説明

目標追尾誘導装置及び方法

【課題】太陽光及び太陽クラッタ光の影響を低減して、シーカが安定した強度の反射光を検出することができ、これにより、レーザ照射機の寸法、質量増を抑えることができ、運搬や設置等の運用上の制限を無くすことができる目標追尾誘導装置及び方法を提供する。
【解決手段】目標1に対しレーザビーム3を照射し、その反射光4を赤外線シーカ16で検出することにより、目標を捕捉し、目標方向に向けて飛翔体14を飛翔させる。飛翔体14は、赤外線シーカ16の前面に設けられた直線偏光子17(偏光フィルタ)と、直線偏光子17を透過可能な直線偏光の偏光方向を送信する送信装置18とを有する。さらに、レーザビーム照射装置12で発生するレーザビーム2の直線偏光の偏光方向をレーザビームのまわりの回転可能な偏光方向回転装置20と、回転後のレーザビーム3の偏光方向を飛翔体の偏光方向に一致させる偏光方向制御装置24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽クラッタの影響を受けずに安定した強度のレーザ反射光を検出することができる目標追尾誘導装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目標追尾誘導装置は、目標に向けてレーザビームを照射すると共に、この目標に向けて飛翔体を飛翔させ、目標で反射されたレーザビームのレーザ反射光を、飛翔体に搭載した近赤外シーカにより検出して目標を捕捉し、飛翔体の飛翔経路を修正して飛翔体を目標に向けて誘導する装置である。
【0003】
かかる目標追尾誘導装置に関連する先行技術として、特許文献1、2が既に開示されている。
【0004】
特許文献1の「目標追尾誘導システム及び目標追尾誘導方法」は、設備の簡素化を図った上で、飛翔体を確実に目標に向けて誘導させることを可能にすることを目的とする。
そのため、この発明では、図3に示すように、飛翔体50において、目標Tに向かって赤外線レーザ照射装置52から照射されているレーザビームLBの後方散乱光を赤外線センサにより検出し、システム制御部により赤外線センサによる検出結果からレーザビームLBの軌跡及び方向を求め、このレーザビームLBの軌跡及び方向と位置・速度センサにより検出される飛翔体50の飛翔位置・速度情報とを比較照合して、レーザビームLBに対する飛翔体50の飛翔位置及び飛翔方向を求め、このレーザビームLBの軌跡及び方向と飛翔位置及び飛翔方向とのずれに対応する誘導信号を生成して姿勢駆動部に与えることにより、飛翔体50をレーザビームLBに近づけ、飛翔方向とレーザビーム方向とを略一致させるものである。
【0005】
特許文献2の「シーカ角度分解能補正装置」は、目標体のシャープな映像が得られ、目標体の検知能力を向上させることを目的とする。
そのため、図4に示すように、このシーカ角度分解能補正装置は、ビーム指向角に対するビーム幅を小さくするΣ−k*Δ処理を行なうk値及びビーム指向角、遮蔽物の影響で変るエコーパルスの利得を2値化するしきい値レベルを予め取得し、蓄積しておくテーブル、蓄積したk値及びしきい値レベルで、Σ−k*Δ処理を行いビーム幅の広がりを一定にし、2値化により遮蔽物の影響を除去し、ビーム幅をブロッキング状態によらず一定にする補正手段を設けたものである。
【0006】
【特許文献1】特開2002−90093号公報、「目標追尾誘導システム及び目標追尾誘導方法」
【特許文献2】特開2001−51054号公報、「シーカ角度分解能補正装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように従来の目標追尾誘導装置は、図5に模式的に示すように、目標62に対しレーザ照射機63からレーザビーム64を照射し、その反射光65を飛翔体に搭載される赤外線シーカ66で検出することにより、目標の反射光を捕捉し、目標方向に向けて飛翔体61を誘導するようになっている。
【0008】
しかし、従来の目標追尾誘導装置では、本来検出したいレーザビーム64の反射光65以外に、太陽光67及びその反射光(太陽クラッタ光)67aがシーカ66に入射する。太陽光67及び太陽クラッタ光67aは、シーカ66におけるノイズ(ショットノイズ)となるため、シーカ66で検出する信号の信号対雑音比(S/N比)が低下し、シーカの目標位置の検出精度が悪化する問題点があった。
