm)を横軸に取っている。この場合、上側の曲線Iは、ばねが緊締されていない状態における、皿ばねまたは波形ばねをショットピーニングした先行技術の実施態様の結果を示していて、下側の曲線IIは、皿ばねまたは波形ばねを緊締した状態、つまりこの事例では平坦状態になるように押圧されたばねをショットピーニングした本発明の実施態様の結果が示してある。下側の曲線IIのネガティブに示された圧縮残留応力値は、慣用のショットピーニング法に基づく曲線Iにおいて得られる圧縮残留応力値よりも明らかに高く、より深く表面層内に達している。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図2】第2構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図3】第3構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図4】第4構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図5】第5構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図6】第6構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第2形を示した図である。
【図7】第7構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第2形を示した図である。
【図8】第8構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第3形を示した図である。
【図9】第1構成において転がり圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図10】第2構成において転がり圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図11】第3構成において転がり圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図12】第1構成において本発明による方法を実施するための装置を3Dで示した図である。
【図13】図12の装置の縦断面図である。
【図14】第2構成において本発明による方法を実施するための装置を3Dで示した図である。
【図15】図14の装置の横断面図である。
【図16】本発明により製造された皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過を、ショットピーニングされた表面層における応力経過と比較して示した図である。
【図17】本発明により製造された皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過を、2つの異なる実施態様と比較して示した図である。
【図18】第1構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図19】第2構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図20】第3構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図21】第4構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図22】第5構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図23】第6構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第2形を示した図である。
【図24】第7構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第2形を示した図である。
【図25】第8構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第3形を示した図である。
【図26】第1構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図27】第2構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図28】第3構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図29】本発明によりプリロードされてショットピーニングされる皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過を、従来どおりにショットピーニングされた皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過と比較して示した図である。
【符号の説明】
【0083】
11 皿ばね、 12 下側、 13 上側、 14 内側縁部、 15 外側縁部、 16,17 縁領域、 18 スリット、 19 舌片、 21 波形ばね、 22 下側、 23 上側、 31 転動工具、 32 ボールホルダ、 33 ボール、 41,42 保持部材、 43 緊締挿入体、 51,51 サポートリング、 53 緊締載着体、 61 ショットピーニング装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法であって、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法に関する。さらに本発明は、皿ばねまたは波形ばねであって、皿ばねまたは波形ばねの、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えている形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