また、これを補うために、レーザの高出力化が必要となり、装置の寸法・質量が増加するため、運用を制限してしまう問題点があった。
【0009】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明は太陽光及び太陽クラッタ光の影響を低減して、シーカが安定した強度の反射光を検出することができ、これにより、レーザ照射機の寸法、質量増を抑えることができ、運搬や設置等の運用上の制限を無くすことができる目標追尾誘導装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、目標に対しレーザビームを照射するレーザビーム照射装置と、
目標による前記レーザビームの反射光を検出する赤外線シーカを搭載した飛翔体とを備え、
目標に対しレーザビームを照射し、その反射光を前記赤外線シーカで検出して目標を捕捉し、飛翔体を目標方向に向けて誘導する目標追尾誘導装置であって、
前記飛翔体は、赤外線シーカの前面に設けられた直線偏光子と、該直線偏光子の姿勢信号を送信する姿勢送信装置とを有しており、
さらに、前記レーザビーム照射装置で発生するレーザビームの直線偏光の偏光方向をレーザビームまわりに回転可能な偏光方向回転装置と、前記姿勢信号を受信し、回転後のレーザビームの偏光方向を飛翔体の直線偏光子の偏光方向と一致させる偏光方向制御装置とを備える、ことを特徴とする目標追尾誘導装置が提供される。
【0011】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記偏光方向回転装置は、偏光回転素子と、該偏光回転素子をレーザビームまわりに回転駆動する回転駆動装置とからなる。
前記偏光回転素子は、2分の1波長遅相子又は偏光回転子である、ことが好ましい。
【0012】
また本発明によれば、目標に対しレーザビームを照射し、
目標による前記レーザビームの反射光を飛翔体に搭載した赤外線シーカで検出して目標を捕捉し、飛翔体を目標方向に向けて誘導する目標追尾誘導方法であって、
前記飛翔体は、赤外線シーカの前面に設けられた直線偏光子の姿勢信号を送信し、
前記姿勢信号を受信し、前記レーザビーム照射装置で発生するレーザビームの直線偏光の偏光方向をレーザビームまわりに回転可能な2分の1波長遅相子を回転させて、照射されるレーザビームの偏光方向を飛翔体のシーカが検出可能な前記偏光方向に調整する、ことを特徴とする目標追尾誘導方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の装置及び方法によれば、レーザビーム照射装置で発生するレーザビームの直線偏光の偏光方向をレーザビームまわりに回転可能な偏光回転素子(2分の1波長遅相子又は偏光回転子)を回転させて、照射されるレーザビームの偏光方向を飛翔体のシーカが検出可能な偏光方向に調整するので、赤外線シーカで検出する光は、赤外線シーカの前面に設けられた直線偏光子(偏光フィルタ)を透過する光のみ、すなわち照射されたレーザビームの反射光と太陽光及び太陽クラッタ光の一部のみとなる。
【0014】
すなわち、太陽光及び太陽クラッタ光は円偏光であるので、赤外線シーカの前面に設けられた直線偏光子(偏光フィルタ)によりこの直線偏光子と偏光方向が同一の偏光以外はすべてカットされる。このカット量は太陽光及び太陽クラッタ光の最大でほぼ半分に達するため、シーカで検出する信号の信号対雑音比(S/N比)が向上し、飛翔体の命中精度が向上するとともに、レーザ光の低出力化およびシーカの小型・軽量化が期待できる。
特にロールフリーのシーカにおいては、最大限の効果を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明による目標追尾誘導装置の実施形態図であり、図2はその部分詳細図である。
図1において、本発明の目標追尾誘導装置10は、レーザビーム照射装置12、飛翔体14、偏光方向回転装置20および偏光方向制御装置24を備える。
【0017】
レーザビーム照射装置12は、例えばレーザデジグネータであり、目標1に対しレーザビーム3を照射する。