ここでいう表面層とは、完成した構成部材に形成されている圧縮残留応力を有する、表面から出発する深さ領域のことである。表面層における圧縮残留応力により、表面に現れる亀裂形成と亀裂増大とが防がれる。これにより構成部材の持久耐性は高められる。
【0003】
前記皿ばねまたは波形ばねは、閉じた円環状の形状を有している。この場合、皿ばねまたは波形ばねは、ほぼ均一の材料肉厚を有している。
【0004】
皿ばねは、極めて短い構成長さの場合には一般的に逓減特性曲線を有している。皿ばねは、僅かなばね撓みの際に既に高いばね力をもたらす。皿ばねは、一致するかまたは変化する円錐状態を有するばね柱として頻繁に使用されるが、単体エレメントとしても使用される。皿ばねの内側縁部および/または外側縁部は、スリットを有しているか、または歯を有していることがある。
【0005】
波形ばねはたいてい平面に対して相対的に波付けされたばねエレメントであるか、または円錐面に対して相対的に波付けされたばねエレメントである。このばねエレメントは線形または非線形に延びる特性曲線を有している。波形ばねは自動変速機の多板クラッチにおける緩衝ばねとして頻繁に使用される。
【0006】
この種の両ばねは、使用事例ではスタティックでありながらも、たいていダイナミックに負荷される。
【0007】
皿ばねと波形ばねとの製造は、僅かな肉厚しか備えていないばねの場合には、冷間圧延された平坦帯状部材から成るばね鋼片を打抜き加工することにより行われる。このことは標準打抜き加工により行われるか、または品質のより良い断面縁部を得るために精密打抜き加工により行われる。ばね鋼片の打抜き加工後に、一般的には標準打抜き加工もしくは精密打抜き加工時に発生するまくれは仕上げ研削により除去される。
【0008】
これに続いて、ばね鋼片の変形が、熱間変形または冷間変形により行われる。ばね特性を得るために、ばね鋼片は続いて焼入れ・焼戻しされる。焼入れ・焼戻しプロセス後のショットピーニングにより、圧縮残留応力を表面層を形成することができ、これにより、ダイナミックな負荷に対する皿ばねまたは波形ばねの寿命を改善することができる。
【0009】
皿ばねまたは波形ばねを負荷する場合、圧縮残留応力は、ばねリングの周面方向で作用する引張応力により低減されるかまたは抑えられる。
【0010】
皿ばねと波形ばねとは、機械工学およびテロテクノロジにおいて使用される場面は多い。幅広い使用範囲が、特に自動変速機の多板クラッチにもたらされる。
【0011】
負荷時の高い引張応力に基づき、高い力が加えられ、組付け室が制限されている場合、皿ばねと波形ばねとの寿命に対する要求は、スタティックまたはダイナミックな負荷を考慮すると全て満たすことはしばしばできない。このことは特に、圧縮残留応力がショットピーニング法により、緊締されていない状態にある皿ばねの引張応力を負荷された表面領域の表面層に形成された場合にも当てはまる。
【0012】
従って、個々の皿ばねと波形ばねへの負荷を低く保ち、ひいては所要の負荷振動数を達成するために、皿ばねと波形ばねとを多重に配置して使用することが多々必要となる。
【0013】
このことに、皿ばねまたは波形ばねの個数の増大と、組付けスペースの全体的な拡大とが結び付く。皿ばねまたは波形ばねの個数の増大は、より高いコストを余儀なくし、同時に、不可欠なより大きな組付けスペースのため、より高い装置コストが結果としてもたらされる。
【0014】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10334470号明細書に記載されている皿ばねは、負荷時に引張応力によって負荷される表面領域が、ショットピーニングまたは熱間処理により、表面層に高められた圧縮残留応力を備えている。
【0015】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第4444649号明細書からは、帯状材料から打抜き加工され、その後、焼入れされて曲げ加工され、その後、焼戻しされてショットピーニングされ、続いてさらにいわゆる硬化が行われる皿ばねが公知である。この場合、ショットピーニングに関して、皿ばねの力経路特性に有利に影響を与えるために、ばね上側とばね下側とにおけるピーニングパラメータを種々異なるように選択することが提案される。
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10334470号明細書
【特許文献2】ドイツ連邦共和国特許出願公開第4444649号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の課題は、冒頭で述べた形式の皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法を改良して、相応な製品のスタティックおよびダイナミックな負荷性能を有効に高めることができる方法を提供するか、もしくは皿ばねまたは波形ばねを改良して、相応に高められたスタティックおよびダイナミックな負荷性能を有する形式のものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この課題を解決するために本発明の方法では、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域を、ボールまたはドラムで転がり圧縮するようにするか、または少なくとも弾性変形させられたばねの前記表面領域を引張応力によって負荷して、ショットピーニングにより圧縮するようにした。さらに、この課題を解決するために本発明の構成では、圧縮残留応力の最大値が、転がり圧縮された表面領域の表面層において、少なくとも850MPaであるか、または圧縮残留応力の最大値が、変形させられたばねの場合、ショットピーニングにより処理された表面領域の表面層において、少なくとも850MPaであるようにした。
【発明の効果】
【0018】
この課題を解決した本発明による方法によれば、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法において、前記表面領域を、ボールまたはドラムで転がり圧縮する。特に、前記表面領域を、ばねの軸線を中心としたボールまたはドラムの円運動において、ばねに対して相対的に転がり圧縮をするようにした。特に有利な実施態様によれば、引張応力を前記表面領域に強制付与している間に、前記表面領域を転がり圧縮する。
【0019】
さらにこの課題を解決した本発明による方法によれば、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法において、前記表面領域を、弾性変形させられたばねの場合、引張応力によって負荷して、ショットピーニングにより圧縮する。
【0020】
圧縮という概念を使用する限りは、圧縮は応力状態の一定の変化を明瞭に表すことが望まれる。ただ正確に言えば、記載の方法においては、弾性変形、必要な場合には塑性変形が、材料の体積不変性下で行われる。
【0021】
記載の実施態様によれば、一つには、従来のショットピーニングよりも高い圧縮残留応力が形成される。記載の実施態様によれば、もう一つには、圧縮残留応力の最大値を表面層のより深い領域に移すという可能性も与えられる。これによって、異物または材料の欠陥個所が存在し得る場合でも、スタティックおよびダイナミックに負荷されるばねの寿命値が高められる。
【0022】
この場合、特に、前記表面領域が、少なくとも弾性変形可能なばね、特に平坦な状態になるように押圧されているばねの場合には、転がり圧縮されるか、またはショットピーニングにより圧縮されることが提案される。しかし、平坦状態への押圧とは異なる、比較的僅かな変形、または皿ばねの場合、平坦状態を越える比較的激しい変形が可能であるか、または圧縮された領域におけるそれぞれ局地的な変形だけが可能でもある。圧縮中の一時的な変形は降伏点を超えることもできるので、前記表面領域は塑性変形される。
【0023】
この実施態様によれば、表面層における圧縮残留応力に対する最大値も、表面層における圧縮残留応力の相応な最大値の深部位置も、後に詳しく説明するように有効に高められる。
【0024】
圧縮残留応力に対する値の改善の他に、特別な利点は、処理される表面領域の平滑化が同時に得られるということにある。これにより、表面から出発する亀裂形成の恐れが減じられる。
【0025】
固定ドラムもしくは固定ローラ(圧縮ドラムもしくは圧縮ローラ)により処理されない表面が、表面の部分領域に限定される限りは、残余領域を公知のショットピーニングにより圧縮することは有利である。この場合、有利には、ローラ圧縮による既述の平滑化作用を、皿ばねまたは波形ばねの極めて負荷されている領域に維持したままにするために、表面圧縮をショットピーニング法によりまず行う。
【0026】
ショットピーニングによる圧縮が、平坦な状態になるように押圧されたばねの場合、表面の部分領域に限定される限りは、緊締されていない状態のばねでは、残余領域をショットピーニングにより圧縮することは有利である。この場合、有利には、全表面の表面圧縮が、緊締されていない状態のばねでまず行われる。
【0027】
転がり圧縮および/またはショットピーニングによる圧縮は、固定ドラムもしくは固定ローラおよび/またはショットピーニングの成果が、後続の熱処理により部分的に再び損なわれないように、有利には、ばねの焼入れ・焼戻し後に行われる。
【0028】
有利な実施態様によれば、転がり圧縮は、ばねが180℃以上、特に約200℃の温度に高められた場合に行われ、ショットピーニングによる圧縮は、変形させられたばねにおいては、ばねが150〜約250℃、特に約200℃に高められた場合に行われる。従って、圧縮残留応力の最大値は、表面下のより深い深部に移動する。
【0029】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法は、有利には、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域を、ばねの軸線を中心としたボールまたはドラムの円運動において、ばねに対して相対的に転がり圧縮する。
【0030】
本発明に係る方法は、有利には、引張応力を前記表面領域に強制付与している間に、前記表面領域を転がり圧縮する。
【0031】
本発明に係る方法は、有利には、転がり圧縮を、ばねの温度を少なくとも180℃に高めて行う。
【0032】
本発明に係る方法は、有利には、転がり圧縮を、ショットピーニングによる事前の圧縮の後に行う。
【0033】
本発明に係る方法は、有利には、ばねの全表面を、ショットピーニングにより圧縮し、ばねの部分表面を、転がり圧縮によって圧縮する。
【0034】
本発明に係る方法は、有利には、表面領域をショットピーニングにより圧縮している間に、前記表面領域において降伏点を超過する。
【0035】
本発明に係る方法は、有利には、ショットピーニングによる圧縮を、ばねの温度を150〜250℃に高めて行う。
【0036】
本発明に係る方法は、有利には、ばねの全表面を、ショットピーニングによって圧縮し、変形させられたばねの場合には、ばねの部分表面を、ショットピーニングにより圧縮する。
【0037】
本発明に係る方法は、有利には、前記表面領域を、少なくとも弾性変形させられたばね、特に平坦な状態になるように押圧されたばねの場合、転がり圧縮するかまたはショットピーニングにより圧縮する。
【0038】
本発明に係る方法は、有利には、転がり圧縮および/またはショットピーニングによる圧縮を、ばねの焼入れ・焼戻し後に行う。
【0039】
さらに本発明は、皿ばねまたは波形ばねを含んでいて、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えていて、転がり圧縮された表面領域の表面層における圧縮残留応力の最大値が、少なくとも850MPaであり、当該皿ばねまたは波形ばねを、特に既述の方法により製造することができる。この場合、有利な構成では、前記表面領域の表面層における圧縮残留応力が、200μmの深部で、少なくとも500MPaであるようになっている。