レーザビーム照射装置12は、図示しないレーダ装置と共に、例えば地上の固定位置、走行車両又は航空機に搭載される。レーダ装置は、レーダにより目標1を捕捉し、その結果に基づき、レーザビーム照射装置12により、目標1に対しレーザビーム3を照射するようになっている。
【0018】
飛翔体14は、目標1によるレーザビーム3の反射光4を検出する赤外線シーカ16を搭載している。
飛翔体14は、赤外線シーカ16の他に、図示しないアンテナ、位置・速度センサ、姿勢駆動装置、等を備え、飛翔体の位置・方向を演算し、飛翔体の位置・方向とレーザビーム3の軌跡及び方向とをほぼ一致させるように姿勢制御するようになっている。
【0019】
さらに、飛翔体14は、図2に示すように、赤外線シーカ16の前面に設けられた直線偏光子17(偏光フィルタ)と姿勢送信装置18を備えている。
姿勢送信装置18は、直線偏光子17の姿勢信号、すなわち直線偏光子17を透過可能な直線偏光(S波)の偏光方向を送信する。
なお飛翔体14は、飛翔中にローリングしても、しなくてもよいが、特にローリングしないロールフリーであるのが好ましい。
【0020】
この構成により図1に示す目標追尾誘導装置10は、目標1に対しレーザビーム3を照射し、その反射光4を赤外線シーカ16で検出することにより、目標1を捕捉し、目標方向に向けて飛翔体14を誘導することができる。
また、直線偏光子17(偏光フィルタ)を透過可能な直線偏光のみが赤外線シーカ16で検出されるので、太陽光67及び太陽クラッタ光67aに含まれる直線偏光子17と偏光方向が同一の偏光以外はすべて除去することができる。
さらに、送信装置18により直線偏光子17を透過可能な直線偏光(S波)の偏光方向を送信するので、飛翔体14の姿勢(偏光フィルタの向き)を遠隔位置で受信できる。
【0021】
図2に示すように、偏光方向回転装置20は、偏光回転素子21と回転駆動装置22とからなる。
【0022】
偏光回転素子21は、2分の1波長遅相子(2分の1波長板すなわちλ/2板)又は偏光回転子である。2分の1波長遅相子は、λ/2板光軸方向に対して角度αで入射した直線偏光を2θ回転させる機能を有する。偏光回転子は、直線偏光の偏光方向をレーザビーム3のまわりに角度αだけ回転させる機能を有する。角度αはレーザビーム2の偏光方向と偏光回転子の偏光方向とのなす角度である。
【0023】
高出力レーザ照射機であるレーザビーム照射装置12から照射されるレーザビーム2の偏光は直線偏光である。このレーザビーム2の偏光は偏光回転素子21により、直線偏光の偏光方向を直線偏光のままでレーザビーム3のまわりに回転される。
【0024】
回転駆動装置22は、例えばパルスモータであり、偏光回転素子21をレーザビーム3のまわりに回転駆動して、偏光回転素子21を透過する直線偏光(すなわちレーザビーム3)の偏光方向を任意の方向に設定できるようになっている。
【0025】
偏光方向制御装置24は、例えばコンピュータ(PC)であり、飛翔体14の姿勢(偏光フィルタの向き)を受信し、回転後のレーザビーム3の偏光方向を飛翔体の前記偏光方向(S波)に一致させるように回転駆動装置22を制御する。
【0026】
上述した装置を用い、本発明の目標追尾誘導方法では、目標1に対しレーザビーム3を照射し、
目標1によるレーザビーム3の反射光4を飛翔体14に搭載した赤外線シーカ16で検出することにより、目標1を捕捉し、目標方向に向けて飛翔体14を飛翔させる。
また飛翔体14は、赤外線シーカ16の前面に設けられた直線偏光子17(偏光フィルタ)を透過可能な直線偏光の偏光方向を送信する。
さらに、レーザビーム照射装置12で発生するレーザビーム2の直線偏光の偏光方向をレーザビームまわりに回転可能な偏光回転素子21を回転させて、照射されるレーザビーム3の偏光方向を飛翔体のシーカ16が検出可能な偏光方向に調整する。
【0027】
上述した本発明の装置及び方法によれば、レーザビーム照射装置12で発生するレーザビーム2の直線偏光の偏光方向をレーザビームまわりに回転可能な偏光回転素子21(2分の1波長遅相子又は偏光回転子)を回転させて、照射されるレーザビーム3の偏光方向を飛翔体のシーカが検出可能な偏光方向に調整するので、赤外線シーカ16で検出する光は、赤外線シーカの前面に設けられた直線偏光子17(偏光フィルタ)を透過する光のみ、すなわち照射されたレーザビーム3の反射光4と太陽光及び太陽クラッタ光の一部のみとなる。