【0040】
その他に本発明は、皿ばねまたは波形ばねであって、ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えていて、変形させられたばねにおいて、ショットピーニングにより処理された表面領域の表面層における圧縮残留応力の最大値が、少なくとも850MPaである形式のものを含む。この場合、有利な構成では、変形させられたばねにおいて、ショットピーニングにより形成された表面領域の表面層における圧縮残留応力は、100μmの深部においては少なくとも750MPaである。
【0041】
圧縮残留応力による品質改善が、特に、負荷時に引張応力によって負荷される表面領域を対象としなければならないという自体公知の実状から出発して、特に、少なくとも1つの内側のリング縁部と、少なくとも1つの外側のリング縁部とが、圧縮残留応力を表面層に備えているか、または皿ばねにおいて、内側円錐状の下側の少なくとも1つの縁領域が、圧縮残留応力を表面層に備えているか、もしくは波形ばねにおいて、波付けされた上側の表面と下側の表面との少なくとも1つの縁領域が、それぞれ圧縮残留応力を表面層に備えていることが提案されている。この場合、皿ばねの内側縁部がスリットを有するか、もしくは歯を有する、および/または皿ばねの外側縁部がスリットを有するか、もしくは歯を有するように形成されていてよい。波形ばねでは、波形ばねの波状部材が、皿状部材、つまり円錐形部材によってオーバーラップされていてよい。さらに、種々異なる大きさおよび高さの最小値と最大値とが連続して存在するように、波状部材を周面にわたって変えることもできる。
【0042】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、転がり圧縮された表面領域の表面層における圧縮残留応力が、200μmの深部において少なくとも500MPa、特に少なくとも700MPa、有利には1000MPaである。
【0043】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによって処理された表面領域の表面層における圧縮残留応力が、100μmの深部において少なくとも750MPa、特に少なくとも850MPaである。
【0044】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、少なくとも1つの内側のリング縁部と、少なくとも1つの外側のリング縁部とが、転がり圧縮により形成された、または特に変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによる圧縮により形成された圧縮残留応力を表面層に備えている。
【0045】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、内側円錐状の下側の少なくとも1つの縁領域が、転がり圧縮により形成された、または特に変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによる圧縮により形成された圧縮残留応力を表面層に備えている。
【0046】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、波付けされた上側の表面と下側の表面との少なくとも1つの縁領域が、それぞれ転がり圧縮により形成された圧縮残留応力を表面層に備えているか、または特に変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによる圧縮により形成された圧縮残留応力を表面層に備えている。
【0047】
本発明に係る皿ばねまたは波形ばねは、有利には、皿ばねの内側縁部および/または皿ばねの外側縁部が、スリットもしくは歯を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面につき詳しく説明する。
【0049】
まず以下に、図1〜図5を一緒に説明する。それぞれに皿ばね111を3Dで示してあり、ここでは前方に位置する部分領域を切除してある。皿ばねは全体的に完全な円リングである。この皿状部材は、互いに平行な上側と下側との円錐状の開口部の先端が、ばねリングの下方に位置するようになっている。ここでは、上方に位置する面を下側12と呼称し、下方に位置する面を上側13と呼称する。さらに、内側のリング縁部14と外側のリング縁辺部15とは区別される。横断面で見て、皿ばね111は方形であり、つまり皿ばね111は、ほぼ均一の肉厚の金属薄板、つまり薄板から成る。転がり圧縮の対象となる表面領域は、グレー面として示されている。図1〜図5には、転動工具31がそれぞれ種々異なる位置で示されている。この場合、これらの種々異なる位置は、種々異なる表面領域の転がり圧縮を象徴している。工具31は工具保持部(図示せず)内で緊締されている。この工具保持部は数値制御することができ、特に3つの軸線を中心にして運動することができる。工具31はボールホルダ32を有していて、このボールホルダ32は、工具31に対して移動可能にハイドロスタティックに支持されている。ボールホルダ32の前方の端部は、たとえば硬質セラミックスから成るボール33を自由回転可能に支持している。図示されていない手段によって、皿ばね111を張設することができ、皿ばねの表面にわたって工具31が送られる際、皿ばね111をその軸線を中心にして回転駆動することができる。この場合、ボール33の接触圧が形成され、この接触圧は表面を塑性変形させ、この際に圧縮残留応力を表面層に形成する。固定ドラムに把持される表面を、それぞれ図では濃く示した。この場合、明瞭にすべく、工具31を処理される表面の所定の位置にそれぞれ示した。
【0050】
こうして、図1では、下側12と、内側のリング縁部14と、外側のリング縁部15とが転がり圧縮される。
【0051】
こうして、図2では、下側12と、外側のリング縁部15とが転がり圧縮される。
【0052】
こうして、図3では、下側12と、内側のリング縁部14とが転がり圧縮される。
【0053】
こうして、図4では、外側のリング縁部15と、このリング縁部15に続いている下側12の狭幅の縁領域17とが転がり圧縮される。
【0054】
こうして、図5では、内側のリング縁部14と、このリング縁部14に続いている下側12の狭幅の縁領域16とが転がり圧縮される。
【0055】
まず図6および図7を一緒に説明する。図1〜図5と同様の表示形式で皿ばね112を示した。しかしこの場合、皿ばね112は内側にスリットを有しているので、平坦な外側のリング縁部15は前記同様に設けられているが、内面では台形のスリット182と台形の舌片192とが、内側のリング縁部142の経過を規定している。舌片192は、表面層圧縮の対象にはならない。
【0056】
図6では、転がり圧縮が、下側12と、外側に位置するリング縁部15とに対して行われる。
【0057】
図7では、転がり圧縮部が、上側のリング縁部15と、このリング縁部15に続いている下側12の縁領域17とに対して行われる。
【0058】
図8では、皿ばね113が図1〜図5と根本的に同じように示してある。しかしこの場合、皿ばね113は外側にスリットを有しているので、全周にわたって延びている内側のリング縁部14だけが存在し、外側のリング縁部153は台形のスリット183と舌片193とによって規定される。転がり圧縮は、舌片193に対しては行われない。その代わりに、皿ばね113の下側12と内側のリング縁部14とが転がり圧縮の対象となる。
【0059】
まず図9〜図11を一緒に説明する。それぞれに波形ばね21を3Dで示してあり、ここでは前方に位置する部分領域を切除してある。波形ばねは全体的に完全な円リングである。波形ばねは周面にわたって規定通りに波形延在を有している。この場合、波形ばね21からは、互いに平行な上側と下側とを見て取ることができる。詳しくは、下側22と、上側23と、内側のリング縁部14と、外側のリング縁部15とが示されている。横断面で見て、波形ばね21は方形であり、つまりこの波形ばね21はほぼ均一の肉厚の薄板から成る。波形ばね21の皿状部材を見て取ることができないが、皿状部材は補足的な構成基準である波形部材にさらに付加することができる。工具31は工具保持部(図示せず)内で緊締される。この工具保持部は数値制御することができ、特に3つの軸線を中心にして運動することができる。工具31はボールホルダ32を有していて、このボールホルダ32は工具31に対して移動可能にハイドロスタティックに支持されている。ボールホルダ32の前方の端部は、たとえば硬質セラミックスから成るボール33を自由回転可能に支持している。図示されていない手段によって、波形ばね21を張設することができ、皿ばねの表面にわたって工具31が送られる場合には、皿ばねをその軸線を中心にして回転駆動することができる。この場合、ボール33の接触圧が形成される。この接触圧は表面を塑性変形させ、その際に圧縮残留応力を表面層に形成する。この場合、固定ドラムによって把持される表面は、それぞれ図には濃く示した。明瞭にすべく、工具31を処理される表面の所定位置でそれぞれ示した。
【0060】
図9では、下側22と上側23が転がり圧縮の対象となる。
【0061】
図10では、下側22と、上側23と、内側のリング縁部14と、外側のリング縁部15とが、転がり圧縮の対象となる。
【0062】
図11では、内側のリング縁部14と、下側22もしくは上側23に設けられている、内側のリング縁部14に続いているそれぞれ制限された2つの縁領域162,163とが、転がり圧縮の対象となる。
【0063】
以下に、図12および図13を一緒に説明する。2つの部材から成る保持部材41が示されていて、この保持部材41は、皿ばねまたは波形ばねのためのサポートリング42と、緊締挿入体43とを備えている。この緊締挿入体43は皿ばねまたは波形ばねに作用し、サポートリング42に対してバヨネット式に緊締することができる。サポートリング42と緊締挿入体43とによる緊締状態では、皿ばねまたは波形ばねは平坦状態になるように押圧されている。この場合、保持部材のこの構成では、皿ばねまたは波形ばねの下側の外側の部分と、外側のリング縁部とは、転動工具31によって自由に接近可能である。保持部材41が回転駆動される場合、圧力によって載着された転動工具31は、半径方向で下側12,22にわたって運動し、軸線方向で外側のリング縁部15にわたって運動することができる。
【0064】
以下に、図14および図15を一緒に説明する。2つの部材から成る保持部材51が示されていて、この保持部材51は、皿ばねまたは波形ばねのためのサポートリング52と、緊締載着体53とを備えている。この緊締載着体53は皿ばねまたは波形ばねに作用し、サポートリング52に対してバヨネット式に緊締することができる。緊締状態では、皿ばねまたは波形ばねは平坦になるように押圧されていて、この場合、保持部材のこの構成では下側の内側の部分と、内側のリング縁部14とは、転動工具31によって自由に接近可能である。保持部材が回転駆動される場合、加圧されて載着された転動工具31は、半径方向で下側にわたって運動し、軸線方向で内側のリング縁部15にわって運動することができる。
【0065】
図16は、先行技術による皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過と比較において、本発明により処理された表面領域の表面層における応力経過(MPa)を縦軸に取り、表面からの間隔(μm)を横軸に取っている。この場合、上側の曲線Iは、皿ばねまたは波形ばねのショットピーニングによる先行技術の実施態様の結果を示していて、下側の曲線IIは、皿ばねまたは波形ばねを緊締した状態、つまりこの事例では平坦状態になるように押圧されたばねを転がり圧縮した際の、本発明による実施態様の結果を示している。下側の曲線IIの圧縮残留応力値は、ショットピーニング法に基づく曲線Iにおいて得られる圧縮残留応力値よりも明らかに高く、より深く表面層内に達している。