【0028】
すなわち、太陽光67及び太陽クラッタ光67aは円偏光であるので、赤外線シーカ16の前面に設けられた直線偏光子17(偏光フィルタ)によりこの直線偏光子17と偏光方向が同一の偏光以外はすべてカットされる。このカット量は太陽光及び太陽クラッタ光の最大でほぼ半分に達するため、シーカで検出する信号の信号対雑音比(S/N比)が向上し、飛翔体の命中精度が向上するとともに、レーザ光の低出力化およびシーカの小型・軽量化が期待できる。
特にロールフリーのシーカにおいては、最大限の効果を得ることが可能となる。
【0029】
またGPS受信器等により飛翔体の位置情報を知ることで、飛翔体と目標の正確な位置関係に対応して偏光方向を調整することで、シーカはレーザ反射光を高効率に検出でき、更なる性能向上が期待できる。
【0030】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による目標追尾誘導装置の実施形態図である。
【図2】図1の部分詳細図である。
【図3】特許文献1の目標追尾誘導装置の模式図である。
【図4】特許文献2の「シーカ角度分解能補正装置」の模式図である。
【図5】従来の目標追尾誘導装置の模式図である。
【符号の説明】
【0032】
1 目標、2 レーザビーム(直線偏光)、
3 レーザビーム(直線偏光)、4 反射光、
10 目標追尾誘導装置、12 レーザビーム照射装置、
14 飛翔体、16 赤外線シーカ、
17 直線偏光子(偏光フィルタ)、18 送信装置、
20 偏光方向回転装置、21 2分の1波長遅相子(λ/2板)、
22 回転駆動装置、24 偏光方向制御装置(PC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標に対しレーザビームを照射するレーザビーム照射装置と、
目標による前記レーザビームの反射光を検出する赤外線シーカを搭載した飛翔体とを備え、
目標に対しレーザビームを照射し、その反射光を前記赤外線シーカで検出して目標を捕捉し、飛翔体を目標方向に向けて誘導する目標追尾誘導装置であって、
前記飛翔体は、赤外線シーカの前面に設けられた直線偏光子と、該直線偏光子の姿勢信号を送信する姿勢送信装置とを有しており、
さらに、前記レーザビーム照射装置で発生するレーザビームの直線偏光の偏光方向をレーザビームまわりに回転可能な偏光方向回転装置と、前記姿勢信号を受信し、回転後のレーザビームの偏光方向を飛翔体の直線偏光子の偏光方向と一致させる偏光方向制御装置とを備える、ことを特徴とする目標追尾誘導装置。
【請求項2】
前記偏光方向回転装置は、偏光回転素子と、該偏光回転素子をレーザビームまわりに回転駆動する回転駆動装置とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の目標追尾誘導装置。
【請求項3】
前記偏光回転素子は、2分の1波長遅相子又は偏光回転子である、ことを特徴とする請求項2に記載の目標追尾誘導装置。
【請求項4】
目標に対しレーザビームを照射し、
目標による前記レーザビームの反射光を飛翔体に搭載した赤外線シーカで検出して目標を捕捉し、飛翔体を目標方向に向けて誘導する目標追尾誘導方法であって、
前記飛翔体は、赤外線シーカの前面に設けられた直線偏光子の姿勢信号を送信し、
前記姿勢信号を受信し、前記レーザビーム照射装置で発生するレーザビームの直線偏光の偏光方向をレーザビームまわりに回転可能な2分の1波長遅相子を回転させて、照射されるレーザビームの偏光方向を飛翔体のシーカが検出可能な前記偏光方向に調整する、ことを特徴とする目標追尾誘導方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−145168(P2009−145168A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322141(P2007−322141)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】