【0066】
図17は、第2変化実施例において、本発明によって転がり圧縮により処理された表面領域の表面層における応力経過(MPa)を縦軸に取り、表面からの間隔(μm)を横軸に取っている。この場合、上側の曲線Vは、皿ばねまたは波形ばねが緊締されていない状態、つまり転がり圧縮時にばねを負荷していない固有形状で支持する場合の、本発明による実施態様の結果を示していて、下側の曲線VIは、皿ばねまたは波形ばねが緊締されている状態、つまりこの事例ではばねを平坦状態に押圧した状態で転がり圧縮する場合の、本発明による実施態様の結果を示している。上側の曲線の圧縮残留応力値は、ショットピーニング法において得られる圧縮残留応力値よりも明らかに高く、より深く表面層内に達している。これに対して、下側の曲線の圧縮残留応力値はさらに改善されている。さらにグラフには、圧縮残留応力の最大値に対して要求される最小値が符号IIIで示してあり、圧縮残留応力に対して要求される最小値が、200μmの深部に符号IVで示してある。
【0067】
以下に、まず図18〜図22を一緒に説明する。それぞれに皿ばね111が3Dで示してあり、ここでは前方に位置する部分領域は切除してある。皿ばねは全体的に完全な円リングである。皿状部材は、互いに平行な上側と下側との円錐状の開口部の先端が、ばねリングの下方に位置するようになっている。ここでは、上方に位置する面を下側12と呼称し、下方に位置する面を上側13と呼称する。さらに、内側のリング縁部14と外側のリング縁部15とは区別される。横断面で見て、皿ばね111は方形であり、つまり皿ばね111はほぼ均一の肉厚の薄板から成る。ショットピーニング圧縮の対象となる表面領域は、グレー面として示されている。図1〜図5には、ショットピーニング装置が種々異なる位置でそれぞれ示してある。この場合、種々異なる位置は、種々異なる表面領域のショットピーニング圧縮を象徴している。装置61は工具保持部(図示せず)内で緊締されている。この工具保持部は数値制御することができ、特に3つの軸線を中心にして運動することができる。図示されていない手段によって、皿ばね111を張設することができ、皿ばね111の表面に装置61が方向づけられる場合には、皿ばね111はその軸線を中心にして回転駆動することができる。この場合、押圧脈動が表面33に形成され、この押圧脈動は表面を塑性変形させ、その際、圧縮残留応力を表面層に形成する。ショットピーニングの対象となる表面を、それぞれ図では濃く示した。この場合、明瞭にすべく、装置61を処理される表面の所定の位置でそれぞれ示した。上側と下側とを区別できるように、ばねは緊締されていない状態で示されているが、ショットピーニングは、実際にはプリロードをかけられた、特に平坦な状態になるように押圧されている皿ばねにおいて行われる。
【0068】
こうして、図18では、下側12と、内側のリング縁部14と、外側のリング縁部15とが、引張応力下でショットピーニングにより圧縮される。
【0069】
こうして、図19では、下側12と外側のリング縁部15とが、引張応力下でショットピーニングにより圧縮される。
【0070】
こうして、図20では、下側12と内側のリング縁部14とが、引張応力下でショットピーニングにより圧縮される。
【0071】
こうして、図21では、外側のリング縁部15と、このリング縁部15に続いている下側12の狭幅な縁領域17が、引張応力下でショットピーニングにより圧縮される。
【0072】
こうして、図22では、内側のリング縁部14と、このリング縁部14に続いている下側12の狭幅な縁領域16が、引張応力下でショットピーニングにより圧延される。
【0073】
まず図23および図24を一緒に説明する。皿ばね112を、図1〜図5と同じ表示形式で示した。しかしこの場合、皿ばね112は内側にスリットを有しているので、平坦な外側のリング縁部15は前記同様に設けられているが、内側には台形のスリット182と台形の舌片192とが、内側のリング縁部14の経過を規定している。舌片192は、表面層圧縮の対象にはならない。
【0074】
図23では、ショットピーニング圧縮が、引張応力下で下側12と外側に位置するリング縁部15と対して行われる。
【0075】
図24では、ショットピーニング圧縮が、引張応力下で外側のリング縁部15と、このリング縁部15に続いている下側12の狭幅な縁領域17とに対して行われる。
【0076】
図25には、皿ばね113が、図1〜図5と根本的に同じ表示形式で示してある。しかしこの場合、皿ばね113は外側にスリットを有しているので、全周にわたって延びる平坦な内側のリング縁部14しか設けられておらず、外側のリング縁部15は台形のスリット183と舌片193とによって規定される。ショットピーニング圧縮は舌片193に対しては行われない。その代わりに、皿ばね113の下側12と内側リング縁部14とが、引張応力下でショットピーニング圧縮の対象となる。
【0077】
まず図26〜図28を一緒に説明する。それぞれに波形ばね21が3Dで示してあり、ここでは前方に位置する部分領域は切除してある。波形ばねは全体的に完全な円リングである。波形ばねは周面にわたって規定通りに波形延在を有している。この場合、波形ばねからは、互いに平行な上側と下側とを見て取ることができる。詳しくは、下側22と、上側23と、内側リング縁部14と、外側のリング縁部15とが示されている。横断面で見て、波形ばね21は方形であり、つまりこの波形ばね21はほぼ均一の肉厚の薄板から成る。波形ばね21の皿状部材は見て取ることはできないが、皿状部材は補足的な構成基準である波状部材にさらに付加することができる。ショットピーニング装置61は、工具保持部(図示せず)内で緊締される。この工具保持部は数値制御することができ、特に3つの軸線を中心にして運動することができる。図示されていない手段によって、波形ばね21を張設することができ、波形ばねの表面に装置61が方向づけられる場合には、波ばねはその軸線を中心にして回転駆動することができる。この場合、押圧脈動が表面に形成される。この押圧脈動は表面を塑性変形させ、その際、圧縮残留応力を表面層に形成する。ショットピーニングの対象となる表面を、それぞれ図では濃く示した。この場合、明瞭にすべく、装置61を処理される表面の所定の位置にそれぞれ示した。上側と下側とを区別できるように、ばねは緊締さていない状態で示してあるが、ショットピーニングは、実際にはプリロードをかけられた、特にフラットな状態になるように押圧されている波形ばねにおいて行われる。
【0078】
図26では、下側22と上側23とが、引張応力下でショットピーニング圧縮の対象となる。
【0079】
図27では、下側22と、上側23と、内側リング縁部14と、外側のリング縁部15とが、引張応力下でショットピーニング圧縮の対象となる。
【0080】
図28では、内側リング縁部14と、下側22もしくは上側23に設けられている、内側のリング縁部14に続いているそれぞれ隣接する2つの縁領域162,163とが、引張応力下でショットピーニング圧縮の対象とる。
【0081】
図29は、先行技術による皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過との比較において、本発明により、ショットピーニングにより処理された表面領域の表面層における応力経過(MPa)を縦軸に取り、表面からの間隔(μm)を横軸に取っている。この場合、上側の曲線Iは、ばねが緊締されていない状態における、皿ばねまたは波形ばねをショットピーニングした先行技術の実施態様の結果を示していて、下側の曲線IIは、皿ばねまたは波形ばねを緊締した状態、つまりこの事例では平坦状態になるように押圧されたばねをショットピーニングした本発明の実施態様の結果が示してある。下側の曲線IIのネガティブに示された圧縮残留応力値は、慣用のショットピーニング法に基づく曲線Iにおいて得られる圧縮残留応力値よりも明らかに高く、より深く表面層内に達している。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図2】第2構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図3】第3構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図4】第4構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図5】第5構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図6】第6構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第2形を示した図である。
【図7】第7構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第2形を示した図である。
【図8】第8構成において転がり圧縮する際の本発明による皿ばねの第3形を示した図である。
【図9】第1構成において転がり圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図10】第2構成において転がり圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図11】第3構成において転がり圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図12】第1構成において本発明による方法を実施するための装置を3Dで示した図である。
【図13】図12の装置の縦断面図である。
【図14】第2構成において本発明による方法を実施するための装置を3Dで示した図である。
【図15】図14の装置の横断面図である。
【図16】本発明により製造された皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過を、ショットピーニングされた表面層における応力経過と比較して示した図である。
【図17】本発明により製造された皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過を、2つの異なる実施態様と比較して示した図である。
【図18】第1構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図19】第2構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図20】第3構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図21】第4構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図22】第5構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第1形を示した図である。
【図23】第6構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第2形を示した図である。
【図24】第7構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第2形を示した図である。
【図25】第8構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による皿ばねの第3形を示した図である。
【図26】第1構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図27】第2構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図28】第3構成においてショットピーニングにより圧縮する際の本発明による波形ばねを示した図である。
【図29】本発明によりプリロードされてショットピーニングされる皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過を、従来どおりにショットピーニングされた皿ばねまたは波形ばねの表面層における応力経過と比較して示した図である。
【符号の説明】
【0083】
11 皿ばね、 12 下側、 13 上側、 14 内側縁部、 15 外側縁部、 16,17 縁領域、 18 スリット、 19 舌片、 21 波形ばね、 22 下側、 23 上側、 31 転動工具、 32 ボールホルダ、 33 ボール、 41,42 保持部材、 43 緊締挿入体、 51,51 サポートリング、 53 緊締載着体、 61 ショットピーニング装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法であって、該ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法において、
前記表面領域を、ボールまたはドラムで転がり圧縮することを特徴とする、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法。
【請求項2】
皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法であって、該ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法において、
前記表面領域を、少なくとも弾性変形させられたばねの場合、引張応力によって負荷して、ショットピーニングにより圧縮することを特徴とする、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法。
【請求項3】
皿ばねまたは波形ばねであって、該ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えている形式のものにおいて、
転がり圧縮された表面領域の表面層における圧縮残留応力の最大値が、少なくとも850MPaであることを特徴とする、皿ばねまたは波形ばね。
【請求項4】
皿ばねまたは波形ばねであって、該ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えている形式のものにおいて、
変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによって処理された表面領域の表面層における圧縮残留応力の最大値が、少なくとも850MPaであることを特徴とする、皿ばねまたは波形ばね。
【請求項1】
皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法であって、該ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法において、
前記表面領域を、ボールまたはドラムで転がり圧縮することを特徴とする、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法。
【請求項2】
皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法であって、該ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えるように、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法において、
前記表面領域を、少なくとも弾性変形させられたばねの場合、引張応力によって負荷して、ショットピーニングにより圧縮することを特徴とする、皿ばねまたは波形ばねを製造するための方法。
【請求項3】
皿ばねまたは波形ばねであって、該ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えている形式のものにおいて、
転がり圧縮された表面領域の表面層における圧縮残留応力の最大値が、少なくとも850MPaであることを特徴とする、皿ばねまたは波形ばね。
【請求項4】
皿ばねまたは波形ばねであって、該ばねの負荷時に引張応力によって負荷される、皿ばねまたは波形ばねの表面領域が、圧縮残留応力を表面層に備えている形式のものにおいて、
変形させられたばねの場合に、ショットピーニングによって処理された表面領域の表面層における圧縮残留応力の最大値が、少なくとも850MPaであることを特徴とする、皿ばねまたは波形ばね。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2008−2683(P2008−2683A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166914(P2007−166914)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(596179058)ムール ウント ベンダー コマンディートゲゼルシャフト (29)
【氏名又は名称原語表記】Muhr und Bender KG
【住所又は居所原語表記】In den Schlachtwiesn 4,D−57439 Attendorn,Germany
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(596179058)ムール ウント ベンダー コマンディートゲゼルシャフト (29)
【氏名又は名称原語表記】Muhr und Bender KG
【住所又は居所原語表記】In den Schlachtwiesn 4,D−57439 Attendorn,Germany
【Fターム(参考)】
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